みずのおと

作品集: 最新 投稿日時: 2008/10/04 10:45:55 更新日時: 2008/10/07 01:45:55 評価: 0/0 POINT: 0 Rate: 5.00
 ぴちゃん ぴちゃん

 夜の森に、水の音。雨も降ってないのに、水の音。闇の中から、水の音。

 ぴちゃん ぴちゃん

 音が響いて離れない。耳から音がなくならない。ずっとずっと鳴り続け、徐々に徐々に寄ってくる。

 ぴちゃん ぴちゃん

 それはきっと、水の音。

 
 
 
 妖怪が身近にあっても、人里に不思議な話というものはあった。
 そんな話はいくつもある。数えればきりがない。
 例えば、湖の上を巫女が飛んでいたとか。
 例えば、巫女の腋が開いているとか。
 例えば、酔った巫女が妖怪を素手で懲らしめていたとか。
 まぁ、およそそんな感じ。

 そんな数ある話の中に、森の雨という話があった。
 雨の降らない日に、森から水の音がする。ぴちゃんぴちゃんと、水の滴る音がするのだという。
 そんな森の雨に関するいくつかの噂話の中に、晴れた新月の晩にのみ光り輝く湖が湧いて、そこに集まって妖怪や妖精が水を飲んでいるのではないか、という話があった。その水を飲めば願いが叶う、妖術が使えるようになる、人が触れれば溶けてしまう、そんな話もあった。
 馬鹿げていた。けれど、それに子供は興味を持った。
 そしてそんな子供らの内の三人が、ある晴れた新月の夜、親に内緒で森へと足を向けた。

「うぅ、真っ暗だよ」

 怯えた感じの髪の長い少年が一人、先行する少女の服の裾を掴みながら、ゆっくりと一歩一歩足を進める。

「明かり、星しかないから、足下見えないね」

 少年が服を掴んでいる少女もまた、自分の先を行く短髪の少年の袖に掴まっていた。

「二人とも、転ぶなよ」

 先頭を行く短髪の少年は、特に目印もなく進んでいく。
 三人とも、この森ではよく遊んでいた。だから、迷うことはないだろうと思ったのだ。
 そして少年達は、うろうろとさまよい、森の中を進んでいく。

 三人とも、内心ではこの闇を怖がっていた。だから、雑談を混ぜる。怖そうな話題は無意識に避け、ただ陽気に話をしていた。
 光の湖などあるわけないと思いながら、あるはずだと信じて。
 闇夜を歩き、何度となく足を取られる。星明かりが届かなくなると、途端に宵闇に目隠しをされたみたいに三人は体を見失う。魂が夜に溶け出したかのように、自分と闇との境界が曖昧になるのを感じた。
 声を出す。自分をしっかりと持つように。けれど、段々と怖くなってくる。自分たちが自分たちじゃなくなってしまうような、そんな感覚が。
 逃げだそう。誰かがそう言おうとした時、ぼんやりと、森の奥の方に光が見えた。

「あっ」

 誰かが思わず声を出す。三人は揃い、その光に目を奪われた。

「あ、あれかな」
「近づいても、大丈夫なのかな?」

 光の湖。思わず胸が高鳴る。
 あったのだと。本当に、光の湖はあったのだと。
 三人は目を輝かせ、その光の場所へと向かった。

「痛っ!」

 小さな悲鳴を上げ、長髪の少年が倒れる。

「何やってんだよ、先に行くぞ」

 二人は我慢が出来ないようで、うずうずとして、先に湖へと向かった。
 息を呑み近づき、その光景を眺める。そうして、二人は言葉を失った。

「綺麗……」
「本当だ……」

 そこには、水はなかった。ただ、大量の蛍が集っていた。
 光が地面に満ち、まるで、黄金の湖のようであった。
 短髪の少年は、ふと長髪の少年を呼ぶ。だが、近くに姿は見えない。闇が濃くてもともとあまり見えたものではないが、それでも近くにいないことだけは判った。
 どうしたのだろうと、短髪の少年は、先ほど長髪の少年が倒れた場所に歩いていく。気絶でもしたのかもしれないと思い、それは駆け足に変わる。
 
 蛍の群れが居た場所から、ほんの十メートルほどの距離。そこに、少年は居なかった。ふと、星明かりが差す。空の雲がどいたのだ。
 そこにあったのは、うごめく、黒い影。なんだろうと蹴ってみると、それは散っていく。大量の虫であった。
 そしてその下から現れる、長髪の少年……だったもの。
 一瞬それがなんなのか、少年には理解が出来なかった。

「うわぁぁぁ!」

 理解をすると同時に、少年は後ろに飛んで距離を取った。血の気が引いていく。全身が凍り付いたように、寒くなっていった。
 その長髪の少年であったものは、口から大量の虫を吐いた。口から喉の奥へと侵入した虫によって声は出せず、そのまま全身を食われていた。肉体は、至る所を囓られ、無事な所などはない。手が不自然に緊張して固まっていたのだから、即死ではなく、苦しんで死んだのだろう。表情は見えないが、見えない方が良いに違いない。
 少年の悲鳴を聞き、少女が近づいてくる。

「どうしたの」

 首を傾げながら、少女はそれを見る。そして、物言わぬ体となった友人を見て、声にならない悲鳴を上げた。
 三人はまだ幼かった。妖怪の恐怖を、知らない程に。

「あ、あぁ……」

 少女は震え、少年も頭が白くなっていくのを感じる。けれど、咄嗟に少年は少女の手を掴むと、元来た道を駆け出した。
 先ほどまで美しいと思っていたものの全てが、今は禍々しく映り、もはや恐怖の象徴でしかない。

「どうしよう、ねぇ、どうしよう」
「は、早く逃げるんだよ! 里に戻らないと!」
「でも」

 少女はパニックになっていた。それを無視して、少年は手を引いて駆けていく。

「置いて行っちゃ駄目だよ……」
「もう遅いんだよ!」

 混乱し、長髪の少年の元へ戻ろうとする少女を怒鳴り、走る。走る。
 少女が足を挫く。大丈夫かと少年が足を見れば、少女の足は、虫に半分以上噛み千切られていた。
 少年は少女の足を叩き、虫を散らす。それから、少女を背負い駆け出した。

「痛い、痛いよ……」

 苦しむ少女を元気づけながら、少年はなんとか走っていた。
 背の少女は泣き、時折大声で叫ぶ。黙っていて欲しいのにと、些細な苛立ち覚える。そして捨てようかという思いが頭を過ぎり、ゾッとして、頭を振る。

「あ、光だ!」

 少年は、歓喜の声を上げた。
 明かりが見えた。里だ。一瞬だけそう思った。けれど、気付く。あれは、先ほどの蛍の光だと。

「……そんな」

 迷わされていた。そんな思いが頭を叩く。
 力が抜けていく。けれど、どうにか力を入れ直すと、踏みとどまり、方向を変えて走り出す。虫の群れが追ってくる気配はない。
 少年は、今になってなんとなく判った。あの虫の群れは、恐らく、人を食べていたのだと。

 駆けていると、少年は少女の痛みに苦しむ声が止んでいるのに気付く。
 そして同時に、少年は感じた。
 ……軽い。

 少年の背に、冷たいものが走る。恐る恐る、背負っている少女に声を掛けるが、反応はない。
 もぞもぞという気配がする。そして、背中がちくりと痛んだ。

「あぁぁぁぁぁ!」

 背負っていたものを放り投げる。するとそれは、何も言わずに地面を転がった。既に、死んでいたのである。
 少女の腹部には、巨大な穴が空いていた。先ほどの痛みは、そこから漏れる虫が少年を食べようとしていたのである。
 少女の足から体内へと入った虫は、知らず知らずの内に、少女の体を内側から食べ尽くしていた。

 少年は激しく震え、まだいるかもしれない虫を叩き落としながら、必死に駆けた。
 逃げる。必死で逃げていく。三人で来た道を、ただ一人で。
 どれほど走ったか判らない。
 感覚は当てにならない。目印なんてものはない。ただ、虫に追いつかれないよう、ひたすらに走って逃げる他なかった。
 
 そうして、少年が倒れそうになる頃に、ようやく光が見えてきた。
 虫の光ではない、里の光。
 その光に、少年は思わず涙が溢れた。

「はぁ、はぁ……助かった」

 安堵する。そして同時に二人のことを思い出して、溢れた涙がこぼれた。
 行かなければ良かった。そんな後悔が頭を埋める。けれど、今更どうしようもないことである。
 二人はもう、生き返ることはないのだ。

 少年は、二人の友人を失った森の闇に振り返る。

「えっ?」

 そこには、大きな口が……
そーしてだれもいなくなるのかー
大崎屋平蔵
http://amugun.hp.infoseek.co.jp/
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投稿日時:
2008/10/04 10:45:55
更新日時:
2008/10/07 01:45:55
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1. 5 慶賀 ■2008/10/05 13:26:08
テーマはホラーでしょうか。リグルの水飲み場にでも
近付いたのでしょうか。いやぁ怖い怖い。
2. 1 小山田 ■2008/10/07 00:36:53
三人の感じていた必死さや怖さ。それをわずかでも表現できていれば最後のオチが効果的だったと思います。
3. -2 神鋼 ■2008/10/09 19:18:58
冒頭の部分がお題を使ったフリに成り下がってます。
虫を使ったホラーとしてもありきたりで真新しさを感じませんでした。
4. フリーレス twin ■2008/10/12 02:17:38
 何か、読んでいて心臓の動悸が激しくなりました。
 特に長髪の少年が虫に食われた辺りから、残り二人は助かるのか、と思い始めて、そうして読み進めていくと凄惨な結末が待っている……。その所々にあった恐怖を感じさせる描写が上手くて、またそこに持って行くまでの時間の取り方が上手いと思います。

 純粋に怖いと思ったと同時に、妖怪本来の恐ろしさがあったように思いました。本来妖怪は人を喰うという事実を容赦なく見せ付けられているような、現実的な残酷さが込められていたように思います。

 それにしても、冒頭辺りを読んで、ギャグかなーと思ってしまったのは致命的でした。お陰で怖さ倍増で、そういった意味ですごく楽しめました。
5. 3 #15 ■2008/10/18 15:04:57
きゃー
6. 7 yuz ■2008/10/18 18:51:10
いい雰囲気と、結末でした。
7. 5 deso ■2008/10/23 23:27:37
東方キャラが出てこないので物足りませんが、話としては面白かったです。
水の音については、多分伏線だったのかと思いますが、回収されてないのが残念でした。
8. 3 詩所 ■2008/10/26 20:25:22
これは東方の話と言えるんですかね?
判断しかねます。
9. 1 ミスターブシドー ■2008/10/27 00:27:08
まあ妖怪の縄張りに不用意に入ればこうなるかも。
何かの話の1シーンを切り出したような作りなので、読み終わっても「で?」ってなってしまう。
しかし疑問なのはその「みずのおと」は誰が噂にしているのだろうか?
妖怪の自演か?
10. 3 #15 ■2008/10/27 20:08:49
怖えぇ
11. 4 PNS ■2008/10/28 14:24:25
さすがにグロすぎます。好きな人もいるかもしれませんが、私は苦手です。
それを解消させるだけの何かがあればよかったのですが……。
12. 9 三文字 ■2008/10/29 23:20:43
詩的な文章でありながら、恐ろしいです、というか、怖っ!
そういやあ蛍の幼虫は肉食だったなぁ、と思い出します。
黒の虫はひょっとしてそれかな?
いやあ、短いながらも面白い作品でした。
13. 2 眼帯つけた兎さん ■2008/10/30 06:51:22
水というよりは妖怪への畏怖のお話。
ぞっとしたけれど、救いも希望も落ちも無いSSだなと思いました。
14. 3 つくし ■2008/10/30 17:08:55
 ショートとしてもびみょうに切れ味が足りません。このタイプのSSはキモチワルイ読後感こそが勝負でありますが余韻の残る言葉選びが出来ていなかった感じです。懇切丁寧に描写すればブキミさが出るわけでもなく、しかし言葉足らずになればなにがなんだかわからない、と難しいところではありますが。
15. 4 じらふ ■2008/10/31 21:36:05
リグル&ルーミアの1ボスコンビなのかー。ホラー的な意味で心底ぞっとさせて貰いました。
つか「雨の降らない日に、森から水の音がする」ってもしかして襲われた人の身体から出る…うわぁぁぁぁっ!?
16. 4 今回は感想のみ ■2008/10/31 21:43:42
なんというか、もう一工夫ですごくおいしくいただくことができそうな作品でした。
恐怖は少年たちに焦点があてられていましたが、読者をもひっかける仕掛けが一つあれば、読後感が格別となるでしょう。
17. 2 藤ゅ村 ■2008/11/01 17:21:22
 しまったオチがない。いやオチはあるんですけど、結局のところ何だかよくわからないまま終わっちゃったかなあと。ホラーなのだろうけど、怖くもあるんだけど、分量とか前振りとかが少ないこともあって、背筋が震えるってところまでいかなかった。
 というか水なのかどうかもよくわからず。
18. 2 八重結界 ■2008/11/01 18:36:36
恐怖を煽るような話でしたが、オチがありきたりなのは少し残念。
19. 1 つくね ■2008/11/01 19:21:59
一種の本格的な肝試しと言ったところでしょうか。肝が本当になくなってしまったようですが。
ちょっとお題を使ったと言うには厳しいか? 文章力は感じるのですがそうした部分とあと表現的にも厳しいかなーというのが残念ながら評価できなかった理由です。
20. 3 木村圭 ■2008/11/01 21:50:30
音の正体は血の滴る音であるとして、発生源は虫たちとルーミアと、はてどっちだろう。虫かな。
読み始めて数十秒でバッドエンドが予感出来るだけに、あっさりとした文章が気になりました。
もっとこう、くどくねちっこく書くと追い詰められてるっぽさが出て良いのではないかと。
情景描写でも心理描写でも良いと思います。前者は確実に人を選びますが……。
21. 2 blankii ■2008/11/01 22:00:52
るーみゃとりぐるんの華麗な連携プレイに違いない!!

ホラーあまりにもホラー。別段とグロいのは平気なのですが。
オチが唐突なので少し不条理感も漂います、あ、でもそこもホラーか。
22. 1 時計屋 ■2008/11/01 23:40:41
合掌。
23. 6 リコーダー ■2008/11/01 23:58:15
すいません、コメントは後ほど
24. フリーレス リコーダー ■2008/11/03 14:57:56
虫は普通に気色悪くて、狙い通りだったんだろうなと思います。
助かったと思わせて落とすのはホラーの醍醐味ですが、世にある様々なホラーとの比較で言うと、ぶっちゃけまだまだヌルい、かも。
25. フリーレス 大崎屋平蔵 ■2008/11/06 22:23:35
 コンペ初になります、大崎屋平蔵です。
 ホラー書きたい。でも怖いのは大ッ嫌い。そんな私です。
 もうちょっとグロくしようかと思って思いとどまって、結果中途半端はいけないと知りました。悔しいので、またどこか別の場所でホラーのリベンジしたい。
 それでは、お読みいただきありがとうございました♪

>慶賀さん
 ホラーです。リグルたちの縄張りだったんですね。
 夜に出歩く子はいると思います。でも、それが帰ってこないのって怖いですよ。


>小山田さん
 心情の表現不足ですか。くそう。
 表現力を身につける努力をします!


>神鋼さん
 新鮮さ不足ですか。お題の使い方も工夫が足りなかったかもです。
 次回はお題に対して、もう少し工夫を懲らします。


>twinさん
 怖がっていただけて感謝です♪
 妖怪は怖いもの。今の幻想郷はそうじゃないのかもしれませんが、きっとこういう部分もあったんだろうなぁと思いました。


>#15さん
 キャー
 書いてる間、私が一番怖い罠。


>yuzさん
 雰囲気良かったですか。嬉しいです♪


>desoさん
 東方キャラ、出そうと思ったんですが、無理に出すとかなり酷くなりそうだったので止めました。一応、リグルとルーミアはいるようないないような、って感じですが。
 伏線回収……しまった。


>詩所さん
 ごもっともです。
 もうちょっと東方らしさがあった方が良かったかも知れません。


>ミスターブシドーさん
 妖怪の自演。それは考えてなかった……でもそういうことする妖怪もいそうですね。
 もう少し始まりや終わりを工夫した方が良かったかもですね。


>#15さん
 こえー
 ……あ、あれ? デジャビュだ。


>PNSさん
 あやー、すみませんでした。
 解消できる何かですか……なんかとても面白そうですね。


>三文字さん
 褒められた私が有頂天。
 肉食の虫って怖いですよね。


>眼帯つけた兎さん
 オチ……オチ難し。
 未だに山場とオチが良く判らない私にホラーはきついのかもです。
 救いのあるのも好きなんですが、どうも妖怪絡むと救いないの書いちゃうんですよね。


>つくしさん
 うお、難しい!
 切れ味ですか……そうか、切れ味ですか……
 次回までに言葉選びのセンスを磨きます!


>じらふさん
 なにかそのコメントでぞくっときました。怖いの嫌いだと言うに!
 一面……そういえばそんな繋がりが。気づきませんでした。


>今回は感想のみさん
 くぅ。我が身の未熟さがっ。
 工夫すべき点をしっかりと理解できるよう努力します。


>藤ゅ村さん
 あははー、オチって難しいです……
 そうか、前振りも弱いですか。むぅ、奥が深い。


>八重結界さん
 新鮮さを探す努力を全力でおこなわねばなるまい!


>つくねさん
 お題を生かせていないことをしみじみと理解してきた今日この頃です。
 リベンジだー!


>木村圭さん
 濃さが足りませんか。むぅ。
 いつかもっと粘度のあるドロドロしたホラーを書いてみます。


>blankiiさん
 連携プレイと考えるとすごいなぁ。
 不条理すぎもなんなのかもしれないので、考慮しますです。


>時計屋さん
 合掌。


>リコーダーさん
 ヌルぅ
 新鮮さと恐怖の勢いを磨かねば



>ALL
 いつか、いつか、いつか、怖いって言わせてやるーーーー!

 
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