かえるのこどものたまごにかえる

作品集: 最新 投稿日時: 2008/10/05 05:59:33 更新日時: 2008/10/07 20:59:33 評価: 0/0 POINT: 0 Rate: 5.00


1.

 ――東風谷早苗の朝は早い。

 などと考える人妖が未だに居るならば、この光景は厳然とした事実を証明することだろう。そのテイタラクに慄然とする者がいるならば、それは過去の早苗自身であったろうことは想像に難くない。郷に入りては郷に従え、とは昔から言うものの、あまりに順応が過ぎるのもひとつ問題であるのかもしれない。

「ふわわ」

 寝起きのボサボサ髪で片手に箒を引きずり、ヨタヨタと酩酊歩行で境内をそぞろ歩くこの人こそが、かつて外界の『現人神』であったとは最早誰も信じまい。寝惚けた両眼の下にはくっきりと隈が浮いており、昼間、天を頂くお天道様をさも眩しいのだと、片手のひさしを透かしてぼんやりと見上げる様など、年頃の娘にはあるまじと親兄弟親族一同涙目モノである。
 とはいえ、この場にはそんなことを憂慮する者など一人もいないのだから、実に気楽。うーん、と一声唸りを挙げて両手を中空へと差し伸ばし、ぽんと地面に放り出された箒がカラカラと悲しげに音立てることにもめげずに、「今日も良い天気」などと満面の笑顔で呟くのだから、彼女の心中の晴れやかさは推して知るべし。そんな、なんとも申し分のない、うららかな秋晴れの陽気であった。

「おさけが、一杯。二杯、清酒グイと飲み干して、山茶花飾りの濁り酒。四杯、受けるはともがらの為〜、と」

 不意と早苗の口から零れる調子は、昨夜の酒宴で誰がしかの唄ったものだ。題して、酒を勧める歌、とは誰の語った言葉であっただろうか。河童であったか天狗であったか、はたまた山に薫る秋風に酒宴へと引き寄せられた紅葉神豊穣神の姉妹だったのかもしれない。ともかく、誰の言葉であったか、とは既に早苗の大きな関心事ではない。酒宴のウキウキとした高揚感が、どこか浮き立つようなそわそわとした心地良さが少しでも長続きすれば良いな、と反芻するだけ、そんな無意識の発露であるのだから。

「お酒を頂くのは楽しいけれど」

 正面、延々と石畳が続いて朱塗りの鳥居へと達し、両脚二柱を通り抜けた先、広がる、透き通るような蒼一色の空がパノラマに展開する。そんな飛び込んできた清冽な色彩に、早苗は少しだけ眩しそうに眼裂を細めた。妖怪の山も頂上近辺にある守矢神社であるから、周囲山麓の背丈を越して見えるものは一面の空しかない。特に今日のような秋晴れの一日には、やさしげな淡色の空が、夏の深紺の苛烈さとは異なる風の微妙な配色がふわりと泳ぐ白雲と滲んで、どこまでも空が抜けていくような、そんな不思議な心地にさせてくれる。

「困ることもひとつ、かな」

 くるり、と踵を返す。しゅっ、と薄い靴底が石畳と擦れる音がして、どこか懐かしい感慨を抱かせる。まわれ右の掛け声とか甲高い笛の号令とか、どうでもいいような幻聴ばかりが脳内には木霊して、なんだか可笑しい。ふとした動作が記憶を呼び覚ますなんてことはよくあるが、実際蘇ってくるのはどこか瑣末なものばかりで、嬉しいのか悲しいのかもよく分からない。

 振り返った先には神社の拝殿、本殿が控えており、身内の贔屓目を差し引いてもなかなか立派なものじゃないか、と早苗はあらためて思う。鳥居から直線に続く石畳は拝殿の下、賽銭箱のある辺りで終止してその役割を終えている。3歩の石階段を一息に昇れば、昨夜の宴会場としても使用した拝殿の中の様子も眼に入ることだろう。

 拝殿内部へと早苗が気を向けたその時、がー、と異音がひとつ。空気を震わす重低音は建物の内部から響いてくるようで、それだけで何事であるかを察したのであろう、早苗はクスクスと笑いを堪えきれないで俯いている。ぐー、ともう一度景気良く音声が轟き渡ると、今度こそとタマラナイ様子で吹き出した。

「くすくす、八坂様も昨晩はたーんと召し上がってたからなぁ」

 要するに先程の異音とは早苗が風祝として仕えるその人、八坂神奈子という神様の高鼾であるのに間違いない。そもそも、神様自身が自分の神社で酒盛りするんだから問題ない、むしろ激推奨。などと言って宴会を取り仕切っていたのは神奈子の仕業である。
 今更に威厳とか信仰が云々と言っても、神奈子が右から左に聞き流すくらいで何処吹く風なのは先刻承知。いくら「神様が寝坊なんてみっともないですよ」とか「御飯は3杯までです食べすぎです。というか我が家の米櫃は既にすっからかんに!」とか「腹踊りは止めてください。信仰とかじゃなく何か大事なものも失いますから。頼むから止めてください」とか思い出したら頭痛しかしないようなことも(多々)あるとは言っても、早苗の敬愛する神様であるのには間違いないのだ。たぶん。
 
 
2.

 昼御飯の献立どうしよう、なんて飄飄と鈍痛する宿酔いの頭で苦慮する正午過ぎ、ふとした拍子に遠くを見遣った早苗の両眼に飛び込んで来たのは、彼方、山間に浮かぶ胡麻塩のように小さな黒点であった。それだけならば、ああ今日も人妖は空を飛ぶ、などと慨嘆すれば済む話。弾幕ごっこは華麗に嗜むのが少女の証とばかりに、此方彼方と硝煙を燻らせるのが幻想郷の流儀であるのだから、(最初は少々面食らったにしても)ドカーンとかピチューンとかパチュリーンとか爆発音被弾音に挙句、絹を裂くような嬌声が続いて響いても、早苗が今更に動じることはない。
 だけれど、だ。先程述べた山間の黒点に、ふよふよと近づいていく小さな影がもうひとつある。新たに出現したのはおそらく、この周辺一帯に警備体制を敷く天狗達の哨戒のひとりであるのだろう。あんまり不躾な侵入者さんにはお帰り願うのです、なんて頼もしい言葉を新しい知己の内のひとり――銀髪に両耳をツンと立てた凛々しい白狼天狗の彼女――から、早苗は聞かされたことがあった。とすれば今回も、妖怪の山は危険だよ〜、と警告を発してお帰り願う算段であるのだと思われた。
 
 幻想郷には2種類の人妖しかいない、とはたびたび言われる。ひとつには撃つ側もうひとつにはあたる側、という言葉にはこの土地のルールが集約されている。古に発せられた協定の効力により、揉め事の解決はスペルカードを用いた決闘にて為す、との唯一の支配が行き届いているのだ。

 であるから、しばらくは不動であったふたつの影が、瞬時、相互間合いをとるように離開したその時には、早苗の内には既に了解ができていた。弾幕ごっこが始まるのだ、というひとつ高揚感にも似た感情が喉を通り、腹の奥底で鈍く呻き、じんわりと熱を発する。その過程は今までに何度も自身が経験した興奮、恐怖、開放感、その他諸々の感情の混合であり反復であり、間違いなく快楽と呼べる情動の一端でもあった。
 
 美しき様に見惚れるもよし流れ弾に当りて疼くもよし、とは花見ならぬ弾幕見(たまみ)を楽しむ一介の老人の言であるそうだが、その感情は『プレイヤー』としての自身こそ感じていることなのだ、と早苗は思う。
 眼前、髪を梳くほどの短距離を掠めつつ過ぎる敵弾、四方に放せられた投網の如き檻弾、八方からの一斉照射に沸き立つ脳髄。フラッシュバックする歓喜と光輝の渦に過ぎる一瞬に封じ込められた無限の熱量こそが、被弾の恐怖と羞恥を超えて、自身を再び弾幕ごっこの場に立たせるのだ、と。

 なんて、妄想をたくましくするくらいには早苗はこの『弾幕ごっこ』というものを気に入っている。その初体験の時には――約一年前、神社へと攻め寄せてきた巫女と魔法使いと相対した時には、ただガムシャラと弾を並べ、打ち出し、震える歯列に叱咤してスペルの文言を紡いでいるのが精一杯であった。けれども数度の対戦を重ね、負けて、負けて、ようやく勝って。幾分の余裕ができたその時に、あることに気が付いたのだ。
 それは、弾幕そのものが美しいのだ、ということ。一瞬に咲いて一瞬に散る花火のように、刹那に込められた術者その人の精神を映す『かたち』が早苗を何よりも魅了した。そうして、自分も弾幕を表現する過程を経ることで、なにか、ひとつの自由な有様へと至れるような、そんな不思議な心地さえするのだった。

 そんな訳で彼方の空で展開されるであろう弾幕勝負を見届けようと、じっと凝視している早苗である。赤勝て白勝てどっちも頑張れ、などと(心中で)拘泥なく応援するその様子は、当の対戦者達からすれば傍迷惑な傍観者なだけかもしれない。が、ともかく早苗の胸中はワクテカなのだ。

 山と山を左右両端に対置した中空のブルーバック、山間の隘路を流れる急流の遥か上空を、ふたつの影がグルグルと旋回している。一点を中心としたように、互いの背と背を追いかけあって絶え間なく円軌道を描く。早苗のいる守矢神社からは数キロは離れているのだろうか、僅か指先ほどの小さな点としてしか両者を視認することはできない。けれども青空に白雲を乗せた背景、両者の間に走る痛いほどの緊張感だけが早苗にも伝わる。
 ごくり、と自分が唾を飲む音がいやに大きく響く。境内の掃除をしよう、なんて思っていたことはもう遠い昔みたいで、箒の柄を痛いくらいに握りこんだ両手には汗が滲んでベトベトする。腹の中に溜め込んだ緊張が耐えられないと呻きを挙げて、ヒシヒシと感ずる重圧には、もう、早苗自身も悲鳴を挙げたいほどなのだ。

 ――でも、だからこそ、心地良いと感じる。弾幕ごっこが、始まる。

 超高軌道を絶え間なく旋回する衛星のごとく、飽きることも知らず廻り続けていた両者が、今、静止した。
 同時、早苗から見た右手、山麓の木々を背後に取った一方が弾幕を射出。彼女よりも上空に位置取った相手に対し、重力鉛直方向のクビキに抗して放つ第一手。一際に大きく見える青弾、一瞬にして乗じた加速度が放物線上で倍速する。残像が微かにブレタ、そう思った時には既に両者の距離の半ばほどを詰めている。
 
 確かに速い――だが、それだけだ。

 軌道自体はあまりにも素直すぎる放物線の単独弾頭、避けるのはあまりにも造作ない、と言う他にはない。
 自身ならばどうするか、早苗はそう考えた。弾頭が表面その通りの挙動そのまま、単なる猪突に終わるハズがない。どうやら投擲時の様子からして、弾の軌道にはある程度の乱数を仕込んでいるようである。放弾の一瞬に手元をわざとブラしたのもテクニックの一であろうし、その証拠、道程の四分の三を過ぎた今、先程に読んだ軌道よりもズレが見られる。このまま進めば直撃弾のコースではない。
 ならば、と頭脳を回転させる。単なるミスか? そんなハズはない、あれだけ堂々とした弾捌きが素人にできるわけがない。ならばならば、そこには策があるのに違いない。
 
 他方の彼女は遥か上空に位置を取る。おそらくは陽天を背にすることで目眩ましとするのも意図のひとつであろうし、それならば彼女の姿勢は消極的とも判断できる。逃亡を企図するのは彼女こそが来訪者である証拠であり、背後に護るべき者のない証左でもある。
 ともかくも彼女は不気味な挙動をしつつ寄せてくる敵弾に対し、動かなかった。なにせ相手は勝手に外れてくれるのであるし、無駄な動作でスカートを乱すのは無作法である、というのが少女たる者の心意気。ドロワーズは『見せる』ためにあるのではない、『見える』ためにある。

 来訪者の彼女の傍を、弾丸が掠め過ぎる。しかし最低限身体ひとつ分の距離は保ったままであったから、彼女が幾分の脅威も感じたハズはない。そのまま中空一点に留まったまま微動だにしない。
 もし事態が守護者の思惑通りであったならば、弾丸がブラフである、との線は消えたと言って良い。威嚇弾との点対称位置に予め弾丸を放っておけば、過剰な回避行動の結果として被弾を免れ得ないとの寸法だ。だが、あれほど大きく外してはそもそもブラフの意味をなさない。更には守護者にも次弾発射の動作が見えない。

 守護者の初弾が外れた時点で、そのまま事態は流動化すると考えられた。

 来訪者にしてみれば相手の力量を量る意味合いにおいて初弾を譲ったのだろうから、俄然、次の行動をとりやすくなる。初弾が大きく外れていった――この事柄が意味することは、対戦相手が未熟であるとの結論に至りやすい。玄人ってのは無駄弾は撃たないものよぅ、なんて聞いたのは何時のことか。ともかくも、相手の技量が未熟であるとの予測的中率は高い。ならば逃亡しても背中から撃墜される可能性は低いし、反対に撃ち落してやっても良い。
 勿論とそれが、実際に相手の未熟に起因することが事実であるならば、なのだが。

 驚いたことに次の手を逸早く打ったのは守護者の彼女であった。更に驚くべきには、彼女の選択とは後退である。背後に陣取った山肌を縫うように滑落してゆく。
 守護者にとって逃亡とは許されざる手段にして結論である。ならば今次の選択は全くの不可解、それ故に来訪者も動くに動けない。異例尽くめの対戦者の挙動にむしろ戸惑っているのに違いない。だが、守護者が真に怖気づいて退却を始めたのであるならば、これほどの好機もないと言って良い。背後から撃つほど容易いことはなく、恐慌する相手の心理は一層の勝利を手繰り寄せるには十分過ぎる。
 ならば、と思ったのであろう。上空に位置する来訪者はその切先を真下へと転換し、全力での追撃を約束するかのように、その全加速に重力加速を合すべく準備する。そのままの姿勢で第一段ブーストを点火しようと、

 ダン、と破裂音。

 何事か、と事態の推移に集中していた早苗の意識が吸い戻される。音のした方角へと意識を向ければ、今まさに追撃戦を開始しようとしていた彼女の背後。まっさきに思い当たるのは先程逸れていった流れ弾、まさか誤爆でも――と、ここまで考えた早苗の脳裏にひとつの記憶が浮上する。
 自分も、いつか、どこかで、似た状況にあったことはなかったか。その時の自分は手元まで手繰り寄せた勝利を確信し、慢心し、そうして結果敗れたのではなかったか。相手の練度を見誤ると致命的である、とはその敗戦によって得た教訓ではなかったか。

 それらの記憶から得られた推論はひとつ――あの弾はデコイだ、間違いない。

 早苗の記憶に相違はなく、守護者の放った初弾は真実デコイであった。すなわちは破裂した親弾の周囲に無数の子弾を撒き散らし、相手の被弾までを望まなくとも、その視界を、あるいは効果的な回避運動を封じるための手段である。
 来訪者の周囲一帯に散布された無数の子弾は全体には一個、渦状の形態をとるのが早苗の位置からは見て取れた。弾丸の破裂点を中心として渦巻く、無数の白色小弾は数条の尾を引きながら、周囲の空、大気そのものを特異点へと引き込むように挙動する。例えるならば満開の白菊、花軸の中心へと向かい、捻れ捩れながら背筋を伸ばす花弁の一枚こそが、弾幕の密度層である。それらが無数に折り重なった花そのものが現在生じた異変の総体であり、守護者の初弾が時間差で引き当てた結論であった。

 ――きっと、歯痒い思いに違いない。

 かつて自分がそうであったように、と早苗は思う。あれだけの弾幕層の狭隘な間隔に囚われたからには、もう、容易な脱出は叶わない。そうしてその場に第二波に弾幕が到達すれば、ジ・エンドと言う他にないのだから。
 事が今に至れば、全ては守護者の計算通り熟練の引き寄せた必然である、と結論することは容易い。先程の局面で見せた守護者の後退すらも破裂までの時間差を考慮し、相手の注意を逸らせ、そうして今、絶対速度を得るための助走距離を稼ぐためであったのは明らかだ。
 自由落下から反転、一足飛びの加速、加速、加速。数キロの距離を経た仰角からも見失いかねないほど加速に加速を重ねた絶対無比、無謬を誇る速度率に音速が戦慄く。頭冠する白帽は歪められた圧縮空気、ドン、衝撃音とともに彼女を妨げる壁は粉々と砕け、一層の加速倍加を可能とする。流石は幻想郷随一のスピード狂を誇るだけの種族ではないか。天狗にまさる者など、何処にも、ない。

 守護者の天狗が企図するのは、必殺必中の一弾のみ。デコイの渦に巻き込まれて茫然自失であろう来訪者に一発を中てればそれで良い。それは哨戒天狗として長年を経た彼女の経験と勘が下した結論として、赤子の手を捻るより容易いこと、であった。ましてや相手は人間だ、と彼女は微かに笑みをつくる。あの、スキマ婆(だったか?)とかいう超弩級の妖怪でもなければ、この時点、この場、この絶対有利の状況からの逆転などできるハズはなく、夢にも思うハズがないのだ、と。

 であるから、彼女――有能な哨戒天狗であることは同僚である犬走椛も保障する――その敗因とはひとえに、(特に彼女の相手としている)人間がどれだけタチが悪く、あきらめの悪さがAAA級なのかを知らなかった、という一点なのだ。

「がぁっ」

 彼女の額に衝撃が走る。なにせ、全速力で駆けて来たのである。その速度とベクトルを押しとどめるだけの反作用を額一点に受けたのだから堪らない。だがそれにも増して信じられぬのは、全速力の自身が止められた、自身以上の力で強制的に抑え込まれた、という事実である。そうして彼女の眼前には、細い、腕。それだけからも自身の額に押し当てられているのは誰かの手であり、その誰かとは、対戦相手の人間しかいないではないか、と結論できる。
 理性は結論を急ぐが感情が納得しない。自分のトップスピードを妨げるには、物理法則上もそれと同等、あるいはそれ以上のスピードが必要であるのは明白だ。人間風情に天狗と同等のスピードを出せるハズはない、ましてや、障害物の降り注ぐ雨アラレと化した一帯から全速力で駆けるなど、H並みのバカ以外の何かにできるハズがない。
 だけれど、だ。今眼前にピタリ静止して浮かんでいる箒に跨った馬鹿野郎は、開戦前に散々と睨み合った人間に他ならない。とんがり帽子に黒衣とエプロンドレス、流れる金髪から狭間に覗く爛々とした双眸。睨むでなく嘲るでなく、口元はさも愉快そうに笑んでいる。まるで悪戯をした子供が、してやったり、と無言でも雄弁に語るが如く。洋服は所々に煤けながらボロが混じり、この人間が確かにあの弾幕渦を乗り越えてきたことを示している。

「お〜、痛ぇ」

 人間が、しゃべる。フフン、と得意げな笑みが強くなる。

「お生憎様だが、アレぐらいの弾幕を恐がる魔理沙さんじゃあないぜ?
 降参、と一言くれれば、極力手加減して撃ってやる。んで、そうじゃなかったら全力で撃つ」

 誰がそんなことを、と言いながら魔理沙の方を見遣った天狗は、彼女が空いた手でバイバイ、と手を振っているのを見た。そうして、額に押し当てられた固い何か――たぶん金属製の――がじんわりと熱を帯びてきたことも。
 
「んじゃな。愛してるぜ」


 彼方の守矢神社より推移を見守る早苗が最後に見たのは、水平、一本の光柱。周辺山脈の頂上付近を丸く削る弾痕を残し、やがて細く、そうして薄らいで消える。これだけの距離を隔ててなお感じられる、圧倒的な魔力量の集中と拡散。
 ともあれ、硝煙の薄らいだ空に残っていたのはただひとりであったのだから、勝負が着いたと見るのが妥当だろう。そうして信じられないことではあるが、勝者は来訪者の彼女であることも。

「お、おんばしら〜」

 信じられない事態に対する賞賛の声とは、それ自体不可解な何かであるべし、とは八坂神奈子の教えであった。


3.

「さて早苗、とっとと案内して貰おうか。絶版本が呼ぶ稀少本が呼ぶ魔導書が呼ぶ……っと、他にはないのか私。まぁいいや、ともかく案内しなけりゃ撃つ。以上、終わり」
「いやや、意味不明ですよ魔理沙。いきなり来て一騒動かと思えば目的地がウチですか? しかも強盗? おーとーぉーさーん、たーすーけーてー」

「うひひねえちゃんいいからだしてますけんなー、とか言って欲しいか? つかココ、男手ないだろうに」
「欲しくありません、カケラも。それにまぁ、心配には及びませんよ。男手は足りなくても、それ以上の男前ならば常備してますから」

 あー、あれな。などと言って魔理沙がポンと手を打つ。男前、というのは明らかに神奈子を意識した言葉なのだろうが、神様は痛飲爆睡中である故に耳に届く心配もない。キャノン背負ってても神奈子泣いちゃう、だって女の子だもん。とか昔言い出した時には殴打したくなる右手をコラえるのがやっとだった、と早苗は(思い出したくもないことを)思い返す。女の『子』って時点で無理あり過ぎです、女の子っていうのはケロちゃんみたいにふぐふぐ奇声挙げつつ全身隈なく撫でまわしたくなる対象を言うんです、とか言い添えたらマジ泣きされたが。

 初っ端から会話が脱線気味なのだが、魔理沙の目的が『本』にあるのは明白だろう。とはいえ、と早苗は考えてみる。守矢神社は何と言っても神社である。図書館とか文庫とか様々な本を取り揃えて皆様の御利用をお待ちしております、的な魔理沙の夢施設では断じてない。そんな目的ならば(噂に聞く)紅魔館附属のヴワルにでも赴けば良いだろうし、個人所蔵の規模にしてみても白玉楼所蔵古書棚、月と兎の竹簡木簡蔵、ハクタク児童図書、稗田家所有秘宝館(当代が改名)などの錚々たる面々には及ぶべくもない。
 であれば、と更に考えて早苗はひとつの可能性に思い至る。

「もしかすると、外の世界の本ですか? だとすれば少しは残ってますけど」
「そんなものがあるのか?」

 キュピーン、とか好奇心に輝く眼をしながら魔理沙が聞き返す。返答からすれば、どうやら魔理沙のお目当ては外界の本ではなかったらしい。幻想郷の外からやってきて間のない守矢神社の特性を考えれば、との早苗の導き出した結論だったがハズレのようだ。それよりもむしろ地雷を増やしただけじゃないか、という言葉は溜息とともに早苗の胸中に封印された。

「あるにはありますよ、とは言っても大分処分してしまったものも多いですけど。……少し前に古道具屋さんが尋ねてきてくれまして」

 古道具屋、との言葉に魔理沙の額に青筋が立つ。魔理沙の脳裏に浮かぶ古道具屋とは、彼ひとりの他にいるハズはない。(本来の目的ではないが)外界の貴重な本を手に入れる機会を逸したことを彼――森近霖之助の責としたのも、魔理沙の思考回路からすればハナハダシイ脱線ではないのかもしれない。であれば、少しの意地悪は許されるべき、との結論を魔理沙脳内会議が即断する。勿論と赤票ゼロ、オールグリーンで。

「そうか、そいつは残念だ。ところでな、早苗。お前のことを友人と思うからこそ、ひとつだけ教えておきたい」
「なんですか、随分と深刻な顔して? いつものタラシっぽいファニーフェイスの方が素敵ですよ?」
「うむ。その古道具屋はな、香霖堂って店を構えてる霖之助という名前のヤツだ。実を言えば、私の昔馴染みでもある。で、だな。……言いにくいことなんだが、アイツは心のビョ―キなんだ、あまり近寄らない方が良い」
「……え、いやでも、そういうんで差別はどうも」
「病名はな、Kruppel起源型ロリータ幼女性愛嗜好新人類; KO-LIN(Kruppel Origin-LolitaInfantilophilic Neohumanum)。通称はロリコンだ。お前のとこの可愛いカエルちゃんを目にした日にゃあ、ウッハー叫び名がら飛び掛かりかねないのが現実だ。悲しいことだが」
「分かりました。今度から施錠して居留守でも使います。ついでに山の回覧板不審者情報にも一筆注意書きを」

 即答する早苗の瞳には「ケロちゃんは私が護る」的な情熱の炎が燃え盛っている。ともあれ霖之助は後には名誉毀損の損賠請求を、是非曲直庁幻想郷支部地方裁判所民事第二法廷にて魔理沙と争うハメになるのだが、それは別の話である。


「とにもかくにも、だ」

 散々に自分が歪めた話の筋を仕切り直す、とでも言いたげに魔理沙が宣言する。

「私が来たのは、守矢神社秘蔵の古書にお目通りするためだ」

 魔理沙の言葉にも、早苗は思案顔で応じるしかない。果たして守矢神社のどこぞかに、魔理沙の眼に適うような珍書稀本の類が存在していたであろうか? 八坂様はあんまり本読まないしー、私が持ってるのはありきたりな少女マンガとか云々。
 
「ごまかそう、たって駄目だぜ。本の虫が産卵して羽化してとか百サイクルくらいの経過を経たヴワルの主様が言うんだ。あの神社には稀本の匂いがする、それもとんでもなく貴重な、てな」

 根拠それだけかい、とツッコミたいのもヤマヤマの早苗であるが、ひとつ、ひとつだけ思い当たることが無くはないことに気付く。

「随分と昔のこと、なんですけれど。ケロちゃん――いやや、諏訪子様の部屋の奥に、なんだか本棚の一杯あるスペースがあったような。私、もっと背の低い頃でしたから、わ〜本棚高いなー、本が一杯で凄いなーなんて思った記憶がかすかに」
  
 首を傾げながら早苗は、うーんたぶんあったと思いますけどー、いやでも記憶がはっきりしないなぁ、などと頼りなげに呟いている。けれども魔理沙はウンとひとつ頷くと、勢いよく立ち上がる。随分と長いこと玄関で座りながら話し込んでしまったものだ。

「んじゃあ、上がらせて貰うぜ。あるかないかは本人に聞いてみれば良い話だしな。あの幼児体型なおこちゃまカエルが読書とは意外だが、まぁ、神仏を外見で判断するのも良くない」
「って、ちょっと待ってください。ついていきますから、って、あーもー廊下は走らないでください!!」

 ポポイと靴を脱ぎ捨てた魔理沙を追って、早苗も玄関から続く廊下を足早に歩き出す。神社の内面に位置する奥廊下の先、神社でも最深部に普段から諏訪子が寝起きする部屋はある。外周に面していないため採光窓のない長い長い廊下は昼間でも薄暗く、澱むような闇が小さくなるふたりの姿をゆっくりと飲み込んでいった。


4.

 三度廊下が折れ曲がったときには、既に魔理沙の方向感覚は麻痺していたと言って良い。ただでさえ薄暗い中を進んでいる上に、廊下の左右両面は一面のふすま、古びた柱を時折混じながらの変わり映えのしない景色。進路の先には天井からポツポツと裸電球が釣り下がるばかり、古錆び黄色付いたようにも見える頼りなげな光源が、一定間隔で丸く切り取ったように板廊下の木目を淡く照らし出す。
 初めはダンジョン探険みたいじゃないか、なんて軽い気持ちで先頭を切っていた魔理沙であるが、遂には長すぎる不気味な佇まいの廊下には辟易としたようで、今や早苗の背中を追いながら遅れまじと歩いている。古いつくりの建築物には特有の、緩んだ床板に体重をかけ、はずすときのあのギィという耳障りな音が耳奥でこだまする。一方の早苗は早苗で慣れているのか、さして気にしたでもない風に進んでいくから、随分と自分が臆病になってしまったようにも魔理沙は感じる。こんなことではいけない、私らしくもない。えいや、とひとつ気合を入れて頬を張る。ジンジンと痛痒いほっぺたの感覚を頼りに、正気を保とうと努力する。
 そんなクダラナイことに時間を浪費してしまったせいか、ふと周囲を見回せば早苗の姿が前方に見えない。おそらくは、あの先の暗闇が突き当たり、そこで廊下が横に折れているのに違いない、と思う。早苗は既に曲がり角を折れていて、だから姿が見えない、ハズだ。普段ならば冷静に判断できる何ともないことが、今この時にはできない。迫る暗闇が空間時間の感覚をひたりひたりと緩慢に侵していくよう。孤独な一歩を踏むごとに心細さはますます募り、落ち着かない心地のまま暗闇に踏み込んだ右足を旋回しようとした、その時。

 シュっと、背中まで伸びた髪の毛の、その肩口付近を擦るように撫でるように、うすい圧力が後頭部へと伝い、ジンとした身震いの感覚と氷柱を栓したような怖気が背中に走る。瞬時に顔は形容のほどもなく無様に歪んで下腹部にも熱い感覚が膨らんで、必死の思いで堪えるしかない。もしかすると漏らしたんじゃないか、なんて羞恥とも嫌悪ともつかない感情が顔を熱くする。けれどもどうにか一線は死守したようで、ポタポタと垂れるような水音を聞かずに済んだのは幸いであった。我ながら物凄い面相してるだろうな、などと考えながら魔理沙が振り向いた先には、己の肩に手を置く早苗の姿がある。
 結論としてみれば簡単で、逆方向に曲がろうとした魔理沙に早苗が肩を叩いて教えてやった、とのシンプルなものだ。けれど恐怖に身を縮ませていた魔理沙にしてみれば、ありもしない化物が手を伸ばしてきたように感じられた、というだけのことだ。

「だいじょうぶですか?」

 ヘナヘナと座り込んでしまった魔理沙に対し、『?』マークを浮かべつつも優しい声で早苗が話しかける。

「ああ、だいじょうぶだ。なんとかなんとか」

 フンと大きく息を吐くと、脚に力を込めて立ち上がる。膝頭が少しガクガクと笑うが気合一発で吹き飛ばす。慣れているヤツには敵わないからなぁ、とひとしきり苦笑いを続けたあとにも早苗はきょとんとしていたが。

 魔理沙の眼前には折り曲がった廊下の先、ほんの少し進んだ場所に今までとは異なった一際明るい照明が据え付けられている。『コ』の字型になった突き当たり、正面と左側は引き戸となっており、奥には部屋の連続があるようだ。その左手側の扉には木製のネームプレートが懸かって、薄暗い中でも読んでみれば、「すわこさまのおへや」と書かれているのが判読できる。プレートの枠は全体に緑色、上辺には双子山が盛り上がりその中には黒々と目玉を入れている。

「それ、私が書いたんですよ」

 早苗がさきほどのプレートを指しながら言う。そうして伸ばしたままの人差し指を今度は自分の頭へと持っていき、髪飾りを指し示す。

「かえるですよ、かえる。学校の図工の時間に作ったんです。まぁ今見てみると、あんまり上手なモンじゃないですけど」

 てへへ、と恥ずかしそうに笑みながら早苗が言う。確かによく観察してみれば、本来は直線であるべき辺のところどころがぐにゃぐにゃと波打っているのが分かる。おそらくは木材を切り出す過程でしくじったのだろう、更には絵具を使ったと思われる着色も頻繁にハミ出して塗りなおしてある。そうした箇所はボコボコと塗り重ねで厚くなり、全体の形状にもどこか不出来な印象を抱かせる一端となっている。

「でも、一生懸命つくったんでした。そういえば……ありがとう、って言って貰ったなぁ」

 早苗はツイと指をプレートのかえるに滑らせて、何か懐かしむように眼瞼を閉じる。そんな様子が随分と幸福そうに見えたものだから、矛盾した感情だ、と小さく嘆じた後に魔理沙は憮然として押し黙るより他にはなかった。


5.

 コンコン、と早苗が扉をノックする。

「諏訪子様? いますかいませんか、それとも御不浄だったりします? いないならいないと返事しないと、勝手に恥ずかしいモノ探しとかしますよ〜?」
「いや早苗さんよ、いないヤツが返事するのは無理だろうよ。というか何か、この神社の住人は霊気飛ばして会話とか便利なことができるわけか?」

 ん? と早苗が怪訝な顔をつくる。そんなことできるわけないじゃないか、と無言の内に言われるようで、なんだか無駄に腹立たしい。

「コレはアレです。えーと、親しき仲にも礼儀あり? いや別に諏訪子様の恥ずかしいモノ探しとかしたいわけじゃないですよ? いやでもタイツとかドローワーズとかショーツとか不意に気にならなくもなくないですが」

 さりげない変態の告白はさておいて、と魔理沙は考える。いくらノックしても反応はないようで、どうやら諏訪子は部屋の中にはいない、としか判断できない。ともあれ遠路遥々と妖怪の山を(飛んで)登り天狗とも一戦を交え、この守矢神社までやってきた訳である。手ぶらで帰ることなど許されない、と思う。かくなる上は、更に一戦を躊躇うことなく家捜しにでも邁進するべきだろうか。

「ううむ、ヤサガシヤキウチヤドカリタムシゲンゴロウ」
「いやや魔理沙、さり気なくとんでもない不穏当な単語混ざってませんか……ってあれれ」

 言葉の途中で不意と怪訝な顔をした早苗に、今度は魔理沙が疑問符を浮かべる。しかも突然に早苗は壁やら床やらに耳を当てだして、んーとかむ〜とか唸りだす始末なのだから手に負えない。時折コンコンと壁を叩いては、諏訪子様入ってますか〜? などと頓狂な声を上げている。
 もしかすると、諏訪子不在による寂しさが募って発狂でもしたのだろうか。ありえないこともない、と魔理沙が判断せざるを得ないのは早苗が発する不穏な言動ゆえである。この場合どうなのだろうか? あー大丈夫ですか? とか尋ねても良いものだろうか。むしろひとおもいに後頭部を殴って気絶させ、永遠亭にでも担ぎ込んだら万事解決するかも、とそれこそ不穏不当な妄想が魔理沙を悩ませる。ともかくも、一度は正気を確かめてみてもバチは当るまい。

「あー、大丈夫か早苗? 何か部品とか落っことしてないか、主に頭の螺子とか?」
「なんだか随分と失礼な聞き方をされた気がしますが。いや、なんだかどこかから諏訪子様の声がするような……と、もしかしたら私、さきほどの超能力とかに目覚めたのでしょうか? それも、あまりに諏訪子様がぷりちー故に」

 あまりに素っ頓狂なことを真面目な顔して言うのだから、ますます手に負えない。これはなにか、もしかすると幻聴とかいう代物だろうか。
 だとすればやはり、と魔理沙は嘆く。聞くところでは外界で現人神とかやってたらしいし、たしかに超能力のひとつふたつあっても不思議ではないのかもしれない。けれど、いささか不在の人間の声が聞こえるとかは別種であろう。お前はいいヤツだったよ早苗、今私が安全なところまで送ってやるから、ふたりして黄色い救急車のランデヴーと洒落込もうじゃないか。などとあまりに不穏当に過ぎる思考を魔理沙が始めたその時に、ガラリ、と奥側の引き戸が開けられた。

「うっさいわぁぁぁぁぁぁああああ!!! さっきから何なのよ早苗……ってアレ? アンタはいつぞやの白かったり黒かったりする人間じゃないか」

 扉の向こうから姿を見せたのは、散々と噂に話題に妄想の種となっていた件のカエル幼女――もとい、守矢神社の一柱たる洩矢諏訪子であった。小さな身体と小さなあたま、その上には身の丈の半分には迫ろうかという巨大なカエル型帽子をのせた姿で、少しばかり不機嫌そうに頬を膨らませている。

「諏訪子様ぁー、いや、どごにいっだものがどずびぶんしんばいしてしまびばじた」
「ってうわあっ、なによ早苗どうしたの? 涙とか鼻水とか色々と放送には耐えられない顔してるじゃないの。ほらほら、ハンカチあるから、と」

 ごそごそと腹あたりの服の切れ目から手を中に突っ込んで探っていた諏訪子であるが、遂にはヒョイと布切れを取り出すと、拭きなよ、なんて声を掛けて早苗に渡す。そんな諏訪子と早苗の姿を見ていると、幼女に慰められる年上の女の子、なんてどこか倒錯した気分にさせられるから困ってしまう。実際ペタンと座り込んだ今の早苗より、諏訪子の背丈は頭ひとつ分高いだけ。とするならば、ふたりの身長差はさぞ大きなものがあるのに違いない、と魔理沙には簡単に想像できた。
 はあああぁぁぁ、と深い溜息を吐く諏訪子に対し、早苗は相変わらずヨカッタヨカッタとか口走りながらひっついている。心底安心した、とでも言いたげな早苗の顔。対して少しだけ戸惑いを含んだような、けれど柔和な表情を見せる諏訪子。
 あんまり早苗がひっつくものだから、いやいや、とするように首を振るたび諏訪子の髪が揺れる。金髪というよりむしろ白い肌の色とも相まって、どこか色素の薄い印象の方が強い。陽に透かされた雲のような、うすいうすい黄土の色、とでも表現すれば良いのだろうか。自分の持つ金髪よりも遥かに透明感の強い、そのまま大気に溶けて消え入りそうな虚ろさを湛えているのだ、と魔理沙は思った。
 と、ここでひとつ違和感。諏訪子の顔に以前と違うところがあるような――と考え、ああ、と納得する。諏訪子の顔面には余分な楕円形がふたつ、つまりは彼女が眼鏡を掛けているのだ、と魔理沙が気付くまでに長い時間は必要なかった。幼い容姿に眼鏡、というのもなかなか不釣合いな感じがする。観察してみるに顔の面積に対しても眼鏡が覆う範囲があまりに大きく、随分と不格好になっている。おそらくは顔のサイズに合う小ささの眼鏡がなかったのであろう、顔を動かすたびにじりじりと鼻の頭から固定具がずり落ちていき、あわや、というところでヒョイと手で直す動作を繰り返している。
 それが可笑しくてくすくすと笑ってしまった魔理沙であるが、そんな様子を見咎めたのであろう、諏訪子がまっすぐに魔理沙の方を見詰めてくる。その横には変わらず早苗がひっついているので諏訪子の毅然とした表情も、全然迫力を醸し出せずに困ってしまう訳ではあるが。

 んでさ、と諏訪子が魔理沙に語りかける。

「ぼーっとしてないで、用件を聞こうか魔法使い? 遥々とこんな場所まで来るなんて、それなりの用事があるんだろう?」


6.

 諏訪子の蔵書を見せて欲しい、との魔理沙の願いに対し、うーんどうしたものかねぇ、なんて諏訪子は唸り続けている。

「ここには本があるにはあるが、とんとお前さんの興味に適う代物じゃあないと思うがね」
「いやいや。本ある所に霧雨魔理沙あり、霧雨魔理沙が去った跡には空の本棚ありって他所ではもっぱらの噂だからな。興味のあるなしなんて読んでみるまで分からない、てな」

 うーん、と諏訪子はもう一度だけ唸り声を上げる。そうしてから、まぁしゃーないな、と不承不承に了解の声を出した。

「後悔しても知らないよ? まぁ隠すためのモノじゃなし、見たいヤツに見せない道理もないから良いけれど。早苗も付いてくるなら、一緒においで」

 クイクイ、と後ろ手にふたりを招きながら諏訪子が扉の奥へと消える。魔理沙は喜色満面に、早苗は懐かしいなぁ、なんて口走りながらその後に続いてゆく。
 引き戸の敷居を跨いだふたりが最初に感じたのは、空気そのものが違うのだ、ということ。最近は盛夏の頃に比べれば随分と涼しくなってきたとは言え、未だにじんわりと汗をかくような湿気が残っていると感じることが多い。けれど一歩部屋の中へと足を踏み入れた時から、ひんやりとした空気がふたりを包んでいる。ふたりの表情から何か察したのか、諏訪子の方から、涼しいだろ? なんて問いかけてきた。

「床下にちょいと細工をしてるのさ。あとは結界で手伝ってやれば湿気対策の完成ってわけ。黴なんぞに生えられたら眼も当てられないからね」

 入った先の部屋は、小規模な書庫、とでも評するのが適当なこじんまりとした空間だった。扉から10歩も進めば壁に行き当たるほどの奥行きで、それまでの間に3列、天井一杯までの高さを占拠する書棚が左方向に向かって延びている。右手には壁がずっと続いているから、どうやらこの部屋は、入り口から見て左方向に広がる長方形の間取りをしているらしい。そうして、長方形の長辺に沿って書棚が平行に配列されている、という寸法だ。照明自体は最小限に抑えられているらしく、背表紙の文字がようやく読めるほどの明度に過ぎない。
 魔理沙はいそいそと書棚の中身を眺め始めるが、どうやら大半は手づから製本された私版本の類らしく、それほど丁寧な装丁はされていない。書棚の埋まり具合はと言えば、どうやら8割ほどの段を使用しているようだが、一部ブックエンドなどで中途までを埋めているだけの場所もあり、まだまだしばらくは収納場所に困りそうもない。

「奥の方にもっと明るい場所があるから、閲覧はそっちですると良いよ」

 そう言って諏訪子は書棚が続く奥の方を指差すと、そちらへと向かって歩いていく。早苗も本に特段の興味はないらしく諏訪子の後へと続いて、こちらは明るいですね、などと声を立てていた。魔理沙も声につられて奥の方を見遣れば、通路の一部の暗闇が四角く切り取られたように、薄闇に慣れた眼には眩しいほどの光量が差し込んでいる。どうやら部屋の奥手には神社の外周へと面した採光窓があるらしく、むしろ書棚の本に直射日光を当てないようにと衝立で遮光の工夫がされているようだった。
 ひととおり書棚の内容を観察した魔理沙であったが、ふと気になることがあって諏訪子へと問いかける。

「おーい諏訪子。ここには竹簡とか木簡の類はないのか?」
「あー、アレね。あんまり嵩張るから始末しちゃったよ。年々増えてくばかっかりだからさ、りすとらしたの」
「ああそうか……って、なんですとー!?」
「あはは、安心して良いよ魔理沙。内容は全部紙に書き写して保存してあるから。大事なのは書かれたモノじゃなくって、書いた内容だからさ」

 取り合えず何か閲覧しようと魔理沙が選んだのは最も若い通し番号のついた一冊で、比較的紙が新しいように感じるのは、さきほど諏訪子自身が述べたように少なくとも一度の転写を経ているからだろう。こういう本は転写に転写を重ねればどんどんと価値が落ちていくのになぁ、と魔理沙は嘆息する。それもそのハズで、手書きの転書というものは必ず幾許かの誤りを犯す。その結果として転写に転写を重ねるだけ誤記は増えていって、原義さえあやふやとなることが少なくない。つまるところ、そもそも書いた者でなければ書物に関する完全な解釈自体が不可能だ、ということでもあるのかもしれない。
 そうして魔理沙が閲覧スペースへと足を向けようとしたその時、視界の片隅に魔理沙の眼を捉えたものがあった。それは書棚に収まる本の中でも異質な印象で、他のものより随分と薄い。抜き出して表紙を眺めてみれば、表題のスペースにはデカデカと『日記帳』と記されており、あまつさえ名前欄には『洩矢諏訪子』ともしっかり署名されていた。結論から言えばそのノートタイプの日記帳は、外界では10冊いくらのお徳用に過ぎない訳である。ううむ、と一言唸った後に魔理沙がその日記帳を棚へと戻したのは、どこまでも正しい判断であったのに違いない。


7.

 閲覧室、という言葉が正確であるのか定かではないが、薄暗い書庫から衝立を一枚挟んだその場所は、健康的な読書に不可欠であるだけの光量に満ちていた。ほんの4畳ほどのスペースの中心には卓袱台がデンと配置されており、目下のところ諏訪子と早苗は何やらふたりで作業中であるらしい。壁には大枠の窓が配置されており、おそらくは南面している硝子窓から、少しばかり傾いてきた陽光が差し込んでいる。

「何やってんだ?」

 魔理沙の問い掛けに対して、早苗が顔を上げる。見たところ手には色鉛筆が握られており、更には諏訪子が一生懸命に何やらノートに書き付けていることからも、どうやら早苗はその手伝いをしていたらしいことは理解できた。

「ええと、諏訪子様のお手伝いをしてるんです。お酒の絵が上手く描けない〜なんて言うので、ちょっとばかりコソコソと」

 早苗の説明にも魔理沙の顔からは疑問符が消えず、あー、とひとつ呻いたと思えば、諏訪子が書き付けているノートをヒョイと横から取り上げた。

「って、うわわ。何すんだこの野良魔法使い、かーえーせー」

 諏訪子がマナジリを吊り上げながらノートを奪還せんと迫ってくるが、なにせ上背が圧倒的に足りていない。寄せ手搦め手正攻法から奇襲まで、と手数を際限なく繰り出しても魔理沙には難なく回避される。片手で頭を抑え込まれてしまえば、最早腕力で抵抗することもかなわない。
 諏訪子から取り上げたノートを見てみれば、表題はやはり『日記帳』。つまりは先程書庫の中で見たものと同様であり、書庫内に諏訪子の日記帳が紛れていたことにも大きな理由はないのだろう、と推測できた。こんな場所で日記を書いていれば資料と一緒に紛れてしまうことは容易に想像できるし、あるいは単に保管場所として利用しているのかもしれない。
 中身を見れば、折り癖からも今見開いているページが先程まで諏訪子の書いていた部分であることがわかる。日記の内容は日付から昨日のことであるのは明白、どうやら絵日記風になっているらしく上半分には何やら、あまり上手とは言えない人物らしき描線が踊っている。

「うーむ、この柱背負ってる奇妙なヤツは神奈子だな、一目で分かる。てことは、こっちで酒を注いで廻っている苦労人風味が早苗、それに、河童と天狗か」

 下半分の文字部分に視線を移せば『今日は河童や天狗達と酒盛り。なんて書くといつも通りで変わり映えがしないかもしれないが、秋も深まりを見せるこの頃であるからか、随分とハイテンションの秋姉妹が乱入してくる。乱入などと書くと一見迷惑そうにも感じられるが、彼女達の場合には見返りも大きい。今回はスカートを一杯に広げて栗など集めてきたようで、つまみにでもしよう、ということで台所で早苗と一緒に下準備をしてくつくつと煮る。酒盛りはと言えば、終盤には神奈子が腹踊りを披露。酔っ払った泣き上戸の早苗が必死で止めるのも聞かず、河童と天狗達をすっかり呆れ返させる。総じて信仰ポイントはマイナス。ともあれ、楽しい日であったことには間違いない』などと記されている。

「はい、諏訪子様に返してあげてくださいね魔理沙」

 我ながらしょーもないもの読んでしまったと嘆く魔理沙から、早苗がこれまたヒョイとノートを奪い取る。そうして、ぴょこぴょこ跳ねながらあーうー呟く諏訪子に、ハイ、と手渡した。

 魔理沙の暴挙に対してしばらく諏訪子は不機嫌で、魔法使い帰れー排斥しちゃるわー、などとぶつぶつ言っていたが、早苗に促されながらも素直に謝罪をした(本心は勿論と図書閲覧の権利を死守するためであるが)魔理沙に少しは機嫌も回復した様子である。
 どうやら絵日記はほとんど完成していたらしく、手慣れた様子で色鉛筆を繰りながら描線のみだった箇所へ着色していく。空は青に、大地は茶色、あとは彩々に人物達を塗り分けていく。時々記憶があやふやであるらしく、さなえー、ここ何色かな? などと聞く。そんな質問に早苗は時折頭を悩ませながらも、ええとですね、とのんびり答える。その有様があんまり睦まじい様子なもので、魔理沙としては拝借してきた本を読み始めることも失念した風にぼーっとふたりを眺めている他にはないのだった。


8.

 さてさて〜、と喜色満面に鼻歌交じりの調子で魔理沙が本のページをめくる。横からは作業を終えた諏訪子と早苗が覗き込んできているようで、妙に手元に視線を感じるのだが特段と気にはするまい。なにはなくとも、こうして未知の本のページを手繰る瞬間がたまらんのですよ、などと心中で魔理沙は思う。その心象が形成されたのは何時のことだろう、とふと疑問を挟むこともあるが、総じて昔からこんな風だから仕方がない、と一言言い訳しておけばそれで済む。私は私なのだから個性の範疇、と二言目に呟くのは何がしか気に病むことがあるからだろうか。
 雑念を交えずに本の内容に集中しよう、と見開いた本のページを凝視したその瞬間、魔理沙の目はギョッと見開く。というのも本の中身、文字そのものが不可思議な形をしており、直線、曲線、破点をバラバラに組み合わせてあるようにしか見えない。しかしながら一目見た瞬間にこれが『文字』であると分かったのもまた事実で、組み合わせに一定の傾向が読み取れる、と思う。
 ううむ、と思わず魔理沙が唸る。魔理沙の母国語は勿論と(外見には似合わぬが)日本語であるのだが、魔術に勤しむ関係上から海外文献にも馴染みが深い。羅語に始まりゲルマン諸語を展望するため独語を学び、アラビア語にも少し齧ったばかりの知識はある。けれども今回の本を記述している文字はそれらとは全くの異質で、少なくとも印欧語族の派生とは読み取れない。ならば、と代案を考える。幾分全体のかたちが漢語に代表される象形文字のそれに見えなくもないが、それにしては文字どうしの間で差異が少なすぎる。中には破点の位置ひとつ、という差だけで区別される文字もあるようで、魔理沙に分かったのは結局のところ、その文字が高度に人為的な音声文字であろう、との一事だけであった。

「……降参だ。さっぱり意味がわからん、というかそもそもこんな文字自体を全く知らない」

 あーやっぱりねー、などと諏訪子が呟く。

「一番古いの持ってきたんだろ? そいつは随分と古めかしい、まぁ忘れら去られたような文字だからね。実用性皆無だし、魔理沙が知ってるハズもないか」

 どれどれ貸してごらん、と言いながら諏訪子が魔理沙から件の本を渡し受ける。本を手許まで持ってくると、左手でクイと眼鏡を定位置に直した後、じっとその文面を見詰めている。そんな諏訪子の表情はどこか喜憂が入り混じるようでもあり、寂しげな印象さえもうかがわせる。しばらくしてから意を決したように視線をツイと上向きとして魔理沙と早苗の方を見遣ると、諏訪子はゆっくりと本の内容を語り始めた。

「おーっ、やっぱり懐かしいね。さて、冒頭部分から。『邑の戸数は三十五。湖に面した肥沃な低地にて米をつくり、住居は主として囲む山々の高台にあるものが多い。それというのもひとまわり前の雨の多い季節に湖へと注ぐ河川が氾濫し、数多くの死者を出したためである。いまや新たな耕作の季節となったが、人々は恐れをなして作業を始めようとはしない。それは、水害が起こったのは以前に開墾した湖周辺の農地こそが○○(発音できない)の怒りに触れたためである、と触れ回る者がいるからだ。そんな折にこどものひとりが、随分と珍しいものを見つけた、と言い出した。それは雨の季節にたびたび目撃される生き物の形をしていたが、見知ったモノとは色が異なる。透き通るように白く、美しいその様は何やら近寄り難いほどの印象であった。邑人は集まって話し合い、これをひとつの天意とみなし、○○の怒りを沈めるためと湖のほとりに埋めて塚とした。爾来、水害の恐れはなくなったと誰もが言っている。』ってところかな。これは、その村で最も有名だった伝説を記述した部分だね」
「んじゃなにか、ここの蔵書は、そういった類の民話とか伝説を集めたモノなのか? まぁ貴重な資料には違いないが」

 少しばかり興味を失った様子で魔理沙が諏訪子に問いかける。対して諏訪子は、うーん、とひとつ唸った。魔理沙の言葉がまったくの間違いではなく、かと言って正しい理解でもない、とでも言いたげな様子。諏訪子は頭を抱えたままにしばらく唸り続けたが、ようやく言うべき言葉が見つかったように顔を上げた。

「……そうだね。敢えて言葉にするなら、意伝子、なのかなぁ」

 そんな諏訪子の言葉を聞いた途端、ドン、と一際大きな音が隣室から響く。何事かと魔理沙と早苗は一瞬にざわめき立つが、対して諏訪子は落ち着き払い飄々とした様子である。あたかも、こんな事態には慣れている、とでも言いたげに。

「心配ないよ。この仔達は悪さをするわけじゃないから」

 諏訪子の言葉はふたりの混乱を一層に拍車する。そもそも『この仔』という言葉が何を意味するのか分からない。この場には諏訪子と早苗と私と、その三人しかいないハズじゃないか、と魔理沙は思う。それ以外のモノなどあるわけがなく、またそんなモノの存在を認められるハズがない。

「この仔達はね、これ以上なく『終わっている』の。何処にもいけない、何処にもいられない、誰からも憶えていて貰えない。そんな忘却の果てに、この記述はあるんだよ。書き記すことは、名残を留めること。終わってしまったかたちを文字と言語へと抽象して、かたちないものとして意味を残す。それだけの、あまりに虚しくて悲しいだけの空間。だけれど私は遠いあの日に約束したのだから、だからずっと果たし続ける。どれだけ虚しかろうと、帰る場所はここにあるのだと、言い続ける」

 それだけ言って諏訪子はそっと両手を腹に添える、あり得るだけの慈しみと優しさを湛えた表情で。


 部屋はギシギシと軋むように音を立てながら歪む。天井を見上げてみれば様変わりも甚だしく、細かな木の根らしきモノがもぞもぞと蠢きながら互い互いと手を伸ばすように絡み合い、網となり一面となり、そうして最後には埋め尽くす。ボコボコと異様にさえ見える樹木肌に覆いつくされたのは天井ばかりでなく、壁、床、部屋を構成する六面全てが多数の樹木そのものに埋め込まれたように異変している。枝に葉が繁り花には実が成り、絶えず鳴動するように時間空間の流れを一定不定に結びながらまた離開する。垂れ伸ばした蔓を見遣った早苗は、そこから細長い胴体をした昆虫が透き通る羽をゆっくりと引き伸ばし、そうして飛び立つことを見た。虫は突如飛来した鳥に食まれ、飲み込まれる。飛翔する鳥につられて上を見遣った早苗は、再び信じられない光景を目の当たりにした。木の根に覆いつくされていた天井はいつしか腐って落ちたようで、ボロボロと屑を落としながら今やぽっかりと口を開ける。その先に広がるのは一面の青空ばかり、鳥が飛び、虫が漂い、そうして魚が泳ぐ。
 
 ――さかな? と疑問を差し込もうとした早苗は口からポコポコと泡沫を零し、ようやくと自分が水中にあることを理解した。青の天井とは水面にうつる空であるのか、ゆらゆらと光錐をゆらめきながら静かに佇む。どうにか空気を吸おうと思い、早苗は必死で浮き上がろうと手足をバタつかせる。透明感のある液体をかいてもかいても果てがなく、いよいよ息が続かぬと思った矢先、カケラも窒息感のないことに気がついた。水を吸い、水を吐き出しながらも苦しさは少しもない。どこまでも不思議な感じと試しにもがくのを止めてみたが、今度も不思議なことに全く身体が沈んでいく様子もない。
 
 そんな時に、ひょこりひょこりと白いかえるが、形ばかりに頬を膨らませた早苗の眼前を、手足をきれいにかきながら泳いでいく。ゆらりゆらりと差し込む陽光が揺れるごと、かえるはきらきらと輝いて、うすい金色に透ける鮮紅の血管網が眼に入る。早苗はそのかえるが気になって追いかけようとしてみるが、自分のかき方が無様であるのか、いくら頑張っても追いつけない。どうやらかえるは深い方へと行くようで、早苗は躊躇いつつも潜っていく。段々と周囲は薄暗くなっていき、陽光の到達距離には限界があるのだと知らされる。見上げてみれば水面との距離を測ることも難しく、変わらず散乱するように無数の光点ばかりが見えている。ふと気付けば白いかえるは姿を隠してしまった、もう何処にも見当たらない。
 
 仕方なくそのまま深く潜っていた早苗を驚かせたのには、遥か水深の彼方から、視界を一面に占めるほどの巨木が伸びている。近寄って触ってみればどこかつややかな肌触りをして樺の木などを思わせるが、これほどの巨木は今まで見たことがない。人が手を伸ばして十数人、それだけ互いに手を結んでようやく幹の一周ができるだろうか。それでも底へ底へと伸びていく木は、その基へと向かえばもっと太くなるのであろう。想像さえつかないほどだ、と早苗は感じる。
 
 巨木のこれまた巨大な枝振りのひとつに腰掛けて周囲を見渡した早苗は、それら枝振りの先端付近、なにか袋のようなものがぶら下がっているのを見つけた。遠目に見詰めただけでは良く分からぬので近寄って、その中身を見てしまった時には息を呑むのを禁じえない。ほおづきのように赤く色付き嚢状に実った袋の中、そこにあったのは――例えば小さい実りの内には、栗鼠、兎、犬、猫、鳩、烏などの小動物が入っている。対して大きいものの内には、最初に見たのは熊のようであり、次に見たのは例えようのない異形。一面毛に覆われたらしい顔面にはくぼんだ眼窩に金色の瞳が虚ろと嵌る。一見に獣のようと判断しても、首より下を見れば人間であるとしか思えず、手の構造の巧緻さは他の動物にあるハズがない。とすればこれも妖怪などの一種とでも判断するしかないのだろうか。
 そうして順々に見てまわった先、見渡す限りで最後の袋の中を見てしまった後、早苗は息が止まるほどの衝撃を覚えた。その中に眠っていたのは、眠るとしか表現しようのない安らかな顔で横たわるのは、他ならぬ自分――東風谷早苗の顔と身体を持つなにものか。それが何を意味するかは判然とせず、けれどなぜか自分の解体されていくような意識だけが優しくコトコトと響き、そうして早苗の意識は闇へと落ちた。

 間際、ずっと傍にいるからね、と誰か大好きなひとの声がしたのは、ただの空耳だっただろうか。


9.

 クークーと安らかに寝息を立てながら、早苗と魔理沙が眠っている。ふたりの様子を見守っていたらしい諏訪子であるが、ひとつ、踏ん切りをつけた様子で立ち上がる。その部屋は変わらず4畳の狭さに卓袱台が置いてあるだけの空間であり、何処にも異変の痕跡は見られない。変わったものといえば窓から差し込む夕陽ばかりで、部屋中を朱色に染め上げながら、落とす影は長い。

「だから止めとけって忠告したのに。あんまり濃い場所にいると毒気に中てられるんだから」

 諏訪子が手に持っているのは早苗と一緒に書いていた日記帳で、隣室の書庫へと運び、大事そうに棚へと収める。この部屋自体が諏訪子の一部である、としたらそれは言いすぎであろうか。ともかくも書庫に存在する全て諏訪子の記した書物は、彼女の記憶そのものであり愛すべき一部分であり、そうして誰かとの約定の証でもある。
 この部屋全体を何と称するべきか、と考えて諏訪子にはひとつ思い当たるものがあった。想起したのは一個の卵であり、二度とは孵化らぬ卵なのだ、とあらためて思う。やはり虚しいことなのであろうか、中身が空の卵を温め続けるとは。

 その時、うーん、と寝言がひとつ隣室から聞こえた。声からしてどうやら早苗の方であるらしく、目覚めも近いのだと思われる。だから、もう一度寝顔を見ておこうと閲覧室へ戻った諏訪子の耳に不意に届いたのは、もしかすると、思いも拠らなかった台詞、だったのかもしれない。


「だいすきです、ケロちゃん」


 ――もしあなたが愛してると言ってくれたら、わたしは、ずっと、ずっとあなたの傍にいるだろう。さみしいときかなしいときうれしいとき。そうして、永遠のひとりぼっち、でもさ。
読んでくださった方がいましたら、ありがとうございます。

 相変わらず意味不明な文章を書いている気がします。読みづらかったら本当に申し訳ありません。ということで、そんな方はどんどん減点していってね!!

 という感じでゆっくりするのも好きですが、ケロちゃん可愛いよケロちゃん。今回はアレです、ケロちゃんに眼鏡が似合う話を考えていたらこんな結果です。老成した幼女が萌えです。

 卒試とこんぺのダブルパンチで地霊殿は(買ったけど)まだあんまりプレイできておりません。でも採点期間中にはクリアするので勘弁な。

 最後にこんぺの主催者様と参加者の皆さんに再び感謝。


 ……一応書いて置きますと、お題は羊『水』でした。
blankii
作品情報
作品集:
最新
投稿日時:
2008/10/05 05:59:33
更新日時:
2008/10/07 20:59:33
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1. 7 慶賀 ■2008/10/05 13:30:23
テーマはなんだろう。えっらい丁寧な文章ですね。色々と
羨ましい方です。個人的に思うこととして、戦闘の自慰っぷり
が一番好きだったりします。
2. 3 小山田 ■2008/10/07 02:16:05
文章の書き込みの量が多いですが、読みづらさは感じませんでした。
点数については、まさに「これはいい作品ですね」ということで。
3. 8 神鋼 ■2008/10/16 19:12:03
後書きで色々と納得がいきました。前半から後半への雰囲気の変化がお見事でした。

早苗さんはすっかり幻想色に染まられたようで……
4. 6 yuz ■2008/10/18 20:29:33
いいですね。この水の使い方。
タイトルからは全く想像出来ない。
5. 8 deso ■2008/10/23 22:59:20
いやあ、これは読んでて楽しい文章でした。
やや悪ノリが目立つところもありますが、面白いからOKです。
ケロちゃんはカンブリアの大爆発とかも見知ってるのでしょうか。
6. 7 あずまや ■2008/10/23 23:37:29
諏訪子も諏訪子にべったりな早苗さんも可愛くていいですね。
少し話の繋がりが急だった気もするけど、最初の方で、ラストに繋がるような展開があってもよかったのかも。
7. 6 詩所 ■2008/10/26 20:37:25
改行が暫く無いところがあってちょっと読みにくかったです。

早苗さんも順調に幻想郷の空気に侵されているなあ。
8. 4 ミスターブシドー ■2008/10/27 00:46:13
冒頭の弾幕は長さの割に本筋にもお題にもあまり触れているように見えない。
書いた以上は筆者的に必要なのかも知れんけど、魔理沙がやってくるのはもっと唐突でいきなりでもいいと思う。
諏訪子の部屋、というのはあまり書かれたのを見ない。確かに何かありそうで、その実何も無さそうで。
まあ板張りのところに寝ているとも思えんのだが「そういう部屋に見える」という空間とかかもな。神さまだし。
本題に入ってからは面白かった。
9. 10 #15 ■2008/10/27 19:54:39
前半と後半のギャップがすばらしいww
神様らしいケロちゃんと、絵日記書いてるケロちゃん。どっちも好きですね。

>「んじゃな。愛してるぜ」「タラシっぽいファニーフェイスの方が…」
名言ですねw
10. 9 三文字 ■2008/10/29 03:25:38
不思議なお話だ。お題はちょっと捻ってあって、言われないと俺は分からなかったです。でも、上手い使い方だなぁと尊敬。
最初の天狗との戦闘で、早苗さんによる遠方からの第三者視点であるのに、迫力とスピード感あふれる描写が素晴らしかったです。
その後の魔理沙との会話も面白いwというか、早苗さんが壊れてるなぁ。
でも最後の水のシーンが本当に幻想的で、美しい。
穏やかで、でも少しだけ悲しくなるSSをありがとうございます。
11. 9 PNS ■2008/10/29 21:28:47
んん!
神様らしくて実にいいケロちゃんですね。
秘密の部屋の描写がとてもリアルで、想像するのが凄く楽しかったです!
オチもすっきりしていて気分がよい!
ただ一つだけ不満が…。弾幕ごっこの詳細な記述が、話の中で浮いてしまっている感じがします。ここを軽くしてあげれば、最後のシーンの素晴らしい描写が一層輝くのではないでしょうか。
12. 3 眼帯つけた兎さん ■2008/10/30 06:44:10
……ふむ。
羊水、言われてなるほどと納得。
ただ、前半の弾幕部分が少し助長かな。
13. 6 つくし ■2008/10/30 18:46:53
 どうにもこの淡々とした文体が狂気を醸している感じです。このあさっての方向にジャーマンな感じは嫌いではないですが、なんつーかこう、前半の視点の乱れやらいろいろが気になる感じも。
14. 8 じらふ ■2008/10/31 21:42:36
メガネは顔の一部です! …いや眼鏡属性はないはずなんですが、ケロちゃんのメガネ姿は見てみたいなあ。

弾幕ごっこや夢の中の描写が秀逸でしたし、「おんばしら〜」みたいな小ネタも面白くて読みやすかったです。つかケロちゃんに向けてあひゃーおひゃー言いながら飛び掛りたい自分もKO-LINなのかー、そーなのかー(ぇ

「死んだ女よりもっと哀れなのは忘れられた女です」とは、ある詩の一節ですが。
ずっとずっと去り行くモノ、消え行くモノを見守り続けてきた諏訪子さま…この小さな、でもお母さんのような神さまがそういう存在を覚えていてくれるなら、少しは救われる気がしますね。

最後の一行には不覚にも涙がこぼれました。見送るだけの側は辛いですよね…それが自分の血筋の末ならば特に。
でも…カエルは孵るもの、思いは返るもの。なればその愛はまた次代の洩矢の血族に(そしてその周囲にいる者たちにも)受け継がれケロちゃんに還るのでは、とも思います。
だから…諏訪子さまはきっとずっとひとりぼっちじゃないんだよ、と。そう言ってあげたくなりました。
15. 5 今回は感想のみ ■2008/10/31 23:08:16
みっちり詰められているわりには文章が読みやすい。
文の前後にわたる流れを踏まえて書いているのが非常に好印象。
内容自体はちょっと個人的解釈に走りすぎて置いていかれた感があるのと、テーマの消化不良でこの点数です。
16. 6 八重結界 ■2008/11/01 18:43:43
文章が濃密な割に、ストーリーが少し薄かったような。
情景描写や心理描写は手に取るようにわかるのですけど。
水を羊水と捉えたのには、素直にやられたと唸らざるをえません。
17. 4 藤ゅ村 ■2008/11/01 19:11:35
 ああ、そういう……。
 いやわかんなかったよ!
 本題に入るまでの前振りが長すぎて、しかもそのバトルが本題とほとんど関係ないこともあり、本題が忙しなく行き過ぎてしまった感がありました。
 全体的に回りくどくもったいぶった表現が多く、何が言いたいのか判然としない箇所が多々ありました。面白い文章ではあったのですが、そのぶん本題がわかりづらく。
18. 2 つくね ■2008/11/01 22:29:45
途中で台詞なり地の文なりがそれまでの区切り方に対して連続している部分が、ちょいと解説くさかったりしました。
19. 8 リコーダー ■2008/11/01 23:26:50
毒気に中てられた。良い意味で。
早苗さんの味のあるキャラ付けもツボです。
20. 5 時計屋 ■2008/11/01 23:48:59
独特のリズムで綴られる文章と、それが織り成す不可思議な世界。
私は結構好きです。
でもこのケロちゃんはもっと好きです。
外見も言動も幼女なのにお婆ちゃん属性とかもうね。
21. フリーレス blankii ■2008/11/03 03:07:10
>>皆様

 ぶっちゃけ説明不足ですみませんでしたーー!!
 
 今回のSSは、羊水というお題の使い方が前提にあって、そこからお母さんな(ゆえに加齢の象徴としての眼鏡付き)諏訪子様可愛いよ諏訪子様(アレ?)という不明成分を混合して、結果自分でも意図してなかった結論に至った、というのが書いた側の真相です。後書き通りに意味不明ですね。立てたプロットの意味がなくなる俺自重。

 なんか無粋な気もしますが、藤村氏に「いやわかんなかったよ!」と怒られたので解説を試みる。

・作中の『意伝子』はミーム、って言った方が有名ですね。当然のように遺伝子(ジーン)からの造語で、言語的遺伝子、という訳語が一番しっくりくると思います。ということで、今回の作中では諏訪子様の書いた『日記』の内容、もしくは『書く』という行為そのものを想定しました。そうしたミームは、ジーンによって記述された生物体を模倣する(すなわち諏訪子様が記述する)ことによって、記された情報体としての、一種、永続性を得る訳です。(ジーンは物質そのものですから、寿命とともに崩壊する。生殖によって情報を伝達しているが、『個体』としての連続性は喪失する。)諏訪子様は記述し、反復する(再読する)ことでその永続性を保証している。そんでもって、『個体』としての『私』を忘れないでくれ、という(神ではない)ひとの願いを仮想的に叶えている、というのが概略です。(そのあたりを『愛』と等価交換したのが、作中の『約束』) 勿論と仮想的に叶えているだけですので、実際には何も変わらない、意味のないことかもしれません(『二度とは孵化らぬ卵』『空の卵を温める』と作中で表現)。ただ、そこに救いを設定したのが、早苗の「だいすき」という台詞である訳です。一瞬は永遠に、永遠は一瞬に。それでも(諏訪子様と早苗が)そんなもんに敗けるハズがないのだ、という私の切なる願いを反映しての、あんな結末でした。
・書庫が壊れて〜、の描写は幻想です。というかぶっちゃけそのまま単なる比喩の世界です。上に述べたように、本に記述されたミーム = 胎児として、書庫は諏訪子様の子宮ということになります。(だから腹に手を当てた) 子宮の中の世界では、今までに記述された様々なミームが、単純なものほど元の生物を模倣して活動し(植物とか虫とか魚とか)、複雑で模倣の難しいものほど活動性が低下して(哺乳類、妖怪、あるいは人間)います。後者は大樹(臍帯の比喩)につながって、眠っています。なにせ不完全なもので。んで、水を吸っても苦しくなかったのは、それが羊水だから、というのが理由でしょうか。臍の緒で繋がっている限りは、胎児に息苦しさはあり得ません。
・魔理沙の言う「全く知らない」文字は、神代文字を参考としました(うそっこだっていうのが定説ですが)。一応漢語の渡来以前から記述が開始されていたような設定にしたかったもので。それだけの理由です。
・弾幕描写はかなりの部分がオナニー。書きたかったから書いた。(実は最後の部分で、魔理沙を『孤独な人』として対比するつもりだったが、今の形となっては言い訳でしかない。そのために必要だった気が。) 

 誰が読むんだこんな解説、と思いつつも一応書いておきました。諏訪子様と早苗さんが大好きな物好きな方(俺は勿論ふたりとも大好き、というか勿論神奈子様だって大好きさ)が、いつか読んでくれると信じつつ。ホント、変なSS書いてごめんね。個人的にはお気に入りなのが困ってしまうけど(自分の作品大好きオナニー野郎って言われるかしら……)。

 以下、読んでくれた方へレス。読んでくださってありがとうございました! 皆さんの感想のお陰で(やる気にムラのありすぎる私でも)こんぺには参加し続けています。ホントにありがとう。

>>慶賀さん
あの戦闘の自慰っぷりを気に入ってくれるとは――奇特なお方。弾幕描写上手い人の爪の垢を呑んでくるとします。

>>小山田さん
読みづらくない、と言ってくれる貴方は良い人だ。今まで散々と読みづらいと言われてきた僕です。少しは改善したのかな?

>>神鋼さん
今回こんぺの作品にもありましたが、現代っ子を引きずる早苗さんも可愛い。つまるところどっちも可愛い、早苗さんはとにかく可愛いようふふ。

>>yuzさん
実はタイトルから想像させようとしたのは内緒です。敗北主義者なので、貴方の感想には勿論喜んじゃうぜ。

>>desoさん
ケロちゃんの『起点』は、一応あの『最初の本』のつもりでした。でも諏訪子様とアノマロカリスが並んで泳ぐのも可愛いよ。あとハルキゲニア。

>>あずまやさん
まったくです。前半と後半が解離しすぎです。諏訪子様とべったりな早苗さんジャスティス。それを歯噛みして見詰める神奈子様可愛いよ。

>>詩所さん
読みづらくてすみません。早苗さんはきっと適応の速い子! でもそんな自分に気付いて、すこしだけ悲しくなる、そんな子(希望)。

>>ミスターブシドーさん
とりあえず諏訪子様の私的な空間がないと話が始まらないので、勝手に設定しました。でも意外に人間ぽかったり人間ぽくなかったり混ざってる神様が好きです。弾幕に関しては上記の通り、貴方の慧眼の通りであります。

>>#15さん
わーい満点貰ったよー。自分の書いたケロちゃんを好きと言ってもらえて、これ以上の幸福はございません。

>>三文字さん
あの早苗さんの壊れっぷりは、(風神録5面における)私の第一印象から来ています。なにこのファナティック・ガール!! なんて思いまして。霊夢との良い意味での対称っぷりが素敵。

>>PNSさん
弾幕シーンに関しては実におっしゃる通り……。ある意味神様っぽい諏訪子様を目指したので、そう言って貰えて嬉しいです。

>>Mr. 眼帯つけた兎さん
さんを続けると変なのでMr。なんて発想が貧弱な私。次回頑張りますゆえに許して。

>>つくしさん
うお、視点の乱れすみません。確かに弾幕場面で視点があっちこっちに。上の長文読んで貰えると、狂気の在り処とか解っていただけますでしょうか? 

>>じらふさん
長文感想は心の励みです。眼鏡はきっとケロちゃんに似合う、それだけは間違いない、との一念でこのSSをつくりました。ほんとです。あの小ぶりな顔に、ちょっと大きめの眼鏡が俺ジャスティス。徐々に下がってくるのを直しながら、あーうー、コレ堪りませんよ。
>>この小さな、でもお母さんのような神さまがそういう存在を覚えていてくれるなら
わたしも、そう、願っています。心より。

>>今回は感想のみさん
個人的解釈が突っ走った点はご指摘の通り。なんだかSF好きの悪影響ばかりが出てるからなぁ。読み手に解って貰えるか否かは書き手の力量次第、この言葉を目標に頑張っていきたいな。

>>八重結界さん
確かにストーリーというか、文章中で流れていくものが薄いのかもしれない。課題です。

>>藤ゅ村さん
ホントにごめんなさい。わからなかった、との御指摘に対し、上記の解説を追加しました。いや勿論と読む必然性はありませんが。相も変わらず毎回指摘貰ってる点が直らないのは恥ずかしいばかり。もふもふと守矢一家を愛でながら頑張ります。

>>つくねさん
うう、申し訳ない。その『解説くささ』は敵だ。一歩進んで二歩下がりながら、三歩進める日を夢見たい。

>>リコーダーさん
毒気にあてるといえばメディスン……って今回ゼロかい。各所で早苗さんは大人気ですが、俺も早苗さん大好きなので頑張っていきたいです。

>>時計屋さん
外見幼女で中身お婆ちゃん、でなく立場上お婆ちゃん(というかお母さんかな?)にならざるを得ない、みたいな感じで書いてみました。その辺が伝わっていてくれたらいいなー、と期待。


 実は今回、当初は全く別の話書いてて(魔理沙が重傷を負ってえーりんが魔理沙『に』脳移植する話。なぜかドナーとレシピエントの精神が合一して助かる。書き終わりそうになくて断念)、気付いたら締め切りが間近でした。でもなんだか、うおおおお言いながら必死こいて書いていたら、なんだかお気に入りの一作ができてた(足らない部分はいくらでもありますが)。人生って何が幸いするかわからないです、ほんとに。

 というかんじで、自分は守矢一家が大好きなのだと再認識できた今回こんぺでした。主催者様と参加者の皆さん、ありがとうございました。また次回こんぺを楽しみにしています(読みたくないって言われたら泣くが。でも、きっと出す)。

 やっぱり幻想郷はいいなぁ、残酷だけど。

22. フリーレス twin ■2008/11/08 21:09:27
 語彙の豊富さと、それを使いこなす表現力、難解な単語を使っていながら崩れないリズム、総称すれば「文章力」に大変感動しました。特に、物語後半で早苗が夢に落ちて行く場面では、その状況が頭の中にありありと浮かんできて、臨場感がありました。

 ただ、そういったレベルの高い文章力がある一方で、物語の凹凸の平坦さが残念でした。私の読解力が低い所為かも知れませんが、解説を見るまで、今回のコンペのテーマである「水」が感じられなく、物語前半の流れから作者様が何を表現したいのかが伝わってこなくて、高い文章力も冗長に感じてしまいました。

 また、途中の彈幕ごっこでは、早苗の主観から見た戦闘の光景だからか、臨場感が伝わってきにくく、更には文が説明的過ぎて感情移入もままならず、素直に楽しめませんでした。起承転結を分かりやすくまとめ、展開の起伏が目立つようになっていれば、かなり良くなったのではないでしょうか。

 しかし、解説を読んだ後は、「あれはああいう意味だったのか」「こういう意図があったのか」と感心してしまう箇所が多々あり、さりげない地の文にも気を配るようになりました。解説を上手く物語の中に入れていれば、テーマもはっきり読者の目に映るようになったと思います。

 解説を読んだ後の点数は6〜7、読む前では4〜5だったでしょうか。
 それではこの辺で。作者様の魅力を感じ、次作も早く見たくなりました。

 最後に、期間内に書けず、申し訳ありませんでした。
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