無色に染める

作品集: 最新 投稿日時: 2009/04/11 00:00:50 更新日時: 2009/04/11 00:00:50 評価: 31/33 POINT: 172 Rate: 1.23
 こうして向かい合って改めて、博麗霊夢という存在の大きさを感じた。

 一般論として、人間にはそれぞれの色がある。
 強い人間とは自分の色をしっかりと持った人間だ。
 さらに強いのは、自分の色で周囲を染め上げられる人間だ。

 しかるに、霊夢はどうだろう。
 永遠の巫女、空を飛ぶ程度の能力。何物にも囚われない、真なる中立。
 霊夢に霊夢の色があるとすれば、それは他の色すべてを圧倒する程の、究極的な無色だ。

 私、霧雨魔理沙が小細工と大見栄を、何度幾重に塗り重ねても、こうして霊夢を前にすればその全てが霞んでしまう。

 無色に染め上げる、なんてとんでもない矛盾じゃないか。
 染料は色があるから染められる。色のない染料なんて、無限に酒が湧き出る瓢箪なんてのと同次元の絵空事だろう。そうやって、一笑に伏すのは簡単だ。
 簡単だが。
 しかし。





 右を向くと、八雲紫がいた。
 こんな状況でも、やる気なさげな仕草を崩さない。その端々から、ビシビシとプレッシャーを発している。悔やしいが、こいつも大したタマである。
 彼女と霊夢は、幻想郷の管理者として最重要な二つのピースだ。

 この二つのピースの距離感、という点を考察すると、一つの驚くべき事実に行き当たる。

 意外にも、霊夢と紫が初めて出会ったのは、そう昔の事ではない。
 思い出す。幽々子が戯れに春を集めたあの時。新しく出来た一筋縄では行かない知り合いの、さらにそのまた友人という遠い関係だった。
 それまで霊夢はこんなキワモノの事を、存在すら知らなかったのだ。
 恐らく、これが幻想郷を幻想郷たらしめるルールとして定められた、二人のあるべき位置だったんだろう。

 さらに妥当な推論を重ねれば、これは博麗の巫女代々のあり方であろうという点が導かれる。。
 霊夢の使う術、符の作り方、大結界を維持する方なんかは、先代から引き継いだものだ。
 例えば、これら博麗の秘伝に紫が噛んでるとしたら。
 紫に関する事がそれらと一緒に教えられる事は必然だ。
 そうでなくても先代の日記とか、紫が先代にプレゼントしたものが出てきたりすれば。
 やはり霊夢は紫を知る事になる。
 そういったものが一切ないという事は、博麗と八雲紫の距離感が代々その程度だったという事に他ならない。
 あえてそうしてあったに違いない。幻想郷を作ってみろといわれたとして、何はなくてもこの二つのピースだけは、極限の注意をもって配置するだろう。

 だが、二人は今こうして近くにいる。
 イレギュラーなのだ。
 特別な存在である博麗の巫女でありながら、霊夢はさらに。

 新しい関係。
 幻想郷は今急激に変わりつつある。あのちんちくりん、じゃなかった、幻想郷縁起の編纂者・稗田阿求の言葉である。私もそれを実感している。というか、自分で言うのも何だが私だって、妖怪と新しい関係を築きにいく人間の一人という事になっている。

 しかし私は渦の周辺で空騒ぎをしているに過ぎない。
 中心にいるのは間違いなく、今私の目の前にいるこいつだ。



 霊夢、答えてくれよ。
 お前は一体何なんだ。
 答えてくれたらどんなに楽か。しかし霊夢はこちらの目を見る事さえしない。
 どこまでも、手強い。





 そこまで考えて、私は頭を軽く振った。
 さて。
 後ろ向きでイジケ虫な魔理沙さんは、ここで終了のお知らせだ。

 私は考えるのを止め……たりは、しないぜ。
 考えなくなったら人間終わりだ。今では本職にその名を譲っているものの、一時期は「台所に出る黒くて素早いの」と異名を取った私である。どこまでも、足掻いてやる。

 見方を変えよう。
 見るべきは、「霊夢が今までに捨ててきたもの」だ。
 そう、霊夢は博麗の巫女だから、普通の人間とは違って、色々なものを諦めさせられてきた。
 普通の女の子、から最も遠い存在。
 霊夢がそのことについてどう考えているかは、側にいる私にすら窺い知れない。
 しかし、私の気のせいかもしれないが、霊夢は時々とても寂しそうな顔をする。

 霊夢が捨ててきたものは、色とりどりだった。
 何だ。
 霊夢は、色の付いたものをたくさん捨てる事で、無色になっていたんじゃないか。

 それが分かったからといって、私に為せる事はあるか。はっきり言って、ない。
 むしろ、霊夢が無色であるという事実を、今一度身に染みて確かめた。
 しかし、そう、霊夢は余りにも大きな代償を払ってきた。そしてそれだけに止まらず、今なお孤独に足掻き続けているのだ。

 無色に染める。それは不可能。それは一つの奇跡。
 この世にそんなものが存在できるなら、この目に見せてくれ。

「霊夢」

 私が名を呼んで、霊夢は初めてこちらを見た。

「勝負だ」














 タン。














「ロン、字一色よ」


「嘘だろ!?」
みすち「ちん、清一色!」
「「「一個多いわ!!!!!」」」

〜〜用語解説〜〜
【字一色(ツーイーソー)】
麻雀でアガる役の一つ。誰もが夢見る「役満」の中にあって、字牌だけで手が出来ていればオッケーと見た目は簡単そうだが、実は大三元・国士無双などよりも一段階難易度が高い。おまけに狙っているのがバレバレという欠点もあり、本編の状況で振り込む事はほぼ考えられない。実は魔理沙はリーチ(条件を満たせば宣言するだけで役一つになるが、その後捨てる牌を一切選べなくなる)をしていて、従って上の心理戦らしきものは全て、単なる魔理沙の現実逃避なのであった。正直スマンカッタ。
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作品情報
作品集:
最新
投稿日時:
2009/04/11 00:00:50
更新日時:
2009/04/11 00:00:50
評価:
31/33
POINT:
172
Rate:
1.23
1. 6 神鋼 ■2009/05/10 00:25:47
もう一味欲しいところですがダラっとする前にスパっとオトしたのは正解だと思います。
2. 7 リペヤー ■2009/05/10 00:25:52
やられた。まさか麻雀だったとはw
前半の魔理沙による霊夢考察も頷けますし、面白かったです。
3. 8 どうたく ■2009/05/10 00:47:44
良い所
 一度で二度たのしめる良い作品だと思います。
このシリアスな雰囲気から、麻雀オチになるということは全く予想できず、思わず笑ってしまいました。
 そして麻雀オチということを分かりながら読むと、そこまで考えて〜以降の文章が「あっ、真面目なこと言ってるけど、これ麻雀のことじゃないか」と二度笑わせてくれました。
 短編としては良く出来ていると思います。シリアスな文体もスゥっと頭の中に入ってきて、良かったと思います。

 悪い所
 悪い所ではないのですが、いっそ最初から麻雀オチである描写をチラホラさせたら、読み返す時にもっと笑わせられるのではないでしょうか? 私は麻雀をやったことがないので「ここに、これを入れたらどう?」とか言えないのですが……。
 もし最初から麻雀の描写を少しずつ出していたら申し訳ありません。

 総括
 短編としてとてもおもしろかったです。オチがオチなので、長さも適量だったと思います。私としては好感触でした。
4. 10 名前が無い程度の能力 ■2009/05/10 08:28:10
麻雀wwwやられたwww
5. 7 実里川果実 ■2009/05/11 00:29:01
 霊夢が「無色」の人というのに成程、と共感です。どこか劣等感を抱えて生きていそうな魔理沙の視点ですからシリアス、というか緊迫した雰囲気を感じ取れました。
 紫に霊夢、この二人を認めている心の裏に何か嫉妬心がある様にも。
 が、ががが……!
 この雰囲気のぶち壊しっぷりが好きです。麻雀はさっぱりなのですが、それでも持っていかれたと感じさせられた所に感服しました。
 上記の様に、麻雀に関する知識もないので状況が今一つ分からなくもあるのですが、それでも短くも印象深い作品でした。
6. 6 佐藤厚志 ■2009/05/11 06:21:07
まるで、ワカメソフトクリームを口に入れるまでの不安と、食べてしまったかのような衝撃(少なくとも下関にはあるのです)。
なるほど博麗の巫女に相応しい。
7. 9 名前が無い程度の能力 ■2009/05/11 18:13:43
面白かったです。オチが秀逸!
8. 6 not瀟洒 ■2009/05/11 18:54:12
最初のくだりから最後のオチの落とし具合の上手さに笑ったw
こういうネタを一発ネタだけにして終わらせないところが素晴らしいと感じました。
ただ、このオチがやりたいために最初のくだりで『色』というお題を、無理やり使ったように感じました。

でもオチの発想の良さに感服w
9. 6 ドラ猫 ■2009/05/11 22:44:26
オチで笑った。
ただ麻雀知らない人の為に解説を入れたくなる気持ちはわからないでもないですけど
ここはそういうジャンルを選んだ宿命と考えてやらない方が良かったかと思います。
「魔理沙の現実逃避〜」な部分なども含めて少し語りすぎな気がします。
作品についての解釈はもっと読み手に任せた方がよろしいかと。
10. 3 As ■2009/05/12 01:39:56
霊夢の色についての魔理沙の考えや霊夢と紫の関係については何か深いものを感じました。
まさか麻雀で締めるとはw
11. 6 三文字 ■2009/05/12 01:48:28
この後、魔理沙がトンで脱ぐんだろう?
まあ、リーチかけて役満振り込むのはよくあること……
12. 3 名前が無い程度の能力 ■2009/05/13 13:31:59
ん〜
13. 1 パレット ■2009/05/18 00:01:17
途中までオチが読めなかった自分も情けないですが、途中まではオチとは特に関係ないような気もして。
14. 7 名前が無い程度の能力 ■2009/05/23 22:40:06
シリアスな話かなぁと思っていたので、その分盛大に吹いてしまいました。
魔理沙乙 流石霊夢
15. 7 #15 ■2009/05/25 18:30:58
笑ったwww

こういうオチは好きw
16. 5 気の所為 ■2009/05/30 21:40:48
雰囲気から一発ネタだと予想はしていたものの、麻雀は予想できませんでした。
リーチ掛けてんのに捨て牌を最確認するなんてまさにイジケ虫な魔理沙さん。
17. 6 有文 ■2009/06/08 01:56:52
最速お疲れ様でした。
ロンは、予想の範疇に無かったわけですが。
一本取られた感があります。
18. 3 ふじむらりゅう ■2009/06/10 23:34:01
 おお……麻雀よくわからん。
 タメを作ってきたのはいいものの、麻雀わからないんでいまいちピンと来なかったです。
 何か落ちがあるだろうなー、と思ってはいたのですが。
19. 9 名前が無い程度の能力 ■2009/06/11 23:54:03
これはひどいww(誉め言葉)

これは新しいですね、不覚にも笑ってしまったので点数置いていきます。
つ?
20. 8 ぴぃ ■2009/06/12 01:12:40
霊夢が捨ててきたって、「捨て牌」のことですかw
短編ながらオチが実に上手い。お見事です。
21. 2 上泉 涼 ■2009/06/12 01:52:14
私が麻雀を全く知らないからなのですが、オチを見てもよく分かりませんでした。
22. 6 so ■2009/06/12 08:21:45
やられた。見事にだまされました。

……くやしい。
23. 5 八重結界 ■2009/06/12 16:07:27
良い意味で期待を裏切られました。
24. 6 名前が無い程度の能力 ■2009/06/12 16:51:43
おお! うまい!
25. 4 moki ■2009/06/12 19:36:26
しっかりと作りこんである一発ネタは好きですが、咲、もとい、先にオチが見えちゃったのが残念(自分の所為ですが)。字一色とか夢のまた夢です。
26. 4 木村圭 ■2009/06/12 21:19:11
霊夢さんマジパネェっす!
27. フリーレス ハバネロ ■2009/06/12 21:31:28
あー、リーチしてりゃあな。
魔理沙、諦めろ。
28. 4 時計屋 ■2009/06/12 21:38:18
 むしろ後書きのほうに吹いてしまった。
 一発ネタにしてはちょっと引っ張りすぎに感じました。あるいはもっと大げさに緊張感を高めて最後にすとんと落とすと良かったかも。
29. 5 つくし ■2009/06/12 22:35:24
申し訳ありません、時間が差し迫っているため、採点のみにて、感想本文は後ほど改めて。
30. 3 K.M ■2009/06/12 22:37:40
無色は普通他の色に染まるもの。それに逆らう不条理…うーむ。しかしオチが予想外w
31. 5 つくね ■2009/06/12 23:34:48
麻雀と知ってから後で見返すとなるほど〜と思います。意外性は凄いです。
32. 5 渦巻 ■2009/06/12 23:48:48
やられた、と思わされたら負けの類の作品ですが
しっかりと出来ていた、という感想を抱きました
33. フリーレス Taku ■2009/06/15 00:19:35
点数間に合わなくてごめんなさい。
思考の流れを描くのがとてもお上手だと思いました。
麻雀は分からなくてすみません。残念。 5
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