テレビ局つくるよ!

作品集: 最新 投稿日時: 2009/05/09 14:02:19 更新日時: 2009/05/09 14:02:19 評価: 26/27 POINT: 150 Rate: 1.30
 その日、霖之助は不意に目が覚めた。
 周囲は暗く、外からは梟らしき鳴き声と虫の鳴き声が聞こえてくる。
 眠りはさして浅い方ではないので、こんな夜ふけに目が覚めるのは久方ぶりだ。
 寝直そうかと思い布団を被り直すが、ふと尿意を感じる。
「……少し寒いな」
 そんな独り言を呟きながら、適当に上着を羽織ると彼は厠へと向かった。
 窓からは、丸い月が見える。
「満月か……」
 そんな事は見れば分かるのに、ついつい独り言をつぶやいてしまう。
 だが、それは仕方がない。
 つい、口に出てしまうほど今夜の満月は大きかったのだから。
「……ふう」
 厠で用を足して出ると、妙に目が冴えている。
 少し喉が渇いていた。しかし、お茶は人の意識を覚醒させるので、今飲むわけにはいかない。
「白湯でも飲むか」
 確か、店に置いておいた魔法瓶にお湯が入っていたはずだ。
 強力な保温性を誇る魔法瓶を持ってしても、お湯を注いでからこれだけ時間が経っては冷めてしまっているだろうが、それでも冷たい井戸の水に比べれば温いはずだ。
 今は冷たい水は飲みたくない。
 
 厠を出て店の部分に差し掛かった時、森近霖之助は足を止めた。
 
 ――ブゥゥン
 
 そんな低く何かが振動するような音が店の方から漏れていた。
 多くの商店がそうであるように、香霖堂も店と居住部に分けられる。不審に思った霖之助が向かい、音が聞こえてくるのは、その店の部分だ。
 店の近くまで来ると、霖之助は奇妙なものを感じて足を止める。
 
 光だ。
 
 店から鈍い光が、霖之助がいる場所まで差し込んでくる。
 明らかに満月のそれとは違う奇妙な光、このような光など霖之助は見たことが無い。


 ただ空虚――そう思える光だった。


 恐怖に駆られた霖之助は勝手口から逃げ出そうかと思ったが、本能的な恐怖以上に、なぜそんな恐ろしい光が自分の店から溢れているのか気になった。
 好奇心猫を殺す。
 そんな嫌な格言を思い返しながらも、霖之助は腹這いになり、両腕を動かして匍匐前進で店へと潜入した。
 
 読んでて良かった、アメリカ軍コンバットマニュアル。
 
 霖之助はマニュアルのイラストに書かれていた教練軍曹に感謝を捧げ、店内を見回した。
「……なんだ?」
 その光景を見て霖之助はひるんだ。
 店で発光していたのは、あまり商品が売れない香霖堂の数少ない売れ筋商品である映像受信装置……テレビジョンだった。
 テレビジョンとは、遠くの景色の霊(ゴースト)を映し出すという、外の世界の道具だ。
 最も香霖堂の商品の例に漏れず、本来の使い方は全く分からないので霊の映像を映し出すことはできないが、霊気入れとして役立っている。
 そのテレビジョンのガラスの部分が発光していた。
「な……なんだ!?」
 店に展示してあるテレビジョン、その全てはぼんやりと発光している……否、それらはただ光っているだけではない。
 
 テレビジョンのガラスの部分に何らかの影が映り込んでいる。
 
「外の世界の……霊か?」
 匍匐前進のまま霖之助はテレビジョンへと近づいていく。
 目の前にあるのは、観音開きの扉が仏壇を思わせてよろしいと好評の、テレビジョンの中でも一番人気の商品だ。
 そのガラスの部分にクネクネと蠢く人型が映っている。
 
 おぞましい。
 それを見た瞬間に霖之助はそう思った。
 動き方が、まともな幻想郷の生き物ではない。
 全てが曖昧で、見ていると目眩がする。

 逃げなければ。
 
 そう思ったがなぜか霖之助はテレビジョンに映る人影から目が離せず、動く事が出来ない。
 霖之助が戸惑っている内に、そのクネクネは少しずつ大きくなっていく。
 否、ガラスの中のそれは少しずつ近づいて来ているのだ。
 それはガラス一杯に映り込むと、
 
「ウマクウツッテイルカー!!」

 と、叫んでプツンと消えた。
 そのおぞましき影を見て霖之助は意識を喪失する。
 
 

 
 翌日、香霖堂の床で気絶している霖之助を、店に勝手にあがりこんだ魔理沙が発見した。
 
 
 
 
 
 
 天狗や河童の住む妖怪の山の中腹に、その奇妙な塔は立っていた。
 その塔の大きさはおよそ5mの高さであり、鉄骨の骨組みに金属のパイプやコードが複雑に絡み合っている。
 その塔からは一本のコードが伸び、それは天狗の持つカメラよりもずっと大きなカメラに接続されていた。
「ぐぬぬ……」
 そのカメラの前で、一人の河童が唸リ声を上げている。
 
 河城にとり。
 
 超妖怪弾頭の二つ名をほしいままにする河童界のエッジランナーだ。
 そんな彼女は、親の仇を見るような目で塔に接続されたカメラを睨みつけている。
「くそッ。出力が圧倒的に足りないッ!」
 そう一声叫ぶと、にとりは深い溜息を吐いて大の字になった。
 
 空は高く、雲は良い感じに流れている。
 
 良い天気だ。
 空を見上げてぼうっ、としているとにとりの顔に影が差す。
「なんかだいぶ煮詰まっているみたいですね」
「あっ、ぱんつ。今日も椛に履かれて可愛いね」
 現れた椛のぱんつに挨拶をしたにとりを、怒った椛は踏みつけた。
 
「いやー、眼の前にぱんつがあるからさ」
 そうして謝るにとりの顔面には、椛の靴跡が刻み込まれていた。
 その靴跡は一文字。やはり天狗の靴は一本歯なので深く刺さる。
「知りませんよ、人がせっかく差し入れを持って来てあげたってのに」
 一方、椛はプリプリと頬を膨らませて怒っている。
「わざとじゃないよ〜」
「知りませんよ、そんなの!」
 誠意のないにとりの謝罪に椛は余計激昂した。
 確かに、にとりが故意ではないとはいえ、椛はいきなりぱんつを覗きこまれたのだ。
 そんな事をされたら、普通は怒る。
「いやはや、済まないねぇ……私もぱんつを見せるからおあいこって事で許してよ」
「見ませんよ、そんなの!」
「じゃあ、どうすれば許してくれるのさ!」
「なんであんたがキレるんですか!」

 そうして河童と天狗の罵り合いをしていると、にとりの腹が『くぅ』と鳴る。
 
 すると、にとりはへなへなと座り込んで、
「は、腹が減って力が出ない……」
 と、情けない声を出した。
「……仕方ないですね」
 椛は、呆れながらも差し入れのおにぎりをにとりに渡す。
「ありがとう、ジャムお○じさん!」
 おにぎりを受け取ったにとりは、いかにも心がこもってないという感じで椛に礼を言う。
「……いや、なんかもう良いですよ」
 椛は、そんな河童を心底疲れ切った顔で見ていたのであった。

「で、どうなんですか。調子は?」
 白狼天狗は、梅おかかおにぎりを食べて頬をリスのように膨らましている河童に尋ねた。
「んー、真空管が足りないね。意外と幻想郷に入ってきてないし、入っていても大半が割れていて使いものにならない」
「真空管って、変なガラスの?」
「うみゅ、専門的な説明を端折るけど、平たく言えば電波塔の出力増加に足りないんだよ」
 おにぎりをすべて平らげたにとりは、指についていた米粒を舐め取り「御馳走様」と椛を拝む。
 
 そしてゴロンと横になると件の塔を見上げた。
 
 鉄骨とパイプとコードの絡み合った塔、にとりに釣られてその塔を見上げた椛は眉をひそめる。
「……なんか、これ好きになれないです」
「仕方無いね。造っておいてなんだけど、私もこれは幻想郷で浮いていると思うしな」
 
 椛が好きではないと言い、にとりが幻想郷でも浮いていると語るこの塔は『電波塔』だった。
 
 その目的は、幻想郷に点在する映像受信装置……テレビジョンに映像を送ることである。
 そのための映像送信装置がこの『電波塔』なのだ。
「里は大騒ぎらしいですよ『テレビジョンに外の世界の霊が映った』って、文さんが言っていました」
 文とは、鴉天狗の射命丸文だ。
 鴉天狗はブンヤであるので、噂話や風の噂に詳しい。
「うーむ……そうなると意外と里の人間もテレビジョンを持ってるのか?」
 にとりはテレビジョンを持っているのは、魔法使いや頭の良い妖怪に限ると思っていた。
 普通の人間が、霊気入れなど持っていても意味は無いからだ。
「花瓶置きにしてるとか」
「なるほど」
 にとりは手を打つ。
 確かにテレビジョンは足があるものが多く、上は平らだ。
 物を置くにも困らないだろう。
「しかし、里で噂になっている以上、そろそろ危ないですよ」
「んんー、異変ってわけかい。ぞっとしないねぇ」
 テレビジョンに人影が映ったくらいで巫女がやってくることは無いだろうが、用心するに越したことは無い。
「しかし、なんだってこんなものを作ったんですか?」

 にとりが電波塔を妖怪の山中腹……椛の担当しているエリアに建設を始めたのは二週間前。
「やあ、椛! 突然だがここに5m21p程度の塔をたてても……いいかな!?」
 と、何本もの鉄骨を担いだ河童は見張りをしていた椛の前に現れ、彼女が『いいとも!』と言わないうちに怪しげな塔を建て始めたのであった。
 基本的に妖怪の山に住むもの達は、社会性が高い。
 しかし、この超妖怪弾頭は考えるより先に行動をするという、あまりにも特攻野郎Aチームな河童であった。
 一応は、長いものには巻かれろ的な態度を取ってはいるが、必要とあれば天魔だって殴るかも知れない。 
 
「作る理由か……」
 理由を聞かれてにとりは難しそうに腕組みをする。
「ええ、こんな大物です。ちゃんとした理由があるんでしょう?」
 椛が問い詰める。
 場合によっては、自分にも責任が降りかかるので『にとりが電波塔を作る理由』は聞いておかないと納得できないのだろう。
「単純に思いついたのと、幻想郷全土のテレビジョンに映像を流せば、きっと河童仲間から尊敬されるからな! それほどの偉業を達成すればどれほどの名声が私に集まることか!」

 想像以上のどうでも良い理由に椛は深い溜息を吐いた。
 キラキラと光るにとりの目には、どのような未来が見えているのだろうか。
 輝くにとりの笑顔を見て、椛は「ああ、この河童は想像以上に俗物だなぁ」と、しみじみと思った。
「……けど、二週間も頑張ったのってあんな気持ちの悪い映像を映す為だったんですか?」
「うッ」
「ああいった映像で河童の尊敬って集まるものなんですか?」
「ぐッ」
「もし、そうだとしたら……どこかの水の王といい水棲な人の発想って少しおかしいですよね」
「だれが、オル○スだ、ゴラァ!」
「キャイン!」
 水の王呼ばわりされて逆上した河童は、白狼天狗の尻尾に齧り付いた。
 
 

 河童は意外と凶暴な生き物だ。
 泳いでいるものの尻子玉は抜くし、手当たり次第に相撲を仕掛ける上に、水中に馬を引きずりこむほど力持ち、それも河童の側面なのである。
「うう、尻尾が痛い」
 壊れた古いテレビジョンの中を漁りながら、にとりに噛まれた尻尾を撫でる。
 ここは外の世界の道具が落ちている場所、無縁塚。椛がここに来た目的は、にとりに頼まれた真空管の採集だ。
 もちろん妖怪の山にも外の道具が流れ着く場所はある。しかしにとりは、電波塔を完成までは秘密にしておきたいので、妖怪の山で材料集めは出来ない。
「だからって、何で私が……」
 椛がぼやく。
 河童仲間には秘密にしたい、などという理由で駆り出されれば愚痴の一つも言いたくなるだろう。
 そんなぼやく天狗の背後で、空間が縦に裂け始める。
「真空管なんて集めて、何しているのかしら?」
「ひゃあ!」
 突然、背後から声をかけられて、椛は持っていた真空管を取り落としてしまった。
「あら、勿体ない」
 しかし、取り落とした真空管は隙間現れた謎の手が優しく受け止める。
「あああ、貴方は……」
「ええ、みんなのアイドル八雲紫よ」
 幻想郷でも最古に数えられる大妖怪は、登場するなり飛ばしていた。
 例えるなら、戦隊ものの最終回の二話前ぐらいのテンションの高さ。椛は、そんなボケをかました八雲紫を突っ込みたくて仕方がないが、下っ端哨戒天狗が幻想郷の有力者に突っ込める道理は無い。

 椛には、守るものがある。

 なにを、と問われれば『自分』としか答えようは無いのだが。
「ええ、どうも……」
 なので、凄まじく微妙な顔で椛は挨拶をした。
「どうしたの? 元気ないぞ!」
 80年代のアイドルの如く、八雲紫は椛の頭をこつん、と小突いた。
 
 もう駄目だ。
 
 何か悪いものでも食べたんスか?
 そんな突っ込みが、喉元まで出かかっている。
 堪えなくてはいけない、目上の者は敬うべきなのだ。
「ええ、まあ……」
 椛は生来の社会性を発揮し、はにかんだ笑顔で対抗する。
 その頬はわずかに引きつっていたが、許容範囲だろう。
「ところで……昨夜のテレビに謎の映像が映り込むという事件があったけど、ここで真空管を集めている貴方と関係があるのかしら?」
「はうっ!」

 武術には無拍子という概念がある。
 拍子が無い……つまり予備動作の無い攻撃を称し、無拍子という。
 突然、確信を突いた紫の発言はまさにそれだった。

「いきなりうちのテレビに変な画像が映り込んでねぇ……それで調べてみたら、幻想郷の大半のテレビで同じことが起きたじゃない?」
「ああ、そんな事があったんですかぁ。大変だなぁ」
 白々しいと自分ですら思うほど微妙な調子で椛は答える。
「それで、テレビが反応した地域を調べると、妖怪の山を中心とした一帯でそうした現象が起こっていたの……つまり電波の発生源は妖怪の山にあると思うのよ」
 そう言うと紫は全てを見通すかのような妖しい笑みを浮かべていた。
 その笑みを見て、椛は背筋に寒気が走る。
 
 八雲紫が、昨日の事件を調べている……そして、自分は疑われているのだ。
 
 そこにどういう意図があるのかはわからないが、幻想郷の顔役の一人に目を付けられているのはあまり気持ちの良いものではない。仮に発覚すれば『あら、貴方があのキモイ映像の共犯者なの? 一体誰に断ってあんなことをしているのかしら。キモイ罪は×××××しても良いという、ゆかりん法に照らし合わせて、シチュー引き回しの上、獄門ね』などと、物騒な事を言われる可能性もある。

 それはいけない。
 だいたい『ゆかりん法』とは、いったい何なんだ。
 
 椛はしらを切る事にした。
「なるほどー、迷惑な河童もいるものですね」
「あら、やっぱり河童だったのね」

 椛の時間がとまった。
 
「……や、やだなぁ。一般論ですよ、一般論! あんな電波を飛ばせる電波塔なんて河童にしか作れないじゃないですか!」
「なるほど、電波塔なんて作っていたのね」
 
 もうだめぽ。

 頭を抱えて転がりたくなる衝動を椛は必死に抑え込む。
 そんな椛を紫は妖しい笑みと共に見下ろしていた。
 
 遠くで、ホーホケキョといううぐいすの鳴き声が聞こえてくる。
 ああ、巨大なうぐいすがやって来て、放射能火焔ですべてを薙ぎ払えばいいのに。
 あるいは、隕石が降ってきて、にとりの塔を破壊すれば良い、証拠が無くなれば問題ない。
 
 それで全部解決だ。

「どうしたの? ぼう、っとして」
 心が浪漫飛行していた椛を紫は現実に引き戻した。
「ナ、ナンデモナイデスヨ?」
 上ずった声で椛は答える。
「そうなの? とりあえず、これ返すわね。もう、落としちゃだめよ」
 そう言うと紫は真空管を椛に手渡した。
「ふぇ? ……は、はい!」
 てっきり問い詰められると思っていた椛は、拍子抜けしたような声を出して真空管を受け取る。
 これが自分の上司であれば、根掘り葉掘り問い詰めるのに、まるで詳しい話を聞か無いとは……これが大妖怪の余裕というものなのだろうか。
「あ、ありがとうございました! それじゃ、私はこれで!」
 気が変わらないうちに逃げよう、そう思って椛が真空管を持って飛び立とうとする。
 その瞬間に紫は椛の肩を、親しげに抱くと、
「ええ。それじゃあ、件の電波塔に行きましょうか」
 と、さも当たり前のように同行を宣言したのであった。
 
 
 
 出力が足りないのだ。
 エレキテルと霊力と、なんかエーテル的な統合によって河童の道具は起動する。
 テレビジョンを映すシステムも変わらない。映像の表示にはそれぞれのテレビジョンに溜まった霊力を使っているが、その映像をテレビジョンに送るためには多大なエネルギーが必要なのだ。
 眼の前にあるテスト用のテレビジョンに映像を表示させる。
 
 そこに映し出されるのは、白黒のカクカクと動くにとり。
 
「まるで足りない……」
 深く、にとりはため息を吐く。
 動く絵というものは静止画像に比べて、圧倒的に情報量が多い。
 そして情報量が多いという事は、それだけ電波に乗せる為のエネルギーが必要という事だ。
 
 強力な電波を発生させる必要がある。
 
 そうでなければ、幻想郷全土のテレビジョンに映像を映し出すことなど夢のまた夢だ。
「はぁ……」
 煮詰まっているにとりの耳に天狗の羽音が聞こえてくる。
 真空管は見つかっただろうか。
 それさえ、十分な数があれば完成するのだ。
「椛。真空管は……」
「楽しそうな事をやってるわね」
 突然、椛と共に現れた紫を見て、にとりは固まった。
 
 
 
 
 
 
「おーす、生きてるか香霖?」
 乾いた音を奏でる呼び鈴の音と共に香霖堂に入って来たのは、霧雨魔理沙だった。
「生きているよ、いきなりご挨拶だね」
「いやー、だってこの間は店が開いていなくて中に入ったら、突然倒れているんだからな。ありゃ驚いたぜ」
 そう言うと魔理沙は、霖之助のほっぺたをむにむにつねる。
「なんで、つねるんだ」
「生死の確認だ。心配させた罰でもあるがな」
 そう言って魔理沙は、にひひと笑うと売り物のテレビジョンの上に腰かけた。
「それは済まなかった」
 霖之助は魔理沙に謝る。
 起きた時、目に入った魔理沙の顔はこの世の終わりのような顔をしていた。
 あれほど心配させたのだから、これぐらいの罰は受けておくべきだろう。
「……しかし、あれはいったい何だったんだろうな」
 テレビジョンに映った妖しい影を思い出し、霖之助は腕組みをする。
「聞いた話じゃ、里でも見た奴はいるらしいな『怪奇ガラスに映るクネクネ』とか、文が記事にするって取材してたぜ」
「なるほど……ね」
 天井を見上げ、霖之助はため息を吐いた。
 
 怪異の遭遇者としては、真相を知りたい気持ちはあるが、知りたくもないという気持ちもある。
 
「……いや、関わりたくない。というところか」
 霖之助は小声で呟くと、再びため息を吐く。
 魔理沙をけしかけて調べさせてみようかとも思ったが、あの空虚な影と魔理沙を接触させたくはなかった。
 
 忘れよう、そう思い霖之助は頭を振る。 
「そういえば戸棚に桜餅が入っている、食べるかい?」
「おお、マジか!?」
 テレビジョンから降りて、魔理沙は奥に向かった。
 しばらくして台所から、カチャカチャとお茶を淹れる音がする。
「ふぅ……」
 店に並んでいたテレビジョンの大半は、薄気味が悪いので倉庫にしまった。
 それでも、香霖堂でも数少ない売れ筋商品であるテレビジョンを店から切らすわけにはいかないので、特に人気のあるモデルである二、三台は店先に並んでいる
 あの時のテレビジョン――さっきまで魔理沙が腰かけていたそれも、店に並んだままだ。
 扉付きで足のあるタイプは、テレビジョンの中でも特に人気が高い逸品、気味が悪いという理由で撤去できるものではない。
 なにより、さっさと売れてくれれば霖之助も助かるし、懐も潤い良い事づくめだ。
 香霖堂の主人が、そんな都合の良いことを考えていると、
 
 
 ブゥンとテレビジョンが音を立てた。
 
「え?」
 霖之助は腰を浮かす。
 逃げるべきか、それとも魔理沙を呼ぶべきか、ほんの僅かな時間ではあるが霖之助は迷った。
 その僅かな時間にテレビジョンは、まるで霖之助を嘲笑うかのように光を放ちはじめる。
 そこに映し出される光景は――
 
 
 まったく色の無い世界でひとり立ちつくす、ノコギリを持った八雲紫の姿だった
 テレビジョンに映し出された光景は、白と黒のモノクロオムの世界。服の色も、髪の色すら判別できない画面の中で、紫はノコギリを持ったまま、お辞儀をすると椅子に座った。
 そして彼女はノコギリを股で挟み固定すると、どこからか取り出したバチでノコギリをリズミカルに叩く。
 その音は、
 
「オー、マー、エー、ハー、アー、ホー、カー」

 と聞こえる。
 
 その演奏を終えると、紫はモノクロオムの世界で満足げな笑みを浮かべて再度お辞儀をし、テレビジョンはブツンと音を立てて映像を消した。
 
 
「おーい、香霖。お茶がはいった……ってどした?」
 台所から帰って来た魔理沙が見たものは、真っ白になって呆然としている霖之助の姿だった。
 
 
 
 
 
「凄い評判悪いです」
「そうなの?」
 射命丸文の報告を受けた紫は、目を白黒させた。
「意味が分からないと里でも首をひねるもの多数です」
「少しばかり高度過ぎたかしら……」
 それを聞いて紫は腕組みをして考え込む。
 その表情は真剣そのものだ。
「確かに、あれは少々アクロバティックだったかも知れませんね」
 思い悩む紫に射命丸は、適当に相槌を打った。
 そんな天狗とスキマに近づく影が一つ。

 局長と書かれた腕章をした河童のにとりであった。

「あのー、良いですか?」
 にとりは、首をかしげていた紫に声をかける。
「あら、なにかしら」
「さきほどの放送で真空管が割れてしまったので、補充の方をお願いしたいのですが……」
 頭を下げつつ、にとりは紫に頼み込んだ。
 
 電波塔の出力不足に悩んでいたあの日、にとりの元に現れた紫はこう言った。
「真空管が欲しいか? 真空管が欲しいのなら……くれてやる!!」
 突然現れたハイテンションな妖怪の賢者に、にとりは驚いたがくれるなら貰わない理由は無い。
 貰った沢山の真空管によってにとりの電波塔の出力はうなぎ上り、幻想郷の主要地域をカバー出来る大電波網はついに完成し、にとりはなんか満足した。
 
「で、にとりは何を幻想郷に放送したいのかしら?」
 大電波網の完成後、紫に電波塔を立てた動機と用途を聞かれてにとりは戸惑った。
 電波塔は造りたいから、河童の内で誰もやった事がないから造ったのだ。
 
 造った後のことなんて、知ったこっちゃなかった。
 
 その上、放送内容なんて何も考えてもいない。
 にとりが言葉に詰まっていると、紫はある提案をした。
「なるほど……それじゃあ、放送局を作ってみたらどうかしら?」
 放送局、それは電波を放送する組織の事だ。
 どうやら幻想郷の賢者は、電波仕事を河童にやらせてみようと考えているらしい。
「なるほど、それじゃあ紫様が……」
 放送局をまとめられるのですね、とにとりが言おうとした瞬間、
「いえいえ、にとりが放送局長になるのよ」
 と紫は告げた。
 自分で作った電波塔だから、自分で責任を持って運営しろという事らしい。
 
 勘弁してください。
 
 上下関係というものが嫌いな河童はそう思ったが、ただの河童が幻想郷の顔役に逆らえる理由もなく、にとりは放送局長に就任することになった。
 こうしてスタートしたにとりの放送局のメンバーは、局長兼電波塔責任者のにとり、面白そうと加わったカメラマンの射命丸文、渋々協力することになったADの犬走椛の三人。
 最もスタートしたと言っても、テレビ局の経験など誰もいない。なにも思いつかず困った三人は、外の世界の定番という紫の言葉を信じてミュージックソー(ノコギリによる演奏)の番組を放送したのである。
 
「テルミンの方が、受けが良いかしら?」
「まあ、音楽はしょせん好き嫌いが出ますからね」
 射命丸と紫が議論をする中、にとりは一人で黙々と電波塔の調整をしている。
 その顔は、
「はぁ……」
 どこか、つまらなそうだった。
 
 
 
 喧々諤々の議論の後、放送局は鴉天狗の知識を生かし、報道番組をメインコンテンツとする事で決着した。
 しかし報道番組といったところで、平和な幻想郷で起こる事件など弾幕ごっこぐらいしかない。
 放送局はいつしか弾幕番組を流す放送局に変わっていた。
 元々スペルカード戦は、変化の少ない幻想郷での貴重な娯楽として人気がある。
 おかげで、にとりのテレビ局は好評を持って受け入れられた。
 
 しかし、ここで一つの問題が噴出する。
 
「白黒だと、私の真紅の弾幕が映えないじゃない!」
 紅魔館の悪魔はテレビジョンに映った姿を見て、不満を漏らす。
「そうねぇ、弾幕って色も重要だし」
 白玉楼の姫君は、少し困ったような顔で笑っている。
「ブリリアントドラゴンバレッタが……黒い」
 永遠亭の姫は、少し涙目になって呟く。
「やっぱり、この御柱が白黒ってのはどうよ」
 妖怪の山に住みついた神は、腕組みをして意見する。
 
 幻想郷の実力者の方々が言うところによると、白黒だと弾幕が映えないよ、ということらしい。
 
「確かに映えないわね」
 紫からもダメ出しが入った。
 確かに弾幕勝負は『美しさ』も重要視される。色が無くては弾幕の美も十分に発揮されないだろう。
「つまり総天然色にしろと」
「そこまで無茶は言えないわ。白黒だけでも大変だったのに、さらにカラーだなんて」
 そう言うと紫は「仕方がないわ」と肩をすくめて見せる。
 
 外の世界でテレビジョンが白黒からカラーに変わるのは、非常に多くのエネルギーを要した大事業だったのだ。
 それが成し遂げられたのは、歴史的なイベントを総天然色で見たいという、人々の強烈なエネルギーあってこそ。
 この大事業をにとり一人に押しつける事は出来ない。
「とりあえず弾幕だけじゃなく、白黒でも受けそうなコンテンツを……って、どうしたの?」

 局長の河城にとりは顔を伏せて震えていた。
 
「にとり?」
 もしかして河童のプライドを傷つけてしまっただろうか、そう思った紫はフォローをしようとする。
 そして、うつむく河童の瞳を覗き見て、紫は息を飲む。
 
 にとりの瞳は燃えていた。
 
 技術屋というのは、常に革新を求める生き物だ。
 そこに改良できるものがある限り、そこに新しい需要がある限り、開発を続ける。それが技術屋だ。
 生み出した電波塔に愛着が無いわけではない。
 しかし、エッジランナーの魂は常に最先端を走れとにとりに要求する。
 
 テレビジョンの総天然色化?
 
 それはとても困難であり、そして困難であるがゆえに超妖怪弾頭は熱く燃え上がっていた。
「良いでしょう、一週間待ってください。一週間でこの電波塔を総天然色放送に耐えられるようにして見せますよ」
 不敵な笑みを浮かべるとにとりは踵を翻した。
 
 
 

 
 永遠亭の夜は長い。
 それはきっと、追放された月を眺めている時間が長いからだ。
 決して、自堕落にも夜更かしが常習化しているわけではない。
 そのため兎達を統率している鈴仙・優曇華院・イナバの夜も遅い。
「うー、眠い……」
 永遠亭は割と広いので締めなくてはならない雨戸は多く、鈴仙は欠伸を噛み殺して長い廊下の戸締りをしていた。
「……ん?」
 雨戸を引き出そうと外に半身出したところで、鈴仙は眉をひそめる。
 月の道具が収められている宝物殿、そこから明かりが漏れていた。
 月都万象展に出展した品々が収められている宝物殿、そこに明かりが灯っている事は明らかにおかしい。
「曲者!」
 鈴仙は懐から、呼子笛を取り出すとそれを吹き鳴らした。
 
「……見つかったか!」
 光学迷彩で姿を隠しているにとりは舌打ちをした。
 目当てのものは、すでに確保している……しかし、それに光学迷彩をかける時間はにとりに残されていない。
 危険でも、このまま逃げるしかない。
「ええい、ままよ!」
 適当な神に祈りを捧げ、にとりは宝物殿から飛び出した。
 
 
「な、何なの!」
 永遠亭に忍び込んだ曲者を捕らえようと集まった兎達は、そのあまりに怪しい曲者を見て動きが止まった。
 
 空中に浮く、巨大なパラボラアンテナ。
 
 それは、月面探査船に取り付けられていた月と地球の交信に使われていたアンテナだ。
 月面探査船のパラボラは、ヒョコヒョコと動きながら兎達の間をすり抜けて竹林に向かおうとしている。
「ま、待ちなさい!」
 鈴仙がようやく我に返り、続いて他の兎達も動き出す。
 空飛ぶパラボラアンテナを捕らえようと殺到する兎、しかし、にとりはむざむざ捕まる気など無い。
 背中のリュックから伸びるマジックハンドで竹を掴み、自分を引き寄せて一気に脱出する。
「追いかけるわよ!」
 鈴仙が兎達を率いて、パラボラアンテナを追いかけようと駆けた。
 しかし、
「ぷぎゃ!」
 鈴仙は因幡てゐに足を引っ掛けられて転んでしまう。
「すなまいねー。ちょいとアンンテナ借りていくよー!」
 どこかの魔法の森に住む魔法使いのような台詞を吐くと、姿を消した河童はパラボラアンテナと共に竹林の中に消えていった。
「なにするのよ!」
「いや、すまんね。足が長くて」
 鈴仙が文句を言うと、白い兎はしれっとした顔で返事した。
 思わず「あんたの足は短いじゃない!」と、口走りそうになるが、ここでてゐと口論をしている時間は無い。
「ふふふ、この竹林で私から逃れられると思わない、ってきゃあああッ!!」
 口上を述べて竹林の波長を操作しようとした瞬間、鈴仙は悲鳴を上げた。
 てゐが、鈴仙のスカートを思いっきり捲り上げていたからだ
「白……このパンツは紛れもなく白!」
 てゐが感慨深そうに呟く。
 その眼尻にはきらりと涙すら浮かんでいた。
「なにやってるんだアンタは!」
 鈴仙の突っ込みでてゐは空を飛んだ。
 
 てゐが空を飛んでいる中、にとりはパラボラアンテナを持って竹林から脱出することに成功した。
 
 
 
 
 
 
 準備は万端だ。

「良いカンジじゃないか」
 足止めをしてくれた白兎が様子も見にきた。
「すまんね、おかげで助かった」
 礼を言うと、頭に巨大なタンコブを作った白兎は「貸し一つだ」と言った。
 これで幻想郷でも指折りの性悪兎に借りを作ったわけか、怖い怖い。

「月面着陸船のパラボラとは考えたわね」
 発案者のスキマ妖怪が現れる。
「ええ、これなら総天然色にするだけの出力は十分にあります」
 そう言って胸を張っていると、スキマ妖怪は頭を撫でてくれた。
 偉大な妖怪に褒められるのは、なんか嬉しかった。

「どうですか?」
 カメラ担当の鴉天狗も来た。
「良い感じです。カメラをお願いします」
 カラーのカメラを渡すと鴉天狗は「相変わらず重いですね」と愚痴る。
 貴方が死んでもカメラは死守してください、と言うと鴉天狗は笑って「分かった」と頷いてくれた。
 
「えらいもんだね」
「たいしたものだろう?」
 椛に私は胸を張って見せた。
 電波塔は改良の結果、頂点にパラボラが据え付けてある。
 このアンテナが幻想郷に総天然色映像を届けるのだ。
 
 
 
 そして河童は、外の世界の技術屋に敬意を捧げる。
 テレビジョンを作った者が、最初にカラーテレビに対して下位互換を保っていなければ、こうも簡単に幻想郷のテレビ放送を総天然色に切り替える事は出来なかっただろう。
 彼らは、外の世界で総天然色放送をするに際し、カラーテレビでも白黒の放送を受信でき、白黒テレビでもカラーの放送を受信できるように設計していた。
 この相互互換のおかげで、にとりの大雑把なテレビジョン総天然色化計画は容易く達成されたのだ。
 
「それじゃあ、はじめようか」
 その言葉によって、テレビ局は動きはじめた。

 
 
「それで、総天然色の弾幕実況をやるとして誰が弾幕勝負をするの?」
 そう言って紫は周囲を見回した。
「私はカメラ担当ですので」
 紫を除く中で、最も強力な妖怪である射命丸は首を振った。
「いや、私は整備とか調整をするし」
 次に強いであろうにとりも首を振る。
「えーと……私は中継機材を背負うので……てゐ?」
 白狼天狗の椛は白兎を見る。
 つまり、できる弾幕勝負は、紫VSてゐだけだ。
「流石にそれは役不足じゃないかねぇ?」
 間違った役不足の使い方をしながら、てゐは疑問を呈す。
 あるいは白兎の性格を考えると、本気でそう思っているかもしれない。
「うーん、藍を呼びましょうか」
「それって、なんて自演ですか?」
「やばい……お腹が空いて力が出ない」
「とりあえず乾パンあげるから、黙って食え」
 動いた瞬間にテレビ局は、身動きが取れなくなっている。
 
 紫の弾幕にに釣り合うとなると、誰が適当だろうか。
 
「まあ、適当にかく拌しましょうか」
 かく乱ではなく『かく拌』と紫は言う。
 そんな不穏当な発言と共に、八雲紫はカメラマンの射命丸文を伴って山の麓に向けて飛び立った。
「ま、待って下さいよ」
 飛び立つ二人の後を、中継機材を背負った犬山椛が必死に追いかけ、河城にとりと因幡てゐは一行を手を振って見送る
 そんな彼女たちの上空を、地獄鴉が呑気に飛んでいた。
 
 
 
 
「よお、香霖」
「やあ、魔理沙」
 カランカランという呼び鈴の音と共に、魔理沙は香霖堂にまたやって来た。
「ようやく、色が戻ったみたいだな。真っ白になってたのを見つけた時は、何事かと思ったぜ」
 そう言って魔理沙は、いつものように商品に腰掛ける。
 腰掛ける商品は、この間と同じ観音開きの扉が付いたテレビジョンだ。
「……まあ、なんとかね」
 眼鏡を押し上げながら、霖之助は気恥ずかしそうに答えた。
 このごろ何度となく魔理沙に介抱されたおかげで、なんとなく頭が上がらない……最も、最初から頭が上がらないという説もあるが。
「しかし、スペルカード戦の実況だっけ? 紫も妙なことするな」
 スペルカードの放送は不定期に行われている。
 不定期なおかげで、魔理沙はその放送を見たことが無い。
「……うむ、何度か見てみたが悪いものじゃなかったよ。ただ映像に色が無いからね、実際に見る弾幕に比べるとだいぶ見劣りする」 それを聞いて魔理沙は「そりゃそうだ」と、同意を送った。
 色は美しさも重要視されるスペルカード戦において、極めて重要な要素だ。
 例えば、色彩豊かで知られる紅美鈴の弾幕がモノクロオムとなったら、どうなるだろうか。
 
 虹符「彩虹の風鈴」は、色を欠いても美しいと言えるのか。
 
「ま、チルノあたりの弾幕なら、大して変わらないだろうけどな」
 そんな魔理沙の物言いに霖之助は苦笑いをする。
 確かに、氷精の弾幕は基本的に白いので、モノクロオムの世界でも変わりはしないだろう。
「まあ、それは置いておいて……台所の戸棚に羊羹があったはずだ、お茶にしないか?」
 そう霖之助が提案すると魔理沙は、
「おおー羊羹か! それじゃあ、ちょいと茶を淹れてくるぜ!」
 と言って台所に消えていった。
「そのうち羊羹だけではなく、ちゃんと礼をしなくてはなぁ……って、あれ?」
 台所に消えた魔理沙を見送ったところで霖之助は声を上げる。
 
 強力な既視感が霖之助を襲う。
 
 ブウンと音を立てて、テレビジョンに光が点る。
「……またか」
 疲れたような溜息を霖之助は吐く。
 最初はまるで意味が分からず、二度目はあまりに意味不明でショックを受けたが、何度も見ていれば耐性も付く。

 なにより、今まではテレビジョンをめぐる怪異は完全に正体不明であった。
 正体の分からないものを人は不安に思う。
 対処のしようがないから、意図が読めないからだ。
 しかし、今はテレビジョンを巡る現象に八雲紫が関わっていると霖之助は知っているし、放送内容も弾幕の実況と害も無い。
 あの意図不明の妖怪少女がなにを考えているのかなど理解できないが、それでも悪意は無いだろう。
 そう考えれば怖がる理由は何もなかった。
「うん? 何だ……」
 しかし、テレビジョンに映し出された光景を見て、霖之助は言葉を失う。
 
 
 広がるのは眼下に広がる岩山にそこを流れる凄まじい瀑布と滝の轟音。
 
 天高く飛ぶ鳥たち、木々でさえずる小鳥たち、そして遠吠えをする狼たち。

 緑の木々や花々に果てしなく青い空、テレビジョンに映し出された光景は、今までのぼやけた白黒の映像ではない。
 まさに天然自然の色がそのままにそこにあった。

「テレビに、色が付いた……」

 霖之助は惚けたように呟いた。

 
 
 画面が一気に加速する。
 
 映し出されたのは、悪魔の住む館、紅魔館。
 霧の湖に浮かんだその上空に、八雲紫が妖しげな笑みと共に浮かんでいた。
「こ、ここから先は立ち入り禁止です!」
 紅魔館の門番、紅美鈴が紫の前に立ちふさがる。
「ええ、分かっているわ。だから来たのよ」
 そんな美鈴を見て、紫は童女の如き笑みを浮かべていた。
 
 美鈴の周囲の空間が歪み、そこから現れた『何か』が全てを切り刻む。
 
「なんとぉー!!」
 中国雑技団もかくやという柔軟さで、美鈴は空間を切り刻む『なにか』を避ける。
「良い動きね、楽しめそうだわ!」
 そう言って紫は手当たり次第に弾幕をまき散らす。
「なんか、面白そうなことしてる!」
 火事と喧嘩は江戸の華なら異変と弾幕は幻想郷の華、始まった紫と美鈴の弾幕勝負の賑やかさに惹かれ、妖精たちもやって来る。
 
 画面の中で展開される色取りどりの弾幕を霖之助は、じっと見ていた。
 
 遠くからスペルカード戦は何度も見た。
 モノクロオムのテレビジョンで見た至近距離のスペルカード戦は、色こそないが迫力があった。
 
 しかし、霖之助の前には、まるで間近で見ているようにスペルカード戦が展開されている。
 その彼女たちが見ていた風景を、鮮やかなる弾幕を見て霖之助はため息を漏らす。
「助勢するわ!」
 紅魔館のメイド長も紫に挑む。
 妖精達に紅魔館の門番とメイド長、それに八雲紫に彼女の式神の八雲藍の入り乱れた弾幕がテレビジョンの画面を七色に染め上げる。
 紫の赤と青の閃光が紅魔館の上空を焼く、藍は飛び回り空に黄色い軌跡を残す。咲夜の銀のナイフは突如として現れ、美鈴の多色の弾幕は空を鮮やかにし、妖精たちは好き勝手に弾幕をまき散らした。
「美しい……」
 霖之助は、画面に見入って呟いていた。
 弾幕とは、こんなにも色彩豊かで美しいのもだったのだろうか。
 テレビジョンから見える『眼の前で炸裂する極彩色の閃光』は、あまりにも美しかった。
 
「愉快なことをしてるじゃない!」

 また一人、弾幕に惹かれて何者かが現れる。
 それは地霊殿から来た地獄鴉、霊鳥路空だ。
 
 空は、その右手を紫達に向け――テレビジョンの画面から凄まじい閃光が溢れた。



 その閃光に目を灼かれ、霖之助は悲鳴を上げる。



「目がぁ…… 目がぁー!!」

「どうしたんだ、香霖!」
 霖之助の悲鳴を聞いた魔理沙が戻ってくる。
 しかし、霖之助は魔理沙に応える事は出来ず、目を押さえたまま転げ回っていた。
 そんな二人を、テレビジョンから流れる核の閃光が怪しく照らしている。
「香霖−! 香霖ー!!」
「うわああああ!! 目がぁぁぁッ!!!」

 こうして、この『太陽を直視するとヤバイよね事件』によって、幻想郷のテレビライフは幕を開けた瞬間に終わったのであった。
 
 
 どっとはらい。
テレビを見る時は、部屋を明るくして離れて見てね!
白夜
http://derumonndo.blog50.fc2.com/
作品情報
作品集:
最新
投稿日時:
2009/05/09 14:02:19
更新日時:
2009/05/09 14:02:19
評価:
26/27
POINT:
150
Rate:
1.30
1. 6 リペヤー ■2009/05/13 08:10:02
良いスピード感のあるお話でした。面白かったです。
>ジャムお○じさん
隠れてねぇwwwww
2. 10 名前が無い程度の能力 ■2009/05/13 17:10:05
あれ?何がいけなかったんだ?
全ては上手くいってたのに

つか香霖はリアクション芸人最高だなw
3. 10 名前が無い程度の能力 ■2009/05/14 00:08:24
ムスカかよww

いや、これは素晴らしい。目茶面白かった。
4. 4 As ■2009/05/14 01:52:44
テレビ普及はまだ幻想郷には早かったのでしょうねー。
にしても香霖、あんたどこの大佐だよ。
5. 9 神鋼 ■2009/05/17 21:45:38
オチは……オチは予想してたハズなのに……霖之助のせいで笑いの許容量をオーバーしてしまいました。モウダメダー!!
6. 5 パレット ■2009/05/18 00:17:57
「にとりはなんか満足した」で吹いたw
7. 5 読人 ■2009/05/29 06:22:31
最後の空は少し強引に感じました。
激しい弾幕をテレビなんかで流したら、ポケ○ン事件どころじゃ済まなそうですね……
8. 5 らしう ■2009/05/31 00:44:22
なんという落ちwwwww
しかし、もうちょっとキレイに落ちて欲しかったとおもいます。。。
9. 8 名前が無い程度の能力 ■2009/05/31 05:07:50
こーりん乙wwww
10. 4 気の所為 ■2009/05/31 21:14:34
>「ウマクウツッテイルカー!!」
何事かと。冒頭の掴みは見事。
香霖が完全に被害者でしかねえ。
11. 6 佐藤厚志 ■2009/05/31 23:34:50
総天然色硝煙弾雨の中継に命を懸ける少女達の物語。
何故か肉団子二つを食べたくなるラストでしたね。ラピュタ的な意味で。
面白かったです。
12. 7 名前が無い程度の能力 ■2009/06/06 19:13:19
あ……あんまりだぁ〜!

やたらテンションの高いプロジェクトXに裏話が挟まったみたいで心地良かった。
だいぶ悪ノリしている気もするが。
ミュージックソーだけ元ネタ解らなかった。無念。
13. 9 三文字 ■2009/06/07 16:59:46
いかん、ゆかりんのミュージックソーを想像したらシュール過ぎてww
そして登場した時のゆかりんも微妙にうぜえw
というか、オチの予想がまったくできませんでした。うん、色々と俺の負けw
14. 6 ふじむらりゅう ■2009/06/11 22:52:40
 なんつーオチだ。
 最初から最後まで怒涛の展開でした。ところどころ、モノクロからカラーに変わったシーンとか、目を引く描写があったりして素敵でした。
 ゆっくり見ていってね!
15. 3 ぴぃ ■2009/06/12 03:13:52
ちょっと読みにくくて、途中で一度息切れしてしまいました。
ストーリーと文章のテンポ、この二つを大事にしてください。
16. 6 リコーダー ■2009/06/12 11:18:56
香霖がらみの繰り返しギャグが秀逸。
ミュージックソーwww
「BDBが……黒い」せつねえwww
と、個別のギャグは琴線に触れまくりだったのですが、全体として纏まりを欠いた感がが。
17. 4 八重結界 ■2009/06/12 16:53:19
紫のテンションが高くて、かなり愉快な人に。
そして霖之助に乙と言いたい。
18. 5 どうたく ■2009/06/12 17:01:19
 良い所
 テレビ+弾幕が白黒はスケールを小さくできるので、かなり書きやすくなる発想だと思いました。良いセンスです。
 文章についても安定していて読みやすかったと思います。
 後、ゆかりんアイドルは壮大にふかせていただきました。
 改善点
 この作品は惜しい!! と感じました。
 始まりが香霖よりも、かぐやとかの「ブリリアントドラゴンバレッタが……黒い」とか「スワローテイルバタフライが美しくないわ」という幽々子の台詞を持ってきた方が読者を引き込むのでは? と私は思いました。
 けれども、最後のオチはうまかったです。流石、お空ww
19. 4 moki ■2009/06/12 19:19:01
すっきりとまとまってて面白かったです。おやくそくのオチっていいですよね。
20. 3 木村圭 ■2009/06/12 21:28:37
テレビを通しても目が焼けるんじゃお空と弾幕ごっこした人が全員悲惨なことに……。
21. フリーレス ハバネロ ■2009/06/12 22:19:01
便利に使えるにとりを動かすにしても、余分がなくスムーズに思えた

カメラの感度がどのくらいかわからんけどね
22. 3 ハバネロ ■2009/06/12 22:20:38
便利に使えるにとりを使って、スムーズに転がしている印象
この手の話はあちこち巻き込んで大きくなりがちだし

カメラの感度がどの程度か知れんけどね
23. 4 時計屋 ■2009/06/12 22:22:51
 文章はテンポがよく、随所にパロディも配置されており、力を抜いて読めるSSでした。
 ただ、お話がテレビを映すというそれだけで終わってしまっているため、盛り上がりに欠けたところがありました。
 発想は良かったと思いますが、それをどう面白く展開していくか、という点の工夫が足りなかったように思えます。
24. 5 つくし ■2009/06/12 22:56:24
申し訳ありません、時間が差し迫っているため、採点のみにて、感想本文は後ほど改めて。
25. 7 K.M ■2009/06/12 23:22:50
にとりさんマジでフリーダム。それにしてもオチの急転直下っぷりは凄いw
26. 7 渦巻 ■2009/06/12 23:37:50
どこで見たような気もするのだが、ギャグのテンポが秀逸でした
加えてギャグで落ちをしっかり落としてもらえると嬉しいです
27. 5 つくね ■2009/06/12 23:46:11
オチがこれかYO! なんだか80年代のマガジンに連載されるジャンプ風味漫画の匂いがしました。
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