極彩色

作品集: 最新 投稿日時: 2009/05/09 14:07:20 更新日時: 2009/06/14 22:01:10 評価: 21/22 POINT: 74 Rate: 0.90


 辺り一面が焔に包まれていた。

 荒れ狂う火焔の息吹きが何重にも積み重なって、ごうごうと低く重い轟きを成す。時折屍肉が爆ぜ、肌を暖める熱風と共に強い臭いが漂ってくる。
 余人からしたら異様な場所なのだろう。
 しかしこれは自分にとっては当たり前。日常。光景。何らおかしいことはなく、今日も今日とてどこに出かけようかしらんと考えを巡らせるはずだった。



 けれども。

 違う。

 違う。

――赤

 違和感が全身を襲う。
 慣れ親しんだこの風景が、初めて来た全く知らない場所のように思えた。

――赤

 それどころか。
 感覚、意識、それら全てが警告を発していた。
 違う、と。

 視界を埋め尽くす、赤――赤、赤、赤。

 肉という支えを失った骨が地面に落ち、からんころんと音を立てた。
 こんな時でも滑稽な音がするなぁと頭のどこかでは思いつつも、己の置かれた状況が掴めずにただ呆然と立っているしかなかった。





 視線を下へと落としてみる。

 地面が遠かった。
 脚があった。
 服を着ていた。
 前脚――ではなく、そこには手があった。


 見慣れぬ手を顔の前まで持ち上げてみる。

 鋭く伸びた爪。
 すらっと伸びる指。
 つるっとして大きな掌。

 おそるおそる両の掌を合わせてみる。

 温かかった。
 知っているけれども知らない感触。
 血の通う肌と肌が触れ合う、その柔らかさ。

 その感触に驚いた。
 掌を離し、改めてまじまじと見つめる。

 意を決して、その掌で身体を撫で回す。
 腕。
 胸。
 腹。
 脚。
 布に触れる感触と、布が押し付けられる感触。

 はしたないかなと思いつつも、服の裾から手を差し入れ直に肌に触れてみる。

 恐る恐る指先で触れる。
 ふにっとしていた。
 指先では飽き足らず、掌全体を押し付ける。
 触れては離し。
 触れては離し。
 少しずつ場所を変え、ぺたぺたと全身を撫で回す。

 触れた感触と、触れられた感触。
 二つの肌が重なり合う所には、温かさがあった。



 一通り身体を撫で回し、満足を覚える。
 んー、と背を反り身体を大きく伸ばす。

 くらっと世界が揺れる。
 ああ、頭が重くなったし重心の位置が変わったんだなあと感慨にふける。
 よろけたことすら嬉しかった。



 そろそろと頭へ手を伸ばす。
 自慢の耳。
 その体毛とは違うさらさらとした感触がある。
 つぅっと指の間を通り抜け、重力に引かれて下へと流れる。
 もう一度指で掬って、顔の前へと持ってくる。

――赤

 髪の毛が生えていた。新たな身体の一部。
 それは焔の光を受けて艶やかに光っていた。
 周りで燃える焔と、同じ色。

――赤

 はっとして、周囲を見やる。





――赤





 視界を埋め尽くす、赤――。

 知っている世界。
 知らない世界。

 燃える。
 燃える。
 轟々と燃える。

 微かに残った生命の残滓を燃料として、
 溜まりに溜まった負の怨念を吐き出して、
 生在るものを同じ業火にいざ染めあげんとする、
 ――焔。

 生命と怨念の躍動がそこにあった。





 狂おしいほど、赤――赤、赤、赤。





 焔を知っている――そう、思ってた。


 かつて、彼女に言われた事がある。
 ――貴女は焔を知らないのね、と。

 反論した。
 言葉にして伝えることはできなかったが、自分の感じる世界を頭に思い浮かべる。否定を、焔についてを、考えるだけで充分であった。
 酸素を喰らおうとする音。
 じゅぅっと肉が融ける音。
 屍肉の燃える匂い。
 肌に伝わる熱。
 外から眺めているだけの人に、知らないなどと言われるのは哀しかった。

 声なき反論を受け止め、彼女は優しく頷いた。
 ――そうね。
 ――でもそれだけじゃないのよ。
 ――焔の織り成すアカい世界の美しさがわかるようになる日がくるといいわね。

 何を言っているのかわからなかった。
 わからなかったから頭の片隅に追いやられ、それ以上思い出すことはなかった。
 ほんの今まで。

 ようやく、彼女の言ったことが理解できていた。



 吸い込まれるように透き通った赤。
 目まぐるしく変わる赤の奔流。
 明るく。
 暗く。
 薄く。
 濃く。
 揺れ動く。
 瞬きする間に色を変える。

 こんなにも色鮮やかで、
 一瞬たりとも同じ色はなく、
 ゆらゆらと艶やかに踊り狂う、



 焔を、――初めて見た。



 気付かぬうちに、二つの目玉を大きく開いていた。
 自分の髪と同じ色になる瞬間を見逃さないように。

 ゆら、
 ゆら、
 と、千変万化の舞踏会は終わらない。



 美しい。
 ただ純粋にそう感じた。

 セカイってこんなにも色鮮やかで美しいんだ。










 あは。










(了)
 彼女たちの世界は私たちの世界とは異なるのでしょう。例え隣に座っていたとしても交じり合わない違う世界。きっと理解はできません。理解できないと思い至ることもなく根本的にズレているのでしょう。

 けれども、燃える焔を綺麗だなあと感じる心は一緒だったらいいなと思う。

◆宴の後で (09/06/14 22:00追記)
 拙作をご読了また感想をいただき、誠にありがとうございました。
 個別にレス返しをするのが筋なのでしょうが、貧弱な語彙が尽きてしまうのでまとめてコメントで失礼させて頂きます。

 当作が理解されるか不安ではありましたが、幾人か作品の意図を汲んでくださった方もおりとても嬉しいです。ここ暫くSSについて考えていた問題意識をそのままSSにしたら、こんな作品になってしまいました。私の筆力不足によって読み取るのに必要な情報が欠けているという部分もありますが、今の私では大幅に手直しすべき箇所というのは思い当たりません。これがそのまま全てです。
 筆者自らが後出しで意図を語るというのは格好良くないですが、少しだけ簡単に。
 ・"ヒトではない"彼女の"感じる"世界はどのようなものなのだろう
 ・その"所与の感性を所与のものとしつつ"、純粋な"一人称で語る"というのはどのようなことか

 こういった問題をぐるぐるぐるぐると考えてます(余談ですが、今回の採点・感想にもこの問題意識にかなり引き摺られてたりします)。ここでする話でもないので後日自サイトででも。
 ちなみに副題(というか最終稿のVer名)を明かすと「もういっそ日常パート削って理解されない詩っぽくしてみようVer」だったりしました。

※文字サイズ、行間の修正(何でタグ使うとちっちゃくなるんだろう。感想期間中の文字サイズがMegalithのデフォサイズと思って投稿しました。)
moki
http://starrish.web.fc2.com/
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投稿日時:
2009/05/09 14:07:20
更新日時:
2009/06/14 22:01:10
評価:
21/22
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74
Rate:
0.90
1. 4 リペヤー ■2009/05/13 11:47:12
一色ながら極彩色、これ如何に。
淡々と綴られるお燐の言葉が、静かな雰囲気をより引き立てていると思いました。
2. 4 名前が無い程度の能力 ■2009/05/13 17:11:39
鮮やかな情景が浮かびますね
3. 4 As ■2009/05/14 01:54:02
東方のキャラのなかで該当するのはお燐くらいだと思いますが、
妖獣化した獣はこんな感想を抱くのかもしれませんね。
4. 1 名前が無い程度の能力 ■2009/05/17 21:47:36
うーん、わからない。
5. 2 パレット ■2009/05/18 00:18:40
後書きを読んで、なるほどそういう読み方をするのかなと思えましたが。
本文だけからだと、ちょっとそういうのは感じ取れなかったかも。
6. 3 気の所為 ■2009/05/31 21:22:39
美しい美しい炎を作るために、もっと死体を混ぜましょう。死体が足りない。
7. 5 佐藤厚志 ■2009/05/31 23:47:50
ぽすともだん的、とでも言うのでしょうか。文学は良く判りませんが。
非常に詩的で、情念のようなものがひしひしと伝わってきました。
まるで一蘭のラーメンを必死に食べているときのような、情熱が湧いてくるSSでした。
8. 6 三文字 ■2009/06/07 11:16:14
そのズレた世界を見ることができるさとり妖怪って凄いよなぁ……なんて思ったり。
ところでおりんりん、一体どこを触ったのか詳しくおじさんに話してみようか。
9. 4 有文 ■2009/06/08 01:34:10
炎の美しさってのは、共通なんすかね。おりんりんランドは楽しいところですわな。
10. 3 ふじむらりゅう ■2009/06/11 22:55:02
 うーん、考えてみたけどはっきりと誰かはわかりませんでした。
 たぶん輝夜と妹紅だとは思うんですが。もしかしたらそう思わせておいて別の誰かかもしれないという可能性を捨て切れないでいるのも確かです。
11. フリーレス ぴぃ ■2009/06/12 03:15:36
私の読解力では、残念ながら、このお話が全く理解できませんでした。
従って、評価することができません。申し訳ありません。
12. 7 so ■2009/06/12 08:24:51
「視る」という枷を外したとき、目の前にはどのような光景が広がっているのか、そしてそこで何を思うのか。

色々、考えさせられました。
13. 6 リコーダー ■2009/06/12 11:19:47
燃えてる感じとサカってる感じと火照ってる感じが端的に言ってえろい。
恐らく、この作品の良さを一言で表すなら、えろい。
14. 5 名前が無い程度の能力 ■2009/06/12 16:52:46
詩のようでよかった。
15. 2 八重結界 ■2009/06/12 16:54:30
抽象的すぎて私にはよく分かりませんでした。
16. 4 どうたく ■2009/06/12 17:56:56
 この作品は、いっそ完全に「詩」にしてしまえば、それこそ味わい深い作品になると思います。
 詩的な表現がたくさんあるので、それをつなぎあわせれば不思議な「詩」ができると私は感じました。
17. 2 ハバネロ ■2009/06/12 22:22:03
点数のつけにくい話だ

妖怪が人の形になる、という明確な境はわからない。
きっとこっそり変化しているのだろうし
18. 1 時計屋 ■2009/06/12 22:26:55
 お空が核融合の力を得てさらに人型に変化したときの話、ってことで合っているのかな?
 すいません、私はこういった詩才に乏しい人間なので、この評価で。
19. 2 つくし ■2009/06/12 22:56:48
申し訳ありません、時間が差し迫っているため、採点のみにて、感想本文は後ほど改めて。
20. 3 K.M ■2009/06/12 23:23:39
闘牛の牛は赤い色を識別できていない、という話を思い出しました。複眼の昆虫が見る世界もきっと人間には想像を絶するんだろうなぁ……
21. 4 渦巻 ■2009/06/12 23:37:16
酷評になりますが、それらしい言葉を並べた、というように感じてしまいました
読み直すと優れた技術を感じるのだけど、展開とか配慮とかカタルシスとかテンポとかがほぼ無いせいだろうか
22. 2 つくね ■2009/06/12 23:46:39
まず登場人物がおおよそ見当は付くもののハッキリとしない。そして赤という表現を主張したいのは分かるもののクドイ。それらが特にマイナス点でした。
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