白狼天狗捕物帳

作品集: 最新 投稿日時: 2009/05/09 16:06:38 更新日時: 2009/05/09 16:06:38 評価: 24/26 POINT: 156 Rate: 1.45
プロローグ

 月も眠る新月の夜。星が瞬く快晴の夜空の下、犬走椛はただ只管に自分の職務を全うしていた。
 犬走椛は妖怪の山を護る自衛隊に属する白狼天狗である。師走の冷え込みの中、その寒さに耐えながら寝ずの番を請け負って山の麓を哨戒していた。
 椛と先輩の白狼天狗との二人での見張りだった。
 寒い晩ではあったのだが篝火の火は消されている。少人数での見張りの際にはそうするように決められているからだ。万が一大人数による襲撃を受けてしまうような場合、目印となる篝火を焚いていれば恰好の餌食となってしまい、当然ながらそこに構える人数が少なければ少ないほど危険度が大きい。常に外敵に注意を払ってきた山の知恵であった。
 だからといって今まで確実に侵入者を追い払ってきたかというわけでもなく、度々困った人間や妖怪、さらには神に至るまでの闖入を許してきたのである。そのような過去もあって椛は寝ずの番に一段と力を注いでいた。
 時折騒がしく鳴く烏の声にも動じず、目を力強く見開いている。

「目ぇ血走ってるよ、椛ぃ」

 先輩天狗の一言に椛はふと我に返った。言われてみれば最後に瞬きをしたのがいつだったか思い出せないほどだ。椛は自分の白目に紅い大木が根を張り枝を伸ばしているのを、それなりに感じた。
「それじゃあ血走椛になっちゃうよ」
 先輩天狗はそう言ってくすくすと笑った。椛も釣られて笑ったが、どうにもこうにも愛想笑いといった印象が抜けない。どうやら顔の筋肉が限界へと達しつつあるらしい。
 先輩天狗は場を和まそうというつもりだったのだが、逆効果だったらしいことを把握した。
「やっぱり二日続けて寝ずの番はきついんじゃない?もう上がっちゃっていいよ」
 先輩からの厚意であったが、椛もそれを簡単に受け入れるわけにはいかない。
「いえいえ、そんなわけにはいきません。どうせ明日は非番ですし、これくらいどうってことありませんよ」
「明日が非番だったら余計早く寝床に着いたほうがいいよ。体壊して折角の休みを潰しちゃったら勿体ないじゃん」
 椛はそれを聞いて困惑してしまった。この先輩天狗は普段ならこういったことは口にしない、むしろ後輩を厳しく指導するタイプなのである。ある意味異常事態とも言える。何か意図があるのではないかと勘繰ってしまう。
「ですがもう眼が冴えてしまって、眠れそうにないです。何故か体か高揚として……」
「紅葉として?椛だけに?」
「そっちのコウヨウじゃなくてですね、高く揚がるほうのコウヨウで。いえ、上手く言えないのですが、それで血が熱いというかなんというか……」
「発情期みたいな?」
「近いですね」
「近いんだ!普通はそこを否定するところなんだけどねぇ。なんだか今日の椛はおかしい」
 おかしいというのなら先輩だってそうだ、椛は口にはしないものの強く思った。
「ま、いいや。それじゃ見張りを再開しようか。無理はしないこと、日付が変わったらさっさと帰って休む、わかった?」
「はい」
 椛は返事をして見張りの仕事を再開する。しばらくしてそう遠くない場所から鐘の音が鳴り響いた。その荘厳な音は、山の麓に建つ館の大鐘楼から聞こえてくるものだ。
「はい、じゃあお疲れさん」
「お先に失礼します」
 日付が変わり、椛の役目は終わった。つまり先ほどの鐘の音は真夜中を告げる合図であったのだ。
 椛は先輩天狗の言いつけ通り定時帰宅を実行した。真冬と錯覚してしまいそうな寒さと風。少し前まで紅葉の色合いを楽しませてくれた木々たちも、その葉のほとんどを落としてしまっている。地に積る紅葉の葉を踏みしめながら椛は家路へと急ぐ。
 そのときであった。
 椛は一早くその異変に気付いた。
「あれは……」
 椛の視線の先、目の前の空には煌々と紅く灯る輝きがあった。真夜中の暗い空を照らすその色は、うねるように動き回り妖しく揺らめき、魔境へと誘う魔性を感じさせた。
 その魔性は椛の思考を停止させるには充分過ぎるほどだった。椛は放心のままに呟いた。

「紅い紅い、揺らめき――天に昇るような、うねり――」

 そして我に返り叫んだ。
「火事だ、これは火事だ!」
 椛は大急ぎで来た道を引き返していく。急に、常ならぬ表情で戻ってきた椛に、見張りに残っていた先輩天狗と、椛との入れ替わりに配置された――こちらは同期の――白狼天狗も何事かあっただろうかと椛の顔をまじまじと見つめる。
「一体どうしたの、椛。まずは落ち着いて」
「か、火事です。向こ、うで紅い炎が上、がってい、るのが見えま、した」
「何!」
 同期の天狗は頗る動揺した。最近は晴れが続き空気はひどく乾燥していて、山火事が起こりやすい状況であったので、火の用心にはとかく気を遣ってきたのだ。篝火を焚かないのには、火の不始末を未然に防ぐという意味合いも含まれていたくらいだ。皆が神経質になっていた中で起こった事件に、どう対応していいものか彼女たちの頭の中は白くなってしまった。白狼天狗なだけに。
「最後のは余計な気がしなくもないが。まあここは無視することとしよう。して犬走同志、火の手は何処より上がっているのか」
「現場に行ったわけではないので正確な位置はわかりませんが、あれはたしか滝の先の方角でした」
 同期に対しても敬語を使う椛であった。
 それを聞いて先輩天狗はようやく指示を出す。
「私と椛で現場に向かうから、あなたは河童の消防団を直ちに呼びに行きなさい」
「御意に」
「今は真夜中過ぎね……大丈夫、まだ皆起きているでしょう。さ、椛。早く火事の現場に向かいましょう」
 椛は返事をして駆け出す。河童の消防団が来る前に、やるだけのことはやっておかなければならない。まずは神仙の術で風向きを制御し、飛び火を防ぐ。その上で火を消すための水や砂の搬入を待つのである。しかし、その水が、それこそ捨てるほどに有り余っている滝の側で火事が起きるとは皮肉なことであり、だからこそ予想外だったのだ。
 椛と先輩天狗は道中言葉を交わすことはなかった。それでも互いの緊張はひしひしと伝わっていた。
 落葉樹の長い庇を抜けると、一気に視界が開けた。目の前には轟々と重低音を響かせる雄大な滝がその存在を誇示している。しかし上空から周りを見渡したものの椛の言う火事は見つけられなかった。
「どこが火事なの、椛?まさか嘘をついたってオチじゃあないでしょうね」
「違います!本当にこの辺りに火の手が上がっているのが見えたのです!天にも届こうかというほどの大火が……」
「ふうむ」
 先輩天狗は腕を組んで考え込む。椛は信頼の置ける部下で、嘘で他人を騙そうなどという性格では決してない。朔日ではあるものの今は卯月ではなく師走であるので、戯れに言ったのではないということは明白だ。

 そして何より――

「そんなはずは……たしかにここに……」
 当の本人が一番意外という表情をしているのだ。先輩天狗はそこを考慮してフォローを入れる。
「椛が見たって言うのなら、やっぱり見たのでしょうね。椛の『視る力』は私も、視力だけに一目置いているくらいだし。でも、今は何処にも火事が起きている様子はない」
 そして二人で周りの様子を窺う。何かが燃えていた跡や焦げている臭いがすることはない。白狼の、夜でも発揮される優れた視力、犬にも通ずるような鋭敏な嗅覚をもってしても発見することはできなかった。あるいは滝の水とその湿気がその証拠を消してしまったのかもしれない。
 しかし椛が言うように天に届くような大火であったのなら、何も痕跡を見つけられないというのはおかしな話だ。
 二人で黙りこくって考えていると、同期の天狗が河童たちを連れてやってきた。
「犬走同志、これは一体どうしたことか」
 同期の天狗は慌てて周りを見渡す。それに釣られるように河童たちも視線を泳がせる。そして、次第に椛へと視線が集まってゆく。
 椛はたどたどしい口調で答えた。
「どうやら、火事というのは、私の――」
 椛は逡巡する。
 僅かばかりでも積み上げた誇り、頂点と呼べるものはなくても更地よりはよっぽどマシなそれが自分の中で崩れてゆくのを感じる。

「私の見間違いだったようです」

 椛は『千里先まで見通す程度の能力』を持ち合わせている。だからこそ見張りの仕事を任されることが多いのだが、これでは形なしである。
 滝の裏で待機していた白狼天狗の部隊が、何事かとぞろぞろと集まってきた。
「ああ……」
 椛は嘆息した。迂闊だったというほかない。滝の裏には彼女たちが待機していたのだ。もし滝の近くで火事があったというのなら彼女たちのほうがより早く対応している、あるいはしていたはずだ。しかしそのような様子は見られない。
 やはり火事などはなかったのだろうか。
 その内に上司の大天狗がやってきた。天狗と河童が大勢で立ち往生している様子が気にかかったらしい。椛はそこで状況の説明を迫られることとなった。
 火事と思ったが見間違いらしい。それだけの簡単なことだったが、わざわざ河童を出張らせて、要らぬ手間で煩わせてしまったことは否定できない。
 大天狗は、譫言を口にして衆を惑わせた責任は重いとして、一週間を反省の期間とし仕事に携わらないことを椛に命じた。椛は頼りない返事でそれを受け入れた。





第一章



 鍵山雛は妖怪の山で起こっている異変を敏感に察していた。正しくは敏感であったのは彼女の周りの生物だったのだが、生物たちが感じた異変はその異常な行動に表れていた。雛はそれに気付いたのだった。
 ――思えば昨日の夜からおかしかった。雛はそう考える。
 昨晩は烏を始め鳥たちが異様なほどに鳴いていた。周りはそれほど気にしてはいなかったのだが雛はそこに異変を感じ取った。その不気味な響きは雛に厭が応にも不吉という二文字を連想させた。明日になれば治まるだろうと早めに寝床に就き――それでもなかなか寝付けなかったのだが、次第に眠りに落ちていった。
 そして一夜明けた今日である。
 異常は治まるどころか、昇った太陽の光で、文字通り白日の下に晒されたのだった。
 冬眠しているはずの動物が這い出て凍えていたり、鳥類は真っ直ぐ飛べずにふらふらとあさっての方向へ行ったり来たり。一つ一つを挙げていけば些細なこととも言えるかもしれないが、ほかにもそのような兆候が見られるとなると、それは最早怪異であった。
 雛は動物たちに厄がたまっているのではと考えた。
 雛は厄をその身にため込む能力を持ち、その能力を活かして人にたまった厄を集めて回っている。しかし動物たちの厄を集めて回るという経験はあまりなかった。動物に厄がたまるというケース自体が少ないからである。
 この場合の厄というのはフラストレーション――つまりはストレスと考えてもらって大差ない。そう考えれば、人間や知能を持った妖怪、妖獣に厄がたまり動物に厄がたまらない理由も、完全ではないにしろ理解が及ぶことと思う。
 もちろん普通の者には厄など見えるわけもなく、それを見ることも取り除くこと(実際には自分の周りにため込んでいる)もできるのは雛の能力あってこその話である。
 雛は悲劇の流し雛軍団を指揮し、山の動物の厄を集めるよう命じ、自らもそれに加わった。
 結果、動物の異常行動は治っていき、とりあえずの解決はなされたのである。

 しかし――

「しかし、すべてが解決したわけではないのですね」
 東風谷早苗は境内に置いた籠を眺めて言った。籠には蛇と蛙の死体がてんこ盛りになっていた。見る人が見れば発狂してしまうような光景である。
「ええ。残念だけど死んでしまった動物についてはどうにもならないわ。力になれなくてごめんなさい」
「いえ、雛さんの責任ではありません。雛さんのなさったことは立派です、どうかご自分を責めないよう」
 それを聞いて雛は少し気を落ち着かせる。
 雛たちは冬眠から目覚めた動物を元に戻すことには成功したのだが、それは恒温動物に限ってのことであった。変温動物はこの時分の寒さに耐え切れず息絶えてしまった。
 ここ、守矢神社の周りの蛇や蛙もその例外ではなかった。
 しばらくして神社から二つの影が歩み寄ってきた。山の神様の八坂神奈子と洩矢諏訪子である。二人はそれぞれ蛇と蛙を取り分け、それは無言で行われた。雛は思わずその雰囲気に呑まれてしまう。
 そして神奈子が「弔ってくる」と一言残して神社の本殿へと向かっていった。諏訪子はというと、何事か考える顔つきになり、神奈子とは逆に神社の外、麓のほうへと飛んで行った。雛は諏訪子の不審な行動が気になった。
「生物の異常行動……これは何を意味しているのかしら……」
 そう呟く雛は、しかしながら自ずと答えと思しきものに見当がついていた。少なくとも穏やかとは言えない答えである。雛はそれを思うと、居ても立ってもいられなくなり、早苗との別れの挨拶もそこに早々に去って行った。

「うーむ、生物の異常行動ね……」

 早苗もまた、残った謎について考えを巡らせていた。しばらく黙りこんで考えていたのだが、それまで静寂を保っていた境内に一つの音が響いた。境内の反対側から聞こえるピシッという音。将棋の駒を打つ音だ。
「こんなところで将棋だなんて、よっぽど暇なのね。私も他人のこと言えないけど」
 早苗はそこであることを思いついた。
今起きていることの調査をするのに協力を募るというのはどうだろう。調べる人数が少なくて困ることはあっても多くて困るということは少ない。相手はどうせ暇なのだし、山の妖怪たちはそういった刺激に飢えている。興味のタネとなることならば進んで食い付いてくるだろう。
「とりあえず、この対局が終わるまで待つことにしましょう」
 この現人神はその後、激しく待ち惚けを食らうことになる。
 このとき始まったのは将棋は将棋でも、大将棋だったのだ。



★ ☆

「――と、いうわけなのです。どう思いますかね?」

 椛は将棋盤を挟んで向かい合っている河童に、昨日からの奇妙な体験を辛辣に語った。河童は何やら考え込んだ表情を浮かべて将棋盤と椛の顔を交互に見つめている。その将棋盤は普通の将棋盤よりも一回り大きい十五×十五のマスの、大将棋用の盤である。椛はよく暇なときにはこうして河童と大将棋を打っていた。その河童の中でも特に親しくしているのが目の前の河城にとり――通称谷カッパのにとり――であった。
 にとりは尚も考えた表情を崩さない。果たして盤上の局面について考えているのか、それとも椛が語った話について考えているのか、椛には判り兼ねた。
 そして、開口一番。

「ふーん、それは大変そうだね。王手」

 にとりはピシッと竹が割れるときのような、鋭く、それでいて小気味よい音を響かせた。椛は不意を突かれ、慌てて陣形を確認する。
 椛は自分の話に気を取られていつの間にか陣形を崩していて、否、崩されていた。動かしてみたはいいものの攻め切れなかった駒が無駄に多く、その隙間を縫って河童が絶妙な攻めを仕掛けてきたのだ。それも王手太子取りの一手である。
 会心の一手であった。
「えげつないですね……」
「えげつないも何もないよ。雑談もいいけどちゃんと局面も把握しないとね。中途半端っていうのが一番いけない」
 河童は顎で盤を指した。次の手を打てということらしい。
「なかなか厳しいですね……」
 椛は太子の周りを固めることにし、王将はそのまま捨て駒にした。
大将棋では王将を取られても太子が残っていれば負けにはならない。その後は太子が王将の役目を果たすのである。実質、王将は二機あるようなものだ。しかし守りが薄く、そのもう一機の命も風前の灯であった。
 かといって、にとりの陣形はというと河童の甲羅を思わせる強固な守り。椛は完全に攻め手を欠いていた。
にとりの容赦のない攻めで、それから二十手もしない内に勝負は着いてしまう。
「負けました」
「うんうん、正直でよろしい」
 にとりは満足気な表情で頷く。
「それじゃ、これで」
「はい、それでは……って、ええっ!」
 椛は早々に帰る支度をする友人を慌てて引き留める。
「さっきの話についてにとりさんの見解を伺おうと思ったのですけど……」
「だから言ったじゃない。『それは大変そうだね』って」
「そういうわけではなくてですね……」
「私だって椛の力になってあげたいのは山々なんだけどねぇ。いかんせん仕事が入っていてね、そっちにも行かなくちゃあいけないのよ」
 あ、と椛は声を漏らす。椛の仕事が休み――正しくは謹慎中であるのだが――だからといって、にとりまでそうだというわけではないのだ。河童は空き時間に白狼天狗の暇潰しに付き合っていたというだけである。
「す、すみません。引き止めたりして」
「いやいや、いいのだよ。別に椛が悪いというわけじゃないよ」
 河童はじゃあねと一言、椛はそれを一礼して送り出す。
「次は絶対に勝ちますよ」
「おっ、威勢がいいねえ。ふふん、楽しみにしてるよ」
 そしてにとりはそそくさと去ってしまう。
一人残された椛は盤の前に座ったままでいた。

 ――にとりさんなら何かわかると思ったんだけどなあ。

 もう一度昨晩からの出来事を思い返してみる。やはりあのときは前日からの徹夜で少し気がおかしくなっていたのかもしれない。そして一番の問題は日付が変わったあと、今日の未明になってからだ。
 紅く揺らめく大火。
 しかしそれを見た者は今のところほかにいない。椛の頭に『色即是空、空即是色』の文字が浮かぶ。やはり自分の勘違い、あるいは幻想だったのだろうか。

「それはおかしいですね」

 椛はギョッとした。
 矢庭に話しかけてきたのは、東風谷早苗。妖怪の山にある守矢神社の風祝――神に仕える、つまりは巫女であった。
 ここは守矢神社の境内の一角である。したがって境内に巫女がいるのは当然のこと。場違いなのは、むしろ椛のほうだ。椛は一時的であるが失職中の身であるので、ほかの天狗の目があるところでは気まずいということでこの場所に来たのだった。
「い、いつの間にここに?」
「そうですね。少なくとも、椛さんが百五十六手目に失策をしたときには様子を窺っていましたよ。悪いとは思ったのですが話は聞かせて頂きました」
 思えば、神社の中で神を相手に隠し立てなどできるわけがない。椛はそこを失念していた。しかし椛はそこで引っ掛かりを感じた。
「ですが、何故百五十六手目だとわかったのですか?それはつまり最初から見ていたということでは」
「それは見なくともわかることですよ。ここではそれが筒抜けなのです」
 ぽかん、とする椛を見て早苗は優しく微笑み、解説を加える。
「私はお二人の駒を打つときの音を聞いていたのです。それを数えておけば、途中から局面を見ても次の手が何手目かということは一目、いえ一耳瞭然というわけです。お二人とも相当な手練ですね。打つ音の響きが素人とはまったく違います、遠くからでもよく聞こえるほどに。今度、打ち方をご教授願えませんか?」
 立て板に水という表現そのままの淀みのない話振りだった。
「なるほど!いつもは滝の裏で打っていたので、打つ音は滝に消されていたのですね。まさかそれほど音が響くとは思いませんでした」
「些細なことでも演出次第では悩むに足る謎となりうるのですよ。どんなに不思議な出来事でも、タネを明かせば何でもないことだった、ということは結構あるものです」
 そこで椛は、はっと気付く。
「ということは、私が抱えている謎も、そういうことなのでしょうか?」
 早苗は再び微笑む、がゆっくりと首を横に振る。椛はがっくりと肩を落とす。
「まだ気を落とすには早いですよ。今の時点は情報が少ないので、何とも言えないというだけです。ですがこれは――」
「これは?」
 椛は続きを促した。
「私が追っている謎と、何か関係があるのかもしれません」
「早苗さんが追っている謎?」
 して、その謎とは?
「それは――」



★ ★

 椛は早苗に案内され、守矢神社の中の座敷へ通された。座敷には炬燵が据えてあり、そこには神々しく暖を取る八坂神奈子がいた。全日本暖取り選手権を軽く八百連覇してしまいそうなほどの神々しさであった。
「まあ、そう委縮しないで座るといいわ」
 神奈子は所在なさ気にきょろきょろしている椛をとりあえず落ち着かせる。
「きょ、恐縮です」
「だから委縮も恐縮もしなくていいのよ。さあ、別に毒なんか入っていないから」
 神奈子はあり得ないほどに背筋を伸ばしている天狗に粥を差し出した。どうやらこの天狗は最近寝不足だということで、胃が弱っているだろうと消化にいい粥を勧めたのだ。時間的には昼餉の時分よりもずっと前であったが、それまで何も食べていない椛には大変ありがたかった。
「い、いただきます」
「いただきます、は私ではなく食物に対して言うことですよ」
 椛は恥ずかしさに頬を紅潮させながら、蓮華を手に取り粥を掬い、そして口の中へと運ぶ。
「それに入っている草は大層効果がある薬草でね。疲労もそれで取れるでしょう」
 椛は自分の肩の張りがなくなるのを感じた。全身の固さがなくなり、自然と姿勢もリラックスしたものへと変わっていく。

 ――流石は八坂様の作った粥だ。一口啜っただけでもこんなに変わってしまうとは。

 椛はその味と効果に心酔した。
 「美味しいでしょう」という神奈子の問いかけも聞こえなかったようで、ただひたすら粥を啜っている。
 その様子を見て早苗は神奈子に尋ねた。
「その草を粥に使ったのはこれが初めてですよね。一体どのような効果があるのですか?」
 早苗は、炬燵を時計と見立て神奈子を十二時の位置に据えたとして三時の位置にいた。椛は六時の位置。加えて言うなら神奈子は上座の位置、守矢神社においてそこは神奈子の定位置であった。
 神奈子はそれを聞いてくすくすと笑う。
「プラシーボ効果。信仰の成せる業よ」
 早苗はともかく椛にはその意味が理解できなかった。
「ごちそうさまでした!」
 椛は元気いっぱいに大声を出した。実に単純である。
 器に米粒一つ無いのを見て、神奈子は満足して笑う。
「さ、食事も済んだようだし話を進めていいんじゃない?」
 早苗は頷く。
先ほどは話を始めようとしたときに椛の腹が盛大に鳴って中断してしまったのだった。そこで神社の中で料理が振る舞われたというわけである。
「そうですね、ではお話ししましょう。私が追っている謎というのは、動物の異常行動です。身近で例を挙げると、神社の周りで起きた蛇や蛙の怪死――」
「怪死!」
 いきなり突拍子もない単語が出てきて椛は困惑する。
「はい。それも凍死なのです」
 凍死、その言葉を聞いて椛はある一つの顔を思い出した。山の麓にある湖に住んでいる氷の妖精、チルノの顔だ。
 チルノは度々妖怪の山に迷い込み、いくら注意してもまた迷い込んでしまう困った妖精だ。椛がよく読む文々。新聞にもよくチルノを扱った――むしろ嘲った、とも言える――記事が載っている。
 たしか、チルノは蛙を氷漬けにして遊ぶのを好んでいた。
「やはり氷精の悪戯だと思いますか?」
 椛の考えは早苗もすでに想定していたようだった。
「ですが、その蛇や蛙はどうやら自ら土の中から這い出してきて、外の寒さに触れて凍死したようなのです」
「それはおかしいですね。今は蛇も蛙も冬眠しているはず、何故わざわざ土から出てくるのですか?」
「だから怪死なのですよ」
 神奈子の言うことはもっともだ。
 蛇や蛙の異常な行動。だからこそ凍死の前に怪死というイメージが先行したのである。
「それだけでは留まらず、そのような異常行動は様々な動物にも見られているのです。その異常は雛さんと流し雛軍団の働きによって治められたのですが、依然原因がわかっていないのです」
「たしかにそれは大変なことですが、私の見た『紅い火』とどういう関係が……」
「私は思うのです。すべての謎はどこかで一つに繋がっていているのではないか、と」
 早苗はそこで一呼吸溜めて言った。
「そして、それを掴めない限りこの異変は解決できないでしょう」
「異変……」
 椛は早苗が放ったその言葉の意味を噛み締めていた。



★ ☆ ☆

「ネタが見つかってよかったでしょう。烏天狗さん?」
 神奈子の言葉に呼応するかのように早苗は立ち上がり、椛の横を通って障子を開ける。そこでは耳聡い烏天狗が縁側に座りながらメモを記していた。盗み聞きには違いないが隠れる気はまったくないらしく、堂々と盗み聞きをしていた。
 射命丸文、幻想郷の少女たちの活躍を扱う文々。新聞を刊行している烏天狗である。
「あやややや、やっぱりわかっていましたか」
「文さん!いつの間に?」
「私はネタのあるところへはいつでもどこでも駆けつけます。ですからここにいるのも当然の帰結なのですよ、椛さん」
 烏天狗は悪びれる様子もなく、尚も室内の会話から興味を逸らさない。
「ふむふむ、妖怪の山で起きている様々な異常現象。たしかに記事にするに値する事件ですね。早速記事にしたいのは山々なんですが――」
 文はそこで言葉を止め、少し悩むような顔を見せる。
「何か問題でもあるのですか?」
 椛の問いかけに頷き、
「はい。それが印刷機の調子がおかしくてですね、まだ新聞を刷れる状態ではないんです。今、にとりさんに修理をお願いしているんですが」
 ああ、と椛は納得した。にとりの言っていた仕事とはこのことだったのだろう。
「あとついでにカメラの調子も悪かったのでそのメンテナンスも頼んでいるんですよね」
「それは大変ですね」
 カメラが無ければ当然ながら写真は撮れない。その上印刷機が使えないとなれば、新聞記者にとっては大問題だ。早苗は心配気な表情を見せた。
「いえ、それだけならまだいいんですよ。ただ――」
 ただ?
 三人は次の言葉を待った。

「機械の不調が私の元だけでなく、妖怪の山中で起きているとしたらどうでしょう?」

 早苗は何やら思案するような表情になり、
「それを詳しく聞かせてもらえないでしょうか?」
 文は気取ったように自分の手帳――文花帖を開いてメモを眺め、掻い摘んで例を示した。天狗の頭脳があればメモは不必要なのだが、新聞記者という性質上手放せないものであった。
そこで文が示したのは、様々な機械に異常が生じ、中でも文の同業の機器は軒並みその被害に遭っているということだった。
「ということは――山の生物だけでなく、無生物にまで異常な兆候が見られると、そういうことですね」
 早苗は事情を呑み込んだ。
 たしかにそれは異変と呼ぶに遜色ない事態だ。椛は改めて山が対峙している問題を思う。
「それで文さんはどうするのですか?印刷機は使えないのですよね」
「椛さん、私が印刷機を使えないというだけで新聞の発行を諦める貧弱記者だと思ったら大間違いですよ。原始的な方法を厭わなければ新聞の発行は可能です」
「活版印刷でもするですか?」
 そして神奈子は、「大変ですねえ」と一言加える。
「とりあえず、現時点でまとまっている情報だけでも記事にして伝えないと!」
 文のジャーナリズム精神がふつふつと火を上げているようだ。
「そう思ったら居ても立ってもいられなくなりました。そういうわけで私はこれにて失礼します。何か新しい情報が入ったら連絡ください。それでは!」
 文は一度地を蹴り高く跳躍すると、その勢いのまま猛スピードで飛んで行った。大義を抱いた烏天狗の姿はすぐに見えなくなった。
「勝手に来て、勝手に帰っていったんじゃ世話ないわねえ」
 神奈子は呆れて言う。
「神奈子様、やはり私も調査に乗り出そうかと思うのですが」
 早苗の言葉に神奈子は目を細める。そして微笑を浮かべた。
「それはいい考えね。別にそれくらいのことはいちいち私を窺わずとも自ら進んでするといいわ。何にしろ、選択というものは最終的に自分で判断を下すもの。犬走椛――あなたはどういう選択をする?」
 急に振られた質問に椛はしどろもどろになりそうだったが、自分に喝を入れて持ち直した。
「私は!これでも妖怪の山を護る白狼天狗の端くれです。山を脅かす怪異が迫っているのならば、それに立ち向かわない道理はありません。不肖の身ではありますが、ささやかながらお力添えができるものと自負しております。私も早苗さんと共に、今山で起こっている異変を調べたいと思います」
 早苗と神奈子は感心したように椛を眺める。
「ふむ、そうと決まれば行動はすぐよ。今から二人で調査に向かいなさい」
「「はい」」
 椛と早苗の返事が重なる。
 二人は先ほど開けた障子から廊下へ出た。そこで早苗は振り返り、神奈子のほうを見やる。
「それでも――神奈子様はお行きにならないのですね」
 神奈子は憮然とした顔で答えた。
「当たり前よ。寒いから炬燵から出たくない」
 幻想郷の神はどこまでも現実的であった。



★ ☆ ★

 椛と早苗は空から滝を見下ろしていた。空からというにはもちろん二人は宙を飛んでいるということである。
 いくら幻想が体現する幻想郷とはいえ、空を飛べる人間というのは数えるほどしかいない。早苗はその希少な人間の一人であるのでこういった調査が可能なのである。
「この辺りで火が、それも大火が上がっていたということでしたね」
 二人は、まず椛が見た幻の火事について調べることにした。一連の異変の根源が同じと見たときに、早苗が追う生物の異常や、文が示した機械の異常とは趣が違っていたからだ。そこに謎の核心があるのでは、と早苗が提案したのだ。
「ええ。ですが、そう見えたというだけであって実際にあったのかどうかまではわかりませんが……」
「そうですが、今はまず、実際にあったものと仮定して考えましょう」
「考えるといっても、一体何を考えていいやら」
「どんな考えでもどんどん出していくべきです。相手が得体の知れぬ怪異である以上、並一通りの考え方では理解が及ばないかもしれません。柔軟でいて創造的な発想力。怪異に立ち向かうには必要になってきます」
「わかったような、わからないような……」
 とりあえず、周辺の状況をもう一度詳しく調べてみる。
 しかし発見当時に調べたときと同様に、火がそこに存在していたという痕跡を見つけることはできなかった。
椛は腕を組んで唸る。
「うーん、これでは考えようがないですね」
「そんなことはありませんよ。視点を変えれば、こういう見方もできます。

 ――燃えた痕跡がないということがヒントと成り得るのではないか――

 考えることを放棄してしまっては先には進めません。些細なことでも考えを出していきましょう」
 椛は感心して、自分より生きてきた時間が相当短い人間を見やる。
 ――自分はまだまだ精進が足りない。
 しかしそこで悲観することはなく、早苗の言葉を受け入れ素直に思考を巡らせた。
「ふむ、そうですね。もしここで大きな火が上がっていたとしたら草むらは焼け野原に、木々は炭になっていたはず――」
 ――いや、待てよ。
 椛はもう一度自分の言ったことを反芻した。そして一つの考えが浮かぶ。

「燃えたのが固体でなかったとしたらどうでしょう?」

 早苗の表情が変わる。
「それはどういう……」
 意味を問う早苗に、椛は自分の中で考えを整理しながら答えた。
 椛が知るところでは、物質の状態には「固体」と「液体」と「気体」の三つがある。
「燃えたのが固体であったなら、何かが焦げていたり炭になっていたり、そういう目に見える形で変化があるはずです。ですが燃えていたのが液体だったらどうですか?」
 椛は早苗の表情を窺う。早苗は静かに次の言葉を促した。
 そして椛は推理を展開させる。
「先ほども言ったように、固体が燃えれば何も痕跡が残らないということはないでしょう。植物が燃えれば炭が残りますし、ロウソクを燃やせば溶けたロウが皿に残っています。ですが液体が燃えたのであれば痕跡は残りません。ですから私が見た火事というのは何か液体が激しく燃えていた様子だったのではないかと考えたのです。しかしながら、天にも届きそうな程の大火を起こすとなればその燃料の量たるや膨大なものとなるのはわかりきっています。そんな燃料を一体どこから集めるというのでしょうか?そこまで考えてようやく一つの考えに至ったのです。それほどの量の燃料を確保し、尚且つ一ケ所に集められる者がいることを思い出したのです。そして、その者こそが私が見た火事を起こした張本人なのではないかという結論を下しました」
 燃料を集める――つまりは『萃める』ということ。
「犯人は伊吹萃香さん――」
 伊吹萃香――密と疎を操る程度の能力を持つ鬼である。そして萃香は酒が無尽蔵に湧き出る瓢箪、『伊吹瓢』を持っている。
「そして私が見た火事の正体は、酒です」



★ ★ ☆

「あのね、椛。一言だけ言っていいかな」

 側頭部にそれぞれ一本、計二本の角を携えた見た目幼い鬼、伊吹萃香は椛の持ってきた一升瓶の酒をラッパ飲みしながら言った。声をどうやって発しているかは謎である。
「はい」
「あんた馬鹿じゃないの?」
「ガーン」
 打ちひしがれた椛よりも今は酒のほうに興味があるらしく、瓶のパッケージをしげしげと眺めている。

『このお酒はもろみのときにプリズムリバー楽団の音楽を聞かせて育てた醸造酒です』

 一度口にすれば、しみじみと純粋に酒を楽しむ一人酒に最適な大人しい苦みの味、舌を穿ち刺激で精神を高揚させる酸味、いまいちパッとしない味の三種類の味を楽しむことができる新製品の酒だ。手ぶらで鬼の元へ来ようなどという、不届きな考えには至らなかったようだ。
「舌が騒がしくなるねぇ。美味いことは美味いけど、利き酒の難易度は低いかな。まあ、犯人扱いしたことについてはこれで許してあげるから。おっと、霊夢にも一杯分は残しておかないと」
 描写が遅れたが、ここは博麗神社の境内。博麗の巫女は彼女たちの話には興味がないようで離れたところで掃き掃除に勤しんでいる。山に起きている異変のことも伝えたのだが、「それは山に住んでる者が何とかしなきゃいけない問題なんじゃない?」と紅白の装束の巫女は調査に乗り出さない意向を示したのだった。
「本当に犯人ではないのですよね?」
「拘るねぇ、椛も。そんなんじゃあ白狼天拘になっちゃうよ」
「見た感じは誤魔化せそうですけどね。あと、一つ椛さんに代わって訂正したい箇所があるのですがよろしいですか?」
「うんにゃ、どうしたい?」
「椛さんは先ほど、液体が燃えたと言っていましたが、厳密に言うと液体は燃えません。アルコールや油などは液体が気化した気体が燃えるのです。話の途中で訂正をしてしまうと恥ずかしいだろうと思って黙っていたのですが」
「今訂正されても充分に恥ずかしいです」
「どうでもいいけど、穴だらけの論理だねぇ。それに大体、そんなに酒を萃めて燃やして何の得があるの?そんなに大量の酒を萃めたなら、燃やしたりしないで自分で一気に飲んじゃうよ。酒はちょっとした量を零したくらいじゃ気にならないけど、そこまで量が多いとさすがにもったいないし」
 だから違う、ということらしい。そう言われてしまえばそれまでだ。
 鬼は嘘を吐かないのだから。それ以上問い質すことに、意味はない。
「でも、早苗さんもいい考えだって推してくれたじゃないですか」
「それはそうですが、あくまでブレインストーミングですから。一つ一つの意見を細かく批評するよりも創造性のある意見をどんどん出していくことに意義があるのです。その意味でいい考えだということです」
「ブレインストーミング?何かのスペルかい?」
 使うとしたら七色の魔法使いが適役だろう。
「どうやら萃香さんは異変に絡んでいないようですし、ほかを当たったほうがいいですね」
「ま、私はこうして神社でのんびりしてるから。力が必要になったらいつでも言ってよ」
 もちろんお酒も忘れずに持って来てね、と萃香は結んだ。
 早苗は振り返り、掌を庇にして太陽を見る。太陽は低いながらも南中している――正午の時分だ。
「わかりました、早苗さん。では次はどこへ?」
「こうして皆に話を聞いて回るのも必要ですが、闇雲に回っていたら時間のロスをしてしまうかもしれません。まずは書物から今回のケースに似た事例を探して、ある程度の目星を付けて方針を固めるのが先決です」
 椛は頷いた。
 次の目的地は図書館、それも紅魔館の中の大図書館に決まった。
「初めからそうしていればここで恥を掻くこともなかったのではないでしょうか?」
「ブレインストーミングですから」
「それって理由になるのですかね」
 二人が紅魔館へ向かって飛び立つと、一つの影が二人の元へと接近してきた。その影には都合十一のとんがりがあった。
 二つの尖った耳に九の尻尾を持つ、九尾の狐の妖獣――八雲藍であった。
 藍は普段とは打って変わって、ひどく慌てた表情を見せていた。
「そ、そこの二人、橙を――私の式を見ませんでしたか?」
 どうやら自分の式神の行方が不明であるらしい。
「てっきり炬燵の中で寝ているものと思っていたのだけど、まさかいなくなっているなんて!ああ、どこかに匂引かされていたり迷子になっていたりなんかしたら大変!」
「においを……ひく?」
「かどわかされる、ですよ、椛さん。誘拐されてしまうという意味です」
 二人が橙を見なかったことを伝えると藍はがっかりとした表情を浮かべ、次へと向かおうとしていた。それを早苗が引き留める。
「待ってください、下手に動いて行き違いになるよりは家にいて帰りを待ってあげたほうがいいのでは?」
「でもそうしたら――」
「私に『探すこと』の専門家の知り合いがいます。私からその方に頼んでおきましょう。捜索はその方に任せて、藍さんは橙さんの帰りを待ってあげてください」
「そうしてくれるのはありがたいです!誠に申し訳ありませんが、この場はお言葉に甘えることとしましょう。この埋め合わせはいずれ必ず致します。お二人も橙に会ったら家に戻るよう伝えてください。では!」
 藍は妖怪の山のマヨヒガへ向かって飛んで行った。二人は藍を見送り、その様子をしばらく眺めていた。
「専門家に依頼、ですか。早苗さんも酷いことしますね」
「何が、どう、酷いのですか?」
「いえ。それは、今は言うことはできませんが」
「ですよね」
 早苗は意味有り気に微笑んだ。
 紅魔館への道すがら、早苗は先ほど聞いた迷子になった猫のことを思いながら口ずさんだ。

「いーぬーのーおまわりさん♪ そういえば椛さんは犬のおまわりさんと言えなくもないですね」

「犬じゃなくて白狼天狗です!」
「では狗のおまわりさん」
「それなら、ぎりぎり大丈夫ですけど」
 実に微妙な基準である。
「しかし、こう、歌を歌ってしまうと色々とまずいのではないですか?」
 権利的な意味で。
「大丈夫です。先の『いーぬーのーおまわりさん♪』は歌ったのではなくテンション高めにタイトルコールしただけですから」
「それはよかったです。山の怪異と権利の管理団体を同時に相手にするのはつらいものがありますからね」
「ええ、それを思うと博麗の神主の寛大さには頭が下がりませんね」
「そうですねー、って下がらないのですか!」
「そこだけカミました。神だけに!」
 早苗渾身の現人神ギャグである。
「現人神ギャグ――新ジャンルですね」
 そんな話をしていると紅魔館の門が目の前に現れた。
「着きましたね、椛さん。門番さんが壁に寄り掛かってお昼寝をしていますが、起こすだなんて野暮な真似はしないで、早く大図書館へと向かいましょうか」
 門を飛び越え、館の玄関の前に降り立つ。紅い洋館の大きな扉が開かれ、二人はその中に吸い込まれるように足を踏み入れたのだった。



★ ★ ★

「お待ちしておりましたわ」
 紅魔館を訪れた椛と早苗を待っていたのは、メイド長の十六夜咲夜であった。
「待っていたというと?」
 早苗の言葉を聞いて、咲夜は一枚の紙を取り出した。

「?」

 椛は一瞬何が起こったかわからなかった。
 ――紙はどこから出てきたのだろうか?虚空から現れたようにも見えたが。
 咲夜お得意の種なし手品であった。この手品は館の者には慣れられてしまったのだが、こうして部外者の驚く反応を見て技術を上げるモチベーションを確保しているのだった。
 ぽかんとする椛を置き去りに話は進められる。咲夜が持っていたのは今日配られた文々。新聞の号外であった。咲夜はそれを二人の眼前でひらひらと示した。
「ブン屋が先ほど来まして、そのときにお二人が調査をしていることを聞いたのです。そして調査のために大図書館を訪れるかもしれない、とも」
「なるほど」
 早苗と椛は納得した。そして咲夜が渡した号外を読む。
 その記事は射命丸文の癖のある丸文字で書かれていた。
 文と交流のある椛にとっても読みにくいものであった。
「可愛らしい文字ですね」
 外の世界から来た早苗にはその美的感覚が理解できたようだ。咲夜はその丸文字を読みながら言う。
「いつぞや誰かが言っていましたが、こうなると、ますます学級新聞の趣ですわね」
 手書きの新聞。印刷機の調子がおかしいとはいえ、ほかに方法がなかったわけではない。旧式の活版印刷機を使えなくもなかったのだが、活字を組むのが面倒だったため、文は手書きの原稿を刷ったのだった。ガリ版で。
「クラス対抗リレーの結果とか書いてありそうですね」
 早苗が素直な感想を述べた。
「立ち話も何ですから、早速大図書館へ案内致しましょう。ですがその前にお尋ねしたいのですが――」
 咲夜の眼が真剣味を帯びていた。椛はびくっと肩を上下し背筋を震わせる。その震えは尻尾まで伝わった。
「門番はしっかりと仕事をしていたでしょうか?」
 椛は正直に見たままのことを話した。それを聞くと咲夜は玄関の扉を開け、外を指差した。指は門の横に広がった壁、紅く塗られた壁の一点を示していた。
「あそこの壁に穴が開いているのが見えますか?」
 いきなり何を言うのだろう、椛はそう思いながらも頷いた。
「あの穴は向こう側まで貫通しているのです」
「ですがここに来るときにはそんな穴は見えませんでした」椛は言った。
「修理がまだなされていなくて、それでも見栄えを取り繕わないといけませんからね。ですから、穴の前に門番を立たせていたのです」
 そこで早苗は理解した。
 咲夜は先ほどと同じ要領でナイフを虚空から掴み取った。
 そして極めて瀟洒に振りかぶり、投擲した。遠距離ではあったが、狙いは寸分違わない。ナイフはきれいに穴に納まった。
「さあ、大図書館へと案内しましょう」
 咲夜はそそくさと振り返り歩を進める。椛はその後を追った。
 早苗はその場から動かず、咲夜の業に感心していた。
 そして、
「穴が狙い目というわけですね。参考になります」
 呟いてから、ようやく歩き始めたのだった。



★ ☆ ☆ ☆

「聖櫃な空間ですねぇ」
「椛さん、それを言うなら静謐です。聖櫃では箱になってしまいます」

 紅魔館の大図書館。その『大』という形容は伊達でなく、広大な室内には膨大な書物が見て取れる。所狭しと並んだ本棚に、さらに所狭しと詰め込まれた本。その紙の一枚一枚が音を吸い取っているかのように、空間は静けさを保っている。外とは打って変わって暗い室内には燈の明かりが温かく灯っている。
 その奥から二人に近付く影が二つ。図書館の主パチュリー・ノーレッジとその手伝いの小悪魔である。
「巨視的な視点ではあながち間違っているとは言い切れない。基本的に建物というのは箱と大差ないもの。ただ、人は歩く足と考える頭と働く手を持っているために空間を支配しようと考えるもので、自分が空間に支配されているなどという考えに至ることはない。しかるが故に建物が箱であるという考えにも至らない。自分が建物という箱に閉じ込められているモノという発想ができないのだから――」
「パチュリー様。『箱』がテーマのこんぺはとっくに終わっています」
「そう、知らなかったわ」
「箱に閉じ籠っているからですね」
「煩いわね、小悪魔。よく来たわね。あなたたちがこの静謐なる聖櫃を乱しに来たのでなければ歓迎する――」
「わあ、大将棋の本だー!」
 椛は大将棋の定跡の本を見つけ興奮していた。
「そこの白いの、話の腰を折らない!あと調べものがあったら小悪魔に言いなさい、目当ての本はすぐ見つかるだろうから。もちろん、騒がしくされても困るわ。喋るなとまでは言わないから、せめて話すときは小声で頼むわね」
「わかりました。一つ聞きたいのですが、ここでは本の貸し出しはなさっているのですか?」
 早苗はパチュリーに尋ねる。
「ええ、名前と本の題名を貸出記録に書きさえすればね。絶対に返してもらうことになるけど」
「それは普通のことなのでは?」
「普通じゃない普通の魔法使いがいるのよ」
「「なるほど」」
 早苗と椛は納得した。
「ではそれ以外の貸し出し記録については網羅されているわけですね?」
 それには小悪魔が答えた。
「少なくとも記録を付け始めてからは、ですね。でも勝手に持ち出された本も私が見つけ次第記録しています。黙って持って行く者は限られていますけど」
 小悪魔は溜息を一つ吐いた。広大な室内に膨大な蔵書。無くなった本を把握することが相当に大変な作業であることは想像に難くない。
「その記録をここに持って来てはくれませんか?」
「早苗さん、まだ本を借りると決まったわけではないですよ」
「一応、ですよ」
 早苗は小悪魔が持ってきた小冊子を受け取り、パラパラと捲り始める。
「知った名前が結構ありますね。あ、雛さんは大将棋のルールブックを借りていますね。いつかお手合わせしたいものです」
 椛はその記録にある名前のほとんどを知っていた。実際に顔を合わせたことのあるもの、新聞で名前だけ見たことがあるものも多い。
 そこで片側が白紙の、一番新しく書かれたページに目が留まる。ページが変わったばかりらしく、書いてある量も少ない。



 上白沢慧音 明月記

 秋静葉 紅葉スポット100選

 鍵山雛 大将棋ハンドブック・入門編〜easy〜

 河城にとり よくわかる!プラズマ

 霧雨魔理沙 図解・レーザー核融合

 稗田阿求 平家物語〜巻之二〜



「こうして見るとプライベートな一面を覗き見ているような気がしないでもないですね。そういった意味でも貴重な情報です」
 早苗はそこから何ページか遡り、そして閉じた。パチュリーと小悪魔は早苗たちが何を調べたいのかわかりかねているようだった。
「こんなものを見て何がわかるというのよ。そうそう、調査に来るとは聞いていたけど、調査の内容はまだ聞いてなかったわね。聞かせてもらってもいいかしら?」
「有識者の意見を仰ぐというのはいいことですね」
 椛は頷き、昨日からの奇妙な体験を話した。
 それを聞いて、パチュリーは一つ小悪魔に命じて一冊の本を持って来させた。
 見るからに古色蒼然たる装丁の本だった。
「これは鳥山石燕作の妖怪画集『今昔画図続百鬼』。よく知った妖怪もここに描かれているわ。土蜘蛛に橋姫に鬼に覚。あとは酒顛童子もそう」
 椛はそれを受け取り、丁寧にページを捲る。年代までは知らないが、どうやら古い本であるらしいので慎重に慎重を重ねていた。実は大図書館の本は魔法により、ある程度保護されているので、その心配は無用であったのだが。
 そして、椛はあるページで指の動きを止めた。
 そこに描かれていたのは波の上の船、その先の沖合に浮かぶ炎。
「どうやらそこまで辿り着いたようね。私はあなたが見た火事というのはね『不知火』だったのではないかと思うの」
 不知火――この今昔画図続百鬼では、海面上に現れる火の妖怪のことである。
 しかし椛はそこで疑問を抱いた。
「ですが不知火というのは、妖怪ではなく正しくは現象のことを言うのではないのですか?」
 幻想郷では外の世界ではすでに幻想となった妖怪や妖精が多く存在している。だからといって不思議な出来事がすべて妖怪や妖精の仕業かというと、そうではないのだ。
 科学的な原理もまた、幻想郷で通用するのだ。
「その通り。私はそちらの意味で言ったのよ」
 海面に浮かび、広がってゆく火。火。火。
 科学的な解析により、その正体は蜃気楼と目されている。
「蜃気楼のことは、知っているわね?」
 パチュリーの問いに椛は答える。
「はい。実際に見たこともあります。仕組みについては前に魔理沙さんが高説を垂れていたのを聞きました」
 白黒の魔法使い、霧雨魔理沙は光と熱の魔法を得意としている。当然そちらの方面の知識に強く、蜃気楼という光と熱の織りなす幻想についても例外ではなかったのである。
「光が屈折し、遠くのものが近くに見える。あるいはその逆もあるわね。あなたが見た火事は、発生したと見られる場所と違うところで起きた。話を聞く限りではそこより近くの場所ではなく遠くにある場所でしょうけど。そう考えれば、現場に着いたときに何かが燃えていた痕跡が見つからなかったこととも辻褄が合うでしょう」
「なるほど。逃げ水ならぬ逃げ火というわけですね」
 早苗が感心して言うとパチュリーは頷いた。
「そうね、そうとも言えるわ。だから火は滝よりも奥にある場所で上がっていたということになる。天にも届くような火が上がるような場所、心当たりはないかしら?」
 心当たり?
 そして、椛は一つの答えを出した。
「まさか……いや、そんなはずは……」
「大丈夫ですか、椛さん。顔が青いですよ。それでは青狼天狗になってしまいます」
「だって早苗さん、そんな――そんな大火が上がる場所なんて一ケ所しか考えられないじゃないですか!ああ、恐ろしい!」
 椛が出した答えは唯一にして最悪の答えだった。
「山の山頂ですよ。そんな大火が上がるとすれば、山の噴火以外に考えられないじゃないですか!」
 妖怪の山はかつて荒ぶる火山であった。沈静化した今でも依然として不尽の煙が上がっている。
 それもそのはず。その煙を出しているのはイワナガヒメという神様なのだから。イワナガヒメは永遠、不死を司る神様だ。故に、死火山になど、なるわけがないのである。
「それは穏やかじゃないわね」
 慌てふためく椛とは対称的にパチュリーは顔色一つ変えていない。というよりも、普段から顔色がよくないので相対的に変わらないというだけなのだが。
 そして表情を変えないままに言った。

「あなたが言う通りに山が噴火したとしましょう。噴火と言うからにはその火は上空へと昇っていくはずよね、それに伴って空気も熱せられることになる。熱せられた空気は上へ上へとたまっていく。それが続いていれば上空には暖かい空気が集まるでしょう。そしてそれとは逆に冷たい空気が集まる箇所があるわね。それは水場の近く、ここでは滝の付近がそれにあたるわ。それも冬の水場であるなら尚更冷えることでしょう。上空には暖かい空気が集まり、地上の水場には冷たい空気が集まり、そこには暖かい空気と冷たい空気の層が生まれる。蜃気楼が発生する条件に充分適っていたと見ても差し支えはないのではないかしら。もちろん、あなたが滝の上空にいたときに他に火が上がっている場所がなかったとすれば、そのときには噴火が治まっていたということになるのでしょうけど。
 そして忘れてはいけないのが火山と自身の関係よ。火山がもたらす被害というのは噴火によるものだけではない。火山の活動、つまりはマグマの移動により起こる火山性地震というのがその一つ。マグマが地表近くまで昇ってくるとそこにある水分が熱せられて水蒸気になりその体積を大いに増やす。その水蒸気による圧力に耐えなれなくなった岩盤が割れて地震が発生するの。ここまではわかるわね?
 そこで思い出すのがそこの緑が調べている動物の異常行動ね。ここまで言えばもうわかるでしょう。緑のが言った蛇や蛙の行動に代表される動物の異常行動は、天変地異の兆候として捉えられている。ここではそれは火山性地震のことではないかと考えられるわ。岩石は強い圧力を加えられると電磁波を発するの。火山性地震と普通の地震では発生のメカニズムは違っていても、岩に圧力を加え大なり小なり電磁波を発生させる点では同じ。そして生物はその電磁波を敏感に感じ取る。大災害の前に動物が異常行動を示したと記している例はいくつも本にあるわ。当然この図書館でもその例は確認できる。
 これなら、そこの白いのが見た『紅い火』という謎と、緑のが追っている『生物の異常行動』という謎の両方にも説明がつくでしょ。まあ、もしそうだったとしたなら私ができることもすべきこともないわね。あるいは、誰にもどうにもできない問題かもしれないけどね」

 長い台詞だったので、途中で三回むせていた。
 完璧すぎて裏がありそうなくらいの推理だった。
 震える椛をなだめつつ、早苗は早急に判断を下す。
「火山の噴火……そうなると妖怪の山だけでなく幻想郷全土に被害が及ぶかもしれません。こうしてはいられません。椛さん、今すぐ山頂へと向かいましょう」
 早苗は早くも身を翻して歩を進める。椛は力なく返事をして、早苗の後を追った。
 二人がいなくなり大図書館に再び静寂が訪れた。


★ ☆ ☆ ★

 早苗と椛が去った後、大図書館へ訪れた静寂は即座にお暇することになった。
 本棚の陰で黙って話を聞いていた上白沢慧音と稗田阿求が会話を始めたのだ。二人は先日借りた本を返しに来ていて、また新たに借りる本を物色していたのである。
「盗み聞きをしようという腹積もりはなかったのですが、聞こえてしまったものは仕方がないですよね」
 阿求の言葉に慧音は頷いた。阿求は質問を続ける。
「ですが、妖怪の山が噴火をするなんてそんなことが本当に起こり得るのでしょうか?」
 阿求が住まう人間の里では、妖怪の山から上がる煙は河童の工場から上がっているものだと考えられている。火山としての活動はとっくの昔に終わっているというのが里の見解である。当然災害に対する備えは充分ではなく、そのような災害が起こってしまったらどれほどの被害が出るか想像ができない。
 阿求は以前この大図書館で借りた外の世界の歴史小説のことを思い出した。伊太利の、火山の噴火で埋没した都市を舞台にした小説であった。阿求はその都市と幻想郷を重ね合わせて、恐ろしさに身震いをした。
「いつか言いましたが――いえ、阿求さんに言うのは初めてかもしれませんね――妖怪の山とは件の富士山との背比べで崩されてしまう前の八ヶ岳だと伝えられています」
 阿求はそれだけ聞いて把握した。
 八ヶ岳と富士山の背比べ。古事記を始め、歴史や神話に関わる事柄を阿求ほどよく覚えている者はいないだろう。何しろ阿求は稗田阿礼の九代目の生まれ変わりであるのだから。
「なるほど。ではそこにはあの神様もいるというわけですね」
 鋭いですね、慧音は教え子を素直に讃えた。そこに一人が会話に加わった。大図書館の主、パチュリー・ノーレッジである。
「イワナガヒメ――岩という名に象徴されるように永遠、不変を司る神ね。その神が山の不尽の煙を上げている張本人でしょう」
 そこで慧音は呆れたように嘆息した。
「そこまで知っていて、あんなことを言ったのですね……」
 阿求は一人だけ話についていけないでいた。慧音は困ったような顔をしているが、それは山が噴火したと聞いて慌てているといった風でもないのである。
「やっぱり、わかる人にはわかるのかしらね」
「それはどういう――」
 阿求の言葉をパチュリーが遮る。
「あんなの嘘っぱちよ。山の噴火なんてそんなことあるわけないじゃない」
 阿求はいとも簡単に前言を覆してみせるパチュリーの心理を掴みかねていた。もっとも、この魔法使いは普段から何を考えているのかわからないのだけれども。
「だってそんなことがあるのなら、どこぞの竜宮の使いが黙っているはずないでしょ」
 竜宮の使いとは、幻想郷に災害が起ころうとするとき、その大小に拘わらずそのことを伝えに来る竜神の使いのことである。かつて博麗神社が倒壊するほどの地震が起こった際にも現れていた。阿求はそれを聞いて納得したような、腑に落ちないような微妙な心持ちになった。
 せめて嘘を言った理由だけでも知りたいものですが、阿求はパチュリーに質問をぶつけた。
「特に理由なんてないわ。魔女の言うことを文面通りに受け取ろうというほうがおかしいのよ。ただ――」
 パチュリーは妖しく口角を上げる。
「そうしたほうが面白いから、それだけのことよ」
 完璧すぎて裏がありそうなくらいの推理には、やはり裏があった。
 まったく――慧音は再び溜息をついた。
「あの二人が何か粗相をしなければいいのですが……」
「そうそう」パチュリーが思い出したように言った。「まさかあなたのお友達が異変の正体なんてことはないでしょうね?」
「いえ、それはないでしょう。妹紅は昨日の日が暮れてから、今日の日が昇るまで一晩中永遠亭の姫と殺し合いをしていたのですから」
 それを聞き、阿求はくすりと笑って言った。
「殺し合いをしていたがためにアリバイがあるというのは皮肉な話ですね」
 慧音は友人の習慣には呆れと諦めを抱いているのだが、教え子にまでそれを茶化されてしまっては、自分のことではないといえそれと同じように恥じてしまう。
 慧音は話題を変えるべくパチュリーへと話を向ける。
「あなたはこの異変について何か考えはあるのですか?もちろん妖怪の山が噴火したということ以外の意見をお聞かせ頂けるとよいのですが」
「それについてはあなたのほうがより明確な答えを持っているのではないかしら?」
 それを聞いて慧音は口を真一文字に結ぶ。そしてパチュリーの両眼を見たまま、目を逸らさずにいた。パチュリーも同様である。
 どこまでわかっていて、どこまでわからないのか。慧音とパチュリーは水面下で腹の探り合いをしていた。
 お互い知識人であるために、そのプライドがぶつかりあっていたのだ。あるいは常人には見えない火花が散っていたかもしれない。阿求が怯えた様子でそれを窺っていた。慧音はそれに気付き、表情を和らげる。
「大丈夫ですよ、阿求さん。私が思うに、妖怪の山に差し迫った危険は訪れていません」
「へえ」パチュリーは挑発するように慧音を睥睨する。「それはどういう意味か聞かせてもらえるかしら」
「言葉通りの意味ですよ。おわかりになりますか?」
 慧音はその挑発を強かに受け流した。しかし、ここでもまた阿求は話から置いてけぼりにされていた。
「だとしたら、何故このような異変が起こるのでしょう?異変があるならば、大なり小なりそこには根源があるはず。少なくとも私が聞き及んだ異変とその解決譚においてはそうでした。しかし今回の異変は――」
 その根源が掴めない。慧音は異変から危険は感じないと言うが、それだけ聞いて安心できるというわけではないのである。
 危険がないからといって、謎についての解明を怠っていいわけではない。現に妖怪の山では混乱が広まりつつあるようで、もしかするとその混乱は人間の里にまで拡大するかもしれないのだ。それを未然に防ぐためにも謎の解決は必要不可欠である。
「根源ですか?根源ならば私たちの、特に阿求さんのよく知るところですよ」
「それはどういう――」
「『高天原』――あとは自分で考えてください。わからないことを訊くことはとてもいいことですが、考えてわかることを訊くことはそれと同じくらい恥ずかしいことであるのです。阿求さんならば一人で答えを出すことができるでしょう。私が一から十まで教えるまでもなく、です」
 そう言って慧音は大図書館の出口へと歩き始めた。阿求は、今度は物理的に置いてけぼりにされてしまう。阿求は慌てて追いかける。
 パチュリーは突然去ってしまった来客にもさして驚かず、表情も変えないままにメイド長が淹れた紅茶を啜る。
「こういうのって何て言うのか知ってる?」
 パチュリーは虚空に話しかけた。いくら図書館に籠りきりの日陰の少女だからといって自分で自分と会話をするほど根暗ではない。たしかにそこに話しかける対象はいた。使用人として、極力存在を殺していた者が、そこにはいた。

「ミスディレクション――ですわね」

 メイド長がいつからともなく、机を挟んでパチュリーの正面にいた。
「その通り。それだけ聞ければ充分。もう行っていいわ」
「変わったメイドの使い方ですわね」
 それでもメイドは気にした様子はなく、阿求と慧音が使ったティーカップを持って片付けに行ったのだった。

 慧音は出口まで着くと矢庭に振り返り、それが礼儀と深々と頭を下げる。
 勢いよく下げた頭が駆け寄ってきた阿求の頭と激しく正面衝突した。
 阿求は抱えていた本を宙へぶちまけ、そのまま仰向けに倒れる。
 その姿は、アイテムを吐き出した敵キャラのようであった。



★ ☆ ★ ☆

 紅魔館を後にした早苗と椛は、山へと戻る道すがら洩矢諏訪子と出くわした。諏訪子は洩矢神社に戻る途中だということで道中を共にすることになった。
 諏訪子はいつも被っている帽子を胸の高さで逆さに抱えていた。何事かあるのかと早苗がその帽子の中を覗くと、中には落ち葉が詰められていてさらにその中には蠢く何かがいた。
「蛙、ですね?」
 早苗が聞くと諏訪子は大きく頷いた。
「そうなんだよ!しかもこの子たちは朝凍死してた蛙なんだよ」
 そこで椛は改めて早苗が追っている謎を思い出した。
 しかし死んだはずの蛙が蘇っているというのはどうしたことか。
「神奈子のほうは蛇を早々に弔って合祀しちゃったんだけど――まあそれも悪くはないんだけどね。死んじゃったのはしょうがないけど神様に格上げされるわけだから――でも私はどうしても納得できなかったの。生き返らせることができるのならそれに越したことはないってね。そこで思いついたのが蛙を凍らせて遊ぶ不届きな妖精のこと」
「チルノのことですね」
「そういうことだよ、椛ちゃん。チルノは蛙を凍らせて、それを溶かして生き返らせているって新聞記者から聞いたのを思い出してね。そこで白羽の矢をぶっ刺したというわけ」
 新聞記者、間違いなく射命丸文のことだろう。
「適当に煽てたら調子よく引き受けてくれたよ。それで景気よく可愛い蛙たちを生き返らせてくれたというわけ」
 そこで疑問を挟んだのは早苗だった。
「ですがチルノは凍らせた蛙を三匹に一匹死なせてしまうのではなかったのですか?」
 逆に考えれば三匹に二匹は生き返らせることができるのだが、それでも六割強の確率でしかない。
「ふふ、そこはかとなく溢れる私の神徳でその辺の確率は補正済みなのでした! というわけで万事解決。馬鹿とチルノは使いようとはよく言ったものだね」
「そうですね、よく言うことです。私は週三のペースで言っています」
「多っ!さすがに年に二百回も言うことじゃないよ!椛ちゃん普段どんな会話してるのよ?」
「すいません、嘘です」
「嘘なんだ!っていうか、神の前でそんな堂々と嘘言わないでよ!」
「諏訪子様。椛さんは今、切羽詰まった状況に少し混乱しているようなので、強く責めないであげてください」
「混乱?ああ、そういうことね。何も蓋然性ないままにボケを飛ばしてるわけじゃなかったのね。もしそうなら、むしろ第三者からツッコミが入りそうなものだけど」
 ギャグパートを入れるにも必然性を求められる世知辛い昨今である。
「ま、蛇や蛙が死んだ原因はともかく結果のほうは片が付いたわけね」
 しかしながら、やはり、依然として謎は残ったままである。
 そう話している内に守矢神社の近くにまで差しかかっていた。
「うー。やっぱりこの時期に外に出るのはかなりキツいものがあったね。早くおこたでぬくぬくしたいよ。そういうわけで私は帰るね。あとは頑張ってね、早苗に椛ちゃん」
「「はい」」
「それじゃ、ごっどぶれすゆー」
 二人は諏訪子と別れ、山頂を目指して進む。
 果たして椛が見た『紅い火』というのは山の噴火であったのか。そこに答えはあるのだろうか。



★ ☆ ★ ★

 早苗と椛の二人が山頂に着くとそこで待ち構えていたのはイワナガヒメ、ではなく、竜宮の使いである永江衣玖であった。
 竜宮の使いは災害が起こるときにその危険を伝えに来るのである。

「あなたがここにいるとは!やはり――」

 椛は絶句し、肩を落とし、膝を付いた。
「いえ、違いますよ。そうではないのです、あなたが考えているようなことではまったくありませんので安心してください。私はその誤解を解くために来たのです」
「わ、私たちが何故ここに来たのか知っていたのですか?」
「知っていた、のではなく、感じていたのです。
 犬走椛さんと東風谷早苗さんの二人が、椛さんが今日未明に目撃した謎の怪火の正体を探るために東奔西走し、その末に怪火の正体が山の噴火であり、またそれが山の火口と違う位置に現れたのは蜃気楼の作用のためであるという仮定を立てて、調査のためにここに立ち寄るであろうという『空気』を!」
 永江衣玖は『空気を読む程度の能力』を持っているということは、会ったことがある者の中では周知の事実だが、ここまでの汎用性があるとは夢にも思わなかっただろう。
「凄まじいまでの空気の読みっぷりですね……」さすがに早苗も面喰ったようだ。「しかも、無駄に長引いてわかりにくくなってしまった展開を簡潔にまとめています!これ以上とない空気を読んだ台詞ですね」
「お褒めにあずかり光栄です。実はここにいる本当の理由は、種を明かすと、鍵山雛さんから話を伺っていたからなのです。雛さんは動物の異常行動が災害の前触れだと考え、私の元に確認に来たのです。私はそこで、そのような事実はないと申し上げました。ですが雛さんのほかにも勘違いをなさっている方がまだいらっしゃるかもしれない。だからといって私が下手に下界を闊歩すると余計に心配を与えかねませんから、ここで待っていたというわけです」
「なるほど。やはり、山の噴火という事実はないということですね」
 衣玖が頷くのを見て椛は安堵した。
「はい。山で噴火など起こりませんでしたし、当然火山活動による地震もありません」
「よかったです……大惨事に発展してしまうかと思うと、気が気ではありませんでしたから」
 それでも早苗は一人浮かない顔をしている。一体どうしたというのだろうか、椛はその表情を窺っていた。
「たしかに山の噴火はなかったのはいいことですが、諸手を挙げて喜べるということでもないのです」
 そして椛もその問題に気付いた。
「山の噴火という事実がないとしたら、椛さんが見た『紅い火』とは何だったのか、そして生物が示した異常行動の原因とは何だったのか、何の解答も与えられてないままなのです」
「ああ、それじゃあ……」
「調査はここで、振り出しに戻ってしまったというわけです」



★ ★ ☆ ☆

「ですが心配には及びません。私には一つの像が見えています」
 早苗は椛を安心させるよう、なだめるように自信を含ませて言った。
「それは一連の異変の真相が見えていると、そういうことでしょうか?」
 そうであるならば、今までの調査は何だったのだろうか。結局無駄足、それも無駄とわかっていてやったと、そう言っていることになる。椛の疑問を察した早苗は先手を打って否定をする。
「いいえ、これまでの調査が無駄だったわけでは決してありません。むしろ私の推理が正しいということを証明するために必要なことだったのです。ただ、今はまだそれが真実であるかまでは保証できないというだけであって。物的証拠も状況証拠もない状況。犯人を指定するにはいささか心許ないと言わざるを得ません」
「犯人!今山で起きている異変は自然発生したものではなく何者かの仕業なのですね」
「はい、そして犯人と思われる者の名もいくつか、すでに押さえています」
「質問ばかりで申し訳ありませんが、ただ一つ、犯人は誰であるのかだけでも教えてください」
 それはできません、早苗はゆっくりと首を横に振った。
「もしそれが違っていた場合、名前を挙げた者の尊厳を脅かしてしまう恐れがあります」
「たしかにそうですね。実際私も萃香さんを犯人扱いして尊厳を損ねてしまったかもしれません」
「萃香さん自身はどうとも思っていないようでしたけど。お酒を差し上げたら許してもらえましたし」
 そこで椛は話が逸れていることに気付いた。
「では早苗さんが思い描いているその犯人を摘発する術はあるのですか?証拠はないのですよね」
「はい。それでも、方法はあります。その内の一つは最終手段、それを使わずにいられるならばそれに越したことはありません。今の段階でできることは反証可能性の消去です」
「一体それは――」
「例えば椛さんが死体になって発見されたと仮定しましょう」
「物騒な仮定ですね」
「死因は犬死にです」
「犬死にって死因になるんですか?」
「第一の容疑者は私、東風谷早苗さんです。しかし早苗さんが犯人だという証拠がありません。ただ、椛さんと最後に行動を共にした人物というだけで疑われているとします。さて、ここで早苗さんが犯人であると証明するためにはどうしたらいいでしょうか」
「なるほど、言いたいことはわかりました。犯人という証拠がないなら、犯人ではないという証拠を虱潰しにでも除外していけばいいのですね。私が早苗さん以外の者、あるいは物に殺されたわけではなく自殺したわけでもないと証明できれば、早苗さんが犯人で間違いないということになります」
「その通りです。私たちが行った調査もそれと同じことなのですよ。考え得る可能性をできるだけ挙げて、その中から事実でないものを除いていく。そして最後に残った一つこそが真実であるという思考と、そして、反証に反証を重ねて確証を掴む手法はかのシャーロック・ホームズに倣ったものです」
「ホームズ――名前は聞いたことあります。推理小説に登場する名探偵のことですね」
「山の住民は私たちがいた外の世界の文化が伝わっていて、こうして話も通じるのでいいですね」
「でも魔理沙さんもアガリクスとかという作家の作品に詳しいようでしたけど」
「椛さん、それはアガリクスではなくてアガサ・クリスティですよ。たしかにキノコ繋がりではありますが。クリスティ女史の本もドイル卿の本も持っているので、機会があったら読んでみてはどうでしょう?生憎、原語版しかないのですが」
 原語とはもちろん英語のことである。
「喜んでお断りします」
 そうですか、とさほど気にしていない様子で早苗は言った。
「さて、日も大分傾いてきたようですしこのままゆっくりしているわけにもいきませんね」
「次の調査へ向かうわけですね。ですが調査はいつ終わるのでしょう。幻想郷中を回るのは骨が折れますよ」
「心配には及びません。犯人の候補はほとんど絞られています。規模の大きさを考えれば、異変を起こせるような者はかなり限られるのですから」
 たしかに早苗の言う通りだった。里の一般人や非力な妖精に山を脅かすような異変など起こせるわけがない。
「今から向かうのは二番目に疑わしい者のところです。その者が犯人でないならば――あとはわかりますね?」
「でも犯人は――当たり前ですが、それでも認めようとはしませんよね。たとえこちらのほうで犯人であるという事実を掴んでいても、証拠がない以上強く追及することもできない。全てをお見通しの閻魔様が出張ってこない限りはどうしようもないですよ」
「はい、たしかに認めようとはしないでしょう。犯人と目される者の性格を鑑みてもそれは間違いありません。ですから今回は最終手段を採ることも厭わない覚悟でいます」
「最終手段……」
 結局そこで最終手段とは何かを話すことはなかった。
「そろそろ行かれたほうがよろしいのでは?」
「わっ!衣玖さん、まだそこにいらっしゃったのですね」
 椛は驚いた衝撃で尻尾が1.2倍ほどに膨らんでいた。
「はい。お二人の会話を邪魔しないよう空気に徹していました」
 さすがは空気を読む永江衣玖である。
「そうですね、衣玖さんの言う通りです」早苗は頷く。「さあ、行きましょう。次に目指すは地底です!」
 山頂から地底へ。
 物語は急転直下の展開を迎える、のか?





第二章



 地下深くに存在する地底の世界、旧都。元々は地獄であったこの場所は陽の光が当たらない暗い世界ではあるが、ここ旧都の地獄街道は妖怪たちの活気に満ち溢れていた。一日の勤めが終って、疲れやストレスを発散すべく街へ繰り出しているという時分なのである。行き交う者たちの顔が上気していて赤いのは、寒さのせいだけではないだろう。
 水橋パルスィは、そのように賑やかに笑い、陽気な声を上げ、悠々と闊歩する群衆をすり抜けて一軒の居酒屋へ足を踏み入れた。初めて訪れる店であった。
「いらっしゃいませ、お一人様ですか?」
 ええどうせ私は一緒に呑んでくれる相手のいない一人酒がとびきり似合う寂しく卑しい女でしょうよ、と普段なら思うのであるが今日はその限りではなかった。
「いいえ、待ち合わせなのだけれど――」
「パルスィ!こっちだよー」
 黒谷ヤマメは小さく仕切られた座敷から半身を出して手を振った。パルスィはそれに応え、軽く手を上げヤマメに返す。
「それではご注文が決まりましたら、またお呼びください」
 マニュアルによって決められているような簡素な挨拶。店主も馴れ馴れしいということもない。店としての人情味、温かさには欠けるが一人酒には丁度いいかもしれない、パルスィはそう思った。
 座敷の席は床から一段高いところにあり、その縁には脱いだ靴が寄せてあった。
 ひい、ふう、みい。パルスィはそれを数えて自分以外の皆はすでに会合に集まっていることを悟る。
「よう、お疲れさん」
 そう声を掛けるのは、額から伸びる一本角がトレンドマークの鬼、星熊勇儀。勇儀は座敷の畳に敷いた座布団の上で横になり、頬杖を突いて上目でパルスィを見上げる。都合二枚の座布団を占領していた。
「そこいいかしら?」
「はいよ」
 勇儀は上体を起こして胡坐をかき、余った座布団を差し出した。パルスィはそこに正座で座ったが、少しもしない内に足を崩した。
 卓を挟んで向かいには黒谷ヤマメとキスメが陣取っていた。キスメは桶に入ったまま、である。
「ここって桶で上がってもいいの?」
 パルスィの質問はもっともだ。座敷に桶に入った少女が座布団の上に鎮座しているというシュール極まりない光景がここにはあるのである。
 それにはキスメの隣のヤマメが答えた。
「店主に聞いたらオーケーだとさ、桶だけにね!」
 その発言とパルスィが初めに熱燗を注文したことには何か因果関係が認められるのかどうかというのはさておき、
「カンパーイ!」
 音頭もそこそこに酒を飲み始める四人衆。
酒が入り会話は次第に進み、今日の勤めの内容やら愚痴の話題へ移った。
「今日は妙な来客がいたわねえ。迷い猫やらペットを連れた人間やら」
 パルスィは橋姫と呼ばれる妖怪で、地上と地下を結ぶ穴の番人を請け負っている。地上へ向かう者や地下へと訪れる者の、特に後者には気を遣っているのである。
「結局、迷い猫はどうなったのかしら」
 ヤマメはくいっ、と杯を傾け一口啜り、はあと息を突いた。
「あ、それね。私とキスメで旧都を案内してあげたよ。朝から始まって、昼過ぎにはもう地上に返しちゃった。ふふん、旧都が盛り上がりを見せて本領を発揮するのはこの時間帯からなんだけどねぇ。でも、あの猫ちゃんにはまだ早いかな」
「……猫ちゃんとまた一緒に遊びたいなあ、ゴニョゴニョ」
「えっ、キスメ何か言った?」
 ヤマメの問いにキスメは顔を赤くして、首をブンブン横に振る。
「それでだ」勇儀は続ける。「そのペットを連れた人間ってのはどうしたんだい?」
「ペットを連れてた人間はね、古明地の妹さんのお友達だって言うから簡単に通しちゃったけど……大丈夫だったかしら?」
「別にいいんじゃない。何か悪いことしたって話はまだ聞かないよ。ね、勇儀?」
「そうさね、まさか古明地の妹さんのお友達が古明地の家に攻め込むことはあるま――いや、わからないな。人間をわかったつもりになるということほど愚かで危険なことはないさ」
「……勇儀かっこいい、ゴニョゴニョ」
「えっ、キスメ何か言った?」
 ヤマメの問いにキスメは顔を赤くして、首をブンブン横に振る。
「でもそのお友達が、なーんでやって来たんだろうね。やっぱりペット愛好家同士、積もる話があるのかな!」
「それは違うと思うわ、ヤマメ。そんな楽しげな雰囲気じゃあなかった、何か深刻なことが起きてるような――」
 そこまで言って、パルスィは以前に起きた出来事を思い出す。
 地上で起きた異変のために地下に調査に来た人間。キスメやヤマメ、パルスィを戦闘の末難なく下し――勇儀も戦闘をしたが相手の力を試しただけに過ぎない――そして人間は古明地の屋敷、地霊殿へと向かって行った。
 途中の戦闘という過程が抜けているとしても、今回の出来事はあまりに酷似している。
「――まさかね」
 地霊殿には心を読む力を持った古明地の姉がいる。きっとそのことが人間の表情を曇らせたのだろう。パルスィはそう判断した。



★ ☆

「でもさでもさ。妹さん、朝から出かけたんじゃなかったかい?」
 ヤマメの言う通りであった。妹さん――古明地こいしは姉と同じ心を読む力を持っていたのだが、自らその能力を封じて以来、無意識に行動するようになった。他人の無意識にまで作用するその能力をもってからは、こいしは誰にも気付かれずに放浪するようになった。
 しかし――
「最近は堂々と行動するようになったのよね、それでも充分見逃しやすいけど」
 朝の仕事が始まった直後、まだ見張りへの集中力が損なわれていない時分だったので地上へ向かうこいしの姿が辛うじて認められたのだ。
「でも妹さんも地霊殿にいればよかったのにね。折角お友達も来てくれたんだからさ。どうして出かけたんだか」
 勇儀が空になった熱燗を弄ぶ。すると店員が新しい熱燗を持ってきて、空の燗を回収していった。どうやらそういうサインらしい。勇儀は最近できたばかりのこの店で、早くも常連になっていたようであった。
「……それはきっと筆者がノーマルをクリアできずエクストラまで到達していないが故にこいし様の性格を窺える資料がキャラ設定のテキストしかない状況であったためにこいし様を登場させるのは如何なものかと悩んだ挙句に自粛する方向に決めたからだと思うよ、ゴニョゴニョ」
「えっ、キスメ何か言った?」
 ヤマメの問いにキスメは顔を赤くして、首をブンブン横に振る。
「それはさすがに無理あるでしょ!」
 パルスィがようやく突っ込んだ。キスメは怯えた表情で桶から顔の上半分を覗かせている。
「キスメをいじめちゃあだめだよ、パルスィ。ね、勇儀?」
「パルスィ。これは所謂、『天丼』ってやつだ。あんまり深い意味はないからそんな真面目に考えなくていいんだ」
「天丼?どうして今天丼が出てくるの。変なこと言うのね」
 そこで話は一巡し、再びペットを連れた人間の話題へと戻る。
「そういえば、そのペットってのはどんなのだったのさ?動物の姿のまま、それとも今朝の猫ちゃんみたいな妖獣?」
 ヤマメはそのペットを連れた人間を見ていないようだった。
「人型だったけど妖獣より妖気が強いような気がしたから、たぶん妖怪の類ね。お燐とかお空みたいな、そんな感じ」
「元は何の動物だったの?」
「犬よ、白い犬。人型だけど言葉が話せないようで『わん』とか『わおーん』とか『わふー』とか言ってたわ。でも一丁前に袴を着て、烏帽子も着けて――」
「ぶっ!」
 勇儀は口に含んでいた酒を噴き出した。
「いきなりどうしたの、勇儀!」
 パルスィは卓を拭くものを探したのだが、卓は全然濡れていなかった。
「大丈夫だ、一滴も零してない」
 勇儀は自前の大杯を示した。酒を噴き出した次の瞬間には杯でそれを受け止めていたのだ。尋常ではない早業である。
 勇儀は自分の吐きだした酒を見て言った。
「飲む?」
「飲まないわよ!汚いわね!」
「おう。もっと罵れ、パルスィ!」
「何言ってるの?頭おかしいんじゃないの?この変態!死ねばいいのに!」
「うむ、これでこの場面はサービスシーンとして機能するだろう」
「誰に対してのサービスよ!意味わかんない……」
「そうそう、で、その人間は地霊殿にペットを連れて行ってどうしたんだろうな」
「本題に戻さないでよ!って、戻したほうがいいのよね。結局地霊殿に行って、すぐ帰ったというわけでもないし。妹さんに用があったわけじゃないのかしら……」
「ふーむ。地霊殿に用……白い犬……」
 勇儀はそれきり酒を飲むこと以外では口を閉ざしてしまった。ほかの三名も釣られて黙ってしまう。先ほどまでの盛り上がりが嘘のように白けてしまった。
 そこへ、座敷に二つの影が近づいてくる。

「あらあら。お姉さんたち、白けてるねえ」

 その声の主は、頭頂に生えた猫の耳にそこから垂れ下がる三つ編みのツインテール――地霊殿に住むペットの火焔猫燐であった。その後ろには同じく地霊殿のペット、長く垂れる黒髪と背中に羽を携えた地獄烏の霊烏路空がいた。
「お燐にお空じゃないか!」
 勇儀が打って変わって明るい表情を見せた。さすがに白けたままで、酒の席を訪れる客をもてなすようなことはしない。
「新しい居酒屋ができたって聞いたんだけど、でも中々行く機会がなくて。今日はさとり様にお小遣いを貰ったから、お燐と一緒に飲みに来たの」
 空の言葉に勇儀は何度も頷いた。
「うん、小遣いを酒に使うとはいい心掛けだ。よし、私たちと一緒に飲め。今日は私の奢りだ!二人だけで飲みたいって言うんなら強制はしないけど」
「やだなあ、勇儀姐さんの誘いを断るわけないじゃない。ね、お空?」
「うにゅ。皆で飲んだほうが楽しいもんね!」
 酒の席に一匹と一羽が加わる。総勢六名での飲み会となった。



★ ★

「……さすがに登場人物が一場面に六名となるとキツイものがあると思う。場所的な意味でなく展開的な意味で。全員に台詞を均等に割り振ろうとすれば自然と文量が増えて冗長と思われるかもしれないし、無論誰かに偏っていても台詞の少ないほかのキャラの個性が沈んでいると捉えられてしまう。それに台詞を入れていくにも大人数だと台詞の区別のためにどうしても『○○は言った』という表現が続いてしまい、クドイといった印象を持たれてしまう。ただでさえ気分的にだれやすい長編であるのに、加えて同じ表現が繰り返されるとなるとその危険度は測れたものじゃない。もちろんそれは台詞内の口調や一人称を駆使して地の文における説明がなくとも誰の台詞が判別できるようにするという手法を取ればいいのだけれど、地の文の量が少なくとも情景が描き切れていないという批判が出てくることが考えられるし、それを免れるためには相当な力量や語彙を求められる。基本二、三人。多くて四人で話を進めるのが理想だというのに。第一章と第二章で展開に差別化を図ろうとした?そうだとしたら浅はか、実に浅はか。余計なことなんてしなくていいのに、ゴニョゴニョ」
「えっ、キスメ何か言った?」
 ヤマメの問いにキスメは顔を赤くして、首をブンブン横に振る。
(キスメは絶対何かに憑かれている。っていうか、何でヤマメはキスメと仲良いのに言ってること通じてないのよ!)
「……性格がおばさん染みてるから、ゴニョゴニョ……耳まで遠くなった、ゴニョゴニョ」
「ああん?今何つった、てめぇ!」
「やっぱりキスメの声聞こえてるんじゃない!」
 パルスィのツッコミに場が大きく沸いた。よく見ればヤマメもキスメも笑っている。どうやらパルスィは一杯食わされたようであった。
「あはは、パルスィ姉さんのツッコミ冴えてるねぇ。惚れ惚れしちゃうよ」
「うにゅ、盛り上がってきたしお酒もどんどん入れちゃおう!」
「おう、いいねえ!さあ、どんと飲め!私の奢りだ、飲む気がある奴だけついてこい!」
 おー、とヤマメと燐と空が元気よく拳骨を突き上げる。パルスィとキスメは控えめに手を上げていた。
「この人数の酒代は大変よ。払えるの?」
「そいつを聞くのは野暮ってぇもんだ、パルスィ。これくらいならツケの一言で済む問題じゃないか」
「勇儀はツケを絶対に返す酒義なんだよ――じゃなかった、主義なんだよ!」
 ヤマメは自信満々に無い胸を張って主張した。実際その通りであった。
 普通の者がツケと言ったところで相手にされないようなところでも、この星熊勇儀にはツケで済ますことができる。勇儀に限らず、ここ旧都に住まう鬼であれば皆そうだ。
 それは鬼が力をもって脅しているというわけではない。
 鬼は嘘を吐かない。だから払うと約束したものは必ず払うのである。
 よく酒を飲み、しかもその金を必ず払ってくれる鬼は酒屋にとって歓迎の対象でしかないのである。偶に酔って暴れた客を沈める、もとい鎮めたりとその活躍の幅は広い。
 酒屋は、ただ一点。支払いに期日を設けることを忘れさえしなければいいのである。
「その金はどこから出てるのよ?」
「それはまあ、ゴニョゴニョ」
「あはは、勇儀姐さんがキスメちゃんみたくなった!」
 燐の言葉でキスメの顔は赤く染まってしまう。
 勇儀が金の出所について触れないのはそれなりに理由がある。
 旧都は鬼が始めに築いた社会であり、そして築いて後に妖怪たち、それも地上で忌み嫌われた妖怪を集めた。地底の世界は鬼が築いたコミュニティーと言える。そして鬼は――人間の社会で例えるのは恣意的で滑稽であるのだが――貴族的な地位にあるということになる。つまりはそういうことであった。
「金を持ってるとか、権力を持ってるとか、そういうことで気を引いたり好き勝手やらかしたりするのは好きじゃない」
 かといって隠し事をすることも好きではない勇儀は、その事情を渋々白状したのだった。パルスィを始め、その場にいた者は黙ってそれを聞いていた。
「そう、そんな事情があったのね。大丈夫よ、私たちも勇儀を利用して好き勝手なことをしたりなんかは絶対しないから!」
 パルスィは力強く言って、同意を求める。

「ね、ヤマメ?」

「店員さーん、この店で一番高い酒持って来て!」
「空気読め!ああ、こんなときにも気を遣わないでふてぶてしくいられるなんて。妬ましい、妬ましい……」
「ようやくパルスィらしさが出て来たじゃないか。そら高い酒が来たぞ。何々、『このお酒はもろみのときにプリズムリバー楽団の音楽を聞かせて育てた醸造酒です』か。音楽を聴いて育った酒ね、なかなか粋なことをするじゃないか。プリズムリバー楽団ってのは地上の楽団かな。たしかに輸入品なら値が張るだろうからね」
 勇儀は一升瓶を傾け、六人分の杯にその酒を注いでいった。
 鬼の晩酌に対しては何人たりとも拒否権を持てない。無論この場にいる者にはその心配は無用なのだが。
 そこで空はあることに気が付いた。
「あれ、このお酒って、さっき貰ったよね」
 空は隣の燐――隣と燐という字は似ているが別に他意はない――に同意を求めた。
「そうね、こいし様のお友達が持って来てくれたのよね、まだ開けてないけど」
「そ、それ!」ヤマメは一段高い声で反応を示した。「それさ、その人間のことでさっきはあれこれ考えてたの」
「ああ、お姉さんたちが白けてたのはそういうわけだったのね。あたい、ひどく心配しちゃったよ。でも、たしかに今旧都で気にするようなことといえばそれくらいしか考えられないからね――」
「そいつを」勇儀は燐の言葉を遮った。「そいつを詳しく聞かせちゃあくれないかい?酒の肴に是非とも聞きたいもんだ」
 そこで燐は、「うーん」と唸る。
「そう期待されても、面白い話というわけじゃないし。それでもいいって言うなら話すけど……」
 もったいつければもったいつけるほど、余計に聞く側の興味を引いてしまうかもしれない。これ以上期待が高まる前に、燐は早々と話をしてしまうことにした。



★ ☆ ☆

 まず、地霊殿にやって来た人間なんだけど名前は東風谷早苗。
 妖怪の山にある神社の巫女さんで――本当は巫女じゃない正式な呼び方があるらしいんだけど、あたいもその人を何度か見たことがあって名前は知ってた。
 で、その人は地霊殿に入って来るなりあたいのところに寄って来て「さとりさんはいらっしゃいますか?」って聞いたのさ。「いますよー」って返したら、さっき言った名前を名乗ったわ。それでさとり様と話がしたいって言うから驚いちゃったよ。
 だって、ねえ?さとり様と進んで話をしたがる人ってあまりいないじゃない。でもそれは喜ばしいことでもあるんだ。わかるでしょ?
「うんうん、わかる」
 ありがと、お空。で、さとり様のところまで案内することになったんだけど、何を話すのか気になったから「今日はどんな用で来たんですかー」って聞いてみたわけさ。そしたら「ペット愛好家として尋ねたいことがありまして」だって。なーるほど、って思ったよ。
「ほらきた、やっぱり私の考えで合ってるじゃん!」
「でも、ヤマメ。私が見たときはそんな感じじゃなかったけど」
 そうなの?あたいはそこまでは知らないけど。
 そうそう、ペットはあたいとお空みたいな人型で、白い犬の妖怪ね。結構いい体つきだった、相当鍛えてるんだね。死んだら燃やして骨格見てみたいなあ。あ、地獄の炎だと灰も残らないから地上で燃やすしかないかなあ。
 おっと、そんなことはどうでもよかったね。
 さとり様のところまで案内したら、これで私の役目は終わったし、二人のお話を邪魔しちゃいけないかなと思って下がったの。そしたら巫女さんが「お気遣いなく。お燐さんもここにいらしていいですよ」って言うから、断るのも失礼だしそこに残ることにしたの。
 で、二人で話始めたわけなんだけど。

「どうも、ご無沙汰ですね」
「いつもこいしがお世話になっています。なるほど『ペットについて聞きたいことがある』のですね」
「はい。その前に私のペットを紹介しましょう。愛犬の『もみじもみもみ』ちゃんです」
「ぶへほっ」

 さとり様は一回噴き出して、それからは笑いを堪えてるみたいだった。もみじもみもみって名前がそんなにおかしかったのかな。

「いえ失礼」
「お構いなく。こちらのペットはどこを寝床にしているのでしょう。広い屋敷ですし、ペットのための部屋があったりするのですか?」
「ええ、ペットは地霊殿の中で寝ています」
「私のもみじもみもみちゃんも同じく家の中で寝ているのですが、そこで相談があるのです。このもみじもみもみちゃんがどうやら夜中に家から出てどこかに行ってしまっているみたいで、非常に困ってるのですよ。そういう経験、ありませんでしたか?」
「前は、ありましたよね、お燐?」

 どうしてそこであたいのほうに話が振られたのかわからなかったけど、とりあえず「はい」って答えたの。

「前は、というと、最近はそのようなことはないということですよね?」
「その通りです」
「なるほど。そこで一つ助言を頂きたいのですが」
「そうですね。犬は忠誠心が高いですから、主従関係をしっかりと築けば自ずとあなたに従うことでしょう」
「参考になります。ありがとうございました」
「『それだけ聞ければ充分』ですか。ですが『これで話が終わったわけではない』のですね。『お土産にお酒を持って来たので受け取って欲しい』ということでしたら、ありがたく頂戴しておきましょう。お燐、もみじもみもみちゃんが抱えている包みを受け取って蔵に運んでおいてください」

 それでさっきのお酒を貰ったんだよね。
「うにゅ、私は包みを運んでるお燐を見ただけなんだけど」
 あと、なんでかわからないけど、もみじもみもみちゃんは終始涙目だったよ。なんでだろうね?



★ ☆ ★

「どこからどう見てもペット愛好家同士の会話だねえ」
「いえ、ヤマメ。どっからどう見てもおかしいでしょうよ」
 パルスィはお燐の話に出てきた人間に疑いを向けていた。たしかに会話は成り立っているようにも取れるが、どうにもちぐはぐといった印象が抜けない。
 しかしその人間が何かよからぬことを考えていたなら、さとりがそれを見逃すはずがない。だから危険な人物というわけでもないのだが、どうにもその人間の真意が掴めない。
 果して、ペットが夜中逃げ出して困るという、ただそのことについて話したかっただけなのだろうか。しかし、そんなことがあるのだろうか。
 考えれば考えるほどわからなくなってしまう。
 パルスィは考えることを放棄した。
「別に旧都を脅かすような人間じゃなければ、それでいいんだけど。そうそう、その人間はその後どうしたの?地上へ戻ったとか?」
「お酒を仕舞った後に、お燐と私で見送ったよ。たぶん地上に帰ったんだと思う」
 空が燐を横目で見やると、隣の妖怪猫は頷いた。
「うん、そうだね。これであたいの話はお終い」
「ふーむ」勇儀は腕を組み渋い顔をする。
「どうしたの、勇儀姐さん?考え込んじゃって」
 燐は訝りながら勇儀の表情を窺った。そこで思いもかけない者から声がかかる。

「あの、よろしいでしょうか?」

 その場の六名は一斉にその声の主を見やる。そこで同時に首を捻った。
「誰?」
 口に出して言ったのはヤマメであった。
声の主は人型をしていて、頭頂の尖った二つの耳を覆う帽子を被り、背後には何本もの大きな尻尾が覗いていた。毛並みはよく、金色の光沢を放っている。
金毛九尾の妖獣、八雲藍であった。
「私は八雲藍と申します。今日は橙がお世話になったようで、そのお礼を申し上げに――」
「橙ちゃん、あの猫ちゃんのことだね!ええと、あなたは橙ちゃんのお姉さん……じゃないよね。狐と猫で姉妹ってのはおかしいし」
「橙は私の式神なのです。しかし私の力が及ばぬが故に、勝手にどことも知れず放浪していたようなのです。三時のお茶の時間には戻って来たのですが。そこで、ここにいらっしゃるヤマメさんとキスメさんには随分よくしていただいた上、無事に地上へ帰してもらったということを聞いて、こうしてお礼に参った次第であります」
「さっき八雲と言ったな」勇儀は狐目の女と目を合わせて言う。「それじゃあ、あの妖怪と何か関係があったりするのかい?」
「如何にも。八雲紫様は私の主人であります」
「へえ、じゃあ姉さんもペットってわけだ。あたいと一緒だね!」
「いえ、違います。ペットじゃなくて道具です」
 空と燐以外は頷いていた。妖怪を長くやっているだけにその辺りの事情を察したらしい。
「そうだ、丁度いい。聞きたいことがあるんだ。最近地上で何か変なことが起こったりしてないか?」
 勇儀の言葉に藍は眉をぴくりと動かした。
「よくご存知で。たしかに今現在、妖怪の山で異常事態が起こっておりまして。私の狭い料簡で判断する限り異変と呼べるほどではないのですが、山の住民は異変だと俄かに騒ぎ立っているようです。ここにその原因となった異常現象を記した新聞があるのですが」
 藍は文々。新聞の号外を勇儀に差し出した。ほかの五名は勇儀を囲み、新聞を覗く。
「これは、異常かもねえ……」と勇儀。
「たしかにこれは変よね……」とパルスィ。
「あたいはちっともわからないよ……」と燐。
「うにゅ、これってどうなってるのよ……」と空。
「どうすればこんなことになるんだい……」とヤマメ。
「……さすがにこれはひどいよ、ゴニョゴニョ」とキスメ。
 そして六名は声を合わせて言った。



「字がまったく読めない!」



 射命丸文の丸文字は地底人には解読不能であった。



★ ★ ☆

 藍は勇儀たちに記事の内容を読んで聞かせた。ざっとまとめると次のような内容が書かれていた。

・妖怪の山の生物が異常行動を取っていること
・妖怪の山の機械が相次いで故障していること
・天狗が夜中に妙な紅い火を目撃したとの情報

 この三つのことに記述は集約されていた。それを聞いて勇儀は納得したように言った。
「ふむ、なるほど。大方の全体像は掴めた」
「え、私は全然わからないけど。どうして勇儀にはわかるのよ」
「私を誰だと思ってるんだい、パルスィ?私は怪力乱神を持つ星熊勇儀、ここに書かれている程度の怪力乱神はどうってことないさ」
 勇儀は自信たっぷりに言ってのける。
「ついでに地霊殿の奇妙な来客の意図も把握できたよ。人間はこの異変の調査に来ていたのさ」
 ヤマメはそこでようやく納得できた。
「そうか、記事には紅い火は天に届くような大火だったって書いてあるね。それほどの火が出せる火力ってのは誰もが皆持ってるわけじゃない。それで人間は、お空を疑ったわけだね」
 空はかつてその身に八咫烏を取り込んで以来、核のエネルギーを有するようになった。そのエネルギーをもってすればその程度の火を上げることなど朝飯前だ。
「うにゅ、私はそんなことしてないよー」
「あたいもそれは保証するよー」
「だから、それを確認しに地霊殿に訪れたってわけだ。今考えてみれば人間の『ペットが夜中に逃げ出したりしないか?』って質問はそれを聞いていたんだね。所謂……何だっけ?そこの狐さん知ってるかい?」
 藍は急に話を振られたが動揺することなく答えた。
「アリバイ、と言いたいのでしょうか?和訳は不在証明とされることが多いのですが」
「それだ、所謂アリバイ調査だったというわけだね。だからペットがその夜に地霊殿から出ていなかったことだけ聞いて帰ったというわけだ」
「なーるほど。勇儀姐さん推理が冴えてるね、半七みたい!」
「ふふん。褒めてもらって悪い気はしないねえ。でもやっぱり私は平蔵のほうが好きだ、やっぱり鬼だから」
 そこでパルスィが口を挟む。
「でもお空が犯人じゃないなら、一体誰がこんな大それたことをしたのでしょうね。狐さん、わかる?」
「私は、犯人はいないのではと思っております」
「ああ。私も同じだ、気が合うな。さ、飲め」
「どのタイミングで酒を勧めてるのよ……」パルスィは鬼の気ままさに呆れてしまう。「じゃあ、どうしてこんな異変が起きるの?」
「それはな、パルスィ。まだそうと決まったわけじゃあないが、私は、それはとある神の仕業じゃあないかと踏んでいる」
 なるほど、と藍は頷いた。
「そういう見方もできますね。参考になります」
「さっきは犯人はいないとか言ってたじゃない、一体どっちなのよ?自分はわかってるからって、何にもわかってない私たちを馬鹿にして遊んでいるのね!妬ましい、妬ましい……」
 ぶつぶつと不満を吐き出すパルスィを尻目に、ヤマメは目を輝かせて勇儀に質問する。
「で、その『高貴なお方』って誰なのさ?教えてくれないの?」
 ヤマメの言葉に勇儀は「ふふっ」と微笑んだ。
「わからないかねえ……」
「うにゅ?」
 勇儀は空をじっと見つめていた。藍以外にその意味を理解できる者はいなかった。



★ ★ ★

「あの狐のお姉さん、気前良かったねえ!」
 燐は空と連れ立って、軽快に街道を歩いていた。吐いた息は白い蒸気となり、その蒸気には酒の臭いがしっかり染み込んでいた。
「うにゅ、酒代全部持ちだもんね。勇儀さんは『これじゃあ私の面目がないねえ、どうしてくれんだ!』なんて言ってたけど」
 結局奢ることができなかった勇儀は消化不良のままで二次会へ進んで行った。燐と空も誘われたのだが、主人であるさとりと一緒にお酒を飲もうと考えて早々に抜けたのだった。
「やっぱりただ酒は最高だね!お金も浮いたし。でも結局、勇儀姐さんは地上の異変の犯人のこと教えてくれなかったね」
「勇儀さんは何か意味有り気に私を見てたけど、どうしてだろう。さとり様に聞けばわかるかな?」
 さとりは地上から訪れた人間と対面し、その調査にも協力していたという。先ほど見た新聞以上の情報を握っているだろう。
「あたいも気になってしょうがないよ。なんせお空が犯人として疑われてたくらいだからね。いくら地上のことだからといって無関係とは言えないよ」
「でも、わからないことだらけだよね」
 わからないことがあったらさとり様に聞くのが一番だ、燐と空の地霊殿へ向かう足取りは自然と速くなった。
 燐と空が地霊殿へ戻ると、玄関にはさとりが待ち構えていた。
「ああ、お帰りなさい。お空にお燐」
「ただいま帰りましたー!」と元気に返したのだが、さとりの目線は玄関の扉に向かったままであった。
「まだこいしが帰っていないのです。あなたたちもこいしには会っていないようですし……」
 仕方ありませんね、そう言ってさとりは燐と空のほうへ向き直り座敷のほうへと歩き始めた。その後にペットがついて歩く。
「こいし様の帰りを待ってあげないでいいのですか?」と空が言う前にさとりは答えた。
「心配ではないというわけではありませんが、野垂れ死んでいることもないでしょうから。この時間までに帰って来ないのならば、きっと地上で夜を明かすつもりなのでしょう。ただ、帰って来ないのにはそれなりに理由があるのでしょうね」
 燐と空にはさとりの考えていることがわからなかった。
しかし、それ以上質問をすることはなかった。
 彼女たちは、さとりが自分たちのことをわかってくれるという、そのことだけでよかった。
「そうですか」
 さとりは燐と空を見つめ、微笑んだ。
 彼女たちにはそれだけで充分だった。
「さあ、あなたたちには酒の用意をしてもらいましょう。いいですね?」
「「はい!」」
 燐と空は返事をして、準備に走る。酒瓶を取り出し、ペットを集め、酒の席をセッティングする。
 そして酒宴は始まった。
 元々動物である二人の思考は複雑なものではない。
 その頃には、地霊殿に訪れた人間のことも、帰って来ない主人の妹のこともすっかり意識の外へと追いやられていたのだった。





最終章



 ここは地底へ続く洞穴の入り口。
 東風谷早苗と犬走椛は地底への調査を終え、地上へと戻って来たのだった。それでも明るさはというと、あまり変わりはない。日はもう沈んでしまい、星はその輝きを示している。鋭い剣閃に煌めく月がその夜空にアクセントを加えていた。
「それにしてもひどいですよ、早苗さん!私をペット扱いするなんて」
 椛は涙ながらに訴えた。それを聞いても早苗の表情はさして変わりはない。
「いえいえ、あの場は仕方なかったのですよ。もみじもみもみちゃん――じゃなかった――椛さん」
「それ、わざとですよね?」
 早苗は「さあ?」と白を切る。
 それでも椛は忘れることはなかった。早苗の命令で地底にいる間はペットの振りをして、あれやこれや恥ずかしい思いをしたことを。もみじもみもみという呼び名もその内の一つである。
「ですから、仕方なかったのです。いくら調査のためとはいえ山の天狗が軽々しく地底へ訪れてしまっては、何かと問題があるでしょう。そこで天狗という身分を誤魔化すために、椛さんにはペットという役回りを演じてもらった――」
「たしかに、その辺りの事情は私もわかっていましたけど……」
「――というのが理由の一割を占めています」
「一割?では、残りの九割は?」
「私の趣味です」
「そうだったのですか!」
「冗談ですよ、そんなことはありません。もちろん、その事情はさとりさんもご存知になられていたでしょう。だからこそ話を合わせてくださったのです」
 調査に訪れた地霊殿の主、古明地さとりは早苗が考えていることを読み、事情を把握した上で早苗の聴取に協力したのだった。表向きはペットのことについて語っているように話を進め、それでいて必要な情報はしっかりと引き出した。
「それで、お空さんやお燐さんを始めペットたちは異変が起きた当時には地霊殿にいた、つまりアリバイがあったことを確かめたのですね」
「その通りです」
「しかし、お空さんやお燐さんが犯人ではないとなると一体――」
 誰が犯人であるのか。早苗はその名を押さえているらしいのだが、それを椛に教える気は、今はまったく持ち合わせていないようだ。理由は簡単で、「だって、それを言ったら面白みがなくなっちゃうじゃないですか?」というのが早苗の正直なところである。
「それに、これからどうすればいいのでしょう。犯人を捕まえなくていいのでしょうか」
 椛が困った顔をすると早苗は自信に満ちた声で言った。
「それについては抜かりありません。私がこれからすべきことは決まっています」早苗は椛のほうへ向き直り、続ける。「そろそろ頃合いでしょうからね」
「何をする気なのですか?」
 椛は何を考えているのかさっぱり窺い知れない隣人に、今日幾度目となるかわからない質問を続ける。
「まずは、山で酒宴を開くのです」
「?」
 何の前触れもなく現れた『酒宴』の単語に椛は戸惑う。
「別に酒を飲むことが目的ではありませんよ。一ケ所に皆を集めるということが目的なのです。そして皆が集まったその場所で――」
 早苗は不敵に微笑んだ。
「――解決編を行います」
 早苗が言い終えると、そこに一陣の風がなびいた。落ち葉を宙に舞わせ、二人の髪を掻き上げる。芯まで冷える寒風に、それでも東風谷早苗は揺るがなかった。
「さあ、ここからがクライマックスです」



★ ☆

「皆さんに集まってもらったのはほかではありません」
 早苗がお決まりの文句を言った。
 守矢神社の酒宴に集まった烏天狗の新聞記者たち、河童ギルドの職人たち、流し雛軍団の団員、そして白狼天狗の自衛隊の隊員の視線が境内を見渡す位置に立つ早苗に集中した。
 都合のいいタイミングに都合のいい面々が集まっているのは、ありきたりなご都合主義のためでなく、伊吹萃香が『萃めた』からであった。萃香もこの酒宴に参加しているが、余計な圧力を与えないよう存在を霧散させていた。丁度、萃香が幻想郷へ帰って来た際に頻繁に行われていた宴会のときと同じように。
 これからこの現人神が一体何をするのであろうか。わかる者とわからない者とで反応はまちまちだ。それでも、面白いものが見られるだろうという期待は誰の胸の中にもあった。
「今から、現在この妖怪の山を襲っている異変のその正体を、そして異変を引き起こした犯人を暴きたいと思います」
 その場にどよめきが起こった。各々が隣の者と顔を見合わせ、あれこれ意見を交わす。早苗の隣にいた椛がそれを鎮めようとしたのだが、加熱したその場は収拾がつかなくなっていた。

「静粛に」

 厳かな、それでいて親しみの籠った声が皆を一喝した。
 八坂神奈子の声であった。
 先ほどまでの賑やかさが嘘のように静まり返った。
「続けなさい、早苗」
「はい」早苗は深く頷く。「今、山に起きている異変を整理してみましょう。皆さんは今日配布された文々。新聞の号外をお持ちでしょうか?」
 文々。新聞――射命丸文が発行している新聞で、今日に限っては紙面に踊るのは活字ではなく手書きの文字であった。印刷機が不調であったために、急遽手書きの原稿を発行したのだった。
「射命丸さん。印刷機が不調とのことでしたが、印刷機はもしかして『写真印刷』の方式を採用していたのでは?」
 写真印刷。河童の進んだ科学技術によって生み出された――正しくは外の世界の技術を再現した――ものであった。
「えっ……ああ、そうです。それが使えなくて、活版印刷でもできなくはなかったんですが手間がかかるので手書きの記事にしました」
 文は早苗の質問の意図を掴みかねた。何故このタイミングでそのようなことを聞いてくるのだろうか。
「ただ、確認しただけですよ。それ以上の意味もそれ以下の意味もありません。では始めましょう、まずは紙面をご覧ください」
 新聞を持たない者も、持っている者に体を寄せて記事を読む。
「そこに書かれている通りですが、山に起きている異常の特徴を上げるとすればこの二つでしょう。

・妖怪の山の生物が異常行動を取っていること
・妖怪の山の機械が相次いで故障していること

 これは皆さんもご存知のことと思います。それだけでなく、ここに集まっている方はこの異変により少なからず影響を受けているとお見受けします」
 烏天狗たちや河童の技術職人たちはしきりに頷いていた。河童たちは故障した機械の修理に駆り出されていたのである。
 そして、流し雛軍団もまた異常事態を体験した張本人であった。動物たちの異常行動を治めるべく、長の鍵山雛を筆頭に動物たちの厄払いをしたのだった。
 だが、それらの原因は何なのか、依然不明であった。
「謎が謎を呼び、異常は異変となった」
 早苗の言う通りであった。しかし早苗はその異変を暴くとも言ったのだ。
「ですが、私はその異変の正体を掴むことができました。それは、この隣にいらっしゃる犬走椛さんの存在があってこそだったのです」
 ざわめきは白狼天狗たちの中から巻き起こった。
 ――椛が異変の解決に貢献した?あんな天狗騒がせな下っ端が何をしたって言うんだ。
 白き狼たちは半信半疑で早苗の言うことを聞いていた。
「異変の謎を解く鍵は椛さんが見つけてくださったのです。そして、それはこの号外の記事にも書かれています。

・天狗が夜中に妙な紅い火を目撃したとの情報

 詳細は記事に書いてある通りです。記事では目撃者は『天狗』とだけしかありませんが、その『天狗』こそが、椛さんだったのです」
 白狼天狗たちと河童たちの一部には周知の事実であり別段驚くこともなかったのだが、そのほかは驚いたような、それでいて納得したような表情を浮かべていた。
「もうおわかりですね。椛さんが見た『紅い火』がこの謎の鍵だったのです。そして私は異変を起こした者の正体を悟りました」
 早苗はそこで間を開ける。皆が次の言葉を待ち構えていた。
「もったいぶらないで、早く言っちゃいなよ。早苗」
 洩矢諏訪子――八坂神奈子と並ぶもう一人の神が早苗を促した。その声は皆の気持ちを代弁するものであった。
「では単刀直入に言いましょう。この異変を起こしたのは――」
 早苗の表情が厳しくなり、より真剣味が増す。そして神色自若として言い放った。



「この異変を起こしたのは、天照大御神です」



★ ★

「天照大御神ぃ!?」
 椛は早苗の素っ頓狂な答えに思わず叫んでしまった。しかし早苗は至って真面目な顔をしている。
「はい、その通りです。もっとも、呼び名は様々なものがありますが。アマテラスオオミカミ、テンショウダイジン、オオヒルメノムチ。ここでは古事記に準拠して天照大御神――アマテラスオオミカミ――としましょう」早苗は尚も続ける。「そう考えることで椛さんの見た『紅い火』についても明確な説明ができるのです」
 椛は何かを言いかけたが、言葉を飲み込み、早苗の語ることを聞き逃さないよう努めた。
「椛さんが見た『紅い火』は幻想ではなく実際に存在したのです。私たちには視認することはできませんでしたが、たしかにそれはあったのです」
 そこで文が質問を挟んだ。
「一つよろしいですか?偉大なる祖神のことは、今は突っ込まないでおきましょう。しかし椛さんが見た『紅い火』とは何だったのですか?まずはそれをはっきりとしてもらわなければ」
 早苗は素直に「ごもっともです」と認めた。
「それでは先に説明してしまいましょう。今問題となっている『紅い火』とは『オーロラ』のことだったのです」
 ――オーロラ!
 その答えに一同は虚を突かれた。一呼吸置いて、納得あるいは不満の感情を露わにした。
「今ので納得頂けた方もいらっしゃいますが、そうでない方には疑問に思われることでしょう。それはオーロラについての知識を半ば持っているだけに、その固定観念が抜けていないからだと思われます。そこで聞きましょう。椛さん、オーロラのことは知っていますね」
「はい、南極や北極で見られる、カーテン状の光のことですよね。青や緑の薄い光が空に漂う……」
「そのオーロラですよ。妖怪の山には外の世界の文化や知識が少なからず普及しているようですね、椛さんの得たその知識もそこに起因するものでしょう。そしてその知識を持っているが故に思うことでしょう」

 ――何故北極や南極に現れるオーロラが『東方』に現れるのだろうか?

「答えは単純です。どこでもオーロラは発生し得るのです――無論条件が揃っている必要があるのですが。ただその条件が南極や北極では揃いやすく東方では揃いにくいというだけです」
 早苗はその場で、集まった者たちを一瞥した。皆一様に早苗が語るのを待っていた。
「そして日本のような低緯度の――極点から離れた距離にある――地域で見られるオーロラの色は一様に紅いものなのです。理由を説明すると長くなりますので、夕焼けが紅い理由を気にしないのと同様に気にしないで頂けると助かります」
 それでもまだ疑問が残されていた。オーロラが発生したとして、それが見えなかったのは何故なのか。その疑問も早苗の予想していたものであった。
「オーロラというものは発生したからといってその全てが見えるものでもないのです。肉眼では確認できなかったものが、カメラのレンズを通したオーロラが写真や映像という媒介によって確認できた、ということもあります。今回も同様に肉眼では確認できないオーロラがそこにはあったのです」
 そこでようやく皆が納得したようだった。一人の白狼天狗を除いて。その一人の疑問もまた、早苗の把握するところであった。
「しかし、どうでしょう。そこに、カメラのレンズに匹敵するような優れた眼を持つ者がいたとしたら?」
 そこで一人の白狼天狗に視線が集中した。皆の焦点は犬走椛に合わせられた。
「たった一人だけそのオーロラを見ることができる者がいたのです。それは『千里先まで見通す程度の能力』を誇る眼を持つ椛さんにほかなりません」
 オーロラが椛でなければ見ることが叶わなかった理由は、そこにあったのだ。
「そしてオーロラは太陽から来る帯電微粒子によって起こるものであり、それは磁気嵐に付随するものです。磁気嵐、言葉の通り磁気が荒れるのです。今回の異変では機械の故障がありましたね。故障した機械というのはカメラや写真印刷の印刷機という並びから推察して、精密機械がほとんどだったと思うのですが。どうでしょう、河城にとりさん?」
「ひゅい?」河童は虚を突かれ一瞬思考が停止した。「ああ、そうだね。そうだったよ」
 河童の職人たちも口を揃えてそれを肯定した。
「繊細な構造の精密機械であれば磁気の異常の影響を受けることもあるでしょう。そして動物の異常行動です。動物の異常行動は災害の兆候と捉えられることが多いです。長く生きている皆さんならば実際に体験したこともあるでしょう。そのようなことが起こるのは災害時における地殻変動やその他の要因により電磁波が発生するからと目されています。動物はその微かな異常を敏感に感じ取り行動でそれを示すのです。今回も同じことでしょう」
 ただ、その電磁波が地殻変動によるものでなく、太陽からの磁気嵐によるものだった。早苗はそう補足した。
「冬眠した動物が起きだして巣から出るというのもそれが原因です。あとは危険を感じ取った猫がいつの間にかいなくなっていたということも起こりますし、体内に磁気コンパスを持つ鳥類が方向感覚を乱されることもあるでしょう、そしてオオカミが異様に吠えるということもあるようです。もっとも、理性をお持ちの白狼天狗の皆さんは野生のままに吠えることこそないものの、何かしらの異常を感じていたのではないですか?」
 白狼天狗たちは顔を見合せ意見を交わす。
 ――言われてみればそうかもしれないな。
 白狼天狗の意見はその方向にまとまった。
「もうこれで謎は残されていませんね。それともまだ何かわからない点がありますか?」
 早苗は皆に聞いたが、質問をしてくる者はいなかった。
「これで私の話は以上です。最後までお聞きくださりありがとうございました」
 頭を下げる早苗に盛大な拍手と歓声が送られた。山の異変は聡明な山の神により解明され、余計な謎に惑わされることもなくなったのだ。皆は才色兼備たる現人神を大きく讃えた。

「さて」

 神奈子は胡坐を解いて腰を上げた。
「今説明があった通り、一連の異変は太陽――ひいては太陽を司る天照大御神によるものでした。そうであるからには簡単に異常が治まることはない、天照大御神の御心次第ではまた異常が起こることも考えられるでしょう。しかし、これを神の仕業と見ずにただの現象と反駁することもまた可能です。ですが、それで何を得られるというのでしょうか。行き過ぎた唯物が招くのは観測者自体の没落です。自分という存在すら取るに足らないものという結論に到ってしまうのですから、そこから心の豊かさを得ることなど到底不可能なのです。もっとも、心の豊かさという指標は恣意的なものに過ぎな――」
「つまりは、モノやコトには神の御心が籠っているっていうことだね。だから日々の生活と信仰は切り離せないってことだよ!ってこれくらい簡単にまとめられないものかね。神奈子の話は説教染みてて聞いててやんなっちゃうよ」
 話に割って入った諏訪子に、神奈子は鋭い視線を送る。蛇に睨まれた蛙、という構図にはならず諏訪子もまた神奈子を睨み返す。
 火花が散っていたようにも見えるが、実際に火花が飛んでいたならそこら中に充満している気化したアルコールに引火していただろうから、それはなかったのだろう。
 その場は早苗がなだめて、どうにか険悪なムードになることは阻止した。
 守矢神社の神の話が終わった後も宴は盛り上がりを見せていた。悩みの種がなくなり、酒を楽しむ余裕ができたのだろう。
 時が経つにつれ、喧噪はより激しさを増していったのだった。



★ ☆ ☆

 真夜中。守矢神社は閑散としていた。神社で用意していた酒が尽きたために、酒宴は天狗の集落に場が移されたのだ。自由参加の二次会という形で、参加しない者も少なからず存在した。早苗と椛もその類であった。
「早苗さんは二次会に参加しないのですか?あっ!境内の片付けが残ってるんですね。そういうことなら私もお手伝い――」
「それでは、椛さん――」
 早苗は椛の言葉を途中で遮った。
「真犯人を捕まえに行きましょう」
「はい、そうですね。って、ええっ!じゃあ、さっきの話は何だったのですか?」
「あれは嘘ですよ。むしろギャグと言っていいほどのものでしたが」
 早苗は前言――皆の前で行われた異変の解説――をフルスイングで撤回した。
「私が本当に天照大御神が犯人だと考えていると思ったのですか?いえ、お気になさらずに。そう思って頂けなければ意味がないのです。敵を騙すにはまず味方から、常識にして定跡です」
 椛はようやく悟る。早苗は真犯人を油断させるために、わざと犯人が天照大御神だというとんちんかんな推理を見せたのだと。早苗が言っていた最終手段とはこのことだったのだろうか。
「ですが、いくら犯人を捕まえるためとはいえ、神の名を使うというのはバチ当たりなのでは?」
「これでも神に仕える者です。天照大御神には直接お名前を使わせて頂けるか聞きました」
「それで何と言っていたのですか?」
「イエスと言っていました。神だけに!」
「多宗教国日本!」
「そういうことです。では行きましょうか」
 早苗は飛び立ち、椛を先導する。早苗は行く方向を決めているらしく、真っ直ぐ進んで行く。麓の方角へ一直線、その飛ぶ速さから急を要していることが窺い知れる。
「そういえば――」
早苗は飛ぶ速度を落とさないままに、椛に語りかけた。普通なら風に溶け込んでしまうその音を椛は鋭敏に聞き取った。
「椛さんは、今日は剣と楯を持っていないのですね」
 位置的に風上の位置にいる早苗に対し、椛は声を張り上げて答える。
「基本的に仕事が入っていないときには置いていくようにしています。随分と重いので、普段から持つには邪魔になるのです。やはり、犯人と対峙するとなると必要になるでしょうか」
「いえ、その必要はありません。むしろ、なくて好都合です」
「?」
 そうこうしているうちに、椛が見覚えのある場所へと達した。
 山の麓に近い、落葉樹の茂る場所。その中でも、そこだけは木々が開けていて、一つの社が建っていた。早苗はその前に降り立ち、社へと歩を進める。椛もそれに続いた。
「あれ、ここって……」
「秋姉妹の住まう社です」
 早苗は社の入り口でノックをし、
「急に訪ねてしまい誠に申し訳ないのですが、入ってもよろしいですか?」
 返事を待たずに中へと入り込んだ。中で明かりを灯すことなく酒に入り浸っていた秋姉妹がその来訪者を睨む。
「静葉さんと稔子さんに大事なお話があるのですが」
 思いも寄らぬ言葉に椛は社の外で立ち尽くしていた。
 ――そんな、まさか!
 有り得ない、椛は頭に浮かぶその考えを必死に否定しようとした。
「秋姉妹が、真犯人だったなんて!」



★ ★ ★

 ここは守矢神社。朝の冷たく、それでいて爽やかな空気を吸いながら、早苗と椛は昨日の宴会の片付けに追われていた。酒瓶を箱に詰めては、その箱を積み、飲み散らかし食い散らかしを掃除する。
 人数が二人だけなので大変ではあったのだが、消化の済んでいない流動体と胃液の混合液体が零れていないだけ、精神的には楽であった。山の妖怪は酒に強いので、そのような心配は必要ないのだが。
「いやー、意外な犯人でしたね」
 椛は感慨深く、二日前からの一連のことを振り返った。
「今思えば二日前からの三日間、時間的には丸一日と少しですが、色々なことがありました」
 夜中の見張りの仕事の後に不可解な『紅い火』を目撃し、夜が明けてからはそれを含めた異変についての調査。山頂へ登ったり地底に潜ったりのちょっとした冒険。そして夜になってから守矢神社で行われた酒宴での、早苗による異変の解明。しかしそこで早苗が行った解決編は犯人を油断させるためにあえて行ったダミーの解決編であった。
 そして今日の未明に行われた真犯人の逮捕劇に繋がる。
「でもいつからわかっていたのですか?話を聞く限りでは随分早い段階で犯人に目星を付けていたようですけど」
「そうですね。最初からおかしいとは思っていたのですが、その時点では何度も言っている通り証拠がありませんでしたので、言い逃れをされる可能性が高かったのです。調査の末にあの方たちが犯人だという確信を得られたのですが、それでも証拠を得るには至りませんでした」
「そこで最終手段を採ったわけですね」
 早苗は口角を上げてアルカイックスマイルを見せる。肯定の証であった。
「はい。証拠がないなりに犯人を捕まえる方法はあるのです。それは――」
 早苗は椛と目を合わせ、次の言葉を譲った。
「現行犯逮捕、ですね」
「ええ。それは最終の手段ではありましたが、幸いなことに今回においてそれは最悪の手段ではありませんでした。もし相手が連続殺人犯であったなら話は違っていましたでしょう。連続殺人犯を現行犯で捕まえようとしたなら、みすみす被害者を増やしてしまったり、捕まえようとした者が返り討ちに遭ってしまったりすることもありますから。
 ですが今回は死んでしまった動物がいたのですが、直接殺したわけでなく殺意もありませんでした。少なくとも連続殺人犯を捕まえるよりは安全でしたね。そして狙い通り犯人を捕まえることができました」
 そして椛が犯人のお縄を頂戴したのである。
「現行犯逮捕、外の世界の警察みたいですね……あっ!」
 椛はあることを思い出した。早苗は「気付きましたか」と一言。
「だから『犬のおまわりさん』だったのですね!」
「ギャグを解説されてしまうと返す言葉がありませんよ」
「あわわ!すいません!」
「いえいえ、いいですよ。地底では椛さんに悪いことをしてしまいましたし、これでおあいこです」
「こちらがものすごく損しているような気がするのは気のせいですか?」
「気のせいです」
「早苗さんが言うならきっとそうなのでしょう。でも地底に調査した意味はあったのですか?今思うと調査内容があまり充実していなかったような……」
「まったく意味はありませんでしたよ。例えば私たちの地底での調査内容が一万二千字ほどでまとめられていたとして、それを読む必要性はまったくないでしょうね」
「ええっ!じゃあ、どうして……」
「だって、暇じゃないですか?」
 あっけらかんと答える早苗を、椛はぽかんとだらしなく口を開けて眺めた。
「犯人を追いつめる算段は早い段階で決まっていたのですが、おそらく犯人は夜になるまで動かない。すると、それまで時間が空いて暇になるでしょう。ですから、それまで遊んでいたのです」
「それじゃあ、地底での調査は遊びだったんですか……」
「最初から遊んでいましたよ。私のとっては昨日からの一連のことは『探偵ごっこ』という遊びだったのです。もちろん『ごっこ』とはいえ、本当に犯人を捕まえることができましたが」
 早苗はそれがなんでもないことのように言う。
「そんなぁ……」
 今まで自分がしてきたことは何だったのか。
 力が抜けて、だらしなく座り込む椛を早苗は不思議そうに見つめた。
「あの――」
 早苗はしゃがんで椛と目線を合わせる。

「暇なときに友達と遊ぶことが、それほどおかしいことでしょうか?」

 あっ、と椛は声を漏らした。
「い、今、早苗さん、私を友達と……」
「違うのですか?」
 椛は顔を赤くして首を横に振った。
「でも、私は天狗の下っ端で……早苗さんは山の神様で……」
「私は――」
 早苗は椛の言葉を打ち切った。
「幻想郷へ来て、自分の料簡が如何に狭かったかを思い知らされました。皮肉にも、外世界よりもよほど狭い幻想郷において、ですよ。そして気付いたのです。現人神とは言われても、神としての私の位はそれほど高くない。だから、私も――下っ端なのですよ」
 そこで早苗は椛の左肩に自分の右手を置いた。
「これなら、私たちは対等と言えるのではないですか?」
 椛はそこで言葉を返す。

「途中でペット扱いしていた人の台詞とは思えませんね」

 早苗は意外な言葉にきょとんとしてしまう。
 そして、突如笑い始めた。
「ふふふ。椛さんもなかなかどうして、ずけずけとものを言うのですね」
 椛も早苗に笑い返す。
「友人に対してだけですよ。普段は気を遣って大変なんですから」
 私も同じです、早苗は頷いた。
「そうだ。早苗さん、大将棋の打ち方を教えてほしいって言っていましたよね。もしよかったら今から打ってみませんか?」
「そうですね。ご教授願いましょう。ですが、椛さんのお勤めはどうするのですか?」
「大天狗様のご厚意で、謹慎の期間をそのまま休暇の期間にしてもらいました。ですから暇で暇でしょうがないのです。今度は私の暇潰しに付き合ってもらう番ですよ」
 椛は昨日から神社に置いていた盤を持って来て、駒を並べ始めた。
「普通の将棋のルールなら知っているのですが」
「それなら大将棋のルールの飲み込みも早いですよ」
 駒を並べ終えると、椛は駒の動かし方の説明にかかる。

 そのときであった。

 突如吹いた風が、盤上の駒を全て吹き飛ばしてしまった。
「あやややや、いい雰囲気のところすみません」
 一呼吸遅れて、
「文さん!どうしてここに?」
「新聞が刷れたので、届けに来たのですよ。お二人には真っ先に届けようと思いまして」
 そういうことか、椛は納得した。
「いやいやお手柄でしたね、椛さん。真犯人を逮捕したとなると、株もぐーんと上がりますよ!」
 文の言葉に椛は照れながら頭を掻いた。
「ふふふ、自分で言うのも何ですが、私の事件に対する嗅覚は並じゃないですねぇ。二次会を抜け出して正解でしたよ。犯人を捕まえる決定的瞬間を写真に収めることができたのですから!記事も、写真に負けないくらいにいいのが書けましたよ」
 そう言って抱えていた新聞の束から、二つを取り出して手渡した。
 新聞には写真が座り活字が踊る、どうやらカメラと印刷機の不調は直っていたようだった。
 早苗と椛は共に、自然と見出しの大見出しを追いかける。

『犬走椛お手柄!』

「こう大きく書かれてしまうと照れてしまいますね」
「椛さん随分と顔が赤いですよ。それでは赤狼天狗になってしまいます」
 早苗と椛は顔を見合わせて笑う。文もその輪に加わって笑う。
そして三人は、大見出しの脇に書かれているトピックを満足気に眺めたのであった。





『山の異変を起こした真犯人は霧雨魔理沙!!!』





★ ☆ ★

「白狼天狗の詰め所のすぐ近くで犯行が行われていたとは、灯台下暗しとはよく言ったものですね。さあ、追い詰めましたよ。この異変を起こした張本人、霧雨魔理沙さんと河城にとりさん!」
 早苗は力強く声を張り、明かりを灯した。強い光を浴びた二つの影の、その正体が鮮明に描き出される。
「ひゅい!」
 河童は急に発せられた強い光にひるみ、身震いをしながら振り返った。人間も釣られて後ろを見る。逆光でよく見えないが、シルエットからそこに立っているのは東風谷早苗と犬走椛であると確認できた。その背後では山の大瀑布がそびえ、膨大な質量の水がその身を落とし轟々と音を響かせている。
 にとりと魔理沙は顔を見合わせ、そこで魔理沙は隣の河童を睨みつけた。
「おいおい、早苗。勘違いしてもらっちゃあ困る。私は山の異変を起こしたにとりの奴を懲らしめに来ただけだぜ」
「うわっ、酷!裏切りやがった!」
「裏切ったも表切ったもないぜ。私があたかも共犯であるように言って、道連れにしようだなんて、何てふてえ犯人だ!」
「うぐぐ、何て薄情な。そっちがそう来るならこっちだって!」
 そう言ってにとりは魔理沙のグリモワールをひったくった。そしてあるページを開いて早苗と椛に見せる。暗くて文字も小さいため早苗には見えなかったが、椛にはそれが見えた。
「それは!計画のメモ書きです――『人工オーロラ計画』の!」
「そうだよ、椛。一連のことはオーロラを見ようとした魔理沙が計画したものなんだ。私はそれに付き合わされてただけなんだよ。黒幕は魔理沙のほうなんだ!」
 バレたか、魔理沙は悔しそうに歯ぎしりをする。
にとりが示したそれは魔理沙が犯人であるという動かぬ証拠であった。
 しかし椛には謎が残る。
「でも、にとりさんはどうしてそんな計画に加担したのですか?その計画のために山に皆の混乱を招いたのですよ」
「うぬぅ……だってぇ、しょうがないじゃん。先立つものはキュウリって言うでしょ?」
 河童はキュウリで買収されていたのだった。毎年夏にキュウリを提供するという契約を結び、それを信用して計画に参加したのだ。その信頼関係はここで解消してしまうことになるのだが。
「くそ、図ったな。早苗!」
 吠える魔理沙を早苗が余裕の表情で笑った。
「その通りです。異変の正体が天照大御神だというのは方便。あなたたちが再びここで犯行を行うところを押さえるための!」
 魔理沙とにとりは揃って唸った。
 ――早苗は異変が天照大御神によって起こされたという答えに満足していて、しかもその考えを山の皆が支持している。自分たちへのマークは完全に外れている。
 そう思ったがために、この場で再び『計画』を実行しようと思ったのだが、それこそが早苗の思う壺だったのだ。
「あなたたちが犯人である証拠は結局掴めませんでした。それでも捕まえる方法はある。現行犯逮捕ならば、証拠探しなんて煩わしいことも必要ありませんからね」
 にとりと魔理沙は体を擦り寄せ、背後にある箱を隠していた。
 350×350×350のサイズの箱で、重低音を発しながら――その音は滝にかき消されているが――振動している。にとりが踵で箱を蹴ると、その振動が止まった。停止スイッチを押したようだ。
「隠しても無駄ですよ。それが何かはわかっています。プラズマ発生装置ですね」
 人間と河童は答えない。早苗はそれを肯定の証と受け取った。
「水場の近くのこの場所にはマイナスイオンが満ちていますからね。それを利用してプラズマの発生を活性化させようとしたのでしょう。そして、その機械には磁場を乱すような、磁気嵐を再現するような機能もあるのではないでしょうか。プラズマと磁気嵐はオーロラを発生させるためには必要な条件ですからね」
 そこで椛は質問を挟む。
「プラズマというのは一体……」
「一言で言えば、プラズマとは幻想を構成する粒子のことです。それ以上の説明や理解はここでは不要です。そしてプラズマには幻覚作用を催す可能性が指摘されています」
「幻覚作用……まさか私が見た『紅い火』というのは……」
「椛さんが考えている通りだと思います。椛さんが見た『紅い火』というのは、実在した紅いオーロラであり、同時にそれとプラズマによって喚起された幻想でもあったのです」
 早苗は椛のほうから魔理沙とにとりのほうへと向き直る。
「あなたたちが、すぐにでも、ここで再びオーロラを発生させようとするであろうことは読んでいました。プラズマには一度発生した場所で発生しやすくなるという性質がありますからね。次こそは成功すると思っていたのではないですか?」
 にとりは素直にそれを認めた。
「そうだよ、その通り。でも、これが最後のつもりだったんだ。わたしだって山に迷惑がかかることを何回もやろうとは思わないよ。でも、どうしてそれに気付いたの?オーロラは自然発生したものだとも考えられるじゃない」
「たしかにそうですが、少し考えればわかること。オーロラが現れるのは遥か上空、地表付近には現れないものです。しかし実際問題として椛さんが地表付近――滝の辺りに現れたオーロラを観測している。ここに矛盾が生じてしまう。ですが、一つの仮定を採用するだけでその矛盾は簡単に解決されてしまうのです。

 ――オーロラの発生源は滝の付近である――

 そして、オーロラを発生させる磁気嵐の根源も太陽ではなく、山にあった。そう考えれば山の機械が故障した原因にも説明がつきます。普通の磁気嵐にそれほどの効果はありませんからね、もしそうだとしたら写真や映像として残っているオーロラはどのように捉えられているのでしょう?不思議でなりませんね」

「まだだ」
今まで黙っていた魔理沙が早苗に食いかかる。「まだ納得できないぜ。それはいいとして、どうして私たちが犯人だってわかったんだよ」
 早苗は魔理沙の困惑を覚の如く把握し、笑みを浮かべる。
「その確信が得られたのは大図書館にあった、とあるものを見たときのことでした」
「大図書館?そんなところに何が……」
 魔理沙には心当たりがまったくなかった。
「証拠にはならないようなものですよ。しかし私の考えが正しいことを証明するには充分過ぎるものでした」
 早苗はそこであるものを取り出した。布で包まれたそれが姿を現す。
 一冊の小冊子。にとりはそれに見覚えがあったが、魔理沙はそれが何かはわからなかった。
「どさくさに紛れて借りてきちゃいました♪」
「なっ、それは――」
 にとりはそれが何かわかったからこそ、その意図が理解できなかった。
 大図書館の貸し出し記録。まさか貸し出し記録が貸し出されるとは大図書館の主も思ってもみなかったことだろう。
「にとりさんは比較的最近に『よくわかる!プラズマ』という本を借りていますね。そこから今回のオーロラを発生させようという計画の一端を掴むことができたのです。そして魔理沙さんは『図解・レーザー核融合』という本を借りています」
「ちょっと待てよ。私はそんなものに記録した覚えはないぜ」
「小悪魔さんは魔理沙さんが黙って借りた本を見つけ次第記録していたのですよ。もしこの記録がなければ、あるいは先ほどの『にとりを懲らしめに来た』という言葉を鵜呑みにしていたかもしれません」
 それはないだろうな、椛は思った。
「核融合にプラズマは付き物ですからね。そこから興味の方向がプラズマ、さらにはオーロラにまで向かったものと推理したのです。案の定その通りでしたが」
 魔理沙はそこで妖しく笑った。
「これで私を捕まえたと思ったら大間違いだ。私には策がある」
「今さら何をするのさ、魔理沙」
「たったひとつの策だぜ。それもとっておきのな!」
「まさか、それは……」
 早苗にはとある予感があった。
「逃げることだぜ!早苗、お前の次の台詞は『さすがにジョジョネタは自重してください』だ」
「さすがにジョジョネタは自重してください……はっ!」
 早苗が動揺する隙に魔理沙は箒に跨り飛び立った。
「あっ!」にとりがあることに気付いた。
「どうしたのですか、にとりさん」椛が尋ねる。
「魔理沙、私の新型迷彩スーツ持って行きやがった!」
 椛とにとりに動揺が走る。しかし早苗はすぐに冷静さを取り戻していた。
「私はにとりさんを見張っていますから、椛さんが魔理沙さんを捕まえてください」
「えっ!私ですか?」
「それじゃあ頑張って、椛。魔理沙をとっ捕まえるんだ!」
 突如任された大役に椛は尻込みしてしまう。
「ですが私にそんなことは……最初のときだって取り逃して侵入を許して……今回は新型迷彩スーツを持ってるんですよ……捕まえることはおろか見つけ出すことすら怪しい……」
「椛さんならできます。いえ、椛さんでなければできないことなのです!」
「私にしかできない……」
 早苗は頷き、椛の両の手を握った。
「私は椛さんを信頼しています。椛さんはその信頼を――」
 早苗は問いかける。
「裏切るのですか?」
 椛は呆けた表情を浮かべ、刹那、表情を引き締める。
「私は山を護る誇り高き白狼天狗が一人、犬走椛。信を置かれて尽くさぬ義は持ち合わせておりません。必ずや霧雨魔理沙を捕えてみせましょう」
 色を正した椛には普段の頼りなさは微塵も見られない。
「その意気です!」
 早苗は椛を強く励まし、その勢いのままに天高く右手の掌を突き上げた。

 次の瞬間、天蓋は紅に染まった。

「これは……」
 早苗が起こした奇跡?しかしこの奇跡にはどんな意味が?
 椛は天の紅を見て気付く。その様子を見て早苗は言った。
「これは、椛さんの色です」
 そう言って、現人神は笑った。



★ ★ ☆

 霧雨魔理沙は「ふふん、この新型迷彩スーツは開発に光の三妖精が協力した代物だぜ。絶対に私の姿を見つけられたりはしない。光の屈折の具合は能天気が保証済み。消音効果は鈍臭が太鼓判を押した。さすがに気配を消すことはできないが、消臭効果は並じゃない。腹黒はそれだけでも充分だと言っていたな。たしかにそうだ。見えない、聞けない、嗅げないの三拍子。さらに距離を取れば、触れられないし味わえない。最後に頼るとしたら第六感か。そんなの持ってるのは、勘のいい巫女かおとぼけ亡霊か気味悪い覚か境界の妖怪か……結構いるが、まあなんとかなるか」とフラグを立てていた。

「私が捕まるわけないぜ!」

 そう魔理沙が言った直後、目の前に紅い壁が現れた。
「うわ!?」
 魔理沙はスピードを落とせずにその壁に激突した。
「あれ?」
 何の衝撃もない。魔理沙が振り返ると、先ほどの壁が落ち葉の弾幕であったことに気付く。その弾幕は先ほどいた場所を中心にドーム状に覆っていた。
「当たり判定のない弾幕――いや、結界のつもりだったのか?だとしたら、それが完成する前に抜け出せたようだな。危なかったぜ」
 魔理沙は安心したが、それは長続きしない。椛が魔理沙のほうへ向かって飛んで来ているのだ。
「何でこっちに来るんだよ、そうか!」
 魔理沙は再びドーム状の弾幕を見る。そのドームには魔理沙の通った跡が穴として残っていた。

 ――そっから逃げる方向が割れたんだな。

 魔理沙は空中で急激に方向転換をした。さらに加速して椛との距離を取ろうとする。
「これで大丈夫だ。まったく、冷や冷やさせやがって――って、おい!」
 魔理沙はまたもや自分の目を疑った。
 椛はそれでも魔理沙を追っていたのだ。魔理沙はその後も何回も方向転換を試みるが、その度に椛も同じ方向へ追って来るのである。
 焦りが魔理沙の額に汗を浮かばせる。
「くっ、どうして……」
 しかしそこで挫ける霧雨魔理沙ではない。焦りながらも魔理沙の頭は自転のように着実に回転する。そして一つの答えを出した。

 ――風切り音か。

 新型迷彩スーツの消音効果、消光効果、消臭効果はスーツの内側にだけ作用するものだ。したがってスーツの外側にはその効果が及ばない。
「だらだら飛ぶのは性に合わないが、ここは仕方ないぜ」
 魔理沙は風切り音が出ない程度にまで速度を落とした。これなら音で位置が割れることもない。
 そして振り返り、安全を確かめる。
 しかしそれは叶わなかった。
 尚も椛は魔理沙に迫っている。そして着実に距離を詰める、詰める、詰める。速度を落として飛ぶ魔理沙との間をどんどん詰める。
「何なんだよ、一体!」
 椛は何か目印でもあるかのように確実に魔理沙を追って来る。
「まさか、故障してるのか?いや、それはない。電磁波に対するガードは万全、昨日だってこれを使って逃げたんだから。でも、やっぱり……」
 魔理沙はスーツを内部から点検した。スーツは内側から外側が透けて見えるようになっている。魔理沙は今透明な毛布を被っているような状態だ。もちろん魔理沙の姿を外側から見ることはできないのだが。
 魔理沙はそこで、あることに気付いた。
 スーツに落ち葉が何枚かくっついている。くっついているのは外側、もちろんそれは椛にも視認できる。

 ――あのときか。

 落ち葉の弾幕と衝突した際に、そのいくつかがスーツについていたのだ。
 魔理沙は「仕方ない」と一言。スーツから手を出し、葉を払い落した。
 手がべとつき、スーツから出した手を見られてしまったが、これでもう場所を悟られることもない。
 魔理沙はようやく安心し、

「おかしいとは思わないのですか?」

 椛がその安心を打ち砕いた。椛はしっかりと魔理沙のほうを向いて話している。完全に魔理沙の位置は把握されていた。
「ああ、そちらの音は聞こえてこないのですね。では返答を待たずに続けましょう。変ではありませんか、さっきは魔理沙さんは随分とスピードを出していたじゃないですか。それなのにどうしてくっついていた葉が落ちなかったのでしょう。おかしな話ですよね」
 魔理沙はそこで改めて、落ち葉の弾幕でできたドームのことを思い出した。
「実はあの落ち葉ですが、秋姉妹に用意しもらったものだったです」
 ――秋姉妹と落ち葉にどんな関係が?
「落ち葉は静葉さんが集めたものです。そして落ち葉にはあるものが塗られていました。稔子さんの作った化粧品です。それが植物の分泌する粘液から作られたものであったために、その粘性によってスーツに貼り付いたというわけです。そして、その化粧品には香料が含まれていたのです」

 ――まさか?

「私は、その匂いを辿って魔理沙さんを追っていたのですよ」
 白狼天狗の卓越した嗅覚。それを最大限に発揮し、スーツに付着した香料の匂いを嗅いで魔理沙の居所を掴んでいたのだ。
 魔理沙は自分に詰め寄る、犬走椛の存在を再確認した。
「言っておきますけど、犬じゃなくて狼です」
 椛は魔理沙のすぐ近くまで迫っていた。

 ――かくなる上は!

 魔理沙はスーツを捲り、八卦炉を構える。
 スーツを捲る動作の分だけ、魔理沙の行動が遅れた。
「遅い、笑止千万!」
 次の瞬間には椛は魔理沙の背後に回り、羽交絞めにした。相手は天狗、体術において地力で劣る魔理沙が敵うはずもない。
「にとりさんはすでに早苗さんの手中にあります。これで二人の身柄は確保しました」
「くそっ、こんな下っ端に……」
 魔理沙は最後の抵抗と手足をばたつかせたが、次第に力がなくなり抵抗を止め、それきり何も言わなくなった。
魔理沙は完全に打つ手をなくしていた。悔しさが顔色に滲み出ている。
「大将棋は――」
椛は魔理沙に語りかける。
「――敵将を二つ取らなければ勝ちにはならないのです」
 そして喜色満面に言い放った。
「この対局は、私たちの勝利です」
 山を護る者の、勝利宣言であった。





エピローグ

 ここは守矢神社の奥にある湖。水面は朝日を照り返し、神々しいまでに光り輝いている。
 そこには何本もの御柱が立ててあり、その一つに、

「まったく、酷い話だぜ」

 白黒の魔法使い、霧雨魔理沙が縛り付けられていた。注連縄で。
 魔理沙は山で起こした事件の罰として、山の神様たちにより、こうして御柱に縛り付けられたのだ。
共犯の河城にとりは魔理沙のように縛り付けられることはなかったものの、天狗と河童のコミュニティー内でまた別のペナルティが課されたのだった。しかし、それも犬走椛の進言でお咎めなしになったと風の噂に聞いた。風はそれを伝えるとともに、縛られている魔理沙の写真を撮って満足気に去って行った。

「自業自得以外の何者でもないじゃない」

 紅白の巫女、博麗霊夢は呆れて言った。霊夢は宙に浮き、魔理沙と目線を合わせる。実に眠そうな目で魔理沙を見ていた。
「そう言わずにさ!な、霊夢。この縄解いてくれよ」
 霊夢は面倒臭そうに「面倒臭い」と答えた。
「本当はここに来るのも面倒だったんだけど」
「じゃあ、何で来たんだ?そうか、私が心配でしょうがなかったんだな。霊夢は優しいなあ、健気だなあ、惚れちまうぜ。って、だったらどうして解いてくれないんだよ!」
 魔理沙のノリツッコミにも霊夢は表情を変えない。

「神奈子からの伝言よ」

 魔理沙はきょとんとして霊夢を見る。
「何だよ。神の言葉を預かるだなんて、まるで巫女みたいじゃないか」
「『まるで』も『みたい』もなくて普通に巫女なの!」
「でもどうして霊夢なんだ?神奈子の伝言なんて、早苗が持ってくればいい話だろ」
「早苗はどうしても手が離せないからって、諏訪子が言ってたわ。そういえば,
神奈子と諏訪子からは結構な酒の臭いがしたわね。昨日から飲んでたのかしら」
「ふーん、いいご身分だな」
 魔理沙はそこで伝言の内容を聞いた。
「神奈子は『その注連縄は自然に解けるようになってるから心配は要らない』って言ってたけど」
「自然に解けるって、いつまでこうしてればいいんだよ!季節考えろよ、冬だぜ?生理現象無視かよ!おし、霊夢。下の世話は頼んだぜ」
 霊夢は再び面倒臭そうに「面倒臭い」と答えた。本当に面倒臭そうである。
「あー、もう。いつになったら解放されるんだよ!」
 じたばたと足を振る魔理沙に、霊夢は思い出したように言った。
「そうそう、そのことについても言ってたわ」
「何て言ってたんだ?」
 博麗の巫女は厳かに神の言葉を伝える。



『反省の色が、見られるまで』

白狼天狗捕物帖〜完〜
 まず初めに、ここまで読んでいただいたことに深く感謝の意を表したいと思います。
 文量が文量だけに、それ以外に言うべきことがなかなか見つからないのですが、勢いのままに少しだけ。

 椛が活躍する物語を!の一心で書き上げました。
 椛ということで大将棋をストーリーに絡めたら、こんなに長ったらしくなってしまいました。でもこれも大将棋らしいと言えばらしいのだけど。

 というわけで、この作品が椛にとっての大将棋のように、読者の皆様にとっていい暇潰しになったのであればそれに勝る喜びはありません。そうでなかったらすいません。

 最後に自分以外の全ての者に感謝をしつつ、筆を置かせて頂きたいと思います。
智高
作品情報
作品集:
最新
投稿日時:
2009/05/09 16:06:38
更新日時:
2009/05/09 16:06:38
評価:
24/26
POINT:
156
Rate:
1.45
1. 7 佐藤厚志 ■2009/05/12 17:02:20
まるで焼肉。肉を箸で取り網におき焼き上がりを待つあの隠微な幸福なる時間。そして口に運ぶまでのあの情熱と冷静。自分で書いていて良く判らなくなりました。
ミステリーの醍醐味というべき、しっかりとした解決までの論理が書かれていて、時にはジョークも交えた、面白い小説でございました。
2. 9 ユッキー ■2009/05/13 17:42:08
全編に勢いのある活劇ものであり、さらにところどこで笑いが入って肩肘張らず飽きの来ないお話でした

それにしても、一番最後の最後にしてやられた感が
3. 3 名前が無い程度の能力 ■2009/05/13 22:39:54
メタネタは程ほどに。こんなに撒き散らすと本筋がぼやけます。

内容自体は面白かったけれど、色々と気が散って素直に楽しめなかったのが惜しい。
4. 8 リペヤー ■2009/05/14 09:28:02
拝読させて頂きました。面白かったですね。
ところどころに散りばめられた小ネタがいい感じに笑いを誘い、最後のオチもうまかったかと。
楽しいお話をありがとうございました。
5. 4 名前が無い程度の能力 ■2009/05/15 11:48:05
魔理沙はホント引っ掻き回すの方が似合ってますね
6. 6 パレット ■2009/05/18 00:19:59
全体的にコミカルな雰囲気がある中でも、微妙にメタなネタが特にいいスパイスになって、長いにもかかわらずだれることなく読めました。伏線もちゃんと張られていて、すごく面白かったです。
7. 10 神鋼 ■2009/05/19 18:30:32
やられた……途中まで読んで異変解決に見せたギャグだと楽しんでたら終盤に大どんでん返し、
それもそこまでの話を布石に使いつつも二転三転させるとは、しかも軸がブレてない……もう脱帽です。
8. 6 As ■2009/05/24 11:45:58
途中、衣玖さんとの会話で言及されていたかもしれませんが事態の調査の部分で中だるみを感じました。
もっとすっきりとしてても良かったかもしれません、終盤の盛り上げ方は良かったかと。
あと、咲夜さんが言っていた過去こんぺの話、キスメの筆者様の話など、
これらはユーモアとしてはいいのですが「書かれるキャラたちが知りえないこと」を書くので好みが分かれるところかも?
個人的には少し苦手でしたので。
9. 6 三文字 ■2009/06/04 22:12:15
ところどころのメタネタが微妙に引っかかりました。メタネタは折角、話に引き込まれていたものを引き離してしまうんですよねぇ。
にしてもこの早苗さん、良い性格してるなぁ、流石常識に囚われなくなったお方……
10. 7 読人 ■2009/06/07 02:58:35
長さは感じましたが、随所での小ネタが効いていて読みづらさはありませんでした。
タイトルに偽り無しの椛の捕物劇は面白かったです。
あれ、色は?……と思ったら最後のオチとは読めませんでした。
11. 7 有文 ■2009/06/08 01:32:15
様々なネタが詰め込まれ、楽しいのですが少し冗長な気もしないでもありません。もっとも、その冗長さも味と考えると難しく、個人的な好みなのかも知れませんが。とまれ、椛と早苗の珍捜査堪能させていただきました。
12. 8 so ■2009/06/11 07:42:53
キャラの掛け合いが非常に面白いです。
読んでいて全く飽きがきませんでした。

また、地の文が少なめなのも、個人的には非常に好感です。
少ないながらも、的確な描写のおかげで、情景がありありと浮かんでいました。

ただ、物語に関してですが、些か冗長かなと。
筆主様の力量があればもう少し短くまとめることもできたのではと愚考してみます。

もっとも、その冗長な部分も、個人的には楽しんで読めたのですが。
13. 7 ふじむらりゅう ■2009/06/11 23:01:56
 最後に上手いこと言いやがった!
「他宗教国日本!」は笑った。悔しい。
 ギャグの切れもいいなあ、メタ的な部分はあんまり面白くなかったですけど。ちゃんと伏線が回収されてて、謎解き物として楽しく読めました。椛が適度にヘタレてて、最後には美味しいところもってくのも好き。
 あと稔子が可哀想だったね……名前とかね……。
14. 4 ぴぃ ■2009/06/12 03:22:19
う〜ん、メタネタが過剰に感じました。こうした本筋と関係のないことばかり書かれると、読む側としてはどうしても疲れてしまいます。
オーロラというアイディアは素晴らしかったので、これに向かって寄り道せずにストーリーを進めることができれば、100kb超えという長さでも気にならなかったと思います。
とはいえ、これも貴重な椛の長編SS。ぜひこれからも、椛の活躍するお話を書いてあげてください。
15. 5 八重結界 ■2009/06/12 17:00:03
早苗さんの頭の回転が現人神でした。
なかなか息も合っているようですし、早苗と椛は案外良いコンビなのかもしれません。
16. 6 どうたく ■2009/06/12 17:43:47
良い所
 なんだ……この小ネタのクオリティの高さは……。
 微笑。まさしくこの二文字を誘う作品だったと思います。
 冒頭にも書いたとおり、小ネタのクオリティが卓越していると思いました。
「キスメwww」とかパチェさんの『箱』とはとにかくおもしろいものが盛りだくさんでした。
 後は、早苗がやたらとかっこよかったです。「ふっ椛くん。それは違うのですよ!」とか平気で言っちゃいそうな早苗がとてもかっこよかったです。

 改善点
 長いことは悪くはありません。ただこの作品を見ていると、「無駄に右往左往している」と感じました。
 おそらく最大の欠点は文章でしょう。
 私の意見ですが、文章が下手なのではなく、字の文が台詞に引っ張られている。と感じました。
 字の文で表現してしまえば、7行ぐらいで済む所を台詞の連続で無駄に拡張している。それが積み重なり、ストーリーを無駄に長くしている、と思いました。
 また、キャラに話を聞くだけなのに、そのキャラの経緯を説明したりと、無駄な描写が多いようにも感じました。
 真実に近づくのを遠回り、遠回りしていると言えば良いのでしょうか……、言葉足らずで申し訳ございません。とにかく無駄な部分がある? というのが私の意見です。
 最後に、完全に私の主観的な意見なのですが、椛を一人称にすればかなりまとまりが出るのではないかと思います。
17. 4 木村圭 ■2009/06/12 21:29:37
メインストーリーがよく出来ていただけにギャグが滑りすぎなのがあまりに勿体無い。
椛視点のシリアス風味にして圧縮しまくった方が良いものになったんではないかと。
早苗がアレだからそんなに重苦しいものにはならないでしょうし。
18. フリーレス ハバネロ ■2009/06/12 22:24:46
道中がずるずるしすぎ
19. 9 時計屋 ■2009/06/12 22:28:37
>「暇なときに友達と遊ぶことが、それほどおかしいことでしょうか?」
 この一言に心奪われました。
 ああ、やっぱり早苗さんは可愛いなあ。
 作者様のご意向には反するようですが、俺の目は終始早苗さんに釘付けでした。
 しかもごっこの探偵役がえらいはまってる。新作での異変解決もこんな感じのノリでしたね。

 いやしかし、これはまったく凄いSSです。ここまでやられると脱帽するしかありません。
 二転三転どころか、最後までオチが読めない展開が本当に素晴らしい。
 そこで展開される種明かしも非常に読み応えがありました。
 文章もやや説明的ではありましたが、随所にギャグも散らしてあり、いい感じに力が抜けていたと思います。

 個人的にはオリキャラがほとんど登場しない長編SSというのが実に好印象でした。
 良いSSを提供してくださってありがとうございました。
20. 7 moki ■2009/06/12 22:37:02
さっくりと面白く読みやすかったです。ただ何と言うか決め手に欠ける印象。コメディタッチな分ストーリーが淡白に見えるというか盛り上がりが弱いというか。なまじストーリーがしっかりしている分ギャグが制限されますし、ギャグが多いことでストーリーも拡散して薄くなる。ネタを抜いて真面目に書くかもっとはっちゃけてギャグに走るかした方が、個人的にはよかったなと思います。
21. 1 つくし ■2009/06/12 22:57:38
申し訳ありません、時間が差し迫っているため、採点のみにて、感想本文は後ほど改めて。
22. 10 名前が無い程度の能力 ■2009/06/12 23:21:29
夢中になって読んだ。
面白かったです。
23. 9 K.M ■2009/06/12 23:24:59
漢字ネタとメタネタ、ギャグが適度にちりばめられていてかなり楽しめました。
24. 8 渦巻 ■2009/06/12 23:36:04
少し珍しい組み合わせで進む、軽快で楽しそうな物語
飽きを感じさせない文章も勿論、良い落ちを用意してある作品に弱いです
25. 5 つくね ■2009/06/12 23:47:38
コメントはすみません後ほど。
26. フリーレス つくね ■2009/07/10 14:25:05
コメントが遅れて申し訳ありません。
さて、結局最後の最後まで犯人もなにも分からず、読み終わってとてもスッキリした気分です。早苗と椛のコンビが生き生きと描かれ、また途中の小ネタには笑わせてもらいました。ただその小ネタも途中までは良いのですがメタ系のものは、なにかと演技のように感じられてしまい(まぁキャラというのは演技しているものですが)ました。そしてすでに指摘されていますが、特に地下での会話には色々と冗長な部分が多く、読み進めるのにやや苦労したので、そのあたりはもっと短くて良かったと思いました。
名前 メール
評価 パスワード
<< 作品集に戻る
作品の編集 コメントの削除
番号 パスワード