とうに終わった後の話

作品集: 最新 投稿日時: 2009/05/09 19:55:00 更新日時: 2009/07/07 23:29:46 評価: 28/29 POINT: 155 Rate: 1.24
                              とうに終わった後の話

(注:この話は作者がある設定を完全に忘れた上で書かれています)




 人間の里を歩む妹紅の足取りは重たげだった。

 普段の白いシャツに赤地のもんぺ、何日も洗濯がされていないのか皺が寄れ、砂で不衛生に汚れたそれらは所々茶色くすすけていた。
 乾いた春の風が彼女の足首まである長い髪を揺らす。白に近い銀髪が真横になびき、風の音の消失に合わせて手を離されたようにだらんと元の位置に垂れ下がる。
 僅かに舞い上がった砂埃が髪に纏わりつき、しかし痛む気配も無くすらっとしたストレートは保たれている。

 妹紅は煩わしそうに自らの髪の毛を見やった。
 いくら切ろうが焼こうが次の瞬間には元通りになってしまうこの髪を鬱陶しいと思った事は幾度もある。
 蓬莱の薬を飲んでからの旅の途中、短く切り揃えられたならどんなにか楽だろうと恨めしそうに自らの髪を眺め、溜息をついて諦める。まあ短かったら短かったで長い髪を羨むのかもしれないが。

 この長い髪にいちいち世話を焼いて色んな髪型に結ってくれる獣人がいた。
 寺子屋で教師を勤める思慮深い一番の友人。

「…………」

 ここ一ヶ月の間、妹紅は何度もこの人間の里の大通りを歩いた。変わらない家々を眺めた。
 その間、彼女はほとんど喋ることはない。険しい表情で押し黙り、唇を硬く引き結んだままだ。

 見上げると嫌になるくらいの青空である。僅かな雲の切れ端が妖怪の山の頂上で傘を作っている。
 鳥の一匹も飛んではいない。天狗の一人も見えはしない。
 春空はがらんどうな空気によって大穴をぽっかりとくり貫かれ、そこにあらゆる音が飲み込まれてしまったかのように静粛さがのさばり、そこかしこをきつく締め上げている。

「おーい」

 この一月ずっとそうやっているように妹紅は呼びかける。誰か答えてくれる人がいると期待を寄せて、この通りを歩くときはいつもそうする。

「…………」

 しかし一ヶ月間ずっとそうやってきていつも同じように返事は無い。乾いた空気に妹紅の声がぽつんと置いてけぼりにされたように虚しく反響するだけである。

 彼女はおもむろに周囲を見渡した。
 昼下がりだというのに人っ子一人見当たらない通り。
 風が吹けば埃が舞い、枯れ葉が散って味気無い音を震わせ飛び乱れる。

 人間の里には誰もいなかった。
 家の中も、店の中も、妹紅の瞳の表側にも誰もいない。もぬけの空とはこのことなのだろう、賑やかだった以前の光景が今も脳裏に焼きついている。
 威勢のいい商売人の掛け声、路上で縦横無尽に遊ぶ耽る子供達。
 今は妹紅の心の片隅を覗かなければ会うこともできない。

 昼間の大通りだというのにこの光景は異常であった。そしてここ一ヶ月で誰にも出くわさないのが普通になった。
 人間が消えた人間の里。
 もはや里ですらない人間の里。
 ではどう呼ぶべきなのか、妹紅は考える気にもならない。



 やがて妹紅は寺子屋の前に差し掛かった。
 普段であれば子供達や先生の声が絶えなかったここも、今は誰の声も響いてはこない。

――あの子供たちの声。やかましかったけど私は好きだったな。

 たまに寺子屋に遊びに行くと、妹紅は子供に好かれる性質なのかいつも生徒達が飛びついてきて、その長い髪を遠慮なくいじくったりしてくる。
 適当にあしらってやるとそれでも楽しそうにけらけら笑っていたものだ。
 鬱陶しいと思っていたそんな日常も、今から思えば充実していたと正直に認めてもいい。

 蓬莱の薬を飲んでからというもの、不老不死の肉体を得、長い放浪の果てに辿り着いた安住の地。
 幻想郷。
 かつての楽園。


「……おじゃまするよ」
 答えるものなどいないと分かっていたが、断りを入れて妹紅は寺子屋へ入っていく。人間の里に立ち寄る時はここに寄っていくのが自然に習慣となっていた。

「…………」
 案の定ここにも誰もいない。昨日と同じだ。一昨日も、そのまた前の日もここには誰もいない。

 妹紅は教壇の近くへと近寄る。やはり誰もいない。
 ある物といえば、
「……なあ、慧音」

 教壇の上にはいつも慧音が着ている服が綺麗に畳んで置いてあった。
 最初は床の上に無造作に落ちていたのだが、妹紅が拾って整え、ここに置いたのだ。
 生徒達の机の脇にも何着か子供用の着物が落ちている。同じく丹念に畳まれたそれらに主はおらず、抜け殻だけが整然と整列しているような異様なまでのがらんどう。

「お前は……ここにいたんだよな」
 いつも獣人の友人がいた場所へ問いかける。
「ここで………………消えたのか?」

 消えた。
 それは違うと妹紅は知らされた。

 死んだ。

 慧音も。寺子屋の児童達も。
 人間の里に暮らす人々も。妖怪達も。
 レミリアも、パチュリーも、咲夜も、妖夢も、永琳も、早苗も、神奈子も、諏訪子も、さとりも、

 博麗霊夢も、八雲紫も。

 皆死んだ。

「なあ、慧音。お前なら分かるのかな。どうしてみんなが死んでいったのか。どうしてあんな、死に方をしたのか……」


 それは一ヶ月前に突然起きた。
 妹紅が竹林の中の自宅で休んでいると、規則的な虫の鳴き声も、鳥のさえずりも、不意に全ての音が消失した。
 不審に思って外へ出てみると、竹林には誰もいなかった。いつもやかましい妖怪達も、たまに見かける永遠亭の兎も全く見当たらなかった。

 何か妙なものを感じて人間の里へと行ってみると、そこにはすっかりもぬけの殻となった里が広がっていた。
 あるのは大量に散乱する服だけである。まるで人間に代わって服が活動しているように、あちこちに散らばったそれらは躍動感の名残が見て取れた。ついさっきまで人々が生きていたかのようだ。

 寺子屋に行ってみても誰もおらず、まるで大掛かりな神隠しが起きたかのようであった。前のように慧音が歴史を喰ったわけではない。それなら妹紅にも見破れる。
 消え去った。服という抜け殻を残して。
 それが消えたのではなく、死んだのだと知らされたのは少ししてからだった。


「……じゃあな」
 ここ一ヶ月間必ずそうしているように、妹紅は一声掛けてから寺子屋を後にする。
 本日の見回りは終了。絶望的な生存者の確認は明日も続くだろう。

「…………」
 妹紅は陰鬱な様相で空を見上げた。
 寺子屋を出た妹紅が向かうのは竹林の自宅ではない。彼女はここ一ヶ月の間で帰る場所が変わった。
 情報共有のためとはいえ、あんな奴と共に暮らすのは不本意なのだが。

「……はあ」
 しかしこの異常事態、そう文句を言ってはいられない。一時休戦だ。
 妹紅は永遠亭への道のりを変わらぬ重い足取りで歩いていった。







一、幻想郷最終防衛線







「あら帰ったの」
「おかえりなさい」

 永遠亭の居間。
 今は作戦本部とされているそこには輝夜と、そして幽々子が座っていた。

 二十畳はあろうかというこの広い和室には、幻想郷の各所から集められた本や魔道書、何か怪しげな紙の束などが無数に散乱していた。全てここ一ヶ月の間にこの三人で揃えた品々だ。
 両側の壁一面に張り紙がされており、これまでに集めた情報がメモとして書かれていた。

「ああ」
 最初は共同生活など考えられもしなかったが、今では輝夜の刺々しい物言いにも慣れてきた。
 ぶっきらぼうに応じ、二人と同じく部屋の中央に置かれた机の周りに座り込む。

「変わりなし、だ」
 一応報告しておくと、二人の間に軽い失望の色が漂う。
「そっちで分かったことはないか?」

 輝夜は軽く首を振る。
「駄目よ。ここ一ヶ月で幻想郷をくまなく探したけど、やっぱり生存者は私達の他には騒霊たちくらい。まあ元々生きてないけど」
「プリズムリバー達か。あいつらはまだ戻らないのか?」
「ええ。まだ外の世界の捜索からは帰らないわ」
 答えたのは幽々子だった。どこか疲れたように片肘を机に突いている。

「冥界の幽霊達も世界中に飛ばしてるけど、帰ってくるのは“誰もいない”の報告だけ」
「……そうか」

 生き残ったのはこの三人と幽霊系統の存在だけであった。妖夢まで死んでしまった。八雲紫すらも。
 最初この異様な光景を目の当たりにして呆然としていた妹紅は、同じような状態の輝夜と出会い、そして幽々子や幽霊達と出会った。
 その後、全世界でこのような状況だと知らされた。
 すなわち、世界中ひっくるめてみても残ったのは彼女らだけ。何が何でも絶対に滅びるはずのない存在だけが生き残った。

「なんとか原因が分かればなあ……」

 なんの前兆も無く他の全ての生物が消え去ったのである。いや、死んでいった。
 一ヶ月に渡って調査に思索を重ねているが、あいにく出来のいい収穫は得られていない。

「いきなり世界中の生き物達が死んで彼岸は大混乱の状態よ。ひどい混雑状況で閻魔様の裁きを受けるのも何年後のことになるのかしらね」
 とあの世の状況を何度か探ってきた幽々子がぼやく。

「彼岸にいては会えもしない。何が起きたのか死んだ当人から聞くことも出来ない、ってことか…………幽々子。あんたのツテでなんとかならないのか?」

 幽々子はバツの悪い表情で首を振った。
「私だって冥界の管理を任されてるだけよ。裁きも受けていない魂との面会なんて無理。そもそも今は向こうが忙しすぎて閻魔様との面会も無理よ」
「くそっ……」

 再び重い沈黙が訪れる。
 幽々子もそれほどあの世において立場が上なわけでもない。所詮は亡霊風情といった扱いである。冥界の管理人の代わりなどどうとでもできるらしい。

「永琳がいれば何か知恵を貸してくれるのに……」
 輝夜がぽつりと呟く。

 それはこっちも同じだと、妹紅は心の中で悪態をつく。慧音がいてくれれば何か解決に近づくはずだと、そう思わせてくれるだけの思慮深さを彼女は擁していた。
 いなくなってから彼女らの存在がどれほどありがたいか分かる。

 これまで数々の異変が起こっているが、決まって何人かの知識人の協力によって後始末をしてきた。
 知恵を貸すとまでは言わずとも、話を聞いてくれたりはして少なからぬ安心感を得られたものだ。

 しかし今回は違う。
 これを異変と呼んでいいのかは分からないが、今回は正真正銘この三人しか存在しない。
 いや幽霊や騒霊達はいるのだが、彼女らは正直言って数に入れていいのか分からない。

 相談できる者もろくにいない孤独な状況、どん詰まり感が否応なしに漂う絶望的とも言える現状。
 しかし何かせずにはいられない。原因を探す以外に彼女らがすることはないのだから。


「幽々子。お前は妖夢の最後を目の当たりにしたんだよな? 悪いがもう一度話してくれないか」

 今になって新たな発見があるのかは分からないが、他にすることも無い。
 妹紅に請われ、幽々子は苦しそうに眉を伏せて頷き、話し出した。



 それはちょっとした出かける用事の前に、白玉楼で食事を取っているときのことだった。

 幽々子様、お代わりはいかがですか。そう笑顔で言った妖夢の体が、幽々子の目の前で一瞬のうちに灰となって崩れ落ちた。
 呆然として言葉も発せなかった。何か夢でも見ているのかときょとんとしていると、灰となった妖夢は服を残してそのまま消え去った。

 それで終わりである。
 あまりにも呆気なかった。悪夢だと思ってそのまま寝なおそうかとも考えたくらいである。

 慌てて調べていくうちに彼岸が大混乱になっている事を知った。世界中の死者の魂で溢れかえっていると。
 忙しさで目が回っている閻魔達はろくに取り合わない。異常事態の原因調査よりも死者を裁くという自分達の仕事を優先するようだ。
 その後騒霊の三姉妹と出会い、輝夜、そして妹紅と出会って調査を開始、今に至る。

 本来幽々子は冥界の管理を任されているので、こう長い間白玉楼を留守にするのは良くないのだが、今はそんな事をしている場合ではない非常時である。大切な従者や友人を失くして黙っておく事などできはしない。



「灰になった、っていうのがなあ……」
 妹紅はうーむと頭を掻く。
 全く原因が分からない。吸血鬼であれば日光を浴びて灰になるのも分かるが(それは迷信かもしれないが)、まさか生身の人間が突如として破滅するなど常識では考えられない出来事だ。

「しかも彼岸の状況からしてそれが世界同時に起きたんだろ?」
「みたいね」
 幽々子が神妙な顔つきで頷く。
 事は世界中で起きていた。すなわち、たったの一瞬にして世界が滅亡した。

「霊夢や紫も死んだ所為で結界が全て消滅してる。幻想郷は丸裸よ」
「とはいえ外の世界にも誰もいないけどな」
「そうね……」

 会話が途切れると重い空気が重圧を増してくる。
 今のような話し合いもここ一ヶ月の間に何度も繰り返されてきたことだ。
 それでも同じ事を話すのは、何か新しい発見がないかということと、そうして話し続けていないと不安と絶望が沈黙の隙間目掛けてたちまち潜り込んでくるから。


 空気が張り詰めたのを見計らい、輝夜がぱちんと手を打った。
「一月経って幻想郷もほぼ調べ尽くしたわ。整理しましょう」

 輝夜は傍らから大きな白紙を取り出し、机の中央に広げると筆で名前を色々と書き込んでいく。
 妹紅と幽々子はにわかに身を乗り出してそれを見やった。

「現在生きているのは……いや、」
 輝夜はちらりと幽々子に目をやってから視線を戻す。
「現世に存在しているのは蓬莱の薬を飲んだ私と妹紅。そして既に死んだ状態である幽々子や幽霊、亡霊や騒霊達」
 そう言ってそれらの名前を紙に書き込んでいく。

「共通点としては死なない、ってことか」
 分かりやすい事案として妹紅が挙げると、輝夜は素直に頷いた。
「そう。そして死んだのは妖怪や人間だけではなく、他全ての動物がみんな死んでる」
「植物は枯れてない」
「意思のある妖怪植物は死んでるわ。それらを総合してまず可能性として考えられるのは……」

 ベチ、と紙の端を墨のついた筆で叩く。墨汁の飛沫が飛び、白い紙に細かな黒い斑点が滲んでいった。

「世界全体に死をもたらす魔法かなにかが発動された、って可能性ね」
「そんなものあり得るのか?」
「無い、とは言い切れないのが魔法というものよ。幻想郷には一晩で町一つ滅ぼせるような大妖怪がわんさかいた。世界を滅ぼすのも不可能ではないかもしれない」
「誰がやったっていうんだよ……」

 そんなことをして得をする者がいるとは思えない。少なくとも幻想郷に現状に不満を持つものがいたとは見受けられなかったが。

「それが分かれば苦労しないわよ。もしくは科学技術のほうで何か危険な兵器を使用されたとか」
「科学って外の世界のやつか」

 外の世界の戦争とかのいざこざでこんな事態が引き起こされたというのだろうか。

「でもそんな人が灰になるなんて、しかも建造物や植物には被害がない。そんな兵器聞いたことがないわ」
「科学のことは分からないけど」
 幽々子はいつの間に用意したのか、お茶を飲みながら輝夜に視線をやる。
「その線は薄い、ってことでいいのかしら」
「ええ、こんな兵器は考えられない」
「となると……」
 妹紅は腕組みをして低く唸る。
「やっぱり魔法、か?」

 ふう、と輝夜は困った様子で息を吐いた。
「そっちのほうがまだ現実味があるわね」
「でもそんな大規模な魔法が行使された痕跡は見付からなかったんだよな?」
「魔法でなければ特殊能力ね」
「能力か…………」

 運命を変えたりありとあらゆるものを破壊したり、幻想郷には強力な異能者が数多く存在していた。その中には世界を滅ぼすだけの力を持つ者もいたのかもしれない。

 幽々子は障子をぼんやりと眺めながら呟くように言う。
「でも、そもそもそんなことをしてその人になんの利益があるの、って話ね」
「だよなあ……」
「……無理心中とか」

 輝夜が言うが、確かに死ぬ覚悟でもないと犯人もこのような大それたことは出来ないと思っていた。もしくは狂っていたのか。

「はあ……」
 妹紅はこの場の全員の気持ちを代弁したかのような疲れた溜息をつく。
 こんな話し合いも何度目になるのか。答えは出ずに時間だけが過ぎていく。

 幽々子はおもむろに湯飲みを机の上に置いた。
「天人も天界の拡張で忙しいし、応援に来られるのはずっと後のことになりそうね……」
「……来た所で役に立つのかしら」
「まあ人数は多い方がいいけどな」

 三人寄れば文殊の知恵。そうは言うが、所詮はことわざである。
 ここには三人いるがあまり頭脳派とは言えない。永琳や慧音、それに何より幻想郷最古の妖怪と言われる紫が抜けた穴は途方も無く大きい。やはり量より質だ。

「外の世界に調査に行ってもらってる幽霊の子たちも戻した方がいいかもしれないわね。どこまでも行っても無駄かもしれないし」
 と、そこで幽々子は何やら居住まいを正した。
「それより気になることがあるの」
「?」

 無言で二人が促すと、幽々子はこほんと咳払いをしてどこか神妙な顔つきで口を開いた。
「幽霊や亡霊は普段から幻想郷のあちこちを漂っているわ。その中には人間や妖怪の最後を目の当たりにした子も多かった。それでね、その子たちの話を聞いている内に気になったことがあるのよ」
「気になったこと?」
 怪訝な顔つきの妹紅が問いかけると、幽々子は深く頷いてから続けた。

「死ぬまでの時間よ」
「……?」

 眉を潜める二人の反応を確かめてから更に続ける。
「人間の場合は瞬きする間も無く灰になって消え去ったって話なんだけど、妖怪についてはそうでもないみたい」
「少し時間があったってことか?」
「そうみたいなのよ。体が灰となってしまうまで一秒ほど時間があったみたい」
「一秒」
 妹紅はがくりとうな垂れた。
「それじゃあ見間違いじゃないのか?」
「それも考えたんだけどね。でもどうも幽霊達の話を聞いていくうちに、人間と妖怪の死ぬまでの時間にそれくらいの差があるような、そんな印象を受けたのよ」
「一秒、ねえ……」

 妖怪のほうが消滅への抵抗力がいくらか強かったとか、そういうことなのだろうか。だとしたら死ぬまでの人と妖怪との時間差というのはそれほど重要な情報ではない。

 とそこで輝夜は「そういえば」と手をポンと打った。
「現世に残っているのが“死ねない”、って条件ならおかしなことがあるわ」
「おかしなこと?」
 二人揃って月の姫君を見やると、彼女はこくりと頷いた。
「神よ」

 そう言って妖怪の山の方角に目をやると、つられて二人もそちらを向く。とはいえ壁しか見えないのだが。
「神って死ぬのかしら?」
「む……」
 自分には分からないので幽々子を見やると、彼女は口元に手をやってどうやら考えているようだった。

「そうね」
 やがて口を開く。
「確かに神は死なないはずよ。信仰を失って消えることはあるらしいけど」
「じゃあ神をも消滅させる魔法が発動したって、そういうことか?」
「いや……それだと私が残っているのが疑問ね」
 その魔法か何か知らない世界滅亡の異常事態は、神を消滅させておいてたかが一人の亡霊は消せないのだろうか? 蓬莱人はまあ、消せないのは仕方ないと納得するとして。

 幽々子は眉間の皺を深くすると、やがて真剣な表情のまま場を見渡す。
「こうは考えられない? 現世の生者が一気に全滅して、神は信仰も全て失ってしまった。その結果として消滅してしまった。そうね、神のことは失念していたわ」
「結局消えたのに変わりはないじゃないか」
「いいえ」
 幽々子は妖怪の山の方角へと目を向ける。つられて二人もそちらを向くが、見えるのはやはり壁だけだった。
「信仰を取り戻せばまた復活できるかもしれないわ」
「そうなのか?」

 神が、特に神奈子と諏訪子が復活するならば相当に心強いこととなる。長く生きている分知恵も深いだろう。

「信仰、ねえ……」
 輝夜は何やら考えていると、
「私たちが強烈な信者になればいい、とか?」
「そんな無理になろうとしてなれるもんなのか?」

 この三人は守矢神社はおろか、博麗神社にすら賽銭を入れたことは一度も無い。
 長く生きる中、他人にすがるよりも自分を信じた方が良いと判断しているからだ。

「私に考えがあるわ」
 ぽつりと言った幽々子に二人の視線は集中した。
「今から信者になると言ってもそんな神が復活するほどの信仰を集められるとは思えない。私達は三人しかいないわけだし。それよりもっと強烈な方法があるわ」
「方法って?」

 幽々子は大きく頷いてから口を開いた。

「巫女よ」

 二人は怪訝な表情を作り、そして同時にどこか納得してしまう。

 巫女といえばこの幻想郷では特別な意味合いを持つ。

 博麗の巫女。
 博麗大結界の管理人。異変解決を繰り返す彼女の力は絶大であった。

 そして守矢の巫女。
 巫女だと言うと風祝です、とよく訂正されるが、正直何が違うのか分からないので皆からは巫女と認識されている。そして彼女は現人神。早苗もまた尋常ならざる力の持ち主。

 とにかく困ったときは巫女頼みが定着している。巫女さえいればなんとかなる、そう納得させる力をここ幻想郷では持っていた。

「博麗神社もそうだけど、守矢神社にとっても巫女は重要な存在だったはず。そして早苗は死んだ。彼女の代わりに守矢の方で巫女を復活させれば、神奈子と諏訪子も顕現することが出来るかもしれない」
「なるほどな」
 妹紅はうんうん頷いていたが、
「でもどうやって?」

 言うと、幽々子は輝夜と妹紅をじっと見つめる。
 途端、嫌な予感が這い上がってきた。

「……おいおい」
 妹紅と輝夜の顔には同時に冷や汗が滲み出てくる。
「私らにやれってか!?」
「巫女なんてしたことないわよ!」
「……形式的でもいいから巫女になればいいんじゃないかしら。ただまあ、問題もあってね」
「問題?」
 怪訝な表情で聞き返した輝夜に「ええ」と言って幽々子は人差し指をぴんと立てる。
「守矢の巫女は代々血縁関係で世代交代してきたみたいなのよ」
「それじゃあ私達じゃ代わりにはならないのか?」
「まあ、行ってみないと分からないわね。守矢の後は博麗神社へ行くわ」
「博麗神社って……」
 とそこで妹紅ははっとした。
「まさか」
「そのまさかよ」
 幽々子は怪しくくすりと笑う。
「うまくいけば博麗大結界を再生させることができるわ」

 今更結界を再生させたところで何が変わるわけではないが、やっておいて悪いわけでもない。

「私達が博麗の巫女になるってことよね、それ……」
「私も詳しいことは知らないんだけどね。以前紫から聞いた話によると、博麗の巫女のほうは血縁とかは関係ないみたいなのよ。でもまあ、とりあえず今重要なのは結界ではなく知恵よ。守矢神社に行くわよ」
「分かったわよ……」
「仕方ないわね……」
 輝夜と妹紅はいくらかげんなりした様子で重そうに腰を上げた。

 とはいえ今の状況は精神的にも助かる、と妹紅は息を吐く。
 自分と輝夜だけではここまでてきぱきした対応を取れなかっただろう。
 特にあの時、全ての人も妖怪もいなくなって途方に暮れた妹紅が幻想郷の上空を飛んでいて、輝夜と出くわした時。

『永琳が……因幡達も……はは……はははいなくなっちゃったよおあははははは』
『おい輝夜。一体何がどうなって……』
『そんなの私が聞きたいわよお!』

 自分も慧音がいなくなって錯乱状態に近かった。あの時幽々子が来なかったら非常時だというのに無駄な殺し合いに発展していたかもしれない。
 長年いがみ合ってきた二人のまとめ役としての幽々子の存在は極めて重要だった。


「幽々子……ありがとう」
 彼女の背中にいきなりそう声をかけたのだが、幽々子はその意味を分かったようだ、前を向いたままこくりと頷いてみせる。

――私は諦めたりしない。

 幽々子の脳裏には妖夢の笑顔と、そして彼女が崩れていった瞬間の光景、そして友人の紫の姿が浮かんでいた。

――紫。あなたの代わりに精一杯仕事をしてみせる。

 あなたの守った幻想郷を、友人として私が見届けるから。
 それはとうに手遅れであるかもしれないけれど。

――出来る事を出来るまでやってみせる。

 知らぬうちに幽々子は両手を痛いほど握り締めていた。


 永遠亭を後にし、幻想郷最後の守護者達が動き出した。








二、巫女代行 藤原妹紅







 幻想郷には風の音しか響いていない。異常事態など気にも留めていない様子で暢気に風が吹きぬけ、変わらず生え揃った木々を静かに揺らして去っていく。
 突然に世界が滅んだのは春真っ只中のことだった。桜が散るのに倣うように人も消え、一月が経った今は春と梅雨の境目くらいの時期か。

――そういえば、まだ慧音と花見をしてなかったな。

 次の寺子屋の休みの日に一緒に博麗神社に花見に行こうと言っていたのだ。その約束は果たされることなく無情にも春は終わってしまった。

「…………」
 憂いがにわかに滲んできて、捉われそうになった妹紅は慌ててかぶりを振った。


 管理人のいなくなった花畑を超え、妖精などどこにもいない湖を飛び越え、主不在の紅い館を通り抜け、三人は妖怪の山へと向かっていく。

――紅魔館には大勢の服が残っていたな。

 妹紅は後方に遠ざかっていく悪魔の館をちらりと振り返る。
 咲夜があそこで働き始めて丁度三年目なので誕生パーティーみたいなものが開かれていた。妹紅も誘われていたが、慧音は補習授業で来れないしどうにも派手なパーティーとかは性に合わないので行かなかったのだ。
 そのパーティーが悲劇に変わるとは。
(いや、悲劇は世界中で起きてるか)

 妖怪の山に差し掛かるとその頂上に雲の輪っかが引っ掛かっているのが見て取れた。
 いつもならここらで哨戒天狗が邪魔をしてくるはずだが、当然そんな輩は現れない。
 むしろそうだったらどんなにかいいことか。
 ありもしない希望を妹紅は噛み捨てる。

 やがて三人は妖怪の山のほぼ頂上、守矢神社へと辿り着いた。




 境内は閑散としていた。
 長らく掃除をされていないせいで落ち葉が大量に舞い込んでいて、見ると一本の箒が落ちている。そしてその脇には、雨風で汚れた守矢の巫女装束。
「…………」
 ここの捜索は幽々子の指示の元に幽霊達が行なった。彼らに物を片付ける脳は無い。
 幽々子が巫女装束を集め、輝夜はおもむろにその箒を拾い上げる。
 早苗はどうやら掃除中に逝ったらしい。現人神であっても人は人か。
 賽銭箱の隣にそっと立てかけ、三人は本殿へと入っていった。

「まずは守矢の巫女に関する資料を集めるわ。巫女の正式な選出方法が知りたいの。押入れの中とかを捜索してそれらしいものを片っ端から出していってちょうだい」
「……分かったわ」
「了解だ」
 不本意ながら仕方が無い。死者の物品を漁るみたいで余りいい気はしないのだが。
 三人は勝手に悪いとは思いながらも家宅捜索を開始することにした。




「うーん……」
 そうして各々部屋を決めて別れた数分後、押入れに体を突っ込みながら輝夜は物色を続けていた。

「なんで私がこんな物盗りみたいな真似……」
 情けない格好をしている自分に涙が出そうになる。
 こういった雑用をやってくれるウサギたちももういない。
 地上で生きると決めた時から、別に姫の立場に甘えていたわけではないが、自尊心やら何やらといったものががんがん傷つけられていくような気がする。地上に落とされて腐っても姫は姫である。

 ぶつくさ言いながら箱やら書物やらを外へと出していると、ふと隣の部屋の妹紅が目に付いた。
「ふんふふふー」
 何やら鼻歌まで歌いながら物色を続けている。

 こういった事に気が咎められることはないのだろうか? まあ普段の彼女の振る舞いからしたらこんな役どころが妙に合っている気もする。
「……結構慣れてるみたいね」
「ああ?」
 聞こえたらしく、その上あまり愉快そうで無い事を言われた事を察したのか、妹紅は怪訝な様子でガンを飛ばしてきた。

「物盗りが板についてるんじゃない?」
 言われ、妹紅の瞳がすうっと細まる。いつもの戦闘開始前の罵り合いの時のような、この空間にびりびりとした険悪な空気が丹念に張り替えられていく。

「……なんだと?」
「流石蓬莱の薬を奪った奴は違うわね」
「元はといえばお前のせいだろう。性悪五股女」
「誰が五股よ! あいつらが勝手に言い寄って来たんじゃないの!」
 よく言われる悪口だが、何度言われても放っておく事はできない。これでも姫、異性関係に関してある事ないこと言われるのは誇りにかけて我慢ならない。

「確かに父上は愚かだったかもしれない! でもありもしない物を探せとか無理難題を押し付けて……」
「はいそこまで」
 とそこで幽々子がひどく疲れた様子で間に入ってきた。

 それほど広くも無いこの神社、大声で怒鳴りあえば当然別の部屋にいる幽々子に聞こえもするというものだ。
「今はそんなことしてる場合じゃないって、あなたたちも分かってるでしょ?」
「…………」
「…………」
 先生に叱られた生徒のようにバツの悪い顔をして黙り込む二人。目が合うとふいと乱暴に顔を逸らす。

「二度は言わせないで頂戴ね」
 幽々子は去っていき、それきり妹紅も輝夜も会話無くやがて捜索を再開していった。小競り合いは無くなったが、ぴんとした緊張感は生きている。

 ここ一ヶ月の共同生活の中でも幾度となく二人の衝突は起きていた。とはいえ普段繰り広げているような殺し合いにまでは発展していないのは、お互いの失ったものが大きすぎて尾を引いている所為か。いがみ合いなどしている場合ではないと二人共分かってはいる。

――もっと永琳に優しくしとけばよかったな。
 昔みたいに肩でも叩いてあげればよかった。この歳になって肩叩きなど恥ずかしいので、地上に降りてからはしたことがない。

『ねえ永琳、気持ちいい?』
『はい、姫様。ありがとうございます』

 輝夜がまだ幼くて月の都にいた頃は、よくそうして忙しい永琳を労っていたものだ。

――孝行したい時に親はなし、か。
 押入れに体を突っ込んだ恥ずかしい姿勢も良いものだ。涙を見られないで済む。



 途中、次第に外の世界や幻想郷の見回りから戻ってきた幽霊達も幽々子の指示の元に捜索に協力していき、そのおかげもあってか意外に早く物色作業も終了することとなった。



「これで全部かしらね」
 居間いっぱいに並べられた箱やら書物やらを三人と幽霊達は見下ろしていた。納屋から持ってきた物も多いので結構な数だ。声こそ出さないがげんなりした空気は共有する所である。

 が、いつまでも棒立ちしているわけにはいかない。
「それらしきものを見つけたら他のみんなに知らせて頂戴」
「分かったわ」
「ああ」
 またも勝手に悪いとは思いつつも調査を開始していった。



「ええと……守矢秘伝ノ書? いいのかしらこんなの見ても」
 物色を続ける三人。
 輝夜は物品を挟んで妹紅の反対側に座りこみ、手近な書物を手に取り眺めていた。

「緊急時だから仕様がないわ」
「そうね。中は…………違うわ。奇跡の術がいっぱい載ってるだけ」
「なんか厳重に封印がされてる書物があるけど」
「貸して。封印なら多分解けるから」

 妹紅からぞんざいに投げ渡された、お札の大量に貼られた書物に輝夜が手をかざすと、ボン、という破裂音と共にお札は粉々に砕け散った。

「おいおい大丈夫なのか?」
「大丈夫、無事解除完了よ。中は…………家系図ね、これ」
「なんだ。というかなんで家系図がそんな厳重に封印されてたんだ?」
「さあ……」
 と言って輝夜はぱらぱらと家系図をめくってみる。

「……本当に全部血が繋がってるわね、守矢の巫女って」
「あなたたち、関係無さそうなものは置いといてちょっとは急ぎなさいって……」
 幽々子が呆れがちに言いかけたその時、

「あっ」
 輝夜が声をあげたので、幽々子と妹紅は顔を見合わせ、怪訝な表情で立ち上がった。

「何?」
「手掛かりがあったのか?」
 寄って来た二人に対し、輝夜は家系図を片手で持ってもう片手でそれを指差した。

「……これ」
「?」

 彼女が指し示したその先には、家系図の一番上の人物の名が記されていた。

「え……?」

 そこには『洩矢諏訪子』と書かれていた。
 あのカエルみたいな(帽子が)、しかし神の中でも頂点に近い位置に存在する強力な神。
 それが守矢の巫女の家系図の天辺にいる。
 そこに書かれているのが本人であるならば、早苗は諏訪子の遠い子孫ということになる、のだろうか。

「…………」
「…………」
「…………」
 呆然とした沈黙がゆるりと流れる。

「これって……」
 おずおずと輝夜が切り出すと、幽々子はぱたんと家系図を閉じてしまった。
「私達が詮索していいことじゃないわ。作業に戻りましょう」
「……あ、ああ」
「そうね……」

 他人の家の事情について詮索するのははばかられる。
 家系図のことは忘れることにして三人は調査に戻っていった。

 とはいえ結局のところ守矢の巫女に関する手続きなどは見付からなかったのだが。

「口伝なのかしらね……神が二柱も同居していたわけだしその可能性もあり得るわ。もしくはあの神のどちらかが守矢の巫女としての神託を下していた、とか」
 物品が乱雑にばら撒かれた居間に膝をつき、幽々子は顎に手をあて考え込んだ。

「それじゃあ守矢の巫女の復活は無理ってこと?」
「うーん……出来ることだけでもやっておきましょうか」

 そう言って幽々子が用意したのは守矢神社の巫女装束だった。
 博麗の物と所々が似ているが、巫女装束というのものは揃ってこういったデザインなのかもしれない。
 巫女というものは脇を出していて当然なのだと、そういった非常識が幻想郷では常識である。
 これを着ているから早苗は風祝でなく巫女だ巫女だと言われているのだが、神二柱もたまに巫女と言っているので案外何でもいいのかもしれない。

「それって守矢の……」

 境内に落ちていた巫女装束では、流石にない。あれは畳んで本殿の中に置いてある。
 幽々子が今持っているのは押入れの中から引っ張り出してきた替えの物のようだ。

「まずは形から。この巫女装束も博麗の物と同様、特殊な霊装が施されているみたいね。着てみてちょうだい」
「着てみるって……」

 妹紅と輝夜は互いにちらちらと視線を交わす。正直言って腋出し服など着たくなかった。

「妹紅」
 幽々子から呼びかけられ、妹紅は「げっ」と蛙を押し潰したような声を洩らした。逆に輝夜はほっと胸を撫で下ろす。
 仮にも姫、腋など出した恥知らずな格好をしたくはない。

「なんで私なんだよ……」
「守矢の巫女は代々人間よ。輝夜は月人だし、あなたが一番近い条件じゃないの」
「う……」
「ほらぐずぐずしてる暇は無いわ。ちゃっちゃと着て頂戴」
「分かったよ……」

 その後、勝手の分からない巫女装束を着るのに手間取る妹紅を幽々子が手伝ってやりながら、何とか着用は完了した。

「…………うわ、体の色んなところがすうすうするぞ」
 緑と白を貴重とした巫女装束に身を包んだ妹紅は、どこか恥ずかしそうにあちこち見回していた。
 普段着ている服装が赤と白なのでどちらかといえば博麗の巫女装束のほうが似合いそうだが、こちらの装束も合わないこともない。

「似合ってるわよ」
「幽々子、今はお世辞を言ってる場合じゃないだろ」
「ほんとにね」
「お前は黙ってろ」

 と、そこで妹紅は胸の部分に手をあてる。随分と生地の余った胸の部分に。
 早苗と妹紅の胸の大きさは、比較するのもかわいそうなくらい差がある。
 別に不満があるわけでもないのだが、蓬莱の薬を飲むのが後何年か遅かったらなあ、などとこれまで思わなかったことが無いわけでもない。

「…………」
「………………ぷっ」
「……おい輝夜。何笑ってんだ」
「貧相な体ね」
「なんだと!」
「だから二度は言わせないでって言ったでしょうあなたたち」
 呆れた様子の幽々子は半ば強引に二人を境内へと押していった。


「で? どうすればいいんだ」
 境内に出た妹紅はしきりに袖を肩口にたぐり寄せながら幽々子に問いかけた。
 腋出し服など千年以上を生きた妹紅でも着たのは初めてなのかもしれない。

「そうね……まずは『私は守矢の巫女。神奈子様諏訪子様、甦りください』とか繰り返し呟いてみたらどうかしら」
「おいおい嫌だな。言わないとだめなのか?」
 怪しげな呪文について妹紅は抗議の視線を投げた。

「文句言わない。言霊って奴もあるし口にするのは重要よ」
「分かったよ……」

 できることは何でもやってみる。ここ一ヶ月の常識だ。


 渋々といった具合で賽銭箱の前に跪いた妹紅は両手を合わせ、やけくそ気味に本殿に向かって願い始めた。

「私は守矢の巫女。神奈子、諏訪子戻って来てくれ。私は守矢の巫女。神奈子、諏訪子…………」

 それを傍目に見ながら輝夜は隣に立つ幽々子に問いかけた。
「あれで本当に大丈夫なの? 信仰の欠片も無いようなんだけど」

 それに対して幽々子は困った様子で肩をすくめた。
「神頼み、ってことで頼りにしてるのには違いないでしょ? それは信仰と同じよ」
「はあ……そんなもんかしら」
「私達も祈りましょう。今だけは守矢神社の信者よ」
「分かったわよ……」
 そうして二人も妹紅の後ろに跪いて祈り始めた。

「神奈子様、諏訪子様……」
「なんで姫の私が……」
「神奈子、諏訪子戻って来てくれ……」

 しんと静まり返った境内に普段では考えられないほど熱心な信者が三人。
 神社に祈る時って跪いたりするんだっけ? などと疑問に思った輝夜だったがなりふり構ってはいられない。

 風が吹くと境内の落ち葉がかさかさと遊ぶように音を立て、自然と集まった落ち葉の山に触れると、絡め取られるようにその一員となり大きさを増していく。
 他の生き物などどこにもいない静寂な世界に、怪しげな祈りの文言だけが特に響きもせずに繰り返されていた。



――やっぱり駄目か。

 そうして小一時間ほど祈り続けたが二柱は現れない

 結局神も消滅してしまっているというならこんな事をやっても意味はない。
 神をも殺す脅威の術式が発動したということなのだろうか。
 だとするとこの先また三人で捜査を続けないといけない。それを考えると気が萎えてくるというものだが。


 などと諦めかけた、その時であった。
 賽銭箱の後ろにある本殿の戸が、突如として勢いよく、スパン、と開け放たれた。

「…………!」

 三人がはっとして見上げるその先に、その二人は現れた。

 一人は幼い少女の風貌。髪は金色、何やらカエルの目みたいな飾りのついた帽子を被っている。
 もう一人はどこか大人びた女性。紫がかった髪色で、背中に大きなしめ縄で輪っかを作っている。

「ふう……やっと復活できた」
「大変なことが起きてるわね。大体のことは分かってるつもりだけど、説明してくれる?」
 神奈子と諏訪子、守矢の神二柱が現れた。




 再会を喜んだのも束の間、ここではなんだということで、一行は色々と情報の集まっている永遠亭へと場所を移すことにした。

 その途中、「なんで永遠亭?」と諏訪子から聞かれると、妹紅は「死んだ奴の家を勝手に使うのは悪いからな」と答えた。
 ほとんど永琳が取り仕切っていたとはいえ、輝夜は永遠亭の主だ。彼女が良いと言えば使用するのにはばかる事は無い。
 白玉楼でも良かったのだが少々遠いので、より幻想郷の中心に近い永遠亭を利用していた。


 そして到着後、会議室のようになっている先ほどの居間の中、中央に置かれた机の周りに座り込み、今まで分かった事を粗方説明していく。
 その間、相変わらず緑白の巫女装束を着込んだ妹紅はどこか恥ずかしそうに時折体を摺り寄せていた。
 もう脱いでいいかと聞くと、それを着ていてもらわないと自分達は現世に存在できない、と二柱にやんわり止められて仕方なくこのままである。
 復活したと言っても完全なものではなく、安定のためにはある程度の信仰か守矢の血筋の者が必要らしい。



「成程ね……」
 全て聞き終え、神奈子は腕組みをして考え出した。

「ごめんなさい。勝手に家系図を見てしまったわ」
「ああ」
 申し訳無さそうに言う幽々子に対し、諏訪子は僅かに苦笑を返した。あまり気力を感じないのは神といえど早苗を失って気落ちしているのか。
「いいんだ、こうして蘇らせてくれたし。でもできれば早苗には黙っておいて…………いや、そんな必要ないか、もう……」
「…………」

 再び重苦しい空気がたちこめる。それを振り払うように神奈子は口を開いた。
「幽々子、どうしても死んでいった者から話を聞く事はできないの? 手掛かりが掴めそうなものだけど。特に紫の魂と話したいわね」

 生者が彼岸に行くことはできず、閻魔達と一番繋がりが深いのは幽々子だ。
 今ほとんどの魂は三途の川を渡った先、それこそ気の遠くなるような長蛇の列を作って彼岸にて閻魔の裁きを待っている。

 死者の魂が川を渡る際、生前に作った全財産に応じて三途の川の向こう岸への距離が変わる。
 しかし一人ひとり死神の船で三途の川を渡していくのは流石に無理があるので、驚くべきことに岸と岸の距離がゼロにされているという。あの世との付き合いの長い幽々子でもそんな状態は聞いたことがない。
 おかげで魂はあっという間にみんな彼岸に行ってしまったのだ。

「無理よ」
 幽々子は悔しそうに首を振る。

 幽々子も三途の川のこちら側、此岸までは行けるのだが、川の向こうに長居していると追い出されてしまう。
 そもそも彼岸に行った魂は白い雲みたいな塊になってしまい、傍目には見分けがつかない。今や六十億を超える世界中の魂がごった返す彼岸の中、誰か特定の魂を見つけるのは不可能に近いのだ。

「閻魔様の頭も固いの。何年かすれば裁判を終えた幻想郷の住人が冥界にやって来るだろうけど、無理を通すだけの権限は私には無いわ」

 難しそうな表情で神奈子は腕組みをして唸る。
「死んだ者達と会えるのは何年か後になる、か……そんなに待ってはいられないな。私も調査に加わろう。なんらかの術が原因で世界が滅亡したというのなら、術者は幻想郷にいた、いやまだいる可能性もあり得る」
「そうなの?」
 輝夜が怪訝な様子で首をかしげる。
「なんで幻想郷に世界を滅ぼした当事者がいるって分かるのよ」
「単純な可能性の話だよ。客観的に見たパワーの比較」
 答えたのはそれまでじっと話を聞いていた諏訪子だった。
「確かに外の世界にも魔法使いや妖怪はいたし規模の小さな集団としても存在していた。でも幻想郷ほど巨大で大きな力を持った者達が集まる場所は無い。となると一番怪しいのはここだよ」

 数々の強力な異能者達。世界をいくら探してみても、まさか幻想郷と同レベルの空間などありはしない。

「でも私は信じられないわ」
 幽々子がどこか憂いの残る表情で目を伏せる。
「ここの住人達はみんな平和ボケしていて、そんな世界を滅ぼすだなんて大それたことをするようには思えない」

 幻想郷は昔から平和だった。霊夢がスペルカードルールを発案してからは人と妖怪の仲も更に良くなりもっと平和になった。
 不満を持つ者などいないかに見えた。

「確かに、な」
 妹紅が頭の後ろで腕を組んで体を傾ける。
 仮にも守矢の巫女装束を着た者がそんな粗暴な振る舞いをしていることについて、神奈子の眉が微妙に吊り上ったが溜息をついて諦めた。

「私も信じられない。幻想郷の住人は今のままが一番幸せだって分かってたはずだ」
「となると……」
 うーん、と輝夜は顎に手を当て考える。
「最近外から来た者が犯人、ということもあり得るのかしら」
「最近、ねえ……」
 妹紅も考えてみるが、最近幻想郷にやって来た者といったら目の前の神二柱か。まさか神が世界を滅ぼすとは思えない。
 もっと前にやって来た外部の者だろうか。しかしこんな異変を引き起こすだけの前兆ともなる何かいざこざが起きたとは聞いていないが。
 そもそもそんな危険因子は紫あたりが即刻対処するだろう。

「とりあえず幻想郷の状況を私達も見て歩きたいわね。巧妙にカモフラージュされた結界に犯人が潜んでいたとしても見破ることはできるわ」
 と言って立ち上がる神二柱だが、

「ああ、それなんだけど」
 にわかに切り出したのは妹紅だった。

「もう一度みんなで行ってみたい場所があるんだ」
「行ってみたい場所?」
 きょとんとする一同に向かい、こくりと頷く。

「紫の家だ」




 八雲紫の屋敷は幻想郷のどこかにある。結界の外にあるとも言われ、狙って辿り着くのは困難である。

 とはいえ今は結界も消滅して紫も不在。幻想郷の北東の端にその広大な屋敷は広がっていた。

 ロの字型の長屋を無秩序に繋ぎ合わせたような形をしていて、ロの字の中心には各々意匠の違う中庭が整えられていた。今は草木がぼうぼうに伸びきってしまっているみたいだが。
 縦横七百メートルはあるだろうか、幻想郷最大の家と言って差し支えない。

「こうして見ると本当に巨大ね……」
 上空から眺め、永遠亭の数倍はあろうかという八雲邸に輝夜が舌を巻く。

「でもどうして紫の家に? 以前私と幽霊達が探したわよ」
 幽々子が不思議そうに聞くと、妹紅は神妙に頷いた。
「神二柱も加わったし、もう一度くまなく探してみたいんだ。あの紫のことだ、何か手掛かりを残してくれてるかもしれない」
「………………そうね」
 どこか懐かしいような嬉しいような、しかしとても苦しげな表情で頷く幽々子。
 そんな彼女からそっと視線を逸らし、妹紅は八雲邸へと目を向ける。

 二時間後に南の入り口に集合することにし、各自持ち場を定めてから散らばっていった。





「とはいったものの……」
 一室の中央で妹紅は立ち往生していた。
「広すぎだろ……」

 縁側に出て左右を見渡すと同じような部屋が延々と続いていた。上空から見たところ中庭は十以上あったか、部屋の数も百を超えているようで、百人でも二百人でも容易に寝泊りできそうだ。
 ここに紫と藍のたった二人で住んでいたというのだからスペースの無駄遣いも甚だしい。

「掃除はどうやってたんだ……?」
 並の常識では推し量れないことか。


 余計なことに気を使わないようにし、妹紅は一室にて捜索を続けていた。

 押入れの中には特段書物などがあるわけではない。布団や枕がこの部屋にも、前の部屋にも同じように配置されているだけだ。
 こんなに大量の寝具を使うアテなどあったのだろうか? と甚だ疑問に思うのだがまあ、紫の性格を考えると無駄なことを平気でしていても不思議ではない。

 何が仕込んであるのか分からないので押入れの奥を手で叩いてみて、畳も足で勢いよく踏んで感触を確かめる。
 何の変哲も無い六畳間だ。


 そうして捜索を続けていた、そんな時であった。


「妹紅」

 呼びかけられて振り向くと、部屋の入り口の所で諏訪子が佇んでいた。

「なんだ?」
 土着神の頂点だかなんだか言われている諏訪子だったが、神だろうがなんだろうが恐れるもののない妹紅は平然と接している。

 諏訪子は辺りをキョロキョロ見渡していると、やがて部屋の襖をそっと閉めて入ってきた。

(……本当になんなんだ?)
 誰もいないのを確かめたように見えたが、しかしそんな事をする必要がどこにある?

 怪訝な表情で首をかしげていると、部屋の中央に立つ彼女の側に諏訪子はとことことやって来て見上げてきた。
「君に話があるんだよ」
「……なんだ?」

 こそこそ話すべきことなのかと訝しむ妹紅に向け、諏訪子は表情を消した真面目な顔つきをした。

「今回の異変の犯人は誰だと思う?」

 異変。これまで起きてきた数ある異変などものともしない大異変。世界の終わり。
 これを異変などという生ぬるい呼び方をしていいのかと疑問に思うが、妙な出来事をそう呼ぶのが幻想郷の常識となっていた。

「犯人って……だから今それを探してるんだろ?」
「そうだね。でも君はこういう場に慣れてる節がある」
「そりゃ、まあ……」
 蓬莱の薬を飲んでからというもの、幻想郷に辿り着くまでは退治屋みたいなことをして諸国を歴訪していた。その中、立ち寄った村では村民が丸々妖怪に取って代わられていた、という異常事態も経験していた。
 だからこういった異変が起きてもいくらか落ち着いていられる。

「君は直感的にいくつかの可能性に気付いているはずだ。私もそうだよ。犯人の目星を付けろと言われたら、あくまで推測の域を出ないけど何人か挙げることはできる」
「…………何が言いたい?」
 遠まわしな言い方に若干苛立った様子で、妹紅は小さな神の瞳に目を合わせる。

「要するに」

 諏訪子は若干目を細めた真剣な眼差しのまま、人差し指をぴんと立てる。

「今、ここに残った者達五人」


 蓬莱の人の形    藤原妹紅

 永遠と須臾の罪人  蓬莱山輝夜

 幽冥楼閣の亡霊少女 西行寺幽々子

 山坂と湖の権化   八坂神奈子

 土着神の頂点    洩矢諏訪子


「この中に犯人がいるかもしれない」


 しん、と辺りが静まり返ったような気がする。元々人と風の音以外にはほぼ何も聞こえないのだが。

 先ほど諏訪子がそうしていたように、自然と周囲に視線を巡らせて誰かいないかと確かめてしまう。
 嫌な汗が頬を伝い、畳に落ちると小さな染みを作った。

「……本気で、言ってるのか」
「君だって分かってるはずだよ。密室の中で五人以外が全員死んだら、どう考えてもその五人の内の誰かが犯人だよね?」

 密室。この地上は密室か。

「……お前は、誰が犯人だと思うんだ」
「西行寺幽々子」

 諏訪子がきっぱりと言い放ったので、妹紅は唖然として声を荒げた。
「でもあいつは紫の友達で妖夢の主人で――」
「当人に何があったか、なんて分からないよ。ただ、あの人は世界を滅ぼせるだけの力を、その可能性を持っている」

 『死を操る程度の能力』。
 それは生きとし生ける者をなんの抵抗も無く死に至らしめる、絶対無慈悲の凶悪な異能。
 例え博麗の巫女であろうと最強の隙間妖怪だろうと、等しく刹那に殺してのける最悪の力。

 単純に考えてみると世界中の生物はどうなった?
 死んだのだ。
 妹紅と輝夜、そして神々以外は。
 幽々子は以前言っていた。蓬莱人は殺せないと。神はそもそも信仰あるところに存在するので殺すという行為が当てはまらない。
 今、ここに揃った四名だけが幽々子が殺せない存在。あとは騒霊やその他幽霊達か。


「君も分かってるはずだよ。世界に影響を及ぼすだけの異変を引き起こせる人物は限られてる。そして世界中の生物が“死ぬ”異変。一番怪しいのは幽々子だ」
「そんな!」

 叫んでからすぐに声を落とす。誰かに聞かれないようにしたかったのか。

「そんな世界中の生物を殺すなんて可能なのか? 能力といっても限界はあるだろう。第一、幽々子の力は対象を死に至らしめるだけだろ? 死体が残らないのはおかしいじゃないか」

 みんな服だけを残して消えるように死んでいったが、単純に死ぬだけでは死体くらい残るのではないか。
 それに、まさかそんな大規模な事を一個人でやってのけることができるとは到底思えない。

 しかし諏訪子は静かに首を振る。
「でもその限界を私達は知らない。死を操る程度の能力とはどうやって死をもたらすのか? 射程距離は? 誰にでも効くの?」

 それはもしかしたら、対象の事を頭の中で念じるだけで死に至らしめることができるのかもしれない。
 “世界中の生き物”という大雑把な括りで念じるだけで、その全てを手にかけることが出来るのかもしれない。
 “消滅する死に方”を選択することもできるのかもしれない。
 また、人や妖怪が死んで小動物も死に、しかし植物は死んでいない。それは殺す必要がなかったのではなく、植物を殺すことはできなかったということでは? それが彼女の能力の限界?


「だけど……だけどもし仮にそうだとしたら理由が分からない」
「“分からない”だけであって“無い”わけじゃない。誰も彼女の心の中なんて知らないんだから」
「でも……」

 拳をぎゅっと握り締めると、自分でも驚くくらい大量の汗をかいていることに気付いた。

「あいつが妖夢を殺すとは思えない」


 初めて幽々子と会ったとき、それは弾幕勝負であったが彼女は妖夢とタッグを組んで挑んできた。人生経験の長い妹紅には、二人が目には見えない太い絆で結ばれているのを感じ取っていた。

 結局その勝負では妹紅が勝って、後から来た別のペアに破れたのだが、それにしても幽々子と妖夢のチームワークは抜群であった。
 後から聞いた話で二人は主従関係だと知り、ああ成程なと納得したものだ。

 対等な友人関係では不安定。
 無意識の内にお互いに気を使いチームワークに乱れが生じる。現に二人の前にやって来た魔理沙とアリスのペアに妹紅は打ち勝っている。

 友人ですらない知り合い程度では不完全。
 信頼はしているが頼ってはいないので大したチームワークを発揮できない。最初にやって来た霊夢と紫を相手に、妹紅は(危うげながらも)勝利を収めていた。

 しかし主従関係は安定にして完全だ。
 下位の者が上位者に対し絶対の忠誠と信頼を誓い、なんら気兼ねすることなく命じられるままに剣を振るう。
 対して上位者は従者に対し全幅の信頼を寄せて安心し、思う存分背中を任せられる。
 最高にして理想のチームワーク。幽々子と妖夢の二人はそれを持っていた。

 それでも妹紅が勝てたのは幽々子の甘さ故。
 彼女はいつも半人半霊の従者を自分の子供のように見ていた。
 それが隙となり、長い人生の中で幾度となく戦いを重ねてきた妹紅はその隙を逃すことはなかった。
 本当にぎりぎりのところで勝つことに成功したのである。
 とはいえ、

(その後来たまさに完璧な二人にはやられたけどな)

 なんにしろ、幽々子の甘えは従者を大切に思う気持ちの現れに違いない。まさか殺してしまうなどとありえない話である。

「そうだね」
 諏訪子もあっさりと認めた。
「でもさあ、こういう可能性もあるんじゃないかな」
 おもむろに腕組みをして続ける。


「本当に妖夢や紫は死んだの?」


 諏訪子の言った言葉がしんと響き渡る。
 世界から彼女ら以外の生物のいなくなった空間。耳の痛くなるような静けさがじわりとなだれ込んでくる。
 これは静寂ではなく、沈黙。

「……どういう、ことだ」

 力の無い声に自分でも驚いた。

「幻想郷のほとんど全てを捜索したって言っても、多くは幽々子の操る幽霊達がやったことでしょ? 君や輝夜が探したのはごく一部に過ぎない。誰かを隠そうと思えばそれも容易なはずだよ」

 幻想郷は広くはないといっても一人で残さず調べ尽くすのは無理がある。故に確かに手分けをして捜索をしたが、そのほとんどは幽々子の操る幽霊達によってカバーされていた。この八雲邸だって妹紅は今日まで調査していなかった。

 諏訪子はちろりと脇に視線を動かす。
「今もそこらに潜んでるかもしれないよ?」
「…………!」

 妹紅はぴりっと張り詰めた空気の中で周囲を見渡す。あるのはしんと静まり返った屋敷だけだ。

「或いはこうも考えられないかな?」
 諏訪子はあくまで真剣な表情で述べていく。
「世界中の人や妖怪が死んだなんて嘘。全員八雲紫の神隠しにあった」
「な――!」
 これまでの根底を覆すような事を言われ、妹紅は唖然と目を見開いた。

「紫や妖夢は死んだわけではなく、今もどこかに隠れてるとか」
「ちょ、ちょっと待て!」
 諏訪子の眼前に手の平を掲げて言葉を遮った。小さな神は気にした様子もなく涼しい表情をしている。

「いくらなんでもそんな……ありえるのか?」
「さっきの話を聞く限り、実際に人や妖怪が消滅するのを目の当たりにしたのは幽々子だけなんだよね? 私達も世界から人が消えるのと同時に眠りについたから、早苗の最後を見てないんだ」

 輝夜は自室で書物を読んでいるときに異変が起きたらしい。
 すなわち、彼女も誰かの最後を目の当たりにしたわけでは無い。気付いたら永遠亭からは服を残して誰もいなくなっていた。

「それに彼岸の状況を見てきたのも幽々子だけだ。君や輝夜は話を聞いただけ。本当に彼岸は魂で溢れかえっているの? 幽々子が嘘をついているとしたら、人々が死んだのか消えたのか区別がつかないんじゃないかな?」
「う……」

 妹紅はぐらりと天地が逆さまになるような感覚を覚え、思わず足に力を入れてしまう。

 幽々子が彼岸の状況を見てきたのは彼女があちらに精通していたから。
 対して輝夜や妹紅は世界の誰よりあちらに関係が無い存在。誰が申し合わせたわけでもなく、幽々子が彼岸の状況を探るのは当然のこととなっていた。

 服を残して消えた人々や妖怪達。
 そもそもなぜ死体が無い? 幽々子はそういった殺し方が出来る?
 いや、それよりも消えたというほうが、更に言うならば紫によって神隠しに遭ったというほうが可能性としては高いのではないか。
 幽々子と紫が結託して壮大な人攫いを試みた?

 幻想郷にこの異変を引き起こした犯人が潜んでいたというのなら、紫が気付かないはずがない。
 しかし紫自身が犯人だとしたら?

「だけど、そんな全世界を神隠しにするなんて可能なのか?」
「不可能かもね」
 諏訪子は頷いてみせる。しかしその後に「だけど」と続けた。
「そもそも本当に外の世界も被害に遭っているの?」
「え……?」

 何を言っているんだと妹紅は苦笑いを浮かべる。

「だって全世界で人や妖怪が死滅して――」

 と、

 幽々子が言ったのだ。

「あ……」
 妹紅の表情が青ざめていく。そんなまさか、という疑惑がどろどろと渦巻いていく。

「外の世界も君が実際に見たわけじゃない。幽霊達が行ったんだよね」

 確かに外の世界の捜索は幽霊達、すなわち幽々子が行なっていた。

「……死んだんじゃなくて大掛かりな神隠しだった、ってことか?…………全世界が滅んだとか私たちに手の込んだ嘘を付いて、そんなことになんのメリットがある?」
「それはまだ分からないけど。そうだね、例えばほら、昔紫は幻想郷の妖怪達を率いて月に戦争を仕掛けたことがあるんだよね? 今回も同じように幻想郷の住人を兵士に仕立て上げて月に送り込んだとか。君と輝夜を残したのは、反抗された時に蓬莱人は処分ができないから。幽々子は君らの監視役として残った」
「そんな馬鹿な!」

 あまりに極端な話に妹紅は慌てて首を振った。長い髪がばさばさと音を立てて揺れては乱れる。

「紫は誰より幻想郷を守りたいと思ってたはずだ! そんな住人を兵士にするだなんてありえない!」
「誰も他人の心の内は知らないよ」
 しかし諏訪子はあくまで淡々とした様子で言ってのける。

「どこかの読心妖怪以外はね。この幻想郷に見切りをつけて月を乗っ取り、新たな幻想郷を作ろうとしているのかも」
「……はは、壮大な計画だ。そこまでいくと物語の範疇だな」
「まあそうかもね」
「第一お前達を復活させようと切り出したのは幽々子だ。そんな自分を不利に追い込むようなことをするか?」
「さあ……何か目的があるのかもしれないし、君達に怪しまれないように振舞っているのかも。まあそこまで考えてらんないけど」

 諏訪子はそこで大きく息を吐き、妹紅を見つめたまま後ろへと歩いていく。


「……とまあ」

 気を取り直すように大きくため息をつき、振り向き襖の方へ向かいながら肩をすくめる。
「あくまで推測だよ。私なりのね。証拠も何も無いわけだし。不要な仮定を廃棄するのも、やってみると何か新しいものが見えてきたりするよ」
「…………」

 妹紅は顔を落としていたが、やがて難しい表情で息を吐いた。

「諏訪子」
 その後姿に呼びかけた。
「今の話、神奈子とも話したのか?」

 後ろを向いたまま諏訪子は首を横に振る。
「ううん。そんな大勢の“容疑者”に話していったら犯人に当たる可能性が高くなるでしょ? そうしたらきっとそいつは姿をくらますよ」
「神奈子のことを疑ってるのか?」

 宴会などで見かけた様子では二柱共仲が良いように思えたが。並大抵ではない月日を共に過ごした、切っても切れない絆があるように見えた。

「……身内だから、だよ」
 襖に手をかけた状態で諏訪子は呟く。

「神だって完全じゃあないんだ。神奈子だからといって私は甘く見てるのかもしれない。それが怖いんだ」
「……私は客観的に見ても大丈夫だって思ったのか?」
「…………」

 諏訪子は、ほうっ、と溜息をついて苦笑し、天井を見上げる。

「君は不老不死だけど一応人間だし、その能力からしても一番こんな異変を引き起こせなさそうだからだよ」
「いや一応じゃなく紛れもなく人間だけどな。それに、一番異変を起こせなさそう? 一番弱そうだってことか」

 不満そうに言うと、そこで小さな神はくすりと笑う。
「弱いってわけじゃない。私は君が怖いよ。何をやっても不滅の君は恐れを知らないからね。だから最初は笑っちゃったんだ」
 そう言って振り向き妹紅を指差す。正確には着ている守矢の巫女装束を。

「大いなる力を持つ神を人は常に恐れ、その感情はある種の信仰ともなってきた。早苗だって無意識の内に私達神に対していくらかの恐れは持っているよ。だけど君はそれが無い。信仰の欠片も無い。そんな最も神から遠い人が巫女だなんてね」
「…………合ってないって自分でも思うよ」
 妹紅は多少恥ずかしそうに頭の後ろを手で掻きむしる。

「それにさっきも言ったけど、君の力はどうあっても幻想郷や全人類を滅ぼせるものじゃない。だから安心して話せるんだ」
「そんなもんか」
「うん。そしてそれは他の人も感じてることだよ。犯人以外の人が安心して話せるのは君だけなんだ」

 大いなる神の力を持つ神奈子と諏訪子。
 死を操る幽々子。
 永遠と須臾を操る輝夜。

 そうそうたる能力者の顔ぶれ。どこか具体性に欠け、どんなことが出来るのかいまいち他の者には把握しづらい能力の数々。
 対して妹紅は『老いることも死ぬこともない程度の能力』。加えて単純な戦闘能力としての炎の術。
 誰もが聞いただけで妹紅の力を把握でき、それ故に安心して接することができる。

 彼女だけがこの異常事態を外から眺めることのできる、五人の中で唯一の存在であった。


「だから妹紅、君にはきっと必要な情報が全て集まってくる」

 襖を開け放つと諏訪子に向けて後光が差しているように見えた。彼女は妹紅を一瞥し、にこりと温和な笑みを浮かべる。

「この“異変”、解決できるのは君しかいないって、私はそう思うんだ」

 がんばってね、臨時代行守矢の巫女さん。

 そう言い残して諏訪子は去って行った。

 ぱたぱたと神の去っていく足音が遠ざかり、部屋には再び静寂が押し寄せる。
 風が部屋の中まで舞い込み、妹紅の髪を緩く撫でていった。
 中庭の池に波紋が生まれ、池全体に静かに広がりきる。


「…………」
 少しの間俯いて考え込んでいた妹紅は、やがてどっと息を吐く。

「……異変解決、かあ」

 自分の着た巫女装束を眺める。サイズも合わなく脇が空いているのですうすうしているし、胸の所の生地が少なからず余ってしまっている守矢の巫女装束。

「それはお前の役目だろう……」

 霊夢の顔が浮かんだ。
 幻想郷の守護者、博麗の巫女。異変は今まで全て彼女が解決してきたという。

 しかし次に脳裏に浮かんだのは、紅魔館のパーティー会場に落ちていた無数の服の中の彼女の巫女装束。

 博麗霊夢はもういない。
 異変の解決人はいない。この幻想郷のどこにも存在しない。

 ここはもはや巫女の消えたレッドゾーン。
 紅白でも黒白でも緑白でもなく赤しかない危険地帯。
 全世界が破滅した終焉のそのまた先にある時間。
 とうに終わってしまった、その後になお続く物語。

「でもまあ、やってやるよ」

 にいっ、と不老不死の人間、藤原妹紅はひどく凄惨な笑みを浮かべる。

 彼女の脳裏には寺子屋で教壇に立つ慧音の姿が浮かんでいた。
 他にはその生徒達や博麗神社での宴会で出会った妖怪達。今は消えてしまった彼女ら。

 まさかこのまま何も分からないままで終わらせる気など毛頭ありはしない。

「代行だろうがなんだろうがやってやる。この“異変”、私が解決してやるよ」

 巫女不在の全てが終わった後の世界、一人の代行者が動き出した。








 三、真実の彼方








「とはいったものの……」

 長い廊下を歩きながら妹紅は溜息をつく。
 目指すは八雲紫の部屋。幻想郷の守護者が最後にいたはずのそこに、何か手掛かりがあるのではと思っていた。

「一体犯人は何の目的でこんなことをしたんだ?」

 諏訪子の立てた仮説のように幽々子と紫がグルで、皆死んだのではなく神隠しにあっていたとしたらこんな捜索など無意味であるのだが。実際にそうあってくれたら希望はあるが、とはいえそうだと決まったわけでもない。

「うーん……」

 この異常事態。自然現象などではもちろんないだろう。となるとやはり犯人はいる。
 もしも幻想郷の外の世界で起きたことが原因だとしたらお手上げである。あの広い世界で犯人を探すのは無謀というものだ。
 そういったどうにもならない事を考えていても仕方がない。だから幻想郷の内部で起きたことだと仮定する。

「でもこんなことが出来そうな奴っていったら一体誰だ?」

 境界を操る程度の能力、運命を操る程度の能力、ありとあらゆるものを破壊する程度の能力、時間を操る程度の能力、死を操る程度の能力、密と疎を操る程度の能力、永遠と須臾を操る程度の能力、毒を操る程度の能力、奇跡を起こす程度の能力、核融合を操る程度の能力。

「どうにもはっきりしないんだよなあ、あいつらの能力も」

 そりゃ進んで自分の能力について詳しく話そうとする奴なんていないか、と妹紅は疲れた様子で肩をすくめる。誰だって自らの弱点を晒すような真似をしたくはない。

 能力といえば色々と各人の力についても情報が流れてはいるし、人によっては本にまで載っている。

 が、妹紅の見立てでは、そんなぬるいものではないだろうと思っていた。

 熟練の能力者であれば、表向きの力の他に隠し玉を持っているはずだ。
 あの輝夜だって何か自分の力について表に出さないものがある、と千年もの間殺し合いを繰り広げている妹紅はそう感じていた。
 あいにく妹紅は隠すような力は無いのだが。

 なんにせよ、それほど積極的に誰かの能力について知ろうとする必要も無かった。この平和“だった”幻想郷では。

「それともこの中に犯人がいるのか……」

 輝夜に幽々子、諏訪子と神奈子。
 世界を破滅させることが絶対にできないか、と言われたら100%無理ですとは言えないような気もする。

「いや、私にあんな話をしたんだから諏訪子は違う、か?」

 とはいえ彼女の口振りからは『私のことも信じるな』と暗に示していたが。

「……うーん」

 とりあえず話を聞いてみるか、ということで出来れば一人一人と会ってみることにした。諏訪子が言っていたように、自分にだけ話してくれることがあるかもしれない。



 そうして紫の部屋を目指しがてら、長い縁側をぶらぶら歩きながら辺りを見回していたときのことである。

「…………?」

 横の部屋から何やら人の気配がした。

「おーい誰かいるのか?」

 無遠慮に開けてみると、そこには輝夜がいた。壁にもたれて膝を抱えている。

「輝夜?」
「――!」

 膝の間に顔を埋めていた彼女は、妹紅の声を聞いてびくりと体を震わせ、慌てて背を向け立ち上がるとごしごしと袖で目元を拭ってから気丈な声を張り上げる。

「な、何よ突然」
「…………」
 今更からかうような気にはならなかった。

「泣いてたのか?」
 言葉をかけると、輝夜はうろたえたようだ。

「なっ、何、を」
 何か言おうとしたようだが言葉にはならなかった。

「う……」
 下手に言い逃れは出来ないと悟ったのか、垂れ下げた拳をぎゅっと強く握り締めると、やがて痛いほど歯を噛み締めて言葉を洩らす。その声は必死に泣き出すのを堪えているかのようだった。

「あんた、は……」
「……ん?」
「あんたは、どうなのよ。あの獣人と仲良かったんでしょ? 死んじゃって悲しかったでしょ!?」
「ああ」
 即座に肯定すると、輝夜ははっとした様子で握り拳を解いた。

「悲しかった。どうしていなくなったのか分かんなくて、幽々子からみんな死んだって聞かされた時は寺子屋に駆け込んでいって、あいつの服を抱きしめて泣いたよ」
「…………」

 真正面から本心を打ち明けられ、しかしそれを真摯に受け止めざるをえない輝夜は震えていた。自分も同じ事をしたのだから。

「私は……!」

 同じく自分も心情を吐露しようとしている。なんでこんな奴に自分の心の内を話すんだ、と悔しくて仕方なかった。

「私も悲しかったわよ!」
 鬱憤を晴らすかのように輝夜は叫んだ。仇敵から必死に顔を逸らし、涙を隠しながら。

「永琳はねえ……永琳は小さい頃からずっと一緒だったのよ。私が地上に落とされて、時が経って月に連れて行かれそうになった時も、全てを捨てて私を守ってくれた! ついて来てくれた! いつだって味方でいてくれた!」


『どこへなりとあなたと共に参ります』

 輝夜が月に連れ戻されそうになったあの日、月の使者達の返り血にまみれた永琳は、輝夜の前で跪いて笑顔でそう述べた。
 つつけば壊れそうな弱々しい笑顔だった。目の前で人を殺した自分を受け入れてくれるだろうか、という臆病者の顔だった。

 そんな彼女を輝夜はそっと抱きしめた。壊れ物を大切に扱うように、永琳というその存在を、人を殺した罪をどこまでも受け入れることを示すために微笑んだ。

『ええ、ずっと一緒にいて頂戴。ありがとう、永琳』

 その時、輝夜は共犯者となることを決めた。
 煌々とした満月の光を浴びながら二人はいつまでも抱き合っていた。


「私には永琳が必要だった! 永琳にも私が必要だった! それなのに!」

 彼女の足元の畳に次々と大粒の染みが出来ていくのが妹紅からも見て取れた。

「皆死んじゃったのよ。もう遅いのよ………………ふふ……ふふ、ふ、あはは、永琳、ね、永琳の服、台所に落ちてたの、よ。食事、作ってくれてたの、私のために。あはは、はは、妹紅、この前あんたの作った料理食べたけど、はは、反吐が出るほど不味かったわ」
「…………」

 輝夜に妹紅、幽々子の中でまともに料理を作れたのは妹紅くらいなので食事当番を押し付けられていた。
 しかし輝夜は最初に一口食べたきりで、それ以来もう二度と口にしなかった。
 どうせ敵である私の作った物は嫌なんだろ? くらいに思っていたのだが。

「私は永琳の作ったものが食べたい! 好みの食材を毎日一つは入れてくれてたし! 私の嫌いな物をなんとか食べさせようとしてきたし! 初めて作った料理を出すときはあまり自身無さそうに笑っていて! 美味しいって言うと嬉しそうに笑って!」

 おぼつかない足取りで妹紅に背を向けたまま前へ進むと、目の前の押入れの襖をがんがん叩きだす。衝撃で穴が空き、突き破っても叩くのをやめない。

「私は! 私は! 私は私は私は!」

 ガン! と穴だらけの襖に手を突っ込んだまま輝夜は打ち震える。

「私は……私は永琳の死に目にも会えなかった…………」
「…………」

 沈黙が支配する屋敷には涙の落ちる音だけがポツポツと微かに響いていた。

「もう終わったのよ。今更どうこうしたって意味無いのよ。死んだ人間は生き返らない。もう、二度と私は永琳と一緒に食事ができない。捜索? そんなことをねえ……」

 穴だらけの襖を強引に引き剥がし、妹紅に背中を向けたまま脇へと乱暴にかなぐり捨てる。

「そんなこといくらしたって無駄なのよ!」

 輝夜は荒々しく呼吸を繰り返していた。
 涙はもう止まったのか、畳がこれ以上濡れる様子はない。
 沈黙の中に輝夜の不規則な吐息が震える。

「…………」
 輝夜にとって永琳がどれだけ大きな存在であったのか、それは普段の彼女らの接し方からも見て取れた。
 失った時の悲しみなど妹紅に分かるわけでもない。

 少しの間そうしていると、妹紅は、ふう、と溜息をついた。輝夜にも聞こえたのだろう、その体がぴくんと撥ねる。

「だから?」

 言われ、輝夜は涙も拭わずまさしく鬼の形相で振り返った。
 いつも澄ました顔をしている輝夜からしたらおおよそ考え付かない表情だが、妹紅は真正面から見つめ返した。

「は……? 何が、って……?」
「確かに死んだ奴は生き返らない。二度と一緒に食事もとれない」

 妹紅の脳裏には慧音が浮かんでいた。
 寺子屋に遊びに行けば毎日食事を振舞ってくれた一番の友人。いつからか、妹紅は竹林を歩けば土産として筍やらの食材を探すようにもなっていた。

「だからってこのまま何もしないでいいのか? お前は悔しくないのか? こんなふざけたことをしでかした奴は今頃私達を見て笑い転げてるかもしれない! それを許したままでいいのか!」
「いいわけないじゃない!」

 輝夜は射殺すくらい強く妹紅を睨んでくる。もうその瞳から涙が零れるのもいとわない。

「でもねえ、でも永琳がいないことには変わりがない。前の生活には戻れないじゃないの!」
「……だろうな。いくら犯人を探しても、探し出して殺しても死んだ者達は生き返らない」

 妹紅は瞳を逸らさないまま目を細め、その拳を血が滲むくらい強く握り締める。

「それでも私は犯人を探す。分からないまま終わりにする、なんてことは出来ない。原因を解明する。そうしないとなあ……」

 妹紅の瞳の奥の奥には燃え盛る火炎が所狭しと荒れ狂っていた。

「私も、あの世にいる奴らも腹の煮が収まらないだろう」

 しんとした沈黙が戻ってくる。

 確かに、永琳がいたとしたら彼女も同じ事をするだろう。犯人を、原因を探し出すだろう。
 諦めるような事を言う自分をたしなめてくれるだろう。

 仇敵にそんな事を言われると何やら複雑だが、しかし永琳の意志を思い出す事は出来た気もする。

 輝夜の涙はもう止まっており、その瞳には徐々に生気が戻ってきた。

 まさかこいつから元気をもらう破目になるとは思わなかった。

「そうね」

 そこで輝夜はにわかに微笑んだ。思えばまともに笑ったのはこの一ヶ月で初めてかもしれない。
 というより、妹紅相手にこんな笑みを向けたのは初めてかと思われる。

「この異変、解決してやりましょう」

 とうに終わった後の世界、二人の蓬莱人は初めて思いを共にし、一ヶ月目にしてようやく本当の意味で手を組むこととなった。




「それじゃあな」

 やがて何か用事は済んだのか妹紅は去っていく。
 その足音を遠くに聞きながら、輝夜は呆れたように大きく溜息をついた。

「……どうしてあいつを頼もしいだなんて思うのよ」

 独り。
 ここに残った五人は誰だってそうだ。いや、あの神二柱は違うか。だが大切なものを失ったのに変わりは無い。

 自分と同じなのだ。ということで親近感を抱いたわけでもなかったが。
 でも、

「今度は料理、食べてやってもいいかな…………」






 縁側を歩きながら妹紅は少々気を落としていた。

(まったく。なんであいつを励ますようなこと言ってんだ)

 特に目ぼしい情報が手に入ったわけでもなかった。いや元々輝夜に何かあるとは思ってはいなかったのだが。

(やっぱり一番重要なのは幽々子か)

 先ほど諏訪子が言った言葉がよぎる。


『一番怪しいのは幽々子だ』


「…………」

 幽々子に限らず、一番重要なのはこんな異変をしでかした犯人の動機だ。

「世界を終わらせて得する奴……?」

 そんな者がいるのだろうか。

「無理心中? いや……」

 もしも動機が無いとしたらどうだろう。すなわち何かの事故でこんな事態が発生した。

「何か大きな魔法を発動させようとしたけど誤って世界を破滅に……?」

 そんなことがあり得るだろうか。
 いやそもそも、この異変を引き起こした当事者がまだ生きているかも分からない。とっくにこの異変に自らも巻き込まれて死んでしまったかもしれない。だとしたら終わりだ、何もかも。

「だけどまあ……」
 そうだとしたらどうにもならないので、犯人は生きていると仮定する。



 そうして思いあぐねながら足を運んでいた時のことである。

「……っと」

 通りかかった部屋の中からまた人の気配がする。
 今までより一際大きめな部屋で、襖の絵柄も複雑になっていて何やら特別だというのは把握できた。

「失礼」

 今度は挨拶をしてから襖を引くと、

「あら、妹紅じゃない」
 幽々子が部屋の中央で座り込んでいた。

「…………」
 諏訪子の言っていたことが頭の中で渦巻く。

 妹紅が若干緊張した様子で黙っていると、幽々子は部屋を見渡しながらどこか懐かしそうに呟いた。

「ここね、紫の部屋なのよ」

 言われてみると確かに、他の部屋よりも二回りほど広いそこは十六畳の間取りを持っている和室だった。
 質素なタンスに床の間に飾られた鶴の掛け軸、部屋の中央に置かれた長方形の大きな木製の机、その上に置かれた小さな時計。壁に立てかけられた愛用のピンクの日傘。
 意外にも物はあまり無く、しかしある程度の生活感は感じられた。

 そして幽々子の膝の前には、普段紫が着ている洋服が綺麗に畳まれて置いてある。
 幻想郷の守護者はここで死んだのだ。

「隣は寝室なの」

 そう言って幽々子が視線で示したのは、襖で仕切られた隣の部屋だった。

「紫ったら普段からほとんどの時間を寝て過ごしていて、でも最後は起きてたのね。…………それは良かったことなのかしら」
「…………」

 妹紅はおもむろに部屋の中に入り、周囲をぐるりと見渡してみる。
 ここに来るのは初めてだった。以前の八雲邸の調査は幽々子が行なったし、そもそもどこにあるとも知らないこの家に来る機会など今まではなかった。

「…………」

 幽々子の側まで歩いていくと、机の上に置かれた時計が目に付いた。

「これは……?」

 幻想郷にも数は少ないが時計は存在する。妹紅が以前見たのは商店の奥に飾ってある大きな振り子時計だったか。
 河童の協力のもとに一年がかりで製作したらしい。三時間おきにハトが出て来るからくりが仕掛けられていていい客寄せになっていた。

 しかし紫の部屋にあるこれは見るからに幻想郷とは異質なものだ。
 大きさは手の平に乗るくらいで形は直方体、盤全体に何やら可愛らしいウサギとタヌキの描かれており、全体的にピンク色でファンシーなアナログ時計だ。今もコチコチ時を紡いでいる。

「それ、紫が外の世界から持ってきた時計みたいね。あの人、珍しい物をいくつも拾ってくるから」
「へえ……想像つかないな」
「紫って意外とそういう可愛いもの好きなのよ」
「人は見かけによらない、か……」

 今更紫の意外な少女趣味について判明してもなんの手掛かりにもならないが。

「その時計ね」
 幽々子は膝の先に置かれた紫の服に視線を落としながら呟く。

「この服のすぐ側に落ちてたの」

 声のトーンががくんと落ち、妹紅も自然と体を強張らせてしまう。

「死ぬ間際、側にあった物を必死に掻き毟ったのかなって、そう、思う、と……」

 愛おしそうにその服を撫でていたが、不意に小さな染みが幽々子の膝にぽつりぽつりと作られていく。

「紫、最後に苦しんだのかなあ。幻想郷の守護者だなんて言われていつも強がってるけど、誰かが側にいて助けてあげないと駄目なのよお」
「…………」

 今や大粒の涙を流す彼女にどんな声をかければいいのか分からなかった。

「藍や橙が側にいて、私もいて、でも紫はいつもどこか寂しそうだった。あの人は境界そのもの。結界に疎い私は彼女の気持ちを少ししか理解できなかった。それがずっと悔しかった。……でも、でも紫は最近になって霊夢と出会った。博麗の巫女。結界の専門家。ううんそれだけじゃない。霊夢の人妖問わず惹き付ける魅力で、二人はあっと言う間に仲良くなって。私となんかよりとってもいい感じだったのに、それなの、に…………………………」
「…………」

 妖怪や亡霊と言っても、付き合いにおける悩みというのは人並みに存在する。
 彼女は友人の紫のことを誰よりも気にかけていた。
 そして、自分より紫と仲良くなったと感じた霊夢に複雑な思いを抱いていたのだろう。

「う……ぐ……」

 妹紅はしばしその嗚咽に耳を傾けていると、やがて静かに息を吐く。

「あんたが紫をどう思っていたかは分かったよ」
「う……う……」
「でもさあ、私から見てもあんたと紫は一番の友達だった。霊夢よりも藍よりも、他の誰よりも近い存在だったはずだ」

 一般的な人並みの寿命を持つ人々との別れを繰り返してきた妹紅。
 失う悲しみに挫けて全ての存在から離れようとした時もあった。
 それでも結局は気付いたのだ。
 いずれ失うから今が楽しいんだって、楽しいからこそ失うと悲しいんだって、それでいいじゃないかと思ったから。
 無数の死別や離別を繰り返してきた妹紅だからこそ、誰が誰をどれだけ想っているかはすぐに分かる。絆は容易に見て取れる。それが強固であればあるほど彼女らは強い。

「誰と一番仲が良かったかなんてどうだっていいんだ。ちょっとでも仲が良ければどれだけ近くに、どれだけ長く側にいても構わないだろう? 友達ってのはそんなもんさ」

 そこで物柔らかく亡霊の少女に笑いかけてみせる。
「だからさ、遠慮することなんてなかったと思う」
「…………」

 しばし呆然とした幽々子はやがて、膝元の洋服へと手を伸ばした。
 嗚咽が大きくなり、抑えようもなくなってくる。

「………………う…………ああ……ああああ」

 幽々子は紫の服を掻き抱き、力いっぱいむせび泣いた。

 今まで押さえていたのだろう。
 紫がいなくなり、霊夢も消え、妖夢も目の前で崩れ、自分が頑張らなくてはと、彼女らの意志を継がなくてはと使命感を抱いていた。
 しかしそれは無理をしていた。
 彼女は異変を解決するのではなく、どちらかといえば異変を起こす側だ。
 自分には合わないことをして必死に気勢を張っても、失った憂いによって心に傷は溜まっていった。
 自分は紫や霊夢のようにはなれない。彼女達のようには振舞えない。

「なあ、幽々子」
「う……ぐ、う……?」
「私さ、頑張ってこの異変を解決してみせるから、だからさ、」

 頭の上で腕を組み、幽々子の涙に気を使うように、それとも気恥ずかしそうに明後日の方を向きながら妹紅は言った。

「もっと私達を頼れよ」

 襖の間を縫って風が入り込み、二人の髪の隙間をそっと通り過ぎていく。

「妹紅……」

 蓬莱人というのは自分の能力が効かなく何となく倦厭していたのだが、一緒にいてみるとひどく安心できるものだ。
 絶対に死なないという存在。いつまでも変わらないでいてくれる命の灯。
 紫も自分のことをそんな風に感じてくれていたのだろうか。


 やがて嗚咽は聞こえなくなった。

 幽々子は手の甲でごしごし目元を拭い、一息ついて呼吸を整えた。

「…………ふう」

 恥ずかしい所見せちゃったわね、と幽々子は照れたように笑みを浮かべる。

「そうね、むしろ迷惑かけるくらいが私だったのに、柄にも無いことしちゃってたわ」
「……そうだな」
「はあ……」

 幽々子はくしゃくしゃになった紫の服の皺を伸ばしながら畳の上に戻していく。

 いくらか元気を取り戻した様子のその横顔に、妹紅は安堵した様子で話しかけた。

「聞きたいことがあるんだ」
「なに?」
「あんた前に言ってたよな。人と妖怪が死ぬのに時間差があったって」

 人が死ぬのは刹那。妖怪が死ぬのは一秒ほど掛かったという。
 気にかける必要の無い細かな違いか、それとも大きな差なのか。どうにも引っ掛かっていた。
 まあ、手掛かりが少ないので余計に思考を集中させている所為かもしれないが。

「ええ、まあ……でも幽霊や亡霊達から聞いた話だし勘違いとか、ただの誤差かもしれないわ。それに一秒って言っても、妖怪によっては人間と変わらず一瞬で崩れ落ちた者もいたみたいだし」
「え。そうなのか?」
「ええ。だから本当に見間違いとか誤差なのかも」
「そうか…………」

 死ぬまでの時間についてはどうにも引っ掛かっていたのだが、妖怪の中にも一瞬でその体が粉々になった者がいたというのには困った。
 法則性などないのだろうか?

「でもさあ、人間の中に一秒掛かって死んだ奴はいなかったんだよな?」
「え? ええ、そういった報告は受けてはいないけど……」
「そうか……」

 この仮に呼ぶならば“死の異変”への抵抗力が特定の妖怪にはあったということなのだろうか。人間の中に抵抗力を持った者はいなかったから等しく一瞬で死んでいった?
 しかしどうにも腑に落ちない。

(何かが違うような気がする…………抵抗力とかそういうことじゃなくて、何か別の法則が働いているような感じがする)

 それが一体何なのかが分からない。
 “敵”の能力は不明。

 もしも諏訪子が言うように幽々子が皆を殺したのだとしたら、そもそもこんな死ぬ瞬間の人と妖怪の時間差などという、奇妙で細かい設定を作る必要などないのではないか。それともリアリティーを持たせるための工作か。

 だがしかし、さっきの涙は本物だった、と思う。

「ううむ……」

 振り出しに戻ってみたほうがいいか。とはいえ元々進んでなどいなかったのかもしれないが。

「何か他に気付いたことがあったら言ってくれ」

 そう言い残して妹紅は部屋から出て行く。

 その間際、

「妹紅」
 呼び止められ、彼女がうん? と振り返ると、幽々子は亡霊特有のひどく静かな笑みを浮かべた。

「ありがとう」

 輝夜と同様、幽々子のまともな笑顔を見たのはここ一ヶ月でこれが初めてかもしれない。皆色々と限界だったのだろう。

「ああ」

 なんと返せばいいのか困った妹紅は短くそう呟いてから部屋を後にした。




「うーん……」

 部屋を出てからというもの、これまで得た情報を吟味しながら妹紅は縁側を歩いていた。
 ロの字形に囲まれた中庭の一つでは、白く輝く敷石の中央に手入れの放棄された池が広がり、底の見えない緑色の淀んだ水を湛えている。かつては何か生物がいたとしても死んでしまったのだろう、今息を潜めているのは混沌とした濁りくらいか。

「…………」

 諏訪子の仮説のように被害に遭ったのが幻想郷だけ、というのは流石に無いように思える。ここは幻想郷の境界に程近いわけだし、確かめようとすれば外の世界を調べることは容易だ。
 やはり全世界が壊滅していると考えるのが妥当だろう。

 それにしても、紫は死んだ時自室にいて、しかし何かダイイングメッセージを残しているかと思ったがアテが外れた。
 幽々子が言うように、死ぬまでに一秒あればあの賢い隙間妖怪のことだ、何かするかと思ったのだが流石にそんな短い時間ではきつかったか。一瞬ともとれる短時間で犯人に当たりをつけてメッセージを残す、などと常識的には不可能だが。

「だよなあ……私達だってこれだけ考えて分からないんだ。その問題を一秒で解いたりできないか……」


 そうして歩いていた時のことだった。

「妹紅」

 持ち場の捜索が終わったのか、長い縁側の前方から神奈子がやって来た。

(これで全員と会ったことになるけど……)

 諏訪子の言うように、本当に必要な情報とやらが集まっているのだろうか。

「神奈子。何か見付かったか?」
「いいえ……」

 縁側の途中で向かい合い、神奈子はどこか複雑な視線を投げかけてくる。それはどうやら妹紅の着た守矢の巫女装束に注がれているようだ。

「…………」
 かつては早苗が着ていたものであるそれを、今は妹紅が着ている事についてどうやら色々と思うところがあるようだ。

(……好きで着たわけじゃないぞ)

 妹紅は気恥ずかしさと不満さの混じった頬を小さく膨らませる。

「……ふう」

 神奈子は何かを諦めたように溜息をついて視線を逸らした。

「あなたは会う人を泣かせていくのが趣味なのかしら?」
「……は?」

 どうやら輝夜と幽々子のことを言っているらしい。

「聞こえてたのか」

 気まずい様子で頭の裏を掻く。

「音がほぼ無いし私は耳も良いのよ。離れていても聞こえるわ」
「……別に、あいつらが勝手に泣いただけだ」
「…………」

 神奈子はしばし押し黙っていると、やがて口を開く。

「……あなただから、でしょうね」
「え?」

 きょとんとして見つめていると、神奈子は微妙に肩をすくめてみせた。

「もしも犯人がこの五人の中にいるとしたら、一番可能性が低いのがあなただしね。他の者も安心してあなたとは話せるし、涙を見せることの出来る唯一の存在なんでしょうね」

 妹紅は苦笑いを押し潰した変な顔をした。

(こいつ諏訪子と同じようなこと言ってるな)

 やはり長い間一緒にいると思考も似通ってくるのだろうか。

「それで?」

 気を取り直し、妹紅は片手をひらひらと掲げてみせた。
「あんたは私に何か話してくれるのか?」
「…………」

 途端、神奈子は神妙な顔つきで目の前の蓬莱人を見やる。
 そしておもむろに頷いた。
「私はさっき目覚めて以来、レーダーのように幻想郷全体に感覚を張り巡らせていたのよ」
「れーだー?」

 つい最近まで外の世界にいたせいか、守矢神社の住人はたまに聞きなれない単語を口にする。

「探知機……遠くにいる物体の気配を定期的に探っているということよ。同じ場所を五秒おきに調べなおすんだけどね」
「そんなことを……っていうか普段からそれやってるのか? 個人情報も何もないわけだが」
 それを無視して神奈子は続ける。

「妙なことがあるの」

 さあ、と葉の擦れる音が風に乗って響いてきた。

「妙なこと?」

 知らず知らずの内に声が低く、小さくなってしまう。

「ええ。世界中の動物は死滅したけど植物は残っているでしょう。その幻想郷にある植物、主に果実の類なんだけどね」
「……それが?」
「消えたのよ」

 沈黙の中にぴんと空気が張り詰める。

「消える?」
「ええ。さっきまであった果実類のいくつか、正確には林檎が五つと茸がいくらかなんだけど、それらが五秒後には消えている、という現象が一度だけあったのよ。跡形もなく、しかし人の手でもぎ取られるようにね」
「おいおい、それじゃあまさか……」

 恐る恐る呟く妹紅に対し、神奈子は真剣な表情で首肯した。


「この幻想郷に、私達以外の誰かがいる」



 嫌な沈黙が再び戻ってきた。さっきまで微かに吹いていた風もなりを潜め、自分の呼吸音が広い屋敷の隅々まで響いてしまっているような錯覚を覚える。
 心臓の鼓動はそれ以上にやかましく妹紅の頭の中で騒ぎ立て、冷や汗がぽたりと一滴板張りの縁側に零れ落ちる。

「誰か、って……」
「それは分からないわ。しかし一瞬にして果実を消し去った……いや、持ち去ったのかもしれないけど。とにかくなんの痕跡も残してはいないのよ」
「…………一体誰が?」

 どこにいるというのか。そいつは自分達のことを監視しているのか。

「それはあなたが考えて頂戴。私は私の情報だけからしか判断できない。あなたなら他の全ての判断材料を持っているでしょう。きっと私より正解に近い答えを出すことが出来るわ」
「…………」

 それは投げたということではないのか。
 まあ、頼りにされている、としておくのが良いだろう。

 それにしても、やはりこの五人以外の中に犯人がいたということなのだろうか。
 しかし一体何者が?
 神奈子の監視網をくぐり抜けて食料を補給したということか。
 それに少なくとも、食事が必要な種族ということになる。その犯人らしきものは。

「そろそろ時間ね。戻りましょう」
「……ああ」

 考えるのは後にし、二人は揃って集合場所へと戻ることにした。




 幅五メートルはあろうかという大きな南門に集合した一行。
 皆表情は芳しくなかった。手掛かりがろくに見つからなかったということもある。

 仇敵の前で泣いたのを恥じているのだろう、輝夜は何やら頬を赤らめて顔を逸らしていた。
 妹紅は何食わぬ顔をしているが、それが気を使われていると分かるのだろう、輝夜はますます面白くない様子である。

 何はともあれ、皆は次に博麗神社を目指すことにした。

「うまくいけば博麗大結界を再生させることができるかもしれないわ」

 どんよりと仄暗い雲で覆われた昼下がりの空を眺めながら幽々子はそう言った。

「また家宅捜索か……」

 また、という妹紅の呟きに神奈子と諏訪子が微妙な表情をする。
 片っ端から掻き出された守矢神社の物品はそのままになっていて仕舞われてはいない。それより優先して捜索をしたいというのが理由だが、博麗神社の後にでも皆で片付けに行くことになっていた。
 それはさておき、一同は博麗神社に向けて飛び立っていった。



 北東にある八雲邸に対し、博麗神社は東にある。それほど遠いわけでもないので時間は掛からない。
 その途中、妹紅は先ほど神奈子が述べた事を考えていた。

 果物が数個無くなっているという。それこそ消え失せるように。
 犯人と見ていいのだろうか、おそらく食料となっているのだろう。
 それはここ一ヶ月の間に何度もあったことなのかもしれない。神奈子が来てようやく判明したということか。
 もしや今の自分達の状況も敵に筒抜けなのかもしれない。

 しかし五秒の間に食料を調達して消え失せる。そんなことが出来る者といったら誰だろうか。

(一番できそうなのは……)

 八雲紫。
 彼女の『境界を操る程度の能力』であれば、一瞬で離れたものを手元に引き寄せることは可能だろう。
 霊夢もよく『勝手にお菓子が無くなるのよ。またあのスキマ妖怪の仕業だわ。今度本格的に退治しないと駄目ね』などと穏やかでない剣幕でぼやいていたし、神奈子を含むこの五人から姿をくらませることも容易なはずだ。

(正直、紫がやったっていう事になればなんでも説明つきそうなんだよなあ)

 境界を操る程度の能力。
 この世の全ての物事の境界を操り、神にも匹敵する無敵の能力。幻想郷最強の妖怪。
 もちろん詳しい能力の限界などは知らないが、彼女は何でも出来るのでは? というのが幻想郷に生きる者の大方の共通認識だ。

 本当に紫が幽々子と手を組んで世界中の人間を神隠しにしたのだろうか?
 だがさっきの幽々子の涙がちらつく。嘘泣きではないように思えたが。

 神奈子はその食料がどこかへ消えたということについて何を考えているのだろうか。
 彼女は彼女なりに判断しているということだが、やはり紫が一番怪しいと感じているのか。普通であればそう考えるのが妥当かもしれない。

 世界から人が消えた大異変。全て八雲紫の仕業でした。

(それで終わり。私達ではどうにもなりません、ってことか?)

 それならそれで本当に終了だ。何をやっても無駄であろう。
 紫を探し出す事などできない。

 だからその可能性を棄却する。

 どうにもならない事を考えていても無駄だろう。
 迷路にいくつか答えがあって、その内一つに辿り着いたがその先は破滅の扉でした。
 そこが真実なのかもしれないが、そうだとしたら話は終わってしまう。行っても仕方ない。
 だったら別の答えを探しに迷路に戻ろう。

(……戻ったはいいけど、他に何の可能性がある? 迷路の出口はどこだ?)

 分からないまま一向は博麗神社に辿り着いた。




「霊夢が死んだのはここじゃないのね?」

 境内に降り立った一同。誰にともない神奈子の問いかけに、妹紅が「ああ」と頷いた。

「いくらかの人妖達は紅魔館のパーティーに招待されていたんだ。というか守矢神社にも招待状行ったよな? 霊夢も出席してたのか、服はそこに落ちてたよ」

 咲夜が紅魔館で働き始めて丁度三年目になるあの日、悪魔の館ではパーティーが催されていた。
 咲夜は誕生日が分からないということで誕生パーティーも兼ねていたのだろう、去年も盛大にとり行われたのだとか。

 慧音が働いているのにそんな遊び惚ける気にもなれず、妹紅は出席していなかった。

 永琳はその日症状の重い患者の手当てをし終わったところなので念のため永遠亭に残り、永琳が行かないなら私も、ということで輝夜も出席しなかった。元々西洋風のパーティーは苦手なのだとか。

 幽々子は夕食を食べてから参加しようとしていたらしく、後で紫が迎えに来てくれる手はずになっていた。結局紫が来る前にあの異変が起きたのだが。

 神奈子と諏訪子は翌日に神事が控えていたので、早苗と共に守矢神社に留まっていた。

「パーティー会場には大量の服が落ちてたよ……」

 広い平坦なホールには大量の食事がテーブルの上に並べられ、その周りには無数の服が無造作に落とされていた。
 魔理沙の黒白のエプロンドレス、霊夢の紅白の巫女装束、咲夜のメイド服やアリスにパチュリー、レミリアの服もあった。
 それはまるで死体が転がっているかのように凄惨で、しかし服だけが残っているのは狂ってしまいそうなくらい異様な光景だった。
 誰かが持ったまま死んだのかグラスの破片もそこかしこに散乱しており、おそらく酒だろうが、飲み物が服に染みを作っているのも見受けられた。
 楽しいはずのパーティーが悲劇に変わった。

「そうか……」

 神奈子は暗い表情で顔を落とす。
 もう二度とあのような賑やかな集まりが催される事は無いのだろうか。

 あの光景を実際に目の当たりにした妹紅に輝夜、幽々子は失ったものの大きさを再確認させられていた。

「止まっていても仕方ないわ」
 重くなりそうな空気を振り払うように幽々子が気丈に声を張り上げる。悲しいかな、暗い場を明るくすることにもここ一ヶ月の間で慣れてしまった。

「捜索を開始しましょう。目当ての情報は博麗の巫女の任命方法と博麗大結界との関係よ」

 博麗の巫女の選出方法については決まったものはなく、女性であれば誰にでも後を継がせることが出来るのだとか。博麗の巫女は先代の実の子であったり、子がいなければ養子に後を継がせてきたという。
 しかし早くに先代を失くした霊夢は後継者の任命方法を知らなかった。

「本当は霊夢がもっと成長したときに紫が教えるはずだったんだけどね……」
 そう言う幽々子の表情は苦しげだった。この異変によって今まで積み上げてきたものも何もかもが終わってしまった。

 博麗の巫女は女性の中から適当に選べばいい、というのは分かっているが、そこからどうやって存在するだけで博麗大結界を維持できる結界の管理人としての能力を付与するのかが問題となる。何か特別な手続きがあるかもしれないが、そこまでは幽々子も紫から聞かされてはいない。
 故に捜索が必要となる。霊夢も知らないようだったので、本当にこの神社に情報があるのかは不明だが。

「ここには何度も来たことがあるけどなあ……」
 毎晩のように開かれる宴会には妹紅も参加したことがある。
 妖怪達と宴会を共にするなど、長く生きていれば珍しいこともあるものだと感心したものだ。

 今更博麗大結界を再生させたところで何が変わるわけでもないのかもしれない。しかし出来ることはしておきたい。
 或いは、皆が愛したこの幻想郷を、少しでも以前の姿に留めておきたいと思っているのかもしれない。


 なにはともあれ、幽々子に続いて皆は博麗神社へと入っていった。

 その途中、輝夜がげんなりした様子で肩を落とす。
「ねえねえ、もしかして私があの恥ずかしい腋服着るの?」
「仕方ないでしょう? 文句言わないの」
「私だって我慢してこれ着てるんだ」
「…………」
「…………」
 諏訪子と神奈子がかなり微妙な表情をしていたが構う者はいなかった。




「はあ……」
 それから一時間ほどが経過した後、賽銭箱に行儀悪く腰掛けながら妹紅は境内を眺めていた。

 結局何か有用な手掛かりが見つかることはなかった。
 仕方ないので今は輝夜が博麗の巫女装束を着せられ、本殿にて祈っている最中である。
 ここにいても中から喧騒が聞こえてくる。

『私は博麗の巫女博麗の巫女…………もう嫌よ! せめて腋の所縫って頂戴! 誰よこんなの考えたのは!』
『下手にいじると霊装が解除される恐れがあるのよ、我慢なさい』
『奇抜な服装をすることは周囲から際立った違和感を集積し、自身を神格化するのに都合がいいんだ。うちの守矢神社でもそれを見越して腋を出しているわけであって、決して破廉恥な意味合いがあるわけでは……』


「はあ……だめだなあ、私は」
 空はどんよりとした雲に覆われていた。まるで妹紅の心の中までもやがかかっているようだ。

 博麗神社といえば博麗の巫女、博麗霊夢。異変はいつも彼女が解決してきた。
 死なないだけの蓬莱人の自分では役不足なのだろうか。

 確かにあまり細かいことを考えるのは苦手だ。分からないことがあればいつも慧音に頼ってきたし、彼女はいつも自分を導いてくれていた。今こんなに悩んでいるのは慧音を頼りっきりにしていた報いか。
 とはいえ物を深く考えないのは霊夢も同じだったはず。

 違いは何かと言えば、彼女の場合は直感的なものが優れていたように思える。異変の元凶を嗅ぎ分ける鼻が良かった、と言えばいいだろうか、それが博麗の巫女としての資質だったのかもしれない。
 そんなものを妹紅が持っているわけでもない。

「なあ霊夢……私に力を貸してくれないか」

 境内を眺めると、異変が起きる前に比べて落ち葉が大量に散乱しているのが見受けられる。物ぐさで有名な霊夢だが、彼女なりにちゃんと掃除はしていたようだ。

「はあ……」

 女々しいこと呟いていても仕方ないか。

 などと大きく息を吐いた時の事だった。


――私の代わりをやるならもっとしゃきっとしなさいよ。


「――!」
 妹紅は慌てて周囲を見渡す。

「…………」
 しかし誰がいるわけでもなく、物音一つない閑散とした境内が広がっているだけだ。

「…………幻聴、か」

 彼女ならきっとそう言うだろうという希望にも似た予想か。

「……そうだな。泣き言なんか言っていても異変は解決できないな」

 妹紅は賽銭箱から飛び降りると大きく伸びをした。
 雲の切れ間から太陽が覗き、光の柱を一人の蓬莱人に立ち降ろす。

「はは。天も私を応援してくれてるのか?」
 世界が終わったというのに、こんなに綺麗な太陽光で照らしてくれるなんてな、と妹紅は苦笑する。

「異変が起きて丁度一ヶ月、か。ずっと考えていても分かんないもんだな」
 今日から数えて丁度一月前に事は起きた。その間、何か大きな進展があったわけではない。
 一番大きいのは今日の神二柱の復活か。

「丁度、一ヶ月……」


 その時だった。


「ん?」

 もやもやしていた思考が掃除されていき、三日三晩続いた雨が晴れた時のように頭の中が非常にクリアになる。
 突然の思考の開拓。

「ん? えと……」

 今までに得た情報が、パズルピースとなったそれらが形を変え、一気にささっと一緒になろうと動き出す。
 一つの形を作ろうと、答えを出そうと一本の道を作り出す。
 今まで迷路の中を彷徨っていたのだが、ここにきて迷路の上から見下ろすような、格段に広い視野を得たような開放感。世界が変わる激動。
 脳神経が一気に連結を深めていく衝撃。

「あ……」

 ある一つのピースをきっかけに、迷路の道筋に神経が張り巡らされていく。

 今ならなんでも考えられるような気がする。

 なんだろう、この激変は。博麗神社が自分に力を貸してくれたのだろうか。
 或いは、博麗の巫女。

 しかしここは落ち着いて整理しよう。
 慌てては纏まるものも纏まらない。


 妹紅は額に手をあて考量し始めた。


 まず前提条件として世界が滅亡している。
 諏訪子が言うように、皆が死んだというのは嘘で紫の神隠しに遭っている、という可能性も無きにしも非ずだが、そうなっていた場合自分に出来ることは無い。
 紫であればこの五人、幽々子がグルであれば四人を何とかすることなど容易だ。
 いや神をどうこうするのは難しいことかもしれないが、姿をくらませることは出来るだろう。
 ゲームオーバーである。

 だからその仮定は棄却する。
 どうにもならない答えを出しても無意味であるからだ。
 そもそも皆が死んだかどうかは自分でも三途の川の手前まで行って確かめることができる。普段からサボリがちだと噂される死神にでも聞けば分かることだろう。
 幽々子がそんな簡単にばれるような嘘をつくだろうか?

 故に世界は滅亡していて紫も死んでしまっている、と仮定する。


 次に犯人だ。
 この五人の中に犯人がいるという可能性も確かにある。

 例えば幽々子。彼女の『死を操る程度の能力』で世界中の生物を殺したという仮説がある。
 しかしそれが可能かどうかはともかく、幽々子が例え世界中の生物を死滅させたとしても証拠があるのだろうか? 白を切り通されたらどうにもならないのではないか。

 ということは、例え幽々子が犯人だとしてもどうにもならない。
 だからその考えを捨てる。
 先のない無駄な可能性を考えていても仕方がない。
 幽々子は犯人ではない、と仮定する。


 更には他の三人。諏訪子に神奈子、輝夜について。
 五人、自分を除けば四人の中に犯人がいるかもしれないと、そういった仮定で物事を考えていた。

 しかし逆にそうでないと仮定したら?
 この中に犯人など絶対にいない。
 最初に考えていたように、誰か他の存在がどこかに隠れていてこの状況を作り出している。
 そいつは元々幻想郷に住んでいた異能者で、守護者たる紫の警戒網すらかわしていた。
 そう仮定したとしたら?


 紛れもなく世界は滅亡していて、彼岸は大量の魂で埋め尽くされている、と仮定する。
 犯人はこの五人の中にはおらず、誰か他の犯人がいると仮定する。
 犯人は外の世界にはいなくて幻想郷に隠れていると仮定する。

 仮定ばかりだ。
 都合の悪い可能性を排除しただけのいい加減な推理にも程がある。
 本当に紫が生きていて全てを操っているのだとしたらこんな仮定は無意味なのだ。

 ただそうしないとどうしても手詰まりになってしまうから、やむなくそういった仮定をこさえただけである。

 諏訪子が言っていたことが役に立つ。
『不要な仮定を廃棄するのも、やってみると何か新しいものが見えてきたりするよ』

 余計な仮定を廃し、どうにかこうにか残った仮定にこれまで出た手掛かりを乗っけていったらどうなるか。

 正解の出口を探して迷路を彷徨っていて、正誤はともかく都合の悪い出口を片っ端から閉鎖していく。
 残った出口はどこだ?



 死ぬまでの人と妖怪の妙なタイムラグ。服が残って消えたのは体だけ。生き残りは蓬莱人と既に死んだ亡霊と神。どうあっても死なない存在共。巫女は死亡。紫も死亡。落ちていた時計。輝夜と幽々子の泣き顔。何者かが調達していると思われる食糧。



――ほら、もう分かったんじゃないの?



 妹紅は呆然として口を半開きにした。

「ああ………………そうだな」

 仮定で塞がれた迷路の出口を迂回し、辿り着いた一つの出口。
 仮定の積み重ねから紡ぎ出した一つの仮説。

「あいつがやったとしたら…………ほとんどの説明はつく」

 いつしか雲はまばらになり、太陽はいつまでも境内を照らし上げていた。







「犯人が分かった!?」

 一同は妹紅に呼ばれて境内に集結していた。
 まだ博麗の巫女装束を着たままの輝夜は目を見開き、真剣な表情で首肯する妹紅を見やる。

 結局博麗大結界は再生には至らなかった。何か特別な方法があるのかもしれないし、一度消えたらもう二度と直らない物なのかもしれない。とはいえ今は別に必要ではない。

「まだ可能性に過ぎない。なんの証拠も無いわけだし」
「でも自信はあるんだね?」
 諏訪子に言われ、こくりと妹紅は頷いた。

「まだ確証には至らないから、どうして犯人が分かったかの詳しい説明はしない。だからこれから確かめに行きたいんだけど、とりあえず私の考える犯人の名前だけでも言っておくと……」


 その者の名を聞き、その場に集まった者達は一様に驚きを隠せない様子であった。

「ちょっと、本当に彼女がこんなことしたの!? どうして!?」
 納得がいかない様子の輝夜に、妹紅は軽く肩をすくめてみせる。
「それを今から確かめに行く。とにかく来てくれ。私の仮説が当たっていたら詳しい説明をする。とはいえ……」
 妹紅は神妙な顔つきで彼方を仰いだ。

「それは犯人の前ですることになるだろうけどな」

 そう言って四人を見渡すと、一同は無言で頷く。
 今はこの蓬莱人に身を任せることにしたようだ。

「行こう」
 妹紅の先導で皆は飛び立っていった。

「ちょっと待って」
 しかしすぐに輝夜に呼び止められた。

 四人が怪訝な様子で注目する中、博麗の巫女装束を着た彼女はどこか恥ずかしそうにむき出しの肩を縮こませた。

「あの、この服着替えていいかしら……」

「…………」
「…………」
 諏訪子と神奈子が怪訝な表情を作る中、妹紅は溜息をついてから前を向き直った。
「先行ってるぞ」
「ちょ、ちょっとお!」
 湖の方角へ飛んで行く四人を、一瞬悩んだ輝夜は結局その服装のまま追いかけていった。





 そして五人がやって来たのは紅魔館上空であった。
 西の空から茜色の太陽光が差し込み、悪魔の館は本来の姿を取り戻したかのようにその名の通り一層紅く色づいていた。掃除するものがいなくなって久しい所為か、いつも綺麗な館はどこか茶色い汚れが目立つようにもなっている。
 波一つ無い湖は強烈な西日を反射し、本来の太陽光と一緒になって上空に静止する五人を上下から赤の光で挟み込んでいた。

「本当にここに?」
 輝夜に問いかけられ、妹紅は、うーむ、と顎に手をあて考える。
「いるとしたらこの近くだと思うんだけど…………神奈子、諏訪子、何か感じるか?」

 諏訪子に視線を受け流され、神奈子は難しい表情をした。
「さっき通りかかった時も何も感じなかったわね。中には誰もいないし結界らしきものも感じられない。だけど……」

 ちらりと妹紅に目をやる。
 守矢の巫女装束に身を包んだ彼女に一体何を思ったのか、次の瞬間にはため息をつき、苦笑いを浮かべる。
「彼女はここらに潜んでいると、そう思うのね?」
「ああ」

 神奈子はふうっと息を吐いた。
「そうか…………諏訪子」
「うん」

 二柱は何やら互いに頷き合い、目を閉じると胸のところに手を当て、その身に神力を集中させ始める。

 何をしようというのか、注目する三人の前で、変化はすぐに起きた。

 風がにわかに神奈子を中心に渦巻き、大地が諏訪子の真下から鳴動して幻想郷全体に伝わっていく。
 湖が荒々しく波打ち、小規模な津波のように姿を変えて湖畔の木々を濡らし出す。
 空を暢気に漂っていた雲が瞬く間に動きを早め、台風のように神奈子の真上を軸に渦巻き始める。

 自然を操る神の力。

 天が鳴き地が震える力の奔流に晒され、三人は呆然と目の前の神々を見やっていた。

「お、おい、一体何を?」

 諏訪子はどこか悪戯っぽく笑ってみせる。
「私達を欺くような身の隠し方をしているというなら、しらみ潰しでここら一帯の地形を乱してやればいい。何か陣を敷いていたとしたら崩すことができるしね」
「諏訪子」
 神奈子が激しく波打つ湖を睨み付けながら隣の神に呼びかける。

「やっぱり湖の底が怪しいわね。立ち入る者なんてロクにいないわけだし、何か仕掛けるにはうってつけよ」
「ほいさ」

 山坂と湖の権化 八坂神奈子。
 湖を司る彼女の手助けにより、地を司る諏訪子は水の底をよりいじくりやすくなる。

 ゴゴゴ、と地鳴りが轟き、紅魔館の窓がガタガタ震えてひびが入り、雲の動きに合わせるように湖にいくつもの渦巻きが現れ始めた。
 常人は地上で立ち続けることすら敵わないだろう。

「これは……」
 輝夜がその巨大さに唖然と呟く。

 その瞬間、
 ドン! と湖の底から濡れた土の塊が飛沫を巻き上げ突き出してきた。
 直径五メートルほどのそれは湖全体から次々と飛び出てきて、平らな湖にいくつもの小島が出現する。
 大きな波紋が生まれたと思ったら、また別のより巨大なうねりに打ち消されていく。

「な……」
 妹紅が驚きの声をあげる中、やがて音は止まった。

 流れの速かった空の雲も落ち着きを取り戻し、大地の鳴動もようやく収まりをみせている。湖も一瞬で静けさを取り戻し、波一つない平坦な水面がどこまでも続いている。
 ただその湖から突き出した無数の土の塊だけが、先ほどまでとは違う異様な雰囲気を放っていた。

 しかし、それだけだ。

「何も……起きない……?」
 怪しいと思って地形を乱してみたのだが、ここまでやっといてまさか的外れだった?
 などと呆然と輝夜が呟いた。


 その時であった。


 五人を照らし出していた茜色の太陽が、その身を一瞬で隠された。

「――!」

 全員が太陽の方角へと振り向く。

「これは……」
 幽々子が呆然と呟く中、果たしてそこにあったのは巨大な建造物であった。

 何も無いはずの湖の只中から一瞬で出現したそれは塔のように見え、五人から太陽を瞬時に覆い隠して巨大な影を一同に落としていた。
 四角柱の先端部分だけを鋭く尖らせた、オベリスクにも似た形をしたその塔は縦横の幅二十メートルほど、高さ百メートルはありそうだ、隣の紅魔館が小さく見える。
 そして何より異様なのがその外観である。
 大小様々なこげ茶色の歯車が光沢を放ちながら無数に繋がり、湖の底から頂上までずっと続いていて、その重なりだけでこの“塔らしきもの”は構成されていた。
 百や二百でない数の大量の歯車がどうやら全て完全に噛み合っているらしく、止まることなくガタガタ音を立てながら回り続けている。
 歯車の隙間から垣間見える内部にも無数の歯車が覗き、まさしく“歯車の塔”と言う他に適当な呼び名は見当たらない。

「これは……」

 一同が呆気に取られている中、諏訪子がその目をすっと細めた。
「術の増幅装置だね。それもかなり巨大な」
「増幅……」
 妹紅が首をほぼ真上に傾けてその頂上を見上げる。
「それは、世界全体に効果を及ぼせるようになるくらい、か?」

 諏訪子が「おそらくは」と頷く。
「結界に類するものじゃない。それとは別の理、これは空間を捻じ曲げてずっとこの場所に隠れていたんだ」
 神ですら見破れなかった物体。

 この塔はきっと、犯人が幻想郷にやってきた時からずっとここで待っていたのだろう。世界を破滅に追いやる最悪の術を発動するために。
 地盤を乱され空間が変動し、それによってこの塔が隠れていた側の空間を維持できなくなったのだろう。
 神の力の前にあえなくあぶり出されたわけだ。


 しばしその威容を唖然と見やっていた一同だったが、妹紅が「行こう」と呟いたのを皮切りに上空へ飛んでいった。

 目指すは頂上。“歯車の塔”の最上階にこの異変を引き起こした張本人がいる。












 異変から一ヶ月が経ったというのに、彼岸の混雑状況は一向に改善されていない様子であった。
 普段であれば色とりどりの花々が生い茂る野原のようなそこも、今はほとんど真っ白に埋め尽くされてしまっている。
 全て死亡した者の魂だ。
 白い雲の塊のようになったそれらは死神達によって必死に列を作らされていて、白い列はぐねぐね蛇のように曲がりくねり遥か彼方、消失点までずっと続いていた。
 あの先に閻魔様の裁判所があるのだろうが、ここらの魂達がそこまで辿り着くのに何年かかるか分からない。

『ああもう!』

 数ある魂の内の一つ、他と区別のつかない白い魂が列の中で苛立たしげに声を上げた。

『どれだけこのままなのよ! 一ヶ月くらい経ってない!? いつになったら動くのよ。ちょっとそこの死神! 私は早く幻想郷に行かないといけないのよ! さっさと裁判受けさせて頂戴!』

 手近な場所にいた死神は忙殺されている様子で、一魂の訴えなど無視してさっさと列を整えに行ってしまう。

『もう……知り合いにも会えないし。生き残りに早く犯人を教えないといけないのに……』

 とその時、遠くから一つの魂が飛んできた。それは一直線にぶつくさ文句を零す魂へと直行してくる。

『霊夢。やっと見つけたわ』

 聞き慣れた声に、霊夢と呼ばれた白い塊はぶるりと体を震わせる。
『その声……まさか紫!?』
『ええ』

 紫の魂は霊夢の魂の側に降り立った。死神は他に気をとられていて気付かなかったようだ。

『ちょっとあんたまで死んじゃったっていうの!? うう……もう駄目かも』

 声だけでがくりとうな垂れる雰囲気が伝わってくるが、対する紫は肩をすくめてみせたようだ。白い塊が震えたようにしか見えないが。

『私も無敵じゃないってことよ』
『そりゃまあ…………それより紫、犯人なんだけど……』
『知ってるの? 私も薄々気づいてはいるんだけど』

 霊夢は紅魔館のパーティーに出席していて、そこで得体の知れない死の術が発動したのだが、普段から張られている博麗の巫女特有の強力な結界の効力で一時的にしのぐことが出来た。
 訳も分からず周囲が一瞬で崩れ落ちていく中、必死に結界の力を強めて耐えていたのだが、それにも限界が訪れる。

 その間際、霊夢は見たのだ。
 紅魔館のパーティーの出席者の中、一人だけ平然と立ち尽くしている少女の姿を。

『そう……やっぱり彼女が……』
『なんであいつがあんなこと!』
『……理由はどうあれ、今ごろ幻想郷最後の守り手達が動いてくれてるはずよ』
『最後の守り手?』

 そこで紫はくすりと笑ったようだ、白い魂が微妙に震える。

『ええ。幽々子に蓬莱人二人。うまくいけば神々も。彼女達が正真正銘、幻想郷最終防衛線よ』







 歯車の塔の頂上。一箇所だけ歯車が抜け落ちたようにぽっかりと空いた箇所がある。
 どうやらこの塔唯一の出入り口となっているようだ、そこから四人は内部へと入り込む。

 するとそこは開けたホールのようになっていた。柱も何も無く、地面も歯車ではなく茶色いアスファルトのようなもので出来ている。
 広さは縦横十五メートルほどか、この部屋から一気に歯車の外壁の傾斜がきつくなって、ピラミッドのように天井は一点に集まっている。

 そして四人の正面、部屋の奥には巨大な時計が構えていた。
 直径五メートルほどの白く丸い盤に、Tから]Uまでの黒い英数字が等間隔に並び、長針に短針、秒針が今も規則的に時を刻んでいる。

 『4時12分』を示したその時計の正面に、少女は腕組みをして立っていた。

 背はどちらかと言えば高い方だ。青みがかった瞳を感情が消えたように細め、降り立った四人を見やっている。

「……やっぱり、お前だったか」

 妹紅は垂れ下げた拳をぎゅっと握り締め、異変を引き起こした張本人を見やる。

 白に近い銀髪を短く切り揃え、小さな三つ編みを結っている少女。
 メイド服に身を包んだ完全で瀟洒なはずのメイド長。



 十六夜咲夜がそこにいた。








 四、巫女代行 蓬莱山輝夜







 ガタガタ、という歯車の音が響く。
 無数に回っているというのに聞こえるのは一つの音だけであり、それは全ての歯車が完全に同一の動きをしているということを表す。
 外壁を構成する歯車の隙間から西日が差し込み、ホールに落ちる影は規則的に回転を続けている。

「咲夜……」
 妹紅の背後から輝夜が一歩前へ出る。
「どうしてあなたがこんなことを……?」
「…………」

 追い詰められたことは分かっているのか、逃げる様子もなくじっと感情の消えた瞳で一同を見やっていた咲夜は、深く一度溜息をつくと、やがて若干苛立たしげに口を開く。

「咲夜、ではないわ。私の本当の名前はね」
「…………?」
「本当の名前?」
 妹紅が問いかけると、咲夜はまたも疲れたようにほうっと息を洩らす。
「ええ。『十六夜咲夜』という名はレミリアによって付けられたもの。私は本来、ただ『イザヨイ』とだけ呼ばれていた」
「…………?」

 怪訝な表情をする妹紅と輝夜の後ろで、諏訪子はすっと目を細めた。
「姓名判断、か」
「そうよ」
 イザヨイと名乗った少女は即座に頷いてみせる。
「名前はその人そのものを表す。レミリアの『運命を操る程度の能力』によって私は十六夜咲夜という名を付けられ、以後紅魔館のメイドとしての運命を強制的に歩むことになった」
「運命……」
 呆然と呟く妹紅に、かつて咲夜であった少女は表情無く口を開いた。
「それにしても、まさかここを突き止められるとはね。蓬莱人や亡霊が残るのは仕方ないけれど、神が復活したのは想定外だったわ」
 つと背後の神二柱に目を向ける。

「信仰あるところに神はある」
 神奈子は厳しく目の前の少女を睨みつける。
「地上から全ての生物が消滅しないかぎり、私達は存在し続ける」

「……ふん」
 咲夜はつまらなそうに視線を妹紅に戻す。

「いくつかある仮説の一つだったよ」
 妹紅は睨み返しながら薄く笑った。
「でも、思えばこの異変には決定的な要素があったんだ」

 犯人は誰なのか。
 どうやってこんな異変を引き起こしたのか。
 そればかり考えていて重要なことについて思いを巡らせなかった。

「日にちだよ」

 咲夜の眉がぴくりと持ち上がる。

「異変が起きた時間、日にち。何故あの日でなければならなかったのか、それは分からないけどあの日あった特別なことといえば、咲夜」

 ぴたりと異変を引き起こした張本人を指差す。

「お前が紅魔館で働き始めて三年目を祝うパーティーだ」
 なんで三年目でなければならないのかは分からないけどな、と妹紅は呟いた。

「……咲夜ではないって言ったはずだけど?」
 不機嫌そうに眉を寄せた咲夜に構わず妹紅は続ける。
「決定的だったのは紫だよ。あいつはやっぱり幻想郷最強で最も賢かった。数秒の内に死んでいく中、ちゃんとダイイングメッセージを残してくれていたんだ」
「……ダイイングメッセージ?」

 怪訝な表情を浮かべる咲夜に向け、妹紅は愉快そうに笑ってみせた。

「時計だよ。紫が死んだ側に簡素な和室に似合わない不自然な時計が落ちていた。お前が犯人だって分かったのか、もしくは自分の身に起きた異変を分析し時間が関係あると踏んだのかは分からないけど、とにかく私にとっては決定的な手掛かりとなった」

 異変に関係する連中にとって、時計といえばほとんど直接咲夜のことを指し示すと言っても過言ではない。

 最初あの部屋で時計を見た時から違和感を覚えていたのだ。
 確かに紫は外の世界の物をよく持っていたりするが、それにしたって悪戯に持ち込んで見せびらかしているわけではなく、ちゃんと周囲にある程度調和した物を持ってくる。

 しかし紫の部屋においてあの異様にファンシーな時計は明らかに浮いていた。
 しかも紫の消えたすぐ側に落ちていたというのだ。
 実は意外と少女趣味な紫、というわけではなかった。いや本当にそういった可愛らしいものが好きなのかもしれないが。とにかく妹紅はおかしいと思った。

 死ぬ間際に暴れてころげ落ちたのではなく、数秒の間にスキマによってどこかから取り寄せ、死なない蓬莱人達や友人の幽々子に対する手掛かりとしたのだろう。
 彼女達が無事に残り、何かを解決してくれることを期待して。
 普段の紫の趣味を知らない妹紅だからこそ気づいたことだった。

「お前と関連付けて考えれば色々と説明がつく。生物が崩れ落ちて消える現象、あれは時間が経過して風化したのに似ている。お前の『時間を操る程度の能力』で何かしたんだろう、ってな。大方世界中の生物の成長速度を一気に速めた、とかそこらへんだろう。人間と妖怪で死ぬまでの時間に若干の差があるのは寿命の違いか? いや、成長速度とは少し違うみたいだな。魔法使いとかは寿命が無いのに死んだわけだし」
「…………」

 何も言わない咲夜に妹紅が溜息をつくと、隣の輝夜が疑問を挟んできた。
「でも咲夜のメイド服はパーティー会場に落ちていたわよね? よく生きているだなんて分かったわね」

 それに対し、妹紅は軽く頷いてみせる。
「ああ、確かに私も最初は咲夜も死んだものだと思っていた」

 そして咲夜の着ているメイド服をじっと眺める。
「でも紅魔館で働いている妖精メイド達はみんなあのメイド服を着ていたんだ」
「あっ」

 はっとして声をあげた輝夜に向けて妹紅は首肯した。
「パーティー会場には大量のメイド服が落ちていた。咲夜の物だけ無くなっていたとしても気付かないんだよ」

 紅魔館では一般メイドとメイド長とで服装を分けているわけではない。面倒だしそもそも人間と妖精、一目で分かるので服装で区別する必要などなかった。

 妹紅はにやりと不敵に笑いながら続ける。
「お前も人間だ、食料を補給する必要があったけど……知ってたか? 神奈子は幻想郷の状況を逐一確認していたんだ。お前はここ一ヶ月の間こっそり果実や薬草を採っていたみたいだけど、神奈子が味方についた時点でそれはこっちに筒抜けになった、ってわけだ」
「…………ふうん」
 咲夜は特に悔しそうでもない様子であった。

 果実が無くなったとかそんなことあったんだ聞いてないなあまあいいけど、という視線を投げかける諏訪子から神奈子は気まずそうに顔を背ける。

「姿を見せずに一瞬で植物が無くなる。お前が時間を止めていたのなら可能な芸当だ。そしてお前がまだ幻想郷にいるっていう確証を得た。まあ、」
 そう言って周囲をぐるりと見回す。
「まさかこんな巨大な塔が隠れていただなんて思いもしなかったけどな」

「…………」
 やがて咲夜はふう、と目を伏せ息を吐く。

「『イザナイの城』」
「……?」
「この建物の名前よ。昔とある組織に造らせたものでね、私の能力を核として動く殲滅装置。世界を滅ぼす、そうね、“時間兵器”って呼べばいいかしら」
「……へえ、城か。それじゃあお前は女王様か?」

 そこで咲夜はくすりとおかしそうに笑ってみせる。
「そうね、あなた達はそこに攻め入る盗賊ってところかしらね」

 「盗賊か」と妹紅は苦笑を浮かべる。
「あいにくこっちにも姫がいるんでね」

 輝夜が怪訝な様子でぴくりと眉をひそめた。

「敵国の兵士、くらいは言ってほしいもんだ」
「……あっそう」

 興味を失ったように咲夜は肩をすくめる。

「さっきのあなたの質問だけど」
「うん?」
「成長速度を速めた、というのは惜しい推理ね。早めたのは生命活動よ」
「生命活動?」

 怪訝な表情の一同を見渡し、咲夜は若干得意そうに笑ってみせた。

「体内時間とも言うわね。睡眠に食事や呼吸。寿命がどれだけ長くても例え永遠に歳をとらなくても新陳代謝には逆らえない。一万年分のそれら基礎的な生命の活動を一気に押し付けるのがこの術の効果よ。何も食べないで万の年を過ごせる? 呼吸をしないでいられる? 周囲の全てを置き去りにし、この世の動物の生命活動だけの時間を早めたのよ。そして死亡すれば人間だろうと妖怪だろうと、早まった時の中であっという間に体は朽ちて灰となり消え去る」

 一瞬で一万年分の呼吸や食事を必要とされ、そんなことは当然不可能であったので死亡する。
 寿命も無い上に食事も睡眠も必要としない魔法使いだが、彼女らが死亡したのは呼吸が必要だったからだ。
 そして死亡してからも術の効果が継続し、一瞬で風化してそれにも飽き足らずに消滅した。
 刹那の内に繰り広げられた出来事であったので、妹紅も輝夜もいつの間にか自身が死んで再生されたことにも気付かなかったということだった。

「……人と妖怪に死ぬまでの時間差があったのは、飲まず喰わず呼吸もせずに生きていられる時間の差、ってわけか」
「そういうことよ」

 妖怪の中には人間と同じくらいの呼吸を必要としていた者もいた。そういった妖怪は人間と同様に一瞬で死んで消え去ったということなのだろう。
 紫がその類であったらダイイングメッセージも残せず今頃どうなっていたことか。

「全世界を破滅に追いやれる術のはずだったわ。幻想郷にあなた達のような存在がいなければね」

 誤算は蓬莱人や亡霊、神々の存在。
 この『イザナイの城』が作られた当時、そういった不死の存在はおろか、この幻想郷のことも想定されていなかった。
 絶対殲滅術式はこの非常識な存在達によって破られたと言ってよい。

「どうしてよ」
 輝夜は世界破滅の張本人をきつく睨み付けながら問いかける。
「どうしてこんな術を使ったのよ! 世界を滅ぼすとか、あんた何考えてんのよ!」
「…………」

 咲夜は再び表情を消して息を吐く。
「さっきも言ったけど、私は元々咲夜ではなくイザヨイと呼ばれていたわ。そして退治屋として世界を飛び回っていた」
「退治屋……?」

 吸血鬼の従者が退治屋。

 呆然と呟く輝夜に向けて咲夜は肩をすくめてみせる。
「ええ。数百年も前からね」

 怪訝な様子で眉をひそめる一同。すぐに諏訪子が口を開いた。
「数百年……? 君は間違いなく人間のはずだよ」
「そうよ、私は人間。別にそこの不死の人間のように蓬莱の薬を飲んだわけじゃないわ」

 指差された妹紅が苦々しい表情で目を細める。

「私の『時間を操る程度の能力』の効果で自身の成長速度を止められるわ。もう三百年以上も私はこの姿のままよ」

 それを聞き、同じくほぼ無限の寿命を持っている一同はしかし、特段驚いた様子は見せなかった。
 
「……成程な」
 一方の妹紅はどこか納得した様子だ。

「お前はどこか私に近しいものを持っていると感じていたよ。外見に似合わない悠久の時を匂わせていた」
「……ふん」
 特に表情も無く咲夜は溜息をつく。
 妖怪と一緒にされていたら激怒していたが、あいにく妹紅は咲夜と同じく人間だ。

「私は家族を妖怪に殺された。それ以来ずっと妖怪を殺し続けて彷徨ってきた。本当の名前は勿論あったけど、その名を呼ぶ者はもういない。呼ばれる必要も無い。だから私には“イザヨイ”だけで十分だった」



 数百年の放浪の後、現在から三年前、イザヨイは東方の地に幻想郷の噂を知る。無数の妖怪が闊歩する異形にとっての楽園の地なのだと。
 幻想郷に張られた博麗大結界は常識と非常識を区別する。
 その効果により、外の世界に存在する妖怪やら異能者を幻想郷に引き付けることとなった。異能の力を持つイザヨイに幻想郷の噂が伝わってきたのもその効果の内なのだろう。

 何はともあれ、彼女にとっては敵の本拠地のように感じられたそこの妖怪共を根絶やしにしてやろうと、彼女は自信満々で乗り込んでいった。

 しかし――

『こんにちは』
『――!』

 一番初めに出くわしたのは、西洋の服に身を包んだ金髪の妙な妖怪だった。空間のスキマに腰掛け余裕の笑みを向けてくる。

 見た瞬間に分かった。

 格が違うと。

『あなた、イザヨイっていう退治屋さんね?』
『な――!』

 膝が笑うのを必死に抑えなければならなかった。自分の能力をもってしてもおそらく足元にも及ばないであろうことを、この妖怪の惜しげもなく放つ威圧感から感じられた。
 妖怪退治を繰り返してきたイザヨイの自信は脆くも打ち壊されてしまった。
 長い放浪生活の中、とある組織に所属している時に造られた『イザナイの城』を今すぐ発動できるならそうしようかとも思ったくらいである。あいにく発動にはいくらか手続きが必要だ。ちなみにその過激組織は国家の圧力で直後に崩壊してしまった。

 この妖怪が退治屋の自分を殺そうというのは至極当然のことではある。
 死を覚悟した。

 しかしその後妖怪が言った言葉に、イザヨイは唖然としてしまう。

『ううん。邪魔しようっていうんじゃないのよ。むしろ協力してあげたいわ』
『……は?』

 その妖怪が言うには、以前紅魔館という悪魔の館が幻想郷にやって来て、好き勝手に暴れ回っていて迷惑しているという。
 それを始末してくれるのなら見逃してやってもいい、とのこと。

 妖怪同士の喰い合いか。
 呆れながらも、隙を見て逃げ出そうとその申し出を受けることにした。

 が、直後にその紅魔館とやらに住む妖怪の名を聞いて愕然とした。

 レミリア・スカーレット。

 スカーレットデビルと言えばイザヨイも外の世界で聞いたことがある。
 嘘か真か運命を操る力を持っている吸血鬼で、捕まれば喰われるか、もしくは人生を別の運命に書き換えられてしまうという。

 噂も聞かなくなりとっくに死んだのだと思っていたが、まさかこの地に潜んでいようとは。

 息を飲んで押し黙るイザヨイに対し、境界の妖怪は可笑しそうに笑みを向けた。
『どうしたの? やめておくかしら?』
『…………やる、わよ』

 ここで嫌だと言えば殺すのだろう。
 それに元々妖怪は殺し尽くすつもりだった。家族を殺された恨みは薄れてかけていたが、それが自分の生き方として染み付いていた。今更変えることなどできない。

 とはいえ知名度こそあるが元々絶対数の少ない吸血鬼、長い放浪生活の中でも吸血鬼を相手にしたことはない。それに運命を操るとかいう得体の知れない能力もある。
 戦いの中で万が一敗北し、殺されるならまだいいが、自分の運命を変えられて僕となってしまう可能性がある。
 その時のため、イザヨイは一つの保険を立てておくことにした。

 それが自身の持つ『イザナイの城』。
 時間を操るということは空間までも操るということ。普段は空間の捻れの中に隠してあるその装置はイザヨイの持つ時間の力を最大限増幅し、世界中の動物を死に至らしめる禁断の兵器。
 今もどこかの国が極秘裏に、しかし血眼になって探している恐怖の術具である。

 それをあのスキマ妖怪にも見付からないよう、紅魔館を取り囲む湖の中に巧妙に空間を捻じ曲げて隠しておき、万が一イザヨイの身に何かあり、“三年”経っても『イザナイの城』に彼女から何の接触もない場合にはその効果を発動するようにセットしていたのだ。

 “三年”である。早過ぎてはまだ妖怪達の警戒が解けず、万一発動を潰されてしまう可能性がある。
 気の長い妖怪のことも考慮し、警戒の解けるまで三年待つことにした。

 そしてイザヨイは紅魔館に潜入する。もちろん夜に戦いを挑むようなことはせず、建物の中に最も陽が差し込む時間帯である夕方の内に忍び込んだのだが、何故か門番等の姿が見当たらなかった。

 元々いないのだろうか? などと不思議に思いながらも時間を止めつつ館の中に忍び込むと、しかし使用人一人見当たらない。だが妖怪の気配は館の奥の奥からぷんぷん匂ってくる。

――誘われている。

 だがこちらの能力は知らないだろう一泡吹かせてやる、とイザヨイは一際大きな気配の吹き出す端の部屋へと入っていった。

 そこにいたのは幼い吸血鬼。
 銀のナイフを構えるイザヨイを見て余裕の笑みを見せる。

『いらっしゃい、美味しそうな人間さん』

 結果、イザヨイは敗北した。
 まるで運命を操られているかのように全く攻撃が当たらなかった。

『あなた面白い力を持っているのね』

 床に倒れ伏すイザヨイを、レミリアは、にいっ、と唇の端を思い切り吊り上げた凄惨な笑みで見下ろした。

 この時になって思えば、最初からあのスキマ妖怪に嵌められていたのだろう。
 紅魔館の悪魔が暴れまわっているなど嘘。自分がこうなるように仕組まれていたのだ。

『あなたに新しい名前をあげるわ。うちのメイドとして働いて頂戴』
『くっ……運命の、力……か』
『あら知ってるの?』

 レミリアは「ふふふ」と怪しげに笑ってみせる。

『姓名判断、って知ってるかしら?』
『や、やめろ……!』
『あなたの名前はそうね……“十六夜咲夜”というのはどうかしら』

 そこでイザヨイとしての記憶は途切れ、彼女は気付いたら十六夜咲夜として何の疑問も抱かずにメイドとして働き始めていた。
 元々館のメイドは妖精達しかいなかったので、有能な彼女はレミリアの信頼を得、すぐにメイド長にまで登り詰めることができた。というか咲夜が来るまでメイド長という立場も存在していなかった。
 頭の弱い妖精達を纏め上げ、しょっちゅう居眠りをする門番を日に何度か起こし、主の弾幕勝負にも付き合い。

 そしてそのままきっかり三年が経ち、『イザナイの城』は命令通り発動した。

 レミリアが死んだ瞬間に運命の力も効力が切れ、イザヨイとしての全ての記憶を取り戻したというわけだ。

 誤算は非常識な死なない存在達。
 記憶を取り戻した後、彼女らの存在を知っていた咲夜は『イザナイの城』と共に姿を隠すことを余儀なくされた。



「まあ、それも見つけられてしまったけどね」
 両手を挙げて肩をすくめてみせる咲夜に、輝夜は目を剥いて打ち震えた。
「あんた……世界中の生き物達を殺しておいてなんとも思わないっていうの? 罪も無い人々を殺してよく平気でいられるわね!」
「そうね、平気よ」

 はっきりと言ってのけられ、輝夜はぎょっと目を見開く。

「私にはねえ、何も無いのよ。家族は皆妖怪に殺された。この能力のおかげで人の中にも馴染めず、ずっと復讐のために妖怪を狩り続けて生きてきた。世界が滅ぼうがどうだっていいのよ!」
「あんた……」
「優しかったお父さんもお母さんも皆無残に殺された! 妖怪を根絶やしにするためだったらねえ、世界も滅ぼしてやるわよ!」



 優しかったお父さんお母さん。
 しかしそれは全く違った。
 生まれつき異能の力を持つイザヨイを、家族は気味悪がり倦厭していた。
 つま弾きにされ、いつも一人で食事をとらされていた。
 旅行にも連れて行ってもらえず家で留守を言いつけられ、下手に目を合わせると容赦無く殴られて止める者もそこにはいなかった。

 それでもまだ幼い彼女は家族を求めていた。
 愛情を注いでほしかった。
 必死にいい子であろうと努力をし、しかし受け入れられずに一人で声を押し殺し泣いたのは何度あったことか。


 旅行先で家族が妖怪に皆殺しにされたのはそんな時だった。

『お父……さん? お母さん?』

 並べられた遺体の前で彼女は呆然としていた。
 そして目に涙を溜めて声を荒げる。

『復讐してやる…………お父さんとお母さんを殺した妖怪共を殺してやる!』

 お父さんとお母さんは優しかった。それを殺した妖怪共に復讐するために生きてやる。

 そう自分に言い聞かせないと幼い心を保つことは出来なかった。
 両親は優しかったなどと自分の記憶を捻じ曲げ、その偽りの記憶を支えにしないと生きていけなかった。

 やがて放浪していく内、彼女の異能の力に目をつけた反政府の過激組織に誘われ、そこで絶対戦力『イザナイの城』が建設されたがしかし、製造後すぐに政府軍の手によって組織は殲滅させられた。

 組織の人間が一人残らず殺されていくその時にもイザヨイは特に何も感じず、『イザナイの城』を空間の捻れに隠し持って逃げ出した。

 やがて時が経ち両親への憎しみが薄れた頃合、妖怪を殺すという目的しか残らないがらんどう。
 そこにはもはや妖怪を始末するためならどんな犠牲も厭わない殺戮人形が出来上がっていた。



「妖怪は全部殺してやった。私の目的は果たされたのよ!」
 高らかに笑い声を上げる咲夜を、ぎゅっと拳を握り締めながら輝夜は睨みつけていた。
 誰よりも大切だった永琳が、因幡達がそんな復讐に巻き込まれて殺されたのだという事実が何より悔しかった。こいつを今すぐに八つ裂きにしてやりたい。

「今私は最高に気分がいいの。ねえ、私を殺す? あなた達なら出来るかもね。でもそんなことしたって死んだ人間は生き返らない!」
「…………」

 確かに死んだ存在を今更どうこうできはしない。イザヨイの悲願は達成されてしまったのだ。

 ここはとうに全てが終わった後の世界。
 生き残りはたったの数人。世界滅亡の後に待つ荒廃した時間。
 異変を引き起こした張本人である咲夜を殺せば正真正銘全てが終わる。
 それがこの異変を解決するということなのか。そんな絶望的な結末しか用意されていないというのか。

 無力感と挫折感、敗北感までもが失意と共に場を支配する。
 確かに既に世界中の生物が死亡している。終わっているのだ、この時は、世界は。
 

 そんな時であった。

 苦々しい表情で殺戮人形と化した咲夜を見ていた一同の、しかし諏訪子が重い空気を裂くように口を開いた。

「ねえ、咲夜」
「咲夜じゃないって言ってるでしょう」
「なんだっていいよ。君さあ、この異変なんだけど」

 そう言って歯車だらけの周囲を見渡す。


「本当にどうにもならないのかな?」


 そんな事を言ってのけた。

 全員の視線が諏訪子に集中する。

「諏訪子……?」
 何を言っているのか、と隣に立つ神奈子が怪訝な表情で呟くと、小さな神は顎に手をあて何やら考える素振りを見せた。
「うん、あのね。こういった重大な効果を発生させる術式っていうものは、大抵がリカバリー――やり直しがきくように造るのがセオリーなんだ。何かの間違いで発動させちゃったら困るしね。だからまあ、今からこの効果をチャラに出来るようなことはないのかな、って思って」
「な、何言ってるのよ!」

 輝夜が慌てた様子で詰め寄った。

「永琳も因幡達も、紫や霊夢も世界中の生物たちもみんな死んだのよ!? やり直しとか、そんなこと無理に決まってるじゃないの!」

 もう全世界で人妖が死んで彼岸は魂で埋め尽くされている。今更どうにもならないのは誰の目にも明らかである。

「そうよ、どうにもならないの。この術にやり直しなんて機能はない。あなた達に出来るのは腹いせに私を殺そうとすることだけよ」

 そう言う咲夜にしかし、諏訪子は腑に落ちない様子で首をかしげる。

「SF、って言うのかなこれって。早苗が結構好きでね、私も小説とかを読ませてもらったことがあるんだけど、その中でも時間を飛び越えたりとかが出てくるんだ」

 じっと慎重に咲夜の表情を窺いながら続ける。

「それでさあ、その小説の中でも同じようなことがあったんだけど…………例えばほら、この術式の発動前に時間を巻き戻して全部チャラにする、っていうのは無理なのかな?」
「な――!」

 妹紅に輝夜、神奈子に幽々子はぎょっとした様子で小さな神を見やる。
 そんな事は考えもしなかった。
 文化のレベルが外の世界より遅れている幻想郷ではSFなどは知っていなくて当然である。外の世界から最近やって来た者ならではの発想だ。

 一方の咲夜は――

「……ありえないわ」

 無表情で言い放つ。
 しかしそこに僅かな焦りの色があるのを諏訪子は見逃さなかった。

「諏訪子! 本当にそんなこと可能なのか!?」
「それは彼女に聞いてみないと。でも可能性は高いように思えるなあ」

 いけしゃあしゃあと諏訪子は言ってのけた。

「咲夜!」

 そういえばメイド長の十六夜咲夜は時間を戻すこともできると聞いていた。

 妹紅はいくらか希望のこもった瞳を異変の張本人へと向ける。

「無いわよそんなもの。いくらなんでも一ヶ月もの時間を巻き戻すなんて不可能よ」
 冷たく言い放つ咲夜に、しかし妹紅は食らいつく。

「お前単体では無理でも、この装置の助けを借りれば可能なんじゃないか?」
「無理だって言ってんでしょう」
「……でもまあ、実際にそんな効果があったとしてもお前が私達に教えるわけないよなあ」
「しつこいわね、諦めなさいよ」
「いいや」
 妹紅はそこでにやりと不敵な笑みを浮かべる。

「その“仮定”は棄却する。どうにもならない仮定を考えていても仕方ないしな。だからもっと希望のある仮定、“時間の巻き戻しは可能だ”という仮定に私は賭ける」

 そうして一歩を踏み出した時、咲夜は不機嫌そうに顔を歪ませた。

「鬱陶しいわね」

 次の瞬間、変化は起きた。

「――!」

 五人は突然激痛を感じ、自身の胸元へと視線をやった。
 そこには深々と埋め込まれた銀のナイフがある。

「なっ!」

 時間を止めて刺して回ったのだろう、妹紅と輝夜の胸からは血がぼたぼたと零れ落ちてくる。

「くっ!……無駄だ」

 妹紅が血にまみれたナイフを抜きつつ吐き捨てると、同じく輝夜もナイフを抜く。
 するとその時にはもう傷は綺麗さっぱり無くなっていた。
 幽々子に至っては血も流れてはいない。

 蓬莱人には傷一つつけることはできない。亡霊はそもそも傷がつくかどうかという概念すら及ばない。

(今のが時間を止めた感覚……)

 ナイフで刺されたというのに、輝夜はぼんやりと何かを考えていた。
 かつて永夜異変の折、弾幕勝負の最中に咲夜から時間を止めたスペルを発動されたことはあるが、やはりどこか知っているような、奇妙な感覚がある。
 それがなんなのか、次第に分かってきたような気がした。

 一方の咲夜はどこか感心したように頷いてみせる。
「ふうん、やっぱり死なないのね」
「ああ。何度やろうと無駄だ」

 そこでしかし、咲夜は不敵に笑ってみせる。

「でも後ろの二人はどうかしら?」
「……?」

 怪訝な様子で妹紅に輝夜、幽々子が振り向くと、そこには体がぼやけて消えかかった神二柱がいた。

「なっ!」

 妹紅が慌てて駆け寄ると、膝を折った諏訪子は苦々しい表情で胸のナイフを抜き取る。

「おい諏訪子! 一体どうしたんだ!?」

 神は死なないはずでは?

 愕然とする妹紅に呼びかけられ、すっかり体の薄くなった諏訪子は苦笑いを返した。

「はは……まあ私ら神は死なないんだけどさあ、肉体的に滅びると一旦守矢神社に帰されて再生しなくちゃいけないんだ」
「それじゃあ……!」
「うん……もう一度守矢神社の前で祈ってもらわなくちゃ、いけない。……うっ……時間を止める、か。厄介だね……次は、やられたり、しない、けど……」

 同じく体の薄れた神奈子が自身の胸からナイフを抜き取る。
「希望を捨てないで。きっと戻る方法はあるわ」

 まさか今から守矢神社に戻って祈っている暇など無い。
 この神二柱が異変後に消滅していたのは信仰がだだ下がりしたからだけではなく、“イザナイの城”の効果によって肉体的に滅んだ所為でもあったのか。

 神奈子と諏訪子の体がもうほとんど背景が透けるくらいに薄まっていく。

「諏訪子! 神奈子!」

 悲痛な面持ちで呼びかける妹紅、そして輝夜と幽々子に対し、諏訪子は穏やかに笑ってみせた。

「頑張れ……幻想郷の、最後の守り手、たち……」

 やがて二柱は消え去っていった。



「く……」
 妹紅は拳を握り締め、立ち上がると咲夜を睨みつける。

「私を殺すかしら?」
 咲夜はおもむろに幽々子を見やる。
「あなたならそれも容易にできそうね」

 死を操る程度の能力。西行寺幽々子。

「…………」
 亡霊の少女は敵対的にすっと目を細めた。
「殺さないわ。あなたに時間を戻してもらうまではね」
「だから不可能だって言ってるじゃないの」

 苛立たしげに言う咲夜に、それまで黙っていた輝夜が口を開いた。

「ねえ咲夜。あなた、幻想郷が嫌いなの?」
「は?」

 咲夜はわけが分からない、といった具合で肩をすくめる。

「何言ってんのよ。嫌いに決まってるでしょ? こんな化け物共が住む地獄のような場所なんてね」

 楽園と言われる幻想郷を地獄と言うか。

 輝夜は構わず続ける。
「私はあなたの日常には詳しくないけど、レミリアの従者として働くあなたはとても満足そうだった。幸せそうだった。その運命が嫌だったって言うの?」
「…………」
「あなた、十六夜咲夜としての記憶もあるんでしょ?」

 咲夜はやれやれ、といった具合でふうっと息を吐く。

「あの三年間はレミリアに運命を操られて、仕方なく働かされていたのよ。間違った運命だったの。それが正された。ただそれだけよ」

「違う」

 妹紅がきっぱりと言い、全員の視線を集めた。

「違う? 何が違うっていうのよ」
「違うよ。全然違う。運命を変えられたとかそのことについては確かに私も詳しくない。けどな」

 きっ、と紛れもなくイザヨイと十六夜咲夜である少女を見つめる。

「初めて私に弾幕勝負を挑んできたあの時、あのお前とレミリアの絆は本物だった。レミリアはお前を信頼していたし、お前はレミリアに全てを捧げていてそれに満足していた」


 あの竹林での弾幕勝負。
 先にやってきた三組を打ち負かした妹紅の元に辿り着いた最後の二人。

 レミリア・スカーレットと十六夜咲夜。
 互いに深い信頼で結ばれた、おそらくタッグを組んだら幻想郷で一番の主と従者。

「だからこそ私はお前達に負けた。そして負けても満足だったよ、そんな完璧な二人に破れたんだからな。例えそれが変えられた運命の元でのことであったとしても、あの時お前達は確かに幸せそうだった。その感情は…………今のお前だって忘れてはいないはずだ」
「…………」

 咲夜はしかし、即座に鼻で笑ってみせる。

「たった三年」

 ガタガタという赤銅色の歯車の音がやけに大きく耳に響く。

「私がメイドとして働いていたのはたった三年よ? 私は三百年以上も妖怪を憎み、殺し続けてきた。それに比べれば三年なんてほんの一瞬の出来事に過ぎない。刹那に心が根を下ろすことなどありえない」

 紅魔館で過ごした三年間。
 役に立たない妖精メイドたちを叱り、寝てばかりいる美鈴を叩き起こし、幼い吸血鬼の世話をして。

 それまでの人生とはまるで違う生き方。全く別の運命。 
 幸せだった。十六夜咲夜は。

 しかしそれはイザヨイとしての人生を忘れていた時の話。
 それまでの自分を取り戻し、妖怪を憎み殺し続けた三百年を前にすれば薄氷のごとく脆いものに過ぎない。


 しかしそれでも妹紅は首を振った。

「時間の長さなんて関係ない」
「…………?」
 眉をひそめる咲夜に対し、妹紅は隣の輝夜を親指で乱暴に指差した。

「例えばほら、ここに輝夜がいるだろう」
 
 示され、輝夜は若干不満そうなような怪訝な表情で妹紅を見やる。

「私とこいつはもう千年以上も憎み合い、殺し合ってきた。それが永遠に続くと思っていた」

 二人のことについては咲夜も知っていた。
 永遠に生きることを宿命付けられ、永遠に殺し合う蓬莱人たち。
 誰もが一度は考える永遠の命の現実としての存在。蓬莱の人の形。

「それなのにどうだ。ここ一ヶ月一緒に暮らす内、一度も殺し合いをしてない」
「それが……何だっていうのよ」

 思わず問いかけてしまった咲夜に対し、だからさあ、と妹紅は嘆息する。

「どれだけ長い間憎んでいようとずっと殺して合ってきていても、ほんの僅かの時間で変わる事はある。まあ、私とこいつが仲良くなったわけじゃないけどな。過ごした時間が長いか短いかなんて関係ないんだよ。時間を操るお前がそれを分からないっていうのか?」
「…………」
「たったの三年? 変わってしまえばいいじゃないかそれだけで。人が変わるのなんていつも一瞬だ。三年なんて長い方なんだよ」
「何も知らないでそんなことを言う……」

 しかし妹紅は首を振る。

「分かるさ。長く生きることに関しては“専門”だからな」

 その意味では咲夜と妹紅は近しいものがある。
 人の身のままに長き時を生きる。
 だからこそ分かることがある。

「お前さ、本当は妖怪への憎しみなんて薄れてるんだろ? 憎しみのために生きてるなんて嘘だ。そんな感情とっくの昔に枯れ果ててる」

 いくらかは図星であった。
 咲夜はぎょっとして一瞬身震いをする。

「何を、言ってるの……!」
「私がそうだからだ」
「…………!」

 はっとして息を呑んだのは輝夜だった。

「私は輝夜が憎い。輝夜も私が憎い。そう言っていつまでも殺しあって…………本当はお互い分かってるんだよ。心の底からの憎しみなんてとっくに消え失せてる。でも憎くて、殺さないといけなくて。そうしていないと永遠の時を人の身で生きていくのに耐えられないから。私達は生きる目標を作るために憎み合ってるんだ」

 それは暗黙の了解になっていた。
 本当は輝夜も妹紅も分かっていたこと。

 同じく永遠の時を生きる者がいると知り、最初は確かに昔のいさかいから本当に憎み合って戦ってきた。

 しかし思えば共に生きる方法もあったはずだ。
 過去のしがらみを捨て去り、永遠の時を仲良くずっと一緒に過ごす。

 それが怖かった。
 仲良くなればいずれ関係が壊れてしまう。
 それはとても苦しいことだから。
 だからいっそのこと最初から底辺の状態、憎しみあい殺しあっている方が気が楽だ。これ以上関係が悪くなることなんてない。

 元々憎しみ合っていたこともあり、そのまま永遠にこのままでいよう、と何も言わなくてもお互いに感情を共有していた。


「これがどれだけ脆弱で愚かで馬鹿馬鹿しいことか分かってる。それでも私達は完璧じゃないから、強くないから、必要なんだ。でもお前はどうだ? ちゃんと死ぬことが出来るし、生きてきたのもたったの三百年かそこらだろう?」

 千年を生きる妹紅は三百年を生きた咲夜を睨み、叫んだ。 

「“永遠”でもないのに憎しみにすがるなんて贅沢なんだよ!」


 再び規則的な歯車の音だけが最上階に響く。
 太陽はいつの間にか沈んでいたのか、歯車の隙間から差し込んでいた西日もとうにその身を引いている。
 咲夜の背後にある巨大な時計盤の秒針がカチカチささやかに時を刻む。

「…………」

 咲夜は顔を俯かせ、手をだらんと垂れ下げて押し黙っていた。そこから表情を読み取る事はできない。

 妹紅も、輝夜も幽々子もじっと黙って彼女を見つめていた。

 破滅の異変を引き起こした張本人、十六夜咲夜。もしくはイザヨイか。

 彼女の心に訴えかけることしか、今の守り手達にすがる手は無い。
 彼女の中に眠る十六夜咲夜に呼びかけ、応じてくれることを待つしかない。

 本当にあるのかどうか分からない異変の解決方法、時間の巻き戻しに全てを賭けて。


 しばしそうしていた。


 変化は起きた。

 突然鐘が鳴り響いたのだ。どこか物悲しい、長く使われてなく錆び付いたような乾いた音色。

 がらん、がらん、という金属音が歯車を伝わり、『イザナイの城』全体に響き渡ったそれは幻想郷全体にもこだまする。

「何……?」
 輝夜が辺りをきょろきょろと見渡していたが、どうやら鐘の音は彼女らの正面、咲夜の背後にある巨大な時計盤の中から聞こえてくるようだ。

 その時計によると時刻は5時7分。
 まさか定時を知らせるものでもあるまい。

 三人の視線が集中する中、顔を俯かせていた咲夜がにわかにぶるぶると震えだした。
「…………」
 拳を握り締め、歯を噛み締めて声を洩らす。

「ふ……」

 咲夜は笑っていた。

「ふふははあはは!」

 馬鹿にするような嘲るような狂ったような、勝ち誇った万遍の笑い声を高らかに歌い上げる。

「あはははははは!」

 輝夜が怪訝な表情で口を開いた。
「……何がおかしいのよ」
「ははははは! 何って?」

 そう言って顔を向けた咲夜は、まるきり狂気に支配されているとしか思えなかった。
 目を限界まで見開いて眼球には血管が浮き出て、血が滲むほど歯を噛み締めるその表情は笑い声とは裏腹にどこも笑ってなどいない。
 愉快そうではない。しかし彼女は嬉しいのだろう。

「終わりよ。何もかもね」

 幽々子は眉をひそめた。
「終わり……? もう終わってた、じゃなくて?」
「そうよ!」

 綺麗な虫を捕まえた子供のように咲夜は万遍の笑みを咲かせる。

「教えてあげるわ。確かにあの神が言ったように、時間を術の発動前に巻き戻す方法はあった」
「――!」

 三人はぎょっと目を見開く。
 元に戻る方法があったことより、なぜそのことを話すのか、という点に疑問が動く。

「でもねえ、その巻き戻しは、術の発動からきっかり一ヶ月の間が期限なのよ。それ以降はもう本当の終わり。世界の破滅がやってくる」
「な――!」

 妹紅はぎょっとして時を数えた。

 世界が破滅を迎えて、今日で大体一ヶ月。
 いや――

「今が丁度一ヶ月か!」
「そうよ!」

 咲夜は高らかに宣言する。
 事が起きたのは今と同じような夕方のことだった。

 鐘が相変わらず幻想郷全体に響き渡るほど大きく鳴っている。

「この鐘はそれを宣言するもの。世界終焉の合図。ははは、惜しかったわね、ぎりぎり一ヶ月のこの日にあなたたちはやって来たのに。まあ、私が巻き戻しの術を発動しないといけないから、何にせよどうにもならなかったんだけどね」

 例えどんな拷問を受けたとしても、巻き戻しをしたりはしない自信はあった。

「お前……」

 今までぺらぺらと話していたのは時間稼ぎだったというのか。

 妹紅はぎりりと歯を噛み締め、しかし不意に問いかけた。
「何故だ」

 咲夜は歪んだ笑みのまま鼻で笑う。
「は? なぜこんなことをするのか、だなんて今更聞くの?」
「違う」
 と妹紅はじっと咲夜を見つめながら首を振る。

「なんでさっさとこの城を壊さなかった? 巻き戻しを最初からする気がないなら、さっさと壊して終わりにすればいいじゃないか」

 戻すことも考えていたのではないのか。迷っていたのではないのか。
 彼女の中に眠る十六夜咲夜としての感情が、時間を巻き戻せと必死に叫んでいたのではないのか。

「…………」

 咲夜はふうっと溜息をついた。その仕草が何か感情を押し潰すように思えたのは気のせいか。

「別に。何か手違いがあるといけないから念のため残していた。ただそれだけよ」
「……本当か?」
「しつこいわね」

 とその時、巨大時計の中から声が響いた。

『“イザナイの城”発動から一ヶ月が経過しました』

 録音されたものなのだろう、淡々とした声色だが機械音声ではなく、声の震えなどからして肉声だと分かる。
 歯車を伝わって城全体を駆け巡り、反響して四方八方から聞こえてくる。

「終わりね」

 咲夜が勝利を宣言し、三人の表情に諦めがつのる。
 今から咲夜を捕まえ拷問したとしても間に合わないだろう。
 これで正真正銘の終わりか。

 幻想郷で度々起きていた異変の数々も。
 空を飛びまわっていた妖精や天狗達も。
 毎晩のように開かれていた博麗神社での宴会も。
 見事に咲き誇る桜が立ち並ぶ冥界での花見も。

 あの騒がしい日々が、終わる。

「そんな……」
 輝夜が絶望のあまり、がくりと膝をついた。
 妹紅と幽々子はそのまま咲夜を睨んだまま必死に解決策を探る。

「正しい判断ね」
 言われ、幽々子は眉をぴくりと寄せた。

「私を殺したらそこでこの塔は活動を停止する。巻き戻しも何もできなくなる。それともどう? 殺してみる? どうせこの後殺すんでしょう?」
「っ…………」
 幽々子が悔しそうに唇を噛む。

 まだ咲夜を殺すわけにはいかない。殺してしまったらそこで終わってしまうから。
 その引き金を自分が引く事はできなかった。

 そんな彼女らに構わず、時計盤の内部から聞こえる淡々とした女性の声は言葉を続けた。




『これより術の発動前に時間を巻き戻します』






 一瞬の間があった。

「は?」
 咲夜が呆然と後ろを振り向き、妹紅が、輝夜が、幽々子が唖然と顔を上げる。

 何が起きたのか。この録音は一体何を言い出すのか。
 時間を巻き戻す。
 咲夜が言っていたこととは真逆のこと。

 妹紅が幽々子と、輝夜と顔を見合わせて、しかし何が分かるわけでもない。
 咲夜すら訳が分からない様子でぽかんとしている。

 その空気を察したのかそうでないのか、時計の中から響く声は続けた。

『私はこの“イザナイの城”の開発者の一人です。…………イザヨイさん、あなたはこの恐ろしい兵器を発動してしまったのですね。それほどまでにあなたの憎しみは大きかったのでしょうか』

 それは当時、イザヨイが反政府組織と協力関係にあった時、“イザナイの城”開発のために住まわされていた研究所にいた開発者達。その総責任者の声に咲夜は僅かに覚えがあった。

『この“イザナイの城”は国家を相手に交渉し、不当に捕らえられた同胞を政府の手から助け出すのを目的としています。本当に使用することなど誰も本気で考えてはいませんでした』

 当時、イザヨイは何も言わなかった。
 自分が妖怪を憎んでいることも、そのために組織を利用しているのだということも。聞かれなかったし話す気もなかった。ただお互いに利用しあっていただけだ。

 しかしこの研究者は目ざとくイザヨイの何かを察していたようだ。

『ですがあなただけは違いました。本当にこの兵器を使用してしまう危険性を感じていました。あなたが一体何に対して憎しみを抱いていたのか私は知りません。ですが今一度、この“イザナイの城”の製作者として、責任ある者としてあなたに呼びかけたいのです』

 淡々とした声はやがて、切実さを帯びたように言葉を早くしていく。

『この兵器を使用し、世界を滅ぼすなどやめてほしい。罪も無い人々を殺さないでほしい。こんな兵器を作っておいて傲慢と思われるかもしれませんが、それが私からのお願いです。あと一分で時間を発動前に巻き戻します。今ならやり直しがききます。どうか、あなたの生きた世界を滅ぼさないであげて……』

 世界を滅ぼす殺人兵器の開発者の、それはなけなしの良心だった。


 それきり、音声は消えた。
 鐘の音は相変わらずやかましく鳴り響き、終わりのときではなく今はやり直しの時を報せている。
 長い時を待っていたというのに錆び一つ無い歯車がガタゴトと規則的に回転し続け、その音にも慣れてしまったのか、もううるさいとも思わない。

 咲夜はじっと俯いたまま今の声を聞いていた。

「咲夜……」

 幽々子が呼びかける。
 もうやめよう、と。

 虚しい復讐などもうやめよう。
 また紅魔館のメイド長として暮らし始めればいい。
 憎しみに捉われた今の咲夜の、それがきっと唯一の明るい道筋だから。

「…………」
 咲夜はやがて顔を上げる。
 険しい表情をしているが、どこか呆れたような疲れたような悄然とした顔つきだ。

「“イザナイの城”がこちらの命令を一切受け付けなくなってる……全く、馬鹿なことをしてくれたものね」
「咲夜!」

 妹紅の呼びかけに、しかし咲夜は鼻で笑ってみせた。

「だから何? やめる? 復讐を? 今更生き方なんて変えられない。この城が今はそれを邪魔するというのならねえ……」

 にいっ、と口の端を吊り上げ、目を見開いた笑みを浮かべた咲夜は高らかに宣言した。

「この城を破壊すればいいのよ!」
「なっ!」

 そこまでして悲願を達成しようというのか。
 とうに枯れ果てた憎しみにすがりつくことでしか生きられない哀れな少女。
 彼女は三百年の時の重みに押し潰されている。憎しみの呪縛に囚われてしまっている。
 時間を操るのではなく、時間に操られている。

 ならばもう強制するしかあるまい。

 その瞬間、妹紅が動いた。
 コンクリートの床を踏みしめ、一瞬で異変の張本人目掛けて肉薄する。
 この装置が咲夜の力を核として動いているのなら彼女を殺すわけにはいかない。
 捕まえておき、咲夜に何もさせなければこのまま事は解決する。

 しかし咲夜は高らかに宣言する。

「無駄よ!」

 刹那、時は止まった。

 あれだけあった全ての歯車が動きをぴたと止め、鐘の音も瞬時に聞こえなくなる。
 咲夜の眼前まで迫った妹紅も前傾姿勢のままほとんど空中で静止し、風の動きも陽の光も、全てが時の渦中に囚われる。

 時間を操る程度の能力。
 止まった世界の中、動くのは咲夜ただ一人であった。

「はは……」

 咲夜は乾いた笑みを零した。
 絶対無敵の時間の力。
 レミリアには負けたが、そこらの大妖怪にも引けをとらない強力な能力である。


 ため息をつき、止まったまま睨みつけてくる妹紅から目を逸らすように、咲夜は背を向け時計盤へと向き直る。
 この巨大時計こそ“イザナイの城”の心臓部であった。鐘もこれに内蔵されているし、ここを壊せば全ては終わる。

 やがてその白い時計盤へと近づき、目の前まで来ると、やがて懐から銀のナイフを取り出した。 

「終わりよ……何もかも」

 頭をよぎった紅魔館での日々も一瞬のもの。
 すぐにやって来た三百年の殺し合いの日々が飲み込んでしまう。
 永い憎しみの時間によって今の咲夜は捉われていた。囚われてもいた。

 無理やり運命を変えられでもしないと捨てられなかった宿命。
 三年の間忘れていた苦しい人生。

 新たな運命。
 紅魔館のメイドさん、十六夜咲夜。

――未練などない。

 知らず知らずの内にそう言い聞かせていた。

 振り切るようにナイフを振りかぶる。

「終わりよ」



「それはどうかしら」

 次の瞬間、あまりに唐突に、振りかぶった腕を背後から万力を込めて掴まれた。

「――!!」

 止まった時間。咲夜の、イザヨイの世界。
 絶対孤独な静止の空間。

 そのはずだった。
 なのになぜこの腕は掴まれる。

 この時、咲夜は心の底から怯えた。

(馬鹿な!)

 相変わらず歯車は止まっている。時間は止まっている。
 自分を邪魔する者などいないはず。

(誰が!?)

 恐る恐る振り返る。
 止まった世界で動く、ありえないはずの侵入者。


 咲夜の振り向いた先。
 果たしてそこには、紅白の巫女装束を着た少女が立っていた。
 異変解決でお馴染みの博麗の巫女。

「れい――!」

 しかし次の瞬間、咲夜は瞳を見開いた。
 そこにいたのは博麗霊夢ではなかった。

 確かに同じ黒髪だが違う。
 その髪は足首まで長く伸ばされ、黒の中に陽の光を全て閉じ込めたように艶やかな光沢を放っている。
 肌は白いビードロのごとく透き通るようで、黒髪とのコントラストで一層その色を引き立たせている。
 腕利きの人形師が生涯をかけて精巧に作り上げてもこうはならないほど目鼻は整い、この女の前ではあらゆる美人が美人でなくなる。

 蓬莱山輝夜。

 彼女が咲夜の腕を掴み、不敵な笑みを浮かべていた。

「そんな馬鹿な! 何故動ける!?」
「ふふ……」

 腕を掴まれたまま驚きの声を上げると、輝夜は得意そうに笑ってみせた。 

「私の能力くらい知ってるでしょ?」
「な…………?」

 永遠と須臾を操る程度の能力。

 永遠とは歴史の無い世界の事で、未来永劫変化の訪れない世界の事である。
 その世界では幾ら活動しようとも時間が止まっているのに等しい。
 永遠亭を永夜異変までの間、長きに渡り隠していたのは彼女の能力によるものである。

 須臾とは逆に瞬間、人間が感知できないほどの刹那の時。
 輝夜はその一瞬だけの集合体を操り行動することが出来る。

 勝手は違うのだろうが、どちらにしても咲夜と似たような時間の力である。


「あなたみたいに器用に時間を止めたりは出来ないけど、止まった時間に入り込むことくらいは出来るみたいね」


 さっき時間を止められたときに違和感は感じていたのだ。
 どこか見知った感覚。自分の能力に似ている。

 弾幕勝負の時は時間を止められてもスペカだから仕方ないなで済ませていたが、今回はそうはいかない。

 止まった時間を何とかしなければ、と思えば後は案外簡単だった。
 咲夜が時を止めると分かっていて意識を集中させていると、うまいこと止まった世界に潜り込むことが出来た。

「そんな……馬鹿な!」

 止まった世界で動ける者など世界に自分一人だと思っていた。
 確かに輝夜の能力については聞いていたが、どうにも曖昧ではっきりしなかった。
 時間に関する物、といっても咲夜のように時を止めたりは出来ないようだし。

 しかしまさかここまで同系統の力を持っているとは。

――熟練の能力者は大抵奥の手を隠しているものだ。

 とは妹紅が考えていることだが、輝夜も結果的にそのパターンが当てはめられる。


「このお城は壊させないわ」
「く……!」

 まずい。この体勢。腕を掴まれ、完全に背後を取られている。
 まさか止まった時間で動く者などいないので安心しきっていた。致命的な隙。そこを突かれた。

 輝夜がもう片手を振り上げる。
 姫という肩書きとは裏腹に、咲夜の腕を折れるほど強く掴むこの力からしてくらえばただでは済まないだろう。

「っ……!」

 咲夜の行動は速かった。

 自由になる片手で瞬時にして懐からナイフを引き抜くと、くるりと回転させて持ち方を変え、
 ドッ! と咲夜の腕を掴む輝夜の手首に突き刺した。
 それは骨を貫通し、刃が皮を裂き血を撒き散らして突き出してしまう。

(よしっ!)

 この隙に身をよじって一気に抜け出そうとする。

 しかしそれは出来なかった。

 輝夜の力は一向に弱まらなかったからだ。

「なっ……!」

 目を見開いて輝夜を見つめると、彼女は痛みなど何も感じていないかのように可笑しそうに笑っていた。

「こんなものが蓬莱人に効くと思ったのかしら?」

 おもむろに刺さったナイフに手を伸ばすと、何のためらいもなく一気に引き抜いた。
 血が僅かに零れたが、傷は一瞬で治ってしまっている。

 輝夜は血まみれのナイフを床に投げ捨てた。からん、と乾いた音も止まった世界では響かずに転がる。

「蓬莱人はね、死なないことは当たり前なの。まあ“死ねない”んだけどね。その死なない、傷一つつかない上でそこから何ができるのかが問題になるのよ」

 生きるという生物の防衛本能を全く必要としない人種。
 蓬莱の薬を服用し、永遠の命と若さを持つ者を蓬莱人と呼ぶ。
 傷一つ付けること敵わない彼女らに殺し合いで勝つことなど永久に不可能。
 そして蓬莱人からしたら殺し合いで負けないのは当たり前なので、そこから何が出来るのかが本題となってくる。

 大切な者を守れるのか。
 弾幕勝負で勝てるのか。
 どんなことをされても動じず、捕まえた敵をそのまま捕らえておくことができるのか。

 常人とは全く違った基準で彼女らは戦う。
 迂闊に戦いを挑んだら逃げられもしない相手である。


「くっ……」
 再び振り上げられた輝夜の腕を見て、咲夜は即座に次なる行動に移った。

 自身を掴む輝夜の腕に手を絡ませ、片足を股の間に突っ込んで斜めに持ち上げる。
 片足を軸にし相手をひっくり返す技。体術においても咲夜は達人であった。

 流れるような動きをする咲夜に持ち上げられ、輝夜の体がぐるりと回転する。

 蓬莱人といえど昏倒はするだろう。
 止めていられる時間も今日はそろそろ限界が近い。
 “イザナイの城”の効果で時に関する自身の基本的な能力も強化されていたのだが、さっきから繋がりが遮断されているのでそれも望めない。
 だから素早く勝負を決めなければならない。
 
(このまま――!)

 硬そうなコンクリートの地面目掛けて月の姫を投げ落とす。

 しかし次の瞬間、ぐるりと視界が反転した。

「え――?」

 気付いたら投げられているのは咲夜の方になっていた。
 そのまま地面に叩き付けられ、衝撃で「がっ!」と呻き声を洩らす。

 何が起きたのか分からなかった。一瞬で立ち位置を入れ替えられ、投げを返された。

「く……!」

 輝夜は素早く咲夜に馬乗りになると、ふふっと不敵に笑みを零す。

「姫だからって甘く見てもらっても困るわね。私はあいつと千年も殺し合いを続けてきたのよ?」

 すぐ脇で時間が止まったままの妹紅が目に付いた。


 月の姫である輝夜は本来戦いなどする必要もなかったし好きでもなかった。

 しかし妹紅と出会い、恨みつらみを聞かされ、いきなり戦いを挑んできた彼女に最初はこてんぱんにノされてしまった。
 諸国を旅して回り、鍛えられた妹紅にやわな姫が敵うはずもなかった。

 惨めに負け帰ってから永琳に妹紅のことを言っても、「身から出た錆という言葉を知ってますか?」と取り合ってもらえない。
 月からの刺客ならいざ知らず、私怨での、しかも男女関係の恨みにおいての敵なら自分でなんとかしてください、とのことだった。

 負けたことについて悔しくて堪らなかった輝夜は永琳から武術や魔術を必死になって学び、妹紅とも次第にいい勝負が出来るようになってきた。
 妹紅も負けじと新たな武術を取り入れては輝夜もそれに対抗し、そんなことを千年も繰り返していく内、いつしか二人の戦いは常人のそれを遥かに凌駕するまでになった。

 咲夜も三百年の間鍛えた体術はあるが、千年もの間、しかも実戦で鍛錬を続けてきた輝夜には遠く及ばない。

 
「終わりよ」

 輝夜が片手で咲夜の片腕を押さえつけ、もう片手を振り上げて狙いをつける。

「くっ!」

 必死に身をよじるが、上に乗った輝夜にしっかりと体を固定されてどうにも抜け出すことが出来ない。
 止めている時間にも限界が訪れる。

「こんなっ!」

 自由になる片手でナイフを取り出し、輝夜の脇腹に深く突き刺す。
 しかし月の姫は眉一つ動かさない。
 痛みなどとうに慣れていた。

 そのままナイフを引き抜かれ、体のあちこちを刺され、引き裂かれ、しかし動じない輝夜はやがて、にいっ、と唇の端を吊り上げ笑みを作る。

「よくも…………世界を滅ぼしてくれたわね!」

 そのまま幾ばくかの恨みを込め、ドッ! と咲夜の腹に渾身の拳をめり込ませた。

「うっ!」

 衝撃で咲夜の頭が浮き、肺の中に溜まっていた空気のほとんどが口から吐き出された。
 意識が飛びそうになる。

(まずい! 気を失っては!)

 意識を失ったら全てが終わりである。
 そのまま時間が巻き戻されてしまう。
 妖怪を殺すという悲願が、今度は永久に達成できなくなってしまう。

「っく……!」

 必死に意識を繋ぎとめるが、時間を止めておくのはもう限界だった。

 そして全てが動き出す。


 歯車がガタガタと規則的な回転を再開し、やかましい鐘の音が響き渡る。
 もう山の背の向こうに落ちてしまった陽の光が、涼しい春の風が活動を再開していく。
 妹紅が突然姿を消した咲夜に驚き、慌ててブレーキをかけて辺りを見渡す。
 幽々子が視線を巡らせ、床に倒れる咲夜と彼女に馬乗りになっている輝夜を見つけて駆け寄ってくる。


 そして次の瞬間、それまでやかましく鳴り続けていた鐘が、不意にやんだ。

「何……?」
 幽々子と妹紅が足を止め、輝夜も怪訝な様子で辺りを見渡す。

 それまでガタゴト規則的に動いていた歯車が一斉にぴたと静止をする。
 しんと静まり返った空間。

 次に変化が起きたのは巨大時計であった。

 文字盤の上をゆったりと回っていた三本の針が止まり、すぐに逆方向に高速で回転し出す。
 一際速く動く秒針が、ジイイイイ、と残像を残して素早く反時計回りに回転し、それに続いて長針、短針が回り行く。
 同時に全ての歯車がそれまでとは逆方向に回転し、しかもゆったりとした動きではなく今にも壊れんばかりの高速になっている。
 
「おい、あれ……!」

 妹紅が指差したその先には、この最上階への出入り口、その先から見える東の空。
 そこが暗くなってはまた明るくなり、また闇が訪れて星が瞬いては陽射しが戻る。
 このホールもスポットライトが点滅するようにチカチカ明暗が繰り返されていった。

 太陽が西から昇って東に落ち、朝から夜になって夜から夕方を経て昼になる。
 月が出てくるたびに満ち欠けが戻り、満月をやがて通り過ぎていった。

 時間が戻っている。
 一分が経過し、とうとう時間の巻き戻しが開始されたのである。
 全てが逆行していく中、この塔の中だけは変わらず時を刻んでいるようであった。おそらくそれで正常なのだろう。

 これで全てが元通りになる。またあの幻想郷の日々に戻ることができる。


「やった……」

 幽々子はほっと息を吐いた。

 これで全てが元に戻るだろう。
 またいつもの幻想郷の日々が帰ってくる。
 騒がしい妖精達や友人達、従者にもまた会える。

 一度は諦めかけていた希望が再び手の中に舞い戻ってきた。

 再会したらなんと言ってやろうか。
 いや、記憶があるのかは分からないが、とにかくまた妖夢の作ったご飯を沢山食べよう。

 張り詰めていた緊張がほぐれ、ため息をついて気を抜いた。


 その瞬間であった。

「っ! あんた!」

 輝夜の悲鳴を聞いて顔を向けると、幽々子は目を疑った。
「な……」
 そこには首から大量の血を流す咲夜の姿があった。

 片手にナイフを握り締め、どうやら自分で自分の首を切ったようだ。
 決して浅くはない傷から不気味なほど赤い血が勢いよく吹き出て、茶色いコンクリートを一斉に赤く染め上げていく。
 離れた所に立つ幽々子の足元にまで達した血飛沫にとどまる様子はない。

「なんてこと……!」

 愕然とする輝夜に見つめられ、咲夜は青ざめていく顔で勝ち誇った笑みを浮かべる。

 死んでしまえばこの装置も止まる。巻き戻る時間もそこで静止する。
 イザヨイの悲願は達成される。

「ふふ……」
 急速に血を失う咲夜の表情は非常に晴れやかであった。

「この馬鹿!」

 死んでまでして、そこまでして妖怪を憎むというのか。
 その生き方がそこまで染み付いてしまっているというのか。
 彼女の三百年の憎悪の呪縛はそこまで重いものか。

 輝夜が必死に傷を抑えるが、しかし血の勢いは一向に収まらない。
 医師をしている永琳がずっと側にいたから分かる。自分も齧ったくらいは人を診れる。
 この傷ではもう十秒ももたない。

 一方の時間の巻き戻しは、一か月分だとしたらあのペースではあと三十秒はかかりそうである。
 到底間に合いはしない。

「そんな……!」

 輝夜は駆け寄ってきた妹紅と一緒になって傷を抑えるが、咲夜の体からどんどん生気が抜けていくのが感じられた。

 輝夜の着る紅白の巫女装束が真っ赤に染まり、妹紅の緑白の巫女装束も同じく赤く染まっていく。

「馬鹿! 元の暮らしが、幻想郷の暮らしが一番幸せだって、今なんかよりずっと良い運命だって、どうして分からないのよ!」

 必死に叫んだ輝夜に対し、咲夜は青ざめた唇を力無く震わせた。
「生き方なんて……そう、変えられ、ない、わよ……」
「この……分からず屋!」

 咲夜が死の縁へと転げ落ちていく。それをどうにも止めることが出来ない。

 終わってしまう。
 幻想郷が、あの平和で常識外れの毎日が。
 永遠に無くなってしまう。
 永琳が、慧音が、紫が、霊夢が、みんないなくなったままの日々を送ることになる。

「そんなの……絶対に嫌よ!」
「くそ……!」

 輝夜が涙を零しながら叫び、妹紅が苦しげに歯を噛み締めた。
 万事休すとはこのことか。


 その瞬間であった。

 突然変化は起きた。

 二人の望みを具現したように、不意に血の勢いが止まったのだ。

 傷口を必死に押さえる二人の手に向けて今まで勢いよく飛び出ていた血がぴたと停止する。
 噴出音も無くなっている。

 あまりに唐突な出来事。 

「え……?」

 まさかもう全ての血を出し終えてしまったのだろうか?
 しかしこんなに急に血の噴出が止まるとは思えないが。

 見ると、咲夜も青ざめた顔を呆然とさせている。何が起きたのか分かっていない様子である。
 その瞳にはまだ生気が残る。
 すなわち、死んではいない。

 『イザナイの城』は変わらず逆回転を続け、歯車のガタガタガタ、というせわしない騒音は留まる事を知らず、朝は夜に、夜は昼へと天体が逆行していく。

「何が……?」

 輝夜が呆然と呟いた、その時であった。

「……ふふ」

 側に立つ幽々子が可笑しそうに笑みを零した。

「幽々子?」
 三人に見上げられ、亡霊の少女は悪戯っぽくくすりと肩をすくめてみせた。

「私の『死を操る程度の能力』。そのとっておきよ。死をもたらすだけでなく、死を“遠ざける”こともできるの。短時間しかできないけどね」
「な……」
 輝夜に妹紅、咲夜までも愕然と目を見開いた。

 死を操るというのはすなわち死なせるだけではなく死なせない、文字通り人の死を“操る”ことが出来るということか。

――熟練の能力者は大抵奥の手を隠しているもの。

 これが西行寺幽々子の奥の手。
 人に死を与えるだけでなく、死を与えないこともできる。
 今まで魂魄家の者と紫にしか聞かせなかった彼女の裏の能力。

「ば……かな……」
 朦朧とした顔で咲夜は唖然と呟く。

 そんな彼女を三人は実に晴れ晴れとした面持ちで見下ろした。

 咲夜にはもうどうにもならない。
 装置を壊せず、時も止められず、死ぬことすらできない。
 完全な敗北。

「そ、んな……」
 咲夜は愕然と打ち震えた。
 絶望が彼女の感覚を支配していく。
 がらがらと音を立てて自分の中の何かが壊れていく。


 やられた。


 妹紅に、

 輝夜に、

 幽々子に、

 諏訪子に、

 神奈子に。

 死んでも死なない、この幻想郷最後の守り手達に。


 時間の逆行がいよいよ一ヶ月前へと差し掛かる。
 歯車と巨大時計は逆回転を速め、太陽は西から昇って東に沈むのにせわしない。
 この最上階が太陽で照らされてはまた星の光に包まれ、また光で満たされる。

 戻っていく。全てが。
 あるべき姿へと。
 あるべき場所へと。


 咲夜は自分を見下ろす三人を凄まじい形相で睨み付けた。
 妖怪を殺すという悲願を妨害した憎むべき連中。死んでも死なない不死の存在共。
 彼女らさえいなければ術になんの支障も無かったというのに。
 こいつらさえいなければ。

「く……」

 僅かに残る力を振り絞り、咲夜は何とか声を絞り出す。
 出るのは恨みか、つらみか、負け惜しみか、懇願か、慟哭か。


 そしてとうとう時間が全て巻き戻り切る寸前、彼女は言ったのだ。







「あり、がとう…………」






 それを聞き、

 藤原妹紅は、
 蓬莱山輝夜は、
 西行寺幽々子は、

 揃って、にいっ、と実に満足そうに勝気な笑みを浮かべた。



 そしてとうとう一ヶ月前まで時が巻き戻り切った瞬間、全てが静止した。
 せわしなく反時計回りに動いていた時計が丁度一ヶ月前の発動時刻を差してぴたと止まり、壊れんばかりの速度で逆回転していた歯車が停止し、『イザナイの城』の外の光景が何か太陽が爆発したかのように真っ白に染め上がる。
 白い光は装置の内部全体にまで及び、最上階の一同をも飲み込んでいった。
 僅かな夕日の残骸によって色づいた赤が白で塗りつぶされる。

 息つく間もないほんの刹那の静止。

 直後、塔を構成する無数の歯車の全ての連結が音を立てて外れると、
 爆発するように四方八方へ飛び散っていった。










 五、とうに終わった後の話









「誕生日、おめでとうございまーす!」

 周囲を花で埋め尽くされ、紅魔館のメイド長、十六夜咲夜は面を食らった様子で周囲を見渡した。

 紅魔館で開かれている咲夜の働き始めて丁度三年目、かつ誕生日を知らないというので「それじゃあここに来た日が誕生日でいいんじゃない?」というレミリアの提案による誕生会を兼ねたパーティーでのこと、館で最も大きなホールには多数の人妖達が集まり、好き勝手に飲み食いして酒を飲み干していた。

 陽の落ちかけた夕の刻、茜色の強い西日はぴしっと締め切られた分厚いカーテンによって完全に遮断され、豪奢な装飾のあしらわれたシャンデリアが立食パーティーの様相をほのかに照らし出していた。

 そんな中、咲夜の元に妖精メイド達が集まりいくつもの花束を持って微笑んでいる。
 何事かと出席者達も注目し始め、咲夜がどんな反応をするのかと魔理沙がにやにやして隣の霊夢の肩をばんばん叩くと、博麗の巫女は迷惑そうに乱暴な魔法使いから離れていった。

 ちょっとしたサプライズ、花のプレゼントである。
 仕事では厳しいが人望のある咲夜は妖精メイドたちから尊敬されている。
 去年も同じようなことをやったし、その時咲夜は滅多に見せない穏やかな笑顔を浮かべていたものだ。

 隣に立つレミリアが満足そうに胸を張った。
 従者が慕われているのを見るのは主としても喜ばしいことだ。
「ほら、咲夜。何か言ってやりなさい」
「あ……はい……」

 言われ、何やら呆然としていた咲夜は花束の一つへと手を伸ばした。

『みんなありがとう』
 今年もそう笑顔をサービスして拍手を浴び、終わりとなる。

 そのはずだった。

 しかし次の瞬間、異変は起きた。
 あまりにも唐突にその瞳から大粒の涙がぼろぼろと零れ始めたのだ。

 頬を伝わり、綺麗に磨かれた床にぽたりぽたりと小さな飛沫を上げて落ちていく。
 伸ばした手も止まってしまい、咲夜は零れる涙をきょとんとした様子で手の平で受け止めている。

「……へ?」
 その場の全ての者達の気持ちを代弁したかのように、妖精メイドの一人が思わず呟く。
 見ていた人妖達もぎょっとして息を呑み、好き勝手に飲んでいた他の者も、何事かと皆の注目する方角を見て同じく言葉を失う。

 完全で瀟洒なメイド、十六夜咲夜が泣いていた。

 こんな反応は全く予想していなかったのか、魔理沙も、その場の誰もが目を見開き、口をぽかんと開いて愕然としている。
 冷静沈着な普段の咲夜からしたらおよそ目を疑うような反応であった。

 場内がしんと静まり返る中、レミリアは慌て、涙が止まらない様子の従者へと声をかける。

「さ、咲夜。一体どうしたのよ」

 対して、咲夜はひどく不思議そうな様子で零れ落ちる涙をしきりに拭っている。

 自分でもどうして涙が出るのか分からなかった。
 花束などのサプライズは去年もあったし、その時も確かに嬉しかったが涙が出るようなことはなかった。
 しかし止めようとしてもどうしても溢れてきてしまう。

「なんででしょう、か。何故か、涙が、止まらなくて……」
「嬉し涙じゃないですか?」
 妖精メイドの輪の外から、美鈴がどこか嬉しそうににこにこと微笑みながら言ってきた。

 すると咲夜は呆然と呟く。
「嬉し、涙……?」

 これは嬉しいから涙が出ているのだろうか?

「ちょっとちょっと」
 レミリアが「分かってないわね」と呆れた様子で首を振る。

「咲夜はそんなプレゼントをもらって嬉し涙を流すようなタイプじゃないでしょ? これは何か他の原因があるのよ」

 咲夜は涙を拭いながら声を漏らす。
「そうです、ね……」
「ほらね」
「これ、嬉し涙です、きっと」
「さくやあ!?」

 レミリアがぎょっとして目を見開き、美鈴はうんうんと嬉しそうに首を縦に振る。
 会場の出席者達からもどよめきが漏れ、魔理沙と霊夢が呆然と顔を見合わせた。

 とその時、突然空間に切れ目が出来た。
 スキマが開き、そこから紫と幽々子、妖夢、藍、橙が意気揚々と飛び出てきた。
 白玉楼にいた幽々子と妖夢を紫が迎え、一緒にパーティーに行こうと約束していたのだ。

「さあて食べるわよ」
「まだ食べるんですか? 白玉楼であれだけ食べたばか……り……」

 が、静まり返った異様な雰囲気にぎょっとし、皆の注目する方角を見て絶句する。

「ねえねえ霊夢。何があったの?」
 紫が霊夢の側に寄っていって問いかけるが、彼女に分かるわけがない。ぶるぶる首を振るだけである。


 その間も、咲夜の流す涙は収まるどころか勢いを増していく。
「は……はは、あ……どうして……こんな……」

 とうとう咲夜はしゃがみ込み、顔を手で覆って嗚咽を洩らし、本格的に泣き出してしまった。
 周囲はますます唖然とするばかりである。

「ああああ……う……ああ……っぐ、あああ……」

 何故だか分からないが、今という時間がとても幸せだった。
 永い永い地獄のような苦しみからようやく解放されたような安らかさ。
 この館でメイドとして働き始め、今ほど幸福を感じたことはなかった。

「う……あああ……わ、私……」
「さ、咲夜……?」

 恐る恐るといった具合で隣に立つレミリアが呼びかける。
 三年間一緒にいるが、こんな従者はついぞ見たことがなかった。
 戸惑い、なんと声をかけたらいいのか分からない。
 
「私……あの……っぐ……」
「さ、咲夜、あの、無理、しなくていいのよ……?」
「私……幸せ、です……」
「ふええ!?」

 開いた口が塞がらなかった出席者達もざわめきを取り戻し、周囲を取り囲む妖精メイド達も、想像以上に喜んでくれたのだと合点したのかにわかに笑顔がぽつりぽつりと色づいてくる。
 フランはまだ呆然とした様子で口を半開きにし、美鈴は穏やかに頬を緩め、何やら嬉しそうにうんうん頷いている。
 普段の彼女からしたら本当に珍しくぽかんとしていたパチュリーも、今は落ち着いた様子でワイングラスに口をつける。しかしあいにくグラスは既に空だった。

 とその時、我を取り戻した文がずざざっ、とカメラ片手に飛び出してきた。

「ややっ、『完全で瀟洒なメイド長 誕生会のプレゼントに号泣』、これは感動物。大スクープの予感っ」

 美鈴にカメラを取り上げられていた。


 十六夜咲夜。
 紅魔館のメイド長。

「咲夜……」
 レミリアはどこか穏やかに己の従者を見やる。

 レミリアというのは我侭な性格である。
 欲しいものは相手に有無を言わさず、運命を捻じ曲げてでも手に入れる。
 どれだけ恨まれようと知ったことではない。

 しかし今、運命を変え、本来恨まれるはずの咲夜から幸せだと聞いた。
 この運命が良いのだと彼女は言う。
 それでは果たして、自分のしたことは感謝されるようなことだったのだろうか?

「……ま、いいか」
 はっきりしたことは分からないし、何だかこそばゆいような、とにかく面倒になったので考えるのをやめた。
 レミリアは微笑み、泣き続ける従者の背を嗚咽が収まるまでずっと優しく叩いてやった。








「神奈子様ー、諏訪子様ー」
 太陽も粗方沈みかけた時刻の守矢神社。
 境内の掃除の終わった早苗が二柱を探していると、彼女らは居間で顔を突き合わせ、何やら難しい表情で話し込んでいた。

「なあ神奈子……」
「ええ……何か“あった”わね。強烈な力の残骸が次第に消えていく」
「しかもこれ終わった所かな。なんだろうねえ、うちらも気付かなかっただなんて」
「お二人とも何を話してるんですか?」
 真面目なお話ですか? 

 きょとんとした早苗に見られ、二柱は「なんでもないよ」と笑顔で誤魔化した。

 しかし途端、またも神妙な顔つきで二柱は額を寄せ声を潜める。
「もしかして、今回うちらは出遅れた?」
「うーん……」

 二柱はじっと早苗を見つめると、彼女は不思議そうに首をかしげ、頭の上に疑問符を浮かべていた。

「次に何かあったらこの子も行かせた方がいいのかもしれないわね……」
「……そうだね」

 自分達も異変解決に手を貸していたことなど露も知らず、首を捻る早苗を見ながら二柱はうんうんと頷くのだった。









「ふんふんふー」

 もうじき食事の時間。永遠亭の長い廊下を鼻歌混じりにひょこひょこ歩くてゐは、にわかに前方に目をやった。
 そこには襖を薄く開き、中の様子をこっそりと窺う鈴仙の姿があった。

「……?」
 何を覗き見しているのだろうかとてゐは疑問符を浮かべる。

 声を潜めた空気を察し、てゐも同じく声を殺してそっと近づいていくと、彼女に気付いた鈴仙が無言で襖の向こうを指差した。

「……?」
 首をかしげて中の様子を窺ってみると、てゐはぎょっとして目を瞠った。

「え…………!」

 そこには月の姫と月の頭脳が揃って座っていた。
 しかも輝夜が永琳の肩を叩いてやっている。

 こんな情景はついぞ見たことがない。
 張り切る姫に対し、永琳はいつになく戸惑った様子だ。

「永琳、やっぱり肩凝ってるわね」
「ひ、姫様、まだ食事の準備の途中ですので……」
「いいから。長いこと肩なんて叩いてなかったなあ、って思って」
「う……」
 突然こんな事をされては敵わない。
 思わず涙が零れそうになり、永琳は目頭を強く押さえつけた。

「……どうなってんの、あれ」
 てゐに聞かれ、鈴仙は「さあ……」と首を振るだけである。

「でも」
 二人を眺め、月の兎はほっと笑みを零す。
「幸せそうだよ」
 







「先生さようならー」
「はい、さようなら」

 補習授業も終わり、寺子屋の児童を全て送り返した慧音は教壇の所で教材の整理をしていた。
 西日がほとんど真横から差し込み、教室の机や畳を紅く照らし出す。
 部屋全体をぐるりと見渡すと、どうやら忘れ物は無いようだ。満足げに慧音は首肯する。

 通りを歩く人々の話し声が遠くに聞こえてくる。
 橙色に染められたこの教室は賑やかな生徒達の帰宅と共に途端静けさを取り戻す。

 今頃は紅魔館でパーティーが開かれている時刻か、と窓の外を眺めて時を確認する。
 あいにく補習授業で出られなかった。まあ西洋風のパーティーは苦手なのだが。
 妹紅には行くよう勧めたのだが、つまらないからと言って今日は竹林の自宅にいるはずだ。
 週末に花見をする約束をしているし今日は会いに来ないだろう。
 ということで寺子屋の裏手にある自宅に戻ろうとしていた。

 にわかに引き戸が開けられたのはその時だった。

「妹紅……?」
 銀髪を足首まで長く伸ばした蓬莱人。
 切っても切れないというのはまさにそのままの意味の長い髪で、色んな髪型に結ってやるのだが、リボンで簡単に纏めた髪形が本人にとって一番楽だそうなので今もそうしている。
 もんぺとシャツは綺麗に洗われていた。彼女は慧音が口をすっぱくして言わないとすぐに服の洗濯をサボってしまう。

 慧音は突然やってきた友人にきょとんと首をかしげた。
「どうした?」
 てっきり今日は来ないものと思っていた。

「あー、いや……」
 すると妹紅はバツが悪そうに頭を引っ掻く。
「これから夜桜、見に行かないか?」
「え?」

 慧音は不思議そうに首を捻った。
「週末に博麗神社にでも花見に行く予定だろう?」
「まあ、そうなんだけど。なんだか急にお前と行きたくなってさ」
「…………」

 妹紅はよく自分を連れまわしてくれるが、ここまで唐突なのは初めてかもしれない。

 しかしまあ、それも何やら嬉しい気もする。

 慧音はくすりと楽しそうに笑った。
「そうだな、準備をするから待っていてくれ」
「ああ」

 裏手の自宅へと出て行くどこか涼やかな様子の慧音を見送り、妹紅は前方へと目をやった。

 今まで慧音がいた場所、教壇の所におもむろに歩いていく。

 いつも友人が立って教鞭を振るっている辺りに立ち、見渡すと、誰もいない寺子屋が目に入る。
 誰もいない。

「…………」

 こんな光景をどこかで見たことがあるような気がする。
 何かとても苦しく悲しいことだったような。
 そんな感情をどこか時の彼方に置いてきた気がする。

「妹紅、行こう」
「ああ」
 ぱっぱと準備を済ませてきた慧音に呼ばれ、妹紅は小さく息を吐いた。

 なんであったか思い出せないが、今こうしていられるという事は、それはきっと、とうに終わった後の話なのだろう。

 気を取り直し、妹紅は慧音と共に寺子屋を後にした。


「いい天気だな」

 慧音が呟き、空を見上げると春真っ盛りの麗らかな陽気で、僅かな雲の切れ端が妖怪の山の天辺に纏わりついていた。
 鳥達が飛び交い、天狗がたまに空を駆ける。
 地上では人間の里。夕暮れの賑わいを見せていて、商売人のせわしない掛け声に主婦らが足を止めている。

「そうだな」
 応じた妹紅は、不意に心地良い心情が込み上げてきた。
 この賑やかな陽気にあてられたのだろうか、普段は煩わしいと思っている喧騒も、今はやけに貴重なものに思えて仕方ない。

 空を見上げ、地上に目を落とし、たおやかな春の風が妹紅の足首まである長い髪を揺らす。

「その髪、また結ってやろうか」
「ん? ああ、頼むよ」

 すると慧音は面を食らったようにきょとんと見やってきた。
「なんだ? いつもは面倒そうにするのに」

 すると妹紅は目を閉じ、どこか上機嫌に笑みを零す。

 一度は滅び消えた世界。かつては失意を掻き抱き、虚しい捜査に歩んだ里。
 回りまわって立ち戻り、日常変わらぬ喧騒をこの時ばかりは噛み締める。

「なんとなく、な」

 妹紅は友人と連れ立ち人間の里を、続く幻想郷を今は足取り軽やかに歩いて行った。



                               了
 読んでいただきありがとうございます。

 これはとうに終わった世界の中、どうあっても終わらない者達が主役の物語です。
 作中でも触れましたがお題『色』として赤色を使用しています。
 世界が終わり絶体絶命の危険信号が灯る中、それでも尚あがく不死者達。

 途中まで真相を考えながら読んでいただけたのなら大変嬉しいのですが、案外簡単に分かってしまったでしょうか。
 あからさますぎるヒントもあったかもしれません。

 こんな長いの最後まで読んでもらえるか戦々恐々でしたが、ここまで読み終えてくれた読者の方々には深く感謝致します。
追記:あああ永琳蓬莱の薬飲んでたよごめんなさあああああああい

以下コメントへの返答です。


>>佐藤厚志さん
 ありがとうございます。
 そう言っていただけると、これからと設定間違えて落ち込む心の支えになります。

>>2さん
 ですよね。何やってんでしょうね私は。

>>パレットさん
 やはり時計の辺りで気づかれましたか。直接的すぎたでしょうか。
 永琳はすいませんほんと。

>>焼麩さん
 そんな……まさか一章で分かってしまうとは。
 私もジョジョは好きですが、どうやらにわかだったようです。
 反政府組織というのは確かに今から見ると浮いていますね。もっと推敲で改善できるようにしたいと思います。

>>神鋼さん
 確かにご都合主義の展開と言われても仕方ないかもしれません。
 ですがあまりに暗い話を目指していたわけでもないので、世界が滅亡したままではなくどうにか救おうと試みた次第です。しかしそれにしても他にやりようを探せば良かったかもしれませんね。
 永琳はほんとすみませんでした。

>>Asさん
 永琳は本当にすいませんでした。
 結果発表の一週間前に冥界組で永夜抄やり直して愕然としました。
 今度永琳がリザレクションしまくるSS書きます。

>>三文字さん
 ご都合主義は確かにそうだったかもしれません。これからはもう少し違和感無いように仕上げていきたいと思います。
 能力についてはそうですね、なんとか全員を活躍させたかったのでそうなるようにストーリーを考えたのですが、それがかえってご都合主義を招く結果となったのかもしれません。

>>8さん
 妹紅が好きなんです。不老不死となり、千年以上の時を過ごした少女。
 一体どれほど達観した人生観を持っているのか、想像すると非常に深い感慨を覚えます。
 最近あまり書いてなかったので、この作品で登場させられて良かったです。

>>9さん
 似たタイプのスタンド。確かに言われてみればあの漫画の展開によく似てますね……。
 咲夜が偽装工作するかというのは確かにそうですね。推敲で違和感を叩き出せなかったので改善したいと思います。

>>笊さん
 滅亡した世界をそのまま滅亡したままにするのは退屈かな、と思い、どうにかしてハッピーエンドにしたいと思いました。ですがそのせいで少々ご都合主義な部分が出てしまったかもしれません。
 永琳には土下座しておきます。

>>有文さん
 テーマなどと高尚なものはございません。ただ最後の最後に残った者達が異変を解決する様を書きたかったのです。
 咲夜との戦闘シーンがくどいというのは意外でした。相当短いと思ったのですが、テンポが悪かったのかもしれません。もっと腕を磨いていこうと思います。

>>読人さん
 確かに世界滅亡、いや世界はともかく幻想郷滅亡は受け入れにくい世界設定かもしれませんね。
 色はそうですね、あまり直接的に出したくなかったのですが、逆効果だったかもしれません。
 空を赤く染めたりすれば良かったかもしれませんね。
 そして永琳ごめんなさい。

>>soさん
 お題については確かにそうですね。あまり直接的に出すよりも、後になって、ああここが色の所か、と頷いてもらえたらと思ったのですが、どうにも上手くいかなかったようです。

>>ふじむらりゅうさん
 やはり色をもっと際立たせたほうが良かったですね。下手に隠そうとしたのが逆効果でした。
 ご都合主義はやはりそう感じてしまいますか。次回以降直していきたいと思います。

>>15さん
 どうにかしてハッピーエンドに終わらせたかったのです。
 しかしそれがご都合主義を招く結果に。
 滅亡したままで終わらせようかな、とも思ったのですが、ついつい読後感を良くしたいと動いてしまいました。
 今後の作品はどうするか考え直します。
 コンペに参加してこうして皆様から感想をもらい、非常に有意義なものとなっております。

>>ななすさん
 本当は時計が出ても気づかれないようにしたかったのですが、流石に分かってしまいましたか。
 永琳は本当にすみませんでした。

>>八重結界
 そう言っていただけると大変嬉しいです。
 絶対に死なない者達が守る幻想郷を書きたかったのです。
 永琳はすみませんすみません。

>>mokiさん
 永琳については本当に馬鹿な勘違いをしていました。
 妖精はそうなんですよね。投稿した後に気付いては頭を抱えました。一言でも言及しておくべきでした。
 神についても確かにそうです。死ぬ者と死なない者についてもっとよく考えておくべきでしたね。
 時間軸はそうですね、ついついサザエさん時空でいいか、と甘い考えが及んでしまいました。
 色については確かに弱かったですね。世界を赤く染めたりすれば良かったかもしれません。

>>リコーダーさん
 永琳すいませんでしたああああ!
 反政府組織の下りについてはもう少し東方に合ったものに変えれば良かったですね。
 霊装については、確かに禁書は読んでいてそこからうっかり出してしまいました。変えとけば良かったですね。
 最後の展開が良いと言われるとありがたいです。しかしもう少し違和感内容に仕上げたいと思います。

>>実里川果実さん
 色は確かに弱かったですね。何か赤色が出るシーンでもっと際立たせれば良かったと思います。咲夜の流血シーンとか。
 巫女装束については無理なく着せることが出来たでしょうか。あまり積極的に着せようと狙ったわけではないのですが、話の流れでそうなりました。本当は妹紅に博麗の巫女装束のほうが合ってるんですけどね。

>>どうたくさん
 輝夜についてはそれまで活躍してなかったので、なんとかいる意味を与えようと思っていたら、時間の力に対抗できるんじゃないのか? と感じて動かすことにしました。ご都合主義的と思われるかもしれません。
 妹紅については、きっととても達観した人生観を持っていると思うんです。千年以上を生き、別れが怖いとか怖くないとか、何度も何度も答えを出して練り上げてきた理念を持っていると、そういう格好いい存在だと思います。輝夜のことになると我を忘れますが。
 文章については指摘されるまで気づきませんでした。
 つい最近も別の作品で指摘されたのですが、確かに淡々としすぎているかもしれません。
 例のように部分部分で激情を混ぜるのも面白いと思います。機会があったらやってみますね。

>>木村圭さん
 彼岸については確かに言及が甘かったかもしれません。
 誰が死ぬかとかもっとよく練りこんでおけば良かったです。

>>ハバネロさん
 永琳についてはすみませんでした。
 キャラ設定やオマケテキストは読んだんですけど、永琳が蓬莱の薬を飲んだとはついぞ分からず、永夜抄を冥界組でやり直してようやく思い出し、愕然としました。

>>時計屋さん
 確かに幻想郷は何でもありですから、トリックを仕掛けるのは難しいものがあったかもしれません。
 ですがそこはそれ、幻想郷の常識を持った読者の方々にトリックを考えていただければ、と思ったのですが、やっぱり無理があったかもしれません。
 動機についてはそうですね、いくらなんでも世界を滅亡させる動機を叩き出すのには幻想郷はほのぼのしすぎてるかな、と思って犯行動機を輸入してきました。咲夜がハンターやら退治屋やらをしていたというのは出自に関するメジャーな推測かもしれませんが、そういったオリジナル設定を受け入れられない方も多いかと思います。
 読者に推測してもらうことについては確かに弱かったですね。メインはトリックではなくあくまでストーリーだと思って書いたのですが、それによってトリックの部分が中途半端になってしまったかもしれません。
 色は……そうですね、自分もまさかここまで皆さんが直接的にお題を用いてくるとは知らず、ぼかして抽象的に表現するものだと思っていました。もっと分かりやすいように書いておくべきでしたね。

>>つくしさん
 謹んでお待ちしております。

>>ぴぃさん
 色については確かに薄かったですね。もっと積極的に表現すべきでした。
 また、咲夜さんを犯人にするに至って、大きな危機感を抱いておりました。あんまり酷い役柄にすると咲夜さんファンの方々から顰蹙を買うと。私も咲夜さんは好きなので、読者の方々に負の感情を抱かれないように注意して結末を書きました。

>>渦巻さん
 ああ、やっぱり犯人がばれてしまっていましたか……。
 もう少し隠したほうが良かったかもしれません。
 展開がベタなのは……まだ私がその域から脱するに至ってないからです。下手にひねくれた物語よりも、まずはベタな王道を書いていくのが先かな、と思っております。

>>K.Mさん
 読者の方の予想を外すことが出来て良かったです、が、外れたことがプラスになっていたでしょうか。感心していただけていたら幸いです。
 永琳はほんとうにすいませんでした。

>>つくねさん
 謹んでお待ちしております。
yamamo
作品情報
作品集:
最新
投稿日時:
2009/05/09 19:55:00
更新日時:
2009/07/07 23:29:46
評価:
28/29
POINT:
155
Rate:
1.24
1. 8 佐藤厚志 ■2009/05/12 16:23:05
犯人誰やろか、と思いながら楽しく読ませていただきました。
理路整然と結末までが丁寧に書かれており、大変な傑作だと思います。
まるで家を掃除していたら偶然、素晴らしいウィスキーを見つけてしまったような感動。
こういう出会いがあるからコンペは止められない!
2. -3 名前が無い程度の能力 ■2009/05/15 12:27:26
えーりんも蓬莱人じゃなかったっけ??????????????
3. 6 パレット ■2009/05/18 00:28:41
なんだかアドベンチャーゲームみたいでドキドキしながら読ませていただきました。少しずつヒントを開示しながら真相を推理させていくような形がうまくできていたので、長さにもかかわらずわりとすんなり読めました。いい感じに悪役な咲夜さんが素敵です。
個人的な好みを言うなら、時間を巻き戻せるというご都合はいらなかったかなーと思いますが、妹紅を倒したのが紅魔組だったという伏線や、博麗の巫女服を着た輝夜という演出もあって、これもありかなーという気もしてきました。
ネタについては、紫の部屋で幽々子と話してるあたりで察しが付きました。それぞれの伏線が効果的だったためと思います。
ただ一つ、永琳も蓬莱の薬を飲んだんじゃ……というのは、強くほのめかされただけで確定情報というわけではなかったですね、そういえば。
4. 9 焼麩 ■2009/05/19 01:10:22
一章の状況説明で犯人が分かった俺はジョジョの読みすぎ。

廃墟探索は大好きなジャンル(?)なもので、
中盤まではドキドキしっぱなしでものすごいテンションで読んでいた。
終盤の仕掛けが……当にデウス・エクス・マキナで……
後は正直なところ、不滅の存在だとか時空操作だとかいったファンタジックな中の反政府組織という言葉が浮いてた。
もっとこう浪漫がある…秘密結社とかの方が良かったなあ。
脚本には文句のつけようもないのでこの点数で。
5. -2 神鋼 ■2009/05/21 21:10:50
重い内容に気合の入った文章量、こりゃ凄そうだと姿勢を正して集中して読んでいました。
が、後半になればなるほどご都合主義になるストーリーにチープな設定、読み進めれば進んだ分だけ白けていきました。
序盤から気になってて結局説明されなかったんですが、どうして同じ蓬莱人である永琳だけ死んだのですか?
他にも疑問が多々残りましたがここが一番気になったので。
6. 1 As ■2009/05/24 15:00:33
他の方からもご指摘あるでしょうが、永琳も蓬莱の薬を服用して不老不死になっています。
犯人探しの段階で時間経過による死滅は考えましたが、永琳が死んだ理由がわからなかったので
考察しようにも行き詰ってしまい、お話が破綻していたようにも思えました。
永琳、輝夜の関係からすると無視できない設定なので、残念ですが点数は低めをつけさせてもらいます。
それでも、掛け値なしに面白いお話でした。
7. 10 三文字 ■2009/05/25 21:46:31
世界滅亡系はインパクトはありますけど、どうしてもセリフとか構成が陳腐になりがちです。
……だがそれがいい。
さっきゅんとのやり取りとかは微妙にクサイなぁ、と思いましたが、まあ、ハッピーエンドのためには仕方ない。
ご都合主義と言われてしまうところもところどころありましたけどね。塔の時間逆行とか、神の復活だとか、紫のヒントとか……
でも、終始、この世界観に入り込めていたのでそれほど気になることもありませんでした。
あと、能力の人選も面白かったです。姫の能力はこう使うんだろうなと想像出来ましたけど、幽々子様のは正直やられたと思いました。
にしても服だけ残して消えるって怖くて悲しいよなぁ。ドラゴンボール然り、エヴァ然り……
最後に、どこまでも足掻き続ける者達の物語をありがとうございます。
8. 9 名前が無い程度の能力 ■2009/05/31 06:10:43
妹紅KAKKEEEEEE!というのが読み終わった第一声
これほど人間らしい不死者もそうはおるまい。
9. 6 気の所為 ■2009/06/01 20:20:55
最高に後味のいい話でした。
似たタイプのスタンド、だと……!?
後半のバトルが本当にジョジョみたいで読んでいて興奮しました。熱いぜ。
後書きから推察するに積極的に読者に参加してもらいたかった作品、と解釈しました。
それ故に突っ込みどころが気になってしまいました。咲夜さんなら現場から服を取り払ってスケープゴート立てるくらいの事はしそう。あと妖精とか。
10. 7 有文 ■2009/06/08 01:18:17
終わり良ければすべてよし、テーマは「素直になれよ」ということでしょうか。
少し咲夜さんとの戦闘の下りがくどい気もしましたが、読ませる良い作品でした。
11. 2 読人 ■2009/06/10 07:40:10
話自体は悪くないと思いますが幻想人妖皆殺しは自分には刺激が強すぎました。
所々の独自解釈は面白いとは思いますがそれが違和感を生みテンポを阻害していたように感じます。
色の使い方もいまいち印象に残りませんでした。
あと、永琳は蓬莱の薬は飲んで無いんでしたっけ?うろ覚えなんで違っていたらすいません。
12. 6 so ■2009/06/11 07:33:31
おそらく文言を見逃していたら、あとがきまでどこで「色」が使われているのかわからなかったと思います。
13. 7 ふじむらりゅう ■2009/06/11 23:26:16
 面白かったですけど、色あんまり関係なかったかも。
 よく書けてました、謎解きのヒントに関してはこれくらいがちょうどよかったかも、私は。
 ちょっと解決編のあたりがだらっとしてたような気も。妹紅の推理までがずばっと決まっていただけに、咲夜さんの小物っぷりが際立ってしまったような……あくまで犯人としての、ですが。
 あとちょくちょく文中で視点の移動があって、そこんとこ紛らわしかった。妹紅の思考がいきなり咲夜の思考に飛んだりして。段落ごとに分けていればもうちょっと読みやすかったかな。
 最後らへんご都合主義みたいな感じではありましたが、楽しく読ませて頂きました。
14. 10 名前が無い程度の能力 ■2009/06/11 23:47:57
最後までハラハラしながら読みました。長さを感じず、とても楽しめました。
ハッピーエンドで終わって良かったです。次回作にも期待しています!
15. 8 ななす ■2009/06/12 16:24:05
紫の部屋の時計が出るまで分かりませんでした。
とても面白かったです。
永琳が死んだのは腑に落ちませんでした。
16. 7 八重結界 ■2009/06/12 17:12:29
幻想郷どころか全世界が終わってしまうかもしれないなかで、謎に立ち向かう妹紅達の姿は勇ましく見えました。
危機的状況にあって、これほど頼もしい人もいません。
ただ死なない者が残ったんだとしたら、永琳が残っていてもおかしくはないんでしょうけど。
17. 2 moki ■2009/06/12 19:09:32
壮大なストーリーですが、大風呂敷を広げて畳みきれなかったというか薄くなってしまったように思えました。プロットが先走って文章の肉付けが足りないというか。それと、設定に関しても練りきれてない部分が多いかなぁと。
・永琳は蓬莱人で死なないのでは? 設定を捏ね繰り回すと蓬莱の薬を飲んでないと解釈することも可能なようですが、飲んでいて蓬莱人であるとするのが自然かと。永琳が術の影響を受ける相応の理由は必要だと思います。
・妖精は自然の具現なので、自然が残っていれば存在するのでは?
・神も存在するのでは? 八百万の神は信仰によって存在しているのかは疑問です。求聞史紀を読む限りでは信仰がなくとも存在できる(信仰によらない神もいる)と解釈する方が自然かなと思いました。
・時間軸の問題。咲夜が紅魔館に来たのが紅魔郷直前の春だとしても、風神録以後の話なら5年は経過してるのでは。詳しくは東方Wikiの幻想郷年表でも確認下さい。
あとは後書きで触れられてますが、お題を用いたとするには弱いのではないでしょうか。「色」を比喩的に使うならまだしも、その内の特定の色を比喩的に用いるのは弱いと思います。作中で強調して使われてるようにも思えませんでしたし。
18. 8 リコーダー ■2009/06/12 19:53:16
えーりんも蓬莱の(ry
幻想郷の外でも結社やら国家やらが魔術的な戦争を……という設定を突然出すのは無理があったのではと思います。やるならもう少し咲夜の回想を具体的にすべきだったかも。300年生きていたのなら西洋史あたりからネタを取ってくる事も出来たでしょうし。(服に霊装効果とか、もしかして某禁書目録読む人ですか? つーことは霊夢早苗の巫女服も「その幻想を……」 すんません)
とはいえ、城の崩壊が始まってからは手に汗握ってました。失敗フラグ3つ位へし折ってハッピーエンドまで持っていった事に関しては、作者を讃えざるをえない。
19. 8 実里川果実 ■2009/06/12 21:17:53
 緊迫した空気の中での、残された面々の抱く心の描写にグッときました。
 最後までドキドキしながら読んでいたのですが、咲夜さんとは…。終盤の展開がアツくてたまらないです。
 ですが色、というテーマ性は少しばかり弱かった様にも…。

 それはそうと、巫女装束の妹紅・輝夜……これはいいですね!
20. 10 どうたく ■2009/06/12 21:25:10
 良い所
 推理、逆転、戦闘、構成、成長、友情そして、燃える展開、萌え。ファンタジー小説に必要なものが完全に揃った、優秀な作品だと思いました。
 妹紅も巫女姿ぐらいから、本でいうとページをめくる手が止まらないような感覚を覚えました。次どうなるんだろう? 最後はどうなるんだろう? と読者の好奇心をかきたてる構成でした。
 ちなみに一番燃えたのは輝夜VS咲夜の所でした。
 須臾VS時止めは「確かに! 輝夜なら対応できる!」と頷いてしまいました。あれはニートじゃない。なよたけのかぐや姫様だ!!
 また妹紅と輝夜の台詞が生き生きしていて、シリアスかつコント的な所もありよかったと思います。
 五股の件は竹取の原作を読んだ身なので「良い皮肉ww」と笑ってしまいました。
 あと憎しみは消えてるっていった妹紅はとてもかっこよかったです。
 文章については、きちんと文章が整っていて読みやすかったと思います。良いラノベに近いかな……。
 今こんぺ最高峰の内容であったと思います。
 あっ、イザヨイさん怖かったです。咲夜さん怖いです。

 改善点
 私が思うに文章の臨場感でしょうか。
 確かに作者のように冷静に書いていく方法もあり、そのスタイルがあっている人もたくさんいます。(‘もちろん霊夢じゃない輝夜の描写は見事でした)

 だから気に入らなければ、以降の意見は無視してくださってかまいません。私の主観ですので。
 例えば「止まった時間。咲夜の、イザヨイの世界。絶対孤独な静止の空間。
 そのはずだった。なのになぜこの腕は掴まれる」
 ここを
 「静止した時間。咲夜の、いやイザヨイの世界。誰も触れることのできないイザヨイだけの絶対的な空間。そうであるはずだった。そうであるはずだったのに! この感触! 私の腕をしっかりと掴み、何があっても離さないといわんばかりの感触! ありえない! ここは誰も触れることもできない私だけの完全な空間のはず! (なのになぜ!?) 咲夜の体に戦慄が駆け巡った」という風にすると、臨場感があふれ出てくると私は思います。が、あくまで私の主観です。(例も悪いかもしれません)
21. 3 木村圭 ■2009/06/12 21:33:33
効果の対象に妖怪でない植物が含まれないのがよく分かりませんが、城が生き物でないと判断したと思うことにします。
が、いくらなんでも60億の人間が一斉に餓死だの窒息死だのしたのに彼岸の連中が何ら調査を行わないってのはおかしいと思うんだ。
22. -2 ハバネロ ■2009/06/12 22:39:50
永琳はなんで死ぬのん?

オリジナルも結構ですが、とりあえずオマケテキストくらい読んでから始めましょう。
23. 2 時計屋 ■2009/06/12 22:44:21
 文章は比較的丁寧で、物語も最後まで纏めきっており、よくこれだけの長文を書き切ったと感心します。
 しかし、なんでもありの幻想郷を舞台にしてハウダニットをやられても……というのが素直な感想です。ホワイダニットに至っては完全に独自の設定ですから推理しようがありませんし。
 また東方の設定のみならず、科学的にも合点がいかないところがいくつかあり、読んだ後も首を傾げてしまいます。
 推理する愉しみが欠けると、こうしたSSは単に冗長なものとなってしまいます。

 こうした独自設定を主体とするSSでは、いかに説得力をもって読み手を納得させるかが鍵になるかと思われます。
 このSSはそうした吸引力のようなものが弱かったかと。愚見で恐縮ですが。
 後はお題分がさすがに薄すぎるように感じました。
24. 9 つくし ■2009/06/12 23:02:18
申し訳ありません、時間が差し迫っているため、採点のみにて、感想本文は後ほど改めて。
25. 7 ぴぃ ■2009/06/12 23:21:54
力作ですねぇ。
設定状の疑問に加えて、ちょっと「色」の解釈が強引かなぁ、と引っかかりましたが、最後はきちんとまとめられていると思います。
あとは個人的には、咲夜さんというかイザヨイさんも救われてほしかったです。ちょっと哀れな感じ。
26. 5 渦巻 ■2009/06/12 23:28:44
物語が浮かんでそれを書ききったことは評価したいのだが
長い文章で予想しやすい落ちで、展開がべたべたなのは凄く読みづらく、それぞれ裏目に出なければもっと……というのが感想です
27. 5 K.M ■2009/06/12 23:33:20
灰化と聞いて一瞬で寿命を迎えるという死因については察しが着いてはいたが輝夜と考えてしまい見事に外れ。「役不足」は「役者不足」または「力不足」では?という点はさておいて永琳が死んでいた事に納得がいかなかったり。
28. 7 つくね ■2009/06/12 23:53:07
コメントはすみません後ほど。
29. フリーレス つくね ■2009/07/10 14:26:52
コメントが遅れて申し訳ありません。
さて例の設定云々は置いといて。読み終わってから改めて思ったのは、SFというより冒険活劇のように感じました。こう、少年探偵団が二十面相に立ち向かうか、或いは巨大な悪の組織に立ち向かうような、そんな感じで結構わくわくしながら読ませて頂きました。一方で淡々と述べられる様は躍動感があるべき場所でもそうで、そして最後の方になって次々と逆転していくのは一、二個程度ならともかく数が多いと食傷気味でした。
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