姉さんが暴走しました、春

作品集: 最新 投稿日時: 2009/05/09 20:14:36 更新日時: 2009/05/09 20:14:36 評価: 30/30 POINT: 215 Rate: 1.55
 
「紅葉が足りない」
 春である。足りないというか、そもそも無い。
「穣子もそう思うでしょ。幻想郷には紅葉が足りない。具体的には赤が不足してるの」
「落ち着いて、姉さん。季節を考えよう」
 秋姉妹の邸宅。三匹の子豚ならば長男が住んでいそうな、将来性のある藁の家。豚とはいえ長男だ。いずれは両親を呼ぶことも視野に入れ、バリアフリーや耐震設備も整っていると考えて間違いない。それを模倣したのだから、向こう数十年は安心して暮らせるはずだと静葉は力説していた。
 穣子は三匹の子豚を知っていたので、何度も藁の家は吹き飛ばされるのだと姉に説明したのだが、生憎と聞き入れられることはなかった。仕方がないので密かに藁と藁の間に板を挟み、多少の風では飛ばないように改装した。後は火に気をつけるだけだ。
 二柱は此処で冬から夏まで過ごし、秋になったら再び活動を活発化させる。いわば冬眠する熊の寝床。熊と違うことがあるとすれば、二柱は別に一日中寝ているわけではないということ。
 創造神になったら何を創るかとか、幻想郷縁起を捲りながら眷属にするなら誰か良いかとか、とても有意義な時間を過ごしていた。
 そんなある日、静寂と平穏と打ち壊したのが静葉の冒頭の一言だ。穣子の経験上、こういった始まり方の出来事は大抵ロクな終わり方をしない。
「季節とか関係ないわ。例え今が冬だろうと春だろうと、赤色が不足している事に変わりはない。野菜だってそう。トマト! スイカ! 赤ピーマン!」
 全部夏野菜だった。
「だから決意したの。私は紅葉の神。紅葉が足りないというのなら、私が紅く染めてしかるべきではないのかと!」
「でも姉さん。いくら神様だって季節には逆らえないわ。秋にならない限り、紅葉を司る能力だって使うことはできない」
 穣子の場合は事情が異なって、一応は春野菜や夏野菜を豊穣にすることも出来る。もっとも、それをやると姉の妬みが地下から橋姫を召喚しそうになるで、滅多に使用することはないが。
 妹の鋭い指摘に、しかし静葉は動揺する素振りすら見せなかった。力強く拳を握り、棚の奥から金属の缶を取り出した。
「能力が使えなくとも、これがあれば問題ないわ!」
 赤ペンキ。小さなドラム缶を思わせる容器には、そんな単語が貼り付けられている。
「待ってよ、姉さん。そんなものを使ったら、神様として敗北を認めているようなものじゃない。姉さんだって、私が化学肥料を使おうとしたら止めるでしょ?」
「えっ、使ってなかったの……」
 心底から驚いた顔の姉。豊穣の神を何だと思っているのか、一日かけて話し合いたい。
「大体、そんなペンキで何をするつもりなの。それじゃあ湖を赤くすることだって出来ない。無駄手間だよ、姉さん」
 目を瞑り、しばし口を紡ぐ静葉。説得が成功したのかという淡い期待が、穣子の胸中を占めた。やがて静葉は固く閉じていた目を開き、真っ直ぐな瞳で妹に告げる。
「ちょっと紅魔館まで行って、このペンキをぶっかけてくるわ」
 何も伝わっていなかった。
「……姉さん、何で意味ありげに目を瞑ったの」
「いや、目にゴミが入ったの。でも大丈夫、もうとれた」
 期待の二文字が烏天狗の背中に跨って飛んでいく。さすが幻想郷最速。もう姿が見えなくなった。
 それにしても、どうして紅魔館なのだろう。おそらくこの幻想郷で最も赤い所なのに、これ以上赤く染める必要があるのか。ふとした疑問が浮かぶけれど、それより今は姉を止める事が先決。大人しく家に居てくれるのなら、そんな疑問も消えてなくなる。
 立ちはだかるように、扉を背にして静葉を睨み付けた。妹の覚悟をくみ取ったのか、静葉もペンキを置いて真っ向からにらみ返す。
「いいわ、穣子。どうしてもというのなら、この私を乗り越えてみなさい!」
 ちなみに乗り越えたところで、あるのは藁でサンドイッチされた板の壁。乗り越えるべきは静葉なのに、いつ立場が逆転したのか不思議な話だ。ここは言葉通りの意味ではなく、姉妹として乗り越えるのだと解釈しておくことにしよう。
 穣子は密かにそう思い、とっておきのサツマイモを懐から取り出した。
「ふふふ、どうやら本気のようね。だったらこっちも!」
「っ!」
 自信ありげに静葉が取り出した物を見て、穣子は息を詰まらせた。白い容器に書かれた単語が真実なのだとすれば、それは二柱にとって最大の天敵。試合を挑んだとしたら、一方的に虐殺されて終わるのが目に見えている、いわば禁断の最終兵器。
 農薬。
 静葉はそれを取り出したのだ。
「ば、馬鹿な真似は止めてよ姉さん! そんな物、使えば姉さんだってタダじゃすまないのよ!」
 豊穣の神である穣子に大ダメージを与えるのと同様、紅葉の神である静葉にも同じぐらいのダメージを与える。
「危険は覚悟の上。だけど私はどうしても、紅魔館を赤く染めないといけないの! それが紅葉の神として、秋静葉としての意地!」
「姉さん……」
 死をも顧みぬ姉の姿勢に、不覚にも目尻から涙が零れる。目にゴミが入ったわけではない。命を賭して意地を貫き通そうとする、神の誇り高さに涙腺がやられたのだ。
 誇りを捨てただなんて、とんでもない勘違いがあったものだ。静葉の胸には穣子以上の矜持があり、覚悟があった。自分はそれを見誤っていた。
「大事な大事な姉を、こんな所で失うわけにはいかない。分かったわ、姉さん」
「穣子……」
 涙を拭いながら、自慢の姉に道を譲る。掴むのは苦しかったらしく、静葉は農薬を床に落とした。それほど苦しいのなら、どうやって懐に入れていたのだろう。世の中には謎が多い。
「行って。そして、私に姉さんの生き様を見せて」
「ええ、わかったわ」
 右手にペンキの缶を握りしめ、静葉は駆け出す。振り返ることなく、紅魔館を更なる紅に染める為に。
 ただ一言、家に残った穣子に声をかける。
「帰ったら、秋の味覚で何が最強か話し合おうね!」
 十分後。いらんフラグを立てた静葉が満身創痍で帰ってきた。
「み、穣子死すとも……静葉は、死なず……」
 勝手に殺すな。





 全身を包帯で覆った紅葉の神が、松葉杖でホワイトボードを叩きつける。普段はくだらない妄想を書き留める為に使われるが、今日は用途が異なっていた。白い板には堂々とした筆体で、『妥当! 紅魔館!』と書かれている。
 酷い誤字だ。褒めているのか貶しているのかさえ分からない。
「私は一つだけ、大事な事を忘れていたわ。穣子、何だと思う?」
「紅魔館は元々紅い」
「そう、レミリア達はとんでもなく強いということよ!」
 同じ日本の神なのに、こうも話が通じないといっそ清々しい。
「だから真正面から挑んでも、返り討ちにあうだけ。裏からこっそり忍び込み、ペンキをぶっかけるしかないわ」
「諦めるという選択肢はないの?」
「穣子。私の辞書に諦めるという単語は無いの」
 欠陥製品だ。出版社を言え。訴える。
 そんな訴訟大国穣子の心中など無視して、静葉はホワイトボードを何度も何度も叩きつける。
「これでスカーレット姉妹や紅美鈴は言うに及ばず、パチュリー・ノーレッジはパチュリー・ノーレッドに。小悪魔は丹悪魔。そして十六夜咲夜は十六夜朱くやになるのよ!」
 明らかに後半で失速したネーミングに、最早言葉も出ない。仮にペンキをかける事ができたとしても、それで名前が変わるはずもないし。
 例えば穣子が黒ペンキをかぶって黒子となり、裏方に徹するかと言われれば答えればノーだ。姉もその事は分かっているはずなのに、敢えて目を逸らそうとしている節がある。見切り発車で出発した為に、もう後には引き返せないのだ。
 ならば、ここは妹として自分が止めるしかない。静葉だって、それを願っているはず。
 そう思わなければ、やってられない。
「でも、姉さん。そんなことしても、何の意味もないよ」
「そんなはずはないわ。この赤ペンキさえあれば、八雲紫だって倒せるはず」
 どれだけ万能性を秘めているのだ、赤ペンキというのは。
「だってそうでしょ、姉さんの目的は紅葉を増やすことだった。なのに、いつのまにか紅色を増やすことに集中している。姉さんは満足なの、紅色が増えたら?」
「そ、それは……」
 自信満々だった姉に、僅かに見える陰り。これを逃す手はない。
 一気に攻めて、諦めさせる。
「姉さんがすべきことは赤ペンキを使うことじゃない。その能力でもって、もっと幻想郷に紅葉を増やすこと。そうでしょ!」
「………………」
 騒がしかった静葉が黙る。それだけ、穣子の言葉が心に届いているのだろう。
「だから姉さん、もっと紅葉を増やそうよ。そんな赤ペンキなんて置いて」
「そう、ね。私が間違ってたわ。こんなペンキを使って、何をするつもりだったのかしら」
 まるで魔法が解けたかのように、静葉は赤ペンキを床に置く。
「ありがとう穣子。私、目を覚ましたわ」
「姉さん!」
 感激のあまり、目から涙がこぼれ落ちそうだ。しかしそれを堪え、穣子は静葉に抱きついた。
「もう、甘えん坊ね。いいわ、しばらくこうしてあげる」
 あれだけ暴走しておきながら、今更抱擁力を見せつけられても困るのだが、素直に甘えておくことにした。どうせ、甘えられる機会など数えられるほどしか無いのだから。
「じゃあ穣子、ちょっとお姉ちゃん出かけてくるから」
 しばらくして、静葉は突然そんな事を言った。さすがに赤ペンキは持っていなかったものの、何やら不穏な空気を感じる。穣子は温かさの余韻も忘れて、訝しげな顔で詰め寄った。
「何処行くの?」
「決まってるじゃない。紅葉を増やしに行くのよ」
 能力が使える季節じゃないのに、どういうことなのか。不思議がる穣子をよそに、静葉は何も持たずに家を出て行った。





「ぎゃー!」
 館に響き渡る少女の悲鳴。これで惨殺館とかいう物騒な名前だったら、第一の殺人が起きていたところだ。
 しかし此処は紅魔館。先祖代々伝わる童歌もないし、妖しげな神様が祭られているわけでもない。
「お嬢様!」
 ただし家政婦はいる。決定的な瞬間は見ないが。
「ど、どうしたんですかお嬢様!」
 レミリアの部屋に駆け込むと、レミリアがベッドの上で焼けたスルメのように仰け反っていた。背中の痒みに耐えきれない猫のような可愛らしさで、咲夜は思わず時間を止めて、キャンバスにありのままのレミリアを描きなぐった。理性的な自分が現れ、抽象画と鼻で笑って何処へと消える。
「さ、咲夜ぁ……背中、背中が!」
「甘いんですか!? 舐めましょうか!」
 砂糖じゃあるまいし、背中が糖質の吸血鬼などいない。レミリアは悶え苦しみながらも、必死な形相で背中を指さそうと藻掻いている。そこまでして、一体何を伝えようというのか。
 咲夜は考える。これでも紅魔館ではパチュリーに次ぐと言われるほど頭脳明晰で、時には仲間を見捨てるほどの冷酷さも兼ね備えているのだ。これしきのジェスチャー、目を瞑ったら答えられない。
 とりあえず、現状で手に入れた情報を纏めた。
 悲鳴。スルメのポーズ。そして背中を指さしたレミリア。お嬢様可愛い。
 頭を棒で叩かれたような、鋭い閃きが脳を揺さぶる。導き出される答えは、ただ一つ。
「スルメの入れ墨を彫ってほしいということですか!」
「背中を見て欲しいって言ってるんじゃないですか」
 いつのまにかやってきていた美鈴の冷静な一言により、紅魔館の知的ランキングが劇的に入れ替わった。ここからの逆転は難しい。だったら、せめて背中のものについて知的なコメントをするべきではないか。
 美鈴を押さえ、咲夜はベッドの上にあがる。レミリアは相変わらず、打ち上げられた鯉のようにピチピチと活きがいい。咲夜は暴れるレミリアの腕を押さえ、強引に服を剥いだ。
「こ、これは……」
 予想もしなかった事に、声の調子が上がる。
「思ったより楽しい!」
 今度機会があれば、紅魔館の面々に勧めてみるのも良いかもしれない。レミリアの服剥がし。えもしれぬ興奮を覚えることができる。
「咲夜さーん、背中に何があったんですか?」
 入り口の方から尋ねる美鈴。そこでようやく、咲夜は己の任務を思い出した。そうだ、背中だ。
 そしてあらためて、レミリアの背中に視線を向ける。
「あら、紅葉」
 病的なまでに白い肌に、手のひらを打ち付けた跡がくっきりと残されていた。





 翌日の見出しを飾ったのは、『旋律の紅魔館! 吸血鬼の背中で踊る謎の紅葉!』というもの。文々。新聞にどれだけの信憑性があるかはさておき、おそらくレミリアの背中を誰かが叩いたのは事実だろう。
 幸いにもレミリアは誰の仕業か分からないようで、「紅葉……もみじ……妖怪の山の仕業ね!」などと微妙にずれた発想をしているらしい。いい迷惑だと記事の中で天狗も怒っている。
「姉さん」
 呼びかけても返事はない。ラケットを持たず卓球をしているような、変な動作を繰り返している。ただし手の形は開いたまま。そう、まるで誰かの背中を叩くような動作だ。
「姉さんってば!」
「うわっ!」
 あまりに露骨に無視するので、思わず声を荒げてしまった。
「もう、何よ穣子。私の手がニトロだったら、今頃この家はドカンよ」
「意味わからないって。それより、この新聞!」
「ん、なかなか良い材質使ってるわね。再生紙ではないようだけど、何かしら?」
「材質じゃなくて、中身!」
 目を細め、新聞を眺める静葉。
「出来の悪い姉とも、これでおさらば。新発売、姉コロリ。穣子……」
 怯えたような目で見つめられても困る。確かに鬱陶しいと思うことはあっても、殺したいと思ったことはないし。
 仕方なく、穣子はくだんの記事を指さした。
「これ、姉さんの仕業でしょ」
「紅魔館の吸血鬼の背中に紅葉……なるほど、確かに穣子が疑うのもわかるわ。でもね、残念ながら犯人は私じゃないわよ。だって、私にはアリバイがあるんですもの!」
 衝撃的な展開。穣子は間違いなく、姉が犯人だと確信していた。
 誰だってそう思う。紅魔館に突撃した後で、紅葉を増やしてくると言って家を出たのだ。何をしたのか、この記事を見れば馬鹿にだって理解できる。
 だが、もしもアリバイが完璧だったとしたら。それはもうミステリーであり、探偵にご登場願わねばならなくなる。
 緊張で唾を飲んだ。
「悪いけど私はその時間、レミリアの背中を叩くことに一生懸命だったわ!」
 自信満々に自白する静葉。
 それをアリバイと呼べるのなら、アリバイの無い犯人はいない。
「姉さん、自首しよう」
 健気な妹の言葉も、姉には届かない。
「何を言ってるの、穣子。私は幻想郷の紅葉を増やすという使命があり、こんなところで捕まるわけにはいかないのよ。もっと多くの妖怪に、紅葉の刻印を刻んでいくの」
 紅葉の神が紅葉に取り憑かれたか。精神体であるがゆえに、神というのは案外簡単に心の影響を受ける。だからなろうと思えば、誰だって祟り神になれるのだ。
 このまま静葉を放っておけば、そういった類の神になりかねない。
 止めなくてはいけない。完全に暴走する前に。
「ゆくゆくはは大妖怪達の背中も、紅葉で色鮮やかに彩ってあげるわ。八雲紫に、風見幽香!」
 暴走する前に存在ごと消滅させられる可能性が浮上してきたが、だからといって放っておく理由にはならない。
 高笑いする静葉の頭を冷やす為、穣子は桶を手にとった。水瓶から水を汲んできたばかりで、後で飲もうと思っていたもの。でも、これで姉が目を覚ましてくれるのなら。無駄にするのも惜しくはない。
 おもいきり、穣子は中身をぶちまける。
 紅葉の神が真っ赤になった。
 よくよく桶を見てみる。ペンキの缶だった。
 暴走する姉を前に、自分も動揺していたのだろう。そういうことにしておく。
「姉さんの馬鹿!」
 そして仕切り直すわけにもいかないので、とりあえず流れに身を任せることにした。
 真っ赤な姉に話しかけるのは腹筋が鍛えられそうだが、そうしたのは自分なので迂闊に笑うことはできない。
「姉さんは何も分かってない! 私の言葉なんか、全然聞いてなかったんだ!」
「そんな事ないわよ、穣子。あなたの紅葉を増やそうという言葉を聞いて、私は……」
「違う! 私が言った紅葉は、そんな偽物の紅葉じゃない!」
「穣子……」
 逼迫した叫びに、静葉の顔色も変わる。
「姉さんはそんな紅葉を見ながらお酒を飲みたいの? 目を楽しませられるの? できないでしょ? だって、そんなの紅葉じゃないんだから」
 いわば肉の代わりにガンモを食べるのようなもの。代用品に違いはないが、所詮はどこまでいっても代わりでしかない。本物には敵わないのだ。
「私が姉さんに増やして欲しかったのは、木々を彩る生きた紅葉。姉さんにはそれを咲かせる能力があるし、私はそうやって山を美しく染める姉さんが好きだった! なのに! なのに!」
 くだらない事だ。たかだか他人の背中に張り手をかましただけ。
 それなのに、どうしてこんなにも悲しいのか。
 目からポロポロと涙が零れる。
 静葉はタマネギを切る手を休め、穣子の頭を撫でた。葱臭い。
「あなたの気持ちは、よく分かったわ。どうやら私はまた大きな間違いをしていたようね」
「姉さん!」
 葱臭い手をはね除け、輝いた表情で姉を見上げる。
 母のように穏やかな顔で妹を見下ろす静葉。
「馬鹿な真似はもうしない。だから穣子、秋になったら私と一緒に綺麗な紅葉を……くくっ」
「ど、どうしたの?」
 堪えきれなくなったように、突然静葉が笑い出す。何事かと穣子は慌てて、それが一層静葉の笑いを誘ったようだ。
「ご、ごめんなさい。でも、もう限界だわ。クッ、あっははははははは!」
 床を叩きながら、大笑いの静葉。何が何だか分からなくて、穣子はその場に立ちつくす。
 ひとしきり笑い終えた静葉は、目尻の涙を拭いながら言った。
「馬鹿ねえ。紅葉が足りないからって赤ペンキもって突撃したり、吸血鬼の背中を叩いたりすると思う?」
「で、でも現に……」
「昨日は怪我してたのに、今日は治ってるでしょ。ほら。本当に怪我してたんなら、いくらなんでもこんなに早くは治らないわよね?」
 言われてみれば、静葉はもう松葉杖をついていない。包帯も完璧にとれていた。
 嘘だという証拠があるとすれば、それが何よりの証拠である。
「ちょっと暇だったんで、からかっただけよ。まぁ、紅葉が足りないってのも、紅魔館に赤ペンキ持って突撃しようとしたのも、一瞬は本気だったけど」
 個人的には全てが嘘だったより、一部が本気だった事の方がショックが大きい。
「でもおかげで、穣子がどれだけ姉思いかっって事が分かったわ。本当、できた妹を持つと幸せねえ」
 唖然とする穣子に、静葉は言った。
「要するに。紅葉だけに、真っ赤な嘘ってわけ」
 理解がようやく追いついた穣子。
 ふるふると震え、腹の底から声を出す。
「ば、馬鹿ーっ!」
 家が倒れそうになるほど、それはそれは大きな声だったという。
 そして、はたと気が付いた。
 だとしたら、レミリアの背中を叩いたのは誰?










 後日、椛が吸血鬼に捕縛された。
 その際に椛は抵抗し、「文様の罠だー! ネタ作りの為に利用されたんだー!」と叫んでいたというが、真偽のほどは定かではない。
 真相はいまだに、闇の中というわけであった。
 
 
 
 紅葉だけに、真っ赤な嘘。
 ペンキまみれの真っ赤な嘘。
八重結界
http://makiqx.blog53.fc2.com/
作品情報
作品集:
最新
投稿日時:
2009/05/09 20:14:36
更新日時:
2009/05/09 20:14:36
評価:
30/30
POINT:
215
Rate:
1.55
1. 6 ユッキー ■2009/05/10 19:46:42
ああ、素晴らしき姉妹愛・・・・違うか
2. 7 ALL ■2009/05/11 14:26:58
短編ながらに楽しませてもらいました。
東方の中では数少ない(?)終始ギャグものを読んだのは久々だったので存分に笑わせてもらいました。赤ペンキwww
3. 9 名前が無い程度の能力 ■2009/05/14 17:20:45
お姉ちゃんGJ!
4. 5 パレット ■2009/05/18 00:30:22
姉がずっとバカやってくれてるだけでも十分楽しかったので、最後の一捻りがさらに面白く感じました。
「穣子がどれだけ姉思いかっって」←これは誤字?
5. 8 神鋼 ■2009/05/22 18:57:21
もう幻想郷に秋は訪れないかもしれない。そして咲夜さんには春しか要らない。フラワリングナイト
6. 6 As ■2009/05/24 15:06:42
静葉に振り回される穣子不憫ですな。
7. 8 三文字 ■2009/05/25 20:16:12
もう駄目だこの幻想郷……
にしても静葉姉さん案外ケミカルなもん持ってますね。
8. 10 名前が無い程度の能力 ■2009/05/25 20:21:05
タイトルでクリック。余裕でした。
結局叩いたのは誰ですか?
9. 5 らしう ■2009/05/31 00:53:02
姉妹愛とはwww
すばらしいですね
10. 9 名前が無い程度の能力 ■2009/05/31 06:20:00
この神様とメイド長はなんか色々と残念だw

あと>姉コロリ。
天狗は何を売ってるんだw
11. 4 気の所為 ■2009/06/02 06:06:32
春の恩恵にあやかってますよ、静葉さん(タマネギ)
タイトルの印象がかなり強かったです。
最後はいい話っぽくなってるのが素敵。
12. 8 有文 ■2009/06/08 01:15:04
最初から最後まで頭が悪くて感服しました。実に頭が悪い! 最高に馬鹿馬鹿しかったです!
13. 5 佐藤厚志 ■2009/06/08 03:54:55
後書きでくすくす笑ってしまいました。
赤と言えば、何となく林檎を思い浮かべます。
14. 8 読人 ■2009/06/10 08:34:04
哀れ椛……
神様とは思えない暴走っぷりは読んでいて痛快でした。
そしてなんだかんだで仲の良い秋姉妹には癒されます。どうでも良い妄想で盛り上がる姉妹を想像しほのぼのしました。
15. 10 名前が無い程度の能力 ■2009/06/10 23:05:27
タイトルでクリック、余裕でした
16. 7 ふじむらりゅう ■2009/06/11 23:31:31
 静葉フリーダム。
 涙を流すためにたまねぎを切る姿が面白すぎた。
 あと咲夜さんがさりげなく変態でした。さりげなく。
17. 7 上泉 涼 ■2009/06/12 02:12:32
仲いいなこいつらw
テンポの良いコメディで楽しく読むことが出来ました。
18. 7 ぴぃ ■2009/06/12 03:54:51
このギャグのノリ。暴走したキャラクター。
さすがだ、と言うしかないですね、これはw
19. 9 どうたく ■2009/06/12 19:13:47
 良い所
 期待通りのおもしろさでしたw
 タイトルから大体は予想できたのですが、その予想を裏切らない見事な静葉の暴走っぷりだったと思います。
 穣子の突っ込みが鋭くて、何度も笑ってしまいました。
 特に農薬は声をあげて笑ってしまいましたw
 ただ、この文章の真の魅力が最後に静葉がお姉さんらしさを見せてくれることでした。
 散々暴走していると見せかけて「真っ赤な嘘」はうまい!! と思いました。良い意味で期待を裏切ってくれたました。

 改善点
 この笑いのセンスと笑いを誘う文章力。どこにケチのつけどころがあろうか……。参考になりました。
20. 9 実里川果実 ■2009/06/12 21:29:15
「要するに。紅葉だけに、真っ赤な嘘ってわけ」
 姉さん、ひどいや。
 うまいですw
 なんだか至る所で吹かせてもらいました。ニヤニヤと、笑いの絶えない面白いお話でした。
 
 あぁ椛、かわいそうに……。
21. 7 木村圭 ■2009/06/12 21:34:33
これは酷い。いいぞもっとやれー
22. 7 moki ■2009/06/12 21:55:31
季節はずれの6回前のお題ですね、わかります。
テンポがよくて面白かったです。ホント彼女たち秋以外は何してるんだろう。
23. 5 ハバネロ ■2009/06/12 22:42:42
暇してんだな、秋の神

南半球にも幻想郷があればいいのにね
24. 8 時計屋 ■2009/06/12 22:46:04
 異常者を装うだけで十分異常者だってけーねが言っていた。いやどこかの名探偵だったかもしれない。
 それはさておき、色といえば染色。染色の神様といえば日本では古来より紅葉の神様のこと。だというのに全スルーを喰らっていた秋姉妹に脚光を浴びせた作者様の慧眼には感服します。
 文章は犀利でありつつも諧謔に富んでおり、作者様の高い技量を窺わせます。
 オチがちょっと弱かったかな、とも思いましたが、十分に愉しませて頂きました。
 大作揃いのこんぺですが、こうした力を抜いて読める秀逸な短編を読むとほっとします。
 ありがとうございました。
25. 7 つくし ■2009/06/12 23:03:13
申し訳ありません、時間が差し迫っているため、採点のみにて、感想本文は後ほど改めて。
26. 5 リコーダー ■2009/06/12 23:24:28
勢い不足かなー
27. 8 渦巻 ■2009/06/12 23:27:26
何故か気に入った作品、地の文が好みでした
ギャグだし中身が濃いわけではないのだけど、こういう作品を短くすっきり書けて羨ましい
28. 5 K.M ■2009/06/12 23:35:35
てっきり、てっきり神様だから怪我ないのかと思った!!椛は強く生きろ。
29. 8 つくね ■2009/06/12 23:54:00
秋姉妹が実に生き生きと描かれていて、また最後に真っ赤な嘘とはやられました。
30. 8 名前が無い程度の能力 ■2009/06/12 23:54:28
朽ちた静葉の性格が、穣子に豊かさを齎すのですね。
なんかもう色々カッ飛んでてすがすがしゅうございました。
名前 メール
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