星と月と君を探しに

作品集: 最新 投稿日時: 2009/05/09 20:18:34 更新日時: 2009/06/14 05:33:24 評価: 20/22 POINT: 95 Rate: 1.14
 朝起きると、どうしようもなく夜だった。
 小鳥の囀りも、暖かな日光も部屋には全く無い。
 マエリベリー・ハーンは夜という朝を迎えて、ううんと声を漏らしながら伸びをする。
 
「おはよう、こんばんは──そしてお休みなさい」

 小さくひとりごちてから、もぞもぞと布団の中で数十秒。暖かい微睡みが名残惜しくて、足の先で毛布を弄んだ。もう春も終盤の5月半ばだというのに、夜は相変わらず冷え込んでいる。
 眠りたい気持ちもあるが、今夜の予定は埋まっていた。
 自分だけの用事ならばこのまま怠惰に夜に落ちてしまっても良いのだが、そうはいかない。時間に厳しい──そのくせに妙にルーズな所がある──友人が待っているはずだ。
 メリーは目蓋を開ける。暗い。やっぱり夜だ。
 天井を見上げて、ぼんやりまた数十秒。時計の秒針の音だけが部屋を支配する。
 かち、こち、と時間は無情に過ぎ、そろそろ起きようと思い、メリーはようやく重い腰を上げる。
 こんな夜に出掛けるのには理由がある。もちろん闇討ちをするとか、強盗に行くとか、そういった問題行動ではない。ある種、問題である行動の一つには入るかもしれないが。
 部屋の電気をぱちりと付け、洗面所に向かった。しかし冷たい水で顔を洗う気にはなれず、水がお湯に変わるまで数十秒を消費する。タオルにお湯を含ませ、絞って、顔を拭く。暖かな蒸気と瑞々しさが全身に行き渡って、ようやく目が覚めてくる。
 
「──You must take the A train……っと。ああ、早く準備しないときっとあの子、怒るわ」

 この間友人と行った喫茶店で流れていた歌を呟きながら、てきぱきと衣服を身につける。
 電車に乗るまでもない。駅前で彼女は待っているはずだ。こんな時間から外に出掛ける理由は、私、マエリベリー・ハーンのサークル活動がこれからあり、そして『あの子』が待っているからだった。
 衣服を身につけ念のためにショールを持つ。帽子を被り、鞄を持って準備完了。
 秘封倶楽部。それがメリーの所属しているサークルの名前だ。
 深夜に活動していて、こんな名前だといかがわしく思われるかもしれないが先の通り、そんなことは全く無い。
 ただ、変わっているのは確かだ。
 友人にサークルについて聞かれると、まず名前から首を傾げられる。当然だ。
 メリーも初めてそんな名前を聞いたらどんなサークルか全く分からない。
 
 活動内容は簡単。
 簡単に説明するならば──。







   ◇  ◇  ◇  



 


 

「二分三秒遅刻よ!」
「ごめんね蓮子。実は隣の奥さんが突然産気づいて、病院に送っていったら遅くなったの」

 息を上げてメリーが駅に辿り着くと、宇佐見蓮子はちょうど帽子をかぶり直している所だった。
 ろくでもない言い訳をしながら、メリーは蓮子にぺこりと頭を下げる。
 すると彼女は少しつん、とすましたような表情を見せた。

「その言い訳は前も聞いたわ。捻りがないといつかスカウトが来たときに切れ味の良い会話が出せないわよ」
「……秘封倶楽部に? 流石にお笑いのスカウトはお断りよ」
「でもね、メリー。せめてパンをくわえた可愛い女の子とぶつかったから、とかにしないと」

 いつものような会話の応酬が幾度か交わされる。蓮子がメリーの目の前に手を差し出した。
 手の先には切符が二枚乗っている。待っている間に買ってくれたのだろう。律儀な子だ。
 
「……そんな状況、古典にも載ってやしないわ」
「古き良き物こそ我ら秘封倶楽部にぴったりだと思うけれど」
「そうね、だけど次回はもっと捻ってきて欲しいわ!」
 
 蓮子が大きくその通る声を上げると、隣を通っていた帰宅中の男性がこちらをちらりと見る。
 メリーはその視線から抜け出す。すっと蓮子の手を引きながら、切符を一枚を受け取った。
 学校に行くだけの生活をしている他の学生は、大抵近くに住んでいるか定期を持っているため、切符を買う機会が余りないらしい。しかし、それに比べてメリーと蓮子は様々な場所に向かう。意外と交通費は馬鹿にならない事が多かった。
 今月はあと何回、蓮子と一緒に旅に出られるだろうか。学生は自由で、不自由だ。
 でも、その全ては蓮子と過ごしたいと、常にメリーは考えている。
 
「毎度ありがとうございます。宇佐見切符一枚で一億円になります」
 蓮子の言葉にちらりとメリーは行き先に眼を走らせる。
 しかしどう見ても五百円玉でお釣りが来る料金が書いてあった。
 くるくると手のひらで切符を弄びながら、メリーは蓮子に尋ねる。
 
「あら、月に行けそうな位良い値段ね。どんな座席? たっぷり足が伸ばせて三食とおやつが付くなら考えるわ」
「そんなちゃちい仕様じゃあないよ、何と私の膝枕付きなの」
「膝枕と肩もみ、それと目覚めのキスまで付いてくるなら考えようかしら」
「……それは随分と不相応な代金ね。物には等価交換の法則があるのよ、メリー」
「等価じゃないとしたら、どっちが得なの?」
「当然、私にキスされるメリーが、よ!」

 蓮子が映画のワンシーンのようにくるりとスカートを翻し、夜の駅に一歩踏み出す。 
 今日の行く先がどこかは、蓮子が決めた。メリーはそこを彼女と歩き、世界の裂け目を探す。 
 サークル『秘封倶楽部』は宇佐見蓮子とマエリベリー・ハーンの二人からなる、オカルトサークル。
 普通のサークルと違って、文献を探って夜な夜な天に向かって言葉を唱えない。
 博物館の魚に手足が付いたミイラを崇め奉らない。
 雑誌を読み語るだけで満足しない。
 二人の活動は、もっとフィールドワークに近い物と言えるだろう。
 
「──全く、蓮子らしいわ」

 メリーも服をはためかせ、蓮子の元へ向かう。
 電車に乗ろう。そして向かおう。世界を探して、二人で見る。
 二人でひとつ。二人だけのサークル。秘封倶楽部──。
 
 
 
 
 

 
 
 
 



 
 星と月に君を見つけて
 
 
 

 
 



 
 
 
 
 
 がたん、ごとんと電車が進む。
 音を聞きながら他愛のない話をすると、気付けば次が目的地だった。
 蓮子によればどこかで揺れない電車も開発されたらしい。でも二人が乗る列車には、そんな大層な機能は備わっていない。
 お尻が痛くなるくらいにゆられ揺られて、駅に降りた頃にはすっかり暗くなっていた。
 寂れたからこそ設置されたであろう自動改札機に切符を通し、二人は駅の外に出る。
 空は暗く、その中に綺麗な月と星が見事に散らばっていた。冬のように澄んだ空でなくとも、圧倒される。
 ──晴れの日の空は、とても綺麗だ。
 
「……二十時三十三分、二十一秒ね」
「私はどこ、ここは誰? そして蓮子はいつ?」
「貴方は私のマエリベリー・ハーン、ここはこの間聞いた妖怪が見られるらしいスポット。そして私は宇佐見蓮子よ」
「最初だけおかしかったわ」

 二人で顔を見合わせてくすくす笑う。
 私の隣で顔を綻ばせる蓮子は、秘封倶楽部の一員である前に不思議な力を持っている。
 『星を見ただけで時間が分かり、月を見ただけでいる場所が分かる』能力。
 だから私は彼女の目を信じているし、私も彼女と一緒に動くにふさわしい(はず!)の力を持っている。
 
「おかしくないわ、事実は常に科学的に観測される物よ」
「──そうね。私たちみたいなオカルトサークルが科学的とか言ってると、誰かに笑われそうだけど」

 くるりと周りに視線を投げると、駅から少し歩いた先に『何か』が見える。
 世界の軋み、歪み、境界。
 どんな表現でも良いが、私は敢えて、境界という言葉を使っている。その『何か』が私には見えた。
 それが私の能力だ。境界を視ることが出来る程度の、ちょっとした力。
 
「メリー。どう?」
「あるわ、ただもう少し先。見えてる場所と、たどり着く距離は違うから」
「──ビンゴ、って訳ね」

 蓮子は不適な笑みを浮かべる。
 そして空をじっと見ていたせいか、少しずれてしまった帽子を手で押さえながら、「この間が不発だったから、今回が駄目だったらそろそろ『次回の秘封倶楽部の活躍にご期待下さい!』って書かれちゃう所だったわ」と私に告げた。
 
「蓮子って意外と漫画も詳しいのね」
「今の言葉ですぐ分かるメリーより、多分、ちょっと詳しい程度よ」
「どんぐりの背比べだわ」

 外の空気はまだ、ほんの少しだけ冷たい。
 春を過ぎて、夏の少し前。日本の季節は四季を忘れ、気ままに太陽と雲と戯れているようだった。
 私は蓮子の手を取る。彼女の手は熱っぽいかと思うほどに暖かい。月と星を視る子の体温が、こんな暖かいなんて妙な話だ。
 
「メリーの手、冷たいわ」と蓮子がメリーを見る。
「手が冷たい人は心が温かいって言うわよ」
「その理論だと私はメリーより心が冷たいことになっちゃうじゃない」
「蓮子は体も心も温かい、ってこと」

 二人でまた、笑う。
 表情をくるくる変えながら、手を繋いで、てくてくと歩く。
 足音が二人分と、体温が二人分。暖かく、そして冷たい。
 歩む度に、舗装された地面が徐々に崩れてしまっている土の道へと変わり始めた。
 響く足音がなくなり、人がいる場所から人が忘れかけている場所へと入り込んでいく。
 境界がすぐ目の前に近づいた。ふと、蓮子の方をちらりと見ると、彼女は楽しそうな表情で前を向いていた。
 メリーは、そっと声を掛ける。
 
「蓮子、あと少しで──」
「分かる。何となく、メリーの気配で」
「凄い嗅覚。犬にでも取り憑かれたの?」と蓮子の顔をのぞき込むと、彼女は私の額をつん、とついて笑んだ。
「メリーと同じ物が見えるなら、取り憑かれるのもありかもね」
「嫌だわ。オカルトサークルがオカルトに憑かれてどうするの。観測者はしっかり見る側でいなくちゃ」

 私は立ち止まる。蓮子が隣に並んだ。
 この先は境界の向こう。
 
「──じゃあ、行きましょうか、蓮子」

 私たちはこれから神隠しされる。
 私たちを自分で神隠しするのだ。
  
「ええ、メリー。もちろん」

 お決まりのように二人で声を交わし手に手を取って、私たちは目を瞑る。
 二人の世界が近づき、暗くなった。
 
 一歩。意識を高揚させ、
 二歩。互いの手をぎゅっと握る。 
 三歩。二人の力が高まり、
 四歩。二人は安定する。 
 五歩。世界が少し変わって
 六歩。幸運を祈りながら、
 七歩目で私たちは、飛び立った。







   ◆  ◆  ◆



 


 ──そして、八歩目。
 世界が一気に別の場所に変わっていた。
 駅はない。アスファルトの地面もない。街灯もない。
 そして、

「メリー?」

 私は繋いでいたマエリベリー・ハーンのひやりとした手がいなくなっていることに気付く。
 自分の暖かいらしい掌は、ぼんやりとひとりぼっち。
 外は真っ暗。本当に、絶対的に、真っ暗だ。
 星も──おかしな事に月すら見えない。黒い大きな箱にでも閉じ込められたかのような黒。
 目隠しされてもこんな暗闇になるはずが無いのに。
 私は帽子をぐっと押さえ、辺りを改めて見渡そうとして──
 
「──ッ!」
 
 その瞬間、思考が風に穿たれた。
 頬の横を何かが通り過ぎ、私は必死で身を振る。体育の授業でも、もうこんな素早さはきっと出せない。
 それほどまでに、危険な質量。
 数歩後ろに下がって、息を飲む。足下に何かが落ちてきたのだ。
 相方に言われた嗅覚が犬に取り憑かれたからだとしたら、私はその犬に感謝したかった。
 暗闇。闇。黒。黒、黒、黒、──そして黒。
 星は見えず月も見えない。
 真っ暗で真っ黒で。
 この空では、私はここがだれで、わたしがどこで、宇佐見蓮子がいつなのかが分からない!
 
「……あれえ、外れちゃったー」

 夜が声を出す。小さい女の子のような、不思議な声が響く。
 方角位は分かるが、それ以外のことは全く分からない。
 ただ分かるのは、私は──宇佐見蓮子は、攻撃されている!
 
「危ない──じゃない、ッ!」
「危なくないよー。ちょっとぶつかって、そしたら弾けるくらいだもん」

 会話を試みると、また可愛らしい声がする。しかし姿は見えない。
 彼女は闇で、私は闇の中にいる。飛んだ先が不運だったかもしれないが、私はこんな所にいるわけにはいかなかった。
 メリーがいないのだ。あの子は私がいないと、ここがどこで、今がいつなのか分からないのだ。
 
「暗いのは良いんだけど、生憎私は真っ暗だと世界が見えないように出来てるの」
「んー、もしかしてまた、食べられる人類が遊びに来たの?」
「──また?」
「そうそう。紫色をさっき食べ損なっちゃったから、だったら──」

 ──そこの白黒は、私と色が似てるし、食べて良い?──
 質問は問いかけではなく、実行許可の確認だ。
 イエスもノーも恐らく無い。
 目の前の黒い闇は、私を。宇佐見蓮子を、食べようとしている。
 そしてさっきはメリーを! 許せないけれど、メリーは食べられてはいないらしい。
 彼女がここを逃げたのならば、私がすることは一つだ。
 敵討ち? まさかそんな馬鹿なことはしない。
 
「──さよならっ!」

 選ぶのは、逃走。
 無理矢理会話を打ち切った。私は帽子をくっと手で押さえ、九歩目で勢いよく跳ねる。
 後ろの彼女の表情は見えない。だけど、何かが迫るのだけは──分かる!
 
「──駄目だよっ! 食べられる人間っ!」

 きっと笑っているだろう。
 きっと楽しそうに笑っているだろう!
 でも、私は笑わない。メリーを、マエリベリー・ハーンを捜さないといけないのだ。
 地面が弾ける。
 風が鳴る。風が爆ぜる。風が舞う。
 勢い良く乱れ飛ぶ、赤、緑、黄、青。
 可愛い笑い声が遠ざかっても、まだ私に向かって弾が向かってくる。
 もう何歩目か分からない。
 走る。
 白の弾の輪を躱す。交差する青と緑と赤を抜ける。
 私に向かってくる青の弾を飛び越えて──後ろで何か音がするのを私は聞いた。
 弾けるような、瞬くような星の欠片の残骸が見えて、
 私の後ろに向かっていったのは、彗星のように尾を引いた、流れ星?
 
「──危ないところだった! ここは、任されたぜ、私とお揃いの黒白さん!」

 流れ星の音──否、誰かの声が聞こえる。
 さっきとは違う、少しボーイッシュな声。
 上空から聞こえたそれは助けか、敵か味方か分からない。けれども、
 
「ありがと!」

 任された、と言う言葉を信用して、礼だけ空に投げる。そして私は駆け続ける。
 見覚えのあるような、典型的な魔女の帽子を被った姿が一瞬だけ視界に入って、すぐに上空へと消え去った。
 星ではないのに、彼女の煌めきはまるで星だった。私は少しだけ、安心する。
 
「どこかの誰か、礼はいらないぜ! ──さあ、私が相手してやる!」
「また変な黒白が来た!」
「ははっ! 魔女は美味しく頂かれるより、美味しく煮込むのが趣味なんだぜっ!」

 二人の少女の声を背に、宇佐見蓮子はひた走る。
 声が遠ざかり、音が遠ざかる。
 爆発音が何度も聞こえる。きらきらと星が砕ける。弾が跳ねる。
 少女の悲鳴。星が弾ける。真っ黒な空がすっと夜空を取り戻す。
 星と、月が現れる。
 そして、私は空を仰ぎ見て、
 
「──二十時、──五十二分、と二秒ッ!」

 ──思いッ切り、叫んだ。
 空気が変わり、闇の声と気配がすっと消える。
 真っ暗が失せ、真っ黒が消える。
 黒の中にも星が見え、月が見えて、私は今更空の大切さを知った。
 月が見え、場所が分かる。星が見え、時間が分かる。この能力に不満があるとしたら──
 
「メリー! メリー! マエリベリー・ハーン! どこにいるの!」

 逃げ出して、改めて冷静になった頭で私は彼女の名前を呼ぶ。
 闇の中の光。黒の空に光る、白の星。
 さっきの子が私は黒白で、メリーは紫だと言ったがそれは違う。例えの色だとしても、違うのだ。
 秘封倶楽部は一人では成り立たない。表裏一体で、それでも側にいる。
 空があって、そこには月と星があって、そしてマエリベリー・ハーンがいなければならない。
 例えるなら、表裏一体。白と黒。
 だから、メリーがいないと宇佐見蓮子は月と星が見えようが、結局ここがどこで、私が誰だかはっきりしない。
 
 だから、呼ぶ。
 探す。走る。掛ける。回る。
 
 スカートがくるりと広がる。メリーがいない。
 帽子が飛びかけるのを押さえる。メリーはいない。
 暗闇の中、月と星だけがはっきり見えて、時も場所も分かるのに。
 ここはもう闇の外なのに、彼女がいない。私は黒の中に綺麗な金がふわりと現れるのを待って、
 
「メリー!」

 私は叫んだ。
 闇なんか怖くない。弾なんていくらだって避けてやる。
 妖怪も、魔女も、人間も、吸血鬼も、悪魔でも来るものなら来れば良い。
 ただ、メリーは。メリーが──。
 
 
 
 
「──また、遅刻しちゃったかしら」




 後ろで、声がした。
 同時に私の、犬のように敏感な気配が反応する。さっきまであった境界が遠ざかり、見えなくなるのを感じた。
 もしかして後ろにいる、私の大好きな誰かさんは、境界を操ることも出来るのかな──と私はぼんやりと思う。
 
「遅刻も遅刻。大遅刻よ──!」
 私は言う。叫びすぎたからに決まってるけれど、うっかり声が掠れてしまいそうになる。
 だからもう一度、呼んだ。
 私の、大切な秘封倶楽部の一員の名前を。
 
「遅れすぎて真っ暗闇、本当に闇だらけだったわ! マエリベリー・ハーン!」
「ごめんなさい、蓮子」

 きっと可愛く笑ったであろう彼女の柔らかい手が触れ、頭が背中にそっとくっつけられる。
 ふわりとブロンドが頬に触れて、暖かい。
 私は。宇佐見蓮子は、不覚にも思わず泣きそうになる──。
 
「でもね、蓮子。メリーさんはちゃんとあなたの後ろにいるわよ」
「──メリーさんなら、最初から最後までしっかり付いてこないと駄目でしょ?」
「そうね、ごめんなさい」

 優しい、メリーの声が聞こえる。
 ただそれだけで泣きそうになったから、私は目を閉じて、口だけで笑む。
 ぎゅっと瞑って、また開いて。
 そして笑って、空を見上げた。そうすれば零れない。溢れないし、私は分かる。
 
「蓮子、ここはどこで、私は誰で、今はいつ?」
「──……教えてあげないわ!」

 ここは確かに暗いけれど、真っ暗闇じゃない現実だ。
 私は宇佐見蓮子で、隣にいるのはマエリベリー・ハーン。
 今は二十一時零分三十一秒。
 月が見て、星がある。そして隣にメリーがいる。簡単に分かる事実。
 私は手を差し出して、駅の方を指さした。真っ黒の真っ暗闇の中に、ぽつりぽつりと光が見えだす。
 メリーが笑い、そして言った。

 
「さあ! また次の境界を探しに行くために帰りましょう。もちろん、」



 ──もちろん、答えは決まっている。



「ええ。──二人で一緒に、ね!」
──世界の秘密を知っていますか?     はい/いいえ



幻想の観測者と、幻想の白黒のちょっとした暗闇の迷路の話。
絵の具は、三原色を混ざると黒になり。
光は、三原色を混ぜると白になり。
宇佐見蓮子とマエリベリー・ハーンが混ざると何色になるかは、世界の秘密。
幻想の秘密を知っているのは、恐らくはどこかの紫色だけなのです。
kiz
http://xxx.spi-ca.com/
作品情報
作品集:
最新
投稿日時:
2009/05/09 20:18:34
更新日時:
2009/06/14 05:33:24
評価:
20/22
POINT:
95
Rate:
1.14
1. 5 名前が無い程度の能力 ■2009/05/14 17:22:08
二人の関係がよかった
2. 3 パレット ■2009/05/18 00:31:23
いい具合に少女たち。もっとちゅっちゅしてもいいのに!
整った文章がとても好きです。でも、お話はちょっと平坦すぎる気がしました。
3. 6 神鋼 ■2009/05/24 10:01:57
この飄々とした会話のリズムが秘封倶楽部っぽくて何ともいえないです。
4. 5 As ■2009/05/24 15:07:42
蓮子とメリーの関係がいいですね、さすが秘封倶楽部。
秘封倶楽部ネタで魔理沙が出てくるのも珍しい気がしました。
5. 6 三文字 ■2009/05/25 20:03:49
境界を越えた前後でメリーのキャラが変化したイメージを受けました。
ひょっとしてメリーが紫となったとか、そういうこと?
まあ、それを知っているのもどこかの紫色なわけで……
あと、最後のシーンだけ微妙に駆け足で過ぎた感じがありました。
6. 4 気の所為 ■2009/06/02 16:45:10
文章はかなり気に入ったんですが、展開に別作品で見覚えがあったのが傷でした。
導入だけでなくもう少し先も見たかった。これからの二人はどうなるのだろう。
ヒーロー役の蓮子は最後までとっておくんだぜ?
7. 5 有文 ■2009/06/08 01:13:43
秘封倶楽部の幻想郷冒険記いただきました。いきなり出てくる魔理沙さんのタイミングが「それ狙ってるよね」とみうらじゅん風に言いたくなりますw
8. 5 佐藤厚志 ■2009/06/08 04:04:33
銀河鉄道の夜みたい。不思議な味わい、まるでネルネルネルネのように、不気味で、でも好奇心と遊び心に満ちた小説でございました。
9. 5 ふじむらりゅう ■2009/06/11 00:59:20
 なんだか不思議な魅力がありますね。秘封風味であり、幻想郷風味であり。いいバランス感覚。
 テンポが速すぎてあっという間に読めた反面、会話文でどっちが何を言っているのかわかりづらいところもあり。
10. 5 上泉 涼 ■2009/06/12 02:14:17
ちょっと危険な目にあっても、境界の向こう側を探求し続ける。それでこその2人ですよね。
ただちょっとお題の使い方が強引かな、と思いました。
11. 3 八重結界 ■2009/06/12 17:14:15
もう少し、何かイベントが欲しかったなと思ったり。
しかし、これはこれで素晴らしき秘封倶楽部の日常生活。
12. 6 moki ■2009/06/12 19:07:07
やっぱり
秘封は
素敵だ
13. 6 ぴぃ ■2009/06/12 19:39:27
ニヤニヤニヤニヤニヤニーヤ。

……すみません。これしか感想が浮かんでこないのです;
14. 6 リコーダー ■2009/06/12 21:16:18
なかなか引き込まれる文章でした。
しかしもう一捻り欲しかった。
15. 4 木村圭 ■2009/06/12 21:34:56
良くも悪くも王道なプチ冒険譚。洒落た後書きが素敵でした。
16. 5 時計屋 ■2009/06/12 22:46:45
 しっとりと落ち着いた、丁寧な文章が印象的でした。
 秘封の二人のコンビによる、短い、しかし幻想的な冒険譚がとても自然に描かれていたと思います。
 ただあっさりと物語が終わってしまい、何か食い足りないという気持ちも残りました。
 後は幻想郷に入ったところのシーンが唐突すぎて、読んでいて少し困惑しました。
 私の読解力がないだけだったらすいません。
17. フリーレス ハバネロ ■2009/06/12 22:51:48
あとがきでタネ明しされても
18. 3 つくし ■2009/06/12 23:03:35
申し訳ありません、時間が差し迫っているため、採点のみにて、感想本文は後ほど改めて。
19. 5 渦巻 ■2009/06/12 23:26:56
話が大きくなりそうだったのにぷっつり切れてしまった印象でした
つーかリトバス? じゃなかったとしても最後の文は少し浮いてた気がしないでもないです
20. 3 K.M ■2009/06/12 23:36:37
好奇心猫を何とやら。命知らずというか蛮勇というか……あの少年漫画誌はあの世界にもあるのだろうか?あるだろうな。
21. 5 つくね ■2009/06/12 23:54:25
丁寧に描写されているのは良かったものの、ちょっとした話だけに物足りない感じがあります。
22. フリーレス kiz ■2009/06/14 05:32:43
コンペに関わった全ての方、本当にお疲れ様です。
沢山の作品がある中、読んで下さった方・コメント下さった方、有り難うございます。
とっても楽しく参加させていただきました。
以下コメントレスです。


>1. 名前が無い程度の能力さん
秘封を書いて良かったと、思います。
幻想郷でなくとも二人は素敵な秘封倶楽部。

>2. パレットさん
綺麗に並んだ文字が好きです。
その代わり話が淡々としやすいのが弱点だと思います。

>3. 神鋼さん
この幻想郷とはまた違う、不思議な会話が好きで秘封に興味を持ちました。

>4. Asさん
こんな関係の相手がいるメリーと蓮子が羨ましい。
魔理沙が秘封に出てくるのは、某作家さんの影響だと思います。

>5. 三文字さん
そのイメージを持っていただけたのなら、あのシーンもきっと喜んでます。
急いてしまった感は確かにあったと思います。
ただ、あそこで蓮子もきっと急いていたかな。と。

>6. 気の所為さん
恐らくその作品は読んだことがなかったので、逆に読んで見たくなりました。
きっとこのあとはヒーロー蓮子の出番がやってくることでしょう。

>7. 笊さん
ありがとうございます。
幻想的な不思議なテンポという部分は意識している部分でして、嬉しいです。
良い崩れと、おかしい崩れ。もっと勉強したいところです。

>8. 有文さん
魔理沙さん、実は暗闇で出番待ってたらしいですよ?
「『隠れてればいい』っていうもんじゃないよ」ね。全く。

>9. 佐藤厚志さん
カンパネルネルネルネラの遊び心です。
不気味で不思議で迷ってみたい、幻想郷はいいとこよ一度はおいで。

>10. ふじむらりゅうさん
現実も幻想もほどほどに。偏ってもしょうがないのであっちとこっちに平等に重しをつるしました。
さくさくと進む弊害は、気をつけようと思います。 

>11. 上泉 涼さん
そしてまた二人は何度でも幻想に紛れ込んでいくのです。
黒と紫ですが確かに色というより秘封だったかもしれません。

>12. 八重結界さん
劇的な秘封も書いてみたいと思いました。
日常があってこその非日常。ただし彼女たちにとっては幻想郷も日常になっているのかも。

>13. mokiさん



いよね、結界になりたいよ

>14.ぴぃさん
ちらちらちらちら、と闇の中からルーミアがそちらを見ているようです

>15.リコーダーさん
そう言っていただけると幻想から引っ張った甲斐があります。
幻想の外の話だからこそ、秘封ならではの現実と幻想が混線した捻りも素敵ですね。

>16.木村圭さん
敢えて分かりやすい迷う人と襲う妖怪で仕立ててみました。
ちょっとパロディめいた後書き含めて、一つのお話です。

>17. 時計屋さん
静かな綺麗な文章を書けたらいいな、と思っています。
幻想という非日常は唐突に訪れるものと意識してますが、物語の表現としては
もっと詰めていくようにしたいな。
 
>18. ハバネロさん
創想話、コンペの作品は後書きまでで作品の一つだなと思うのです。

>19. つくしさん
お忙しい中ありがとうございます。
時間が出来て気が向きましたら、宜しくお願いします。

>20. 渦巻さん
壮大にならずに、小さい幻想だとしてもいつか劇的に書きたいですね。
最後の文はその通りですが、だからこそ引用しています。

>21. K.Mさん
友情、努力、勝利。
努力はしていなかったかもしれない二人と、努力する魔法使いと妖怪のお話でした。

>22.つくねさん
描写へのコメント嬉しいです。
ちょっとした情景、もっと印象的に書けるように色々やってみようと思います。
名前 メール
評価 パスワード
<< 作品集に戻る
作品の編集 コメントの削除
番号 パスワード