Hello, my friend ―6つの色が揃うとき―

作品集: 最新 投稿日時: 2009/05/09 21:27:26 更新日時: 2009/06/20 18:23:44 評価: 26/31 POINT: 199 Rate: 1.66
(6/20  エピローグを追加。その際、EDその他に加筆修正を施しました)



















 ぽつんと下がった白熱灯が、窓の無い壁を照らしている。黒く塗られた戸以外に、外へと通じる道は無い。
 箱に似たその密室に、さとり妖怪が隠れていた。ベッドの上で身を抱え、時が過ぎるのを待っていた。
 そこはとても静かな部屋。彼女にとって、特別な意味で、静かな部屋だった。

 遠くで、何かが吹き飛ぶような音がした。
 
 さとり妖怪は隠れている。扉の向こうを恐れている。
 自分を捜しているであろう、地上から来た存在を。
 それは妖怪かもしれないし、人間かもしれない。妖精かもしれないし、獣かもしれない。
 顔も知らない。声も知らない。何を考えているかも知らない。


 それは、さとり妖怪にとって、一番大切な、初めての、たった一人の……。








1.青色なくした妖怪の話




 地底深くにある大きなお屋敷。少女はその廊下を歩いていた。
 歩いていたといっても、その方向は定まらず、時々戻ってみたり、窓の外を覗いてみたりと、落ち着きがない。
 くりくりとした両目も、あちらこちらに向けられて、視線が一箇所に留まることがなかった。
 淡い水色の髪、山吹色の上着に緑のスカート。両肩を回っている紐から、握りこぶしほどの紺青の球体がアクセサリーのようにぶら下がっており、それは彼女の心臓の上に位置している。
 普通に向かうよりも、かなりの時間がかかって、彼女は奥の一室にたどりついた。
 屋敷のペットである猫が数匹、座って扉を見上げていたが、少女が近づくと、ぴゅーっ、といっせいに逃げ出す。
 少女はそれを気にせず、ノックもせずに扉に手をかけ、一声あげた。

「入るよー、お姉ちゃん」

 中から、どたばたと音がするが、構わずドアは開かれていく。
 入って正面奥にある机の前に、紫色の髪をした少女が座っていた。
 部屋に入ってきた少女のものと、よく似た球体を肩から下げている。
 しかし、その色は深紅であり、開いた瞼から大きな瞳、『第三の目』が覗いていた。

「……こいし。私が姉だとはいえ、人の部屋に入る時は、まずノックをするのが礼儀でしょう」
「え? でも、入るよーお姉ちゃん、って言ったよ」
「入ってほしくない時もあるんです。やっぱり、鍵をつけようかしら」

 と、不満げに呟くのは、この屋敷の主人である、古明地さとりである。
 こいしと呼ばれた少女の方は、姉のお叱りにも、全く反省するそぶりを見せていなかった。
 それどころか、鍵開けの本ってうちにあったかなぁ、と物騒なことまで呟いている。

「それで、こいし。どうしたのいきなり」
「えっとね。ペット達からね、お姉ちゃんが、最近自分の部屋に閉じこもっていることが多い、って聞いたの。さっきも猫たちが、部屋の前に集まっていたわ」
「ああ……なんでもありません。最近ちょっと、仕事がたまっていて」
「えー? 『本当に暇ですねここのところ』、ってこの前は言ってなかった?」
「あれから忙しくなったんです」
「ふーん。でもそれってさ、机の下に隠さなきゃいけないほど大事なものなの?」
 
 ぴょんぴょんと片足ずつ跳びながら、こいしは姉に近づいていく。
 対するさとりは、はっと腕を広げて、妹から机を守るかのように立ちはだかる。
 
「ねえ。さっき何を隠したの?」
「何でもないわ」
「あ、わかった。Hな本でしょ?」
「そんなもの読むはずがないでしょう!」
「でも、お燐とおくうはこの前、それっぽいの読んではしゃいでたけどなぁ……」

 あっけらかんと言う妹に、姉の表情の苦さが増した。

「ねぇ、見せて」
「だめです」
「見せて見せて見せてー」
「だめだって言っているでしょう。……あ、こら!」

 こいしは素早く、机の脇から手を忍び込ませ、さとりが隠していたそれを抜き取る。
 その手を顔の近くまで持っていって、

「何これ?」

 盗んだそれは、Hな本ではなく、文字が書かれた単なる紙だった。
 はぁ……、とため息をついたさとりは、さも無念そうに白状する。

「……手紙ですよ」
「手紙?」
「ええ。ほら、もういいでしょ。返してちょうだい」
「……『さとりん。元気かしら?』」
「朗読しないで! 読むなら黙って読んで! お願いだから!」

 姉の声は悲鳴じみたものだったので、こいしは大人しく要求に従った。
 ふむふむ、と頭の中で読んでみる。




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 さとりん、元気かしら?
 もうこっちはすっかり雪がとけて、温かくなってきたわ。
 こう天気が良いと、ついつい昼寝したくなったちゃうのよね。
 でも、季節の変わり目なんだから、風邪をひかないように、気を緩めちゃだめよ?
 といっても、地底じゃそんなに変わらないのかな。一年中冬だとしたら、寒がりの私にはちょっと想像がつかないわ。
 でも、さとりんの返事も、何だか明るくなってきたようだから、やっぱり春が来ているのかもね。
 また何かあったら相談にのるから、気を使わずに、いつでも打ち明けてください。
 それじゃあまたね。返事を楽しみにしているわ。

 この前に送ってもらった、お茶を楽しみながら  陽子


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 読み終えたこいしは、手紙から顔を上げた。

「これ誰?」
「陽子さんよ」
「ようこさん? お姉ちゃんにそんな知り合いいたの?」
「いて悪いんですか」
「お姉ちゃんって、ペットしか友達がいなかったじゃない。あ、そうか。実はお燐かおくうなのね」
「違います。あの子達がこんな読める字を書くわけないでしょう?」
「そういえばそうね。じゃあ、誰なの? 他のペット?」
「ペットの仔達じゃありません。陽子さんは地上に住んでいる方なんです。そして……」

 そこで、さとりは、こほんと咳をはさんでから、

「私の文通相手なのよ」




 幻想郷の郵便事情は、外界と比べて少々異なっている。
 まず地上の郵便の運営は、主に天狗が行っていた。新聞を配るために幻想郷中を飛び回る天狗は、速さと地理感覚を兼ね備えており、もっとも郵便に優れた妖怪だといえるだろう。
 しかしながら、この郵便を利用する妖怪は少ない。元々妖怪は縄張りを持っており、交流はその中だけで行われるのが普通である。したがって、自分の移動力を超えた場所に、手紙を頻繁に出すという状況が少ないのだ。人間の場合はなおさらで、郵便屋は年賀状を出し合う正月に臨時に設営されるだけであって、普段は直接届けるのが一般的である。
 ただし、これが地底世界となると話は変わってくる。地底は、地上付近から旧都まで、広い地理を持っているために、地上よりも郵便制度が発達しており、手紙の流通量も遥かに多い。さらに、かつての鬼と天狗とのつながりもあってか、一部では地上とも手紙のやり取りが行われている。忌み嫌われた妖怪達とはいえ、地上と地底との『交通』が無くなっても、情報手段を介した『交流』は密かに行われているのである。
 旧地獄の中心に建っている、この地霊殿の主、古明地さとりもその一人だったというわけだ。

「ふ〜ん」

 こいしはもう一度手紙を読んでみてから、姉に返した。

「ずいぶん明るくて人懐っこそうね。この陽子さんって」
「そうです。明るくて真っ直ぐで、とっても素敵な方なんです。私は彼女と知り合えて、本当に幸せです」

 さとりは目を閉じて、頬をバラ色に染めながら、手紙を胸に抱く。
 こいしは、そんな姉の姿を、これまで見たことがなかった。

「わかったわ。お姉ちゃんの初めてのお友達ってことなのね、ぺット以外の」
「…………そうです。陽子さんも、私のことを、そう思っていることを願います。もっとも、彼女にとって私は、数ある友人の内の一人に過ぎないでしょうけどね」
「で、いつどこでどうやって会ったの?」
「え……」

 その質問に、さとりはわずかにひるんだ。

「どんな顔してるの?」
「知りません」
「え、会ったことないの?」
「ありません」
「会ったことない人と、どうやって文通しているの?」

 悪意無き追求をするこいしに、さとりはミカンの潰れたような顔で、

「……実は一度、“地上のどこか”とだけ宛先を書いた手紙を、やけっぱちで郵便に出したら、返事が届いたんです」
「わー、面白ーい。変な話ー」

 こいしは無邪気に笑い、手を叩いて喜ぶ。
 彼女はそんな奇天烈な話が大好きだった。

「でもさー、その陽子さんに会ってみたくないの、お姉ちゃん?」
「いいえ、会いたくありません」
「え、どうして」
「どうしてもです。第一、私のような嫌われ者で、地味で暗めな女と、わざわざ会うことはないでしょう」

 さとりの表情は、先ほどまでの幸せなものとはうって変わって、なんとも暗い顔つきである。
 椅子に座りなおし、そのまま机に頬杖をついて、アンニュイな視線を窓の外に送っている。
 こいしはそれを放っておいて、ひそかにもう一枚盗っていた手紙を読み始めた。

「『陽子さん、私は元気いっぱいです!』」

 たそがれていたさとりが、突如、ばね人形のように椅子から飛び上がった。

「『心配してくれてありがとうございます。地底にも季節はあるんですよ。だから今はこっちも春です。でも私が明るくなったのは、きっと陽子さんが色々と相談にのってくれたおかげで』……」
「こ、こら! 返しなさい、こいし!」

 早送りで動く姉から、妹はひょいひょいと身をかわしつつ聞く。

「この手紙って、お姉ちゃんが書いたの? ちっとも暗くないじゃない」
「だから現実の私を見せたくないの! 早く出て行って!」

 結局こいしは、さとりに手紙を引ったくられ、部屋の外にローキックで追い出された。




⊂○⊃




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 陽子さん、私は元気いっぱいです!
 心配してくれてありがとうございます。地底にも季節はあるんですよ。だから今はこっちも春です。
 でも私が明るくなったのは、きっと陽子さんが色々と相談にのってくれたおかげです。この半年間、本当に感謝してばかりですね。
 前の手紙に包んだお茶は、気に入ってくれましたか?
 今度はクッキーを焼いてみようと思いましたが、やはり焼きたての方が美味しいし、地底からの郵送では、わずかな量しか送れませんので、残念ながら諦めることにしました。
 その代わりになるかは分かりませんが、今回はクッキーのレシピを同封することにします。
 甘さひかえめで重くない味なので、陽子さんの好きなコーヒーや中国茶にも合うかと思います。
 ぜひ作って食べてみてください。そして、感想を聞かせてくださいね。

  さとり


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 書き終えた清書を、さとりはもう一度読み返す。
 それから、インクが乾くの待って、上下の端と端を合わせて慎重に折り畳んだ。
 立ちのぼる香の一筋に、さっとそれをくぐらせてから、白い大き目の封筒に、そうっと差し込む。
 溶かした蝋で封をして、最後に地霊殿の刻印を押す。
 完成した作品を額に当てて、しばし目を閉じる。それからようやく、その手紙を小さな鞄にしまった。
 手紙を持って運ぶ時間、返事が届くまで待つ期間。どちらも、静かな興奮の混じった、不思議な緊張がある。それはいつも、この瞬間から始まるのだった。

 準備ができたので、さとりは早速、郵便局に向かうことにした。
 鞄を携えて、部屋の戸を開けると、予想どおり猫が足元に集まってきた。それぞれが、さとりにだけ 聞こえる『声』で、寂しさを訴えてくる。

「ごめんなさい。後でちゃんと遊んであげるから、今は通してね」

 膝にじゃれつく一匹を蹴飛ばさないように、さとりは猫の泉を抜け出した。
 こいしの言うとおり、最近構ってあげる時間が減ったので、寂しがっているのは間違いない。
 言葉を持たぬ彼らの心を読んであげられるのは、同種と飼い主のさとりだけである。多少後ろめたい気持ちがあった。

 といっても、この地霊殿には、妖力を得て人の型を取り、言葉をかわすことのできるものもいる。 

「さとり様ー! ただいまー!」

 その声に、さとりは足を止めた。
 暗緑色のゴスロリ服を身につけた、少女が走ってくる。

「お燐、帰ってきていたんですね」

 赤髪の上に猫耳をつけた、彼女は火焔猫燐。本来は、死体を持ち去る火車という種族であるが、口が達者で明るく、地霊殿の元気を象徴するペットだ。燐は灼熱地獄跡地の怨霊の管理をしているが、最近はちょくちょく、地上の神社に遊びに出かけることが多くなった。

「さとり様ー。久しぶりに会ったんだから、もっと嬉しそうにしてくださいよー」
「もちろん嬉しいですよ。ただ、今はちょっと忙しいので、また後にしてね」

 そう言うと、燐の顔が一瞬、情けなく歪んだ。そのまま縮んで、猫の姿に戻ってしまう。

(さとり様……あたいが最近地上に行くもんだから、あたいのこと嫌いに……)

「なってません。お帰り、お燐」

 さとりはしゃがんで、燐の頭を優しく撫でる。
 黒猫は嬉しそうに喉を鳴らして、さとりの指を舐めた。

「ごめんなさい。少し出かけてくるので、こいしの相手をしていてちょうだい」

(はい、わかりました)

「お燐やおくうが遊んであげると、あの子も喜ぶようですから」

(まかせてください。あたいも、こいし様と話すのが好きなんですよ)

「あれ、そう言えば、さっきあの子が妙なことを……」

(ぎくっ)

「お燐がおくうと一緒に、いかがわしい本を読んでいたとか」

(行ってらっしゃい、さとり様!)

 それ以上心を読まれまいとしたのか、燐は猫の姿のまま、慌てて逃げていった。
 さとりは苦笑を浮かべて、玄関へと向かった。




(ふう……危ない危ない。こいし様も内緒にしてくれればいいのに)

 廊下を歩く黒猫は、こいしの匂いを探りながら呟いた。
 やがて、広いホールの天井に、こいしが逆さまに座っているのを見つける。天井に描かれた絵に落書きしているらしい。

「こいし様ー」

 燐は人型に姿を変えて、下から呼びかけた。

「あら、お燐。帰っていたのね」

 こいしはすぐに気がついて下を向き、天井から下りてくる。

「お姉ちゃんには会った?」
「はい。たった今、あっちの廊下ですれ違いましたよ」
「ん、廊下? お部屋じゃなくて?」
「ええ、廊下です」

 ふーん、と、こいしは虚空を見上げつつ、

「じゃあ、お姉ちゃん、もう手紙を書き終えたのかなぁ」
「手紙? 誰が誰に宛てた手紙ですか?」
「お姉ちゃんが陽子さんに」
「陽子さんって?」
「お姉ちゃんのペンフレンド」
「ペ、ペンフレンドぉ!?」

 燐はすっとんきょうな声をあげた。

「…………って何でしたっけ」
「文通する相手」
「文通って、手紙を出し合うあれですか」
「そうそれ」
「いやでも、フレンドってことは友達ってことですよね!」
「お姉ちゃんは少なくともそう思っているみたい」

 そこで燐はハッとしてから、探るような目つきで、

「ひょっとして……男?」
「文章は女の人みたいだったわ」
「なんだ残念。うわー、でもさとり様に友達かぁ。すごいすごい。すぐに、おくうにも教えてあげよう」

 猫の姿に戻って、燐は楽しそうに駆け出していく。
 こいしはそれをぽかんとした顔で見送っていたが、やがてまた、天井の落書きに戻ることにした。




⊂○⊃




 旧都にある郵便局は、石造りの大きな建物だった。ここで運営しているのはもちろん、鬼をはじめとした地底の妖怪である。
 さとりはその待合室に座っていた。今日はいつもより混んでいたため、こうして待たされることとなったのである。
 宛先が地底内なら、ポストに投函すればすむのだが、地上へ送るとなると、直接局へと出向かなくてはならない。
 だが、さとりにとっては、行く手間は面倒の内に入らなかった。
 手紙をポストに放り入れてしまうよりは、なるべく自分の手で持っていけるとこまで持っていきたい。そういう気持ちがあるからである。

 問題は二つあった。
 一つは、封筒サイズしか送れないということ。手紙と同封できる程度なら問題はないのだが、小包以上の大きさの荷物は、地上まで届けてくれないのである。ここの郵便制度には不満だったが、仕方のないことでもあった。やはり、地底と地上では、距離も文化もかけ離れているのだから。
 そして、もう一つ。そちらの問題は、さとりにとって、生まれながらに背負った業でもあった。

「45番でお待ちの古明地様」

 その名が呼ばれた時、周囲の空気が、いや、大部屋全体の空気がはっきりと変わった。
 ざわめきが小さくなり、視線がこちらに集中する。
 さとりはゆっくりと立ち上がり、顔をいっさい左右に向けずに、窓口へと歩いた。
 込み合っていたその付近が、見えない力に押されるように空いていく。誰もがさとりから体を引き、中には逃げるような足取りで、建物の外へと消えるものもいた。
 灰色のカウンターの向うに、笑顔を浮かべた、若い妖怪がいた。さとりの知らない顔だった。

「いつもの方は、いないのですか?」
「はい。本日は欠勤しております。代わって私が担当することとなりました。よろしくお願いします」
(あー、ついに来ちゃったよ。さっさと無事に終わってほしいなぁ)

 聞こえた心の声にも、さとりは眉一つ動かさなかった。
 持って来た手紙を鞄から取り出し、両手でその妖怪に渡す。
 
「話は聞いているかもしれませんが、宛先は書いていません。これまではそれで、向うに届いていたのですが」
「はい。伺っております。確かにお預かりいたしました」
(うわー、これどこに届いてんだろ。薄気味悪いったらありゃしないわね)

 局員は笑顔のまま、丁重にそれを受け取った。

(ひえー、お客さんみんな引いちゃってる。この人、少しは気にしないのかな)
(あれからみんなに噂されて、先輩ノイローゼ気味でやめちゃったし)
(うーん、どんなこと書いてるんだろ。心が読めれば……ってそれじゃさとりの化け物か)

 心の声は一瞬である。瞬き一つする間に、三つの文を吐き出すこともある。
 しかし、どんなに速くとも、さとりには完全に理解することができた。これまでどれだけ経験してきたかわからない、さとり妖怪ならではの特殊な技能だ。
 どうやらこの若い新人さんは、今まさにさとりに、心を読まれているとは思っていないらしい。
 古明地という苗字の意味を知るか、あるいは真相を告げられるか。いずれにせよ、噂のさとり妖怪が、目の前に立っている自分だと知ったら、もうこの郵便局で彼女の顔を見ることはなくなるだろう。いなくなってしまった前の担当者のように。

「では、よろしくお願いします。これで失礼します」
「はい。ご利用ありがとうございました。また御越し下さいませ」
(しばらく来ないでほしいんだけど……ああ嫌な客)

 愛想と嫌悪を背に受けて、さとりは郵便局を出た。




 旧都には繁華街が多く、比較的中心部にある郵便局まで行くには、どうしてもそのうるさい道を通らなくてはならない。
 怨霊の鬼火が照らす通りは、今日も酔っ払った鬼達の喧騒で賑わっていた。
 地上の妖怪は意外に思うかもしれないが、太陽が届かなくとも、地底の雰囲気は明るいのだ。
 忌み嫌われた妖怪同士で、何だかんだと仲良くやっているのである。

 だが、さとりだけは別だった。
 その姿を知る者は、心を読まれまいと露骨に避けていく。
 不穏な空気は伝染し、やがてさとりの行く手には、妖怪の姿がいなくなる。
 しかし、その『声』だけははっきりと聞こえた。

(出やがったか。最近よく見るな。旧都で何してやがるんだか)
(え、やだ。あれが噂のあいつなの、速くこっちに行こうっと)
(ぷっ、偉そうな割には地味で貧相な格好だよな。……なんだよ、文句あるのかよ)
(ああ怖や怖や。鬼の客の方がまだましじゃわい)
(……覗き魔)
(やめな! あたいの心は見せもんじゃねぇ!)

 対象が近くにいればいるほど、強い感情を伴っているほど、その声ははっきりと聞こえた。
 怯えた目つきは、捕食者に襲われるのを怖がるというよりも、病気をうつされるのを恐れているようだった。
 だけど、そんな態度は、遥か昔から慣れている。
 人気の無くなった通りで、さとりは粛然と歩みを進める。わざわざ空を飛んで避ける意味も無い。もう、『目』は乾ききっていた。

 心を読むさとり妖怪は、誰からも恐れられ、仲良くすることができない。
 この能力があるからこそ、さとりの持つ交友関係は、すがすがしいほどにシンプルだった。
 自分を嫌う者、避ける者、憎む者、殆どの妖怪に当てはまるのだが、彼らとは基本的に接触しない。そして、例え友好的に近づいてくる妖怪にも、期待は一切しない。
 ほんのわずかな手間を我慢するだけで、誰とも衝突せずにやっていける。
 普段は自分の屋敷に引きこもってペット達と語り合い、心を読めない妹にたまに引っ掻き回されるだけの、平穏な日常。

 ……だった。
 
 さとりはふと、顔を上げた。

 頭上には濃い闇が広がっていた。ポツポツと星のように見えるのは、瞬かない発光虫。
 時間に合わせて薄くなることはあれど、闇が完全に解かれることはない。
 地上と地底を二つに分ける、ぶ厚い境界と、その象徴だった。

 ――陽子さん……か。

 心の中で、その名をつぶやく。
 思い出した。誰にでも日の光は届くと、彼女は励ましてくれたっけ。
 明るいあの人らしい応援だった。
 だけど、さとりを照らす光は一つだけ。彼女だけが、手紙を通して、地上の光を届けてくれるのだ。

 ――きっと、あの人が住んでいる地上は、とても明るいんでしょうね。

 明けない夜を見上げたまま、さとりはかすかな、自嘲の笑みを浮かべた。

 ――私には、地底がお似合いです。

 そして、今日もさとり妖怪は、人無き暗い道を行く。




⊂○⊃




 それから三日後のことである。

「うにゅ? これ何だろう」

 地霊殿のペットの一匹、地獄烏の霊烏路空は、玄関先の郵便受けから落ちたものを拾った。

「古明地さとり様へ……さとり様に手紙? 何だったかしら。確か最近、手紙のことで凄い話を聞いたような、聞いてないような」

 空はう〜ん、と眉をしかめて唸った。
 白い翼をぱたぱた動かし、うんうんと、何とか思い出そうとしていると、親友の猫が近づいてきた。

「おくう。何やってんの?」
「あ、お燐。ちょうど良かった。思い出させて」
「はい?」

 火焔猫燐は、死体に道を聞かれたような顔になった。

「何か私、最近あんたから聞いてたでしょ。なんだっけ」
「ああ……またか。あんたの忘れ癖は一生直りそうに無いね……」
「忘れ癖って、そんなに忘れてないわよ。まだ今年に入ってから……えーと三回!」
「三十回以上だっつーの。忘れたことも忘れるんだから、よくできた頭だねホント」

 おくうの健忘症は、今日も絶好調、というわけらしい。

「うっさいわね! それより、いいから早く教えてよ」
「えーと、あたいが最近あんたに話したというと〜、こいし様が天井の絵に笑える落書きしたのとか〜、この間拾った春画がさとり様にバレそうになったとか〜」
「ほらほら早く」

 扇いで風を送ってくる空の手を見て、燐はぎょっとした。

「ちょ、ちょっとおくう。何持ってんのあんた」
「え、これは手紙だけど。さとり様宛ての」
「手紙……! い、今、家の郵便受けから取ったんだね!? そこに入ってたんだね!?」
「何驚いてんのよ」
「ばっか! この前話したじゃないか! さとり様のペンフレンドだよ! 陽子さんからの返事だよ!」
「あっ……あー!! 思い出したー!!」 
「しっ! 声がでかい!」

 燐はがしっと空の首に腕を巻いて、ひそひそと話しかけた。

「……でかしたよ、おくう。実はあたい、あれから何度か手紙を見せてって、さとり様に頼んだんだけど、絶対に許してくれなかったんだ」
「じゃ、じゃあこれ、さとり様の秘密だったのね」
「ああ。気になるよね。さとり様の友達がどんな奴か」
「気になる、気になる」

 好奇心あふれる顔で、空もこくこくと賛同する。

「でもどうしよう。今ここで開けちゃったら、怒られるんじゃないの?」
「怒られるに決まってる。破ったりしても気がつかれる。だから、バレないように取り出せるといいんだけど」
「あ、いいこと考えたわ! やっぱり開けようお燐!」
「馬鹿! ダメだっていってるじゃないか、何考えてんのさ!」
「だからほら、こっそり中身を読んでから、同じ手紙を作って……」
「……さとり様に、『手紙が届いてましたよー』って渡す! 凄いアイディアだね! たまには頭を使うじゃないかおくう!」
「そりゃあ私だってね。よーし、じゃあ早速開けて中身を拝見……」
「そこまでです」

 かけられた低温の声に、二人の両肩がびくりと震えた。

「あ……あの……」
「さ……さとり様……」

 恐る恐る二人が振り向くと、すごくおっかない顔をしたご主人様がいた。

「人に来た手紙を、勝手に盗み見しようとする悪い子は誰ですか」
「お、おくうです!」
「何言ってんのよ! お燐でしょ!」

 互いに責任をなすりつけようとする、醜い二人のペットの図。
 古明地さとりは不機嫌な顔のまま、まず燐の方に『目』を向けた。

「…………なるほど。『何さ、手紙くらいちょっと見せてくれたっていいじゃない。さとり様のケチンボ』ですか。悪かったですね、お燐。ケチンボで」
「ひぇっ!」

 見事に心の内を言い当てられて、お燐は口を押さえてから……気づいて胸と頭に変えた。
 次にさとりの『目』は、おくうの方に向けられる。

「…………ほほう。『失敗したからにはしょうがないわ。今度からずっとポストを見張ってよう。さとり様もまさかそこまでやるとは思わないよね、ぷぷぷ』とは。誰に隠し事をするつもりなんです、おくう」
「うひっ!」

 ばっちり心の声を読まれ、たじたじになって、空は首を出したりすくめたりする。
 ご主人様は硬質な声で続けた。

「お行儀の悪いペットはいけないわ。二人とも、今日の晩ご飯はどこかに隠してあげましょう。私はケチンボですし、隠し事をたくらんだ罰にはふさわしい」
「いやー! ごめんなさい、さとり様!」
「許してください! 反省しています!」

 毎度お約束の謝りタイム。この時は二人とも心の底から謝っているのだから、骨の髄まで調子の良いペット達だった。

「その心に免じて、今日は許してあげます。ただし、この次はないと思いなさい。いいわね」

 最後までさとりは仏頂面のまま、空から手紙を受け取って、スタスタと去っていった。
 燐と空は、ほーっ、と息をついた。

「さすが、地底で一番恐れられている妖怪。怨霊よりも、よっぽどキツいね」
「うんうん、いつも優しいのに、怒ると凄く厳しいわよね、さとり様って」
「だよねぇ。手紙もあんな感じで書いてるのかねぇ。だとしたら怖い文通だなぁ」

 手紙一面に書かれた、面白みに欠けるお堅い文章。うららかな春の日差しが……じゃなくて地獄烏の日差しが、とか何とかから始まって。
 実はそれら全てが暗号で、地底の異変を未然に防ぐために、極秘の情報交換を行っていたのであった!

 ……何にせよ、燐には想像もつかない。だからこそ読んでみたかったのだけれど。

「あ、お燐。私達も今度文通してみない?」
「やる意味あんのか! ……と突っ込みたいところだけど面白そうだね」
「でしょ? じゃあまずは私があんたに書くから」
「あ、やっぱりダメだ! おくうの字なんて全然読めたもんじゃないから!」
「え、ちょっと! お燐の方が字が汚いでしょ!」
「あんたよりはまだマシだよ!」
「そんなことないもん! じゃあ今度比べて、さとり様に見てもらうわ!」
「おうとも! 望むところさ!」




 燐と空が張り合う一方、無事に手紙を救出したさとり本人は、二人の視界から消えた後、どうしていたかというと。

 まずは、スタスタ歩きが、小走りへと変わった。そこから上半身の動きを止めたまま、足だけ加速していった。
 最後にはどひゅーん、と風を切り、古明地エンジン全開で廊下を走って、自室へと飛び込む。
 バタンと扉を閉め、さとりは、ふぅ、と息をついた。
 なぜここまで急ぐのか。それは、にやけてしまう顔を、誰にも見せたくないからなのです。
 
 さとりは机の引き出しから、ペーパーナイフを取り出した。
 手紙の封を、細心の注意を払って切る。この時が、一番ドキドキする時間だった。口元が緩むのを押さえきれない。手元が狂わないようにゆっくりと封を開いていく。
 出てきた手紙を、ランプの薄明かりの下に持っていって、さとりは早速読みはじめた。




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 さとりんへ

 まずは、教えてもらって、早速作ってみたクッキーの報告を。
 レシピ通りに焼いたはずなんだけど、見事に失敗しちゃったわ。
 いくつか焦げちゃって、無事に出来たのは三つくらい。こういうのってあんまり経験ないのよね。
 でも、私の好みの味だったので、また挑戦してみようと思うの。今度はきっと、うまくいくと思うわ。
 (とはいえ、焦げた方もなかなかの味だったわよ)。


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 読んでいて思わず、くすくすと口から笑いが漏れた。
 実はさとり自身も昔、このおやつを最初に作ったときに大失敗してしまい、真っ黒なクッキーがたくさんできてしまったのだ。
 さとりもペット達も舌を曲げた黒いお菓子の山は、結局妹のこいしが、『にげー、にげー』と苦いを連発しながら完食してくれたために、浮かばれることとなった。
 あの時のさとりの失敗に比べれば、陽子のはまだマシなようである。
 さすが、と思うと同時に、ちょっぴり悔しくもあった。
 さとりは手紙を読み進める。




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 こんないいお菓子を教えてくれたら、私も何か贈らないわけにはいかないわね。
 実は前から、さとりんのために準備しているものがあるのよ。
 我ながら、とっても素敵なプレゼントだと思うわ。気に入ってくれるといいんだけど。


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 プレゼント!
 これが初めてではないけれど、さとりにしてみれば、いつだって何だって、彼女からの贈り物は、素敵なプレゼントに他ならなかった。しかも今回は、前から準備していたということから、かなり気合の入ったものらしい。
 また楽しみが増えてしまったではないですか。

「幸せ……」

 あふれんばかりの思いをこめて、手紙を胸に呟く。

 だが、続く文面を見て、さとりの笑顔が固まった。




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 でもね、ちょっと大きすぎて、手紙で送ってあげられないのよ。
 だから、私が地底に行くことにしたわ。
 私達にとっては、初めてのご対面というわけね。都合のいい日取りを教えてね。
 良い返事を期待しています。

 陽子


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 地底に……来る?

 
 手紙を持つ手がわなわなと震える。
 椅子から立ち上がろうとするが、膝に力が入らない。
 
 地底に来る……それはつまり、私と会うということ。

 それを想像し、さとりは喉に石が詰まった気がした。だめだ。それだけは絶対にだめだ。
 兎にも角にも、返事は出さなくてはなるまい。だけど、何て書けばよいのか。どうやって断ればいいのか。
 ペンを取ろうとして、インクを机にこぼし、「きゃあ!」と悲鳴をあげて、ようやくお尻が上がった。
 とっさに救出した手紙は無事だったが、机の一角は真っ黒になった。
 それを布巾でぬぐいながら、早まる呼吸を落ち着けようと努力する。
 準備ができてから、やんわりと断る文面を、何とか考えて見る。やがて、手紙を書くというよりは、外科手術に臨む心境で、さとりはペンを取った。




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 ごめんなさい。
 陽子さんのプレゼントは本当に嬉しいです。
 ですが、実は最近仕事が忙しくて、ここのところずっと都合が悪く、おもてなしできません。


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 書き出しはこんな感じである。だが、自分で読んでみても、いかにもその場逃れの苦しい言い訳に思えた。
 大体にして、『忙しい』というのが真っ赤な嘘である。仕事などほとんどなく、最近忙しいといえば、彼女への手紙にかける時間くらいしかなかったのだ。この程度の言い訳では、また忘れた頃に催促されることになるかもしれない。それまでに何とか、新たな理由を考えておかなくては。
 その後の文は、とりあえず当り障りの無い近況などを書いて終わった。
 次に来る手紙が、どんな内容か不安だった

 実際に届いた文章は、いつもよりも短かった。




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 さとりんへ

 こちらこそごめんなさい、突然こんなこと言っても、驚くのも無理はないわね。
 でも、このプレゼントは、遅くなってはいけないの。
 だから、なるべく早くがいいんだけど。


 陽子


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 さとりは読んでいる間、またインク瓶に手をぶつけそうになった。
 冗談ではなかった。いつか、という問題ではなく、絶対に来て欲しくはないのだ。
 そうじゃなければ、文通という手法を選んだ意味がない。

 さとりは、今まで以上に脳を使って、解決策を練った。
 食事の最中にも、文面について、死に物狂いで考え続けた。
 胃はほとんど動いておらず、口に運ぶスープも普段より苦く感じる。結局残したおかずは、燐と空にあげることにした。
 ペット達はいったんは喜びつつも、こちらの様子を心配して声をかけてくれた。
 さとりはそんな二人を見て、一か八かの言い訳を思いついた。




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 実は忙しい他にも理由があって、うちは私よりも強いペットが多くて危険なんです。
 前の手紙にも書いた、火車とか地獄烏とかがいて……。だから、あまりお勧めできません。
 もし、陽子さんに粗相をしたとでもなれば、後悔してもしたりませんから。
 ですから、諦めていただけませんか。
 本当にごめんなさい。

 さとり


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 これで納得してくれるならありがたい。
 言い訳に使用したペットの二人には申し訳なかったが、背に腹は変えられなかった。
 書いてからすぐに、郵便局へと急ぐ。名前が呼ばれると同時に、窓口へと突進した。
 どうやらよほど切羽詰った顔をしていたらしく、窓口の営業スマイルは引きつっており、彼女の心の声も悲鳴をあげていた。
 もちろん、そんなことを気にする余裕など、さとりには全くなかった。
 
 次に地霊殿に来た手紙は、今では呪いの文書に思えた。




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危険なペットですって? ぜひ見てみたいわ。
さとりんが前に手紙に書いていたあの二人でしょ。実は私、動物が好きなの。
前から一度、会ってみたいと思っていたのよ。もちろん、さとりんの次にだけどね。
だから、心配することなんてないのよ。


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 そこまで読んで、さとりは机に突っ伏する。
 陽子さんはどうしても来るつもりらしい。これまでの彼女と違って、やけに強引な感じだった。
 だが、こちらとしても、意地でも……死んでも会うわけにはいかない。

「うう……ごめんなさい!」

 ついにさとりは、心を鬼にし、両目から血を流す思いで書いた。




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 絶対に来ないでください


 さとり


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 たった一文。だからこそ、最も効く拒絶の矢。
 しかし、それが最初に貫いたのは、書いた者自身の心だった。
 手紙の端に、ぽたりと滴が落ちる。

 ――ごめんなさい……そして、さようなら陽子さん……。

 郵便局から帰る道、さとりは何度も涙をぬぐった。
 家に帰り、これまでの手紙を宝箱にしまう。そして、短くも素敵な夢だったと思って、全てを忘れることにした。

 だが、事態はまたしても、予想外の展開を見せる。
 なんと、絶交も覚悟していたのに、すぐに返事が来たのである。
 郵便受けからそれを取り出したさとりは、開けるのをためらうこと数十回。自室にてハーブティーを三杯飲んでから、ようやく封を切る覚悟ができた。
 時限爆弾を煮込んでしまった、古くなったカレーの鍋。そんな阿呆な危険物を想像しつつ、その蓋を開けるような気持ちで、慎重に慎重に便箋を取り出し、目を薄く開けて文章を見た。

 手紙の内容は、ある意味絶交よりも、シンプルで残酷だった。



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 絶対に行くわ。それじゃあ三日後の××日にお邪魔します。


 陽子


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 ××日。つまり明日。
 明日、彼女がやってくる。

 その瞬間、さとりの平和な日常が暗転した。意識が闇の中へと、まっ逆さまに落ちていく。
 頭を打つ鈍い痛みの中、乗っていた椅子の倒れる音が、妙に遠くに聞こえた。

 それから、彼女の地獄が始まった。




⊂○⊃




 まだ鍵を取り付けていなかったのが幸いだったといえる。
 室内から聞こえた物音で、ドアの前にいたペット達が異変に気がついたのだ。
 気絶していたさとりは、彼らによって無事に救出された。

 だが、大変なのはそれからだった。彼女はそのまま、運んだ寝室のベッドで寝込んでしまったのである。
 しかも時折、「陽子が来る〜」とうなされていることから、よほどの重症であった。
 この事態に、屋敷の住人、すなわちペット達は大騒ぎとなった。
 燐は猫の姿で、ぐるぐると床を駆け回った。空は人型のまま、バタバタと天井を飛び回った。こいしは、これはチャンスとばかりに、姉の分のアイスをいただくことにした。
 そして食べ終わってから、彼女は姉の寝室へと向かった。皆を代表して、倒れた原因を聞きだすためである。
 そこでこいしは、枕を濡らすさとりから、地底の妖怪ですら耳を塞いで逃げ出したくなるような、すさまじいすすり泣きと嘆き節を聞かされることとなった。
 そういった感情に縁の無いこいしは、さっぱり効かなかった。だけど、姉のために何とかしようと思った。




「…………というわけで、ただいまより、『第一回古明地さとりを救おう会』をはじめたいと思います」
 
 地霊殿の一室、大きな長方形のテーブルの奥席に座り、こいしは音頭を取った。
 彼女の他に、卓についているのは三人。

「あのさとり様がねぇ……」

 とまだ信じられない様子の火焔猫燐。

「さとり様が大変だー」

 と、よく分かっていないが心配そうな霊烏路空。

「……なんで私がここに招かれているんだろうね」

 と困った顔をしているのは、癖のある金髪を腰まで伸ばした女性だった。
 クルーネックの半袖シャツ。えんじ色の袖口からすらりと伸びているのは、逞しく引き締まった腕だ。
 ルビーのような大きな瞳を、半分下がった瞼で隠し、その上の額には赤い一本角が突き出ていた。

 かつては『山の四天王』とも呼ばれた鬼、星熊勇儀である。
 彼女だけは地霊殿とは関係ない鬼の頭だった。そして、特にここの連中と仲の良いわけでもない。
 珍しく、一人で静かに酒を飲んでいるところに、ふらりとこいしがやってきて、「お姉ちゃんを救ってみませんか?」、と誘ってきたのである。
 さっぱり状況が分からなかった。

「ここはひとつ、外部の方も呼んで、より多様な意見を取り入れてみようと思いました」

 『今日の天気は、晴れときどき曇りでした』というのと同じ口調で、こいしは理由を述べた。
 勇儀はもう一度聞く。

「ちなみに、その外部の方に、私を選んだ理由はなんだい?」
「一人でお酒を飲んでいたからです。それと暇そうだったから」
「なるほど」

 それだけで、何のためらいもなく、鬼の大将を引っ張ってくるあたり、大した神経の持ち主であった。
 もっとも、引っ張られた勇儀自身は、怒るよりも感心していた。そもそも彼女自身、見知らぬ妖怪に、珍妙な理由で誘われてのこのこついていくのだから、物好きな鬼なのである。

「お礼の品には、お酒を用意しています。これです。お姉ちゃんのだけど」
「どれどれ……ふむ。葡萄酒か」

 勇儀がこいしから受け取ったのは年代物のワインボトルだった。良い葡萄が育ちにくい地底ではかなりの貴重品であり、濁酒と焼酎が好みの鬼にとっても興味が湧く一品だ。

「それじゃあ、ありがたくいただいておこう。だけど、姉のものを勝手にあげていいのかえ?」
「実はお姉ちゃんは、すっごくお酒に弱いんです。べろんべろんに酔っ払って、醜い姿を晒す前に、内緒で取り上げました」

 こいしはあっさりと盗みを白状する。
 これも姉思いの妹ということなのだろうか。
 そこで、机に顔を沈めて、ぶつぶつとその主人の名を唱えていた空が、ふっと顔をあげた。

「……なんでさとり様は倒れたんですか、こいし様」
「おい。おくう、あんた聞いてなかったの?」
「聞いてたけど、覚えてない」
「ああ、そうだろうと思ったよ」

 燐はげんなりした顔で、コンコンと空の頭をノックした。

「じゃあ、おくうと勇儀さんのために、もう一度説明するわ」

 こいしは奥から、ガラガラと、移動式の黒板を運んできた。
 そのままチョークで、なにやら書き始める。

「昨年のことです。お姉ちゃんにペンフレンドができました。彼女の名前は陽子さん。お姉ちゃんがいうには、明るくてとっても素敵な人だそうです。この間までお姉ちゃんは、陽子さんとの文通を、心の底から楽しんでいました。お互いに、お手紙に包めるだけのプレゼントを、よく交換していたほどだそうです」

 こいしの口頭での説明はわかりやすかったが、黒板には幾何学的な謎の絵が描かれていて、さっぱり意味がつかめなかった。
 なので、三人は黒板を無視して、こいしの話に集中した。

「しかし、事件は起こりました。最近まで準備していたという陽子さんのプレゼントは、地底まで届けられないほどの大きなものだったのです。だから、彼女はこの地霊殿まで届けに来ることにしたそうです。だけども、お姉ちゃんは大反対。何とか断ろうとしましたが、陽子さんはなかなか諦めてくれません」

 こいしの謎の絵はエスカレートし、方程式やら地図記号やらが、吹き出し付きの遠近法で描かれていた。

「お姉ちゃんはついに最後の手段に出ました。『絶対に来ないでください』と、絶交を覚悟で断ろうとしたのです。しかし、あろうことか陽子さんに、『絶対に行く』と手紙で宣言されてしまいした……というわけで、お姉ちゃんは倒れてしまったのです」

 こいしはそこでチョークを置いた。粉のついた指を短い舌で舐めつつ、

「……えーと、この陽子さんがやってくるのは、明日となっています。ですが、お姉ちゃんは今も、絶対、絶対、ぜーったい会いたくないと言っています。そこで私達の出番ということです」
「なるほど! よくわかりました!」

 空は立ち上がった。

「やってくるその陽子をやっつけて、思いっきりこらしめてやれば、さとり様は元気になるのね!」
「いや……元気にはならないんじゃないかな」

 燐は腕組みをして、うーんと首をひねっている。

「でも、さとり様があんな状態だから、会わせるわけにはいかないか」
「今二人、会わせず、という意見が出ました。勇儀さんはどうですか?」
「会わせたくない。実際のところ、だから私を呼んだんじゃないの、お前さんは?」

 地底でも有数の力を誇る鬼は、苦笑して言った。
 まあ仮に、地上の妖怪が地下に来るとなれば、怪しからん話ではあるので、勇儀にしても協力する義理が無いわけでもなかった。

「しかし、追い返すにしても、相手が弱っちぃやつだと張り合いがないね。どんなのだか、わからないのかい?」
「待ってました!」

 張り切り声をあげたのは、燐だった。
 さささっ、とこいしの座っていた議長席に移動し、その席を譲ってもらう。
 追いやられた方は、あっさり引き下がり、テーブルの角に腰掛けた。

「じゃーん!」

 と燐が取り出したのは、紙を束ねた書物だった。

「何これ?」
「これは『幻想郷縁起』っていうんだって。あきゅうって人が書いたもので、地上の妖怪のことが、それなりに詳しく載ってるんだ」
「ほほう、どれどれ。懐かしい奴はいるかな」

 勇儀は興味津々な顔で、開かれたそれを覗き込む。
 説明の文章だけじゃなく、絵付きで解説されているのが面白い。
 空もそれに顔を近づけて、

「よくこんなの持っていたわね、お燐。どこで手に入れたの?」
「前に地上に遊びに行ったとき、どっかのお屋敷で、猫の姿で甘え倒したら、気前よく貸してくれたんだよ。これは清書したやつじゃないから汚れたところもあるけど、だってさ」
「じゃあ、この中に、お姉ちゃんの文通相手がいるかもしれないのね。いっぱい載っているけど、誰なんだろう」
「こいし様、さとり様の手紙にある宛先とかわからないんですか?」
「お姉ちゃんは、郵便屋さんに出しているだけだから。あ、でも手紙の内容なら覚えているわ」

 こいしは一同のために、すらすらと文面を暗誦する。
 彼女は見たものを正確に頭におさめられる、類まれな記憶力を持っていた。

「聞いた感じでは、名前の通り、陽気な性格をしているようだね。その陽子とやらは」
「あれ……でも、こいし様ー、陽子なんて名前、どこにも載ってないですよ」
「あ、忘れてた。実は陽子さんは、偽名であることがわかっています」

 突如、明かされた秘密に、一同はすぐに事情が飲み込めなかった。

「偽名?」
「そう。さっきお姉ちゃんから聞いてきたの。お姉ちゃんが最初の手紙で、貴方は私の暁です、って書いたら、じゃあ私は陽子ねって、そう名乗ったんだって。本当の名前は、お姉ちゃんも知らないの。」
「……………………」
「けれども、あの博麗神社の巫女とも戦ったことがあるって言ってたらしいから、ここに載っている可能性は高いと思うわ」
「決まってる! 相手は男よ!」

 どん、といきなり、空が机に拳を打ちつけた。
 議長席の燐が、呆れた顔になる。

「いや、あんたね、おくう。頭使いなさいよ。手紙は女言葉だったでしょうが。名前も陽子だし」
「わかんないわよ! もしかしたら、女に化けて、さとり様と文通しているのかもしれないでしょ!」
「えーと一応、ここに男の人が載っているけど」

 こいしは、眼鏡をかけた男の絵を指さした。
 『森近霖之助』と書かれている。

「この男が女言葉で、さとり様と文通しているって? いまいち想像がつかないねぇ」
「お燐は誰だと思うの?」
「え〜とね」

 燐はしばらく幻想郷縁起をめくっていたが、やがてあるページで止まった。

「わかった。この『紅美鈴』だね」
「どうしてよ」
「ほら。さっきのこいし様の話にあったじゃん。こんな天気のいい日は昼寝がしたーいって。それに、あれこれと気を配っているようだし、『気を使う程度の能力』にも合ってるからね」

 なかなかの説得力である。燐もその答えに、自信があるようだ。
 次はこいしの番だった。

「お姉ちゃんに似合いそうな人いるかなー」

 と、その口調は、まるでお見合い写真を選ぶ家族のようである。
 彼女だけは、深刻とは無縁の性格をしているのだ。

「あ、この『アリス・マーガトロイド』さん。何となくだけど」

 元は人間だったという、七色の人形遣いの頁を、こいしは開いていた。
 最後に、部外者の勇儀が、頬杖をつきながら紙をめくる。

「妖怪とも限らないんじゃないか。例えばこの『八意永琳』……いや、その弟子の何か変な名前の兎。風邪をひくなっていうのもあったから、薬が関係していてもおかしくないよ」

 鬼の一答目は、狂気の赤眼、『鈴仙・優曇華院・イナバ』。
 幻想郷縁起は一周して、また空の所にやってきた。

「うーん、私は絶対男だと思うんだけど。この『リグル・ナイトバグ』っていうのは男? 女?」
「少女の姿をしているって書いてあるから、たぶん女だね」
「いやいや、少女に化けてる男の子かもしれないわよ」
「じゃあ、ここに載ってるのは、実はみんな女装した男の人とか」
「この萃香っていうのは、女だ一応。私ゃ知っている」

 議論がおかしな方向へと進む中で、お燐が歓声をあげた。

「大はっけーん!! 妖怪じゃないんだったら妖精かもしれないよ! この『サニーミルク』! こいつは日の光の妖精じゃないか! 陽子にぴったりだよ!」
「妖精があんな綺麗な字書くかな……」
「うっ……!」

 たしかに、空が手に取ったこともある封筒の字は、達筆とはいかないまでも、ちゃんとした筆跡だった。
 自分の名を漢字で書くのにも苦労する燐や空とは比べ物にならない。さすがの二人も、妖精に負けていることは認めたくなかった。
 
「あー、この尻尾ふかふかで、あったかそう。うちに来てくれないかな。人形にして部屋に飾りたーい」

 こいしは羨ましそうに、九尾の狐が書かれたページを、指で突っつく。
 勇儀はそれを横から覗いた。

「『八雲藍』……そうか。『陽子』が転じて『妖狐』なのかもしれない。来るのが九尾だったら、相手にとって不足はないね。腕が鳴るよ」
「えー!? でも、手紙には寒がりって書いてあったでしょ! 私は覚えてるわよ!」
「あたいも覚えてるよ。それに、この妖怪真面目そうだから、地底に来たらいけないって分かってるだろ」

 その後も様々な意見が出たが、結局、手紙の送り主の正体はつかめない。
 そもそも最悪、ここに載っていない可能性もある。だとすればお手上げだった。

「なぁ、聞きたいんだが、そもそも、なんでここの主人様は、そんなに陽子とやらに会いたがらないんだい?」
「え、それは……」

 勇儀の問いに、燐はいったん考えてから、

「容姿や性格に自信がないから……とか?」
「あっ、お燐! さとり様に言いつけるわよ!」
「例えばの話よ! あたいが思ってるわけじゃないって!」
「…………嫌われるのが怖いんだよ。心が読めちゃうから」

 それまでの流れにふさわしくない、とても低い声だった。
 三人は絶句して、こいしを凝視する。
 見られている本人は、不思議そうな顔をして、

「え? どうしたの、みんな」
「いえ……なんでもありません」

 場に妙な沈黙が起こった。
 しばし、壁にかかった時計の、針の音だけが響く。
 やがて燐が、その空気を変えようと、大きな声で鼓舞した。

「ま、まあ! この中の誰もが、そんなに強くなさそうだ。あたい達で何とかできると思うね!」
「そうよ! どいつがやってきても! 私がフュージョンし尽くすからまかせて!」
「そうね。おくうがダメでも、鬼さんがいるし」
「ん、まかせてよ」

 軽く片手をあげる勇儀には、驕りはなくとも確かな自信が窺えた。

「じゃあ夕食の後に、また作戦会議ね。あと二時間くらいは自由時間。あ、勇儀さんも食べていってね」
「おお。それじゃあご相伴に預からせてもらおうか。それと、風呂はあるかい?」
「うん。おくうが出したでっかい温泉があるわよ。私は熱いから嫌いだけど」
「いいねぇ、しばらくここを住み処にしようかな」
「お姉ちゃんのペットになる? それとも私のペットに」
「やっぱりやめた」
「ぶー」

 勇儀とこいしは大部屋を出ていく。
 鬼の大将と無意識妖怪とは奇妙な組み合わせだったが、意外に二人は気が合うようだった。

「ねぇねぇ、おくう。こいつはどうかな」
「いやいや、お燐。こいつかもしれないわよ」

 部屋に残ったお燐と空は、しばらく幻想郷縁起を二人で眺めていた。




⊂○⊃




 地霊殿の主、古明地さとりの寝室。
 中央部に置かれたベッドに、妖怪が布団にくるまり、身動きせずにいた。
 暖色系の照明の下、洋風の木製家具が、囲んで空間を作っている。
 いつもはペット達が周りに寝ているのだが、今は一匹の影もなかった。
 とそこで、部屋の扉が、リズミカルにノックされた。

「お姉ちゃん、こいしだよ」
「……どうぞ」

 寝ていたさとりは返事をし、体を起こす。
 扉が開き、見慣れた妹の姿が現れ、部屋に入ってくる。

「……ちゃんと言いつけを守ったわね、こいし」
「入ってほしくないかも、と思ったの。もう落ち着いた?」
「ええ……迷惑をかけました」

 微笑むさとりの頬には、まだ涙の跡が残っていた。
 こいしは側に近づいてきながら、

「今ね、みんなで陽子さんに帰ってもらおうって話になったの」
「……そうですか」
「鬼の星熊勇儀さんも協力してくれるのよ」
「えっ、鬼!? ここに来ているの!?」

 さとりは顔色を変えるが、

「大丈夫だよ。ちゃんと助けてくれるみたいだし、いい人な気がするから」

 ぼふりとベッドに寝転びつつ、こいしは布団越しに、姉の足に甘えついた。

「でも、お姉ちゃんは、本当は知りたいんでしょ〜? 陽子さんがどんな人か」
「……わかりますか」
「わかるわよ。でも嫌われたくないから会えないんでしょ」
「……ええ」

 さとりはまた横になり、こいしに背中を向けた。

 倒れてからずっと、陽子の存在が、頭から離れてくれない。
 当たり前のように心を読んで、当たり前のように避けられてきた。だから、誰かに会いたいと言ってもらえるのは、初めてだった。
 わざわざ地底にまで下りてきて、私に贈り物をしたいという。彼女はどんな人なんだろう。
 絶対に会いたくない存在なのに、どうしても気になってしまう。さとり妖怪として生きてきて、初めての葛藤だった。

「……笑いますか? こいし」
「笑わないよ」
「……こんな不安な気持ちは初めてです。誰に嫌われても、平気だったはずなのに」
「私はお姉ちゃんのこと好きよ」
「ふふ、そうですね。たぶん、こいしに嫌われたら、私はショックでしょうね」

 その妹がこうして自分を助けてくれている。それはさとりにとって、何よりも心に効く薬だった。

「絶対にお姉ちゃんを守ってみせるよ。それに、文通も続くといいね」
「え?」
「だって、お手紙なら心を読まなくてすむもんね」
「こいし……」

 そこまで見抜かれているとは思わなかった。
 地味な容姿、暗い性格。何より自分は、地底で最も忌み嫌われている妖怪だ。彼女に会うのにふさわしくないと、考えずにはいられない。
 だけど、根源的な真の理由は、そこにはないのである。
 この妹は何も考えていないようで、とても鋭い。

「こいし……自分の『目』が閉じた時、どんな気持ちだった?」
「覚えてなーい」
「そう、やっぱり……」

 妹の呑気な答えは、あの時から変わっていない。
 心を読むことを放棄し、『第三の眼』を閉ざして、無意識の赴くままに生きるようになってしまった、あの時から。
 
「あ、お姉ちゃん。後でお燐が持ってきた、『幻想郷縁起』を見せてあげるね」
「なぁにそれ」
「地上の妖怪さんが載ってるのよ。その中に、陽子さんが載っているかもしれないから。興味があるでしょ?」
「ええ、お願いするわ」

 あどけない表情で言う妹に、さとりは微笑した。
 たしかに、その本で少しは、気が紛れるかもしれない。できればあの人が、自分の想像通りの、明るくて優しい人でありますように。




⊂○⊃




 突き当たりを左に曲がったら全部客間なので、自由に使ってください、お風呂は階段を下りたところ。
 こいしはそれだけ告げて、すぐにどこかに行ってしまった。
 星熊勇儀は適当な部屋のベッドに寝転んでいた。

「別に外でも構わないんだけどねぇ。どうもこういう屋敷は落ち着かないや」

 天井の明かりを見上げながら、勇儀はひとりごちる。
 結局ベッドから起き上がり、さっさと風呂に行くことにした。
 ドアを開けると、誰かにぶつかりそうになる。

「おっと、ごめんよ」

 床に落ちそうになったそいつの荷物を、勇儀はサッと受け止めた。

「あ、すみませ……ひぃっ! ごめんなさい! 食べないで!」
「ん?」
「わ、私は美味しくないです。ああ、誰か、さとり様〜」
「待った、待った。私がいくら鬼だからって、見境なく襲ったりしないよ」

 逃げ出そうとした人型ペットの首根っこを、勇儀はつかんで止める。
 そもそも、鬼が襲うのは人間が主であるし、格が高くなるほど、弱い存在を虐める気など無くなる。
 この地霊殿に良い感情を持っている鬼達は、旧都にはほとんどいない。だが、それはこっちの屋敷のペットも似たようなものらしかった。
 勇儀は受け止めた荷物、大きな鉢植えを、はい、とその犬に返した。

「何か育ててるの?」
「あ……はい。いつもはさとり様が世話をしているんですが、今はあの状態ですので」
「へー」

 意外な趣味に思えた。
 そもそも、地霊殿の主である古明地さとりは、心を読む妖怪という以外、旧都の住人にとって謎に包まれていて、よく知らないのである。

「そうだ。お前達のご主人様について、ちょっと聞かせてよ。私まだ、面と向かって喋ったことないんだ」
「え、さとり様のことですか?」
「そうそう。やたらに心を読んでくる上に、陰気で取っ付き辛い、偉そうな奴と噂に聞いていたんだけど、やっぱりそうなの?」
「それは違います! さとり様は確かに物静かで人付き合いが苦手な御方ですが、私達にはとても優しいご主人様です。心を読む力だって、さとり妖怪なんだから当たり前です。言い訳や嘘で誤魔化せないから、悪戯した時は怖いけど、ペット達の中にさとり様を本心から嫌っている子なんて一人もいませんよ。あ、それに、最近はさとり様に笑顔が増えていて、みんなで何があったか噂していたんですよ」

 その犬はぺらぺらと、聞いた勇儀が困ってしまうくらい、嬉しそうに主人のことを語る。
 だがその後すぐに、悲しそうに顔を曇らせた。

「私も知っているんです。これに水をやっているときのさとり様、私達にも滅多に見せないような幸せなお顔でした。それが、あんなことになるなんて……」
「……………………」

 勇儀はじっと、その鉢植えの芽を見つめた。

「これはいつから?」
「え?」
「いつからこの屋敷にあったのか聞かせて」
「そうですねぇ、一月前かなぁ」
「あいつはどこから種を持ってきたんだ」
「さ、さあ……」

 声音が変化したことに気がつき、犬はうろたえて体を引いた。
 鬼はしばらくの間、厳しい顔つきで黙考していた。

「あの……いいですか?」
「……ん? ああ、邪魔して悪かった。それじゃあ」

 人型の犬は一礼して、鉢植えを手にして去っていった。

「……まさかねぇ」

 それを見送った勇儀は、先のテーブルに、いったん戻ることにした。




⊂○⊃




 次の日の地霊殿は、いつもよりもはるかに慌ただしかった。
 ついに、さとりの文通相手である、『陽子さん』がやってくるのだ。
 といっても、ペット達のほとんどには、主人を脅かす敵が来る、としか伝えておらず、真相を知っているのは、さとりを除けば、こいし達四人だけだった。
 地霊殿の総力をあげて、さとりに会わせずに、地上へと帰ってもらうのである。

「あ、戻ってきたわよ、お燐」

 地霊殿の外で待機していた空は、横の燐の肩を叩いた。
 飛んできたのは、こげ茶色の帽子をかぶった、お出かけスタイルのこいしである。

「お帰りなさい、こいし様! どうでしたか?」
「うん、たぶん大丈夫」

 こいしは朝の内に、地上から地底へと続く通り道をまわり、怪しい奴が来たら追い返してくれと、めぼしい妖怪に頼んできたのである。話し合いですめばいいけど、力押しで来られた時は、戦いになるだろう。だがそうなれば、相手は一人のはずなので、戦力差で圧倒的に有利である。

「もしもの時は、お燐とおくうも頑張ってね」
「お任せを! 地上の妖怪なんて、蹴散らしてあげます!」

 空は張り切った声で返事するが、横の燐は難しい顔をした。

「考えてみると、おくうのエネルギーは問題だねぇ」
「え、なんで?」
「だって、仮にあんたが地霊殿の近くで戦ったら、いくらなんでも屋敷が灰になるよ。かといって、旧都で戦うわけにもいかないし」
「じゃあ、灼熱地獄跡まで連れて行けばいいわ」
「それでは地獄に行きましょう、って、ついてくる馬鹿がいるか!」
「旧都のかなり北東に、岩ばっかりの原っぱが広がっている、でかい場所がある。地上から来るなら近くを通るはずだ。そこなら思う存分闘えるだろう」

 相談する三人の元に現れたのは、協力者である勇儀だった。

「どこに行ってたんだよ、あんた」
「旧都の連中に、あらかじめお客のことを伝えておいたのさ。大騒ぎにするわけにはいかないからね」

 仮に空とその妖怪が派手な戦闘を起こせば、旧都が大混乱に陥りかねない。
 そのために、勇儀もこいしと同じく、根回ししていたのである。地底を統べる鬼の四天王の一角だからこそ出来る役割だった。こいしが彼女を引き入れたのは正解だったといえよう。

「お前さんがたは、そこで思う存分に暴れればいい。その代わり、私はこの地霊殿の守りを任せてもらおうか」
「地霊殿を? いったい何を考えているのさ」
「別にやましいことは考えてないさ」

 鬼は肩をすくめて言う。

「そっちの、おくうとやらだけが理由じゃないよ。ここに近づけさせたくないのなら、あらかじめ迎えに行って、追い返すのがいいだろう」
「まあ、そうなんだけど……」
「主人の役に立ちたいんじゃないのかい? 手柄は譲ってやるということさ」

 結局、最後の一言が魅力的だったので、燐と空は了解することにした。

「じゃあそういうことで。私は疲れたから、ちょっと寝てくるわ」

 こいしがあくびをして、屋敷の中へ戻っていく。
 彼女がいなくなってから、勇儀はまた二人の方を向いた。

「ところで、ちょっと話があるんだけど」
「何よ。今さら役割を変えたいとか? どんな強敵だろうと私が燃やし尽くすから、鬼の出る幕はないわよ」
「言っとくけど、あたい達は鬼を信用してない。騙そうったってそうはいかないよ」
「冗談言っちゃいけない。鬼は嘘が大っ嫌いなんだ。ただ、ちょっとアドバイスをね」
「いらないわよ。どうせ忘れるし」
「あー。じゃあ、あたいは一応聞いておく。でも、長ったらしいのはごめんだよ」
「なぁに、簡単さ」

 勇儀は笑みを消して、一言だけ告げた。

「死ぬなよ」




⊂○⊃




 地上の生き物が地底へ潜ると、最初に不快と感じるのが、その湿った空気である。
 鬼火に照らされるじめじめした環境は、カビや病原菌に満ちており、臆病者であればその雰囲気だけで逃げ出してしまう。

「えーと、メイリンは気を使う妖怪。アリスは人形を使う魔法使い。レイセンは狂気を操る兎、モリチカは道具を……」

 紙を手にぶつぶつ呟いているのは、黄色い髪の土蜘蛛だった。
 地底でも比較的浅い場所に住む妖怪、『病気を操る程度の能力』を持つ、黒谷ヤマメ。

「ヤマメちゃーん」
「おや、キスメ」

 そこにやってきたのは、釣瓶に入った緑色の二つのおさげ。
 狭い所が好きな井戸妖怪、釣瓶落としのキスメである。

「まだ誰も来ないね」
「来ないなら来ないでいいんだけど、地底の妖怪の力を見せてやりたくもあるよねぇ」
「あ、これが今日来るっていう人達の名前?」
「そうだけど、彼女達じゃない可能性もあるんだとさ」

 ヤマメはキスメに、その紙を見せてやる。
 今朝に訳のわからない妖怪が、訳のわからない忠告をしてきたのである。
 理解できたのは、地上の妖怪がやって来るということ。だからそれを追い返してほしいということ、その二つだけである。
 わざわざ忠告されなくても、地底は地底の妖怪のものだ。地上の妖怪に明け渡すつもりなどない。

「私は隠れてるけど、ヤマメちゃんが危なくなったら助けに行くからね」
「いらないってたぶん。危なくなったらさっさとお逃げ」

 そうは言うものの、ヤマメの能力は弱くはない。彼女の操る病は、人間はおろか、妖怪にとっても、難病である。
 そして、地上の妖怪に忌み嫌われているという点でも、戦いに有利なはずであった。
 気を使われようと、人形を使われようと、遅れをとるつもりはない。地上のぬるい連中に、戦闘で一泡吹かせるのは楽しみだった。
 とそこで、キスメは興奮したように釣瓶を揺らした。

「誰か来るよ、ヤマメちゃん」
「ついに来たか。キスメはどこかに隠れとき」
「うん」

 キスメは素直に去っていく。
 残ったヤマメは、地上へと続く闇を見つめた。

 いる。すぐ近くまで来ている。
 不穏な妖気、嗅いだことのないそれが、漂ってくるのが分かる。

 だが奇妙だった。ここまで近づかれる間に、戦闘の気配がまるでしなかったのはなぜだろう。
 基本的に地上からの来訪者は、ヤマメやキスメをはじめとした妖怪に、問答無用で攻撃される。挨拶がわりのようなものであるが、それが無かったということは、あまりにも無害な、例えば正体が妖精だとかで、素通りすることができたのか。それとも、姿を消す能力でも持っているのか。

 だが、ヤマメの予想はどれも外れた。
 闇がゆらりと形を変え、人影へと変わる。
 その影は、静かに、歩くような速度で、こちらへと向かってきた。

「ちょいと、そこのあんた」

 ヤマメが呼びかけても、近づく気配は、足を止める様子が無い。

「地底に遊びに来たのかい? 誰も拒みゃしないから、楽しんでおいき。……と言いたいとこだけど」

 ヤマメは明るい声で続けた。

「地上の妖怪は通すな、と頼まれてるんよ。実際、通すつもりもないしね。軽く遊んであげるから、満足したらお帰り」
「……土蜘蛛。いけない虫を食べてくれればいいんだけど、巣が引っかかっちゃうのよね」

 返ってきた声も、こちらに劣らず明るい声だったので、ヤマメは少々拍子抜けした。
 やがて、その姿が、はっきりと色を見せた。

 はじめに目立ったのは、白い大きな日傘だった。
 ついで、ブラウスを包む赤いチェックのお洋服。
 そして、日傘が隠していた、ウェーブのかかった髪が現れて、土蜘蛛はぎょっとした。
 植物の葉を思わせる、鮮やかな緑色をしていたのだ。
 それが派手な赤色の服と合わさると、一瞬、薄暗い地底に日の光が差し込んだ気がして、鳥肌がたったのである。

 妖怪には間違いなかった。人間ならば、この地底を、あのような行楽にでも来たかのような様子で、一歩一歩優雅に足を進めたりしない。
 だが、得体の知れない妖怪ではあった。姿形もさることながら、気配が妙に落ち着いている。
 何よりも、その表情が不気味だった。
 暖かくも冷たくもない、目を細め、口の端を緩めた、さりげない微笑。
 ヤマメの記憶の中で、今まで地底にやってきた人妖に、こんな表情だった奴はいない。

「あんたはメイリン? レイセン? それともアリス? モリチカ? リグル? サニー? ラン?」
「どれもハズレ」
「じゃあ誰なの。この地底に何しに来たの」

 そうね、と妖怪は虚空を見上げて、考えている。
 その間も、一切の隙が無い。気を配るとか、距離を取るとかいう次元の話ではなく、あるがままに一つの光景を作り出していて、入り込む空間が見当たらない。むしろ見ているこちらの方が、目を離すと襲われないか不安になってくる。
 次にヤマメが問うた声は、わずかに震えていた。

「誰、誰なの」
「私は、ただのお花妖怪よ」
「お花妖怪?」
「ええ。ここには、お友達に会いにきたの。今まで一度も会ったことのない、お友達にね」

 そこで、唐突にある事実に気がついて、ヤマメはこの場を逃げ出したくなった。
 ここにこの妖怪が現れるまで、戦闘の気配がしなかったのは、彼女が無害だからではない。
 むしろ、極めて有害で強力。仲間達が、『闘う』という段階にすら進めずに、この妖怪にひれ伏してしまったからではないか。

「それじゃあ通してもらうわ土蜘蛛さん。力ずくでもね」

 幻想郷にて、最強にして最凶、そして最恐とされるただ一人の妖怪。
 フラワーマスター風見幽香は、にっこりと笑った。








2. 黄色を捨てた妖怪の話




 
 その日、旧都の警備役の鬼達に、勇儀からの通達があった。
 地上から厄介なお客さんが来るので、戦闘になるかもしれない。ただし旧都に被害は出さないようにするので、ここは私に任せてくれ、見物も無用、とのことであった。
 この指示に、配下の鬼は二つ返事で了解した。旧都の治安を維持する自分たちの実力は、鬼の中でも随一である。
 加えて、旧都では警備役じゃない者も、鬼や鬼に迫る実力を持つ妖怪が多いので、危機感などまるでなかった。
 地上の妖怪なんて大したことはない。誰が来ても総大将の勇儀が迎え撃つのだから、問題はないだろう。

 と、誰もが思っていたのだ。

 しかし、勇儀がもし根回しをしていなかったならば、泡を食った彼らは、暴走していたかもしれない。
 それほど、下りてきた妖怪とそれを迎え撃つ妖怪の戦いは、ど派手なものだったのである。




⊂○⊃




「ちぃっ! いい加減に倒れなさいよ!」 

 本体と擬態、二つになった姿で、憎々しげに罵声を上げているのは、嫉妬心を操る妖怪だった。
 水橋パルスィ。彼女は、地上と地下を結ぶ縦穴を守護する橋姫である。ある時は、地上の来客を迎え入れ、ある時は追い返す。その判断基準は、妬ましい存在かどうか。彼女にとってそれは、ほとんどの妖怪に当てはまるのだが、特に楽しそうに移動する者や、地底に入れさせるには危険な存在は優先的に追い返すことにしている。

 そして、今戦っている相手は間違いなく、絶対に追い返さなくてはならない、妬ましき疫病神だった。

「目の前に二つ見えてるのに、わざわざ一つを選ぶことはないわ」

 地上からの来訪者、風見幽香は愉しげに攻撃をかわしながら、花を飛ばしている。右手をパルスィの擬態に、左手を本体に向けて。

「地上の妖怪め。その光が妬ましい、巡る風が妬ましいわ」
「そうね。確かに、私ほど光や風に触れている妖怪も、珍しいんじゃないかしら」

 幽香は弾幕を中断して、傘をくるんと振り回した。
 大きな花の種が、放物線を描き、パルスィのもとに飛んでいく。

「だから、あげるわ」
「えっ?」
「光」

 その種が弾け、オレンジ色の光が炸裂した。
 強烈な照明に目がくらみ、パルスィは空中で動きを止めた。

「風」

 無防備になったパルスィの体を、妖気にまみれた爆風が襲う。
 勢いに乗った彼女は、独楽のように回転して上昇し、やがて地面へと落下していく。

「そして花」

 突如、地面に咲いた巨大な花に、パルスィはお尻から落ちて、ぼよ〜んと跳ねる。
 そのまま、幽香の元まで飛んできて、泥でぬかるんだ地面に顔から着地した。
 勝ち誇った様子で見下ろす花の妖怪を、パルスィは頭を持ち上げ、緑色の眼で悔しげに見上げて、

「そ……その強さが妬ましい」
「ふふ。トウガラシなんてどうかしら?」
「…………?」
「いや、貴方に合いそうな花を想像していたの」
「ぐっ……」

 そこでパルスィは力尽きた。うつ伏せで大の字となって、降参の意を示す。
 勝利した幽香は、その横を歩いて通り過ぎた。

 地下水が流れる川に、大きな紅色の橋がかけられていた。広さは大人五人が両腕を伸ばしたほどで、長さはその三倍ある。
 上を飛んで渡れる妖怪にとっては、形式的な建造物ではあるが、旧都へ通じる道の目印にもなっているのである。

「ここを渡れば、そろそろ目的地が近いというわけね」
「いやぁ、お姉さん強いねぇ」

 橋を渡ろうとした幽香に、軽薄な調子の声がかけられた。
 幽香がそちらを向くと、赤い三つ編みをぶら下げた、緑の服の少女が浮いていた。

「そんなに急いでどこに行くんだい。地底は面白いとこだけど、お姉さんが来たらもっと面白くなりそうだね」
「それはどうも。私はお友達に会いに来たの」
「へぇ、誰だか聞いていいかい?」
「古明地さとり。住んでる場所は地霊殿」

 そう目的地を明かすと、少女は人懐っこそうな笑みを浮かべて、

「ああ、それなら知ってる。案内してあげようか」
「あら、気が利くわね。お願いするわ」

 幽香は素直な態度で、少女の揺れる黒い尻尾についていった。




 案内されてやってきたのは、景観の寂しい広場だった。
 建物はおろか、草木の一本も生えておらず、石がごろごろしているだけだった。幽香は手をかざして辺りを見回す。

「おかしいわね。地霊殿って、目には見えないのかしら」
「そんなわけないよ。まんまとついてきちゃって、苦労しなくてすんだね」

 振り向く黒猫の妖怪は、大きな瞳を可笑しそうに細める。
 その周囲には、怨霊がいくつも浮いていた。
 突然、周囲が明るくなった。

「よくやったわお燐! 後は私にまかせて!」

 幽香は声のした方を見上げる。
 頭上で羽ばたいているのは、大きな白い翼を背負った妖怪だった。
 ぼうぼうに伸びた黒髪には、スカートとお揃いの色をした青緑の髪飾り。白いブラウスの中央には、血色の大きな玉が恒星のような輝きをみせている。
 見下ろすその顔つきは、いかにも強気で、挑戦的だった。

「貴方が古明地さとり?」
「いいえ違いますわ。私はさとり様の最強のペット、究極のエネルギーを手にした地獄烏の……!」
「霊烏路空でしょ。主人の方から名前は聞いてるわ」

 先に名を当てられて、地獄烏の妖怪……空は口を開けたまま硬直した。

「私をここに案内した貴方は火炎猫燐。違って?」
「そ、そうだけど……」
 
 ここに幽香を連れてきた猫の方、燐も驚いて、舌が上手く回らない。
 微笑む花の妖怪は、全てお見通しのようだった。

「種明かししましょうか。貴方の主人から、二人の話は聞いているわ。正確には、手紙で教わったのよ」
「ええ!?」
「さとり様が、あたい達のことを!?」

 それは二人にとって、全くの初耳だった。

「な、なんて言ってました!?」
「悪いこととか、書いてませんでした!?」

 空と燐は態度を改めて、敬語で聞く。
 幽香はにっこりと明かした。

「二人とも可愛いペットだって」
「「さとりさまぁ〜♪」」

 いぇーい、と二人は手を打ち鳴らす。

「でも、悪戯が過ぎる、時に調子に乗りすぎ。もう少し節度というものを持って欲しいですね、って」
「「さとりさまぁ〜……」」

 ぶーぶー、と二人は文句を言う。

「ところでお燐、『節度』って何かしら」
「っておい! 分かってなかったんかい!」
「何となく、私に足りないことだっていうのは分かったわ」
「あーあ……おくうがこの調子だから、あたいまでとばっちりを受けるんだ」
「何よ! 悪戯は明らかにお燐の方が多いでしょ! 私まで騙して組ませるし!」
「はぁ!? あんたの鳥頭の方が深刻じゃないか! この前の地上侵攻計画だって、さとり様が仰天してたんだよ!」
「そんな大昔のこと忘れたわよ!」
「昨年だろうが!!」

 ぎゃあぎゃあと仲間割れを起こして、二人は取っ組み合う。思う存分に引っかきあった後、見物していた幽香の方を向いて、

「ねぇ! 私とお燐!」
「どっちが可愛いって言ってた!?」
「さぁ、そこまでは」

 問われた幽香はとぼけた声で質問をかわしつつ、提案した。

「こういうのはどうかしら。今二人で家に帰って、主人にどっちが可愛いか聞いてくるのよ」
「ああ! そうよ! そうしましょうお燐!」
「よおし! 地霊殿に戻るよ! おくう!」
「ついでに私もそこに案内してね」
「わかったわ! 速くついてきなさい! ……って、あれ?」
「危なっ! うっかり騙されるところだったよ!」

 血気盛んな空も、普段は冷静な燐も、主人のこととなると頭に血が上るのである。
 幽香はその様子を見て吹き出した。

「ふふふ、聞いていた通り、とても愉快なペットのようね」
「ふん。こっちだって、あんたの本当の名前を知っているのよ。風見幽香でしょ」
「あら、知ってるのね。私も有名になったのかしら」
「ああ、地上でも相当おっかない妖怪だってね。すでに情報は入手済みだよ」

 燐も気を取り直して、上から幽香を見下ろしながら言う。
 とはいえ、実際のところは、彼女達に助言した勇儀の勘が当たったということなのだが。
 あの時、真顔の鬼に脅かされた二人は、もう一度『幻想郷縁起』を読み直し、四季のフラワーマスターという二つ名を持つ妖怪について調べたのである。
 書物に載っていた絵は、まさに目の前の妖怪と一致していた。危険度は極高、人間友好度は最悪と、物騒なことばかり書かれていたが……、

「でもさ。ゆうか、なんて可愛い名前だよね、怖がられている割には」
「そうよね。あ、だから恥ずかしくて、名前を変えていたとか。ゆうかり〜ん、なんて」


 ズガゴォン!!


 いきなりの轟音に、二人は身をすくめた。
 幽香が傘の先を突き出した『風圧』で、燐と空の下にあった岩が粉々に砕け散ったのである。
 という事実を二人が理解したのは、音がして数秒たってからであり、その動きは、動体視力に優れる燐の目も全く追いつかず、空の目には突然地面が爆発したように見えていた。
 幽香は笑顔のまま傘を回し、空中の二人を、高圧の殺気で包囲しながら、

「……舐められるのは好きじゃないわ。もう一度それ言ったら殺すわよ」

 燐と空は、反射的に何度もうなずいた。
 優しくもお堅く厳しいさとりの文通相手と聞いて、どんな妖怪かと二人は思っていたが、実際会ってみて、主人よりもはるかに恐そうだった。
 広がっていた殺気を一瞬で消して、幽香は首をかしげてくる。

「でも不思議ね。どうして私を貴方達のお家まで案内してくれないの?」
「そんなの決まってるさ。さとり様があんたに会いたくないからよ」
「そうよ。だから私達が、あんたを追い返すって決めたのよ」

 だが、それを聞いても、地上の妖怪は驚かなかった。
 むしろ、微笑み直して、ああやっぱり、とうなずいている。

「何だい。知っていたのか」
「ええ、まあね。でも私は彼女に会うつもり。例えどんな邪魔が入ろうと、諦めるつもりはないわ」
「いいえ、ここで諦めてもらうわよ! 私の手に入れた、神の力で!」

 空のエネルギーが急上昇した。
 左足に『分解の足』、右足に『融合の足』。そして右手に装着された棍棒のような武装は、その二つを制御する『第三の足』。
 彼女の持つ能力、核融合によって得られる力は無尽蔵である。全身を包む灼熱のオーラには、ある種の神々しさがあった。
 サーカスの調教師になった気分で、燐は自慢げに語る。

「言っておくけど、おくうの強さは本物。八咫烏を飲み込み、核融合を操れるようになった、究極のエネルギー馬鹿だ。花屋に対抗できる相手じゃないってね」
「凄い熱気ね。私はなるべく闘いたくないんだけど、そうも言ってられないか」
「あれ、ここまで来たにしては意気地が無いね。怖気ついたのかい?」
「いいえ」

 柔らかかった幽香の微笑が、突如、魔性の笑みに変わった。

「私はなるべく虐めたいの」

 彼女の中で、押さえられていた気配が、解放された。

「うっ!」
「いっ!?」

 燐と空の口から、同時に呻き声が漏れた。
 周辺を充満していた空の熱気が、さらに大きな幽香の妖気によって蹂躙されていく。
 肌を刺すプレッシャーは、直に剣山を当てられているようだ。二人の背中に、冷たい嫌な汗が流れた。

 ヤバい。

 妖怪の本能が警告している。この妖怪はヤバいと。
 見た目は花摘みのお嬢さんだし、能力を聞いても強い気はしていなかった。 
 だが、実際に対峙すると、基礎的な能力に値する、妖力が桁外れであることがわかる。
 空も瞬発力としてはかなりのものであったが、不安定で荒さがあった。だが、この花の妖怪のそれは、より濃く練り上げられていて、なおかつ大木のようにしっかり制御されている。しかもそれが次から次へと、湯水のごとく湧きだしてくるのだ。どれだけ長く気を吸って生きてきたのか。同じ妖怪として、見惚れてしまいそうになるほど、潤沢で澄んだ妖力だった。
 さらには、先ほど見せた、傘の風圧だけで岩を砕く身体能力。
 まさにこの来訪者は、鬼とためが張れる、古の大妖怪そのものだった。あの本に危険度極高と書かれていたのもうなずける。
 燐はごくりと唾を飲んで、空笑いを見せた。

「こいつは……ますます、さとり様に会わせるわけにはいかなくなったねぇ」
「ち、力だったら、私も負けてないわ! フルパワーで焼き滅ぼしてあげましょう!」
「ば、馬鹿おくう! やめな!」
「ぷぇ!?」

 急に頭をはたかれて、核熱のチャージが中断される。

「いたた、何よ、お燐」
「この鳥頭! あんたの馬鹿エネルギーが危ないからここまで誘導させたんじゃないか! 全力で戦ったら旧都にまで被害が及ぶよ! わかってんの!?」
「じゃあどうすんのよ! こいつ超危険だし、絶対にここで止めなきゃいけないんでしょ!?」

 喚く空の声には恐怖も混じっている。それを落ち着かせるように、燐は冷静な声で囁いた。

「聞きなって。そのために、あたいがいるんだ。あたいの頭脳と、あんたの無駄に凄いエネルギーがあれば、地底最強だよ。こいつにだってきっと勝てる。だから今だけ気を静めて、私の指示通りに動くんだ。さとり様を守るために」
「無駄に凄いって言うのが引っかかるけど……いいわ、わかった。さとり様を守るためだものね」
「よし」

 燐はその答えに満足して、ひらりと空の背に乗っかった。

「それじゃあ遊びましょ」

 悪魔の笑みを見せつつ、幽香が傘を向けてくる。
 燐は相方の肩にしがみつき、空はエネルギーを徐々に解放させ、攻撃の準備を整えた。




⊂○⊃




「始まったようだね」

 勇儀は地霊殿の屋根で酒を飲みつつ、遠くの光景に目をやっていた。
 轟く爆音と、白い閃光。かなり離れたここからでも、はっきりと伝わる戦いの余波だった。
 普通これほどの戦いがあれば、旧都が大騒ぎになるはずだが、幸い今のところ、勇儀の根回しが効いているらしい。わざわざ来訪者を地底のはずれまで誘い出させたのもそのためであった。
 あとはできれば、手負いの相手ではなく、正々堂々の一対一で闘ってみたかったが、あのペット二人が張り切っていたので、仕方なく譲った。
 勘が外れて、相手が弱い妖怪であることがわかり、がっかりするのが嫌だったということもある。

 ――まぁ、あの様子なら、大当たりのようね。しくじったかな

 特等席を逃した花火見物の気分で、勇儀は赤い平らの盃を空ける。と、背後で戸の開く音がした。

「勇儀さーん。ご飯ですよー」
「お、ありがとう」

 さとりのペットに呼ばれて、勇儀は天窓から屋敷の中に戻った。




「あんぐ、あんぐ」
「おお〜」
「んぐんぐ」
「ほわ〜」
「んぐ……なに? 鬼の飯がそんなに珍しいかい?」

 あぐらをかいて腹ごしらえをする鬼は、寝そべっている少女に聞く。
 聞かれた方、こいしは絨毯に頬杖をつきながら、答えた。

「どこにそんなに入るんだろ、って思ったの」
「はは。風邪をひこうが大怪我しようが、少食の鬼なんて滅多にいないよ。まあ、これくらいはあっという間さ。あんぐ」

 そう言って鬼は、サッカーボールほどもある握り飯に、また一つかぶりついた。

 勇儀が案内されたのは、大きなテーブルが置かれた客間だったが、椅子が気に入らなかったので、絨毯の敷かれた床で食うことにしたのである。
 ここからでも、窓を通して、遠くの戦いぶりがわかる。
 ちなみに食事のメニューとサイズは、勇儀のリクエスト。『おにぎり』。すなわち、鬼を斬りに来る人間を食ってやろう、というゲンかつぎの意味がある。昔から戦の前は、これと決まっていた。

「うん、うまい。もう少し固く握ってくれるといいんだけどね。これじゃあ、こぼれちゃう」
「お姉ちゃん、力が強くないから」
「へぇ。これはあいつが握ってくれたのか」
「そっちのやつは私だけど」
「あっはっは、それはなんとしても期待に応える働きをしなきゃね。こう見えて鬼は義理堅いんだ」
「…………ご迷惑をおかけします」

 その声に、勇儀とこいしは振り向く。
 部屋の戸を開けて入って来たのは、エプロン姿のさとり妖怪だった。

「私が今できるのは、それぐらいですので」

 さとりの頬はわずかにこけ、目の下にくまもできている。
 まだかなり弱っていることがわかるが、彼女は気丈に挨拶をしてきた。

「はじめまして。こんな格好で失礼します。地霊殿当主の古明地さとりです」
「旧都の星熊勇儀だ。色々あって、昨日から協力している。礼は言うに及ばないよ。ちゃんと報酬はもらってるしね」

 勇儀はおにぎりを持ち上げて片目をつぶり、それを美味しそうに頬張った。

「お口に会えば光栄です。ですが、鬼の貴方が、どうして私に協力してくれるんですか?」
「もぐ、それはね。……おっと、心を読まずに聞いてくれ。確かに、旧都のほとんどでは、お前さんの名前までタブー扱いになっている。最近は、お前さんが旧都に姿を表すようになってから、地底に住む通り魔かつ覗き魔、あるいは冷血女帝とまで陰口を叩く奴もいるんだ。私じゃないよ」
「ええ、知っています。実際に旧都で、この『目』を通して聞きました」
「……だけど私自身はそれを聞いて、逆に興味が湧いたんだ。そこまで恐れられるさとり妖怪っていうのは、どれほどのもんなのかって。そっちの妹さんの依頼を聞いて、これはいい機会だと思って参加してみたというわけさ。実際、驚いたよ。ペットの評判を聞いても、噂とはだいぶ違うじゃないか。まあ考えてみれば、この目で確かめないうちに人を判断するのも私らしくなかった」
「いいえ、嫌っても構いませんよ。それが自然な反応です」

 そのさとりの態度に、虚勢や意地は含まれていなかった。

「例え一度好意を抱かれたとしても、私が心を読める限り、いつか忌避される時が来ます。友人だろうとペットだろうと。それが、さとり妖怪の宿命です」
「……………………」
「そして、私も心を読むことをやめることはできません。さとり妖怪にとって読心とは、呼吸と同じくらい当たり前の行動であり、私が私であるために必要なことなのですから」

 その口調は、淡々としてよどみがなかった。さとり妖怪がこの世に生を受けた道理を語る、そこにはある種の誇りさえ感じられる。
 勇儀はそれを聞きながら、ちらりと横のこいしを見た。
 心を読むことをやめた妹の方は、話がまるで分かっていないうえに、気にしていない様子だった。
 さとりも心を読むことをやめたのなら、彼女のような性格になるのだろうか。そして、こいしはさとり妖怪として『死ぬ』前は、どんな性格だったのだろうか。
 そんなことを考えつつ、勇儀は再び、姉の方に目を向けた。まだ一つ、疑問が残っている。

「そこまで達観しているなら、なぜ手紙の相手に会うことを拒むんだい」
「それは……」
「それこそ、嫌われたくないからじゃないのか、さとり妖怪さん」
「…………」

 話の途中で、窓ガラスがびりびりと鳴った。
 外からの風が当たり、衝撃に震えたのだ。

「少なくとも、あのペット達にはまだ好かれているようだね」
「あれは……おくうですか」

 窓の外、遠くで瞬く光を、さとりは見ながら言った。

「お燐とおくう……そしてもう一人。私の知らない……。これは……!」

 さとりは急に顔を強張らせて、部屋を飛び出していく。
 
「お姉ちゃん!」

 こいしがそれを追って走る。
 勇儀はその場に残って、おにぎりにかぶりつきながら、また向こうの戦いに目を移した。




 曲がり角を回ると、すぐに姉の姿が見つかった。廊下の真ん中で、うずくまっている。
 こいしは、とことこと、その側に駆け寄り、顔を下から覗き込もうとしゃがみこんだ。

「お姉ちゃん、具合が悪いの?」

 さとりは首を動かして、わずかにうなずいただけだった。
 汗が浮かんだ横顔が、真っ青になっている。

「お燐とおくうがね、今、陽子さんを追い返そうとしてるのよ。それに、あの鬼の勇儀さんが、この館に入れないように頑張ってくれるから」
「無理です」
「え?」

 さとりは胸元の『第三の目』を、手で隠しながら、

「私には耐えられそうにない。これ以上近くになると、聞こえてしまうかもしれないから。例え心を読みたくなくても」
「じゃあ、地霊殿から逃げちゃう?」
「こいし…………」

 裏切りを悔いるような声が続いた。

「あの部屋を使わせてください」
「え?」
「こいしの前の部屋です」
「お、お姉ちゃん?」

 こいしは珍しく動揺していた。

「だ、だって、あの部屋はお姉ちゃんが嫌がってなかった?」
「お願いします。私はあの部屋にしばらくこもります。そうじゃないと、気が狂いそうなんです」
「……………………」
「ごめんなさい、悪い姉で」

 握ってくるさとりの手を、こいしはどうしていいか分からず、持て余すことしかできなかった。
 姉がここまで追い詰められた顔で、自分に物を頼むのは初めてである。しかも、その内容も驚きであった。
 結局、こいしは彼女の願いを聞き入れ、その部屋へと連れて行った。
 地霊殿の最奥にある禁じられた部屋、かつての自分の『ゆりかご』に。

 


⊂○⊃




「うわー危なー! そっちじゃないって!」
「じゃあどっち! こっち!?」
「よそ見しながら聞くな! ぎゃー、死ぬ! 死んだ!」

 燐と空は大声で互いに喚きちらしながら、幽香と戦っていた。
 燐が空の背中に乗り、力を暴走させないように注意しつつ、攻撃と回避の指示を出しているのだ。
 空の攻撃は、むしろ密着していた方が安全な上に、元々燐は火の中に住んでいるので、熱いのは得意である。だからこの作戦も上手くいくと思ったのだが、いかんせん相手と相方が悪すぎた。

「背中にあたいがいることを忘れんな! って右、右! 違う左じゃない! 右だって!」
「もうちょっと分かりやすく言ってよ!」
「右と左をこれ以上分かりやすく言えるか! あーもう、引っ張った耳の方だ!」
「いだだだだ、わかったからもう少し優しく!」

 地上にいる幽香は、その様子をのんびりと見上げている。時折飛んでくる攻撃を傘で払う以外は、戦闘をしているように見えない。
 しかしながら、上を飛んでいる二人は、まさに必死だった。
 なぜなら、地表に充満している幽香の妖力が、煮えたぎったマグマのように波打ち、巨大なあぎととなって襲ってくるのだ。それも一つや二つでなく、四方八方から迫ってくる。花の妖怪というよりは、伝説のヤマタノオロチを相手にしているようだった。そうした有り余る妖力の直接攻撃の他に、本体も時々派手な光線を放ったりしてくるので、二人の寿命は縮まるばかりだった。
 空も力が制限されているため、攻撃よりも回避の方が多くなっている。それに幽香は、燐や空の生半可な攻撃は、全て傘で弾き返すため、全く成果が上がっていない。
 たった一人の相手だったが、要塞に特攻させられている気がする。
 たまらず、燐は声を張り上げた。

「ちょっと待った! タイムタイム! 話し合おう!」
「あら降参?」

 そう聞いてくる幽香の方は、息切れもしていない。
 ぞっとしつつも、燐は交渉に入ることにした。

「あんたの強さはよぉく分かった! だけど、さとり様があんたに会いたくないって思ってるのは本当なんだ! ちょっとでも情けが残っているなら、ここで引き返してくれ! プレゼントだったらあたい達が渡してやる! だから……」
「渡すも何も、何も持ってきてないわ」
「…………え?」

 燐は耳を疑った。空も当惑する。

「で、でも、大きすぎるプレゼントだから贈れないって聞いたわよ!」
「ああ、そんなことも書いたわね。でも持っていくなんて一言も書いてないはずよ」
「じゃ、じゃあ、あんたの目的は何なんだ!?」

 うろたえる燐と空を見上げたまま、幽香は中々喋ろうとしない。
 二人がしびれを切らす直前に、その計画は明かされた。

「あなた達のご主人様を、地上に連れて行くわ」
「なっ!?」

 事も無げに言った幽香に、燐と空は驚愕した。

「何考えてんだあんた! 地上と地底の妖怪の、ルールを知らないのか! 私達が地上に行くのとはわけが違う! さとり様は心が読めるために、最も忌み嫌われているんだ! だからあんな地下の奥まで封印されているんだぞ!」
「そうよ! それでも私達がいるから、さとり様は安心していられるのよ!」
「第一、さとり様自身が行きたがるはずがない。さとり様は……だからその……大物過ぎるんだ」

 言葉を濁す燐に、幽香は哄笑した。

「大物かどうかなんて関係ないわ。私が連れて行くといったら連れて行く」
「そ、そんなの無茶苦茶だろ!」
「ふぅん。無茶苦茶か。じゃあ、ルールって奴を持ってきていただけない? 目の前で踏んでやるから、無茶苦茶にね」

 ぞくりとする笑みだった。
 燐と空は恐怖し、同時に激しい怒りを覚えた。

「やっぱり、お前はさとり様に会わせるわけにはいかない。おくう! もういい! こいつを、ぶっつぶすよ!」
「よしきた!」

 たとえ文通程度とはいえど、さとりの友人ということで、燐と空は遠慮している部分があった。
 しかし、主人に害をなす存在と知った以上、ここで倒すことにためらいは無い。
 この恐るべき妖怪は、二人の攻撃をことごとく跳ね返し、大砲のような一撃を次から次へと繰り出していた。その攻撃力も耐久力も怪物じみていたが、移動力がそれほどないということに気がついている。付け入る隙があるとすれば、そこだった。

「おくう! 合図でゴー!」
「オッケー!」

 燐と空はそれだけでお互いの意思を伝え合う。長年のコンビがなせる、二人だけのテレパシーである。
 
 燐は空を置いて突撃した。
 幽香は軽く目を瞠ったが、すぐに手招きして誘ってくる。
 燐は地面に下りて猫の姿となり、相手の膝へと飛びついていく。その体に怨霊が回っているのを見た幽香は、さっ、と身をかわした。
 
 ――やっぱり、こいつは嫌なようだね!

 地上に住む大抵の妖怪は、怨霊に触れられることを極端に嫌う。あるいはこの花の妖怪も、と思った燐の賭けは当たった。
 幽香は下がりながら、花を飛ばして牽制してくるが、燐は猫の身軽さを駆使してそれを避けつつ、怨霊で相手の立ち位置を誘導した。
 上空に光が集まっていく。
 空の準備が整った、と思った瞬間、燐は自らの力を振り絞り、怨霊を四方八方から幽香へと呼び寄せた。
 
「今だおくう!」

 合図と共に、燐は地面から飛び上がった。

「食らえー!!」

 空の右手の棒から、巨大な火球がいくつも現れた。怨霊に動きを止めた幽香の元に、それらは次から次へと降り注ぐ。いずれも核融合のエネルギーを収縮させた灼熱の塊だ。
 幽香は避ける間も与えられず、八咫烏の神の火を、何発も叩きこまれた。

 燐が怨霊で逃げ場をなくしてから、空が大技で潰す。作戦は成功したようである。
 目を焼く光の後には、ジュウジュウと岩が溶ける音と、鼻につく煙が蔓延していた。安全圏にいるはずの燐も、血の気が引く光景である。これでは死体も残るまい。

「……やったね、おくう」
「……うん」

 だが二人には、勝利の感慨は無かった。家で待つ主人を思うと、気が重くなる。
 さとりだって本当は、彼女と仲良くしたかっただろうに。
 燐がまた、何か言おうとした。
 その瞬間だった。

「……えっ!?」

 地面から強烈な風が吹き上がった。
 視界を埋めていた煙が、急速に散らされていく。闘気を含んだ風に服がはためき、上空にいる二人は、思わず腕で顔を覆った。
 やがて風がやみ、残り火が一掃された後には、巨大な向日葵が咲いていた。ぷすぷすと端から白煙を吹いてはているが、焼き払われてはいない。

「くっ! まだだったわ!」

 空が再び火球を生みだして……急にそれが消失した。
 それだけではなく、空のエネルギーがすっぽりと、大ナマズの口に飲み込まれたかのように、消えてしまった。
 空と燐は唖然とする。そして、地震が始まった。
 地響きとともに大気が鳴動する中で、巨大向日葵が小さくなっていき、白い日傘の姿を取り戻す。
 それを手にしていたのは、五体が揃っている、風見幽香だった。

「ふふふ、地底の太陽もなかなかのものね」

 燐と空はそれを聞いて、気がついた。相手は植物の妖怪だったのだ。そして、植物にとって最も有益なエネルギーは決まっている。
 彼女は、空のエネルギー、『擬似太陽』を残らず飲み込んでしまったのだ。
 逃げようとした二人を、地上から伸びた植物の蔓が捕まえた。

「ご馳走様」

 ぺろりと舌を出して、幽香は傘を突き出した。
 その先が光り輝き、空が放ったエネルギーが、さらに細く凝縮されていく。
 発射された莫大な光の奔流に、身動きがとれない火車と地獄烏は、為すすべも無く飲み込まれた。




 戦いが終わり、広場には静寂が戻っていた。立っているのは花の妖怪一人、ペット二人の姿は無い。
 幽香は無表情で、焼けただれた右手を軽く振った。火傷は瞬時に治ったものの、ダメージは体に残っている。
 火は苦手だった。それを差し引いても、本気になった二人は、予想以上に強かった。
 地底の妖怪の実力か。それとも主人を守ろうとする意志のなせる技だろうか。

 ふっ、と幽香の顔にまた笑みが戻る。時間が残り少なくなっている。急がねばならなかった。




⊂○⊃




 姉を部屋に案内してから、客間に戻ってきたこいしは、落ち着かない様子でうろうろしていた。
 その様子は、無意識で動いているというより、何かを不安に感じているようにも見えた。
 床に座って、彼女を横目で観察していた勇儀は、やがて思いつき、盃に酒を注ぐ。

「飲んでみるかい」
「……………………」
「飲んでみるかい、こいし?」
「えっ?」

 名前で呼ばれたこいしは、足を止めて、勇儀の方を見る。

「昔から、酒は百薬の長、って言ってね。悩みやストレスなんてこいつで吹き飛ぶ。何より鬼の、それも星熊勇儀の酒なんて、滅多にあずかれるもんじゃない。どうだい?」
「……ちょびっと」

 手渡された大きな盃の端に、こいしは恐る恐る口をつけた。

「……! けほっ、けほっ」
「ははは、ちょっと強かったか」
「う〜、ワインと違う〜!」
「あんなもんジュースみたいなもんだよ。味は悪くなかったけどね」

 昨夜に勇儀が受け取った報酬は、寝酒に一晩で飲み干してしまっていた。
 しかもグラスに注がずにラッパ飲み。このことを知ったら、元の持ち主であるさとりが何て言うことやら。

 そこで、ぴくっ、と勇儀の手が止まった。愉快に笑っていた顔が、真剣な表情に変わる。

「どうしたの?」
「……終わったようだ。そして、奴はこっちに来る」
「えっ」

 こいしは気づかなかったが、勇儀は敏感に、遠くの戦闘の気配を察知していた。

「おくうとお燐は無事?」
「さてね。心配かい?」
「心配……」

 聞かれたこいしは、難しい問題を考えるような顔になった。

「……わかんないけど、お姉ちゃんは心配すると思う」
「やはりお姉ちゃん先にありか。自分の胸に聞いてみなよ」
「わからないわ。だって、私の『眼』は閉じちゃってるのよ」
「へぇ、私にはそうは見えないけどね」

 彼女の心臓に位置する、閉じた紺色の『第三の眼』を、勇儀は意味ありげな目つきで見る。
 こいしがそれを嫌がっている気配を感じたので、鬼は立ち上がった。

「じゃあ、行ってくる」
「勇儀さん、陽子さんと戦うの?」
「そうなるだろうね。話し合いで説得するよりも、殴って伝える方が性に合ってる」
「勝てるの?」
「勝つも負けるもない。強いもんとは、とりあえず拳を交えて力比べ。それが鬼だ」

 いかにも鬼らしい傲慢な台詞を、勇儀は堂々と宣言する。
 だが、彼女はすぐに笑って、こいしの頭に手を置いた。

「大事なお姉ちゃんを守る最後の砦は、お前さんに決まってる。側にいておやり」
「うん!」

 こいしは元気よく跳ね、小走りに去っていった。
 ぐびり、と最後の酒を一息で飲み干し、勇儀は玄関へと向かった。

 


 外に出ると、すぐに濃密な妖気が、長髪を揺らした。
 それを嗅いだ勇儀の顔に、獰猛な笑みが浮かぶ。
 こいしには話さなかったが、幽香が迷わずここに向かってこられるのは、妖気の信号があるから。すなわちそれを発した、勇儀の誘いがあるからなのである。
 旧都には迷惑をかけず、一対一で闘う、それがまた、さとりを守護することにも繋がる。というわけで、勇儀にしてみれば一石三鳥の展開だった。

 やがてそいつは現れた。赤い服、葉緑色の髪、不敵な笑み。
 ここからでも見えるほどの派手な戦いをしたはずなのに、その顔に傷一つついておらず、服も汚れが一切無かった。
 大きな日傘を手にし、あくまで優雅なたたずまいで、風見幽香は地面に降り立った。

「あら、次はとうとう鬼なのね。やっぱり珍しいものばかりだわ。退屈しないわね、地底って」
「ああ。退屈しないよ。酒は美味いし、風呂は熱いし、たまにお客も来ることだし」

 殺り合う前の軽口は、強力な妖怪同士の挨拶のようなものだった。
 かまをかけずとも、互いの妖気が触れ合えば、それだけで実力が把握できる。
 勇儀と幽香は、お互い強敵同士であることを、瞬時に確認しあっていた。

「貴方は、古明地さとりのお友達?」
「うんにゃ、単に雇われただけだ。名は星熊勇儀」
「雇われた? へぇ。鬼は誇り高いと思ってたんだけど、そうでもないのかしら」
「ははっ、おあいにく様。私らの誇りは、そこまで安っぽいもんじゃないよ」

 勇儀は片手で頭をかきつつ、陽気な声で返答する。その腕に残った鎖が、じゃらりと鳴った。

「ようこそ地上の妖怪よ。一つ教えてあげようか。鬼は地底に潜っても、相も変わらず単純さ。興味が湧けば首を突っ込み、面白くなければ放っておく。気に入ったのなら語り合い、気に入らなけりゃあぶん殴る。……とまぁ、そんなところだ。他はおおむね自由なもんで、特に破門の掟は無い。曲げられぬものがあるとすりゃ、酒と宴と一本角と……」

 ずどん、と空気が破裂する音がした。
 勇儀が右拳を、左の掌に打ちつけたのだ。
 弾かれた空気が、勇儀を中心に爆風となって、辺りの砂利を払い、地霊殿の外壁を震わせる。
 鬼の持つ最強の武器を、勇儀は幽香に向けて構えた。

「……この拳骨さ! 一つ手合わせ願おうか、風見幽香!」

 幽香は涼しい笑顔のまま、傘を向けて構えた。

「本当に鬼は暑っ苦しいわね。だけど、何が何でも通してもらうわ、星熊勇儀」

 そして、二つの大妖怪は、互いに誇る力を激突させた。




⊂○⊃




 地霊殿の最奥にある部屋で、さとりはベッドに腰をかけていた。
 家具の少ない室内は殺風景だが、たまに、こいしがここに来るために、部屋は専門のペットによって掃除されている。
 照明の色も柔らかいため、息苦しい雰囲気などは感じられない。
 ただ一つ異様なのは、入り口の扉が、真っ黒の滑らかな石で出来ていることだった。実際は扉だけでなく、白くコーティングされた壁から床にいたるまで、全てその特殊な石でできているのだ。
 特殊といっても、加工しにくいことをのぞけば、その石の特徴はただ一つ。
 それは、外の『心の声』が、聞こえなくなることだった。

 ここは、さとりが最も嫌いな部屋だった。
 昔、まだ妹のこいしが心が読めた時、彼女はここに閉じこもった。何度呼びかけても、怖いとしか言わず、絶対に出てこようとしなかった。
 半ば諦めかけたとき、黒い戸が開いて出てきたのは、変わってしまった妹だった。さとり妖怪としての妹は死に、新しいこいしとの生活が始まった。
 あの時、さとりはこの部屋を憎んだ。妹を殺したこの部屋を、憎んで憎んで、憎しみぬいた。
 何度壊してしまおうと思ったか分からない。だけど、その都度こいしに止められた。
 結局さとりは、その部屋を潰すことを諦めた。どうせ、そんなことをしても、あのこいしは戻ってこないのだ。
 最期の瞬間、あの子は何を思ったのだろうか。絶対に聞き逃せないはずの妹の遺言、その『心の声』は、結局聞けずじまいだった。こいしは記憶を失い、あの時のことを覚えているのは、さとりだけになった。

 そして今、自分はここに引きこもっている。大切な宝物、友人からの手紙を持ち込んで。

 今までは嫌われても諦めていた。そもそも、最初から誰も受け入れようとしなかった。
 本気で友達になりたいと向き合わず、いつも避けて生きてきた。それがさとり妖怪として当然のことだと、納得していた。

 変わったきっかけは、やはり妹だった。地上に出かけたこいしが、前にここに来たあの巫女と魔法使いに出会い、その時の土産話を、たくさん持ってきたのだ。姉の前で、実に楽しそうに話す『眼』の閉じたさとり妖怪は、すでにあの二人と友達になっているかのようだった。それが、さとりの心に、焦りと羨望の混じった、不思議な感情を生みだした。やがて彼女は、ペンを取っていた。

 そして、ついにさとりは文通を通して、掛け替えの無い友達を手に入れた。これほど楽しい世界があったのかと、夢中になった。
 それは同時に、さとり妖怪としての弱さを生み出した。誰に嫌われても構わない、しかし彼女だけは別だ。彼女に嫌われるのが、本当に怖い。彼女だけが、唯一の友達だから、絶対に会いたくない。

 だって、もし嫌われてしまえば、あるいは彼女が嘘をついていたのなら、

 さとりは手紙を置き、震える手を、『第三の目』に手をあてる。

 わかってしまうのだ。
 彼女の本心が『見えて』しまうのだ。
 その瞬間、この素敵な手紙のやり取りも、心を躍らせた記憶も、全て壊れて消えてしまう。
 それこそが、陽子に会えない本当の理由だった。

 今、はじめて、妹の気持ちが分かった。
 今ではもっとも図太い神経を持つこいしは、しかし、感受性の強い繊細な子だった。
 彼女は自分と違い、他者の全てを受け入れようとした。だからこそ、心を読んで嫌われることに、大いに傷ついた。
 私はたった一人の存在のために、ここに閉じこもってしまっている。なんて弱いんだ。
 そして、心が読めるということは、なんと不幸なのだろう。

 ――ここを出たら、こいしとちゃんと話そう

 さとりは黒い扉を見つめた。『心の声』を吸収し、さとり妖怪を守る無骨な盾を。
 問題は、次にそこを開けて入ってくるのが、誰かということだった。
 心優しい妹か、それとも……。




⊂○⊃




 巨人の四肢が激突し、魔獣の毒霧がせめぎ合う。勇儀と幽香の戦闘は、激しい格闘戦と妖力戦が入り混じった、神話を彷彿とさせる戦いとなっていた。
 その制御された力は、余波をほとんど起こさないものの、恐るべきスピードで繰り出される一撃一撃は、並の妖怪を瞬殺する威力を持っている。先ほど燐と空が体験した、遊び半分の戦いではない。戦闘に長けた大妖怪同士だけが実現できる、高次の命のやり取りだった。
 しかし、

 ――つまらないね……。

 戦いが進むにつれて、勇儀の苛立ちはどんどん溜まっていった。
 鬼の戦い方はシンプルである。小細工は好まないし、その必要もない。真正面から力を叩きつけ、相手の反撃も受けきる。純粋な力のぶつかり合いを尊び、姑息な手段は丸ごとねじ伏せる。そうして最後に立っていた方が勝ち。それが鬼の戦いであり、哲学でもあった。
 そんな鬼の中にあって、『力の勇儀』と称えられる彼女は、『山の四天王』の中で最も戦に強く、実際に無類の喧嘩好きであった。強敵と戦うのを何よりの快楽としており、生涯でぶちのめした妖怪は、食った飯の数よりも多い。それでも、まだ飽き足らないのだから、地底の鬼でもまれに見る戦闘狂だった。だからこそ、地上でも有数の大妖怪が相手となれば、彼女にとってはまさに、垂涎のご馳走というわけだ。
 なおかつ歓迎することに、幽香の戦いは、鬼のそれと似通っていた。花を操る程度の能力は、戦闘の際にはおまけでしかなく、彼女の戦いは、手加減無しの妖力と、身体能力によって組み立てられている。しかもどちらも、妖怪の中でも高水準であるうえに、実戦経験も豊富なようである。すなわち勇儀が戦う相手として、もっとも歯車が噛みあうはずだった。

 それなのに、期待は外れて、戦いは初めから、勇儀が優勢だった。
 決定打こそ無いものの、幽香の妖力は見る間に削られていく。対して勇儀の方は、ここまで全くの無傷だった。
 平たく言えば、幽香には覇気が足りないのだ。勇儀の攻撃をやり過ごすだけの、受け身の技ばかりであり、勝ちに賭けずに戦いを長引かせている。
 これでは緊張感もまるでない。そしてその原因に、勇儀は気づいていた。

「ああ、つまらない。本当につまらないや!」

 口にしてから勇儀は、瞬きする間に死角へと移る。そして、相手の頭部を狙って、高速の回し蹴りを繰り出した。
 幽香は傘で受け止めるものの、乗った力を相殺しきれず、大きく弾き飛ばされた。
 そのまま、空中で体勢を整えて、地面にふわりと下り立つ。
 だが、鬼の目は誤魔化せない。幽香の膝が、わずかに震えているのを見て、勇儀は舌打ちした。

「もうやる意味ないよ。はっきり言って痒いだけだ。あんた、限界が近いんだろう?」
「……………………」
「それより聞かせてくれ。あんた、なぜその強さを『捨てて』まで、この地獄にやってきた」

 勇儀はいったん拳を引っ込め、腕を組む。かわりに推理と疑問を投げかけた。

「その妖力、並大抵のことで得たもんじゃないだろう。大した能力を持たない妖怪が強くなる方法。それは良い気の巡りのもとで、長い時間をかけて力を蓄えることだ。あんたほど強くなった花妖怪が、わざわざこんな光の届かぬ地に来るはずがない。お天道様の下で、最も自分に有利な場所に居続けるはず。それが長く生きる知恵だと、誰よりも知っているはずだから。なのになぜ……」

 勇儀の推理の途中で、幽香がすっと傘を持ち上げた。
 表情は笑顔のままだったが、日光の恩恵を受けられない彼女が、弱っているのが見て取れる。
 だが、それでもまだ、彼女には諦めずに闘う意志が残っていた。

「なぜ、そこまでして、あがき進もうとする?」
「……………………」

 そこでついに、幽香の不敵な笑みが消えた。
 剥がれた鎧の向うに、怒りの面が現れる。
 内なる感情を隠すのを放棄したらしい。
 殺気だった視線を受け止め、勇儀は嬉しくなって、はん、と鼻を鳴らした。

「なんだ、まだそんな目ができるんじゃないか。最初からそう来なくちゃ」
「いい加減、堪忍袋の尾が切れてるのよ、バカ鬼が」

 幽香は忌々しげに毒づいた。
 余裕と皮肉に満ちた台詞は、もうない。

「時間がないわ。今度こそ本気の本気でいくから、這いつくばって地面を舐めなさい」
「余力残さずってか。いいねぇ、真っ直ぐで! 来なよ!」

 勇儀が快活な笑みを見せて、両腕を広げる。幽香は右手の傘を剣のように振りかざし、左手の親指を下に向けた。
 そして、先ほどにも増して、壮絶な殺りあいが始まった。

 幽香の捨て身の攻撃を、勇儀は余裕をもって捌く。ただし、反撃のために進めた足には、草の根が強く絡みついた。わずかに体勢が崩れる。その隙を幽香は逃さずに、傘を顔面へと突き出してくる。首を動かして避けた勇儀の頬から、ぴゅう、と血が舞った。
 ぎらり、と鬼の目が光り、力任せの拳が放たれる。かわすのが間に合わず、幽香は手で受け流そうとしたが、衝撃のあまり弾いた腕が、逆側に大きく引っ張られた。
 そこに花が降ってくる。拳を食らう寸前に、幽香が撒いた防御の手。花は二人の間で小規模の爆発を起こすが、勇儀は構わずに突進し、再度拳を叩き込もうとする。
 幽香も前に出た。
 腰をえぐるフックに顔を歪めつつ、貫手を相手の懐に伸ばす。

 その間、実に一呼吸。衝突音と共に、土煙が舞った。

 勇儀は相手の頭部を、幽香は相手の腹部を掴んでいた。
 ただし、勇儀は握力にまかせて一瞬で握りつぶすことが出来るが、幽香の力では鬼の腹筋をえぐることはできない。
 この態勢は、幽香にとって『詰み』に近かった。

「は、勝負あったね。降参しないっていうなら、トマトジュースにしてあげるけど、どうするよ」
「……一寸法師って昔話、知ってる?」
「あん?」
「食べたのは、梅干かしら? 貴方の言った通り、大した能力ではないけどね」
「……うっ!」 

 突然、勇儀の胃に激痛が走った。
 身を屈めた隙を逃さず、さっと幽香は鬼の手から逃れる。
 だが勇儀は腕を伸ばすのが精一杯で、それを追うことができない。

「くっ……おまえ」
「あらあら、ずいぶん丈夫な胃袋だこと」

 花の妖怪は、残酷な笑みを浮かべる。
 これこそ彼女の奥の手であった。勇儀の胃の中にあった、梅干の種を『発芽』させ、急速に成長させているのである。
 花妖怪ならではの恐るべき裏技。常人ならば、即座に梅の木を体から生やし、それを墓標とするところであるが、押さえつける鬼の内臓筋も半端ではなく、勇儀は腹を片手で押さえるにとどまっている。

「ちっ。いつもは種ごと噛み砕くんだが、丸呑みしちゃったのがまずかったか」

 汗の浮かんだ青い顔を、勇儀は引きつらせるように笑った。
 そう言えば、梅干しおにぎりは、さとりの握った方だったっけ、と場違いなことを思い出しつつ。

 そこで、それまで劣勢だった幽香が、ついに激しく攻め手に回った。弾幕で退路を封鎖しつつ、再び格闘戦をしかけていく。
 突き、払い、掌底、蹴り。いくら鬼でも、一度には捌ききれない苛烈な攻めだ。このチャンスのために、力を残していたらしい。
 対する勇儀は、胃の痛みが響いて、動きに精彩を欠いていた。反撃の中にも力が無く、しだいに回避もおぼつかなくなっていく。
 ついに、急所を狙われて、勇儀は防御を行った。その頑強な両腕のブロックを、幽香は蹴り上げる……が、足を取られる寸前に、前蹴りへと変えた。スカートから伸びた足は胃袋に突き刺さり、かはっ、と勇儀は息を吐いて、後ろに飛ばされた。

「鬼さん、なんで私が、ここまであがいて進もうとするか、答えてあげるわ!」

 勇儀の誇りが、膝をつくのをこらえさせる。
 そのために出来た致命的な隙に、幽香は傘を向けた。相手の背後には、何もない。
 撃てる。

「『さとりん』が待っている! 理由はそれだけよ! どけ!!」

 傘の先から、巨大な光線が放たれた。
 燐と空を飲み込んだ、幽香の必殺技だ。直撃すれば、鬼とはいえど一たまりも無い。

「ぐうううううおりゃああああ!」

 だが、勇儀は耐えた。
 牙をむき出し、全身からありったけの妖力を発散させて、身を守る鎧とした。
 全身を削る痛みに、命が脅かされる快感。久しく忘れていた戦闘の興奮を、勇儀は味わい尽くした。

 破壊の照射が終わった後、冷たい静寂が戻ってきた。
 ぼろぼろになった服を身にまとい、両腕で頭をかばった格好で、勇儀はあくまで立っていた。
 使用した技は緊急手段ではあったが、おかげで意識は繋ぎとめている。
 その様子に、幽香は傘を杖にしながら、氷柱のような視線を向けていた。

「梅の種のおかげで、お互い息切れの五分といったところね。まだ闘う? それとも黙って通してくれる?」
「冗談じゃない。こんな姑息なからめ手で降参したとあっちゃあ、鬼の名がすたるよ」
「それじゃあ……」
「行くなら一発殴ってから行け」
「え?」

 きょとんとした顔で、幽香は聞き返した。
 最後になって隙が出来た表情。それを見て、勇儀は組んだ腕を解いて、ニヤリと笑った。

「殴ってから行けといってるんだ。時間が無いんだろ。さっさとあいつに会って渡してきなよ、『陽子』さん」




⊂○⊃




 地霊殿の廊下を、風見幽香は歩いていた。
 土に汚れた服は所々すり切れており、肌の傷も回復されずに残っている。
 だがその足取りはふらついておらず、表情も相変わらずの微笑を浮かべていた。

 彼女の行く手を、阻むものはいない。ペット達は姿を見せるのだが、その眼光に身を晒した瞬間、恐怖に動きを停止してしまう。
 硬直したペットから話を聞きだし、幽香は屋敷の奥へと進む。

 やがて、広いホールに出た。
 両壁には、猫や烏などの獣が描かれたステンドグラス。
 見上げると、やはり種々の動物の姿を描いた天井。だがその顔に、小さな落書きがしてあるのが見える。

 突然、幽香の体の近くで、ハート型の光弾炸裂した。
 瞬時に彼女は床を蹴り、くるくると天井近くまで、回転して身をかわす。
 そして、静かに床に下り立った。

「……気づいていたの?」

 何もない空間から、子供の声がした。

「いいえ。でもお花が咲いている気がしたのよ」
「お花が?」
「ええ。貴方のように、無意識に咲いているお花。他にも、お喋りのお花、恥ずかしがりのお花、地上には、色んな花が咲いているわ」
「……そうか。貴方はお花の妖怪、風見幽香ね」

 無意識のフードが解かれ、水色の髪が現れる。
 姿を見せたのは、自我を捨てて無意識を手に入れたさとり妖怪、古明地こいしだった。
 だが、

「ここは通してあげないわ。お姉ちゃんは貴方に会いたくないって言ってる。だから帰って」

 その目には、これまでのこいしに無い、強い意志が宿っていた。
 幽香を先へと通さぬよう、断固たる構えで、続く道を通せんぼしている。
 足止めされた花の妖怪は、彼女に聞く。

「……お姉ちゃんを守っているのね」
「そうよ。お姉ちゃんはずっと、私を守ってくれていた。さとり妖怪の業を、一人で背負ってくれた。だから、私はお姉ちゃんを守らなきゃいけない。今度は私が、苦労する番なの」

 ふふっ、と幽香が、それを聞いて笑った。

「……そうか。貴方がさとりんの土だったのね、こいしちゃん」
「え……?」

 身構えていたこいしは、目を丸くした。

「私を知ってるの?」
「知ってるわ。さとりんは何度も手紙で、貴方のことを相談してきたから」
「お姉ちゃんが……私のことを?」
「ええ」

 うなずく幽香の声は、意外なほど優しげだった。

「知らなかった? 妹の心が読めないから、何を考えているか分からないから。さとりんが一番気にしていたのが、貴方のことだった。できる限りのことをしてきたつもりだけど、気持ちを伝えてくれないから不安だって。きっと今、貴方がこうして守ってくれていることを知ったら、さとりんは喜ぶことでしょうね」
「………………」
「貴方の許しがなければ、私も先へは進めないわ。だけど私は、さとりんと会わせて欲しい。どうしても渡したいものがあるの。許していただけない?」

 花の妖怪は、真摯な態度で願ってくる。煤けた緑の髪を、静かに下げてまで。

 その時、こいしの心に、『迷い』が生まれた。
 幽香の表情に隙はない。その笑顔の奥にある感情が、何なのかが読めない。
 彼女は危険なのか、安全なのか。嘘をついているのか、それとも本心なのか。
 それが分かるまでは、どうしても姉に会わせるわけにはいかなかった。

 どくん。

 と、こいしの『第三の眼』が脈打った。
 無意識の泉の中で、ずっと眠っていた意志が、空気を求めてもがき、手を伸ばす。

 ひっく、とこいしは、しゃっくりをあげた。
 色を濁していた『第三の眼』が、青く澄んでいく。
 
 ひっく、ひっく、と引き付けを起こしたように、こいしのしゃっくりは止まらない。
 泣いているような、笑っているような、恐ろしくてたまらないような、壊れかけた表情になる。
 ただし、彼女は跳ねたがる足を、ひ弱な意志の力で、何とか押さえつけた。

 ――私が……私が、お姉ちゃんのかわりになれれば。

 こいしの切な願いに答え、彼女の『第三の眼』が、ぴくりと瞼を動かす。
 そして……ついにその瞳が、




⊂○⊃




「えっ?」

 ぼんやりと座っていたさとりは、扉の方を向いた。

 心を読めるはずもない部屋で、誰かに呼ばれた気がしたのだ。
 いや、呼ばれたというより、何かの力を感じた。何だろう。とても懐かしい感覚のような気がしたが。

 気配は一瞬だったため、気のせいかもしれない。
 昔、妹の使っていたベッドに、さとりは寝転んだ。
 この部屋に篭ってから、陽子のことばかりでなく、自分を守ってくれている者達のことも考える。
 こいしは、お燐とおくうは、協力してくれた勇儀は、他のペット達は無事だろうか。
 元々は、自分の我がままで招いた災難だ。何事もなく終わってほしい。

 コツ、コツ、と足音がして、さとりはまた、扉の方を向いて起き上がった。
 足音は、扉の向こうで止まった。

「誰?」

 さとりは呼びかけてみたが、返事はなかった。

「誰……? こいしですか?」

 不安になりつつも、さとりは再度呼びかける。

「………………さとりん?」

 その声を聞いて、さとりの息が止まりそうになった。
 覚えのない声だ。覚えのない声だけど、そう自分を呼ぶのは、一人しかいない。
 左手を胸に手を当て、右手で『目』を覆い隠しながら、さとりは肺から呼気を押し出した。

「陽子……さん?」
「ええ。貴方の文通の相手よ」
 
 一瞬、さとりの頭が真っ白になり、同時に目の前が真っ暗になった。
 なんてことだ、ついに彼女はここまでやってきた。
 自分に、会うために、こんな地底の深くまで。

「……でも、これからはこう名乗らせてもらうわ。風見幽香。それが私の、本当の名前」
「風見……幽香」

 その名は覚えている。妹の見せてくれた『幻想郷縁起』に、確かに載っていた。
 その頁には、とても強力で、危険な妖怪だとも書いてあった。
 そしてそれは間違いではなかった。彼女は、さとりよりも強いペットと鬼を倒して、ここにやってきたのだろうから。
 だけど、想像の中の『陽子』は、危険とはかけ離れた存在だったのに、どうして。

「どうして……来たんですか。陽子……いえ、幽香さん」
「……さとりんに、プレゼントがあるから」

 プレゼント、それが心躍る単語だったのはいつのことだったか。もう遠い昔の話のような気がする。
 さとりは万が一のために、用意していた答えを言った。

「受け取ります。でも、私はここを出られません」

 扉の向こうで、彼女の怒りに震える姿が、容易に想像できた。

「貴女に顔を見せることができません。ですから、贈り物だけを置いて、引き取ってもらえませんか」

 なんて醜い願いだろうか。たとえどんな相手にせよ、地底までわざわざ下りてきてくれた者に対する返答ではあり得なかった。
 ましてや、向う側にいるのが、自分がずっと交流を続けてきた、ただ一人の友人だと思うと、身をねじられるような自己嫌悪に苛まれる。
 しかし、扉越しに幽香は、思いもよらぬことを言ってきた。

「それはできないわ」
「ど、どうしてですか」
「なぜなら私がここに来た目的は、貴方を地上に連れて行くことだから」

 それを聞いて、さとりの恐怖が一段と増した。

 地上。地底の忌まわしきさとり妖怪にとって、憬れつつも、最も恐れた世界だ。
 だが、なぜ彼女は自分を地上に……。

 さとりの心に、嫌な想像が膨らんでいく。溢れ出す疑問に、端からじわじわと蝕まれていく。
 扉の向こうにいるのは、本当に自分が憧れた陽子なのか。それとも自分がそう思いこんでいただけで、本当はもっと……。
 とても強力で、危険で、恐れられている地上の妖怪。
 頭の中で、ぐるぐると呪文が回る。

「さとりん、出てきてくれないかしら」
「だめっ!」

 それ以上考えることに耐えられず、さとりは耳をふさいだ。

「お願いです……帰ってください……貴方の心は……私には重すぎる……」

 さとりは泣きながら、扉の向こうの存在に懇願した。
 
 だが、願いは届かず、黒い岩の戸が、重い音を立てて開いていく。

 早鐘を打つ心臓を狙って、パニックが襲ってくる。

 いやだ。いやだいやだ。いやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだ。
 怖い、怖い怖い、コワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイ。

 さとりの『第三の目』が、色を失って硬くなっていく。

 薄く差し込んでくる光。その影に、女性の姿が。


「やめてええええええ!!」


 さとりは金切り声をあげ、彼女の『第三の目』が、ついにその瞼を閉ざした。

 そして、さとり妖怪がまた一人、この部屋で死んだ。
















3. 白が生まれる話




 夜深い旧都の上空を、猫と烏が、全速力で飛んでいた。

「急げ、急げおくう!」
「急いでるわよ! お燐こそ急いで!」

 燐と空である。
 幽香との壮絶な戦闘のすえに敗北を喫し、しばらくたってから目が覚めたのだった。
 煙突に入ったかのように全身が煤けて、あちこちが打ち身で痛いものの、大きな怪我はしていない。自分たちの役割と状況を思い出し、慌てた二人は、地霊殿へと急いでいる。

「でもなんで私達、生きてたんだろ」
「衝撃で気を失っただけだったんだよ。あの妖怪、わざと威力をセーブしたんだ」
「え、どうして?」
「知らないよ! とにかく、さとり様が心配だ。あの鬼が止めてくれてるといいんだけど」

 二人は先を争うようにして、地霊殿にたどり着いた。
 玄関前で二人を出迎えたのは、服のあちこちが破れかけている、鬼の星熊勇儀だった。

「おお、あんた達、無事だったかい」
「無事だったじゃないよ! あの風見幽香はどこ行った!」
「さとり様は、さとり様は大丈夫なの!?」
「今、出てくるところだよ。だけど……」

 聞かれた勇儀は、この鬼には似合わない、暗い顔つきになった。

「だけど? だけど何なのよ!」
「……説明するより、実際に見てもらった方がよさそうだ」
 
 その言葉を合図としたように、玄関の扉が開く。出てきたのは仲間のペット達だった。
 声を出していない者は一人もおらず、人型を含めて、誰もが大声で、あるいは低い声で、泣いている。
 その向うから、三つの姿が現れた。左に風見幽香、右に古明地こいし。
 そして、二人に支えられて歩いてくる、古明地さとり。
 それを確認し、空は声を弾ませて、

「良かった! さとり様が無事だったわよ! 良かったねお燐!」
「………………うそ」
「お燐?」
「さとり様……『目』が……」

 呆然としている燐に、空は眉をひそめ、もう一度さとりの方を見た。
 確かに、主人が無事だというなら、どうしてみんな泣いているのか。
 それに、さとり自身もなんだか様子がおかしかった。
 焦点の合ってない虚ろな両の瞳、魂が抜け落ちたような表情、そして『第三の目』が乾いた土の色をしていて……『閉じて』いた。

「さとり様!?」

 空と燐は、同時に駆け出した。
 崩れるように主人の側に跪き、服を引っ張って、声と『声』をかけ続ける。

「さとり様! あたいの声が聞こえますか!?」
「嘘だって言って、さとり様!」
(あたいです! お燐です! さとり様、返事をしてください!)
(おくうです! 聞こえているんでしょう!? ねぇ、さとり様!)

 二人の呼びかけは、やがて涙声に変わる。だが、さとりは人形のように固まったまま、何も反応を示さなかった。

「私達のさとり様は死んじゃった……お前が来たせいで!」

 燐は、横で主人の体を支えていた、幽香の胸ぐらを掴んだ。
 
「どうして地底に来たんだよ! お前と文通するだけで、さとり様は幸せだったんだ! 会わなくても、それで十分だったんだ! お前が来るって聞いてから、さとり様、病気みたいになっちゃって……最後は本当に死んじゃったんだぞ!」
「さとり様……いつだって私の声を聞いてくれた。頭が鈍いって差別せずに、私の心を受け止めてくれた。さとり様がいなくなったら、私、どうしていいかわかんないよぉ……!」

 空はめそめそと、心を失ったさとりの膝に泣きつく。
 燐はなおも、涙の光る目で、幽香を睨みつけた。

「こんなとことまでして、あんた一体、何しにやってきたんだ! 何が望みだったんだ!」
「……言ったはずよ。彼女を地上に連れて行くつもりなの」
「……っ! ふざけんなぁ!」
「待ってお燐!」

 殴ろうとした燐を止めたのは、聞き覚えのある声、しかしそれは、聞き覚えの無い声でもあった。

「こいし……様?」

 激昂していた燐が、思わず道を譲った。泣いていた空も、呆然と見ている。それは、他のペット達も同じだった。
 それまでのこいしとは、まるで雰囲気が違っていた。ふわふわと浮世離れしていた面影は消え、確かな意志の力が、その全身から感じられた。
 皆が黙りこんで見つめる中、こいしは一歩進んで、幽香の前に立った。そして、帽子を目深に下ろして、かぶりなおす。

 ぽすっ、と小さな拳が軽く、幽香のお腹に入った。

「……お姉ちゃんを……必ず返してよ」

 こいしの声は、わずかに震えていた。
 幽香はその拳を見下ろしていたが、やがて、ぽん、とその帽子の上に手を置いて、

「いい子ね、約束するわ」

 とだけ言った。
 次に幽香は、その後ろの存在に顔を向ける。
 地底を統べる鬼は軽くうなずいた。

「旧都の連中には手を出させない。星熊勇儀の名にかけて誓う。だけど、そっから先の帰り道は保障できない。もしもの時は、あんたが何とかしてくれ」
「大丈夫よ。ありがとう」
「あと、勝負がお預けのまま、ってことをお忘れなく」
「そっちの方は、できれば忘れてほしいわね」

 苦笑した幽香は、さとりを小脇に抱えた。

「……さとり様! 待って!」

 再び騒ぐペット達を置いて、さとりは幽香に抱かれて飛んでいく。
 その姿が小さくなり、見えなくなってから、燐は振り向いた。

「こいし様! どうして止めるんですか! さとり様があいつに……!」
「私、あの人の心を読んだの」

 燐が、空が、ペット達の誰もが息を呑んだ。
 こいしの、閉じているはずの『第三の眼』が、こちらを見た気がしたのだ。

「心配しないでみんな。信じて待ちましょう。お姉ちゃんは、ちゃんと元に戻って帰ってくる。お姉ちゃんは強いもの」

 こいしは微笑んで、ペット達を勇気付ける。
 彼女の瞳は、元気だった頃のさとりと、同じ輝きをもっていた。
 遠くを見るその先には、地上へと向かった二人がいる。
 こいしは涙をぬぐって、そっと呟いた。

「そして、きっと『あの人』も、お姉ちゃんが……」




⊂―⊃




 さとりは闇の中にいた。光も音も、そこには無かった。
 地中の石に眠っている、幽霊の夢を見ているようだった。
 何かを考えようとしても、その足場が消えてしまう。結局、重たい雲に包まれて、漂うことしかできずにいる。
 心の声は全く聞こえない。閉じた『目』の世界は、とても静かだった。

 しかし、閉じているのは『第三の目』だけではない。さとりは両目の瞼を閉じ、両耳を手で塞いでいるのである。
 何も見えず、何も聞こえない。誰かに支えられているようだったが、何も心に感じなかった。
 だんだんと、古明地さとりだった記憶もぼやけてくるが、最後に聞いた、ペット達の泣き声は覚えている。いや、それに混じって、妹の声もした。彼女は無事だろうか。私の妹……こいし……。

 無意識の沼から、さとりの自我が、わずかに顔を見せた。
 しかし、それが途方もなく暗くて深いことに気づいて、岸に上がろうとすることに絶望した。

 そうだ。今きっと私は、こいしの通った道を歩んでいるのだ。彼女があの部屋で『第三の眼』を閉じ、意識を封じていくその過程を。
 ようやく、謎のままだった妹の心に近づける。確かに、無意識に身をゆだね、自我を放棄するというのは耐えがたい魅力だった。

 薄れてゆく自我の中で、さとりはこれまでのことを思った。
 そもそもこうなったのは自分が、馬鹿な夢を隠さずに、あろうことか地上に届けたのが始まりだった。
 そして今、自分の身に起こっているのは、悪夢よりもひどい現実だった。
 この現実は、なんと残酷で、滑稽なことだろう。
 明るく元気なさとりんは、暗くて臆病な古明地さとり。
 そして優しい陽子さんは、八咫烏や鬼まで退けてしまう、恐ろしい大妖怪、風見幽香だった。

 そのことが明らかになった結果、さとりんは死んでしまい、陽子も消えてしまった。

 残ったのは夢から覚めて抜け殻と化した、愚かなさとり妖怪。地上の光を夢見た、欲深き妖怪。
 神が与える罰としては、これはふさわしいものかもしれない。
 もう、何も見たくない、何も聞きたくない、何も考えたくない。
 外の世界は自分に残酷で、自分を慕う者達も同じくらい残酷に思えた。
 私を運んでいるのは死神だろうか。いっそここに置き去りにしてくれれば楽なのに。

 ふわっ、と甘い香り。そして、鼻をつまむ冷たい指の感触。
 思わずさとりは、耳を塞いでいた手を少しどける。

「見る気も聞く気もないようなら、鼻もつまんであげようかと思って」

 その死神の声は、妙に茶目っ気があった。

「小さな鼻ね」
「………………」

 再び、さとりは耳を塞いだ。




 肌に触れる空気が、変わっていくのが分かる。地底からどんどん遠ざかり、上を目指しているのだ。
 だが地上に出ることは許されない。特に、心を読むことができる、さとり妖怪は。

 読心し、なおかつそれを語る。姿を映す鏡よりも、事実を残酷なまでにつきつける。
 人のみならず、妖怪同士の和を乱し、ついには死へと追いやる、最も忌み嫌われた能力。
 それを恐れた妖怪達は、その種族を地下の底に追いやった。地上の楽園から遠ざけ、過去の存在として封じた。
 だから地上は遠い。地上の存在は、何よりも遠い。さとりにとって、遠くなくてはならない、光に満ちた夢物語だったのだ。

 わかっていたはずなのに、手を伸ばしてしまった。
 でも、あの時確かにその一筋が、微笑んでくれたと思ったのに。
 
 そして今、その夢の世界が、さとりにとっての地獄が近づいている。
 今能力が使えないことを知れば、自分を知る妖怪は、間違いなく復讐に来る。
 その前に、太陽に焼かれて死ぬのが先か。いずれにせよ、苦痛には変わらない。
 さとりの自我は、無意識に身を投げ出して、全てを忘れることを願った。
 眠っている間に、あの思い出に浸っていられる間に、何もかも終わってほしかった。

 だけどまた、邪魔をされた。とんとん、と肩を突付かれたのだ。

「怖がんなくても大丈夫。私がついてるから」

 指の間から聞こえたその声は、思いのほか心地よかった。
 だからつい、さとりは耳を塞ぐのをやめてしまった。




 湿っていた空気が、急に乾いた。そして、足元の感覚が変わったことに気がついた。
 石でできた道とは違う、ふわふわした感触。
 これは土? それとも草?

「着いたわ。地上へようこそ」

 もう地上に来たのか。だけど、命が脅かされる気配は無かった。
 それどころか、瞼に当たる光が意外なほど柔らかかったので、さとりは目を閉じるのをやめた。

 地底では黒かった天井が、群青色に変わっていた。大地には石の灰色ではなく、草の緑が広がっている。
 閉じた目には水音に聞こえたのは、小鳥の歌声だったと分かった。予想していたよりも肌寒いのは、まだ空が暗いからなのだろう。
 東の空は橙色に染まっている。あそこから、朝が来るのだろうか。
 
「ここは『太陽の畑』というのよ。まだ夜は明けてないわ。ついてらっしゃい」

 手を引かれるままに、さとりは歩く。前を行く幽香は、なるべく草を踏まないように、花を傷つけないように浮いていることがわかった。彼女に倣って、さとりも浮きながらついていった。




 さとりの背丈ほどある茎が、たくさん伸びている。その茂みの隙間にある道を、幽香とさとりは進んでいた。
 
「夏になると、いっせいにこの向日葵が咲くの。春の今じゃあ想像がつかないかしら。でも中には、今の季節に咲いている変わり者もいるのよ」

 ヒマワリ……向日葵は手紙の相手が好きな花だった。
 褐色の丸を縁取る黄色い花びら、だけどそれは、多数の花が集まり、一つの形を作っているのだ、と教わった。
 太陽の子供みたいな花よ、という彼女の紹介に、さとりはどんな花か、思いを巡らせたものだった。
 見てみたかったが、周囲の茎には、まだ蕾も出来上がっていなかった。青臭い香りが、さとりの鼻腔を通り抜けていく。
 
 やがて二人は、向日葵畑を抜け出した。
 たどりついたそこは、少し変わった場所だった。
 視界を塞いでいた草の群れは消え、遠くのなだらかな丘まで見渡せる。
 
 そこに、向日葵が咲いていた。話に聞いていたそれだった。
 だけどそれは、太陽の子供にしては、黄色が薄く、自己主張が少なかった。高さもさとりの腰ほどしかない。
 その向日葵畑と寄り添うようにして、別のお花畑があった。
 指の爪ほどの大きさの白を、五つの青い花弁が囲んでいる。
 その小さな花が数多く咲いており、茶色い地面のキャンパスを、青と緑で塗り潰していた。

「ネモフィラというのよ」

 幽香はその花の名を明かした。
 ネモフィラ……とさとりは、心の中で呟く。
 元気そうに咲いている青い花に対し、向日葵達は遠慮がちに咲いているようだった。

「季節を都合で変えてしまっては駄目。向日葵には無理させちゃったけど、どうしても一緒にしてみたかったの。でも、そのネモフィラにはむしろ、その土が良かったのよね。だから、青みが濃くなったけど、それもいいでしょ」

 さとりはそれを聞きながら、しゃがんで、ネモフィラの一輪を撫でた。
 触れた罪で棘に刺されることもなく、細かい産毛の生えたその花は、驚くほど控えめに、さとりの指に添ってきた。
 そのため、さとりはしばし、立ち上がるのをためらった。
 幽香はそれを咎めてこない。かわりに、別のことを言った。

「さとりん。そろそろプレゼントの時間よ」

 幽香は向日葵畑の側に立つ。
 そして、さとりをネモフィラ畑の真ん中に立たせた。
 すうっ、と風が吹いた。

「さあ、間に合ったわね」

 東の山から、朝日が昇っていく。
 さとりにとっては、忘れかけていた、もう長い間許されていなかった日の光だった。
 焼かれて死んでしまうのでは、との怖さに震えたが、低山にかかった厚い雲が、適度に光を防いでくれていた。
 その薄い明かりに、陰影が浮かび上がる。

 さとりは、眼前の光景に、心を奪われた。

 雲の切れ目から、金色の光が差し込んできた。
 光はさとりの髪を桃色に染め、血の気を失っていた肌を温める。
 広い『太陽の畑』の中、照明が与えられているのは、この二つの花畑だけだった。
 風に揺れるネモフィラと向日葵が、二人の周りで歌っているようだ。
 祝福はそれだけではない。遠くに並んだ森の木も、近くを走る草原も、はるか向こうに立つ山も、そばで生きてる虫達も、地底から来た妖怪を脅かすことはなかった。地上の世界が、ありとあらゆる存在が、自分を受け入れてくれるようだった。

「気に入ってくれたかしら」

 さとりは、幽香の方を向いた。 
 生命あふれる大地の中に、悠然と咲く花の妖怪が、そこにいた。

「お日様は花を選ばず。土こそ異なれど、どれも咲く権利を持つ。覚えてる?」

 覚えていた。忘れるはずもない。
 受け取った時から、何度も何度も読み返した、さとりが一番好きな手紙だった。

「青い花、とっても似合ってるわよ、さとりん。私の色にはちょっと似合わないけどね。でも、どちらも素敵でしょ」

 黄色い花が似合う幽香は、笑顔をこぼした。
 それでさとりは、彼女の笑みの源に気がつく。強さと厳しさ、そして慈愛を兼ね備えた、太陽のようだったのだ。
 そして、それは、彼女が想像し、そして密かに憧れていた『陽子』のイメージと、ぴったり一致していた。

 どくん、と閉じた『目』が脈を打つ。

 わずかに残った自我が、その笑顔に賭けた。
 ひょっとしたら、まだ望みは残っているのかもしれなかったから。
 さとりの『第三の目』が、柔らかさと色を取り戻し、その瞼を開けていく。

 そして、数時間ぶりに、周囲の『声』が聞こえてきた。




(…………ああ、誰か助けて)

 え?

 さとりの持つ三つの目が、同時に瞬きをした。
 思わず振り向いて確かめたが、自分ともう一人の他には誰もいなかった。

(…………まだ痛いし、眩暈はするし、何より緊張して死にそう。早く何か言って、さとりん)

 これは、誰の『声』だ?

 さとりは、我が『目』を疑った。
 だが、その『声』は、目の前で変わらぬ余裕の笑みを見せている、幽香の心のものに違いなかった。
 儚げな『声』はさらに続く。

(うう……何も言ってくれないのね。やっぱり無理をさせちゃったのかしら。わがままを押しつけてごめんなさい。でも本当にプレゼントを渡したくて。これでも頑張ったんだけど。私はもう何を言っていいかわからないのよ)

 ぽかんと、さとりの口が開く。

 まさか。燐と空を倒し、鬼の長を退けた大妖怪が、自分が黙っているだけで、動揺している?
 そんな馬鹿な。

(幽香を安心させてあげて!)

 突然、別の声がして、さとりはハッとした。
 足元のネモフィラが喋った、いや、さとりの『目』に心を伝え、訴えたのだ。

(幽香はとっても会いたがっていた!)
(私達をあなたに見せたがっていた!)
(あなたを必要としているの!)
(あなたのおかげで変われたの!)

 ネモフィラだけではない。幽香の元に咲いている小さな向日葵も、さとりに話しかけてくる。

(幽香はあなたにお礼が言いたかった!)
(どうしてもお礼が言いたかった!)
(あなたの想いに気づいていたから!)
(迎えに行かずにはいられなかったの!)
(私達は全部見てきた!)
(幽香の思いを聞いてきた!)
(見てください! 私達の心を!)
(聞いてください! 幽香の心を!)

 花という花がいっせいに、さとりに心を伝えてくる。
 それはさとりの視界を、真っ白に染めあげていく。
 そして、彼女の意識は、ある妖怪が刻んだ、大切な記憶へと繋がった。




⊂○⊃




 天狗の運んでくる新聞ほど、役に立たない情報は無い。幽香にはそんな持論があった。
 ただしその日、『彼女』を知ったのは、間違いなく天狗の新聞のおかげだった。

「それでは、私はこれで失礼します」
「相変わらずせっかちね。飛んで帰る時は風に注意するように。花が傷むから」
「わかっていますって。実は今日は、新聞配達以外にも頼まれごとをされてましてね。これを届けなきゃいけないんですよ」

 黒髪の鴉天狗が取り出したのは、五つの封筒だった。
 幽香は記憶の底から、その名称を掘り起こした。

「郵便……かしら。幻想郷で見たのは初めてかもしれないわ」
「そうでしょうねぇ。場所は確認してないんですが、地底からのもいくつか混じっているんじゃないでしょうか。珍しいですよね」
「地底ね。まだ行ったことは無いけれど、貴方はこの前の異変で潜ったんだっけ?」
「いいえ、私は地上からサポートしただけです。いくら何でも、あんな鬼だらけの所に行きたがる天狗なんていませんよ」
「そっか。鬼は今、地底にいるのね」
「ここでは一人だけですが、地底には、うじゃうじゃいらっしゃるそうです。他にも嫌われ者の妖怪とかが……あ、それでは時間が無いので、また」

 鴉天狗は一陣の風を残して、あっという間に飛び去っていった。

「……あら? 忘れ物かしら」

 天狗が去った後の土に、一つだけ封筒が落ちていた。しゃれた刻印の入った、小さな白い封筒である。
 幽香の足では天狗に追いつけない。仕方なく、次に来る時にまで、預かっておくことにした。
 だが、そこで奇妙なことに気がついた。その封筒には、地上のどこか、とあるだけで、宛先の住所も、送り主の名前も全く書いてないのだ。

 不思議に思って、幽香はそれを開いてみることにした。
 その文面はもっと変だった。




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 私は貴方の名前を知りません。
 貴方の髪の色も、好きな服装も、趣味も、好みのお茶の味も。
 何一つ私は知りません。
 そして、それは貴方も同じでしょう。
 お互いにまるで知らない存在です。全くの赤の他人が、こうして手紙を出しているのです。笑ってください。
 それでも私は、貴方にお願いがあります。
 どうか私と、文通をしていただけないでしょうか。
 馬鹿げた話かと思われますが、宛先は地底の地霊殿でお願いします。

 貴方だけが、私に地上の光を届けてくれる、暁なのです。


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「なにこれ」

 幽香は呆れて、ぽいっ、とそれを投げた。
 変な文章を載せた変な手紙としかいえなかった。
 地底には、こんな頭から花の咲いたような妖怪がいるのか。

 ただ、思い出してみて、暁というのは気に入った。夜明けの花畑は、幽香が最も好きな光景の一つである。
 日の光を浴びて生きる自分のところに、この手紙がやってきたのは、不思議な縁を感じる。
 落ちた手紙を拾い上げ、土を払って読み直す。
 よく分からないけど、返事を出すのも一興か。
 肝心の文章の方は、わりと皮肉をこめて書いてみた。




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 私が暁だとすれば、名前は陽子とでもしておくわね。
 髪は緑色。お気に入りは赤のチェックのスカート。趣味はお花に囲まれて過ごすこと。
 お茶は緑茶に中国茶、紅茶、あるいはタンポポコーヒー。好きなお茶請けは向日葵の種。

 これで満足したかしら? 地下の変わり者さん。

 陽子


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 せっかくなので、名前もお日様にしてみた。口にしてみて、何となく幽香と似てなくもない。
 これっきりで続くとは思わなかったし、まあ、単なる気晴らしでしかなかったということだ。
 
 しかし、本当に返事がくるとは思わなかった。




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 お返事ありがとうございます。はじめてのことですので、とても緊張しています。
 字が震えて上手く書けないので、読み辛いかもしれません。でも、本当に感謝しています。
 もう一つ告白しなくてはいけません。
 私は地上でも、この地底でも、誰からも忌み嫌われている妖怪です。
 それは私が持っている能力が原因なのです。
 私の名前は古明地さとり。『第三の目』で、他者の心を読める、さとり妖怪なのです。
 地底で私の名前を知らないものはいません。自慢ではありませんが、ここで一番の嫌われ者です。
 
 ここまで読んで、もし気に入らなければ、この手紙を焼き捨てて、忘れてしまってください。
 しかし、こんな私にも、もし情けをくださるなら、もう一度返事をください。
 ほんのわずかな勇気を出した、私の望みです。よろしくお願いします。陽子さん。

 さとり


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 さとり妖怪。それは昔、噂に聞いたことがあった。
 どれもいい噂ではなかったし、実際に想像してみて、いかにも嫌われそうな能力に思える。
 しかし、手紙の送り主は、地底ですら恐れられている妖怪にしては、ずいぶんとバカ丁寧で臆病な感じだった。
 はっきり言って、陰気なのは好きじゃなかったので、ちょっとアドバイスを含めることを考えながら、返事を書いてみた。暁の使者、夜明けを告げる役目、なんてことを考えつつ。




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 言っておくけど、うじうじしていても、いいことなんてないわよ。次はもっと明るい返事を期待するわ。
 地底にいるからそうなるのかしら。太陽の精からのメッセージを受け取りなさい。
 さとりん。どんな花にも咲く権利があるわ。ただし、咲こうと思わなければ、いつまでたっても種のまま。だから自分もきっと、花を咲かせることができると、自信を持つことからはじめなさい。そして、貴方を支えてくれる土に感謝して生きること。土が無ければ、芽を出すことはできないでしょう。
 そして最後にもう一つ。花が笑っているのは、光を集めるためなのよ。知っていたかしら?
 だから貴方も笑ってごらんなさい。お日様は、照らす生き物を選んだりしないんだから。

 陽子


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 読み返してから、『さとりさん』の『さ』が一文字抜けて、『さとりん』になっていることに気がついた。
 だけど、書き直すのも面倒だったので、そのまま出すことにした。
 そうしたら、返ってきた手紙の文章が、異様にはしゃいでいて面食らった。『さとりん』と呼ばれたのが、よほど嬉しかったらしい。
 意外と子供っぽい性格してるのね、と思いつつも、今さら『さとりさん』に戻すのも可哀想な気がしたので、『さとりん』のままで通した。すると、自分の書く文章も、雰囲気が柔らかくなったので、少し驚いた。

 そう。それからだ。
 最初はおふざけだったのだが、幽香は次第にそれが楽しみになり、いつし本気になっていた。

 個としての実力が強力になればなるほど、妖怪は一人の時間が増える。
 すでに妖怪として長く生き、強くなりすぎた幽香には、友達と呼べる存在などいなくなっていた。
 だが、それでも苦にはならなかった。彼女には花達がいたし、自然と調和して孤独に生きることが、妖怪の寿命を延ばすのだから。

 しかし、その日常が、たった一通の手紙によって、大きな変化を遂げたのである。
 埃のかぶっていた感情が、手紙を交わすことによって、輝きを取り戻していく。

 さとりの悩み相談は、幽香が真摯に聞いていくうちに、少なくなっていった。
 その代わり、互いの日常についてのやり取りが多くなった。
 何気ない地上の一風景でも、彼女は喜んで読んでくれる。
 だけど、あえて面白いニュースが無いか、幽香はよく探すようになった。

 ある時は、使う花に丁重に断ってから、押し花を作って同封してみた。
 しかし、期待に反して、彼女からの返信は、かなり遅かった。
 やっと来た手紙を、引っ手繰るように受け取って、苛立ちながら封を切ると、違う押し花がでてきた。本文には、地底では綺麗な花が少ないので、えらく探し回ったらしきことが書かれていた。
 幽香は次の手紙に託して、地底でも元気に咲く強い花の種を送った。まだ会ったことのない彼女が、水をやっているところを想像しながら。
 次の返信には、さとりの好みと聞いていたお茶の葉が、お礼にと入っていた。幽香はその香りを楽しみながら、もっと大きい荷物が届けられればいいのに、と思った。

 そして、半年が過ぎてから、ある計画を思いついた。
 さとりの容姿についてさりげなく聞き出し、内緒で彼女に似合いそうな花を育てることにしたのだ。 自分の向日葵畑に近い、水はけの良い土地に。
 ちゃんと育った後には、そのお花畑に、彼女を招待してあげよう、と。
 その時に、陽子じゃなくて、風見幽香を名乗ろうと。
 地底にさとりを迎えに行き、彼女と顔を合わせる日が、幽香は待ち遠しかった。

 その計画を明かしたのは、魔法の森にいる適当な知り合いに竈を借りて、クッキーを焼いた頃だったか。
 ネモフィラと向日葵は育った。いよいよ迎えに行って、驚かせてあげたい。
 しかし、中々日取りが決まらない。それどころか、文面から、さとりが嫌がっている気配を感じ、幽香もネモフィラも不安になった。

 そして、突然の拒絶。
 幽香は何百年ぶりかに、心の底からうろたえた。自分の手紙に間違いが無かったか、下書きを何度も読み返した。

 原因について、考えに考えた末に悟ったその理由は、さとりが持つ能力だった。
 忌み嫌われていた彼女も、自分と同じ変化を遂げているのではないか。
 互いに特別な存在になったからこそ、嫌われたくなくなっているのではないか。
 それは、彼女自身が何度も幽香に相談していた、さとり妖怪の能力が問題だとしたら。
 自分に嫌われることを、恐れているのだとしたら。
 しかし、彼女が絶望したままでいることを、許せるはずがない。

 幽香は自分の胸に手を当てた。さとりんに対する感謝は、自信を持って見せることのできる心か、嘘のない思いか、と。
 自信半分だった彼女を応援してくれたのは、ネモフィラと向日葵だった。
 彼女達から勇気を得て、幽香は自身の危険も省みずに、地底へと向かうことにした。
 花達に、必ず彼女を連れてくることを約束して。

 たとえそこにどんな障害があろうと、突き進むだけだ。
 なぜなら、自分にとって初めてできた、掛け替えのない友達である、さとりんが待っているのだから。
 ただ一つの心配は、自分の心を、彼女の『目』は受け止めてくれるだろうか、ということだった。
 その不安に比べれば、鬼だろうと八咫烏だろうと、強敵に値しなかった。
 そして幽香は……、








 そして私は、ついに連れてくることができた。
 だけど、彼女は今も黙ったまま。私を待たせたままだ。
 実は、私よりもいじめっ子だったりするのかしら。
 やっぱり、花は見かけによらないものね。

 ふふ、もう笑顔も原因だわ。傷の回復にはまだ時間がかかるし。
 ここで泣いて倒れたら馬鹿みたい。天狗の新聞に書かれて、私は笑いものになる、か。
 あるいは地底で、土に還っちゃった方が良かったのかもね。

 そうか。この声もさとりんに聞こえてるのかしら。
 幻滅しちゃったのならごめんなさい。無理やり引っ張ってきたことも謝るわ。
 あんなに傷つけてしまうとは思わなかった。
 あの部屋で私の手紙を見つけたとき、すごく泣きたかった。
 力を失った体を支えてる間、すごく胸が痛かった。
 でも、どうしても、この光景を貴方に見せたくて、どうしても渡したくて、連れてきてしまったの。
 思ったとおり、そのネモフィラは本当に似合ってるわ。貴方は想像以上に、可憐な子だったけどね。
 この時間だと特に綺麗ね。やっぱり、もっと自信を持っていいってことよ。

 もう私の願いはかなった。だからお願い、休ませて。昨日から暗いとこで闘いっぱなしで、今も立っているのが辛いのよ。
 本当に危険なペットさんだったわね。でも愉快な二人組だった。
 それに、割と粋な性格してた鬼に、姉思いの妹さん。
 誰もが、さとりんの花を咲かせてくれる、大切な土だと思うわよ。
 だから、大事にしてあげてね。きっとあの土があれば、私がいなくなっても、さとりんは幸せでいられると思うから。貴方がそこで笑ってくれていれば、今の私はもう満足だから。

 ……あら、どうして泣いているのさとりん。やっぱり私が怖い?
 そうじゃないのかしら。だって、逃げずに駆け寄ってくるから。
 あ、お花を踏まないように気をつけて。おっと、そこは転びそうだから危険よ。
 ああ、さとりんが近づいてくる。
 でもそうだった、私はまだ、彼女の笑顔を知らないのよね。放心した顔と、不安な顔と、驚いた顔と、泣き顔しか拝めていない。
 能力を知ったときは、どんな意地悪な面かと思ったけど、可愛い顔じゃない。
 心が読めるってだけで忌み嫌われるなんて、馬鹿馬鹿しい話よね。地底に性格が悪いのが集まっているのは、どうやら本当らしいわ。
 私はそうじゃない、って証明したかったのに。でも素直に思いを伝えるって意外に難しいものなのね。
 不思議ね。花はいつだって正直なはずなのに。私もまだまだってことなのかしら。
 こんなに生きてきたのに、今さら気がつくことってあるのね。
 ねぇ、さとりんはどう思う?

 あれ? さとりんがいない。
 やっぱり、私を置いて消えちゃった?
 まだ言い足りないのに。まだ返事が聞けてないのに。

 あ、そうか。私のすぐ側にいたんだ。
 今私は、さとりんに支えられていて……、


 白いなぁ、世界が。




⊂;⊃




 さとりは泣いていた。胸が張り裂けんばかりに、声を嗄らして泣いていた。
 風に揺れて崩れ落ちそうになる幽香を支えて、その胸の中で涙を流していた。

「どうして……泣くの、さとりん」

 さとりは、幽香の懐で、首を振った。

「どうして……どうしてわかってくれないんですか!」
「喜んで……くれなかった?」
「そんなわけない!! そんなわけないんです!」

 さとりはまた泣き叫んだ。
 乾いていた『第三の目』も涙で濡れていた。

「この『目』を貴方にささげたい! それができれば、私がどんなに感謝しているか、貴方にわかってもらえるのに! この心を、丸ごと伝えられるはずなのに! それができないから……!」
 
 心が読めるということは、なんと贅沢なのだろう。
 彼女の優しさを、余さず受け止めることができる。
 だけど、それ以上に、それを持つのが自分だけだというのが、悲しくてたまらない。
 彼女に、自分の心を読んでもらえないのが。

「私には、抱きしめて、泣きわめくことしかできないんです……! 本当はこんなんじゃないのに! もっと謝りたいのに! もっと嬉しかったのに!」
「……………………」
「ごめんなさい! 隠れていたんです、貴方から逃げたんです! 貴方の気持ちも考えずに! なんて酷いことを……!」

 さとりの声は、罪の意識に、消え入りそうなほど細くなる。
 それでも自分の思いを伝えようと、強く体を抱きしめ、もどかしく言葉をつむぐ。

「……友達でいさせてください……土だけじゃ花は咲かないんです……私が笑っているのは、貴方が光をくれたからなんです……」
「……さとりん」
「……初めてのお友達だったんです……何度でも謝ります……だから……だから、もう一度!」
「さとりん。もういいわ」

 幽香は泣きじゃくるさとりの髪の毛に、頬を寄せて囁いた。

「謝らなくてもいい。もう十分伝わったもの」

 声と『声』が重なり、さとりの心へと届く。

「日の光を浴びて、雨に潤されて、花達に囲まれて、私はそれで満足だった。でも、さとりんは特別。私にとっても、かけ替えのないお友達」

 さとりは、幽香の顔を見上げる。涙に頬を濡らした、その顔を。

「受け取ってくれて、ありがとう、さとりん……」

 そのまま、花の妖怪の体は、地面に崩れ落ちていった。




 さとりは、それを受け止めようと、手を伸ばした。














4 エピローグ




 地上の力ある大妖怪が、地底に下りて来た大事件。それから二ヶ月が経った。
 今では地底の妖怪も、たまに現れる程度だが、地上に姿を見せるようになった。そして地上からも、地底に訪れる妖怪が増えている。
 旧都は一時混乱があったものの、やがてお祭り騒ぎを取り戻していた。
 全てはおおむね元通り。ただし、物事には例外というものが存在するのである。

 地霊殿。灼熱地獄跡にある、怨霊の管理を任された屋敷。
 そこの様子は普段と異なっていた。
 主人の寝室、その部屋の前に、屋敷のペット達が集まっている。その多くは動物であったが、人型の妖怪も混ざっていた。
 誰もが沈んだ顔をしていた。閉ざされた扉の向こうから流れてくる、深い悲しみの気質に。

「今日も……出てきそうにないね」
「そうだね」

 霊烏路空の呟きに、隣に座る火焔猫燐は、相槌を打った。
 あの日、主人を襲った、幸福と悲劇。その衝撃的な事件があってから、傷心のさとり妖怪は、ずっと寝室にこもっていた。
 主人を慰めるのは、ペットの役目のはず。それなのに、彼女は誰も側に近づけようとしなかった。
 二人と他のペット達は、こうしてドアの前で、彼女がまた元気になって出てくるのを、待つことしかできずにいる。

「さとり様……大丈夫かな」
「さぁね……」
「本当に、大切な人だったのね」
「そうだね……」
「私も、お燐が死んじゃったりして会えなくなったら、きっと辛いと思う」
「あたいもだよ……」
「だって、忘れ物したら、思い出せなくなるもの」
「覚えろよ……」

 あまりの発言に、燐はがっくりとうなだれた。
 空は真顔で、扉を見つめたまま言う。

「冗談はさておき、私はこのままじゃいけないと思う」
「そうだね、このまんまじゃね」
「私達だってさとり様を必要としてるし、あの妖怪の代わりにだってなれるはず」
「あたいも同感。けどさ、それをさとり様に言えると思う?」
「言えないわよ。私もさすがにそれはしない。でも、クッキーもあれから食べられないし」
「ああクッキー。あれが楽しみだったんだけどねぇ」

 はぁ、と二人は同時にため息をつく。
 それに呼応するように、周囲の猫達も「ニャー……」と鳴いた。
 と、そこに、そんな暗いムードを一掃するような、朗らかな声がした。

「お燐、おくう」

 やってきたのは、ここの当主の妹、古明地こいしだった。
 両手に、籠をかぶせた大きな鉢を抱えている。
 肩から下がった『第三の眼』は、相変わらず閉じたまま。だが、その瞼の色は濁っておらず、青く澄んでいた。
 彼女を見て、ペット達はその足元に、嬉しそうに集まっていく。こいしは鉢を頭の上に載せて、それらを適当にあしらった。

「はいはい、またあとでね」
「こいし様、それはどうしたんですか?」
「お姉ちゃんを元気にする、魔法のアイテムだよ」
「え、本当に!? さとり様が、元に戻るんですか!?」

 空と燐が、驚いて立ち上がる。他のペット達も、飛んだり跳ねたりして騒ぎ出した。

「きっと成功するよ。二人は居間で待ってて。今勇儀さんが来てるから、相手をしてあげててね」
「はい、わかりました!」
「頼みましたよ、こいし様!」

 その場をあっさりこいしに任せて、二人は嬉しそうに駆けて行く。他のペット達もそれに続いたり、別の持ち場へ戻ったりと、皆去っていった。
 こいしはそれを見届けてから、扉に向き直る。そして、鉢を抱えたまま、足でノックをした。

「お姉ちゃーん。わたしー。こいしー。開けてー」

 しばらく待ってみたが、部屋の中からは物音一つしなかった。

「お姉ちゃん、開けてよー。手がふさがってるのー」

 再び、ゲンゲン、と扉の下を蹴るものの、やはり全く返事がない。
 と、胸の前の閉じた『第三の眼』がわずかに動き、こいしは眉をひそめた。

「……お姉ちゃん、まだそんなこと言ってるの?」
「………………」
「もういい加減諦めてさぁ、これを見てよ。きっと驚くよー」
「………………」
「中に入れてってばー。いつまでもいつまでも、そんな暗ーいぶつぶつ『声』で、ゆうかり……」

 ……ガチャ! バタン!

 すさまじい勢いで扉が開いた。
 そこには、パジャマ姿の古明地さとりが、どんよりした顔で立っていた。
 アクセサリーのついてない髪は乱れており、目は赤く腫れている。
 さらには、全身から怒気があふれていた。総合的に、般若とにらめっこができそうなほど、すさまじい形相となっていた。

「こいし……」
「なぁに、お姉ちゃん?」
「今度その名を口にしたら……絶対に許しませんよ」
「だって、お姉ちゃんが心の中でずっと言ってるんだもん。あんなにうるさかったら、嫌でも聞こえちゃうわよ」

 ホラーな姉を全く恐れぬ様子でそう言いつつ、こいしは踊るような仕草で、明かりの消えていた部屋の中に入る。
 彼女の背に向かって、さとりは固い声で言った。

「約束してください、こいし。これはマジです。古明地さとりからの、一生のお願いです」
「アイス十本ね」
「十本だろうと百本だろうと構いません。だからお願いします」
「わかったってば」

 照明のスイッチを入れてから、机の上に、こいしは鉢を置いた。
 そして、姉が今まで寝ていたであろうベッドの側に行き、くずかごに入ってなかったティッシュをきちんと片付けた。
 ついでに、落ちていた手紙もちゃんと拾ってあげる。

「ああこれ。まだ読んでたんだ。忘れちゃいなよ、いい加減」

 さとりの恨めしげな視線が、さらに強くなった。

「よくもそんなことが言えますね。私の気持ちがわからないんですか。もう心が読めてるくせに」
「ひっどーい。読めるって言ったって、まだちょっとよ。それに、あの人を忘れろっていう意味じゃないわ。あの出来事を忘れて、ってこと」
「忘れられるはずがないでしょう。……今もここが痛いんですから」
「知ってるけどさ」
 
 手紙を綺麗にたたみつつ、こいしは同意する。
 そこでさとりは、片手で顔を覆って、さめざめと泣き始めた。

「いいんです。きっとこれも、さとり妖怪の宿命だったんです……」
「またそうやってすぐ落ち込む」
「だって悲しくて、自分が情けなくて……ああ……せめて……心の中の友達でいさせてほしい……」
「それよりほら、これ見てよ」

 また泣き言を聞かされる前に、こいしは姉の側に来て、

「じゃーん」

 と、机に置いた大きな鉢から、かぶせていた籠を手品のように取った。
 現れたのは、一輪の花だった。
 こいしは得意げに明かす。

「ね、あの花が咲いたんだよ。びっくりしたでしょ」

 さとりは呆気にとられた表情で、その花をまじまじと見つめていた。
 少し斜めを向いた茎から、白い蕾が咲いている。ふちを緑色に染めたホイップクリームのような、あるいは妖精のスカートのような花。 
 一見おとなしげだが、内に秘めた静かな力を感じさせる、不思議な花。

「綺麗な色だよね。私はもっと、カラフルな色した変なのが咲けば、と思ったけど、こういうのも可愛いよね」
「……………………」
「お姉ちゃんが落ち込んでるときも、あの人は励ましてくれていたんでしょ。だから元気だしてねってことよ」

 それだけ言って、こいしは部屋の外へと戻っていく。
 さとりはしばらく、鉢の前で立ち尽くしていた。

「あ、そうだった。クッキーの作り方教えてくれない?」
「…………え?」

 花に目を奪われていたさとりは、そちらを向いた。
 扉の影から、こいしがひょこんと顔を出している。

「お姉ちゃんが作れないなら、私が代わりに作るから」
 
 妹は無邪気なようでいて、どこかはにかんだ笑みで頼んでくる。
 それにさとりは、今度こそ肩から力を抜き、苦笑した。

「……分かりました。教えてあげますから、キッチンで待っていてください、こいし」
「は〜い」

 廊下を歩く軽快な足音が、遠ざかっていった。
 さとりは小さくため息をついて、鉢に咲いた白い花を、そっと指で撫でた。

 本当に、昨年の文通があってから、調子を狂わされてばかりだ。
 怒ったり泣いたり、喜んだり笑ったり。
 次々と湧く感情に振り回されたまま。クールなさとり妖怪はどこに行ったのだろうか。
 だけど、変わったのはさとりだけではない。
 一番の変化は、妹のこいしが、徐々に心を読み始めたこと。
 もちろん恐る恐るといった感じで、まだ無意識に頼ることはあるけれど、それでも昔のように、自分と積極的に話したがる妹が帰ってきてくれた。
 今だって、こちらが落ち込んでも、ああやって機転を利かせて支えてくれる。
 その二人の変化が、ペット達にも伝播し、地霊殿は以前よりもはるかに明るい雰囲気となった。
 全ては、自分が蒔いた種。あの時の手紙、ほんの少しの勇気から始まったのだ。

 この花はなんという名前だろうか。
 あの時のネモフィラのように、この花にも、大切なメッセージがこめられていたに違いない。
 それはきっと、さっき妹がかけてくれた言葉と、同じだと思う。
 元気を出して。土に感謝して生きなさい。

 そうすれば、お日様はやってくる。

「……よし」

 さとりは三日ぶりに、気合を入れなおした。
 いつまでも落ち込んでる場合じゃない。古明地エンジン再スタートだ。
 こいしの言うとおり、元気を出さなきゃ。これから忙しくなるんだから。

 さとりは左手を、う〜んと上に伸ばした。
 『ギプス』をはめた右腕の痛みに、ちょっと顔をしかめつつ。

 あの人は呆れて笑うだろうか。それとも、血相を変えて慰めてくれるだろうか。
 彼女から来た手紙を読んで、はしゃいで準備に奮闘し、三日前に手の骨を折った自分を。
 『その時』から、クッキーもおもてなしもできなくなったことで、気分がどん底の状態のまま過ごしていた自分を。

 そしてまた、あんな時が過ごせるだろうか。二ヶ月前のあの時間。
 さとり妖怪として生きてきて、もっとも幸せを感じた、あの素敵な時間を。

 ――どこか、二人っきりになれる場所があればいいんですけどね。

 さとりはペット達を呼び、服の着替えを手伝ってもらった。
 そして、こいしの後を追って、部屋を出て行く。
 後には白い花が一輪、そして、一週間前にこの地霊殿に届いた、新しい手紙が残された。








〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


はぁい、さとりん。元気かしら?
といっても、もらった手紙の内容からすると、聞くまでもなかったかしら。
一人であんなに笑ったのは久しぶりよ。こいしちゃんとペットさん達、相変わらず賑やかそうね。

地上は梅雨が終わって、いよいよ本格的に夏がやってきたわ。
太陽の畑も、そろそろ向日葵が満開になるから、さとりんに見せてあげたいわね。
他の妖怪達は閉口してるけど、正直この暑さは、私にはとってもありがたいの。
なぜかといえば、あの時の怪我が順調に快復して、もうすっかり元気になったからよ。

そう。だから、また地底に遊びに行こうと思っているの。
突然訪ねることも考えたけど、やっぱり悪いと思ったからね。
今度は余裕を見て、二週間後の▲▲日に、そちらにお邪魔します。
お土産も持っていくから、期待していてね。

そうそう。あの花はどうなったかしら。順調にいけば、そろそろ咲く頃だと思うのだけど。
花言葉はその時に教えてあげる。そんなに難しい内容ではないわ。
さとりんならきっと当てられると思うから、頑張って考えてみてちょうだい。

それでは、会える日を楽しみにしています。
地霊殿のみんなにも、よろしく伝えてね。


追伸
あの時の約束覚えてるかしら?
今度行った時もちゃんと守ってね。忘れちゃだめよ。

また二人で、あんな時間が過ごせたらいいわね。

 幽香


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜








 それは、二ヶ月前のあの日のこと




⊂○⊃








 朝焼けが雲を染め、西風に花が揺れている。
 お花畑の真ん中で、さとり妖怪が座っていた。
 その膝枕には、花の妖怪が頭を乗せている。
 彼女の髪を撫でながら、古明地さとりは呟いた。

「気がつきましたか、幽香さん?」
「……………………」

 風見幽香は目を閉じている。だけど、彼女の心の変化が、膝を貸すさとりにはわかった。

「いいですよ。休んでいてください」
「……………………」
「いいえ。妹にも、ペット達にも、これをしてあげたことがあります。いつも喧嘩になるので、しばらくしていませんでしたが」
「……その気持ち少しわかるわ。頑張った甲斐があったってわけね」

 幽香は気持ちよさそうに、寝返りをうちながら言った。
 その台詞は、彼女の心の声と、全く一致していた。

 はじめさとりは、倒れかけた幽香を受け止めて、動転し、叫んで助けを呼ぼうとまでした。
 だが、すぐに彼女が命を落としたのではなく、すやすやと寝息を立てているのに気がつき、へなへなとその場に尻餅をついてしまったのである。
 後は成り行きで、膝枕を貸している。改めて、こんなに強力な妖怪が、心を許してくれているのが、とても不思議だった。

「あら、さとりん。笑ったら、そんな顔してるのね」
「えっ、あ……」

 さとりは思わず顔を撫でた。
 横目でそれを見上げる幽香は、くすくすと笑い声をたてて、

「さとりん、今も私の心が読めているの?」
「え、ええ。どうしても、この距離だと、自然に聞こえてしまうんです」
「そうなんだ……」

 そう呟いて、幽香は瞳を閉じた。

(私が陽子で、幻滅しなかった?)

 その質問に、さとりは間を置かずに答えた。

「幽香さんが陽子さんで、本当によかったです」

 それからの時間は、本当にゆっくり過ぎた。二人は初めて、手紙を使わずに、間近で言葉を交わした。
 地上の四季の景色について、お互いの境遇について、これまでの文通について、今この瞬間について。
 ただ幽香があまりにも正直に話してくれるので、さとりは逆に戸惑ってしまった。
 先の不安が、膝に乗った温もりで、全て消えて無くなっていく感じがする。
 彼女とは、まだ友達でいられる。これからもずっと。そんな気がした。
 やがて、幽香は頭を起こした。

「もう起き上がっても、平気なんですか?」
「ええ。こんなところ、天狗に見つかったら大変だし」

 髪を指ですく幽香は、悪戯っぽい目でさとりを見る。

「あら、その様子だと、もう少し寝ていてほしかったの?」
「……幽香さん。実は心が読めたりしませんよね」

 図星をつかれたさとりは、赤くなってぼそぼそと言う。さっきからずっとこんな調子だ。
 さとり妖怪が会話の主導権を取られるなんて、聞いたことがなかった。
 そう思うと、やっぱり彼女は変わってる、と思う。
 さとりも立ち上がった。

「残念ですが、私もそろそろ帰ることにします。妹もペット達も、きっと心配しているだろうから」
「そう。今日は会えてよかった。本当に楽しかったわ」
「私もです」

 そう答えるさとり妖怪の足は、しっかりと大地を踏んでいた。
 そして、花の妖怪の視線を、まっすぐに受け止めていた。

「文通……まだ続けてくれるかしら」
「ええ。でもやっぱり、たまにはこうして会いたいです」
「そうね。今度は地底に、ゆっくりお邪魔させてもらうわ。さとりんの作ったクッキーも食べてないしね」
「ふふ、そうでしたね。たくさん作りますから」
「その時はまた手紙を書くわ。でも、地上の世界も、悪くないでしょ」
「それを教えてくれたのは貴方ですよ。忘れません。ここが大好きになりました」

 さとりはもう一度、ネモフィラと向日葵を、そして太陽の畑を見渡した。
 色鮮やかな地上の世界を、両目に、もう一つの『目』に焼き付けるために。
 そして、深呼吸してから、忘れずに言った。

「プレゼント、ありがとう。また、連れてきてください、『ゆうかりん』」

 ………………あっ。

 思わず言ってしまってから、さとりは手で口を押さえる。
 幽香の顔から笑みが消え、まなじりが吊り上がった。
 そして、さとりが弁解する前に、ぷぃっと向うに顔をそむけてしまう。

「ご、ごめんなさい幽香さん! つい……その……一度言ってみたくて……」

 言い訳する自分がみっともなくて、さとりは土に埋まりたくなった。
 いくらこれまで文通をしていて、今日一日で打ち解けたといっても、彼女ほどの大妖怪となれば、当然プライドも高いのだ。
 それを忘れて、つい調子に乗ってしまった。
 怒らせてしまったのか。ああ、やっぱり心が読めるのは、こんな時に辛い。

 謝るさとりに背を向けて、幽香は口を閉じたまま、小さな声で呟いた。

(ゆうかりんか……。敵わないわね、貴方には)

 さとりにだけ聞こえる『声』で、ほんの小さく。


(でもそう呼ぶのは、絶対に二人だけのときにしてね、さとりん)








〜おしまい〜
まずは、こんな長い作品を最後まで読んでくださって、ありがとうございます。
私が選んだ「色」は、色法の加法混色の図。光の三原色を混ぜて、白い光を作るというものです。
図は比較的有名なんですが、それを見ていると、不思議なことに気がつきます。
片側には、髪の『緑』と服の『赤』、そして向日葵の『黄』。力強いその三色の反対側には、地味でしっとりした色が三つ。
でも六色が揃って、はじめて『白』が生まれる。
この物語の種は、そんな所から生まれて咲きました。
一人はその強さゆえに、一人はその能力ゆえに。互いに孤独だった二人は、きっといい友達になれると思います。
それでは改めて、ご読了ありがとうございました。

(ちなみに、ネモフィラの花言葉は、いっぱいあります。可憐、どこでも成功、清々しい心、私はあなたを許す……どれも素敵な言葉です)

6/15
後ほど、時間の関係上カットせざるを得なかったエピソードを加えた、完全版をお届けするつもりです。
一度投稿したものを変更するのは、マナー違反な気がしないでもないですが、どうしても気がおさまりませんでした。
申し訳ございません。

6/20
というわけで、完全版をお届けいたします。
前のVerを読んでくださった方々にとっては、蛇足だったりクォリティが落ちていたりするかもしれませんが、書いた当人としては、当初思いついたストーリーに、より一層近づくことができたと思います。
未熟な出来ながら、たくさんの温かいコメントをいただいたこと、そして、こんぺという舞台で4位という称号をいただいたこと、感謝の念に堪えません。
本当にありがとうございました。

(コメ返しについては、近々コメントにてさせていただきまする)
ぴぃえぬえす
http://yabu9.blog67.fc2.com/
作品情報
作品集:
最新
投稿日時:
2009/05/09 21:27:26
更新日時:
2009/06/20 18:23:44
評価:
26/31
POINT:
199
Rate:
1.66
1. -3 名前が無い程度の能力 ■2009/05/10 00:41:41
新鮮な組み合わせ、中々楽しめました
2. 10 名前が無い程度の能力 ■2009/05/13 21:58:28
最高だった
ただただそれだけしか言えません。
3. 8 佐藤厚志 ■2009/05/14 08:19:28
まるで夏の日に飲むサイダーの如く、鮮やかで清澄、快活な小説でございました。
あだ名ってのは不思議な魅力を持っている。当人達にしか判らない甘美な暗号というのでしょうかね。
さとりんはいいあだ名だな、私は小さい頃、何故かビスマルクと呼ばれていました。酷いあだ名です。何故なら成人になった現在、それが何を表していたのか、幾ら考えてもまるで見当が付かないのです……。
4. 7 名前が無い程度の能力 ■2009/05/15 13:00:10
さとりの心を解きほぐしてく幽香の優しさがよかった
5. 5 パレット ■2009/05/18 00:34:37
面白かったのですが、さとり(あるいはこいしも)が第三の眼を開くことに対する描写の積み上げというか、そこにいたる道筋がちょっと物足りなかったかなあと感じました。幽香のプレゼントの場面の一瞬の切れ味がその役割を担っているのでしょうけども、あれだけだとなんとなく物足りないかなあと思ってしまって。
陽子さんとの文通や、彼女が地底に来ることへの絶望などなど、さとりが第三の眼を閉じたことに対する過程がしっかりと描かれていただけに、余計にその印象が強かったです。
6. 8 神鋼 ■2009/05/24 10:16:00
私はこの二人って精神的に物凄く頑丈だと思ってるんですよ。
んでこの作品は私のイメージと殆ど逆なんですが、いや面白かった。
さとりの葛藤や主人思いのペットたち、内面乙女な幽香など実に微笑ましかったです。
7. 9 As ■2009/05/24 15:50:27
幽香かわいいよ幽香。
とても良い作品でした。ただあと少し、蛇足になってしまうのでしょうが閉じていた眼を開いたこいしが
何をどう思いこれからどうしていくのかが気になりました。また彼女の眼が開くことがあればいいのですが。
8. 10 三文字 ■2009/05/24 23:26:42
ひゃはー!ゆうかりんだぁぁ!!気弱そうにするゆうかりんがとっても可愛かったわぁ……
ゆうかりんはやっぱり優しくて乙女なんですよ。そしてさとりんも優しくて乙女なんですよ。
途中の種の行でああ、ゆうかりんかな?と思ったらずばりでしたね。そしてその後のバトルがなんとも言えず、恐ろしい。
地底を突き進む彼女を思い描いたらゴジラのテーマが……
でも、最後のさとりが泣くところでは思わずこっちも泣きそうになりました。
友情っていいですね。この二人は本当にいい友人になりそうだ。
あと、ところどころに入れられた第三の目の変化も見返してみると面白かったです。
どこか不器用な彼女達の新しい友情をありがとうございます。
9. 7 気の所為 ■2009/06/02 20:00:24
あ、甘い……本当に良かったね、さとりん。
初めて見る組み合わせでした。太陽の象徴と地底の象徴。これは面白いカード。
全てのキャラが生き生きとしていて大変引き込まれるお話でした。個人的に一番いい仕事をしたのはこいしかな。
10. 9 有文 ■2009/06/08 01:05:04
凄いい話です。
幽香が男前過ぎて最高で、さとりが非常に可愛らしく、こいしもまっすぐで健気で、なんとも良いお話でした。
11. 7 so ■2009/06/11 07:32:11
あとがきを読んではじめて、ああそういう風に「色」を使ってるのかとわかりました。
12. 10 読人 ■2009/06/11 09:18:27
文句無しに満点を付けられる素晴らしい作品でした。
描写が丁寧で登場人物達の相手を思いやる気持ちがすごく伝わってきます。
最後のさとりと幽香の会話では涙腺が決壊してしまいました。
光の三原色からこれほどの発想が生まれるとは素直に脱帽です。
内心ではドキドキしているゆうかりんが愛らし過ぎる……
13. 7 ふじむらりゅう ■2009/06/11 23:44:26
 さとりんとゆうかりんきた! かわいい! というとたぶん照れるこのふたりは。
 なんというか、幽香強すぎます。特にヤマメとかパルスィとかに対して。
 最初はゆかりんだと思ったけど、まさかのゆうかりんでした。
 終わってみればなかなかいい話で、でもちょっとさとりが弱すぎかな、とも。
 欲をいえばエピローグが読みたかった。こいしとかちょっと気になる。
14. 10 どうたく ■2009/06/12 00:42:06
 良いところ
素晴らしいの一言に尽きます。
 この作品を読み終えたときの、感動。
キャラクターがいきいき動いているのが、自然と頭に浮かび上がってくるような台詞回しと描写。
そして優しく、難解な言葉を何一つ使っていないのに、読者を逃がさず、飽きさせず、状況を的確に描写する文章力。
さとりとゆうかりんのキャラをうまく、適格に使ったストーリーの構成、程よい長さ、更に「信頼」というテーマ性(これは私の見解ですので、違っていた申し訳ないです)
壮大な知識量を控えめに、けれどもしっかり作品中に表現している所。(これはあとがきを読んだとき、おおっ! すげぇ! と感じました)
何一つ欠けているものがない、まさに卓越された作品だと感じました。
 おそらく私が目指している作家の像に限りなく近かったのでしょう。尊敬の念しか感じません。
 避難されるのを承知で言わせていただくと、この作品を私はもうすでに二回読んでしまい。今では三回目を読み始めてしまった所であります。それは作者の本当に優れた文才をこれからの私の作品の参考にしたいがためでもあり、またこの世界観に浸っていたいからでもあります。
 またこの作品を読んで、地霊殿のキャラとゆうかりんが好きになってしまいました。お空とお燐のコントじみた、けれども親友としての愛らしさ。勇儀のかっこよさ。こいしの可愛らしく、また姉思いな所。ゆうかりんのSの部分と優しい所。そして、さとりのやはり「人に嫌われたくない」という本心と女の子らしい所。全てがひしひしと伝わってきました。(実はというと、もうゆうかりん×さとりんしか考えられなくなってしまいました(汗)罪作りな作品です。)
 まだまだ書ききれないほどの感想があります。けれども、それは果てしなく、また膨大な量なのでここで終らせていただきます。最後に、私にとって、このこんぺ中最高の作品だったことを言わせてください。

 改善点
 読み返して一つ気づいた点があります。
 作者の連続する台詞回し。それはとても自然で嫌味なく、またテンポがよく魅力があるのですが……。
 やはり五つ以上続くと、なんだか違和感。(うまく言い表せないのですが)を感じました。
 作者は適格な描写でカバーしているので、問題ないのですが。やはり少ない時は1〜2。テンポが良いときは3〜5個で一旦描写を入れるほうが、内容と流れを把握しやすいと思いました。作者なら台詞の間に良い表現を間違いなく入れることができると私は思います。
私が見つけられる所はそれくらいでした。とにかくそれ以外は私の実力では、見つけられそうにありません。
 
 素晴らしい作品を有難うございました。
15. 10 八重結界 ■2009/06/12 18:27:37
大妖怪だろうと覚りだろうと、向き合うということになれば人間のように躊躇ったり悩んだりするものなのですね。
そういう場合にさとりは逃げ、幽香は追いかける。何ともらしい行動をとったものだと思います。
これを切っ掛けにさとりが地上へ出てくるようになれば、苦労もあるだろうけど、地霊殿はもっと明るくなるんでしょう。
16. 7 木村圭 ■2009/06/12 21:36:39
こいし可愛いよ! 他のみんなも可愛いよ!
幽香が良い子すぎるのが多少引っかかるところはあるものの、大妖怪としてのキャラを取り除いてみれば案外こんなものなのかもしれないなあ、とか。
改めて光の三原色の図を見直してみましたが、これ本当に幽香とさとりの色そのままなんですね。着眼点の素晴らしさに脱帽。
17. 4 moki ■2009/06/12 21:54:28
燐に空は可愛いなぁ。
さておき、少し嫌な言い方になってしまいますが、感動させたい・泣かせたいんだろうなというのが透けて見えてきてかえって引いてしまった感があります。シンプルな話なので途中で筋もオチも見えてしまいますし。キャラがストーリーに従わされているというか、感情ってそんな簡単に割り切れるような単純なものではないと思うのです。特に地霊殿の面々なんかは。
18. 6 時計屋 ■2009/06/12 22:50:18
 実直で優しい感じのするSSでした。
 物語は長く、少し冗長かと思えるところもあったのですが、序盤、中盤、終盤のそれぞれにきちんと盛り上がる要素が組み込まれており、ラストまで読ませる力に満ちていた。
 キャラもただ大勢登場させただけではなく、さとりを中心にそれぞれに役割が与えられ、埋没することなく、魅力を引き出していたと思います。

 ただ惜しいと思うのは、やはり王道的な物語であるだけに、先の展開がおおよそ予想がついてしまった点。王道を踏襲するだけではなく、そこからさらに一歩踏み込んだものが欲しかった。
19. 8 ハバネロ ■2009/06/12 22:57:07
序盤の緩さは心配だったけど、締める所からが引き締まってていい感じだった。
今回、初めて没頭して読んだ
タイトルが少し弱い、かも
20. 10 つくし ■2009/06/12 23:05:15
申し訳ありません、時間が差し迫っているため、採点のみにて、感想本文は後ほど改めて。
21. 6 リコーダー ■2009/06/12 23:22:54
文通モノとは思えない、動きのある一作。
心の機微としてはどうでしょうかね。出来れば後日談が欲しかった。
大作お疲れ様です。ちょっと点は辛口気味ですがご容赦。
22. 10 名前が無い程度の能力 ■2009/06/12 23:23:42
適切な言葉が浮かんでこないのですが、良かったです。
23. 8 渦巻 ■2009/06/12 23:23:44
まさかのさとりと幽香のお話、キャラの書き方が上手すぎる
読みやすい展開とは言え、章と章の間の表現や落ちの綺麗さが際立っていました
24. 7 K.M ■2009/06/12 23:33:57
縁は異な物味な物。強くて弱い二人に幸あれ。…………「払う意外」は「払う以外」でしょうか。
25. 9 名前が無い程度の能力 ■2009/06/12 23:55:54
同じネタを考えたことはあったけど、幽香相手とは考え付かなかった。
やたらと2828できる二人をありがとうございます。
26. 10 つくね ■2009/06/12 23:56:03
コメントはすみません後ほど。
27. フリーレス ぴぃ ■2009/06/21 23:41:16
というわけで、コメ返しです。
皆様ありがとうございましたー!

>1様
楽しんでいただけて幸い……って、えー! デレツンですか!?(;゜Д゜)
新鮮な組み合わせ以上のものを伝えられなかった、私の負けということですね……。

>2様
ありがとうございます。いただいたその一言が、次の作品への原動力となります。
さらなる高みを目指して精進しますよー。

>佐藤厚志様
わーお、嬉しいお言葉。実は私、サイダーみたいな物語が好きなんです。
すっきりしていて爽やかで、ほのかな甘味があって痛快なの。まだまだ理想には程遠いですが、いつかサイダーSS書きます。
あだ名はいいものです。さとりんもいいものです。でも、女の子同士ならいいんですが、男同士だとたまに意味不明なあだ名が飛び交いますね。私にも経験あり。

>4様
幽香の中の陽子としての一面が強く出た結果、ということかもしれません。
引っ込んだ原因が幽香なら、立ち直った原因も幽香。本当に人騒がせな二人です(←お前が言うでない)

>パレット様
仰るとおり、後半の描写は力不足でした。あるいは中盤が冗長でした。もっと上手いやり方があったのでは、と思います。
さらなる実力をつけるため、いただいたコメントを、今後の教訓とさせていただきまする。

>神鋼様
そうですね。一般的な印象として、二人は頑丈なタイプだと思います。だからあえて、違ったキャラクターを目指してみました。
まあ書いた人間が強い幽香も乙女幽香も大好きなので、こうなったといえます。さとりについても同様w 
好評ありがとうございました。

>As様
蛇足ではありますが、しかし蛇は足が退化してああなったわけで……。ごめんなさい、言い訳です! 
えーとつまり、実は丸々書いてない場面があるんですよ! 最終盤の一つ手前、ここに『何か』が入る予定でした。
というわけで完全版を書きましたが、こいしについてはあんまり変わってないかもw

>三文字様
そうです! 二人とも根は優しくて乙女なんです! 名前に『りん』がつくんです!w
幽香りんはやはり最強クラスというイメージがあったので、中盤はまさにゴジラのように描きました。
第三の目の変化はわざとらしかったかなーとも思いましたが、SSなんでこれくらいのお遊びは許されるだろう、と開き直ってみました。はっはっは。
これからの二人がどうなっていくのか……続編を書いてみたい気もしますが、今のところ全く思いつきません;

>気の所為様
キャラが生き生きとしているというのは、私にとって最上級の誉め言葉です。
住んでる場所も象徴も正反対な二人だからこそ、この物語が生まれたのかもしれません。
こいしについては超天然、それでいてしっかり仕事してるラッキスターにしてみました。
お姉ちゃんや勇儀との掛け合いは、自分で書いていてお気に入りでしたw

>笊様
「幽香はリグル、さとりはこいしだろ常考」……と、一刀両断にされないために、できるだけ自然な話にしようと思いました。
しかし、中盤の戦闘は、書いてる本人も、冗長だなー、と不満でした。これはもうプロットの段階から気づいていたことなので、勇気を出して別の流れにした方がよかったかもしれません。
そして、SSは温かい気持ちになる話が好きです。暗い話は、読むのは悪くないんですが、書くのが苦手なので、他の人にまかせますw
(誤字指摘感謝! そして、大長編の方も読んでいただき、ありがとうございます。コメント返信を読んで仰天しましたw)

>有文様
ありがとうございます。
幽香のイメージは王子様、さとりんのイメージはお姫さまでした。
それが最後に逆転して、乙女なゆうかりんが現れるというのがこのSSの醍醐味……なのか?w
『第三の眼』を閉じる前のこいしは、頭を撫で撫でしたくなるキャラにしてみました。自我のレベルでも無意識のレベルでも、お姉ちゃんが好きなのー。

>so様
そこが最大のネックだったかもしれません。
もしあとがきが無ければ、色なんて完全なこじつけだと思ってしまっても仕方が無い内容だと思います。
冒頭にほいっ、と乗せておくのもよかったかもしれませんね。まだ工夫が足りないようです。

>読人様
あーうー、ありがとうございます……! 涙腺決壊と聞くと、書いた本人としても泣いて喜びたくなります。
実は描写は苦手なので、必要だと思ったところをできるだけやる、という感じでひーこらやってますw
さとりんとゆうかりんのおかげで、なんとか仕上げることができました。
またこんな愛らしい二人を書く機会があればいいですなぁ。

>ふじむらりゅう様
照れるのがいいよ!
幽香が強いイメージそのままなんでこうなりました。ゆかりんだと全く違う話になったでしょうねw 
エピローグというか、後日談を交えた完全版をアップしました。ご期待に沿うことができればいいのですが。

>どうたく様
こ、これほど長文のコメントとは、書いた人間としては感無量です。(というか壮大な知識量なんて無いってばー!)
あんまり読み返されると恥ずかしいのでほどほどに……推敲不足で投稿しただけに完成度はまだまだだったと思っています。
今回もコメントを見るまで不安でいっぱいでした。拙作を誉めてくださってありがとうございます。
台詞回しについては、まったくもって仰るとおりでございます。
考えてる暇がなかった、と言い訳してしまえばそれまでですので、単に私の技量不足だということにしておいてくださいませ。
完全版でもあんまし変わってないですしね;

>八重結界様
結界さんから10点をいただくとは! 優勝おめでとうございます〜。
ある一面を人間性としてしまい、安易に妖怪や神をその対極に置くというやり方については、前々から疑問に感じています。
もちろん、人間ドラマをそのまま妖怪に当てはめるというのも変な話ですけどね。
地上で何かを見つけたさとりん。彼女が帰還すれば、きっと新しい地霊殿が待っているはず。
みんなに幸せになってほしいですね。

>木村圭様
可愛いは正義です!
ゆうかりんはどSですが、気に入った相手には尽くすタイプ、だといいなーとw
>>三原色の図
ありがとうございます。でもこれ……いやぁ、かなりギリギリであざといかも。
さとりんの髪に朝日を浴びせたり、ネモフィラをもっと青くしてみたりしてますしw

>moki様
>>引いてしまった
うぎゃー、確かにのめりこみすぎていたかもしれません。もっと一歩引いた目で、冷静に書くべきでしたか。
>>キャラがストーリーに従わされているというか
ぐはぁ。生きたキャラクターを目指す私にとって、それは最も辛く、反省すべき指摘です。
今後の課題とさせていただきます。申し訳ありません。

>時計屋様
お褒めいただき光栄です。キャラの魅力を引き出せるSSというのが、私の理想です。
もう一つ、王道だとわかっていても面白い、あるいは一味違う王道、それが私の目標ですが、いまだそれには到達できないようです。
展開にもう少し工夫ができたかもしれません。時計屋さんを満足させることができる王道を、いつか書いてみたいです。

>ハバネロ様
SSに没頭、ああ何と嬉しいお言葉。
序盤の緩さは私も心配でした。中盤からアクセルを踏んで、何とか間に合わせたという感じです。
タイトルは本当にまともなのが思いつきませんでした;
最初は副題だけでしたが、一回やった推敲の最中に聞いていたユーミンからいただきました。
歌詞の内容は全然違いますが、好きな曲です。だけどできれば、もっと目を引くタイトルをつけたかったですねー。

>つくし様
素晴らしい。コメントという短い舞台ながら起承転結ができています。
なおかつ厳選された言葉の一つ一つ、その並びの美しさ。
こんなコメントをいただけるとは、作者冥利につきますね。
さすがつくしさんです。ありがとうございました!
(注 ↑殴っていいです)

>リコーダー様
文通モノというのはできるかどうか不安だったのですが、実際書いてみてこんな感じになりました。割と楽しかったですw
ラストはあれと決まっているので、後日談は書けませんでした。ただし、ラストの直前に、後日談が入る予定でした。
完全版にはそれを入れましたが、期間内に書きれなかったのは私の実力不足ですね。

>23様
言葉はいらない……ということでしょうか!?
ありがとうございます。次も頑張ります。

>渦巻様
書いてる本人としてはあまり意識してませんでしたが、やっぱり驚きますよねこの組み合わせw
キャラの書き方が上手いというのは嬉しすぎます、それを持ち味にしたいと思っているので!
読みやすい展開も私の目指すところです。後は、記憶に残る、が達成できれば、と思います。
それにはまだまだかなー。

>K.M様
現実世界でも、唐突な出会いから始まる縁がありますので、妖怪同士でもそうならないかなーと。
互いに弱さはあるものの、二人が揃えば最強かもしれません。様々な戦闘力においてw
(誤字指摘感謝!)

>26様
光の三原色の図、そして幽香というキャラクターからも、さとりのお相手に自然に決まった感じです。
ですが、他のキャラクターでも色々と面白そうな話ができそうなんですよねw
この二人の場合だと、予想以上の2828オーラが計測されたようです。

>つくね様
チャットではどうもですw
コメントお待ちしております。
創想話に投稿されたつくね様のコンペSSを発見しましたので、後ほど私も読ませていただきまする。
28. フリーレス ぴぃ ■2009/06/22 00:23:28
 以下はどうたく様宛のメッセージです。
 まず、今回私は、他の方々の作品に対するどうたく様のコメントを見て、良い意味で素直に驚きました。読んだ作品の多くに対し、良い所と改善点を挙げていること。これはコメントした方にとってもされた方にとっても、確実にレベルアップに繋がると思いますよ。そんな中で、私のSSを理想としてくださったことについては、大変光栄な話です。ありがとうございます。
 ただし、理想は常に移り変わるもの。これからどうたく様は、私よりはるかに優れた手本を見つけることができると思います。私もSS初心者でして、まだまだ発展途上、技術的にも未熟な段階です。どうたく様に理想と呼ばれることから逃げるわけではありませんが、私のみを理想とするのではなく、もっと他の多くのSSあるいは小説を読み、さらなる理想の形を追求してください。それはもう、私をあっさり追い抜かす勢いでやっちゃてくださいw

 私からアドバイスができるとすれば、次の二つです。
 これは出来るだけ早く行ってほしいのですが、どうたく様の作品に寄せられたコメント、丁寧に返信なさっていると思うのですが、途中から敬称を付け忘れていますよ! SSの最初の読者は、書いた本人です。そこでどれだけ違和感やミスに気づけるかが、投稿したSSの完成度を決定します(つまり推敲というやつです)。『様』や『さん』などの敬称をつけ忘れてしまう、といった細かい礼儀のミスにおいても、人によっては多大な不快感を与えかねないもの。まずは推敲をきちんとし、こうしたことに気づくことが、SSの質を高めるという点でも、第一歩となるかと思われます(無茶苦茶えらそうですみません、実はこれ、私が過去にやった失敗なのですよ)。
 もう一つ。このSSは私の等身大より、ちょっと見上げた程度のSSです。昨年の夏に初めてSSを書いた時から、そのスタンスは変わっていません。どうたく様も今回色々なアドバイスを受けたと思いますが、背伸びしすぎてバランスを崩さないようにしてください。まずはかっこつけずに、自分が読みたくて、かつ誰かに読ませてみたくなるような、好きな物語を作ってみること。それを、自分のできる範囲で、妥協せずに仕上げてみること。いただいたコメントを読んで、反省点を次に生かすこと。そうしてSSの場数をこなしていけば、自然にレベルは上がっていくんじゃないかと思います。
 長々と恥ずかしいことを書きましたが、次回のコンペにもぜひご参加ください。どうたく様の次の作品を楽しみに待っています。ぴぃえぬえすでした。
29. フリーレス つくね ■2009/07/10 14:28:00
コメントが遅れて申し訳ありません。さて折角なので完全版を読んで改めて。
いやーさとりんゆうかりんとは言いますが、ここまで可愛いキャラになるとは・・・このギャップが良い味です。地底郵便局での一幕でが全体的な甘さに対し塩ならぬスパイスとなって、その意味で印象的でした。けれど、こいしが幽香と会い第三の目が開こうとする〜場面はもっと過程があっても良かったんじゃないかと思いました。ちょっと短すぎる気が。
あとは後半、幽香が手紙のやり取りを回想する場面は特に幽香のこれまでの心情を描く部分は説明臭く感じられました。
最後に、チャットの時はお世話になりました。そして私の方にもわざわざご感想をいただき誠にありがとうございました。――っていうか感想いただいておいてこの為体orz 申し訳ありません。
30. フリーレス ぴぃ ■2009/08/01 23:28:07
>つくね様
コメントありがとうございます! そして、返信が遅れて申し訳ありません!
一般的なイメージとは違うかもしれませんが、こんな性格の二人が私のジャスティス!
さて、さとりが目を再び開く時間は、当初から短くするという予定でした。
あまり、だらだら書くと、私の場合、どうしても冗長になってしまう気がするので(汗)
後半の幽香のシーンに関しては……グゥの音も出ません。まさにおっしゃる通りです。要工夫でしたorz
また次のコンペチャットでもお話しましょうね〜ノシ
31. フリーレス kou ■2014/03/09 19:37:44
本当に素晴らしい作品。
最初は意外すぎる組み合わせと感じるけど、
色もそうだし、花の気持ちが分かる幽香と動物の気持ちが分かるさとり。
そんな共通した孤独感を持っている二人。文章に強そうな二人。と考えるほど合ってくる気がします。

本当に面白かった!
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