桜と巫女服の心底どうでもいい話

作品集: 最新 投稿日時: 2009/05/09 23:00:32 更新日時: 2009/05/09 23:00:32 評価: 20/20 POINT: 76 Rate: 0.96
 幻想郷にも、また新しい春が来た。
 冬の終わりにも言えることだが、これといった具体的な境界は存在しない。もはや四季の節分は形式に近く、次の季節を待ち望む儀式となっている。
 つまり季節の移り変わりはとても曖昧なもので――ふ、あ、おはよう、霊夢――そんな世界の隙間の期に、大妖、八雲紫が眼を覚ますということで。
 そして紫はいつも通り何時の間にか、博麗神社に現れた。
「――おはよう、紫。今年はずいぶん遅いんじゃないの?」
 廊下の縁に座って一休みしていた霊夢は、突如として現れた紫に目もくれず茶を啜る。
「あら、今年はもう桜が満開なのね。暖冬だったからもう少し遅くなるかと思ったけど」
 紫は霊夢と茶と茶菓子の乗った盆を挟むようにして座っている。
 二人とも、視線は境内の桜の木だ。
「なんで冬が暖かいと開花が遅くなるのよ?あと、あなたの分のお茶はないわよ」
「あらあらつれないわね」
 紫が盆の上に指を滑らせると、盆に穴が開き茶の入った湯呑が生えてくる。
「春眠、暁を覚えずって言うでしょう?つまり冬から春っぽいと桜もねぼすけになるのよ」
 そんなものかしら、と霊夢は呟きながら自分の湯呑を傾ける。
 そんなものよ、と紫は返し隙間から取り出した湯呑を傾ける。
 しばしの無言の後、桜の木を眺めていた霊夢が口を開いた。
「ところで、何で桜は桜色なのかしら?」
「桜が桜色じゃなかったら桜色は桜色じゃなくなるからでしょう」
「そうじゃないわよ、桜色が桜色って言わなくても構わないけど、桜がなんで桜色をしているかって聞いてるの」
 そうねぇ、と紫がせんべいをかじりながら、しばし桜を眺める。
 その一枚を食べきるころ、再び、そうねぇ、と呟く。
「桜として見てほしいからじゃないかしら」
「桜として見てほしい?」
 そう、と紫は頷き、
「例えば、霊夢は巫女として紅白の服を着ているでしょう?」
 ちらり、と紫に見詰められた霊夢は、その視線を追うように己の巫女服を見る。
「そうね、ハレの紅と死の白。それが巫女服、私の役職を表す――あ」
 はと、霊夢は視線をあげる。紫はそれを認め、
「わかったわね。桜は――己が桜であると他者に認めてもらうために桜色をしているの。桜が桜色でなくなったらもはやそれは桜の形をした何か。あなたの服だって、真っ白になったら唯の死装束でしょう?」
 紫はそこで言いきると、桜を眺めながら茶をすする。そんな紫を見ながら、もし己の巫女装束が真っ白になったらと霊夢は考える。
「まぁ、絶対着ないというわけじゃないわね。十年後か二十年後か、それとも百年後か」
 でも、と一息間を置き、
「それはもはや博麗の巫女、博麗霊夢ではなく、かつて巫女であった博麗霊夢の死体ね」
「そういうこと、もし桜色でない桜が桜と名付けられたとしても、それは桜ではないのよ」
 ふうん、と霊夢は茶をすすり、思いついた疑問を口にする。
「じゃ、たとえば烏天狗が桜の写真を撮ったりしたとして、その写真が日焼けしたりしたら、それに写っているのは桜じゃない何かになるの?」
「桜を写した写真が色あせただけだから、それが写っているのは桜のままよ」
 そもそも、写真に写った桜は、写真に写った桜、というものになるのだけれどね、と付け足す。
「じゃ、桜は桜だから桜色なんじゃなくて、桜色だから桜なのね」
「あとは色の形と言うのも大切ね」
 形?と霊夢は小首を傾げる。
「ええ、桜色が桜の形をしているから、桜は桜と呼べるの。巫女服だって、紅白の横縞だったら巫女服じゃなくてただの突飛な服装ですわ」
「嫌ね、そんな近所の方々から苦情を受けそうな色遣いは」
「でしょう?色と形と言うのは昔からその存在を認めるために使われてきたの。形式って言葉はもともと形色って字の、色よりも複写し易い羅列に変化してできた字なのよ」
「本当?」
「嘘」
 霊夢は眉根を詰めて紫を見るが、紫はまるで意に介さず煎餅を齧る。
 将来の小皺のもとになるだけだと悟った霊夢は早々に紫から視線を外す。
「そうなると、虹って一体何なのかしらね」
「龍の通った跡って言われているけど、そんな頻繁に龍が通っていたら幻想郷は滅びているわね」
 だからそうじゃなくて、と霊夢は再び紫に視線を向け、
「色はありとあらゆる色があるけど、形なんて唯の円な虹って、一体何なのかしら?」
「虹じゃないの?」
「ああ、虹ね」
 霊夢は紫の言葉に納得すると、湯呑に残った茶を啜る。
 それを盆に置くと、そこにはもはや空になった茶請けの皿と、茶っ葉の付いた湯呑しかない。
 そろそろ一休みも終わりにしようと、霊夢は立ち上がり、盆を持つ。
 そして台所に向かおうとしたところで、紫が声をかけてきた。
「霊夢ー、どうせだから今夜は宴会にしましょう、せっかくの桜が散ってしまってはもったいないもの」
「そうね、別にいきなりでも人集めには困ることはないから」
 足を止めずに霊夢は言うと、廊下を曲り、紫の視界から消える。
 紫は足音も聞こえなくなったところで、ふと春の空を見上げ、
「虹って、紫と赤が一番遠いのよねぇ……」
 呟き、とんっ、と隙間の中へと消えて行った。
 おかしい・・・最初はアリマリの戦闘もの書こうと思ってはずなのに、なんでゆかれいむになったんだろう?
 もはややまなしいみなしおちなし。作者の脳内に出てきた言葉の羅列にしかなっていません。
 因みに心底どうでもいい話ですが、虹色の端は赤と紫で、赤の外は赤外線、マイクロウェーブ、各種電波であり、紫の外は紫外線、レントゲン線、放射線となっていきます。
 照射量が同じなら、赤より紫の方がより多くのエネルギーを持っているんですね。だからなんだという感じですが。
 にしても色って面白いですね。所詮電磁波の波長の内人間に視覚で感知できるだけのものなのに、それぞれに様々な意味が与えられているって。
 いえ、与えたのも人間なんですけどね。
 
守島裕輝
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投稿日時:
2009/05/09 23:00:32
更新日時:
2009/05/09 23:00:32
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0.96
1. 5 ALL ■2009/05/13 22:11:49
テラゆかれいむ
2. 6 三文字 ■2009/05/17 21:54:33
じゃあ、紫の桜は一体何なのだろう……そんな疑問がふつふつと。
色に形と意味を見出すのは人間のお仕事なのです。
そうやって色々考えていくのもまた楽しい。
3. 2 パレット ■2009/05/18 00:43:12
うーん、ほんとうにやまなしおちなしいみなしに見えました。
「虹って、紫と赤が一番遠いのよねぇ……」は味のある台詞に思えるのですが。
4. -3 名前が無い程度の能力 ■2009/05/18 13:59:57
ん!?起承転結の起しか読んでないような気がするんですが…
5. 7 らしう ■2009/05/22 14:19:16
ああ、どうでもいい話に思えて最後の最後で紫の一言が俺の胸に刺さりました。
ありがとうございます。
6. 4 神鋼 ■2009/05/30 15:20:05
ひょうっとした面白い話でした。でもちと後書きがクドイ。
7. 5 佐藤厚志 ■2009/06/01 01:38:37
ほんわかとした、いい小説で御座いました。桜餅が食べたいです。
でも色って面白いですな。奥が深くて、小説の題材にぴったりです。
8. 3 As ■2009/06/01 01:47:52
確かに、言葉並べてるだけのようにも見えますねー・・・。
長ければいいというものではないのですが、もうちょっと長めのお話を読んでみたかったです。
9. 3 気の所為 ■2009/06/02 23:34:57
紫の最後の台詞が印象に残りました。特に意図の無さそうなところが。
これは登場キャラが好きでないとあまり楽しめないのではないかなと感じました。
私は好きなので何の問題もありませんが。
10. 4 有文 ■2009/06/08 00:45:17
益体の無い話もそれはそれで楽しものですな。
11. 3 ふじむらりゅう ■2009/06/11 00:43:27
 卵が先か鶏が先かみたいな話になってきました(桜と桜色)
12. 7 ぴぃ ■2009/06/12 04:39:59
普通のほのぼの話かと思いきや、最後の紫の台詞がビシッと決まっていい感じでした。
霊夢が赤で、紫が紫(ムラサキ)というのは、やっぱり何か意味があるんですかねぇ。
13. 6 八重結界 ■2009/06/12 18:41:14
うーん、良い雰囲気。最後の霊夢の一言にグッときました。
14. 7 moki ■2009/06/12 18:52:42
なんか実に彼女ららしい、会話ですね。哲学的な会話、禅問答みたいなは惹かれてしまう。
15. 4 どうたく ■2009/06/12 22:11:31
 幻想郷の日常が溢れている作品でした。
16. 5 時計屋 ■2009/06/12 23:02:14
 最後に一言つぶやいて終わるのが、印象的です。
 短いですが良い短編であったと思います。
 色と形とセットで認識するというのも、面白い観点です。
 黄色い文字で『赤』と書くと、人間はその色を一瞬赤色だと判断してしまうとか。
 なにはともあれ、よい閑話でした。
17. 1 ハバネロ ■2009/06/12 23:07:59
ここだけならどうでもいいんだが。紫と霊夢の間でこの話はどうなんだろう
「紫なら本当のことを言わなくてもおかしくない」
で片付けるのは乱暴すぎる
花映塚をやってみるといい。そこに桜の色の事が少し書いてあるから。
18. 3 リコーダー ■2009/06/12 23:08:12
蘊蓄にすらなってないけど、無くはないですね。
19. 1 つくし ■2009/06/12 23:10:15
申し訳ありません、時間が差し迫っているため、採点のみにて、感想本文は後ほど改めて。
20. 3 K.M ■2009/06/12 23:22:38
名前が先か体が先か……それにしてもまことちゃんハウスネタは予想外でした。
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