藤原妹紅の青の時代

作品集: 最新 投稿日時: 2009/05/09 23:17:34 更新日時: 2009/06/18 15:15:49 評価: 22/22 POINT: 156 Rate: 1.57
 こんなことをしても実は何の意味もないのだけれど、もしもかりに何らかの意味があるものならば、私はこれから語るこの物語を、その価値は問わないにしても、ほんの微かながら万人に共通する問題を捉えんとする場面がところどころに存在してはいないかと、それを唯一の心頼みに、この幻想郷に生きる全ての人間、そしてさらには人間を目指す者たちに捧げたくなる気持ちを禁じがたい。

 最初に断っておきたいのだが、結果的にどのような意味を持つことになったにしても、これは元々私自身の極めて個人的な体験を綴ったものにすぎない。
 よって、そこに主観が働くことは避けえないし、中には自分に都合の良いように作為的に事実を改変しようとするふしさえあるかもしれない。

 慧眼な読者や、まだ世の悪意に染まっていない純粋なる人々は、そういった箇所を潔癖症の強迫観念にも似た鋭敏さによって察知し、消毒液の香りのする親指と人差し指を使って摘み上げ、徹底的に洗浄したうえで元の場所に戻したい衝動にかられるかもしれないが、それは少し待っていただきたい。
 何故なら、瀟洒にして完全なる人々にとってはただの穢れであり、嫌悪の対象でしかないそれらこそが、実のところ私が最も皆様方の眼前に曝け出し、刮目していただきたいものであるかもしれないからだ。

 このようなことを述べるのはいかにも押し付けがましい思いがするし、文章的体裁からいっても美しいものではないことを充分に理解してはいるのだが、これをここに書き込むことは、私にとっては是が非でも必要、我が友人の言葉を借りるならば、それこそ後ろ向きで前に進むための心構えに係わる問題であると思っている。










 私の母は身体が弱く、まるで私と入れ代わるかのように、出産してまもなくこの世を去った。
 父は大変身分の高い者であり、私は生活において不自由することはなかったが、外に出ることはあまり良しとされず、また、父が私に構ってくれることもなかった。
 肉親の愛情という養分を最も必要とする時期に、それを充分に与えられることなく育った私は、物心ついたときには既に自分の存在が望まれざるものなのだということを理解していた。
 だが、まだそれを受け入れるだけの強さを持ち得ていなかったため、私は一つの仮説を立て、それを心の拠り所とした。

 私は、父が母のことを心から愛していたのだと信じ込むことにしたのである。
 父の立場からすれば、母との間に子を生したところで政略的に何の意味もなかったにも係わらず、こうして私が生まれてきたことこそがその仮説を裏付ける何よりの証拠なのだと思っていた。
 今の父は母が死んでしまった原因が私にあるように感じている部分があるため、私に対して複雑な感情を抱いているが、やはりその根底には深い愛情があり、悲しいすれ違いによって形成された現在の状況も、時の経過によって氷解するだろうと、その頃の私は無邪気にも本気で信じていたのだ。

 男の性というものを理解していなかったからこそ信じることの出来た妄信に過ぎないし、今となって思い返してみると何か空恐ろしい感じはするのだが、それでもそれは私にとって必要なものだったのだと思う。
 他者によって存在を肯定されなかった子供は、自分自身でそれを行わなければならないのだから。

 たとえそのように歪んだ状態であったにせよ、私の存在を肯定してくれる他者に出会い、父の背中を必要としなくなるまでを何とかやり過ごすことさえ出来ていればそれで構わなかったのだろう。
 だが、このように語っていることから既におわかりの通り、その日を待たずして、私の心に大きな傷跡を残すこととなる出来事が起きた。

 事の発端は実にささやかなことである。
 簡潔に述べるならば、父が一人の少女に恋をした、というただそれだけのことだ。
 色多き父のことなので、それだけならば今更取り立てて問題とすることもなく、私は夫の浮気に対して寛容な理解を示す妻の如き落ち着きを見せて事の成り行きを見守っていた。

 父の恋した少女の名は輝夜。
 絶世の美女と名高く、人々は姫という敬称を冠してその名を呼んでいた。
 聞くところによると、そのあまりの美しさに求婚者が絶えず、それに困った彼女は出題した難題を解いた者と結婚すると公表したらしい。

 やがて父がその難題に挑むこととなり、旅に出るとなったときに、私はようやく雲行きが怪しくなってきたのを感じた。
 妙な胸騒ぎを覚え、その正体を確かめるべく実際に出立する父に会いに行ったのだが、遠目に父の表情を見ただけで全てを理解した。

 父は恋が作り出す幸福の渦の中にいた。
 当時の私はまだ色恋というものを知識としてしか知らなかったが、それでも女としての本能からか、その恋が色多き父の人生においても唯一無二のものであるのだということを感じ取ってしまった。

 呆然と立ち尽くす私の横を、父が歩き去っていく。
 その際に父と視線を交わしたが、その瞳の奥に私はいなかった。
 いや、それだけではない。
 そこには、母の居場所さえなかった。

 私は自分と母とがひどい侮辱を受けた気がして、憤然たる思いで父を振り返り、声を張り上げようとした。
 だがその瞬間、ふいに地面がぐらりと揺らぐ。
 急な吐き気を覚え、私は声を上げることも出来ずに膝をついた。

 それでも顔だけを上げ、父の背中を視線で追ったが、彼は立ち止まることも振り返ることもなかった。
 何とか立ち上がりその後を追おうにも、足に力が入らない。
 これまで自分を支えていたものが、粉々に打ち砕かれてしまっていたのだ。

 私は俯き、自分の中で様々な感情が奔流となって渦巻くのを感じた。
 吐き気が治まるのを待ちながら、その感情の流れを見守っていると、それはやがて一つの明確な形を成し始めた。
 そしてそれが憎悪という確固たる思いとなり、私の心の奥底に杭として打ち込まれたとき、言うことを聞かなかった足に力が入るようになり、再び立ち上がることが出来た。

 私は小さくなった父の背中を一瞥すると、背を向けて歩き出した。
 足取りは重かったが、不思議とこれまで経験したことがないほどに心は軽やかだった。
 今や自身を肯定する新たな理由となった感情にまかせるままに、私はその対象となっている少女の名を呟いた。

「輝夜」と実際に口に出してみると、その甘美な響きが心の隙間を昏い喜びで満たすのがわかった。
 私はそれしか言葉を知らない赤子のように、飽きることなく何度も何度もその名を口にしていた。





 父が難題の突破に失敗したとの報が入ったのは、それから実に三年もの歳月が流れてからのことだった。
 父に課せられた難題は『蓬莱の玉の枝』という宝を持ってくることだったが、不正を働いたことが発覚したため、輝夜を妻として娶る資格を永久に失ったばかりか、人々の嘲笑の的となったのだ。

 父は塞ぎ込み、人前に姿を現すことなくひっそりと日々を送るようになった。
 多くの者はその理由を羞恥にあるものだと思っていたようだが、私は違った。
 父を苦しめているのは貴人としての矜持ではなく、ただの一人の男として懊悩であると確信していたのだ。

 決して恵まれた境遇ではなかったにもかかわらず、己の能力でここまでの成功を収めた父にとって、心から欲しておきながらも手に入れることの出来なかったものというのは、実はこれが初めてなのではないか。
 私は父がどのような思いでこの三年間を過ごしたかのを想像したが、それはおそらく他者に推し測れるようなものではないと思えた。

 父がどれだけ輝夜のことを欲していたのかを知れば知るほどに、それを養分として私の中に根差した黒い感情は育っていった。
 ちなみに、その感情の矛先は輝夜ただ一人だったことは特筆しておきたい。
 私から見れば父もまた被害者であり、全ての悪は輝夜に集約していた。

 憎悪という刃をより研ぎ澄ますためには、そのように対象を限定する必要があったのだ。
 当時の私は、外出先で急な雨に見舞われたり、満月が雲に遮られただけでも、そこに輝夜の影を読み取ったことだろう。

 そのように輝夜を憎んでいた私ではあったが、実際のところは何の力も持たない子供に過ぎず、これといった行動も起こせずにただ無為に日々が流れていった。
 最初のうちは己の無力を苛みもしたが、時が経つにつれ次第に諦めの気持ちが心の中に生まれてきた。
 これらは全て仕方のないことなのだ、誰だってそうやって何かを割り切ることによって大人になるのではないかと思い始めたのだ。

 そうして私が自分の気持ちの整理を始めた折に、輝夜が月に帰ったという珍妙な情報が流れ込んできた。
 詳しい話を聞くと、何と輝夜は月の姫だったというではないか。
 初めから私たちとは全く異なる存在だったのだと知ると、あれほど滾らせていた憎悪が、急に滑稽なものに思えた。
 力の抜けた笑みを浮かべながら、私は自分の中で一つの時代が終わりを告げようとしているのをぼんやりと感じていた。

 だから、帝の遣いの者たちが輝夜が地上に残していった壺を山へ運ぶという話を聞き、それを奪おうと思い至ったのも、壺の中身への純粋な興味からと、最後にささやかな抵抗をすることで、それを輝夜への憎悪に満ちた幼年期の思い出への墓標にしようとの考えからだった。





 その日、山中であった出来事については、拠ん所無き事情から、ただ事実だけを述べるに留めたい。

 岩笠らの一団を追って山へ入った私は、途中で彼らに見つかりながらも共に山頂まで到達した。
 そこで木花咲耶姫に出会い、壺の中身が不老不死の効能を持つ秘薬、蓬莱の薬であることと、それを破棄するのが岩笠の目的であることを知らされた。
 私たちは山頂で一晩を過ごすことになったのだが、私が眠っている間に薬を欲した兵士たちが殺し合いを起こし、岩笠と私の二人だけが残された。
 私たち二人は木花咲耶姫に言われた通り、別の山へと向かうため下山を開始した。
 そして、その途中で私は岩笠を後ろから蹴り飛ばし、壺を奪って逃走したのだ。

 自分が行ったことに対する恐怖心はあったが、それ以上に人々が求めて止まない不老不死という夢が、この腕の中に現実の形をなして存在するという事実に、私は身を震わせた。
 そして、その熱に浮かされるまま、深く考えもせずに禁断の薬を口にしてしまったのだ。

 一夜にして様々なことが立て続けに起こり、私の精神が正常な状態でなかったことは確かだが、たとえ静かに雪の降り積もる夜のように冷静な精神状態であったとしても、同じ選択をしただろうことは明白であった。
 それは一つには、これまでの境遇を甘んじて受け入れてきた自分には、その報酬を受け取る正当な権利があると信じていたからだし、更にはあの、全ての少年少女を詩人へと変貌させてしまう病に私もまた同じように侵されており、自分はその他大勢の人間とは一線を画した存在であるのだという根拠の無い自信を抱いていたからでもあった。

 結局のところ大人になったと思っていたのは自分だけであり、客観的には私は何の分別もなく圧倒的に経験の足りない子供に過ぎなかったということだ。
 それにもかかわらず蓬莱の薬によって不老不死となった私は、永久に大人になる機会を失ってしまったわけだが、無論その時はそのようなことを知るべくもなかった。

 家に帰り着いた私は、しばし泥のように眠った。
 そしてそれからどうするかを一晩考えた末、私は家を出ることに決めた。
 この決断にはやはり多少の逡巡があったが、岩笠の一団が全滅し壺を奪われたことはすぐに帝の知るところとなるだろうし、そうなれば輝夜に並々ならぬ関心を抱いていた私に嫌疑がかけられるのは時間の問題だろうと思ったからだ。

 それに、この家にいる限り私は父と輝夜の呪縛から逃れることが出来ないように思えた。
 これから希望に満ちた未来を歩み始めるためには、暗い過去を構成していたそれらの要因をまとめて棄て去る必要があると判断したのだ。
 私はすぐに荷物をまとめ、夜明けとともに家を出た。
 昇り行く太陽が道を明るく照らすのを見て、それが暗示であるように感じたことも、ただ当時の私の愚かしさをわかっていただきたい一心で、ここに記しておこう。





 それからしばらくは、家から持ち出した金を使って旅をしていたのだが、もちろんそれが長く続けられるわけもなく、やがて路銀の尽きた私は一つの村に腰を落ち着けることとなった。
 そこは田畑と山に囲まれた小さな村で、人々は質素な生活の中にそれぞれのささやかな喜びを見つけながら暮らしていた。

 私は仕事を手伝うという条件で、農業を営む老夫婦の世話になることになった。
 夫婦は子供をまだ幼いままに亡くした過去があり、私を実の子であるかのように扱ってくれた。
 それは私がずっと求めてやまなかったものであり、その生活は毎日が快い喜びに溢れていた。

 だが、そうして何年かが過ぎ去ると、次第に村人達の中から私の存在を疑問視する声が上がり始めた。
 それも無理からぬ話で、私の姿は蓬莱の薬を口にしたあの日から何ら変わっていなかったのだ。
 既に薹が立った年齢であれば数年で変化がなくとも不思議ではないが、成長過程の子供であればそれは如何にも異様なことである。
 中にはあの娘は物の怪の類であるとはっきり主張するものもあり、私はこれ以上この村で暮らすことは出来ないと悟った。

 しかし、村を出て行く旨を老夫婦に伝えると、夫人の強い反対を受けた。
 彼女は、そのようなくだらない噂など歯牙に掛ける必要はないから、これまで通り共に暮らそうと言った。
 その切迫した様子から、彼女もまた心に開いた穴を塞ぐための形代を切実に必要としている人間だったのだと知った。
 私がそれに気づいてしまった以上、これから先はただの傷の舐め合いになってしまうように思えたが、結局は夫人の言葉の誘惑に抗うことが出来ずに、村を出る決心はいつの間にか霧散してしまった。

 だが、それからの生活は、やはり予期した通りに白々しいものだった。
 私も夫人も、自分に与えられた役割を演じる三流の役者となり、お互いが相手の中に都合の良い幻想を求めていた。
 私はその家族ごっこという名の俗悪なお芝居が、これまで三人で過ごした輝かしい時間までをも穢してしまったのを感じた。

 だからこそ、その苦痛でしかない日々が早々に打ち切られたのは、私にとって幸運だったと言えるだろう。
 たとえそれが、夫人の死によってもたらされたものであったとしてもである。

 夫人はある日急に病に臥したかと思うと、その数日後にはこの世を去ってしまった。
 あまりにも呆気なく、現実感を欠いていたために、私はそれがお芝居の延長であるように感じたほどだった。
 その現実感の欠如はしばらく続き、夫人に最後の別れを告げにきた村人達が、あの化け物に命を吸い取られたからだと話をするのを聞いても、それが自分のことを言っているのだとすぐには気が付かなかったくらいである。

 その夜、私たちは薄暗い部屋の中に座していた。
 夫人の遺体の隣に夫君が座り、私はその右後方に位置している。
 会話は無く、死の静寂が部屋を満たしていた。
 じっと夫君の小さな背中を見つめていると、既に彼もその死の世界の一部であるかのように感じた。

 ふいに、夫君が動いた。
 これまでずっと前方の闇に向けられていた視線を、自らの右手へと移した。
 そして穴が開くほど掌を見つめていたかと思うと、今度はその右手を自分の顔へとやった。
 最初は何をしているのか分からなかったが、よく見ているとどうやら顔中の皺を指でなぞっているらしい。
 ゆっくりと、慈しむかのように行われるその行為には、名状しがたい神聖さが具わっていた。

 長い時間をかけたその儀式が終わり、右手を膝の上に戻したとき、彼が呟いた。
「ああ、歳を取ったものだ」
 その言葉に悲嘆の色は無かった。
 そこに含まれていたのは、自分が年老いていたことに本当に初めて気が付いたとでもいうような驚きと、それをただ有りのままに受け入れる、充実感をともなった寛容さであった。

 その一言は、夫人が亡くなってからというものずっと観客に徹し続けていた私を、再び舞台上へと引き戻す力を持っていた。
 私は早々に村を出て行かなかったことを、今こそ本当に後悔していた。
 あの時、夫人の言葉を振り切って村を出ていれば、このようなことにはならなかったというのに。

 私はふらふらと立ち上がり、夫君の背中に向かって言った。
「村を出ようと思います」
 返事は無かった。

 私は足早に出口へ向かい、そこで夫君を振り返り、最後にどのような言葉をかけるのが適切であるかを考えた。
 父として語り掛けたいという痛切な欲求が私の中に湧き起こったが、それを口にすることはもはや、夫人の墓標に唾を吐きかけ、夫君の人生の全てを否定することに他ならなかった。

「お世話になりました」
 なるべく何の感情も付加しないように努めながら、その言葉だけを彼の背中に投げかけて、私は静かに外へ出た。

 どこか行く当てがあるはずもなかったが、とにかくこの村から離れるために私は歩き出した。
 空に浮かぶ満月の光が作り出す、昼とは異なる村の姿を視界に収めながら、私はここでの様々な出来事を思い出していた。
 だが、それらが何か特定の感情を喚起することはなく、それは私にとっても意外なことであるように思えた。

 村の出口まで来たところで、私は自分が何も持たずに出てきたことに気が付いた。
 一瞬戻ろうかとも思ったが、すぐにそれが愚かな考えであるとわかった。
 私は右手を月明かりにかざし、その掌をじっと見つめた。
 それは、あの日興奮に震えた掌と何ら変わらぬ綺麗なものだった。

「歳を取ったものね」
 私は精一杯の嘲りを込めて言ったつもりだったが、実際に出てきた言葉にどのような響きが含まれていたかは定かではなかった。

 何ということはない。
 私は何も持たずにこの村へ辿り着き、何も持たずにこの村を出て行く。
 ただそれだけのことだった。





 それから私は様々な土地へと移り住むようになった。
 一つ所に長くは留まらないように心掛けてはいたが、それでも迫害を受けることや、良くしてくれた人たちに迷惑をかけることが度々起きたので、人と深く係わることを自然と避けるようになっていった。

 父が亡くなったと風の噂に聞いたのは、そのように過ごすようになってから十余年が経ったころである。
 いつどのようにして父がこの世を去ったのかはわからない。
 昨日かもしれないし、数年前かもしれない。
 病によるものかもしれないし、自ら命を絶ったのかもしれない。
 ただ、一つの決定的な事実として、父は既にこの世界のどこにも存在していないのだ。
 仮にあの世というものがあったところで、そこは私には無縁の世界であることから、もう父と出会うことは永久にないのだな、ということをぼんやりと考えた。

 そのときの感情を仔細に思い出すことは出来ないが、あまり悲しみはなかったように思う。
 子供の頃から存在を隠匿されていたに等しい私にとって、父の死が意味するのは、個人との別離であるのと同時に、私を取り巻く人間の世界、つまり社会との関係性が絶たれることでもあり、その時の私にはそちらの方が重要だったからだろう。

 賑やかな町並みを歩いていたはずが、ふと気づくと周囲に誰もいなくなっていたときのような寂寥感が私を襲った。
 今はまだ私のことを知る者もいるだろうが、あと五十年もすれば誰もいなくなってしまう。
 そうなれば、私は知らない世界に放り込まれた異邦人だ。
 流れ行く世界に取り残された異物でしかない。

 私は自分が急に歳を取ったように感じた。
 肉体的な衰えが全く無いことから実感出来ていなかったが、そもそも本来であれば既に子供がいておかしくない年齢なのだ。
 私は平凡な人生を送り、平凡な幸福を享受する自分を想像した。
 それは今の私にとって抗い難い魅力を持つものだったが、皮肉なことに、そういった生活を送る可能性を潰えさせたのは、過去の私の選択に他ならなかった。

 結局のところ、人生とは喪失の歴史でしかないのではないかと私は思った。
 不老不死という力を得たとき、私は世界の全てを手にしたように思っていたが、今になってみれば、それは喪失が所得という形を取ってもたらされただけにすぎなかったのだということがわかる。
 私がこれまで生きてきた時間など、永遠からすればほんの僅か、それこそ一瞬にすぎないものだが、たったそれだけの間にも数え切れないほど多くのものを失ってきた。
 そして代わりになにか意味のあるものを得たかといえば、私はそれを思いつくことが出来なかった。

 私は自分の目の前に存在する、膨大な時間のことを思った。
 それはまるで巨大な生き物の亡き骸のように、現実的な質量と、冷たい温度感を持って横たわっていた。
 永い時の中で、私はまた様々なものを失ってゆくのだろう。
 そうして全てを失い尽くした後で、最後には何が残るのか、もしくはそれすらも失ってしまうのか、私にはわからなかった。





 その頃から、私は同じ夢を見るようになった。
 夢の内容は、蓬莱の薬を口にしたあの日の夜の回想であり、草の匂いすら感じるほどの再現性と濃密さを持ったものだったが、実際の出来事とは少々異なる部分があった。

 あの日、薬を手にした私は自分のしたことの恐ろしさと、もしかしたら岩笠が追ってくるのではないかという強迫観念に駆られ、すぐにその場から逃げ出した。
 だが、夢の中での私はなんと、岩笠の生死を確認するためにその坂の下へと降りてゆくのだ。

 足元に気をつけながら急な坂を進むと、それはすぐに途切れて懸崖となっていた。
 下を覗き込んでみるとそれほど高さはないようだったが、月明かりが雲に遮られているため薄暗く、様子を窺い知ることは出来ない。
 私は下へ降りることの出来そうな場所を探し歩いてゆく。

 最初にこの夢を見たとき、死体を発見することなく終わってくれるのを期待したのは言うまでもないが、後になって思えば、夢の中で自分の殺した相手の死体を見つけることなく終わるというのは、あまりにも醜悪に過ぎるだろう。
 そういう意味では、この夢はまだまともなものだったといえる。

 何とか崖の下へ降りることの出来る場所を見つけ、慎重に地面に降り立つと、そこは河原のような場所であった。
 足元の岩場に苦戦しながらも先ほどの場所へと戻った私は、そこに当たり前のように横たわる岩笠の死体を発見する。
 落下の際に頭部をしたたかに打ち付けたとみえ、仰向けに寝そべる彼の頭の下には、まだ新しい血で濡れた大きな岩があった。

 私は引き寄せられるように彼のもとへと歩いてゆき、その亡き骸を見下ろした。
 彼は焦点の定まらない目で空を仰いでいたが、そこに月はなく、ただ暗雲が広がるばかりである。
 もし仮に、ここで彼の瞳が急に光を取り戻し、ぎろりと私を睨み付けてくるような陳腐な夢であったならば、私は幾分か救われた気持ちを抱いたに違いない。

 だが、この夢はこれ以上何も起きなかった。
 私が最もおぞましさを感じるのは、まさにこの部分である。
 何か進展があるでもなく、かといって終わるでもない。
 私はただ彼の死体を見下ろしており、彼はただ空を見上げている。
 いつの間にか訪れた起床の時を迎えるまで、それがずっと続くのだった。

 その夢は連日見たかと思えば、一年以上見ないこともあり、頻度にばらつきこそあったものの、初めて見たときから実に三百年ほど続いた。
 だが、それもある日を境にぴたりと止むことになる。
 それは、私が初めて妖怪と出会った日であった。





 長い時を経た道具が魂を宿すように、長く生きた私の身体にもいくつかの変化が現れていた。
 髪はその伝承を体現するかのように白みを帯び、瞳は赤く染まった。
 そして、炎を操るという人ならざる力をも身に付けていた。
 その能力は自活するのに様々な意味で役立ったが、外見の変化は更に人との関係を疎遠にさせた。

 そのような理由から人里離れた山中に暮らすようになって、随分と経ったある日のことだ。
 人と出会わぬように夜中に行動することが通例となっていた私は、その日もあたりが寝静まるのを待って家を出た。
 雲はなく、不気味なほどに強く輝く満月が印象的な夜だった。
 私は水浴びをしようと川へ向かったが、その川辺に先客がいるのを見て取り、急いで身を隠した。

 物陰に隠れながら様子を見ていると、どうやら倒れた人間の上に誰かが馬乗りになっているようだった。
 それを見た瞬間、強姦だと私は思った。
 だが、それにしてはどうにも様子がおかしいことにすぐに気づく。
 こちらに背を向けているため、何が行われているのかよくわからなかったが、下に組み伏せられた人間はぴくりともしなかったし、上に跨る者の動きも性行為のそれではないように思えた。

 訝しいものを感じ、私は無意識に息を殺してじっと様子を窺っていた。
 すると、上に乗っていた者の動きが突然止まり、下になっている者の胸の辺りに埋めていた頭をゆっくりと上げた。
 私がどうしたのだろうかと思うより早く、高く張りのある声が響き渡った。

「そんなところで見てないで、こっちにおいでよ」
 そう言ってこちらへくるりと振り向いた顔は、まだあどけなさの残る少年のものだった。
 それは驚愕に値する事実であったはずだが、それ以上に私は、彼の頭に生えた獣の耳と金の瞳、そして口元に残る食事の跡に注意を引き付けられていた。

 その少年が人間でないことは明らかであり、それは私に恐怖という本当に何年振りになるのかわからない感情を呼び起こさせた。
 彼はゆっくりと立ち上がり、私に対して好意を示す微笑みを投げ掛けていた。
 どうやら私の言葉を待っているらしい。

「あなたは、誰なの?」
 なるべく平静を装って、私はそう訊ねた。
「僕は猫だよ」
 彼は笑顔を崩さず言った。

「名前を聞いても良いかしら?」
 今度はそう訊くと、彼はきっぱりと答えた。
「名前だって? そんなものは無いよ」
 あまりにもはっきりと言うので、これには私もいささか面食らった。

「どうして? 無いということはないでしょう?」
「いやいや、本当にないんだよ」と彼は大げさに頭を振った。
「だって、名前なんて誰かが何かを区別するために付けるものでしょ? 僕は今まで誰かに所有されたことはないし、これからもされる予定はないからね。猫は自由でなくてはならないっていうのが、僕の持論だよ」

 なるほど、確かに彼の言うとおりかもしれない。
 猫の世界では、名前のある猫の方がむしろ異端なのだろう。

「でも、誰かと呼び合うときに不便じゃないかしら?」
「まあ、それはそうかもしれないね。でも、僕は独りで生きてきたから名前が無くて困ったことはないよ」と彼は言った。
 それから何かを思いついたように「そうだ、じゃあ逆に訊きたいんだけど、お姉さんの名前は何ていうの?」

 そう問われて名前を答えようとした瞬間、私は躊躇を感じる自分を発見した。
 もう百年以上も自らの名前を名乗っていなかったことに気が付いたからだ。
 彼の言うように、独りで生きる者に名前が必要ないというのであれば、それは私にとっても不要なものだった。

「名前は、無いわ」
 そう口にして、私はまた一つを失ったことに気づいた。

「どうして? 僕には訊いてきたのに?」と、少年は不思議そうにしている。
「ごめんなさい。確かに昔はあったんだけど、いつの間にか落としてしまったみたいなの」

 少年は納得いかない様子で私を見つめていたが、他人の立ち入りを許さぬ領域にその問題があるのを見て取ったらしく、冗談めかして言った。
「そうか、じゃあ探しにいかないとね」
 それはただ、お互いに笑いあって、もうこの話は終わりにしようという意味合いを言外に含めた、いわば示談の持ちかけであり、少年に他意はなかったはずなのだけど、何故か妙に印象に残る言葉だった。

「名前を、探す……。ええ、そうね」
 私はぼんやりとしながらも、笑顔を見せた。
 それを見て少年も微笑み、頷いた。

 ひとまず会話に区切りがついたと判断した少年は、川岸へ歩いていって汚れた手と口を洗い始めた。
 私は彼の後姿を眺めながら、最初に抱いた恐怖心が消え去りつつあるのを感じた。
 恐怖とは基本的に未知の出来事に働くものであり、私にとって彼は既知の存在となりつつあったからだろう。

 とはいえ、彼が人間と相容れぬ存在であることも確かだった。
 私は彼が先ほどまで貪っていた死体のもとへと歩いていった。
 わかってはいたことだが、それはやはり紛れもなく人間のものであった。
 人の死には既に慣れきっていたが、明確に示された種族の違いに、私は僅かな動揺を感じずにはいられなかった。

 激しい損傷部に気を取られ、最初はわからなかったが、よく見るとその遺体はまだ幼い少女のものであるらしい。
 一糸纏わぬ姿で仰向けに横たわった彼女の首から下腹までが縦に切り開かれ、臓物がごっそりと抜け落ちていた。
 また、眼球も刳り貫かれており、もともとそれのあった場所から、血液が一筋の涙のように流れている。
 だが、それ以外の部分は全くもって綺麗なもので、若々しい生命力を内包するかのように固く閉じられた未発達な性器の瑞々しさが、対照的に死の影をより深く色濃いものにさせていた。

 凄惨な状況であることには違いなかったが、それと同時に一種の潔さを私は感じていた。
 人間が人間を殺すのとは違う躊躇の無さが、逆に殺害の必然性を確固たるものにし、死に意味を求めようとする愚かな感傷性を否定しているように思えた。

「軟らかいところが好きなんだ」
 少年が、濡れた手を服で拭いながら歩いてきた。
 私はその言葉に対し、何を言うでもなくただ彼に向かって無感情に頷いた。

 そして再び死体へと視線を戻した私の隣に彼が立ち、驚くべきことを口にした。
「良かったら、これあげるよ」
 この唐突な言葉の意味を理解するのに、私は僅かな時間を要した。
 そして、これというのが何を意味しているのかわかっても、それは彼なりの冗談なのだろうと思ったくらいだった。

「食べ残しみたいで悪いんだけど、僕はもうお腹いっぱいだからさ」と彼は続けた。
 そこにからかうような調子はなかった。
 彼は本当に、純粋な好意からそう言っているのだ。
 それも、こちらが気を悪くしないようにと気を使う様子まで見せて、である。
 事ここに至って、私は彼の態度からずっと感じていた違和感の正体に気づいた。

 彼は私を、自分と同じ側の存在だと認識していた。
 あくまでも同類に向ける気さくな態度で、よう兄弟、良かったらそこの人間を食べてくれよ、今更何も知らない生娘ってわけじゃないんだろ、と語りかけているのだ。

 ふいに、横たわる少女の死体が、夢の中の岩笠の姿と重なった。
 急激に吐き気が込み上げてきて、私は顔をしかめた。

「どうかした?」と心配そうに彼が言った。
 その何もわかっていない無邪気な表情に、私は憤りを覚え、差し伸べられた彼の手を振り払って、叫ぶように言った。
「私は、人間よ!」

 彼は急な拒絶に驚いたように目を見開き、振りほどかれた右手を見た。
 そして、その視線を私へと移した彼の表情が、次第に恐怖に歪んでゆくのを私は見逃さなかった。
 私は今や顎が軋むほどに歯を食いしばって彼を睨み付けており、彼はその瞳の中に狂人の光を見て取ったのかもしれない。

 先ほど私に恐怖を与えた存在が、今度は私を畏怖しているという事実は、ささやかな優越感と小さな勝利を約束したが、それはこの場合私の心を鎮めるどころか、逆に作用することとなった。
 燃料を得た私の怒りの炎はますます激しく燃え上がり、それが内側から漏れ出るかのように私の身体は炎を纏っていた。

 彼はますます怯え上がり、かすれた声を漏らした。
「化け物……」

 その一言を聞いた瞬間、これまで私の中に溜まり積もっていたものに炎が引火して、業火となるのを感じた。
 その時点で私の憎悪は彼に対するものではなくなっていたのだが、既にそのようなことは関係なかった。
 私は感情の制御を失い、激情に駆られるままに彼に襲い掛かった。

 気付いたときには、私は荒い呼吸に肩を上下させ、焼損した彼の身体を見下ろしていた。
 健全な若さを感じさせた彼の肌が、今は見る影もないほどに焼け爛れ、ところどころが炭化している。
 私は鼻をつく異臭に顔をそむけて、先ほどの少女の遺体と彼の姿とを見比べてみた。

 美しささえ感じさせるほど機能的な死を与えられている少女に対して、少年の身体には明らかに無意味な陵辱の跡が見て取れ、直視し難い醜さであった。
 それはそのまま、私の心根を表しているかのようであり、少年を欲望の捌け口にしたことを誰かに見透かされている感じを受け、私は羞恥に頬を染めた。

 人間ならば確実に命を落とす重傷でありながら、少年はまだ生きていた。
 弱々しく呼吸をしては、何かを口にしようと呻いている。
 私はそこから何か致命的な言葉が放たれるのではないかと恐れ、急かされるように言った。
「これに懲りたら、もう人間を襲わないようにすることね」

 それは口にした自分でもはっきりとわかるほどに、醜悪で滑稽な言葉だった。
 私は恥ずかしさから一刻も早くそこを立ち去りたい衝動に駆られ、ほとんど逃げるような様子で足早に歩き出した。

 そうして随分と離れてからも、背後には少年と少女が息をひそめてこっそりと着いてきていて、私が振り向いた瞬間に二人で顔を見合わせて大笑いしようと待ち構えているのではないかという妄想に頭を支配され、一度も振り返ることが出来なかった。





 そのまま家に帰る気にならず、私は何処に行くでもなく歩き続けた。
 夜風に当たるうちに心が落ち着くことを期待したが、いつまでたっても興奮は冷めやらず、私は一度身体を休めるべく、乱立する木々の中に開けた場所を見つけると、汚れるのも気にせずそこに横たわった。

 丸く切り取られた空には、満月が浮かんでいる。
 私はその光を遮るように、右腕を顔の上にあてがい、個人的な闇を作り出した。

 すると、先ほどの光景が鮮明な映像として脳内で再生された。
 羞恥や後悔がまぜ合わされた感情が再び湧き上がり、私は気持ちを静めるどころか、より興奮の度合いを高めていった。

 そして、足首に感じたむず痒さから身を捩ったとき、私は自分が昂っていることに気付かされた。
 最初に軽い驚き、次に罪悪感が私を襲った。
 だが、その背徳感すら一度それに気付いてしまった後となっては、より高みへ登りつめるための道具でしかなくなってしまった。

 私の息は次第に隠し切れないほどの熱をはらんでいった。
 意識しまいとすればするほどに、その熱源を意識せざるをえなくなり、今やその場所こそが私の身体の中心となっていた。
 それは苦しいほどの痛切さで救済の手が差し伸べられることを望んでいたが、それを施してやることは、あまりにも惨めな逃避にすぎないと分かっていた。

 だが、結局はその最後の矜持すらも、じわじわと蛞蝓の如き緩慢な動作で意識を侵食してゆく黒い波に飲まれて消えた。
 そうなれば今度は、ただひたすらに自分自身を辱め、汚しきってしまいたい衝動が生まれ、それに従うままに私は右手を伸ばした。

 だがその瞬間、暗闇に慣れきった私の瞳に、眩い月の光が射し込んだ。
 私は顔をしかめながら、恨めしい気持ちで満月を見つめ、そこに月の姫の姿を連想した。
 そして急に、このように惨めな姿を晒して地上に這いつくばる私を、彼女はあの高みから見下し、嘲弄しているのではないかという思いにとらわれた。

 あの頃抱いていた彼女への憎悪が、再び私の中に浸透してゆく。
 それは決して損なわれたわけではなく、解放の時を迎えるまでずっと心の奥にしまわれていただけなのだ。
 あの頃とは違い、今の私には力があったが、肝心のそれをぶつけるべき対象は既に手の届かないところにいた。

 私は忽然と立ち上がり、月に向かって言葉をなさない叫び声を上げた。
 そして膝をつき、あらん限りの力で拳を地面に叩き付けた。
 一度では飽き足らず、何度も何度も。
 皮膚が裂け、骨が見えたかと思えばすぐにそれが再生され、そしてまた皮膚が裂けるということが繰り返された。
 不死とはいっても痛みまで感じないわけではなかったが、その苦痛をこそ求めて私は殴り続けた。

 しばらくそうしていたが、やがてその行為の無意味さを理解し、私はゆっくりと立ち上がった。
 そして半ばは諦めながらも完全には諦めきれぬ感情をもって月を一瞥し、静かに歩き出した。
 先ほどまであれほどの熱量を有していたものが、今は冷たく私を苛み、より一層惨めさを感じさせた。
 拳はもう元通りになっていたが、癒えぬものが残った。





 それからの三百年は、私にとって出来ることなら人に知られることなくすませたい期間であり、この期に及んでも語ることをやや躊躇する気持ちを感じずにはいられない。
 だが、今更私が沈黙を愛する賢者よろしく口をつぐんだところで、過去の事実が変わるわけではないし、そもそもそれではここまでお付き合い頂いた貴方がたに対してあまりに不義理であるとの考えから、この際包み隠さずお話ししてしまうことによって、私自身も肩の荷を下ろしてしまいたいと思う。

 さて、それではその三百年、私が何をしていたのかといえば、様々な土地を渡り歩き、妖怪を退治して回ったのである。
 その字面だけを追えば、ちょっとした武勇伝のように聞こえるかもしれないが、それは実際のところ弱者をいたぶることによって得られる快楽に抗えなかったというだけのことだった。
 しかも、それが単なる代償行為であるというのだから、殊更始末に終えなかったと言えるだろう。

 そのような状況ではあったが、その期間の生活は充実していたといえる。
 輝夜への憎悪は常に私の中で燻っていたが、どのような形であるにせよそれは行動によって発散されていたし、稀にではあるが輝夜のことを忘れることが出来るほど戦いに打ち込むことの出来る夜もあったからだ。

 だからこそ、その三百年は体感的にはあっという間に過ぎ去ってしまった。
 季節で表すならば、それは秋であった。
 楽しみは多いが、その短さを惜しむ時間さえが惜しまれるほどに期間は短い。
 そして、その後には辛く厳しい冬がやってくるのだ。
 それはまた、私にとっても同様であった。





 私にとっての冬の時代は、妖怪退治をやめたことから始まった。
 さしたる理由があって、妖怪退治をやめたわけではない。
 ただ、銀がその美しさを永遠に保つことが出来ないように、どのような娯楽であっても時間の経過とともに、飽きという名の錆が生じることは避けえないのだ。
 そのようにして、あれほど心を躍らせた行為がただの作業と化してからも、私はしばらくの間は美化された思い出にすがるようにしてそれを続けていたのだが、やがてはその感傷性すらも失われてしまった。

 だが、問題の本質はそこではなく、本当に重要だったのは、私が生きることそのものに飽いてしまっていたということだった。
 飽きという名の病魔は、永遠を生きるものにとっての癌である。
 私の魂は朽ちることのない肉体の檻に幽閉され、緩やかな死を迎えようとしていた。

 その頃、私は再びあの夢を見るようになった。
 だが、そこに横たわっているのは岩笠ではなく、あの当時の姿をした私になっていた。
 その身体は朽ち果てて腐敗しており、大量の蛆が湧いている。
 私は蛆に食い尽くされる自分の身体を、傍らに立って何をするでもなくただ見つめている。

 その夢から醒めると、私は自分自身から微かな腐敗臭を嗅ぎ取って、偏執狂にも似た執拗さで身体を洗わずにはいられなくなった。
 だが、いくら洗っても臭いは消えず、私は自分の身体を切り裂いて、その内側までも洗い流したい衝動に駆られて身悶えるのだった。

 徐々にすり減ってゆく私の心の中で、対照的に輝夜への憎悪だけがその領域を拡大していった。
 それは今や私に残された最後の人間らしい感情であり、その事実に気付いた瞬間、それが私の全てになった。

 私は憎悪という唯一の宝に括り付けられて、海中に没してゆく自分の姿を想像した。
 呼吸が出来ずに苦しみながら、海面に揺らめく光へと手を伸ばすが、私の身体は一つの抗うことの出来ない力によって沈んでゆく。
 最初は限りなく透明に近い青をたたえていた海が、次第にその青の深みを増してゆき、やがては黒よりも暗い闇になった。

 祈りなくして神が存在出来ぬように、光の差し込まぬ場所に色は存在しないのだ。

 そこには同様に音も酸素も存在せず、生の温もりを全く感じさせない冷たさが身を包むが、それを苦痛に思う感情も既に失われている。
 沈めば沈むほどに私と闇との境界線が曖昧になってゆき、最終的に私はその闇を構成するものの一つになった。

 その夢想は私の願望をそのまま表していた。
 空白の日々において、自動的に動く自分の肉体を客観的に見つめながら、私の精神はただ一切が終わりを迎えることだけを求めていた。

 だが、その唯一の希望も満たされることはないままに、それこそ永遠とも思えるような長い時間が過ぎた。
 その間の出来事で語るべきことは何一つ存在しない。
 いや、そもそもその期間のことで、私が実際に憶えている事柄がほとんど存在しないのである。

 今でこそ、このような有様ではあるが、当時の私にとって、それはまさしく生き地獄であった。
 死ぬことの出来ない自分にとっては、限りなく無に近いその状態こそが、唯一享受することの出来る不完全な死であって、これが自分の終わりなのだという確信に近い思いを、私は諦めとともに抱いていた。

 しかし、そのような私の考えを裏切るかのように、驚くほど唐突に、ある日私は死を迎えることになる。
 それは私が望んでいたものとはあらゆる点で異なっていたが、結果的には私の根源的な欲求を全て満たしたうえで、その充足感の半永久的な継続を約束するものだった。





 不老不死となってから、とうとう千年もの歳月が流れた。
 その時には既に私は幻想郷での生活を始めていた。
 多くの妖怪が住む地があると聞いて、そこならば私の退屈も多少は紛れるかと思い移住したのだった。
 確かに話題には事欠かない地ではあったが、それでも気分が晴れることは少なく、私は相変わらず死んだように生きていた。

 ある日、私は道に迷っていた。
 隠喩的にではなく、実際にである。
 外の空気を吸おうと家を出て、静かな竹林を見つけた私は、軽い気持ちでその散策に入った。
 それは夕刻のことであったのだが、現在辺りは闇に包まれて久しい。

 たとえ遭難しようと生命の危機を感じることのない身体であるから、特に問題を重要視していなかった私であるが、流石にこの竹林が異常であることには気づいていた。
 何とか抜け出る手段はないものかと彷徨い続けていたが、やがて疲れがきて一時腰を下ろして休むことにした。

 今夜は見事な満月だった。
 自分の人生において良くないことが起きるのは、決まってそんな夜である。
 あの女と係わったときから、その運命は定められていたのだろうかと私は思った。
 ある意味では、私はあの日からずっと同じ夜にとらわれ続けているのだ。

 身体を休めながら、何か竹林を抜け出す良い案はないものかと頭を巡らせてみたが、どうにも考えがまとまらない。
 いっそ、このような竹林など全て燃やし尽くしてしまおうかと冗談半分で思いもしたが、流石にそれを本気で実行に移す気はない。
 それはもちろん倫理的観点からのことでもあったが、それ以上に自分の行動が他の何かに影響を与えることを恐れていたからでもある。

 結局、何も策は思いつかなかったが、じっとしていても仕方がないだろうと思い、立ち上がって服の汚れを払った。
 そんな私の耳に、ふいに歌が聞こえてきた。
 驚き、そちらに視線をやると、なにやら白い影がこちらへ近づいてくる。

 よく目を凝らすと、それは白い服を着た幼い少女であった。
 なにやらひどく上機嫌な様子で、跳ね踊るようにしながら歩いている。
 歌は適当なのか即興なのか、ところどころ歌詞をごまかしているのがわかった。
 上手く歌うことよりも、歌うことそのものが目的といった印象を受ける。

 このような時間に子供が出歩いているわけもなく、私の推測を肯定するかのように、頭から生えた二本の白い耳が少女の存在を何よりも明確に示していた。
 その耳の形状を見るに、兎の妖獣であると思われる。
 それならば彼女の陽気も、この満月によるものだろうと納得がいった。

 少女は私に何の関心も払わず、月を見上げて歌いながら、手が届くほど近くを横切っていった。
 何かしてくるものだろうと身構えていた私は、少女の意外な行動に拍子が抜けるのを感じながら、その背中に向かって声をかけた。

「おい」
 声の調子を強めて言うと、少女はぴたりと止まり、ゆっくりと振り向いた。
 その顔には、気分を害されたあきらかな不満の色があらわれていた。
「何よ?」と反発するように少女は言った。

 私は少々悪いことをしてしまった気がして、半ば弁明するような調子で言った。
「いや、恥ずかしい話なんだけど、どうやら道に迷ってしまったみたいなんだ。だから、もし貴方がここの森に詳しいのなら、話を聞かせてもらえないだろうか」
 それを聞くと、少女は「ふーん」と言って、その言葉を吟味した。
 その様子には、相手の嘘に対する猜疑心の強さが見て取れる。

「貴方、ただの人間じゃないみたいだけど、何者なの?」
 この少女の質問に、私はやや迷ったものの、結局は正直に答えた。
「私は、不老不死なんだ。昔飲んだ蓬莱の薬のせいでね」

 それを聞くと、少女は驚いたように目を見張り、私のことをじろじろと無遠慮に見つめてきた。
 その様子に、私は僅かな違和感を覚える。
 どうも彼女は不老不死という事実に驚いているのではなく、私の中に何らかの影を読み取ろうとしているように見えたのだ。

「名前は何ていうの?」
 少女は面白いものでも見つけたかのように目を輝かせて言った。
「名前は、ずいぶん昔に捨てたよ」
「どういうこと?」
「誰とも係わらないように生きてきたからね。名前なんて、独りで生きるには必要のないものだろう?」
 私は目の前の少女から、あの猫と共通する、束縛を嫌い、自由を愛する者に特有の空気を感じ取り、同意を求めるように言った。

 だが、少女は納得のいかない様子で首を傾げている。
「私は、そうは思わないけどなぁ」
 意外な否定の言葉に、私は思わず尋ねる。
「誰にも名前を呼ばれなくてもか?」
「誰にも名前を呼ばれなくてもだよ」
 少女はある種の確信に満ちた表情で頷いた。
 私はその確信の根拠がどこにあるのかを知りたくなった。

「どうしてそう思えるのか、教えてくれないか?」
「だって、名前は区別するためだけにあるものじゃないからね。名前には、そのもの自体の在り方を定める力があるんだよ」
「名は体を表すということだろうか」
「うーん、有り体に言えばそういうことかな。まあ、そのうち分かるようになるよ、兎みたいな子羊さん」
 少女はなにやら不思議な単語を口にした。

「兎みたいな子羊?」
「うん。死にたがるのは兎で、迷うのは子羊って決まってるでしょ」
 少女はにやりと微笑んだ。
 先ほどから思っていたのだが、この少女は常にどこか人を小馬鹿にしたような態度を取りながらも、同時に何故か人から憎まれることのない素養のようなものを有していた。

「どうして私が死にたがってると?」
「見ればわかるよ。いかにも憂鬱そうな顔してる。まあ、まだまだ子供だから仕方ないか」
 どう見ても少女の方が子供に見えたが、わざわざ言葉尻に噛み付くこともないだろうと思い、私は黙っていた。
 それに、不思議と少女の口調には、ただ事実を事実として語っているといった誠実な響きがあった。

「さて、どうやら貴方は出口を求めているようだけど、残念ながら貴方がとらわれているのは、出口のない迷路だよ」
「言葉遊びならやめてくれないか」
 私はにべもなく言ったが、少女は耳を貸さない。

「まあまあ、そう言わないでちょっとだけ付き合ってよ。ねえ、貴方なら自分の入り込んだ迷路に出口がないと知ったらどうする?」
 私は仕方なく答えた。
「そんなもの決まってる。出口がないなら諦めるしかないだろう」
「残念、不正解だね」
 そもそも解答を求めての質問ではなかったはずだが、そうはっきり言われるとどうも釈然としなかった。

「じゃあ、正解は何だと言うんだ?」
「簡単だよ。出口がないなら、入ったとこから出ればいい」
 これには私も苦笑せざるをえなかった。
「おいおい、それは詐欺だろう」
「当然だよ。何たって私なんだからね」と少女は鼻を鳴らして誇らしげだ。それから、少し声の調子を落として続けた。
「でもね、実際にそうやって入り口から出ないといけないような問題って結構多いんだよ。真面目な話」

 私は最後に付け加えるように添えられた言葉の語感に奇妙な魅力を感じ、口の中で転がしてみた。
「真面目な話」
「うん、真面目な話」
 少女は律儀に反復した。

 そしてすっと右手を動かし、私の後方の空間、つまり先程私が通ってきた道を指差した。
「今の貴方に必要なのは、後ろを振り返ることだよ」
 少女の言葉に従って、私は彼女の指し示す先を視線で追うように、ゆっくりと振り向いた。
 そして、少し離れたところに人が住むような建物が存在することを認めた。

 私は視線を少女に戻して言った。
「狸に化かされてる気分だ」
「よく言われるわ。お前は狸みたいな兎なんじゃなくて、兎みたいな狸なんじゃないかってね」
「それで、実際にはどっちなんだ?」
 私の問いに、少女は満面の笑みで答える。
「健康で可愛い、ただの兎だよ。さて、それで貴方はどうするの?」

 そう言われて、私は少し考えてみたが、そもそも他に選択肢はないように思えた。
「行ってみるよ」
「そっか」と少女は頷いた。そして、急に芝居がかった調子で言った。
「貴方こそ、姫にふさわしい。姫は貴方を選ぶでしょう」

 意味がわからず、私は尋ねた。
「何の話?」
「昔の話。ちなみに貴方はその後、二回死ぬことになるけどね」
「不吉な話じゃないか。ますます兎だとは思えないな」
「いやいや、それこそ正に私が兎だっていう何よりの証拠なんだけどね。まあ、そんなことはどうでもいいか」
 どうにも要領を得なかったが、少女がそれ以上何も話そうとしないところを見ると、あまり私には関係のないことなのだろうとわかった。

「礼を言ったほうが良いのかな?」
 私が訊くと、少女は首を振った。
「必要ないよ。どんな結果になるか、まだわからないし」
 それから少し思い直したのか、付け足すように言った。
「もし、今度会ったときにまだ感謝の気持ちがあったら、その時に言ってよ」
「ああ、そうするよ」
「その時は、貴方の名前を教えてね、兎みたいな子羊さん」
「ああ、そうするよ」

 二度目の返事は、少しだけ澱んでしまったが、それでも口にすることが出来た。
 そして実際に言葉にしてみると、私自身もそれを望んでいることに気付かされた。
「それじゃ、死にに行ってくるとしよう」
「行ってらっしゃい。お土産は甘い物が良いな」
 少女の言葉に私は笑みだけで答えると、背を向けて歩き出した。

 ややしたところで、少女が声を張り上げた。
「ああ、そうだ」
 私は歩みを止め、少女を振り返った。
「さっきの兎と子羊の話だけど、どっちもするのが人間だよ」
 そう言って、少女は笑った。

「それは真面目な話か?」
「うん、真面目な話だよ」
 その少女の言葉は柔らかく、母性さえ感じさせる優しさがあった。
「土産を期待していてくれ」
 私は笑顔で言うと、再び歩き出した。





 鬱蒼とした竹林が不自然に切り取られており、そこにこのような場所には似つかわしくない立派な家が建っていた。
 細かい部分にこれまで見たことのない意匠が施されており、どこか異国の情緒を感じさせる。
 家の外には、多くの妖怪兎たちがいた。
 皆一様に陽気な様子で、歌い踊る者たちや、地べたに眠る者がおり、まるで宴会の後といった印象を受ける。

 傍らに立ってその光景を眺めていた私だが、ふと縁側に兎たちとは違う二つの影を認めた。
 視線をやると、あちら側もそれに気付いたらしく、一人が立ち上がって私の方へ向かってきた。

 白く長い髪が印象的なため、遠目には老婆かと思われたが、実際に近づいてみるとその若さに驚かされた。
 だが、纏っている空気は若い女のそれではなく、私は緊張に身を固くして相手の出方を待った。
 女はそんな私の前に立ち、笑みを浮かべて言った。
「貴方はどなた? どうやってここに来たのかしら」

 表情こそ笑顔だったが、そこにはどのような偽りも見逃されることはないであろうと思わせる迫力があり、私は慎重に言葉を繰った。
「この竹林で道に迷ってしまって困っていたんだが、さっき出会った兎の妖獣に案内されて来たんだ」
 さっきの少女のことを述べるべきか若干迷ったが、おそらくここの兎たちの仲間なのだろうと考え、隠す必要はないと判断した。
「そう、あの子がそうしたということは何か意味があるのね」
 そう呟くように言って、女の視線が鋭さを増した。

「それで?」
「いや、それだけだ」
「そうじゃないわ。貴方は最初の質問に答えていないわよ」
 そう言われて私は答えに窮した。
 この得体の知れない女に対し、どのように返答したところで、それがお互いの関係を決定付ける致命的な一言になってしまうように思われた。
 そのように黙考する間にも私に対する女の猜疑心が高まってゆくのを感じて、とにかく何か言わなければと思ったそのとき、思わぬところから助け舟が出された。

「永琳、その子は私の客人よ」
 その声は、永琳と呼ばれた女の後ろにいつの間にか立っていた少女が発したものだった。
 さきほど縁側に座っていたもう片方だろう。
 私はそちらへ視線をやり、そして驚愕した。

「輝夜……」
 知らず、声が漏れていた。
 私の視線の先にいる少女、それは間違いなく私が千年以上も思い続けた相手だった。
 実際に姿を見たことがあるのは遠目に一度きりであったが、幾度も私の中で反芻され確固たるものとなっていたその顔を、まさか見間違えようはずもなかった。
 それも、彼女はあの頃と一切変わらぬ容姿をしていたのだから尚更である。

 積年の怨みを晴らすべき相手にようやく巡り合えたのだから、本来であれば喜ぶべきなのだろう。
 だが、私はただ驚き、戸惑っていた。
 敬虔な聖職者が、突然自分の信仰する神に出会ったところで、おそらくは同じような反応をすることだろうと思う。

 その時になって私は気付いた。
 私が輝夜へ抱き続けた憎悪とは、すなわち祈りだったのだということに。
 それは見返りを求めてはならず、また見返りが存在しないからこそ成立するものだった。
 その関係性が失われたことが何を意味するのか、それを明らかにするのは私にとって恐ろしいことのように思え、努めて考えないようにした。

「久しぶりね。お互い元気そうで何よりだわ」
「全くだな。まさかお前も私と同じく不老不死だったとは。いや、そもそもあの薬はお前が与えた物だったことを思えば、それも当然か」
「随分と品の無い話し方をするのね」と輝夜は余裕を含んだ笑みを浮かべて言った。

 それから先ほどの女に対し、下がるようにと視線で指示をした。
 女は何か言いたげにしながらも、結局は無言のままそれに従い、輝夜の後ろに控える形となった。
 私たちの周りで浮かれていた兎たちも、場の空気を読み取ったらしく、急いで撤収を開始した。

「まあ、私たちは元々寿命が無いようなものなのだけれど、確かに薬を口にしたのは事実よ」と輝夜は言った。
「私があの薬を手に入れたことは知っていたのか?」
「ええ、知っていたわ。だって、あの情報を貴方に流したのは私だもの」
 その言葉は、私に衝撃を与えた。
「なんだと。何故、そんなことを?」
 動揺の色を隠しきれないままに尋ねる。

 輝夜は蠱惑的な眼差しを私に向けて答えた。
「貴方が、魅力的だったからよ」
 私は間髪いれず、叫ぶように言った。
「ふざけるな!」
 すると、輝夜はあからさまに嘆息した。
「つまらない人ね。冗談を楽しむ余裕も無いなんて」
 そう言って、今度は蔑むような視線で私を見た。

「でも、残念ね。あのとき、私を睨み付ける貴方の瞳には確かに憎悪の炎が灯っていて、本当に魅力的だったのよ。それだけで、地上に来た甲斐があったとさえ思ったというのに」
「黙れ」

「貴方なら、永い時を生きる中で様々な穢れをその身に取り込み、美しい七色の玉を実らせて私の前に再び現れてくれるんじゃないかと期待していたのだけれど、どうやら思い違いだったみたいね」
「黙れ」

「いい加減、その怒った振りを止めたらどうかしら。虚構が見え透いていて、堪えがたいほどに醜いわ。たとえるなら今の貴方の視線は、殺される為だけに生まれてきた家畜のそれよ。そんなもので見つめられる私の気持ちにもなってみなさい」
「黙れ!」

 私は叫んだ。
 これ以上、この女に言葉を許してはならない。
 そう思い、輝夜に向かって業火を放った。

 脅しを込めた牽制のつもりで放ったそれが、なんと輝夜に直撃する。
 輝夜の傍に立っていた女は、もちろん難なく後ろに避けており、つまらなそうに輝夜を見つめていた。
 輝夜は燃え盛る炎に身を包まれながら苦しげにしばらく身悶えていたが、やがて倒れて動かなくなった。

 私は興奮と困惑で動揺し、女に向かって震える声で言った。
「おい、死んだぞ」
「ええ、死んだわね」
 女は事も無げに答える。
 その冷静さが、余計に私を苛立たせた。

「そんな馬鹿なことがあるか。死なないはずじゃなかったのか」
「貴方こそ何を馬鹿なことを言っているの? 死なない生き物がいるわけないじゃない。あんな炎で焼かれたら普通は死ぬわよ。どちらが常識的なことを言っているか考えなさい」
 確かに女の言う通りだった。

 私は自分の周りの非常識な出来事に慣れ過ぎて、何か重大な勘違いをしていたのではないのかという思いが湧き起こる。
 私はこれまで重傷を負ったことはあっても、死に至るまでの損傷を受けたことはなかった。
 確かに老いはしないし、傷もすぐに再生する身体ではあるが、その再生が追いつかないほどの損傷を受ければ、そこには他の生命と何ら変わらない死が待っているのではないか。

「そんな、私は……」
「殺すつもりは無かった、かしら?」
 ふいに背後から聞こえた声に、私は驚いて振り返った。
 するとそこには、無傷のままの輝夜が立っていた。
 急いで先ほどの死体を確認すると、そこには何も無かった。

「騙したのか」
 羞恥と憤怒を感じながら私は言った。
「いいえ、確かに死んだわよ」と輝夜。
「だが、生きているじゃないか」
 輝夜は微笑みを湛えている。
「その様子だと、貴方はまだ経験したことがないみたいね」

「何故、生きている」
「生きていてはいけないかしら?」
 輝夜の問いに、私はさきほどのことを忘れて感情のみで答えた。
「ああ、お前は生きていてはいけない」
「ひどい事を言うのね。生きているということは、素晴らしいことなのに」と輝夜は楽しそうに笑った。
 それから急に意地の悪い表情で「貴方が薬を奪うときに殺した男も、生きていてはいけなかったのかしら?」

 その言葉に、私は視界が歪むのを感じた。
 それは私が直視しないようにしてきた問題だった。
 誰も知らないが故に、糾弾されることのなかった罪。
 それが今、この女の手によって眼前に晒されている。

「それは……」
 私は言葉に詰まった。
「それは、何かしら?」
 輝夜はそれを見逃さず、先をうながした。

 私はぼんやりとした意識で、空を見上げた。
 そこには、あの日からずっと変わらない満月が浮かんでいる。
 私は、早口にすこし言葉をもつれさせながら、そして、自分の滑稽さを承知しつつ言った。
「それは、お前のせいだ」

 私の後ろで笑い声が上がった。
 思わず睨み付けるように視線を移すと、あの女がいかにも堪え切れぬという様子で口元に手を当てて笑っていた。
「あら、ごめんなさい」
 そう言いながらも、笑いは止まらない。

 そしてまた、輝夜も同じように笑っていた。
「なるほど、私のせいだったとはね。それは流石に気が付かなかったわ。かくして歴史の闇に埋もれていた事件は無事に解決した。めでたし、めでたしといったところかしら」
 私は激昂し、獣のように叫んだ。
 そして再び炎を繰り、輝夜を燃やし尽くす。
 しかし、今度はすぐに復活し、また笑い始める。

「もしかして、貴方の父が恥をかかされたのも、貴方がそんな身体になったのも、全て私のせいなのかしら?」
「そうだ! 全て、お前のせいだ!」
 私は尚も叫び、輝夜に殴りかかった。
「お前さえいなければ、こんなことにはならなかった!」
 したたかに頬を打たれて倒れた輝夜に、私は馬乗りになって殴り続けた。
 輝夜はそれでも笑っていたが、徐々にその笑い声が小さくなり、やがて途絶えた。

 私は安堵を感じたが、それも一瞬のことだった。
 輝夜の死体が霧散し、すぐに新たな身体が私の前に現れた。
 そして、私を見下ろし、嘲笑する。

 私はその笑い声をかき消すためにとにかく叫び、とにかく殺し続けた。
 だが、輝夜は殺すたびに蘇り、笑い続ける。
 私はどうすれば完全に殺しきれるのかと、様々な方法で輝夜を殺してみたが、結果は変わらなかった。
 やがて私は叫ぶのに疲れ、輝夜は笑うのに飽いたとみえ、静寂の中で殺戮行為だけが音を発し続けた。

 時間の感覚すらわからなくなるほどに殺し続け、空が白み始めた頃、私の中に徒労感が芽生え始めた。
 これは人生の縮図だ、と私は感じた。
 いくら足掻こうとも、私は何も成し遂げることが出来ず、また何も得ることが出来ない。
 たとえ何かを得たとしても、それは永遠の時間の中で再び失われる。
 ただ、ただ、全てが徒労に過ぎないのだ。

 さきほど輝夜は私の怒りを虚構だと言ったが、それは正しかった。
 輝夜と再会した際に感じた通り、私の憎悪はまさしく祈りだった。
 そしてその祈りには望みなど最初から存在せず、ただ空っぽの中身に気付かない振りをして、祈ることそのものに逃避を続けていただけだったのだ。

 それを認めたとき、私は自分の中の最後の一つが失われるのを感じた。
 その瞬間、私の心は死を迎えた。
 膝から力が抜け、輝夜の前に跪いて頭を垂れる。

 そんな私を見下ろして、輝夜は言った。
「もう、終わりかしら?」
 私は答えなかった。
 ただ、自分でも何故そうしたのかはわからなかったが、突き動かされる力に従って輝夜の膝を抱いた。
 輝夜はよろめきながらも、私の頭に手をやり、子供をあやすように優しく撫でた。

「どうしたの?」
「疲れた」
 搾り出すような声で私は言った。
「私を殺すんじゃなかったの?」
「疲れたんだ」
「じゃあ、貴方はどうしたいの?」

 そう問われて、私の中に明確な答えが浮かび上がった。
 それと同時に、私は兎の少女の言葉を思い出す。
 少女は私に、二回死ぬと言った。
 一つ目の死は、既に訪れた。
 では二つ目はどのような形でもたらされるのだろうか。
 そう思った瞬間、私はそれを口にしていた。

「死にたい」
「そう」
「殺してくれ」
「わかったわ」
 どこまでも優しい声で輝夜は言った。
 そして、私の頭を撫でていた手を離したかと思うと、それを今度は私の背中へと突き入れた。

 突然の衝撃と、生まれて初めて味わう激痛に、私は地に這いつくばって身悶えた。
 自分の胸を見ると、そこから面白いくらいに血が噴き出しており、それと同時に意識が急速に失われてゆくのを実感した。
 視界の外側から闇が広がり、やがて全てが飲み込まれた。

 身体を苛んでいた激痛がぴたりと止み、私は自分が身体の全ての感覚を失ったのを知った。
 ただ闇に包まれ、どのような音も空気も存在しない世界に私はいた。
 それは私が夢想した、あの光射し込まぬ海底の世界だった。
 ようやくここに辿り着くことが出来て、これで全てが終わったのだ。
 そう思った私は安堵に包まれ、心地よい眠りに落ちようとした。

 だが、全てを失ったはずの私の耳に、微かな音が聞こえてきた。
 周囲には、音を発するものなど存在しない。
 しかしその音は確かに聞こえており、次第に大きくなり始め、やがて地鳴りとなる。
 驚いたことに、それは私自身の身体から聞こえていた。

 それに気付いた瞬間、私は理解した。
 全てを失ったはずの私に最後まで残っていたもの、全ての生命が最初に持って生まれ、そして最後まで失うことなく持ち続けるもの。
 それが私の中で、一つの痛切な訴えを叫び続けていたのだ。

 私の身体は急速に浮上する。
 暗い闇が晴れ、海がその青を薄めていき、最後には私は海面の煌きへと吸い込まれた。

 身体の感覚を取り戻して最初に感じたのは、眩しさだった。
 朝日が、私の瞳に射し込んでいた。

 私は思わずよろよろと膝をついて、顔を俯けた。
「どうだった?」
 声の方へ視線を向けると、そこには輝夜が立っていた。

「よく、わからない」
 私は素直な感想を述べた。
 輝夜はそんな私を満足そうな様子でじろじろと見つめ、訊いてきた。
「まだ、死にたいかしら?」
 今度の答えは、考えるまでもなく明白だった。

「死にたくない」と私は言った。
「そう。まあ、どうせ死ねないのだから、生きなさい」
 輝夜はどうでもよさそうに言った。
 その右腕は、私の血で汚れていた。

 自分の中の全ての感覚が鋭敏になっており、私は身体の全てで世界を感じた。
 そして同時に、その世界に存在する自分と、自分の犯した罪の意味を知った。

「ごめんなさい」
 誰に向けるでもない謝罪の言葉が自然にこぼれ落ち、堰を切ったように涙が溢れ出た。
 それはようやく見つけ出した入り口であり、出口だった。

「綺麗ね」
 輝夜が呟くのが聞こえた。
 滲む視界に彼女の表情をとらえると、そこに一筋の涙が流れていた。

 そのとき、私は自分が全く新しい存在に生まれ変わったのを感じた。
 私の魂は既に多くの穢れにまみれており、純粋無垢とはいかなかったが、しかしそれでも祝福を受け、その生を肯定された。
 罪はこれからの行動によって贖われなければならないが、それを私は絶望によってではなく、希望を持って受け入れよう。
 私の涙は嗚咽となり、生まれたばかりの赤子のように、ただ泣き続けた。





 やがて涙も枯れ尽きて次第に冷静になってくると、私は人前でこのような姿を晒したことに羞恥を感じた。
 それを打ち消すようにわざと乱暴に立ち上がり、輝夜に向き合う。
「お前は私が憎くないのか?」
 私の問いに、輝夜は笑顔で答える。
「いいえ、憎いわよ。すごく痛かったもの」

「では、どうして何もしなかった。今ならいくらでも機会はあったはずだ」
 輝夜は少し考えるような素振りを見せる。
「そうね。敢えて言うなら、謝礼かしら。といっても貴方に対するものではないけれど」
「私でないなら、誰に対するものだと言うんだ?」
「貴方の父よ」
「父だと」
 私は何故そこで突然父が出てくるのか分からずに訝って言った。

「ええ、そうよ。私の出した難題を解いたことに対する、ね」
「難題を解いただと? 父は失敗したと聞いたが」
「確かに、あのときはただの贋物だったわ」
 先程から輝夜の言葉は、どうも要領を得ないものばかりだった。
「どういうことだ? 何が言いたいのかさっぱりわからない」

 輝夜は私が困惑するのを楽しむように微笑んだ。
「貴方こそが、私があの男に出した難題の答えなのよ」
 そう言われて考えてはみたものの、やはりどういうことなのか分からなかった。
「それこそ難題のように思えるな」
 匙を投げた私を見て、輝夜はさも可笑しそうに笑った。

「とにかく、あの男は今になってようやく難題を解いたのよ。まあ流石に少し時間がかかり過ぎだし、本人がもういないんじゃ約束を守ってあげることは出来ないけれど、一人の男にそこまで想われて喜ばない女はいないわ。ねえ、永琳?」
 輝夜が自分の傍に付き従う女に話を振り、女がそれに同意するように笑みを浮かべる。
「それで、その礼としてさっきは私を見逃したのか?」
「まあ、そういうことね。それだけでは何だから、これも用意させたわ」

 輝夜の言葉に、女が動いた。
 私に近づき、小さな風呂敷き包みを渡して言った。
「使い方は、まあ見ればわかるわ」
「これは?」
 私は怪しく思って尋ねた。

 それに答えたのは輝夜だ。
「家に帰って開けてみればわかるわ。きっと喜んでもらえるはずよ」
 それ以上は何を質問しても答えてくれないように思えたので、私はまだ不審を抱きながらも素直にそれを受け取った。
「とりあえず、貰っておくよ」
「ええ、そうして頂戴」
 輝夜は頷いた。

 それから輝夜は静かな声で言った。
「それで、貴方はまだ私のことが憎いのかしら?」
 そう問われて、私は今の自分が輝夜に対してどのような感情を抱いているのか改めて考えてみた。
 だが、それはあまりにも複雑に様々なものが絡み合って形成されており、とても一言で言い表すことは出来ないように思われた。

「わからない」と私は言った。
「そう」
「でも、確かに憎いという感情もあるように思う」
「そう。ならそれがわかるまで、私を殺しに来なさい。そのときは、私も相手をしてあげるわ」
 その輝夜の言葉は、それから永く続くことになる小さな戦争の会戦を告げていた。

「ああ、わかった」
 私は輝夜と視線を交えて、力強く言った。
 輝夜はそれに不敵な笑みでこたえ、それから何かに気付いたように言った。
「そういえば、まだ貴方の名前を聞いていなかったわね」

 その言葉を聞いた瞬間、今こそ失った名前を探し出すべき時が来たのだ、と私は思った。
 新しい生活をおくるための名前。
 私の在り方を定めるための名前。
 そういった名前を、今の私は切実に必要としていた。

 私は空を仰ぎ、眩しく輝く太陽を見た。
 日の出とともに生を得。
 日没とともに死を迎える。
 それは輪廻の象徴だ。

 私はそこに、自分の在り方を求めた。
 永遠に続く生ではなく、無限に繰り返される転生。
 私はこれからの毎日を、新たな生をもって迎え、死をもって終えよう。
 あの太陽のように自分も紅く燃え盛り、鮮明な日々を生きよう。

 そう思った瞬間、私はその太陽に向かって宣言するかのように名乗っていた。
「妹紅だ。私は、藤原妹紅だ」
 輝夜の傍に立つ女が淡々とした調子で言った。
「吾も亦紅なり、か。決して目立つ花ではないけれど――」
「強くて美しいわね」
 輝夜が言葉を継ぎ、私と同じように空を見上げた。

 私はそんな輝夜へ視線を向ける。
「月のお姫様の遊び相手には相応しい名前だろう?」
 輝夜は空を見上げたまま答えた。
「ええ、そうね」
 そして、ふっと微笑した。

 輝夜が太陽に何を思ったのかはわからない。
 月に生まれ育った者にしか理解できぬ感情を抱いていたのかもしれないし、もしかしたら彼女自身にすら理解出来ない感情を持て余していたのかもしれない。
 だが、少なくとも私は、そのときの彼女の横顔を美しいと思った。
 それだけは確かなことだったし、私はそれを忘れてはならないと強く感じたのだった。










 これを言うのは全く蛇足の感があるけれど、それから三百年以上経つ今になっても、私たちはあの日に始めた小さな戦争を続けている。
 私たちの関係を知る者の中には、それが歪んだ愛情表現なのではないかと邪推する者もいるが、それは全くもって検討違いも甚だしいと、この際はっきり申し上げておきたい。

 だが、では憎悪しているのかといわれると、それも正確には違うのだ。
 言葉というものは短い生をまっとうする者たちが生み出したものであり、無限の時を生きる私たちの感情を表現することに関しては考慮されていない。
 だからこそ、あえて言葉で表現するならば憎悪という感情が最も近いのではないかということになるのである。

 しかし、たとえ私たちの感情を表すに充分な言語が用意されていたとしても、正確にその気持ちを表現することが出来るかというと、正直な所あまり自信はない。
 それに関しては私も貴方がたにも、さしたる違いはないように思う。
 自分の感情を正確に捉え言葉にしたはずが、実際にそれを読み上げてみると、必要な情報が抜け落ち、全く別の何かに変貌してしまっていることに気付いたときの絶望感。
 それを私たちは共有出来るはずである。

 そして、そもそも自分の感情を正確に捉えるということ自体が非常に難しいということも、同じようにわかっていただけるだろう。
 少なくとも私は未だに自分の感情を正確には理解していないし、ましてや他人の感情ともなれば雲の上の世界である。
 私たちの戦争が終わりを迎えるとすれば、それはお互いが自分と相手を理解したときに、どちらかの勝利ではなく、双方の勝利という形でもたらされるのであろうと私は確信しているが、たとえそのような日がいつかは訪れるのだとしても、それはまだまだ先のことだろう。

 私はあの日、輝夜が流した涙の意味すらまだ理解出来ていない。
 私たちは長くを生き、厄介なものをあまりにも多く抱え込みすぎていた。
 涙一つ流すにしても、それは千の理由が複雑に絡み合った末に起こった結果にすぎないのだ。
 私たちの殺し合いは、その複雑に絡み合った糸を一つ一つ辛抱強く解いていく行為に他ならない。
 そして、そうやって解放の時を待ち続ける感情の繭が、私たちの中にはまだまだ転がっている。
 それを思うと、永遠ですら充分な時間ではないように思える。
 だが、そこに希望がある限り、それは決して悲観することではないのだと既に私は知っていた。

 今日も、夜が明けようとしている。
 昇り行く太陽の眩い光が、地上を覆っていた暗い闇を払ってゆく。
 力強い光に照らされて、深い闇の中に沈み込んでいた生命の一つ一つが、自らの色彩を思い出してゆく。
 やがて全ての闇が光によって取り払われると、そこには一つの世界が姿を現す。
 それは、驚くほど多くの色に満ち溢れた新たな世界だ。
 私はその世界に彩りを添える色彩の一つとなり、今日を生きる。



 ああ、生きているってなんて素晴らしいんだろう。










 本来ならばそこで終わるのが美しいとはわかっていながらも、それに対してどうにも気恥ずかしさを感じるという自身のひねくれた心根から、ここに蛇足につぐ蛇足を差し挟まんとする衝動に抗うことが出来ない。

 あの日、輝夜から受け取った小包を家に帰って開いてみると、中には軟膏が入っていた。
 説明書きによると、筋肉の疲労に効果有りとのことだった。
 どうしてそのような物を、と思った私だったが、その疑問はすぐに氷解することとなる。
 次の日の朝、深い眠りから目をさますと、自分が寝床の中で起き上がることも出来ない程のひどい筋肉痛に苛まれているのを発見したからである。
 何となく癪な気がして貰った軟膏を素直に使わなかったこともあり、その痛みは実に三日間にも渡って私を苦しめた。
 Thank you for your time.
 Thank you for your life.
 Thank you thank you thank you.
ぱじゃま紳士
http://pajamasgentleman.blog45.fc2.com/
作品情報
作品集:
最新
投稿日時:
2009/05/09 23:17:34
更新日時:
2009/06/18 15:15:49
評価:
22/22
POINT:
156
Rate:
1.57
1. 9 #15 ■2009/05/11 20:52:27
これだけの逸品の上、オチまで付いてるなんて素晴らし過ぎるww
2. 10 名前が無い程度の能力 ■2009/05/13 08:44:31
いい意味で胸がせつなくなる独白ですね
3. 10 三文字 ■2009/05/16 02:52:27
ああ、理想的な姫様と妹紅の関係だ……
ただの犬猿の仲とはまた違う、そんな微妙で絶妙な関係。
>>言葉というものは短い生をまっとうする者たちが生み出したものであり、無限の時を生きる私たちの感情を表現することに関しては考慮されていない。
この言葉に思わず頷いてしまいました。
永遠を生きるということはまさに人間でなくなること。それが良く分かります。
そして穢れを取り込んで実をつける蓬莱の玉の枝。それが、地上で生き続けて穢れを重ね続けた妹紅というのもまた上手い。
とにかく、素晴らしい妹紅と輝夜をありがとうございました。
4. 8 パレット ■2009/05/18 00:45:56
淡々と語られるような文章が逆に、強く秘められた感情を隠そうとしても滲み出させてしまっているくらいに思わせて。それら文章だけですごいなあと感じます。素晴らしいお話をありがとうございました。
5. 4 名前が無い程度の能力 ■2009/05/18 14:48:29
妹紅の独白形式…なかなか面白かった
6. 7 神鋼 ■2009/06/01 21:47:54
中盤くらいまでは読んでいて文章は綺麗だけど華が無いように思っていました。
ですが最後まで読むと非常に上手く出来ており、手垢の多い内容であるにも関わらずしっかりと汚れが落としてあるので見事な仕上がりに感じました。
7. 9 佐藤厚志 ■2009/06/02 20:53:56
俺はこの語り口に大変魅せられてしまい、すっかり参ってしまいました。
まず読みやすさ。すらすらと頭に入っていく文章は、素人目ですが、非の打ち所がないくらい洗練されて、何だよこれ、凄いなぁ、こんな文章俺には到底かけっこないなぁと、打ちのめされてしまいました。
それでいて平易とは程遠い、色鮮やかな表現法と所々で感ずる艶やかさ、何ともいえないもどかしさ。今コンペで二番目に出会った、本当に素敵な小説で御座いました。
8. 6 気の所為 ■2009/06/03 16:56:04
ああ、これは良い関係ですね。
「貴方は不老不死の人間がどういう気持ちで生きていると思いますか?」と聞かれたら、ナンセンスな質問だとしか答えられない。
死なない生き物と死ぬ生き物では、そもそも扱う言語が違うのです。言葉で通じる訳もない。
ただまあ、彼女らの行動から、いろいろ想いを推測するくらいで、いいんじゃないでしょうか。
いつでも日常的な彼女達が素敵。
9. 8 As ■2009/06/07 12:53:57
無限の時を生き永らえることはどれほどのものなのでしょうね。
あらゆる感情が磨耗していくのはどんな気分なのでしょうね。
いいお話でした。
10. 6 有文 ■2009/06/08 00:38:12
良い妹紅の半生でした。するすると滑るように。てゐとの絡みが特に良かったです。
11. 4 so ■2009/06/11 07:27:52
うーん。筆主様のメッセージがあまり伝わってこないです。
ラストの言葉がそうなのかな、とは思ってます。
12. 8 ふじむらりゅう ■2009/06/12 00:01:33
 よくある話ではあるんですが、それを最後まで「書き切った」という印象を受けました。
 輝夜と対峙するシーンは、妹紅の生きてきた道筋を集約するような、爽快感と解放感がありました。
 でも色はあんまり関係ないかも。
 あとがきの英文、何かの歌の歌詞だったような気もするんですが……なんだったかな。
13. 10 M ■2009/06/12 00:51:24
読み始めてすぐ「この長さは最後まで無理かな…」と思う位長い&読み辛い!!と思ったのですが、
読んでいくにつれてその先が気になっていったのと、特徴的な文章の書き方に吸い込まれるように最後まで一気に読了させて頂きました。
最後まで読んで全体的にとても人間味のある、好感度の高い妹紅だなと思いました。
個人的にてゐとの会話と最後のオチが可愛くて好きです。
ただ、一点気になったのは猫の少年と会った時に「強姦だ」ともこたんが瞬時に思った所です。
私が女なので気になっただけかもしれませんが、瞬時に強姦と覚るのはちょっと女の子として残念だなーとw
とはいえ、とても素敵な読み応えのある作品を有難う御座いました!
14. 8 八重結界 ■2009/06/12 18:45:33
結局は殺し合っているんだけれど、そこに当てはまるべき感情が無い。
ただ無為な時間を過ごしているようで、なんだか満ち足りている二人を幻想しました。
妹紅の過去を悲しいと一括りにするのは楽だけれど、これも言葉で言い表せるようなものじゃないんでしょうね。
15. 10 moki ■2009/06/12 18:49:29
一貫したテンションでの過去語り、淡々とした語り口が妹紅の来し方を雄弁に表していて、実にいいなあと思いました。
途中まで読んだところで、妹紅の死に対する感覚(とそこを元にする人間性)に違和感を覚えていたのですが、輝夜との出逢いまで来て納得。ラストの未来へ相対する妹紅の心情描写が素敵です。
どうでもいいですが「吾も亦紅なり」の虚子の句はこれより後の時代でなかろうか。いやまあ知ってるはずはないだろうので単なる偶然なのでしょうねw
16. 8 ぴぃ ■2009/06/12 21:30:31
文章が実に美しい。ストーリーも少々哲学的な面が強かったものの、楽しめる内容でした。
最後のオチが、ほのぼのしてるのもお気に入りw
17. 3 木村圭 ■2009/06/12 21:51:38
重い。ストーリーではなく語り口が私にはあまりに重過ぎました。
各々とのやり取りには唸らされましたしそれもこの語り口があってこそだとは思うのですが……。
18. 6 名前が無い程度の能力 ■2009/06/12 22:49:08
妹紅=穢れを溜めた蓬莱の玉の枝、という視点はおお、という感じ。
起伏や盛り上がりのない文章ですけれど、読んでいて普通に楽しめはしました。
19. 7 時計屋 ■2009/06/12 23:07:19
 非常に細やかな心理描写と、情趣に富んだ文章に驚かされました。
 お話自体は儚月のエピソードを補完したような形でしたが、眼光紙背に徹すという表現がふさわしい解釈だと思います。
 特に妹紅の退廃、絶望、そして希望の曙光を見出す流れが実に自然でありながら深みがあり、読んでいて思わず惹きこまれました。
 ただ、お題分が薄いように感じましたので点数は少し減らしましたが、それでも申し分の無い出来であったと思います。
20. 7 つくし ■2009/06/12 23:11:45
申し訳ありません、時間が差し迫っているため、採点のみにて、感想本文は後ほど改めて。
21. 4 ハバネロ ■2009/06/12 23:13:15
淡々と流れているけど、目が流れる事もなく、文章も読みやすい
激情に任せての復讐ではない所を書いてあるので納得できた
22. 4 K.M ■2009/06/12 23:18:11
あんまり「色」の感じがしないので、この点数で。
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