PERSONAL COLOR

作品集: 最新 投稿日時: 2009/05/09 23:33:29 更新日時: 2009/05/09 23:33:29 評価: 19/19 POINT: 85 Rate: 1.10
 目を覚ますと、そこは一面、降りしきる花の雨。

 はらはら、はらはら、はらはら、と途切れる事なく。
 雨のように、雪のように、けれど桜であるとはっきりわかる美しさで、色を持って落ちる。
 とめどなく降り注がれる光景を見上げれば、まるで紅染めの空に昇るような錯覚を覚える。
 惑う、眩む、あまりにも妖しの情景。散っているだけなのにも関わらず。
 見る者が人であればきっと狂う。妖怪ですら、もしかしたら狂うかもしれない。

『桜は……本当は白色になりたいと思っている』
 横たわる身体に反響する、裁く者の台詞。
「本当は白色になりたい……ねえ」
 彼岸桜の花びらに沈む、痛み走る擦り傷だらけの上半身を起こし、呟かれた言葉を反芻する。
 久しぶりに弾幕ごっこで味わう敗北感よりも、その後に閻魔の口から漏れた台詞が気になって仕方がない。
 ぼさぼさになった髪を手櫛で梳くと、淡紅い花弁が張り付いていた。
「そうなの?」
 本心から誰に問いかける訳でもなく、私はそれをじっと見る。
 ひとひら、指先で摘んで、近づけ、そのままただ眺める。
「そうだったかな」
 相対する子の代弁をするように、一言紡ぐ。
 風が吹いた。一層、視界の色味が濃くなる。
「ほら、貴方もあちらに行きなさい」
 指を離すと捕まえていた子も飛び立ち、吹雪く群れに加わっていった。


 それなりに長く、風景を眺めていた。
 思索に耽ながら、ずっと目で追っていた。


「お前さん、こんなところで何をしているんだい?」

 閻魔に会う直前に、叩きのめした死神がどこからともなく現れ、話しかけてくるまでは。

「心の平安。それをね、見ているの」
「?」
「人間がこの子に付けた、花言葉というものなの」
「へぇ、それはまた」
 死神は桜によりかかったそのままの姿勢で、首だけを持ち上げて花に視線を合わす。
「なるほどね、言い得てる。鎮魂やら何やら――鎮めるって奴なら良く合っている」
「そうね、そう思う」
「ん? ご不満なようで」
「いいえ。ほとんど不満なんてないわよ、ただそれはあくまでも他人が付けたものよねってだけ」
「綺麗を楽しむ花見に、そんな面倒な事考えているのかい。変わっているねぇ」
「花の妖怪乙女なもので。弾幕ごっこにも負けてね、アンニュイなの」
 別に弾幕ごっこに負けたのが原因ではないけれど。
「ああ、四季様に負けたのか。お前さん、結構強いのにねぇ」
「舌を抜かれなかっただけ儲けものね」
「おや、殊勝な」
「――ま、次やる時は絶対負けないけど」
「……正直者だなぁ」
「ところで、貴方は何をしにここに?」
 私の問いに、死神は「藪から八岐大蛇が出た」みたいな表情に変わった。
「し、仕事が一段落ついて、ねぇ。だからちょっと花見でもしようかと、ね……」
「……嘘つきねえ」
「本当だって、本当も本当。真実すぎて困るぐらいなんだから」
「へえへえ。表に出せないぐらい真実って話ね」
「そ、そうそう! ほら、表に出すと消されちゃうからさー」
 貴方が閻魔様に? とは口に出さないでおいた。

「で、何を考えているんだい」
「この子達はね、自分達よりも他の方を優先してしまっているのかなってね」
「それは……どういう事?」
「白黒はっきりさせたがりの閻魔様によるありがたいお話よ」
「あー、なんか四季様が言いそうな話だ」
 あの閻魔、部下の躾が足りていないんじゃないかしら。
「桜はね、本当は白く咲きたがっているんだって」
「ふうん? 白く咲いた桜なんて見た事ないな」
「私はかなり昔に見たっきり」
 長く生きていると、どうしても昔の事は軽く思えてしまう。
 それでも、あのほんの数時間見ただけの光景は忘れられない。
 陽光差す春に、空からの真白き風花、そして、白く咲き誇る桜花弁。
 入り交じり溶け合う、幻想の光景。風化する事なき、かつての静寂。
「あの一瞬が忘れられないから、今もずっと花と共に生きている」
 咲く花を追い求め、私は季節を旅する。また心を振るわすような情景を胸の内に入れたくて。
「それは、見たいものだ」
「死神に飽きたら、貴方もあちらこちら歩いてみれば良いわ」
「それは今でも出来そうだけど、あ、いや、なんでもないさ」
「……正直者ねえ」

 しばらくぼうっと、二人並んで桜達を眺めていた。
 ただ、何かしらの思考が纏まってきたので口に出してみた。

紅梅
「紅梅?」


「桃?」


「桜?」

 私が花の名前を呟く度に、死神はきょとんとした声をあげる。

「花の名前をつけてもらっている色なんて、センチメンタルすぎるかしらね?」
「……」
「みんなみんな赤なのにね、みんなみんな違う赤なの」
 死神は静かに私の言葉の続きを待つ。
「いったいどこで、いつどんなにして、花々達が自分に一等似合う色を見つけたのか」
 彼女の目を見る。その瞳の色も、知る花々と違う赤。
「そんな事を考えたことある?」
 風が吹く、花弁が舞う。
 色乱れるここで、私はそう問いかける。
「いや、残念ながらないよ。むしろ今初めてそんな考えに気づいたさね」
 どこか面目なさそうに、彼女は笑う。
「ふふ、こんなにも似合っているんだから気づいてあげなくちゃ。きっと、長く、長く長く、ずうっと想い続けて手に入れたものなのよ」
 人でも、妖でも、色づくものなら、きっとそうなのだろう。
 始めの者が後に続く者へ、想いつづけていたに違いない。
「気の遠くなるような話だなぁ。だけど、それだけの時間の末に手に入れたものは、やっぱり一番似合うんだなって納得するよ」
 死神はおかしそうに笑う。そしてそれに合わせて、都度、赤い髪が揺れる。私はその中に花を見る。彼岸の花。
「あら、貴方の髪の色だって、瞳の色だって、肌の色だって、服の色だって、よく似合っているじゃない」
「おやおや、それはまた照れるね」
「どこで選んだかは私には解らないけれど、きっとそれが貴方に一等似合った色達なのよ」
「そうか、そういう考え方も悪くないね。お前さんも似合っているよ」
「ありがとう、選ぶのに悩んだから嬉しいわ……なぁんてね」

 そこで会話は途切れ静寂。私と死神は、黙って全てを見ていた。
 ありのままを、あるがままを見ていた。昔ありし過去を、今ある現在を。


「それじゃ、また機会があれば」
「ああ、死んだ時にでもあたしに声かけてくれよ」
「そうね、そんな時はお願いするわ」

 せっかくだから、最後に彼岸花の花言葉でも教えようかと思ったけれど、それは止めておく事にした。

「またな、花の乙女さん」
「ええ、またね。渡しの死神さん」

 途中、一度だけ振り返って、手を振った。

 死神は手を振って応え、風に吹かれた桜達も、枝を揺らして応えた。

 雨は降り続く――何かが満たされるまで、その色で降り続ける。

 閉じた傘を携えて、私は歌いながら歩く。

 それっきり、振り返る事もなく、歩き続けた。
 変わらない歩幅でそのまま、花々の色で染められた地面を私は歩き続ける。

 幻想の景色を追い求めて――どこまでも歩いていく……。
・大多数ネタ予想:カラーギャング物
 赤を基調としたチーム紅魔やたった三名ながらもヘッドがチートキャラなチームマヨイガなど、幻想郷の覇権を賭けた果てしない抗争を描いた怪作。
 しかし途中で大勢の作者が我に返り、全てお蔵入り。あれ……? 大多数……?

 ……なんてあほな妄想は置いといて、どんな作品が出てくるか楽しみです。
萩ほとり
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最新
投稿日時:
2009/05/09 23:33:29
更新日時:
2009/05/09 23:33:29
評価:
19/19
POINT:
85
Rate:
1.10
1. 7 三文字 ■2009/05/12 01:37:49
あとがき、どう見てもツッコミ待ちだが、あえてツッコマない。
白になりたい桜は、最初は大層赤かったのでしょうなぁ……
長く思い続ければ、人も何か変わることができるんでしょうかね。
2. 4 パレット ■2009/05/18 00:50:43
「花の名前をつけてもらっている色」って、なんかいいなあ。彼女らしい。
3. 8 名前が無い程度の能力 ■2009/05/19 12:37:14
ゆうかりんとこまっちゃんのなんでもないような会話がほんのり桜色でした
4. 2 神鋼 ■2009/06/03 01:03:26
直接色を使ってしまうのは無粋というものです。
5. 5 気の所為 ■2009/06/03 17:24:22
会話が自然な感じがしていて会話文の多さを気にさせませんでした。
タイトルからてっきり百合か何かかと。それは偏見ですねごめんなさい。
6. 4 As ■2009/06/07 13:01:48
何を書き表したかったのかが見えにくかったです。
単純に読力不足でもありますが・・・。
7. 5 有文 ■2009/06/08 00:23:43
すっきりまとまる良いお話でした。
8. 6 佐藤厚志 ■2009/06/10 02:40:56
突然文字に色がついていて、あらびっくり。
それが小説とマッチしていていました。
どうやってやるのか、後でこっそり教えてくださいな。
9. 6 ふじむらりゅう ■2009/06/11 00:34:16
 雰囲気が素敵。あと小町の台詞がなんだかとても小町っぽかった。
 話全体から漂う、東方っぽさっていうかキャラクターのそれっぽさが出てて面白かったです。
 あと、ローカル保存のテキストで見てたときには気付かなかったんですが、webだと色ついてたんですね。考え付かないことじゃないはずなのに、どうしてか驚きました。
10. 4 上泉 涼 ■2009/06/12 02:33:22
確かに、花の名がついた色っていいですよね。
11. 6 ぴぃ ■2009/06/12 04:58:01
静かな雰囲気を味わえるSS。途中の三色にもハッとさせられました。
12. 8 moki ■2009/06/12 18:43:47
雰囲気が実に素敵。違う赤を違う赤と見つめ続けることをしないと、一つの赤にしか見えなくなってしまうんだろうな。「また会う日を楽しみに」ってのも気が利いてますね。
それにweb媒体ということを利用した演出もいいと思います。
13. 4 八重結界 ■2009/06/12 19:04:25
大人な感じで、淡い雰囲気が伝わってきました。
もうちょっと、二人の会話を見てみたかったものです。
14. 3 木村圭 ■2009/06/12 21:53:23
カラーギャングってなんだっけ……と頭を捻ってみたら思い出した、これは面白そうだ……!
閑話休題。
花の色が他と被らないのは自らの花弁の形に1番似合う色を追及したから、なるほど納得出来る話。幽香さん詩人だわぁ。
15. 4 リコーダー ■2009/06/12 22:15:15
ちょっと論点がボケすぎ?
16. 3 K.M ■2009/06/12 23:09:13
最適な色、か……青い薔薇とかはどうなのだろうか。捻じ曲げた産物だが。
17. 4 時計屋 ■2009/06/12 23:13:20
 短いながらなんとなく心に染み入るようなSSでした。
 色の名前をつらつらと見ていると、古来から人がどれだけ花を愛してきたか分かりますなぁ……。
18. 1 つくし ■2009/06/12 23:15:28
申し訳ありません、時間が差し迫っているため、採点のみにて、感想本文は後ほど改めて。
19. 1 ハバネロ ■2009/06/12 23:21:08
神主の言葉によれば、弾幕、面、バックボーン、BGM、そしてグラフィック。これらを全てまとめる事でキャラクターが生まれるのだそうな。
逆に考えると、着替えたりするとそれが揺らぐのだろうか?
そんな事を考えてみたり
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