悩む事なんてない、自分らしく……

作品集: 最新 投稿日時: 2009/05/09 23:51:43 更新日時: 2009/05/09 23:51:43 評価: 18/18 POINT: 56 Rate: 0.85
「くそ〜また負けた〜〜」

 幻想郷の境目博麗神社から悔しがっている声が聞こえてくる。魔理沙の声だ。
 
「またおととい来なさい」

 そして、その悔しがっている声を軽くあしらった返事を返す。霊夢の声だ。
 その声を聞いて、魔理沙はさらに悔しがった嘆きをもらす。

 何故、こんな事になっているかは理由は単純。
 魔理沙と霊夢がスペルカード勝負をし、激しい戦いの末、魔理沙が負けた、そんな単純な話だ。
 そんな勝負の内容は、魔理沙は力と量で攻め、霊夢は正確性と勘で攻めた。いつも通り二人のそれぞれの持ち味を生かした上での戦い方でやった。

 しかし、魔理沙がいくら力と量で攻めようとも、直線的な魔理沙の弾幕では霊夢の正確性を持った避け、そして勘による理不尽な避けにより容易くかわされ、
そして霊夢の統制の取れた弾幕で強引な避け方をしていた魔理沙が被弾。いつものパターンだった。


「くそ!理不尽すぎるぜその避け方は」
「勘の赴くままに避けたまでよ。あなたの弾幕は軌道が読みやすいしね」

 軌道が読みやすいと言っても、直線的ではあるが不意打ちの後ろから攻めるレーザーも結構あった。
それを容易く避けるのはやはり、霊夢の勘による避けがあった為だろう。全く理不尽すぎる。

「まあ、あんたらしい攻め方ではあったけどね。単純なそれも荒っぽい力まかせだけれども」
「良い響きじゃないか力って、わたしらしい」
「本当あなたらしいわね……」
「弾幕はパワーなんだぜ」
「はいはい」
 
 そう、パワーなんだ。あまり深くは考えず、自分の持てる力全てを出し切り相手を押し切る。小手先の技術になんて頼らない。萎えることなどない。
ただただ目の前の相手や弾幕にのみ集中できる。勝負中全身が燃え上がるような感覚に襲われる。周りが見えなくても良い、目の前さえ見えていればそれでいい。
自分が一番楽しめる戦い方こそ、弾幕はパワーだ。
 だが、しかし……

「あんた弾幕の力はとにかくあるんだから、たまには正確性もみがきなさいよ」
「むぅ……」

 力だけでは霊夢に勝てないと言う事も最近気付いてきた。いくら力で押しても霊夢は撃つ前から分かっていたかのように容易く避けてしまう。
さっき言ったように、自分なりに考えた不意打ちレーザーすらも霊夢の勘を前にしては全く通用しなかった。
 
「なら、せっかくだから、修行でもつけてあげましょうか?」
「……遠慮するぜ」
「なんでよ?」
「お前に修行でもつけられたら、自分らしさが欠落してしまうかもしれないからな。大体撃つ弾、撃つ弾が百発百中な私になりでもしたら嫌だしな」
「分からないわね……それっていい事じゃないの?」

 霊夢が怪訝そうな顔で問うてくる。
その問いに対し、私は当然のように笑顔で答える。

「まっさか!そんなわけないぜ!……自分らしくやって自分らしく勝つのが一番、最っ高に楽しいじゃないか!」
「……自分らしく、自分らしくって言うけど、なんでそんなに自分らしさを大切にしたいのよ?」
「なんでって?」

 一度聞いても霊夢の問いの意味が分からず、私は霊夢の問いに対し問いで言い返す。
そんな事はお構い無しに、霊夢は即座に答える。

「大体、自分らしく勝つと言っても、勝たないと意味がないじゃない。あ、いや勝つ以外のことが全く意味がないと言うわけではないんだけどね……でもあなたの言う楽しむ、というのは勝たなくてもいいものなのかということよ」
「いや……やっぱ勝負事は勝たないと楽しくないぜ」
「なら、何故それでもあなたは自分らしく戦いたいと言うの?」
「…………」

 答えに困る。確かに霊夢の言うとおり勝負事なんだから勝たないと楽しくない。いや、全く楽しくないと言うわけではない。霊夢と弾幕勝負をするだけでも一応楽しいと聞かれれば楽しいと答える。
しかし、もし私が霊夢に勝つということがあれば、何事にも変えがたい「楽しい」という感情が得られるだろう。だが霊夢には自分らしくやっていては勝てないと先ほど霊夢に遠まわしに示唆されたのだ。
 それなのに、何故私は自分らしく勝ちたいと思う?何故、自分らしくやりたいのか?何故、霊夢の修行を断ったのか?……答えが見つからない。
 
 先ほど霊夢が勝つ以外のことが全く意味がないわけではない、とも言っていたが私が今答えに困っている原因もソレにあるのだろうか。
私自身勝つことが全てだとは思わない。ただ楽しむという概念の上に勝つことを合わせて考えてしまうと、結局私の答えは楽しいイコール勝つこと、という答えになってしまう。
 しかし、それにはどうしても拭い切ることができない違和感を覚える。単純に私がそうとは思えないからだろうか。 

 
 自分の中での考えがまた新しい問いを出し、その問いから新しい考えを持ち出しながら魔理沙は答えを出すのに四苦八苦している。

「で、結局あなたの答えはなんなの?」
「……分かんないぜ」

 苦虫を噛み潰したような顔をしながら小さな声で答える。その言葉にいつもの女傑っぷりは見られない。

 いくら悩んでも答えが見つからない。何故自分らしく戦いたいのかそう聞かれればその問いの答えは単純に私が楽しみたいからだ、と答えるだろう。
だが私は、先ほどの霊夢の問いで勝つことが楽しむ事と言った。しかし、自分らしく戦っていては勝てないとも霊夢に言われた。
 私は勝つことが楽しむ事とも思い、楽しみたいから自分らしく戦うと思い、自分らしくやっていては勝てないとも考えた。これらの考えは矛盾している。

 分からない、自分らしくやっていては勝てない……それは今日の弾幕勝負の結果を見ても私にそれは間違いだと言える理由はない。
ということは、楽しみたいから自分らしく戦う、勝つことが楽しみという、そんな私の考えが間違いだったのか? そのような事は断じて信じたくない。

 
 何時までも苦渋に満ちた顔で考えている魔理沙を見かねて霊夢が流れを断ち切るかのように声をだす。

「……もう、考えるのはやめましょうよ、魔理沙らしくない」
「私らしくない……か」

 らしくない、らしくない、らしくない、らしくない、 その言葉がなんども繰り返されて聞こえてくる。

 勝つことが、楽しむこと――
 たのしむこととは、「私らしく」やること――
 しかし…… 「私らしく」やっていては、勝てない――

私らしくやることが間違いなのか、いやもしかして根本的に楽しむことが間違いだったのか?
 
 またもや、先ほどの考えが甦り、どんどん悪い方向へと考えが傾いてしまう。   
霊夢は流れを断ち切るどころか、また悪い方向へと持っていく言葉を言った事を後悔する。 
 霊夢は急いで別の言葉を考える。
 
「ねえ魔理沙お茶でも飲んでいかない?一度落ち着きなさいよ」
「……いや、いい、今日はそろそろ家に帰るとするよ」

 霊夢の気遣った言葉に対し、素気無い返事を返す。もう今日はお茶を飲んで落ち着くという気になれなかった。
霊夢は今日は魔理沙をこれ以上追求するのはやめ、霊夢はいつもどおりの返事を返す。

「……そう、また明日」
「ああ、また明日な霊夢」 

 別れの言葉を言い、魔理沙は賽銭箱の前の石段に掛けてある箒を取りに行こうと歩き出す。
そして箒を手に取り、それに跨る。そしてまた霊夢が一言。

「じゃあね、魔理沙」
「じゃあな、霊夢」

 魔理沙は別れの言葉を言い残し、博麗神社を音もなく静かに飛び去った。
 飛び去っていく時の魔理沙の背中は哀愁が漂っていたように霊夢は見えた。












 魔法の森、もう既に日が沈みかけ空が赤らんできた。しかしそんなものはこの魔法の森には関係ない。
日が昇ればその光は生い茂る木々に遮られ、月が昇っても同様に月明りが僅かに差し込むだけ、魔法の森は一日中薄暗い景色のままだった。




「う、いてて……」
 
 そんな魔法の森奥深く魔理沙の家の中から悲痛の声が聞こえてきた。
自室の椅子に座り、血が滲んだ右の素足を両手で押さえながら痛がっている魔理沙がそこに居た。
椅子の手前にあるテーブルには、所々銃弾が掠ったかのような裂け目が見える魔理沙ご自慢の帽子が置かれていた。

「くそっ!くそっ!!なんでだよ!!」

 突然魔理沙がすぐ近くに雑多に置かれていた魔法道具を手に取り思いっきり壁に投げつける。その魔法道具が壁に当たり大きな音を立ててドサッと落ちる。
普段なら物を雑に扱う事はあっても、故意に傷つける事なんてしない。なのに、今このように物に八つ当たりしているのはこんな事があったからだ。



 先ほどの博麗神社から帰る時の道中、魔理沙は突然出てきた妖怪に襲われた。
が、妖怪に襲われたと言っても、魔理沙のような幻想郷で有数の実力を持つ者を襲う妖怪は今時そうそう居ない。
例外としては、相手の実力も考える知能を持っていない低級妖怪かそこらへんのレベルの妖怪しかいない。魔理沙が襲われた時もその低級妖怪だった。

 いつもの魔理沙ならこんな低級妖怪などは苦労などせず余裕綽々で容易く打ち破った事だろう。しかし今の魔理沙はいつもの魔理沙ではなかった。


 相手の弾が飛んでくる。余裕で交わせるはずだったが、自分でも手に取るように分かるように避け方がぎこちなかった。
勝気な態度で積極的な避けをするはずだった。でも出来なかった。下手に正確にかわそうとして敵の弾に反応し切れなかった。自分らしくない避け方だった。
攻めの部分でもやはり正確性に気を使いすぎたせいか、敵を圧倒する事ができなかった。自分らしくない攻め方だった。
 
 
 しかし、避け方攻め方ともに調子のよくなかった魔理沙だが、流石に低級妖怪に負けるということはなかった。 
 だが相手の弾のうち何発かは避けるのを失敗しちょっとした傷が出来た。それは魔理沙の所々避けている帽子や、血が滲んだ素足が物語っていた。
低級妖怪にここまでの傷を負った。それだけでも魔理沙からすれば十分腹立たしい事だった。

 さらに自分の得意とする攻めの部分でもだ。普段どおり、いつもの調子でやっていれば低級妖怪など分を待たずに撃退する事ができただろう。
でも、正確性を意識した所為だろうか、1発1発の弾をただ当てようとしてしまい魔理沙十八番のパワーを生かすことが出来ず敵を倒すのに時間が掛かってしまった。

『あなたらしくない』 

 少し前に神社で霊夢に言われた言葉がふと頭に聞こえてくる。 本当に自分らしくない……
 自分らしくやっていては勝てないからと、正確性に気を使った戦い方をしたが結果がコレだ。低級妖怪に苦戦するという体たらく。
こんな事ではあの霊夢に勝つなんて幻想のまた幻想ではないか。 

「…………」 

 今の自分の姿を見て霊夢はどう思うだろうか。たぶん、あの時と同じ「らしくない」とでも答えるだろう。
そんな事は自分でも分かっている。でも、神社で霊夢に自分らしく戦っていては勝てないと言われた。だからあの時妖怪と戦うときも柄にもなく正確性に気を使った。
結果は……自分らしく戦った時よりも苦戦した。 自分らしくやっていては勝てない。でも自分らしくやらなければさらに勝てなくなる。
 ということは、私が霊夢に勝つなんて事は不可能ではないか。

「……もう、寝るか」

 もう寝よう。これ以上考えても無駄というか、どんどん考えが悪い方向へ向かっている気がする。今日の私はどうも変だ。こんなにも勝ち負けに悩む事なんてなかったのに。
 それにしてもいつから勝ち負けを気にするようになったのだろうか。今日霊夢に負けた時だって最初は楽しめれさえすればいいと言っていたのに。
あ、ダメだ。そもそも楽しむという考え方が矛盾していると思ったのだから、今私はこんなにも悩みぬいて考えているのではないか。


 いや、考えるんじゃない私!もう今日は考える事はやめるんだ。
寝て明日になったら気分も優れて調子が戻るんだ。そう信じるんだ。
 それでいつもの私なら全く問題なく立ち直る事ができるんだ。だがしかし……






―――今日の私がいつもの私なら、だが







 

 今、一瞬考えてはいけない考えが浮かんだような気がした。いやそんな訳がない。ある訳がない。
そうだ、このモヤモヤした優れない気持ちも私なら寝れさえすれば次の日にはなんとかなっているさ。そうに違いない。

 
 そう思い、魔理沙はベットへと向かい、豪快に寝転がり豪快に布団を被る。それはまるで何かを忘れたいかのように。
今の魔理沙はつま先から頭のてっぺんまで布団を被った状態。つまり布団が体全体を隠して、丸まっている状態だ。
 
「(寝れば治る、寝れば治る、寝れば治る……!)」

 布団に丸まりながら寝ればなんとかなる、と自分に自己暗示をかける。だが当然こんな事をしてはそう易々と寝付けるはずもない。
それに「治る」なんて思いながら寝たのでは今日の嫌な気分を忘れるなんて事も出来るはずもない。
 でもこうでも考えないと安心して寝れないような気がした。今日の嫌な気分も明日になれば治る、と信じないととてもじゃないが寝付けない。

「…………」

 でも、これでいいのだろうか。そもそも私が寝るのは今日の気分を優れさせるため、つまりは今日の気分を忘れるために寝るのだが、
今のように「治る」なんて念じてでもいながら寝たのでは、今日の出来事を忘れる事なんて到底できるわけがないではないだろうか。
 そんなことをするくらいなら、何も思わず、何も感じず寝た方がいいじゃないか。うん、その方が良いに違いない。そうと決まれば早速実行だ。


 
 魔理沙は「何も思わず寝る」と思いながら寝たためか、効果は全くと言っていいほど出ず、
結局この夜しばらくは寝ることが出来ずに、懊悩し、魘されながら眠りについた。













 ふと気が付き目を開け体を起す。窓の外からは薄明るい日差しが窺えた事から朝だと分かった。
とりあえずあの夜からちゃんと眠れ、朝が来たのだと安堵した。だが一応眠れたは眠れたが、しかし―――――気分は最悪だった。
 寝れば気分も優れると思っていたがもしかすると、これはなにも昨日と変わってないのか?
 
「……いや、そんなわけがない」

 寝起きに気分が優れないのはよくある事。そうに違いない。うん、まずは昨日ろくに整えてなかったので荒れているであろう自分の髪と、眼を覚ますために顔を洗いに行こう。  
ああ、そういえば昨日お風呂に入らずに寝てしまった。これから風呂にも入ろう。

 そんな事を思い魔理沙は、洗面台におぼつかない足取りで向かう。

「……?!」

 洗面台にある鏡に映った自分を見て唖然とする。その鏡には酷くやつれている自分の姿が映っていたからだ。

「…………」

 何かの間違いだと思いもう一度鏡を覗く。……さっきと変化のないやつれている顔が映っていた。
 
 しかしやつれていると言っても、少し全体的に明るさが足りないと言うか、生気が足りないというか、そんな他人から見れば些細な違いでしかないのだが、
自分から見ればそれは些細な違いには見えなかった。

「なんで……」

 ……いや、でも気にしすぎかもしれない。それにいちいちこんな事を気にしていては切りがない。
それに、寝起きで髪が乱れてるせいでいつもより余計やつれて見えたのかもしれないし、それに気のせいかもしれない。
 うん、まずはお風呂に入ってすっきりしよう。


 そう思い魔理沙は即座に、昨日帰ってからろくに着替えてない汚れた肌着を雑に脱ぎ捨て、浴室に入る。
 浴室に入りまず、シャワーを浴びようと、お湯を出すために栓をひねり、大量のお湯が出てくる。それを頭から体全体にかける様に浴びる。すると、

「――ッ!?」

 魔理沙は突然やって来た右足の痛みに顔をゆがめる。痛みがあった足の方へ視線を向けると、驚くほど大きく赤い痣があった。
 
 忘れていた。昨日低級妖怪と戦った時、自分がへまをした所為で足に怪我を負っていたんだった。流れてきたお湯が傷口にしみる。
痛みが自分の寝起きの頭に鋭く響いてくる。それとともに昨日の嫌な記憶が呼び覚ましてきた。


 クソッ!と、心の中で舌打ちする。本当になにもかもが上手くいかない。
忘れよう、忘れようと思っていると、その行為自体が裏手に出て絶対に忘れる事が出来ない。
何も考えずにしようとしても、どうしても何処かで考えてしまい結局は忘れる事ができない。いつもなら、そんなこと思うことも無く忘れる事ができるのに。

 忘れたいと思っているのに忘れられないのは、思い出したいのに思い出せない事よりもつらい。


「いてっ!!」

 湯舟に浸かってゆっくりと落ち着いて考えようと、シャワーを止め浴槽に入ろうとした。だが入った瞬間またもや右足に激痛が奔る。当然浴槽のお湯が傷口に浸みたせいだ。
いちいち足の痛みで思考をとめていたのではいつまで経っても話が進まない。そう思いとりあえず落ち着いて考える。
 
 何故このときに限って、いつものようにすぐに忘れる事ができないのか、何故過剰に考えてしまうのか……
私は右足の傷がピリピリと痛む中でそんなことを考える。何故忘れる事ができない?何故考えるのか?その問いの答えを探す。
 そして出た答えが。

「気にしすぎ……なのかな」

 気にしすぎ、それが私の導き出した解だ。
当たり前だが気にしすぎるから、いつものように忘れる事ができないし、過剰に考えてしまう。


 ……では何故気にするのか?という疑問が浮かんでくる。

「……いや」

 考えるのは止そう。またこうやって考えすぎると昨日の二の舞になってしまう。
考えて考えて考えて、それでも答えが出ずにまた歯がゆい思いをするのはごめんだ。
 そもそも、理由なんて考えなくてもいいじゃないか。とにかくそんな事は気にせずに普通に過ごしていれば、そのうち忘れているのだから。

「暑い…………」

 首筋から汗が流れる。少し上せてきたかもしれない。考え事をしながら風呂に入っているとどうも火照りやすくなる。
長風呂しすぎると体にも悪いし、だいぶ気分も優れてきた気もするからそろそろ上がるとしよう。
 
 浴槽から出る。顔に湯気がかかり、ムワッとした暑さに襲われる。
そして浴室から出ると湯気のじめじめした暑さとは対照的な、爽やかな気持ちのいい涼しさを感じる事ができる。
この涼しさが私の数ある中のお風呂の楽しみの一つだ。ああ、本当に気持ちいい。
 

 そんな事を思いながらふと鏡を覗く。起きてすぐ見たときの顔よりは幾分かよくなっている……気がした。
いや、病も気からとも言うし、よくなっている気がすればそうに違いないのだ。今の私は昨日の私ではない。

 そう自分に言い聞かせ、濡れた体をタオルで拭き、八卦炉を乾燥機代わりにして髪を乾かす。
拭き終わり、服を着ようと予め用意していた綺麗な下着やら服やらに手を伸ばしそれを着る。

 今の服装は帽子を被ってない事以外は、いつもどおりの姿だ。

「帽子、帽子……帽子はどこだ〜」

 自分の足元は魔法道具、本やらが散らばっていて、足の踏み場なんて微塵も無い状態だ。
毎日着替える替えの服だけは流石の私も決まった場所においているのだが、基本帽子は、毎日同じものを使っているので替えの帽子はどこか適当な場所に置いている。
 ただ昨日使っていた帽子は、襲われた時に妖怪の弾が当たってしまい、所々裂けて破けている。

 ……この帽子を被ったまま霊夢にでもあったらさぞや貧相に見えることだろうな。

「これでもない、これでもない……」

 帽子らしきものがあれば掴んでは投げ、掴んでは投げを繰り返すが一向に見つからない。
むしろそうしていくうちに家の中がもっと汚くなって帽子を見つけるのが困難になっていく気がした。
 
「むぅ〜〜〜」

 家は汚くなる一方だが帽子は全く見つかる気配が無い。
うん、そうと分かれば自分がやることは唯一つ!!

「諦めよう!」

 もう今日はしょうがない。見つかる気がしないのだから探しても無駄なんだ諦めよう。
替えの帽子は後日家をきれいにした後また探せばいいさ。この所々裂けた帽子もアリスに頼んでなおしてもらえばいいさ。うん、実に自分らしい考えだ。
まあ、とりあえず今日は諦めて昨日の帽子で一日を過ごすことにしよう。

「―――よし」

 所々裂けている帽子を被る。八卦炉を持ち出す。外出の準備が整った事を確認して、ドアを開ける。
ドアを開けた先には生い茂る木々が映ったと同時に気持ちのいい朝の日差しを感じる事ができた。

「う〜〜ん、さて」

 大げさに背筋を伸ばす。さて今日はどこに行こうか……考えるまでもなかった。霊夢の所へいこう。
しかし、昨日霊夢と別れるときに『また明日」なんて言うくらいだ。どれだけ霊夢の所へ行くことが日常化しているかよく分かる。
今日もいつもの自分と変わらない。いつもどおり、自分らしく今日を過ごすんだ。それが当然なんだ。

「箒、箒……あれ?」

 箒を持ち出そうとするが、いつもそれが立ててある場所を見るのだがそこに箒は無かった。

「これはもしかして……盗まれた……のか?」

 一瞬そう疑うがその可能性はまず無いだろう。
そもそも私の家、魔法の森に入ってくる人妖なんて数えるほどしかいない。というか、それくらいしか知らない。
 
 その中で、主な私に関係する人妖と言ったら、アリスしかいない。
だがアリスが私の箒を盗む、なんて事はありえないだろう。
 あいつ自ら私に干渉してくるとは到底思えないし、そもそも泥棒なんてする奴ではないだろう。
  
 とりあえず盗まれたという事はない。しかし実際に箒はなくなっている。何故だろうか……
箒を最後に使ったのは昨日の帰宅したとき。その時に私は箒をどこに置いた?
 そう思い、私は昨日の帰宅したときのことを思い出そうとする。出来れば思い出したくない事だが……

「…………あ」

 思い出そうとして、ふと目の前にある木の上を見たときだった。木の葉に引っかかっている箒があった。
突然目に映った自分の箒にすこし動転するがすぐに落ち着きを取り戻す。
何故こうなったんだろうか、そう思い再び私は昨日を思い出すという作業に取り掛かる。

「…………あぁ」

 思い出すのにそう時間は要さなかった。
なにしろ昨日の事。思い出したくないという事を除けば、思い出すことになんら苦痛を受ける事は無かった。
 ただその、思い出したくないという事による苦痛は凄まじかった。

 箒が木の葉に引っかかっている理由。それは単純だった。

 妖怪襲われ、あろう事かその妖怪に苦戦してしまい、怪我を負って帰ったときに疲れたせいだろうか、
箒の操作に集中する事ができなくなり、まるで宴会のお酒を飲んだ後の箒の操作のような、俗に言う飲酒運転みたいにフラフラとしたまま、
魔法の森に入ってしまい、目の前にあった樹の存在に気が付くこともなくそのまま真っ直ぐ突っ込んだ。
 
 その時に箒は樹に引っかかり、私はそのまま振り落とされた。
だが私はイライラしてたからか、それとも箒を樹から落とすという気力すら湧かなかったせいかは、定かではないがそのまま自分の家に入り、箒は放置した。


「なんで私はまた……くそっ!!」

 自分に対する嫌悪感を抱く。
それは昨日箒を放置してしまった事にではない。そんな思い出したくも無い事をまた思い出してしまった事による今の自分への嫌悪感だ。
 昨日の寝る時と今日の朝、私はもう昨日の事は自分でもしつこいと思うほど忘れようと努めてきたのに、結局はコレだ。 

 忘れる事ができたと安堵した次にはまた思い出す。また忘れる事ができてもまた思い出してしまう。
安心する、しかしまた引き戻される。そんな泥沼のような悪循環に陥ってしまっている。

「いや、もう……」

 「忘れよう」と続けようとした。だがそれを言うのははばかられた。
それを言ってしまってはさっきと同じことの繰り返し。一時忘れたがすぐに思い出すのがオチだ。
 忘れようと思っても所詮は無駄なんだから。

「私は何を間違っている?」

 そう疑問の声を出しても答える者などいない。周りにある木々が私を見つめるような錯覚をし妙に鬱陶しかった。
一体何を間違っているのか……そもそもは忘れようとする事が間違いなのは分かっている。
 ではどうすればいいのか?もっと根本的な……何かを変えないといけない気がする。

「―――――そうだ」

 一人で考える事がいけないんだ。なにも一人で解決する事は無い。
自分だけで考えて、自分で解決しようとするからこんな同じミスをして考える幅も狭くなる。
 忘れる事は無駄とは言ったが、霊夢とで一日過ごせば間違いなく忘れる事ができるような気がした。

「そうと決まれば、もう行くしかないな」

 先ほど木から下ろした箒に跨り、上空へ浮上する。
当然行き先は決まっている。博麗神社、霊夢の所だ。










 
「あら、いらっしゃい魔理沙」
「邪魔するぜ!」

 博麗神社に着いた私は普段と変わらない、いつもどおりの挨拶をする。
霊夢は掃除中だったのであろう、境内を竹箒で掃いていた。いつも霊夢はこの時間帯は掃除している所しか見たことが無い。
 
 私の勝手な憶測だが、朝は賽銭箱の確認。そして中身がほとんど入って無い事に落胆する霊夢。そして空しいまま朝飯を食べる霊夢の姿を幻視した。
そう思うと不謹慎な事だが、なんだか笑えてきた。

「いきなりやって来て、なにニヤニヤしてるのよ」
「いや、なんでもないぜ」

 こうやって誤魔化しても霊夢はその鋭い勘を生かして私が誤魔化しているのは分かっているだろう。
しかし分かっていても深入りはしてこない。その霊夢のしつこくない淡泊な性格が私は好きだ。

「ところで魔理沙、その帽子どうしたのよ?」
「へ?あ、ああこれか!」

 霊夢が自分の帽子を指差す。一瞬何の事だと思ったが、すぐに理解した。
今この帽子は所々裂けて破れている。家を出発する前に思っていたじゃないか。
今の私は霊夢から見れば大層貧相に見えるだろうと思っていたじゃないか。

「なにがあったらそんなことになるのよ?」
「そ、それはだな、昨日寝ぼけて誤って帽子を裂いてしまったんだよ!」
「………あら、そうなの」

 霊夢がそう答えるときに数秒間があった。嘘がばれたかと思ったが、どうとなく普通の受け応えをしてくれた。
いや、恐らく嘘はばれていただろう。しかしそれ以上霊夢は詮索してこなかったのだろう。やっぱり霊夢のこのあっさりした性格は大好きだ。
 今思えば、何故こんな分かりやすい嘘をついてしまったのだろうか……悔やまれる。


「そうそう、今日は一体何の用で来たのよ。もしかして昨日の勝負のリベンジとか?」
「あ、え〜と、そうだなぁ」

 返事に困る。特に用らしい用は無い。とりあえず今日は霊夢と一日を過ごそうと思いここに来たのだ。
そして霊夢に、昨日の勝負のリベンジで来たのかと聞かれた。正直なところ、私は今は弾幕ごっこはしたくはない。
だが、リベンジという言葉に私の負けず嫌いな気質がでたのだろうか、リベンジしたくもなってきた。

 しかし、今は弾幕ごっこが勝負したくない。しかしリベンジもしてきたくなった。二つの矛盾した気持ちがある。
矛盾しているならどちらか片方の気持ちをとらないといけない。私はどっちをとるべきか……

「で、どうなのよ魔理沙?」

 迷った末に私は決めた。

「そうさ、リベンジしに来たんだぜ!」

 こんな事を思っては後の祭りなのだが、この時はっきり、違うと答えていればよかったかもしれない。
今の自分は手にとって分かるくらい調子が悪い。昨日の低級妖怪に苦戦する自分となんら変わっていない。
 そんな今の自分では、霊夢に勝つどころか、善戦にもならないだろう。私の圧倒的な負けは目に見えていた。

「じゃ、早速やりましょうか」
「あ、ああ」

 霊夢がさっきまで持っていた竹箒を石段にかけ、軽く笑顔でそう呼びかける。もうすぐ勝負が始まるのだと実感した。
霊夢は笑える余裕があるのに、それに比べ私はネガティブな内心でたくさんだった。
 こんなことでは勝てる勝負も勝てないだろう。いやそもそも勝てるのか?考えるのはもうたくさんだ。

「じゃあいくわよ!魔理沙!!」
「あ、ああ!いくぜ霊夢!」

 霊夢の声につられ私も声を出す。
表面上今の私は何の問題も無いだろう。だが内心は問題だらけだ。
このまま勝負したらどうなるか……自分が思っている通りになるだろう。完敗だ。


「(せめて善戦はしないとな……)」

 そう思いながら、私は箒にまたがり空中で霊夢と対峙した。一応私のリベンジマッチだ。





 
勝負はすぐについた。
 
 昨日の低級妖怪と戦った時となんら遜色の無い戦い方をしてしまった。
考えて、考えて、考えて。先を見据えながら避けた、という言い方をすればいい聞こえだが、次に何が来るのかと自分が先のことに畏怖しながら避けたのと同義だ。
 そんな事を考えながらやったため、私の動きは鈍化し、反応も鈍くなった。
力技、強引、特攻、いつもの私らしい戦い方など微塵も無かった戦い方だ。

 結果は、当然のごとく霊夢の圧勝。善戦なんて言葉とは程遠い勝負だった。自分でも恥ずかしいくらいの。
そんな勝負をしてしまったものだから、勝負が終わり、今目の前にいる霊夢は怪訝そうな顔をしている。

「……今日は調子が悪かったのかしら」
「……あ、ああそうなんだよ」

 霊夢の気遣った助け舟のような言葉に私は乗りかかる。
調子が悪い、その通りといえばその通りなのだが、霊夢が言う調子の悪さは一過性のものの事だろう。しかし私は終わりの見えない、真っ暗闇のような調子の悪さにはまっていた。
 終わりが見えない。つまりは治る当てが無いということ。それほど恐ろしいものは無い。 

「ねぇ、もしかして昨日のことを気にしてる?」
「……いや!してないぜ!」

 「気にしてる」の単語を耳が聞いた時は心臓が飛び上がりそうになった。しかし、そこは持ち直し私的にはいつもどおり答えたはずだ。

もしここで気にしてるとでも答えれば、無駄に霊夢を心配、若しくは昨日のことは自分のせいだ、と霊夢は後悔させてしまうかもしれない。
それは、一人の親友として霊夢にはそんなことになって欲しくなかった。
 事実、霊夢は私は気にしてないと言った時、心底安心した様子だった。

「じゃあ何があったのよ?」
「え、え〜〜と」

 必死に言い訳の言葉を探す。いつもならこの場をやり過ごす嘘なんてスラスラと出てくるのに、今日に限って嘘が思い浮かびにくい。
本当に今の自分は調子が悪い。つくづくそう思った。

 だが、そうも言ってられない。これ以上答えに迷えば霊夢を怪しませてしまう。
そうなると誤魔化す事が難しくなる。早く……早く考えるんだ私!

「昨日徹夜で実験しててな、その時にちょっと失敗してしまってな〜寝不足で気分も最悪なんだよ」
「あ、なるほどねぇ」

 誤魔化せたようだった。しかし、言ってしまった後だがこの言葉には矛盾があった。
霊夢と弾幕ごっこをする前に、帽子の傷について霊夢に問われた。その時私は、「寝ぼけて破いてしまった」と答えた。
 しかし、今言った言い訳ではどうだろうか。「徹夜で実験してた」だ。これほどにも分かりやすい矛盾をしてしまうなんて……本当に今の自分は調子が悪い。

でも、霊夢はなんとか誤魔化す事ができたようなので安心はしておく。

「じゃあ、今日はどうするの、お茶でも飲んでいく?」
「いや、今日は帰って寝るぜ!眠いしな!」

 先ほどの言い訳の矛盾を隠すかのように私は眠いので帰るという行動を選択した。当然、眠いというのは嘘だ。
霊夢に怪しまれないようにするにはこれがベストの選択だったのだろう。しかし、これが私にとってベストの選択だったのだろうか……

何か……何かを忘れている気がする……


「あらそう、じゃあね魔理沙。また明日」
「おう、また明日な!」

 昨日と同じ、いつもどおりの別れの挨拶だ。表面上はどうとでも誤魔化せる。ただ内面の事まではどうやっても誤魔化せない事を知った。
箒にまたがり、私は家に帰ろうと飛んでいく。すこし高くまで浮上したところで下の博麗神社を振り返る。
 霊夢の人影が広い境内にポツンとあった。その様はなんだか淋しそうにも見えた。

「あれ、そもそも私はなにをしに霊夢の所へいったんだっけ?」

 今日霊夢のところでやったのは弾幕ごっこだけ……だが自分は弾幕ごっこをしに霊夢のところまで行ったんじゃない。
当初の目的はなんだったけ……ああ、そうだ思い出した。

「霊夢の所へ行って、昨日の事を忘れる」だ。

 当然今日霊夢の所へ遊びに行って昨日の事など忘れる事はできなかった。
寧ろさらに深く迷い込んだ気がする。くそ、これじゃあ、本末転倒じゃないか……
 
 
 そんなことを思いながら、妖怪に襲われないようにと願いながら帰路につく魔理沙だった。





 


 時間は昼を過ぎたくらいだろうか。まだまだ今日という日が終わりそうな気配は全くしない。
魔理沙は無事妖怪にも襲われることなく家に帰れてほっとしたようだった。
 というより、この真昼間に妖怪に教われるなんてそうそう無い。昨日は夕方時に帰ろうとしたので妖怪に襲われた。


「暇だ……」

 昼過ぎ……特に眠くも無ければ、やることも無いしお腹が減ったというわけではない。暇だった。
暇はつらい。長く一人でいることも苦痛な自分にとっては暇なんて持っての他だ。
 でも、暇だ、暇だといくら言おうとも解決策は見えてこない。ただただ夜になるのを待つだけだ。
夜には時間がある。じゃあ何をしようか……

「散歩でもするか」

 特別する事が無い時は、散歩と自分の中で決めている。
毎日散歩をしても、幻想郷の景色は毎日姿を変えている。毎日幻想郷の違う姿を見ることが出来る。それだけで散歩という魅力は十分だった。

「さて、そうと決まれば早速行くか」

 箒を持ち出し意気揚々としながら外へと出る。この時間帯だ、妖怪に襲われるというのはまずないだろう。
なにも心配する事は無い。じゃあ、早速行こう。

 空へと浮上する。どこに行くかは考えていない。適当に……当ても無く飛んでいく。それで十分時間はつぶせる。



 適当に飛んでいて最初に着いたのが紅魔館……前の湖だった。
上空高くから見れば、どんなに広大な湖かがよく分かる。では高度を下げたらどんな風に映るだろうか……
そんな事を考え、私は高度を下げる。すると、出来れば会いたくない奴に会った。


「あーー!白黒!何しに来たのよ!?」
「………チルノか」

 チルノは子供のような可愛らしい声を上げてこちらへと近づいてくる。やんちゃなのがよく分かる。
だがまずい、チルノのことだ。どんな些細な事で勝負を吹っかけられるか分かったもんじゃない。
 今は絶対に弾幕ごっこがしたくない。絶対に勝負がしたくない。

「あんた、またこの湖に入ってきて悪さをするつもりね!」
「何故そうなるんだ!」
「問答無用!勝負よ!あたいのさいきょーな所を見せてあげるわ!」
「いや、いまわたしはだな……」

 勝負がしたくないと言葉を続けようとした。続けようとしたのだが……

「うわっ!あぶね!!」
「先手必勝よ!!攻めたもん勝ちよ!」

 いきなり氷柱が自分の目の前に飛んできたのだ。突然の事に驚き、反射的にそれを避ける。
これは、勝負は避けれないなと私は悟った。

「おお、あれを避けるとはなかなかやるわね!」
「……そりゃどうもだ」

 気乗りのしない勝負だが仕方が無い。霊夢ならいざ知らず、ここでこのチルノに負けてしまっては私はもう立ち直れないだろう。
負ける事は、絶対に許されない。しかし、勝てるという保証も無い。

「くらえ〜白黒〜」
「(とりあえず、不意打ちレーザーから……)」

 不意打ちレーザーをまず放っておけば、チルノくらいの実力なら少しは驚いて動きを鈍らせるだろう。そう思い、レーザーを放つ。
しかし、チルノはそれを諸共せず、いや気付いていないのか、そんなものは無かったかのように避けた。以前の自分のように。

「うおお〜〜〜!」
「(むぅ、次は星屑弾の後にレーザーを……)」

 星屑弾の不規則な動きに気がとられた内に直線的なレーザーで攻撃。
星屑弾をばら撒く。すこしは動きに躊躇するかと思ったが、そんな事をチルノはしなかった。
全く気にせず強引に右往左往しながら避けていた。避けていたのか一瞬疑うほどの強引さだった。まるで以前の自分のような。 


 その後も自分なりに考えた攻撃法でやったのだが、そんなものはお構い無しに、考えない、バカ一直線の避け方を続けるチルノ。
考えて弾幕を放つ、しかしそんな自分の考える苦労なんて全く関係無しにチルノは避けていく。考えて、考えて弾幕を放つ。当たらない……

「あーー!もう!!面倒くさい!!!」

 考えるのも煩わしくなってきた。もう面倒くさい。勝負中に考えるのは本当自分には向いてない。もうやめだ。

「な、なによいきなり!大声出して!」
「いや、なんでもないぜ!もう一気に決める!!」

 懐から八卦炉を取り出す。八卦炉を使うなんて久方ぶりだろう。流石のチルノも私が八卦炉を取り出したところを見て少し身構える。
八卦炉をチルノに向かって構える。今の自分は無我夢中だった。魔力を八卦炉に込める。それを危惧したチルノは出せる限りの弾幕を出し抵抗する。
 しかし、もう遅い!

「恋符『マスタースパーク』!!!!!」
「うわーー!!!」

 極太の超巨大レーザーがチルノを襲う。チルノはそれに反応する暇もなく被弾した。
レーザーの轟音が去った後、自分の目の前には何も残らなかった。そんな時スッキリしたような気持ちよさを感じる事ができた。
下の湖を見てみるとチルノが顔をだけを出して浮いていた。こう言っては変な表現だが、水死体のようだった。

「や、やった、ハハハハハ!!」

 笑いがこみ上げてくる。それは湖に浮かぶチルノの水死体のような姿の滑稽さに笑ったわけではない。
自分の力で勝った!その喜びが心の中だけでは止め切れず外に漏れてきたから笑ったのだ。

 押さえきれないうれしさ今の自分の心の中にあった。
それは、昨日の私や、今日の朝のネガティブな私は微塵も感じられない。
 嬉々とした明るい気分だ。ああ、楽しい。なんて弾幕ごっこは楽しんだと改めて感じる事ができた。

「ハハハ……」

 後、私がすることは何だ。それは分かっている。まだやらないといけないことがあるじゃないか!

「霊夢へのリベンジ!」

 今ならいける。いけると感じることができた。しかし、もう日が沈んできた。気付かない内に夕方になっていた。
チルノとの勝負にこんなに時間が掛かるなんてな。でもそれはいい、今日はいい散歩が出来た。後悔など全く無い。
 
 今からでも霊夢のところへ突撃しようとでも思ったが、朝方に「寝たいから帰る」と言ってしまったのだ。流石に今日行っては嘘がばれてしまう。
しかし、そんな事はよかった。今の自分は順風満帆、最高の気分だ。明日になったら霊夢の所へ勝負しに行こう。こんなにも明日が待ち遠しいのは久しぶりだ。
 

 帰りの道中妖怪に襲われた。しかし今日の私に敵無し、余裕で撃破する事ができた。
もうちょっと前の自分はいないのだ。今の私は自分らしい、本当の霧雨魔理沙の復活だ。









 久しぶりの気持ちのいい朝だった。朝目覚めて顔を洗い目を覚ます。
鏡で自分の顔を見る。覇気のある元気そうな何時もの自分の顔だった。
 そして、八卦炉と箒を持ち外へと出る。行き先は博麗神社、飛び立ち、結構なスピードを出し、博麗神社へ一直線に飛んだ。

 一秒でも早く博麗神社に行きたかった。一秒でも早く霊夢と戦いたかった。
ただ溌剌とした朝には似つかわしい底なしの元気が今の私にあった。


 ……博麗神社が見えてきた。境内に降り立とうと、高度と速度を下げながら境内に下りる。
この時間帯なら霊夢は境内を竹箒で掃いているだろう。そう思い、境内の方を向く。

 霊夢は竹箒で境内を掃いていた。全くの予想通り。流石に霊夢の生活習慣は安定している。

「いらっしゃい、魔理沙」
「今日も邪魔するぜ!」

 毎日、毎日訪問しても霊夢の態度は一向に変わらない。来るものは拒まず、去るものは追わず。まさに霊夢の事だ。

「で、今日は何の用よ?」

 きた。この言葉を待っていた。ここに、霊夢のところに来た理由は決まっている。当然、

「リベンジマッチを挑みに来たぜ!」

 霊夢に勝負を挑みに来たんだ。以前の私とはお別れするために。

「あら、寝不足はすっかり解消されたのかしら」
「おう、当然!今日はグッスリスヤスヤだったぜ〜」
「そう、じゃあ昨日のような事は心配しなくてもいいのよね?」
「当然」
「じゃあ、早速やる?」
「ああ、やるぜ」

 霊夢は後ろを向き竹箒を石段に置く、そして次にこちらを振り返った時、両手の指の間にはお札、針がはさんであった。私は箒に跨る。
両者とも戦う準備が出来た。そして少しの間をおきタイミングを合わせる………今だ!


「「勝負!!」」

 言葉を発した次の瞬間、私と霊夢は空中で対峙する。まず先手を取ったのは……霊夢だった。
針とお札が大量に自分の目の前に放たれる。私はそれを恐れることなく避ける。昨日の私じゃ出来なかった芸当だ。

「やっぱり昨日とは違うようね……」
「過去の自分とはお別れしたさ」
「ふ〜ん、でも負けないわよ!」
「それは、こっちのセリフ!」

 しかし、未だにこの勝負の流れを持っているのは霊夢。こちらに流れなどもっていかせる隙も無い、休むことなく続く針とお札の弾幕。
だが、私もまけてはいない。それをちゃんと、自分らしい避けでしっかりと避けているのだから。

「避けばっかりしてないで、少しは攻撃してきたら?」
「…………」

 私は依然として避けに徹している。これは自分らしくない……がちゃんと意味があってやっているのだ。
すると霊夢は針とお札を使い切ったのか今度は懐からスペルカードを出す。くる!!本気の霊夢が!

「なかなかやるわね!霊符『夢想封印』!!!!」
「…………!!」

 霊夢の周りにいくつかの光弾が発生する。夢想封印、このスペルを避ける事はなかなかの至難。
追尾による正確性、そして威力、ともに申し分無い、霊夢を代表する強力スペル!

 強力故にその分、使用者である霊夢にも多少の隙が出来る。その隙を捉えることが出来れば私は勝てる糸口を掴む事ができる。
しかし、糸口を掴むためにもこの霊夢の夢想封印を避けない事にはなにも始まらない。だが避ければ勝てるかもしれない。
 ここが勝負時だ!!

「魔理沙、これが避けれるかしら!」
「避けてやるよ、霊夢!!!!!」

 私は叫び次に取った行動は……特攻だ。
夢想封印は追尾による圧倒的正確性を持った弾道により避けづらくなっている。ならばどうすればいいか?

 答えは単純、その場で避けても結局は追尾されるので意味が無い、ならば夢想封印自体に真っ直ぐ向かっていけばいい!
つまり、私は正面突破、霊夢に一直線に向かうことを選んだ。強引なのは分かっている。だがこれが自分に出来る、自分らしい最高の避けだ!!

「うおーーーー!!!!」

 光弾に真正面から対峙する。さあ、どうやって避けるか……いやそんな事は考えなくてもいい。
来た弾を避ける。要するに気合だ!自分の反応力を信じ全力で特攻するんだ!!

 目の前が光弾による眩しさに埋め尽くされ、思わず目を閉じてしまう。しかし、それでも真っ直ぐ突っ込んでいく事に変わりは無い。
成るがままになる!そのまま行けば、後に残るのは互いの勝ち負けだ!そして私が勝つ!そう信じた。


 次の瞬間、目の前が開けた。私は光弾に当たる事はなかった。避ける事に成功したんだ。
そして今の自分の真正面にいるのは強力スペルを使って少し消耗した霊夢だ。その僅かな隙を見逃さない。

「喰らえ!霊夢!!魔砲『ファイナルマスタースパーク』!!!!!」
「!?」

 私が勝負の最初に反撃しなかったのはこのため、魔力を温存するためだ。そしてその策が功をきした!
霊夢の目の前には、超超超超特大のレーザーが展開される。いままでやってきた中でも最高の、最強の威力を持つスペルだ。
 
 霊夢は持ち前の勘で悟ったのか、避ける事をしなかった。もうこの私のスペルは避ける事ができない。そう判断したんだろう。
周りの大気が空気振動で揺れる。レーザーの轟音の後に残ったのは、他でもない私の……勝利だった。







「やられたわ〜最後のスペルには感服よ」
「そりゃ、どうもだぜ!」

 霊夢のお褒めの言葉に、私は素直に嬉しそうな顔で答える。

「やっぱりあんたはそういう風に、強引で力任せに自分らしくやるべきね……」
「その通りだぜ」

 私はここ数日、自分らしさを捨てていた。
考えながら避ける事然り、先ばっかりを気にして読みで避けたりすること然り……

 結局は、気にする事が間違いなんだ。いつものように自分らしく……自分らしくやれば相応の結果は得られるんだ。
なにより……自分らしくやることは最高に楽しい!その事になんら間違いは無い。


「で、魔理沙、今日はお茶を飲んでいく?」
「ああ!」

 私のいつもの一日の始まりだ。 
テーマは「自分らしさ」
色から自分らしさに……こんな風に捻じ曲げてもよかったのでしょうか?
抽象的なものは解釈が難しいと痛感しました。

なんにしても、こんな稚拙な文章を最後まで読んでくださった方、真にありがとうございます!
not瀟洒
作品情報
作品集:
最新
投稿日時:
2009/05/09 23:51:43
更新日時:
2009/05/09 23:51:43
評価:
18/18
POINT:
56
Rate:
0.85
1. 5 三文字 ■2009/05/12 00:34:48
自分らしさ、つまりは自分のカラーですね。
魔理沙の場合外見は白黒ですけど、その中身の色は何色なんでしょうかね。
その部分をもっと見てみたかったです。
にしても、チルノの扱いがちょっと可哀想だなぁ。
2. 2 パレット ■2009/05/18 00:55:50
ちょっと全体的にもやもや感が。魔理沙が「自分らしさ」に悩み始めるまでの描写が個人的にちょっと少なく感じたのか、全編通して魔理沙が「らしくない」ように感じてしまいました。
「色」を「自分らしさ」と捻じ曲げること自体は問題ないと思いますが、結果としてできたこの文章は、「色」というお題を捻じ曲げたというよりはほとんど無視してしまっていたような。あとがきで言われて、そういえばと思い出したくらいです。
3. -2 名前が無い程度の能力 ■2009/05/25 18:00:11
4. 5 名前が無い程度の能力 ■2009/06/03 19:15:32
中盤に同じ展開が繰り返されるのでそこでダレてしまいました。
最後は元気さが溢れていてよかったと思います。
5. 2 気の所為 ■2009/06/04 18:23:05
確かに色が具体的に出ていないのは大きいですね。
ありがちな話だけに印象に残すのはやっぱり難しいですよ。それこそ自分らしさの濃い文章でないと。
6. 4 As ■2009/06/07 13:16:41
丁寧に掛けていると思いました。ただ、丁寧に心象描写しすぎて中盤の魔理沙の苦悩を書いている部分が
中だるみしているようにも感じました。結果短編〜中編の量のテキストに魔理沙の悩んでる姿ばかりが
目立っていたように思います。
7. 4 有文 ■2009/06/08 00:00:14
魔理沙さんらしくて非常にらしいと思いました。
考えるより感じろですね、わかります。
ただ、流石に少しテーマを曲げ過ぎては……せめて『自分色』など、話をの中でうまく擦り合わせて欲しかったです。
例えば「これが、この自分らしさが私の色なんだぜ!」という形でも良いので。
せっかくよく書けているのですから、勿体ないですよ。
8. 6 佐藤厚志 ■2009/06/10 02:36:46
戦闘シーンが面白くて、うおって言ってしまいました。
興奮してそして食べていたポテトチップスをぶっと吐き出してしまいました。
自分らしく、小説を書けたら幸せだろうな、と思ったりもして。
9. 4 so ■2009/06/11 07:22:47
「色=自分らしさ」の構図は非常に分かりやすかったです。
ただ、タイトルから結末が想像できてしまったのは少し残念です。
10. 4 ふじむらりゅう ■2009/06/11 22:09:39
 あれ、色ってどこかにあったっけ、と思ったら自分らしさってことか。
 後半手前までうじうじ悩んでたわりに、解決するときはえらいあっさりでバランス悪い感じ。些細なことが解決の糸口になるってのは確かにありますが、それにしても悩んでる時間が長かった。
11. 4 ぴぃ ■2009/06/12 05:08:41
改行されているとはいえ、一人称と三人称が混在していたり、主語が重なっていたりすると読みにくいです。
魔理沙の転機も、ちと強引に思えたのが残念。悩んだレベルに合った解決法とオチを当てはめると、ストーリーのバランスがよくなると思います。
12. 2 moki ■2009/06/12 18:38:56
自分らしさ、ってその人の特「色」とかそういうことですよね。大抵のSSはそういった要素を持っているので、余程上手く絡めないとどうなのかなと思います。うーん、後書き読むまでちょっと首を傾げてしまいました。
また、文章も一人称と三人称が混ざっていて不自然。内容考えると魔理沙の一人称で統一するのがいいんじゃないでしょうか。あと文頭の一字下げの混在だったりと。
13. 3 リコーダー ■2009/06/12 19:09:39
同じフレーズを何度か繰り返すのが、少し妙な感じがします。
思考がどん詰まってる部分は上手い書き方だと思いました。ただ「うおーー」とか結局マスタースパークとか、解決する部分がお粗末。
14. 3 八重結界 ■2009/06/12 19:29:32
悩む魔理沙も可愛いけれど、豪快な魔理沙は見ていてとても気持ちがいいものです。
15. 4 K.M ■2009/06/12 23:05:09
人間、悪い時はとことん悪い事が回ってくる事で……大抵はささいなきっかけで堂々巡りから出られたりもしますが。
とりあえずチルノグッジョブ。
16. 1 つくし ■2009/06/12 23:17:49
申し訳ありません、時間が差し迫っているため、採点のみにて、感想本文は後ほど改めて。
17. 4 時計屋 ■2009/06/12 23:20:17
 スランプというのは怖いですね。
 自分が今までどうやってそれをやっていたのか、不意に分からなくなってしまう。
 考えれば考えるほど泥沼に嵌っていく、その有様がよく表現できていたと思います。
 ですがその反面、復活があまりにも唐突で安易だったのが残念でした。実際もちょっとしたきっかけで立ち直るものだとは思いますが、これはSSですから盛り上がりは必要だと思います。
 また一人称と三人称が入り混じっていたので注意を。このSSは同一場面に登場人物が魔理沙と他一人いるだけだったので混乱することはありませんでしたが、読んでいるとやはり引っ掛かりを感じてしまいます。
 後、お題ですが、「自分らしさ」を色と結びつけるのはさすがに強引なように感じました。
 そのような訳でちょっと厳しい評価になってしまいましたが、SSの質自体は決して悪くなかったと思います。
18. 1 ハバネロ ■2009/06/12 23:26:30
まぁ、女の子だからメンタルが不安定な事もあるだろう。
勝ち負けに拘りたい魔理沙もいると思う。
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