Prismy Pris魔

作品集: 最新 投稿日時: 2009/05/09 23:51:56 更新日時: 2009/05/09 23:51:56 評価: 17/18 POINT: 89 Rate: 1.27
「最近どうも魔理沙に負け越してるのよねぇ、上海」

「研究中の本を持って行かれたのは流石に怒ってもいいところよね」

「こうなったら新しい魔法でも試してみようかしら」

「とは言っても図書館内は入り組んでいる上に広いから、防衛の手を打つなら入られる前ね」

 「「そうだわ」」

「さっき魔理沙の家から間違えて持ってきちゃった本に載ってる魔法を試しに……」

「研究中のあの魔法を門番に試してみようかしら。門番が強くなれば図書館に入られる前に……」


[++++++++++++++++++++]

   ドッカーン

[++++++++++++++++++++]


「あれ?足りない……?」
 普通の魔法使いである霧雨魔理沙は机に積み上げた本を3回数えた後、気のせいではない事を確信し首を捻った。
 紅魔館から帰ってきたすぐ後の今日の昼頃、以前借りた魔導書を回収しにアリスがやって来た、のだが……
 椅子に座って貰い待たせていたところ、部屋に積んであった雑物が大雪崩を起こしアリスが巻き込まれたのだ。
 怒髪天を衝くかの如く怒ったアリスは貸していた本の束を掴むと罵詈雑言を吐いた後早々に帰ってしまった。
 一通り罵倒を聞き流した後魔理沙は部屋の片付けに取り掛かり、太陽が南天を大分通り過ぎた頃漸く整理に区切りをつけたのだ。
 そして改めて積み直した物品を数えた結果洩らしたのが、先の発言である。
 アリスが来る前は確かにあった筈、と不思議に感じ思案に暮れていると、ノックの音が飛び込んできた。
 そして続く、よく知った声。
『魔理沙、いる?!いたら返事して!!』
「ん、アリスか?いいタイミングできたな。ちょっと訊きたいんだが、今日来た時に本を……」
『助けて!』
「え?」
 その声を耳にしたとき、ドアへの歩みを止めるだけでなくとっさにバックステップで距離をとったのは危機管理がなっていたと言うべきだろう。
 間をおくことなく、霧雨魔理沙宅の扉は外側から破砕されてしまった。



「な、何だぁ……?」
 扉が吹き飛ばされた事は勿論だが、砕かれた扉の向こうに見える光景は、さらに魔理沙を驚愕させた。
 そびえる木々、茂る枝葉たちにはこれと言って変な所は無い。
 明るさも、時間からするとやや暗いが森の中であることを鑑みれば不自然と言うほどでもなかった。
 魔理沙を驚愕せしめたのは、そこにある二つの存在だった。
 一つは、ドアがあった場所のすぐ左側にうずくまる黒い塊。
 それは一言で言うならば炭のような質感のマネキンに似ており、顔は魔理沙から見て右上を見上げていた。
 その黒い何かの視線の先には、枝に佇むもう一つの存在……よく知る七色の魔法使いアリス・マーガトロイドの姿があった。
 彼女はいつものように人形を従えており、服のデザインも顔立ちもいつもと同じだった。
 が、決定的にいつもと違う点が一つだけあった。
 『それ』は、藍色だったのだ。服も、髪飾りも、髪の色も。
 さらに肌の色までもが藍色がかっていた。
「アリス……なのか?」
 先ほどは確かにアリスの声がした。だが、ここに‘いつものアリス’はいなかった。
 その事が魔理沙の口を無意識的に動かし、そしてそれが状況を動かす引き金となった。
 呟きを聞きとめたのか、藍色の方が黒い人型から視線をはずし魔理沙を一瞥したのだ。
 ほんの、数瞬。
 その数瞬、藍色の人影は葉に隠れていた人形が背後から接近している事に気づかず、背後から槍で胸を串刺しにされていた。



『逃げられた、わ……』
 人間は勿論魔法使いですら即死しかねない一撃で胸を貫かれたはずの藍色は、しかし動きを止めることなく逆に胸を刺した人形を掴みそのまま枝を飛び移り何処かへと去って行った。
 状況が把握できず呆然とそれを見送るしかなかった魔理沙の耳に届いたのは、幾度となく聞いた事のある声だった。
「アリス、で、いいんだよな?」
『えぇ、正真正銘都会派の魔法使いアリス・マーガトロイドよ』
 声の元である黒い人型に向かって魔理沙は確認の質問を投げかけた。
 返ってきた答えは、確かによく知るアリスの声でありアリスの言うような内容であった。
「……本当に?」
『えぇ本当よ。確かにこの見た目じゃ信じてもらえないかもしれないけれども』
「……判った。ひとまずは信用する」
 改めて注視すると、黒い人型もまた色以外は普段のアリスと同じ姿をしていた。
「と、とりあえず中に入って説明してくれ。さっぱり話が見えてこないんだ」
 話が見えない苛立ちを隠すかのように魔理沙は頭をガシガシ掻きながら手招きをした。
 アリスに似た黒い人型は一度太陽を見上げてから無言で頷き、魔理沙の後を追って魔理沙宅へと入って行った。
 太陽はいつもと変わる事無くその様子を照らし出していた。



『アレも私、よ。正確には私を介して生まれた分身だけどね』
 幸か不幸かさっきまで整理をしていたため、普段よりもスペースが広い。
 魔理沙と黒色のアリスは机を挟んで向かい合わせに椅子へと座り、話し合いを始めた。
 だが、それが即座の状況把握に繋がるかどうかはまた別の問題であった。
「アレもアリス?」
 ますます話が見えてこない。
 そういう独り言が聞こえそうな表情で首をかしげる魔理沙に対し、漆黒アリスはしばし口を開いたり閉じたりして逡巡をした。
 たっぷり30秒ほど繰り返した後、観念したように呻いてアリスは早口で言葉を吐いた。
『……恥を忍んで白状するわ。魔法に失敗したのよ。この本に載っていた魔法にね』
「あ!その本は!!」
 黒漆の服から取り出された本に、魔理沙は見覚えがあった。
 それも当然である。その本こそついさっきまで失くしたと思い探していた本だったのだから。
『昼に来たとき、間違えて持って帰ってしまったのよ。そして折角だからと思って読んでみた……』
 玉虫色の装丁で彩られた本は闇色の手から放られ、机の上に置かれた。
 魔理沙はとっさにそちらへ目線をアリスから動かしたが、アリスは気にする風でもなく自白を続けた。
『弾幕はブレイン……私は、この繊細だけど応用の利く魔法を貴女より使いこなす自信があったのよ。それに……』
 アリスは投げ置かれた本の表紙をめくり、そこに挟まれていた紙を指差した。
『パチュリーが書いたらしい研究メモが挟まっていたわ。これによればこの魔法の試行を今まで3桁以上やっていたけれども、失敗は無いと』
 指差された紙を実際に手に取り、魔理沙は確認をしてみた。
 確かに書いてある内容はアリスの言う通りであり、文字はパチュリーのものと認識できた。
『一応、私以外でも試してみたのよ。無生物でも、生物――今回は森で捕まえた野鳥だったけど――でも』
 漆黒アリスは机に左腕で頬杖つき苦々しそうに言葉を続けた。
『そこで失敗は無かった。鳥の後で自分でも軽く試してみたけれど、そのときにも問題なかった。なのに最後の時だけ!!』
「すまんアリス、私まだその本読んで無いからどんな魔法だか知らないんだ」
   ガクンゴツッ
 頬杖のバランスが崩れたのかアリスは頭を机にぶつけてしまったが、すぐに気を取り直して今度は内容についての説明を始めた。
『とりあえず魔理沙、プリズムは知ってるかしら?』
「そりゃ勿論。何なら引き出しにあるから持ってこようか?」
『いいわ、ここにあるから』
 再びアリスは黒真珠のような自分の腕を懐に伸ばし、今度は掌より少し大きい位のプリズムを取り出して本の上へと丁寧に置いた。
 窓から入った太陽光がプリズムを通して七色の色彩を本の表紙へと落としたが、それには目もくれずアリスは魔理沙に語りかけた。
『見ての通り、プリズムは波長を利用し光を分解するわ』
「知ってるぜ。ちなみに、スペクトルってのの関係で、太陽光とかランプの光とか‘光の種類’によって分解された結果が異なることもな」
『この魔法の要諦は、ここよ。つまり』
「‘己を多数に分解し分ける’……ってか?」
『ご名答。どこかの吸血鬼の妹がやってることに近いわね。ちなみに、全て同じ姿形色でいくつに分けても意思はひとつ。数多く分けるほど弱くなる』
「その辺はどこかの酔いどれ鬼に近いな。まぁ兎に角、魔力と術式をこめたプリズムを使うとそんなことができる訳か」
『えぇ。そして、分身体は魔法発動の際に使用したプリズムに触れるとプリズムに閉じ込められてしまう』
「それがデメリットの一つか。とは言えたいしたデメリットではないな」
『その状態で特定の術式を実行すると、分体は本体へと戻るわ。それが基本的解除手段』
「じゃあ、あいつは……」
 魔理沙の問いかけに、アリスはプリズムをかざし覗き込みながら答えた。
『だから、アイツは……藍色の私はこれを奪取しようとしたんだと思うわ。折角産まれ出でた自分を消されないために』
「ん?分離体は触れないんじゃないのか?」
『えぇ、失敗で自我を持ってしまったみたいだけどあくまで分体であるからそれは変わらないはず……だから、人形を使っていた』
「なるほど、直接触らなければいいのか」
『ちなみに、パチュリーのメモによればプリズムを壊すと‘分体に本体が吸収される形でひとつになる’そうよ』
「……どうやって調べたんだ?」
『分体と本体に別々の習性を覚えこませ、合体させる。その後取る行動はどちらに覚えさせた習性か……』
「ふむ、正常ならば自我がひとつだからどっちの記憶がベースになったとしてもたいした問題じゃないわけか。でも今回は」
『えぇ。おそらく私という人格は消え、アイツ等の誰かが主人格となって存在し続けるんでしょうね』
「それで『助けて』か」
 魔理沙は立ち上がり、アリスへと歩み寄った。
 このアリスは、いつもとは違う。
 色が違うのは勿論だが、それ以上にいつも見せている余裕が殆ど感じられず、弱弱しく感じられた。
 あの、アリスが……と、そこまで考えてから、魔理沙は闇色の肩に手をかけ、笑顔で宣言した。
「いいぜ、手を貸してやる」
『――――ありがとう』
「なぁに、長い付き合いのよしみだ。恩はいずれ返してくれればいいぜ」
 そのまま魔理沙はドア跡地の方へ歩み寄り、壁に立てかけてあった箒を手に取り帽子掛けから帽子を回収した。
「あぁ、そうだ」
 帽子を被りつつアリスへ振り返り、そして思い出したように疑問を呈した。
「他に言って置く事は何かあるのか?」
『分体は‘光を使って魔力が生み出した虚像’とでも言える存在で、ほぼ不死身よ。あの胸を貫かれた藍色みたいに」
「つまり?」
『許容を超える大きなダメージを受ければしばらく行動不能になるけれども、緩い攻撃じゃ足止めにもならないわ』
「オーケー、隙を突くか本気でぶっ飛ばして弱ったところをプリズムに閉じ込めればいいんだな」
『私は魔力の大部分をアイツらに持っていかれちゃってて……人形も全部持って行かれちゃったわ」
「あいつらも人形を操れるのか?」
『魔力量的に考えて、数体を動かせる程度ね。さっき扉を壊したみたいに自爆させる事はできても弾幕は撃てないはずよ』
「それは助かる点だな……ん?持って行ったというのは?」
『操作はできなくても、物理的に抱えて……という意味よ。それと、プリズムからあまり遠くに行くことはできないわ』
「逃げ場は限定されてるって事か。ちなみに離れすぎると?」
『体を維持できずに消滅するわ。プリズムのサイズと距離は相互関係があって、この大きさだと……半径200mってところね』
「それでも、この森でソレは広いな。探すなら誰かに手を貸してもらったほうがよさそうだ……ところで」
 会話しつつ外に出、箒に乗ったところで今度は魔理沙から情報を求めた。
「さっき‘アイツ等’って複数形で呼称してたな。分体は全部で何体なんだ?」
『……昔、霊夢に言った事があるのよ。貴女の力は私の二割八分六厘にも満たないって』
「確か七色ってニュアンスだっけか、つまり七体ってか……」
 最後にそう呟いて魔理沙は飛び立ち。
 アリスも後を追い、そして二人は太陽が地面に近づきつつある空へと飛び立っていった。

[++++++++++++++++++++]

「けほ……パチュリー様、今の爆発は?」
「どうやら失敗したみたいね。門番は無事かしら?」
《《《《《《《はい!》》》》》》》
「……小悪魔、目薬を持ってきてもらえるかしら。どうもゴミでも入ったのか調子が悪いみたいだわ」
「パチュリー様、赤橙黄緑青藍紫のカラフルな美鈴様が7人いるように見えるのでしたら、私にもそう見えているのでおそらく現実だと思います」

[++++++++++++++++++++]

「魔理沙ー頼まれてた奴連れてきたわよー」
   ベシッ
「やると思ったわこの馬鹿」
 ここは魔法の森にあるアリス邸前。
 臨時対策本部となったこの場所で、魔理沙は意気揚々とやってきたチルノの頭を豪快に叩いた。
「な、何すんのよー!!」
「さっきここに来る途中上空で遭って、偉そうな事言ってたよなぁ?」
   ガシッ
「えーと、魔理沙?予想もできていた事だし頭を鷲掴みにしなくてもいいんじゃない?」
 アリスがフォローしたが、しかし魔理沙はチルノの頭を離さなかった。
「あ、あんた達が探し人してるって言ってたんじゃないの!」
「あぁ確かに言ったよ。‘赤やら黄やらだいだい色やらのアリスを探してる’ってな」
 気が付けば魔理沙はチルノを片手で持ち上げていた。
「え?そ、そうだっけ?」
「やっぱり‘アリス’ってキーワードを忘れやがったな!!」
 そのまま振りかぶり。
 魔理沙はチルノを樹へと投擲した。
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
   ドゴッ
「あのー、状況が判らないんだけど……というかアリスさん?ですよね?」
「えぇ、私よ。ちょっと……いえ、かなり困った事になっちゃってるから手を貸してもらえないかしら」
 チルノに連れてこられた少女――橙に向かいアリスは助力を求めた。



《アハハハハハハ、結局プリズムの奪取に失敗してんじゃないのよアリス・インディゴロイドさん♪》
《……黙れ、アリス・カーディナロイド》
《………………》
《どうかしタか?》
《やっぱり辞めるべきですわこのネーミングルール》
《えーどうしてー?かっこいーじゃん》
《お黙りなさい!》
《何だとー!!》
《カーディナロイド、ブライトロイド、サンフラワロイド、ビリジアロイド、ネイヴィトロイド、インディゴロイド、ヴィオレトロイド……まぁ明らかに語呂悪いのが居るわな感は否めませんね》
《それは言いっこナシだぜアリス・ネイヴィトロイド。七色の私達、公平に色から名前を採るって決めたじゃないか》
《自我を持ってるのに、単に色の名前で呼ばれると不愉快……とか言い出したのはお前だったな、アリス・サンフラワロイド》
《一度決メた事ヲ反故にすルノはよくなイ》
《……分かりました。生まれたことが嬉しく舞い上がり、名づける際思慮が足りなかった事は私の不徳の致すところと認めますわ》
《そうそう、だからケンカはやめなよお嬢言葉イエローにガキンチョオレンジ》
《アナタは仲裁する気があるんですの、アリス・ビリジアロイド!!》
《元はおんなじだぞ!ガキって言うなー!!》



 数分後。
 臨時対策本部には、たまたま近くに居てチルノの絶叫を聞きやってきたリグルと大妖精が増えていた。
「……と、いう訳で、だ。皆にはアリスの色違いを探して貰いたい」
『よろしくお願いします』
 状況を説明する魔理沙の横でアリスは深々と頭を下げた。
 アリスを知る彼女たちにとってそれは、体色以上に驚くことだった。
「くれぐれも、レティ・ホワイトロックやレミリア・スカーレットといった‘名前に色が含まれている者’を連れてこないように。特にチルノ!!」
「今度は間違えないわよ!」
「……ところで、さ」
 再びケンカとなりそうなチルノと魔理沙の間に割って入ったのは、リグルだった。
「珍しい物も見られたし別に手伝う事はやぶさかでもないけど、タイムリミットとかってあるの?」
「あぁ、そのことか」
 魔理沙は大妖精と橙に押さえられているチルノからリグルのほうへと向き直った。
「魔法の失敗で生まれた奴らだから、どんな不具合を抱えているかもまったく未知数だ」
『だから、早急に回収し存在を解除したいの』
「では各自――」
「あ、その、ちょっといい?」
 それぞれに散ろうとした各々を引き止めたのは、橙だった。
「藍様が言っていた事なんだけど……」
「アイツを連れてくるのか?二番煎じのボケは要らんぞ」
「違う!」
『ちょっと、話の腰を折らないの……それで?』
 魔理沙を窘めてから、アリスは話を促した。
「えっと、最近どうもこの幻想郷が不安定なんだって」
「ん?それは初耳だな」
「存在がぶれているんだとか……それで、原因究明や結界監視で忙しいから紫様や藍様に手助けを頼むのは無理だと思う」
「となると霊夢も忙しいかもな……まぁ、此処にいるメンバーで何とかするしかないか」
『私から分かれて、しかも7つにも分かれているからそんなに強くは無いと思うんだけど……』
「本気で吹っ飛ばしていいから身柄確保してくるように!以上、各自武運を祈る!!」
 魔理沙が檄を飛ばし、集められた探索チームはヤマ勘で標的がいそうな方角へと向かっていった。

[++++++++++++++++++++]

「……貴女達は何なの?」
《‘何’などという物扱いは止めていただきたいですな》
《そうそう。ワタクシ達はちゃんとした自我を持っているのですから》
「自我、ですか?」
《すぉぉのとぉぉぉぉりだぁぁぁ》
《ミーたちはそこの紅美鈴から産まれ出で紅美鈴を越えるものデース》
《黒いのはもう出し殻みたいなもんだよねー》
《我が名は赤美鈴!》
《橙美鈴!》
《黄美鈴!》
《緑美鈴!》
《青美鈴!》
《藍美鈴!》
《すぉぉしぃてぇ紫美鈴んんんんんんん》
《七人揃って!!》
《《《《《《虹彩戦隊メイリンジャー!!!!!!》》》》》》
「「…………………」」

[++++++++++++++++++++]

《森の上空を見てきましたけど、誰もまだ居ませんでしたわ》
《…………そうか》
《ところでどうして此処には貴女しかいらっしゃらないのかしら?》
《貴公が不在の間に攻めるか守るかで意見の不一致があってな。それぞれに行動するそうだ》
《ワタクシが罰として上空の監視をさせられて不在の間に内部分裂ですって?》
《アリス・カーディナロイド、アリス・ビリジアロイド、アリス・ネイヴィトロイドの3名は逃げ切りを狙うそうだ》
《あら、意外ね。あの緋色なら突貫しそうなものですのに》
《…………》
《となると、橙色と紫色がプリズム壊しに行ったのかしら?その割には人形全部貴女が持っているようですけれども》
《………………魔力を別口で使うから人形操作はできない、つまり不要と言い置いて行ったのだよ。黄色》
《そう怒った顔をしないでくださいな、アリス・インディゴロイド。立腹しているのは此処にいない5名についてだけですわ》
《……》
《全員がまだ己の為せることも判らない暗中模索の中、一人で無理して人形奪取に向かい相手の攻め手を奪った事、少なくともワタクシは評価していましてよ》
《………………》
《さて、ワタクシたちはどうしましょうか》
《……‘本体には勝たせない’‘7人の誰が消え誰が残っても恨み言はなし’……一番最初に誓ったこの宣誓はまだ生きている》
《アレの時間が迫っている以上ワタクシたち7人の側の勝利はほぼ不動、とは言えどう勝つかが問題ですわね》
《…………》
《まぁ、細かい事はこの局面を乗り切ってからにしましょうか。ねぇ?コソコソ隠れて会話を聞いておられる方》



 以前天狗に「百聞は一見にしかず」という言葉を教えて貰った事がある。
 リグルは唐突にそれを思い出していた。
《どうしてワタクシ達の居場所が分かったのかしら?》
「……蟲達に聞き込みをしてね。もっと長い距離のかかる鬼ごっこを覚悟していたんだけど」
《なるほど、闇雲に探すよりは効率的ですわね》
 確かに、話に聞いていたとしても実際に見てみるとその衝撃は大きく、驚かずにはいられなかった。
 森の中の少し開けた場所、そこには顔見知りと瓜二つの造型をした者が2人いた。
 まさしく、色違いキャラである。
 ふと、もしかしたらと思い振り返ってみると橙と大妖精もやはり驚いた顔をしていた。
「あんた達を連れて帰ればあたいは失敗の恥を洗濯できるんだから!とっとと来てもらうわよ3Pカラー&4Pカラー!!」
 約一名、いつもと全く変わらない者もいたが。
 そこは「洗濯」じゃなくて「すすぐ」だよチルノちゃん。
《……断る》
《魔法を解除されたらワタクシという自我が消えてしまいますわね。お断りしますわ》
「だよねぇ。でも、一度頼まれた事をやらないって言うのも義理が立たないし」
 橙がそんな事は予想がついていたという風な口調でそう言い。
《……力ずくで、来るか?こちらも力ずくで抵抗させてもらうが》
 藍色アリスが4体の人形を展開しつつそう応対し。
 4人の中で先頭に立っていたリグルがまさしく一瞬で眼前に現れた黄色アリスにハイキックを受け吹き飛ばされた瞬間戦いの火蓋は切って落とされた。



《なぁなぁヴィオレトー、ホントに大丈夫なのかー?》
《きっト勝てル。そシてプりズムを壊セば自由にナれる》
《おぉぉぉぉ!!自由かー》
《そウ……実ニ甘美ナ響きダ》
《ちゃんと自分というものも持ってるしアリス・ブライトロイドって名前も自分で考えた!あとはプリズムをぶっ壊して縛るの消せば何をするのも自由だよな!!》
《時間ガ我々に味方シている。ただ、地力でハまず協力者に勝チ目が無い。策を弄すルゾ》
《よくわかんねー》
《いイか……》



『ねぇ魔理沙……私、元に戻れると思う?』
 太陽はもう随分と高度を落として既に地平線に接していて、空がオレンジ色に染まりつつある。
 そんな状況の中、アリスは自宅の扉に寄りかかったまま隣に座る魔理沙へと話しかけた。
「戻れるも戻れないかもあるか、戻すんだよ」
 即席の仲間はまだ探索から帰ってきていない。
 この事件が発生して既にかなりの時間が経過しているのだから、胸中の不安は魔理沙にも察して余りあった。
『ごめんね、こんな事に巻き込んじゃって……』
「頼まれた後首を突っ込んだのは自分からなんだ。気にする事はないぜ?月の時とか地下の時とかもこんなもんだったろ。それに」
 そう言って、魔理沙は箒を彼女から見て右の方へと向けた。
「事態も動きそうだしな」
 その言葉が終わるか終わらないかのうちに。
 魔理沙が箒を向けた先の木の陰から複数の人影が家の周囲に広がる樹のない空間へと転がり込んできた。



「あぁもう!!」
 橙は絶叫した。
 リグル、チルノ、大妖精と共に黄色アリスと藍色アリスを見つけたまでは良かった。
 問題はそこからである。
 確かに聞いていた通り、この2体の分体は攻撃力がさほど高くなかった。
 だが、戦い方が非常に鬱陶しかったのである。
《オホホホホホホホ!ワタクシ達は受肉しているとは言え光に近い存在!!一瞬光になれたとして何の不思議があるのかしら??!?》
 黄色アリスは人形操作を放棄する代わりに、魔力を行使して短距離において自身を光に変え移動する術を体得していたのだ。
《光は、光電効果の意味する粒子性と回折や干渉という波動性両方を兼ね備えているのですから!》
「くぅ……っ」
《甘いですわ!!瞬間移動でこそありませんがその速度はまさに光速、弾幕など文字通り見てからかわせますわ!!》
 大妖精が放った弾幕もあっさり上空に逃げられ、逆に落下速度を加味した踵落としで反撃されてしまった。
「このぉ!」
 チルノがとっさにフォローで氷柱を放ったが、それは人形にカットされてしまい黄色アリスは再び距離をとってしまった。
 魔力の全てを光化に使っているのか弾幕を撃つ事もなく、また攻撃も軽いものばかりなのだが、ダメージが蓄積されているのは明らかにこちら側だった。
 無論、4vs1であったならば、如何に相手が光になれようとも大した敵とはならないだろう。
 一度に移動する距離はさほど長くなく、直線限定であり、連続使用もしていないのだから。
 だがしかし、もう一人の色違いアリス――アリス・インディゴロイドの存在が戦況を難儀な物へとしていた。
 彼女が今操るのはたった4体の人形であり、弾を撃つ事もできないため本家アリス・マーガトロイドからは大きく劣っている。
 人形達が持っているものも、特に魔力が篭っていたりするわけでもないただの金属武器である。
 勿論、単純な威力は発揮されるので当たり所によっては致命傷となるのだが、この武器にはそれ以上の意味があった。
 その武器たちは全て奇麗に磨き上げられていたのだ。表面で光が反射するほどに。
 藍色アリスはそれを使い、中継衛星のように使う事で黄色アリスの直線的動きを変則的な動きへと変えていたのである。
 当然土埃が付くなどすれば反射はできなくなるが、アリス・インディゴロイドの背後にはアリス宅から持ち出した人形達がまだ大量に並んでいた。
 人形を撃墜したとしても、またすぐに代わりが来てしまうのである。
 安置されている人形への攻撃に気を奪われると黄色アリスが突貫してくる。
 攻撃の軽い黄色アリスを痛み分け狙いで攻撃しようとするとその隙に人形達の槍が手痛い一撃を叩き込んでくる。
 人形をカウント外として4vs2であるにもかかわらず、リグルたちが攻めあぐねているのはこのコンビネーションの所為だった。
 しかし、攻め難いとは言え行動はパターンである。
 結論を言ってしまえば、アリス・サンフラワロイドの軽い攻撃の蓄積が致命傷となる前に橙たちは攻略法を見つけてしまっていた。



《どわ〜〜〜〜〜》
 魔理沙は、樹の陰から突進してきたオレンジ色の人影に対し全力でマジックミサイルを叩き込んだ。
 今まで何度となく打ってきた魔法は狙いは過たず。
 正確に橙色アリスにヒットしさっき出てきた森の奥へと彼女を吹き飛ばしていた。
 メキメキという樹が被害を受ける音が響く中、紫色の人型――アリス・ヴィオレトロイドが所在無げにさっきまで相棒のいた場所に立っていた。
「なんだ、やっぱりあんまり強くないな」
『やっぱり8分の1なのかしらね』
《8分ノ1でナい。我々ハ等しく分かレたのデはなイカら》
『どういう事?』
《所詮失敗魔法ノ産物。記憶が欠けテいル者もイれば魔力を多メニ得た者モイる》
 紫色アリスは、魔理沙が自分に向かって攻撃の準備を整え終わっているのを知ってか知らずか変わる事のないトーンで更に言葉を続けた。
《ダが、全員等しク自我を持ッた。アリス・マーがトロイドトは違ウ自我だ》
「何が言いたい?」
《我々はミナ己で己に名ヲ与えた。ワタシはアリス・ヴィオレトロイド》
『Violet……?そのままの名前じゃないの』
《そレでもワタシの名だ!他の誰の物でモナい、ワタシの!ワタシだけの名前だ!!ワタシが私である存在の全てだ!!》
 突如彼女は語気を荒げ、そして夕暮れの中全ての憎悪を籠めるか如き表情でアリスを睨んだ。
《ワタシは私でいタい、あり続ケたイ!例え偶発的であロウと、産まレた存在!!何の権利があってそのワタシの自我を消ス!?!!》
『それ、は……』
「決まってるだろうが」
 言いよどむアリスを余所に、魔理沙はキッパリとした口調で言い放った。
「顔見知りの命と他人の命、どちらかを取れと言われれば選ぶのは自明の理だろう?」
《……コチラが複数でモか?》
「そうだな……3桁越えるくらいになったら考えてやるぜ?」
《傲慢ダな……イイさ、横暴に振舞うガイい。最後に勝ツノハ我々の誰かだ。飲マれて消え――》
《コラコラ駄目だぞ情報漏らしちゃーー思慮が足りてないぞヴィオレトー》
 軽い言い回しと共に森の奥からやってきたのは、先ほど魔理沙に吹き飛ばされたアリス・ブライトロイドだった。
 その姿に瑕疵はなく、間違いなく樹にぶつかっていた筈なのにまるで無傷であった。
《まぁいいや。勝てばいいんだしなー行っくぞー》
 その掛け声と共に、橙色アリスと紫色アリスは魔理沙と黒色アリスのいる方へと駆け出した。
 魔理沙が放つ弾幕の方へと。



「今だっ!」「わかった!」
 リグルの左後方にある人形の持つ槍を目指し光速移動をしようとした時、黄色アリスの耳には確かにそんな声が聞こえた。
 だが、一度開始した体を光化するプロセスをとめることはできず。
 そして次の瞬間、黄色い人型はいい勢いのまま人形のさらに左側にあった樹木へと正面衝突してしまっていた。
《サンフラワロイド!!》
 絶叫に近い相棒の呼びかけを聞き痛みをこらえて振り返ると、視界には相棒とこちらに突進してくる橙、そして大きな氷塊が目に映った。
 光は屈折率の異なる物質を通過する際に角度が変化する。
 なるほど、自分が光となって移動する時その軌道上に氷があった場合、移動先にズレを起こしてしまう。
 それを理解した瞬間、アリス・サンフラワロイドの振り返った腹部に橙の拳が叩き込まれていた。



 落日が照らし出すアリス宅前。
「おいおい、なんだよそりゃぁ……」
 正直、魔理沙は驚愕していた。
 突撃してきた橙色アリスと紫色アリスに本気の弾幕を放った。
 薙ぎ払うようなレーザーに対し、橙アリスは紫アリスを庇う様に前へ出てそれをを受け止めた。
 それはまだいい。攻撃を受け千切れ飛んだ腕が溶ける様に消えた事も、今の光線を受けてなおその場に堪えきったのもまだ納得できる。
 魔理沙を驚愕たらしめたのは、アリス・ブライトロイドの千切れた腕が即座にまた再生した事だった。
 肩越しに背後にいるアリスの表情を伺うが、アリスもまた黒い顔に驚愕の表情をしているのでアリスが編み出した隠し球とかそういう訳でもないらしい。
《今は夕方なんだよー》
 沈黙を破ったのは、再び前進を始めた当のアリス・ブライトロイドだった。
 口調はあくまで軽く、しかし吶喊の勢いは苛烈だった。
《僕達は光に近いんだからー、オレンジ色の光を取り込んだとしてもあんまり無茶じゃないよねぇー》
《普通ノ太陽光なラ他ノ色の光モ含んデイルかラ上手ク吸収できナイガ》
《この時間なら、青色の光は地上に届くまでに拡散しちゃってるからねー》
 太陽光は、地上に到達するまでに空気の層を通るのだが、この時空気の分子に当たり散乱をしてしまう。
 波長の短い青系統の光は散乱しやすく、昼間はそれの勢力が強いため青空は青い。
 しかし夕暮れ時となり斜めから差し込むようになると、通る空気の層が厚くなり青系の光は散乱されつくしてしまう。
 故に、夕焼けの時間帯は波長の長い赤系統の光が主に届くようになり、あの色となるのである。
「ちっ!」
 繰り返される魔理沙の攻撃。
 渦を描くような動きの星に似た弾幕が張られたが、今回もやはり再生する前衛に防がれてしまいアリス・ヴィオレトロイドには到達しなかった。
 だが今回は先ほどとは違っていた。
 今度は、さっきよりも距離が近い事。
 そしてもうひとつ。
 アリス・ヴィオレトロイドが、顔を押さえて倒れつつある橙色の背中を支えつつも右腕を魔理沙へ向けて正確に伸ばしていたことである。
《潰レロ……》
 次の、瞬間。
 6千万カンデラはあろうかという強烈な光が紫アリスの掌から放射された。



 自己再生力を見せ付け動揺しているところに目潰し、そしてそのまま畳み掛ける。
 策と言えるかどうかも微妙なアバウトな計画だったが、単純ゆえにはまっていさえすれば有効であったといえるだろう。
 そう、ハマってさえいれば。
 視界を完全に封じたはずの状態で行われた橙アリスの吶喊は、しかし固い感触に阻まれてしまっていた。
《あれ?》
 予想外の感触は何かとよく見てみればそれは竹箒で、それを持っているのは当然霧雨魔理沙だった。
 その姿は目くらましをする前と殆ど変わっていなかった。
 腕の位置と、帽子のつばを深く――目を閃光からガードできる程度に深く移動させていた2点を除けば。
《え?》
「ネタが割れてる手じゃ、こんなもんだろうぜ?」
 素早く脚を払い。
《お?》
 仰向けに倒れた相手の頭上にミニ八卦炉をかざし。
 オレンジ色の身体は、魔理沙が真下に放った閃光に飲まれ見えなくなってしまった。



「さて、今のじゃあまだ動きそうだしもう一発――」
《動クナ!》
 もう一度地面に向かって魔砲を放とうとした魔理沙を止めたのは、紫アリスの声だった。
 どうやら橙アリスと魔理沙がやりあっている内に頭上を飛び越えて回り込んだらしい。
 両手で目を押さえ地面にしゃがみこんだ黒色アリスの喉元にスミレ色の手を当て、こちらを見据えていた。
《形勢逆転ダな。コイツの命が惜シけレば大人しくプリずムを――》
「プリズム?今は持ってないぜ。あの氷精達に持たせているからな」
《何……ッ!?》
 紫色アリスが言葉を詰まらせたのは、魔理沙があまりにもあっけらかんと言い放ったからではない。
 目を焼かれ蹲っている物とばかり思っていた黒いアリスに手を掴まれていたからだった。
『ネタバレされた陥穽にかかる訳ないでしょ。貴女、本当に私から思慮深さを貰い忘れていたみたいね』
 黒色アリスはそのままアメシスト色をした腕を掴み捻り上げると、スタスタと魔理沙の傍へとやってきた。
 魔理沙の目の前には、先ほど放った魔法によって随分小さくなった橙色の欠片が再生をしつつあった。
《キサ……まッ!!》
『自己保全のためとは言え、よくも私に牙を向けてくれたわね。まだプリズムに入れないから、じっくりと反省していなさい』
 黒色アリスは一本背負いの要領で紫色アリスをオレンジ色の破片の上に叩きつけ。
「コイツはサービスだぜ」
 魔理沙は再び垂直に魔法を放ち。
 その後、残された紫色と橙色の塊をに帽子をかぶせ光を遮断してしまった。
「光がなけりゃ再生もできないんだろ?」
『とりあえず、まずは2体…と』
「後はあいつらがプリズムを持って帰ってくるのを待たないとな」
「……もう、大丈夫?」
「あぁ、大丈夫だぜ」
 アリスの家の中から発せられた質問に対し、魔理沙は回答として安全を宣言した。
「ふぃーーー、助かったーーーー」
「何だかすごい怖かったよねぇ」
『それにしても、たまたま遭遇して襲われるなんて運がなかったわね』
 家から出てきたルナチャイルド、サニーミルク、スターサファイアに黒色アリスは同情の言葉をかけたのだった。



【ねぇ……アレ、何だと思う?】
【確か、魔法の森に住んでる魔法使いよね】
【じゃあ何で2人なのよ!色も何だか全体的にオレンジ色と紫色だし!】
〈つマリ再生能力を活かして盾に……〉
〈んー……んん?〉
〈どウした?〉
〈なーんか近くにいるっぽいなぁ〉
【【【ギクッ】】】
〈そうカ?〉
〈何だか感じるよー、光を操作してるのが近くにいる感覚〉
【ど、どうしよう!あいつら私の能力に気づいてるっぽい!!】
【お、落ち着いて!能力解除しちゃ駄目だからね!!】
〈上?下?〉
〈木の枝にいるっぽいなー〉
〈上ヲ向いてロ〉
   カッ
【何?!何今の光!?!!アイツの掌が下に向いて光った?】
〈居ーたーーーー!!〉
【しまった、今一瞬操作を忘れた!】
〈妖精だー!殴っていい?ねぇ殴っていい!?〉
〈程ヨいオレんジに世界が染まるにハマだ時間が……準備運動にシてテモいイぞ。10分デ帰って来イ〉
〈わーい♪〉
【【【きゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!】】】
〈待てーー〉
   タッタッタッタッタッタ
 魔理沙が箒を向けた先の木の陰から複数の人影が家の周囲に広がる樹のない空間へと転がり込んできた。
【たたたたたたた助けてぇ!】
【何だ、妖精トリオか。どうしたんだ?】
【魔法使いの色違いに襲われてるのよ!】
【オレンジ色のなんか子供っぽいのと、紫色でいきなりフラッシュ焚いたみたいに強い光出す奴!!】
【!】
【ってこっちには黒いのがいるー!!】
【落ち着け、これは色と魔力以外いつものアリスだ】
【どういうことなの?】
【詳しい説明は後でしてやる!今はとりあえずその家の中にでも隠れてろ!!】



「しかし、運がよかったな。事前にあの会話があったお陰で、紫色は目潰しをやってくるであろう事が判ったんだから」
『そうでなかったら危なかったかもしれないわね』
「……ところでさ、そろそろ説明してくれないかしら?」
「あぁ、いいぜ」
 ルナチャイルドの要請に、魔理沙は答えて事の顛末を説明し始めた。
「実はな……」



 分身体は、かなり頑丈である。
 いくら魔力が篭っていようとも、パンチ一発では倒れないほどに。
 しかしその身体には欠点も存在する。
 アリス・サンフラワロイドの体は、橙のナックル一発だけであったならば堪えきる事ができただろう。
 だが、その体は橙の拳に握られていたプリズムに接触した事によりプリズムへと吸い込まれてしまった。
《…………ッ!!》
 予想外の事態に驚愕をしつつも、アリス・インディゴロイドは4体の人形を間髪を入れずに動かした。
 だがやはり精細を欠いていたのか、チルノ・リグル・橙に距離をとらせる事に成功したものの、大妖精には逆に接近を許してしまっていた。
 好機と見たのか更に距離をつめてくる大妖精に対し、しかし藍色アリスはあわてる事無く次の札を切った。
 懐から‘自らの同時最大操作可能数である’5体目の人形を飛び出させ、迎撃に向かわせたのだ。
 自分が操作できる数は4つまで、そう相手に思い込ませたところで5つめを使い不意打ちをする。
 それが、藍色アリスがこの状況で切ったカードだった。
 こちらに高速で接近してくる大妖精に対し、胸元からまっすぐ大妖精に飛行する人形。
 避けられる筈のない一撃。
 だが接触すると予測した次の瞬間、大妖精の姿がかき消えていた。
《……!?!!》
 直後、そっと背中に手を当てられる感触がした。
「私は光速移動なんてできないですけれども、瞬間移動ができるんですよ」
 そして「知ってました?」という言葉と共に放たれた密着状態からの弾幕。
 分身体は、かなり頑丈である。
 大妖精の放った攻撃は藍色アリスを行動不能にするには威力が足りなかったが、しかしアリス・インディゴロイドは敗北を覚悟した。
 自分の吹き飛ばされた先に、橙がプリズムを持って待ち構えているのを見てしまったから。



「どう、魔理沙!あたい達は2体も倒してきたわよーー!」
 アリス宅前に帰ってきたチルノは開口一番、そう自慢した。
「おぅ、思ったよりも早かったな」
『プリズムを渡してもらえるかしら?こっちも2体倒したから』
「あ、お久しぶりですルナチャイルドさんにスターサファイアさん、サニーミルクさん」
「久しぶりー。あ、もしかしてそっちも巻き込まれたの?」
「いや、私達は頼まれてね」
 リグル達は三月精と和やかに会話していたりしたが、それはひとまず置いておき魔理沙とアリスはチルノからプリズムを受け取り、橙色アリスと紫色アリスの封印に取り掛かった。
『……よし、ちゃんといるわね』
「あぁ、間違いなくな」
 アリスが帽子を取り除くと、そこにはちゃんと帽子を被せる前とほぼ同じ大きさの人参色の塊と竜胆色の塊があった。
 魔理沙はそれらにプリズムを触れさせ、それにより計4体の確保に成功した。
「これで半分は終わったわけだな」
『えぇ、後半分……あら?』

[++++++++++++++++++++]

《あぁ!紫がやられた!!》
《オノーレ七曜の魔女めなんという強さデーぐはっ》
《今度は黄が!》
「とっとと全員諦めて元の鞘に戻りなさいよ」
《駄目です、このままでは全滅します!!》
《仕方ない、アレを……奥の手を使うぞ!!》
《《《《了解!!》》》》

[++++++++++++++++++++]

「えぇいくそ、どこに居やがるんだ!!」
 魔法の森の上空を切羽詰った表情で高速飛行と上昇下降、旋回を繰り返しつつ、霧雨魔理沙は吐き捨てた。
 リグルたちが戦闘開始前に聴いた黄色アリスと藍色アリスの会話、紫色アリスの漏らした言葉、そして今起きている状況から推測される事態は、悲惨な物だった。
 現在、彼女のトレードマークである黒い帽子は彼女の頭になく、地上にいるアリスが持っている。
 高速で飛行する際飛んでしまうのを恐れたから……ではない。
 黒い帽子に触れたアリスの指が、帽子と一体化してしまっているのである。
 試しに、近くに落ちていた黒い石を拾ってみたところ、これもまたアリスの指と同化してしまっていた。
 つまり現在のアリスは「黒いものに触れると、一体化してしまう」性質が判ったのである。
 だが、これはまだどうとでもなる問題である。黒い物に触れなければ住むだけの話なのだから。
 問題は、それとも関連するもうひとつの性質――「暗闇で自己が拡散する」性質にあった。
 黒い物体に触れるのが駄目であるならば、物体ではなく空間が暗い状態になったらどうなるのか。
 森の中などで影に触れても問題はなかったのでこれは大丈夫ではないかと軽い気持ちで試行したのだが、これが残りの分体達の狙いに気付くきっかけとなった。
 サニーミルクらに協力してもらいアリス邸を真っ暗闇にしてその中に入ってみたところ、直後にアリスは意識が遠のくのを感じた。
 あわててまだ陽光の当たる屋外へ引っ張り出し辛うじて事なきを得たのだが、どうやら今のアリスは光量が一定以下の領域に接すると、意識が拡散されてしまうらしい事が分かった。
 あたかも、大量の水にインクを1滴たらしてもすぐに拡散しインクの要素はほぼなくなってしまうかのように。
 さて、今は夕焼けが美しい時間帯どころか黄昏時間近である。
 当然その後には夜がやってくる。
 世界最大の影、夜が。
 もしこれに触れてしまった場合、アリスという存在の密度がどうなってしまうかは言うまでもないだろう。
 言うなれば、最初からこの事件は解決までのタイムリミットが設定されていたような物だったのである。
 当初アリスたちは漠然とした不安から事態の早期解決を目指してきたが、それは幸運な判断であったといえるだろう。
 しかし、それも後3体の捕獲が間に合わなければ水の泡である。
 極限の時刻は刻一刻と近づいており、それが魔理沙をいっそう焦らせていた。
 魔理沙は今、プリズムを持ち自宅へ行ったり全く関係のない方角へ行ったりを繰り返している。
 分離体の行動半径は限られているため、プリズムが大きく移動すれば彼女達もまた移動しなければならないはずである。
 であるにもかかわらず、どれだけ移動しても地上で探索をしている他の協力者達は誰も分体を見つける事ができずにいた。
 移動しているはずの分体達は、リグルの聞き込みによれば蟲の1匹たりともにも見つかっていないのである。
 スターサファイアの能力を以ってしても大雑把な方向すら分からず、八方塞がりのままいたずらに時間だけが過ぎていった。



「あぁもう、あいつらどこにいるのよ!!」
 チルノは癇癪を起こしていた。いや、癇癪を起こすぐらいの事しかできなかった。
 あと少し時間が経ち夜が訪れれば、知り合いが一人文字通り溶けて消えてしまう可能性が高い。
 だと言うのに今自分にできる事は何もないのだ。それがどうしようもなく悔しかった。
 一縷の望みを託して、とりあえず確保した4体だけを手順を経て吸収してみたがやはりアリスの体は黒く帽子もくっついたままだった。
 魔力は4体分戻ったのだが……おそらく、7体全てを吸収しなおさない限りこの終末をもたらす性質からは逃れられないのだろう。
 一応、夜であっても強い明かりを維持すれば消えずに住む可能性は残されている。
 しかしそれにかかる労力はかなりの物であろうし、また例の3体が邪魔しに来るだろう。
 よって、その案が成功する可能性はかなり低いと言える。
「落ち着いて!……って言っても無理だよねぇ……」
 この時間は屋台の準備で忙しいであろうミスティアにも事情を話し頼み込んで来てもらったのだが、やはり徒労に終わってしまっていた。
「……って、あれ?」
「居たの?!」
「いや、違うんだけど……」
 ミスティアの指差した視線の先には。
 闇が木々にぶつかりながら森の中を移動していた。



『白い私ですって?』
「そう、白いアナタ」
 予め行っていた取り決め「なにかあったら、空に向かい目立つ弾を撃つ」によって関係者全員が集められた。
 夜の帳が降りきるまであと僅か、ルーミアの事情聴取はそんな状況で行われていた。
「白いアナタが、‘私そっくりの黒い人型が森の中を動いているから、それを闇の中に取り込むと美味しい物が食べられる’って言ってたの」
「で、見つからなかったわけか」
「話を聞いたおやつの時間くらいから闇を展開したまんま移動してたら樹にぶつかりまくってなー。よく考えたら、見つけてから闇広げればよかったなー」
『もしそれをやられてたら、私はきっと闇に溶けていたんでしょうね』
「リグル、その辺の情報は入ってきてなかったの?」
「ごめん、蟲達には‘色違いのアリスを見なかったか’で訊いてたから……」
「ルーミアがうろちょろしてるのは想定外だったってわけね」
「もしかしたらルーミア、ずっと捜索半径外をうろうろしてたのかもね」
 橙やミスティア達が色々と思うことを言っているのを余所に、魔理沙とアリスは違和感について考えていた。
 消去法から考えて、残りの色は‘赤’‘青’‘緑’のはずである。
 これはアリスが実験失敗の際に目撃しているのだから間違いない。
 だと言うのに、ルーミアが見たのは居ない筈の‘白’アリスであったというのだ。
「赤、青、緑…三つ、三色……」
『魔理沙、それよ!』
 アハ体験は、唐突に発生する。
「え?3色……光の3原色か!3つの色を全て足すと白に!!」
『だとすると、光の干渉を利用して‘全ての色’を統べているのかも……』
「自ら発光している物以外は、モルフォ蝶の構造色みたいな例外を除いて、反射した光を目が捕らえている。葉っぱが緑に見えるのは緑色を反射しているから……だな?」
『もしそれを操作していたら……いえ、あるいは反射も屈折も吸収も起きない状態になっているのかも……』
「おいサニーミルク!!」
「な、何よ」
 魔理沙はサニーミルクの力いっぱい掴み引き寄せた。
 サニーミルクは痛みを感じ顔をしかめたが、魔理沙の切羽詰った勢いに飲まれ文句を言う暇はなかった。
「ラストの奴はお前のように光を操作して透明化している可能性があるんだ!もし同系統能力だとして、それを見破れるか!?」
「え?えっと……河童のステルス迷彩みたいに機械だと判らないけど、術によってなら……たぶん、そっちに意識を集中すれば」
 以前、サニーミルク達は自分の能力が効かない相手に遭遇した事がある。
 それは、月の兎である鈴仙・優曇華院・イナバである。
 どうやら、似たような能力の持ち主であればサニーミルクのステルスは通用せず、スターサファイアのサーチをすり抜けるらしい事をそのときに知った。
 だとしたらば現在スターサファイアの探知をすり抜けている相手は、似た能力をもっている可能性が高い。
 であるならば……
 いま一つ確証のない返事ではあったが、魔理沙は空を見上げ……どうやらそれに頼るしかないと踏んだらしい。
 意を決した表情で全員の顔を見渡し、そして口を開いた。
「時間的に見て、これが最後の作戦になると思う……頼む、アリスを助けたいんだ。力を貸してくれ」



《プリズムが動いているな……しかもかなりの高速で》
《懲りない奴らだぜ》
《まぁあと少し逃げ切れば……》



「……いたよ」
 魔理沙の後ろにしがみ付いて高速飛行に付き合っていたサニーミルクは、目的の相手が樹よりも高い高度を飛行しているのを見つけた。
 高速移動に追従するには障害物の多い地表を移動するのでは追いつけないから、ステルスを過信して上空へ出たのであろうが、それが完全に相手の失策となった。
「了解。進行方向の微調整を指示してくれ……追っているつもりのアイツが、あの場所へ来るように」
「判った」



 進行方向のそこかしこで闇雲に攻撃をしている妖怪妖精がいたため、それを迂回する形でプリズムを追わされていた。
 思えばこれは、進行ルートを制限するための障害物代わりだったのだろう。
 違和感を感じた時には、もう手遅れだった。どこかから微かに歌声が聞こえたとたん、いきなり視界が真っ暗になったのだ。
 光を操るには、周りの光を知らなければならない。思わず光学迷彩を解除してしまった。
『ようやく、見つけたわよ……』
 歌が止み、代わりに聞こえてきたのは怨嗟の篭った声だった。
 まぁ当然だろう。自分が消滅に瀕しているのだから。



「本当に真っ白いな」
 囮役の用が済んだ魔理沙は戻ってきて、黒い人型の横へと着地した。
《えぇ、白よ。光の3原色たる3体が合体した姿……名前は、そう、アリス・カラレスロイドとでも呼んでもらおうかしら。それとも、光の魔術師という事でフェルメールとでも名乗ろうかしら》
 大仰な身振りと共に、石膏のように白いアリスは自分の語りを続けた。
《ペールトーンもライトトーンもブライトトーンもビビッドトーンもディープトーンもダークトーンもダルトーンもグレイッシュトーンもストロングトーンも自由自在で――》
『名前なんてどうでもいいわよ。すぐに消えるんだから』
 いらだったように言い放ち、墨色の腕は魔理沙からプリズムを受け取った。
《消せるのかい?悪いが私の中には3つの人格が混在している》
 この期に及んでなお、白色アリスは余裕を崩していなかった。
《夜雀の歌の対策を思い出したよ。誰かが惑わされたのなら、まだ惑わされてないのが正気に戻せばいい。それぞれがそれぞれを起こすのなら、もう歌は効かない》
『さぁ?夜雀の歌が切り札だなんて言ったかしら?』
 言い終わるが早いか、黒色人型が動いた。
 否、厳密に言えばその姿勢自体は動かなかった。
 自分に残されていた分と取り返した4体分の魔力を使い、アリスは人形を動かしたのだ。
 人形は白色アリスを取り囲むように動き、そして人形に繋がれている魔法の糸もまたアリス・カラレスロイドを取り囲んでいった。
《なるほど、消えるといっても実体は残る。糸に伝わる振動を辿ればどこに居るか判断できるとな……だが!!》
 叫びと共に人形の1体を掴んだ融合体は、槍を奪い人形の方を黒色アリスへと投げつけた。
 そして一歩バックステップをした瞬間3色の光を操り姿を消して、後ろではなく前へと突き進んだ。
 当然魔理沙達にもそれは見えておらず、墨色人型の脚は下がろうとしていると思われる色なしアリスに追いすがるかのように前へ一歩踏み出した。
 プリズムを手に持って。
 次の瞬間、無色アリスが手に持つ人形の槍によってプリズムはカウンター気味に砕かれてしまっていた。



《はははははは、愚かだな!!夜の訪れを前に消えるか!!》
 プリズムを砕いた勢いそのままに回転し蹴りを放ち、黒い人型を吹き飛ばした。
 透明化したまま哄笑と共に何処かへ消えようとしたとき、透明アリスは前へ思い切り倒れてしまった。
 何に躓いたのかと足元に目をやると、そこに知覚できたのはあってはならない光景だった。
 躓いたのは、魔理沙がこちらの足元に伸ばしていた箒の柄だった。
 それはまだいい。ヤマ勘で伸ばしたとしても当たる事は十分にあるだろう。
 問題は、足にまとわりついている大量の蟲だった。
 ハエだのムカデだのハチだのが大量に纏わりついていたのだ。
「これだともう光学迷彩の意味がないね。臭いでも追われる、音でも追われる」
 後方からリグルの声が聞こえたのとほぼ同時に、カツン、と背中に硬い感触があった。
 首を捻って見ると、後ほんの僅かで太陽が沈みきり夜となる明るさの空をバックに魔理沙が箒で背中を押さえつけていた。
「お前さんの負けなんだよ」
 そう言って魔理沙は懐からプリズムを取り出した。
「さっき砕いたのは、この魔法のキーアイテムなんかじゃない。単なる私の私物だ。飛び回ってるとき、一度家に寄って持っていたんだ」
 あくまでも冷徹な魔理沙の声が響く中、蹴り飛ばした方向とは別の方から黒色アリスの近寄ってくる気配がした。
 どうやら蹴り飛ばしたアレは、炭か何かで簡易的に作った人形だったらしい。
「贋物のアリスに贋物のプリズムを砕いて油断した結果がこの様だ。お前らの中には、本物のアリスの警戒心が殆ど含有されてなかったんだろうな。それが敗因だぜ」
 そして魔理沙は、地面に這い蹲る敗北アリスに向かってプリズムを落とした。

[++++++++++++++++++++]

《《《波・長・干・渉!!!》》》
   ピカッ
《赤青緑が一体となり、我が身最早見る事あたわず!!この透美鈴、下せるものなら下してみるがいい!!》
   カチッ
   シュドドドドドドドド
   カチッ
   ザクザクザクザクザクザク
《うぎゃーーー!》
「透明になっても、実体があるんじゃ隙間ない攻撃で簡単に倒せるわね」
「あら咲夜、どうしてここに?」
「メイドから、図書館で騒動が起きていると報告を受けまして」
《うぐぐぐぐぐ、紅より出でて紅を超えたこの透美鈴が……》
「劣化コピーの癖に厚かましいわね。本物の門番だったら、今の避けられなくとも迎撃するか凌ぐかしたわよ》
「あ、実力はなんだかんだで認めておられるんですねぇ」
「えぇ。過大評価も過小評価もしていないつもりよ」
「てい、逃げるなそこの橙」
《わーばれちゃったーぐぇ》
「さて、あなたでおしまいね」
《ちょ、一人相手に賢者の石とか――》
「いいじゃない、実験失敗の腹いせぐらい」
《いーーーやーーーーーーー!!》

[++++++++++++++++++++]

「まったくもって、昨日は酷い目にあったわね」
「あぁ、確かにな」
 狂乱の夕暮れ時を越え一夜明けた清々しい天気の朝、魔理沙とアリスは情報を求めて本来の本の持ち主であるパチュリーを訪ねて紅魔館へきていた。
 ちなみに、アリスは全身に包帯を巻いている。
 7体全部を戻し終わった瞬間、とんでもない疲労と怪我に襲われて生死の境を彷徨いかけたのだ。
 ダメージも幾らかフィードバックされたようであり、特に橙色アリスと藍色アリスの状態がヤバかったようである。
「こっちもちょっと大変だったのよ」
「門番が増えてか?」
 なお、紅美鈴は本日門番の職を休んでいる。どれほどのフィードバックがあったのかは……知らぬが仏というものだろう。
「八雲紫に怒られて、よ」
 ここまで話したところで、パチュリーは紅茶で喉を潤した。
 相変わらず、咲夜の淹れた紅茶は美味である。芳醇かつ馥郁たる香りが実に素晴らしい。
「ん?紫が出張ってきたのか?」
「あの魔法、相当に危険な魔法だったのよ。一つの物を、多重に存在させる……あまり使いすぎると、世界自体が多重に存在しようとしてしまうらしいわ」
「じゃあもしかして、昨日紫や藍が忙しかったのって……」
「もしかして、パチュリーや私がデータ採集のために何度も何度も使っていたから?」
 アリスの顔が青ざめる。
 知らぬ事とはいえ、幻想郷全体の危機を誘発していたなんてことが紫に知られたら……
「とりあえずその件ではお咎めなしにしてくれるそうよ。判っていてやったのならともかく、今回は事故だってことで」
 それを聞き、アリスはほっと一息ついた。
 安心ついでか、紅茶に口をつけた。やはりアリスにとってもこの紅茶は美味しいらしい。安らかな表情になった。
「それにしても、2箇所で同時に失敗が起きるなんて偶然だなぁ」
「偶然じゃないのよ、それ」
「はい?」
「さっき言った事覚えている?この魔法は世界自体に干渉しようとするって」
 勿論、忘れる訳がない。
「つまり、同じ世界で同時に複数個所でこの魔法を使うと、世界自体が不安定になり魔法もその影響を受けちゃうのよ」
「へぇぇ……それは、パチュリーの研究だとわからなかったのか?」
「魔法を使っていたのは私一人だったから……複数個所で同時に使用するなんてまさに想定の範囲外だったわ」
「だとしたら仕方ないわね」
「あぁ、仕方ないな」
 何はともあれ、命は助かったし他に甚大な被害も無い。
 こうして、多重存在魔法事変は和やかな空気の中終わったのだった。


   『‘最低の事態’なんて物はありえんよ。最低だと思っても、えてして事態はそこから更に悪くなる』
      ――レミリア・スカーレット 後日のインタビューに答えて


 で、あればよかったのだが。
   ズーン、ズズーー……ン
 遠くで何かの崩れるような音がして、図書館もまた細かく揺れていた。
「お、おいパチュリー、何の音だ?」
「わからないわ……勘でいいならば、妹様が暴れているんだと思うけれども」
「あー、そりゃ厄介だな……」
「今の内にお暇した方がいいかしら?」
 暢気に会話をしていたところ図書館の扉が激しい音を立てて開かれた。
 音に反応して全員がそちらに視線を向けると、そこには肩で息を切らせた小悪魔が立っていた。
「パチュリー様お願いです助けてください!!あぁ、魔理沙様もアリス様もお願いしますフランドール様が増えたんです!!」
「なんだ、フォーオブアカインドか……待て。‘増えた’?」
 魔理沙の顔には、嫌な汗が浮かんでいた。
 ギギギギという擬音が聞こえてきそうな動きで顔を動かし見れば、パチュリーとアリスも同じような汗を浮かべていた。
「なぁパチュリー?例のプリズムはちゃんと始末したよな?」
「……ごめんなさい、門番の治療が忙しくて地下室に放り込んだままにしちゃったわ……アリス、貴女のプリズムは?」
「何時の間にか無くなってたわ……多分決着をつけた森の中に忘れてきちゃったんだと」
《《《《《《《《《きゃはははははははははははははははは》》》》》》》》
 耳を塞ぎたくなるような高音の笑い声が響き、図書館から見える廊下の突き当りをフランドール達が通過していった。
 もはや嫌な予感というレベルではない。悪夢的中である。しかも最悪の形で。
「ねぇパチュリー、否定して欲しいんだけど……今、フラン8人いなかった?」
「……私もそう見えたわ」
「おいおいおいおい……」
「悲しいお知らせがあります」
 小悪魔がハラハラと涙を流しながら、何かを覚悟したように口を開いた。
「4人の時にアレを触ってしまいまして……4×7の28名に――」
「魔理沙助けてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
 響いた声は、紅魔館の住人の物ではなかった。
 扉の前に立っていた小悪魔を押しのけて図書館に入ってきたのは、ミスティア・ローレライだった。
 入ってくるなり、涙でぐちゃぐちゃの顔を調えることもせず魔理沙へと抱きついた。
「ミスティア!!まさかあの後プリズム拾ったりとかしてないだろうな!!!!」
「プリズムってな〜に〜?三角形の奇麗なガラスは拾って宝物にしてたけどー……」
   キュイ〜〜〜ンキュワンキュワンワン
 今度は耳を塞ぎたくなるような楽器の音が響き、図書館から見える廊下の突き当りをプリズムリバー三姉妹が通過していった。
 7セット、計21人が。
「あ〜な〜た〜た〜ち〜〜〜〜」
 もういっそ耳が潰れて欲しかった。
 しかしそうそう都合のいいことなどなく、聴覚は捉えてしまった。
 地の底から響くような宸怒の声と共にスキマを開いて現れたのは、八雲紫だった。
「何でこんな事になってるのかしらぁ〜?」
「えーとその、色々と事情がありまして……」
「え、えぇ。人命優先というか、その……」
「鳥頭の行動は誰にも予測できないと申しましょうか」
   ピキッ
「とにかく事態解決手伝いなさい!!処刑は後で考えるからね!!!!」
「「「イ、イエスマム!!」」」



 結局。
 フランドール・ヴァーミリオンやフランドール・一斤染、リリカ・臙脂、メルラン・桜鼠、ルナサ・ピーチブラックらの合体した最強の敵「48色混合アルティメット・スケルトン」の撃破に白黒つける能力を持つ四季映姫・ヤマザナドゥの協力を得て成功する日没前まで3人の魔法使い+夜雀は文字通り命をはって戦わざるを得なくなったのだった。

                                                   めでたくなしめでたくなし
タイトルは、何だか気に入った「オブラディ・オブラダ」っぽい語感と「プリズム」を組み合わせた物です。
帰ってきたウルトラマンの光怪獣の影響も少しあるかもしれませんが、
それ以上の深い意味は特にありませんので、あしからず。
 当初のタイトル:ふたりはプリズ魔

……おかしい。
芥子色とか藍海松茶とか滅紫とか似紫とか利休鼠とか瓶覗とか韓紅とか
そういう色んな色の名前を色んなキャラと絡める事
(つまり、最後でやってるみたいな事)をベースとしたコメディにするはずが
何故こんな事に……永琳先生、厨二病を治すお薬ください。
K.M
作品情報
作品集:
最新
投稿日時:
2009/05/09 23:51:56
更新日時:
2009/05/09 23:51:56
評価:
17/18
POINT:
89
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1.27
1. 9 三文字 ■2009/05/11 23:21:35
戦闘シーン面白ぇ!こういうちょっとした心理戦があるとやっぱ燃えます。
28の妹様……一人くらいもらっても構いませんねっ!!
アルティメット・スケルトンと、ふたりはプリズ魔に笑ったのはちょっと内緒。
あと、分れた美鈴の中に若本っぽいのが……
2. 3 パレット ■2009/05/18 00:56:37
登場人物が多すぎたのもあってか、ちょっと混乱するところがありました。
キャラの多さとはまた別ですが、「ベシッ」とか「ガシッ」とかの擬音だけで表現しちゃってるところとかも、何が起こったのかわかるようでやっぱりよくわからんかったり。
3. 8 名前が無い程度の能力 ■2009/05/29 23:54:23
これはいい厨二病
4. 5 佐藤厚志 ■2009/06/02 23:47:37
作品そのものがカオスで、ある意味コンペの中で一番難しい小説でありました。
まるでらーめん二郎のつけ麺のように、凄まじいボリュームでした。
5. 8 神鋼 ■2009/06/04 18:27:29
ようやく纏まったかと思ったらもう幻想郷最後の日だった。
6. 3 気の所為 ■2009/06/04 18:27:59
舌噛みそう。
色の数ならこんぺ最多?
駄目だ、覚えられない。
7. 4 有文 ■2009/06/07 23:49:11
アイディアは楽しいのですが、全体的な中だるみ、山場のメリハリのなさがあまり宜しくないです。
それはそれとして、どんどん増えていく妹様はなんとも酷いと思いました。
8. 6 ふじむらりゅう ■2009/06/11 22:04:49
 ちくしょう、透美鈴でやられた……油断したぜ。
 バトルもテンポよく、わかりやすく進められていて、結構楽しく読めました。
 オチがてんやわんや。
9. 3 ぴぃ ■2009/06/12 05:14:33
アイディアは面白かったのですが、序盤で情報というか設定の説明のほとんどをキャラのセリフにまかせるのはちょっと……。
地の文で明瞭かつ簡潔に、そして徐々に読者に伝えた方が良いのでは、と思いました。
良い材料は丁寧な調理で生きます。これからこうした魅力的なアイディアが浮かんだ時には、それを元にじっくりと文章を練ることを考えてみてください。
10. 5 moki ■2009/06/12 18:38:13
うはは、すげえカオス。こういうの細かい設定考えてるとき一番楽しいんだろうな。
11. 3 八重結界 ■2009/06/12 19:30:09
少年漫画を読んでいるような、そんな感じでした。
12. 8 リコーダー ■2009/06/12 21:34:57
とんでもない設定はもうちょっと何とかならなかったものかと思わないでもないですが、意外に面白かったかも。
テンポ良く裏をかき合ってくれたので退屈しなかった。
13. 5 木村圭 ■2009/06/12 21:55:54
こういう強引極まりないお題の使い方は大好きです。
途中ちょっとだれた印象があるのが惜しい。紅魔館サイドがサクサク進む(ように見えた)だけに余計そう感じてしまいました。
ぴーえす、一番おいしいところを持っていったのは瞬間移動の光った大妖精であると信じて疑わない。
14. 4 名前が無い程度の能力 ■2009/06/12 22:23:18
名前だけでも面白いw
15. 7 つくし ■2009/06/12 23:18:12
申し訳ありません、時間が差し迫っているため、採点のみにて、感想本文は後ほど改めて。
16. 5 時計屋 ■2009/06/12 23:21:24
 勿体無いなぁ、というのが第一の印象です。
 お話の発想は凄く良かったと思いますし、途中のアイデアも面白い。ラストもお約束だけどちゃんと落ちてる。
 プロットだけ見れば良作なんですが……。
 率直に言うと、描写が圧倒的に不足しているように思われます。登場する人物も多く、場面の転換が頻繁で、戦闘も激しい。これを文章できちんと描写するのはかなりの手間だと思うのですが、そこのところが大雑把で正直、誰が何をやっているのか何度か読み返さないと分かりません。
 また、文章そのものも読みやすいとは言いがたいものになっています。レトリックによる強調を乱雑に使いすぎて、逆に文意が掴みづらくなっているように見受けられます。
 故に読んでいて面白さより疲れが先立ってしまいました。
17. 3 ハバネロ ■2009/06/12 23:27:06
ふらふらと危なっかしく飛んでる感じなんだけど、目が離せないというか、結果としては面白かった。
美鈴の件が浮いてるかなと思ったら、オチへ繋がる伏線というか、
掛け算で増えるキャラは吹いた
18. フリーレス つくね ■2009/06/13 00:02:05
単なる戦隊カラーかと思いきや実に面白かったです。オチまでしっかり用意されていて大満足でした。
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