涙色に沈む

作品集: 最新 投稿日時: 2009/05/09 23:53:23 更新日時: 2009/06/14 00:54:56 評価: 16/17 POINT: 89 Rate: 1.34
 玄関から音がしました。幽々子様が帰ってきたのです。用事があったらしく、幽々子様は人里へ行っていたのでした。

 連れてきちゃった、と幽々子様がいいました。何のことですやらと、わたしはそちらを見ました。そして仰天しました。幽々子様が、おかっぱ頭の女の子と手を繋いでいたのです。女の子は不機嫌そうな表情をしながらも、幽々子様の手をしっかり握っていました。

「これはちょっと、シャレになりませんよ幽々子様」
「そうはいってもねえ。今回ばかりは、わたしが原因じゃないのよ。とにかく、もう夕餉の時間でしょう。話はご飯を食べながら。ね」

 幽々子様はびっくりするくらい素敵に笑って、家の奥へ行ってしまいました。もちろん、女の子も一緒です。さあ、困ったぞ。わたしは心中そう思いました。もうひとり分のご飯を作らなければいけない。その点でも困りました。しかし何より困ったのは、いつも以上に幽々子様が何を考えているのかがわからない点でした。こんなに露骨に他人様を困らせるようなことを幽々子様がしでかすのは、あの春集めの時以来でしたから。

 ともあれ、わたしひとりが考えたところで、現状が変わらないのも事実です。開き直って、ご飯を作ることにしました。さほど時間はかかりませんでした。幽々子様が帰ってくるまでにある程度の下準備を終えていましたし、増えたといっても小さな子どもひとり。大した量が増えるわけではありません。料理を膳に載せ、居間へと向かいます。

 わたしのいつもの席に、例の女の子が座っていました。少々いらつきましたが、ここは堪えどころです。何気ない風を装って、料理を各々に配りました。

「妖夢、自分の場所を取られて悔しいんでしょう」
「は、いえ、そのようなことは……」
「隠すのが下手ねえ」

 幽々子様はけらけら笑いました。すると女の子が、わたしの袖をくいくいと引きはじめたのです。何ですか? わたしは口の端を心持ち程度に上げて、優しく訊ねました。

「変わってあげる」
「え」
「場所、変わってあげる」

 わたしが返事をするより先に、女の子が立ち上がりました。座っているわたしと、立っている女の子。わたしのほうが優っていた身長が逆転します。途端に、恥ずかしい妄想に捕らわれました。わたしは三人姉妹の一番下で、この席は嫌だと長女に駄々をこねる、見かねた次女が場所を変わってあげる……。そういう珍妙な家族情景を想像しました。わたしはうつむいて赤面します。けれどここでまた頑として動かなかったら、本当にただのわがまま娘です。わたしは羞恥心を押し殺して立ち上がり、女の子と席を替わりました。女の子はずっと無表情でした。

「優しい子ねえ。そう思わない、妖夢?」

 わたしは幽々子様から視線を逸らして無視します。拗ねちゃって、かーわいい。声がまだ聞こえてきますが、わたしは全て無言という返事をしました。やけ食いするように、白米をがつがつと口に掻きこみます。味噌汁を飲み、漬け物をぽりぽりと食べました。おかずが思いのほか早い段階でなくなってしまったので、微妙に残った白米は茶漬けにして食べました。

「はしたない。あなたはあんな娘になっちゃいけないわよ」

 幽々子様にいわれて、女の子はこくこくと頷きます。わたしは勢いよく立ち上がり、居間を出ました。それからうがいをして歯を磨き、手鏡で妙な癖が髪についていないかをチェックしたあと、気を引き締めるために顔を洗って、居間へと戻りました。ちょうどふたりともがご飯を食べ終えたところでした。わたしは勢いこんでいいました。いったい、これはどういうことなんですか! 少し語気が荒くなりすぎたので、咳払いをひとつ挟んで、失礼、と居住まいを正します。

「いいですか、幽々子様。あなたのやったことは犯罪ですよ、誘拐ですよ」
「いやいや、妖夢。まあ聞きなさいな。この子はね……」
「誘拐じゃないよ」

 女の子が被せるようにいってきました。先程、替わってあげる、といったときは気付かなかったあることを知りました。彼女の声について。見た目の幼さとはちっとも合わない、とても低い音だったのです。ハスキーボイスといえば聞こえはいいのかもしれません。しかし、それとはまた別の低音のように、わたしは感じました。その低い声をもって、彼女はいうのです。

「わたし、幽霊だもの」

 思わず声が漏れてしまいました。……は? きっといまの私は、情けなく、格好の悪い表情をしているに違いありません。

「お父さんもお母さんもお兄ちゃんもお姉ちゃんもおじいちゃんもいたけれど、みんな、わたしのこと死んだと思ってるの。だから、わたしが幽々子に頼んで、連れてきてもらったの」

 ちらと幽々子様に目をやりました。幽々子様は少し困ったように笑っています。それはそうでしょう。だって、女の子から漂う気配は、明らかに人間のそれなのですから。彼女は死んでいません。わたしのような半霊の存在でもありません。正真正銘の人間です。わたしや幽々子様とははっきり違います。なるほど、事態が飲み込めました。何だかよくわからない言動の少女に捕まって、幽々子様は随分と困り果てたのでしょう。やむなく、この白玉楼に避難してきた。そういうことなのでしょう、きっと。

「……そうですか。幽霊ですか」
「うん。あなたとは違うのよ」
「……そうですか」

 わたしは気を取り直して、彼女にいいました。

「でも幽霊なら、成仏しないと。いつまでも現世に残っていたら、閻魔様に怒られてしまいますよ」
「ねえ、そんなことよりさ」
「何ですか」
「あなた、信じてないんでしょ」
「え」
「わたしが幽霊だって、信じてないんでしょ」
「そんなことないですよ」
「嘘」
「本当ですって」
「だって、幽々子がいってたよ。あなた、自分が幽霊だっていってるけど、そんなの百人中百人信じないわよって。ねえ、幽々子。そういったもんね」
「ええ、いったわよ」
「ほら」

 わたしは幽々子様を睨みました。この年頃の女の子なんですから、あからさまに否定するようなことをしてはいけないに決まってるじゃないですか。あなた、いくつなんですか。そういう意思を込めて睨みました。幽々子様もわたしをきっと睨み返してきました。年齢は秘密よ。そんなことは訊いてません! こりゃだめだ、とわたしはため息をつき、再び女の子へ視線を向けます。

「じゃあ、どうすれば信じてるってことを信じてもらえるんですか」
「え?」
「わたしは信じてますよ。あなたが幽霊だってこと。でも、あなたはそれを信じてくれない。だったら、わたしの気持ちをあなたに信じてほしいんですが、どうすればいいですか?」
「……」

 女の子は押し黙ります。何だか彼女の境遇が見えてきました。自分は幽霊だと言い張る彼女。彼女の言葉を一方的に否定し、小馬鹿にする周囲。年格好に似合わない声のトーンも、周囲の蔑みを助長したことでしょう。その中で彼女は、自分の心を防御するために、スレてしまった。あるいはひねくれた。真っ直ぐ生きられない幼い女の子。それはあまりに可哀想なことです……と、思ったところで自己非難。大切なのは同情することではありません。彼女を受け入れてあげることです。

 幸か不幸か、わたしは彼女と年齢が近い。正確には年齢は全然違うのですが、背格好が近いということで、まあどうにかごまかせます。博識な幽々子様とぶつけるより、わたしとガツンと会話したほうが、彼女も楽しめるのではないでしょうか。それではまず何をすればいいのか。ひとつしかありません。彼女に、わたしを対等な存在として受け入れてもらうのです。そのためには、彼女にわたしを信じてもらわねばなりません。けれど、手段がわかりませんでした。
わたしにはちっともわかりませんでした。

 部屋は沈黙しています。嫌な沈黙でした。何か音がほしいなと思いましたが、都合よくいきません。とりあえず、しゃべろう。わたしは決心していいました。

「あなたが、そういうから」

 女の子は首を傾げてわたしを見つめます。つぶらな瞳で見つめます。照れくさくなって、わたしは下を向き、しかし上目遣いにして彼女から視線を外しません。

「あなたが自分で自分を幽霊だというから、わたしは信じたんです。それは、だめなことなんですか」

 それきり部屋は沈黙しました。またも沈黙しました。わたしの言葉の内容が内容だけに、ひどく恥ずかしくなってきました。全身が火照っています。背中には冷や汗。わたしの視線は床へ一直線。誰とも目を合わせたくありませんでした。自分で見なくてもわかります。わたしの顔は今、あぶられたタコのように真っ赤になっています。自分で見なくても、それがわかります。

 やがて、くす、という笑い声。

 おそるおそる顔を上げると、女の子が笑っていました。口元に手を当てて、抑え気味に声を出しています。上品な笑い方でした。確かに上品な笑い方なのですが、笑んだその表情は、年相応のものでした。向日葵が咲いたよう。そういう形容がぴったりくる笑顔でした。かわいいと思いました。人には人それぞれの特徴がある。同じように、年齢には年齢の特徴があるのです。女の子の笑みは、彼女の年頃にしか出せない、特徴的な笑みでした。ひとしきり笑い終えると、彼女は涙の浮かんだ目尻を拭って、わたしにいうのです。

「名前、訊きたい」
「わたしの?」
「うん。あなたの名前、知らない」
「妖夢です。魂魄妖夢」
「こんぱくようむ? 格好いいな」
「そうですか? ありがとうございます」
「へへっ」

 白い歯を見せて彼女は笑います。こんなに明るい表情もできるんだ。当たり前のことなのですが、初対面時の印象が強かったために、意外に思ってしまいました。

「これからよろしく、妖夢」
「ええ、よろしく……え?」

 これから?

「幽々子、何日間か泊まっていいって、いったよ」

 女の子はにこにこ笑っています。幽々子様はしれっとしています。

 わたしは苦笑いを浮かべるしかありませんでした。如月の末日のことでした。


Φ


 深更になりました。満月の光はどこか妖艶さを感じさせます。わたしの部屋はその月光に照らされていました。風呂上がりのわたしは、濡れた髪を拭き拭き、外の景色を眺めていました。はだけた格好をしていましたが、時期が時期なのですぐに冷えてしまいます。服をしっかりと着たあと、上に暖かいものを羽織って、布団の中に入りました。布団はとても温かくて、心地よいものでした。まるで直前まで人が入っていたような温もり……。

「……いやいやいや」

 ばさっとめくると、女の子が中にいました。

 夕食のあと、わたしは何度か彼女を帰そうとしました。しかし、もう夜でしたし、彼女も家に帰りたくない様子を行動の一々に見せていたので、とりあえず今日は泊めることにしたのです。悪霊漂う白玉楼。その中でも彼女は、ちっとも怯えた様子を見せません。ひょっとしたら霊感ゼロで、何一つ見えていないのかもしれません。

「何してるんですか」
「一緒に寝ようよ」
「部屋も空けてあげたし、布団も敷いてあげたじゃないですか」
「一緒に寝ようよ」

 大人っぽい彼女の声で懇願されると、どきっとしてしまいます。わたしは少しうろたえました。首を振って、変な想像を吹き飛ばします。その様子を、女の子は不思議そうに見つめていました。

 まあ、仕方ないですね。彼女は子どもなのですから、家でもお母さんやお父さんと寝ていたのでしょう。ひとりで寝るには、まだ心細いのかもしれません。まあ、仕方ないですね。わたしは息を吐き出しながらいいました。わたしだってまだ未熟な子どもだというのに、まさか年下の子を世話してあげることになるなんて。わたしが布団に入ると、女の子は胸のあたりに顔をうずめてきました。わたしはつい口を滑らしそうになりました。明日はお家に帰りましょうね。そういいそうになりました。わたしは彼女が幽霊であることを信じている設定になっているので、そんなことをいうはずがありません。何て気の抜けない事態でしょうか。なかなか辛い日々が続きそうです。

「妖夢、眠い?」
「いいえ、大丈夫ですよ。何ですか」
「わたしもまだ眠くない。お話ししようよ」
「お話?」

 あいにく、わたしは子どもに聞かせるような話を持ち合わせていません。わたしは全くその通り、一字一句違えずに彼女にいいました。あいにく、わたしは子どもに聞かせるような話を持ち合わせていません。それから付け加えます。逆に……。そこで気付きました。それに気付くのは、少し遅すぎたかもしれません。わたしは平謝りしながら、

「あなたのお名前は?」
「わたし?」
「はい。名前、まだ訊いてませんよね」
「……いったよ」
「え?」
「もういったよ。忘れちゃったの?」

 そんなはずはありません。今日一日の出来事を思い起こしてみましたが、彼女が自己紹介する場面なんてありませんでした。わたしは彼女の名前を知らない。それは確かな事実なのです。でも、ここで彼女を一方的に否定してはどうなるでしょう? またひねてしまうかもしれません。どうしようかと悩んだ末に、わたしはこうしました。

「ごめんなさい、本当に。もう一度だけ、教えてくれます?」

 下手に出ました。何て弱気な私!

 すると女の子は笑いました。夕餉の後のときと同じような、大人っぽい笑みでした。

「頑張って思い出して」

 思い出せるはずがないのに。

「……善処します」
「ねえ、それより、何?」
「何がですか?」
「もう忘れちゃったの? 妖夢って忘れっぽいね。逆に……って何?」
「あ、ああ、そうでしたね。逆に……」

 そこでまた言葉に詰まりました。ううんと首を捻って、決めました。彼女の呼び方を、わたしは悩んでいたのです。どうしようもないので、あなた、で通すことにしました。

「あなたが知っているお話を、わたしに聞かせてもらえませんか」
「わたしの話?」
「ええ。何かないですか」
「わたし、知らない」
「ひとつも?」
「妖夢だって、ひとつも知らなかったじゃない」
「そうでしたね。すみません。じゃあ、どうしましょうか」
「ううん……」

 そのとき部屋が一気に翳りました。首の向きだけ変えて外を見ると、大きな雲が現れていました。皓々と照っていた満月は文字通り雲隠れして、部屋を明るくするものはなくなりました。闇の中、布団にいるわたしたち。

「わたしが作ってあげる」
「え?」
「わたしがお話、作ってあげる」
「作るんですか」
「うん。でも、今日はもう眠くなっちゃった。明日、したげる」
「わかりました」
「お休み」

 わたしの胸元に顔を置いたまま、彼女は寝息を立てはじめました。わたしは彼女の言葉を反芻していました。明日、したげる。明日も同じ布団で眠るのでしょうか。正直な話、こういうことは苦手なのです。わたしは白玉楼の家事全般を任されているわけですけれど、本当は刀を振るって敵を倒すほうが、性に合っているのです。どうにもこの子は、わたしを信頼しすぎているようです。

 彼女の可愛らしい寝顔を見て、わたしはいまの人里のことを考えました。我が子がいなくなって、親御さんはさぞ困惑していることでしょう。慧音さんも入れて捜索が始められているかもしれません。

 ……おや?

 この子の捜索に、慧音さんが介入する確率は非常に高いと思われます。人里で起きた事件ですもの。慧音さんが立ち上がらない理由がありません。それはそれでいいのです。しかし、だとすると、どうして今日、慧音さんは白玉楼に現れなかったのでしょうか? 慧音さんは歴史をああやらこうやらできる能力を持っているのですから、当然出来事を覗き見ることも可能でしょう。無闇やたらと人の過去を詮索するような使い道は、おそらく彼女はしないでしょうが、子どもがいなくなるという事態になっても、彼女は歴史を覗き見ないのでしょうか? 何だか奇妙に思います。こういうときに使わないなら、それこそ宝の持ち腐れだと思うからです。

 ひょっとして、と思いました。彼女はまさか、もしや、本当に幽霊なのでしょうか? お、恐ろしい! わたしはいま幽霊を抱いているのですか! あわあわと身体を動かすと、女の子が薄目を開けて、そしていいました。

「じっとして」

 はい、すみません。彼女は五分もすると再び夢の世界へ入っていったようです。それまでの時間で何とか落ち着きを取り戻したわたしは、先程まで考えていたことを否定します。さすがに幽霊はないでしょうよ。わたしにはわかります。だって、わたしが幽霊なのですから。より正確にいうと違いますが、そういう細かいことはいいのです。とにかく彼女とわたしは明らかに異なった生き物なわけで、だとすると彼女は幽霊ではないのです。だから人間の子どもという結論がもっともノーマルだと思うのです……しかしそれならどうして慧音さんが……。

 思考が堂々巡りしてしまいます。ああ、堪らない。もやもやした気持ちのときは、剣を振るのが一番わたしに合っています。明日は、朝一で稽古しよう。予定を頭のメモ帳に書き込んで、眠ろうと思いました。目を瞑ろうとしたまさにそのとき、部屋の戸のほうから一筋の光が入ってきました。

 幽々子様でした。

 幽々子様はわたしを見て固まっています。わたしは抱きかかえた女の子を起こさぬように、静かに静かにいいました。どうかされましたか、幽々子様? 妖夢、あなたにそんな母性本能があったなんて! え、いや、これはですね。やっぱり兄弟っていいわねえ。情操教育ってやつかしら。いやいや違いますって。だいいち、それをいうなら姉妹じゃないですか。あら、そう。兄や弟より、姉や妹のほうがいい? 女の子だものね。だから違いますって!

「妖夢、うるさい! 静かに寝れないの!」

 凄い剣幕のら抜き言葉で怒られたわたしは、けっきょくこの日の白玉楼で一番に眠ることになりました。いわゆる不貞寝です。くすん。


Φ


 冬の明朝は気温が低く、起き抜けは布団を被っても鳥肌が止みません。寒い日は布団から出られないとよく聞きますが、それをいう人たちはきっと本当の寒さを味わったことがないのでしょう。真実は、一刻も早く布団から出て、運動するか温かいものを飲むかしたい。絶対にそう思うはずなのです。わたしも、いままではそうでした。いままでは。つまり、少なくとも今日だけは違います。布団のなかで、わたしは人肌の温もりを感じていられました。例の女の子です。一晩中、わたしの胸元にいたようです。筋肉痛になったんじゃないのかな。あまり関係のない方向へと思考をやりました。

 わたしの背中で結ばれた彼女の手を、あまり衝撃を与えないように解きます。そっとわたしが布団から出ても、彼女はぐっすり寝ていました。それでいいのです。幼子は、かわいらしくあることが大事なのです。不思議なことを不思議のまま素敵に思ったり、影響を受けた偉人や創作のキャラクターのまねごとをしたり。そういう風に、あるべきとまではいい切りませんが、いてくれたらなあと思います。大人と子どもでは見るものが違うのです。だからその感性を捨て去ってはならないのです。

 寝間着からいつもの服装に戻して部屋を出ます。廊下は死んだ人間みたいに冷え切っていました。我ながらすばらしい譬喩だ、と自画自賛。ここは冥界ですからね。

 庭に出ました。居合いの試し切りをするためです。透徹した空気が我が身を引き締めます。吐く息が白いのは、この頃の最大の特徴かもしれません。結晶さえ舞っていそうな、美しい空でした。その下でわたしは、試し切りの準備をし、整え、さあいざ、というときに視線を感じました。見ると、幽々子様が立っていました。いつものように、薄い笑みを浮かべていました。わたしは剣の構えを下ろし、

「あの子、どうするおつもりなのですか」
「さあねえ」
「人の子を冥界に連れてきて……何を考えてるんですか」
「さあねえ」
「どうして連れてきたんですか」
「あの子がせっつくからよ」
「……」
「わたしのこたえが不満?」
「いいえ」

 わたしは大前提のことを質問しました。

「幽々子様、あの日は、どうして人里へ?」
「どうしてそんな質問するの」
「質問にいつも深い意味があるとお考えですか、幽々子様。気になったから訊ねた。そういうことではだめなのですか」
「いいえ、ちっとも。妖夢のいうとおりだと思う」

 幽々子様は視線をどこか遠くへやりました。壁についた傷痕を見て、昔ここで身長を測ってた、一番小さいときってこんなのだったんだ。そういう風に子どもの頃を思い出すような、優しい目でどこかを見ていました。わたしも釣られてそちらを見ました。でも、何もありませんでした。枯れた木はあります。現界へと繋ぐ結界の扉もあります。でも、何もないのです。ただ虚空が広がっているだけなのです。何度見たって、わたしはそう感じることしかできませんでした。

 ――ムラサキって、どういう色に見える?

「え?」
「青は空。赤は火。緑は自然。黒は闇。白は純。茶は土。鈍(にび)は鼠。紺、藍、緋、灰、肌……この世には驚くほどの色があるけれど、そのどれもから、連想できる何かがある。そうでしょう? 妖夢、ムラサキって、どういう色なのかしら」

 わたしは戸惑いました。急に何なのでしょう? 

 受け売りなんだけど。幽々子様はそう前置きして、

「ムラサキって中途半端な色なのよ。青と赤の中間。わたしたちが普段よく知っている、あの青と赤の中間。物と物の間って、一見はどちらの要素も兼ね備えているように感じるわね。でも、実際は、どちらでもないの。あくまで間であってね。どちらにも属するなんて、そんな都合のいい話があるもんですか。ところで、ムラサキは神秘の象徴として見られることもあるらしいわ。だからなのね。赤と青の間。生きてきて何度も耳にした、すっかり特別でも何でもなくなった物事と物事の間にこそ、新たな発見があるのね。だから、ムラサキは神秘。考えてみるとね……。ムラサキ色が似合う人を想像してみて。ねえ、どう? あなたにもたくさん知り合いがいると思うんだけど、ムラサキが真実似合う人って、どれだけいる? そして似合う人って、どういう人? 他と比べて、何かしらあるんじゃない? よくいえば特徴的な、悪くいえば異質めいた、そういう何かが。ね、そうでしょう。ムラサキって、だから神秘的なのよ。いささか逆説的ではあるけれど」

 ムラサキの着物がいまここにあったとします。わたしが着たら、それは似合わないでしょう。でも幽々子様や紫様が着たら? とても艶やかな感じになるに違いありません。おふたりが、わたしにはない何か神秘的な能力があるから。幽々子様のお話をまるきり信じるならば、そういう結論になります。でも、だから何だというのでしょうか。突然持ち出されたムラサキ色の知識。どうしてこんな話をするのか、わたしにはさっぱりわかりませんでした。

 幽々子様が胸元から紙飛行機を取り出しました。

「ど、どこに入れてるんですかっ」
「まあ、まあ」

 紙飛行機はムラサキの折り紙で作られていました。幽々子様は紙飛行機を投げました。それはこちらへ一直線に飛んできて、わたしが手を差し出すと、見事に着陸しました。折り紙の裏地の白が一切見えないくらい、キレイに折られていました。先端は針のように尖っていて、肌に刺すとチクチクします。わたしはしげしげと眺めていました。

「昨日で食材が切れたわね」
「え」
「買い出しに行かなくちゃならない」
「……そうですね」
「わたしはお姫様だから、家でのんびりしてるわ」
「はい」

 あなたも行きたい? 幽々子様はそういいながら振り返りました。すると奥からあの女の子が現れました。わたしも気付いていたので、別に驚きませんでした。彼女はツンとした表情で、行かない。それだけいいました。

「幽霊ちゃんは人間の営みに興味がないのかしら?」
「ううん。すごく興味あるよ」
「だったら行けばいいのに」
「わかってないな。わたしが我慢してあげてるんだよ」
「我慢?」
「うん。あのね、わたしが行ったら、人間のみんながわたしを見て、びっくりしちゃうでしょ。それがもしおじいちゃんとかだったら、ぽっくり死んじゃうかもしれない。だから、我慢してあげるの」

 彼女はえへんと胸を張りました。

「それに、幽々子と妖夢の生活を見てるだけで、人間の生活がよくわかるよ」

 続けてそういうのです。わたしたちは幽霊なのに。常人には、人間と幽霊の違いはわからないものなのでしょうね。まあ、確かに生活そのものは人間たちと大差ないかもしれませんが。幽々子様は女の子のほうを向いているので、どういう表情をしているのか、わたしにはわかりません。ですが、後ろから透けて見えるのでした。いつものあの、不敵というかからかっているというか、そういう微笑が、わたしには見えました。先程幽々子様がどこかを見たとき、わたしも釣られてそちらを見たけれど、何も見えなかった。しかし今度は、見えないはずの幽々子様の表情だったのに、見えたのです。対比の構造を持ったそのふたつ。でもそれらの関係性は、いっかなわかりませんでした。昨日から、わからないことが多すぎる。

 幽々子様は何もいわずに屋敷の中へ引っ込んでいきました。庭は、わたしと女の子のふたりだけになりました。彼女はわたしの手にある剣を見て訊ねてきました。

「妖夢は剣士なの?」

 語彙があるのかないのか、微妙な線をついてくる質問でした。

「剣士見習いですね。お嬢様をお守りするのが、わたしの役目です」
「へえ。幽々子って姫なんだ」
「そうですよ。お屋敷を、ほら、見てください。ずいぶん大きいでしょう? 断言はしませんが、この手の屋敷に住んでる人は、そういう類の人だと思ってもいいんじゃないでしょうかね」
「ふうん。そうなんだ」

 彼女は屋敷を見上げながら、

「じゃあ、わたしもお嬢様だったのかな」

 ぽつりといいました。

「え?」
「生きてた頃の話!」

 ばばっと彼女は駆け寄ってきました。子どもの速度でした。二本の足で地を蹴る、普通の走り方でした。危ないのでわたしは剣を後ろにやりました。見る機会の少ない剣にじゃれついてくるのかと思ったからでしたが、彼女の目的は違いました。わたしのもう一方の手にあった、紙飛行機を彼女は取りました。

「これ、ちょうだい。わたし、ムラサキ色って好きなの」
「ええ、いいですよ」
「ありがとう」

 微笑んで、彼女は屋敷の中へ引っ込んでいきました。庭には、ついにわたしひとり。まだ剣を一刀も振るっていません。見上げると、太陽がもうじき天頂へ届こうとするところでした。最近修行時間が短くなったなあ、とわたしは思いました。


Φ


 昼ご飯を三人で食べたあと、わたしは人里へ行きました。ここ一週間、ずっと晴れです。冬に雨が降るといっそう寒い気がして辛いので、ありがたいことでした。

 適当に買い出しを終えます。それから人里をぶらぶら回ることにしました。

 里には何の変化も見られませんでした。いつも通りだったのです。子どもがいなくなって騒ぎ立てる親なんて、影も形も見えません。

 あの女の子は何者なのでしょうか? よくよく考えてみれば、わたしがいつも赴く人里というのはここしかないわけで、あるいはまったく違う場所にまだ里があるのかもしれません。するとそこの子なのでしょうか? でも、連れて帰ってきたのは幽々子様であり、幽々子様が赴く人里というのも、やはりここしかないのです。じゃあやっぱりこの里の子ということに……と、昨日もやった堂々巡りの思考を再度行ってしまいます。得体の知れない少女。謎めいた少女。ただ不思議と考えて流すには、少し強すぎる現象です。

 一時間近く歩き続け、すっかりくたびれました。適当な木陰を見つけて、幹に背を預け座り込みます。日陰だから、寒い。少し回復したらさっさと帰ろう。そう思って、ぼうっとしていました。声をかけられるまで。おい、という、聞いたことのある声に呼びかけられるまで、そうしていました。そしてその声の主は、上白沢慧音さんだったのでした。彼女はわたしがもたれていた木の後ろからやってきました。

「調子が悪いのか」
「いいえ、少し休んでいただけです。慧音さんは、こんなところで何を?」
「別に深い意味はないよ。堅苦しくいえば里の見回りだが……何のことはない、ちょっとぶらぶらしてただけさ」
「そうですか。わたしも同じです」

 慧音さんがわたしの横に腰掛けました。どっこらしょ。そういいながら、腰掛けました。失礼ながら、年寄りくさいなあ、とわたしは心中思いました。

「何だって?」
「いや、何もいってないですよ」
「そうか」

 鋭い。これも年の功でしょうか。

「何だって?」
「いや、何もいってないですよ」
「そうか」

 す、すごい。

「そういえば、昨日は西行時のお嬢様も来ていたな」
「そうですね、ちょっと行ってくるといってました。何の用事だったか、いまでも教えてくれませんけど……」
「紙芝居だか何だかはやってないのかと、わたし含め里の者に訊いてまわってたよ」
「へえ……」
「小さな子を連れていたが……あれは誰なんだろうな?」
「えっ」

 思わず訊きかえしました。

「慧音さんは、あの女の子を知らないんですか」
「知るわけないだろう。わたしだって、幻想郷の全てを知り尽くしているわけじゃないんだ」

 唖然としました。やはり女の子は人里の子ではなかったのです。まずそれに驚き、並行して謎が生まれました。じゃあ、幽々子様はいったいどこで彼女と出会ったのでしょうか!

「……ふむ。何やらわけありのようだな」
「はあ……そうなのかな……」

 何だかもうよくわかりません。わたしはぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるしている頭で、しどろもどろになりがら、いきさつを慧音さんに話してみることにしました。一通りわたしの話を聞いた慧音さんは、なるほど、といって目を閉じました。下ろされたまぶた。ながらに首を上げて、空を見る格好を慧音さんは取ります。考えている様子でした。わたしも彼女に倣って、格好までは同じにしませんでしたが、考えました。けっきょくのところ、それは無駄だったのですけれど。よくわからないが。慧音さんがいいました。よくわからないが――

「一方的に連れてきたとなれば、大問題だ」
「そうですね」
「少し歴史を見てみるか……」

 と、慧音さんがいったところで、

「いや」

 わたしは拒否しました。

 なぜだ、と慧音さんの目がいっています。無言でしたが、瞳がはっきりそう告げています。わたしはこたえられませんでした。悪戯をしでかした理由を母親に訊ねられ、でもこたえないでいる。そういう状況にひどく似ていました。わたしはこたえられなかったのです。なぜなら、拒否した理由が自分でもよくわからなかったからです。口をついて出たのが、いや、という言葉だったのです。偶然頭に出た言葉……?

 とにかくわたしは否定したのです。家族温情物の長編創作物だったとしましょう。それならばきっと、いまの場面は後半部であり、得体の知れないあの女の子が、わたしの中でいつの間にかとても大きな存在となっている。失いたくない。わたしは我儘をいう。彼女を連れて行かないで。そういう風に我儘をいう。あるいはこういった事態ならば、納得もできましょう。理解もできましょう。しかしわたしの身に降ったのは紛れもない現実の出来事です。そして女の子は、昨日やって来たばかりです。名前を訊いてもこたえない、素性不明の人間。そんな人間に、わたしの心は奪えません。ではいったい、どうして慧音さんの歴史を覗くという行為を拒否したのでしょう?

「おい」
「あ、はい」
「……わかっているか。よくわからない出来事が、いまおまえの目の前で起きているんだぞ。にもかかわらず、何があったか、知る必要がないというんだな」

 少し間を置いて、わたしは……なぜか……しっかりと頷くのです。はい。この力強い返事とともに。

「そうか」

 慧音さんは独りごち、

「しかしこれは人間たちの問題でもあるんだ。わたしはわたしで、勝手に行動させてもらうよ。申し訳ないがな」
「わかりました。確かに、それは仕方のないことだと、思います」
「妙なやつだなあ。まるでパズルに意固地になってる子どもみたいだ」
「……すごくしっくり来る譬えですね」
「そうか?」
「はい。実をいうと、わたし、慧音さんに教えてもらえたらいいなあって、そう思って、現状を話したんですよ。嘘じゃないですよ? でもなければ、冥界の話を、慧音さんに持ち出したりしませんし。でもね、いってから思ったんです。どう思ったかって、それはちょっと口には出せません。ぜひ聞いてほしいんですけど、うまくしゃべれないんですよ。適切な言葉が浮かんでこないというかね……ううん。難しいなあ。どうしたら、わたしの感覚をわかってもらえるのかなあ。これを上手に話せたら、きっとあなたも賛同してくれると思うんだけどなあ。……いや、でも、どうなんでしょうね? やっぱり理解してもらうのは、難しいのかもしれません。慧音さんの方が生活のいろはを知っているとか、そういう人生経験みたいな、ある種、哲学的めいたことをいうわけではないんです。わたしの感覚はわたしだけのもので、他者には絶対に理解できない。こんな感じで、さも自分は達観してますよ、そんなアピールをする文学スノッブみたいなことがいいたいわけでもないんです。もっと単純なことなんです。年齢の差とでもいえばいいのかな。そういうことなんですよ。慧音さんの先程の譬えをお借りしますと、わたしはパズルを自力で解こうと意固地になる子どもで、慧音さんは難しいパズルに出会ってこたえを求めようとするんです。好悪はどちらにもつけられませんが、でも、片方はもう片方を理解できないでしょう? きっと、いまのわたしの心理って、これに近いことだと思うんですよね。まあ、剣士見習いという子どもの戯れ言なんですが……」

 そこまでいって、

「ところで慧音さん、昨日の幽々子様の行動、どこまで知っていますか」
「ん?」
「慧音さんに紙芝居云々を訊ねたあと、どこへ行ったんでしょう」
「さあなあ。そこまでは訊かなかったな」
「そうですか」

 わたしは少々がっかりしながらも、ありがとうございました、といってその場を去りました。



 村を出て、すいすいと飛んでいたときでした。こつん。後頭部に何かが当たる感触。振り向いても、正体はわかりません。はてなと思って下を見ると、ひゅるひゅる回りながら落ちていく紙飛行機がありました。紙飛行機はそのまま降下を続けて、最終的に木へと落ちました。枝に引っかかったでしょうか。この位置からではよく見えません。それにしてもよく飛んだなあ! 村の外は妖怪がいて危険ですので、きっとこの紙飛行機を飛ばした方は、村のなかにいたでしょう。だとすると、とんでもない飛距離です。距離よりも、高さがすごい。投げ方に、もしくは作り方にコツがあるのでしょうか。不思議な出来事もあるものだなあと、わたしは感心しました。去り際に木を見ましたが、やっぱり紙飛行機の姿は、わたしの瞳で捉えることはできませんでした。


Φ


 夕刻に帰宅しました。

 わたしが今朝に思い描いていた青写真。わたしが人里に行く。子を探す親を見つける。事情を聞く。何らかの措置を取る。難しいようであれば、慧音さんの助けを借りる。わたしは白玉楼に帰る。むずがる女の子を連れて、人里へ戻る。彼女のなかでわたしの評価はおそろしいくらい下がるでしょうが、致し方ない事態です。そういう計画を、今朝のわたしは考えていました。しかし人里にそんな親はいないし、幽々子様が連れてきたあの子を慧音さんは知らないというし。不可解なことでした。けっきょく今日も、彼女を白玉楼に泊めることになってしまいました。

 そして昨日と同じような展開が待っていました。晩ご飯を食べ、家事をし、お風呂に入り、お風呂上がりの髪を乾かし、布団に入ると、女の子が既にいたのです。明日、したげる。昨日の彼女の言葉が思い出されます。いいえ、そもそもわたしは覚えていました。だからたいして驚かず、冷静に対処できたのだと思います。こんばんは。にっこり笑ってわたしはそういいました。ところが彼女の方はというと、昨晩とは打って変わって、不機嫌な表情をしているのです。じとっとした瞳が、わたしの瞳を見ています。焦点が、ふたりの間で交錯していました。

「どうかしたんですか」

 彼女は無言です。

 わたしが言葉に詰まっていると、

「わたしね、妖夢に謝らなくちゃいけないことがあるの」
「わたしに?」
「うん。でもね、それはまず、妖夢がわたしに謝ってから」
「わたしが?」
「妖夢、嘘ついたでしょ」
「どういう嘘ですか」
「わたしが幽霊だって、信じてるって、そういってたけど、あれって嘘だったんでしょ」

 驚きを何とか心中だけに留めて、わたしは返します。

「どうしてそう思うんです?」
「誰でもわかるよ。今日出掛けたのは、買い物に行くためじゃないんでしょ。あんなに時間かけたのに、軽い荷物しかなかったんだもの。晩ご飯もほとんど昨日と同じだったし……」

 よく見ています。彼女のいままでの発言だけを見てみれば、とても子どもだとは思えません。

「そうですね、正直にいいます。ええ、信じていませんでした。まさか、と思っていました。今日人里に行ったのも、あなたのご両親を捜して、家に連れて帰ってもらうためでした」
「で、いた?」
「いませんでした。すみません、疑ったりして」
「……ううん」
「それで、あなたの謝りたいことというのは?」

 訊ねると、彼女は目を閉じました。少し考えるように黙って、

「お話がまだできてないの」
「お話……? 昨日、いっていたお話ですか」
「うん。考えたんだけど、うまくまとまってないの。大まかにはできてるんだけど、最後が決まらないの」
「それでもいいじゃないですか」
「え?」
「最後までできてなくても、大丈夫ですよ。終わりはふたりで考えましょう。お話、聞かせてもらえますか?」
「……わかった」

 彼女は布団から出ました。座って話そうよ。転んでると頭が働かないでしょう。わかりました。わたしたちは窓の近くに座りました。床に直接座りました。畳敷きの床。冷気に当てられ続けた床は、ひんやりとしています。布団のなかにこもっていたわたしたちの臀部には、その冷たさは心地良いものでした。彼女は一度座ったあと、少し姿勢を変えて、わたしに寄りかかるようにしました。わたしも拒絶しませんでした。

 彼女はゆっくりと話しはじめました。



 あのね、主人公は女の子なの。その女の子は、身体が弱くて、外に出られなかったの。本人は大丈夫だっていってるんだけど、心配性の両親に許してもらえない。女の子は生まれてから一年、二年、五年、十年、そして二十年経っても外に出られなかった。部屋から出ることさえできなかった。おしっこやうんちも、全部部屋のなかでさせられた。女の子はそのときになってようやく気付いたの。これはおかしいって。何がおかしいか、妖夢、わかる? 部屋から一歩も出してもらえないくらい身体が弱いのに、二十年も生きてこられたことが、不自然なの。食事もいつもほんのちょっと。身長や体重は子どものまま。でも彼女は二十歳。でも彼女は外の世界を知らない。陽に当たったことがない。子どもたちの楽しい声も聞いたことがない。親が、ううん、自分以外の人間全てが、どうやって生きてきているのかを、彼女は知らない。ある日、彼女は自分の現状に耐えられなくなって、外へ出ようと思ったの。。信じられないでしょう。彼女はこれまで、一度だって外に出ようとしなかったの。親のいうことは絶対だって、そう考えていたから。反抗期を迎える他の少年少女に出会ったことがないから、自分が影響されることがなかったのね。まあ、その話はいいわ。とにかく彼女は外に出ようとした。立ち上がって、部屋を見回した。そして仰天したの。部屋には窓も扉も通気口さえない。壁にも屋根にも隙間がない。四角い密室のなかに、彼女はいたの。

 以来、彼女は部屋の壁を叩くことを覚えた。叫ぶことを覚えた。どんどん、どんどん。誰か、誰かいませんか。どんどん、どんどん。返事はこない。彼女はひとりで叫び続けるだけ。どんどん、どんどん。日が経って、彼女は壁を叩くことを忘れた。叫ぶことを忘れた。それからまずやったことは、部屋の隅を陣取ること。彼女は部屋の隅に体育座りになって、考えるの。自分の過去を振り返るの。心配そうに自分を構ってくれる両親のことを思い出すの。彼女にとって大事なのは、あくまで両親の存在。両親がどうやって部屋に出入りしていたのか、それはまったくの謎なんだけど、彼女はさっぱり興味がない。そんなことはどうでもよかったから。手段も方法も計画も過程も格好も、彼女にとっては何の意味も成さない。ただ、あること。それを、それこそを、それだけを、彼女はずっと思うの。そういう日々が長く長く続いた。で、ある日、彼女は境界線を越えるように、豹変したの。どう変わったと思う? 部屋の隅で思考することをやめたの。彼女は部屋の中心へ移動した。両手両足を目一杯に伸ばせる場所で、彼女ははばたくように考えるようになった。なのに、不思議なことに、彼女の考えることの内容も変わってしまった。ひどく変わったの。自分はどうしてここにいるんだろう。自分だけがどうしてこんな目に遭わなければいけないんだろう。そんな風に、後ろめたい考えばかりするようになってしまったの。彼女自身も理由がわからなかった。いままでよりずっと広い場所へ移ったのに、どうしてこうなってしまったの。彼女はそういうことも、考えるようになったの。

 ぶつぶつと世の中に対して不平不満をぶちまけるようになった彼女。そんな彼女に、奇跡が訪れた。奇跡は、ガラガラと激しい音を立てていたわ。壁が崩壊して、彼女は外の世界を初めて見た。夢見ていた外の光景。光り輝く通り。眩いほどの笑顔の他人。聞いているだけで心震える様々な音。彼女は泣いたわ。おそろしいくらい長い間、またおそろしいくらい大きな声で、泣いたの。自分の足で歩ける場所が、あの四角い部屋以外にも存在したんだって。それを知って泣いたの。それでね、彼女は外を歩いてみた。そこへ見知らぬ男がやってくるの。お嬢さん、随分と古くさい服を着ているじゃないですか。どれ、ひとつ、わたしが繕ってあげましょう。まあ、ありがとう、どこの誰とも知らないあなた。ぜひお名前を伺いたいのですが。いえいえ、名乗るほどのものじゃあございませんよ。でも……。いえいえ、お嬢さん、あなた、いま着ている服と同じで、あまり世のなかを知らないようだ。いいですか、お嬢さん。名前なんてどうでもいいんですよ。意思だってどうでもいい。わたしがあなたに服を繕ってあげようなんて好意を見せたのには、むろん何かしらの下心がありますよ。それをわざわざいうつもりはありませんがね、しかし、そんなこたあどうだっていいでしょう? 大事なのは、その結果、何が残るのか。この一点だけです。保証しましょう、お嬢さん。あなたに、美しいものを残すということを。男は滝流れみたいに言葉を羅列したわ。彼女はすっかりいいなりになったの。それじゃあお願いしますって、とってもかわいい笑顔でいったの。新しい服はすぐにできたわ。着物だった。ムラサキを基調とした、着物だった。あまりにキレイなムラサキだった。彼女は見とれた。世のなかにはこんなに美しいものがあるんだって、見とれたの。

 そして彼女は目を覚ますの。起き上がって見る風景は、よく知った風景だったわ。どこだか、わかる。四角い部屋だったの。いままで彼女が呪わしく思っていた、あの四角い部屋。奇跡はすべて夢だったの。彼女は思い起こすわ。ああ、素敵な夢だった。特に、あのムラサキの何て美しいことでしょう。外に出たいという願いが叶わなくともせめて、あのムラサキがかえってきてくれたら! 彼女はそう考えて、自分の身体を見た。え、と思った。だって彼女の着ている服は、夢に出てきたムラサキの着物だったんですもの。ムラサキという色を、ムラサキに流し込んだような、とても整ったムラサキ色をした着物。彼女はそれを着ていたの。ただね、夢とたったひとつだけ、違う点があった。たったひとつだけなんだけど、決定的に違った。彼女は、ムラサキをキレイだと感じなかったの。何て憎たらしい色なの。何て情けない色なの。何て悲しい色なの。負の感情しか彼女のなかに生まれなかった。心から嫌になった。夢との差が、あまりに大きすぎたから。彼女はムラサキを脱ぎ捨てた。涙も出なかった。むしろどこかスッキリした気持ちさえあった。もう、ここから出ようとなんて、思わない。わたしは一生をここで過ごすのよ。彼女はそんな風に誓うの。それで、背中から、ごろん、と転んだ。仰向けに転んだ。視線の先には天井がある。青く澄んだ空とは違う。茶色をしていて、ところどころにヒビや汚れが入った、たいして高くもない天井。そこをじっと見つめていたら、あるものが、天井の表面に浮かんできたの……。



 女の子はそこで話をやめました。わたしは訊ねます。何が見えたんですか。

「わたしにもわかんない」
「え」
「ここでお話は終わるの。ねえ、妖夢、何が見えるべきなのかな。どういうものが、どういう風に見えたら、美しく終われるのかな」

 わたしは黙っていました。窓を通して月が見えます。いつか聞いた言葉を思い出しました。真の満月は心を狂わす。

「……時間がいりますね。いますぐにこたえるのは、難しいです」
「でしょう? どうしても何が見えたのかが、わからないの」
「ねえ、訊いてもいいですか」
「何」
「お話しているときのあなたは、言葉遣いも口調もまるで違いました。お話に合うような語り口を、自分で考えたんですか」
「ううん、勝手に出て来たの」
「言葉が?」
「そう。わたし、この話、どこかで知っていたのかもしれない。すらすらと話が頭のなかにあらわれてきたの。そう、そうやってテンポよく進んできたからこそ、最後が決まらないことが、もどかしくてしかたなかった。これって、わたしがバカだからなのかな? もっと賢い人が、しっかりと考えてたら、彼女に何が見えたのかもわかったのかな」

 そうしてわたしたちは、月光を浴びながら黙りこむのです。

 わたしは考えていました。物語のなかの彼女が、最後に見たもののことを。いったい彼女には何が見えたのでしょうか。ただのシミかもしれない。ただの傷かもしれない。そうやって終わらせるのはとても簡単なことです。でも、ダメなのです。この物語を話してくれた女の子はいいました。どういうものが、どういう風に見えたら、美しく終われるのかな。そのとおりです。美しく終わるためのことを、わたしたちは考えなければいけない。差し当たって我々の問題は、考える術を考えなければいけないことです。わかりませんでした。ふと思いました。慧音さんはどうなんだろう。慧音さんなら、この物語を、美しい終着駅まで案内してくれるかもしれない。

 だけど、慧音さんはここにいません。

「続きはまた明日考えませんか。明日でも遅くはないでしょう。いま遅いのは、わたしたちが寝る時間です」
「そうだね。今日はもう寝よう」
「一緒の布団でですか」
「うん。ダメ?」
「昨日それを聞かれたら、ダメだっていいましたね。昨日は聞いてきませんでしたものね、あなた。一緒に寝ようって、それだけしかいわないんだから」
「いいじゃない。一緒でも別々でも、大した問題じゃないでしょ」

 わたしたちは布団に入ります。程なくして、わたしは眠りにつきました。考えすぎで疲れたのでしょうか。しかし、すぐに起こされました。何ですか。寝ぼけ眼で訊きます。

「妖夢、ひとつだけ質問させてよ」
「だから、何ですか」
「妖夢の後ろにいつもひっついてる、それ。何?」
「半霊のことですか?」
「ハンレイ?」

 あっと思いました。彼女はまだ、わたしと幽々子様が幽霊であることを知らないのでした。

「ハンレイって、何?」
「あはは……ううん、一口に説明するのは難しいですねえ。まあ、見たままの存在です」
「見たままっていわれても」
「きっと大人になれば、その意味がわかりますよ」

 お休みなさい。わたしは強引に切り上げました。別段幽霊だとバラしたところで問題はないと思うのですが、ここまできたら、筋は通そうと思ったのです。

 わたしが目を瞑ると、彼女の声が聞こえてきました。

 じゃあ、一生わからなくてもいいかな。


Φ


 どんどん。どんどん。

 何かを叩く音で目を覚ましました。まだ働き加減が微妙な頭を持ち上げ、音の方向はどこかと耳を澄ませます。どうやら玄関らしい。

「あっ、いけないっ」

 びくっとしました。布団のなかからの声でした。彼女は飛び上がるようにして布団から出てきて、

「ごめんね、妖夢っ」

 といって部屋を走って出て行きました。どういうことか問い質したかったのですけれど、玄関からの物音のほうが先です。わたしは足早にそちらへ行きました。

 玄関には慧音さんがいました。慧音さんの後ろには、ふたりの人間のかたがいます。男は無表情。女はさめざめと泣いています。天気は雨でした。彼らの背後には、無数の線が走っています。女の涙はその雨に混じって地面に落ちていきます。

「どうかされたんですか」
「うむ、実は……」

 慧音さんがいいかけたのを、女が割り込みます。

「ここにウチの子がいるって聞いてきたんです」
「えっ」

 わたしは目を丸くしました。まさか、本当に? しかし、次の彼女の言葉で、ますます混乱してしまいました。

「髪の長い、吊り上がった目の、そうそう、身長は大きめです。そういう女の子、ここにいるんでしょう?」
「……いえ、いませんが」
「いいえ、いるはずです。上がらせてっ」
「ちょ、ちょっと! やめてください!」

 強引に制止し、彼女を押し戻します。いったいぜんたい、何がどうなっているというのでしょう。せめて髪型以外の要素が合っていれば、ああ自分で変えたのか、そういう風な推測ができなくもありません。でも、身体的特徴まで異なるとなると……。

 彼女はまた泣きはじめます。さめざめと。わあわあと。彼女の涙が、彼女の瞳から滑り落ち――

 その様を、わたしは、見ました。

 彼女の涙は一本の直線となり、まず空気上にあらわれます。雨と混ざりながら、地面へと向かっています。無数の直線のなかのひとつでありながら、涙は確かに他と、つまり雨と区別がつきます。ああ、あの線は雨ではない。あの水は雨ではない。涙だ。あれは、涙なのだ。キレイだった。個性があった。他者と違う、光るものがあった。最後の直前まで、その輝きをずっと持っていた。持っていたのに、地面に触れた瞬間、悲しいくらいあっけなく霧散していった。涙は散った際に弾け、たくさん欠片を飛ばしている。たくさんの欠片は雨のなかに混じる。でも、それは区別がつかない。雨と何も変わるところはない。ただ重力に従って落ちていくだけの、水。美しくなかった。醜くさえあった。やがて欠片はすべて地面に吸い取られ、姿を完膚無きまでに消し去った。消し去られたのではない。消し去ったのだ。

「すまんな、妖夢」
「は」

 声にはっとして見ると、人間のおふたりはもう遠くに離れて行っていました。

「えっと、いったい、どういうことなんでしょう」
「ああ……。あのふたり、云十年も前の話なんだが、子どもを亡くしてな」
「え」
「今日が命日なんだが……。命日になると、あの母親のほうが、おかしくなってしまうらしい」
「と、いいますと?」
「子どもが死んだことを忘れて、探し回るんだそうだ。わたしも、彼女の存在は初めて知った。いままでは偶然、命日にわたしと彼女は出会わなかったわけだな。今日はたまたま出会って、父親のほうから事情を聞いたんだ」

 わたしは慧音さんの説明を聞き、もしや、と思いました。

「慧音さん、ひょっとして、あの子は……」

 わたしの言葉を、慧音さんは手で制します。

「おまえは、自分で、自分なりのこたえを見つけるんだろう」

 といって、慧音さんたちは帰っていきました。



 家のなかに戻って、彼女を捜しました。
 彼女はどこにもいませんでした。



 朝ご飯の準備ができました。ふたり分の食事を並べ、幽々子様を起こします。やがて幽々子様がやってきて、いつもの席に座りました。いただきます。わたしたちの声が凛と重なって、お箸と食器の触れる音が鳴りはじめました。

「あの子は?」
「帰りましたよ」
「そう」

 それ以後、静かな食事となりました。



 昼になって、わたしは庭へ出ます。買い出しに行く必要はありません。いろいろと、ためこんでいますから。最近めっきり減った修行時間。一日で取り戻せはしませんが、一日で取り戻すことができないゆえに、今日、たくさんの時間を、修行に当てたいと思います。

 準備を終えて空を見ました。澄んだ空でした。雲があります。緩やかな時間の流れ。まるで蝶のように、緩やかに流れています。その流れに雲が乗っています。少しずつ、少しずつ、雲は動いていきます。大型の雲がやがてちぎれました。中型の雲と中型の雲のふたつに分かれました。あるいは別れました。適切なのはどちらなのでしょうか。わたしにはわかりませんでした。そうやって長い間、ぼうっと空を見ていました。すると何か黒い点が見えたのです。手でひさしを作って、目を凝らしました。

 紙飛行機でした。ムラサキ色の紙飛行機が飛んでいたのです。

 紙飛行機は落ちる気配もなくふよふよと飛び続け、視界から消えました。視界から消えたことに、わたしは何の感慨も覚えませんでした。そしてわたしは悟りました。わたしは、あの子ともう二度と会うことはないと。自分を幽霊だと名乗り、奇妙なお話をして、何処かへと消えていったあの子と、もう二度と会うことはない。わたしはそう思いました。

 そもそもわたしには、彼女と再び会う資格がないのです。だって彼女がどこへ消えたのか、知ろうとすら思っていないんですもの。

 わたしは視線を天から外し、剣を――。
 このたびは拙作を読んでいただき、誠にありがとうございました。
 一人称ってやつがどうにも苦手で、ようやく多少の形が掴めたような気がいたします。

 物語のほうは、少し投げっぱなしに過ぎたようです。もう少しまとめかたを工夫しなければいけなかったですね。

>>三文字さん
 本当はうすぼんやりとした感じながらに、何となく理解できる、そんな感じのキャラになるはずでした。
 わたしの力量では、まだ無理があったようです。

>>パレットさん
 いや、考えていただけですっごく嬉しいです、ありがとうございます!

>>名前が無い程度の能力さん
「成長物語」を意識して書いたので、こうなりました。矛盾があるなら、これまたわたしの力量不足です。

>>佐藤厚志さん
 ありがとうございます。キレイなお話というのは、わたしが目指している点でもあるので、凄く嬉しいです。

>>神鋼さん
 もやっとする感じだけで終わらせてしまったのは、申し訳ないとしか言えません。
 もうちょっと丁寧な何かがあればよかったのですけれど。

>>気の所為さん
 スパッと切ろうと思ったのですが、意識が強すぎたようです。配分意識がまだ足りませんでした。

>>笊さん
 げ、誤字……。すみませんorz

>>有文さん
 ぐう、未完っぷりというのが何とも悔しい……。精進します!

>>soさん
 うおお、これは最上級の褒め言葉! ありがとうございます本当に!
 物語の点は、努力不足でした。今後の課題です。

>>藤村さん
 ありがとうございます。実をいいますと、当初は妖夢ではなくて霊夢でした。
 何かいつの間にやら妖夢になっていたのですが、逆によかったのかもしれません。

>>mokiさん
 そのとおりです、もやもやっとした解釈で大丈夫です。
 書き込みが薄すぎましたね。

>>結界先生
 1位おめでとうございます!
 心地よさを感じていただけたなら何よりです。

>>ぴぃさん
 その言葉をいただけることができて、本当に嬉しいです。ありがとうございました。

>>K.Mさん
 ど、どうなんでしょう……?
 わたしにはこれ以上は語れないです、ごめんなさい。

>>つくしさん
 本文、楽しみに待っております。読んでいただき、誠にありがとうございました。

>>時計屋さん
 昨日、チャットで時計屋さんが本タイトルを出してくれたときは、小躍りしたい気分でありました。
 次はもっと満足していただけるよう、頑張りたいと思います。

>>ハバネロさん
 わたしの至らなさが原因ですね。ごめんなさいです。

 謝ってばかりのレスになってしまいましたけれど、改めて、拙作をお読み頂きありがとうございました!
剣@sdsd
作品情報
作品集:
最新
投稿日時:
2009/05/09 23:53:23
更新日時:
2009/06/14 00:54:56
評価:
16/17
POINT:
89
Rate:
1.34
1. 5 三文字 ■2009/05/11 22:52:00
う〜む、不思議なお話。
少女は何だったのか……考察しろってところですかね。
色々と謎を残して終わる。こういうのは下手するともやもやとした気持ちを残すだけになりますね。
少女の正体がなんなのか?非常に気になるところではあります。
2. 4 パレット ■2009/05/18 00:57:05
うう、申し訳ないです。小一時間ほど悩んでみたのですが、しっくりくる解釈がひねり出せませんでした。
3. 5 名前が無い程度の能力 ■2009/05/30 00:13:59
ん…妖夢はこれでいいんですかね?
4. 6 佐藤厚志 ■2009/06/03 23:55:54
まるで岩清水のように、清澄な小説でございました。
ラストの紙ヒコウキの情景は、どこか神秘的で、印象深いものでありました。
5. 3 神鋼 ■2009/06/04 18:29:16
推測は出来ても答えは無し、なんかこうもやっとする感じです。
6. 6 気の所為 ■2009/06/04 18:40:45
妖夢の時々素に戻った語り方が心地よかったです。
逆に所々長かった文章は冗長ではないかと感じました。
この雰囲気は好きなんですけど、最後の方で不意を突かれてた感じで終わってしまってどうも把握しきれなかった感じがします。
7. 7 有文 ■2009/06/07 23:46:23
なんとも不思議な気持ちにさせてくれるSSだと思いました。この未完っぷりが、余計なんとも言えない気分にしてくれます。
8. 8 so ■2009/06/11 07:20:40
文章が素敵です。
一人称という形式を最大限に活かせていると思います。

物語に関しては、些か尻切れトンボ感があるのは否めないです。
9. 6 ふじむらりゅう ■2009/06/11 22:08:44
 テンポがいい。素敵なリズム。
 あーていうかすごい惜しい……もったいない……あえて語らない作風なのか、もったいぶってるのか、それなら解らないなりに味があるって言い方もできるんですが、時間帯が時間帯だけに最後まで書けなかったのかなあとも思って、残念。
 含んだ言い方ばっかりでしたしね。
 でも、妖夢の一人称は無茶苦茶妖夢っぽいです。それだけでも読んだ価値があると思えたくらい。
10. 5 moki ■2009/06/12 18:37:33
うーん、彼女は結局何者なんだ。幽霊?亡霊?死んだけれども母親がその死を認めていないから存在する、ムラサキについての赤と青と同じ、生と死のあわいに位置する存在なのか。彼女は死んでいるという認識が妖夢の中にできたから消滅してしまう存在。認識が世界を変えるってことなのかな。あれ、でも身体特徴違うのか。そしてタイトルに言葉が尽くされてる涙との関係性もどうなってるんだ。うーん、わからんです。こういうもやもやっとした理解でよいものなのかもしれないけど。あ、名前は「幽霊」ちゃんかな?
11. 6 八重結界 ■2009/06/12 19:30:49
何とも不思議なお話で。
分かっていることより分からない方が多いのに、妙な心地よさを覚えました。
12. 8 ぴぃ ■2009/06/12 21:45:21
不思議な味わいのある作品でした。
紙飛行機の幽霊が、頭の後ろをすぅっと飛んでいく、そんな感覚を覚えました。
13. 4 K.M ■2009/06/12 23:03:28
なんともホラーな……さて、話の結末はどう有るべきだったのか?
14. 7 つくし ■2009/06/12 23:18:39
申し訳ありません、時間が差し迫っているため、採点のみにて、感想本文は後ほど改めて。
15. 8 時計屋 ■2009/06/12 23:24:01
 なんとも素晴らしい。
 まず文章のテンポがとても小気味いい。軽妙でいながら、どこか深みのある、そんな魅力のある文章でした。
 妖夢の生真面目な、でもどこか達観したような性格も良かったです。
 お話自体も申し分ありません。
 答えを出してしまうことがいかにも野暮に思えてしまう、そんな不可思議な雰囲気がありました。
 少女の正体、妖夢の心情、幽々子の真意。それらがはっきり語られていないからこそ、より心に強く残る。印象深いSSでした。
16. 1 ハバネロ ■2009/06/12 23:28:03
ハッピーエンドや万事解決に繋がらないところは、顕界と隔てたところの話らしくて雰囲気はある
でも腑に落ちないなぁ
17. フリーレス ■2017/01/26 00:45:47
わからないからこそ面白い作品ですね
よくわからない物、妖しき物…妖怪か(違
謎だけど答えを求める意志は無い、と言い、再び日常に回帰するのが余韻が強く残って素敵
少女の語った話は「バッドボーイ・バビー」と言う映画を彷彿とさせます
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