緑の疑惑

作品集: 最新 投稿日時: 2009/05/09 23:58:09 更新日時: 2009/05/09 23:58:09 評価: 26/28 POINT: 131 Rate: 1.16
 訊きたいことがあるんだ、と問われた時の反応一つだけでも、その人の内面は推し量れよう。
 何々何でも訊いて、と積極的な場合、その人は話したがりであることが多い。
 問われるまでもない。喋りたいのである。この場合、一つ訊けば十語る。訊いてないことまで語る。わかった、もういいから、と話を切ろうとしても止まらなかったりする。
 対して、え、何、何を訊くの、と警戒している場合、その人は秘密を抱え込んでいる。
 そして、もしその事について訊かれたらどうしよう、と訊かれる前から身構えている。この秘密が明るみになれば大変だ、しかも、その結果、必ず自分に累が及ぶに違いない。そう固く信じている。
 もっとも、この秘密が大変なものかどうかといえば、実はたいてい大した内容じゃなかったりする。しかし、当の本人は大真面目で、こういった秘密を自ら幾つも抱えた挙げ句、もし問われた場合は、さも推理物かサスペンス物の登場人物のように白々しく「さあ?」なんて言うのである。

 この二つの例は極端であるが、人は時と場合によってこの二つを使い分けている。
 幻想郷に引っ越してきた東風谷早苗の場合は、前者に属した。
「何?」
 早苗は、にっこりと微笑みながら、彼女の方を向いた。
 質問を切り出したのは、霧雨魔理沙である。魔理沙の隣では、博麗霊夢が茶をすすっている。
 春の博麗神社である。
 花見の季節は過ぎ、空の霞も幾分か薄らいできた。緑は少しずつその濃さを増し、昼間の日差しには汗ばむことも多くなった。薄物でも丁度良い。そんな頃である。
 早苗は、秋を過ぎ冬を越して、魔理沙や霊夢と話すことが多くなった。なんといっても同じ年頃の同性であるし、彼女らは歯に物着せぬ代わり、早苗を対等に扱ってくれる。それが早苗にとっては嬉しかったのだ。
 そもそも、幻想郷新入りの早苗には知り合いと呼べる者が少ない。山の妖怪達は早苗にも親切だが、神奈子や諏訪子の立場上、互いに一線引いた付き合いにならざるを得ない。では、人里ではどうかというと、これが宗教活動上どうしても猫を被る必要がある。なかなか親しい友人が作りにくいのだった。
 そんなわけで、早苗は魔理沙や霊夢との関係を大事にしている。一度ならず戦ったこともあるが、弾幕が日常の彼女らにとって、それは親交を深めこそすれ距離を遠ざけることにはならないようだ。
 となれば、早苗としては、やっぱりもっと親しくなりたいなあ、と思うわけである。
 早苗は幻想郷のことをもっと知りたい。魔理沙や霊夢のことも知りたい。
 また同様に、早苗も自分のことを彼女らに知って欲しい。だから、質問は大歓迎である。カモン、カモン、ウェルカム。早苗は期待に胸を膨らませて、魔理沙の質問を待った。
 魔理沙は、いつものように屈託無く、その大きな瞳を輝かせて言った。

「お前の髪、なんで緑色なんだ?」

 時が止まった。
 魔理沙はわくわくした顔で答えを待ち、霊夢はずずーっと茶をすすり、早苗は笑顔を固まらせた。

「ギャー!!!!」

 早苗は叫んだ。叫んだ拍子に白昼の客星が迸り、閃光が境内に乱舞する。近くにいた妖精達が泡を食って逃げ、こけたルナチャイルドがサニーのスカートを掴み、思いっきり引きずり下ろす大惨事を引き起こした。

「な、なんだよいったい!」
 もちろん、魔理沙も驚いた。右手に箒を掴み、腰を浮かせて今にも飛び立たんとする様子である。隣の霊夢は、姿勢こそ変わらないが、眉の傾斜とひくつく口元から、その内面は知れよう。
 早苗は、肺活量を試すかのように、天に向かって吼えた。怪鳥(けちょう)にも似たその雄叫びが絶えると、やおらキッと魔理沙へ向き直る。

「髪が緑色で何が悪いんですかっ!」と、早苗は涙で訴えた。
「ええ、ええ、確かに私の髪は緑色ですよ。何ですか、緑色の髪とかありえねーとか気持ち悪いとかおっしゃるんですか! ふん、生まれてから耳にタコができるほど聞きましたよ! なんで、緑? そんなの私だって訊きたいですよ! ええ、ええ、知ってるんですからね。『緑髪なんて基本的に脇役だよなー』とか、『だいたいメインヒロインの引き立て役なんだよなー』とか『緑髪キャラってちょっとマニアック入ってるよなー』なんて言われてるのだって知ってますよ! でも仕方ないじゃないですか! だって緑色なんだもん! いいじゃないですか、緑色でも! それとも何ですか、魔理沙さん、あなた人を髪の色で判断するんですか差別するんですかうわーん!」

 マジ泣きであった。
 あまりの早苗の取り乱し様に、魔理沙は唖然とするのみである。素朴な好奇心だったのだが、まさかこんなことになるとは思わなかったのだ。やがて、はっと我に返ると、
「わ、悪かったよ。まさか、そんなに気にしてるとは思わなかったんだ」
 ぺこりと頭を下げた。それを見て、早苗もくすんくすんと涙鼻ながらも、ようやく少し落ち着く。
「い、いえ、すみません。あの、ちょっと、この髪だとあちらであんまり良いことなくて」
 意図せずして触れられた早苗の古傷であった。
「その、向こうじゃこういう髪してるの、その、珍しがられて、子どものころはちょっとそれでからかわれたりもしちゃって」
「そ、そうか。いや、もしかすると外じゃそういう髪が流行ってるのかと思ったんだけど、違うんだな」
 腫れ物を触るように、魔理沙は相槌を打った。早苗は幼い子どものように、こっくりと頷く。
「私の一族だけです。一応、うちの直系に近い人だけこういう髪なんです。私の母もそうでしたし」
「へえ、じゃあ親父さんは違うのか」
「はい、父は普通です。入り婿なんです。私、子どものころこの髪がイヤで、黒く染めようとしたことがあって、その時父がかんかんに怒ったんですよね」

 父は言った。
 緑色が、良いんじゃないか。

「初めて父をグーで殴りましたね。ご近所を巻き込むくらい凄い親子喧嘩でした」
 懐かしいなあ、と遠い目をする早苗。魔理沙はそんな早苗にドン引きである。
 こいつには絶対、髪の色で絡むのはやめよう。
 魔理沙の顔には、そう書いてあった。
「ま、まあ良いか。綺麗だしな、お前の髪。似合ってるって。それに、幻想郷じゃ緑色でも目立たないしさ。知ってるか? ここじゃ、結構緑の髪ってモテるんだぜ」
 必死に取りなす魔理沙。早苗は、そこでやっと、くすりと笑った。
「だから、なんで緑色なのか、私もわからないんです」
 そう言って笑う早苗は、春のように柔らかかった。
 その笑顔に、魔理沙はようやく、ほっとする。

「簡単じゃないの」
 そこで、それまで一言も発しなかった霊夢が口を挟んだ。
 早苗と魔理沙が、疑問符を浮かべて霊夢を見る。
 霊夢は、ずずーっと茶をすすり、言った。

「青と黄が混ざれば緑じゃない」

 その意味がわかるまでには、しばしの時間が必要だった。
 やがて、魔理沙はじりじりと後ろに下がってタイミングを見計らい、
 早苗は、顔色を失った。


 守矢神社に文字通り飛んで帰った早苗は、二柱の神々を問い詰めた。
 しかし、神奈子も早苗も、さも推理物かサスペンス物の登場人物のように白々しく「さあ?」というばかりであったという。
緑色、良いじゃないか
deso
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投稿日時:
2009/05/09 23:58:09
更新日時:
2009/05/09 23:58:09
評価:
26/28
POINT:
131
Rate:
1.16
1. 8 名前が無い程度の能力 ■2009/05/10 02:36:23
うまい。
2. 6 三文字 ■2009/05/10 19:01:25
親父グッジョブ!
緑色、いいじゃないか
まあ、神様なんだから別にネチョっても大丈b(ピチューン
3. 7 名前が無い程度の能力 ■2009/05/12 08:51:18
さっぱりしてて面白かったどすえ
4. 2 名前が無い程度の能力 ■2009/05/16 14:21:52
面白かった
まさか俺と同じことを考えてるひとがいるとは……
5. 3 パレット ■2009/05/18 01:02:17
そうだ、緑色が、いいんだ……!
オチの描き方が鮮やかで、うまいなあと思いました。
6. 7 名前が無い程度の能力 ■2009/05/19 18:29:45
シンプルだけどwww
7. 3 r ■2009/05/25 02:33:06
いろいろと考える余地があって面白かった
8. 6 名前が無い程度の能力 ■2009/05/28 22:49:38
成程、その発想はなかった
9. -1 名前が無い程度の能力 ■2009/05/30 02:12:51
どっちが青でどっちが黄なんでしょうね
10. 5 気の所為 ■2009/06/04 21:51:17
吹いた。
まさか二柱様……
11. 5 有文 ■2009/06/07 23:14:46
早苗さんの緑の髪が……の下りは、藤崎竜の漫画を思い出しました。
さて、実際はどうなのでしょうかねw
12. 8 神鋼 ■2009/06/10 19:59:09
早苗さんの叫びに吹きかけ、親父にトドメをさされました。短さが武器になってるのもいい感じです。
えーっと最後の一行の早苗さんは諏訪子ですよね?
13. 5 ふじむらりゅう ■2009/06/11 00:15:06
 こ、この誤字は痛い……。
 それはそうと、ネタ自体も他の作品と丸被りしているのが痛いのですが、勢いはかなりありました。
14. 6 ユッキー ■2009/06/11 23:14:12
早苗さんカワイソスwww
15. 5 上泉 涼 ■2009/06/12 02:42:12
二柱には説明責任があると思うw
16. 4 ぴぃ ■2009/06/12 05:22:56
早苗さんの緑髪シリーズ!
オチのネタ自体は、別作品(こんぺにあらず)で知っていました。ここをもう一段階膨らませてほしかったです。
17. 7 名前が無い程度の能力 ■2009/06/12 16:50:31
父w
混ざればという発想はなかったw
18. 3 moki ■2009/06/12 18:30:17
グリーン(笑)
19. 8 リコーダー ■2009/06/12 19:06:46
その発想は(ry
シニカルな感じが良いです。
ナイスオチ、と思いきや同じネタがコンペ内にありますが、こっちを先に読んで吹いたのでその時の気持ちで評価させて頂きます。
20. 7 八重結界 ■2009/06/12 19:38:07
早苗さんのテンションに、絶え間ない苦労が見え隠れして哀れではあるけど笑ってしまいました。
あと父親には同意するけど、殴られて当然という気も。
21. 3 木村圭 ■2009/06/12 21:59:25
さすが神様だ、女同士で子作りなんて何でもないぜ
幻想郷ならともかく、外の世界で髪が緑の子がいたらそりゃ引くわなぁ。早苗さんってばホント過酷な星の元に生まれちゃったのね……。
22. 5 どうたく ■2009/06/12 22:05:55
 青と黄色の混ざるネタはあると思ってましたが、やっぱりきたかw
 
 このストーリーはほのぼの系だと思うので、早苗の「緑」の髪の毛であることのトラウマなんか入れると、ストーリーに味が出ると私は思います。
23. 5 K.M ■2009/06/12 22:56:33
斑にならなくてよかったと考えようぜ!!
24. 6 つくし ■2009/06/12 23:21:53
申し訳ありません、時間が差し迫っているため、採点のみにて、感想本文は後ほど改めて。
25. 3 時計屋 ■2009/06/12 23:33:07
 わーい、既出ネタ仲間だー。
 ということで。
 早苗さんは緑だからいいんじゃないか、という言葉には私も一票を投じておきます。
 ありがとう。緑でありがとう、早苗さん。
26. フリーレス ハバネロ ■2009/06/12 23:35:01
緑色、いいじゃない。
27. 5 つくね ■2009/06/12 23:59:24
緑髪はヤンデレやらとかく厄介なキャラが多いよなぁ……さて。これぐらいの長さだとこういった素直な作品は読みやすくて良いですね。やや唐突に本筋へと進む感じもありますが、この長さでは仕方が無い所。そういった意味ではもう少し長くしても良かったと思います。
28. フリーレス deso ■2009/06/30 20:37:49
読んでくださった皆様、どうもありがとうございました。
一発ネタの上にネタ被りでしかもかなり痛い誤字まであったというのに、これだけの評価をいただけました。
全て皆様のおかげです。感謝しております。
今回、参加しようと思い立ったものの、なかなかネタがまとまりませんでした。
やっとこれだと閃いて書き出したのは締め切りの4時間前。
あとは時計とにらめっこをしつつ、さあ出来たよし投稿だ、と投稿ボタンを押した瞬間、例の誤字に気付きました。
ぎにゃー。
というわけで、ネタやボリュームの少なさは、全て取りかかりが遅かった自分の至らなさ故であります。
もし、次に機会がいただけたら、このあたりを反省して挑みたいと思います。
自分への戒めとして、あえて誤字は修正しないままにしておきます。

あと、今回は他の作品を読んで感想を付けることができませんでした。
他の参加者の方々、どうもすみません……。この点についても反省しきり。
最後に、こんぺの書き手の方々、読み手の方々、そして主催の方、お疲れ様でした。
また、機会がありましたら、よろしくお願いします。
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