雨乞い

作品集: 最新 投稿日時: 2009/11/08 12:41:55 更新日時: 2009/11/08 12:41:55 評価: 25/25 POINT: 106 Rate: 1.01
 大地が黄金色に染まり、幾千万の稲穂が大地の上で季節がやってきては、それは足早に過ぎ去っていく。暑い季節の間には一面に水を湛え青々とした平原を地上に現わしていた水田は、この季節になると一面を黄金色の景色へと染め上げる。
 まるで地面そのものに朝日か夕日がやってきたかのように人里近くの平原の色は変わる。人々が寒い頃から待ちわびた季節、収穫の時期である。
 だが、その季節も足早に過ぎ去っていく。黄金色になる時期は非常に短く、頃合いを見計らった人々によっ
て一本も残すことなく綺麗に刈り取られていく。黄金色の収穫はその綺麗さなど端に置かれるほどに、人々の生活に安寧と安定をもたらす。
 忙しくも充実した日々の後、水田には刈り取られた跡の根だけが残り、黄金色の水田は茶色の荒野へと変わる。黄金色の時間は一年という歳月を通して見れば一瞬で、それは太陽が朱色に輝く時間が一日の内一瞬しかないのに似ていた。
 そんな季節の中、ある心配ごとがある神社のある巫女の心の中に在った。
「最近、雨が降ってないのよね」
「そうだな。でもこの時期は普通、雨が少ないものじゃないのか?」
「刈り取りのちょっと後は纏まった雨が降るものなのよ」
 博麗神社の巫女、霊夢とその友人にして魔法使いの魔理沙は何時もの通り神社の縁側で話をしていた。もちろんその傍らには饅頭と緑茶を欠かさない。
「この時期に雨が降ってくれないと、実り始めた柿や栗が美味しくならないのよね」
「そうなのか?」
「そういわれるわ。証拠なんて何もないけど」
「それは重要な問題だぜ。柿や栗は美味しいからな」
「大切な秋の楽しみの一つね、あるとないとで大違いになるわ」
 霊夢と魔理沙の談笑中も、大空は秋特有の高い景色を見せていて、空高くうろこ雲が広がり空の蒼は何時もより濃い蒼に見えた。確かに空に雨の気配はなく、地平線の果てまで続く蒼穹は見ていてとても気持ちのいいものだが、地上から湿り気が消えて久しくなっているように感じた。
「確かに、雨らしい雨はここ一カ月くらいご無沙汰だな」
「でしょ。もうそろそろ降ってもいい頃なのに」
「そうだな」
「だから、雨乞いをしようと思うの」
「・・・へ?」
「雨乞い。知らないの?雨を呼ぶ儀式よ」
「いや・・・嘘偽りなく知ってるぜ。しかし霊夢にそんな天変地異を引き起こす能力があるとは知らなかったぜ」
「そんな能力あるわけないでしょ。ただちょっとお願いするだけよ、雨を降らせて下さいって。一種の神事ね」
「そうなのか。霊夢のことだから低気圧を呼び起こすくらいできるものかと思ったぜ」
「流石にそんなことできるわけないでしょ、あ、お茶が切れているわね」
 霊夢は立ち上がり台所へ行くと、竈に火を入れ薬缶でお湯を沸かし始めた。今まで会話が支配していた神社の縁側という空間は、一時の静寂に包まれた。魔理沙も話し相手が居ない状態では口を開くことはなく、昼下がりの温い空気の中、ゆっくりと時間は過ぎて行った。
「はい、お待たせ」
「おお、ありがとう」
「飲み終わったら、雨乞い儀式の準備をしなければならないわね」
「準備が必要なのか?」
「松明とか太鼓とか必要なのよ。それと時間も決まっていて、日が暮れた後じゃないとできないわ」
「ふーん、面倒なんだな」
「そう、面倒なの。だから」
「だから?」
「手伝って」
 二人は神社の境内の中をせせこましく動き回っていた。松明を作っては木材で台を組み、かがり火を設置する。太鼓を霊夢が指定した場所へ魔理沙が配置する。太陽の傾きが徐々に増えていく中での作業だった。
 やがて時は昼下がりから黄昏時へと変わる。太陽は地面スレスレの場所に移動し、空の色は蒼から紅に変わり、辺りは薄らとした暗がりへと変化する。
「流石に、この季節は太陽の動きが早いぜ」
「釣瓶落としとはよく言ったものね」
「しかし、こんなにきっちりと準備しないといけないものなのか?雨乞いって」
「神様に奉納する神事だもの、当たり前でしょ」
「つくづく神様って奴は面倒なことが好きなんだと思うぜ、諏訪子にしてもな」
「まあ、それは否定しないけど・・・」
 やがて太陽は完全に地平線の向こう側に消え、世界を闇が支配し始めた。そんな時間になってから、霊夢は魔理沙に松明に火を入れるように指示すると、自分は神社の奥に最後の準備をするといって消えていった。
 神社の本堂の前に、東西南北の方角に一つづつ置かれた松明に火が入れられると、暗がりの中松明の明かりにより神社はホログラムに陽に浮かび上がった。
 そこへ霊夢が準備を終えて神社から出てきた。何時もとは違い頭にリボンをしておらず、結わえてもおらず、何も細工をしていなかった。何も細工をされていない髪は風にあおられるとさわさわと揺れた。
 右手には木の棒にいくつかの鈴を結わえつけた神楽鈴を持っていた。真白な足袋に下ろしたての草履を履いて本殿から神社の前庭へと歩み降りると、松明の真ん中に凛として立った。
「はい魔理沙、さっき言った通りに太鼓をお願いね」
「ああ。景気よく叩くぜ。しかしいいのか?私はこの恰好のままで」
「太鼓打ちの格好までは神様は指定してはいなかったわ」
 魔理沙が一定のリズムで太鼓を叩き始めると、霊夢は松明の中心で舞い始めた。
 暗がりの中、四方の松明に照らされた中心で赤と白の衣装を着た霊夢が奉納の舞を行っていた。結わえられていない髪は舞うたびに左右に大きく揺れ、その髪もまた松明の明かりによって闇の中に浮かび上がっていた。
 霊夢はいつになく真剣な視線を虚空へ向け、神楽を舞っていた。古代の作法に則り、太鼓のテンポに合わせ神楽鈴を鳴らしながら、雨乞い舞の奉納を終わらせていった。舞は緩やかで決して激しいものではないが、紅白の衣装に身を包んだ少女の舞が闇に浮かび上がる姿は、この空間で神事が行われていると思わせるのに十分だった。
 霊夢の肢体に薄らと汗が浮かび始めた頃、神楽鈴を鳴らすのをやめ動きを止めた。
「はい魔理沙、もういいわよ」
「おう、これで終わりか」
「まだちょっとあるんだけどね、神楽はお終い」
「しかし、今日の霊夢はちゃんと巫女に見えるぜ」
「いつもちゃんと巫女よ。これであとは今年の新米を御神体に奉納すれば、雨乞いの儀式は終わりよ」
 霊夢と魔理沙は本殿に戻り、御神体の前に杯に盛られた新米を奉納した。
「だあー、疲れた。やはり堅苦しいことなんてやるものじゃないぜ」
「たまにはいいでしょ」
「たまでもよくないぜ」
「私を手伝うくらいしても罰はあたらないわよ。ほら、今からお饅頭とお茶を出すから」
「おお、喜んで頂くぜ」
 秋の長い夜は更けていく。
 その数日後、雨は降った。秋らしいシトシトという音の柔らかい雨である。久々の雨は大地を潤し、山地から平野部へと流れ落ち、やがて川へと向かっていく。
 空には白い雲が立ち込め、昼でも薄暗い。世界の何処を切り取ってもやや白みがかった雨粒の落ちる光景が見えないことはなく、静かに雨は降っていた。
 水は空から降りてきては大地や草木、大木の葉に当たり音を奏で、そのまま大地へと流れおちていく。その水は太陽の恵みと同じくらい生命にとっては大切で、それが与えられる喜びで大地は満ちていた。
 雨が降っていても風は些細だったので、神社の障子と雨戸は開けられたままで、その縁側に何時もと同じように霊夢と魔理沙は座っていいた。その傍らにはお茶と饅頭は欠かさない。
「本当に雨が降ったぜ・・・」
「そうね、これで日照り続きで桃や林檎が美味しくないということもなさそうだわ」
「ところで、少し思ったんだが」
「何?」
「丁度、去年もこの時期くらいに雨乞いをしなかったか?」
「そうだったかもしれないわね」
「そして、去年も同じくらいの時期に雨が降らなかったか?」
「そうだったかもしれないわね」
「ひょっとして…雨の降る時期を見越して雨乞いをしてるんじゃないのか?」
「知らなかったの?」
「へ?」
 雨は大地にも神社の屋根にも平等に降る。但し神社の屋根に雨が当たる時は大地のそれとは違う独特の音が鳴る。神社の屋根に雨の当たるパチパチという音と、大地に雨が落ちるさらさらという音を同時に聞きながら、縁側で二人は話していた。
「雨乞いなんてものは、行う時期も季節も決まっていて、行った後に雨の季節が来るようになっているのよ」
「えー・・・なぜそれなのに雨乞いをする必要があるんだぜ」
「決まっているじゃない、儀式だからよ。そうね、言うなれば節分の豆撒きや春の豊穣祭と似たようなものね。去年は私一人でやったんだけど、とても面倒で疲れたから魔理沙に手伝ってもらうことにしたの」
「そうだったのか・・・とてもショックだぜ」
「魔理沙っていろいろ知っている割に常識に疎いわよね。あと、今回の雨乞いにはもう一つの意味があるの」
「何だぜ?」
「10月は神無月と言われていて、森羅万象の神がお出かけする季節といわれているの。だからその終わりの際に神様を呼び戻す、という意味もあるのよ」
「やっぱり面倒なことが好きなんだな、神様ってのは」
「ま、その神様のお陰で雨が降ると歴史書にはあるわ。私は雨なんて季節が来れば勝手に降ったりやんだりするものだと思っているけど」
「それなのになんで、雨乞いなんてするんだ」
「決まっているでしょ、私が巫女だからよ」
 空から大地に雨が降り注いでいる。雨は水であり、水は生命の源である。水は自らの背負った重大な使命など知らないが、数多の時間の中で途切れることなく大地に降り立ち、潤いを供給している。それがまるで、
契約であるかのように。
 雨は一週間ほど続き、空には太陽と晴天が戻った。光もまた生命の源であり、生きるもの全てに生きる活力を与えてくれる。光も自らの背負った重大な使命など知らないが、空の遥か遠くからこの大地へと確実に届く。それがまるで、契約であるかのように。
初めての投稿になります。
特にヤマもオチも盛り上げることない文章ですが、
なんか漂う雰囲気みたいなのが感じ取ってもらえたらいいなあと思っています。
げんつば
作品情報
作品集:
最新
投稿日時:
2009/11/08 12:41:55
更新日時:
2009/11/08 12:41:55
評価:
25/25
POINT:
106
Rate:
1.01
1. 5 バーボン ■2009/11/22 00:39:44
霊夢と魔理沙の距離感が三月精の二人みたいに感じました。
ただ、平凡な日常を描くにしてもちょっとあっさりし過ぎかな、と。
穏やかな雰囲気は好きでした。
2. 3 葉月ヴァンホーテン ■2009/11/22 01:59:22
雰囲気は上手く作れてるのですが、文体が読みづらく、魔理沙の「だぜ」が鼻につきました。
3. 2 shinsokku ■2009/11/22 02:44:09
雰囲気をつくろうとしているのは、ひしひしと伝わってきました。
が、通読していてちょこちょこ引っ掛かる部分があり、表現に空振りを感じてしまったり。
申し訳ない。
4. 5 ホイセケヌ ■2009/11/22 07:21:24
ネヤツセォ、ネ、ォ、ヒ、「、熙ス、ヲ、ハ。「サテマ濱、ホ・・・キゥ`・、゚、ソ、、、ハクミ、ク、ヌコテ、ュ。」痩、ホh。ゥ、ネ、キ、ソ腺カネ、筅ス、、テ、ン、、。」
、ソ、タ。「、チ、遉テ、ネユi、゚、ヒ、ッ、、、ォ、ハ、「。」
5. 4 冬。 ■2009/11/22 12:43:24
ちょっと読みにくい文がありました。
話自体は、後書きであるように起伏はありませんでしたが、雨乞いをする霊夢は初めて読みました。
特に可もなく、不可もなく。
6. 5 百円玉 ■2009/11/22 18:19:47
盛り上がる場面はいくつかあるかと思いますが、それをあえて平坦に扱っているんでしょうか?
霊夢の神楽などは魔理沙の心情も取り入れて表現すれば、もっと煌びやかに映ったかと想います。
なんだか、雨乞いの取り説があるように振る舞う霊夢にらしさを覚えました。
雨乞いをしなくても結局は雨が降る、もしかしたら神様にだって制御は難しいのかもしれない、『契約』という言葉にそんな雨の大きさ・神秘性を感じました。
7. 4 神鋼 ■2009/11/24 22:20:42
割とざっくりとした作品だったので最後にちょっと深みを持たせようとしたのが残念でした。
8. 10 nns ■2009/12/02 18:32:52
これはいい日常
9. 6 夕霧 ■2009/12/29 13:12:49
一つだけ気になったので。
「去年は私一人でやったんだけど」←魔理沙は参加してない。
「丁度、去年もこの時期くらいに雨乞いをしなかったか?」←魔理沙も一緒にやったような?
「雨乞いをしていなかったか?」←に改変した場合、魔理沙は参加してないが、霊夢が雨乞いをしているのを見ている?
「雨乞いをしたんだろ?」←その場にはおらず、後で話を聞いた感じ?
あ、なんか色々考えてるうちに、別に問題ないようにも思えてきた。
でも、確かにヤマもオチもなく、淡々とお話は進むけど、二人の会話や霊夢らしさが
見えてくる部分があってよかったです。
10. 4 藤木寸流 ■2010/01/04 00:22:36
 本当に霊夢が雨乞いするだけの話だったよ!
 ともあれ、会話の雰囲気や文章の流し方が実にそれっぽくてよかったです。
11. 3 白錨 ■2010/01/10 00:00:00
霊夢もなんでかんだで仕事してるんだなぁ、と思いました。
神無月を使ってオチはついてると思いますよ。
12. 2 パレット ■2010/01/10 04:35:11
 お話としてはある程度まとまっていると思います。
 が、なんというんだろう。二人がやったことを簡潔に説明してるだけ、という印象があったんで、もうちょっとお話としての肉付きが欲しかったかもです。
13. 7 静かな部屋 ■2010/01/11 11:21:09
三月精みたいだ

ただ動きの描写が非常に少ない
14. 3 椒良徳 ■2010/01/11 16:46:33
本当にヤマもオチも有りませんね。ですので、この点数をつけさせて頂きます。
私の好みで無いせいか、読んでも頭にすっと入ってこない読みづらい文章ですね。

お前が読みたいだけだろうと言われたらそれまでですが、
次はヤマもオチもある作品を書いて下さいますよう宜しくお願い申し上げます。
15. 7 零四季 ■2010/01/12 21:58:26
まさに雨、という印象を受けました。そうなのかー、と納得するところもあり、素直に“雨”な作品で面白かったと思います。
ボリュームとしては物足りなさを感じたので、雰囲気をごちそうさまという感じです。
ストーリーがあるともっと面白く作れたかもしれないと。
16. 4 詩所 ■2010/01/13 21:38:21
 霊夢が真っ当な仕事をしている、だと……!
17. 3 deso ■2010/01/14 01:53:33
ちょっと文章があっさりしすぎてるかなあ。
でもネタは好みでした。
18. 3 リコーダー ■2010/01/14 20:49:21
霊夢が説明役すぎるかな。
19. 3 2号 ■2010/01/14 20:56:07
日本っていいですね。
文章のほうは読みにくい点が見受けられ、推敲をはさめば格段によくなるのになーと惜しさを感じました。
20. 5 やぶH ■2010/01/14 22:19:30
雰囲気はあると思います。特にヤマやオチがなくても楽しめるSSはありますので、問題ありません。
ですが、このSSについて言うなら、奥行きがもう少し感じられる展開がほしかったな、と(何だかけったいな注文の仕方で申し訳ありませんorz)
21. 7 774 ■2010/01/14 23:56:38
真面目なのか不真面目なのか全然分からない感じがらしくて良いですね。
22. 3 八重結界 ■2010/01/15 09:24:23
とても二人らしい話だと思います。
23. 1 時計屋 ■2010/01/15 21:16:37
 まずは、主語と述語を明確にしてみてください。
 冒頭の一文を例に挙げます。

 >大地が黄金色に染まり、幾千万の稲穂が大地の上で季節がやってきては、それは足早に過ぎ去っていく。
 「大地が黄金色に染まる」は分かります。
 「幾千万の稲穂が大地の上で」どうなったのでしょう?
 「それは足早に過ぎ去っていく」の「それ」が指しているのはなんでしょう。直前の主語である「季節」を指しているのであれば不要のように思えます。
 文法に細かくこだわるつもりはありませんが、これでは文意が掴めません。
 もう少し推敲をしてみてください。
24. 5 如月日向 ■2010/01/15 22:24:25
 幻想郷の季節の流れを、一文一文から感じました。
 特に序盤なのですが、読点が少なく、やや読みづらかったのが残念です。

〜この作品の好きなところ〜
 リボンがない霊夢もいいですね。たまには巫女らしい霊夢が素敵でしたっ。
25. 2 ■2010/01/15 22:59:19
三月精あたりを読めば案外真面目に仕事してんのかという気にもなる
その手の神事とかどこから知識が来るんだろう? 霊夢って実は勤勉なのか? いやそんな気に
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