ずっと、そばに

作品集: 最新 投稿日時: 2009/11/21 02:33:44 更新日時: 2010/01/21 02:05:48 評価: 21/21 POINT: 140 Rate: 1.50

 ずっと、ずっとこの時が続きますように




 それは酷い干ばつだった。
 今から数百年前。博麗大結界が構築されるよりも昔のこと。
 遠い未来に幻想郷と呼ばれるようになる土地には、小さな集落がいくつも点在していた。
 人里という概念こそあるが、長屋や商人が行きかうような町はない。
 周囲を小高い丘に覆われた大地には、多くの田畑が見て取れる。
 本来は肥沃な大地なのだろう。
 だがそこにあるはずの緑は今、まるで全てが枯れ果てたかのような黄土色に覆われていた。
 ここ最近の降雨がないのか、乾いた畑の上には育ちきっていない作物が転がっているだけだ。
 水田も右に同じで、折れた稲とひび割れた大地がどこまでも続いている。
 そんな大地の様子を、永江衣玖は大空から見下ろしていた。
「確認の為に来てはみましたが……やはり、ですか」
 呟きと共に辺りを見渡せば、雲ひとつない青空と、ぎらつくような太陽が視界に入る。
 本来はバランスを保って配置されている気の流れも、今は強力な乾気が全てを支配していた。僅かほどの水気もないせいで、雲を形成する力が働いていない。
 実際、衣玖の知る限り前二ヶ月ほど、この地方では一滴の雨はおろか雲すら発生してはいなかった。
 もっとも、これが異変ではないということは解っていた。
 原因こそわからないが、数十年に一度は発生する類の異常気象だ。大雨や洪水、衣玖が専門とする地震とは形こそ違うが、いわゆる飢饉とよばれる現象に違いはない。特に梅雨を越した夏場ともなれば、異常な乾季によって容易く日照りが続いてしまう。
 それでも長期間にわたって雲が発生しないのであれば、少しは気にする事態でもあった。
「緋色の雲が発生しないのはいいのですが、通常の雲までとなると話は違いますね」
 右手で太陽光を遮り、一つため息をつく。
 このままでは不作どころか大飢饉になるだろう。しかも、今の地上は妖怪が闊歩する混沌の地だ。人間は食糧難と同時に妖怪とも戦わなければならない。
 天界や竜宮と違って満足な食糧供給が期待できない地上において、それは地獄のようにも思えた。
「しかし、龍神さまが出るほどの事態でもない、と。……暑いですし、少しだけ見て帰りますかね」
 呟き、頬を掻きながら、灼熱の太陽を見上げる。
 体を覆う力のために汗はかかなかったが、湿度の温度の高い空気がまとわりつく感触は不快以外の何物でもない。
 とはいえ、わざわざ下りてきたのだから多少は観察もしていきたかった。
 じりじりと照りつける日差しに顔をしかめ、ため息をついて空を舞う。
 と、見下ろす視界の隅、枯れ果てた水田の隣に小さな影を見つけた。
「あれは……」
 目を凝らし、日の光を帽子で遮りながら影を確認する。
 それは一人の女の子だった。
 齢は十ほどか。まともに手入れをしていないであろう髪の毛は、肩まで伸びた所でぼさぼさになっている。足には何も履いておらず、着ている麻の着物は汚れて擦り切れ、所々に穴が開いていた。
 食べられるものでも探しているのだろうか。枯れ果てた田畑でも何かないかと探しにきたのかもしれない。
 そんなことを考えながらしばらく見ていたが、いつまで経っても女の子は動かなかった。
 ただ目の前に広がる水田の、しおれた稲を見て呆然としているかのようだ。
 何より辺りは炎天下に近い。ひょっとしたら既に意識を失いかけているのかもしれなかった。
「……仕方ないですね」
 一つため息をつき、身を翻して地上へと下りていく。
 本来なら見てみぬ振りをして、雲の中なり竜宮なり、天界なりに戻るのが衣玖の行動だが、今は違った。
 何かが気になる。何が気になるのかは解らない。それでも衣玖は違和感に耐えられなかった。
「失礼、こんなところで何を?」
 すぐ目の前に降りたち、立ち尽くしている女の子に問いかける。
「あ……」
 僅かに驚いたのだろう。小さな呟きと同時に、女の子の目が衣玖を捉える。
 途端、痺れにも似た何かが、衣玖の体を駆け抜けていた。
 似ている。姿形ではない、身にまとう何かが竜宮の使いと似通っている。
 妖怪が生まれるということに明確な定義があるわけではない。人の魂や物に篭った想いが具現化することさえある。おそらく、女の子の魂は妖怪に近いのだろう。
 自身が惹かれた理由はこれだったのかもしれない。衣玖は今更ながらに考えていた。
「雨……」
 おそらく質問の答えだろう。女の子が俯き、小さな声で呟く。
「雨?」
「うん。雨、振らないの」
 聞き返した衣玖の声に、今度ははっきりとした答えが返った。
 見れば二つの瞳は、しっかりと前方を見つめている。
 その状況に、衣玖は少しばかり驚いていた。
 いくら時代ごとに適切な形を取っているとはいえ、妖怪の姿や雰囲気は人間とは異なる。普通の人間なら姿を見た途端、逃げだしてもおかしくは無い。にもかかわらずしっかりと答えた女の子に、衣玖は僅かな戸惑いと好感を覚えた。
「お姉ちゃん。妖怪さん?」
「そうですね」
「ふうん」
 それだけだった。
 興味を失ったのか、生返事を返した女の子が畑に目を戻す。
 なんとも会話しづらい雰囲気が辺りを覆い、空気を読んで動く衣玖も僅かに動揺していた。
「え、ええと……」
「みち」
 どうしたものかと迷っていると、女の子が急に言葉を返す。
「道?」
「ちがう。私の名前」
 どうやら呼び方を悩んでいると勘違いしたのだろう。
 衣玖としてはまったく気にしていないことだったが、多少は話しやすい雰囲気になったことには感謝していた。
「なるほど。で、雨が降らないことはわかりましたが、みちさんはここで何を?」
 とりあえず会話をやり直そうと、最初にした質問を繰り返す。
 返事こそあったものの、その中に確固たる答えは含まれていない。
 衣玖が最も気になっているのはそこであり、今はその真意を確認する必要があった。
「お祈り。雨が降ってくれたらいいなって」
 空を見上げた女の子――みちが、聞き取れるかどうか怪しいほどの声量で答える。と、そのまま手を組み合わせて祈るような姿勢を取った。
 衣玖は考える。おそらく、彼女は集落に住む子供の一人なのだろう。
 嘆く大人たちを思ってのことかどうかは解らない。それでも雨を願って天に祈る姿に、今は僅かな感心を覚えていた。
「お姉ちゃんはどうしてここにきたの?」
 気がつけば、みちが不思議そうな表情で見上げている。
「少し地上の様子を見に来たのです。そうしたら、みちさんを見つけたので声をかけてみました」
「そっか」
「どうかしましたか?」
「よくわからないけど、お姉ちゃんから温かい感じがする。不思議」
 衣玖の言葉に微笑み浮かべたみちが、小さく呟く。
 驚いた。どうやら、みちも同じような感覚を持ったらしい。
 彼女は一体どういう出の存在なのか。他の人間と比べると、やはり何かが異なっている。
 それは妖怪を怖れないことでもあり、自然に感じる温かさのようなものでもある。
 興味を持った衣玖は、色々と確認することにした。
「みちさんは――」

「おい、そこのあんた」

 と、急に背後から声がかけられた。
 振り返れば、みちと同じようにぼろぼろの服を着た男が立っている。髪は短いながらもぼさぼさで、日焼けした顔は真っ黒に染まっていた。
「あんただよ、あんた」
 男は警戒しているのか、敵意むき出しのまま鍬を構え、訝しげな視線で衣玖を見つめてくる。
 いや、実際に警戒しているのだろう。少し離れた場所には、同じような姿の男達が何人も立ち、遠巻きに様子をうかがっていた。
「オラ、ここの村の三郎太ってんだ。あんた、妖怪かい?」
 遠くに見える集落を指さし、棘を含んだ口調で、男――三郎太が問いかけてくる。
 人間からしてみれば、衣玖は妖怪だ。みちと話しているところを見て、取って食うとでも思ったのだろう。
 ただ、衣玖にそんな気持ちがあるはずもなかった。
「何を勘違いしているのかは知りませんが、私は永江衣玖、ただの竜宮の使いです。地上に住む妖怪のように、むやみに人間を襲うようなことはしませんよ」
 語気に力をいれ、怒りまではいかないほどに言葉を強調する。
 下手に勘違いされては困る。ここははっきりとさせておかなければならないところだった。
「竜宮……ってぇと、あんた、龍神さまの使いかい?」
「厳密には違いますが、雲の中を泳いで龍神を見守る存在、といえばそうなりますね。私はこの異常な日照りが少し気になっただけです」
 竜宮の使いの仕事は、緋色の雲を泳いで濃度を測定し、人々に地震の予報を伝えることだ。それ以外のときは思い思いに雲の中を泳いだり、巨大な龍神を眺めたりして過ごしている。そもそも地上に降りてくることすら稀なことだった。
「ふーむ。なら、こっちも元々争う気なんてないさ。すまなかったなぁ。みんな苛立ってるんだ」
 鍬を下ろし、三郎太がバツの悪そうに頬をかいて頭を下げる。
 自分の勘違いだと解れば潔く引く。農民にしては中々に頭の回る人間のようだった。
「いえ。しかし貴方も危険なことをしますね。いくら昼でも人喰い妖怪だったら大変だったでしょう」
 だからこそ、衣玖はその質問を投げた。
 妖怪が闊歩する世界において、自衛する手段を持たないものは喰われてしまう。
 中にはとんでもない力を持つ人間もいるにはいるが、そんな者がどこにでもいるはずもなく、小さな村ともなれば注意して暮らすのは当然のことだった。
 少なくとも得体の知れない妖怪に近づいたり、まして敵意を向けたりするなど考えられない。
 そうしなければならない何かがあるのだろう。
「仕方ないんだ。見ての通りの有様で、皆殺気立ってるんだよ」
 見れば三郎太は頭を下げ、何かを諦めたような口調で呟いていた。
「ずっと日照り続きで作物も駄目になっちまってな。川も干上がって水もねぇ。このままじゃオラたちの村は全滅だ」
 肩を落とし、干からびた田畑を指差して示す。
 それは先ほど、衣玖が空から見て予測した内容とほぼ同じだった。
 干ばつの影響は相当に深刻で、人々は疲弊しているということか。その極限状態が蛮勇にも似た行為に走らせたのだろう。
「なにより、この子は大切なんだ。妖怪なんぞに絶対に取って食わせたりできねぇ」
「随分と過剰な反応ですね。家族子供を守るにしても強い気がしますが」
 続く言葉に含まれている誓いにも似た雰囲気に、疑問を抱いた衣玖が問いかける。
 途端、三郎太は俯いて小さなため息をついた。
 なにやら隠したいことでもあるのか拳を握り締め、じっと地面を睨みつけている。
 しばらく待っていても、一向に答えが返ってくる気配は無い。
 痺れを切らした衣玖は、続く質問を浴びせるために口を開く。

「生贄」
 
 と、押し黙った三郎太の代わりに、みちが答えた。
「え?」
「雨乞いのための生贄。次の満月の夜に捧げられるの」
 思わず聞き返した衣玖の耳に、淡々とした声が返る。
 雨乞いの生贄。その意味が間違っていなければ、みちはもうすぐこの世界の住人ではなくなってしまうはずだ。にもかかわらず、彼女は本来持つべき恐怖すら感じていないように見える。
 なにより、次の満月は明日だった。
「この日照りは、きっと龍神さまが地上を見捨ててしまったんだ。贄があればきっと答えてくれるはずなんだ」
 黙っていた三郎太が口を開き、吐き捨てるように告げる。おそらく、生贄を出すという行為自体を嫌ってのことだろう。
 ともあれ村が選択した行為は、ある意味では正しかった。
 数ある祈祷の中でも、生贄を伴ったものは最大の効力を持っている。中でも人の魂を用いた人身御供は、信仰を通して神にもっとも大きな影響を与えると広く知られていた。
「だから雨乞いの儀式をすることになったんだ。生贄は穢れていない子供でなきゃならねぇ。だがな、他の子はみんな親がいた。この子だけだったんだ、身寄りがなかったのは」
 失われても誰も傷つかない犠牲。それを払うことで雨が得られるのならよろこんで差し出すといったところなのだろう。
 何も不思議なことは無い。どこの村でも、祈祷で効果がないときは都ですら行われるようなものだ。
 ただ衣玖の心には今、少しだけ嫌な気持ちが生まれていた。普段なら気にもしないことで感情が振り回される。ある意味で新しい感覚ではあったが、正直迷惑でもあった。
「っと、見ず知らずのあんたに話すことじゃなかったなぁ。忘れてくれや」
 深いため息をつき、三郎太が身をひるがえす。
 が、足を踏み出す前に再び振り返ると、悔しげな表情を浮かべていた。
 まだ用事があるのだろう。
「なぁ、妖怪さん。あんた雨とか降らせられねぇか? そうすれば、オラ達、この子を贄に出さなくてすむんだ」
 三郎太は俯き、懇願するように告げる。
 それを聞いた衣玖は少しだけ意外に思った。
 親も身よりもなければ、村八分となって追い出されても不思議でない世の中だ。
 にもかかわらず、得体の知れない妖怪にまで協力を仰ぐということは、本当に大切にされていたということか。
 とはいえ己だけの力で、はたして雨を降らすことなどできるのか。
 僅かに考え、衣玖は否定的な結論を出す。
 ただの竜宮の使いが雨を呼べるはずも無い。それは龍神こそが行える雨呼びの力だった。
「おそらく不可能でしょうね。頼みの龍神さまも海の奥底に篭っているらしく、数年間現れていません」
 答えた衣玖は、他の手段を探るように腕を組み、乾いた空を見上げた。
 巨大な体躯に大木の如き手足を持つ龍神は、海や雲の中を泳いでいたり、龍の世界の一部とも言われる竜宮にとどまったりすることが知られている。
 そのため衣玖も雲の中で何度か目にしているのだが、ここ最近はまったく現れてはいなかった。
 他の竜宮の使いも同じようで、時折会っても龍神の動向を聞くこともできない。
 空を飛んでいるのなら雷雨の中で会えるはずなので、今は『彼のお方は海の底で眠っているのだ』という話に落ち着いていた。
「ですかい……」
 答えを聞き、三郎太ががっくりと肩を落とす。
 多少なりとも希望の持てる言葉をかけてはやりたいと思ったが、こればかりは仕方がなかった。
 できないものはできないのだ。下手に安心させるような言葉をかけても誰の為にもならない。
 こればかりは、自分の力だけではどうしようもなかった。
「ただ――出来るだけのことはしてみようと思います。天界にも、つてはありますので」
「え……?」
 衣玖の言葉に、驚いたみちが息を呑む。助けてもらえるとは思ってもいなかったのだろう。
 が、当の衣玖はそれ以上に驚いていた。
 言うつもりなどなかった。ことの騒動に首を突っ込むつもりなど毛頭なかった。面倒ごとに関わりたくも無い。空気を読み、傍観者で居られるならなんでもよかった。
 けれど気がつけば口が開いていた。自分から渦中へと飛び込んでしまっていた。
「ありがとう、頼んます」
 振り返り、深々と礼をした三郎太が集落へと戻っていく。同様に、遠巻きに見ていた男達も散り散りになっていった。
 後に残されたのは、呆然と立っているみちと枯れ果てた田畑だけだ。拒否しようにもする相手がいない。
「さて、どうするか」
 ため息をつき、乾いた空を見上げる。
 言うつもりはなかったとはいえ、一応は事実だった。天界には天候に気を発現させる剣も存在する。管理者である天人が地上に降りてくれば、雨を降らせることも不可能ではない。
 ならば今になって無理だというわけにもいかなかった。
「お姉ちゃん、本当にいいの?」
「ま、乗りかかった舟ですし」
 不安そうな表情でそばに寄ってきたみちを見つめ、衣玖は笑みを浮かべる。 
 地震を伝える時以外は特に忙しい用事も無い。
 ならば少しくらい人間の諸事情に介入するのも悪くはなかった。
「ああ、でも一つだけお願いがあります」
「……うん」
 言葉を聞き、心配そうな表情で見上げてくるみちの頭に、手をおいて優しく撫でる。
 同時に、衣玖は決意新たに空を見上げた。
「衣玖と呼んでください」
「え?」
「それでお相子です」
 相手が名前を教えてくれたのに、自分だけ名乗らない道理は無い。
 なにより、自分と似ているという感覚が、衣玖にもっと知りたいという欲求を与えていた。
「うん。いく、ありがとう」
「まだ雨が降ると決まったわけではないですよ」
「でも、ありがとう」
 やるとは言ったが、結果がでているわけではない。
 感謝される言われもないと考えた衣玖だったが、それでもみちは何度も頭を下げた。
「ありがとう」
 衣玖の瞳を見つめ、とても力強い声で告げてくる。
 本心からの言葉なのだろう。それが心に染み渡り、何か暖かいものが流れ込んできた。
「……ま、まぁ行ってきますね」
 その感触に妙な恥ずかしさを覚えた衣玖は、すぐに地面から浮き上がり、一直線に天界へと飛んでいった。


* * *


 悟りを開いた天人達が暮らす場所、天界。
 地上から切り離された大地の群れは、冥界の遥か上空、どこまでも続く雲海の上に浮かんでいる。
 上空には輝く太陽が浮かび、清浄な空気に包まれた世界を明るく照らし出している。
 岩場からは懇々と清水が湧き出し、いたるところに生える木には決して尽きることの無い桃がなっていた。
「ここは緑が溢れていますね」
 ため息をつき、近くに浮かぶ岩に着地して辺りを見渡す。
 地上を出発してから一時間ほど。衣玖は今、天界の外れへとやってきていた。
「件の剣は厳重に管理されているはずですね。とりあえず比那名居さまに報告しますか」
 目的は一本の剣だった。
 ただの剣ではない。物の気質を発現させて天を操る力を持つという天界の道具だ。天人にしか扱えないと聞くが、それさえあれば地上に雨を降らせることも不可能ではない。
 衣玖の情報によれば、現在その剣の管理を任せられているのが、比那名居と呼ばれる天人達だった。
 彼らは天界でも特に地――地震を封じる要石において特出した力を持つ一族である。元は名居という地震を管理する一族に仕えていた者たちであり、その功績から天人になったため、悟りを開いた他の天人達からは色々と注目の的になることが多かった。
 中でも皆から総領娘と呼ばれる存在においては、素行の悪さからある意味疎まれるような存在になっている。
 衣玖も何度か目にしたことがあるが、確かに普通の天人とは違っていた。
「よし」
 とはいえ、なんにせよ見つけなければ始まらない。今は彼らと接触するのが、何よりも重要だった。
 決意も新たに、天界の中枢に向かって飛び始める。
 と、視界の隅に、なにやら黒い影が走った。
 目を凝らせば、周囲の岩場を人影のようなものが飛びまわっているのが見える。
「あれは……」
 それは少女だった。
 頭に桃のついた帽子をかぶり、体には青と白を基調とした服を纏っている。
 剣を激しく振り回しているところを見ると稽古だろうか。
 詩や踊りで生活を送っている天人とはまったく正反対の行動を取る者といえば、一人しか思い浮かばなかった。
「総領娘様ですね。ちょうどよかったです」
 噂をすればなんとやらだ。彼女こそが、衣玖が探していた天人の一人だった。
 眺めている間にも少女は大地を蹴り、岩がごろごろしている浮き島に飛び移る。
 が、そこで動きは止まっていた。
 ちょうど休憩をするつもりなのか、剣をそばの岩に立てかけると地面に座り込む。
 好都合だった。話は早い方がいい。なにより自由気ままに動く存在だ。今を逃すと彼女を捕捉することは難しい。
 一つ頷き、すぐに声をかけるべきだと判断した衣玖は、もの凄い速さで少女に接近していった。
「こんにちは、総領娘様」
「あれ? 貴方はえーと……竜宮の使いの……」
 衣玖が声をかけると同時に、背伸びをしていた少女が振り返る。
 比那名居天子。比那名居を名乗る天人の中でも一番幼い部類であり、日頃でも特に話題に上ることが多い、荒唐無稽の総領娘だ。
 本来、天人は迷いがなく、温厚で争いを好まないといわれている。
 が、この天子だけは別であった。
 好奇心が旺盛すぎるせいか行く先々で問題を起こし、天人くずれとも呼ばれる始末である。
 こうなっては近い天人以外は誰も構ってくれないのか、天女と戯れていたり、誰もいない場所でぼんやりしている姿を、以前から見かけていた。
「衣玖です。永江の」
「ああ、そう。で、何。なんか用? ちょっと体動かしてたんだけど」
 どうでもいいという様子で答えた天子が汗を拭き、緋色に輝く剣を手に取る。
 間違いない。この剣こそが人の気を発現させるという緋想の剣だ。
 ただ、厳重に管理されているはずの剣がどうしてここにあるのかは解らなかった。察するに、どうやら勝手に持ち出したのだろう。さすがに不良天人と呼ばれるだけのことはある。
 とはいえ、目的のものを見つけた衣玖としてはまったく気にならなかった。
 何より、あとは協力してもらうだけだ。多少変わっているとはいえ、話が通じない相手ではないはずだった。
「時間がありません。単刀直入に言います。貴方の力が必要なのです」
「へぇ」
 言葉を聞いた天子が、僅かに身を乗り出して笑みを浮かべる。
 掴みは悪くない。これならばうまくいくか。一気に畳み掛けてしまおうと決めた衣玖は、小さく咳払いをして天子を見つめた。
「今、地上は酷い日照りで乾ききっています。人々は苦しんでいるのです。雨を降らせてはくれませんか」

「無理ね」

 あまりにも即答だった。
 驚きと共に見つめれば、天子は呆れたような顔をしながら首を振っている。
 もう少し考える素振りくらいあるだろうとは思ったが、それすらない。
 相手が相手のため、多少の抵抗は予想していたが、ここまでとは思わなかった。
「な――ど、どうしてですか!?」
「そんなことして何の意味があるのよ。つまらないだけじゃない」
 衣玖の問いかけに、天子が剣を回しながら答える。
 自分の興味がないことはやるつもりなどないのだろう。たとえ他人が困っていても、それは同じようだった。
 思わずむっとした衣玖だったが、ここで怒っては元も子もなかった。
 なにより相手が相手なので、機嫌を損ねるようなことがあってはならない。
 普段ならまず湧くことの無い怒りの感情を押さえつけ、天子へと向き直った。
 今は何よりも、雨を降らせて貰わなければならない。本来話すつもりではなかったが、衣玖は事の顛末を簡単に明かすことにした。
「ある人間の女の子が、生贄に捧げられようとしています」
「へ!?」
 言葉を聞いた天子が、焦ったような口調で返す。
 意外にも『生贄』という単語で動揺したらしい。
「期限は次の満月、明日です」
「ふ、ふうん。生贄ねぇ」
 勤めて平静を保とうとはしていたが、上ずったような声が全てを台無しにしていた。
「総領娘様?」
「な、ななななんでもないわよ。さっさと続けて」
 なんでもなくはないのだが。本人にいいと言われてしまえばそれまでだった。
 天子にも意外な部分があったということか。今後の為に覚えておこうと胸に刻み込んだ衣玖は、続く言葉のために口を開いた。
「はい。そのため、雨を降らせようと考えました。雨さえ降れば、彼女は生贄に捧げられる必要も無い。人々は安寧を取り戻すでしょう」
 なんとかして天子に気候を操ってもらうのが、衣玖の計画だった。できなければ他の比那名居でも構わない。
 人々が納得し、安心して暮らすにはそれしかない。
 正直、天子には悪いことをしているとは思った。ただ、ここまできて引くわけにもいかない。
 なんにせよ、押していくしかなかった。
「どうして助けようと思ったのかはわかりません。でも、私はあの子を助けたい」
「うん」
 衣玖の言葉を聞くたびに、天子の表情が沈んでいく。
 当初の言葉の責任を感じているのか、その姿からは後悔の念がひしひしと伝わってきていた。
「龍神さまは行方不明です。今地上に雨を降らせられるのは、実質的に総領娘様しかいません」
「……う」
 俯いた天子が緋想の剣を握り、ついに押し黙る。
 しばらく待っても答えが返る気配は無い。そこには深く長い沈黙がある。
 ただ衣玖としては、言いたいことは言ったつもりだった。
 これで駄目なら諦めるほかに無い。無理にやらせるわけにもいかないのだ。
 だからこそ、衣玖は天子を見つめ、静かに答えを待った。

「……でも無理よ。地上を覆う乾気が強すぎる」

 やがて、ゆっくりと顔をあげた天子が震える声で呟いた。
「え?」
「ここからでも感じられるわ。いくら水気を持った存在を切っても、たちまち乾いた気に飲み込まれてしまう」
 聞き返す衣玖にゆっくりとした口調で返し、天子が雲海へと視線を落とす。
 雨にはならないほどに薄い雲は、天界の下から遥か遠くにある幽冥の境まで広がっている。しかしそこから先、現世であり此岸の方角には、ここから目を凝らしても雲ひとつ見ることができなかった。
「で、でも……」
 衣玖は食い下がるように一歩前に踏みだし、天子を見つめる。
 地上に強烈な乾気が満ちているのは解っていた。それでも、やってみなければわからない。
 なにより、今はみちの命がかかっていた。
 何がこれほどまでに自分を突き動かすのかはわからなかった。それでも彼女を救いたかった。
 ここで引けば一人の女の子が生贄にささげられてしまう。だからこそ、試しもしないで無理だと決め付けてしまう行為が許せなかった。
「例えば、天界に成る桃は水気を持っているわ」
 天子が雲海から目を戻し、すぐそばに生えている桃の木を指し示す。
 一瞬、何をするのかと勘ぐった衣玖だったが、緋色の剣を構えた天子の姿が、それを物語っていた。
「見てなさい。ふん!」
 掛け声と共に振りぬかれた剣が、緋色の軌跡を描いて宙をかける。
 すると、木に成っていた桃が真っ二つに切れ、地面に落ちた。間をおかず、落ちた桃の残骸から青白い光が立ち上る。
 それは大きく円を描き、湿り気を伴った風と共に、現世の方角へと飛んでいく。
 が、その色はすぐに大気に溶け、拡散してしまっていた。
 後に残るのは乾いた風だけだ。
「あ……」
「現世を覆っている気は、もう冥界の上空にも入り込んできているわ。もちろん天界にも。桃の持っている水気はとても弱いけど、本来すぐに消えるほどのものではない」
 呆然とするしかない衣玖の前で、天子は剣を腰に戻して振り返る。
 おそらく、水の気を発現させようとしたのだろう。だが今、それは失敗に終わっていた。
「現世の乾気は想像を絶するほどに強い。今のを見る限り、私の持つ緋想の剣じゃ無理。他の奴らでも――たぶん無理」
 唇を噛んだ天子が、ぽつりと呟く。
 悔しさからだろう。硬く握り締められた拳は小刻みに震えていた。
「総領娘様……」
「……ごめん」
 天子は妙にしおらしくなり、俯き加減で答える。
 彼女も気にしていたということだろう。表面はどうあれ、根は優しいのだ。
 普段から不良天人といわれようとも、彼女も彼女なりのまっすぐさを持っている。
 今の衣玖には、それが痛いほどに理解できた。
「いえ、気になさらないでください。他のつても、できるだけ回ってみますから」
 軽く大地を蹴り、宙に浮き上がる。
 たとえ無理だったとしても、他の比那名居にも会う必要があった。
 正式に剣を使う許可を貰うことはもちろん、場合によっては、より強い力で剣を用いることができるかもしれないのだ。
 やるだけのことをやらなければ、今は気が済まない。
「衣玖」
 去り際、天子が顔を上げ、声をかけてくる。
 その瞳の奥には、今までにない決意の輝きがあった。
「はい?」
「その、うまくいえないんだけど……頑張んなさいよ」
「もちろんですよ総領娘様。私は最後まで諦めません」
 当然だった。簡単に諦めたら、やるだけやってみると約束したことが嘘になってしまう。
 何より、衣玖はみちに生贄になってほしくはなかった。
 一つ礼をし、天子に別れを告げる。
 同時に身を翻した衣玖は、他の天人達がいる天界の上部へと飛んでいった。


* * *


 雲ひとつない空が、茜に染まっていた。
 日中は強烈な光で地上を照らした太陽も、過ぎゆく時間には勝てない。その姿は西に傾き、立ち並ぶ山々に隠れようとしている。
 大気に満ちる乾気も、昼間ほどには強烈ではない。大地を照らす明かりも、僅かだが優しさを含んでいるように見える。
 そんな光景を眺めながら、衣玖はゆっくりと飛んでいた。
「……はぁ」
 正直、体が重かった。
 自身が手にしている『成果』を振り返り、ため息をつく。
 回れるだけ回って、結果的に得た答えは全て『不可』というものだった。
 どんな事情があっても、地上へと強制的に介入するのは褒められた行為ではない。そういった理由を掲げられ、比那名居を含む天人は全滅。仕方なく竜宮を回ってみたものの龍神はおらず、竜宮の使いからも有力な情報は得られていない。
 まさに骨折り損のなんとやらだ。自分がしたことに幾分の意味があったとも感じられない。
 このままでは、みちにどんな報告をすればいいのか。そう考えるだけで気がめいった。彼女の悲しそうな顔など見たくは無い。当初は軽い気持ちで引き受けたものだったが、彼女が『生贄』になるという事実が今更になって心に響いてきたらしい。
 彼女はただの人間だ。妖怪である自分には関係ないのだ。そう思い込もうとしても、全ては失敗に終わっていた。
 かつてないほどの迷いが頭を埋め尽くし、気を抜けば時の流れすら忘れそうになる。
 だが時間は待ってくれない。
 そうこうしている間にも、衣玖の目には集落の姿が映り始めていた。
 茜色に染まった空の下には、小さな木造の家が点在している。今は夕餉の支度中なのか、いくつかの家から煙が立ち上っていた。
「はぁ……でも、逃げるのは最低ですよね」
 どんな結果であろうと、伝えないわけにはいかなかった。なにより、みちは待っているはずだ。あの様子では、衣玖を本気で信じていてもおかしくはない。そう考えると、余計に気がめいった。
 二度目のため息をつき、辺りを確認する。
 中央に井戸があり、広場のようになっている場所では、数人の子供達が輪になって遊んでいた。
 ちょうどいいと思った。彼らにみちを呼んでもらえば、話もしやすくなる。なにより、子供のことは子供に訊くのが一番だと判断した。
「もし、ちょっとお聞きしたいことが」
「あ!!」
 が、すぐそばに降り立った途端、子供達は蜘蛛の子を散らすように逃げ去っていった。
 その背中を見つめながら、衣玖はため息をつく。
 予想通りといえばその通りだった。人間から見れば妖怪は異質な存在だ。なにより人を襲うものがいる以上、決して分かり合えることなどないのかもしれない。
 本来はこのあり方こそが正しいのであり、みちのように怯えない存在のほうが珍しかった。
「……」
 無言で周囲を見渡せば、多くの人々が遠くから衣玖を眺めているのが見えた。
 怯えているのだろう。中には木の枝を武器のように構えて威嚇している子供の姿もあった。
「随分嫌われたものですね」
 やれやれ、と手を振り、地面から浮き上がる。
 心が傷ついたわけではない。人の中で生きるつもりも無い以上、嫌われる覚悟は常に持っている。
 何より今更なことだった。
 とはいえ、こんな状態では協力など得られないだろう。直接みちを探した方が早いのは間違いない。
 最後に一つため息をついた衣玖は、高度を上げようと空を見上げた。

「あんたは昼間の……」

 と、その時、遠巻きに見ている人々の中から、一人の男が姿を見せた。
 ぼさぼさの頭にぼろぼろの服、今日の昼間に話した記憶がある。確か三郎太と言ったか。人間にしては柔軟な思考を見せる男のことを、衣玖も確かに覚えていた。
「貴方は確か……三郎太さんでしたね」
「いや、すまねぇ。村の者が怯えちまってるんだ」
「なるほど」
 ゆっくりと着地し、駆け寄ってくる三郎太を迎える。
「いや、あんたが悪いんじゃないんだ。すまねぇ気を悪くしないでくれ」
 話をしても一向に逃げる気配も無い。この男も衣玖を怖れてはいないらしい。
 例外的な事態とはいえ、これは好都合だった。
 他の人間が怯えてしまっている以上、頼れるのは自分くらいしかいない。
 みちの場所を訊くか、伝えてもらうか。どちらにせよ、自分で探す手間は省ける。
 が、衣玖が言葉を発するよりも早く、三郎太が口を開いていた。
「ええと、確か永江さんって言ったな」
「衣玖で構いません」
「そうかい。じゃあ衣玖さん。あんたに話があるんだ。とりあえず、ついてきてくんねぇか」
 衣玖の答えを聞かず、三郎太が歩き出す。
 否定、肯定のどちらにせよ、ここで続きを話すつもりはないらしい。
 他者がいるのがまずいのか、単にゆっくり話がしたいだけなのかは解らない。ただ、もとより断るつもりもなかった。
 みちを探すのはその後でも遅くはない。
 視線を巡らせ、三郎太の背中を確認した衣玖は、静かにその後を追った。


* * *

 
 三郎太の後に続くこと数分。
 人々の視線を逃れるように歩き、やってきた場所は集落の外れだった。
 大小さまざまな石ころが転がった畑は、からからに乾いてひび割れている。
 もうすぐ実りの時期がやってくるというのに、荒涼とした風景が広がっているだけだ。
 これも干ばつのせいかと一人納得した衣玖は、三郎太が立ち止まったのを確認して口を開いた。
「それで、話とは」
「その様子だと、無理だったんだろ?」
「んっ……!?」
 唐突な言葉に、喉につまった空気が変な音を立てる。
 同時に心の奥を突かれたような衝撃で、頭の中が真っ白になった。
 まさか、いきなり核心に触られるとは思わなかった。
 とはいえ気づかれてしまった以上は仕方が無い。
 肯定の意味で小さく頷いた衣玖は、半ば諦めを感じながら口を開いた。
「……人間の癖に鋭いですね」
「顔をみりゃわかる。随分思いつめてるからな」
 三郎太の言葉に、思わず顔を押さえる。
 知らずのうちに感情が出てしまっていたらしい。空気を読むのは得意だが、いざ苦しい局面に立つと細かな部分でボロがでてしまうのは恥ずかしいことだった。
「気にしないでくれんかね。あんたが悪いわけじゃねぇ。でも、オラにはどうしていいのかわからねぇ」
 ため息をついた三郎太が、空を見上げる。
 その横顔に確かな寂しさの色を見た衣玖は、黙って次の言葉を待った。
「話ってのは、みちのことさ。あいつを竜神さまに捧げなければ、村は潰れちまう。捧げたとしても、大切な物を失うことに代わりはねぇ」
 三郎太の言うとおり、みちを捧げなければ雨は降らない。このまま酷い干ばつが続き、集落は壊滅するだろう。
 そうなれば被害は更に深刻なものになる。
 もとより選択肢などないのだ。一人の女の子を犠牲とするか、村人全員で犠牲となるか。答えは嫌というほどわかりきっている。
 けれど、当の三郎太は悩んでいるようだった。
 愚かな悩みだと衣玖は思う。ただ、そう思う自分自身も同じことで悩んでいた。
 一人の女の子を救う。ただそれだけのことができない自分が悲しかった。
「今から二年くらい前のことだ。あいつは身よりもなく、ふらりとここに現れたんだ」
 腕を組み、話し始めた三郎太が、記憶を探るように頭を揺らす。
 みちのことだろう。昔話といったところだろうか。
 彼女は普通の子供たちとは何かが違う。出合ってすぐの話から身寄りがないということはわかっていた。
 ただ、それ以外のことは何一つ知らないに等しい。
 本当は本人の口から聞かなければならないのかもしれない。それでも、衣玖はその先を知りたいと思った。
「二年前……?」
「当時は今以上にぼろぼろな姿でな。山賊か何かに親御さんを殺されて、身包み剥がされて逃げてきたんだろうって思ったよ」
 よくある話だった。
 街道があり、比較的大きな町があるといっても地方の農村や街道は未だに治安が悪い。山賊や妖怪が出没するのもあたりまえのことであり、村が一つ潰れることも決してありえないことではなかった。
「最初は軽い気持ちで受け入れたんだ。追い払えとかいう家もあったが、見捨てられなくてな。結果的にはオラと数人の村人が世話をすることで話がまとまったんだ」
 話から当時のことを全て想像できるわけではなかった。ただ、並ではない苦労があったのだということは推測できた。
 受け入れに反対する人も居たはずだ。にもかかわらず、三郎太は押し切ったのだろう。
「村に住むようになってからは色々手伝ったりしてくれてな。ここにくる前のことは話してはくれなかったが、そんなことは関係ねぇ。今じゃ家族同然だよ」
「なんで、そんなことを私に……」
「あんたに任せたいと思ったんだ」
 言い切り、視線を空から下ろした三郎太が、衣玖を見つめて呟く。
 その瞳には、確かな決意の色が見えた。
「え……」
「あんた、あいつの為に親身になってくれただろ。みちも、あんたを信頼してるように見えた。不思議だよな。会ってほとんど時間も経ってないんだろ?」
 三郎太の問いに、衣玖はみちと会った時のことを思い出す。 
 最初に感じた不思議な感覚は、今でも覚えている。
 近いような、遠いような。少なくとも普通の人間に感じられる類のものではなかった。
 とはいえ、みちからは妖怪のような雰囲気は感じていない。
 おそらく魂が妖怪に近いのだろう。あまりないこととはいえ、人から妖怪となる存在のことは衣玖も耳にしていた。
「それに、オラにはあんたが悪い妖怪には見えねぇ」
「……本気ですか?」
「ああ、オラも妖怪に頼みごとをするなんて、想像したこともなかった。でもあんたは人間の頼みを嫌がることもなく聞いてくれた」
 そこで言葉を切った三郎太が、大きく息を吐く。
 迷っているのか、その拳は左右に不安げに触れている。
 妖怪を心から信頼する人間など、このご時勢ではほとんど存在しない。
 ましてその多くは互いに天敵ですらある。
 多少なりとも心を許そうとすることすら、衣玖としては信じられないことだった。
「だから、あんたに任せたいんだ」
 数秒の逡巡の後、三郎太が顔を上げる。
 何かの結論が出たのだろう。
 そこには、もう迷いはなかった。

「もし今、みちが妖怪に連れ去られても、それはオラたちが予測したことじゃねぇ。『不幸な事故』だったんだ」

『みちを連れて逃げろ』
 三郎太の瞳が、無言のうちに告げている。
 衣玖は心の底から驚いた。
 もしみちが居なくなれば、儀式は行われず、別の生贄が出るまで干ばつは続くだろう。
 苦渋の果てに新しい生贄を選出するか、集落が全滅するという悲劇が待っているだけだ。
 それでも三郎太は『不幸な事故』と言い切った。
 並みの覚悟では言えないことだ。もとより、身寄りの無い子供を捧げることに抵抗を持っていたのだろう。
 そこまで考えた時には、心の中に激しい迷いが生じていた。 
「だから衣玖さん。俺はあんたに任せたいんだ」
 念を押すように告げ、三郎太が視線を逸らす。
「すまねぇとは思ってる。でも、オラはあんたに決めて欲しい。みちは、あいつはまだ畑の方にいるはずだ」
「……わかりました」 
 たっぷり数秒悩んだ衣玖は、小さくうなずいた。
 結局、熱意に押される形だった。
「よろしく頼んます」
 三郎太が深々と礼をし、広場の方角に戻っていく。
 その背中を見送った衣玖は、小さくため息をつき、空を見上げていた。
 このままでは、みちが生贄に捧げられてしまう。
 出合った当初は仕方ないと思っていた気持ちも、今は急速に変わり始めていた。
 無論、頼みを引き受けたとはいえ、今も迷いがあることに変わりはない。
 三郎太が無言のうちに告げたとおり、連れて逃げさえすればみちは助かる。しかし、それは新たな悲劇を生むことにもなるだろう。
 ただ衣玖は、なんとかしてみちを救ってやりたかった。
 これほどまでに自分を突き動かすものが何なのか。それは解らない。
 三郎太に請われたとはいえ、彼女を助けたいという気持ちは本物だった。
 ならば、取るべき行動など決まっていた。
「……よし」
 呟き、覚悟を決める。
 一つ息を吐き、気合を入れた衣玖は、みちがいるであろう田畑の方角へと歩みを進めていった。


* * *


 集落から歩いて五分ほどにある、枯れ果てた田畑。
 ひび割れた大地の上には大小さまざまな石が転がっているだけで、動物や虫はおろか作物の姿も無い。
 そんな荒涼とした風景の中、みちが昼間と変わらない様子のまま、路肩に座って静かに祈りを捧げていた。
 声をかけるか否か。ここまで着てもなお、衣玖の心の中で葛藤が生まれる。
 それでも、今は自分の信じた道を歩こうと決めていた。
「まだここにいたんですね」
「あ、いく。おかえりなさい」
 声をかけた途端、勢いよく振り向いたみちが立ち上がり、駆け足で近寄ってくる。
 ずっと待っていたのだろう。
 だが、これから残酷な事実を伝えなければならない。その宿命に胸が痛んだ。
「みちさん……」
 拳を硬く握り締め、覚悟を決める。
「いく?」
「駄目、でした」
 小さな体を見つめ、搾り出すように呟く。
 途端、三郎太に報告したときよりもきつい重圧が肩にのしかかってきた。
 泣かれるかもしれない。
 ふさぎ込まれるかもしれない。
 その恐怖が、衣玖の心を締め付ける。
「……そっか」
 一言で全てを理解したのだろう。
 みちは顔を上げ、小さく呟いただけだった。
 怒りも悲しみも見せない。本当は生贄になりたくないにもかかわらず、衣玖を罵るような素振りすら見せない。
 一度は期待させておいて、裏切るような真似をしたのだ。本来なら恨み節の一つくらい口走っても当然のことなのに、それをしない。
 衣玖は考える。きっと、みちは本心から己の境遇を受け入れようとしているのだろう。今はそれが堪らなく悲しかった。
「ごめんなさい」
 唇をかみ締め、頭を下げる。
 それで事態が好転するわけもない。ただ、そうせずにはいられなかった。
「いくが悪いわけじゃないから」
 みちが呟き、路肩に座り込む。
 同時に手を組み、祈るような姿勢で空を見上げた。
「本当に悪いのは、覚悟を決められない私のほう」
「そんなことないです!」
 衣玖は精一杯否定したが、当のみちは小さな笑みを浮かべただけだった。
「私ね、この集落で生まれたわけじゃないの。二年前にここに来た。それまでは、ずっと一人でいた」
 小さく呟き、衣玖へと振り向く。
 その顔には、僅かな寂しさの色が見えた。
「当時はすぐに追い出されると思ってた。得体の知れない子供なんて、受け入れてくれるはずが無いから」
 三郎太と話した内容が、頭の中によみがえる。
 戦の時代は終わったとはいえ、妖怪が跋扈し、必ずしも治安がいい世界とは言えない。
 みちは幼いながらもそれを理解しているのだろう。
「でも、みんなは受け入れてくれた。親も身よりもないような子供に食料を与え、家まで貸してくれた」
 小さい笑みを浮かべ、誇らしげに話す。
「嬉しかった。ここにいてもいいんだって、この場所で生きてもいいんだって思えた」
「みちさん……」
「だから、私はみんなが好き。それに、いくも好き」
 衣玖の心臓が跳ね上がった。
「よくわからないけど、それでも好き。だから、助けてくれるって言ってくれたとき嬉しかった」
 みちが繰り返す言葉に俯き、唇をかみ締める。
 衣玖は考える。
 ここまで信頼してくれている相手に、自分は何をしてやれるのだろうか。
 自分が何をなすべきなのか。何を決意してここにきたのか。
 やるべきことなど、一つしかない。みちの言葉がそれを教えてくれている。
 覚悟を決め、拳を握った衣玖は、ゆっくりと顔を上げた。
「逃げましょう」
「え……?」
「貴方を連れて逃げます。天界でも竜宮でも、どこか別の人里にだって連れて行ってあげます。みちさんが安心して暮らせる場所に」
 みちの目を見つめ、しっかりと告げる。
 衣玖は本気だった。
 三郎太に頼まれたからではない。自分の意思で考え、迷い、決断した結果だ。
 目の前の女の子が望みさえすれば、どこにでも連れて行くつもりだった。
 悲しませたりなどしないと誓った。どこまでも守り通す決意があった。

 だが、当のみちは小さく首を振っただけだった。

「なんでですか……」
 意識せずに、泣きそうな声が漏れる。
「空気なんて読まなくたっていいじゃないですか! 貴方が一言逃げたいといえば、私は……!!」
 気がつけば叫んでいた。
 拳は硬く握り締められ、全身が激しく震えている。
 胸を埋め尽くすのは、こらえきれないほどの悲しみだった。
 受け入れられなかったことへの怒りではない。失望でもない。目の前の女の子を失うことがなによりも悲しかった。
 これほどの感情が爆発したのは何百年ぶりだろうか。考えようとしても頭の中は真っ白で、何も浮かんではこない。ただ俯き、唇をかみ締めることしかできなかった。
「いく、違う」
 みちが答え、首を振る。
 同時に伸びてきた小さな手が、衣玖の手を優しく握っていた。
「生贄になるのが嫌なんじゃない。私は、みんなと一緒に居られなくなるのが怖いだけ。また一人に戻るのが怖いだけ」
 はっ、として顔を上げれば、俯いたみちが搾り出すように話しているのが見える。
 しっかりと繋がれた手からは、確かな震えが伝わってきていた。
「どうすればいいのかわからなくて、ただ歩いていた私を、集落の人たちは迎えてくれた。だから私にとっては、生贄になることも、逃げることも、どっちも同じこと――みんなと、一緒に居られなくなるってこと」
 二年前、あてもなくたどり着いた彼女を、邪険に扱うこともなく受け入れてくれた人々がいた。
 その時から、ずっと信じているのだろう。
 彼女にとって、村の人々は家族以上に大切な存在なのだ。
「だから、嬉しいけどだめ」
「です……か……」
 みちの言葉をかみ締め、拳を握り締める。
 自分の想いが届かなかったわけではない。
 そう解っていても、心が締め付けられるように苦しくなる。
 自分ではみちを救うことができないのかもしれない。ひょっとしたら、救う方法なんてないのかもしれない。そう考えると、目の前が真っ暗になったような気分に陥った。
「ねぇ、いく。もしね」
 声に我に返れば、呟いたみちが、真剣な眼差しで衣玖を見つめてくる。
「はい」
「もし、村のみんなを助けられるだけの力があったとしたら、その力を使ったら、大切な人たちに二度と会えなくなるとしたら……いくはその力を使う?」
 それは自身が進んで生贄になるという意味なのだろうか。
 確かに、生贄になって願いを神様に届ければ、大切な人たちには二度と会えなくなるだろう。
 ただ衣玖には、その言葉がなんとなく違う意味に聞こえた。
「正直悩むと思います」
 胸に手を当て、心に浮かんだ言葉をはっきりと告げる。
 衣玖は妖怪だ。大切な人などほとんどいない。緋色の雲を泳ぐ以外は、目的もなく根無し草ともいえるような生活を送っている。
 それでも、守りたいと思うものはあった。
 目の前で誰かが泣いていれば助けたい。そのくらいの度量はある。
 今がまさに、その時だった。
「悩んで悩んで……もし期限があるなら、直前まで考えて、泣いたりなんかして。嫌だって喚いたりして」
 そこで衣玖は言葉を切り、ゆっくりとしゃがみこんだ。
 座っているみちの高さに目線を合わせ、その肩に手を置く。
「でも、きっと私は助けるんだと思います。たとえ自分が多くを失ったとしても」
 小さく笑みを浮かべ、答えた。
「そっか」
 返したみちも、微笑みを浮かべる。
 その笑顔を見ながら、衣玖は考えた。
 みちが問うた質問の前提。もし自分に力があるのなら、何かしてあげられることはないのだろうか。
 本当に何一つないのだろうか。
「誰にも、会えなくなる……か」
 一人呟き、己の手を見つめる。
 ひとつだけ、衣玖は見つけた。
 自分がみちにしてあげられること。自分しかできないこと。
 彼女を少しでも楽にしてあげる方法を、見つけていた。
「あと、みちさんは一つ勘違いをしています」
 不思議そうな表情で見つめ返してくるみちに、優しく微笑みかける。
「誰もいなくなったとしても、私はそばにいます」
「いく……」
「簡単に言うって思われるかもしれないけれど、それでも約束します。私は妖怪ですから、ずっと見守ることもできます」
 みちが全てを受け入れる以上、衣玖にはできることなどほとんどなかった。
 それでもできることはあった。彼女の為にしてあげられることはあった。
 竜宮の使いは雲の中を泳ぐ存在だ。その気になれば三途の川も、彼岸も冥界も天界も、龍の世界すらも行くことができる。
 何十年も、何百年も、頑張れば何千年すら見守ることができる。
 それは自分にしかできない、今のみちのためにしてあげられる、最善のことだった。

「だから、私はずっと、あなたのそばにいます」
 
 その言葉を聞いたみちの顔は、確かに歪んでいた。
 間をおかず、小さな体が思いきり抱きついてくる。
 その暖かさを感じた衣玖は、腕の中のみち抱きしめ、頭に手を置いた。
 やっぱり辛かったのだろう。
 悲しくないはずがない。
 我慢できるはずがない。
 それでも必死に耐え、愛する人たちのために生贄になることを受け入れたのだ。
 己の全てを押し殺し、人々の幸せを願って。
 そう思うと、頬を自然と暖かいものが伝った。
 腕の中では、みちが今も小刻みに震えている。
 衣玖はその背中をさすると、小さな存在が落ち着くまでずっと、頭を撫で始めた。


 それからどのくらいの時間が経っただろうか。
 日は完全に陰り、辺りには闇の帳が降りていた。
 それでも完全な暗闇ではない。空には満月に近い月が昇り、荒れた大地を弱々しく照らし出している。
 宵の初めといったところだろうか。夜になってから、まだそれほどの時間は経っていないようだった。
「いく」
 気がつけば、震えていたみちが顔を上げていた。
「お願いがある」 
「何でしょう」
 おずおずとした様子で問いかけてくるみちに、優しく頭を撫でて答える。
 どんな願いだとしても聞くつもりだった。
 自分にできることなら――たとえできなかったとしても努力するつもりだった。
「何でしょう」
 言葉を返すと、みちが再び抱きついてくる。
「明日まで――儀式まで、一緒にいてほしい」
「お安い御用です」
 衣玖は涙を拭き、笑顔で答えた。


 その後、衣玖はみちと一緒に、一度集落へと戻った。
 一連の報告を受けた三郎太は、ただ黙って聞いていただけだった。
 それでも、最後に見せた頷きは、全てを受け入れた男の姿に見えた。

 再び田畑に戻った二人は、ただ取り留めのない話をした。
 集落で暮らすようになって初めて貰った仕事の話や、嬉しかった思い出、悲しかった思い出。畑の真ん中で、みちが淡々と話すそれらを、まるで十年来の友人のように、ただ時間を忘れて聞いた。

 二時間ほど話した後、集落に帰ると、人々がささやかながらも別れの宴を準備していた。
 水もなく、食料もほとんど無い状況にもかかわらず、宴の席には多くの食べ物や酒が並んだ。
 いくら三郎太が人々を説得したとしても、既に飢饉が見えている現状では、考えられないことだ。
 つまるところ、みちのことを想う人間が多くいたことの証だった。

 夜も更けて、宴は解散となり、衣玖はみちの家に向かった。
 わらぶき屋根に折れ曲がった木造の柱。壁の所々には穴が開いており、地震でもくれば倒れてしまいそうな家屋だった。
 それでも、みちは胸を張って、自慢の家だと言った。
 あちこち壊れてはいるが、愛着があるのだろう。
 狭いながらも暖かい部屋の中で、衣玖とみちは寄り添っていた。
 夜が更けても、藁で作られた小さな布団の中に入り、ぼんやりと天井を見つめながら他愛のない会話をした。

 気がつけば、いつしか二人とも眠ってしまっていた。

 夜が明けても同じだった。
 日が昇って、傾き始めて、やがて沈んで……。雨乞いの儀式に向かう時まで、衣玖はみちと共にいた。


* * *


 運命の夜が来た。
 雲ひとつ無い空には綺麗な満月が浮かび、枯れ果てた地上を照らし出している。
 昼間は熱気が支配していた大気も、夜になればいくぶんかすごしやすくなっている。今は太陽の熱が嘘のように、涼しさすら感じさせていた。
 そんな中、衣玖は松明を手にした男達と共に、荒れた坂道をゆっくりと上っていた。
 すぐ隣には、しっかりと手を繋いだみちの姿もある。彼女はいつものぼろぼろな服ではなく、今は真新しい白装束を身にまとっている。
 生贄に捧げられる者は清くなくてはならないという思想がある。その理由から僅かな水で行水をし、髪も綺麗にまとめられていた。
「……」
 無言のまま、歩くみちを見つめる。
 その姿を見ながら、衣玖は願っていた。
 生贄に捧げられるということが嘘であってほしい。
 雨が降ってほしい。
 このまま目的地にたどり着かないでほしい。
 それらの一つでも実現すれば、どれほどいいことか。
 ただ、それが決して成就しないことも解っていた。
 逃げることもできなかった。
 何より彼女が選び、決めたことだ。
 人々の幸せを願って決めた以上、衣玖にできるのは、最後まで見届けてやることしかなかった。
 誰一人言葉を発せず、一団は坂を登り続ける。
 ここまで来ては、みちが暮らしていた家も集落も見えず、あたりには枯れたような木がまばらに存在しているだけだ。
 やがて、一行は目的地にたどり着いていた。
 儀式が行われる場所は、人々の間で『龍神の滝』と呼ばれる場所の上側だった。
 集落から歩いて一時間ほどの距離にある滝は、その名の通り荘厳な雰囲気を称えている。
 普段は豊富な水をたたえているはずの川も、続く干ばつで干上がり、ごつごつした川底を覗かせている。
 それは滝も同様で、轟音を立てて流れ落ちるはずの水も見えず、覗き込む先にはぽっかりとした暗闇が口を広げていた。
「これより、雨乞いの儀式を取り行う」
 松明を掲げた男――三郎太が低い声で告げる。同時に、その場にいる全員に緊張が走った。
 生贄の儀式自体は至って単純だった。
 白装束に身を包んだ生贄が、滝の上から下へ飛び降りるだけだ。
 が、滝の高さはゆうに二十メートルを超えている。生身の人間が耐えられる衝撃ではない。
 しかも上から流れ落ちる水がなく、滝つぼに溜まっているものもない現状では、みちが無事である可能性は限りなく低かった。
 この場にいる全員が、その現実を理解しているはずだ。
 それでも、生贄の儀は行われる。
 魂を用いた雨乞いである以上、みちは死ななければならない。
「贄の娘よ。前へ」
 崖の傍に立った三郎太が、僅かに震える声で呟き、手招きをする。
「はい」
 小さく、けれどもはっきりと頷いたみちが、ゆっくりと足を踏み出し、滝の方角に歩き始めた。
 すぐに両者が離れ、衣玖の手が行き場を失って宙をさまよう。
 小さいながらも重いものを背負った背中は、もう行かなければならないのだということを、無言のうちに語っていた。
「みちさん……」
「いく、わがままをきいてくれてありがとう」
 滝のすぐ上まで歩いたみちが、振り向いて一礼し、小さな笑みを浮かべる。
 ただ、それが本心からのものでないことは簡単に想像できた。
 衣玖は考える。彼女は辛いはずだ。
 それでも笑っている。今泣いたら全てが駄目になってしまうから。何より、村の人々がこれ以上悲しい思いをすることなど、みちがするはずもなかった。
「みんなもありがとう。今日までありがとう」
 男達は答えない。皆ただ黙って俯いているだけだ。
 それでも、みちは優しげな笑顔を浮かべた。
「行くね。ここでお別れ。さよなら」
 衣玖のほうを振り向き、再度一礼する。 
 それを見た衣玖は、一歩足を踏み出していた。
 儀式に介入しないと決めていた。
 何を言っても、みちのためにはならないと思っていた。だから口は出さないと決めていた。
 それでも、我慢できなかった。
 最後くらいは優しく見送ってあげたかった。
「さよなら、じゃないですよ」
「え?」
 不思議そうな顔をしているみちに、笑顔で返す。
 
「またね、です」
 
 みちの顔が僅かに歪んだのを、衣玖は見逃さなかった。
「うん。いく……またね」
 笑顔で答えたみちの目から、透明な雫が流れる。
 それを隠すように崖に向き直ると、間をおかずに崖の向こうへと飛び出していった。
「みちさん!!」 
 反射的に伸ばした手が、何も捕まえられずに空をきる。
 同時に小さな白い姿が闇に消え、辺りに静寂が戻った。
 時折吹きぬける風以外に、動くものはない。
 そんな中、衣玖はひざを付き、ただ虚空を凝視した。
 生贄は捧げられた。小さき命は失われた。
 魂の響きは天の気を動かし、どこかで眠っている龍神すら甦らせるだろう。
 早ければ夜明けにでも効果が現れる。
 だが、男達は嬉しそうなそぶりも見せず、呆然としたまま闇を眺めているだけだ。
 衝撃を受けているのだろう。小さな子供を生贄にしなければならない無念さは、言葉にしては言い表せないほどのものがある。
 その姿を静かに眺めていた衣玖は、場を離れるために立ち上がった。
 これ以上、ここの場にとどまる必要もない。
 贄に捧げられた魂は、彼岸には向かわずに捧げられる対象のもとへと向かう。
 多くは神であり、今は龍神のいる場所だった。そこで込められた願いを届けるのだ。
 みちの体から抜け出た魂は、すぐに上昇して竜宮や深い海へと向かうだろう。
 その先には、願いを聞き届ける存在がいる。
 彼女の魂を追おう。
 決意し、衣玖はゆっくりと空を仰ぐ。
 
 その時、辺りを激震が襲った。
 
 大地だけではない。今は空気までもが激しく振動し、まるで沸騰するかのように泡だっている。
 驚いて見上げれば、あれほど晴れていた空が急速に曇り始めていた。
 満ちていた乾気は急速に失われ、湿り気を帯びた大気が周囲に満ちてくる。
 ただ事ではない。劇的な変化を察知した衣玖の頭はただ焦っていた。
 いくら生贄を捧げたにしても効果が早すぎる。何より、得体の知れない振動が不気味さを際立させていた。
 激しい揺れが足元を襲い、その場に居る男達がしりもちをつく。
 間一髪で浮き上がった衣玖は、その様子を呆然と眺めた。
「一体、何が……」
 さらに轟音が響き、一際大きな振動が大地を揺らす。
 同時に巨大な物体が、滝つぼから天を目掛けて立ち上った。
 大木のように太い胴体、丸太のように太い手足。表面が緑色の鱗に覆われた体は、どこまで続くか解らないほどに長い。
「龍……神さま……?」
 物凄い速度で天に昇っているため頭こそ見えなかったが、それは龍神の姿に間違いはなかった。
 あまりに唐突な事態に、衣玖は呆然としたまま呟くことしかできない。
 それは他の人々も同じだった。口を開け、唖然とした様子で立ち上る体躯を見上げている。
 呆気とられているうちに、細長い尻尾が空に上り、立ち込めた黒雲の中に消える。
 途端、滝のような雨が地上目がけて降り注いできた。
 あちこちで轟音が鳴り響き、稲光が空を駆け巡る。
 そこでようやく我に返った衣玖は、蠢く暗雲の中に翡翠のような煌きを目にしていた。
「みちさん……?」
 呆然と呟き、空を見上げる。
 間違いない。みちだ。
 彼女こそが龍神だったのだ。
 滝つぼから立ち上った姿と、これだけ早く雨を降らせたという事実から考えて、それしかありえない。
 ただ疑問もあった。
 どうして地上に龍神がいたのか。何故雲の中に、海の中にいなかったのか。
 龍神は孤独な存在である。
 あるときは雷雲の中に住み、あるときは深い海の底に住む。
 ただ、そこに交流できるような存在はいない。竜宮の使いは離れた所から眺めているだけで、直接会話をすることもない。龍神はいつも雨を降らせ、嵐を起こし、人々の暮らしを見守るだけだ。
 そんな環境におかれたからこそ、みちは人の中で生きてみようと願ったのだろう。
 だが、妖怪と人は異なるものである。それと同じように、神様も人と対等には暮らせない。
 うまく溶け込めたとしても、もし本来の姿を見せたら、二度と人の中には居られない。畏怖と尊敬の中で暮らすことなど、彼女は望みなどしないだろう。
 集落に近い場所で力を解放するということは諸刃の剣だ。みちにもきっと解っていたはずだ。
 変わらない環境などない。ずっと人の中で暮らしていけるはずはない。それでも彼女は願っていた。
 最後の最後まで、龍神としての力を使うか否か迷っていた。だからこそ昨日、彼女は衣玖に問うたのだ。
「……みちさん」
 雨の降りしきる空を見上げ、小さく呟く。
 彼女がどんな思いを持って人の前に現れ、決断したのか。今の衣玖には、確かに解っていた。
 
「雨は降ったがもう駄目だ……村は終わりだ……」 

 が、急に一人の男が泣きだした。
 土下座し、大地に頭をつけて震えた声をあげる。
 それが始まりだった。
「ま、まさか龍神さまを生贄にしたなんて……」
「粗末な食べ物しか捧げられなかったですが、許してくだせぇ」
 最初の懺悔を皮切りにして、全員が頭を垂れ、天にひたすら祈りを捧げ始める。
 龍神は再生と同時に破壊の象徴でもある。怒りを買えば小さな集落など簡単に滅ぼすことができる。
 だからこそ、彼らは怖れたのだろう。

 だがその瞬間、衣玖の怒りは頂点に達していた。

「やめてください!!」

 全力で怒鳴った。
 怒りに呼応するように稲光が走り、周囲の空間が帯電する。
 同時に驚いた村人達が跳ね起き、驚きと恐怖の混じった視線で衣玖を見つめた。
 怖れられてもよかった。嫌われてもよかった。
 ただ、どうしても今だけは我慢できなかった。
「あの方は……あの子はそんな謝罪なんて望んでいません!」
 全ての想いを込め、呆然としたままの男達に向かって叫ぶ。
 みちは何よりも人間が好きだった。
 自分を受け入れてくれた集落の人たちに感謝をしていた。
 この土地で過ごした二年間を失いたくないと、しきりに言っていた。
 だからこそ耐えられない。
 人間と対等な立場で過ごし、最後までそれを望んでいた彼女に対し、畏怖と尊敬を返すような真似だけは許せなかった。
 それは、最大の侮辱以外の何物でもない。
「……そうだ。そうだった」
 座り込み、衣玖を見上げる人々の中から、突然立ち上がった男が震える声で呟いた。
 あの三郎太だった。
 ふらふらとした様子で崖の方角に歩いていくと、天を見上げ両手を広げる。
「みち、聞こえてるかぁー!? オラ達、待ってるからな!」
 三郎太の声に反応するかのように、遠雷の響きが周囲を揺らす。 
「龍神さまだろうとなんだろうと、お前が暮らす家はここしかねぇんだ。ずっと、ずっと待ってるからな!!」
 二度目の叫びが響いた後、もはや、みちに向かって許しを請う者はいなかった。
 皆、黙って空を見上げていた。
 同じ空を見上げ、衣玖は考える。
 みちは幸せだったのだろうか。
 彼女はずっと孤独だった。
 海の中にいるときも、空の雷雲の中を泳ぐときも、ずっと孤独だった。
 だから、誰かと一緒に歩きたいと願った。
 そして、今その儚き願いは終わりを告げた。
 彼女は空に帰り、人々の間には恵みの雨と悲しみが残された。
 それで、本当に幸せだったのだろうか。
 気がつけば、滝のようだった雨は、いつしか弱い雨へと変わっていた。
 もはや龍神の姿も見えない。雷も聞こえず、鉛色の雲がどこまでも広がっているだけだ。
 それでも、衣玖は空を見上げた。
「ずっと、そばにいますから」
 決して彼女を孤独にはしない。
 その約束を胸に、いつまでも空を見上げていた。


 豪雨と暴風は龍神の象徴であり、雷は激しい感情のあらわれであるという。
 この日降った優しい雨は、彼女が流した涙、だったのかもしれない。

最後まで読んでいただき、本当にありがとうございます。
合計52kb。ちょっと長かったかもしれませんが、楽しんでいただけたなら幸いです。
今回書くにあたり、色々と初心に返り全力を尽くした次第であります。
今はこれが精一杯。

内容について
てんこかわいいよてんこ
きゃーいくさーん
みっちゃん

この作品は、以上の成分からできています。
特にてんこ。
てんこあいしてる。

あとなんかこう、包容力のある衣玖さん。
白蓮さん並みの包容力とかあると夢想してみる。
やばい。俺の妄想で衣玖さんのお姉さんゲージがやばい。

なにはともあれありがとうございました。
この場を提供してくれた管理者様に。そして読んでくださった皆様に感謝の言葉をこめて。

1月17日追記
こんぺ結果発表です。皆さんお疲れ様でした。読んでくれた皆さん、コメントしてくれて点数をつけてくれた皆さんもありがとうございました。この場を提供してくれた管理者様にも、ただただ感謝です。

この後、数日ほどお時間を頂きまして、お一人お一人にお答えを返していこうと考えていますが、まず先にご指摘いただいた誤字のほうを直させていただきます(desoさんありがとうございます)

それでは一旦これにて結びとさせていただきます。


お待たせしました。以下コメントとこめんと返しになります。

はじめに
私は基本的にはじけるようなセンスや、東方のキャラの魅力や、綺麗な文章といった
他の作家さん達が持っている力というものを、あまり持っていません。
私の中で東方キャラは勝手に動いてはくれません。整合性を取るためにはプロットを作る必要があり、どうあがいても私が動かして物語を作るしかないのです。
なので今回、こんぺのほうに初参加させてもらうことになったとき、初心に返って全力投球すると決めました。
ただ書いたのでは間違いなく駄目です。目的が必要でした。
だからこそ王道を王道として完全に書ききる。それしか他の参加者さんに匹敵することはできないと考えたのです。
こんぺですから上目指したいですし(笑)もちろんそれだけではありませんが。
そのため物語は非常に解りやすく、またこういったお話に多く触れている方にはすぐに結末を予測できてしまうものになってしまったのかもしれません。
それでもなお、僅かでも読んでくれた皆さんの心を動かすことが出来たのなら、これに勝る喜びはありません。
長くなりましたが、これが今回のコンセプトです。こんぺという場で多くの方が読み、これだけ多くの方が評価してくれたという事実で私は幸せです。
本当に、ありがとうございました。

以下、皆様へのお返事となります。

>>バーボンさん
ありがとうございます。一番気を使っている部分が、読者さんが地の文が読みづらかったらどうしよう、なので苦ではないといっていただけで嬉しいです。
結末がわかりやすいのは仕様となっております。伏線がわかりやすいのは……はい、お察しください。
先に書いたことが全てであります。王道で勝負したので……。

フォントと文字の大きさを変えたのは、全ては読みやすさのためです。
日頃そそわとかで感じていましたが、横読みの場合、文字数が多かったり大きさが小さかったりすると疲れます。
HTMLで出す場合、大抵の方は会話文と地の文を分けて行間を空ける等の処理をしていますが、なんというか、私にはつまらないプライドがありまして、こうして小説として空けるべき場所以外はぎっしりなわけです。いやはやお恥ずかしい。
でもやっぱり読んでくれる方にも負担をかけたくないので、できるだけ疲れないようにとした結果です。
長くなりましたが、以上がご説明となります。

>>shinsokkuさん
楽しんでいただけたようで幸いです。
緋でチャージして脳内妄想バリバリでプロット立てて書いたのですが、それがよくもあり悪くもあり。
本当は『原作どおり』の衣玖さんのほうがいいのかもしれませんね……。
とはいえ可愛い衣玖さんと感じてもらえて光栄です。

>>神鋼さん
満点評価ありがとうございます。恐縮です……。
あ、中盤で予想ついちゃいましたか……。
王道直球勝負ではありますが、できるだけ伏線はわかりにくくしようとしたのです。
結末わかりやすくするとどうしても、ってのは言い訳ですねはい。

>>nnsさん
満点評価ありがとうございます……。続くと恐縮です。いやはや、いいのかな(笑汗)
今回、お話を純粋な王道で書いたので、それがツボに入っていただけたのならこれほどの喜びはありません。

>>文鎮さん
楽しんでいただけてよかったです。
できるだけ先が読めないようにとは思いつつも、王道で勝負する以上はやはり限界があるのかと、最近感じております。
なので最近は先が読めても面白い話を、とか考えて書いてますね。王道を王道らしく、と。それがアレな方も多いみたいですが。

>>いすけさん
衣玖さんが魅力的と言ってくださって感激です。
私の書くSSは、よくキャラが無理やり動かされているとお叱りをうけます。
物語の整合性を取る以上、限界もあるのですが……。何はともあれありがとうございました。

>>藤木寸流さん
展開については、王道において致命的な欠点となりえる冗長性を極限まで排除し、必要最小限と思われるだけにしてあったりします。減らしすぎても物語が駄目になりますし、増やしすぎてもだめなのですが、楽しんでいただけたと言うことは成功だったのでしょう。読んでいただけで感謝感謝です。

>>静かな部屋さん
三郎太は地味に熱いキャラです。この熱さこそが王道の一部。
蛇足追記になってしまうかもしれませんが、一応「みちフォルム」の時も使えます。
使ってもいいのですが、周りにばれちゃうほどの力だってことでひとつ。

>>zarさん
衣玖さん可愛いですよね衣玖さん。
なんというか、可愛くて綺麗で熱いお姉さんを書こうとしたらこうなりました。
普段は冷静でも胸には熱い何かを秘めてるみたいな。求めるところは綺麗なお姉さんです。

>>白錨さん
最初、龍神だそうかどうか悩みました。雨ですし、他の方も出してくるかなと。
でもまぁ王道で始めた以上、王道で突き進むしかないかと思いましてこうなりました。
楽しんでいただけたようで幸いです。ありがとうございました。

>>パレットさん
個人的なアレですが王道は先が読めやすく、書きすぎるとすぐに冗長な部分が発生してしまいかねません。
その結果が、大事な部分が地味に足りないという結果に繋がったと思われます。
決して完成が鈍いとか読解力がたりないとかじゃないです。実際にその通りです。
今回初心に返り、皆さんと全力でぶつかるにあたり王道を書ききったつもりでしたが、まだまだ足りてませんでしたね。
もっと精進せねば。
てんこはウブなだけです。てんこかわいいよてんこ

>>椒良徳さん
読んでいただきありがとうございます。
やはり気をつけても足りない部分は生まれますね……冗長を怖れた結果でもあるのですが。
次にシリアスな作品を書く際はもっと掘り下げてみようと思います。

>>ホイケヌさん
ああ、せっかくご感想を貰ったのに、文字化けしていて読めない……。
いいお話でした、しか解読できませんでした。でも楽しんでもらえたようで幸いです。
ありがとうございました!

>>詩所さん
本来は何の意味も無い宗教行為ですが、東方自体もある意味非日常ではあるのでプラスの意味を含めてみました。
生贄が何の意味も無い犠牲だとは、私は思えないもので。
てんこかわいいよてんこ

>>零四季さん
基本王道なので、ちょっと伏線はってもバレバレになっちゃうかなとあまり張ってませんでした、はい。
みえみえのアレもなんか悲しいですし。そんな状態でも、わかる人にはわかっちゃうんですよね。
できるだけ先が読めないように、読めても面白いようにはしてるはずなんですけども……。
はい、衣玖さんはお姉さんです。お姉さん以外にありえません。

>>desoさん
いいわけになっちゃうかもしれませんが、あんまりえぐくしても仕方がないかなと思いまして……。
このお話が伝えたいのは飢餓の酷さではないので……(マクガフィンと言ってくれている方がいますがそんな感じです)
ワンクッションいれるべきなのは確かです。参考にさせていただきます。ありがとうございます。

>>やぶHさん
なるほど、最初に印象付けることによって謎を与え、更に孤独な龍神を演出するわけですね。
確かに効果的です。とするともうちょっとこの王道路線をなんとかしなければ……すぐにネタバレしてしまう。
まぁ、ばれても面白いものを書けばいいんですよね!

>>2号さん
リアリティを追求するならば村人の皆さんとか、本当はもっとすさんでるほうがいいのかもしれませんね。
常識的に考えて子供を保護するはずもありませんし、飢饉になったらまっ先に手間のかかる子供や老人は排除されるでしょう。
いい面、悪い面を持った人間を書くのは好きですが、悪い面のみの人間を書くのは辛いですね。
それができてこそなのでしょうが……。
何はともあれありがとうございました。

>>八重結界さん
純なてんこはジャスティスです。本当は素直な良い子なんです。
衣玖さんについてはちょっと人間臭くしすぎたかと思ってたりします。
途中から妖怪だってこと忘れて書いてたかもしれません。

>>時計屋さん
今回の目的は、一番上にあるとおり『王道を王道として書ききること』でした。
それでしか他の皆さんに匹敵するものは書けないと考えたからです。よって長所と欠点がモロにでています。
王道ゆえに、だらだら書くと冗長性がすぐに生まれます。いいわけですが失敗しました。
今回、物語がただ王道であるだけでは駄目だと言うことを痛感した次第です。
そろそろ、どう書くか、ではなく、何を書くか、にシフトするべきなんでしょうね。

個人的なものですが、無駄な死はないと考えています。東方はある意味非日常ですし、妖怪も亡霊も神様もいます。
ということは、命を捧げた願いが届かないというほうがおかしいと個人的に考えてしまったわけです。
まぁ生贄も干ばつも、雨ですら大切な一つのテーマを伝えるための道具ではあります。その点では何でも良いのでしょうね。本当は雨がテーマなのに……。

>>木村圭さん
げふっ。ら、らめぇ。それいっちゃらめぇ。
物語の根底を覆す指摘です。それをいっちゃあおしめぇよ。
ま、それが全てなんですけどね……。

>>鼠さん
王道ですので、ある意味で覚悟してはいます。隠そうと思って隠し通せるものでもありません。
先が読めても面白い話を書こうとはしていますが、その方面のありとあらるゆ展開を知り尽くしている方には通じません。
つまりは、これが限界と言うことです。衣玖さんの違和感については一番上をご覧ください。
もっと精進しなければいけませんね。そろそろ王道以外を書くべきかもしれません。
西風
作品情報
作品集:
最新
投稿日時:
2009/11/21 02:33:44
更新日時:
2010/01/21 02:05:48
評価:
21/21
POINT:
140
Rate:
1.50
1. 8 バーボン ■2009/11/23 17:39:39
後味の良いハッピーエンドで、長めの文章も地の文が丁寧で苦じゃありませんでした。
ただ、少し伏線が露骨で結末がわかり易過ぎました。もっとも、この話の流れからしてしょうがないのかもしれませんが。
それと、これは自分の採点基準とは関係ないのですが、文字のフォントや大きさを変えたのは何故でしょうか? イマイチ意図が掴めませんでした。
2. 8 shinsokku ■2009/11/26 20:05:00
お見事!
随分お熱い衣玖さんだなーと思っていたら納得の落とし所でございました。
これはかわいい
3. 10 神鋼 ■2009/12/01 03:24:02
あまりにもご都合主義な話なうえに中盤で先の予想がついてしまいました。
ですがキャラの感情が怖いほどに伝わってきてとにかく心を揺さぶられました。
このような作品を読ませていただき本当にありがとうございます。
4. 10 nns ■2009/12/08 17:01:33
まさかみっちゃんが竜神とは
5. 7 文鎮 ■2009/12/09 02:13:05
途中で先が読めてしまいましたが、それでも楽しんで読むことができました。
必死に動く衣玖さんかっこいいです。ちょっとだけ出てきた天子も良い味を出していたと思います。
6. 8 いすけ ■2009/12/25 05:24:26
いいお話でした。
衣玖さんが魅力的に描かれていたと思います。
7. 7 藤木寸流 ■2010/01/04 01:18:25
 なんとなく、みちが龍神であることは察せられましたが、そこに至るまでの展開が良い。衣玖の心の動きが人間くさくて、でもその揺らぎがこそばゆくて素敵。
 最後には、少し寂しく、少しだけ悲しい気持ちになりました。
 それが心地よいというのも、業が深い感情ではあるのですが。
8. 8 静かな部屋 ■2010/01/06 11:09:36
三朗太ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!

あれ?龍神様は、みちフォルムの時には力が使えないのか?
9. 8 白錨 ■2010/01/10 00:53:36
キャーイクサーン。この文章を読んで衣玖さんの評価がぐんと上がりました。
謎の少女と妖怪に対する人の態度。地味な活躍をしている三太郎。構成。頑張る衣玖さんと、色々なパーツが高水準だった作品だと思います。
竜宮の使いと龍神様も組み合わせもナイスでした。
10. 3 パレット ■2010/01/10 04:50:09
 騙された、というわけじゃないけど、なるほど龍神さまかぁ。意識してませんでした。
 みちの過去、厳密にはみちの孤独がですが、もうちょっと書き込まれてたらより良かったかなと個人的には思うかもです。「みんなと一緒にいる」ことが大切だというのは伝わってきましたが……。
 うーんなんと言いますか、「大切な人と逢えなくなる」という孤独に関してはきっちり扱われているけど、みちが人の中で生きてみようと思ったそもそもの前提、「龍神は孤独な存在である」という方の孤独に関しては、あまりきっちり扱われてなかった気もするなぁと。そうすると、「みちは実は龍神であった」というオチの意味がよくわからなくなったりも。
 ……とそんなふうに思ったのですが、あくまで個人的な感想なので読み流していただければ。私の鈍い感性や読解力の不足のせいかもしれませんし。
 あと、天子が生け贄という言葉で動揺するのは何かの伏線かと思っていたら純なだけだった。てんこちゃんかわいいよてんこちゃん
11. 7 椒良徳 ■2010/01/11 17:26:26
これは手堅くまとまった中編ですね。お見事です。
ただ個人的な好みの問題ですが、もう少しみちと衣玖さんの心の交流を丁寧に書いてあったほうが、
さらに心に響いて良かったかなと思います。
そこの掘り下げが足りず、涙ウルウルの傑作には及ばないということでこの点数で。

またこれからも、良い作品をお書きください。
12. 8 ホイセケヌ ■2010/01/13 15:21:28
、、、、、ェヤ彫ヌ、キ、ソ。」
、ハ、、ネ、、、ヲ、ォ。「メツセチ、オ、、ャ、ネ、ニ、篳ヒ馮ウ、、。」、、、、メ簧カ、ヌ。」モラ、萢シソシ、ャヒス、ソ、チ、ヒス、、、ソ、癸「ホユZ、ヒノマハヨ、ッネ、゙z、、ヌ、、、ア、ソ。」
ネヒオト、ヒフラモ、マ、筅テ、ネ、メ、ヘ、ッ、、ニ、、、壥、ャ、キ、ソ、ャ。「フラモ、ャソノ摂、ッ、ニ、荀テ、ソ、ハ、鯡ヒキス、ハ、、。」、ニ、、ウ、「、、、キ、ニ、。」
13. 5 詩所 ■2010/01/13 21:50:06
 非倫理的なことが成り立ってしまうことが宗教観の怖いところ。
 あと、天子はかわいい。ぜったいかわいい。
14. 7 零四季 ■2010/01/13 22:51:45
超展開だけれど、良い話でした。個人的にはもうちょっとみちについての伏線があっても良かったかなと思いました。
衣玖さんのお姉さんイメージには全面的に賛成いたします。
15. 4 deso ■2010/01/14 01:35:06
日本昔ばなしのような、優しいお話でした。
ただ、生贄というきつい題材を扱う割に、軽く感じられます。
それが作者さんの意図なのかもしれませんが、飢饉の悲壮さはもっと濃くしてもいいんじゃないかと。
あと、細かいところですが、
>ただ疑問もあった。
からすぐに回答が書かれてるので、衣玖が気付くワンクッションを入れるかした方がいいと思います。
誤字:緋色の雲を泳ぐ意外は→以外
16. 7 やぶH ■2010/01/14 23:54:34
そう来たかー! と真相が読めませんでした。でも、がっかりする結末ではなく、むしろスカッとしました。ただ、少し伏線があったらいいなーとも思いました。

 あるときは雷雲の中に住み、あるときは深い海の底に住む。
 ただ、そこに交流できるような存在はいない。竜宮の使いは離れた所から眺めているだけで、直接会話をすることもない。龍神はいつも雨を降らせ、嵐を起こし、人々の暮らしを見守るだけだ。

この部分を後付の説明ではなく、序盤に衣玖さん視点で場面を設けて、実際の出来事として書いてみてはどうでしょう。
何故龍神は動かないのか、という疑問が明確に読者に与えられる気がします。……的はずれな意見かもしれないので、あくまで参考程度にどうぞ(==;
17. 8 2号 ■2010/01/15 08:42:54
とてもよかったです。
みんないい人すぎないか?とか思いながら読み進めましたが、そんな奇跡もいいですね。
みちが不思議な雰囲気がしたのも、いい子過ぎたのも納得です。
いい話を読ませていただきありがとうございました。
18. 6 八重結界 ■2010/01/15 13:42:14
 一人の子供に拘る衣玖さんの葛藤もさることながら、素直な天子というのに目が引かれてしまいました。天子可愛いですね。
19. 5 時計屋 ■2010/01/15 22:01:33
 そつが無い、丁寧なSSでした。
 衣玖を視点に据え、きちんと起承転結を踏んだ手堅い構成です。
 初心に返られたというお話ですが、その目標とするところは見事に達成されているのではないでしょうか?
 ただ、物足りない部分があったのも事実です。
 文章そのものの面白味とか、衣玖とみちの心が近づく部分の描写があっさりしていたところなど。
 あくまで私見ですので、参考にしていただければ幸いです。


 以下は蛇足なのですが。
 人身御供というシステムが有効性をもって語られているので、ちょっと引っかかりました。
 ですが、その是非に主眼が置かれているわけでもないし評価に含めるのは無粋だと思い直しました。
 こういうのをマクガフィンとかいうのでしょうか……。
20. 3 木村圭 ■2010/01/15 22:56:32
みちこと龍神様が人間に化けて地上をほっつき歩いてなかったら、ここまでの異常な干ばつが起きたりしなかったんじゃないかと邪推。
21. 3 ■2010/01/15 23:37:03
衣玖さんがこんなに人間味あるのが違和感だが、これは個人的な意見というところで。
悪くはないのだろうけど傑出する所も無く、悪い言い方をすると「どっかで読んだ話」一歩手前
生贄が龍神だったというのが読めてしまったのが
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