雨と無知

作品集: 最新 投稿日時: 2009/11/21 14:55:34 更新日時: 2009/11/21 14:55:34 評価: 24/24 POINT: 114 Rate: 1.11
 ある日のこと。
 急な雨に降られたチルノが雨宿りしていると、どこからか人間の声が聞こえてきた。
 どうやら遊びに夢中で人間の里に近づいてしまったらしい。見つからないうちに離れようとしたが、その動きが止まる。
 人間が口にしているのは歌だった。それも、チルノが聞いたことのない歌だ。
 生来、妖精は陽気で好奇心が強い。遊ぶのは好きだし、もちろん歌も大好きだ。
 だから彼女が逃げずに知らない歌を聴こうとしたのは、あまりにも当然の成り行きであった。
 草陰に潜み、チルノは人間の歌を聞く。

 ―――あっめあっめふっれふっれかあさんが♪―――

 歌い手は子供だった。一人ではない。幾人かによる合唱だ。

 ―――じゃっのめっでおっむかえうっれしいな♪―――

 雨だというのに、子供たちは楽しそうに笑い、歌う。
 雨に降られながら、その顔は陰気のひとつもなく。水溜りにわざと足を入れ、陽気に水を跳ね上げる。

 ―――ぴっちぴっちちゃっぷちゃっぷらんらんらん♪―――

 歌はそれだけ。その一節を繰り返しながら、子供たちの姿はだんだん小さくなっていった。
 一人残されたチルノは、首をかしげながら呟いた。

「じゃのめってなに?」

 彼女が出会った謎言語。子供たちの歌に出た『じゃのめ』とはいかなるものか?
 チルノは足りない頭で推理する。

「あめあめふれふれ、はわかるよ。雨が降れ、だよね。雨に降ってくれなんて、人間は陰気なものが好きだよね。ま、人間だものね」

 世の中には狐の嫁入りとも呼ばれる天気雨があるのだが、そんなことチルノは知らないし見たこともない。

「かあさんが、もわかるよ。母親の呼び方だよね。繋げると、雨雨降れ降れ母さんが、か」

 問題はそこからなのだ。そのあとの『じゃのめ』が、見当も付かない。
 とりあえずその単語は置いておいて、次の歌詞を考えることにする。

「おむかえうれしいな。お迎え、嬉しい、だよね。お母さんが迎えに来るのが嬉しい。うん、あたいも森で迷ったときに大ちゃんが探しに来てくれると嬉しいもん。わかるわかる。で、『じゃのめ』ってなに?」

 頭から煙が出るくらい考えたが、チルノには想像もつかなかった。歌詞の前後から、母親が何か持ってくるのだろうと推察した程度だ。

「ああ、もう! やってらんないわよ!」

 わからないことにイラついてきたチルノは、自分で答えを出すことを諦め、他人に聞くことにした。
 自分の知り合いの中で一番知ってそうな人物を見つけに、そろそろ寒くなった気候の中、さらに寒そうな場所を探し回る。
 やがて、目当ての姿を視界に捉えた。

「いたいた! ねー、レティー!」
「あら、チルノじゃない。どうしたの?」

 冬の妖怪レティ・ホワイトロックは、突如現れた氷精に目を丸くした。

「あのさ、レティー。『じゃのめ』ってなに?」
「じゃのめ?」
「うんそう、じゃのめー。人間の子供がね、歌ってたんだ。えっとね――あっめあっめふっれふっれかあさんが〜」

 聞いたばかりの歌を、チルノはたどたどしいながらも歌う。リズムと音程が少しずれてはいたが、歌詞に間違いはなかった。

「なるほど。その歌に出てくる『じゃのめ』がなにかわからない、と」
「うん。レティなら知ってるかなって。ねぇ、どうなの? レティ知ってる?」
「…………」

 期待のまなざしを向けられ、レティは困り果てた。

(なによ、『じゃのめ』って)

 その正体を、彼女も知らなかったりする。

(じゃのめ……邪の目……邪眼、evil eye のことかしら?)

 生まれが西洋である彼女の思考は、『じゃのめ』からメデューサを連想した。
 しかし勿論、そんなものを人間の母親全般がもっているわけがない。即座に却下する。

(う〜ん、想像つかない)

 ちらりとチルノのほうを見てみると、目をらんらんと輝かせながらレティが答えるのを待っている。
 毎年毎年、陽気に自分にかまってくるこのちっぽけな氷精を、彼女はとても気に入っている。とても大切な友人で、姉妹のようなものだ。もちろん、自分が姉だ。だから妹を失望させたくないし、妹に弱いところは見せたくない。
 つまりは見栄っ張りなのだ。

「レティでもわかんない?」
「う。ちょ、ちょっと待って。ここまで出掛かってるのよ、ここまで」

 落胆の目を向けられ、とっさに嘘をつくレティ。
 さっすがレティ! と再び期待の眼差しを向けられ嬉しいやら哀しいやら。
 自爆気味に自分を追い詰めてしまったレティは必死になって考える。

(ええ〜とええ〜と、じゃのめじゃのめじゃのめ。じゃのめでお迎え嬉しいな、じゃのめでお迎え嬉しいな、じゃのめで―――?)

 そのとき、レティに電流奔る!
 気が付いたのだ、彼女は。この歌詞に隠された罠。トラップ。はまったら抜け出せないミスリードに!

「チルノ」
「なにレティ? 思い出したの!?」

 期待膨らむチルノに、レティはゆっくりとうなずく。

「チルノ、あなたはひとつ、とんでもない思い違いをしてるわ」
「思い違い?」
「ええ。あなたが聞いた知らない単語は、『じゃのめ』じゃないのよ。『じゃのめ』でなく、『じゃのめで』なの」
「じゃのめで?」
「そう。歌詞は、『じゃのめ』でお迎え嬉しいな、じゃない。正しくは、『じゃのめで』を迎え嬉しいな、なのよ!」
「な、なんだってー!」

 ドーン! とショックに顔を劇画調にするチルノ。どこからかMMR! MMR! とやまびこがこだました。

「雨が降る陰鬱な日はね、人間は儀式をするの。『じゃのめで』という精霊を呼ぶ儀式よ」
「そんな精霊いたっけ?」
「……人間のすることだからね。実際はいない霊を祭って安心しようとしてるだけかもしれないわ」
「なるほどぉ。人間って馬鹿ね」
「そうね。そして召喚された『じゃのめで』は陰気を取り払い陽気を持ち込むの。だから『じゃのめで』を迎えて嬉しくなるのよ」
「なるほど! さっすがレティ! すっご〜い!」
「おほほほほ。そうでもなくてよ」

 尊敬の眼差しと賞賛を受けるレティの頬には冷や汗ひとつ。よし、なんとかごまかせた。

「そんな儀式があったなんて知らなかった! さっそくみんなに教えてあげよう! ありがと、レティ。じゃぁね!」
「じゃぁね、チルノちゃん。元気でね〜」

 疑問が解けてすっきり爽やかに飛び立つチルノを、笑顔で見送るレティ。
 その姿が見えなくなるまで手を振ってから、彼女は一目散に人間の里へと飛んでいった。

「上白沢さん!」
「おお、レティさん、お久しぶり。そうか、もうそんな季節か」
「ええ、お久しぶり。それでいきなりで悪いんだけど、ちょっと尋ねたいことがあって」
「私に答えられることなら、いくらでも」
「ありがとう。あのね、この前人間の子供たちが歌ってるのを聞いたんだけど―――」




 そして数日後。

「レティー! あんたなにが『じゃのめで』よ全然違うじゃないのみすちーに鼻で笑われちゃったわよー!」
「あなた本当に信じたの? 相変わらず馬鹿ねぇ」
「むきー!」
「じゃぁ、ほんとのこと教えてあげる。あのね、『じゃのめ』は傘の一種で、『蛇の目』と書いて――」

 そんな二人のやり取りがあったとかなかったとか。
 しかしそれも日常の光景のひとつ。生意気な妹とそれをおちょくる姉の構図にしか見えず。
 仲がいいねと、一緒に来た大妖精はにこにこ笑うばかり。

「ああ、もう、馬鹿にすんなー!」
「馬鹿になんかしてないわよー。私はチルノちゃん大好きよ?」
「うがー!」

 冬の澄んだ空気の中、仲のいい姉妹喧嘩が繰り広げられている。
レティがバカにしてるはずのチルノ、というのを自分風に解釈してみた。多分こういうことだと思う。
oka
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投稿日時:
2009/11/21 14:55:34
更新日時:
2009/11/21 14:55:34
評価:
24/24
POINT:
114
Rate:
1.11
1. 6 バーボン ■2009/11/25 19:38:12
綺麗に短く読みやすく。あっさりしてて読後感も良いです。
ただ、そこで止まってしまっている印象。「上手い」とは思えるのですが、インパクトにはちょっと繋がっていないかな……と。雰囲気が好きなだけに惜しいのですが……。
2. 4 神鋼 ■2009/12/06 20:07:42
……大人ってズルい。
3. 6 幻想郷住民A ■2009/12/06 22:50:22
『じゃのめ』の意味を知らなかった俺はチルノをバカに出来ないな……
4. 10 nns ■2009/12/10 00:43:50
福本顔のレティを想像した
5. 7 静かな部屋 ■2010/01/03 15:31:32
福本作品風の地の文は余計です。
ところで『風の地の文』ってなんか某天狗っぽくないですか!?

すいません。
あとはちょっとテンポが悪い。
ストーリーはいいとおもいます
6. 4 藤木寸流 ■2010/01/04 01:34:51
 流石汚いな黒幕汚い。
 直球ストレートでいい感じ。蛇の目って知らなきゃわからないですし。
 チルノ可愛いよチルノ。
7. 3 リコーダー ■2010/01/06 01:20:51
答え聞いても何年かすると忘れてたりするんだよな……
誤魔化してから即答えを聞きに行くレティが地味に可愛かったです。
8. 2 パレット ■2010/01/10 05:02:12
 レティさんのぽわぽわっぷりを考えると、こういうのもまったくありな気がします。
9. 1 白錨 ■2010/01/10 09:12:34
レティがひたすら考える章を作れば更に良くなると思います。
10. 3 椒良徳 ■2010/01/11 18:02:33
レティひでえなあ。だが、そこが良い。

さて、こういう作品は嫌いではないのですがギャグというにはパンチが弱いし、
超短編だから読んだ後の満足感もない。
たったこれだけの文章でも読者に衝撃を与えるほどアイデアが衝撃的なわけでも優れているわけでもない。
申し訳ありませんが非常に物足りないのでこの点数をつけさせて頂きます。

最後に、レティチル派もすっかり影が薄くなりましたが、めげずに頑張ってください。
11. 6 ホイセケヌ ■2010/01/13 16:29:36
カフ、、、ハ、ャ、鬢筍「・チ・・ホ、筵・ニ・」、筅隍ッ・ュ・罕鬢ャウ、ニ、、、ニ。「メ侃ニ、、、ニ牢、キ、ォ、テ、ソ、ヌ、ケ。」カフ、、、ォ、鬢ウ、ス。「、ス、ホ牢、キ、オ、ャトソs、オ、、ニ、、、、ネ、、、ヲ、ォ。」、ウ、ホョ壥、マコテ、ュ。」
。。
12. 4 詩所 ■2010/01/13 21:57:43
 知らないことを知っているふりをするのは、社会に出る上で必要なことかもしれません。
 そう考えるとレティが駄目な政治家や何かに見えてきましたw
13. 6 deso ■2010/01/14 01:18:09
レティさんひでぇw
私も子どもの頃は『じゃのめ』わからなかったなあ。
14. 7 零四季 ■2010/01/14 22:01:14
短いながらも上手く纏まっていたように思います。
レティお姉さん、もっとからかってあげて下さい。ちなみに私はその歌を歌ったことがありません
15. 5 やぶH ■2010/01/15 00:04:31
なるほど、こういうことなのか! 面白い解釈です。
しかし、いずれしっぺ返しをもらいそうな気もしますよレティさんw
16. 4 774 ■2010/01/15 00:20:47
これぞ黒幕。
個人的には、安易にMMRを出さずに書いてほしかったかなぁ、と思います。んでMMR出すならもっと派手にやってほしかったと思います。いや個人的趣味かもしれませんが。
17. 6 2号 ■2010/01/15 09:23:54
ほのぼのしましたー
蛇の目って意味がわからなかった子供のころを思い出しつつ。
18. 4 八重結界 ■2010/01/15 14:20:18
 見栄を張るレティさんが可愛かったです。
19. 7 焼麩 ■2010/01/15 21:26:04
チルノの行動がらしい。
レティの意外なウィットが効いています。彼女がキバヤシ化するとは……
短いながらも良くまとまったお話でした。
20. 5 時計屋 ■2010/01/15 22:19:15
 なんという策士。俺も分からないこと訊かれたらこの手でごまかそう。
 ああ、それにつけても微笑ましい二人だなあ。
21. 5 如月日向 ■2010/01/15 22:52:27
 見栄っ張りレティが微笑ましいですね。
 でもレティにはもっと悩んで欲しかったです。

〜この作品の好きなところ〜
"「おほほほほ。そうでもなくてよ」"

 私のレティ像が壊れましたっ。
22. 3 木村圭 ■2010/01/15 23:02:44
な、なんだtt
欲を言えばもう1つ捻ってからオチて欲しかったなぁ。
23. 3 近藤@紫 ■2010/01/15 23:26:24
(・ω・)
24. 3 ■2010/01/15 23:48:30
じゃのめで!そういうのもあるのか

いやいやないってばよw
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