ピーターうさぎは死なないのか?

作品集: 最新 投稿日時: 2009/11/21 18:25:42 更新日時: 2009/11/21 18:25:42 評価: 23/28 POINT: 175 Rate: 1.67
ただ一人を除いて、全て子供は大人になります。
(ジェームズ・バリ 「ピーターパンとウェンディ」より)












◆   ◆   ◆   ◆ 



 老ピーターがその死の際に所望したのは、カミツレのお茶だった。
 子供の頃、風邪を引くと必ず飲まされたのだと笑って言った。

 その歯は全部抜けていた。皺だらけの口からは腐ったような匂いがした。
 若かったころには羽毛布団よりもふわふわだったと思われる毛皮も、今となっては黄ばみが目立ち、ところどころ剥げて地肌がむき出しになっていた。
 彼は最早アナウサギというよりは、はげちょろけのネズミといった方が形容にふさわしいように思われた。体躯はそれぐらいにしぼんで見えた。
 不用意に撫でれば多分、残った少ない毛すら抜けてしまうだろうから、わたしは黙ってそばにいて、その前足を握ってやるぐらいしか出来なかった。

 彼の治療の経過について、わたしは良く知らない。
 結局のところ、老ピーターの病気について熟知しているのは、彼の上司の因幡てゐやその師匠の八意永琳なのだろうけれど、今更何か訊く気はしなかった。ただ老衰であるとだけ、わたしは聞いた。師匠ですらさじを投げた患者が、弟子のわたしにどうにか出来るはずもなかった。

 病床はごわごわとした乾いたわらで出来ていた。家は冷たい穴蔵だった。
 飲むもの、食べるものはほとんどなく、さっきのお茶ぐらいしか彼が望んで傍らに置くものは無かった。
 ベッドのわらだって、わたしたちが散々言って新しいものに変えさせたのだ。
 彼は頑なに自分の生活を変えようとしなかった。

 もっと豪勢なものを食べたら病気なんて吹き飛ぶのに、とわたしが言った。
 冗談じゃない、と彼は首を横に振った。

「カミツレは大地のリンゴだ。リンゴと言えばおっきな神さんの食べ物だし、このお茶の色は金色。この世でもっとも尊い色じゃないか。あの子の髪の色とおんなしさ。こんなにすばらしい飲み物はないよ」

 一気に話したせいで、彼は咳き込んでしまった。
 ぜいぜい言う呼吸は冬が訪れる前の強い風の気配がした。

 この、八百万の神が顕現する幻想郷の中で、彼は大文字で表される神様を信じてた。
 八坂神奈子でもなく、洩矢諏訪子でもない、もっともっと大きくて強い神様なんだと言っていた。
 大文字の神は外の世界に居て、まだ頑張っているから、幻想郷で死ぬものの為には来ないのだと彼は呟いた。

「さみしいが仕方ないね。神さんも忙しいからね。老いぼれたうさぎの為に、わざわざ来てはくれないさ」

 歳を取ると愚痴っぽくなって良くないねと弱々しく笑った。

 老ピーターは、死ぬ間際にしては酷く元気で多弁に見えた。子供のようにはしゃいでいた。
 熱でほとんど話せなかった昨日とはうってかわって、にこにこと上機嫌だった。
 それが尚のこと哀れを誘った。

 彼がどれだけ戯けて見せたところで、あの吸血鬼はもうここへは来ないのだ。

「今日は雨だから、あの子は来られないと思いますよ」
「……ああ、そうだね」

 答える彼は目に見えて意気消沈して見えた。くたんと垂れていた長い耳がますます下へ垂れ下がって地面にまで着きそうだった。
 彼は半分お茶を残して、ベッドサイドへ置いた。ため息が漏れた。

「そんなに好きだったんですか? あの子のこと。なんだか妬けてしまいますね」
 わたしがおどけてそう言うと、彼は目を丸くしてこちらを見た。
「ほらほら、可愛いうさぎの看護婦さんがここにいるんだから、満足してくださいよ」

 続けてからかってやると、老ピーターは少年のように耳を真っ赤にしてわら布団の中に潜り込んで黙った。

 彼の顔が見えなくなってようやく、わたしは力を抜くことが出来た。無理矢理に笑っているのは、どうにも耐え難かった。

 会話が止んでしまうと、雨の音が耳についた。
 水が地面を叩く強い音。湿った気配。生きとし生けるものを脅すようにして、圧倒的な物量で森を小川に変えてしまう。

 幻想郷全体を覆うような、大雨の日に、わたしたちは別れるのだった。
 それはまるきり伝説の大洪水を思わせた。
 箱船に乗ったわたしたちと、地面において行かれたままで手を振っている彼。

「それにしても、よく降りますね」
 黙っているのが耐えられなくて、わたしはまた口を開いた。

 返事は無い。
 そっと覗き込むと、彼は眠っているようだった。
 皺だらけの顔であるのに、幼い子供のようにあどけなかった。

「おやすみなさい、ピーターおじいちゃん」

 ろうそくを吹き消して、わたしはそっと立ち去った。
 穴の中に僅かな煙が残って、そして消えた。








◆   ◆   ◆   ◆ 









 夕陽の色について聞かれたときに、わたしはそれを絶望の緋色だと感じる。
 火の色。焼き尽くす色。何もかもを無へ帰す色。
 その色がけして嫌いではない。
 わたしの目の色はそれに染まってしまっている。
 どう足掻いたところで、自分自身を嫌いにはなれない。
 長い月日の中で、わたしというものはそのように形作られてきた。

 雨を聞いて銃弾を思い出すのと同じように、
 自分の身の内にしみ通った戦いの声音は消えないように、
 緋色を嫌いにはなれないのだ。

 システム・オール・レッド。

 雨上がりの日没と共に戦いは始まる。

 全然勝てる気はしないけれど、それでいい。

 彼のために戦うことに価値があるのだ。














 世界を密やかに震わせる波動。存在するだけで威圧するほどの重苦しい妖気。
 日中の雨のせいで冷え込んでいた大気が、火でもついたようにちりちりと痛い。とばりのごとく降りてくる夕闇の中、その気配は黒々として纏い来るように濃い。
 そのあからさまな敵意は西から響いてくる。竹藪を越え、森を越え、人里を越え、湖を越えた遠くから響いてくる。

 敵はただ一人。随一にして強大。
 超空の要塞は、幾千万の竹槍を圧倒する。
 どれだけ足掻いたところで、相手に傷一つ付けられないだろう。
 生まれついての能力差とはそのようなことを言う。

「鈴仙、少し手伝おうか?」
 永遠亭の玄関前で、姫様が呼びかけてくれた。
 山の端にまだ僅かに赤色の残る頃合い。普段なら夕餉をのんびりと楽しんでいるころだ。
 
 わたしは庭先に整列させた兎たちの数をカウントしていた。気配に怯えてぴょんぴょんと落ち着き無く飛び回っているから隊列を組ませるのも大変だ。
 こんな時に因幡てゐが居てくれれば助かるのだが。
 いや、却って混乱を招くかもしれない。あの子の悪戯は時と場合を選ばないから。

「てゐが居なくて大変でしょう。あの子もこんな時に不在なんて、間が悪いわねえ」
「いえ、結構です」

 わたしは笑おうとしたが、上手く行かなかった。唇が引きつる。
 敵が怖いのは確かだ。絶対にかなわないというのも確実。
 けれど姫様の手を煩わせる気はしなかった。

 代わりに姫様の後ろから顔を覗かせた師匠が言葉をつぐ。

「ペット同士の喧嘩に飼い主が口出さないの。向こうだって一人で来てるんだから」
「でも、どう考えたって釣り合わないでしょ。向こうは封じられた化け物なんだから。ちょっとぐらい助けてあげても……」
「ウドンゲにはウドンゲの考えがあるんだから。ほらほら、姫様はちゃんとお勉強してくださいね!」
「ちょ、ちょっと永琳……」
 ぐいぐいと袖を引っ張られて消えてしまった。
 去り際、師匠がちらっとウインクしてくれた。
 応援してるから頑張りなさい、ということなんだと思う。
 その信頼と心遣いにほっとした。
 
「ありがとう、ございます」
 もうそこには誰もいなかったけれど、深く頭を下げた。










 兎たちの実戦経験は浅い。重いものといえば餅をつく杵ぐらいしか持ったことがない。
 持ち慣れない銃器を携えて、彼らの目は怯えている。誰かが一声脅かせばそれだけで逃げていきそうなほど。
 玉砂利の上に体育座りで待機しているまだ若い兎たち。その数はせいぜい千。一連隊と呼ぶには心許ない。
 その上、個別の戦力は一騎当千のまさに逆。千匹束にしたって虫一匹にかなうかどうか。
「もう少しだけだから」
 わたしはすぐ傍の小さな子供に声を掛けてやる。
 両手で抱えた小銃は腕の長さよりも長い。小柄な白兎の手の内に、剣呑な銃身が黒光りしているのはひどくアンバランスだった。
 小さな子がこくこくと何度も頷くたびに、古びたヘルメットがずり落ちそうだった。
 月から持ってきたお古だから、サイズが合っていないのだ。
 長らく実戦で使ったことのない兵器。手入れこそ日中のうちにさせておいたけれど、集中力の無いこの子達がどれだけ真面目にやったかは推して知るべし。
 おもちゃ花火の方がよっぽど役に立つかもしれない。

「ごめんね、わたしのわがままにつきあわせて」

 そう言うと、ふるふると首を横に振る。
 てゐほどではないにしても、それなりに慕われてはいるようだった。
 地上の兎と、月のウサギ。
 生まれは違えど同じウサギ。

 励ますようにして手を握ってやって、初めて違和感を覚えた。
「あら、あなた、震えて……」
 そう言いかけて、すぐに違うことに気がつく。
 地面ごと、揺れているのだ。

 一拍遅れてズン、と大きく響く音がした。体重の軽い子ウサギが飛び上がるほどの縦揺れ。
 せわしない足音。誰か、駆けてくる。

「敵襲っ! 敵襲……ッ!!」

 斥候の声を聞くまでもない。
 びりびりと震える空気。気配だけでその弾幕の厚みが連想されるような。その痛く禍々しい化け物の妖気。きな臭い匂いが遠くから風に乗って届く。

 大声で呼びかける。

「総員戦闘配置ッ! ただいまより作戦を開始するっっ!」

 ときの声は上がらない。
 ウサギは鳴かない。
 ただヒゲの先がうごめくだけ。
 静かに怯えながら、わたしたちの戦争は始まった。




◆   ◆   ◆   ◆ 






 標的はただ一人。
 フランドール・スカーレット。

 地下に閉じ込められていた化け物。
 気の触れた悪魔の妹が、全てを破壊しに来る。
 狂犬がウサギ狩りをしに来る。



 どれだけ抗えるか見物だわと、果たし状を渡しに来たメイドが笑っていたのを思い出す。
 狂った吸血鬼は家から出てはいけないのじゃないかと問いかけたところ、にっこりと
「引っ込み思案な下の子が初めて出来たお友達のために、勇気を振り絞って家に出ようとしているのを喜んではいけないかしら」
と答えた。
 ダメだこのメイド、とわたしは頭を抱えた。

 紅魔館サイドはどうやら単なる弾幕ごっこをしに来ているつもりらしい。
 兎角同盟宛に届けられた決闘状は狂人とは思えないほど几帳面に様式に乗っ取っていた。
 それに加えて過剰なまでのフェアプレイを、吸血鬼の妹はこちらへ提示した。

 そのことが、永遠亭の緊張を解く切っ掛けとなった。
 通常、命名決闘法においては技を記した契約書、つまりスペルカードの枚数までを相手に示す。
 つまり内容までは相手に明かさないことがほとんどだ。自分の手の内をわざわざ見せる必要はないからだ。
 だが、今回の決闘では果たし状と共に、フランドールがこの決闘のために用意した全ての技の名前と意味が記されていた。
 提示されたスペルカードの中に、現行ルールでは禁じ手であるフォビドゥンフルーツが含まれていないのを見て取って、師匠はうん、と小さく頷いた。

「行ってらっしゃい、鈴仙。頑張ってね」
「……はい」
 わたしが静かに頷いたのを見て、姫様は目を丸くした。
「ちょっ……永琳ってば本気で言ってる? この子、死んじゃうよ?」
「人間ならまだしも、妖怪ウサギが弾幕ごっこで死ぬことはないわ。それぐらいは知っているでしょ、輝夜」
「まあ、それはそうだけど」
「永遠亭の意地、みせてやりなさい」
 ぎゅっと手を握って、勇気づけてくれたのがつい数時間前のことである。




◆   ◆   ◆   ◆ 




 斥候の耳から送られてきた電波を受信する。
 ヘルメットから飛び出ているウサギの耳はアンテナ代わりだ。見えた映像や意思疎通のために使われる。月のウサギが持っている耳と同じ仕掛けをヘルメットに付けて地上のウサギにも貸し与えた。近代戦に通信機器は必需品。力量で劣っている分、せめて通信手段としてでも役に立ってもらわないと。

 目を閉じると、敵の姿がはっきりとまぶたの裏に浮かぶ。

 あどけなく愛らしい吸血鬼の少女が、スキップをしながら竹藪を歩いている。
 時々戯れに竹の根元を爆発させる。何丈もある孟宗竹がきらきらと昼の名残の雨露を光らせながら、傾いていく。みしみしと音を立てて、あっけなく地に伏す。
 まるで巨大生物の足音のようにして、竹藪全体を揺らしていた。

 その服は血のように紅く染まっている。
 その髪は呪われた黄金のような光沢を放つ。
 その靴は赤々と燃えさかる石炭のように輝いている。

 ……というか、どう考えてもあのメイドが磨いたに違いない。
 緋色のワンピースによく似合う、小さなピンク色のポシェットまで腰に下げて『今日はちょっとおめかししてお出かけ♪』とでも言うような雰囲気がにじみ出ている。どこにもまったく戦争の悲壮さはない。

 ちゃんとハンカチは持ちましたか? 靴はどれをお召しになりますか? 等と、メイドがかいがいしく世話を焼いているのが目に浮かぶようだった。

「大丈夫、弾幕ごっこ以外で能力を使ってはいけないと言い含めてありますから」
 あのとき、メイドはそう言ったが、怪しいものだ。
 気のふれた相手にどこまでルールが通じるかなど、こちらに分かる訳がない。
 現にこうして何本も竹が間引かれている。
 まあ、手入れをしなければいけない頃合いではあったから丁度良いものの。

「ん……どうやら取り囲んだ、か。同士討ちだけは避けなさいよ……」

 ノウサギの伍長を筆頭に、藪に隠れて匍匐前進。レンジャーのまねごとにしては上出来だが、相手に通じるとは思えない。
 フランドールの口元はにやにやと笑っている。明らかに気づいている。気づいて取り囲ませているのだ。

 耳を通じて電信する。
 応答が返ってくる。
 子ウサギが片手でボルトを起こす。手動のボルトアクション。月の武器とはいえ中古の骨董品。今となっては幻想入りするぐらいの。
 その緊張で汗ばんだ手の感触まで伝わってくる。

 これは不意打ちではない。相手には気づかれている。
 だが、戦いは初弾が命。先の先を得てようやく対等に戦える。
 己の優位を貶める必要はない。

 全員が同時に引き金を引き絞る。
 火薬の爆ぜる音。

 あまりにも、あっけなく弾丸が発射された、その刹那。

「な……ッッ!?」

 全ての銃口が同時に暴発する。
 否、そのように見えただけだ。

 密集した紅い弾幕。そして超高速の弾速。全てが桁違いで並外れている。
 ほぼ同時に発射された円形の弾幕が兵卒たちを一度に墜としたのだ。

 きゅう、と情けない声をあげて、兎たちはあっけなく倒れた。
 残機が一気に減るのが分かる。
 部隊の緊張が、一気に恐怖へと変換される。兎たちの鼻先が落ち着きなくうごめく。

 そして何よりも恐ろしいのは、こんなものはただの通常ショットでしかないということ。狂犬が名もないウサギたちを狩るのにはスペルカードを使うまでもない。呼吸するように相手を屠っていく。

 フランドールが大きく両手を広げる。
 まだ残機のある兎たち全員が身構えた。

 予想に反して、それはただの深呼吸。
 その一息だけで何もかもが吹き飛びそうな、強力な波動。

「ぴぃーーーたぁーーーーっ、かっくれってないでっ、でっておいでぇーっっ!」

 歌うように、狂気の妹が言った。

 災厄の夜が、踊り出す。




















◆   ◆   ◆   ◆ 


 老ピーターとの出会いは、わたしが月から降りてきて最初の頃にさかのぼる。

 彼は初めからずいぶん老いていた。いつまでも子供のような他の兎たちとは一線を画するようにして、冷笑的にそのヒゲ先をぴくぴくさせていた。

「礼儀正しい英国紳士は、卑怯な真似などしないものだ」
 彼はよくそう言って、因幡てゐと対立していた。

 しかし穴掘りの技術だけは一級品で、その点については誰しも一目置くところだった。彼は生まれながらのアナウサギで、曾祖父よりも前の代からずっと妖精の生まれる国の大地をほじり返していたのだと彼は後に語った。

 日本の不真面目でお気楽な兎たちと違って、彼の瞳は黒々として知性的だった。
 そこにわたしは惹かれたのだと思う。
 言っておくが、別段、恋に落ちたわけではない。彼は外見上もだいぶ老いていたし、その頃のわたしは恋愛相手よりは気の置けない茶飲み友達を欲していた。

 過度に近づきすぎない老ピーターの距離感が、わたしにはひどく心地よかった。
 彼はどこからともなく流れ着いてきた、放浪のウサギなのだと自称していた。そのせいだろう、つかず離れずということを良く知っていた。それは退屈で閉鎖的な村社会に生きていたウサギたちには無いものだった。
 青い上着を一張羅として、いつも晴れの舞台には着ていた。
 彼の薄茶の毛皮には、その鮮やかな空色がよく似合った。

「私も昔はずいぶんやんちゃをしたもんだがね」
 彼の昔話はいつもそんなお決まりの台詞から始まった。

 昔はやんちゃ。今は大人しく。
 そんなところがわたしと似ていたせいか、話が良く合った。
 日の当たる丘で、それぞれが好きな飲み物を持ち寄ってする、二人きりのお茶会は悪くなかった。特にそれがささやかな休日の行事であるならば。

 わたしは煎茶を。彼は紅茶を。
 肉桂のわずかに香る芋ようかんを。
 クロテッドクリームとジャムを添えたスコンを。
 きちんと水で清めた黒文字を。
 銀色に輝くティースプーンを。

 お互いがお互いのものを気に入って、幸せなお茶会が毎週続く。
 穏やかで気持ちの休まる時間の合間に、ずいぶんと弱音を吐かせてもらった。
 その頃のわたしは戦いのトラウマと新しい生活というものに疲れてしまっていたから、彼と話をすることは良い気休めの一つだった。

 彼とはいつも、自分の故郷の話をした。
 あるいは子供時代のことを。
 話題はいつでも、今とは違う時代のことだった。

 彼は良く仕事をして良く遊んできた大人のように、ハイカラでおしゃれなものをたくさん知っていた。トフィーもスコンもアフターエイトも、彼の言葉に掛かると全てが輝かしく素晴らしい食べ物のように聞こえた。
 彼が語るのは、遠い国のことばかりだった。虹色に光る古びたローマ人の噴水のこと。夜更けに動き出す麦畑のかかしのこと。水に浮かんで筏になる白い鳥の巣のこと。守る者のない荒れた庭に咲く魔法のバラのこと。
 彼の冒険譚が全て本当かどうかは知らない。けれどそれを確かめるのはわたしにとって必要なことではなかった。ただ聞いているだけでわたしは幸せだったのだ。

 誰も死なない、誰も不幸にならない。平和で牧歌的なおとぎ話。
 何もかもが枯れて燃え尽きてしまう月の戦争の話なんかよりもずっと楽しかった。

 老ピーターの冒険譚と比較して、わたしの体験した戦争は、いかにも乾いていておもしろみが無く、殺風景だった。
 それでも彼は聞いてくれた。
 つまらない話でしょう、とわたしが笑うと、彼はそんなことはないよ、と言って続きを促してくれた。

「無理をすることはない。ゆっくり休みなさい」
 彼はどんな話を聞いても、安らかなほほえみを絶やさなかった。
 何か言いたげにひくひくヒゲを動かすことはあっても、けしてわたしの話を遮らなかった。

「私の母親が亡くなるとき、外の世界は戦争の海に投げ出されそうだった。私はそれを逃れてここへ来た。幸せなことだ。殺すことも、殺されることもなく生きているということは」
 彼はそう言うと、良い香りの紅茶を一口すすった。

 時々、彼がただの長生きなだけの兎であることを思い出して、センチメンタルな気持ちになることがあった。
 そんな時にわたしは彼の皺だらけの手を握ってこう呟いた。

「……ピーターおじいちゃんが死んでいなくて、本当に良かった」
「年寄りはいたわれよ。ま、私は悪人だから鈴仙よりも長生きするだろうがな」
 
 老ピーターはそんな風に戯けてみせる。
 わたしは彼のその言葉をただの冗談として捉えていた。
 いつかさよならを言う日がくるなんて、思ってもみなかった。



◆   ◆   ◆   ◆ 






















 悪魔の妹の周りを、無数の弾が疾る。
 丸い光弾が鮮やかに降る。青と紫。土砂降りの、酷い弾幕。
 ウサギたちの周りを集い来ては、破壊してまた通り過ぎて。

 それはまるで弾丸の雨。
 血の雨。
 死の雨。

 見つめれば見つめるほどに、昏い、戦場の記憶が想起される。

 月の戦場。空は暗い。
 夜そのものの色をした空。
 黒の上に塗り重ねられた血しぶきと阿鼻叫喚とが残りの空間を埋めている。

 ヒトガタをした者が、ヒトで無くなる瞬間。
 刹那も降り積もれば、永遠に等しい。
 無限に続くような、修羅の日々。

 その中を、生きてきた。
 殺してきた。

 髪は固まった血液にまみれて、いつでもごわごわしていた。
 指先はこびり付いた肉片のせいでいつまでも生臭い匂いが取れなかった。
 返り血を浴びるごとに、自分の中の心が引き裂かれるような痛みに覆われるのを感じた。

 心の痛みで動けなくなれば薬を与えられた。
 神経を麻痺させてわたしは殺すだけの兵士になった。
 痛みを感じなくなったその瞼の裏に、ただひたすらに積み重なる映像と音声。
 効果が切れた頃に、記憶に絡み付いた痛みが復元する。
 昼となく夜となく。
 暗黒の空の中で、悪夢のような現実と、現実そのものの悪夢が繰り返される。
 それを埋め尽くすのが痛み。

 その痛みを、忘れる筈がない。

 気を抜けば死ぬ。

 戦いとは、そういうものだ。























「わあー、レバーティンってすっごいキレェー。つよいねー」
「あれはどうやったって落ちるって……ほらー、やっぱA13隊は火力はすごいけど、きめ細かな動きは出来ないからねえー」
「そうそう。あれじゃ勝てるわけないって。さ、次はB5隊か。ううん、勝てるかなあ。ボムいっこしか無いしねえ……って早っ、もう墜ちたし」

 作戦本部にウサギたちの暢気な声が響く。
 ウサギたちは既に弾幕ごっこに敗れて、観戦モードに移っている。耳と波長を使った電信装置も今となっては最早ただの娯楽と化していた。
 誰が持ってきたのか、ブラウン管のモニタと回り車式の発電機まである。じゃんけんで負けた兵卒が三人ほど入って一生懸命回していた。
 仮設のテントは本来救護施設のはずなのだけれど、わらを敷いた簡易ベッドは既に崩されてしまっている。だらーっと寝そべってマンガを読んでいたり、わらを引っこ抜いてもぐもぐ食べ始めたり、ウサギたちは自由気ままに動いている。
 おでこに×印の絆創膏を貼っているのが負傷兵。残機を全部撃破されて、すっかりやる気もなくなった様子だ。
 弾幕ごっこの敗者たちは口さがない。ルール上は死亡扱いであろうと死人に口なしとは行かないものだ。
 レーションの乾パンをぼりぼり食べて毛皮の上にこぼしている。わざわざ金平糖だけより分けて食べている輩まで居る。
 その緊張感の無さにイラッとしたのは事実。

 と、わたしに一番懐いている子供のウサギが呼びかけてきた。
「隊長! バンソーコーの数が足りません!」
「うるさい、ツバでもつけとけ! 此処は戦場だッ!」
 思わず昔の癖でそんな荒々しい言葉が飛び出した。
 じわっと涙目になっている子を見て自分の失策に気づく。思わず手で口を押さえた。
「ご、ごめん、ごめんね……」
 頭を撫でようとして、避けられる。
 殴られるとでも思ったのだろうか。
「あ、」
 子ウサギの方こそ、申し訳ないような顔をしてうつむいた。
 二匹で黙りこくる。
 きゃいきゃい言う、他の兎たちの声が耳障りで。
 耐え難い騒音の中に居るのに、その合間の、お互いの沈黙がひどく重い。

 やがて、その子も後ろを向いて、脱兎の如く逃げ出した。後ろ姿はたちまち他の者に紛れて見えなくなる。
 がやがやとおしゃべりは止まない。ウサギたちはもう周りに気を払わない。目の前のきらきらと美しい弾幕に夢中だ。
 それを真剣な戦争だなんて思い込んでいるのは、もうわたしだけなのだろう。ウサギたちは飽きっぽくて気まぐれだから。

 ……所詮、わたしもよそ者か。
 己の拳を握りしめた。爪が食い込んで痛いと感じるまで、強く。

 月のウサギと言ったところで、優れているわけでも何でもない。
 ただ彼女たち、地上のウサギたちの方が戦いのまねごとにつきあってくれているだけのこと。
 老ピーターもてゐも居ない今、ここには友人と呼べるようなウサギは一匹もいない。
 自分からはじめたこととは言え、途方もない孤独を感じた。

 弾幕ごっこに、己の命を賭してはならない。
 ただ美しさを競うもので在れ。
 それがこの勝負の正しい在り方だというのに、どうしてこんなにも本気を注いでしまっているんだろう。
 全力で、必死で。自分の力のようにして、兎たちを総動員して。
 自分でも定かではない。

「でも……」
 強く唇を噛みしめる。

 思いの強さだけは、偽ることが出来ない。
 自分が戦おうと思った理由。

 この戦争は、わたしの為の戦いじゃない。



――ピーターの為だから。
――――彼のためだから。
――――――自分の持っている全ての力を注がなくちゃって。



 ぱん、と両手で自分の頬を叩いた。
 一拍遅れてひりひり痛む。その痛みが迷いを振り切ってくれる。

 負けるな、自分に負けちゃだめだ。

 孤独? そんなのは、今更だ。
 戦いはいつだって、一人でやるものだ。
 相手を見ろ。
 相手だって、一人じゃないか。



「諸君!」

 声を張り上げる。
 ウサギたちの耳がぴくんと跳ねる。

「部隊は、解散だ。これから一騎打ちを行う。隊長の勇姿を目に刻みつけておけ!」

















 密集した竹藪の中。目をこらす。
 高く伸び切った孟宗竹の林の間、虹色の影がきらきらと飛翔する。
 夜に映えてとびきり綺麗に見える。

「ぴぃーたぁー、あそぼうよぉー」

 彼女が呼びかけるごとに、放たれた弾幕が竹の一本一本を破壊する。ばさばさと雨の名残、葉を覆っていた雨垂れを地に落とす。
 フランドールが笑うごとに、紅い弾幕の雨が大気の闇に波紋を描く。
 こんなに騒がしくては、死人も安らかに眠れまい。

 息を整える。動揺していては負けだ。気を確かに持って。平常心で。
 気を取り直して一閃。光弾を放つ。
 偶然くぐり抜けて、フランドールの額にぴちゅんと当たった。
 今のは挨拶代わりだ。ゲージもろくに減らせやしない。

 目をぱちくりさせて、彼女はこちらを見た。
 笑みが止む。弾幕が中断される。ゆっくりと地に降り立つ。
 背景に夜空。月はない。
 苔むした古竹の幹が風にざわりと揺れた。

「ぴぃたーぁ? あなたなの?」

 その姿が、薄く霞む。
 脅威が二つに、別れた。

 慌てて目を擦る。何かの見間違いか? 
 否、虹は二重に重なったままだ。

 増えて、いる。

「ぴーぃたぁ、うさぎ、ピーターうさぎ、遊ぶあそぶの」
 またしても歌が増える。四重になる。

 本当に敵は一人なのか?
 思わず自分の目を疑った。
 いつでも他人の目を騙しているからこそ、いざとなれば自分の目を信用出来ない。

 ようやく原因に思い当たる。
 忘れていたのだ。
 フォーオブアカインドの存在ごと。
 確かに決闘の契約書には含まれていたのに。
 歯がみするが最早手遅れ。
 小細工なしで挑むよりない。

「ぴーたぁ、きたの?」
 紅い瞳孔を開いたままで、フランドールの一人が言った。
「きたのかな、ぴーた、ぴーたあぴーた、ぴーた」
「今日は何する? 何してあそぶ?」
「なにがいい、なにがいいかな」
「おはなししよう、おはなしして決めよう」
 弾幕の中央、真円を覗き込めば、四重の笑みで歓迎される。
 女の子同士のくすくす笑い。
 自分と自分でおしゃべりをして。
 ひとりぼっちの地下室では、自分以外の話相手がいないから。

 ひそひそと内緒話を始める子供たちを遮って、わたしは答えた。

「彼は来ないわ。ピーターはもう死んだ」
 そう言いながら、自分の心が凍てついていくのを感じた。理解されるとは思えなかった。
 自分自身、まだ信じられない。
 あの老ピーターが死んでしまったなんて。

 フランドールは目をぱちくりさせて、こちらを見た。何を言っているのだろう、というきょとんとした顔つき。死の意味を分かっているようには見えない。
 案の定、彼女は何でもないことのように言った。

「死んでいても良いわ。動かせばいいもの」
「血が腐ってしまう前に、わたしが吸ってあげる。仲間にするの」
「そうしてずっとずっと一緒に遊ぶんだわ」

 そう言ってけらけら笑う。
 彼女たちの言葉は、意味を為さない、おぞましいだけのものに感じる。吸血鬼の能力を使って、死んだ者を血族に加えるなんて、この世の理に反している。
 ぎりっと奥歯を噛みしめた。
 許せない。絶対に、そんなこと、させない。

「ピーターは渡さない。貴女の玩具にはさせない」

 ――貴女なんかに、渡してたまるものか。

「貴女もウサギのぬいぐるみね。可愛い。わたしの奴隷にしてあげるッ」

 言い終わった刹那、妹たちが跳んだ。
 夜を駆ける。夜に躍る。
 上空を回転して、けたたましく笑う。竹の葉に透けて雨垂れのように弾が降ってくる。
 邪悪で幼稚な笑い声がそのまま弾幕になる。巧みに動き回りながら細長い尖弾で真円を描いていく。音波の中心をわざとずらして、前後の弾で速度を変えて。天性のバランス感覚で相手を追い詰めていく。
 こちらもショットを打ち返す。だが相手はものともしていない。ゲージが少し減って、ちょっとくしゃみをしたぐらいだ。

「化け物め」
 毒づく。距離を取る。

 スペルカードの提示は、無声でも良いということになっている。音よりはその字の方が重要とされるが故だ。
 わたしは仰々しく声高に叫び立てることを好まない。

 兎は鳴かないのが長所。だから可愛がられるのだ。

 用意したカードを高く掲げて、不可視の弾幕を放出する。無限に微分された点滅する弾。密集した真円に広がる。
 見えずに見えて触れずに触れて。
 その全てが弾丸。先端に爆薬。奇数弾はフルメタル。遅れて偶数弾はホローポイント。貫通するか爆殺するか。いずれにしたってライフゲージを削らないことには、相手を倒せない。
 一度に放った弾はおよそ百。フィールド全体を覆い込む。
 それすらただ動きを止めることだけが目的。せめて弾数に威圧されて移動速度が遅くなればいい。

 フランドールは瞬時に状況を見て取って、分身を近くに寄せ集める。霞んでいた身体が凝集する。
 賢明だ。身体が四つあれば、すなわち当たり判定も四つ。四倍の速さでゲージが減ることになる。
 気が触れていても、相手は馬鹿ではない。
 一体と一体の戦いに戻る。在るべき決闘の姿が取り戻される。

「ぴーぃたぁーとっ、あそぶっ、あそぶのよぉぉーっ!」
 けたたましく笑う。攻撃が切り替わる。

「かあ、ごーめっ、かーごめっ」
 フランドールはうっとりと歌う。
 その歌が強靱で細やかな籠になる。再度の弾幕展開。直線に伸びて、幾重にも交差して。六ツ目編みの竹籠のようにぎっしりと弾が連なってわたしを取り囲む。水も漏らさぬ程の万全の包囲体制。
 遠くから金色の大玉が転がってくるのが分かる。じわじわと距離を縮めてくる。その経路に誘導されるようにして、籠の弾幕が熔解していく。
 慌てて動けばこちらの負けだ。ぎりぎりまで食い込んで、籠から抜けでなければならない。

「かぁごの中の、ウサギっ!」
 何がおかしいのか分からない歌を歌って、けらけら笑い転げている。その合間にも乱立する竹林の合間を緑色の光弾が飛び交う。地面すれすれに隙間を見つける。斜面を転がって避ける。髪の先をちりちり焦がす。

 相手は遊びのつもりで笑って戯けて。
 それでもこの上なく強大にして凶悪。
 そのことが尚のこと腹立たしい。

「戦争の間に、ふざけてんじゃっ、ないっ……!」
 弾に祈りを込める。一撃一弾に思いを込める。
 ハンドキャノンで撃てる最大限の弾薬を込める。間髪入れずにぶっ放す。自機の周りの弾を打ち消してまっすぐに飛来する。誘導弾のおまけまで付けた。今の自分に出来る精一杯の火力。
 それでも彼女にとっては単純すぎる。シンプルすぎて華麗さに欠ける。ただ両手でなぎ払われる。相殺される。何もかもが徒労に近い。
 かちり、と右手の引き金が虚しい音を立てる。弾切れ。気づかないなんて。
 どっと冷や汗が噴き出した。
 大岩の間に転がり込む。じりじりと過ぎていく光弾の間をグレイズだけして、耐え忍ぼうとする。

 それでも、真横から来た弾が避けきれない。
「……っ、ぁ……」
 背中にこっぴどい一撃を喰らう。痛みを堪えきれずに声が漏れる。
 一機減った。残りは少ない。ボムを抱えた状態で墜ちるのは戦略的に痛すぎる。

 幼い吸血鬼が嘲る。
「大人しいわね、ウサギさん。大人しいのは良くないわ。幻想郷は永遠に子供のためのものだから。大人になったら死ななきゃいけない」

 フランドールは笑う。くるくる回りながら自分で作り出した籠の中で自由に振る舞って。

「それにね、これは戦争じゃないわ。戦争は大人がするもの。だからこれはただの弾幕遊び。誰かが遊びの途中で死んだってそれは事故なのよ」
 両手十指を広げる。なぎ払う動作がそのまま弾幕の動きになる。
 禍々しい力を奔らせて空間を危険な弾で埋め尽くす。降りてくる弾に前後左右を挟まれて、すんでのところでボムを放つ。
 爆風で打ち消しても打ち消してもなお絶えない光弾の雨。いつまでも止まない。

 長広舌の合間に再度の装填。空になった弾倉を震える手で交換する。
 弾薬が尽きれば即ち負けだ。心が尽きても即ち敗北。
 己の資源が尽きた瞬間、わたしの負けが確定する。

 決闘における敗北はわたしの死ではない。ピーターの遺体の引き渡し。それはつまり、わたしたちの手からピーターが永遠に消えてしまうことを意味する。
 自らの死より恐ろしい。友情が打ち消されるということは。
 だから、わたしは負けるわけにはいかない。

「煩いッ!」
 岩陰から飛び出る。中空を駆ける。
 ウサギの足は速い。一気に間合いを詰める。
 刹那、存在の波長をずらす。不可視の波長。相手に見えないように。

 登り坂を上るのに適したように、この長い脚は出来ているんだ。
 今は底でも、やがては頂点へ上り詰めるために。

 籠の隙間。葉の合間。
 駆け抜ける。上空が開ける。
 一息に跳ねてフランドールの頭上を駆け抜ける。
 中空、半ひねり。

 対象は、真下。
 黒色に染まった大地の上に、虹が一かけ。歪な微笑。

 再度波長を合わせる。同じ波同士でなければ、上手く干渉できない。
 しっかりと両手でホールドして、照準を合わせる。大きな笑みのその中心に。
 外すな。
 食らいつけ。

「当たれぇぇっっっ!」

 気合いと共に、真上から全弾をばらまく。
 指が引きつってこれ以上曲がらなくなるまで引き金を引き続ける。
 硝煙が視界を遮って何もかもが白煙の中に消える。

 それでもなお。
 邪悪な波動は止まない。

 フランドールの真後ろに着地した刹那、バックステップ。
 必死で距離を取る。本能が鳴らす警鐘に忠実に。

 こくん。
 何かが喉を鳴らした音がした。

「とっても美味しいわね、この飴玉」
 靄がゆっくりと晴れていく。白い煙の中に映える小さな影。

 全弾を身体で受け止めて、それでもなお、フランドールの顔は笑みにほころんでいる。ふるふると身体を震うだけで、硬質な音を立てて鉛玉が地へ落ちる。白い八重歯の間に熱く溶けた灰色の弾丸が見え隠れした。

「甘いあまぁい鉛の毒。うふふちょっとどきどきするわ。毒薬はいつでも恋の味がするのね」

 うっとりととろけた声音で、悪魔は独語する。

「恋の迷路までご案内しようかしら」

 右手を一振りすると、空間を覆い尽くしていた緑色の籠が全て消失する。
 幾重にも重なった恐ろしい波動が空間を駆け抜けていく。

 背筋を冷や汗が伝っていくのを感じる。新しい脅威が待ち受けているのを予感する。
 そして、わたしにはそれを遮る術が無いことを察知する。じりじりと後退せざるを得ない力量差を感じる。
 どんなショットも火力不足。傷を付けても付けても相手の装甲を崩せる気がしない。
 こっちの気力が保つか。すでに機数は削られてしまっている。ジリ貧と言って良い。
 確実に敗北は近づいていた。打って出るだけの余力はない。

 下がっては負ける。臆しては負ける。
 気持ちで負けた瞬間に、敗北が確定する。
 それが弾幕ごっこのルールなのだと分かっている。
 分かっているんだ。怖いけれど、怯えてはいけないということ。
 それでも目を閉じてしまいたくなる。逃げたくなる。
 自分の中の弱虫なところが、暴れたくて仕方がない。

 死ぬのは怖い。痛いのは怖い。負けるのは、怖い。
 一度逃げたことがあるから、尚のことだ。
 かつてわたしは戦争が怖くて逃げた。怯えて逃げた。
 ひとたび逃げれば、確かにそれは楽ではあったのだ。
 戦わなくて済むということは。平和だということは。
 
 邪悪な気配が膨れあがる。
 恐怖が掻き立てられる。
 パニックが、押し寄せてくる。


 その刹那。


 こちらの混乱を更にかき乱すようにして、
 鼻先を瞬時にしてかすめる、真っ赤なレーザー。
 発生しかけた弾幕を全てかき消す。

「ちょぉっとまったぁーっっ!」

 レーザーを地平線にして、跳ねるウサギそのままの幻影弾。半円に散ってじりじりと空気を焦がす。バウンドして、フランドールの波動を揺らす。
 ウサギの目のように紅い。

「なんでそんな面白そうなこと、わたしが帰るより先にはじめてんのよ!」

 懐かしい声がした。
 毎日聞いているのに。
 いつでもその声は、やっかいごとや悪戯と結びついているのに。
 このときばかりはひどく頼りがいのあるように聞こえた。

「他人のテーマソング鳴らしといて、わたしを待たずに閉会なんて哀しいじゃない」

 悪ぶった声。
 嘘つき詐欺師の独壇場が始まる。

「もっとカゴメカゴメを歌いなよ、ちびっこ悪魔。兎角同盟、影のリーダーが相手してやるわっ!」

 ちびっこウサギの頭領が、小さな胸を張って、すぐ上の崖に立っていた。
 その白い垂れた耳も、人参のペンダントも、夜闇の中、弾幕の光を返してきらきらと眩しかった。
















◆   ◆   ◆   ◆ 


 久しぶりに見た老ピーターは元気そうでなによりだった。長らく姿を見ていなかったからどうしているだろうと心配していたところだった。
 聞くところによれば、どうやら生涯に名を残すような超大作に取りかかっていたらしい。
「おうい、鈴仙」
 自分の穴から頭を覗かせて、こっちこっちと手招きする。わたしは疑問に思いながら傍に寄った。
 
「ま、ちょっとばかり良いものをお目にかけようと思ってね」
 少し謙虚に、しかしほんの僅かに自慢げに鼻をひくひくさせて、老ピーターは穴の中の『それ』を指さした。

 泥だらけの顔をして、その子は眠っていた。
 金髪の、見違えようもない、悪魔の妹。

「ひっ、ひえええええええ、フランドール・スカーレット!?」
 わたしは驚きのあまりに腰を抜かすところだった。

「おお、見たことがあるのか」
「だって、この子、有名ですよっ! 紅魔館の狂える悪魔、紅い吸血鬼の妹、おぞましく恐ろしい全てを破壊する者じゃないですかっ!」
 いつだったか地下室で追いかけられたことがある。その時は真剣に死ぬかと思った。

「ほう。こんなに可愛らしく寝てるのになあ……」
 しげしげと覗き込む彼の耳は少し垂れ下がっていた。
「ま、子供は少しぐらいやんちゃな方がいいさ」
「こいつはそんな暢気なレベルじゃないんですっ! 幻想郷が崩壊しても知りませんよっ!」
「そんな馬鹿な。こんなあどけない子供なんだ。孫みたいにちゃんとしつけるさ」
 そう言ってうっとりした顔つきで、眠っているフランドールの頬を撫でた。
 たしかに老ピーターの穴の中で眠りこけている彼女はただの可愛らしい子供に見えた。ちょっとだけ騙されてしまいそうな雰囲気がそこにあった。ふくふくとした手とかほっぺたとか、いかにも柔らかそうで突きたくなる。

 そう言えば、老ピーターはどうやって彼女に突き当たったのだろう? 

「一生懸命掘ってたらでっかい地下室に当たってなあ。そこに住んでる女の子がちょっと可愛かったから声を掛けたらついてきてしまってなあ」
「それ犯罪っ、誘拐っっ!」
「いいんだ、鈴仙。私たちアナウサギのスローガンを忘れたのか」
 何のことだか分からず、きょとんとして彼を見た。
 ちっちっと指先を横に振って、ニヒルに笑う。
「夢へ、掘れ」
「そんなの初めて聞きました」
「今作った」
 いい笑顔だった。
 思わず脱力して何も言えなかった。

「そんなわけでな、暫くは義理の孫を育てるので忙しそうだ。いつものお茶会には行けそうもない」
「……あんまりさみしいことしないでくださいよ。待ってますけど」
 わたしは、小さく笑って、彼を止めなかった。

 彼がそうしたいと言うのなら、黙って微笑んで送り出してあげるのが友情というものだと思っていたから。




 それから暫くの間、わたしたちは会えなかった。
 一人きりでお茶を飲む時に、ふとした寂しさを感じることがあった。
 呼ぼうか、声を掛けようかと思うと同時に、彼とその義理の孫のことについて考えが及んで、小さく首を横に振って諦める。
 彼が望むまで、わたしは行くのをよそう。
 もう孤独で怯えているだけの自分ではない。
 ひとりで、大人になるんだ。
 
 ウサギは、鳴かない。
 さみしくても辛くてもじっと耐えて、そしてそのまま死に至る。
 それがわたしたちの美学なのだ。


◆   ◆   ◆   ◆ 















「てゐ! こんな時に!」
「わたしのこと待ってたんでしょ、鈴仙。素直じゃないねえ」
 たいらな胸を思いっきりそらして、偉そうにそびえ立つ。
 その顔が懐かしくて、目の前がついぼやけて。
 傍らに降り立った仲間の存在に救われる。

 フランドールが不満そうに言う。
「あの弾幕は終わったのだけど?」
「ばっきゃろー、そんならこっちから弾幕勝負かけてやるっ! そっちが勝てたらトマトジュースおごってやんよ、吸血鬼っ!」
 てゐは行儀悪く人差し指を突きつける。
「首元の人参の方が美味しそうね。がぶりと歯を立てたらごめんなさい」
 吸血鬼が舌なめずりをする。唇は血の滴るように紅い。

「さあ、喰らえっ、わたしの最強のスペルカード……っ!」
 嘘つきウサギが大きく右手を広げる。思わせぶりな挙動で気を引きつける。
 それと同時にさりげなく反対の手で手首を掴まれる。
 違和感を抱いた。

「転進『脱兎・波紋疾走(ウサギ・オーバードライブ)』!」
 そのままつんのめるようにして走り出す。
 敵とは全く反対の方向に。

「えっ、えええええ…………!?」
 思わず引っ張られるがままに突っ走る。フィールドを遥かに超えて後方。振り返ると豆粒みたいに敵の姿が小さくなっている。
「三十六計逃げるにしかず! ガンガン逃げて時間稼いでりゃ幸運もこっちから来るってもんさ!」
 てゐはうひゃひゃひゃひゃっと呵々大笑する。

 小さなウサギは上昇する。竹の葉をくぐり抜けて空へ。
 引き摺られるようにして、飛ぶ。
 月もない空。星だけがちらちら浮かぶ夜闇の中、二匹のウサギが飛翔する。

「ああもう、せっかく助けに来てくれたんだと思ってたのに!」
 思わず毒づいてしまう。必死で逃げまいと思っていたことを見透かされたみたいで腹が立つのの裏返しだ。
 しかし彼女が意に介した様子はない。

「地の利を稼げばいいのさ。相手は狭い地下室でしか戦ったことがない。向こうの手の内にまんまと嵌るなんて、戦略としては下の下でしょ、士官学校で習ってないの?」
 にんまりと笑ってみせる。
「どこで戦うか、考えるところから勝負は始まってるんだよ?」
 そう言われると、ぐうの音も出ない。
 
「……どうすれば、」
 そう尋ねかけた瞬間に、耳元を駆け抜ける灼熱の気配。
「っ!?」
 振り返る。まだ本体は来ていない。それでも、遠くでちらちらと見え隠れする虹色の影。
「おおう、速い速い。鬼ごっこにしなくて正解だね。本体が来られなくても弾速だけなら移動スピードより速いもんね」

 てゐは平気そうに鼻で笑ってみせる。
 けれど繋いだ手の中がうっすらと汗で湿っているのを感じる。
 眼前に脅威があって、平然としていられる訳がないのだ。

 そもそも何処へ向かおうとしているのか。それすらわたしには分からない。目的地がないのに考え無しに逃げるとは思えない。

 不意に、ぞくり、と。
 詐欺師に騙されているだけのような、嫌な予感がする。

 疑心暗鬼に駆られてはいけない。仲間は信じなければいけない。

 でも、本当に、こいつは、仲間なんだろうか?
 ピーターの為に一緒に戦ってくれるんだろうか?
 根っからの悪戯好きだったてゐは、紳士然としたピーターとはそりが合わなかった筈。
 それなのに、どうしてわざわざ危険な目に会いに来る?
 考えれば考えるほど、不自然な行動に見えた。

「ええい、いっぺん潜るよっ」
 声を掛けられる。握られた手に不自然な力をこめてしまう。
 信じて良いのか分からないままに手を引かれて、竹の葉の下へ。
「うわっぷ」
 口の中に何か入りそうになる。思わず手を放してしまう。
 耳の傍を通り過ぎる嫌な波動。がさがさと葉のこすれる音。波のように、海原のように響いてぞくりとする。
 
「大人しいウサギはワニに喰われて死んじゃえっ!」
 フランドールの声が近づいている。
 飛散する白い尖弾。避けるのが精一杯で再び合流する余裕なんてない。
「ワニなんて口先だけで騙してやるわ」
 そう言うてゐの声音にもさっきまでのような余裕はない。
 ワニはてゐのトラウマ。神話になるぐらいの昔にこっぴどい目にあったのを覚えているのかも。
 
 フランドールという名前のワニに怯えて逃げたりはしないか?
 かつてのわたしみたいに?
 恐怖のあまりに、戦場に仲間を置き去りにして?
 ……わからない。
 信じられない。かつて自分が仲間を裏切ったから。自分もまた裏切られるかもしれないと余計に疑ってしまうのだ。
 互いの顔が見えない。ただそれだけで一瞬にして信頼関係が消え失せる。
 雲海の如き竹の葉の茂み。墜落するよりも早く地面へすがりつこうとする。その疾さを妨げるように鋭い葉の先が刃物のように脚を切りつける。

 フランドールの声だけが響く。
「チクタクワニはピーターの仲間。悪い大人を食べちゃうの」
「ハッ、わりぃ子はいねがーって? そんな子供騙し、こっちから願い下げだよっ」

 言葉だけは威勢が良いが、てゐはあくまで撃ち返さない。疑惑が深まる。
 どうしてだ?
 どうして、フランドールを攻撃しない?
 疑惑は深まるばかりだ。
 
「でておいで、ウサギちゃんっ、でないとっっ!」
 軽やかに悪魔の妹が笑う。どんどん近づいてくる笑い声が怖い。

「ほうりあげる、お空にほうりあげるよ」
 狂った妹が緩やかに放り投げる虹色の珠。ゆっくりと落ちていく。無数にきらめいて過ぎていく緩急の中、赤色は上に、紫は下に。光は波長ごとねじ曲げられ、星々が悲鳴を上げる。
 このまま見ていてはやがて潰れる。

「てゐ……撃つよッ! 援護をっ……!」
 地面に転がり落ちる。声を掛ける。返事はない。
 振り返る。姿はない。
 まさか、先に逃げた?

 あまりの絶望に全身の血が引く。

「……ッ!」
 強く唇を噛む。鉄の味がする。

 落胆するな。落ち込むな。士気を下げるな。これ以上、気持ちで負けちゃだめだ。
 初めからわたしには仲間なんていない。
 一人なんだ。
 言い聞かせる。自分に信じ込ませる。
 これは、裏切られたんじゃない。
 否、裏切られたのだとしても、痛くなんて、ない。

 わたしは、
 ひとりだ。

「戦うときはいつでも一人なんだ……ッ!」

 銃口を上げる。視線も真上へ。両手でしっかりと照準を定めて、ただ撃つ。ひたすら撃つ。走りながら、地面を転がりながら、泥まみれになって、撃ち続ける。

 ギャンブルならhit the Jackpotでいいんだろう。だけど弾幕は地道な勝負。細かくショットを当てて相手のゲージを削るか、相手の技が尽きるまで待つか以外勝利はない。
 それまでに自分が死なない程度に。
 相手の弾幕を引きつけながら、間を縫って。

「……痛ぅっ……!」

 竹林の起伏に足を取られた瞬間、まとめて飛んできた尖弾にぶつかってしまう。
 全身を駆け巡る激痛。波長をずらして感じない振りをする。
 考えるのは作戦のことだけ。
 戦場で教えられた通りに、戦うだけの機械になれ。
 
 また一機減ってしまった。
 残りは、二機。これ以上抱え落ちすると、本当に後がない。
 涙も出ないほどに、焦燥感。じりじりと焦がれていてもたってもいられない。
 息が上がる。手が震える。下がってはいけない。
 負けてはいけない。そのことの重圧が全身を怯えさせる。
 自分の責任を自分だけで取り切れるならまだ耐えきれる。
 自分だけのことではないから、だからこそ、負けるのが怖い。

 と。
 かちり、かちりと何か耳障りな音が聞こえる。遠くで響く。グレイズじゃない。もっと何か、気味の悪い音。
 音の側に意識を集中させる。視線はやらない。周囲の弾を見据えるだけで精一杯だ。
 右に左に尖弾。ブレザーの裾ごと焼き焦がしていく。

「イヤッハアァァァァーーーっっ! 呼ばれて飛び出てじゃじゃじゃじゃーんっ!」
 素っ頓狂にも程がある声。意識を向ける。
 甲高い声をあげてまた姿を現した黒髪の白ウサギ。なだらかな登り坂の頂点。
 垂れた耳をばさっとかき上げて、崖の上に仁王立ちする、小さな勇姿。
 
 何をしに来たんだと問いかけるよりも速く。
「あんたの相手はこっちだっつーの、チビすけ! かかってきなさいっ!」
 ふわふわワンピースをめくり上げて、ドロワーズ丸出しで。
 おしりぺんぺん。あっかんべー。
 典型的な挑発。見ているこっちが恥ずかしいぐらいの。
 思わずよそ見してしまう。危うく墜ちるところだったのを、すんでのところでグレイズする。

「おもしろウサギ、美味しいウサギ。あんたの血は美味しい……ッ?」
 フランドールも引きつけられる。こちらのショットを気にもとめずに、てゐの方へ向かっていく。
 子供が引きつけられるのは面白いもの。騒がしいもの。
 いつまでも子供なウサギたちを引きつけて止まないトリックスター。それが因幡てゐ。わたしとは違う、根っからの大将格。
 何を考えているのかは分からないけど、信じたくなってしまう。こんな危機的状況の時には。

「……ッ!」
 自分が出来るのはただ撃ち続けることだけ。
 何も言えない。目の前がぼやけて仕方ない。
 軽いショットしか打てない自分が嫌になる。
 自らボムを放とうとして、思いとどまる。遠くでてゐの首が横に振られるのが見えた。

「待ってなよ、鈴仙。これが正しいボムの使い方ってもんだ」
 こっちを見て、にんまりと笑う。
 何か悪戯を思いついた時の悪い顔。

「いいかい、吸血鬼ッ! こっちだ、こっちに美味しい人参があるよっ!」
 てゐが駆け出す。やはりフランドールから逃げ出す方向に。
 それもあくまでバックステップ。本気の全速力で逃げてるんじゃない。ウサギの身体は下り坂を走るようには出来ていない。その不利を打ち消すような秘策がある。
 ショットを当てるためにわたしも追いすがる。すり鉢状になった地形の底辺までてゐは降りていく。
 
 自分の身体を囮にするみたいにして、高く高くひときわ飛ぶ。

「うさぎうさぎ何みて跳ねる」
 歌。響く。歌うのは誰?

 フランドールもてゐも、一緒になって歌っている。
 戦う者は皆一人きりで、孤独で。
 けれど敵もまた一人で。
 戦うことでようやくお互いを理解できる。

 月を見ずに、月のない夜に。
 何を見て跳ねるのか。

「いいかい、フランドール、丸くて綺麗で刺激的なもの、なーんだっ!」
 てゐが問いかける。笑いながら楽しそうに弾幕を避けて。
「大弾だよっ!」
 フランドールは即答する。てゐと同じように楽しげに笑んで。
 その答えがそのまま金色の弾になる。じりじりと中に食い込んで、かろうじて避けられる。指一本分でもずれたら当たっている。
 そんな命がけの戦いの中でも、てゐは脳天気になぞなぞを続ける。

「ぶっぶー、はずれっ。お月様ぐらいまん丸いものさ。鈴仙と一緒に集めたんだよねえっ」

 飛び跳ね過ぎて宙返り。くるくる回ってすり鉢の底へ。
 ――ころり転げた木の根っこ?
 いいや、そいつは違う。抜け目ない地上のウサギがそんな間抜けなことをするわけがない。

 なぞなぞの答えを、わたしは唐突に思いつく。
 この間のお月見。丸いものを集めたんだ。
 その中でもいっとうおっかないものを、てゐは拾ってきた。

 ああして飛び上がることで、てゐは避けたのだ。
 自分で地面に埋めておいた、その危険な代物を。

「答えはっ、お前の足下にある対人地雷だよっ!」

 フランドールの足の裏でかちっ、と何かが鳴る。
 同時に落ちてきたのは銀色の檻。がしゃん、と小さな吸血鬼を閉じこめる。
 全ての弾幕が、止んだ。

「Freeeeeeze, baby!!」
 げびゃびゃびゃびゃ、としか形容できないような悪役そのものの笑い声。
 どう考えても可愛らしいその体躯には似つかわしくない。

「動いたら爆発するよ。ま、動かなくても時限式に爆発するけどね! 神に祈る準備はOK? ションベン漏らして命乞いしなよ、チビ!」

 さっきから鳴っていた時計の音は時限式のゼンマイか、とわたしも今更気づく。
 用意周到というか悪知恵というか何というか。

 でも、それが因幡てゐだ。
 地上で随一の悪戯ウサギ。

 仲間を救うことに専念するのではなく。
 仲間の援護に気を払うのではなく。

 もっともっと楽しくてずるくて、勝利にとって有効なことに全力を注ぐ。

 ただの悪ふざけが、戦闘における最優先事項。
 ろくでもない性悪ウサギ。
 でも、だからこそ自由で強い。

「へえ、面白いわ」
 フランドールは理解する。己の窮地。その意味。

 理解した上で、微笑する。
 こんなものは、ただの1ボムでしかないのだ、と。

「でも……弾幕合戦に必要なのは、必殺技じゃないから」
 その笑みは、失望の笑み。
 所詮はこの程度、という強者の余裕。

 フランドールの羽根が、残像を残して一閃する。
 金属で出来た檻がふわり、と浮く。

「……ッ!!」

 そして世界が白に染まる。
 目を閉じた瞬間に網膜を焼く灼熱と閃光。震動と音は遅れてくる。全身を守るように岩陰へ転がり込んだ。それでもなおすさまじい熱風が頬を撫でる。吹き飛んできた鋼鉄がひん曲がって地面に転がる。

 その瞬間から再び地獄が開始される。
 数秒おきに瞬くのは爆発。閃光。移動式の轟音が地に埋められているが如く。竹の根元に埋まっていた地雷の全てが弾道上で餌食となる。

 さっきまでの弾幕合戦とはケタが違う。使っているのは本物の爆薬。当たれば到底無事ではいられない。
 触れれば木っ端微塵となるその爆風の合間を縫って、てゐは逃げ惑う。その表情は半ば泣き、そして残りは半ば笑い。
 この恐ろしい修羅の中で、ウサギの泣き笑いの叫び声はけたたましく爆音の間隙を埋め尽くす。

「ハァッッははははっっ、化け物だ、化け物が此処にいるや!」
 策の全てを暴かれて、てゐの狂乱が闇に響く。
 狂気が空間を支配したとしか思えない、三月ウサギの笑い声。
 
 それでもてゐの逃げ道は巧みだ。出来るだけ相手が地雷を踏むようにして、可能な限りの逃走経路を形作る。その狂気じみた笑いとは裏腹に、鋭利な頭脳は効率的にダメージを与える。

「ウサギをなめるなッ!」
 わたしも叫ぶ。出来るだけ近寄ってショットをばらまく。
 確実に体力は削れている筈だ。自分に言い聞かせる。
 さっきから何百発撃ってると思っている。
 手も足も胴体も、撃ってないところはないぐらいに弾丸を叩き込んだ。常人なら蜂の巣どころか、チリも残らないぐらいの火薬をつぎ込んでいる。

 それだのに、何故だ、何故、倒せない。

 動き続ける敵の名は、フランドール・スカーレット。
 紅い悪魔の妹。闘争の申し子。狂気と破滅の権化。
 その虹色の魔力は全てを破壊する。

 何もかも無駄なのか。自分の中で、弱気の虫がささやいてくる。
 振り払おうとしても、頭の中でこだまする。
 生まれながらの化け物に勝てるわけなんかなかったんだ。
 初めから力の差なんてわかりきっていたじゃないか。
 それなのに、どうして、勝とうと足掻く?
 弱虫なウサギは、逃げ出すしか能がないじゃないか。

 と。
 てゐの声が響く。笑いすぎ叫びすぎてほとんど枯れかけている。
「なあに、弱気になってんのよっ! いいかぁ、鈴仙、見ときなっ!」
 その声に顔を上げる。
 歯茎まで見えそうなぐらいに大きく下品に笑んでいるのが見える。瞳孔が開きっぱなしだ。
 何か、マズイことが起きそうな、とんでもないことをやらかしそうな。
 嫌な予感ばかり背筋を走る。

「因幡てゐ、一世一代の大ジャンプ!!」
 全身の力を使って弾む。ゴム鞠のように。

 標的は、ひときわ大きな孟宗竹。
 垂直にそびえ立つ太い竹の幹。
 それを巧みにグリップする後ろ足。がっしりと足の指で挟み込んで、跳ねる。

 そのまま、
 ――転進。
 本当の意味での。
 退却ではなくて、真っ正面からの大衝突。

 息を、飲んだ。
 時間が止まったような、そんな気持ちになる。

 白い毛皮が、ぽっかり開けた夜空に映える。
 流れて消える星のように。

「兎の真価ってのはね!」

 百八十度の、方向転換。
 敵へまっすぐに向かう方角。
 直進。前進。全速力。

「こういうトコなのさッ!」

 脳裏によぎったのは玉兎の由来。
 飢えた老人のために自ら火中に身を投じた、愚かな兎の伝説。

「くらえぇぇえええええっっっっ、こんんのぉ、クソチビ吸血鬼ぃっっっっ!」

 自分自身と大差ない大きさのくせに。
 自分自身、チビウサギのくせに。

 両手十指に手榴弾。腹巻き代わりのダイナマイト。
 導火線はもう短い。全身に絡み付かせた信管にももう意味はない。
 チクタクワニを呼ぶ間もない。
 後はもう、ぶつかるだけ。





「偽符『玉兎・玉砕』っっっっっ!」











 彼女の最後の声を、聞けたかどうか、わたしには分からない。
 何もかもが消え失せてしまうような、果てのない閃光と爆発音。すり鉢状の地形を更に抉らせて、地獄の業火で埋め尽くす。
 呆然として、ただ足を止める。熱風が鋭く礫を飛ばして、額を切っていった。ばさばさと竹藪を焦がしていく爆風。
 ぬるりと暖かい血が流れる。ずきずきとした痛みは一拍遅れてくる。

 そうだ、痛みはいつでも遅れてくる。
 無くしたものは、遅くなってから気がつく。
 それがどれだけ大事なものかって。

「て、ゐ…………?」

 口が、ふさがらない。力が入らない。

 そんな、わけ、無いのに。
 ぺたんと座り込む。
 今起きた出来事に頭が追いついていかない。

 きな臭さを感じるより先に、喪失感を感じるより先に。
 痛みを知るよりも、ずっとずっと先に。
 ただ、いくつもの記憶が脳裏をよぎっていく。
 よく変わる表情。エネルギーに満ちた声。憎たらしい悪戯の数々。
 走り回っては追いかけて、首根っこ掴まえて、時には抱きしめて。
 ぺたんと垂れた白い耳。くしゃくしゃの黒い髪。ふわふわのワンピース。
 何もかもいつでも傍にいて、ずっと一緒にいられると信じていたのに。

 強い風が窪地に吹き付ける。
 真っ黒い煙を吹き払う。

 軽く小首をかしげている、吸血鬼のシルエットが立ち上る。

 振り返る。
 小さく、あどけなく笑った。
 その笑みは、見たことがある。
 ピーターと一緒にいるとき、こんな風にいとけなく笑っていた。
 戦いも日常も、この子にとっては同じことなんだ。

「なあんだ、やっと終わりだと思ったのに。あと一匹残ってた」

 煤で汚れた唇を小さく舐める。紅さが一層増した。

 と。
 突然の水滴。打ち付けるような豪雨。一瞬にして止む。そして折れた竹の破片が降ってくる。昼の名残の雨水が竹の葉の間に溜まっていたのが落ちてきたのだ。

「……っぅううううう……気持ち悪い」

 吸血鬼はがっくりとしゃがみ込む。ぶるぶると身体を震わせる。ポシェットの中からハンケチを出して神経質に体中を払っている。靴の先まで丁寧にぬぐい取るような。
 ひどく違和感を覚えた。重要なヒントのような。
 それを考える間もなく。
 更に、上方から声。

「だあああああああ、どいてどいてどいてどいてどいてどいてぇぇぇぇぇーーーーっっっ!」
「え!?」

 風切り音と共に真っ黒になった毛玉? が落ちてくる。
 慌てて立ち上がってバックステップ。
 ばいん、とゴム鞠でも落ちたみたいな不思議な音がして、地面に衝突する。
 慌ててワンバウンドでキャッチ。
「はらほろひれはれ〜」
 謎の毛玉の正体は真っ黒焦げになったてゐだった。
 毛皮はちりちり。服はぼろぼろ。すっかり目を回して、残機ゼロという様子だ。
 それでも、生きてはいる。
 ぶつぶつとうわごとをつぶやいている。
「えへへー、スタースターお星さま」
「はぁ?」
「師匠の新薬。一定時間無敵。ぴーす」
 そこまで言うと、がっくりと、白目を剥いて気絶した。
「ちょっ、てゐ! てゐってば!」
 ぐらぐら揺らすが完全に意識がない。

 と。
 気配を感じて振り返る。
 眼前に紅い尖弾。
「ひィっっ!?」
 首をすくめて避けた。
 弾速がもっとあれば、当たっていたかもしれない。
 そのまま駆け出す。ぐったりと伸びたてゐを抱えたままで猛ダッシュ。
 さっきまであった竹藪が全部爆弾で吹き飛んでいるから、ある意味楽だった。

「あっと、ひっとりぃーーーっ! あっと、ひっっっっとりっぃいいいいいっっっ!」
 無邪気な声はまだまだ響く。
 大玉に引きつけられる小玉の粒。力任せの反射弾。跳ね返る壁もないのに、地面の起伏を巧みに利用する。密集しては拡散して、その動きは読み切れない。重なった瞬間をどうにかくぐり抜ける。ちりちりと毛先を焼き焦がすその青白色は得体が知れない。

 それでも先刻までに比べれば幾分か楽だ。弾の速度が遅い分、軌道が読める。
 時間だけ稼いでいればこっちが有利。向こうの力が尽きた瞬間に、こちらの勝利となる。

 でも、そんな甘いことは言っていられないのだろう。
 すぐに攻撃が切り替えられる。フランドールの判断は速い。
 五芒星の方向に直線上の六連弾。シンプルな自機狙いの癖にやたらと速い。その上、未だかつて無いほどに相手の移動速度が速い。打ち返してもなかなか当たらない。

「……こっのぉ……」
 引きつけて弾を散らす。間隙をくぐり抜ける。
 それでも、終わらない。技はまだ続く。戦いが続いていく。
 雨が終わらない。戦いの雨が降り止まない。弾が降り注ぐ狂気の戦闘。修羅の道。
 息を切らして、髪を振り乱して。必死でグレイズして戦いだけに集中する。
 守るべき者のために。己の信念のために。

「ピーターは永遠に生き続ける。でもそれは傀儡になった死食鬼としてじゃないッ!」
 わたしは叫ぶ。思いを弾丸に込めて、ただひたすらに撃ち返し続ける。

「わたしたちの思い出の中にしか、ピーターは居ないんだッッ!」

 その言葉を吸血鬼の少女は笑う。あどけなく朗らかに。無邪気なまでの残酷さで。

「動かないものを生きていると言えるなら、貴女も動けなくなっちゃえばいいんだわっ! そこの真っ黒けのウサギみたいにっ!」

 そして、残った数少ないスペルカードの一つを掲げた。
 フランドールは宣言する。己の信念に基づいて。

「わたしの思い出の中で、生かしといてあげるよ! 大きなのっぽの古時計の中に閉じ込められるがいい!」

 発動する弾幕は、その宣言の通り、過去へ向かう逆さ周りの青い時計。周囲をなぎ払う十字型のレーザー。そして紅く連続した奇数弾。二つの文字盤の中心に挟まれないように、慎重に動く。自機の位置を意識しながら、次にどのタイミングで何処に何が来るかを理解して運命を読み取る。
 今の自分には、冷静に状況が見えている。何もかもが手に取るように分かる。

 ようやく、理由が分かった。

 本来、ウサギは夜行性だ。星明かりであっても状況が見える。
 それに付け加えて波動を操るわたしの能力を持ってすれば赤外線でもソナーでも相手の位置が手に取るように分かる。
 障害物さえ無ければ、もっとものが良く見えるのだ。

 てゐの言っていたことは正しい。
 波動の力を使うのなら、地の利をきちんと考えた方がいい。

 そして今、邪魔をする竹が、此処にはない。
 全てを焦土に変えてしまった地雷と爆薬のおかげで、まっさらな大地に姿を変えてしまっている。
 超音波を跳ね返す竹の幹も、乏しい星明かりを遮る竹の葉も無い。

「ホントに……全部あんたのおかげだわ、てゐ」
 腕の中で幼子のように眠るウサギへ感謝の言葉を口にする。
 普段なら絶対に言えないけど、今回ばかりは自然と言える。

 それだけじゃない。

 苦戦の中に活路を見いだす。あの一連の中で、てゐが言おうとしていたことに勝機を見いだす。
 その原因に向けて、どうおびき寄せればいいのかも分かる。
 てゐが、どうやっていたのか。
 どうやって敵を誘導すればいいのか。
 わたしは目の前でショットを撃ちながら、見ていることしか出来なかったのだから。

 あとは、それを真似るだけだ。

 何を言えば、怒るか。
 この子供を一番怒らせるのは何か。

 ピーターのことだ。
 ピーターに対して彼女が与えようとしている永遠の命のことだ。
 それを突いてやれば、確実に激情する。

 わたしはただ信念を口にする。

「永遠はッ、何もッ、」

 師匠を見ていれば分かる。
 姫様を見ていれば分かる。
 妹紅を見ていれば分かる。

 自ら望んでない永遠は、哀しいだけだって。

「何も生まないっ!」
 挑発する。自分の出来るやり方で。
 この場所は庭のように良く知っている。竹の切り株を見るだけで、自分が何処に立っているのか分かるぐらいに。
 間合いにしてあと三人分。タイミングとしては切り返し一回分ぐらい。
 待ち構える。

「……わたしの495年を永遠と呼ぶのなら、貴女の永遠も大したことはないみたいね」
 ふつふつと静かに煮える溶岩のように、フランドールは語る。
 その目の輝きが増す。燃える石炭のように明々と闇の中で光る。

「永遠のうちに誰もいなくなる恐怖を、味わうといいわっ!」

 その二つきりの灯りがふっと消える。虹色の羽根も光を放たなくなる。闇の中に、その恐ろしい波動以外の何物も見えなくなる。そして、その名残のような弾幕以外に、何も感じられなくなる。
 ぎくりとする。

 相手の位置が分からない。
 それでは誘導しようがない。

 自機へ向けてゆっくりと近づいてくる。青い大弾。仲間のように、子供のように、小さな白い粒弾を引き連れてくる。
 唇を噛む。考えろ考えろ。考えなければ、勝てない。
 一度作戦を諦める? 生き延びることを最優先にして?

 それで、本当にいいのか?

「っ、!?」
 気づけば中弾に囲まれている。逡巡無く、ボムを放って逃れる。それでも本体に傷は付かない。そもそも本体がどこに在るのか分からない。
 フランドールは遍在する。何処にも居ないということは、何処にでも居るということ。水が乾いて空気の中に溶けてしまったように、ただばらまかれた弾幕のみが目に見える唯一のもの。広げられて折りたたまれてそしてまた解けて散らばっていく無数の虹色の波動。雲のように霧のように、弾幕の全てが闇の中へ拡散しては集積し、囚われるのは愚かな生命。

 玉兎の本能が吸い込まれる。引かれてしまう。同調しようとする。

 月の兎の能力。狂気を操る程度の能力。
 その神髄は、誰のことでも理解しようとする、どんな心の声も聴こうとする力。
 全ての音波をその長い耳に合わせ、全ての光をその紅い瞳に入れて。
 振幅を合わせ波長を合わせ強度を合わせて、その対象を理解しようとする。そうしなければ、勝利の道を見いだすことが出来ない。
 最強の盗聴兵器。至高の偵察部隊。
 それが月のウサギ。

 ただ降ってくる青白い小弾。幽暗のうちにたゆたう気配が生者の気配に惹かれ惑う。

 生きているのか。
 死んでいるのか。

 正気でいるのか。
 狂っているのか。

 己の内側に深く深く誘導する。
 懐の奥へ奥へ引き込んでいく。
 己の本質へ向けて吸い込んでいく。
 
 戦いの内に己の敵を理解せよ。
 相手の波動と合わせなければ弾丸は当たらない。
 さもなければ、勝利は存在し得ない。











◆   ◆   ◆   ◆ 













 暗闇のうちに孤独。
 孤独のうちに子供。
 子供のうちに狂気。
 狂気のうちに緋色。

 緋色がフランドールの根源。


 闇ではなく、心の内には緋色があった。
 生まれながらにして、世界のあらゆるものは緋色に染まっていた。

 ありとあらゆるものの中心に緋色の目。
 掌中へ移して握りつぶせばそれらは消え失せる。

 生まれてすぐに屋敷中のネズミが死んだ。
 二日目には子犬が死んだ。
 三日目には親の番犬が、四日目には農場の鶏が。
 五日目には豚小屋全て、六日目には神父が一人。

 七日目になって、悪魔の妹は地下室に入れられた。

 それはちょうど安息日だった。
 破滅も休暇を取るのだと生き残った村人たちは泣き笑いで感謝した。

 それはとても賢明なことだった。
 村人全員を壊してしまうよりも前に。
 国全体が破滅するよりも前に。
 子供ひとりの心を破壊してしまう方が、ずっと容易いのだ。










 それから495年と少しが経過する。
 地下室で何かが震動した気配を感じて、フランドールは目を覚ます。壁が壊されたようだった。すきま風が寒くて、もそもそと起き上がる。目を擦りながら小さくあくびをする。
 暗い中で何かが動いているのが気配だけで分かった。
 うごめくものは茶色の毛玉に見えた。ブルーの上着を着ていた。どうやら迷子のようだった。
 小さかった。それでも、生きていた。
 生きて動いているものは面白いから好きだ。いくつか来たことがあるけれど、全部が来て少し遊んでからはすぐに帰ってしまうのだった。捕らえて離さなければ死んで朽ちてしまう。それはつまらない。
 今度のそれは、帰らないといい。
 燭台に灯りをつける。
 黒々とした瞳が、僅かな灯火を返して星のようにきらめいた。
 目と目があったその瞬間に、その生き物は消え失せていた。
 瞬きをする暇もないぐらいだった。
 フランドールは小さく首をかしげて、それから灯火を吹き消した。
 いつものことだった。

 自分を見た生き物は皆、逃げ帰ってしまう。それが本能というものだ。死ぬよりも前に、その場から居なくなることの方が多かった。その方が部屋の片付けが無くてお互いに楽だとは思う。
 フランドールは何事もなかったかのように再び眠りについた。
 特別、心は痛まなかった。
 痛むほどの心は残されていなかった。



 次の日もそれは来た。
 驚嘆すべき現実の存在として眼前の毛玉はあった。
 地下室をうごめくものとして、得体の知れない怪しい毛玉が身体をひくひくさせながらあたりを嗅ぎ回っている。生き物特有のどことなく生臭い匂いが部屋の中に立ちこめていた。
 正体は不明。意図も不明。
「なにしてるの?」
 呼びかけた瞬間に、その毛玉は慌てて飛び上がり、それから振り返ってフランドールを見た。茶色の毛の中に黒々とした目があり、長い耳が横たわり、丸っこい手足があった。
 フランドールとその生き物はしばらく見つめ合った。お互いがお互いをすっかり認識してしまうまで目と目を合わせて離さなかった。

 と、その毛玉は小さくため息をついた。
「失敬、お嬢さん。気づかなかったもので」
 しわがれた声でそう言って、取り繕うようにして毛繕いをした。
「貴方、昨日もいたわ」
「どうも最近物忘れが激しくてね。お嬢さんとは初対面ではないかな」
「かもしれない」
 フランドールは頷いた。正直なところ、どうでも良かった。別の生き物だったかもしれないのだし、自分だってその生き物に特段こだわりはなかった。いつかは居なくなってしまうのだから。
 そう考えると、その生き物がいつまでここにいるのかが気になった。それを率直に口に出した。
「いつまでいるの?」
「さあ、いつだろうな?」
 そう言って、少し落ち着かない様子で地面を見回す。何かを探しているように見えた。
「あそぶ?」
「残念だが、そんな暇は無いようだ」
 視線を合わせないようにして、それは答えた。
「私は私のアートを完成させなければならない。ここに遊びに来たわけではないのだよ」
 小さく首を横に振って、それから地面の敷石の間を嗅ぎ回っていた。
「何をやっているの?」
「私の太陽を探しているんだ。その為にここに来た」
「太陽?」
 見たことは無かったけれど、土の下に埋められているようなものではないことは知っていた。
「これはアナウサギの秘伝でね。曾祖父の代より前から語り継がれている。これ以上はお話するわけに行かない」
 きっぱりと言い切ると、その生き物は再び探索を始めた。どうやらフランドールに興味はないようだった。
 彼女にとってそれは非常に新鮮な反応だった。
 ほとんどの生き物はフランドールを見ると怯えて動かなくなる。破滅の恐怖に囚われて泡を吹いて気絶するか、逃げ惑う。
 そうでないごく僅かな例として、フランドールを愛玩してやまないメイドや姉の存在はあるが、眼前に在るように無関心であり、しかし逃げ出さないということはそれだけでこれまでに無い反応であった。

 フランドールはその生き物の中にある『目』を手の平に移した。手の平に載せたそれは確かに一つの核でしかなく、これまでに潰してきた者達と特段の差違は見られなかった。
 その生き物は気づかないようだった。おさなごの掌中に己の生命が丸ごと転がされているということについて、普通の生命体は気づかない。
 それは通常のことではあった。けれど物足りなさを感じた。いつもと違う振る舞いをするこの生き物について、もっと何か違うことを期待していた。フランドールの心中には、何か違いが見つかるかもしれないという期待があった。
 ――握ってみようか。
 いつもとは違って、壊れにくいかもしれない。
 特に違和感なくフランドールの思考はそこへ行き着いた。

 と、その生き物は小さく息をついた。
「そろそろお茶の時間だな」
 小さく首を横に振り、それから改めて気がついたように、フランドールのことを見据えた。何か、考えているようだった。
 その挙動に気を取られて、握りつぶすことを一瞬忘れた。
 おずおずと切り出し始めた。
「申し遅れたが、私はピーター。アナウサギの身ではあるが、地質学者をやっている」
「よろしく、ピーター。わたしはフランドールよ」
 ひどく奇異な気持ちで互いに名前を交換した。

 小さく照れ隠しをするようにして、ピーターが咳払いを一つする。
「こほん、あー……ええと、その、良ければこのあたりの地形について詳細を教えてもらえないか。お嬢さんの都合さえよろしければ、ということだが」
「……地形?」
 そんなことを聞いてきたのも、フランドールが会う中では初めてのことだった。
 分からないことだらけの生き物の核をおずおずと元へ戻す。
 そのまま潰してしまえば分からないことが増えてしまうように思った。不意に、それは恐ろしいことなのではないかという疑念がフランドールの胸中に発せられた。

「よろしければお茶でもどうかね?」
 その生き物は一度自ら開けた穴の入り口へ戻ると、赤い水玉模様のハンケチ包みを取り出した。そしてその中からお茶のセットと小さなコンロを出した。
「いただくわ」
 フランドールは小さく頷いた。
 お茶を立ったままで飲む訳にはいかないので、冷たい石の破片の上にハンケチを敷いて座った。
 かつて、淑女はそのようにするものだと習ったのである。しかし活用するのはもちろん初めてのことだった。



「どう考えてもこの近辺には破砕帯が多すぎるのだ」
 お茶を飲みながらその生き物は言った。器用に前足でキャラウェイの練り込まれたクッキーをつまみながらも、いかめしい顔を崩そうとしなかった。
 ふうふうと紅茶を冷ましながら、その演説を聴く。

「破砕帯?」
「通常、断層面周辺に存在する破砕帯はある一定の方向に走るものだ。だがここでは地下室全体が囲まれてしまっている。まるで何かを閉じ込めるみたいに、な。それでいて地下水脈に押し流されることなく存在し続けている。まるで魔法のような建築技術と言っていい。調査対象として十分な価値がある」
 彼はそう言って一息に紅茶を飲み干した。

 フランドールにはそれが何を言っているのか分からなかった。だが、その生き物がひどく興奮して話しているのは分かった。

「私は極東に在るといわれていた蓬莱峡もこの目で見たのだが、このあたりの地形がそれと比較しても地質学上非常に特異であることは相違ない。正式に調査の申し込みをしたいのだが、お許しいただけるだろうか」
「調査って、何をするの?」
「毎日ここへ来て、地質学的な条件を調べる。それから小さなレディとお茶を飲むのが私の仕事だ」
 そう言って小さくウィンクした。フランドールはかすかに笑った。
「いいよ。わたしにもお茶をくれるなら」
「ありがたい」
 深々と頭を下げた。


 それからは、色々な話をした。数え切れないほどのたくさんの話題があって尽きなかった。
 その茶色は汚れているせいかとフランドールが聞けば、ピーターは笑って、生まれつきなのだと答えた。わらを食べるせいかと聞けば、スコンも食べるぞと答え、いや、それも茶色だな、と後から気づいたように付け足した。
「案外、お嬢さんは正しいかもしれん。人参ばかり食ってみようか。貴女と同じで紅くなるだろうか。いや、偏食は良くないのだがな」
 生真面目に、その茶色の毛玉は頷いた。

 洗ってやろうかと言いかけたことがある。
 けれど結局言えなかった。
 自分自身、入浴が嫌いなのを忘れていた。
 本能で風呂を嫌う。
 その点において、その毛玉とフランドールは一致していた。

 彼の祖国における入浴では石鹸は落とさないものなのだそうだ。
「表面に膜が出来て良い」
 彼は頑固に言い張るのだった。
 フランドールは今度メイドに言ってみよう、と思った。
 それまで彼の言ったことを覚えておかなくちゃ、とも思った。

「そろそろ戻るよ。資材を取りに行かなくちゃいけない」
 彼はそう言うと、ゆっくりと立ち上がった。
「また来る?」
「もちろん」
 たったそれだけの言葉を交わした。
 たったそれだけで、心が温もった。

 心?

 そう、それは心としか言いようのない感覚だった。
 闇の奥にほんの僅かな灯りが点ったような。
 じんわりと暖かく、とくとくと巡っていくような。
 フランドールの小さな胸の中に、大切なものが生まれた。

 ただ闇の中でうずくまるだけの子供に。
 世界とは相容れない気の触れた子供に。
 ただ一つの光の点が生まれたのだった。







◆   ◆   ◆   ◆ 






 見いだしたのは、心の場所。

 身体が見えないなら、心を探り当てる。
 心があるから、狂気の弾丸もまた、撃ち込める。
 チューニングする。

「……そこだッッッ!」

 開眼。
 チャージした特製の弾丸を撃ち込む。
 
「鉛が甘いなら、銀はどうだッ吸血鬼ッ!」

 最後の奥の手として取っておいたものを叩き込む。
 対魔武器の最高峰。これ以上の弾丸をわたしは持ち合わせない。

「……っ、ぅ、うううううううう」

 獣じみた深い深いうなり。恐怖を掻き立てる。本能ごと揺り動かす。
 荒れ果てた大地が揺れる。きらめく星々が騒ぐ。
 夜の大気がざわついて、収まらない。

 焦土と化した禿山に立ち続ける、破滅の象徴。
 銀の弾丸が魔を祓っても、祓いきれない狂気と邪悪とがフランドールの体中を駆け巡る。
 気配と威圧の重厚さに、風も闇も翻弄されるばかりだ。
 粘土質の大地だけが、その身をようやっと支え、しかしかすかに震えている。

 吸血鬼の持つ天性の才能。
 それは戦争のために生まれてきたかのような頑健さにあった。

 肩口に銀の弾丸をめりこませて、それでもなお、吸血鬼の口元はうごめく。

「許さない、許さない。ピーターは、わたしのだ」
「……貴女も、なのね。フランドール」

 ピーターのために、それぞれ戦っている。

 呼びかけると狂気の妹は歯をむき出しにして笑った。
 その目は血走ったように赤い。

 きっとわたしも同じような目をしている。
 そうは見えないだけで、わたしたちは同じ生き物だ。
 狂気の瞳を操るわたしも、どこか狂ってしまっている。
 戦いの中に長く身を置きすぎた。

「ピーターを捜すの。ピーターと遊ぶのよ」
 彼女のだだっ子のような言葉が、ひどく愛おしい。

 心の在処を掴んでしまったわたしには分かる。
 彼女が、どれだけピーターを好きだったか。
 
 だからわたしは答える。

「させない。絶対に、させないわ」

 同じだから。
 同じように慕っていたからこそ。

「安らかに眠れ」
「永久のものに」

 そして、戦いは再開される。
 それぞれの信念を弾に載せて、弾幕は展開される。

 フランドールの周囲から発生した波紋が空間を駆け抜ける。重なり合う尖弾の波。無数の牙が自機を狙って寄せては返す。自らフィールドを規定して、壁が無くても波が反射して相手を屠ろうとする。

 わたしも動き出す。引きつける。
 てゐが全身で教えてくれた吸血鬼の弱点へ向けて。

 踊り出す。真夜中のロンド。
 起伏に富んだ禿山のダンスホール。
 跳ねて、飛んで、揺らいで、転がって。

 悪魔の夜。兎の夜。狂気と破滅に満ちた時が続く。
 交錯する弾丸と牙。ぶつかっては跳ね返って。
 大気の階段を上り詰める。跳ねる。空中三回転半ひねり。
 真上と真下で交差する。ぶっ放す特大のフルメタルジャケット。

 着地でわざと、つまづいた振りをする。地に両手をつく。しゃがみ込む。
 来るのを待つ。
 少しだけ強く目をつぶる。気合いを入れる。

「降参かしら、ウサギさん」
 フランドールが疾走する。
 間合いが詰まるその瞬間に狙いをずらす。

「……気づいたのよ」

 小さくほくそ笑む。
 兎は、嘘つきだ。

「地の利ってのは、こういうことを言うんだってね!」

 横切る手前を一直線に。
 フランドールの足下に向けて撃ち放つ。
 狙いは、その下の大地にある。

「何を……ッッッ!」

 跳ね返る礫。
 掘り返される大地。
 
 瞬きも出来ない間の変化。

 それだけでフランドールの足がすくむ。

 眼前のただ一筋の小川の流れ。
 ちょろちょろとネズミの尻尾ほども無いような、水流。

 清浄なわき水。植物が生えていた場所によくある伏流。
 こんなものはただの、水だ。
 それでも、凶悪な生き物を怯えさせるに十分な存在。

 くつくつと笑う声。
 フランドールのものではない。
 腕の中の温もり。真っ黒焦げになったてゐが目を覚ましていた。

「生温いね、鈴仙。わたしなら、もっと派手にやるわ」
 悪役そのものの笑い方で、腕の中からささやく。
 小さく首を横に振る。
「しょうがないわ。一人ではこれぐらいの規模が精一杯」
 それに流れ水だけでは閉じ込める以上のことが出来るとは思えない。

「こらこら、『こんなこともあろうかと』ってのが、参謀のあこがれの台詞ナンバーワンって知ってる? わたしにそいつを言わせてよ」
 くけけけけと邪悪な笑い。
 こいつの方が悪魔なんじゃないかと思うぐらいの。

「じゃあどうしろってのよ」
「仲間とか友達ってのはね、信じるもんさ。操るもんじゃないでしょ?」
 そっと顔を寄せてくる。
 わたしの耳へてゐの指先が触れる。
 くすぐったい感触と共に、着信。
 送られてくる、甲高い泣き声。たくさんの泣き顔。

 逃げ出したはずの子ウサギの必死な声。

「隊長ッ、隊長ッッッ! ずっと、ずっと見てました、超絶カッコ良かったですっ!」
「隊長ッ、援護射撃の準備が出来ました。いつでもオッケーです!」
 その後ろにそびえる大きな影。深いグリーン。糧食用の貯水タンクだ。
 伸びたホース。射程距離と水圧は十分。
「……てゐ」
「ほおら、隊長。みんなが命令を待ってるよ。あんたがリーダーなんだ。最後ぐらいかっこつけて、ケツにしこたまブチ込んでやりな」

 ぐっと胸が熱くなる。
 万感の思いを込めて、仲間たちに呼びかける。

「撃ち方よおいっっっ! っってぇええええっっ!!!」

 空気が低く震える。暴れる。轟く。
 そして、それは姿を顕す。

 天よりの恵み。神の慈愛。
 大粒の水滴が、空から落ちてくる。

「…………雨……ッ!?」
 フランドールの顔が完全な恐怖に彩られる。
 来るのは分かっているのに硬直して動くことが出来ない。

 吸血鬼は流れ水が苦手。
 本能的に渡ることが出来ない。
 濡れたときに身体の上を滴り落ちる水すら嫌う程だ。

 だから雨に濡れることは出来ない。
 雨の中を歩くことは出来ない。

 そのせいでピーターの死に目に会うことも出来なかった。

 昼の間ずっと降り続いた大雨は、竹藪を潤し、自ら落ち葉の下に潜る。
 伏せた竜の如く、大人しく地の下で眠りにつく。
 大型の爬虫類を怒らせるのは、いつだって悪戯好きなウサギだ。

「イヤッッハーーーーーッ!! くらえっ、ウサギの水鉄砲…………ッッ!」

 てゐが地面に座り込んだままでガッツポーズを取る。仕掛けたトラップが成功した喜びを存分に味わっている。
 紅魔館地下に存在する破砕帯。
 断層によって岩石が粉々に破壊された地帯は、地下水の格好の通り道となる。

 穴掘りウサギは、老ピーターだけじゃない。
 彼の遺志を継ぐ者が何匹もいた。

 目を閉じると何十台もの手押しポンプで嬉々として地下水をくみ上げているウサギたちの姿が電信されてくる。
 彼らの顔は泥だらけ。それなのに皆、笑んでいる。
 何百本ものゴムホースをつなぎ合わせて、先を潰して天へ向けて。
 静かな星の光を返して、きらきらと水滴が輝く。これが昼なら虹でも出ていたかもしれない。
 皆、遊戯を楽しむようにして、この一大トラップを楽しんでいる。

 小銃ではなくて、ただの水鉄砲で。
 戦争ではなくて、ただのお遊びで。
 地上の馬鹿で不真面目なウサギたちは十分楽しいのだ。
 いつもだったら腹立たしくてたまらないその無邪気さが、今日ばかりは何故だか、ひどく愛おしいと感じた。

 わたしは、そっと目を開ける。目の前の現実を認識する。
 ぬかるんだ地面をゆっくりと歩く。ぐじゅりと泥が音を立てる。
 火のような恐ろしい弾幕はもう無い。
 ただ水のしずくが周りを取り巻いているだけ。
 恐怖で震えて硬直している可哀想な子供へ目を向ける。

 同じ色をした視線が合う。

 寄り添うようにして、穏やかに気配を合わせる。
 怯えて縮こまっているその心の奥深くへ入り込んでいく。

 さあさあと水の音はまるで電磁ノイズ。
 それすら聞こえなくなるぐらいに丁寧に心へ触れていく。

 時の止まったようだった。
 同じソファに優しく寄り添っているようになるまで、チューニングを続ける。
 静かに呼びかける。近くて遠い、心へ向けて。

 きこえる?
 ――きこえる。

 わたしたちは、
 その瞬間、まったく同じ生き物だった。


 同じように死の淵に身を置き、
 同じように赤い目をして、
 同じように狂ったのだった。

 同じように、同じように。

 まったく同じように、ピーターを慕ったのだった。
 まったく同じように、ピーターに救われたのだった。










◆   ◆   ◆   ◆ 









「太陽を見たことがないのかい? 一度も?」
「ええ。生まれてからずっとここにいたから」
 何でもないことなのだとフランドールは思っていた。

 北極の氷を見たことがない者はたくさんいる。
 それと同じことだ。
 遠いものは見えない。近くにあるものしか見えない。
 こんなに暗くて湿っぽい地下室で、太陽や青空ほど遠いものはない。

 それでもピーターは小さくかぶりを振って、あきれたように言った。
「触れなくてもいいから、一度見ることをおすすめするよ。わたしが連れて行ったって良い」

 それから彼は、日の光のことを語り始めた。
 祖国の夏の日のこと。輝く陽光と緑の気持ちの良い芝生のこと。
 一日の中に四季の含まれている、北国の夏のこと。

 早朝に出る霧を吸い込んで、木々が目覚める。冬の間に眠っていた芽が命を吹き返すようにして、瑞々しくニレの木も桑の木も生き返る。緩やかに上っていく太陽が姿を現せば、それはもう春の日の再現。
 じわじわと暖められていく地面からアナウサギの坊やが這い出す。朝の体操を少しして、それから日の当たる場所で美味しいお茶とバタ付きパンを頂く。

「かりっかりに焼けたトーストに塊のまま載せたバター。あとはママレードやジャムでもいい。一口に一塊だ。贅沢にな」

 ピーターは手真似でぱくついてみせる。フランドールも真似をした。
 二人きりの食事ごっこ。想像の中の朝食。
 うっかり口の回りをジャムでベタベタにしてしまって拭ってもらう。バターナイフの銀色やボーンチャイナの乳白色は目に浮かぶように思い描くことが出来た。

 それでも、ぱりっと糊のきいたテーブルクロスへ差してくる太陽の光だけは、上手く想像することが出来なかった。

「太陽ってどんなもの? お日様ってどういうもの?」
 尋ねればピーターは答えてくれる。
 きらきらと眩しく、どんな火よりも強く、優しく、大きくて穏やかな。
 それでもやはり見たことのないフランドールにはぴんと来ない表現が多かった。

「見てみたいな」
 ぽつりと言った。
「これから行くかね? 少し時間が掛かるが、夕飯までには戻ってこられるだろう」
 そう言われて、戸惑う。
 外へ出ようなどと考えたことはほとんど無かった。

 それでも、ピーターがそう語るなら。
 ピーターが美しいと言うのなら。
 見てみたいと、心の底からフランドールは思った。

 そう思った瞬間に、頷いていた。立ち上がっていた。
 暗い石畳の中をこつこつとかかとを鳴らして進む。スキップしそうなくらい、気持ちが浮かれてしまう。

 それでもトンネルの出入り口まで来て、足がすくむ。気持ちがしぼむ。
 蝋燭の明かりも届かないほどの闇色の入り口。それを覗き込むだけで歯の奥がガタガタと震える。
 本能に訴えかける、ちりちりと焼き焦がすような焦り。手が震え、足が震え、一歩も先へ進めない。ただ、気圧されるようにじりじりと後ずさるだけ。
 吸血鬼であるが故に、化け物であるが故に、恐ろしいものが、そこにはあった。

「怖いのか、お嬢さん」
 心を読まれたようで、ぎくりとした。
 振り返る。黒々としたその瞳に吸い込まれるようだった。
 こっくりと頷く。
 ピーターの前では素直に負けを認めることが出来た。

「そうか……流れ水を渡れないからか」
 彼は小さく耳を動かした。
 ちょろちょろと水の流れる音が、通奏低音のように響いていた。ずっと途切れずに流れているから、改めて意識しないと聞こえないほどだった。
 細かい砂地の上を掌の幅ほどの水流が通っている。
 たったそれだけのことが、フランドールの根底を揺さぶるような恐怖を与える。

 吸血鬼は流れ水が苦手。
 この地下室が、無数の地下水脈に覆われているなら、ここは天然の牢獄と言って差し支えない。

「フランドール。目をつぶってお聞き」
 ピーターは静かな声で言った。
「私たちの身体には血が流れている。この血の巡りもまた、流れ水ではないかね? お前は私が恐ろしいかね?」

 フランドールは首を振る。
 信頼に足る友人を、恐れるわけがない。
 それは、ただ信じるだけだ。

 布を切り裂く音がした。

 ピーターがずっと大切にしてきた、青い上着。
 ナイフで切れ込みを入れて、自らの手で半分に裂いている。
 ぬかるんだ地面にそのままはらりと敷いた。
 布で出来た青い橋が掛かる。
 
 そのまま手を引かれた。
 身体が反射的にすくむ。
 一歩だけ、よろめく。
 ぐじゅり、と踏みつけにする。

 それでも、歩くことが出来る。

 友がいれば。
 手を引いてくれる友達がいれば。
 前に、進むことが出来る。
 闇の中を、一歩ずつ、探りながら歩いた。


 その日フランドールは、
 初めて、外へ出た。





◆   ◆   ◆   ◆ 












 濡れてうずくまったフランドールの眉間に銃口を突きつける。
 その一瞬、ぴたりと額の皮膚の冷たさすら伝わる気がした。


 位相と位相が重なる。
 同一波長、同一振幅、同一波形。
 互いの波紋。互いの波動。

 ただ、進行方向だけが、違う。

 彼女は過去へ。
 わたしは未来へ。

 それぞれが選んだ信念の元に。

 波紋のすれ違う、その刹那。



 トリガーを引き絞る。


 砲身は水平。最近接でのゼロ距離射撃。





「いっっっっけぇぇぇぇーーーーっっっ!」











 在るだけの弾丸を相手の脳髄に叩き込む。持てるだけの霊気をショットに変換して相手の頭蓋へ注ぎ込む。瞳と瞳を合わせて、互いの呼吸を合わせて。
 轟音爆音震動。耳に通ってる神経を全部遮断してさえ脳がぐらぐら揺れる。自分自身で放った狂気の波動に自らが狂いそうになる。

 耐えろ耐えろ何もかも直ぐ終わる。赤と紅と朱。真っ赤な狂気。長い波長が脳髄を沸騰させる。赤色を通り越したマイクロ波で精神が焼き切れそうになる。

 まだだ、まだ。

 瞼が痙攣しそうなほどに全力で狂気の妹の目を見つめる。その色は果てのない緋色。絶望の夕陽。戦いの色。血の色。死と狂気の色。

 望みを絶ち、殺し破壊してなお冷めやらぬ熱い血と炎。信念の塊。妄念に近い狂気。そこにあるのはただ誰かを思うということだけだ。誰かの為に戦うということだけだ。

 その誰かの不在の中に力がある。わたしだけが、それは永遠の不在であると知っている。永遠の不在でなければならないと信じている。その不在は強い。その不在は絶対だ。

 死は永遠に奪う。
 惜しみなく奪う。
 果てもなく消える。

 救いはない。


 永久に、ない。






「――――――――――――――ッッッッ!」






 目の前が真っ赤に染まる。
 毛細血管が破裂する。
 血の涙が頬を伝っていく。それでも目を開き続ける。
 己の持ちうる力の全て。

 個としての、矜持の全て。


 わたしたちは、
 どこまでも、一人。

 ひとりと、ひとりで、生きていく。

 


 人工の雨が、止んだ。水切れだ。
 ふつりと何かが切れたような感触がして、何も見えなくなる。
 暗転した世界の中で、自分の呼吸ばかり荒い。

 それでも、気配は、止まない。

 倒れない。

「……そんな、」

 いまだ身を起こしている、虹色の羽根の悪魔。
 満面の笑みを凍り付かせたままで、その邪悪な波動は止むことを知らない。

「力の全て、たたき込んだのに……」

 世界が、揺らいだ。

 ぐらりと崩れ落ちる。仰向けにそのまま倒れた。
 当て身も取れずに、背中をひどく打ち付ける。冷たくぬかるんだ地面。
 これ以上は指一本だって動かせそうになかった。

 天を仰ぐ。仰向けになってただ身を横たえることしかできない。

 自分の能力の致命的な欠陥について、思い当たる。
 これは、強弱の問題じゃない。
 ただひたすらに相性が悪い。

 考えてみれば、当然のこと。





――元から狂っている生き物に、

――――狂気の波動が通じる訳がない。






 そう、初めから分の悪い勝負なのだと分かっていた。

 それでも、挑まずにはいられなかった。



「は、ははは、はははははははは………………」

 虚脱して、もう笑いしかこぼれなかった。

 ごめんねみんな。
 ごめんねてゐ。
 ごめんねおじいちゃん。

 頑張ったけど、勝てなかったよ。

 笑いながら涙をこぼした。
 世界の紅さを洗い流して。透明に流れ出て。

 涙の雨をくぐり抜けた向こう側で星々が笑いかける。
 世界はどこまでも綺麗だった。
 

 ――兎は、泣いちゃいけないのに。
 ――どうしてこんな時ばかり、涙が出るんだろう。

















 はさり、と羽音。

 とどめを刺しに来たのだと、ぎゅっと目をつぶる。
 死ぬ前に最後に見た光景が、綺麗な星空であるように。

 けれど、いつまでも痛みは来なかった。




 目を開ける。

 まだ星は、明るい。

 そっと身体を起こす。











 その翼は黒革を張った飛膜。
 薄紅色の大きく広がったワンピース。
 その髪は淡い青。清冽にして高貴。





 永遠に紅い幼き月。
 レミリア・スカーレットの後ろ姿が、そこにあった。






「やはり、力不足か……」
 失望したように息を漏らす。

 振り向いた。紅い目がこちらを見た。
 僅かに細められる。

「……ッ!?」
 身構えるが、すでに足下は覚束ない。よろよろと立ち上がるので精一杯だ。
 それでもハンドキャノンに弾丸を装填する。肩で息をして、鉛のように重い片手をどうにか掲げる。

 夜風がひときわ強く吹く。その勢いだけで倒れそうになる。
 奥歯を強く噛みしめる。自分の中の気力を必死でかき集める。

 と、レミリアの幼い唇から鋭い八重歯がちらりと覗く。
 笑ったのだと気づくまで、数瞬かかった。

「礼を言うわ。妹の相手をしてくれて」

 小さく肩をすくめる。腕組みをする。
 
「妹の狂気に狂気の瞳をぶつければ、治るかと思ったのだけれどねえ。この程度では、難しいか。ふふ、でも楽しそうだった。この子にとっていい思い出になったわ」

 小さく頭をかいて、いやにくだけた様子で。


「ほら、フラン。あんたの負けなんだから帰るわよ」
 いかにもあっけらかんと、吸血鬼は負けを宣言した。
 妹の手を強く握る。
 
 強く振り解かれる。
 それでも再度握り直す。



 う。


 う、う、う、うううううううううううううう。


 低いうなり声が響く。
 夜闇を深く震わせて、揺らして、壊してしまいそうな低周波の強い音。
 地の底からこみあげてくる、肉食獣にも似た凶暴で不穏な空気の揺らぎ。

 それは、嗚咽なのだ、と暫くしてから気がついた。

 悼む声なのだ。

 老ピーターが永遠に失われてしまったことを、嘆く声なのだ。

 レミリアが満足そうに笑う。
「ふん、どうやら生き物の死ぐらいは理解したか。ダメもとの割りには上手くいったわ。改めて礼を言うわね、月ウサギ」
「……礼、なんて」

 言われる筋合いはない。
 わたしは訳も分からないまま、この吸血鬼の手の平の上で躍らされていただけなのだ。
 礼を言うのなら、

「ピーターに言って」
「ありがとうよ、野ウサギ」

 軽く、戯けたように、レミリアは手を帽子にやる。
 胸の上で両手を組む。瞑目する。

 そのまま彼女は死者へ黙祷を捧げた。
 吸血鬼が、神に祈るなんて。
 正気ならきっと笑ってしまうようなことが、目の前で起こっていた。

「あんたのことは、忘れないわ。だから、二度目の死はない」

 一度目は本当の死。二度目は誰かに忘れられること。
 永遠に生きる者に覚えられるなら、その者は永遠の命を得るのと同じことになる。
 ぽす、と帽子を被って、レミリアは羽根を広げる。

「涙もまた流れ水であるなら、わたしたちに号泣はあり得ない。お前たちが羨ましいよ」
 乾いた目で、吸血鬼は語る。
 微笑するそのまなざしは優しい。
「さようなら、兎たち。パイにならないように気をつけて」

 おおおおん、うおおおおおおぉぉぉぉんんん…………。

 声だけで泣きじゃくる妹の手を引いて、永遠に幼き紅い月は自らの根城に帰っていった。
 山の端が金色に染まりかけている。
 あと一刻もすれば、夜が明ける頃合いだった。


 わたしたちは、勝ったのだろうか。

 わたしには分からなかった。

 でも多分、勝ったのだとすれば、それはわたしではなくてピーターなのだろう。

 わたしはそう結論づけて、そのままゆっくりと気を失った。

 







































 明け六つまで一眠りするだけのつもりが、優に辰の刻を過ぎていた。慌てて飛び起きる。
 窓から見えるのは良く晴れた空。さんさんと日が照る。まるで夏が戻ってきたような錯覚を覚える。
 暑いくらいの陽気に、着ていくものを少し考えてしまう。特に今日は黒いものを身につけなければいけない日だから。

 幻想郷では『小春日和』と言い習わす、晩秋から初冬にかけての暖かな日和。
 ピーターの祖国では軍人であった聖人の命日を記念して「セント・マーチンの夏」というのだと教えて貰ったのを思い出す。
「老婦人の夏、インディアンの夏……寒い国では皆、最も良い季節を夏だといい、過ぎてしまったそれを振り返って偲ぶ。この国ではそれが春なのだね。確かにこの国の春は美しい」
 彼はそう言っていた。

 いずれにせよ、夏は過ぎた。春もまだ遠い。
 厳しい冬がこれから来る。
 たとえひとときの平穏なのだとしても、この暖かな日を大切にしたいと思った。


「鈴仙、そろそろ起きな。もうじき出発だよ……ってもう起きてたか」
 てゐが襖からひょっこりと顔を見せた。すっかり身支度をととのえている。昨日のぼろぼろだった面影はまったく残っていない。丁寧に洗ってある毛皮からはふんわりと石鹸の匂いがした。
「……いつもと逆ね」
 思わず素直な感想が口をついて出た。
「失礼な。イベントの時は早起きするのが筋ってもんでしょ」
 戯けてそう言いながら、目の前でくるりと回って見せる。

 ふんわりと裾が広がる黒いワンピース。裾と袖口を縁取る糸だけが紅い。胸元にペンダントはない。
 華美な装飾品を省き、しめやかな場にふさわしい服装。

 喪服。悲しみを共有するための礼装。
 わたしもまた、いつもとは違うネクタイを付ける。ほとんど使うことはない黒色。カフスも光沢の無い黒色を選ぶ。

 本当に、雨が降らなくてよかった。
 こんな日ぐらいは、あの子と一緒に迎えたい。
 ピーターに最後のお別れを言う日には。




 兎角同盟の騒がしさは、いつもよりも控えめだった。昨日の混沌とはうってかわって、真面目に隊列を組んでいた。あまり頭が良いとは言えないウサギたちでも、今日がどんな日なのかについては、うっすらと理解しているようだった。
 しめやかなその葬列は行軍のように見える。しずしずと地面を踏みしめるその足音がひそやかであることだけが、唯一の違いか。

 体格の良い妖怪兎たちが棺を担いで竹林を行く。リボンと鈴とで丁寧に飾られた輿の上に、レバノン杉で作られた小さな木棺が乗る。ふんだんに緑と花とで飾り付けられたそれは、葬儀という言葉から連想されるよりもずっと明るく、穏やかだ。
 糸杉の葉が枝ごとじゅうたんのように敷き詰められて、爽やかな香りを放っている。その上にちりばめられている遅咲きの薔薇たち。深紅から薄桃、あるいは白まで様々に葬礼を彩る。剣先のように鋭く華やかなものもあれば柔らかく丸い花びらをした古来の品種もある。
 墓に植えるための苗木を持ってわたしは先導を司る。木漏れ日に僅かに照らされた野道はいつもよりも神聖に見えた。
 
 隊列は進む。ゆっくりと、誰も置いていかないように。
 竹藪を越え、森を越え、人里を越え、湖を越えて、歩を進めていく。
 歩く中、静かな歌が響く。うさぎたちは歌詞も知らない。伴奏もない。ただ旋律だけが、口々に語り継がれる。短い単純な旋律が繰り返される。柔らかくおだやかで春の日のようなやさしい歌。

 待ち受けるのは紅魔館。悪魔の館が葬儀場になるとは、誰一人として想像もしていなかっただろう。

 けれどこれが勝利の意味。
 決闘を受けた理由がわたしにはあった。
 フランドールはピーターの遺体の引き渡しを、わたしはピーターが大きな神の御許へ行くための儀式を、それぞれ求めた。
 幻想郷に大文字の神様はいない。それどころか、その正体を良く知る者もいないのだ。ここ最近にこちらへ来た神の敵、すなわち吸血鬼たち以外には。

 大抵、敵のことは一番良く知っているものだ。知らなければ弱点を突くことも出来ないのだから。

 紅魔館の一団が石構えのどっしりした門前に立って待ち構えていた。館の主も日傘を持って遠くからこちらを見つめている。わたしは合図の代わりに小さく頷いてみせる。
 いつもと違う服装をしているのは、わたしたちだけではない。
 参列客であるレミリアも墨染めの衣類を身に纏っている。日傘までが薄墨色をしていた。
 そして常と圧倒的に違うのは、十六夜咲夜。
 平素のメイド服とは違い、詰め襟の長いガウンに黒い長ズボンといった様相はどちらかと言えば男装に近い。
 両端に十字架を刺繍した長いストールを斜めにかけている。右手には小さな聖書。表紙もとれかけてぼろぼろだ。聞くところによれば、大図書館から無理に借りだしてきたものだという。
 いつもは三つ編みにしている長い銀髪を後ろできりりとまとめて、ひどく凛々しく見えた。

 レミリア・スカーレットは小さく微笑して言った。
「通夜式へようこそ」
「それを言うならお葬式でしょう。こんなに明るいのに通夜も何も」
「わたしにとっては夜中みたいなものだわ」
 そう言って小さくあくびをした。
「お行儀が悪いですよ、お嬢様」
 咲夜がたしなめる。
「だって、退屈だもの。咲夜が執事になるのはちょっと面白いけれどね」
 その言葉に、咲夜は小さくため息をついた。
「聖職における『執事』というのは決してバトラーの意味ではないのですけれどねえ」
「他に適任が居ないんだからしょうがないじゃない」
 レミリアは唇をとがらす。
「切り裂きメイドが神様に冥福を祈ったりしたら、かえってバチが当たるんじゃないでしょうか」
「吸血鬼とか魔女とか小悪魔よりマシってもんだわ」
「それはまあそうかもしれませんが」
 苦笑する。

「大丈夫よ、基本的なやり方は大体調べたし、多少やり方が違っていても良いって教会側自身が言っているわ」
 すぐ横で分厚い書物を開いてぱらぱらとめくりながら、パチュリーが言う。
「第2バチカン公会議の文書の一つ『典礼憲章』によれば葬儀は『典礼色も含めて各地方の状況と伝統によりよく適応したものでなければならない』ということよ。つまり、ここは幻想郷なんだから幻想郷流でいいってこと」
「何だかよく分からないわねえ」
「まあ、気持ちが大事ってことよ」
 紅魔館の面々の方が騒がしい。ウサギたちもそれに釣られるようにして少しずつ口数が増えてくる。
「では、中庭にご案内いたしましょうか」
 そう言って先導する咲夜はやはり聖職者というよりは、ただの使用人頭にしか見えなかった。
 
 教会堂の代わりに綺麗に手入れされた芝生と青空天井。
 午後にはきちんと影になる場所を選んで、中庭の式場は作られていた。
 教会の鐘の代わりに時計塔が静かに刻を告げた。

 たどたどしい賛美歌と聖書の朗読と説教。遠慮がちに切られる十字。
 信心深いものがその場に居ないせいか、レミリアも小悪魔も涼しい顔をして座っていた。
 この式では牧師ですら偽物なのだ。無理にあつらえたところで、どうしようもない。

 信徒が故人ひとりではどうにも締まらない葬式だった。
 それに一番慕っていた者が列席していないとなれば。

「フランドールは?」
 堪えきれずにわたしは尋ねた。
「お花を摘みに行ったわよ」
 レミリアが小さく肩をすくめる。

「……探してきます」
 そう言って立ち上がりかけたのを、止められる。
 彼女がゆっくりと首を横に振る。
「察してあげなさい、月ウサギ。あの子は負けたのよ。目の前に死体があったら、嫌でも運命に抗いたくなってしまう。子供だから我慢が出来ないかもしれない。ここに来て皆殺しにしないだけでも成長したと思わなくちゃ」
「……でも」
 小さく唇を噛みしめる。

 こんな風に晴れた日だから。
 良い陽気だから。
 雨ではないから。
 空が泣くことはないから。

 一緒にピーターを慕った者として、この場にいて欲しかったのに。

 そのまま、式典は終わった。
 オルガンの音だけがやたらに重厚で、この静かな葬儀には不似合いだった。

 最後に、参列者全員で、花を一輪ずつ供える。
 並ぶ者は多かった。ウサギたちの長い長い列。
 わらや人参を添えるものがいた。紅茶の茶葉を添えるものもいた。スコンを、プディングを、アップルパイを一切れずつ添えるものもいた。

 てゐは、六面体のダイスを置いた。
 これを使ってよく一緒に盤双六、向こうで言うところのバックギャモンをやったのだと語った。
「あのじいさん、結構強くてねえ。イカサマしても三回に二回しか勝てないんだ」
 そう言って思い出したように笑った。

 みんな、ピーターのことをよく知っていた。
 彼のことが好きだったのはわたしだけじゃなかったんだ。ひそやかに慕われていた。
 だから、一緒に戦ってくれたのだ。ピーターのために、気持ちをひとつにして。

 そして、最後にわたしの番が来る。
 そっと花を置いた。
 それから、彼の部屋に半分だけ残されていた青い外套を。
 他に何を置くべきかは、本当に迷った。
 彼がくれたものはたくさんあった。ほとんどのものを貰いっぱなしで、返すことが出来なかった。

 フランドールが姿を現さないままで、蓋を閉めることになった。
 掘っておいた穴の中へ棺をゆっくりと降ろす。

 シャベルで土をかけようとしたその瞬間に。

「――――――――――ッ!」
 金切り声が空間を駆け抜ける。

 煙を上げながら、走ってくる小さな影が遠くに見えた。
 よろけながら、かすかな木漏れ日にすら打たれて、息も絶え絶えに。
 すぐ、芝生に足を取られてつまずいた。

「妹様ッ!」
 咲夜が一瞬にしてその傍へ赴く。
 日傘を差し掛けて、ひざまずく。

 膝をついたフランドールは小さく首を横に振る。
 咲夜におぶられるのを嫌がって、回された手を振り払う。
 日傘を無理矢理奪う。

 よろめきながらも立ち上がる。
 自分だけの力で、誰の手も頼らずに。
 意地を張って、のしのしと大股で歩いてくる。

 拳を強く固めて。
 歯を食いしばって。
 今にも泣きそうに顔を歪めて。
 への字に口を曲げて。
 時々唇を引きつらせて。
 眩しさに目をしょぼつかせて。
 日傘からはみ出して蒸発しかけながら。

 それでも、彼女は墓穴の前に立つ。
 開いたままの日傘が指の間からすり抜ける。
 墓前で、フランドールはうつむく。
 崩れ落ちるようにして膝をつく。

 脇に盛ってある土へ手を伸ばす。
 一心不乱に穴の中へ放り込む。
 ただもうがむしゃらに、力任せに手を動かす。
 その鬼気迫る様相にわたしたちの誰も、手を出せなかった。

 彼女はもう、昨晩のように声だけで泣くこともない。
 
 もう子供じゃないから。
 好きな人が居なくてさみしいというだけで、泣いたりはしないのだ。

 一人、また一人と参列客は穴の前から姿を消した。

 大丈夫だと、信じてやったのだ。
 この子はもうじき大人になるのだと、信じてやることにしたのだ。

「後はまかせるわ」
 ぽん、と咲夜に日傘を渡されて、面食らう。
「先にお茶してるからよろしく」
 レミリアが遠くから手を振る。
「え、え……?」
 手の中に押しつけられた日傘の扱いに慌てふためいているうちに、参列客はぞろぞろと退散していく。
 ……こんな時ばっかり逃げそびれなくてもいいのに、と自分で思う。

 そして本当に誰もいなくなった。
 青空の下で、破滅の権化と二人きり。
 泣きそうな顔をしたままで、決して涙を流さない頑固な吸血鬼は、口を開かないまま黙々と土を掬ってはかけ続けている。

 何も言わず、何も言えずに。
 ただ二人きりでいた。
 ずっと視線を注いでいるのも何だか申し訳ないような気がして、青空ばかり見ていた。

 本当に良い天気だった。
 明るくて、清々しくて。
 お葬式日和というのも変な話ではあるのだけれど。
 少なくともこの後の野外のお茶会にはちょうどいい日。

「……う」
 獣が唸るような声を出して、彼女はようやく立ち上がった。

 最後の最後になって、彼女はワンピースのポケットから何か取り出した。
 それは半分に千切れて、泥まみれになった青い外套だった。
 雨で縮んでしまってハンケチほどの大きさのそれをばさりと広げる。

 はらはらと落ちたのは、いっぱいの花。
 白い小さな野菊のように見えた。中央の黄色いところがまるで太陽のようだった。
 リンゴのように甘い香りが漂ってきて、ようやく気がついた。
 その花は、ピーターが好きだった。

「お花を摘みに行ったのは、そのままの意味だったのね」
「ん……」
 フランドールがこっくりと頷く。首の据わりきっていない子供のように、どこか覚束なく、それでも確かな意思表示として。

 花と一緒に種が蒔かれて、雨が降って、日が照って。
 緑の絨毯になって、良い香りを放って。

 これから先も、生きていくのだ。わたしたちも、花も。

 これから先もその香りを嗅ぐたびにきっと思い出すことだろう。金色の思い出と共に。大地のリンゴの名前と共に。
 カミツレのお茶が好きだったウサギのことを。









「行こうか。お葬式の後にはお茶とサンドイッチとお菓子を出すものだそうよ」
「ん」

 おずおずと手を差し出してみた。
 少し躊躇った後、握り返してくる。

 まだ小さなその手は、泥だらけでがさがさしていて、
 それでも思っていたよりもはるかに優しいような気がした。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

雨→銃弾の雨ということで、浮かんだのが鈴仙。
兎→ピーターラビット。
不意に永遠に緑タイツの子供と、世界一有名なやんちゃうさぎはどうして名前が一緒なのだろうと思った次第。
永遠の子供と言って何故かフランちゃんが浮かんだ。雨だとお外出られない。しかし自ら銃弾の雨を放つ。(ここで思考がループ)

あとは全体的に趣味に走った気がする。
引用・パロディ等の詳細は結果発表後に。

なお、本作品は、ビアトリクス・ポターによる絵本シリーズ「The Tale of Peter Rabbit;ピーターラビットのおはなし」のクロスオーバー作品ではありません。本作品に出てくるピーターはモチーフこそ似ており、多数の影響を受けたものの、絵本に出てくる「ピーターラビット」とは別個のキャラクターであり、なんら関係がないことをここに主張します。

お読みいただきましてありがとうございました。
i0-0i
http://i0-0i.sakura.ne.jp/
作品情報
作品集:
最新
投稿日時:
2009/11/21 18:25:42
更新日時:
2009/11/21 18:25:42
評価:
23/28
POINT:
175
Rate:
1.67
1. 8 バーボン ■2009/12/03 19:05:11
この正体不明の感動は何なんでしょうか……。
ピーターが非常に良いキャラクターだったり、戦闘がやたらと凝ってたり、ラストシーンの余韻が心地良かったり、色々要素はありますけれど。
上手く言葉には出来ないので、面白かったとだけ言っておきます。
2. 6 神鋼 ■2009/12/07 20:21:19
戦闘の描写に違和感を感じました。ですが優しさのある良い作品でした。
3. 9 はべ ■2009/12/08 19:03:12
ピーターさんが素敵すぎる
ただどうやって地下室の壁掘りぬいたんだ
4. 8 静かな部屋 ■2009/12/30 19:31:30
戦闘描写がしっかりしていて良い。
ストーリーもぶれていない。

一つだけ、ピーターがフランを連れ出すシーンだけちょっと……
5. 7 藤木寸流 ■2010/01/04 01:47:54
 何このアナウサギ超イケメン。
 葬式の話題は胸に来るものがあるのだけど、それに至る過程が過程だけに、余計ぞくりとするものがありました。寂しさと悲しみ、あとほんのちょっとの救いと、安らぎみたいなものが。
 みんなピーターのこと大好きなんだなあ、というのが読むにつれて解ってきて、誰が勝ったのかと言われれば、確かにピーターなんだろうと素直に思えました。
 台詞も、格好付けすぎない程度に決まっていて素敵でした。多少、フランの狂気といわれる部分がぼんやりして曖昧だった気も。狂気の定義付けかな。鈴仙あたりはあんまり狂気という感じはしなかったかも。
 ずっとひとりだったように思えて、実は本当に孤独だったことなんてそうなかったんだ、という。
6. 8 名前が無い程度の能力 ■2010/01/06 21:36:46
ピーターラビット、懐かしいなあ。
鈴仙とピーター爺さんの小気味良いやり取りが印象的でした。
しかし戦闘描写がやや近代的に過ぎた気も。ということで8点。
7. 7 文鎮 ■2010/01/08 21:10:27
絵本のピーターラビットとは違うとありますが、青い外套と聞くとやはりやんちゃな彼のことを思ってしまいます。実に懐かしい。
英国紳士をめぐる戦いがやや長く感じましたが、戦争をする鈴仙、狂気を剥き出しにするフラン、あくまでも遊びに終始する他のキャラクター、ときちんと書き分けができていたと思いました。
8. 5 パレット ■2010/01/10 05:07:00
 レベル高くまとまってるなぁ。
 オリキャラであるピーターが非常に魅力的で、それが鈴仙の彼への親しみや、彼との出会いによるフランドールの成長のお話にも説得力をかもし出していました。というか総じてキャラクターが魅力的。戦闘描写も、長いはずなのに単調でないから飽きさせない。かつわかりやすい。全体として、とても面白かったです。
9. 6 白錨 ■2010/01/10 09:23:37
ピーターというオリキャラを上手く使った作品だったと思います。
ただ。戦いの緊張感が負けた兎達を描写する事で薄れたという感はありました。最後にそれを持ってくれば、また印象も違うのでしょうが。
しかし、てゐってこんなに強いんだな……。
10. 6 椒良徳 ■2010/01/11 18:32:18
大文字の神様と言うと、"I am what I am."などと傲慢かます"HE"のことですかな?
色々とお詳しいようですね。幅広い知識と言うのはうらやましいものです。

それはさておき、これだけの大作お疲れ様です。あの制限時間でよくここまで書けるものです。
とはいえ、非常に気合を入れて書かれた力作であることは判るのですが、どうも私に合いません。
個人的に大好きなジャンルのバトル作品なのですが、なんというかこの作品はぐっと来ないのです。
読んでいて手に汗を握らないし、心拍数も上がらない。
フルマラソンを完走した時のような爽快感もない。
そこが非常に残念な作品でした。
とはいえ、文章から人並み以上のものを感じるので、この点数を入れさせて頂きます。
11. 7 ホイセケヌ ■2010/01/13 21:59:22
、、、、メ簧カ、ヌサメヨュ、ホ所、、ヤ彫タ、ネヒシ、、、゙、キ、ソ。」・ェ・・ュ・罕鬢ハシ、皃ネ、キ、ソカタフリ、ホハタス醺Q、ヒユヨア託サ、テ、ソ、ア、ノ。「コヤェ、゚^、ョ、、ミ、ス、ホハタス醺Q、ャ、ネ、ニ、簟トオリ、隍ックミ、ク、ソ。」

、ソ、タ。「、荀マ、熙ニ、、茹ユ・鬣、ホ。「楼カヒ、ヒ・ニ・・キ・逾、ホク゚、、・壥、ホ、ユ、、ソフィヤ~、茖「ツ└ュメ勁ィ、ホ、ハ、、モテユZ」ィ・゚・・ソ・ゥ`、テ、ニ、、、ヲ、ホ」ソ」ゥ、ャカ爨、、ハ、ノハワ、アクカ、ア、ハ、、イソキヨ、筝爨ォ、テ、ソ。」
12. 4 詩所 ■2010/01/13 22:04:36
 元ネタは知りませんが、幻想的なウサギと言うと『不思議の国のアリス』のあのウサギが思い浮かびます。
 兎は水を与えたら死ぬっていう迷信は何処から生まれたんでしょうねぇ。
13. 10 deso ■2010/01/14 01:10:41
息をもつかせぬかっこいいバトル!
互いに退けぬ意地と意志!
逆転に続く逆転と大団円!
そして読み終わった後のなんとも暖かい心地よさ。
いろいろとツボでした。
読んでる途中、「ピーターラビットとわたし」が脳内ループ状態でした。
素敵なお話、ありがとうございました。
14. 10 零四季 ■2010/01/14 22:35:13
これは素晴らしい、としか言いようがないです。オリキャラとしてのピーターも物語の中に上手く溶かし込み、孤独と孤独の関係性を上手く描けていたように思います。某博士によれば孤独という感情は一番共有しやすいのだとか。
バトル描写が原作らしく(ボム、被弾、残機といった)、しかし原作の弾幕勝負は遊びなのに対して……というのが違和感として残りましたが、なんかもう小さいことのように思えました。
素敵な優曇華をありがとうございます。こんな彼女を書けたらなぁ、と。
15. 6 やぶH ■2010/01/15 00:10:56
雰囲気系かと思ったら戦闘のテンションが高くて仰天。てゐが悪役そのもので笑いましたw
ピーターは聖ペテロだからよくある名前では、と一瞬でも考えた時点でもう私は子供の心を無くしてしまったのでしょう。おーまいがー
16. 8 2号 ■2010/01/15 09:37:09
ピーターの棺に土をかけるシーンは泣きました。
登場人物もみんな立っていましたね。
鈴仙とフランの対立軸は、もう少し掘り下げれば更に密度が濃くなるかと思いました。
てゐかっこいい!
17. 8 八重結界 ■2010/01/15 15:16:35
 仲良く手を繋げたかも二人なのに、ただ一つの違いが争いを生むキッカケになるとは何とも皮肉な話です。
 戦争VS弾幕ごっこというか、大人VS子供というか。ともすればウドンゲもフランと同じような立場に陥ってもおかしくないのに、ならないのはやはり境遇ゆえなんでしょう。
 一人の少女が成長するお話、とくと堪能させて頂きました。
18. 8 Tv ■2010/01/15 20:10:28
いやいやいやどう見てもピーターラビットですってこれ。
鈴仙の過去設定ってたいした事無かったと判明したはずでは?
しかし非常に面白い。と言いますか懐かしい。絵本「わすれられないおくりもの」のアナグマを思い出しました。
19. 9 時計屋 ■2010/01/15 22:29:39
 よりによってあの最強の吸血鬼フランドールに、弱く臆病な生物の代表とすら言えるウサギの軍団が立ち向かう。
 それだけでも燃え上がってしまう展開ですが、その幕間に語られるピーターうさぎのエピソードが心温まる素晴らしいものでした。フランドールがなつくのも納得の英国紳士です。
 人はどうやって子供から大人になるのか。そのテーマがすっきりとまとまっていて、心に訴えかけてくるものがありました。暴力の塊のようなフランドールが、その実、死というものを受け入れられないただの子供だということが、ピーターとのエピソードと平行して語られることで次第に明らかになっていく、その過程が実に鮮明で、物悲しかった。
 また、スペルカードによる弾幕ごっこが「よくぞここまで」というくらい忠実に描写され、また同時にSSとしての面白さも持たされていた。
 弾幕の美を文章に表すのは本当に難しい。弾幕の楽しさを文章に表すのはさらに難しい。それを真っ向から書ききり、違和感無く物語に組み込んだ作者様の技量には敬服します。
 素晴らしいSSをありがとうございました。
20. 8 焼麩 ■2010/01/15 22:51:48
意外な人(?)選でした。
弾幕と葬儀のギャップにびっくり。でも根っこは同じ。
彼は兎ですが……どうしようもなく死んで、でもそれを隠し続けて(ある意味)生きているんでしょう。
死んだらそれまで、という考えもありますが、彼ほど慕われて逝くのは羨ましいです。
誰しも……我が幼少期の思い出であるトムとジェリーだって死ぬはずなんだと思うと沈痛な気持ちになります。
21. 10 ねじ巻き式ウーパールーパー ■2010/01/15 22:57:42
お洒落で繊細で悲愴でどこか滑稽で、それでいて熱く! なんだか泣き笑いたい気分です。
こんなにかっこいい鈴仙みたことない!
22. 10 木村圭 ■2010/01/15 23:04:56
フランドールとてゐの味付けがちと極端だった感もありますが、不快感を覚えることはなくするすると。
実に良いエンターテイメントでした。勝ちフラグを叩き折られたところで風のように現れるレミリアがニクイ。
咲夜の描写にえらい力を入っているのは趣味だったりしますでしょうか。良い趣味だと思うのでもっとやってください。
23. 7 ■2010/01/15 23:56:10
おお、面白かったぁ
しかしどうしてこう、永遠亭と紅魔館てぶつかるかな
惜しむらくは雨よりは水や穴の方が近いことか
24. フリーレス i0-0i ■2010/01/17 01:26:44
コメ返しです。皆様ありがとうございました。

>バーボン様
ありがとうございます。面白いと言っていただけるだけで幸せです。


>神鋼様
戦闘描写は難しいですね。特に、弾幕である、ということを意識すると。

>はべ様
<ただどうやって地下室の壁掘りぬいたんだ
英国の技術はセカイイチィーーー!的なアレでw

>静かな部屋様
お褒めの言葉ありがとうございます。
<一つだけ、ピーターがフランを連れ出すシーンだけちょっと……
あのあたり駆け足で恐縮です。

>藤木寸流様
長文感想ありがとうございます。とても嬉しいです。night in galeの感想も以前いただいていて、お礼を言わなければと思っていたところでした。
いくつかの私なりのこだわりを読み取っていただけて、本当に幸いです。
狂気のさじ加減は、全年齢こんぺが初なのでちょっとどれぐらいアクセル踏んでいいものか、悩んでしまいました。精進します。


>6. 8点 名前が無い程度の能力の方
近代戦の扱い方は非常に難しかったです。
原作で、弾丸状の弾幕を撃っている鈴仙は特に。
ともあれ、ありがとうございました。

>文鎮様
コメントありがとうございます。
今回キャラ燃え・萌えしか書いていませんので、書き分け出来ていたというのは非常に嬉しい限りです。

>zar様
東方キャラは弾幕を書いてこそだと思うのですよね。
しかし月の無い夜なので、このフランちゃんはまだイージーモードです。ガクブルw

>パレット様
お褒めの言葉ありがとうございます。
今回、キャラ萌えに徹して書いたので、楽しんでいただけて幸いです。

>白錨様
ガチな殺し合いのような緊張感は、敢えて外したように思います。
その方が東方らしいかなと思い。
ともあれ、ありがとうございました。

>椒良徳様
すいません、あんまり詳しくはないです。恐縮です。
バトルはとても難しいですね。ヒトによって好みがありますし。
引き続き精進します。

>文字化けの方
コメントがよめなくてかなしいです……。もしもお時間があれば、再投稿いただければ幸いです。

>詩所様
童話にウサギはたくさんいますね。
迷信もありますねえ。不思議な生き物です。

>deso様
ありがとうございます。弾幕ごっこだと血が流せないので、なかなか緊張感が作れないのですが、楽しんでいただけて幸いです。

>零四季様
ありがとうございます。
弾幕勝負は賭け事にも使いそうですからねえ。チャーシュー増し増しの代わりにウサギ一体ということでw

>やぶH様
最初の雰囲気が静かなので、ヒキが弱くなってしまって反省しています。
てゐは悪役が似合うと思います。

>2号様
ありがとうございます。
てゐが好きすぎて眠れません。

>八重結界様
コメントありがとうございます。
最後に手を繋ぎなおせて本当によかったと思います。

>Tv様
絵本は意識しましたねえ。懐かしいといっていただけて幸いです。

>時計屋様
長文コメントありがとうございます。とても嬉しいです。
今回、フランの弾幕さえあればそれでもういいかと思っている、原作信者です。あれだけキャラ崩壊させておいて何ですがw
大変ためになるコメントです。

>焼麩様
コメントありがとうございます。
そうです。弾幕と葬儀の根っこは同じなんです。通夜と葬式なのですから。

>ねじ巻き式ウーパールーパー様
一位おめでとうございます。
ついったで感想見かけてにやにやしてました、悪趣味でごめんなさい(笑)
本当に嬉しかったです。コメントありがとうございます。

>木村圭様 ■2010/01/15 23:04:56
キャラ萌えが若干過ぎてしまった感は自分でも認めます。でも自重できないです、すいませんw

>鼠様
テーマ若干弱かったですね、すいません。面白かったと言っていただけて幸い。
25. フリーレス i0-0i ■2010/01/17 01:43:27
公開後の元ネタリスト(原則として敬称略)

以下、全ての読後感を台無しにする、盛大な楽屋落ちリスト。読まない方がいいと思います。

参考イメージ
Wi-z Garage「30」……そもそもこれを読んだ瞬間の鳥肌がこの作品になっているといっても過言ではなく。「300」を下敷きにした熱いバトルマンガ。読み終わって約2週間でこれを書いた。ほとんど迷わなかった……というのは嘘だけど、勢いが弱りそうになるとこれを読んだ。おすすめ。下巻が楽しみです。

その他リファレンス
メインBGM:
Linkin Parkの3rdアルバム「Minutes to Midnight」
Wake……日が落ちて、静まりかえっている中を、重い気配がどぉーーーーんんって来る感じが戦争開始直前あたり。
Given Up……クラップから始まる異様な焦燥感とか追われてても逃げられない感じが、切迫した弾幕シーンにぴったり。気合い入れるときに一曲リピートで。
Bleed It Out……騒がしいところをラップが疾走する感じ。ウサギたちの反撃。
Shadow of the Day……低音のキックが心拍のようで心地よいバラード。ピーターと鈴仙の静かな日々や思い出。そして、勝利や夜明け。
No More Sorrow……最初の、デデデデッていうギターがなんとなく軍靴の足音っぽく。月の戦争のところとか、鈴仙が「戦う時はいつもひとりなんだっ!」って言ってる時の気持ちとか。
Hands Held High……優しいラップってあるんだなって思った。最後のアーメン言ってるところが戦いの終わりと夜明けと葬式。

その他のBGM:
石鹸屋「ってゐ!」……シーンを思いついてから探して聞いていたらてゐのキャラがどんどんPVに引きずられていたという。冒頭の台詞パロを入れようとして入らなかったけどテーマは掬い上げた気がする。年末のカウントダウンライブでやってくれて、超嬉しかった。今年もいい年になります。
Ellen Mclain「Still Alive」……「Portal」というゲームのエンディング。歌詞が絶妙だがネタバレらしいので伏せる。あと、特殊な銃を使って密室を抜け出る3Dパズルゲームなので、それも含めて。
古川本舗「Good Morning Emma Sympson」……ミクの片言英語が可愛らしい。冒頭のガムランぽい音色が何故か自分の中でビートルズ後期。
The Sex Pistols「My Way」……イギリスといえばパンク。シドが無理矢理歌わされている替え歌版。最後の「マイ・ワイ!」というラリってる訛り英語が良いのです。
岸田教団&the 明星ロケッツ「暁を映して」……アルバム「LITERAL WORLD」から。書いてる途中でめっちゃ聞きたくなって、プレイリストに追加。ベンベンベベベベ、っていう合いの手みたいなベースに悶えてしまう。
D猫殿下「狂気の飛翔幻想響〜88鍵盤酷使録」……自分の中の永夜抄のイメージが全部これに凝縮されているピアノアレンジ。弾幕を現すように音の粒が立っている。こんな小説を書きたいように思いました。


以下、本文と二窓推奨の用語集・引用元リスト的な何か。

ピーター・パン:永遠の子供。ジェームス・バリーによるいくつかの作品に出てくる。もっともポピュラーなのが冒頭取り上げた「ピーターパンとウェンディ」。緑色の服を着ている。ネバーランドに迷子たちと共に住んで、ご飯はごはんごっこで済ましてしまう。

ピーターうさぎ:石井桃子訳の通り、ピーターラビットと訳す方が有名か。ビアトリクス・ポターによる絵本の主人公。お父さんはマクレガーさんに掴まってウサギのパイにされちゃったらしい。レタスの食い過ぎで畑で居眠りしたりして、お母さんにカミツレのお茶を飲まされるのだが、あんまり好きじゃなかったりする。原作の別の巻では成長して子供もいるようです。なおこのピーターとは違って、カミツレのお茶は嫌いなんだそうだ。

老ピーター:萩尾望都「ポーの一族」の「老ハンナ」にちなむ。また「Old Peter's Russian Tales」で、邦題「ピーターおじいさんの昔話」アーサー・ランサム著。おじいさんが2人の孫にロシアの物語を語り聞かせるという物語。

カミツレ:カモミールとも。ジャーマンとローマンがあります。別名:大地のリンゴ。リンゴのような甘い香りがする。冬に飲むと身体が温まります。消化や風邪の引きはじめなど民間療法として有名。

大文字の神様:いわゆるキリスト教的な神様のイメージ。実際の神様とは異なる場合があります。
大文字の神様は外の世界で頑張っているから〜:最近は立川でブッダさんとルームシェアしてるらしい。あ、でもアレは息子さんの方か。

リンゴ:エデンの知恵の実がリンゴだというのは後世の俗説らしい。黄金のリンゴは欧州の神話のいろいろなところに出てくる。

伝説の大洪水:ノアの箱船の話。類似の伝説は各地にいくつかあるらしい。

緋色:スカーレット。火色。レバーティンが炎の剣だということ、戦争とは焼き尽くすものだということも含めて。またケンジントン公園のピーターパンにおける聞き手の母親人名「ミルドレッド」mildredも赤色をその名前の内に含む。ピーターパンの着ている緑色の補色でもある。

システム・オール・レッド。:久保帯人「Bleach」12巻番外編 小島水色のモノローグ。先が読めないからエラー。でも、なんだかわくわくするようなコミュニケーション良好か不全か分からないような状況下と解釈。

そのあからさまな敵意は西から響いてくる:紅魔館の人々って西洋ぽいので地図を捏造。西←紅魔館、湖、人里、森、竹藪、永遠亭→東  みたいなイメージ。

超空の要塞は、幾千万の竹槍を圧倒する。:超空の要塞は米軍の戦闘機B29の別名。竹藪があれば竹槍もあるだろうと。第二次世界大戦的ウサギの図。

古びたヘルメット、小銃:あきえだっしょー 中巻のウサギたちが可愛かったので、地上の子達にもつい同じ格好を……。

集中力の無いこの子達が〜:うどんげっしょー 上巻を見て推して知るべし。

手を握る→手が震えている→いや、地面が震えている:ジュラシックパーク2に同じようなシーンが(うろ覚え)

ウサギは鳴かない:ほとんど鳴かないらしいですね。耳掴まれると悲鳴ぐらいは上げるとのこと。

アナウサギ:今のカイウサギの元になった品種。名前の通り穴を掘りまくるのが好き。

兎角同盟宛で届けられた決闘状:兎角同盟とは鈴仙をリーダー、その下の因幡てゐを指揮官として作られた団体。主な活動としてはウサギ鍋撲滅運動? まあ要するに幻想郷に住むありとあらゆるウサギおよび妖怪兎という種族全体に対する宣戦布告なのだと。ウサギたちやてゐは戦えるけれど、師匠や姫様が手を貸さないのは、決闘者以外が手をだしてはいけない決闘の最低限のルールだから。

禁じ手のフォビドゥンフルーツ:グリモワール・オブ・マリサによる。

近代戦に通信機器は必需品だから:振幅を使えば耳で通信出来るらしい。求聞史紀より。

青い上着:ピーターうさぎのトレードマーク的な。しかし元ネタでは雨にさらされて小さくなってしまった為に着られなくなってしまったのだそうだ。

肉桂の香る芋ようかん:お気に入りの和カフェで出てくるのです。まあるい形で月に見立てた芋ようかんに、シナモンの粉でうさぎの形が描かれている。まことに美味。

スコンとクロテッドクリーム:イギリスの代表的なお菓子。さくっとした食感のところに、甘くないクリームと甘いジャムを塗りたくって食す。美味し。
トフィー:キャラメルみたいなもの。
アフターエイト:ビターチョコレートの間にミントフレーバーのフィリングが挟まっている。美味。

ローマ人の噴水:ミヒャエル・エンデの「モモ」で出てくるのはコロッセオだが、なんとなくそのイメージ。
麦畑のかかし:頭の中にあったのはピーターラビットの上着を着させられたかかしと、伊坂幸太郎の「オーデュボンの祈り」だった。
筏になる鳥の巣:ジェームズ・バリー「ケンジントン公園のピーターパン」戯曲以前のピーター・パンのプロトタイプ。
荒れた庭の薔薇:バーネット「秘密の花園」とフランス民話の「美女と野獣」のハイブリッド。

私の母親が亡くなるとき、外の世界は戦争の海に投げ出されそうだった。:ビアトリクスポターの命日は1943年12月22日。第二次世界大戦は既に始まっていた。

丸い光弾が鮮やかに降る。青と紫。土砂降りの、酷い弾幕。:フランドールのスペルカード「クランベリートラップ」。

弾丸の雨:今回のテーマ。
ヒトガタ:高橋しん「キミノカケラ」を連想。
薬を与えられた:高橋しん「最終兵器彼女」を連想。

レバーティンってすっごいキレェー。:有名すぎて、筆力が足りませんでした(深々)動きを見ていると団体戦向けの弾幕だなあと思う。フラン無双とか誰か書いてくれ。

回り車式の発電機:うどんげっしょー 上巻参照。
×印のバンソーコー:儚月抄の負けたメイドが可愛かったのでつい。弾幕戦は気力が尽きたらそこで負け、というのが良いところ。命を奪ってはいけないという。
レーション:軍隊の携帯用の糧食。ミリメシ。乾パンと金平糖は自衛隊。旧帝国陸軍から受け継がれているらしい。鈴仙ってなんとなく陸自っぽい。

……所詮、わたしもよそ者か。:鈴仙にウサギが懐いてない&言うこと聞いてくれないのは原作設定。

月の無い夜:要するに初月(イージーモード)ということ。小学生でないときもーいと言われてしまいますが、本物のフランちゃんはもっと強いよ! ということで。ちなみに初月(はつづき)だと第二次世界大戦中、二時間にわたって徹甲弾を合計1,200発以上喰らって、仲間を助けた帝国海軍の戦艦(でも自分は撃沈)

フォーオブアカインド:スペルカード名そのまま。使いどころが難しかった……。でも基本的に紅魔郷で出てくるスペカで戦わせたかったので……!

弾幕の中央、真円を覗き込めば、四重の笑みで歓迎される。:ニーチェ曰く「怪物と戦う者は、その過程で自分自身も怪物になることのないように気をつけなくてはならない。深淵をのぞく時、深淵もまたこちらをのぞいているのだ」と。深淵と真円のダジャレですね。
鈴仙の不可視の弾幕:描写は花映塚で相手側に出てくるスペカを参照しました。インビジブルフルムーンあたり?(←どれも現象として似ているので決めづらいという……w)
奇数弾がフルメタル、偶数弾がホロ−ポイント:どちらも弾丸の種類。奇数弾の方が速度が速いので、硬質で貫通力高いフルメタルジャケット。偶数弾の方が遅いので先端が柔らかくてべちゃっと潰れて破壊力高いホローポイント。
カゴメカゴメ:1.フランドールのスペルカードの一つ。2.てゐが登場する5面の道中曲シンデレラケージの元ネタ。3.カゴメはトマトジュースの老舗メーカー。人参もトマトも紅い。てゐの首元に人参型のネックレス。首元と言えば吸血シチュの典型的な場所。
かごのなかのウサギ:「かーごめかごめ、かーごのなーかのとーりーはー」という歌詞。ウサギは一羽二羽と数える。永夜抄で幽々子さまが言った「宇宙鳥」という呼び方?もあり。
ハンドキャノンで撃てる最大限の弾薬:花映塚のチャージ2以上。最大限って言ってるから4かな。
弾切れ:そりゃあチャージ4を撃てばしばらくチャージ弾≒ボムは撃てない。
抱え落ち:鈴仙は真面目そうだから抱え落ちしそう。
「大人しいわね、ウサギさん。大人しいのは良くないわ。幻想郷は永遠に子供のためのものだから。大人になったら死ななきゃいけない」:大人しいとは「大人らしい、大人っぽい」という意味ではないのですが。最後まで読んでからこの台詞を改めて読むと若干複雑な気分に。
「誰かが遊びの途中で死んだってそれは事故なのよ」:暗に「ぶっ殺すぞテメェ」という脅し?
心が尽きても即ち敗北。:弾幕ごっこにおいてはガッツ=残機なのだそうだ。
存在の波長をずらす:三月精参照。
邪悪な波動:文花帖(ゲーム版)のフラン。
バックステップ:緋想天で、うどんげだけなぜかバックステップの無敵時間が一瞬長かった。
飴玉:雨→飴。
鉛が甘い:酢酸鉛などは昔、甘味料として使われたらしい。あと催淫剤。しかし重金属なので毒。
恋の迷路 下がっては負ける。臆しては負ける。:スペカ「恋の迷路」。画面下の方に行くと大体ピチュります。恋は強気で前進してぐるぐる回らないと上手く行かない。
レーザーを地平線にして、跳ねるウサギそのままの幻影弾。:てゐのラストワード「エンシェントデューパー」初見殺しの詐欺弾幕。
テーマソング:言わずもがなですが、永夜抄5面道中シンデレラケージ〜Kagome,Kagomeのこと。
いつだったか地下室で追いかけられたことがある:うどんげっしょー参照。
夢を、掘れ:黒部の太陽のキャッチコピー。破砕帯も黒部の太陽の用語。掘るの大変らしい。
ひとりで、大人になるんだ。:新海誠「ほしのこえ」で次に会うときまで「ひとりでおとなになることをきめたんだ」っていうモノローグが。

転進『脱兎・波紋疾走(ウサギ・オーバードライブ)』:「転進」は太平洋戦争中の旧日本軍が「撤退・退却」という言葉を嫌い、拠点を捨て他の地へ移る際に用いた言葉。また、脱兎の如く逃げる、という慣用句があります。

波紋疾走と書いてオーバードライブと読む:1.ジョジョの奇妙な冒険 第一部。吸血鬼とイギリスつながりで。波紋って波動と似てるね。2.既に懐かしい名FLASHであるIOSYS 患部で止まってすぐ溶ける〜狂気の優曇華院〜 の歌詞の一部。OverDrive。
二匹のウサギが飛翔する。:このシーン中、何故かウサテイのフラッシュが頭の中にあった。でもバックの背景は夜なので患部で止まって(略)だった。

ワニ:1.ピーターパンに出てくる、フック船長の時計と左手を飲み込んだチクタクワニ。2.てゐが昔騙した相手@因幡の素兎。3.中国の奥地にかつて住んでいた太古のワニが龍のイメージの一つだという説がある。龍は雨を呼ぶものと相場が決まっている。
「わりぃ子はいねがー」:なまはげ。怠け者を懲らしめるらしい。

「でておいで」「でないとほうりあげるよ」……「でておいで、エドガー。 でないと、メリーベルをお空にほうりあげるよ」のパロ。萩尾望都 ポーの一族 メリーベルと銀のばら。吸血鬼の妹つながり。あと、スペルカード「スターボウブレイク」の動き方が弾をほうりあげているように見えたから。
どんどん近づいてくる笑い声:「スターボウ」が光の波長のドップラー効果による現象であることから。

hit the Jackpot:大当たり〜な感じを示す慣用句。内藤泰弘の「トライガン」で漫画版だと「kiss my ass」になっていたのがアニメだと「hit the Jackpot」になっていたのを思い出しながら(ガンアクションつながり)

呼ばれて飛び出てじゃじゃじゃじゃーんっ!:ハクション大魔王。てゐは昭和ネタが似合う。

ウサギの身体は下り坂を走るようには出来ていない。:後ろ足が長いので。追うときは下り坂で追いましょう。

「うさぎうさぎ何みて跳ねる」、「ころり転げた木の根っこ」:どちらも童謡。あと前者は石鹸屋の「ってゐ!」にも出てくる。

対人地雷:うどんげっしょー1巻カラーページ参照。

「神に祈る準備はOK? ションベン漏らして命乞いしなよ、チビ!」「ハァッッははははっっ、化け物だ、化け物が此処にいるや!」「ウサギをなめるなっ」:全部、元ネタは平野耕太のHellsing。英国&吸血鬼&戦争つながり。それぞれ下記のパロ。「小便はすませたか? 神様にお祈りは? 部屋のスミでガタガタふるえて命ごいをする心の準備はOK?」「化け物はここにいるぞ、カトリック」、「人間をなめるな化け物め 来い 戦ってやる」あと、「老いるのは英国人の楽しみだと言ったじゃないか」も明記していないが、そこはかとなくテーマ。

移動式の轟音:元ネタは「移動式地獄」舞城王太郎の暗闇の中で子供。子供つながりで。
三月ウサギ:不思議の国のアリスから。気が狂っていることの譬え。

玉兎:玉兎は月のウサギ。山中で飢えたブッダを助けるために、クマは魚を、狐は果物をそれぞれ取ってきたがウサギは何も持っていなかったので、火をおこしてもらい、自ら火中へ身を投げた。そのウサギを哀れんだブッダは月まで連れて行ってあげたとのこと。
玉砕:玉砕は自爆。戦争つながりで。
偽符:後で復活するから。しかもてゐは玉兎ではない。地上のウサギが焦げて初めて玉兎になるわけで。月まで打ち上げられたけれども届かなかった。まあ届いたら困るし、今夜は新月。一応お星様は見えたみたいです(後述)

爆発オチ:ギャグの基本。最近、全てのSSを爆発オチにしたくてしょうがない。

はらほろひれはれ:クレイジーキャッツのネタ。あんまり意味はなく「ガチョーン」みたいなものです。何となく「これは不条理なオチに対する脱力の表現というか、場をシメる約束事である。」というのが。あとクレイジーなてゐの〆ならこれであろうと。

スター:ヒゲのおっちゃんが無敵になるアレ。イケナイおくすりをやってもまれに見える。月の無い夜には星しか見えない。

「師匠の新薬」:うどんげっしょーを見ていると、それぐらい在ってもいいような気がした。ユウウツな時に飲む薬。涼しくなる薬。月までトベる薬……は二次創作@ってゐ!PVか。
「あっと、ひっとりぃーーーっ!」:甲子園における恒例の9回表2アウトでのコール。タイガース=肉食獣系ということで。
大玉に引きつけられる小玉の粒。力任せの反射弾(略):フランのスペルカード「カタディオプトリック」。その後の「五芒星の方向に直線上の六連弾。」は通常弾。

大きなのっぽの古時計:おじいさんの時計。天国へのぼるおじいさん。そしてフランドールのスペカ「過去を刻む時計」

本来、ウサギは夜行性だ。:うどんげっしょー上巻参照。

地の利:花映塚ストーリーモード勝ち台詞。でもアレ、竹林ステージだったけどね……。
永遠のうちに誰もいなくなる恐怖:フランのスペカ「そして誰もいなくなるか?」は本当にいい命名だとおもう次第。おかげで「〜か?」という語尾を見るとついフランドール関連だと思ってしまう危険。見えなくなると言う点ではうどんげと似ている。

誰のことでも理解しようとする、どんな心の声も聴こうとする力。:うさぎは耳がいいので。

暗闇のうちに孤独。孤独のうちに子供。:舞城王太郎「暗闇の中で子供」

七日間:安息日は聖書から。また、ケンジントン公園のピーターパンより下記「その理由というのは、生後7日目に人になることから逃げ出したからです」

私のアート:artとはラテン語の「ars」から来ており、「ars」とはわざ、手腕、技術、学術、芸術、技芸や手仕事とあって、また、技術の理論、法則や手引き。また、手練手管やごまかし。さらに、芸術の仕事や作品とある、らしいです。
私の太陽:黒部の太陽ネタ。
赤い水玉模様のハンケチ:ポター版ピーターラビットの持ち物。
蓬莱峡:実在する地名。
彼の祖国における入浴では石鹸は落とさないものなのだそうだ。「表面に膜が出来て良い」 彼は頑固に言い張るのだった。:林望のエッセイ「イギリスはおいしい」で読んだ記憶がうっすらと。
銀の弾丸:言わずもがなだが、吸血鬼や狼男対策の一つ。
粘土質の大地:水はけが悪く、べったりと重い土だが、その分、穂先がゆっくり伸びるのであくやえぐみが少ない筍の名産地になる迷いの竹林。
フランドールの周囲から発生した波紋が空間を駆け抜ける。重なり合う尖弾の波。:QED「495年の波紋」。狂気の瞳がフランに通じないのと同様、495年の波紋も波動を操るうどんげには通じないのではないだろうか。
禿山のダンスホール:ムソルグスキー「禿山の一夜」とは「聖ヨハネ祭前夜、禿山に地霊チェルノボグが現れ手下の魔物や幽霊、精霊達と大騒ぎするが、夜明けとともに消え去っていく」とのロシアの民話を下敷きにした組曲。非常に不穏な感じのする名曲。元来、夏至の夜をさすが、気にしない。
『こんなこともあろうかと』:宇宙戦艦ヤマト 真田志郎の名台詞。参謀よりはむしろエンジニアが憧れる台詞ですが、今回バックにアナウサギの技術者集団がいるのでアリかと。
ケツにしこたまブチ込んでやりな:座薬ネタ。

「っってぇええええっっ!!!」:脳裏にあったのは何故かアニメ版HUNTER×HUNTER第20話「大波×大砲×大あわて 」のクラピカ。水でずぶ濡れって所から?(アレは海だけど)

天よりの恵み。神の慈愛。:さりげなくマイムマイム(雨乞い)

食事ごっこ。想像の中の朝食。:ピーター・パンの中に「食事ごっこ」のくだりがある。

「太陽ってどんなもの? お日様ってどういうもの?」:高橋しん「キミのカケラ」ネタ。主人公の一人シロの帽子がウサギみたいだから。

半分裂いた上着を与える:後述の聖人マルティヌスの行為。

ただ、進行方向だけが、違う。彼女は過去へ。わたしは未来へ。:ある瞬間、波が静止していれば重なり合った瞬間だけはまったく同一に見える。しかし実際には量子効果があるから位置と運動量が同時に計測できないからどうなんだろうか気にしない。

砲身は水平。最近接でのゼロ距離射撃。:ゼロ距離射撃とは接射(距離がゼロ)なのではなくて、角度がゼロ、すなわち水平なことを言うのだとか。

赤色を通り越したマイクロ波:マイクロ波は赤外線より長い波長をもっている。

一度目は本当の死。二度目は誰かに忘れられること。:萩尾望都「トーマの心臓」ネタ
パイにならないように気をつけて:マクレガーさんにパイにされてしまったピーターラビットの父親を意識しつつ。

明け六つ:朝六時頃。辰の刻は十時頃。

老婦人の夏、インディアンの夏:それぞれドイツやアメリカでの言い方。
「セント・マーチンの夏」……トゥールの聖マルティヌス。命日は11月11日。祝日らしい。
彼が軍人であった頃、一人の裸の貧しい乞食に施しを求められた。マルティヌスは武器と外套以外には何も持っていなかったが、彼は剣を抜き、外とうを二つに切って、半分をその貧しい男に与えた。次の夜、キリストが半分の外とうを着て彼の前に現れ、こう言った。「入門者のマルティヌスが、この外とうを私に着せてくれた、」

ふんわりと裾が広がる黒いワンピース。裾と袖口を縁取る糸だけが紅い。:花映塚 てゐの2Pカラー。可愛い。
レバノン杉:絶滅危惧種。紀元前、フェニキア人がこれで船を造り繁栄した。またソロモン王の作った宮殿もこの木で作られた。いずれも滅びた栄華である。
糸杉:死や葬儀を意味する植物。アロマオイルの「シダーウッド」の匂いだと思っていただければ近いかと。
薔薇:イギリス人は薔薇が大好き。剣先のモダンローズと丸いオールドローズ。

歌:正教会でのパニヒダのように「永遠の記憶」という歌詞を付けようかと思ったのですが、イギリスでメジャーな聖公会ではなくなってしまうので断念。
決闘を受けた理由:物や金銭を賭けると勝負の真剣さが飛躍的に向上するのはウサテイのフラッシュを見るまでもなく明らか。ラーメン大で増し増しだー。

ストール:聖職者が身につける長いマフラーみたいなもの。色については色々ある。黒い詰め襟のガウンはカソリックよりはプロテスタント的な格好だろうけど、白よりは黒の方が咲夜さんに似合う気がしたので。

執事:聖公会における聖職の一つ。カトリックの助祭に近しい。

第2バチカン公会議の文書の一つ『典礼憲章』:実在。ウィキペディアの「葬儀」の欄を参照。
時計塔:緋想天の咲夜ステージ、非想天則のめーりんステージなど。
遠慮がちに切られる十字:聖公会でも宗派によってカソリックに近ければ近いほど多く切るらしい。

「花を摘みに」:慣用表現的にはいわゆる大きなご用事。メモをそのまま貼り付けると「アイドルはうんこしない。ふらんちゃんは幻想郷のアイドルであるからして、慣用表現的な花摘みなどしないのである!」だそうです。全部秘書が書きました(遠い目)

プディング:いわゆるカスタードプリンだけではなく、デザートからメイン料理まで幅広いものです。
アップルパイ:イギリスで美味しいものと言えばなんとなくリンゴ。晩秋から冬にかけて美味しい果物です。

盤双六、向こうで言うところのバックギャモン:平安時代頃、日本には来たそうです。あまりに面白かった&博打で身を滅ぼすひとが多かったので、禁じられたそうな。
花と一緒に種が蒔かれて:カミツレの種は非常に細かいので、手でつまんで植えるのはむずかしい。
「お葬式の後にはお茶とサンドイッチとお菓子を出すものだそうよ」:英国式のお葬式はそういうものらしい。通夜振る舞いみたいなものか。あと土かけるのを待っていたりはしないんだそうだ。さっさと戻ってお茶会するとのこと。

以上ありがとうございました。
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