砕月が降り注ぐ日まで

作品集: 最新 投稿日時: 2009/11/21 18:58:58 更新日時: 2010/01/17 20:40:58 評価: 21/21 POINT: 86 Rate: 1.01
小粒な雨が降りしきっていた。
時刻は夕方だが、空を見上げれば暗雲の分厚いこと、これでは沈み行く緋色の夕陽も姿を見せられない。
永遠亭を出て私は、夜のように暗い竹林を歩いていく。

相変わらず竹林は可愛げも無く、無駄に背を伸ばし続けている。
このままいつか月に竹林が刺さってしまうのか?
それはそれで、良い気味だと思うし、面倒だとも思う。
今更、月の住人達に用は無いのだから。

今日は何度目かの、すでに回数は忘れてしまったけれど、妹紅と殺し合いをする為に、私は久しぶりの外出をした。

蓬莱人ゆえに、約束された永遠は途方も無く退屈で、何かをしないと生きていけない。
妹紅の憎悪は私の先行き真っ暗な人生を、照らしてくれる。
彼女がいなければとうに、私は永遠を前に壊れていたと思う。妹紅もきっとそうだ。

お互いが生きていく為に、私たちは殺し合いをするのかもしれない。


「そういえば」


今日は妹紅がどの辺に居るのか、全然分からない。
いつもはなんとなく居そうな所を適当にさ迷って、出会えば殺しあう。出会わなければ月夜の散歩と洒落込むのに。

不思議と今日はその、なんとなくという感覚が働いていない。

この竹林の薄暗い闇が、私の感覚を食べているかのように。
ふと、無邪気な童の笑い声が聞こえてきた。
私は声の主を探そうと、前方を眼を凝らして視る。

薄暗い林道の先には、竹の影が幾重にも重なって完全な闇を作っていた。

闇の中に金色の宝石が二つ、浮いていた。
ニィ、と宝石が三日月型に細まっていく。そこで私は初めて、笑うという感情を持った存在が居ることに気が付いた。

私には恐怖という感情は程遠いモノなのかもしれない。
もしくは、竹林の丁度良い塩梅の薄暗さが恐怖心を麻痺させているのかも。

私は躊躇わずに直進して、闇の中に身を投じていく。そして、ソレの目の前で立ち止まった。
宝石のすぐ下に、「くぅふふ」と呼吸に笑い声を混ぜた音を発した口が、開かれていく。
闇の中から、子供が精一杯口端を吊り上げているような笑顔が浮かんできた。

あと、獣のようにギザギザな歯が見える。八重歯がちょっとだけ長かった。

「貴女は食べても良い人間?」

ああ、と私は納得した。
その異形の歯は人を食うために進化し、適応した歯なのだ、と。
闇の中から、顔だけを覗かせている少女は目を見開いて、恫喝するよう不気味に笑う。

「ねぇ、私お腹が減ってるのー。良いでしょう?食べさせてよ、塩味の利いた薄皮に砕き応えのある骨と青白い透明な液体、真っ赤なジュース、それとそれと林檎のように美味しい心臓を」

人食い妖怪と出会ったのは初めてだ。
だから、ちょっとだけ吃驚してしまう。童女が心臓食べたいー、なんて言い始めるとギャップがあって――――――面白いから!

「あは、あはははははは!!」
「ん?んふぅ、うふ、うふふ」

私が笑い出したのを恐怖の所為だと少女は勘違いしたみたいで、上機嫌な笑みを浮かべて、口元から涎を垂らしそうだった。
人食い妖怪の最高のスパイスは恐怖で、好むのは凝り固まった人肉だそうだ。
もし、私が人を食べるのなら絶対柔らかい肉だと思ったけど、永琳の言葉だからきっと合ってるのかもしれない。

「んふふ、ねぇー、良いでしょう?貴女を――――」
「良いわよ」

あっさりとした私の返答に、少女は「ぇ?」と、眼を真ん丸くさせて、硬直した。
そして、私は右手で自分の胸を突き刺し、五指を何度も開かせて傷口を拡張しながら心臓に指を付ける。
ビシャビシャ、と人食い少女の顔面に血が飛んでいく。
瑞々しい桃を潰すような音と、繊維を引き千切る音だけが、闇に木霊していた。

「はい、どうっっごぽっぅぇ」

どうぞ、お食べなさいと言うつもりが、胸の底から血があふれ出てきて上手く喋れなかった。私、ちょっと格好悪い。
人食い少女は差し出された心臓を、口からヘドロのような血の塊を吐き続けている私の顔と見比べながらおずおずと、手に取っていく。

私の心臓を両手合わせた上に転がし、少女は齧り付いた。
まるで桃を食っている時の咀嚼音が響いていく。

ふう、はー、ふぅ、はー、と私は三回深呼吸をする。
心臓があった場所に痒い感触が生まれ、やがては何かが大きく広がって、空いた隙間を埋めていく。
荒くなった呼吸は次第に収まっていき、同時に傷口も塞がっていった。

蓬莱人だから出来た事だった。

とはいえ、人食い妖怪の驚く顔が見れた事で十分なおつりが返ってきたと私は思っている。
見る人が居れば馬鹿だと思うかもしれない。だけども、脳裏にある言葉が浮かんでくるのだ。

『相手の得意分野で驚かせるのが一番楽しい』

これは永琳を騙したときの因幡てゐの言葉だ。あの悪戯兎は、その後永琳の部屋で三日間監禁され、永琳にはあんまり悪戯をしなくなったけれど。

ふと、もう私の心臓を食べ終えたのか、少女は真っ赤に染まった自分の手をペロペロとどす黒い舌で舐めていた。
少女の周りから闇が薄れていき、全身を現した。真っ黒なワンピースに頭の上にはリボンが付けられている。

「どう?満足できた?」
「うん!心臓一個だけど、不思議な味だった。果物と肉を合わせたような感じで面白かったよ。それに、私に心臓くれた人は初めてだったよー……」
「そりゃそうでしょうね。人間が人を食う妖怪に優しくするはずがないもの」
「でも貴女は優しくしてくれた!だけど私は歌を歌えない、お返しに何かをあげれる様な物もない。だから!」

少女はよっぽど嬉しかったのか、子供のような満面の笑みを浮かべて言った。

「だから、これはお礼ー。”月符”ムーンライトレイ!」

両手を天に突き出して、少女の全身から目に優しく馴染む程度の光が生まれていく。
足元から胴体、そして、伸ばした両手へと光は昇っていき、丸い小さな月となって空へと昇っていった。

風船のようにゆらゆらと危なげながらも、雨に打たれつつしっかりと、光は雲の中へ消えていく。

「あれ、見えなくなったわね」
「ううん。もうちょっと待っててねー」

その言葉に私は空を黙って見上げ続ける。
んふふー、と少女は何が起きるのか知っているらしく、私の横顔を金色の目を輝かせて見つめている。
ふと、異変は気づいたらそこにあった。

雨の一つ一つが金色の光を放ち始めたのだ。
たちまち、薄暗さは消えていき、竹林全体が光に満たされていく。
竹を滴る雨の雫も、黄金色に輝きを放っている。

竹取物語で語られる私は光り輝く竹を割って、見つけられる事になってる。
だけど、実際は私が月から降りて来たときは、月の宝具が放つ光でそう見えていただけ。

地上に降りてきた時の私は、どうしようもなく不貞腐れていた。
今思い返すのも恥ずかしいぐらいに傲慢で我侭なお姫様でしかなかった。

地上の生活で、人の温かさを教えてくれたのは最初に出会った祖父と祖母だった。
彼らのお陰で地上に降り立った時の私と、今の私では全然違う生き物になってしまった。
穢れをなんとも思わず、緩やかな変化を享受できるようになった。蓬莱人になってから、ってのは良い皮肉だと思うけど。

「私はルーミア。闇を操る妖怪、だから闇を薄めることも出来るのよー。それじゃあねー」

さっきまで傍に居た少女の姿はとうに消えていた。
どこからともなく乱反射した声だけが木霊している。


「――――嗚呼、私の心臓一個分以上の価値はあるわね」


空から輝く雫が数え切れないほどに降ってくる。
もし、ずっと遠い未来で、月が砕けて地上に降り注いだら、こんな景色になるのかもしれない。

終末チックな幻想風景に私はただ立ち尽くしていた。

永遠を前に全てが儚すぎる。生きる意味が薄れてしまう。
だから、何か目標があれば少なくとも、その目標まで生きていられる。

この日、私の生きる為の意味が一つ、増えた。


また、こんな風景に出会える時まで。



私は生きてみたいと思ったのだった。
短編で軽く読めるものを作ってみたいと思いました。

読んで頂いた方、ありがとうございます。

>百円玉さん
そうですね、輝夜が何を思ってどう変わったのか。考えると面白いですね。

>バーボンさん
心を動かすものも特に無い。書いた私もそう思います。何を切羽詰ってたのでしょうか、私は。
この話をもっと膨らませることが出来なかったのは私の実力不足です。申し訳ないです。
自分の中でも勿体無いことをしたと、思っています。

>神鋼さん
……引きました?ごめんなさい。ただ、こうすれば分かりやすいと思いましたので。
まぁ、かなりの強行描写っていうか、凶行でしたけれど。

>静かな部屋さん
明太子は赤いですよねー。薄暗い竹林で食べた心臓は明太子のように明るい赤じゃないと思うので大丈夫ですよー。
……多分。

>藤木寸流さん
「らしさ」が、出てたのなら幸いです。それすらも出てなければ困ってしまいましたよw

>リコーダーさん
う、ん…。そうですね、言われて耳が痛いです。
精進します。

>パレットさん
てゐが悪戯のノウハウを語るのなら言いそうだなぁーって思いました。
私もなるほどなーと思いました。

>白錨さん
妹紅、ですか?輝夜を通してのって意味合いですかね。それとも……、まぁ意図した通りに作品が書けたのなら幸いです。

>椒良徳さん
グロテスク!確かにそうかもしれないです。控えてたつもりでしたが、そうですよね。
傷口拡張とか繊維を引き千切るとか言ってれば、そうなりますよね。ごめんなさい。明太子は食べられますか?

>ホイセケヌさん
え、―――――…………、ありがとうございます!

>詩所さん
亡霊が食べると輪廻を潜れなくなる。なら、生きてる者は?妖怪は?―――考えて無かったですw
ルーミアパワーアップフラグ!

>desoさん
何かが足りない。―――もう暫しお待ちください。
ルーミアと輝夜に関してはもう一度、書きたい題材ですので。

>零四季さん
こじんまりと纏まった感じでした。あくまで、「こじんまり」と、ですが。
お褒め頂き、ありがとうございます。

>やぶHさん
ルーミアの人を食う時と通常は別れてる気がします。って、思った。
輝夜が過激でしたねww

>2号さん
輝夜と妹紅は命知らず。文字通り。いや、死を知らないだけなんでしょうけども。
ルーミアはここで礼儀よくすれば次回も食べられるかも、と考えたのでしょう。腹黒い!いや、嘘です。ごめんなさい。

>八重結界さん
この二人に関しては、もう一度書くつもりです。
っていうか、自分もこの二人の会話を面白く書きたい気持ちです。

>時計屋さん
文章はこれからも精進させてもらいます。
なるほど、読者の視点になれてませんでした。参考になります、ありがとうございました。

>如月日向さん
輝夜の退屈描写について。全体的に走り書いたような感じなので、他の方にも言われてますが、もっとじっくり書くべきだったと後の祭り状態です、ごめんなさい。
貴方の好める所があって良かった!ありがとうございます。

>木村圭さん
ええ、そこを突っ込まれるとは。確かにその通りですね。ご指摘ありがとうございます。
ルーミアの吃驚する表情をじっくり描写して欲しいって。
大丈夫です。人には誰しも人には言えない嗜好を――って、違いますね。
私はあれです。ハイテンションな台詞を憂鬱な表情で叫ばされる文が好きです。

>近藤@紫さん
(´・ω・`) うん、そうなんだ。

>鼠さん
ええ、面白いと感じてもらえれば幸いです。


>皆さん
色々至らない所も感じたとは思いますが、それでも感想を書いてもらえたのは嬉しかったです。
読んで頂き、ありがとうございます。
設楽秋
作品情報
作品集:
最新
投稿日時:
2009/11/21 18:58:58
更新日時:
2010/01/17 20:40:58
評価:
21/21
POINT:
86
Rate:
1.01
1. 5 百円玉 ■2009/11/23 19:43:07
蓬莱人だから様々な事を捨て、様々な事を得て今の輝夜が在るのですね。
名前も知らない二人の出会いは何をもたらしたのでしょうかねー。
2. 5 バーボン ■2009/12/04 21:17:34
特に大きな感動があったわけでも、腹を抱えるギャグがあったわけでもありませんが、それこそが恐らく作者さんの狙った物なのでしょう。
金色の雨と言う発想も良いと思います。ただ、短くてあっさり読める代わりに、強く心を動かされる物も特にあるわけではなく……。
評価が凄く難しいです。もっとじっくり書いて欲しいと思ってしまうのは、自分の主観の押し付けでしかないでしょうし。
悩みましたが、自分の平均点を入れさせて頂きました。自分はこの点を基準に加減して点数をつけています。
3. 5 神鋼 ■2009/12/09 19:28:51
中盤ちょっとひきましたが終わってみれば不思議なほのぼのさがありました。
4. 6 静かな部屋 ■2009/12/30 18:49:12
今、俺の前には明太子が……!
あがが。
食欲が……。

まあ、この点数は、それとは関係なくつけたつもりです。
5. 3 藤木寸流 ■2010/01/04 18:22:40
 ルーミアらしさ、輝夜らしさ、というものがよく出ていたと思います。
6. 6 リコーダー ■2010/01/10 02:02:33
風景を描き出す、という意味では中々成功していると思います。
二人のキャラが、もっと全面に押し出されていると良かったかな。このままでも十分魅力的ではあるんですが、驚かせる、という意味ではルーミアにはもう少し派手に驚いて欲しかったし、その後の恩返しもさらっとしすぎかなぁと。輝夜の方もあんまり鬱々とした感じがしないのが、説明と印象の乖離。
7. 2 パレット ■2010/01/10 05:08:43
 『相手の得意分野で驚かせるのが一番楽しい』に、なるほどなーと。
 光の雨が幻想ちっく。
8. 2 白錨 ■2010/01/10 09:36:06
妹紅のかっこよさが伝わりました。
短編で軽く読めるものという筆者の意図したものが出来ていると思います。
9. 4 椒良徳 ■2010/01/11 18:35:42
こうもグロテスクな作品をこれだけ綺麗にまとめられると、何点にするか悩みますね。
コメントにも困りますね。悩みに悩んでこの点数にしました。
10. 3 ホイセケヌ ■2010/01/13 22:05:08
・ゥ`・゚・「、ネンxメケ、ホョ惜ォ、ホ・ウ・・モ」。。。、「、熙ス、ヲ、ヌ、ハ、ォ、テ、ソ、ハ、「。」
11. 4 詩所 ■2010/01/13 22:05:34
 蓬莱人の心臓食べると不死身になりそうな気がします。
 ルーミアパワーアップフラグ。
12. 4 deso ■2010/01/14 01:08:15
うーん、もう少し何かが欲しい
13. 8 零四季 ■2010/01/14 23:19:14
こういう話は好きです。暗くて、明るくて、綺麗。
短いのによくこれだけ纏められるなと思いました。ルーミア、お腹減ってたんだろうなぁ。
14. 5 やぶH ■2010/01/15 00:15:17
し、心臓を直接とはすごいですな。まさに蓬莱人ならでは。
雰囲気がいきなり変わったので戸惑いましたが、幻想郷では案外こういう光景が多いのかもしれませんね。
15. 4 2号 ■2010/01/15 10:00:59
短いながら輝夜の抱える退屈と狂気が伝わりました。
きちんとお礼するとは、ルーミア意外と律儀ですね。
16. 3 八重結界 ■2010/01/15 15:18:25
 妖怪らしいルーミアと、蓬莱人らしい輝夜の組み合わせは実に珍しいもので。出来れば、もう少しこの二人の会話を読んでいたかったところです。
17. 2 時計屋 ■2010/01/15 22:31:49
 文章がちょっと垢抜けていない印象です。
 短くはありましたが、軽いとは感じませんでした
18. 4 如月日向 ■2010/01/15 22:55:27
 ルーミアをはじめ妖怪はやはり、自然に人間を食べるのですね。
 輝夜が永遠に退屈している様子を、もう少ししっかり描写したほうがよかったと思います。

〜この作品の好きなところ〜
 金色に雨の情景がとてもキレイでしたっ。
19. 4 木村圭 ■2010/01/15 23:07:05
闇を薄めるってまたよく分からない表現だなぁ。ルーミアのやってることはどちらかといえば雨粒に光を付与、じゃないかと思うけど。
輝夜が心臓を引っ張り出すところとそれに対するルーミアの反応(どうもそこまで驚いてる風でもなさそうだけど)はもうちょっとじっくり描写して欲しかったです。
って何か変な嗜好を持った変態みたいじゃないか。
20. 2 近藤@紫 ■2010/01/15 23:27:24
(´・ω・`)
21. 5 ■2010/01/15 23:57:30
短いけど、面白い。
動機も人物も違和感なく
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