音は空に消え

作品集: 最新 投稿日時: 2009/11/21 20:57:22 更新日時: 2010/01/19 03:43:18 評価: 20/20 POINT: 132 Rate: 1.50
 拍手の音が聞こえてきます。妖怪がピアノを弾くのが珍しいのか、観客の人達もたくさんいて、その目がみんな僕に集まります。僕はみんなに向けてお辞儀をすると、ピアノの前に向かいます。愚図ついた天気の夜で、今にも雨が降ってしまいそうな空模様でした。
 すっかり暗譜したはずの楽譜を譜面台に置いて、大きく深呼吸をして、九十二個の白と黒の鍵盤たちを見下ろします。すっかり見慣れているはずなのに、なぜか始めて見る物のように思えました。すると、僕は不安で一杯になります。僕がピアノに座るとみんなが静まって、耳鳴りがしそうに静かで、頭がくらくらしてしまいそうになりました。
 もう一度深呼吸をして、意を決して僕は鍵盤を押さえました。ピアノの澄んだ綺麗な音は……聞こえてきません。音と音が変に混じり合って濁った音がします。何度も何度も練習して、完璧だと思っていたのに、今まで聞いたことがないような音がします。目の前にあるピアノがピアノじゃないみたいです。僕が演奏している手も、僕の手なのに、他の人の手みたいに思えます。頭の中も、真っ白になってしまいました。
 それでも勝手に動く手に引っ張られて、どうにか一曲を終えました。まばらな、小さな拍手が聞こえてきます。続けて次の曲に入ったのですが、みんなは興味のなさそうな顔になって、何人かの人達は立ち上がって、時間を潰しにどこかに消えてしまいました。その立ち上がる音が、本当に小さなはずの音が、なぜか大きな音になって僕の頭の中をぐるぐると回っています。僕に聞こえてくるはずのピアノの音を、それが打ち消してしまいます。それでも勝手に動いてくれる手と、その手から生まれる濁った音に引っ張られて、どうにか演奏を終えました。さっきよりも、もっとまばらになった拍手が聞こえる中で僕は立ち上がり、

「ありがとうございました」

 と言いながら深々とお辞儀をすると、またまばらな拍手が聞こえてきました。だけど、おばあちゃん達だけは大きな、誰よりも大きな拍手をしてくれていました。それを見ると僕はますます恥ずかしく、そして悲しくなってしまいました。気を抜くと涙が出てしまいそうです。

「お疲れさま」

 ステージを降りると、おばあちゃんがそう言いながら僕を出迎えてくれました。横を次の出番の人が通り過ぎて、さっきいなくなった人達も戻ってきていました。

「ごめんなさい」
 
 僕はそれだけを言うと、思わず走り去ってしまいました。なんだか、顔と耳が熱くなってきてしまいました。そして、会場になっている広場の端っこで、そのまま僕は泣いていました。あれだけ練習したのにこんな演奏になってしまったことが悲しかったのか、おばあちゃんの前座だったのにみんなを冷めさせてしまったことが悲しかったのか。たぶんその両方だったんでしょうけど、泣いていると頭が真っ白になってしまって、それもよくわからなくなってしまいました。
 そして、次の人の綺麗な演奏を聴きながら隅っこで泣いていると、おばあちゃんが僕の所に来てくれました。出番の直前なのに無駄に時間を使わせてしまったと思うと、僕はますます悲しくなって、ますます涙が出てしまいます。おばあちゃんは少しの間考え事をしているかのように無言でしたが、

「しゃきっとしなさい!」

 と大声を出しました。

「男の子が一度の失敗くらいで泣いてどうするの! 人前で泣くなんてみっともないわよ!」

 そう言われているのに、やっぱり涙が止まりません。おばあちゃんはまた考えていましたが

「わかったわ。泣いてもいいわよ、でもちょっと待ちなさい。雨が降るまで」
「雨?」
「雨の間だけは泣いててもいいわ」

 どういうことなんだろう? と思っていましたけど、その言葉を頼りに、必死に涙を止めようとします。その言葉のおかげか、顔も耳もまだ熱かったんですけど、なんとか僕は涙を止められました。

「雨でびしょ濡れになったら雨か涙かわからなくなるでしょ」

 そう続けられて、わかったような、わからないような気持ちになりました。

「泣いてていいから、雨が雲を無くすように、嫌なことなんかは全部涙と一緒に流しちゃいなさい、いいわね」

 そう言うと、おばあちゃんは激しく咳き込みました。最近体調が悪いのは知っていましたけど、それでも酷い咳でした。

「大丈夫!? おばあちゃん」
 
 少し間を置くとようやく咳は止まりました。

「大丈夫よ、今日はまだ夜の薬を飲んでなかったから……」
「駄目だよ! ちゃんと飲まなきゃ」
「苦いからねえ、あの薬」

 咳の落ち着いたおばあちゃんがそう子供っぽく言っているのを見ているとなんだかおかしくて、僕もほんの少しだけ笑えました。そして、遠くで大きな拍手が聞こえました。その拍手に合わせて、空が拍手をしているかのようなタイミングでかすかに空から水が落ちてきて、ポタって音と共に地面に落ちました。

「さっきの人も終わったみたい。おばあちゃん、時間は大丈夫?」
「そうね、そろそろ行かなきゃ」
「薬も飲まないと」
「わかってるわよ、演奏中に咳が出たら困るでしょうし」

 そう言っておばあちゃんはステージの方に向かいましたけど、少し歩くと振り向いて、最後にこういいました。

「どんな酷い演奏も、汚い音もあなただけの音なの、誰にも代わりのできない音よ」
「うん」
「だから音を嫌いにならないで。嫌なことは雨と一緒に全部流しちゃいなさい。そして練習して音を育ててあげて」
「わかったよ」

 そのまま僕はそこに座っていました。僕はずっと上を見ていました。ポツン、ポツンと僕の顔に雨が降り注ぎます。遠くからはまた別の人のピアノの音が聞こえてきました。遠くから聞いていてもはっきりわかる、素晴らしい演奏でした。それを聞いていると、自分が情けなくなって、止まっていた涙が再び出てしまいます。失敗したことへの後悔が頭を覆います。
 雨足がまた強くなってきます。本格的に雨が降ってきて、僕は体中がびしょ濡れになってしまいました。衣装のスーツも、僕の顔もびしょ濡れです。その中で僕はずっと泣いていました。情けなさも、後悔も全部追い出すように泣いていました。どれだけ泣いていたのでしょう。また演奏が終わりました。次はおばあちゃんの番です。僕は控え室に走りました。雨と涙を振り払うように。
 スーツからいつもの服に着替えて、傘を持って、客席に走ります。控え室を出ると、不思議と雨が止んでいました。それでも空はほとんどが黒い雲で覆われてましたけど、少しだけ雲が消えて、隙間から月の光が見えました。そして、僕ももう泣き止んでいました。顔を拭いて、客席に戻ります。

「随分すっきりした顔ね、そうよ、レイラの演奏を聴くのに陰気な顔じゃもったいないからね」

 と隣に座ったメルランさんが話しかけてきます。その声を聞いているとますます僕の心は晴れていく気がしました。そして、おばあちゃんがステージに現れました。赤いドレスに着替えています。ドレス姿のおばあちゃんを見ていると、なんだかおばあちゃんが、おばあちゃんじゃないみたいに見えました。みんながおばあちゃんの、レイラ・プリズムリバーの演奏をどれだけ待っていたのか、を示すような雷みたいな拍手が鳴り響きました。

 おばあちゃんはお辞儀をして、ピアノに向かいます。そして鍵盤に手を置いた瞬間、世界が変わりました。僕とは比べものにならない演奏です。一音一音が水のように澄んだ、綺麗な音です。音の強弱も、分離も、何もかもが僕とは比べものになりません。でも、おばあちゃんの音は、そんな技術だけでは言い表せません。おばあちゃんの音を聞いていると、色んな光景が浮かんできます。まぶたを閉じるとここが人里の広場だとは思えなくなって、どこか別の場所に飛んでいったように思えます。
 その光景はとても、とても鮮明に思い描くことが出来ました。みんなが同じピアノを使っているのに、おばあちゃんが弾くと、ピアノに魔法がかかったように思えます。その音はどれも暖かい音です。悲しげな曲を弾いていても、なぜか暖かさを感じられます。それがきっと「おばあちゃんの音」なんでしょう。

 アンコールを終えると拍手が鳴り響いて、ステージに上がったルナサさんが花束を渡しに行きます。最後に今日一番の拍手が鳴り響きます、その中をおばあちゃんが降りていってコンサートは終わりました。実際はとても長い時間だったんですけど、僕たちには一瞬で終わったように思えました。
 僕らは控え室に向かいました。おばあちゃんはさすがに疲れている様子でしたけど、満足な演奏だったってことを表すような笑顔で僕らを出迎えてくれました。満足そうなおばあちゃんを見ていると、また自分の演奏が悔しくなったのですが、さっき散々泣いたおかげと、おばあちゃんの暖かい音を聞いたおかげで、もう悲しくはありませんでした。
 
「お疲れさま、レイラ」

 とルナサさんがいいました。そしてポットから紅茶を取ると、おばあちゃんに渡そうとしたのですが、おばあちゃんは疲れていたせいか上手く受け取れず、少しドレスにこぼしてしまいました。赤いドレスが黒くにじみます。

「嫌ね、年を取ると目が霞んで」

 なんていいながらおばあちゃんは恥ずかしそうに笑っています。よくよく見ると、ドレスには他にも飲み物をこぼしてしまったのか、黒くにじんだ跡がありました。

「レイラはいつまで経ってもおっちょこちょいね」
「ルナサ姉さんはいつまで経っても子供扱いするんですから」

 白髪のおばあちゃんは、金色の髪の女の子に向かって少し口を尖らせます。孫に説教されてるように見えて、僕も思わず吹き出してしまいました。
 
「レイラも早く私たちみたいになればいいのに、病気もないわよ」

 続けてメルランさんがそう言ったのですけど、それを聞いたおばあちゃんは何故か一瞬だけ顔を曇らせたように見えました。でも気のせいでしょうか、僕以外は気づいてないように笑ってましたし、もう一度おばあちゃんを見るとやっぱり笑っていましたから。

「とは言っても、どうやれば騒霊になれるのかしらね」

 おばあちゃんは、笑いながらそう言っていました。
 
「う〜ん、そういえば私にもわからないのよね、ルナサ姉さんもわからないんだっけ」
「そうね、記憶ないわ、私も。リリカもそうでしょ?」
「私もないな、でも人間って不便よね? あなたもそう思わない?」
「妖怪も色々不便ですよ、幽霊が一番楽なんじゃないですかね?」
 
 こんな具合の会話を聞いてるときも笑っていました。そうそう、妹のはずのおばあちゃんが年下のように見えるって不思議だと思うかも知れませんけど、ええと、なんでかというと、おばあちゃんは人間で、後の三人は騒霊だそうです。「霊」、なんて言うくらいですので、要は幽霊の一種ですね。
 四人は元々外の世界で暮らしていたそうです。だけど、不幸な事故でおばあちゃん以外は亡くなってしまったとのことでした。ですけど、なぜか四人は気がつけば、幻想郷にいたらしいです。おばあちゃんは人間のままで、お姉さん達は騒霊になって。その辺りのことは、みんな記憶が曖昧、というか、全くってほど覚えていないらしいので僕にもよくはわからないのですが。事故の前の数年間の記憶はほとんど無いそうです。おばあちゃんがぼんやりと事故を覚えている程度だそうで。

「まあ一回死んでるからね、おかげで病気知らずはありがたいわ」

 リリカさんがそう言うと、おばあちゃんが目を反らすように見えました。姉さんたちが死んだときの事を思い出したくはないでしょうしね。今度はみんな気がついたみたいで、ルナサさんがリリカさんにちょっと注意してました。

「でも、騒霊って死ななくてもなれるらしいわよ? 霊って言っても幽霊とか亡霊とはちょっと違うみたいで」

 そんな中で、メルランさんはルナサさんとリリカさんをほったらかすように、マイペースなメルランさんらしく話します。

「どうやってなるんでしょうね」

 と僕が問いかけたのですが、

「さあ? 私もわからないわね〜 でもその内なれるでしょ? 私たちがなれたんだし」 

 って答えが返ってきました。おばあちゃんは静かに、笑いながらそれを見ていましたけど、また咳き込みました。しばらくすると止まったのですが、それでも少し息苦しそうでした。

「大丈夫? おばあちゃん、薬はちゃんと飲んだ?」
「苦いけど頑張って飲んだわよ、ねえ、ルナサ姉さん?」
「そうね、オブラート無しで頑張って飲んだわ。まあ、風邪をこじらせると良くないし、今日は早く帰って寝ましょうか?」

 そして僕らは解散することにしました。

「おばあちゃん、次は頑張るよ、だから、また呼んでね!」
「ええ、次を楽しみにしてるわ」

 最後にそう話して。気がつけば、また雨が降っていて、あの月明かりも見えなくなっていました。まるでお月様がおばあちゃんの演奏を見たいから少しだけ顔を出したって思えるくらいに。
 
 次の日、起きてカーテンを開けると空には一面の青空が広がっていました。思わずいい気分になります。僕の心も青空のようにさっぱりとしていました。昨日の涙で全部嫌なことは流して、涙を雨が流してくれたからでしょう。
 朝ご飯を食べると、僕はピアノへ向かいました。そうそう、このピアノはおばあちゃんからもらったものなんですけど(そうじゃなきゃお金も無い妖怪の僕にはピアノなんて手に入りません)実はこれって、本物のピアノじゃないんです。ピアノの幽霊なんですよね。どこからどう見ても本物そっくりなんですけど。

 ただ、一つだけ違うのは、このピアノは幽霊だから壊れたりしません。本物のピアノは当たり前ですけど、使っている内に弦が切れたりして、修理やメンテナンスをしないといけないんですけど、これはそんなことはありません。幽霊ですからね。
 なんでも、おばあちゃんにはこういう楽器の幽霊を作り出す力があるそうです。便利な能力でしょうね。これは"ベーゼンドルファー"とかいう外の世界の会社が作ったピアノで、相当な名機……の幽霊なんですけど、それでもただですから、外の世界で買おうとすると、山の一つくらい買える値段だそうですが。

 僕には宝の持ち腐れかもしれません。これを宝にするためには練習するしかないでしょう。だから今日もピアノに向かって、鍵盤を押さえます。でも、曲じゃなくて、鍵盤一つ一つを、一つの音を丁寧に押さえます。
 こうやって基礎の基礎みたいな練習をしていると、おばあちゃんに会った頃を思い出しました。おばあちゃんはこういった基礎練習をとても大事にする人でしたので。





 僕がおばあちゃんに会ったのは二年ほど前です。その日、僕はふらふらと人里の近くを歩いていました。退屈だったので、誰か一人で歩く人間でも見たら脅かしてやろうと思ってましたが、その日は誰も歩いてきませんでした。そのくせに人里の方からは、お祭りでもやっているかのように、やたらと声が聞こえてきます。
 僕は退屈に任せて人里に、声の方に歩いて行きました。そして、僕が人里に入ったときの事です。なぜか声がぱたりとやみました。どうしたのかな? と思ったその時、遠くからかすかに、とても澄んだ音が聞こえてきます。人里の広場の方からです。近づくとたくさんの人が見えて、僕もそちらに近づくのですが、柵の近くで止められていまいました。チケットが無ければ柵の中には入れなくて、おまけにとっくにチケットは売り切れてしまったそうです。
 
 しかたなく柵の外で僕は聞くこととしました。チケットが取れなかった人達なのか、柵の外にもたくさんの人が立っています。おかげで目に見えるものは人の頭だけでした。その隙間からかすかに、白い髪の人が見えるだけでした。でも、そんな事はすぐに気にならなくなりました。僕の目に見えるのは頭だけなのですが、遠くから聞こえてくるピアノの音を聞いていると、いつの間にか僕の目からは頭なんて消えてしまって、なんだか不思議な景色が浮かんできます。どこか暖かい光景が。
 それがどれだけ続いたのでしょうか。最後に大きな拍手が鳴り響きました。僕もはっと思いました。先ほどまでの景色が消えてしまって、頭だけが見えていました。そして、拍手の響きが消えて、みんなも消えていきます。柵も取り払われていきました。なんだか夢から覚めたような気分になりながらも、僕も家路に着きました。

 でも、家に居ても、何をしていても、あのピアノの音が頭から離れません。本当に不思議な能力でした。音楽はもちろん聴いたことがありますけど、あんな風に景色が見えるような音楽を聴いたのは初めてでした。次があるなら、最初から、そして近くで、音がしっかり聴こえる場所で聴いてみたいと思いました。
 そして、そんな気持ちのまま川沿いを歩いていたときです。おばあちゃんが見えました。僕は慌てておばあちゃんの元に飛んでいきます。降り立った僕を見て、

「私を襲ってもしょうがないよ、返り討ちにあうだけだからね」

 そうおばあちゃんは言いました。僕もそんな気は全くなかったので、おばあちゃんの演奏に感動したことを。あの時から感じている思いを、またあの演奏が聴きたいということを伝えました。
 するとおばあちゃんは僕が妖怪だと言うことを気にするでも無く、家に招いてくれました。川沿いにあるボロボロの屋敷がおばあちゃんの家でした。人間は嫌いそうな、そして危なそうな、人里離れた所のこんなおんぼろの家に住むなんて妖怪みたいだな、とその時は思いましたけど、騒霊のお姉さん達と住むならきっとこっちの方が具合がいいんでしょう。

 外はボロボロで、壁や廊下もボロボロだったんですけど、掃除はしっかりされています。そして、僕はおばあちゃんに連れられ、これもまた今にも壊れそうなドアを開けました。壁もボロボロで、今にも剥がれ落ちそうなほどでしたけど、床に敷かれたカーペットや、机、椅子なんかは新しくて、綺麗でした。
 その中に一台のピアノがありました。おばあちゃんはピアノに向かい、蓋を開けると鍵盤に手を走らせました。すると、またあの時のように音が鳴り響き、僕の頭の中に、僕の心の中に響きます。そして、また不思議な景色が見えます。短い曲でしたのですぐに終わり、僕は浅い夢から覚めたような気分になりました。

「すごい能力ですね」
「能力?」

 僕は拍手をしながらおばあちゃんにそう言いましたけど、おばあちゃんは不思議そうな顔をしていました。
 
「はい、おばあちゃんの音を聞いていると、なんだか不思議な景色が、夢の中に居るような景色が見えます」
「ああ、違うわよ、私もこんなとこで暮らしてるからそんな能力もあるけど……そうじゃなきゃあなたたちのご飯になっちゃうからね」
 
 おばあちゃんは笑いながら、そう冗談交じりに言うと、続けて

「これはただの演奏よ」

 と言いました。

「そうね、音楽は色んな景色を見せてくれるわ。そこに無いものでも見させてくれる。だけどね、それでもただの演奏よ、あなたにも出来ること」
「なら僕にも出来るんでしょうか?」
「練習すればね、でも楽じゃないわよ、私だって随分とやってるんだから」

 そういうとおばあちゃんは髪を指して、

「この髪が真っ白になるくらいね」

 なんて言います。時間はかかるんでしょうけど、幸い僕は妖怪ですし、時間はたっぷりあります。そう思って、僕は思いきってお願いしてみました。

「僕にピアノを教えて下さい!」
 
 おばあちゃんはどうしたものか、と思っていたようですけど、考えた後でこう答えました。

「私に出来るのは初歩の初歩だけよ、演奏方法は教えてあげられる……どうせ暇だしね」
 
 それから少し言葉を句切って、

「でもね、最初に技術を覚えたら、後は自分で歩くだけ、それは教えられないわ、それでもいいの?」

 といいました。僕は飛び上がりたいような気分になりました、

「はい!」
「最初は退屈で辛くてつまらないわよ」
「大丈夫です!」

 だからこう答えます。それが、僕がピアノを始めた日のことでした。





 それから毎週木曜日に僕はおばあちゃんの家に行くようになりました。それで目一杯基礎は叩き込まれたはずなんですけど……昨日のコンサートで、それすら出来てないことを痛感したので、今日もまた基礎練習をみっちり行う事としました。
 色々なものがあるんですけど、おばあちゃんが一番こだわったのは和音です。ピアノのいい所は簡単に和音を作れることですし。例えば"ド"と"ミ"と" ソ"とシ♭"の四つの鍵盤を押さえてみます。すると、四つの音が一つになって、C7っていう一つの和音が出ます。これはトランペットなんかじゃ出来ません。"ド"とか"ミ"みたいな単音しか出ませんから。何個もの音が合わさって、一つの音になって、単音と違った音になるのは僕も好きです。おばあちゃん達四姉妹みたいですしね。一人の時と、四人の時じゃ見え方も違ってきたりします。 
 和音は、それを出すだけなら誰でもできます。ただ四つの鍵盤を押さえるだけですから。ただ、楽譜ではただの四つの音符、言葉にすればたった一つの言葉なんですけど、でもそれは誰が弾いても同じ音になるわけではありません。押さえた人に、押さえた気持ちによって違う音が出ます――それを操る技術が有れば、ですけど。おばあちゃんはとても色んな表情でC7の音が出せます。でも僕は、思いも、気持ちも頭の中で終わってしまって、ピアノから出すことが出来ません。どんな気持ちを持っていても、濁った、歪な音になってしまいます……昨日のように。

 音楽っていうのものは、演奏者が心に思い浮かべたものを、音に乗せて、聞き手の心に運ぶものなんでしょう。例え同じ曲を、同じ楽譜を目にしても、思い浮かべるものは人によって違います。それが昨日おばあちゃんの言っていた「自分だけの音」なんでしょう。それは僕にもきっと出来ます。思い浮かべることは。
 おばあちゃんの心はピアノから出る音に乗って、僕の心に届いて、僕の心はおばあちゃんの描いた景色を僕に見せてくれます。でも、僕にはまだ音に乗せることが出来ません。だから、その日はずっと基礎練習をしていて、それからしばらくもそれだけをしていました。
 おばあちゃんはあのコンサートの日からずっと体調が悪いようでした。だから僕はずっと、退屈で、つまらない、だけど必要な練習をずっと続けていました。次におばあちゃんと会ったのは一月が経った時のことです。
 僕が訪ねるとおばあちゃんは笑顔で出迎えてくれました。でも、少し頬がこけていました。もう、ただ風邪をこじらせたとは思えなかったんですけど、おばあちゃんも、お姉さん達も、風邪をこじらせただけと言っていたので、僕もそう思うことにしました。
 ピアノの有る部屋に向かうと、見たことのない楽器が横にありました。鍵盤が付いていてピアノのようなんですけど、でもピアノじゃありません。随分と小さくて、平たくて、そして変な箱に紐で繋がれています。

「何これ?」
「あら? 見たこと無かったかしら、そういえばこの部屋には一昨日運んだんだっけ」
「だったら見たことは無いはずだよ」

 おばあちゃんは子供みたいな顔になって

「ならいいわ、弾いてみればびっくりするわよ」

 と言います。僕はその言葉に従って鍵盤を押さえてみました。

「え?」

 びっくりして僕は思わず手を止めてしまいました。目を丸くしながらもう一度鍵盤を押さえます。不思議な音がしました。どこにもバイオリンなんて無いのに、鍵盤を押さえるとさっきの変な箱からバイオリンの音がします。

「メロトロンって楽器よ」

 これはメロトロンって楽器の……これもまた幽霊だそうです。仕組みは、まあ幽霊なんで本当は仕組みは関係無いのかもしれないんですけど、"テープ"とかいう、音を記録した、音の素が中に入っていて、鍵盤を叩くとその音が呼び出される仕組みらしいです。

「それにね」

 そう言いながらおばあちゃんは蓋を開けると、見たことの無いものを取り出しました、これがテープなんでしょう。そして机の上の箱から同じようなものを取り出して、さっきのものと付け替えました。おばあちゃんはテープを付け替えると、今度は自分で弾き始めます。

「面白いでしょ?」
 
 確かに面白い楽器でした。今回はバイオリンじゃなくて、フルートの音が部屋に鳴り響きます。僕も面白がって、おばあちゃんに代わってもらって弾き始めました。でも、最初は面白かったのですが、すぐに違和感を感じます。
 要は、これはテープに記録されたものを呼び出す、ただの道具なんです。テープに記録された音は、たった一つの音だけのようで、どう鍵盤を叩いてもそれほど代わらない音がします。
 それに、バイオリンのような、フルートのような音はしても、やっぱり違います。偽物の、メロトロンの音がします。どれも少しかすれたような、寂しげで、儚い音がします。それはそれで味があるのかも知れませんけど、バイオリンやフルートの代わりにはなりそうにありません。一曲通してこれだけで演奏するのは辛いかな、と思いました。でも何故か、おばあちゃんはこの楽器に愛着を抱いているみたいです。

「久しぶりに二人で演奏してみる? 私はメロトロンを弾くから」

 なんて言ってました。おばあちゃんらしくないな、あれだけ音の強弱や、分離を出すための技術にうるさかったのに。とも思いましたけど。久々に二人で演奏できると思うと、嬉しさでそんなのはすぐに消えてしまって、僕は迷わずに「うん」と言いました。
 おばあちゃんはまたテープを付け替えます。今度は人の声が、合唱が聞こえてきました。僕のピアノに会わせて、偽物の合唱が部屋に響き渡ります。僕らは口を閉じているのに、部屋には大勢の人の声が鳴り響きます。たしかに偽物で、きっとおばあちゃんみたいな技術を持った人には相応しくはないんでしょうけど、二人では絶対に出来ないことを出来るのは面白いな、とは思いました。ですけどおばあちゃんもメロトロンが面白いとしても、不完全な楽器だとは思っているらしく。

「やっぱりこれでコンサートをするのは無理ね」

 なんて言っていました。

 それからおばあちゃんはメロトロンの前から離れると、ピアノの前に座った僕の後ろに立ちます。さすがに僕と同じことを思っていたらしく、基礎練習をするように言いました。僕がそれに従ってしばらく弾いていると、

「そうね、技術に関してはそこまで悪くはないわよ……私には遠く及ばないけどね」

 そう、おばあちゃんらしく褒めてくれました。

「人に聞かせても恥ずかしくはないわよ、それにね、この間もきっと練習みたいに弾けてたら問題なかったと思うの」
「でも、ボロボロでしたよね……」
「あとは経験と度胸よ、そりゃ緊張するな、って言っても難しいでしょうけど、男なんだから度胸をもってやりなさい! 経験はともかく、度胸は持たないと」

 おばあちゃんとそんな事を話していると、ドアが開いて、ルナサさんが入ってきました。

「クッキーが出来たから休憩したら?」
「そうね、そろそろ休憩しましょうか」
 
 僕らはルナサさんの薦めに従って、休憩することにしました。食堂に向かうと、メルランさんとリリカさんもいました。そして、ルナサさんが焼きたてのクッキーと紅茶を持ってきてくれました。クッキーの香ばしい匂いと、紅茶の甘い匂いが漂ってきます。
 思えば、最初の退屈な練習ばっかりしている頃でも、こんな時間があったから、いつも来るのが辛くは無かったような気がします。ルナサさんが美味しいお菓子を作ってくれて、みんなで楽しく話して。

「しかしレイラが一丁前に先生なんてねえ、今でも違和感が有るわよ」
「そう?」
「だって私たちはレイラがおねしょしてた時から知ってるんだから」
「まったく、みんな大昔のどうでもいいことばっかり覚えていて嫌ねえ……」

 そうメルランさんにからかわれて、おばあちゃんは恥ずかしそうに顔を赤くします。僕は思わず吹き出してしまいました。こんなおばあちゃんでもおねしょするような時代があったんだなって。

 リリカさんも続けて、

「もう! メルラン姉さん! どうして私のプリンを食べたの! 信じられない!」
「いや、ずっとほったらかしてるからいらないと思って……」

 そんな風に怒っているおばあちゃんの――もっともっと若い頃の声を流してからかい始めました。幻想の音を。そうそう、リリカさんには「幻想の音を奏でる程度の能力」があるんです。消え去ってしまった音ならなんでも出せます。こんな風に大昔の喧嘩でも。よくよく考えればメロトロンみたいなものなんでしょうかね。リリカさんの方がずっと便利ですけど。
 これを音楽に使えば便利とは思いますけど、あんまり興味無いみたいです。「レイラには敵わないから」みたいに思っているようで。それでもリリカさんは、あとの二人も一応楽器の心得は有って、僕よりずっと上手いんですけどね。何回か聞いたことが有ります。おまけに練習をせずとも最初から上手にできたとかで。騒霊だけに音には強いんでしょう。

 おばあちゃんはリリカさんにもからかわれて、頬を膨らませてました。見た目はおばあちゃんと孫みたいなのに、やってる事は本当にお姉さんにからかわれる妹。って感じだったので、僕は声を出して笑ってしまいます。みんなも笑っていました。
 でも、とても楽しかったのですが、ほんの少しだけ寂しくて、そして羨ましくなりました。四人を見ていると、本当に姉妹だな、家族だなって思います。そして僕は部外者なんだなって思います。それに……まあ、大抵の妖怪がそうなんですけど、僕には家族はいません。いつの間にか妖怪として幻想郷に一人でいて……そして一人で暮らしてますから。人間らしい家族を見ていると、たまにですけど、羨ましく思う時もあります。
 それでも、やっぱり楽しくお茶を飲んでいたんですけど、少し気になりました。おばあちゃんがクッキーに全く手を付けていないことにです。それにはみんな気づいたようで、ルナサさんがおばあちゃんに問いかけてました。
 
「ねえレイラ。クッキーを食べてないけど、お腹すいてないの?」
「そうね、あんまり空いてないかしら」

 ですけど、おばあちゃんの頬を見ていると、お腹が空いてないって事が信じられなくもなりました。それにみんな気づいたのでしょう。部屋は静かになってしまいました。そして、おばあちゃんも気づいたのでしょう。その理由を。とても陽気な声を出して。

「まあ、ルナサ姉さんのクッキーなら別腹だけどね」

 といいながらクッキーを食べ始めました。そして、

「そうそう、薬を飲まなきゃね」

 そう言って、部屋を少しの間離れました。僕たちはなぜか、また静かになってしまいます。そんな中でおばあちゃんが帰ってきて、
「じゃあ、また練習を始めましょうか」
 
 僕とおばあちゃんは、食器を片付けて、またさっきの部屋に戻りました。でも、とても楽しい時間だったはずなのに、何故か心に影が射してしまったように思えました。
 おかげで、ピアノに向かってもどこか気もそぞろでした。今度は曲を通して弾いていたのですが、おばあちゃんにも僕がぼんやりしていることがわかったようで、後ろに椅子を出して座っていたおばあちゃんに集中力がないってしかられました。
 僕も自分でそれはわかっていたので、精一杯集中します。僕は鍵盤だけを見て、音だけを考えて演奏しました。たった一月練習しただけで技術が大きく成長したわけはありませんけど、その時は不思議と素晴らしい演奏ができた、と自分でも思えました。おばあちゃんも褒めてくれます。

「なかなかね」

 ですが、そう言った後に小さく続けます。

「……でも、悲しい音に聞こえたわ」

 ともあれ、納得いく演奏も出来ましたし、おばあちゃんも少し疲れた様子だったので、その日の練習はそれで終えました。そして、結局それが、僕らがあの家で一緒に演奏した最後の日となりました。





 それからすぐ、おばあちゃんが人里の病院に入院しました。血を吐いてしまったためです。風邪ではなくて、肺の病気になっていたそうです。難しい病気らしくて、僕はどうしようも無く不安でしたけど、それでもおばあちゃんなら治ると信じることしか出来ませんでした。
 もちろん何度もお見舞いに訪ねてはいました。いつもはお姉さん達もつきそっていましたし、色んな人間が、時には妖怪が、お見舞いに訪れていました。ですが、その日はお姉さん達は用事で出かけているとの事で、夜まで帰らないらしく、他の見舞客もいませんでした。

「楽器も弾けなくて退屈だわ」

 なんて言いながら、陽気な声で、強気な声でおばあちゃんは僕を出迎えてくれましたけど、頬は前よりももっとこけて、顔も青白くなっていました。それでも、僕らは冗談を言い合ったり、次のコンサートがあったらどうしようか? なんて事を話していました。でも、そういう声は次第に弱々しくなってしまいました。
 その声を聞いて、僕は思わず問いかけてしまいました。きっと聞いてはいけないことだと思っていたのに、口をついてしまいました。

「ねえおばあちゃん」
「なに?」
「おばあちゃんも騒霊になれるのかな?」

 おばあちゃんはその問いに答えてくれました、静かな声で答えてくれました。

「近いものになれる可能性はあるわね、でも――」

 でも、と言って口を閉ざして、それだけど続けてくれました。

「きっと、それは私じゃないわ。レイラ・プリズムリバーだけどレイラ・プリズムリバーじゃないの」

 そして、「お姉さん達には内緒よ」と言ってから、おばあちゃんは昔話をしてくれました。
 
 昔々に外の世界に住んでいた頃、おばあちゃん達四姉妹のお父さんが、何か事故を起こして……そのあたりは話したくないらしいのですが。そして回りに酷い被害を負わせて、その事故でお母さんと一緒に亡くなったそうです。そしておばあちゃんたちは皆名字を変えて、バラバラに引き取られたそうです。二度と姉妹で会わないと誓約させられた上で。

「じゃあ、ルナサさん達が死んだのはいつなの? いつ再開できたの?」
「みんな死んでなんて無いわ……今はわからないけど……ここじゃ外の世界のことはわからないから。でも、少なくとも外の世界にいた時は生きてたはずよ。そして、あれから私は二度と姉さん達に会うことはなかったの、そういう約束だったから」
「ならルナサさんは? メルランさんは? リリカさんは? 誰なの?」
「私の作った幻想よ」

 おばあちゃんもお姉さん達と同じように引き取られたのですが……引き取った人もすぐに事故でなくなったそうです。そして引き取る人も無いまま、おばあちゃんは元居た家に戻ってきました。引き取った人の遺産が多少あって、生活するには困らなかったのですが、あの家で、一人で何をするでもなく、退屈に暮らしていたそうです。

「ある時感じたわ。ドアを開ける音、風で窓が揺れる音、床が軋む音。それが全部姉さん達の声に聞こえてきたの」

 もしかしたらただの幻聴だったのかも知れないけど、といいながら苦笑いして言いました。

「でもね、幻聴だったとしても、とても心地よくて、とても懐かしかった」

 そして、気がつけばレイラさんの回りではあらゆるものが震えだして、それが声となって、会話を出来るようになったそうです。

「私は思ったわ、姉さん達と話せてとても楽しいって。でもね、みんなは体も何も無いの。誰にも見えないの……もちろん、誰にも声なんて聞こえない」

 たまに、本当にたまにですけど、人間として生活してる以上、他人と会うことが、他人が家に来る事があったそうです――例えば遺産を管理する弁護士なんかが、でも、誰にもお姉さん達の声は聞こえませんでした。おばあちゃんが姉妹仲良く話していても、他の人にはそれは独り言を言う女の子と、カタカタ言う気味の悪い音にしか聞こえませんでした。

「何年も、何年も、ずっと願い続けてたわ。また姉さん達と会いたいって。体を持った姉さん達と会いたいって。トランプで遊びたい。そんな些細な事も、私には本当に憧れる夢だった」

 そこまで話すと、おばあちゃんはまた激しく咳き込みました。

「大丈夫!?」
「ええ、そうね、水をくれる?」

 かすれた声でおばあちゃんはそう言いました。これ以上話させてもいいのかな? と迷いながらも、僕はおばあちゃんに水を渡します。水を飲み終えるとおばあちゃんは話を続けました。
 
「そんなある日、気がついたら、そう、気がつけば、私は見たこともない場所にいたわ。そう、幻想郷にね、そして、私の横には姉さん達が居た。あの日のままの。最後に見た姿のままの、子供の時の性格のままの……ルナサ姉さんなんて、あの時はもう三十近い年のはずなのにね」

 自分にもはっきりとはわからないとはいいつつ、おばあちゃんはこう言いました。

「たぶんね、あれは音の幽霊だったんでしょうね?」
「音の幽霊?」
「そう、人は死ねば霊になる……まあ、外の世界じゃ信じてない人が殆どかもしれないけど、幻想郷じゃそうでしょう? なんせその辺に幽霊が歩いてるからね」

 最初は私もびっくりしたけど、なんて弱い声で笑って、おばあちゃんは続けます。

「そして、幻想郷に来てふと気づいたわ、私に不思議な力があることに」

 おばあちゃんは自分の能力を、はっきりと僕に説明してくれました。「音の霊を実体化する程度の能力」だと。

「ただ、形はあっても幽霊ね、だから物なら形は変わらないし、生き物なら成長しない」

 僕は、あの弦の切れないピアノや、お孫さんみたいな見た目のお姉さん達を思い出していました。

「姉さん達が騒霊なのはね、私がそれで覚えてたからなのよ。ずっと騒霊の姉さん達と話してたからね。振る舞いは騒霊……でも騒霊ってのは音の幽霊だから、形は無いわよね」
「うん」
「だから実体化するときに、私は最後に見た姉さん達を思い浮かべたんだと思う、自分でもあまり覚えていないことだけど。」
 
 だけど、楽器なんかは完璧に再現できるのに、おばあちゃんが作り出したお姉さんの幽霊は、不完全だったそうです。記憶があやふやな存在でした。昔の記憶はありましたけど、近い記憶はよく覚えていなかったそうです。
 




 おばあちゃんはそこまで話すと、流石に疲れた様子になりました。また水を、ゆっくりと水を飲みます。

「そうだ、最初の質問にちゃんと答えてないわね」
「おばあちゃんが騒霊になれるか? ってこと」
「そう、騒霊かは……ちょっとわからないわ。あれは普通の人間でも作れるみたい、形を持つのは難しいけど。騒霊自体はね。それが幻聴か、ただの振動か、はっきりと騒霊に思えるかは人それぞれだけど」

 私は騒霊に思えたけど、と前置きして続けます。

「ただ、幽霊にはなれるわ、私が出した音の幽霊を形にすればね、でも――」

 でも、と言うと、話し始めたときのように口を閉ざしました。そして、弱々しい声色で、だけどはっきりと意志をこめて言いました。
「私はね、姉さん達と何十年も暮らしてきて、本当に楽しかったわ、幸せだった」

 それを言うと消え入りそうな声なって、それでも続けました。

「夢のように――目が覚めれば消えてしまう夢のように、音の欠片が作った姉さん達と暮らした日々は楽しかった」

 優しい顔になって続けました。

「それでも、後悔を感じるときもあったわ。本物の姉さん達を捨てたことに。幻想の姉さん達を選んだことに、老いることも、病気も何もない。幽霊の姉さん達と生きることに」
「だって二度と会えないって約束させられたんでしょ?」
「でもね、生きてれば会えた可能性は有ったわ。約束なんて無視してでも会えたかもしれない」

 だから、だからと二回呟いて

「私だけは本物のままでいたい。私の幽霊は作らない。姉さん達は私が消えれば悲しむかも知れないけど……私は人間だから……死んだら、本物の姉さん達の所に行きたいと思うの」
 
 夢は覚めるから夢、と自分に言い聞かすように言って、英語で……おばあちゃんが外の世界で使っていた言葉でこう言います。

「When you hear music―after it's over―it's gone in the air―You can never capture it again.」
「どういう意味?」
「音楽を聞き終えれば、音は空に消え、二度と捉えることは出来ない……こんな感じね。有名なミュージシャンの言葉らしいんだけど。そしてね、音が消えてしまっても、記憶は消えないわ、音自体は消えてしまっても、音の記憶は鳴り続けられるの」
「そうだね、わかる。僕もわかるな。音楽が終わったときのあの気持ちはきっとそうだ」
「夢も、音楽も……いや、何もかもが消え去るのが当たり前なの、人間だって、妖怪だって。生き物はみんな」
「妖怪でも?」
「私たちとは違う感覚かもしれないけどね。でも有限にはかわらないわ、一回死んでる幽霊とは違うから。そして、消え去ればもう二度と捉えられない、だけど、"そこにあった"って記憶と、事実は残るの……そして、私にはそれで十分、形なんて無くても。今の私にはね。」

 そんなおばあちゃんの話を聞き終えると、僕には悲しさがこみ上げてきました。いつまでもおばあちゃんと、四姉妹と一緒のような気がしていたけど。そんなことは無くて、すぐに、すぐにでも消え去ってしまうんだと感じたせいでしょうか? そして、また涙が出そうになってしまいました。

「駄目よ、泣くなら雨の日にね?」

 僕が泣きそうになっているのを見て、おばあちゃんが短い昔話をしてくれます。

「昔ね、メルラン姉さんが。小さい頃だったから"本物の"姉さんだけど、言ってくれたのよ、泣くなら雨の日にって」

 「本物の」って言う言葉は少し寂しげでした。

「泣くのをやめなよ、レイラ。涙を見てると私まで悲しくなってきちゃう……」
「だって、だって」
「そうだ。雨の日に泣けばいいのよ、そうすればびしょ濡れになって、涙が見えないわ、だから雨まで待ちなさい」

 そんな昔話をしてくれました。
 
「そんな都合良く泣けるなら最初から泣いたりしないけど。でもそうね、私も誰かが泣いているのを見ると悲しくなって嫌ね」

 そして力を振り絞るように、陽気な声で続けました。

「だいたいね、なんだか私が死ぬみたいな感じだけど、あと何十年間は死ぬ気はないわよ。まだまだやり足りないことは沢山あるし……結婚とかね」
「もうきついんじゃない? 流石に結婚は」
「まだまだその気になればいけるわよ、私の若い頃なんてそれはもう――」

 僕らは冗談を言い合って、気分も晴れてきました。

「それに、次のコンサートであなたも名誉挽回したいんでしょ?」
「うん」
「ならその企画もしなきゃ!」





 おばあちゃんはその言葉を守ってくれました。それからしばらくして、お医者さんを半分殴り付けるようにして、どうにか外出許可を貰いました――責任は問わないって書類を書かされはしましたけど。
 僕はお姉さん達と協力して、準備を整えます。コンサートの。最後になったコンサートの。そして、毎日毎日僕は練習を繰り返します。おばあちゃんへの思いは山の様にあったんですけど、僕にはどうしてもそれを音にしきれません。それでも、何度も、何度も、練習します。ひたすら技術を磨こうとします。すると一日一日が矢のように過ぎ去って、あっという間にコンサートの日を迎えました。
 今日出演するのは僕と、おばあちゃんたち四姉妹だけです。お姉さん達は、一曲だけですけど、おばあちゃんと一緒に、そして初めてのコンサートをするそうです。
 夕暮れ時の時間でした。赤い日に照らされながら、僕はステージに昇ってお辞儀をします。小さめの拍手が客席から聞こえます。その音に押されて僕はピアノに向かいました。すっかり暗譜した楽譜を譜面台に置いて、大きく深呼吸をして、九十二個の白と黒の鍵盤たちを見下ろします。
 たくさんの人達が見ているのに、何故か僕はあの家で、四姉妹だけを観客に演奏しているような気分になれました。鍵盤達も、とても見慣れた物に見えました。僕は鍵盤を叩き始めます。

 ――すると、なぜか僕は何も考えられなくなってしまいました。練習ではいつもいつもあれこれと考えながら演奏していたのに、今日も前のように手が勝手に動いてきます。だけど、あの時とは違って、頭の中にははっきりとした思いが浮かんで、色とりどりの風景の上を思いが流れていきます。それが早すぎてもう言葉には出来なかったんですけど、僕の心がそれを作って、それが手を動かしてるって事がはっきり実感出来ました。

 パチパチパチパチ。と大きな拍手が鳴り響いてるのに気づいて、僕はふと現実に帰ったような気がしました。譜面台の楽譜を見ると、すっかりめくられています。いつの間にか太陽も消えていて、空にはかわりに半月が浮かんでいました。そして、ああ、僕は出番を終えたんだ、とはっきり実感できました。僕はお辞儀をしてステージを降ります。
 やっている時は何も考えられなかったんですけど、終わってみると、自分の演奏が、自分の音がはっきりと思い出せました。その音を頭の中でもう一度鳴らすと、僕は満足した気分で一杯になりました。
 控え室に戻ろうとすると、おばあちゃん達がいて、おばあちゃんはにっこりと笑いながら、たった一言だけの言葉を僕にかけてくれました。

 「あなたの音、堪能したわ」

 と。そして、そのまますぐにおばあちゃんはステージに向かいます。僕も急いで着替えて、客席に向かいます。雲一つ無い空に半月が輝いていて、僕らを見下ろしています。その月明かりが白いドレスを青く照らしていました。遠目から見ても痩せたな、って思える姿ですけど、それが月明かりの下では、儚くて美しく見えました。しわくちゃな肌が、何故か輝くように見えました。
 おばあちゃんがお辞儀をして、ピアノに向かいます――それからしばらくの事はうまく説明できません。僕の言葉ではうまく表現できません。だから、代わりにこのコンサートを見た記者の人が書いた新聞の記事を紹介したいと思います。

 "レイラ・プリズムリバーは先日より体調不良が伝えられていたことを物語るかのように、頬はこけ、足取りもどこか覚束無い。だが、ピアノの前に座った瞬間にそれは一変した。レイラが鍵盤に手を走らせると、その手からは絹を擦ったような音が響き渡る。どこまでも悲しく、内省的な音が響き渡る。だが、悲しい中に何故か暖かさを感じる。それは冬の夜の闇に灯った、小さな蝋燭のような音であった。そして、蝋燭が身を削りながら炎を放つかのような、鬼気迫る演奏であった"

……僕にもこれが正しいのかはよくわかりません。僕にはこんな言葉で表現出来る物ではないとも思えます。それでも、きっと僕の言葉よりはわかりやすいでしょう。この記事にも一理あるのかなと思います。この後は一曲一曲の解説があるんですけど、ちょっと飛ばします。大体同じ調子のことが書いてありますから。でも、最後の曲だけは、僕にもわかるなと思いましたので、それは紹介したいと思います。

 "我々はみな、レイラの回復を祈っている、だが、病の中で、己の命を燃やすような一瞬の美しさ、それが見られなくなるのでは? という罪深い思いを私は一瞬感じていた。この音に満ちる悲しさ。それを昇華した美しさが消え去るのではないか、という思いを――だが、最後の曲を聴いて私はその思いを捨てざるをえなかった。最後の曲では、彼女の家に住むという騒霊と共に演奏することになった。"We Will Meet Again"と題されたその曲は、長い冬が開け、暖かい春が来た事を感じさせるかのような演奏であった。騒霊らしく宙に浮いた楽器で演奏するのには面食らったが、その演奏は本物である。まるで子供がおもちゃ箱をひっくり返したような賑やかな演奏だったが、その音の一つ一つが、それは緻密な技術に支えられていることを伺わせる。
 ……メルランと言う名の騒霊に煽られ、いつの間にか客席では手拍子が始まった。思わず私もそれに同調する、客席では笑顔が広がっていた。これまでのレイラのコンサートには見られない光景だ。この年にして未だ進歩を続けるレイラ・プリズムリバー。今後の回復と、音楽活動の成功を祈りたい"

 そうです、最後の曲、四姉妹でやった曲は笑顔で一杯でした。難しい言葉では表現出来ませんけど、とても楽しかったんです。それが僕が最後に見たおばあちゃんの演奏でしたけど、その楽しい音が持ってきてくれた思いと、笑顔は今でも僕の中に残っています。僕の記憶の中でずっと生きています。

 だから、おばあちゃんの葬式でも僕は泣きませんでした。みんなが泣いていました。ルナサさんも、メルランさんも、リリカさんも。訪れた人間も、妖怪も、みんなが。だけど僕は泣きません。青空の日だったからです。でも、僕は雨の日以外には泣かないと約束しました。僕も悲しくて、本当に悲しくて、だけどそんな時は楽しい音を、笑顔を思い出して、そうすると僕も笑えました。おばあちゃんとの約束を守れました。





「お久しぶり〜」

 おばあちゃんの葬式から一年が経ちました。今日はプリズムリバー楽団のデビューの日です。会場に向かうとメルランさんが陽気に話しかけてきてくれました。

「雨が降ると嫌ね……テンションが下がって……」

 ルナサさんはそう言いつつ、少し暗い顔で調弦しています。リリカさんは見たこともない鍵盤楽器をいじってました。

「なんですか? それ?」
「シンセサイザーよ、レイラの部屋に有ったの。まあ、シンセサイザーって何なのか私のもよくわからないけど」

 仕組みもわからないみたいでしたけど「叩けば音が出るからいいの」とリリカさんらしく言っていました。

 三人に挨拶を終えると、僕は客席に向かいます。もう会場は人で一杯でした。空がぐずついているのが嫌だな、とは思いましたけど、それ以上にコンサートが楽しみでした。
 そして、三人がステージに立つと、客席からは拍手と歓声が響いてきて、プリズムリバー楽団のコンサートが始まりました。相変わらず楽器は宙に浮いていて、おまけに三人の持っている楽器からは出るはずの無い音が出るのは知っていてもやっぱり慣れませんけど、どれもノリが良くて、賑やかな素晴らしい演奏でした。
 あいにくの空模様で、やっぱり雨が降ってきたのですが、それを気にもせず、傘も差さずに立ち上がりながらみている人もいて、会場は大賑わいです。そのままコンサートは続いて、あっという間に最後の曲を迎えました。ルナサさんがステージの前に出ながら、

 「最後の曲は私たちの妹と……レイラと一緒にやりたいと思います」

 と言っていました。リリカさんが集中した顔を見せると、聞き覚えのあるピアノの音が聞こえてきました。そうです、おばあちゃんの最後のコンサートでやった曲、"We Will Meet Again"って曲です。あの時と少しも違わない音が、リリカさんの作った幻想の音が、プリズムリバー楽団の陽気な演奏に乗せて鳴り響きます。

 みんなが立ち上がって、手拍子を始めます。会場は今日一番の賑わいに包まれました。だけど、どうしてでしょう。なぜでしょう。僕はどうしようもなく悲しくなりました。ピアノの音の一つ一つが、あの時の音のままです。音の分離が、強さが、タッチの全てがコピーです。あの時の音です。おばあちゃんにしか出せない、おばあちゃんの音です。もう二度と聞こえないと思っていた。空に消えてしまったはずの音が会場に響いています。おばあちゃんはもういないのに、おばあちゃんの音が響きます。
 僕は傘を閉じました。おばあちゃんの音の幻想を聞きながら。きっと、プリズムリバー楽団のコンサートでこれからもあの音は奏でられるのでしょう。いつまでも、いつまでも、消えてしまった音は奏でられるのでしょう。僕はそれを感じた瞬間に、涙がこぼれてくるのを感じました。
 おばあちゃんはもう幻想郷を離れて、本物のお姉さん達の所にいったのに、幻想の音は幻想の姉妹達と仲良く演奏しています。偽物の音が、偽物の姉妹達と仲良くしています。それはとても幸せな音で、幸せな光景のはずなのに僕は涙が止まりません。僕はお葬式の時のように、おばあちゃんを思い出そうとしました。あの音を、景色を。だけど、今聞こえている音にそれが書き換えられてしまうように思えて、泣くのを止められません。
 だから僕は泣き続けました。おばあちゃんが許してくれた雨の日だから泣き続けました。大事な事は流さないように、幸せなはずなのに悲しいという矛盾したような思いは流せるように、雨に打たれながら、顔中を水に濡らしながら、ただ泣き続けていました。
ここまで読んでいただいた皆様に感謝を。


追記……誤字脱字、意味がわかりにくいと感じた箇所、日本語として不自然な箇所を修正しました。少なくない数があったことをまずお詫びします。
計画性を持って書かなかったことによる時間不足で推敲を怠ったことが原因なのは明白ですので、今後は気を付けたいと思います。
それに加えて、最初に投稿した段階では括弧の前に字下げを行っていたのですが、創想話に投稿した別作品でその形式は読みにくい、との意見を戴きましたのでその点も修正しました。

出来ればコメントへの返答も行いたいのですが、少々時間を戴きたいのでまずは取り急ぎ修正のみを。
 
Pumpkin
作品情報
作品集:
最新
投稿日時:
2009/11/21 20:57:22
更新日時:
2010/01/19 03:43:18
評価:
20/20
POINT:
132
Rate:
1.50
1. 10 佐藤厚志 ■2009/12/11 06:28:29
 ただ一言いいたいのです……「最高だ!」

 当こんぺ(おれが勝手に決めた、個人的推量に基づく)中編賞受賞です!ついでに《みんな読むべき!勝手に推奨芸術賞》も追加です。何のありがたみも無い賞ですが、お受け取りください。

 美しい音を書ききった力量たるや、おぉ。《僕》を通して紡がれる生と死の物語、ポルターガイストなどの幻想性を巧みに扱い、著者は物語に一層深いテーマと意味と芸術性を与えることに成功している。この技量は、まるでグレン・グールドの演奏か。はてまたリヒター厨随喜の壮大な「マタイ受難曲」か……すいません、言いたかっただけです。

 いや、しかし真面目に例えるならバッハの平均律クラヴィーア。繊細精緻にして、誤解を恐れずに言えばシンプル。しかしながら宮沢賢治スタイルの、文体、というか寓話性は、読むものを五里霧の幻想世界に放り込み、吾人はただ不安や期待でわくわくしながら読み進めるしかない。それくらいキャラクタや舞台が魅力に溢れている。それを語ることの出来る著者に嫉妬パルパル。どこかにありそうで無いイーハトーブを、おれ達は想像してしまう。これですよ!二次創作の完成系の一つは!いや、むしろこの設定を使って二次創作をしたいという人もいるかもしれない。おばあちゃん(レイラ)や《僕》の過去や背景をもっと掘り下げたいと感じている人もいるのではないか!?おれみたいに。

 美しさとは刹那的なのだ。三島由紀夫もそんなことを言っていた。CDやネットやニコニコ動画で聞ける音楽に何の価値があろう。朽ちゆくもの、死に逝くものが奏でるから、音楽は素晴らしいんだ。その一瞬は光り輝くんだ。

 堪能いたしました。当コンペナンバーワンのオモシロサ。アリガトウございました。個人的には他の人の評価が気になるところ。多分高評価で上位入賞は間違いないでしょう。読みやすいし。ただ瑣末なことを気にする繊細な人が結構いますから(作者創作のキャラクタがどうとか、設定がどうとか、萌えが足りないとか……杞憂であればいいなッ!)。

 ただJ-POPのコンサートではないから、手拍子とかは普通しないと思います。それが書いてある新聞記事もまた味があってイイのだけれども。それを論ずると長くなるから、今回は割愛。長々と失礼しました。あと改めて、面白かったです。
2. 7 バーボン ■2009/12/11 18:02:14
どこか淡々とした地の文や描写が、話全体のしっとりした雰囲気を良く表現していたと思います。
作中の演奏曲は同名の曲が実在するみたいですね。検索したらヴェラ・リンと言う人のが出てきましたが、この曲を意識したのでしょうか。
全く関係ないのですが、この「僕」が成長して、三姉妹と「愛しのレイラ」なんかを演奏してくれたらなー、なんて考えました。
3. 6 神鋼 ■2009/12/13 22:55:06
いったい私は笑えばいいのでしょうか? それとも泣けばいいのでしょうか?
4. 8 静かな部屋 ■2009/12/21 14:21:06
なんだか不思議な文ですね、真摯で素直で……。
5. 8 藤木寸流 ■2010/01/04 02:12:25
 最後の最後に持って行かれました。解らない方がよかったかもしれないと思えるほど、心情が伝わってきてしまった。理解しないで楽しんでいた方が、悲しまずに済んだかもしれないのに。
 でもやっぱり目を逸らせない。耳を塞げない。レイラの言っていた言葉が忘れないから、みんなが笑っていてもあの場面は必ず泣いてしまうのでしょう。
 ただ、彼女がここにいないということが、悲しくて悲しくて仕方ないのです。
6. 3 パレット ■2010/01/10 05:14:35
 プリズムリバー、と言うよりも幻想の音、についてかな。
 「音は空に消え」というタイトルもびしっと決まって。ちょっと締めが急だったかなとも思いますが、全体的にきっちり、かつ独自的に、魅力的に書けていたと思います。
 ただ、小説の悲しいところか……というか私のイメージ力不足のような気がしますが、音楽というものが感じられなかったというか、イメージできなかったというか。最後の「おばあちゃんの音の幻想」に関しても、字面を追って「ああそうなんだ」と思う程度に留まってしまったかもです。このお話は音楽の「中身」についてまで踏み込んでいるので、そこのところをもっと強くイメージしたかった。(イメージさせてもらえなかったのか私にイメージ力が足りなかったのかはわかりませんと二度目)
7. 3 白錨 ■2010/01/10 10:37:13
主人公が男の子とはまた新鮮な味わいがありました。
8. 7 椒良徳 ■2010/01/11 18:54:01
いやはや、今回コンペでプリズムリバーが出てくる作品は良作揃いで良いですね。
ただ、主人公がオリキャラというのは敷居が高く感じました。
いきなり「僕」と書いてあって面喰らったというか何と言うか。まあ、面白かったから良いのですが。
上手く言葉に出来ませんがこの何ともいえない終わり方も良いですね。どこか哲学的と言いますか。
考えさせられます。

傑作にはあと一歩及びませんが、良い作品ということでこの点数をつけさせて頂きます。
9. 6 リコーダー ■2010/01/12 17:14:08
確かに思ってた。録音というのは不自然な行為なのでは、と。そこにプリズムリバーをあてがう、という発想も「いいのかよそれ!」と思いつつ感心しました。
三姉妹が目立たなすぎたのが、個人的に勿体無いと思うところです。目立ったら目立ったで事実上悪役になってしまって困るんですけれど……
10. 6 詩所 ■2010/01/13 22:11:41
 メロトロンとくだりが最後に結びつくとは。
 失われるべきものが残ることは幸せだとも思いますが、一概にそうではないんですね。
11. 5 ホイセケヌ ■2010/01/13 22:46:25
、荀オ、キ、ッ、ニ。「アッ、キ、、ヤ庁」

、「、゙、熙ウ、ヲ、、、ヲ・・、・鰓侃ソ、ウ、ネ、ハ、ォ、テ、ソ、ォ、筍」
12. 9 deso ■2010/01/14 00:29:17
どうにも、プリズムリバーには弱いのですよ。
『僕』の語りが実に上手い。
雨との繋げ方も見事。
素敵な音をありがとうございます。
13. 7 やぶH ■2010/01/15 00:28:08
ちょっと『僕』が透明すぎるかな……と思いました。
しかし、最後のシーンはとても印象的でした。
14. 6 文鎮 ■2010/01/15 07:28:29
ピアノを弾く妖怪を媒体にしてプリズムリバー四姉妹の魅力を伝えることがうまくいっていないように思えました。
しかし、本物と偽者の姉たちの間で悩み、それでも演奏をするレイラはなかなか。音って本当に不思議ですよね。
何はともあれ、握手させてください。
15. 6 2号 ■2010/01/15 10:07:00
「僕」の成長や正体、姉妹のその後に色々想像しながら読んでしまったせいか、〆が物足りなく感じてしまいました。
16. 5 八重結界 ■2010/01/15 15:56:24
 背景を知らなければ、偽物は偽物だと思われない。知っているだけに、悲しいのでしょうね。
17. 8 零四季 ■2010/01/15 19:30:49
こういう解釈、というか設定が興味深くて面白かったです。
悲しくも暖かな、おと。レイラは、雨の中泣いたのでしょうか。
18. 6 時計屋 ■2010/01/15 22:43:22
 タイトルにも使われている台詞が印象的でした。
 音自体は消えてしまっても、音の記憶は鳴り続けられる。
 騒霊という存在を通して、そのテーマが綺麗にまとめられていたと思います。
 演奏の表現も丁寧でよかったです。私のような音楽の知識に疎いものでも心に響いてくるものがありました。
19. 8 如月日向 ■2010/01/15 23:00:32
 アカデミー賞にノミネートされそうな物語。感想を言葉にするのも難しいです。

〜この作品の好きなところ〜
"「あなたの音、堪能したわ」"

 このときの僕の演奏は幻想ではなく本物だったのですね。レイラが幻想郷で、初めて自分が作ったものではない、音を聞いた瞬間だったのでしょうか。
20. 8 木村圭 ■2010/01/15 23:10:49
絶対の正解かどうかはさておき、「僕」と同じことを感じた「記者の人」がどう思ったのかは気になるところ。
空気が読めてない、というよりは空気を読む機能を持ってないのかな。
素晴らしき最低な締めくくりに賛辞を。わざわざ第三者の語り部を連れてきた構成がニクイ。
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