寒雨閑話

作品集: 最新 投稿日時: 2009/11/21 21:48:21 更新日時: 2009/11/21 21:48:21 評価: 22/23 POINT: 114 Rate: 1.21
 ちりり、とうなじの辺りに卦を感じた、気がした。
 なんとなく妖怪を察知した時の気配にも思えるが、あやかしまみれの暮らしを何年も過ごせば、かえって自信がなくなってくるのだからふしぎなものだ。
 こういう時にやってくる顔はだいたい決まっている。
 決まっていようがいまいが対する法に変わりはないのだけど。

「する事が無いからと寝転がっていると畳の跡が取れなくなるわよ」

 ほどなくして現れたのは八雲の式の方だった。
 主の方はよほど大きな荒事でもなければ動かないし、この狐めは妖怪にしては勤勉で結界の見回りをしていると云うはなしだから。

「さして珍しくも無い、か」
「なんぞ?」
「こっちのこと」

 狐が怪訝そうに片眉をあげる。
 藍は里芋の葉を傘にしていた。
 常よりも大きな葉は、山で育った物だからか。
 傾いた葉の上を雨粒がころころと弾むように流れていく。

「傘なんていらないじゃない」

 白々しい、と眉がしなる。
 巫女の指摘通り、九尾のその先まで雫の跳梁を許さず、金色の尾は変わらずに輝いている。

「こういうのは雰囲気が大事なのよ。大人になっても遊び心を忘れないことが肝要」

 その貌にくふりと笑みを浮かべ、妖狐は尾を揺らす。

「それで? わたしはあんたに用なんて無いわよ」

 この雨の中、結界の見回りでもしてきたのだろうか。
 ご苦労なことだと己の役職も忘れて呆れ返る。

「用が無ければくぐれぬ結界でも張ったのかね、だとしたら無意味でなかなか滑稽だ」

 そういって、手した風呂敷包みをゆらす。



 包みのなかみは柘榴だった。
 霊夢はあわい甘みに舌鼓を打つ。
 藍も小器用に実をすする。

「雨でいたむのは勿体ないと思ってね」
「ありがとう、近場だとこんなに甘い柘榴はならないもの」

 口元をぬぐう霊夢。軽く五個ほどをたいらげていた。

「お前の場合、面倒だからと食事を抜くのがいけない。だからそんな形(なり)なのだ」
「大きなお世話よ」
「もうすこし肉をつけろ、でなければ喰う気にもならないわ」
「大きなお世話……くしっ」
「冷えたか。まぁそんな格好をしていては当然だな」

 思ったよりも冷えていたようで、やる気が起きないのはこの寒さがいけないのかと鈍色の空を睨む。
 ふと、前髪がかき上げられ、白くほそい指を備えた手が触れる。
 額に触れる手はうっすらと冷たく、柔らかい。むしろ己の肌の微かな粗が感じられ、霊夢は意味も無く不機嫌になる。

「ふむ、熱があるわけでなし。少し風に当たったからか」

 その声に恐れたかのように部屋の仕切りがすたんと閉まった。

「なにか一枚羽織っておけ、茶くらいは淹れてやろう」

 そういって立ち上がる藍は、そこで動きをとめた。

「?」
「……っきゅん」
 
 え、という動きで霊夢が固まった

「なに今の」
「なにって、くしゃ……っきゅん」
「か、かわいい……」
「何を馬鹿なことを……っきゅん!」



――



 湯のみから湯気がのぼる。
 外からは雨のおとが聞こえる。

「狐ってさむさに強いんじゃないの?」
「冬眠しないだけで寒いものは寒いのよ」
「そんな格好なのに」
「いやまったく。思ったよりも冷えていたようね」
「それでひとに説教しようだなんて」

 あきれる霊夢目の前、藍が失せた。

「え」

 と思うまもなく霊夢の背後へ現れる天狐。
 するりと抱えられ、すとんと膝の上に乗せられた。

「おお、ずいぶんと大きくなったものだ、少し前は橙と変わらなかったのに」
「なんのつもりよ」
「っはは、よいではないか」
「なんで、アンタも紫も、こうなのよ」

 逃れようとすれば背から抱き寄せられる。

「ちょっと、放しなさいってば」
「むかしむかしのそのまた昔、ある所におじいさんとおばあさんが」
「その、はなしなさい、じゃなくて」
「だぁめ」
「なんで」
「お前は無関心だから」

 何に、とは云わなかったが、それを聞いて霊夢は抵抗することをやめた。
 背中から伝わる温もりは面はがゆいが、たしかに心地よいと感じる己もある。
 背後から抱きしめる藍にはうつむいた霊夢の顔は見えない。
 しかし、憮然とした気配は伝わってきた。

「少しこのまま。私もぬくい」
「ねぇ」
「いいえ、これは私の意思」
「そう」

 自分の意思で、とは言ったものの。
 与えられている式を考えれば、これも役目だろうかと益体もない思考がわいてくる。

「さっき橙と一緒とか」
「ああそれね。お前、私が普段何をしているか知っているだろうに」
「うん」
「私はね、少し前にお前さんに会っているのよ」
「覚えてない」
「かも知れないわね。霊夢はまだ小さくて未熟で、亀の力を借りていた頃だもの」
「覚えてない」
「そりゃあそうよ。私は別のかたちをしていたし、当時の霊夢は私をみて」
「ちょっと待て」
「びっくりしたんでしょうねぇ。まさか私も博麗の巫女がお……いたいいたい」
「よけいな事を言うからよ」

 古い記憶の中。
 一人でも飛べるようになれと玄じいに口うるさく言われ、しぶしぶ修行をしていた頃の話。
 大妖怪にちょっかいを出されて逃げ帰ったことがある。

「あのときのお前の恐怖は格別だった」
「うう〜」
 
 くやしさと恥ずかしさで耳が熱くなる、居心地が悪いが放してくれない。

「まぁそうむくれるな。今のお前はあの頃とは違う」

 ろくに修行もしていないはずなのになぁ、といつぞやの春の出会いを思い出す。
 懐かしから思わず頬擦りをすると、霊夢はくすぐったそうに身をよじる。
 
「どうせ今日はなにもしないのだろう? 晩御飯も面倒みてやるから、このまま昼寝してしまおう」
「どういう風の吹き回し?」
「どちらかといえば雨だけどね」
「そうじゃなくって」
「意味なんかないわ。ただ少し寒くて、霊夢の昔話が楽しかっただけ」
「なによそれ」
「いいからいいから」

 それだけ言うと藍は霊夢を抱えたまま横になる。
 術で布団を飛び寄せるという芸の細かさまで見せる。

「ねえ」
「なに?」
「お鍋がいい」
「なに?」
「晩御飯」
「ああ……うん。わかった」
 
 それだけ聞くと霊夢は目を閉じて、藍に身を預ける。




 雨は、まだ止みそうになかった。
 こう寒い雨が続くと藍さまの尻尾が恋しくなりますね。




 ゆかれいむを書くはずが藍霊夢になっていたのはナイショ
作品情報
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最新
投稿日時:
2009/11/21 21:48:21
更新日時:
2009/11/21 21:48:21
評価:
22/23
POINT:
114
Rate:
1.21
1. 7   ■2009/11/24 01:16:53
藍様かわいいっす。
すごい読みやすくて丁寧な作りで話がすっと頭に入ってきました。
お疲れ様でしたー。
2. 5 静かな部屋 ■2009/12/14 14:04:45
誰視点か分かりにくい。というかぶれてる

旧作はなあ…やりたいなあ……
3. 5 神鋼 ■2009/12/14 21:27:02
どちらかというと自分の小さい頃を知っている親戚のおばちゃんみたいな感じ。ちゃん付けで呼ばれるのはもう諦めました。
4. 10 nns ■2009/12/17 08:12:09
これはいい母性溢れる藍さま
5. 7 バーボン ■2009/12/17 17:33:51
小粋でテンポの良い会話と、くどくない地の文が良い雰囲気を出していると思います。
藍さまのくしゃみが可愛かったです。
6. 7 Tv ■2010/01/03 01:37:50
しっとりしていていい雰囲気ですね。久々に遊びに来た姉と甘える妹のような光景が浮かびます。
7. 4 藤木寸流 ■2010/01/04 02:24:26
 お姉さんお姉さんしてる藍も珍しいですね。大抵は甲斐甲斐しく世話する側のが多いので、姉さんってタイプは稀かも。口調としてはもうちょっとこう威勢が良い感じではあるのでしょうが。
 霊夢となんか接点があるにしても、なんかちょっと世話焼きすぎな。
8. 3 パレット ■2010/01/10 05:17:17
 よし次はゆかれいむだ。
 ともあれ、あまり見ない組み合わせに「無関心」と「私の意思」みたいなちょっとしたシンクロじみたものを与えたのが味になってて良かったです。
9. 2 白錨 ■2010/01/10 10:49:07
もう一度構成をかければ、もっと藍×霊夢になる作品だな。と思いました。
10. 6 椒良徳 ■2010/01/11 19:01:11
これは良い雰囲気の作品ですね。
お袋さんな藍は良く見ますが、こんな良いお姉さんな藍は新鮮でした。
もう少し二人のやりとりを書いてあったほうが個人的には好みでしたが、それは私の我がままか。
若干物足りないのでこの点数です。
11. 5 詩所 ■2010/01/13 22:14:13
 雨が寒い分中身が温かかったです。
12. 2 ホイセケヌ ■2010/01/13 23:01:51
、ハ、、ォテ靤エイサラ网ハ壥、ャ、ケ、。」
、チ、遉テ、ネホトメ筅ホシウ、゚ネ。、、ハ、、ヤ庁」コホ、タ、ォ、隍ッ、、ォ、鬢ハ、、、ネ、、、ヲ、ホ、ャユヨア、ハクミマ、ヌ、ケ。」

、ソ、タヒ{筈ャソノ摂、、、ホ、マ馮゚`、、、ハ、、。」、ヲ、。」
13. 5 deso ■2010/01/14 00:22:32
これは良い取り合わせ。
霊夢可愛いです。
14. 7 やぶH ■2010/01/15 00:31:27
珍しい組み合わせでしたが、くどくない文章のおかげなのか、違和感がありません。
読み終わって、まったりした良い雰囲気を味わえました。ああ、藍様の尻尾を枕にすることができたら……。
15. 7 文鎮 ■2010/01/15 08:01:05
これは品のある藍さま。最近寒い日が続いているので、あの神々しい尻尾へとダイブしたい気分です。
16. 4 八重結界 ■2010/01/15 15:59:36
 私も藍の尻尾に包まれたいです。
17. 5 2号 ■2010/01/15 18:45:06
ちょっと新鮮な組み合わせですね。
あったかそうでなによりです。
18. 7 零四季 ■2010/01/15 19:46:09
紫の影も形もないw
藍霊夢……アリだな、と納得してしまいました。最近は本当に寒い。ふもふももふもふしたいです。
19. 4 774 ■2010/01/15 21:59:50
良い雰囲気です。
が、もうちょっと色々描いてほしかったかなー、と想います。雨もあんまり絡んでませんし。
20. 5 時計屋 ■2010/01/15 22:46:13
 また珍しい組み合わせだなー。
 実にまったりとしたSSでございました。
21. 4 如月日向 ■2010/01/15 23:05:51
 紫と藍で霊夢の取り合いになりそうですね。
 二人しかいないのに、一瞬どちらが話しているのかわからなくなる場所がありました。
 もうちょっとだけ、場面も心情も描写が増えるといいかもしれません。
 
〜この作品の好きなところ〜
 「……っきゅん」

 きゅんにきゅんっ。
22. 3 木村圭 ■2010/01/15 23:12:28
「お鍋がいい」の霊夢が可愛すぎるんですがどうしたらいいんでしょうか。
23. フリーレス nike ???? ■2013/09/16 09:41:56
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