あめのかみ

作品集: 最新 投稿日時: 2009/11/21 23:21:02 更新日時: 2009/11/21 23:21:02 評価: 19/19 POINT: 109 Rate: 1.34
 辺りはただ雨音のみに包まれている。
 妖怪の山の山頂付近、守矢神社よりわずかに外れた山林を早苗は歩いていた。
 呼吸をすると、肺いっぱいに冷たく湿った空気が満たされるのを感じる。遙かな天の高みから落ちてきた雨滴は、ビニール傘の表面を叩いて、傘を握る早苗の手にまで振動を伝わらせる。
 透明なビニール越しに見上げた中天は、すっかり暗灰色に翳り、雨雲の向こうに青空を見出す余地はない。
 もう十日もこの雨は続いている。
 夏の夕暮れに俄に降り出したそれは、すぐに過ぎ去る夕立かと思われた。けれど日を跨いでも朝を迎えても、一向に雨脚が弱まる気配はない。昼夜の境目すら曖昧に暈かしながら、音を立てて妖怪の山へ降り続けている。梅雨はとうに過ぎ去ったはずで、一時は焼けつくように太陽の輝く夏が確かに訪れていたというのに。
 早苗は木々の合間に隠れた獣道に踏み入り、濡れた木々のあいだを通った。緑も濃い葉叢から、丸い雫が絶え間なく落ちている。地面はどこもかしこも水溜まりで、歩くたびにぱしゃぱしゃと音を立てる。
 しばらく行くと、見晴らしの良い開けた斜面へと抜けた。けれど、晴れならば幻想郷の全貌が透明に見渡せるはずの位置に出ても、今日の視界に広がるのは雲と霧ばかりで、下界の様子を窺うことは出来なかった。昨日も、一昨日も、同じだった。
 早苗は頭をもたげ、視線を上の方に向ける。幻想郷の上空、西の空を見てみれば、そこには雲を透かして確かに日光が差し込み、薄く青空が見えた。麓はきっと晴れている。
 昨日も、一昨日も、同じだった。

 ――そう、妖怪の山だけが、雨なのだ。


 雨雲は手を伸ばせば触れそうなほど近くに迫っている。天に最も近い山頂の守矢神社の、広い石畳を雨が叩いて、激しい音を立てていた。紅い御柱の群れも、夏の鮮やかな湖も、今は灰色に煙って色彩を失っているように見えた。まるで境内すべてが水に沈んでいるかのようだった。
 早苗は守矢神社へ戻ってきた時、拝殿の陰にひとり佇んでいる八坂神奈子の姿を目に留めた。神奈子は雨の降りしきる境内をただ黙して観望していたが、向かってくる早苗の影に気づくとそちらへ視線を移し、顔をほころばせた。
「なんだ早苗じゃない、どこに行っていたのよ」
「どこって……天狗や河童の所に食べ物を分けてもらいに行ったんですよ。まったく、神奈子様たちは食べなくても平気だからって」
「あーわかったわかった」
 文句を言う早苗を神奈子は笑ってあしらいながら、早苗の手に提げられた風呂敷袋を自分の手へと移した。早苗の左手が不意に軽くなって、もう片手に握った傘が軽く揺れる。
 早苗はこの神に伝えるべきことがあったのを思い出した。
「神奈子様、天狗のひとりから聞いたのですが……博麗神社が大変なことになっているらしいのです。なんでも一昨日、地震が起きて全壊したとかで」
 噂好きの天狗のあいだではこの話で持ちきりになっていた。小さく古びた博麗神社は見事に崩れ去って塵芥と帰し、博麗の巫女は今日の宿にさえ窮しているという。
「やっぱり」
「あら、知ってたんですか?」
 自分の持ってきた情報を、相手がすでに知っていることに拍子抜けする。
「ちょっとね。麓の巫女も災難ね」
 神奈子はなにか考え事でもしているように手を口元へ当てている。早苗は少し怪訝に思ったが深く訊くことはしなかった。
「ここは大丈夫でしょうか」
 博麗神社が倒壊したと聞けば、巫女の早苗は当然守矢神社の事が気にかかる。早苗はふと不安を覚えて、自分の居る拝殿のようすをそれとなく見回した。かつて栄華のなかにあった守矢神社の建築は堅固に見えたが、大規模な地震に襲われたらどうなるか想像もつかなかった。
「そうだ、博麗神社にあったうちの分社も壊れてますかね……。これでは信仰が薄くなってしまいます。地震にそなえて耐震建築にリフォームしようかと思い立ったのですが、信者というスポンサーが居ないと費用がまかなえません。なんらかの新しい策が要ります」
 早苗は神奈子に進言したつもりだったのだが、その神奈子は早苗を見ていなかった。境内の向こう側を見ている。
「……噂をすれば参拝客が来たようだ」
「え?」
 そう言って神奈子が向けた指の先には、赤い傘を差して雨の中を飛ぶ、天狗の少女の姿があった。少女は早苗と神奈子の目の前まで来て、水の張った石畳にぱしゃりと音を立てて着地する。高い一本歯の靴は水撥ねを防ぐのに有効なようだった。

「こんにちは、毎度お馴染み射命丸です。残念ながら参拝に来たのではありません」


 射命丸文は腰を据えて話がしたいと言った。雨の中で立ち話も何だろうということで、三人は社務所と住居を兼ねる区域へ上がった。室内に入ると、幾分か雨音が静まったように感じられた。閉めきった硝子窓から見た境内裏は、相も変わらず止まない雨に包まれている。
「さて」
 文と神奈子は座卓を挟んで向き合う形に座った。文は正座、神奈子は胡座をかいている。早苗は二人に茶菓子を出した後、居間と続いている台所で耳をそばだてていた。
「雨ばかりで嫌になってしまいますね。冷房要らずなのはありがたいですが。妖怪の山のエネルギー事情も楽ではないのです」
「ふむ、エネルギーか……そのへん考えておこうかしら」
 こうして見聞きしている限りでは、いつも通りの天狗の取材の様相を示している。
 けれど文の手には、天狗の手帖も万年筆も、カメラも握られていないことに早苗は気がついた。これは取材ではないのだろうか。けれど、まさか世間話をするために上がり込んだわけでもないだろうとは思う。
「さてその雨です。なんと、雨がもう十日も止みません」
「珍しいわね」
「なぜかは知りませんが、最近の幻想郷は異常気象に見舞われているようです。色んな方々の証言ではたびたび天候が局所的に変わるそうです」
 ――え? 私はそんな事知らないわ。
 そこまで聞いて早苗は『天候が局所的にたびたび変わる異常気象』なるものが起きていたことを、この時初めて知った。早苗はここの所ずっと雨続きの妖怪の山にいたし、それ以前に山から降りた時も、特に変わった天気ではなかったと記憶している。文の話は続く。
「私はというと、しょっちゅう暴風に巻き込まれてばかりなのですが……。そして、この妖怪の山では不自然な雨が続いています」
 こちらも異常気象には違いないが、山の外で起こっている事態とはまた違ったたぐいの異常らしい。滔々と流れ出る文の言葉を、神奈子は黙ったまま聞いている。
「博麗神社が地震で全壊したのは知っていますよね」
 その言葉を聞いて、とうとう早苗は居間へと顔を出した。これは聞き捨てならない話題に違いなかった。
 文は早苗を気にしないようで、構わず話を続ける。声の調子を落として、いかにも神妙そうな口振りで。
「実は近々大地震が起きるとタレコミがありまして。……もし、地盤の弛みきった山で地震が起きたら、どうなると思いますか」
 早苗は息を呑んだ。山全体の仔細などは想像もつかないが、言葉の不吉さから、いかにも甚大な被害が出そうに思えた。山そのものが崩れかねないとしたら、もはや耐震がどうのという話ではない。
「山津波ね。それはそれは大惨事だ」
 会話の内容に反して、神奈子はからりと笑うように言った。
「まあ、私達は山に埋まるくらい平気ですが、山の精密な設備や美しい景観はその限りではない。この神社や御柱も」
 文もまた一転して軽い調子に直ったかと思うと、意味ありげな視線を神奈子と早苗に送ってくる。
「ブン屋は回りくどい言い方をするな。要するに雨をどうにかしろと私に言いに来たのだろう」
「その通りです。風雨の神に乞うべく、今日は新聞記者ではなく天狗の使いとして来ました」
 早苗はようやく合点がいき、それと同時に少し感慨を覚える。
 ――いかにも信仰されているという感じ! これは山の妖怪から更なる信仰を集めるチャンスだわ。
 早苗と文の二人から期待の目を向けられて、神奈子が口にした言葉は、
「それは出来ない」
 予想とはかけ離れていた。
 僅かな間。
 快諾した神奈子によって直ちに雨が止むだろうと思っていた早苗は、この言葉をすぐには呑み込めなかった。
 相対している文は、焦ったような拍子抜けしたような、微妙な表情をしている。
「……なぜ」
「なぜですか! ていうか神様と妖怪は死ななくても私は死ぬんですよ」
 文を押しのけて早苗は猛然と詰め寄る。それでも神奈子は眉一つ動かさず、平然と口を開いた。
「なぜもなにも、この雨は私が降らせている」
 ――空気と時間が凍り付いたように感じたのは、もちろんそれらが実際に止まったわけではなく、早苗と文、二人の思考こそが凍り付いたからに違いなかった。
「な……え? それって……神奈子様がわざと降らせてるってことですか?」
 固まりかけた頭を大急ぎで巡らせて、早苗はおずおずと確認をとった。
「そう。もちろん、止めようと思えばすぐに止められるけど」
 さらりと神奈子は言った。ようやく言葉の意味を呑み込んだらしいらしい文は、素早く立ち上がって神奈子の目の前で声を張り上げる。
「それなら今すぐ止めて下さい! 風聞ばらまいて信仰無くしてやりますよ!」
「神奈子様なに考えてるんですか! もう保険は下りないんですよ! 博麗神社の二の舞は嫌です!」
 今度は二人がかりで唾を飛ばしてまくし立てる。さすがに神奈子もたじろいで、二人を掌で押しやろうとした。
「ちょっと待ちなさい、これにはのっぴきならない事情がある」
 とは言え二人も退かず、じゃあこのはた迷惑な異変を起こしてる事情とはなんですか、なぜ事を荒げようとするんですか、とわめき散らしていたところ、
「あー。まあ、落ち着いて聞いて」
 不意に誰のものでもない声が響いたと思うと、守矢神社のもうひとりの祭神、洩矢諏訪子がどこからか現れて、三人のあいだに割って入った。
「なんか賑やかだなと思ったらややこしいことになってるねぇ。今からちゃんと説明するよ」


 ひとまず第三者の介入によって場は収まり、鼎談には新たに洩矢諏訪子が加わって、四人で卓を囲む形になった。
「えー、このたびは神奈子の説明不足が誤解を招きまして」
 大げさに謝罪の形をとってみせる諏訪子の横で、神奈子はむっとした表情で唇を引き結んでいる。文は紅い表紙の天狗の手帖と筆記具を取り出して、弁明と供述をしっかり書き付ける事にしたようだった。早苗は誰の味方をするかで迷い、とりあえず黙って話を聞く事にした。
「この長雨にはちゃんとした理由と、安全を保つための対策があるの。まずは対策について説明するわ」
 そう言った諏訪子が目で促して、神奈子が口を開く。
「私はとある理由のために、乾の力で妖怪の山へ雨を降らせている」
 続けて諏訪子。
「そして、私の坤の力で大地を固め、地崩れを起こすのを防いでいる」
「なるほど、まあ理屈としてはわからなくもないですが。というか……あなたも一枚噛んでいたのですか」
 文の送る冷たい視線を、諏訪子は苦笑いとともに誤魔化して、話を続ける。
「つまり私が居る限りは、地盤はいつもよりしっかりしてるくらいだから、土砂崩れとかは大丈夫。雨量や地下水脈をうまい具合に調節してるから、川も氾濫しないし、木々が根腐れを起こすこともないよ。まぁ、普段でもやばいような大地震が起きたらどうなるかはわからないけど」
「はあ。なんだかえらく便利なことですね。……それで、"とある理由"とはなんなのですか」
 ずいと体を乗りだして、文が問いただそうとする。手には万年筆を握りしめ、顔はにやりと笑みを浮かべて、特ダネにありついた新聞記者の表情になっている。
「それが言えないから黙ってたんじゃない。天狗に言いふらして大ごとになるのは勘弁」
 すかさず神奈子が言い捨てて、文との間に険悪な雰囲気が沸き立つ。ぶつかり合う視線のあいだには火花が散っているかのようだ。早苗はこの気まずい空間から思わず逃げ出したくなった。そこで慌てて諏訪子が仲介に入った。
「あぁー……ええと、実はすぐにでも解決する目処が立ってるのよ。もうちょっと待っててくれればじきに止むから」
「……本当ですかね」
 この弁明に疑いの目を向ける文に、ほんとほんと、と諏訪子は言って押しとどめようとする。しばらく問答したのち、文はこの追求を切り上げることにしたらしく、天狗の手帖をぱたりと閉じた。それでも、いまひとつ腑に落ちないような顔をしていたが。そのまま立ち上がって出て行こうとする。
「それでは妖怪達にはそう伝えておきます。けれど、なおも雨が続くようなら、短気な輩はしびれを切らして乗り込んできますよ。私も気が長い方ではないです」
「そんな時こそ雨水でも被って頭を冷やすといいわ」
 神奈子が皮肉混じりで笑いながら言い、文がため息をついて苦笑いした。
「はぁ、涼しいのはいいんですけどね……。夏が雨のまま終わってしまうのはよくないです」
 文は物憂げな目つきで、縁側から見える景色に向き直る。木々の枝は心なしか力なく下を向き、葉は落下する雨滴に負けたかのように張りを無くしている。湖は輝くことなく濁った灰色をして、太陽を厚い雲に阻まれた世界はどこを見てもぼんやりと薄暗い。
「夏の山というのは、また格別な風情ですからねぇ」
「それにはまったく同意するわ」
 この時ばかりは考えが一致したようだった。


 さて、どうにも会話に入り込めずに、このやり取りをただ傍観するのみに留まっていた早苗は、文が去ってからやっと口を出す事が出来た。
「あの、どうして妖怪の山だけに雨を降らせているのですか?」
 得心のいかないことばかりだった。そもそも自分にくらいは"とある理由"とやらを教えてくれてもいいのではないか。早苗の問いかけに対して、神奈子が若干複雑そうな表情で説明をする。
「今のところ私達を信仰しているのは山の妖怪達が大半なの。だから山では力を最大限行使できるんだけど」
「山から出たら大した信者も居ない田舎神ってわけ。悲しいかな、お山の大将って感じかなー」
 昔よりは全然良い状況だけどね、と諏訪子が軽い調子で言う。
「つまり、出来ることなら幻想郷全域に雨を降らせたいということですか?」
「そうそう」
「で、雨を降らせている理由というのは?」
 調子良く続いていた会話はここで一旦途切れた。二柱は気まずげな顔をして顔を掻き、ため息混じりにつぶやく。
「……雨を降らせてるあいだに、麓の巫女あたりが勝手に解決してくれると思ったんだけどねぇ」
 神奈子の言う麓の巫女とは博麗霊夢のことだ。彼女が異変解決を生業としているらしいことを早苗は最近知った。――つまり、異変が起きていると言うこと?
「この雨も潮時ということだね」
「そう。私達も山の妖怪も、奴もそろそろ限界だわ」
「……お二人とも、いったいなんの話をしていらっしゃるのですか?全然わかりません」
 首をひねりながら早苗は更に問い、問いかけられた二柱はなぜか唐突に笑みを浮かべて――早苗の肩を、がっちりと掴んだ。神奈子と諏訪子で片手ずつ。

「正体は分からないが異変を起こしている奴が居る。例の、山の外で起きている、天気がころころ変わるっていう異常気象」

「私達は乾坤を操るためにここから動けないから、早苗がそいつをとっちめて連れて来なさい!」

「……はい?」


 そういった顛末があって、早苗は異変の犯人を探しに行くこととなったのだった。

 結局、それとこの雨がどう結びつくのかはわからなかった。
 ――この世界を雨に包む理由とはなんなのだろう。

 早苗はこの十日間、天狗や河童の里まで下りはしたものの、山より外には一歩も出ていなかった。梅雨じみた冷たい空気の中にずっといると、今が夏の盛りであることなど忘れてしまいそうになる。
 雨の降る高空を飛んでいく気にはなれず、道なりにゆるゆると低いところを降りていく。滝を越え、川の流れに沿って下る。普段ならば抜群に澄んでいるはずの清流は、少しだけ増水して黄土に濁っているように見える。しばらくすると山裾に広がる樹海へ辿りついた。このあたりが山の終わるところだ。
 森の中は夏めいて繁茂する木々に太陽光を阻まれて薄暗く、湿った土の匂いは一段と濃い。時折飛んでくる妖精を払いつつ進んでいった。飛んでいけば間もなく出口へと至る。徐々に木が少なくなるにつれ、あたりは明るさを増していく。やがてはっきりと森が開ける一角へ出ると、なるほど、そこは確かに晴れていた。
 早苗は飛ぶのをやめて森の出口で立ち止まった。もう水気を含んだ匂いはしない。見上げた空は雲ひとつない青色をしている。鳶が一羽、視界の端に飛んですぐに見えなくなった。
 一歩踏み出して樹海を抜けると途端に日が射して、夏の太陽は、雨天に慣れた目に痛いほど眩しい。夏の外気は冷えた体には一瞬だけ暖かく、すぐに汗ばむほどの暑さを覚える。
 早苗は傘が不要になった事に気づくと、傘を振って水滴を払い落とし、折りたたんだ。
「晴雨兼用傘を持ってくればよかったなぁ」
 早苗のビニール傘では、日射しを防ぐ事は出来なかった。

 少し飛べば麓の博麗神社はすぐに見えてくる。鎮守の森に紛れてひそやかに在ったはずの小さな神社の姿は、噂に違わず――いまや瓦礫と化して聖域の面影は無い。
 上空から博麗神社のようすをしげしげと観察していると、瓦礫の山から外れた位置に、目立つ紅白の人影が立っているのを見つけて、早苗はそこへ向かって降りていった。
「霊夢さん、こんにちは」
「……はあ、見物料を取ろうかしら」
 にこやかに挨拶した早苗とは対照的に、紅白の巫女、博麗霊夢は至極不機嫌そうにため息をついた。
 早苗は周囲を見回してみた。博麗神社は完膚無きまでに崩壊しており、石畳は砕けて陥没して、柱は折れて壁は微塵になり、その上に重たい屋根が積み重なっている。ここを襲った震災を思うと、早苗は薄ら寒い恐怖と畏れを抱かずにはいられなかった。
 崩れた神社の残骸を見てみると、その容積は思ったよりも少ない。神の住処も、壊れてしまえばなんとちっぽけなものだろう。
「このたびはご愁傷様で。痛みいります」
「そう思うのなら義捐金でも持ってきなさいよ。当面のあいだは寝る場所がないから、あちこち渡り歩くしかないんだけど……あんたの神社にでも押しかけようかしら。でも山の天辺じゃねぇ。雨みたいだし……」
 霊夢は憮然として言った。その姿はぐったりと疲れ切っているように見える。さすがにかわいそうに思えたが、あいにく早苗が今持っているのは傘一本だし、どうしようもない。適当に相槌を打って踵を返す。
 早苗が今回わざわざ博麗神社に赴いたのは目的があった。それは犯人捜しとは関係なく、博麗の巫女でも博麗神社そのものでもない。目当てのものは瓦礫の脇を少し探すと見つかった。
「守矢の分社は……ああ、やっぱり。崩れちゃってる」
 小さな祠は根元の柱から折れて、ばらばらに壊れていた。まだ新しかったはずの白木の骨組みは、土に塗れてしまっている。
「うちの神社は再建の目処が立ったけど、その祠はあんた達がどうにかしてよね。私の管轄じゃないわ」
「え、建て直しできるんですか?どこにそんなお金があるのですか」
「……酔狂な奴が居てね」
 霊夢は喜ぶでもなく怒るでもなく、眉を顰めた微妙な面持ちで呟いた。
 早苗はとにもかくにも博麗神社が再建の手段を得ていた事を、素直に意外に思った。
 ――こんな貧乏神社を建て直すなんて素晴らしく奇特な人だわ! 守矢神社にも出資してくれないかな。
「あの! その酔狂な方はどなたなんですか?」
「え? 確かまだそのへんに居ると思うけど。というか今、一緒に設計の検討をしてたのよ……あ、ちょっと」
 それを聞くなり早苗は、件の人物の影を早足で探しにかかる。
 ひび割れた石畳を走り、巫女にあるまじき罰当たりと思いつつも神社の屋根を踏み越え、あたりを見回して行くと、すぐに瓦礫のただ中に小さな人影を見つけた。
 積み重なった瓦の上にひとり立っていたのは、快晴の空に溶けるような、青い服の少女だった。かぶった黒い帽子の鍔が影を落として、その表情は見えない。
「すみません、博麗神社のスポンサーさんでしょうか?」
 早苗が声を張ると、少女は驚いたように振り向いてこちらを見た。少し訝しそうに早苗を見てから、口を開く。
「スポンサー? ……あぁ、そうね、今回博麗神社を再建しようとしているのは私」
 こちらを向くと日射しの具合が変わって、顔が伺えるようになる。少女はまだあどけなく、早苗と同じくらいか、やや下ほどの年頃に見えた。だが自分の祭神である諏訪子が幼い少女の姿をしているように、この少女もまた妖怪とも神とも限らない。そう考えて早苗は礼儀正しく丁重に振る舞う事にした。なんと言っても、神社ひとつを建てる財力があるのだ。
「ところであなたは?」
「私はあの妖怪の山の頂上にある、守矢神社の巫女です」
 後方にある山の方角を指さし、ついで腰を折り挨拶する。
「……妖怪の山の?」
「ええ。実はもともと博麗神社には、博麗の社殿と同じくらいの、立派な守矢の分社が建っていたのです。ついでですから直していただけないかと思いまして」
 もちろん姑息極まりない嘘八百なのだが、せっかく思いついた嘘なので、言うだけ言ってみたのだった。少女は思案げな表情でしばし考え込んだ。
「ふむ……ええ、そういうことなら考えておきます。……それより、山の守矢神社に興味があるわ」
 これをあっさり信じたらしい少女は、そればかりか、早苗の期待していた言葉の、まさにそのままを口にした。まさかこんなうまくいくなんて、と早苗は心の中でひとりごちた。
 ――とりあえず異変の犯人なんかはほっといて、この人を守矢神社まで連れて行こう!
「私がご案内させていただきます! でも生憎、今は雨が降っているのですけど……」
「構いません」
「私は比那名居天子。縁あって博麗神社を造営する事になった、天の人です」
 天子と名乗った少女は、とても快く、にこりと笑った。



 聞けば天子は尊い天人の身分で、震災の降りかかった哀れな博麗神社に施しの手を差し伸べてやったのだという。
 早苗には天人とやらのことはよく分からなかったが、とにかく立場としては相当高いらしい。期待も高まるというものだ。
 早苗と天子の二人は、早速妖怪の山へと足を運ぶことになった。霊夢は博麗神社の建設を設計も半ばで投げ出されて、完全におかんむりだった。後でなにかしらの災害見舞いを持って行くべきかしら、と早苗は思った。
 山に背を向けて進んだ往路と違い、山を目指して飛んでいく帰り道では、雨に霞む妖怪の山の様子がありありと見て取れた。晴れの空には不自然な黒雲が、山のぐるりを囲んでぽっかりと開いた穴のように見える。明るい夏の昼だというのに、そこだけ暗幕を垂れたように薄暗い。
 樹海の上を飛び越えて進むと、晴れと雨との境界、つまりは山と外との境界へ行き当たった。早苗は頬に冷たい水滴が当たるのを感じて、それに気がついた。少し見ただけでは分かりづらいが、ある位置ではっきりと天候を分かつ境界が引かれていた。
「すみません、ちょっと事情があって雨が降っているのです……こんな風に」
 上空で静止し、天子に説明する。
「それならだいぶ前から気づいていました。でも、どうやって雨を降らせているのかしら?」
「ええと……うちの神様の仕業なんですけど。なぜ降らせてるかは、実は私にもよくわからなくて」
 訊かれて早苗は少し焦った。神奈子様も諏訪子様も、ちゃんと説明してくれればいいのに。
「まあ行きましょう。……あ、どうしよう。傘が一本しか……」
 今更になって気づく。早苗はビニール傘を一本持っていたが、天子は手ぶらで来ていた。守矢神社へ向かうには、どうしても雨の絶え間なく降りしきる中を通らなければならない。
 しばし迷った末、早苗は手にしていた傘を開き、この賓客に手渡した。
 天子は渡された傘を物珍しそうに見つめていた。
「透明な傘? 珍しいわね。日射しが防げなくない?」
「うーん……雨傘であって日傘じゃないですからね」
「あぁ、そういえば傘っていうのは雨を防ぐためのものでしたね。天界には雨なんてないから」
 そう言って天子は、冷たい金属製の軸を軽く肩にかけて傘をさした。
「空が見えるわ」
 上を見上げながら天子が言う。早苗がそうしていたように、透明なビニールを通して。
 天界。彼女の言う雨の降らない天界とはどのような所だろう。
「天界というのは、やはり空の高いところにあるのでしょうか」
「そうよ。非想非非想天。天の遥か上、天界の中でも最も高く位置する、有頂天が私の天界です」
「天の上」
 そんな所があるとは思いもしていなかった。この幻想郷からは冥界や彼岸などに通じており、しかも気軽に行けてしまうと知った時は大変驚いたものだ。天界と来れば、この分だと魔界とかまであるのだろうかと思う。
 空より遥か上にあるという有頂天のことを考えた。視認できるようなものではないのだろうが、思わず空を見上げてしまう。
 この位置から見える空は、面白いほどにくっきりと、青色と灰色の二色に塗り分けられている。
 ――あら?
 神奈子の呼んだ雨雲、その縁のあたりが一瞬揺らめいて、暗灰色の合間から緋い色が覗いた気がした。今見えたのは錯覚か、偏光のいたずらか、一体なんのせいだろう。
「早苗さんとやら、神社に行かなくていいの?」
 考えに耽っていた早苗は、天子から声をかけられて自身の目的を思い出した。
「え、ええ。行きましょう行きましょう。私についてきてください」
 一路山頂を目指して飛んでいくが、傘をしっかりと構えている天子に対し、早苗は雨を防ぐ手だてを持たないまま往く羽目になった。一応、周囲に微風を起こすなどして抗ってみるが、雨粒は容赦なく肌を刺し、髪と衣服をしとどに濡らしていく。今が盛夏なのが救いだった。

 頂上に向かうと言うことは、下へ下へと落ちてくる雨とまともにぶつかりあうということで、降りる時よりも雨脚が強く感じられた。実際はそうやって働く力は微々たるもので、自分が傘をさしてないせいでそう感じているだけであることは、早苗も分かっていたが。
 雨にもろに打たれてみると、思ったよりも体力を消費する。時折降る大粒の雫は痛いほどだ。視界もままならず煩わしい。人間や妖怪はともかく、この長雨では野生の鳥獣などは参ってしまうのではないか。
「この傘は前が見えるからいいわね」
 早苗が四苦八苦して飛行する中、後からついてきている天子は、ビニール傘の効果に感心したらしい声を洩らした。そういえばそうだ、周りが見えるというそういう利点のある傘だったのだと、今更ながら思い出す。外の世界のこの傘は、幻想郷では容易には手に入らないだろう。入手ルートがあるにはあるのだろうが。
 そんなことを考えながら進むと、雨の煩雑さも多少緩和されるようだった。言葉はあまり交わさずに、黙々と進む。
 川を越え滝を越え、やがて守矢神社へ辿りつくと、早苗はなりふり構わず屋根の下へと駆け込んだ。境内は相変わらずの雨で、白い水煙が立っているかのようだった。石畳には水溜まりが広がっている。早苗の駆け込んだ拝殿の軒からは、雨水が絶え間なく流れ落ちて、激しく地面を叩いていた。
 早苗の躰は芯から冷え切って、僅かに震えている。風を起こし、すっかり水を含んで肌に貼りついた髪と服を乾かしにかかった。天子が少し遅れて入ってきて、傘を閉じて賽銭箱に立てかけた。
「便利な能力ね。――祭神は風神かしら?」
「そうです! うちの神様は風雨の神様です」
 天子の正しい認識に、少し嬉しくなって声が高くなる。
「それでこの神社なのですが、実は耐震建築にリフォームしたいと思っているのです」
 早苗は神社に向けて手を広げてみせる。天子はにこやかに笑って一歩歩み寄ってきた。
「耐震……それなら私の得意分野です。ちょっと見させてもらうわ」
 天子はそっと手を社殿の外装へと伸ばした。古びた建材はこの長雨で冷たく湿りきっている。丹塗りの紅も鮮やかな柱に、指先が触れようとしたその時――社殿の奥から、冷たい声が響き渡った。
「気安く触らないでくれる?」
 ――声の発された奥の暗がりから、静かに現れたのは八坂神奈子だった。ゆっくりとにじり寄って、天子の眼前へと立ちはだかる。
「やっと見つけたわ、緋色の雲の犯人」
 神奈子は笑みを浮かべながらも、声色は明確な敵意を孕んでいる。鋭い目で睥睨するその姿は凶暴な生き物の威嚇のように見える。
 天子はというと、こちらも笑っていた。神奈子の威圧にも怯まない。口元は笑っているが、その目は敵を見据えるそれだ。
 ――これは一体どうしたことだろう。この気まずい雰囲気はなに? 早苗は遅まきながら事態の異常さに気づくが、どうすればいいやら分からず、なにも言う事も出来ずにただ二人の様子を見つめるばかりだった。
 早苗が為す術もなく固まって見ているうちに、やがて、天子が口を開いた。
「それはこっちの台詞よ。雨の源泉、見つけたわ!」
 傍目から見てすぐ分かるほど、神奈子と天子の二人の間には険悪な雰囲気が漂っている。いや、険悪などとうに通り越し、一触即発とすら思える恐ろしさに、早苗は思わず息をひそめてしまう。とにかくこの二人には只ならぬ因縁があって、引き合わせるべきではなかったに違いない――
「早苗ったら、誰がお友達として連れてこいって言ったのよ」
 緊張状態の中、背後から急に声を掛けられて早苗は飛び上がりそうになった。激しく脈打つ胸を押さえながら振り向いて見れば、うしろに立っていたのは洩矢諏訪子の小さな躰で、少し安心を覚えた。
「諏訪子様、あの全然状況がわからないのですが……」
 臨戦態勢の神奈子と天子を尻目に、一体どうしてこんなことになっているのですか、と小声で諏訪子に問いかける。諏訪子はけろりとした表情で目を瞬かせた。
「まさか偶然連れてきたの? 運が良いわねぇ」
 諏訪子の言葉を聞いて、早苗は少しのあいだ思考する。
 ――偶然とは? 早苗が本来ここへ連れてくるはずだったのは。そうだ、神様に命じられて、とっちめて捕まえて連れてくるはずだった人物がいたはずなのだ。
「まさか天子さんって」
 早苗がぽつりと呟いて、
「そう、こいつこそが」
 神奈子が棘を含んだ口振りで言い捨て、
「私こそが異変の犯人よ!」
 高らかに声を張り上げて、比那名居天子が宣言した。

 早苗は呆然として、雨の中でもよく響いて通るその声を聞いていた。
 自分は図らずも異変の張本人を見事に連れてきてしまったらしい。ひとまず神奈子と諏訪子よりの命令は達成してきたことになる。多少違った形だとしても。
 偶然じゃないわ、と天子が言う。
「貴方は私を探してた。私は貴方を探してた。物事はごく自然に行き着いただけ」
 そう言いながら神奈子を上目遣いでにらみつけた。話に早苗と諏訪子が割り込んでも、空気はいまだに敵意に満ちてぴりぴりとしている。神奈子もまた口を開いた。
「私は緋色の雲を作っている犯人を探していた」
「私はこの山へ雨を降らせている犯人を探していたの」
 この神奈子と天子の言い分を聞いて、
「――緋色の雲ってなんでしょうか」
 早苗は誰に向けるでもなく問いかけた。緋色の雲なんて単語は今の今まで全く耳にしていない。ここに来てまたも置いてけぼりかと早苗は思う。
 と、神奈子がようやく早苗に顔を向けた。
「山からは死角で見えないけど、私の作った雨雲の上には、緋色の雲が立ちこめているの」
 緋色の雲とは。頭を巡らせた早苗は、入山する時に見たあの色のことを思い出した。晴れと雨の境界、雨雲の裾から僅かに一時覗いていた緋い色を、早苗は確かに見ていた。あの緋色の雲は――
「この剣よ」
 天子の掲げた両手の中に、突然具現するかのように現れたのは、一振りの長い剣だった。黄金とも緋色ともつかない光輝に満ちて揺らめく刀身を持つ、奇妙な剣だ。
「この緋想の剣は人の気質をさらけ出し、天候という形で表すの。そして萃まった気質を、緋色の地震雲と変える。私は幻想郷を緋色の霧で包んだ。けれど、妖怪の山だけは、この雨に阻まれて緋色の霧が届くことはなかった」
 剣先を神奈子に向けて、天子は喋り続ける。
「もともと天候を操る能力を備えている貴方は……雨で山を包んで、結界と為した。ここでは緋色の霧はかき消されてしまい、緋想の剣の力を最大限発揮する事は出来ないわ。まさか、こんな大掛かりな結界を張る奴がいるとは思わなかったけど」
「麓の神社と同じノリで地震を起こされて、山津波でも起きたらあちこちに被害が出るからね」
 刃を喉元に突きつけられても神奈子は微動だにせず、天子を見下ろしながら平然とした調子で言った。
「ふん、大人しくしてればいいのに。気に入らないわ。私は貴方たちに邪魔されたせいで怒りが有頂天よ。とても酷いことになるかもね」
 話を聞いていた早苗は顔色をすっかり無くし、慌てふためいていた。どうやらこれは今までになく深刻で、危険な状況らしいのだ。博麗霊夢と霧雨魔理沙がここへやってきた時よりも、ずっと痛い目を見るかも知れないのだ。早苗はおそるおそる近寄り、言った。
「その、酷いことっていうのは」
「決まってるじゃない! 剣が封じられたとしても私の能力を行使すればいいわ。私の能力は大地を操る程度の能力なの。手始めにこの神社を壊してやる!」
 天子はまるで歓喜に満ちているかのように謳い、早苗はようやく博麗神社を崩壊させた震災の正体がわかった。脳裡に浮かぶのは博麗神社の無惨な有様だ。ここもあそこのように跡形もなく壊されてしまうというのか。
「私が少し力を使えばこんな神社ごとき――」
 天子が緋想の剣を高く振りかざすのが見え、早苗は地面から伝わる衝撃を覚悟して身をすくませた。
 緋想の剣は地に突き立てられ――だが。

「――――あ、あれ? 地震が……起きない……」
 大地震の予想に反し、大地はかすかにも揺れることなく、守矢神社は雨の降る中にしっかりと建っていた。早苗は拍子抜けした。天子自身もまた、動揺しているようだった。
 天子はもう一度、二度、自身の能力を行使しようとしているようだったが、何事かが起こりそうな予兆すらない。やがて今まで早苗のうしろに立っていた諏訪子が、天子のもとへ歩み出て、
「そこの神奈子は乾の神。私は坤の神。私もあんたと同じように大地を操るの」
 と、告げた。
 大地を操る程度の能力と、坤を創造する程度の能力。どちらも地を司ることに変わりなく、その力がちょうど拮抗しあうとすると。
「……じゃあなに? 私は大地を操る能力も、緋想の剣の能力も封じられたってこと?」
 今までよりもやや小さな声で天子が言う。緋い瞳には僅かに同様の色が見て取れた。
「二柱ぶんの雨と大地の二重結界だ。一人ではこの結界は破れないわ」
 横に立っていた神奈子が天子に向けて言った。その顔には、してやったりといったような笑みを浮かべて。
「つまりお前は、ここではただの無力な子供と言うことだ。天人殿」
「とかかっこつけといて、あんたの力を押さえつけている限り、私達も無力なんだけど」
 諏訪子がぼそりと呟き、余計なこと言わなくていいの、と神奈子が諏訪子の帽子を軽く小突いた。
 天子は剣を握っていた手をだらりと下げ、まっすぐ二柱の神を睨んだ。
「地べたに這い蹲って生きるしか能がない、土着神と国津神が……」
 苦々しげに吐き捨てる天子に、神奈子は笑みを浮かべながら言う。
「生まれはお前より高貴だと思うけどね。なんにせよ最後に笑ってた者が勝ちだ」
 それを聞いた天子も笑って言う。
「でもどうするのかしら? 私も無力、貴方たちも無力。私は絶対死なないし……ここで退いても、雨が止めばこの山をまた狙うわ。ここには永遠に雨が降り続ける。なにも解決しやしない」
「そうなのよねぇ。だからここはめいっぱい譲歩してお前と話し合ってみようかと思う。……お前の目的はなに?」
 神奈子の言葉に、天子は一瞬虚を突かれたように黙ったが、すぐに口を開いた。
「私は……最初から神社をぶっ壊すつもりだったのだけど」
「ななななっ……なんて物騒なことを言うんですか天子さん!」
 早苗がおののきながら叫んだ。もはや言葉ですらも恐ろしい。
「でもここの祭神が相手ではどうやっても無理みたいね。だから私のもうひとつの目的を言うわ――戦うことよ!」
 ――戦うこと?
 早苗は天子の言ったことを素直に言葉通りに受け取ることができずに、考え込んだ。異変というのは目的があって起こすもので。やがて解決されるもので。それの過程として戦いが、スペルカードルールによって定められた弾幕決闘があるのであって……。
 雨音ばかりが耳に届く。少しの沈黙ののち、最初に口を開いたのは諏訪子だった。
「神遊び! 要するに弾幕勝負がしたいわけね?」
 そうそう、と天子は笑いながら言った。
「私は実際のところ、異変という事実だけが重要で、異変の内容はなんでもよかったの。異変を解決しにきた者たちと戦うことこそが目的だったのよ」
 ――この人、無茶苦茶だ! それが早苗が正直に抱いた感想だった。破天荒とはこのことか。
「なるほど、こっちはお前をこてんぱんにしたいわけで、利害は一致しているわけだ」
「貴方たちがこてんぱんにされなきゃいいけどね」
 神奈子と天子は尚も刺々しい会話を続けている。戦うことになるのだろうか、どうやって。
「じゃあ早苗、この天人と戦いなさい」
 不意に神奈子が投げかけてきた言葉に、早苗は目を白黒させた。
「……え?」
「だってほら。私達とこの天人は、今は力が発揮できないから、唯一自由に動ける早苗がこいつを袋叩きにしちゃえばいいって寸法よ」
「そうだね。早苗には巫女として、神々の代行者として役目を果たしてもらおう」
 諏訪子まで同意して、もっともらしいことを言い出し始める。ぽかんとしていた早苗は慌てて二柱に向き直った。
「ちょっと待ってください! 今回私ばっかり動いてるじゃないですか! なにも教えてくれないくせに……。ていうかその戦法は人道的にどうなんですか!」
 早苗は必死で喚いて拒否の姿勢を示した。早苗の命名決闘法案、つまり弾幕勝負の経験とは、霊夢と魔理沙と交わした二回きりで、そのどちらとも手酷く負けたのだった。だが騒ぎ立てる早苗の意志に反して、天子の言葉は、
「あら、ちょうど良いんじゃない?私は殆ど能力を封じられてるけど、それでも人間ごときには負けないつもり。そろそろ思い切り戦いたいところだったもの」
 このように賛成の意を示すものだった。
 三対一の採決で、早苗にはどうする事もできなかった。


 緋想の剣を封じる雨は、今も妖怪の山に降り続けている。時雨の色に染まった草木と、赤錆色に見える御柱が、静かに境内を見下ろしていた。
 神社の境内で、早苗と天子は一定の距離を取って向かい合う。
 せっかく乾きかけていた早苗の髪と服は、またも雨に晒されて、さながら濡れ鼠といった悲惨な状態だ。もっとも天子も同じ状況ではあった。この格好では動きにくいこと極まりないし、視界もあまり良好でなく、相手の姿は霞んで見える。戦いの土俵も、水の張った石畳か、もしくは泥に満ちたぬかるみしかない。互いにコンディションは最悪といったところだ。
 ――だけど、こうなったからには、もう戦うしかない。
 雨に打たれている早苗と天子を尻目に、神奈子と諏訪子は屋根のある拝殿で観戦を決め込んでいる。まったく勝手なことだと思うが、とりあえず早苗の応援はしてくれているらしい。
「さ、はじめましょう」
 堂々と立っている天子が言った。長い髪が腕に貼りついてうっとうしそうだ。
「ええ」
 早苗も了承して、御幣を胸の前に構えた。
 しばしのにらみ合いののち、果たしてどちらが先に動いたのかはわからないが、ほぼ同時に二人は相手に向かって勢いよく跳んだ。
 二人は交差するような動きになった。早苗はすれ違いざまに御幣を振って打撃をたたき込もうとした。天子がそれを身をひねってかわすのが見えたと思うと、早苗の躰めがけて小さな石礫が飛んでくる。とっさに袖で顔をかばう。そのまま背後を見せないように、天子の方を向いて後ろ向きに跳ぶ。
 お互いの位置が入れ替わって、再度のにらみ合い。なるほど、この程度には能力も使えるし、身体能力も申し分ないというわけか。
 早苗はそこから五芒星を描き、遠距離から弾を飛ばす。続けて間髪入れずに巫力を込めた符を投げつけた。だが天子は大きく回避することなく、弾に当たるギリギリの位置を無駄なく抜けて向かってきた。真正面から来たというのに、早苗の張った弾幕は全弾回避された。
 一瞬動揺して隙を見せてしまい、危うく天子の蹴りがまともに入りそうになって、慌てて高く飛んで回避を試みる。だが、射程の届かない位置に飛んだと思ったのに、早苗はなにかにぶつかったような、引っかかったような衝撃を受けて、地面の水溜まりへと落ちてしまった。白い飛沫が上がる。
 なんとか受け身を取ったので、すぐさま姿勢を立てなおす事が出来た。今の衝撃は一体、と思っていると、早苗は天子の手に握られているものに気づいた。鮮やかな黄金の軌跡を描くそれ。
「緋想の剣……」
「力は封じられてても、出し入れ自在の得物としては充分使えるってわけ」
 つまり接近戦になれば、圧倒的に不利だ。ならば遠距離から弾幕を張るしか――
 早苗は大きく距離を取り、天子に向かって無数の弾を発射した。だが今回もあっさり避けられてしまう。二度目の緋想の剣での攻撃を予想して、早苗は後背へと跳んだ。とりあえずは間合いを取れている。しかし天子がなにかしらの構えをとったかと思うと、緋色のレーザーが早苗の肩をかすめた。射程無限、光速の弾幕。
 天子の攻撃力は大したことないようだったが、こちらの攻撃がまったく当たらない。このままではジリ貧といったところで、負けは必至だ。
 こちらの大技が入ればなんとかなる可能性はあるが、天子は隙を作らせてくれない。スペルカードを宣言する僅かな間を与えてくれない。僅かな隙さえあれば。
 どうすれば――必至に頭を回転させる早苗は、ふとひとつの策を思いついた。どうせ破れかぶれなのだ、試してみるしかない。
 大きな岩が向かってきて、早苗は横ざまに跳んだ。回避に徹する。石礫を避け、剣圧を避け、高速で激突してくる天子を避けて、少しずつ移動していく。ある物を手に入れるためだった。
 跳んで飛んで、辿りついたのは拝殿、そして、賽銭箱。早苗はそこに立てかけられていたビニール傘を掴んで、体の前に突き出して構えた。
右手に御幣、左手にビニール傘。
 こんなものでもある程度の射程を持った得物には違いない。外の世界でこんなことをするとそれはそれは怒られたものだが、ここは幻想郷で今は弾幕勝負の最中で、おまけにあちらが剣を持っているなら、こちらの傘くらい可愛いものだろう。
「素人の二刀流なんて見苦しいわよ」
 天子は余裕満面といった風に笑っている。油断している。今こそが好機に違いない、そしてこれは一度しか使えない作戦だった。
 早苗は天子に向かって走った。天子も素早くこちらへと向かってくる。再度の交錯。天子が緋想の剣を構える。そこで。
 ――ぽん! と、気持ちの良い音がして、そして天子が一瞬固まって、なにかに勢いよくぶつかって尻餅をついた。
 間隙。この機を逃してはいけない。いっぱいいっぱいの早苗は、なにがなんだかわからなくなりかけていたが、多分きっとうまく行ったのだ、そう思って、早苗は高らかに宣言した。

「――秘法『九字刺し』」

 色鮮やかな光線が空中に出でて、地に倒れた天子の躰を縫い止めた。


「はぁ……負けた負けたー。ハンデ戦な上に手加減したけどね」
「ふふふ……勝ちは勝ちです……」
 天子は負けを認めて地面に座り込んでいたが、その表情はすがすがしい笑顔だった。
 急な運動にぐったりと疲れ切った早苗は、石畳の水溜まりに膝をついた。ぱしゃりと水が撥ねて、飛沫が顔にまでかかる。今更濡れるくらいはどうということはない。二人とももはや水に濡れていない所がないくらいにびしょ濡れな上、泥まみれで、目も当てられない有様だ。
 天から降る清浄な雨は、汗ばんで火照った体を冷たく癒すようだった。
「しかしなによその傘。変な開き方しなかった?」
「ジャンプ傘ですよ。ワンタッチで開くんです。便利でしょう」
 早苗は傘を一度閉じて、もう一度開いて見せた。先程はこれを天子に向けて勢いよく開き、怯んだ隙にスペルカードを発動したのだった。少し傘の骨が変な具合に曲がっているが、普段通り使えない事もなさそうだった。
「さてお二人さん」
 ちゃっかり番傘をさしてやってきた神奈子が、早苗と諏訪子に声をかける。後から諏訪子も来ていたが、諏訪子は雨に濡れる事を厭わないようだった。
「無事に勝負がついたようだけど、この天人は大人しく帰ってくれるわけ?」
 神奈子が地べたに座り込んだ天子を見下ろす。見下ろされると良い気分がしないのか、天子は勢いよく立ち上がった。
「天子よ! 比那名居天子! もう大人しく帰るわよ。まだ博麗神社の造営とか……やることもあるしね」
 水を吸ってすっかり重たくなったスカートを絞りながら、天子が言った。
「いまいち信用できないけど、まあいいってことにしておくわ。あぁ疲れた、こんな長雨は全く骨が折れる」
「疲れた疲れたー。って、私はもうしばらくのあいだ、地盤を固めておかないといけないんだけど」
 神奈子は溜まった疲れを吐き出すように、大きくため息をついた。その一方で、諏訪子はまだしばしの苦労が続くらしい。
 それを見た天子は、少しの逡巡ののち、小さく言った。
「……私がやっとくわよ」
 その言葉の意味を、早苗、神奈子、諏訪子の三人ともが考えた。早苗達の、意味がよく分からないといった様子にじれたのか、天子が自棄ぎみに言う。
「だから……私がこの山の地盤を固めておくの!」
 それを聞いて、神奈子は疑わしげに天子をじろじろと見た。
「ちょっと待ちなさい。いきなりそんな友好的だと裏があるようにしか見えない」
「いいのいいの、余裕余裕。私は悪の総大将の役をやりたかったの。いままで幻想郷中の人妖と遊んだけど……この山の奴はいつまで経っても来ないから私から攻め込んだのよ。最後の正義の味方に負けて、これでこの異変はおしまい。めでたしめでたし。もう満足」
 天子の中では、今回の件はすっかり完結してしまっているらしい。散々引っかき回した挙げ句にこれとは、非常識というか、はた迷惑だと早苗は思う。それとも幻想郷ではこういった人妖が跋扈しているのだろうか。
「やっぱりとてつもなく酔狂な人です」
 思わず早苗が小さくこぼしたが、それを聞いても天子は笑っていた。
「幻想郷担当の不良天人なのよ。どうも幻想郷に関わった者は酔狂でなくてはいられないみたい」
「あら。じゃあ私達もそのうち……なんて、そんな簡単に人は変わりませんよねぇ」
 早苗は声を上げて笑った。自分はまだ外の世界の常識にとらわれていると思った。幻想郷にすっかり馴染むことができた時には、その認識も変わって、幻想郷の規律と共に生きていくことになるのだろうか。
「あ、そうそう。先程の天子さんのお話を聞いて気づいた事があるのですが」
「ん? なにかしら」
「要するにこの幻想郷では、異変は積極的に解決しに行けということですよね」
「そうそう、物わかりが早いじゃない」
 これから実践していこうと早苗は思った。
「早苗ー。風邪ひくよー?」
 諏訪子が雨に打たれながら話し込んでいる早苗と天子を心配そうに伺う。
 神奈子は二人の様子を半ば呆れたように見ていたが、やがて雨雲に埋め尽くされた空を見上げて、天に向けて手を掲げた。

「さて、それじゃあこの雨もいよいよ終わり」

 西から東の方へ、一陣の風が流れてゆく。上空に凝り固まった雨雲も、緋色の雲も、景色を白く煙らせていた霧も、すべて彼方へと吹き消してゆく。夏の風が首筋を吹き抜けて、雨に濡れた髪と躰を乾かしながら、遠くへと。
 千切れた雲の間から差し込んだ光が、湿った空気を照らして光の帯を無数に作る。降る雨滴は光を反射して天から垂れる糸のように見え、それは緞帳めいて層をなして揺れていたが、すぐに薄れては消えていく。雲の縁が太陽を透かして黄金に輝いている。雨雲の上に緋色の雲が覗く事はなく、すぐそこには天空がある。
 雨天と晴天の境界が地面にはっきりと明暗を描いてこちらへと迫り、瞳に映る景色はみるみる明るさを増していく。その境界が頭上を飛び越えた時、早苗は目を突く眩しさに思わず瞼を閉じた。
 ほんの瞬きののち目を開くと、そこには一面に広がる青空があった。
雲はいずこかへと去り行き、あたりにはもう雨音はしていない。
 境内の石畳に溜まりに溜まった雨水に、晴れの空がなにものにも遮られることなく映りこんで、世界は今までにないほどの光量に満ちている。
 季節外れの長雨が終わって、色鮮やかに美しい夏が妖怪の山に帰ってきた。
ここまで読んで下さった方々、ありがとうございました。
緋想天早苗Storyを妄想していたら出来上がった産物です。
テフセヰ
作品情報
作品集:
最新
投稿日時:
2009/11/21 23:21:02
更新日時:
2009/11/21 23:21:02
評価:
19/19
POINT:
109
Rate:
1.34
1. 7 静かな部屋 ■2009/11/28 16:54:39
良かったです。
2. 7 神鋼 ■2009/12/18 20:48:55
「雨降って地固まる」が見事に地盤的な意味にもなってました。本来の意味も足せば二倍の攻撃力です。
3. 6 いすけ ■2009/12/25 05:56:36
読みやすかったです。
そうか、天子ちゃんは守矢にも出没していたのか。
4. 5 バーボン ■2009/12/28 15:40:16
なんとなく緋想天の早苗編だろうなーと想像して読んでいたら、やっぱりその通りでしたか。
こういう公式の裏側、番外編を描く物は個人的に好みなので、「あー確かにこんな感じだろうなー」とか考えられる楽しみがありました。
残念なのは若干冗長気味な感じがしたのと、肝心要の戦闘シーンの迫力が物足りなかった事。展開にもっと大きな起伏があれば、また受ける印象も変わったかなーと思います。
5. 4 藤木寸流 ■2010/01/04 03:01:49
 ワンタッチ式のパラソルは発想がよかった。
 あとは何だろう、早苗さんが天然すぎるのかな……天子も天子らしかったし、あんまりおかしいところもないのですけど、突出したところがなかった。
6. 3 パレット ■2010/01/10 05:25:41
 過不足無くまとまってるなあという感じ。
 早苗の初々しさや二柱の飄々とした感じもいいのですが、一番印象に残ったのは、天子のそれっぽさでした。なんだか久々に原作っぽい天子を見た気がします。
7. 6 白錨 ■2010/01/10 11:18:37
また天子、お前か(笑)という印象を受けました。
緋想天の早苗ストーリー。まさしくしっくりきますね。
衣玖さんが出てくると、まさにそれらしくなったかも。とにかく神奈子と諏訪子が土砂崩れを押える設定はしっかりしていて好印象でした。
8. 7 文鎮 ■2010/01/11 12:53:57
なるほど、ジャンプ傘とは。ゲームでの再現は難しそうですが、外の人間である早苗さんらしい戦い方といいますか。
天子はまあ、いつも通りでしたね。
9. 6 椒良徳 ■2010/01/11 19:43:53
本文は読みやすくて良い文章だと思います。
ただ、バトルものというには若干力不足に感じました。
まあ、原作からしてごっこあそびですかららしいといえばらしいですが。
また、早苗さんの勘違いっぷりは面白かったですが、
佳作というには緋想天の裏話というだけで話の練り込みが足らない気がするのでこの点数です。
10. 4 詩所 ■2010/01/13 22:23:20
 山の神様は間接的に厄災振り撒くのに、自分では働かないから困る。
11. 6 deso ■2010/01/13 23:57:43
お話の内容に比べて地の文がややくどい気もしますが、雨の風景が堪能できるからこれはこれで。
ラストの雨が晴れるシーンが綺麗です。
12. 7 ホイセケヌ ■2010/01/14 17:22:21
アセオア、ヒセpマフヤ酖遉オ、・キ・ハ・・ェ、タ、ウ、。」
、チ、网、ネ、キ、テ、ォ、熙キ、ニ、、キ。「コホ、隍クヒ、ホエホサリラ、リ、ホキセ、ヒ。「、ヒ、荀熙ネ、キ、ニ、キ、゙、ヲ。」シ圖ォ、、、ハ、「。「・ロ・・ネ。」

・鬣ケ・ネ、ホ。「r、荀ォ、ハノス、ホテ靤エ、ャモ。マオト、ヌ、キ、ソ。」
13. 6 八重結界 ■2010/01/15 16:49:04
緋想天の守矢編を読んでいるようでした。この早苗さんが、段々と常識に囚われなくなっていくんですね……。
14. 6 2号 ■2010/01/15 19:01:35
早苗ストーリーとしてすごくうまくまとまってると思います。
神様さすがですね。
15. 6 やぶH ■2010/01/15 21:24:32
早苗さんのif Story だということはわかったんですが、ちょっと展開が安易かな、と。
ゲームだと問題ないんですが、SSだとそんな感想を抱いてしまいます。
もう一つ、予想外な要素が欲しかったです。
16. 8 零四季 ■2010/01/15 22:07:40
もう一つの緋想天。早苗さんは結局常識破りの方になり変わってしまうのですが。
ある意味で原作に沿った書き方で上手いと思いました。
17. 5 時計屋 ■2010/01/15 23:10:26
 緋想天の早苗ストーリーということですが、展開が原作そのまますぎた気もします。
 黒幕も動機も同じなので、読んでいて今一つ盛り上がりに欠けました。
 原作のレミリアのように異変の裏側みたいな形の方が面白かったかも……。
 文章は全体的に丁寧で良かったと思うのですが、戦闘シーンの描写は動きに比べて少し大雑把なようにも見えました。
18. 6 如月日向 ■2010/01/15 23:17:07
 緋想天裏話といった感じで面白かったです。途中まで猫を被っている天子と早苗の会話がよかったです。

〜この作品の好きなところ〜
 若干ずれた会話をする早苗さんっ。
19. 4 木村圭 ■2010/01/15 23:17:48
博麗神社で渡した時はちゃんと手で支えてたのか……
ワンタッチで開くと知っていたとしても、目の前で急に傘がぶわっと開くのは驚くに十分。知らなければ尚更。
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