Hybrid rainbow after the rain

作品集: 最新 投稿日時: 2009/11/21 23:39:47 更新日時: 2009/11/21 23:39:47 評価: 19/20 POINT: 101 Rate: 1.26
 昼過ぎから降り出した雨は、じきに日付が変わろうとしているこの時刻においても未だに止む気配がなかった。
 雨足は弱く、耳を澄まさなければ降っているのかもわからないような雨だったが、だからこそ静寂を伴った物質的な存在感を有しており、幻想郷全体が薄いヴェールで覆われているかのようだった。

「この調子じゃ、明日は厳しいかもねー」
 窓際に立って外の様子を窺っていた妹のメルランが、こちらへ振り返って言った。

「そうね」
 と私は椅子に座ったまま、視線を交わして答える。

 明日の正午から予定していた私たちの屋外でのライブが、この雨の影響で開催を危ぶまれていたのだ。

「もし、このまま止まなかったらどうするの?」

 そう訊ねてきたのは、さらに下の妹のリリカだ。
 彼女は私の対面側の椅子に座り、ティースプーンを使って砂糖とミルクを入れた紅茶をかき回していた。

 その姿を見て、私はやや辟易した様子を示す。
「それ、ダージリンでしょ? しかもファーストフラッシュ」

「そうだけど、それがどうかした?」
 とリリカ。

「いい加減、何にでもミルク入れるのやめなさいって」
 私の言葉を代弁するように呆れた口調でメルランは言い、先ほどまで座っていた椅子に再び腰を下ろした。

「えー、だってミルク入れた方が美味しいじゃん」
 抗議するようにリリカは言う。

 メルランの指摘したように、彼女はどんな紅茶であろうといつもミルクをたっぷりと入れて飲む習慣があった。
 そのため、私たちから時折こうして非難を受けているのだが、少なくとも今のところそれを見直すつもりは全くないようだ。
 私とメルランは視線を交わし、やれやれといったふうに肩をすくめ合う。

「ねー、そんなことより、結局このまま雨が止まなかったら明日はどうするつもりなの?」
 拗ねたような口調で、再びリリカが言った。

 答えを促すように、メルランも私を見る。
 楽団としての選択は、長女であり、リーダーでもある私の意見が尊重されるのだ。

 私は二人の視線を受けながら、リリカの質問に答える。
「そうね。いつものライブだったら、別にやらなくちゃならないわけじゃないから中止にしてもいいんだけど、明日はそうもいかないでしょう?」

 そう言って、意志を確認するように二人を見ると、二人とも頷いて同意を示す。
 何故なら、明日はレイラ・プリズムリバーの命日である。
 毎年ではないが、数年に一度、私たちはその命日に合わせてライブを行っていた。
 だが、それもここ何年かは様々な事情により行えておらず、前回の開催からこれまでにないほど間が空いてしまっていたために、明日こそは何としてもという思いを皆が抱いていたのだ。

「前みたいに、場所を変えるっていうのはどう?」
 メルランが提案する。

 以前、ライブの最中に雨が降りそうになり、あの世からこの世へと突然の会場移動を行ったことがあったためである。
 だが、明日のライブの目的を考えると、出来ればそれは避けたいところだった。

「いざとなったらそれでも仕方ないかもしれないけれど、出来れば会場は変えたくないわね」
 と私は渋った。

「まあ、それもそうねー」
 とメルラン。
「でも、だったらどうしようかしらねぇ。リリカなら、何か良いアイデアがあるんじゃないの?」

 そう言って、メルランはリリカへと視線を送る。
 リリカは普段から良く知恵が働くので、今回もそれに期待しようというのだ。

「うーん、そんなこと急に言われてもねぇ」
 リリカは思案顔で紅茶に口をつけた。
 それから、カップを戻してためらいがちに言う。
「一応、当てがないわけじゃないけど……」

「本当に? 流石はリリカね」
 弾んだ声でメルランが言った。

 対して、リリカはあくまでも慎重な姿勢を示す。
「でも、人に協力して貰わないといけない事だから、どうなるかわからないよ?」

「それでも、何もないよりは良いじゃない」
 とメルランはあくまでも楽観的だ。

 このままではリリカに一任したままで終わってしまいそうなので、私はリリカに訊ねる。
「どんなプランなの?」

 リリカはその質問に答えようと口を開きかけたが、何を思ったのか、そこでわずかに躊躇する素振りを見せた。
 そして、私に対してどこか値踏みするような視線を向けてくる。

「どうかした?」
 私はその様子に疑問を抱いて言った。

 リリカは私に視線を向けたままで、しばし間を置き、それから笑顔とともに短く答えた。
「やっぱり、秘密」

「えー、何よそれー」
 途端に、メルランが非難の声を上げる。

「ごめんね」
 とリリカは素直に謝罪した。
「でも、少しだけ私のことを信じて任せてもらえないかな? 悪いようにはしないからさ」

 そう言って、リリカは私に哀願の表情を見せた。
 その様子はあまりにも切実さに満ち溢れていたため、かえってそれが演技であるということを私に悟らせた。
 それに先ほど彼女が見せた笑顔は、何か面白いことを思いついたときにいつも見せる表情だった。
 だからこそ、私はリリカの言葉をそのまま信じることは出来ない。

 とはいえ、本来であれば彼女は私に疑念を抱かせることなく完全に騙しきることが出来たはずだ。
 にもかかわらず、わざわざ自分の言葉が全くの真実ではないということを私に教示している。
 つまり、彼女は私に嘘であることを理解した上で騙されてくれないだろうかと持ちかけているのだ。

 それがどのような理由によるものなのかは私にはわからないし、訊いたところで教えてくれるとも思えない。
 それにもしかしたら、私がこのように考えることまで計算した上での発言なのかも知れない。
 だが、たとえそうだったとしても、妹であるリリカが私たちに深刻な被害を及ぼすようなことはしないだろうし、同時に表現者の一人である彼女が進んで観客を落胆させるようなこともないだろうという点に関しては、心から信頼することが出来た。

 私はリリカの真意を探るように彼女と視線を交わしながら、それらのことをしばし考え、やがて結論を出した。
「わかったわ、貴方の好きにしてちょうだい。メルランも、それで構わないかしら?」

「姉さんが良いって言うなら、私は別にいいわよー」
 先ほどとは打って変わって、メルランは深く考えていない様子で言った。

「ありがとう。でも、さっきも言ったように絶対に大丈夫だっていう保障はないんだけど、それでもいい?」
 とリリカは確認する。

「いいわ」
 私は頷く。
「他に良い案があるわけでもないし、それにもしかしたら明日の朝にはもう雨が止んでるかもしれないわけだしね」

「わかった。それじゃ、私は早速出かけてくるよ」
 私の返答を聞くなり、リリカはそう言って席を立った。

「今から行くつもりなの?」
 とメルランが驚いたように言う。
「もう夜よ。誰に会いに行くのか知らないけれど、明日にした方がいいんじゃないかしら?」

 その言葉に私も同意する。
「そうね、メルランの言う通りだわ。雨も降ってるし、無理はしない方がいい」

「うーん、そう言ってくれるのは嬉しいんだけどね」
 リリカは申し訳なさそうに言う。
「でも、やっぱり行ってくるよ。不健康そうな奴だから、きっとこんな時間でもまだ起きてるだろうし」

「そう。じゃあ無理には引き止めないけど、気をつけるのよ」

「あはは、何だかお母さんみたいだね」
 どこか嬉しそうにリリカは言った。
「大丈夫だよ、心配してくれてありがとう。じゃあね」

 そう言って、リリカは部屋を出て行く。
 ドアを閉める前にこちらに向かって手を振ったので、私とメルランも手を振ってそれに応えた。
 小さな音を立ててドアが閉まり、リリカの気配が遠ざかっていく。

 やや間を置いたあと、おもむろにメルランが呟いた。
「お母さんねぇ」

 そのメルランの視線は、リリカのカップに向けられている。
 カップの中には、ミルクと砂糖をたっぷりと加えた紅茶が入っていた。

 私はメルランの横顔に向かって言う。
「初めから騒霊として生み出された私たちには存在しないものね」

「そうねー」
 メルランは軽く伸びをした。
「あえて言うなら、レイラがそうかしら。一応、妹でもあるわけだけど」

「何か一つの対象が、それを観測する角度によって姿を変えるというのはそう珍しい話ではないわ。というより、誰にとっても常に同じ意味を持つものなんて存在しないわよ」

 そう言ってから、私は自分の口調が必要以上に攻撃的になっているのを感じた。
 特に考えたわけではなく、何気なく口にした言葉だったが、そこには私の感情を刺激する何らかの要素が含まれていたらしい。

「そういうものかしらねー」
 メルランは私の様子に気付かなかったか、仮に気付いていてもそこに触れるつもりはないらしく、いつもと変わらない調子で言う。
「それにしても、あの子ずいぶんと張り切ってたわねー。どんな仕掛けをするつもりなのかわからないけど」

 その言葉に私は、わかっていたのという視線をメルランに送った。
 メルランは、まあねというふうに微笑む。

「リリカなら、きっと上手くやってくれるわ」

「むしろ、上手くやりすぎちゃうんじゃないかっていうのが心配なんだけどねぇ」
 とメルランは苦笑し、さきほどからずっと手をつけていなかった紅茶を口に運んだ。

 それに倣って、私も自分の紅茶を飲む。
 長いこと放置されていた紅茶は、やはり冷め切ってしまっており、強い渋みを感じさせた。
 この温度では、砂糖も上手く溶けてはくれないだろう。

「それにしても、嫌な雨ねぇ」
 カップを持ったままで、メルランが言った。

 表情こそいつも通りの笑顔だったものの、やや気持ちが沈んでいるように見える。

「意外ね。貴方のことだから、雨が降ったらむしろ喜んで踊り出しでもするんじゃないかと思っていたんだけど」
 私はわざと茶化すように言った。

「ジーン・ケリーみたいに? まさか」
 メルランは小さく笑う。
「たしかにどしゃ降りだったら楽しくもなるけど、こんなはっきりしない雨じゃあ高揚しないわ。それに何より、こんな雨の中で踊ってもいまいち絵にならないでしょう?」

「それもそうね」
 と私は同意する。

 メルランはもう一度紅茶に口をつけると、カップをソーサーに戻して言った。
「レイラが静かになったのも、こんな雨の日だったわね。姉さんは、あの日のこと覚えてる?」

 静かになった、というのは私たちが死を表現する際に好んで使う言い回しだ。
 これは同時に、私たち騒霊にとっての生というものが、即ち騒ぐことであるという事実を客観的観点から表しているように思えた。

「覚えているわよ、もちろん」
 と私は答えた。

「そう。そうよね」
 メルランは呟くように言った。

 彼女が何故そのような質問をしたのかはわからなかったが、どうやらそれ以上その話題に触れるつもりはないらしかった。
 メルランが黙ってしまったので、私は何とはなしに窓の外へと視線をやった。
 室内の灯りが窓に反射してしまうため、この位置からでは外の様子をうかがい知ることは出来ない。
 だが、部屋が沈黙に満たされているために聞こえてくるかすかな水音が、雨がまだ降り止んではいないことを私に教えてくれた。

 静かだ。

 偏執狂の手によって黒一色に塗り潰された絵画のようにも見える窓を見つめながら、私はリリカは大丈夫だろうかということをぼんやりと考えていた。
 すると、ふいに部屋の片隅で音が鳴った。
 見れば、先ほどまでスタンドに立て掛けられていたトランペットが宙に浮き、音楽を奏で始めていた。

 もちろん、それはただ独りでに音を発しているわけではない。
 私たち姉妹は、皆が手を触れることなく楽器を演奏することが出来た。
 その能力を使って、メルランが座りながらにしてそのトランペットを操っているのだ。

 彼女が奏しているのは『二度目の風葬』という曲である。
 これは以前リリカの作曲した輪廻転生賛歌なのだが、所々に原曲とは異なるメルランらしいアレンジが加えられており、随分と印象の異なる曲へと仕上げられていた。
 メルランは意識を演奏に集中させながら、誘いかけるような視線をちらりとこちらへ向けた。

 私はやや躊躇しつつもそれに応え、傍に置いてあったヴァイオリンに対して能力を行使した。
 すると、そのヴァイオリンが宙に浮かび、私の意のままに操ることが出来る状態になる。
 私はそれを確認し、メルランの演奏に合わせてセッションを開始した。

 だが、たった2小節を弾いたところで、私は弓の動きを止め、弦から離してしまった。
 それを不審に思ったのか、メルランもすぐに演奏を止める。
 途端に、部屋に再び死の静寂が戻ってきた。

「どうかした?」
 メルランが、こちらを気遣うような口調で尋ねてきた。

「ごめん」
 と言って、私は目を伏せる。

 メルランの質問に答えてはいなかったが、しかしそれは元々回答を必要としていない問いだったはずだ。
 というのも、彼女はどうして私が演奏を中止してしまったのか、既にわかっているであろうからだ。
 それほどまでに、私が奏でた音は酷いものだった。

 実は最近の私はずっとスランプが続いており、それはリリカとメルランも知るところであった。
 そこに、この雨によって湿度が上昇したことによる弦のテンションの変化という悪条件が重なってしまったのだ。
 だからこそ、この結果はある意味では必然といえた。

「んー、別に謝るようなことじゃないんだけどね」
 とメルランは困ったように言う。

 私は黙っていた。
 というよりも、言葉を返すことさえ出来なかったという方が正しい。
 自分の思い描いた音と実際の音の差異が私に与えた動揺は、それほどまでに深いものだった。

 それを察したのか、メルランが取り繕うように言った。
「きっと、疲れてるのよ。今日はもう休んだほうがいいわ」

 その言葉に、私は視線を上げて彼女の顔を正視した。
 メルランが浮かべていた表情は、いわゆる受容の微笑みだった。
 それが一点の曇りもない善意から発せられたものであることは疑いようがなかったが、この状況での善意は私にとって悪意よりもなお性質の悪いものであった。

「そうね、そうさせてもらうわ」
 私は感情を表に出さないように苦心しながら、なるべくさり気なく聞こえるように意図した口調で言った。

 そして、メルランの返事を待たずに席を立ち、宙に浮かせたままだったヴァイオリンと弓を手元に引き寄せた。
 私はそれらを自らの左手で掴み、出口に向かってゆっくりと歩いていった。

 ドアの付近に到達したとき、メルランが私の背中に声を掛けた。
「おやすみなさい、姉さん」

 私は顔だけを彼女の方へ向けて答えた。
「おやすみなさい」

 そうして再び前方に向き直り、私はそっとドアノブに手をかけた。
 そのまま静かにドアを開け、薄暗い廊下に出る。
 そこで私はもう一度メルランへ振り返るべきか一瞬だけ考えたが、結局は振り向かず、後ろ手に音もなくドアを閉めた。

 特に考えもせず、私は習慣の力に従って自室へ向けて歩き出した。
 だが、その足取りは重く、じめじめとした空気さえもが歩行を妨げる障害のように感じるほどだった。

 メルランに言われた通り、私は疲れているのかもしれない。
 だが、だとしたらそれは一体何に対してだろうか。
 私はそれを自問しつつも、同時にその問いに答えを出すべきではないと感じていた。

 階段を上る途中、私は踊り場の窓の前で立ち止まった。
 外では、静かな雨が続いている。
 その光景は、たしかにレイラが死を迎えた日を思い起こさせた。

 私はそこでしばらく立ち尽くし、それから今度はほとんど走り出すような勢いで歩き始めた。
 階段を上り切り、目的地に向けて廊下を進んでいく。
 自室の前を通り過ぎ、その少し先に位置する、ある部屋の前で私はようやく立ち止まった。

 そこは、生前レイラが使用していた部屋だった。
 私は念のため、辺りを見回して誰かに見られていないかを確認し、部屋の中に入った。
 そして素早くドアを閉め、鍵をかけると、深い呼吸を一度行った。
 続いて灯りをつけ、私は部屋の様子を確認する。

 それほど大きいわけではないが、個人の寝室としては充分な広さを持つ空間の中に、シングルサイズのベッド、机、本棚が収められている。
 どこか寂寞とした印象を受けるのは、それらの家具が充分な距離をとって整然と配置されていることだけが理由ではない。
 この部屋が主を失ってから経過した時間はあまりにも長く、その年月の中で元々は存在したはずの生活感というものが綺麗に拭い去られていたからだ。

 だが、レイラの不在という一点を除けば、室内の状態は彼女の生きていた頃と何ら変わらないままに保存されていた。
 とはいっても、それは感傷的な理由によって私たちが意図して行った結果ではない。
 ただ単純に、この屋敷は三人で暮らすには多すぎる部屋数を有していたため、あえてこの部屋を使う必要がなかったというだけのことだ。
 だからこそ、彼女の死後この部屋に入るのは、ときおり行っている掃除の際を除けば今回が二度目のことだった。

 私はドアの正面、窓側の壁にぴたりと密着した状態で置かれている机の元まで歩いていくと、その上にヴァイオリンと弓をそっと置き、椅子を引いて腰を下ろした。
 机は左右の壁から見て中央に設置されているため、椅子に座るとちょうど目の前に窓が位置することになる。
 カーテンは開きっぱなしになっており、外の雨の様子が大きな窓枠の中に映し出されていた。

 私はそれをしばし見つめ、それから椅子の背にもたれかかって、ゆっくりと目を閉じた。
 視覚からの情報が遮断されると、そのぶん聴覚が研ぎ澄まされ、途端に雨音がその存在を主張し始める。
 私はその音に耳を傾けて、しばらくの間じっとしていた。

 すると次第に私の意識は曖昧になっていき、やがて自分が屋内にいるのではなく、柔らかな雨の中に身を晒しているような錯覚に陥った。
 それほど身近に雨を感じ、自分を包み込んでいるもののように思うと、私の胸は心地良い安堵感で満たされた。
 それが懐古心を刺激したのだろうか、私は突如としてレイラが亡くなった日の記憶を鮮明に思い起こすことが出来た。



 その日は、朝から雨が降っており、分厚い雲が太陽の光を遮っていた。
 私たち四人は、一日をリビングで過ごしていた。
 そこは私たちが生活の中心にしている部屋であり、眠るとき以外は皆がそこに集まっているのが常であったのだ。
 ちなみに、この習慣は現在も受け継がれている。

 レイラは窓から外が見える位置に置かれた安楽椅子に腰掛けており、側にリリカが付き添っていた。
 私とメルランは近くのテーブルにつき、二人の様子を見守っている。
 終焉がすぐそこまで迫っていることを、部屋の中にいる誰もが理解していた。
 時折レイラが力なく咳を行い、それをリリカが気遣うのを別にすれば、誰も口を開こうとはせず、雨音だけが部屋の空気を震わせていた。

 レイラはまだ若く、齢は三十にも満たなかった。
 当時の人間の平均的な寿命から比較しても、死ぬには早すぎるように思えた。
 だが、レイラはもともと身体の強い方ではなかったし、幻想郷に訪れるより前、一家が離散し一人で暮らさねばならなかった頃の生活が、彼女の寿命を大きくすり減らしていたのだった。
 レイラはその頃の話を決して私たちにしようとはしなかったが、あの時代に少女がたった一人で生きていくというのがどういうことなのか、そのときの私は既に理解していた。

 安楽椅子に座って、レイラは雨雲に覆われた空をずっと見つめていた。
 私はその横顔に向かって、今日は太陽が見えなくて残念に思うということを伝えた。

 すると、レイラは私に向かって微笑んで言った。
「そんなことはないわ。それは、とても些細なことよ」

 その言葉を疑問に思い、それは何故かと私は尋ねた。

 レイラは答える。
「だって、確かに私のいる場所からは太陽を見ることは出来ないけれど、この雨雲の向こうには確かにそれが存在するということを私は知っているもの」

 私は少し考え、それから述べるべきかやや迷いながらも、それは詭弁のように思えると言った。
 大切なのは、自分からどう見えるかではないかと。

「いいえ」
 とレイラは首を振る。
「大切なのは、どう見えるかではなくて、どう感じるかよ」

 そうだとしても、こんな日に太陽が見えないのはやはり寂しいことのように感じると私は言った。

「それは貴方が感情的に物事を捉えているからだわ。ある対象を本当に知りたいと思うなら、心のもっと深い部分で物事を捉える必要があるの」
 そこまで言って、レイラは軽くむせ込んだ。
 そしてそれがおさまると、付け加えるように言った。
「みんながみんな、感情によって屈折した視点で対象を見ようとするから、本当の姿がわからなくなってしまうのよ」

 よくわからない、と私は言った。
 実際、その言葉の内容は、私には理解しがたいものだったのだ。

「たしかに、簡単にわかることじゃないかもしれないわ」
 とレイラは認める。
「特に、ルナサとメルランは感情の影響を受けすぎるところがあるから、理解するのに時間がかかるかもしれないわね」

 レイラの口ぶりだと、どうやらリリカは私たちとは異なると彼女は考えているようだった。
 私はそれがやや気になって、リリカへと視線を向けた。
 だが、当のリリカは会話の内容を全く理解していない様子で、きょとんとした表情を浮かべていた。

 レイラは続ける。
「でも、いつかは自然とわかる日が来るわ。だから、これは差し当たって重要な問題じゃない。それよりも、いま現在もっと抜き差しならない問題があることに、貴方は気付いているかしら?」

 そう言って、レイラは真剣な眼差しを私に向けてきた。
 その様子に私は緊迫し、わからない、と重い口調で答えた。

 すると、突然レイラは破顔して言った。
「お腹が空いたわ。ご飯にしましょう?」

 その一言で、私たちは食事の準備を開始した。
 その時点で既に日が沈み始めていたこともあり、実際に食事の準備が整った時には、窓の外は黒一色に染まっていた。
 窓際に近づいて外の様子を確認すると、雨はいつ止むともしれず降り続けていた。

 リビングのテーブルを四人で囲んで、食事が始まる。
 メニューは、サラダ、チキンスープ、パンと簡素なものだ。
 そもそも、騒霊である私たちは食事をとる必要はなかったし、レイラも食欲がすっかり減退していたため、最近はずっとこのようなメニューが続いていた。
 だが、それでも今日くらいは豪勢な食事を用意しようとメルランは進言したのだが、レイラはそれに感謝しつつも、いつもと一緒でいいと言ったのだ。

 食事は普段と変わらない和やかな空気の中で進んだ。
 途中でリリカがサラダのトマトを取り除いているのを見て、メルランが注意をした。
 それを受けたリリカは、メルランもスープのタマネギを残しているではないかと指摘した。
 その様子を見て、レイラは静かに微笑んでいた。

 たっぷりと時間をかけて行われた食事は、緩やかに終わりを迎えた。
 レイラは殆ど口を付けていなかったが、皿の上に置かれたカトラリーは食事の終了を示していた。

 私は念のため、レイラにもういいのかと確認した。

「ええ、もう充分だわ」
 とレイラは満足そうに答える。
「残してしまってごめんなさい」

 それは仕方のないことであって、レイラが気にすることではないという意味のことを私は言った。

「貴方は真面目ね」
 とレイラは笑った。

 食事の片づけが終わった後で、私たちはお茶を楽しんだ。
 カモミールとアッサムを合わせたハーブブレンドティーに、ミルクを入れて飲む。
 これは、レイラが特に好んだ飲み方である。

 その時に私たちが交わした会話の内容は、過去の思い出に終始した。
 私たちがレイラに生み出された時の記憶まで遡り、現在に至るまでの生活を振り返った。
 無論、苦い思い出をあえて話そうとする者はいなかったため、私たちは笑顔のままに歓談の時を過ごした。

 だが、そうして笑顔を浮かべながらも、私はやるせない想いを抱かずにはいられなかった。
 今になって思えば、それはその会話が、重い判決を前にして無駄だと悟りながらも行われる、被告側の最終陳述のように感じられたからかもしれない。

「本当に、楽しかったわ」
 ややぼんやりとしていた私の耳に、話を総括するようなレイラの声が入ってきた。

 これまでとは異なった口調は、その時が来たのだということを否応なく私たちに悟らせた。
 表情から笑顔が消え、皆がレイラの声に耳を澄ました。

「いま私は、一つの確信を持っているわ。それは、自分の人生が幸福だったという確信よ。確かに父が起こしたあの事故さえなければ、私は当たり前の幸せを享受することが出来ていたかもしれないし、もっと長く生きることが出来たかもしれない。でも、そういった人生を思い描いて、それが幸福であるように感じるのは、結局のところそれを他の不幸な人生と比較しているからだわ。それに対して、私がいま感じている確かな幸福は、他の何かを必要としない、ただそれ単体で存在している本当の意味での幸福よ。その確信を抱くことの出来た人生が、幸福でないわけはないわ」

 私は何と言っていいかわからず、ただ黙っていた。
 メルランとリリカも、同じく黙って、じっとレイラを見つめている。

「私がこんなふうに思えるのは、姉さんたちのおかげよ。本当に、感謝してるわ。ありがとう」
 とレイラは言った。

 彼女が私たちのことを姉さんと呼ぶのは、随分と久しぶりのことだった。
 レイラの容姿が私たちよりも大人びてきた頃から、彼女との関係は次第に変化していき、今では姉妹というよりも付き合いの長い友人のようになっていたからだ。

 そのせいもあり、私は妙な気恥ずかしさを感じながら、私たちも本当に楽しい時間を過ごさせてもらったことに感謝していると伝えた。
 すると、メルランもリリカも、同意を示すように強く頷いた。

 レイラはそれを見て、嬉しくてたまらないという様子で微笑んだ。
 それから、彼女はゆっくりと瞳を閉じた。

 私たちはじっと佇み、しばらくの間その様子を見守っていた。
 部屋の中は、未だに降り続いている雨の音で満たされていた。

 やがて、安堵の混じった声で、レイラが小さく呟いた。
「静かね」

 私は彼女に向かって、おやすみなさい、レイラ、と言った。
 他の二人も、おやすみなさい、おやすみと声をかける。

 そうして、レイラは眠りについた。

 その後も、沈黙がしばらく続いた。
 誰も口を開こうとはせず、また動こうともしなかった。

 その静寂を破って、メルランが言った。
「これで、全部終わっちゃったわねぇ」

 そうね、と私は短く答えた。

 私たちはレイラによって生み出された騒霊であり、その存在を彼女が確かなものだと信じていたからこそ、こうして形作られていた。
 そんな私たちにとって、レイラの死というのは自分たちの消滅をも意味していたのだ。
 実際、私は先ほどから自分の力が減衰していくのを感じていた。
 この調子だと、おそらく夜明け頃に私たちは消え去るだろうと思われた。

「でも、本当に楽しかったわー」
 どこか清々しさを感じさせる口調で、メルランは続けた。

 それには、私も全く同意見だった。
 言葉こそ返さなかったものの、メルランに向かって私は大きく頷いた。

 それから、私はリリカへ視線を向けた。
 彼女は、まだレイラの寝姿を見つめたままだった。
 私の角度からでは、その横顔が影になってしまっていて、表情を窺い知ることは出来なかった。

 私は紅茶に手をつけた。
 カモミールの香りが、とても心地良く感じられた。
 カップを置き、私は軽く息をはいた。
 そして、あと数時間で自分が消えてしまうことについて、私はそれが重要なことであるように努めて考えてみようとしたが、やはりどうにも実感が湧かなかった。

 楽しい生涯だったかと問われれば、先ほども述べたように楽しかったと即答するだろう。
 だが、幸福だったかと問われれば、私は答えに窮するように思えた。
 更に言えば、幸福であると確信しているかと問われれば、そのような確信は抱いていないというのが実情だった。

 そのとき私は、そもそも幸福に限らず、私の中に確信できる事柄など何一つとして存在していないということに気付いた。
 確かなもの、レイラの言うところの、誰から見ても同じ価値を持つもの、そういったものを私は持ち合わせていなかった。
 そして、それらの問題は問題としての正式な形を取ることもなく、数時間後には曖昧なままに処理され、二度と浮き上がってくることなく消えていくのだ。

 それを思うと、私の中で小さな後悔の念が生まれたのを自覚した。
 私はレイラが、死を前にして、何故あのような確信を抱くことが出来たのかを急に知りたく思った。
 そして気付けば、私は席を立ち、ドアへ向かって歩みを進めていた。
 背中にメルランの視線を感じたが、彼女は何も言わなかった。

 私はそのまま廊下に出ると、二階にあるレイラの寝室を目指して歩き出した。
 階段を上り、真っ直ぐに廊下を進んでいく。
 そして、奥まったところにある彼女の部屋の前で立ち止まると、ゆっくりとドアを開けて中に入った。

 灯りをつけ、ドアを閉めると、私は部屋の中を見回した。
 家具は少なく、内装はシンプルだ。
 この部屋はまだ主人を失ったことに気付いていないらしく、私はどことなく阻害されている感じを受けた。

 ふいに私は、窓際に置かれた机の上に、一冊の本が置かれているのを発見した。
 関心を引かれ、机に近づいた私は、立ったままでその本のページを片手でぱらぱらと捲ってみた。
 すると、すぐにそれがレイラの記した日記であることに気付いた。

 私は一度ドアまで戻って鍵をかけると、再び机の元へ行き、椅子に腰掛けた。
 そして深く呼吸をしてから、その日記を読み始めた。
 そこには、晩年に近い時期の日々の記憶が綴られていた。
 ほとんどが他愛無い話題で埋め尽くされており、登場人物も限られていたが、ところどころにレイラの哲学や思想に触れる箇所も散見され、私は特にそういった部分を読み落とすことのないよう留意して読み進めていった。

 そうしてしばらく経ったあと、私はあるページの一部分に強く注意を引き付けられて手を止めた。
 そして、そこに記載されている内容を全て暗記するかのように、何度も何度も繰り返しその箇所を読み返した。



 今日の昼過ぎ、庭のゼラニウムに水をやっていると、リリカがやってきた。
 あの子が、きれいな花だねと言うので、私はゼラニウムという名前だと教えてあげた。
 その後で、私たちは紅茶を楽しんだ。
 そのときに、リリカがさっきの赤い花の名前は何だっけと尋ねてきたので、私は少し考えてからゼラニウムだと再び教えた。
 紅茶を飲み終え、リリカと別れたあとで、私は再び庭に戻った。
 やはり、庭に植えてあるゼラニウムは真っ白だった。



 私はそれ以上読み進めることなく、そのページを最後に日記を閉じた。
 そして前に身を乗り出し、机の上に肘をついて両手で目を覆った。
 その姿勢のまま、長い時間が過ぎた。

 どれほどの時間が経過したのかはわからなかったが、そのうちに、私はふと外からの雨音が聞こえなくなっていることに気付いた。
 外の様子を確認するため、私はゆっくりと顔を上げた。
 そして、ずっと両目を圧迫していたため滲む視界に、苦労しながらも外の光景を映し出した。

 既に日が昇り始めているらしく、辺りは薄明かりに包まれていた。
 雨はやはり上がっており、散り散りになった雲の隙間から、空の青が覗いていた。
 そうして私が眺めている間にも、外は急速に明るさを増していった。

 私は、終わりが近いのを感じた。
 最期を迎えるにあたって、この明るさはどうも相応しくないように思えて、私は椅子の背にもたれかかって瞳を閉じた。
 すると、やわらかな闇が私を包み込んだ。
 それは求めていた暗闇には程遠い、不完全なものだったが、私はそれをむしろ喜ばしく思い、そのまま意識を沈めていった。

 薄れゆく意識の中で、私は自分の呼吸の音を聞き、鼓動のリズムを感じていた。
 私は、結局なにも確信することが出来なかったことを残念に思った。
 そして、せめて自分が消滅してしまうことだけでも実感したかったものだと考えていると、ふいに外から不思議な音が聞こえてきた。

 最初は幻聴かと思ったが、耳を澄ませば確かに聞こえた。
 よくよく聞くと、それはどうやら叫び声のようだった。

 私はそれが妙に気になり、目を開いて立ち上がった。
 途端に足元がふらついたが、私はそのまま机の上に手を付いて、窓の方に身を乗り出した。
 そして、そこから声のする方を見下ろすと、一人で庭に立つ、リリカの姿が目に入った。

 叫び声を上げていたのは、彼女だったのだ。
 リリカは私に見られているのにも気付かぬ様子で、こちらに背を向け、ただひたすらに叫び続けていた。

 それを見て私は、彼女が死の恐怖に耐え切れずにそのような行為に及んだのだと最初は思った。
 だが、そのまま見守っているうちに、どうもそれは見当違いのように思えてきた。
 何故なら、彼女の叫びには悲観した様子が全く見受けられなかったのだ。

 不思議に思い、リリカの視線の先を追った私は、そこに大きな虹が掛かっているのを発見した。
 虹は地表から緩やかな弧を描いて力強く立ち昇り、雲の中へと消えていた。

 それを目にした瞬間、私は胸が高鳴るのを感じた。
 次いで、自分の頬を伝う液体の感覚に驚き、そこに手をやった。
 自分でも不可解なことに、私は涙を流していたのだ。

 私は虹から目を離すことが出来ず、それが消えてしまうまで、ずっと見つめていた。
 その間、リリカはなおも叫び、私は涙を流し続けた。

 虹が現れていた時間は、私が期待していたほどには長く続かなかった。
 私は虹が消えてしまってからも、しばらくのあいだ視線を動かさず、惚けたように立っていた。

 だが、徐々に意識がはっきりしてくると、まずリリカの声が聞こえなくなっていることに不安を覚え、庭に視線を落とした。
 そして、先ほどの場所に仰向けになって寝そべっているリリカの姿を確認すると、彼女がまだ消えていなかったことに私はひとまず胸を撫で下ろした。

 それから、私は部屋を出て、リリカの元へ急いだ。
 私が庭へ辿り着いたときには、横になっているリリカの側に、先客であるメルランが立っていた。
 メルランは私に気付くと、静かにするように、というふうに人差し指を立てて、それを口元に当てるしぐさを見せた。

 注意されたとおりに、私はゆっくりと二人の元に近づいた。
 そしてリリカの様子を見ると、一目で彼女がぐっすりと熟睡しているのがわかった。
 私はメルランと視線を交わし、やれやれというように微笑み合った。

 それから私とメルランは、二人でリリカを屋敷の中に運び込んだ。
 メルランと話をしたところ、彼女もリリカの叫び声を聞き、あの虹を目にしていたということがわかった。

 昼過ぎにリリカが起きてきたので、あの叫びは何だったのかと私とメルランは尋ねたが、リリカは何のことかわかっていない様子だった。
 外に出て虹を見たところまでは憶えているが、そこから先の記憶がないのだと彼女は言った。
 嘘をついている様子もなかったので、私たちはそれ以上は調べようとはしなかった。

 そして結局、私たちが消えることは無かったのだった。



 今こうして思い返してみても、私はあのとき虹を目にして流した涙の理由がわからなかった。
 悲しかったわけでも、嬉しかったわけでもない。
 むしろ、私はこれ以上ないほどに落ち着いていたはずだった。
 感情を伴わない涙を流したのは、あの時を除いて他にない。

 そして、リリカのあの叫び声だが、これに関して私は一つの仮説を立てていた。
 それは、あのときの声が、リリカの奏でる幻想の音だったのではないかというものである。

 私たち三人の楽団はそれぞれ、鬱の音を私が、躁の音をメルランが、幻想の音をリリカが担当している。
 このうち、私とメルランの担当する音は、感情を技術によって表現したものだ。
 だが、リリカの音はそうではない。
 彼女の奏でる幻想の音、それは技術によって表現されるものではなく、その音を操ること自体がリリカが生まれ持っている能力なのだ、と少なくとも私はそう思っている。

 だからこそ、あの叫び声は、まだ楽器を演奏することの出来なかったリリカが、自らの身体を使って幻想の音を発した結果なのではないかと考えているのだ。
 とはいえ、今となってはそれを確かめるすべはない。

 そして、たとえその仮説が正しかったとしても、一つの疑問が残った。
 幻想の音とは、この世から失われた音のことである。
 だとすれば、あの時の叫び声は、一体どこから失われたものであるのかということだ。

 おそらく、その問いにも答えは出ないだろう。
 回答の存在しない問題だけが累積していく。
 長く生きるというのは、そういうことなのかもしれなかった。

 私は、長く閉じていた目蓋を開いた。
 窓に映る情報は、夜が終わってはいないこと、そして雨がまだ降り続いていることを私に教えてくれた。

 私は机の右側に備え付けられた引き出しを開けて中を探り、何の収穫もないのを確認すると、それを閉めた。
 そして席を立ち、左側の壁に置かれている本棚の元へ行くと、上の段から下の段まで全ての本を眺め見た。
 その作業を二度行い、さらに背表紙のないものや、少しでも疑わしいものは実際に手にとって確かめてみた上で、私は自分が探しているものがそこにないということを認めた。

 私が探していたものは、あの日に読んだレイラの日記だ。
 そもそも私がこの部屋に入った目的は、あれを再び読むことにあったのだ。
 だが、肝心の日記が見つからなかったのではどうしようもない。

 私は捜索を諦め、再び席に戻った。
 そしてあの日と同じように、机に肘をついて手で両目を覆った。

 私は、あの日から何かが変わったのだろうかと自問した。
 音楽を覚えたことに関しては、確かに変化したといえる。
 だが、私はあのとき求めていた確かなものを、未だに手にすることが出来ずにいる。
 そう考えると、結局のところ私はあの日から何も変わっていないのではないかと思えた。

 腕を崩し、私は椅子の背にもたれかかって少し眠ることにした。
 薄まっていく意識の中で、私はあの虹のことを思った。
 あのとき、雨上がりに見た虹。
 あの奇跡こそ、私が追い求めている確かなものなのかもしれないと考え、目を開けたときにそれが見えることを期待しながら、私は浅い眠りに落ちた。



 目を覚ましたとき、私は二つの事実を知った。
 まず一つ目は、机に付属している椅子は眠るために作られているわけではないということ。
 そして二つ目は、私の淡い期待はこれ以上ないほど鮮やかに裏切られたということだった。
 私はこれらの真実を、首の関節が訴えてくる痛みと、窓の外に広がる景色から学んだ。

 雨は、もはや豪雨と呼ぶのが相応しい勢いで降り続いている。
 私はそれをしばし見つめたあと、深いため息をついた。
 そして静かに立ち上がり、ヴァイオリンと弓を持って部屋を出た。

 リビングに向かうと、そこにはメルランがいた。
 いつもの席に座り、紅茶を飲んでいる。

「おはよう、今日は遅かったわね」
 メルランは私に視線を向けて言った。

「おはよう」
 と私は答え、柱時計に目をやった。

 時刻は、すでに八時を回っていた。
 たしかにメルランの指摘したとおり、いつもよりも起床時間が遅かった。

 私はメルランに尋ねた。
「リリカはまだ寝てるのかしら?」

「うーん、それがまだ帰ってないみたいなのよねぇ」
 メルランは困ったように言う。
「まあ、何かあったってことはないでしょうけど、雨がこんな様子じゃ、あの子のプランだけが頼りなんだけど」

「確かに、そうね」
 と私は同意する。

 この雨ではライブを行うことは不可能だ。
 リリカが何をするつもりだったのかは知らないが、それが既に失敗してしまったのか、それともこれから何かを行うつもりなのかさえわからない状況では、私たちは身動きが取れなかった。

「とにかく、あの子が帰ってくるのを待つしかないようね」
 私は結論づけるように言い、メルランに背を向けた。

「どこ行くのー?」
 部屋を出ようとする私に、メルランは言った。

 私は短く答える。
「紅茶」

「私にも、もうワンポットお願いしていいかしら?」
 とメルランはおかわりを要求した。

 私はそれに手を振って了承の意を示し、今度こそ廊下に出た。
 そしてキッチンに向かう途中で突然、玄関の扉が勢いよく開かれる音が廊下に響き渡った。
 私は驚き、急いで玄関に向かう。
 すると、そこにはびしょ濡れになったリリカが立っていた。

「ただいまー」
 と楽しそうにリリカは言った。

 私はやや呆れたように言葉を返す。
「おかえりなさい」

「いやー、疲れたー。ちょっと濡れちゃったから、シャワー浴びてくるね。リビングで待っててよ」
 リリカはそう言って、有無を言わせぬ勢いで走り去っていった。

 私はそれを無言で見送り、キッチンへ向かって歩き出した。
 そしてキッチンに辿り着くと、私はお湯を沸かし、ポット三つ分の紅茶を淹れる作業に入った。
 ミルクに合わせることを考え、茶葉はイングリッシュブレックファーストにした。

 久しぶりに手間をかけて紅茶を淹れたため、それらを配膳ワゴンに載せてリビングに向かったときには、既にリリカもテーブルについていた。
 彼女はパジャマに着替え、濡れた髪をタオルで乾かしている。

 私が入っていくなり、リリカはワゴンの上にポットが三つ置かれているのを目ざとく見つけ、嬉しそうに言った。
「あ、私の分も淹れてくれたんだー。ありがとう」

「まあね」
 と私は言って、ワゴンを止めた。

 正式なお茶会ではないので、各々がワゴンに集まって自分のカップとポットをテーブルに運び、再び席に着く。

「それで、結局どうなったの?」
 紅茶を注ぎながら、メルランが尋ねた。

「うん、上手くいったよ」
 と言って、リリカはミルクを注ぐ。

「上手くいったって、こんなに雨が降ってるのに?」
 信じられないという様子でメルランが言う。

 だが、リリカは何ら動じたふうもなく断言した。
「雨は止むよ。だから大丈夫」

 それは、すでに過ぎ去った過去の事実を語っているかのような、気負わぬ自信を感じさせる口調だった。
 メルランもそれを感じ取ったのか、それ以上は何も聞こうとしない。

 私はリリカの中に存在する、その確たるものに憧憬の念を抱きつつ尋ねた。
「信じていいの?」

「ううん」
 とリリカは首を横に振り、それから満面の笑みで答えた。
「確信していいよ」

「わかったわ」
 と言って、私はミルクティーに口をつけた。



 私たちは開演の二時間前に会場に向かい、設営を行った。
 そのときには雨は小降りになっており、簡易ステージの設置は順調に行うことが出来た。
 ステージを覆うシートは水を弾く素材で作られていたため、私たちはその中で時を過ごしていた。

 途中、三人で軽くリハーサルを行ったとき、やはり私は調子が悪く、強い苛立ちを感じた。
 だが、それをどうすることも出来ないままに、開演の時間が近づいてくる。
 雨は弱まっていたものの、空は彼方まで分厚い雲で覆われており、まだまだ太陽を拝むことは出来そうになかった。

 この雨にもかかわらず、観客は意外と多く集まっていた。
 私たちのメインの客層である幽霊たちに、妖精、妖怪、そして中には人間の姿さえあった。
 その光景を見て、私は幻想郷もずいぶん変化したものだと実感させられた。

 そして同時に、私は一つの疑問を抱く。
 それは、これだけそれぞれに異なる種族が、どうして音楽に惹きつけられるのかということだった。
 同族の中でさえ趣味嗜好は様々だというのに、彼らは今ここに一つの目的のために集っている。
 普段は意識したことさえなかったが、考えてみればそれは不思議なことのように思えた。

 そうして観客たちの姿をぼんやりと見つめているうちに、開演時間は間近まで迫っていた。
 私は再び雨空を仰いだが、それで何かが変わるわけでもなかった。

「どうするの? 姉さん」
 メルランが私の元に来て、指示を仰いだ。

「どうするも何も、これじゃまともな演奏が出来るわけがないわ」

 メルランに言葉を返し、私はリリカへ視線を向けた。
 私に見られていることに気付いているのは明らかだったが、リリカは素知らぬ顔で気ままに鍵盤を叩いていた。
 それを見て、私はため息をつく。

「集まってくれた皆には申し訳ないけど、中止するしかないわね」
 メルランに向かい直って、私は言った。

 そして、観客たちに事情を説明するため、ステージの前へ歩いていく。

 そんな私を、背後からリリカが呼び止めた。
「姉さん!」

 私は歩みを止め、振り向いてリリカを見た。
 リリカは嘲笑うかのような笑顔を浮かべていた。

「私は言ったでしょ? 雨は止むって」
 とリリカは言った。

「そうね」
 私は頷いてそれを認める。
「でも、実際には止まなかった。それが全てでしょう? 貴方は確信していいと言ったけど、そんなものはただ妄信を言いかえただけの言葉だわ」

「そんなこと、別にどっちでもいいじゃん。確信も妄信も、本当に大切な部分は変わらないのに。姉さんは感情を通して物事を受け取ろうとするから、そんな簡単なことにも気付けないんだよ」
 馬鹿にするような口調でリリカは言った。
「しかも最近は、演奏の良し悪しなんていう、それこそどうでもいいことばっかり気にしちゃって、ホント馬鹿みたい。姉さんは、騒霊として一番大切なことまで忘れちゃってるよ」

 その言葉に私は激昂し、リリカに向かって掴みかかろうとした。
 だが、メルランにそれを阻まれる。

「落ち着いて、姉さん」
 と私の身体を押さえながらメルランは言った。
「リリカも、謝りなさい」

 観客たちは、突然のトラブルに騒ぎ立っている。
 それらの罵声を受けながら、リリカは急に不自然なほど穏やかな表情を見せた。
 その慈しむような視線に、私は怒りが解けていくのを感じた。
 メルランにもそれが伝わったのか、彼女は慎重に私の拘束をといて、一歩後ろに下がった。

「ごめんなさい、姉さん」
 とリリカは言った。
「でもね、たとえ信じていなかったとしても、雨は止むんだよ」

 その言葉が私の耳に届いた瞬間、突如として辺り一面に強い風が吹き荒れた。
 驚く間もなく、着実にその風は勢いを増していき、私たちは地に伏せてそれが過ぎ去るのを待った。
 長い時間が経過し、突然吹き始めたその風は、やはり突然ぴたりと止まった。
 その異常な現象に人為的な力を感じながら、私は俯いていた顔を上げた。

 最初に認識したのは、ステージを覆っていたシートがどこかに吹き飛んでしまっていたこと。
 次に疑問に思ったのは、不自然な明るさだった。
 そしてその疑問の回答を得るためにふら付きながらも立ち上がり、視線を空へ向けたとき、私はそこで奇跡を目にした。

 先ほどまで空を覆っていた灰色のベールは剥がされ、そこに隠されていた群青色が惜し気もなく晒されていた。
 そしてその一面の青の中に、大きな虹のアーチが掛かっていたのだ。
 その光景は、まだ小さな女の子が母親のネックレスを無断で拝借し、鏡の前で確かめているかのような不均衡な印象を見るものに与えたが、この場合に限っていえば、それは虹の存在をより際立たせ、その威光を強める働きを行っていた。

 そのとき、私は心臓が激しく高鳴るのを感じた。
 そして思わず胸をおさえ、右手でその鼓動を感じ取った瞬間、私は小さく呟いていた。

「見つけた」

 途端に、私の中で非常に大きな、抗い難い衝動が湧き起こった。
 私はその衝動に従うままに、深く息を吸い込み、そして次の瞬間には割れんばかりの叫びとともに、それを吐き出していた。

 突然の叫び声に観客たちは驚き、私に視線を集中させる。
 だが、それに構うことなく、私は叫び続けた。
 自分でも、どうして叫んでいるのかはわからなかった。
 ただ、叫びたいという確かな衝動だけを私は感じていた。

 そのうちに、観客たちも虹の存在に気付いたらしい。
 皆が空を指差し、歓声を上げ始めた。
 その歓声と私の叫びとが混ざり合い、より大きな騒音となって辺りに響き渡る。
 それは、虹が消えてしまうまで、止むことなく続いた。

 そうして叫び終えたあと、私は膝をついて座り込んでいた。
 呼吸は荒く、喉に強い痛みを感じるが、そんなことは気にもならない。

 私はさきほどの叫びが全てを洗い流してしまったかのような、強い開放感を覚えた。
 しかし、私は何かを失ったわけではない。
 それどころか、これまでに得たことのない充実感を抱いていた。

 私は再び視線を空へ向けた。
 あれほどまでに私が求めていた虹の姿は、すでに消えてしまっている。
 だが、それはもはや問題ではなかった。
 そもそも、あの虹はリリカの企みによって作り出された紛い物だということに私は気付いていたし、本当に求めていた確かなものは、手の届かないところに存在するものではなかったのだから。

 それを確かめるように、私は胸に手をやった。
 あれほど叫んだからだろう、心臓はいまだに激しく鼓動していた。
 そのシンプルで力強い働きは、たった一つの意味を私に伝えている。
 そしてその意味の前では、あの虹が本物であろうとなかろうと、そんなことはどちらでもよいことだった。

 私は、どうして音楽というものが種族を超えた魅力を持つのか、今ようやく理解していた。
 ヴァイオリンと弓を手に取り、私はステージ上に立ち上がる。
 試しに軽く音を奏でてみたが、やはり弦のテンションは下がったままだった。
 いくら空が晴れ渡っているとはいえ、湿度はそう簡単には変わらないのだ。
 だが、今の私はそれすらも気にはならなかった。
 何故ならば、それは私たちが奏でる音楽の、本当の意味ではないのだから。

 私は後ろを振り返った。
 メルランとリリカは、すでに演奏の体勢に入っていた。

「メルラン、リリカ」
 私は二人に向かって声を張り上げる。
「騒ぎましょう、精一杯」

 そうして、ライブが始まった。
 私は思うようにいかない楽器の扱いに苦戦しながらも、全力で騒ぐ。
 心臓の鼓動が訴える、たった一つの意味を伝えるために。
Can you feel?
ぱじゃま紳士
http://pajamasgentleman.blog45.fc2.com/
作品情報
作品集:
最新
投稿日時:
2009/11/21 23:39:47
更新日時:
2009/11/21 23:39:47
評価:
19/20
POINT:
101
Rate:
1.26
1. 7 静かな部屋 ■2009/11/27 23:16:20
リリカは一体何をしたのやら。
採点する勇気がない……。
でも、まあ、これだけ採点しないのもあれですし。
2. 10 文鎮 ■2009/12/09 01:12:48
I can feel.

読んでいてほわーっとなるような美しい文章でした。
虹を見て叫ぶリリカ、すごい良かったです。
3. 4 神鋼 ■2009/12/20 23:48:40
いや良い作品でした。惜しむべくはやはり虹が強すぎて雨を塗りつぶしてることでしょうか。
4. 7 バーボン ■2010/01/01 12:05:37
地の文がしっかりしていて、読み応えがありました。
取り乱す・スランプになるルナサと道を示すリリカと言うのは中々に珍しいと思いましたが、特に違和感のような物はなく。むしろ面白みの一つでした。
自分のしょうもない頭では何がどうしてリリカが虹を作り出したのかとか、細かい部分はボヤけたままですが、しかし感じる事は出来たと思います。良かったです。
5. 5 Tv ■2010/01/03 01:32:58
楽器や技巧がどうとかではなく、感動を形にすることが大切。
協力を得たのが不健康そうな奴とすると、神奈子や天子ではなくパチュリーでしょうか。
6. 4 藤木寸流 ■2010/01/04 17:39:25
 最後が……せめてもうちょっと伸ばしてくれれば。
 過去話が長くて、締めの分量が足りてませんでした。結論は出ていましたけど、余韻を楽しむまでには至らなかった。演奏はしてほしかったかな。
7. 3 パレット ■2010/01/10 05:26:47
 ……うー、ごめんなさい。掴みどころはあるんだろうなあと思いながら読んでいたのですが、うまく掴めませんでした。たぶん私の読解力不足です。
 心の深いところで感じようぜ、という話? 誰から見ても同じ価値を持つものがあって、それは心の深いところで感じられる……とすると、異なる種族が音楽に惹きつけられる理由にもなるけど、ゼラニウムのエピソードがわからなくなる……。「本当は白だけどリリカには赤く見えた」のか、それとも、「白に見えるけど赤く感じられた」か? 自分には前者に思えた(後者の受け方は直感的に難しかった、というかゼラニウムの「本当の姿」が赤なのか白なのか判別つかなかった)のですけど、ここが間違いだったかな。
 最後らへんに多く出てきた「意味」という単語の中身についても、すみません、よくわからなかったです。結局三人とも消えることは無かったのだから、なんだろう、自分達の心は、自分達はここに在るといった感じなのでしょうか。間違ってる気もしますがごめんなさい。
 ところで、全体的にちょっと冗長っぽかったり、説明的過ぎるかなというのもひとつ気になったかもです……。
8. 3 白錨 ■2010/01/10 11:25:05
ライブ前の虹色三姉妹の心境が伝わりました。
9. 4 椒良徳 ■2010/01/11 19:47:56
考えさせられる作品ですね。赤いゼラニウムは何処へ行ったのか。
感情のせいで認知が歪んでいたのはリリカとレイラのどちらなのか。

まあそれはさておき、文章が読みづらいのが個人的には減点対象ですね。
また、感情の描写が控えめなためか最後にルナサが虹を見つけた時の衝動が私に伝わって来ませんでした。リリカの時もそうでしたが、ぶっちゃけて言うと、何叫んでんだてめえという風に感じてしまいました。
そこが残念ですね。もう少し各キャラクターの感情を丁寧に描写してあったほうが、気持が揺さぶられて良かったのになと思います。
10. 4 詩所 ■2010/01/13 22:24:53
 レイラの話と今がよくつながりませんでした。
11. 5 deso ■2010/01/13 23:55:06
文章が淡々としているせいか、ルナサの感情の振れがうまく自分には伝わってきませんでした。
でも、美しい虹のビジョンは良いと思います。
12. 4 ホイセケヌ ■2010/01/14 17:34:30
コホ、タ、ォユhテイサラ网ハ壥、ャ、キ、゙、キ、ソ。」ネォフ蠏ト、ヒ。」
・シ・鬣ヒ・ヲ・爨ホ・ユ・ゥ`・コ、ホメ簧カ、ネ、ォ。「・・・ォ、ホモム゚_、ネ、ォ。「、筅テ、ネユhテ、ャ、「、テ、ニ、キ、ォ、、ル、ュ、ハ、ホ、ヌ、マ、ハ、、、ォ、ネ。」

、ソ、タ。「ラ矣、ホ・キゥ`・、マモ。マオト、ヌコテ、ュ、ヌ、ケ。」
13. 5 八重結界 ■2010/01/15 16:50:51
雨は必ず晴れるという、簡単な出来事でも人は何かの切っ掛けにできる。そういうことだと思いました。
14. 6 2号@考えるな、感じるんだ ■2010/01/15 19:03:11
燃えよドラゴンの名言を思い出しましたー
15. 7 774 ■2010/01/15 21:32:34
後書きを見た瞬間に黄色と黒のツートンのトラックスーツを着た人物が頭に浮かんで台無しになったのは私の感性がおかしいだけだとして。

「騒ぎましょう、精一杯」のひとことが素敵。
16. 7 零四季 ■2010/01/15 22:17:15
もうちょっと彼女たちの感情を描いてくれればよかったなぁと思いました。その点は物足りなかった気がします。
でもすっきり終わって綺麗な作品でした。面白かったです
17. 6 やぶH ■2010/01/15 22:29:57
雨といえばやっぱり鬱な音のルナサなんでしょうが、それ以前に彼女達は虹川姉妹なんですね、失念してました(おい)。
ちょっと大事なところを謎含みにさせてしまってるようにも読めましたが、情熱がストレートに込められた作品だと思います。
18. 5 如月日向 ■2010/01/15 23:18:14
 騒霊は騒ぐことで生きているのですね。ルナサ一人称ですが、もう少し物語に起伏があってもいいと思います。

〜この作品の好きなところ〜
「大切なのは、どう見えるかではなくて、どう感じるかよ」

 言葉だけではありふれていますが、エピソードとあいまって深みがでてますねっ。
19. 5 時計屋 ■2010/01/15 23:19:06
 文章は誤字が少なく、丁寧に書かれていると思います。
 ただ、お話の重さに比べて、描写が薄いように感じました。
 そういうこともあってか、物語に今一つ入り込めませんでした。
20. フリーレス htykjrjkf ■2012/01/25 21:27:56
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名前 メール
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