スウィート・レインを唱えて

作品集: 最新 投稿日時: 2009/11/21 23:41:32 更新日時: 2010/01/17 02:23:05 評価: 20/22 POINT: 134 Rate: 1.51
 



 ため息をついたつもりはなかった。
 少なくとも机に用意された書物からは、期待に近い程度の収穫はあった。
 しかし、向かいに座る人物は、そうは受け取らなかったようである。

「退屈?」

 彼女、パチュリー・ノーレッジが呟くように言って、ページをめくった。
 視線は手元の本から上がらない。今日、ここに来てから、こちらを向いたのはただの一度だけであった。

「いいえ。十分助かってるわ」

 取り繕うように、アリス・マーガトロイドは別の本を手に取る。
 テーブルには他にも山ほど、いずれも魔道に関する書物が積まれていた。

 紅魔館の地下にある大図書館、二人は同じ机につき、互いに別の本を読んでいる。
 遙か高く天井まで届く書架で囲まれたこの部屋は、さながら本を敷き詰めて作られた要塞である。
 特に魔導書の収蔵数ついては、幻想郷どころか外界にも比するものがあるかどうか。
 だが、いっぱしの魔法使いならば、書架の合間を飛ぶだけで、好奇心が刺激される空間であるものの、アリスにとっては――というより今の気分では――興味をそそられないのも事実であった。
 こちらの呼吸に、また反応があった。

「……不足なら小悪魔に取ってこさせるけど」
「いいえ、これで間に合ってる」
「じゃあなんで、ため息をつくの?」
「そんなつもりはなかったわ」

 弁解すると、パチュリーはまた、何も言わなくなった。
 気分を害したかどうかわからない。この魔女は感情に乏しい。
 テーブルに引かれた無地の布、あるいはそこに置かれた白磁のカップよりも色の薄い表情は、氷漬けの死人のごとく変わる様子が無い。
 外との交流を絶って、そのまま百年も経てば、同じ魔法使いの自分も彼女のようになるのだろうか。
 考えてみて、あまりぞっとしない未来である。

 再び読書に耽りだした紫色の魔女を見ていると、アリスの中に、ふと悪戯心が働いた。
 今度はわざとため息をついてみる。

「……退屈?」
「ええ」

 そう肯定すると、パチュリーの瞳が斜陽のごとくわずかに動いた。
 こちらを睨んでいるようにも見える。

「……まさか、この図書館でその答えを聞くとは思わなかった。七色を自称する魔法使い。本棚の色彩には興味がないの?」
「じゃあ逆に聞くけど、貴方はその背後にある本、全部を読み尽くすつもりなの?」
「愚問」
「愚問に愚答ね。私にとって本は本でしかないわ。役に立つことは認めるけど」

 持参の一冊、赤い封のされたグリモワールを、アリスは指で叩いた。

「魔法使いが本を読むために生きるなんて滑稽。あくまでこれらの役割は補助的な物よ。魔法を使う自分の一生の内、役に立つのは、これら全体の千分の一にも満たないのではないかしら」
「……………………」
「必要な時だけ借りて読んで、後は思考と実践。これが賢い図書館の利用法。そう思わない?」

 挑発的な持論に、対峙する魔女は一度瞬きしてから、またむっつりと読書に戻った。
 少々やりすぎたかもしれない。
 意見のぶつけ合いは好きな方だが、プライドをあまり刺激してしまえば、アリスの側としても不利益につながる。
 本当のところ、これからもこの図書館が自分の役に立つ機会は、幾度もあるのだろうし。

 しかし次に図書館の主が発したのは、意外な一言だった。

「……退屈なら、お話でもしましょうか」

 さすがに、アリスは耳を疑った。

「お話って、貴方が?」
「他に誰もいないでしょ。図書館が不満で、探求するのも面倒だというなら……」

 しおりをつまんで伸ばし、丁寧に本を閉じてから、パチュリーはこちらを見た。

「私がお相手するわ。私の頭には、古今東西、あらゆるお話が入ってる。貴方の退屈を吹き飛ばす程度にはね。お望みの物を出してあげる」
「ずいぶん気前がいいけど、魔法使い同士の交換は、等価であるべきじゃないかしら」
「お土産に見合うだけの話は、提供するつもり」

 本日持参した薬草、魔法の森で取れた喘息に効くというそれを、魔女は一度目で指し示した。
 ふむ、とアリスは考える。意外な展開だが、文献漁りに飽きかけていた自分が、特に断る理由もない。

「それじゃあ、お願いするわ。貴方がどんな話をするか興味があるし」
「そうね……」

 パチュリーは呟いて、天井を見上げる。
 ここは地下深くに作られているため窓が無い。明かりは天井からいくつか下がったオレンジの照明――光源は魔力以外にあり得ない――が担っているため、外が昼か夜かも、天気の具合すらも分からない。
 アリスが紅魔館に来る前は、ちょうど気圧が落ちていて、太陽も厚い雲に隠れていた。
 目を閉じ、耳を澄ませば、図書館の壁の向こうから、水音もかすかに聞こえる。
 ということは……。

「……雨の話はどうかしら」

 ここに住んで長いパチュリーも当然、その音に気づいたようだった。

「外が雨だから? ずいぶん安易ね」
「天気に応じた話をするのが、都合がいいのよ。それとも、変わった雨の話にしましょうか」
「変わった雨?」
「霧雨……」
「やめて」

 アリスは短く遮った。

「しばらくあいつの話は聞きたくないわ」

 腕を組んで、一度首を横に振り、きっぱりと断る。
 パチュリーは、そんなこちらの様子を、じっと観察していた。

「……悪かったわ。そう言えば貴方達、仲が良かったわね」
「はい?」

 思わず声が裏返りそうになった。

「違ったの? 私はそう聞いていたのだけれど」
「……貴方がこの図書館でどうやって情報を得ているかは知らないけど、それは完全な誤解だと言っておくわ。あいつと私の関係は、わかりやすく言えば犬猿の仲」
「ライバル」
「いいえ。ライバルにも値しないわ。そうね、貴方なら考えてあげてもいいけど」
「……未熟者は、牙を大きく見せたがる」
「それはあいつに言ってちょうだいな」

 かびくさい埃を払う気分で、アリスは片手を振った。
 それからふと思い当たって、顎に手を当て、質問する。

「パチュリー、貴方あいつから、何か聞いていたの?」

 魔女はすぐに答えず、視線を下げた。
 しばし黙考し、慎重に言葉を選んでいるようである。

「……私には何も残してくれなかったわ」

 奇妙な言い回しだった。
 何か引っかかるものを感じて、アリスは眉をひそめた。

「それ、どういう意味?」

 何気なく聞いた途端、パチュリーの表情が大きく変わった。
 目を瞠り、重大な過ちに気がついたかのように、早口でしゃべり出す。

「アリス、最後に彼女に会ったのはいつ?」
「二週間前だけど……」
「まさか、それから会ってないの?」
「喧嘩して、それっきりよ」
「じゃあ、彼女の話を聞きたくないっていうのは、その時に喧嘩をしたから気まずい、という意味なのね?」
「……ええ」
「それから図書館に来るまで、どこかに出かけた?」
「家でずっと研究を。煮詰まったのでここに来たんだけど……」

 とそこで、アリスは、一連の質問の意図と、その裏にある事実に気がついた。

「……魔理沙に、何かあったの?」








――スウィート・レインを唱えて――









 寒い夜にスピードを出すのは好きじゃない。飛んでいる間、肌が冷気で傷むから。
 雪のちらつく冬空には、凍りついたように動かない雲と、大きな三日月があった。
 暦はすでに春だというのに、この気候である。冬妖怪や妖精が暴れることで、夜の魔法の森は例年よりも騒がしい。
 魔法使いである自分とて、例外ではなかった。

 森の上を飛びながら、持ち運んでいた物を、改めて眺めてみる。
 一塊の桜の花びら、この冬を終わらせることのできる可能性、春度である。
 そして今、自分が持つこれを目指して、まっすぐ追ってくる気配があった。
 先ほど仕掛けた弾幕、二つとも脅しとはいえ、無傷で切り抜けてきたらしい。思ったよりも骨がある。使い道があるかもしれない。

 速度を緩めて空中で停止し、反転する。同時に人形を数体周囲に配置。
 間もなく、大きな流れ星がこちらに、夜気を星くずで切り裂いて飛んでくるのが見えた。
 近づくにつれて、それが箒に乗った魔法使いであることがわかる。
 だがその容姿に関しては、どうにも理解しがたかった。

 白いブラウスに黒い上着、黒いスカートに白いエプロン。そして肩で揃えた金髪を隠すのは、これまた黒いとんがり帽子。
 つまり、白黒黒白黒という地味な色彩ばかりの古くさい魔法使いスタイルを着込んでいた、とんでもない田舎娘だったのだ。
 しかも彼女の気配は、まだ純粋な魔法使いではなく、外見相応の人間であることが見て取れた。
 おおかた、御伽話の魔女を夢見た、魔法使いかぶれというところだろう。未熟者相手の戦闘は物足りないが、人形の試験にはちょうどいいかもしれない。
 とりあえず、余計な前置き無しに、先手で攻撃を仕掛けようとした。

 箒に乗った人物が、帽子に手をやり、こちらに顔を向けた。
 ぎょっとして、思わず人形への命令を中断する。
 生命力に満ちあふれた金の双眸が、こちらに強い視線を向けていた。
 気配は人間だが、何かのアイテムで強化しているのか、にじみ出る魔力が、異常に濃い。
 そして彼女は、笑っていた。
 妖怪である自分を前にして、不敵に、大胆に、ふてぶてしく。命を燃やして輝く、小さな恒星のように。
 帽子に手をやり、彼女は笑みを浮かべた口を開いて、やけに馴れ馴れしく語った。









「……アリス?」

 声をかけられて、アリスは我に返った。
 パチュリーがテーブル越しに、こちらの様子を見守っている。

「気分が悪いの?」
「……いいえ。そう見えたかしら?」
「多少ね。知らなかったのなら、ショックなのも無理はないわ」
「…………」

 ショック。その言葉は、どうにもしっくりこなかった。
 知らなかったことがショックなのか、それとも告げられた事実そのものがショックなのか。
 問うても意味がない。なぜならそんなものは初めからないからだ。
 研究期間、森に引きこもった生活をすれば、必然的に外の情報と疎遠になる。それは魔法使いとして普通のことである。
 それに、あの無鉄砲な生き方を見ていれば、いつその時が来てもおかしくないとは思っていた。

 ただ……苛立ちだろうか。
 自分の手の届かないところでそれが起こり、あっさりと終わってしまったということ。
 それはショックというより、ある種の苛立ちを生ずる、何かがあった。スカートの裾にできた、目立たぬ紅茶の染みのように。

 深みに嵌りそうな気がしたので、アリスは考えるのをやめた。
 今やるべき事は、それについて考えることではない。
 床に突っ伏していた上海人形を起こし、立ち上がる。

「どこに行くの?」
「今まで盗まれたものを取り戻しによ」
「例えば?」
「グリモワール……」
「それのことなら」

 パチュリーも立ち上がり、浮きながら移動する。
 じれったく待っていると、彼女は奥の机から一冊、分厚い本を持ってきた。

「これでしょう?」
「…………」

 受け取って確かめるまでもない。
 一抱えもあるそれは、いつだったかあいつに強奪された物に間違いなかった。

「私もだいぶ『貸して』いたからね。紛れ込んじゃってたの」
「……私が『貸して』いたのはそれだけじゃないわ」
「後で取りに行けばどう?」
「今すぐ行く」
「慌てなくても……」

 魔女の呪文が、また帰ろうとするアリスの背を引き留めた。

「……死者は蘇りはしないわ」

 遠くで鳴った雷が、図書館まで届いた。
 まだ温もりのある故人の幻影に、死の刻印を押すように。
 パチュリーはグリモワールをテーブルの端に置き、椅子に座りながら、

「それに、外はちょうど雨。あの人間の思い出話をするには、ちょうどいい機会じゃなくって?」
「……………………」

 アリスは無言で従い、椅子に座り直した。
 すでに事態を受け止め、議論ができる程度には冷静さを取り戻している。
 パチュリーはこちらの様子を見て小さく頷き、「小悪魔」と彼女の使い魔を呼んだ。

「ちょっと二人で話をしているわ。レミィとかに邪魔されたくないから、誰も図書館に入れないように咲夜に頼んできて」
「はい、わかりました」
「雨が止むまででいいわ」

 命令された小悪魔が、飛んでいく前に、アリスと側に置かれたグリモワールに気がつき、目を伏せた。

「お察しします。魔理沙さんのこと……」
「…………ええ、ありがとう」

 ここで礼を述べるべきなのかどうか、正直迷った。
 またあの苛立ちが、頭の中で寝返りをうつ。
 小悪魔が図書館を出たところで、アリスはふと思い出した。

「別にここで雨宿りしなくても、紅魔館の魔女なら、この周辺の雨を止めることもできるんじゃないかしら」
「好きなの、雨」

 短く言って、魔女は何やら歌いながらポットを手にし、空のカップにお茶を注ごうとして――ふと気がついたようにアリスのカップを見て、無言で聞いてきた。
 正直、あまり欲しくなかったが、断ることで、この苛立ちを悟られたくはない。
 彼女の方は、特にどちらでもいいようだった。半身でこちらを向き、左手でカップを静かに傾ける仕草も、余裕で傲慢に思えるが、それもこの苛立ちのせいなのかもしれない。
 アリスは努めて冷静に、情報を得ることにした。

「……いつ?」
「十日前だそうよ」
「誰から聞いたの?」
「咲夜から。紅魔館に外の報せを運んでくるのは、大抵が彼女の役目」
「……死因は?」

 仕掛けた罠に忍び寄るように、慎重に問う。

「弾幕ごっこの事故……だとしたら霊夢はどう思うかな」
「それも興味深い結末だけど、残念ながら違うわ」
「じゃあ何?」
「肺炎」

 さすがにその答えは、冗談だと思った。

「肺炎? キノコの食中毒って聞いた方がまだ信じられるわ」
「あるいは、それも原因の一つかもしれない。治療のやり方を間違った可能性がある」
「……だとすると、間抜けな最期ね」
「息が本当に苦しい時、たまに全てにすがりたくなる時があるの」

 喘息持ちの魔女は、淡々とした口調で言った。
 だがアリスの方は、まだ納得しかねるところがある。

「あいつの死に様は、もっと派手でやかましいものだと思ってた」
「火薬が湿気れば、花火は咲かない。人の死の大半は静かなものよ。あの人間も最後まで、普通の人間だったってこと」
「それでも、さぞ葬儀は立派なものだったでしょうね」
「人里で行われたようだけど……ちっぽけなものだったらしいわ」

 これもまた、驚きだった。

「妖怪の方では行わなかったの? あいつは人気者だったでしょ?」
「貴方から見れば。大抵の妖怪には、結構嫌われていたみたいね。厄介ごとに決まって首を突っ込み、度重なる窃盗騒ぎ。何より巫女でもないのに妖怪退治。生意気な人間だと思われても不思議じゃないわ」

 それは確かに、思い当たる節があったが、

「でもパチュリー。貴方は魔理沙が気に入っていたように思えた」
「まぁ、どちらかといえば、興味深さかな。咲夜の方が親しかったんじゃないかしら。彼女は同じ人間だしね」
「その割には、貴方もあのメイドも悲しそうに見えなかった」
「十日間。ここに住む者にとって、気持ちの整理には十分な期間だったのだけれど」
「………………」

 それを言われては、返す言葉がない。
 仕方なく一連の事実を認めて、アリスは背もたれに体を預けた。
 魔女の視線は、当時の記憶を俯瞰するように、遠くを向いていた。

「訃報を聞いて、それを受け入れた夜は、久しぶりに涙を流した」
「……貴方が?」
「ええ」

 小さな丸い紫水晶が二つ、無感情な光で、アリスに問いかけた。

「アリス。貴方はどうかしら」









 しばらく外の雨は止む様子が無かった。
 小悪魔が去り、二人だけになった図書館で、アリスはパチュリーと、霧雨魔理沙の思い出話をしていた。
 紅茶の香りを漂わせ、しめやかに語る話題は、もっぱら故人の悪癖、泥棒行為にまつわる記憶である。同じ魔法使いとして、最も迷惑を被った二人だけあって、会話も膨らむ。
 幻想郷一騒がしかった人間の思い出を語るにしては、何とも静かな時間だったが、宴会で酒を飲みつつ行儀悪く暴れるよりは、こちらの方がずっといい。
 相手する魔女も、普段は無口で無愛想な印象であったが、話すのが嫌いなわけではないようだ。
 いかにも魔法使いらしい、好みの空気だった。そういえば、魔理沙とはこんな風に、おしゃべりしたことはなかった気がする。

「……やっぱり泣かないのね」

 会話が一段落したところで、パチュリーが言った。
 アリスは微笑みを解いて、肩をすくめた。

「あいつが謝るまで、許すつもりは無いと思っていたからね」
「死んでも?」
「ええ。死んでも」

 軽い口調で、一足先に墓の下に行った魔法使いにこぼす。
 だが苛立ちはまだ消えない。いまだ小さな頭痛となって、奥に引っかかっていた。
 アリスは気分を晴らすつもりで、流れを変えることにする。

「考えてみれば、さっきからあいつの迷惑についてばかりね」
「そうね。ある意味自然な会話だけど」
「なんか役に立ったことあったかしら」
「…………」

 パチュリーは小首をかしげて、思い出すように、

「魔理沙は……いつもこの図書館には上機嫌で来たんだけど、物凄く不機嫌な時があってね。風邪気味だったからかもしれないけど。さらに珍しいことに、ここに本まで寄贈してくれるという気の変わりぶり」
「ふぅん。そんなに親切なら、私の前でも、ずっと風邪を引いていてもらいたかったものね。いつの話?」
「さぁ。忘れたけど……役に立ったと言えばそれか、あとは地底に探りに行かせた時くらいかな」
「ああ、あれね」

 昨年のことだけに、アリスも覚えている。というより、自分も多少関わった異変だった。
 パチュリーはポットを左手に取り、こちらに質問する。

「確か貴方の方も、その前に魔理沙と何度かコンビを組んでいなかった?」
「そこまで協力していないわ。確か一度だけよ。永遠亭の連中の」
「おかしな満月の異変ね……」

 お茶のお代わりを注いで、アリスに渡しながら、魔女は言った。

「じゃあ今度は貴方がそれを話してくれないかしら」










 時折迫り来る弾幕をかわしながら、竹に邪魔される空間を飛び続ける。
 どこを過ぎても似た光景。迷いの竹林と言われるだけあって、さっきから方向感覚が狂わされっぱなしだった。
 位置を確認するために夜空に目をやれば、わずかに欠けた歪な満月が浮かぶ。
 その解決に向かったはいいが、極めつけに面倒なやつが障壁となっていた。
 闇の中を舞う紅白の蝶、相手はかの博麗の巫女である。しかも割と本気で、こちらを退治しようとしている。
 戦闘はこちらも臨むところだったが、目的を達成する前に力を使い果たすわけにはいかない。
 実力をセーブした状態で、どれだけやれるか。アリスは状況の行く末を計算し続けていた。
 突然、斜め上から、光る箒が視界に飛び込んで、すぐ目の前を過ぎ、また前方の弾幕へときりもみしていった。
 力自慢の魔法使いだ。今回相方に選ぶ際は、どうにも実力が不安であったが、今はなかなか役に立っている。
 彼女が前衛として適度に暴れ、自分は後衛になってそれを支援する。しかもあの巫女と長い付き合いだけあって、自分より相手のパターンに慣れていた。
 弾幕戦のプロである博麗の巫女が、この作戦にやりにくそうにしているのは、一種痛快であった。

 だが、観念したかと思った瞬間、敵の動きが変わった。

 御札をでたらめに連発し、弾幕の氾濫を引き起こしたのだ。
 見境のない攻撃に、勢いよく飛び回っていた相方の軌道がおかしくなった。
 直線から曲線に、縦横上下と忙しく回避する。尾に火がついた鼠のように必死な動きだ。あのままではいずれ撃墜される。
 とっさの判断で、こちらが前に出て、標的を変えさせた。
 巫女のプレッシャーを、今度は正面から受ける。それを捌ききる自信はあった。しかし、隠し続けた本気が引き出されていくことに、焦りと迷いが生じる。
 相手はそれを逃がさない。わずかな隙を狙われた攻撃は、苛烈にして正確で、一片の慈悲も存在しなかった。
 ダメージが体を蝕み、吐き気を通り越して意識が飛びかける。
 追撃をまた食らう、その瞬間だった。
 隕石のごとき勢いで、唐突に魔法使いが左から現れ、手を引っ張り上げた。
 さらに全速力をあげて、巫女の弾幕の中心部へと向かう。
 馬鹿、やめなさい、死にたいのか。そんな罵声が、喉元まで出かかる。
 だが彼女はあくまで、自信に満ちていた。懐から火力兵器、小型の八卦炉を取り出し、構えて。
 
 耳をつんざく轟音と同時に、巨大な光がほとばしった。




 光が止むと、竹林にいるのは自分だけだった。
 慌てて彼女を捜したが、なぎ払われた竹の間に、その白黒の姿はすぐに見つかった。
 適度に服が焦げているものの、箒も骨も折れておらず、多少泥で汚れた他は、五体満足なようだった。
 巫女の攻撃を正面から力業で撃ち破ろうするなんて、どうかしている。失敗したら死んでたところだ、と散々叱ったが、彼女は、結果オーライ、と笑うだけだった。弾幕は火力、ブレインなんて似合わない、と付け加えることも忘れずに。
 
 当時の自分は腹が立って仕方がなかったが、出会ってから相変わらずのその笑みに、毒気が抜かれてしまったのも、認めざるを得なかった。
 この性質は、人間だからだろうか、それとも彼女だからだろうか。
 どちらにせよ、長生きできそうにない戦い方だし、呆れた無謀な性格に思えた。
 それでも……彼女のその力は、








「……同じ場所に立って共闘したのはあれが最初で最後だったわね」

 後に永夜異変と呼ばれる、あの長い夜の出来事を、アリスは語り終えた。

「とても興味深い話だったわ」

 聞き手の魔女は無表情で、カップを口につける。
 そっけない口調だったが、アリスは片眉を上げた。

「興味深いっていうのは、どういう意味かしら」
「言葉以上の意味は無い」 

 魔女はしれっと答えた後、

「けど、仮に私が貴方と組んで、果たして同じだけの成果を上げることができるか……と思ってね」
「まさか、できないっていうの?」
「そこまでは言わないわ。あれは未熟だもの。ただ、魔理沙の資質は私にも貴方にも無かった。乱暴、強引、疾風怒濤……」
「粗暴、力業、正面突破……」

 二人で思いつくだけ述べてから、同時にお茶を口に含む。
 噂の主が亡霊化して文句を言いに来るようなことはなかった。

「まぁ性格に問題はあったけど……」
「問題はそれだけじゃないわよ」
「わかってる。でも戦闘においては……火力と頭脳。貴方達の相性が良かったのは、紛れもない事実だと思うね」
「………………」

 世辞じゃないにしても、分析のような物言いだ。それでも魔女は、率直に二人の力量を称えているらしかった。
 油断していたアリスは、上海が床の上で、くるくると嬉しそうに踊っているのに気がつかなかった。
 それを止めさせる前に、パチュリーは屈んで、彼女に左手を伸ばし、

「可愛い人形ね。飼い主に似て無くて」
「……失礼ね」
「私もやってみたくなった。これのコツを教えてくれないかしら」
「……はっ」

 成熟した魔法使い流の冗談に、アリスは苦笑した。
 苦笑してから、思い出して嘆息した。

「魔理沙も……私にそう言って頼みに来たわ。二週間前、たぶん冗談ではなく、本気で」

 パチュリーはまた、興味深げに頷いて、続きを促す。
 アリスは躊躇したものの、結局今日までの不快感、そして今続く苛立ちの根源について語り始めた。

「あの日……大喧嘩したのも、それが原因だったのよ」









 人形の操り方を教えてほしい。
 突然訪ねてきたかと思えば、本気で呆れた頼みだった。しかもこの人間、自分にだってできるはずだ、と豪語している。
 できるできない以前に、魔法使いは基本、他人に魔法のノウハウを明かすことはしない。
 共同の研究であるならともかく、個人の秘術となれば、それは命に関わる。人形遣いであるアリスにとっては、まさに人形こそがそれであった。
 いくらなんでも魔法使いとしての最低限のプライドは持ち合わせているかと思ったが、金の癖っ毛の下の無邪気な笑みは、要求が通ると思って当然と考えているらしい。相変わらず、厚かましい笑みである。
 結局、彼女を招き入れ、練習用の人形を与えることにした。ほんのさわりだけ教えれば、後はどうせ難しくなって、途中で投げ出すことだろう。そう思っていた。
 しかし、基本どころか、彼女は本当に下手くそだった。できるはず、どころか、センスのかけらも感じられないのはどういうことか。
 人形を操るための根本的な素養は、糸のイメージではない。魔力とすら言い切れない。最も大事なのは、意識の層と表現できるものである。
 幾層にも分けられる自らの人格を、魔力を通して版画のように人形に貼り付け、分身として動かしているのだ。
 そのために自分は普段から、ある種の瞑想トレーニングや永遠亭で処方された薬物等を利用して、生命を生かす無意識の域まで自在にコントロールできることを目指している。まだ限界は遙か先にあった。
 ところがこの人間ときたら、あまりに自我がはっきりしていて、わかりやすかった。
 魔力の微細なコントロールも不得手。プラスかマイナス、白と黒の二パターンしかないんじゃないか。
 何度か人形を馬鹿にされている仕返しに、そんな風にからかったが、それでも、初歩の初歩すらできないまま終わらせるのが情けなかったので、根気よく教えようとした。
 一夜の生徒も、口では文句は言っていたが、何とかやってやろうと懸命になっていた。
 それはそれで愉快な時間だったのかもしれない。しかし思ってもみないところに、彼女の逆鱗は存在した。
 魔法使いに向いてない。
 そう言った途端、彼女は烈火のごとく怒りだした。
 あんなに怒った表情を見るのは、会ってから初めてで。驚きを通り越して、怖くすらなった。
 ただ人形を投げつけられたことに、こちらが怒りを覚えるのにも、時間は必要なかった。
 そして次に投げつけられた言葉に、あんなに爆発した自分も、久しぶりだった。









「なんて言われたの?」

 魔女は左肘で頬杖をついたまま聞く。垂れた瞼の下、好奇心に瞳を輝かせて。

「……人形みたいな奴に、教わったってわかるもんかって」

 明かすのが腹立たしかったが、どうせここまで話したのだ。
 唸るように、喉を震わせて、アリスはその台詞を吐いた。

 あれには本気で激昂した。
 もう少しで、みっともなく、手を上げるところだった。
 言葉は冷めて辛辣に、徐々に激しく売り買いされ、ついには本気の口論となった。
 いつものごとく、弾幕ごっこで後腐れなく勝負をつけられればよかったのだが、あいにくあの夜の外は土砂降りだった。
 自分が追い出したのか、あいつが飛び出したのかは、あまり覚えてない。
 どちらでも大差ない。本気で互いに、憎み合っていたのだから。

「あいつは最後まで身の程を知らなかった。だから死んだのよ」
「おおむね同意するわ。死んだらあの性格も、少しは大人しくなるんじゃないかしら」
「だといいけど……ね」

 彼女が素直に三途の川を渡る姿は、想像できなかった。
 天界、地獄、冥界。幻想郷と隣接するどの世界に行ったとしても、生前と変わらずトラブルを引き起こしているか、トラブルに首を突っ込んでいる姿が似合った。
 だが、彼女が魔法の森に現れて、そのトラブルに自分を巻き込むということは、もう無いのだろう。
 おかげで森は住みやすく、以前よりはるかに静かになるわけだ。

 そう、静かになる。
 人と関わることのあまりない自分にとって、あいつは感情を刺激する厄介の種だった。日常を引っかき回す竜巻だった。
 それが無くなるのはありがたい。ならばこの苛立ちは何なのか。
 答えはあいつが、あの喧嘩に結着をつける前に、勝手に逝ってしまったからだ。
 卑怯にも、後味の悪さだけを、この世に残して。

 あの夜のことは、今でも思い出す。
 嵐のように突然やってきて、嵐の中に去っていく魔法使い。
 というより、自分は怒りの赴くまま、あいつを追い出して……。

 …………。

「パチュリー。あいつが死んだのは、十日前なのよね」
「そうよ」

 魔理沙が出て行った晩、あの日は雨が降っていた。

「死因は……肺炎?」
「ええ、確かそう聞いてるわ」
「………………」

 思い出した。彼女はすぐに帰らなかった。
 雨の中、帽子をかぶらず、髪が濡れるにまかせて、じっと立ちつくしていた。
 あの金の瞳が、悔しそうに、泣き出しそうに、こちらを見つめていた。
 そして、箒に乗って、魔法の森を……。

「でも、ひょっとすると違うかもしれない。私も又聞きだしね」
「パチュリー……」
「なに?」

 あの魔法の森を、嵐の中、豪雨にまみれて、箒で飛びながら家に帰ったとしたら。

「魔理沙を殺したのは、私かもしれない……って言ったら、どうする?」

 岩山を切り崩すような音が、図書館に轟いた。
 近くに大きいのが一つ、落ちたらしい。
 パチュリーは時ならぬ落雷にも、衝撃の告白にも瞬きせず、やんわりと否定した。

「それはあり得ないわ。だって貴方は、喧嘩をしてから魔理沙に会ってないんでしょう」
「あの日も、雨が降っていた。あの馬鹿は土砂降りの中、遮二無二に飛び出していって……」
「アリス」
「今日みたいなひどい雨で……傘もささずに……」

 雨の降る魔法の森。妖気に胞子、瘴気に満ちあふれた、隙あらば人を蝕もうとする世界。
 そしてそんな中を生身で飛んで帰ったのは、魔法使いの格好をした、ただの人間だった。

「アリス。貴方のせいではないわ」
「やめて」

 気づけば体が、椅子を倒して立ち上がっていた。
 先ほどよりももっと強く、声をかけられることを拒絶していた。
 
「私を哀れんだりしないで、パチュリー。絶対に」

 手負いの感覚があった。
 さっきまであった苛立ちが焦りと恐怖に塗りつぶされる中、むき出しのプライドで、傷口を隠そうとしている。
 魔女は動揺するこちらから距離を作るように、椅子にもたれかかった。

「私にも一人、友人がいるわ」

 静かに、独り言のように、彼女は語り始めた。

「今は眠っているけどね。彼女は私の格好悪いところを知っていて、私は彼女の格好悪いところを知っている。面白い時間をくれるけど、たまに理解できないことがある。そして時々……すれ違ってしまうこともある」
「……だから?」
「でもね。喧嘩したって、次の日には忘れることにしているの。時間を損するばかりだし、永遠なんて初めから信じてないしね」
「……今さら私を責めるつもり?」
「そんなつもりはないわ。これは私達のルール。貴方達の友情には、貴方達のルールがあったんでしょう」
「違う! 友情なんかじゃない!」

 テーブルの上で、拳を固める。
 友情ではない。天真爛漫な彼女と友人としてつきあえるのは、天衣無縫の巫女だけだったろうし、そもそも自分はそんな関係を必要としない。
 例えそうでも、彼女の無神経さに悩まされる事の方が多かった。
 ライバルでもない。あいつを魔法使いだなんて認めたくない。未熟で不器用で、人形の一つすら操れない少女なのだ。
 けれども、それでも確かに魔理沙には、自分には無い何かがあった。自分に不可視の道筋を見つけ、切り開くことができた。
 彼女がいれば、二人なら、もっと上に行けると、一瞬思った。あの異変の時、すぐ側を飛ぶ彼女に対し、本当にそう思った。
 霧雨魔理沙は、魔法使いの自分にとって、もしかしたら理想の……

「……相棒になれると思ってた」

 アリスは、ぽつりと告白していた。
 初めて、自分でも気がついていなかったその気持ちを。
 パチュリーが呆気にとられている。それを意識した途端に力が抜け、どうしようもない惨めさが、表情に浮き出るのを覚えた。

「……でもそう思ってたのは私だけだったみたい」
「…………」
「最後まであいつは、私の実力を認めてくれなかった……だからどっちにしろ、仲直りなんて無理だったのよ。それが真相」
「そうね。嫌われていたみたいね」
「……………………」
「それに落書きするくらいだから」
「……え?」

 パチュリーが指さす先には、グリモワールがあった。
 魔理沙にずっと盗まれていて、今日久しぶりに再会した魔導書だ。

「その本、貴方が書いたのね。ここの末席に加えてあげてもいい水準だった。おそらく彼女は、それを読んで貴方に人形を教わろうと思ったんじゃないかしら」

 アリスは急いで、本を手に取った。
 ページをめくるにつれて、思い出す。
 これは人形の使い方、その利点、見つかった問題点を、簡潔にわかりやすくまとめたものだった。
 完全な自律人形を作る、その目標を掲げた時から、初めて書いた一冊だ。
 今読んでみて、まだ稚拙さの残る内容だとは思う。だがそれは、人形遣いの入門書としては、ふさわしいものだった。
 その最期のページに、パチュリーの言う落書きがあった。




 面白かった 流石だな けど私だって負けないぜ




 気取った癖のある斜体で、短い生意気なメッセージが……彼女からのメッセージが残されていた。

「私がそれを読む限り、彼女が貴方を嫌っていたようにも、実力を認めていなかったようにも、思えなかったのだけれど」
「……………………」
「魔法使いに向いてない。貴方を尊敬していたからこそ、言われた彼女は傷ついたのかもね」
「馬鹿……。そういうことは、生きてる間に言いなさいよ」

 本に向かって、呟く。
 雫が一つ、ページの上に落ちた。
 たったそれだけ。なのに……胸に大きく、穴が開いた気がした。

「……魔理沙は、もういないのね」

 口にして、言いようのない寂しさが襲ってきた。
 パチュリーがおもむろに立ち上がり、右手で、こちらにハンカチをさしのべてくる。
 
「私……酷いことを言って……追い出して……あいつが死ぬなんて思ってなかった」
「ええ、そうでしょうね」
「そんなつもりじゃ……絶対なかった。また普通に会えるって……どこかで思ってた」
「そう。私達は忘れてしまう。生が永遠でないと知っていながら、来る明日を当然のごとく受け止めてしまう。私も魔理沙に、もっと伝えておくべきことがあった」
「でも私は、魔理沙に謝りたい。どうしたらいいの。今ならちゃんと謝れる……自信だってあるのに」
「アリス、顔をあげて」
「……お願いがあるの、パチュリー」
「……何かしら」
「お墓まで……今から一緒に来てくれないかしら……」

 アリスは懇願する。今日この時間を作ってくれた、優しい魔女に。
 しかし彼女は、かぶりを振った。

「残念だけど、それはできないわ」
「……どうして」
「図書館から離れる必要が感じられない、からかしら」

 外の雷がまた、ひときわ大きく鳴り、紅魔館が震えた。
 だがアリスは、その音など気にしてられない。

「貴方は残酷ね、パチュリー」
「ええ。我ながら、ひどい魔女だと思うわ」

 その時だった。
 図書館の扉が、大きく開け放たれた。





「パチュリー! 遅くなったが、霧雨魔理沙、参上だ!」

 図書館に入ってきた白黒の魔法使いは、激しく怒っていた。
 箒から乱暴に降りるや否や、肩をいからせて、中央のテーブルへと向かい、

「咲夜に何を頼んだのか知らないが、えらい目にあったぜ。絶対に入れないというからには、何かお宝を隠してるんだろう。観念してそれを私に
 ……げっ、アリス」

 その姿を発見した途端、魔理沙は態度を一変させ、回れ右して帰ろうとする。
 だが、遅れて入ってきた小悪魔が、扉の前に立ちはだかった。

「魔理沙さん、ちゃんとグリモワールのこと、謝らないと。アリスさんずっと機嫌が優れなかったんですよ」
「ん、あああれか。いいじゃないか。持ち主の本人がここに来てるんだから」
「喧嘩の腹いせだったんでしょう。たまにいいことをしたと思ったら、やっぱりろくでもないですね」
「まだそれは続いているんだよ。あいつとは今一番会いたくないんだ。とっととそこをどけ」
「そんなこと言っても、アリスさん、後ろに来ていますよ」
「むぅ……」

 不承不承、魔法使いは背後を向く。
 七色の人形遣いが、首を吊った人形と共に、一歩ずつこちらに近づいてくる。
 それを迎え撃つ心境で、魔理沙は腰に手を当て、ふん、と鼻を鳴らし、

「あれから二週間か。私はまだ怒っているんだ。あの後は風邪まで引いて大変だったんだぜ」
「………………」
「言っておくが、そっちが謝るまでは、死んでも許すつもりはないからな」
「………………」
「……な、なんだよ。そんな顔して。悪いのはそっちだろ」
「………………」
「おいパチュリー、小悪魔。黙って見てないで何か言え。えーと、アリス?」
「………………」
「わ、悪かったって! だからそんな怖い顔して近づくな! わー、殺されるー!」
「……ごめん」
「……は?」
「この前は、ごめんなさい」
「いや……え…………」
「………………」
「こっちこそ……ごめん」

 ばつが悪そうに、魔理沙は謝る。
 その首に両腕が回され、力一杯抱きしめられた。

「ばかー! なんで生きてんのよー!」

 肩に顔を埋めて、アリスは泣きじゃくった。
 脈打つ温かみに触れ、安心のあまり、人形が持たぬ泣き声を、図書館に響かせた。
 状況が全く分からず、目を白黒させて、人間の魔法使いは呟く。

「……えーと、どういうことだ?」
「雨の話をしてただけよ」
「パチュリー……」
「いらっしゃい魔理沙。彼女は貴方のせいで、図書館に退屈していたところだから」

 七曜の魔女は二人を見ながら、右袖の中に隠してあったスペルカードを指先で回し、微笑みに茶目っ気を含ませて言った。

「仲直りできてよかったわね、二人とも」




 
 
雨降って地固まる。
と言いますが、紅魔館の魔女は雨を自在に降らすことができるのです。
呟いた呪文は、水符『スウィート・レイン』、なーんて(笑)
ご読了、ありがとうございました。

1/17
変な行間修正。こんぺ中気になって仕方がなかったorz
やぶH
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作品情報
作品集:
最新
投稿日時:
2009/11/21 23:41:32
更新日時:
2010/01/17 02:23:05
評価:
20/22
POINT:
134
Rate:
1.51
1. 7 静かな部屋 ■2009/11/26 16:56:19
気になったのは、パチュリーがいつ、二人の喧嘩に気づいたのか?という点のみです。
さすがというかなんというか……。
鬱エンドと早とちりしてびくびくしながら読み進めておりました
2. 6 神鋼 ■2009/12/21 21:56:36
……パチュリーさんにすっかりしてやられました。
3. 8 いすけ ■2009/12/25 06:07:29
パチュリーもアリスも良かったです。
4. 7 バーボン ■2010/01/01 12:22:29
生きてるように見せかけて死んでるようで実は生きてる。裏の裏を掻く話の展開が面白かったです。
死にネタとしては悲しみを前面に押し出すのではなく、意地っ張りとか後悔をしっとりと描いていたと思います。台詞回し、地の文の一文一文が雰囲気作りに一役買っていました。
最後に魔理沙が出てきた時には若干困惑しましたが、全体を通して見てみるとイイハナシダナーと言う印象です。
5. 8 Tv ■2010/01/03 01:20:48
パッチェさんマジ外道。マジドS(親切)。
不機嫌で本寄贈したときってつい最近かい!
途中で「あれ、非の時間軸って……」とか思ってたらw
6. 7 藤木寸流 ■2010/01/04 03:07:46
 いい話でした。おもしろかった。
 ちゃんとふたりの繋がりがあって、友情があって、それを断ち切られる悲しみや寂しさ、そして覆されたときの喜びが伝わってきてよかったです。きれいに騙された……わりと普通に嘘ついてたので、最後まで気付けませんでした。粗も多いんですけどね、パチュリーの嘘。
 静謐。
7. 7 文鎮 ■2010/01/09 00:49:46
何となく予想できてしまいましたが、ここまで王道を突っ走られると逆にすがすがしいものです。
パチュリーのニヤリとした顔が自然と浮かびました。この魔女は少々おせっかいなようで。
8. 10 nns ■2010/01/09 21:15:55
この後、図書館が(弾幕的な意味で)騒がしくなりそうだ
9. 3 パレット ■2010/01/10 05:27:14
 あああ、うん、生きてるんじゃないかなとは思っていた、思っていたさ……!
 途中までは、話的にちゃんと死んでて欲しいなと思ってたのですが、いざ読み終えてみると意外とどっちでもよくなってました。ラストにたどり着くまでの過程で、アリスの喪失感がきっちり描かれていたからと思います。良かったです。
10. 6 白錨 ■2010/01/10 11:27:29
魔理紗が死んだという不安要素を前提にしておく事で、読者を逃がさない。そのテクニックを利用した良い作品だと思いました。「死んでないんだぜ」のオチもすっきりしていて良かったです。
やっぱり仲直りって美しいですね。
11. 7 椒良徳 ■2010/01/11 19:49:03
これはやられた!
良くある話だと思ったのに、畜生!
パチュリーの見事なひっかけに敬意を表したい!

それはさておき、読みやすい文体で丁寧に書かれた作品ですね。
個人的には良くあるネタ(死別ネタ)で、しんみり終わるかと思っていたのですが……
印象に残る見事な作品ということで、この点数を入れさせて頂きます。
また、何かトリックを仕掛けた作品をお願いします。
12. 7 詩所 ■2010/01/13 22:25:18
 どう考えても痴話喧嘩の楽しみ方を知っているパチュリーの退屈しのぎです。アリスの未公開話も聞けて大満足。
13. 8 deso ■2010/01/13 23:51:34
良いところのツボを押されました。
やばい、もうニヤニヤしちゃう。
しっとりとした時間の流れからの急転が私好みでした。
14. 7 ホイセケヌ ■2010/01/14 18:28:56
セイ、ォ、ヌツ荀チラナ、、、ソホトフ螟ャコテ、ュ。」
ホアッ、キ、オ、ニッ、、サ、ハ、ャ、鬢筍「サ瞞彫マ、ノ、ウ、ォナッ、ォ、、。」

、ソ、タ。「ア。ヌ鬢ハヤ彫ォ、筅キ、、゙、サ、、ャ。「・ェ・チ、ャノ゚ラ网ハ、隍ヲ、ハ。「ヘサネサ、ケ、ョ、、隍ヲ、ハ。」、ス、ヲ、、、ヲ・ェ・チ、ォ、筅キ、、ハ、、、ハ、「。「、ネ、マヒシ、テ、ニ、、、ソ、キ。「ヒス、ネ、キ、ニ、筵マ・テ・ヤゥ`・ィ・・ノ、マコテ、ュ、ハ、、ヌ、ケ、ア、、ノ。」
15. 4 八重結界 ■2010/01/15 16:51:26
さすがは魔女。こちらも騙されるところでした。
16. 9 2号 ■2010/01/15 19:03:48
魔理沙生きてるんだろうな、とも思ったのですが、パチュリーの話しには、やっぱり死んでるかも…と思わせる説得力がありました。
図書館での会話という動きの少ない中でも飽きさせない、心情に共感できる展開は凄いです。
17. 8 零四季 ■2010/01/15 22:19:57
バッドエンドも好きだけど、ハッピーエンドはもっと好きです。感情が綺麗に描き出せていて、暗い部分もちゃんと書かれていて幽かな共感が気持ち良かったです。
パチェは意地悪。こういうことも起こりえて欲しいなぁと最後ににやけることが出来ました。
18. 5 木村圭 ■2010/01/15 23:18:43
ばかーと泣きじゃくるアリスを想像すると可愛すぎて悶え死にそうなんですけど構いませんか。
古典的な話ってのは、効果があるからこそ古くから使われているわけで。
話の途中で魔理沙が入ってきたりしないのは、お約束ってやつが頑張ったことにしましょう。アリスが可愛いのでおっけー。
19. 3 時計屋 ■2010/01/15 23:19:48
 うーん、最後のどんでん返しが浮いてしまっているような。
 文章はちょっと味気ない感じがしました。
20. 7 如月日向 ■2010/01/15 23:38:17
 アリスがどれだけ魔理沙を想っていたかわかる話ですねっ。心情の描き方がよかったです。

〜この作品の好きなところ〜
 パチュリーがかっこいい。話すだけで二人を仲直りさせるなんてっ。
21. フリーレス 百円玉 ■2010/01/17 16:17:31
 もしかしてアリスは仲直りの仕方を探しに図書館に来た?
 いやぁ、それは考え過ぎですかね、机の上の本も魔導書ばかりのようですし……。
 パチュリーの話しを聞くアリスの心情に同感し、ぐいぐい引き込まれました。
 最後はどうなるのだろう、アリスはどうするのだろう、考えれば考えるほど物語に没頭出来ました。
 パチュリーの嘘が何もかも掌の上な状態を見るに、彼女の優しさにはプラクティスは必要ないようです。

 得点を示したい衝動に駆られますが採点期間が明けた今は野暮って感じです。でも高得点ですよ絶対。
 っていうか、期間中に読めよ自分……。orz
22. フリーレス やぶH ■2010/12/21 00:15:41
今さらながら、こそこそとコメ返し……。



>1 静かな部屋様
 気づいたのはずばり、魔理沙が(一週間前に)アリスの本を図書館に寄贈した時でございます。
 パチュリーや小悪魔の台詞の端々から気づいてくれれば……と思って書いたのですが、ここで解説している時点で完全に失敗してますw
 この流れで鬱エンドは、私も嫌ですな。ハッピーで終わらせました。


>2 神鋼様
 ありがとうございます。
 私の中で、パチュリーさんはこんな悪戯が好きなのです。

>3 いすけ様
 ちゃんとお話を作ってくれるんだろうか……と心配もしましたが、全く問題ありませんでした(笑)
 二人ともキャラがかみ合っていて、書いてる人間を助けてくれました。
 ここに魔理沙が入るとまた別のバランスが生まれると思います。

>4 バーボン様
 ありがとうございます。トリックで読み手を騙すというのは難しかったですが、やってみてなかなか面白い試みでした。
 最後はちょっと唐突というか、若干台無しになってるかもしれませんね……。いい話で終わらせないやり方もあったかもしれません。

>5 Tv様
 はい! つい最近でした!w
 優しいだけで終わらないのが、陰湿な魔女ならではです。そんなキャラクター像が私の中にありました。

>6 藤木寸流様
 うひゃあ、やった。藤村さんからついに好評価が……。
 それはさておき、綺麗に嘘をつかせていただきましたw 粗が多すぎるとバレバレですし、少なすぎると唐突になるので、さじ加減が難しかったですね。

>7 文鎮様
 割と小細工しようかと考えたりもしますけど、結局突っ走るのが趣味みたいです。
 おせっかいな魔女というキャラクターを重視した結果かもしれません。

>8 nns様
 それは考えてなかったw
 パチュリーさんが上手く宥めてくれることを祈ります!

>9 zar様
 そりゃあもう、引きこもりの魔女ですからw
 こんな悪戯が大好物なんだと思います。

>10 パレット様
 なんですかその思わせぶりなコメントはw
 今思えば、時間があればこれはもっと長い話にできたかもしれないなぁ、ということですね。
 もちろんパレットさんが仰りたいのはそういうことじゃないと思うんですが、なんとなく上手にまとめすぎてしまっている感じがするので。
 むしろ真相をもうちょっと毒を混ぜたりすると、何か面白い変化が起こったかもしれません。

>11 白錨様
 殺人事件を扱うミステリーも、やっぱり人死にを序盤に置いて引きつけるというテクニックが存在するので、私もそれを少々……。
 まぁちょっとあざといというか未熟な感じが否めません;
 でも、仲直りするオチというのは気に入っていて、なおかつ譲れない部分でもあります。今のところは。

>12. 椒良徳様
 おお!? ありがたい評価、嬉しいです! 引っかかってくれないと寂しいですしw
 よくある死別ネタじゃちょっと面白くないと思ったのですが、このトリックもまだまだだと思います。
 次はもっと大がかりなトリックを生かした作品を書いてみたいですね。

>13 詩所様
 全くもってその通りでございます。
 ほんとうにありがとうございました。

>14 deso様
 やった! desoさんの秘孔をついたぞ!
 次は北斗百烈拳を目指しますのでよろしくです。

>15 ホイケヌ様
 文字コードを変えてほんのわずかに解読しました……!
 オチがちょっと平坦だったかもしれない、ということですね。確かに冒険が足りなかったかもしれません。
 もっと頑張りますね。

>16 八重結界様
 うう、ここは騙されてほしいところです。
 でもまぁ気づかれても楽しんでもらえたらなー、くらいの感覚でひとつよろしくお願いしますw

>17 2号様
 これはありがたいコメント!
 図書館だけだと、どうしても動きが少なくなってしまうし会話が主になってしまうので、裏側に会話のないアリスの過去話を持ってきました。
 割と上手くいった構成だったのかしら。

>18 零四季様
 私もハッピーエンド好きです。読む方だとバッドエンドもいけるんですが、書く側に回るとちょっと苦手です(==;
 意地悪なパチェさんですが、優しいだけじゃないところが彼女らしくあるような気がしまして、こんな感じに。
 まぁ私の書くパチェさんはみんなそんな感じなんですけどw

>19 木村圭様
 それなら悶え死ねばいいじゃない(暴言)
 話の途中で魔理沙が入ってこないのは、パチュリーさんの言いつけにしたがって、咲夜さんが必死で止めていたからですw
 序盤の小悪魔に頼んだところで気づいてくれれば……と思ったのですが、ちょっと分かりづらかったですね;


>20 時計屋様

 時間が足りないからと言い訳できるわけもなく、そもそも味のある文章が書けるレベルに達していないのです(泣)
 最後に関しては、ちょっと工夫が足りなかったようです。

>21 日向ちゃん
 心情描くことに失敗していたら、この作品は崩壊して次元の狭間に放り込まれますw
 マリアリって書いたことがなかったので、ちょっと軽い感じのものを目指してみました。
 もちろん、話術を操るパチュリーさんがいなければ成立しません。彼女こそ、このお話のオーガナイザーです。

>22 百円玉様
 アリスに聞いてみても、さらっと否定することでしょうけど、文献の種類を見てパチュリーさんはきっとニヤニヤしています。
 期間中に読み逃されてしまったのは残念ですが、それよりも嬉しいのは、コンペが終わった後も、こうしてコメントをいただくことですよ。
 ありがとうございまする
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