カーテンコール

作品集: 最新 投稿日時: 2009/11/21 23:46:34 更新日時: 2010/01/17 14:23:29 評価: 17/26 POINT: 116 Rate: 1.57
 かじかむ手を二度三度摩り、駆けてきたばかりの小道を振り向いてみれば、その小童妖怪の足跡を土砂降りの雨が掻き消していくところだった。体温を失くした掌は、同じく冷たくなった身体に重く引きずられるだけで、今や駆ける為の勢いにすらなりはしない。
 泥だらけの足元、ずぶ濡れの身体。くしゃくしゃになってしまった頭に追い討ちを掛ける雨が、頬を伝う涙をも掻き消してくれて、それだけが唯一の救いではあった。
 追い駆ける者など誰も居らず、それなのに忙しなく何度も後ろを振り返る。まるで何かを確認するように、何かを見つけようとするように。だが足を止める事は決してしなかった。歩を進めるだけで息を切らすほどでも、前を見据える気力さえなくても、立ち止まる事はしなかった。
 まだ昼だと言うのに辺りは暗く、その小童妖怪にとって知らない場所というのも相まって、小道が続く先は何か途轍もない、計り知れない世界に繋がっているように思えた。
 頼りにする灯りも無く先が見える事もない。眼に見えて感じられるのは自らの手足だけで、柔らかい土の感触さえ通り過ぎた後にそうだったと、思い出せるのみであった。死んでいる訳ではない、ただ単に雨で麻痺してしまっているからだと信じる小童妖怪が、先は見えずとも心の奥底に支えがあると感じるのも、幻覚ではなくある事実に基づいての事だった。
 小童妖怪は後悔していたのだ。
 自らの力が及ばない世界がある、それを知る事がどれほど悔しい事か悲しい事か切ない事か。そしてそのせいで恩あるお人を傷付けてしまったかもしれない。自分の不甲斐無さに嫌気が差し、そのお人の顔を仰ぎ見る事も出来ずに駆け出して来た。もうすでにどこを駆けてきたのか分からない距離を。
 きっとがっかりなさっただろう、そう思えば思うほど駆ける速さを増し、気が付けば雨が降っていた。それでも構わず駆けた。涙を誤魔化すには丁度良かった。
 しかし、果ての無い世界に辿り着く前に小童妖怪は気づいた。そうだそうだったと、心の中で頷いて、それから何度も後ろを振り返った。何かしらの確信を得てはいるがおぼろげで自分勝手な期待が、自らの足を動かしていたとしても、それは小童妖怪にとって救いだったのだ。
 だから、この土砂降りもありがたい、べたついた涙を洗い流しそれなりに小綺麗にしてくれる。だから足を止める事はしない、遠ければ遠いほどその時が来ればより嬉しくなるから。だから何度でも振り返る、あの方のお姿が間もなく見えるはずだから。
 ……一体何度、そう思う事を繰り返しただろう。依然土砂降りは弱まる事はなかったし、足を進める事だって、振り返る事も続けている。
 なのに、それなのに。なぜ。

 やがて小童妖怪は足を止めた。
 沈む土の感触で己の感覚が生きているのを知れるが、その代わりにとんでもないものを背負い込む事になった。冷たい両腕より冷えきって、濡れた頭より重っ苦しく、土砂降りよりも心をざわつかせる。一度根付いたら容易に刈り取れぬその感情は、小童妖怪がそれまで持ち合わせていなかった、ぎとぎととした艶のある、何かに濡れた刃物のような……。

 『雨はどこから来てどこへ帰るか、貴方は知っているかしら』

 ふとその言葉が聴こえた気がして、頭を振って辺りを見回すが人影も気配も感じられず、小童妖怪はついに膝を付いてしまった。土の感触がいよいよをもって身体を這い上がってくる。近くにあった木の根元まで這って行き、膝を抱えて蹲る。
 もう涙を隠す必要も無い。これ以上遠くに行く必要も振り返る事もない。
 何故なら、小童妖怪の最上級の望みはもう叶わないからだ。
 いや、うすうす感じていたのだ。それを受け入れるのが恐ろしかったから、いつまでも待ち続けた。
 そう、あの人はもう、私を迎えに来てはくれない。
 小童妖怪にとって、それが一番の望みで、今や叶わぬ願いと成り果てた。きっと不甲斐無い自分に呆れたのだろう、逃げた愚行に腹を立てたのだろう。
 いや、それよりも、今の自分に根付いている猜疑心に気づき、失望なされたのだろう。
 雨がどうこうなど、考えられるような余裕は無い。
 ただ、ただ、切なくて悲しくて悔しくて、そんな想いだけが覆い被さる。
 雲は終ぞ、雨を止める事をせず、小童妖怪は、じっと雨に濡れて居た。







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 土間からの夕餉の香りが漂う食卓より、少し離れた場所に座っている私は、正座のお陰で潰れてしまっている自分の尻尾が気になっていた。
 九本もあるから、いつもは一度纏めて邪魔にならないようにしてから腰を下ろすのだが、今日に限って一本を足の隙間に挟んでそのまま一刻。痺れはしないが妙な癖毛が付いていないか心配になる。
 明らかに挟んでいる尻尾はみょうちきりんに曲がっているし、今日は湿気があるしで後の処置をどうしようかと思いを馳せるが、これは幸運だと思い改める。なぜなら橙に舐めてもらう口実が出来たのだ。
 毛並みを揃えるには誰かにしてもらうのが一番だ。一応自分でやるのが我が家でも通例だが、橙とのふれあいの方が大切に決まっているので、ここは自分の欲望に素直に従おう、従おうともさ。
 橙は毛繕いの天才だ。断固として反論は許さない。橙が一舐めすればたちまち癖っ毛など直毛になってしまうし、何より気持ちがいい。うっとりするほど優しくてしっとり滑らかな舌使いにうっかりしてると眠りこけてしまう。
 嗚呼、もうこうなったら早く家に帰りたい。帰って橙に毛繕いしてもらいたい。
 あの眩しい笑顔を、可愛らしい笑顔を早く見なければ。
 嗚呼……嗚呼……。

 「藍さん、お夕飯はどうなさいます。食べていかれますか」

 妄想にふけっていた私に声を掛けるのは魂魄 妖夢、ここ西行寺家の庭師にして給仕もやってしまう器用な娘だ。
 今ほど声を掛けて欲しくない時間はないのだが、客としてお邪魔している手前、行儀良くするのが礼儀かと思う。
 いやいや、それが当たり前だとするのが私、八雲 藍だ。そんなこと思ってもいないという顔で応答しようじゃないか。

 「よくよく想いふけるのもいいけれど、うちのお夕飯の量を減らしたりしたら代わりに貴方を油揚げにしちゃうわよ」

 毛が逆立ち、鼓動が急転調したのは言うまでもない。
 西行寺 幽々子、さま、とつけるべきか。しかしこの人も捉え辛くてかなわん。
 送文を書く為にずっと俯いているというのに、何故私の心持ちが覚られたのか。だからこの人は苦手なのだ。紫様の次に。

 「いやいやいや、私は何も……じゃなくて、ご冗談を仰らないで下さい」
 「私はこれでも嘘は吐かないのよぅ。ねぇ、妖夢」

 ちらりとこちらに向けた眼はゆるりと、それでいて妖刀のような禍々しい雰囲気がある。薄く開いた口元から乾いた笑い声が漏れて、何か生暖かい吐息が見えたようだがきっと気のせいだろう。
 慌てて視線を逸らし逃れようとするが、その先には妖夢の不思議そうな顔があり、結果、眼を泳がせることになってしまった。

 「何をそんなに慌ててらっしゃるんです。私はただ、お夕飯をどうするかと……」

 妖夢はその素直な眼差しで私の心を貫いてくる。やめてくれ。
 いや、そう感じるのは私にやましい思いがあるからか。妖夢は相手の心を読むような輩では断じてないのだ。それでもそんな眼で見つめられると、幽々子様とは違った恐ろしさがあると言うもの。見破られるのではなくて、踊らされると言うか。
 これはどう言うことだ。一人は故意、一人は天然で私を追い詰めようと言うのか。
 此処は何処だ、地獄の一丁目かはたまた閻魔様の掌の上か。なんにしてもこれでは私は慰み者ではないか。
 ここは別の話題を引いて、話を逸らすのが良策と思われる。

 「夕飯が減るだなんて。今日は残暑見舞いで参ったのですよ、この品で暫くは食卓が華やぐことでしょうよ、ええ本当」
 「あらぁ、ほっけの味醂浸し程度で華やぐなんて、それほどうちは質素じゃないわ」

 封を開けずによくもまあ中身が分かるものだ。

 「でも海生まれのお魚は幻想郷では貴重ですよ、私達だって紫様から頂かないと滅多に口にする事は出来ないじゃないですか」

 妖夢がその気も無しに追い討ちを掛けてくれた。いいぞ。
 ついでに使っている味醂も高級で、今やほっけだって外の世界でも貴重だと言ってくれ。

 「そそそそうそう、ほっけなどは特に今が旬でして脂が乗って最高ですよ。紫様も大層気に入って毎晩酒の肴に食していらっしゃいます。我が家でも大人気なんですよ」
 「そうねぇ、貴方の所にはかわいい式神ちゃんも居るものね。猫可愛がりするほどの。猫だけに」

 そう言って幽々子様はいよいよ顔を上げて私を見据える。いえ、決してうまくはありません。むしろ私には冗談に聞こえないから尚更恐ろしいです。
 身じろぎ一つ出来ずにいるとその洞にも似た瞳に吸い込まれそうになる。いや吸い込もうとしているのではなく、誘っているのだ。妖しく誘惑の篝火を焚き、入って来る者を呑もうと待ち構えている。自らは動かず贄の方から飛び込んで来るのが分かっているので、余計性質が悪いと言うか悪趣味と言うか。
 流石、死を呼ぶ姫君だ、要領を得ている。しかしこんな妖怪狐を誘ったところで、いや、この方にとってはただの戯れなのだろう。やはり何をお考えになっているのかわからない。
 妖夢もこんなお人の従者で悪影響を受けないのだろうか。ああ、それは私も同じか。

 「幽々子様、お客様に失礼ですよ。折角の紫様からの贈り物なのにケチを付けるなんて。それにお手が止まってます、お早くして頂かないとお夕飯、遅くなってしまいますよ」

 これである。
 従者であるにも関わらず主に物言いをするという、主従関係なんてお構いなしのこの真面目さ。
 この性格であれば悪影響など心配はないだろう。
 私だって紫様の良いところは見習いたいし、悪いところは影響を受けたくない。そして橙にも。
 つまりは本人の心の持ちよう次第なのだ。その点で妖夢は問題無いだろうし、私もそこは大丈夫、嫌と言うほど紫様の悪戯は見てきたが実践しようとは思わないから。

 「えぇ〜、そんなのないわぁ〜。今日は妖夢の好きな玉子豆腐だっていうからぁ〜」
 「はい、ですから私だけ食べます」

 持ってた筆を放り投げ、いかにも不満げに腕を上下させている幽々子様の顔は、先程と打って変わって無邪気なものだ。瞳からは邪な輝きも消えているし、つくづく恐ろしく思う。そしてそれを為してしまう妖夢も大した者で、二人の関係性は絶妙な糸で繋がっているらしい。

 「あ、それで藍さん、お夕飯は食べていかれますか」

 曇りの無い満面の笑みで妖夢が聞いてきた。
 それならば私も微笑みながら応えよう。もう帰る、と。
 しかしその言葉を吐き出そうとした矢先、私の尻尾になにやら冷たいものが触れた。この染み入るような感覚は液体だ。
 振り向けば、幽々子様が投げた筆が、私の尻尾に薄黒い斑点を拡げていた。





 「お見送りしますっ」

 私は、要らぬよと言ったのだが、妖夢はつっかけのまま駆けて来た。
 爪先が入ったかどうかもままならず、覚束ない足取りで玄関の戸口に手を掛ける。その場で片足上げてつっかけを直す姿はお転婆な娘というか、普段庭先で草木の手入れや剣の鍛錬を行っている姿とは似ても似つかない、歳相応の可愛らしげな姿だった。
 着ている割烹着が余計にそう思わせるのかもしれないが、彼女のその時々での印象の食い違いが魅力的に映るのだろう。要は真面目故に、時と場合により自身の中できちんとしためりはりをつけているのだ。
 締める時は締め、緩める時は緩め、変幻自在な水のように精神を変化させる。言うなれば鋼の華か。しかもそれを地で行く所が妖夢の魅力なのだろうな。先代も良いお孫を持たれたものだ。

 「夕飯の支度はいいのかい」

 つっかけと石畳が奏でる小気味好い音に耳を傾け、駆ける少女に私は聞いた。
 辺りはもう夕闇に染まりかけ、影を伸ばすどころか一緒くたになって暗く陰影を作っている。軒先からの灯りがあるからと言っても、これでは足元が覚束ないのも無理はない。
 近くまで来て私を見上げる妖夢の顔にだって、半分影が降りていた。

 「はい、粗方終わっておりますし、片付けは後でも出来ますから」

 と言う事は幽々子様はお預けを喰らっているのか。また根に持たれそうだ。

 「そこの人魂さん、ちょっと宜しいですか。足元を照らして下さい」

 近くを漂う人魂に妖夢はそう声を掛ける。呼ばれた人魂は、素直に私達に近づいてきて明るく光りだした。今では判別出来ないが、人懐っこい動きで生来の気立ての良さが窺い知れる。ここは幽界だし、主人が亡霊だから当たり前と言わんばかりに、妖夢はそういった類のものの扱いに手馴れていた。
 その人魂に軽く手を触れて礼を言う妖夢に、私は少し驚く。揺らめく炎に指先を触れさせているが、熱がる訳でもなく平然とした顔をしているのだ。

 「妖夢は人魂に触れられるのか。火傷したりしないのかい」
 「はい、私は半人半霊ですから、幽霊の冷たさも人魂の熱さも気になりません」

 ほう、と感嘆した。人の身体に霊魂の性質を持ち合わせるとそのような事も出来るのか。私ら妖怪とて幽霊に触れば凍えてしまうし、人魂に触れば火傷もする。人畜無害といっても侮れぬのがこれらの類、遠くで見てる分には蛍やらと大差無いのだが。
 はて、そうなれば妖夢に付いてるこの半霊はどうなのだろう。ちょうど背中を向けている彼女の側で、ふらりと漂っているだけの半霊は、一体暖かいのか冷たいのか。

 「ういっ」

 きみょんな声を出して妖夢が固まる。撫でていた手も強張って人魂も驚いていた。
 すぐさま金縛りも解けて素早くこちらに顔を向ける。

 「藍さん、いきなり触らないで下さい。びっくりするじゃないですかっ」

 別段私は急に触った訳ではない。温度を確認するのに一度に掌で掴む奴も居るまい。だから指先で突っついただけだったのだが、それが妖夢にとっては我慢ならぬ事だったのだろうか。

 「いや、悪かった。妖夢の半霊はどうなのだろうと思って、つい触ってしまった。驚かせてしまったようで申し訳ない」
 「あ、すいません、私も声を上げてしまって。ごめんなさい」
 「妖夢が謝る事はない、私が悪かったんだ」

 私がそう言うと妖夢は笑ってくれた。それでも半霊を後ろに隠すあたり、やはり触られたのが気に入らなかったようだ。そこまでするつもりはなかったのだが、本当に悪い事をしてしまった。

 「そ、そんなに気にしないで下さい。こちらこそ藍さんの尻尾を汚してしまって……」

 それこそ妖夢が謝る事ではないのだがな。幽々子様の責任は自分の責任でもあると思っているかのように、申し訳なさそうに私の尻尾を見つめる。
 あれからすぐに妖夢が拭いてくれたのだが、やはり黒い滲みは残ってしまい、こんな暗くても地毛が黄色ではかなり目立っていた。こうなってしまっては橙に毛繕いをしてもらうのは叶うまい。橙に墨を舐めさせる訳にはいかぬし、自分で洗うしかない。非常に残念ではあるが。

 「仕方ないよ、偶然落ちたのが私の尻尾の上だったのだ。幽々子様も故意ではないだろうし」

 たぶん。

 「うぅ……、申し訳ありません。あ、さあ遅くならないうちに参りましょう」

 申し訳なさそうに項垂れたが、妖夢が人魂を連れて帰り道を促してくれた。
 そうだな、折角見送りしてくれるのだから、幽明の境まで歩いて行くのも悪くない。
 私は一歩前に居る妖夢に頷き返し、妖夢も私の歩に合わせて人魂を導いて道先を照らす。
 妖夢は変わらず微笑を投げかけて、つい私もつられて笑みを浮かべてしまう。恥ずかしがるのはおかしいはずのに、そんな気分になるのは何故だろうか。
 未熟ではあるが、それ故に可愛らしげに夜道に映える一輪。その姿を見て、飛んで帰るなどやはり無粋もいいところだと思う。
 なにより、彼女の履いたつっかけの音は本当に小気味好くて、石畳から土の道に出ると聴けなくなるのが惜しいくらいだったからだ。



 先を行く人魂は思ったよりも道を明るく照らしてくれている。暗くても私は夜目が利くのでなんて事はないのだが、それでも明るいに越した事は無い。明る過ぎるぐらいだ。
 しかし、よくよく見てみれば幽霊や人魂の灯りがちらほらと、それこそ蛍のように幽雅に飛んで幽界らしい、幻視的な光景をつくっている。
 今は葉桜のみだが、ここの春の夜風景は心臓が止まりそうなほどに美しく、生身の人間ならそれで一旦あの世逝きだ。だがあの光景の中で果てればなんの未練もなかろうさ。
 美しさでは今だって充分に負けていない。後は人間がそんな風情を持ち合わせているかどうかだ。持っているか怪しいのが思い付くだけでも三人ほど居るな。

 「ところで、藍さんはお夕飯の支度は大丈夫なんですか」

 景色に気を取られていると妖夢が声を掛けてきた。
 前を向けば、こちらに振り向いている妖夢の顔と、人魂の灯りが目に入る。夜景に慣れていたせいか人魂を眩しく感じてしまい、目を細めてしまった。きっと妖夢には目つきの悪い顔と思われただろう。
 だが、様子を察してくれたのか、私と人魂の間に身体を割り込ませて影を作ってくれた。しかも何気無しに、偶々身体が傾いたかのように装って。

 「ん、済まない」

 様々含んで感謝の言葉を言えば、しかし妖夢は何の事ですかと言わんばかりの顔をする。
 ここは言葉にするのが無粋だったか。やれやれ。

 「うん、今晩は橙に頼んでおいたからな。私が遅くなると二人に悪いのでね」
 「橙もお料理が出来るのですか。あ、いえ、悪い意味じゃなくて、あの、以外だったもので」

 掌を見せて慌てふためく妖夢だが、それでは本当に悪い事を言ったように見えてしまう。
 橙は私直伝の料理の腕と持ち合わせた才能がある。そんじょそこらの料理人よりも遥かに美味い料理が食えるぞ。出てくるものが大抵生ぬるい料理ばかりなのを我慢すれば。

 「ふふふ、橙だって料理くらい出来るさ。今度幽々子様と一緒に食べに来るといい。紫様もお喜びになるし、私も腕を揮って持て成そう」
 「わぁ、それは楽しそうですね。是非ともお伺いしたいですよ」
 「我が家の食べ物が無くなりそうだがね、それもまた楽しいものさ。冬になる前に来ておくれよ、今度は紫様が冬眠に入ってしまわれるからね」
 「はいっ」

 とても区切りの良い返事と、夜道に遊ぶ妖夢の笑顔が、殊更に光を帯びて心地好い眩しさを感じる。それはしっかりと捉えておきたい眩しさで、目を細めるなんて勿体無いと感じるほどだった。
 妖夢の顔が近い、そう思いつくのに少々時間が掛かった。平時ならそんな事は当たり前に気が付くのに。先を歩いていたはずの妖夢の顔が、今では私のすぐ側に居る。
 私が追いついたのか、それとも妖夢が下がったのか、いつの間にやら私たちは並んで夜道を歩いていた。背丈も違うので歩幅が合うことなどないだろうし、私からは意識していないのに、不思議な事もあるものだ。
 唯一、妖夢が合わせてくれた可能性があるが、もしそうなら、私はその行為に甲斐甲斐しさを感じずにはいられない。
 何の気なく歩幅を詰め、私に覚られないように隣まできたら歩幅を合わせて。早まらないよう、遅くならないよう、微妙に上下する歩調にはその行為以上の肌理の細かい情操が窺え知れる。束の間のうちにどれだけの情緒が交差したのか、計り知れない感情の海にその身を投げ出しては、それでも波に踊らされまいと抗い掻き分け、必死に制しようとする。そんな健気な姿に、ほのめく想いを抱かずにどうしていられようか。少なくとも私には無理だ。この胸に燈る燻りを、誰が嘘だと貶そうとも、私には真っ正直な妖夢の姿こそが真実だ。
 たとえ彼女にそんな気が無かったとしても、よもやこんな気の持ちようにしてくれた事に感謝しようともさ。
 並び歩くという行為に、ここまでの感慨を持ち合わせたのは、長らくなかった久しい経験だ。いつしか薄らいでしまった思い出が、色素を濃くして甦ろうとしているのだろう。妖怪が昔の記憶に感けるなど、紫様はあまりよろしい顔はなさらないだろうか。でも、それが紫様との思い出だとしたら、あの方はどう思われるかな。
 感謝の念を、魂魄 妖夢。君が隣で歩んでくれた時間は、私にとって掛け替えの無いものを思い出させた。
 ありがとう。あえて、この言葉も胸に潜めていよう。

 「どうなさったのですか藍さん。ぼうっとされて」

 先程の笑顔とは対照的に、ひどく心配する妖夢の顔が覗き込んでくる。まるで重い症状の看病をしてるような辛辣な顔をしているので、逆に私の方が大丈夫かと聞き返したくなる。私はそんなに心配される顔をしていたのだろうか。幽々子様の件もあるし、もしかしたら考え事が気付かぬうちに顔に出ているのかもしれん。まだまだ精進せねば。

 「いや、大したことじゃない。橙が上手に夕食を作って、紫様がご満足頂けただろうか考えていたんだよ」
 「ふふっ、橙は料理が得意だと仰ったじゃないですか」
 「そうなのだが、実は橙はぬるい料理しか作れなくてな。熱いと味見が出来なくて、紫様にお出しするのが不安なのだそうだ」
 「猫舌ですか」

 途端に華開く顔になった妖夢を見て、私はほっと胸を撫で下ろした。やはり彼女には不幸な顔は似合わない。いや、妖夢くらいの娘であれば、誰にだってあんな顔をして欲しくないと思うのは当然だろう。
 しかし、その笑顔にも薄く蔭りが降ろうとしていた。

 「そうですね、やっぱり従者であれば、主の事をいつでも考えているものですよね」
 「ん、お互い苦労する身だがね。それが従者の心得、役得であるとも思う」

 ちょうど先程の夕暮れのように、刻々と影を濃くする景色と同じだ。
 ひとたび欠片でも影を纏えば、瞬く間に薄く降り拡がっては包み込んでいく。

 「藍さんはいつでも主の、紫様の事をお考えになられてるんですね」
 「妖夢は、そうではないのかい」
 「いえ、私も真っ先に幽々子様の事を案じております」

 振りゆく影はその深淵を増して濃く濃く、忍び忍びてやがて染みを残して留まってしまう。
 それは見る者の心を患わせるには充分で、実際私の心根も共に沈んでいくのがわかった。

 「剣の修行もお庭のお手入れも、家事や幽霊事の雑多、少しばかりの身嗜みだって、いつだって私は幽々子様への配慮の為ですっ」

 そう語気を強める妖夢の目は、薄っすらひいた紅色が滲んでいる事に、私はその時やっと気づいた。

 「それなのに私は……。藍さん、先程の幽々子様とのやりとり、どう思われましたか」
 「どう、とは。主への進言は主従関係が親密な証拠、と。主の為を思っての良き物言いだったと思うが」
 「藍さんは、紫様に物言いなどしますか」

 妖夢は私に問い掛け、歩を止める。拳は強く握り締められ震え、様子を窺う人魂は目に見えてうろたえている。挙動にも現れてはいるが、それよりも炎の明度が落ち着かないでいるのだ。
 周囲はそのせいで影が躍り、それが余計に心根を不安にさせる。

 「そりゃ私も時を見て進言するよ。主人を戒めるのも従者の役割だろう」
 「では紫様をお嫌いになった事は。式をお辞めになりたいと思った事は」
 「それは、無いな。辞める権利など持ち合わせてはいないが、少なくとも辞めたいと思った事はない」

 そもそもが上下関係が前提で成り立つ式神故に、辞めるなどと口が裂けても言えない。言ってしまったが最後、紫様に何をされるか分かったものではないのだ。『式神 八雲藍』は紫様の僕、いくらこき使われようがどんな仕打ちを受けようがだ。
 しかして、私はこれでも辞めたいなどとは正直一度も思った事はない。

 「私は紫様が好きだよ。これ見よがしに言うつもりはないが、今の生活に満足してるし紫様には感謝している。返しきれない恩がある。私は紫様の式神で嬉しいよ」

 ありのままを話したつもりだった。
 この身、この心が存在するのは紫様あっての事。それが恩を仇で返すようでは妖怪の名折れ、世捨ての心持ちでもあるまいし、忠義に反する行いである。それよりも与えて下さったものが大きすぎるのだ。この能力にせよ、橙という家族にせよ、私はあの方から頂いてばかりなのだ。
 式神という立場以上に、私にとって紫様は大きい存在だ。

 「……やっぱり藍さんはお強いですね」
 「いや、これは強いのではなくて……」
 「私は幽々子様を疑っています」

 私の言葉を途中で遮り、妖夢が言い放つ。

 「いえ、疑っているかもしれないんです。私は幽々子様の行いが時々信じられないのです。先程のようにお客様にご無礼など、以前のあの方なら考えられなかった。……私がまだ幼い頃、お爺様の隣で見た幽々子様は気品溢れる荘厳華麗なお方でした」

 それ以前からの幽々子様も私は知っているが、確かに今とは雰囲気が違う気がする。今と違って毒気が無いというか、そう、まさに姫と言った立ち振る舞いだった。

 「あの西行妖の根元で踊られた舞を、私は一生忘れません。息が詰まるほど美しくて、この方にご奉公出来るなんて幼心にでも誇りに思えました。それからお爺様が居なくなって、私も無我夢中で、気づいたら幽々子様も……」

 大喰らい……もとい、変わってしまわれていたと。

 「しかしそれは単に地が出てらっしゃるだけなのではないのか。元々が今のようなお人柄だったとか」
 「もしそうだとしても、あのような行いは恥ずかしいのです。私の力が及ばないばかりに、幽々子様が恥じる思いをすることになる。由緒ある西行寺家の姫君が痴態を振るうようでは、お爺様にもご先祖様方々にも申し訳が立たないのです」

 妖夢は俯いてしまい、身じろぎ一つせず自らの足元を見ているようだった。人魂は明るさを失い、暗がりが私たちを包み込もうとしている。妖夢はどんな顔をしているのか、私には知る由も無い。

 「私が至らないのは精進が足りないせいです、それは否定出来ませんし幽々子様にどんなお詫びのしようもない。ですが、幽々子様はその事をご存知なのにご自分で正そうとしない、悪戯に笑みを溢し、まるで私を弄ぶかのように振る舞う時があるのです。何故そのような事をなさるのか、分からない……」

 暗がりの中で妖夢が搾り出すような声を出す。
 その声は闇に溶け込むと、いよいよもって辺りは深く静かに黒が拡がっていく。
 夕闇はもはや漆黒となってしまい、侵食するように妖夢に纏わり付いている。変わらず顔が見えない事に私は不安を覚え、しかし覗き込もうにもその勇気を持てないでいた。
 妖夢の、言いたい事は分かる。仕えるべき主人が無作法では従者も気が滅入るであろう。特にこの娘は馬鹿が付くほどの生真面目さなばかりに、余計に苦しんでいるようだった。自らの気概をふらりとかわし勝手気ままに踊るようでは、さすがに妖夢が嘆くのも無理はないだろう。
 だがしかし、果たして本当に幽々子様はそんなに礼儀知らずであろうか。
 確かに先程のような悪戯をなさるし、どこか私の猜疑心を揺さぶる言動を発するが、それもやはり悪戯の範囲内であり、悪行に届くとは思えない。
 それとも一番近くに居る妖夢は、私以上に幽々子様の悪戯を見ては、ついにそう思うようになってしまったのだろうか。昔の華麗な姿に重きを置き過ぎてしまって、あの頃に戻って欲しいとでも安易に含んでいるのか。
 正直、私には計り知れない事柄である。この場でそんな事はない、と妖夢を励ますのは簡単だが、この正直な娘がそれ程度で元気付くはずはないし、安直に嘘でも吐こうものなら余計に傷付けてしまうだろう。それに幽々子様の本心が分からぬ以上、何の手の打ちようがない。
 なんとか力になってあげたいものだが。

 「藍さんは、どう思いますか。私には、藍さんと紫様には固い絆があるように見えて、だから私の悩みも……」
 「貴方の悩み事は貴方のものであって藍のものではない。藍が答えを持っているのであれば、それは貴方にとっては紛い物よ」

 信じられぬ時分に出てくるものだ。あいや、お出になられろろ。

 「紫様っ」
 「まあ、なんていう顔をしているの藍。まるで妖怪でも見たような目をして」
 「あだばだば、うぶぶぶぶ……」

 妖怪と言えばそっちの方が聞こえが良い気がする程の出現に、私も妖夢もついでに人魂も、身の毛が逆立つ感覚でその場に足の裏が張り付いてしまった。
 異空間よりのスキマから、半身だけ覗かして現れ出でた私のご主人様は、私と妖夢のちょうど合間、後方から至極当然のようにして扇子を振ってくる。
 私の鼓動が激しく鳴っているのと同じように、がっくりと両手を膝にやり、妖夢は呼吸がなにやら安定しないようで浅く早く脈を打っている。側に居る人魂など、先程までの暗かった炎が再び燃え上がり咳き込むように瞬いていた。
 なんにしても突然すぎる登場なのだ。もう少し前触れがあったり、ゆっくり登場するとかなんとでも出来そうなものなのにこの人ときたら。

 「いっつも言っておりますがっ」
 「なに」
 「急に現れるのは辞めて頂けませんでしょうか。心臓がいくつあっても足りません」
 「そんな事知りません。私がわざとやってると分かってて言ってるでしょう。なら、それが無駄だという事も理解しているはずね」

 どうにも腑に落ちないそのお答えのお陰で、私はようやっと落ち着きを取り戻せた。長らく紫様の式をやっていると、混乱を掃うにはそれ以上の混乱を、というのが常になるのだが、それが現状の問題解決に至った事など一度たりともない。それはそうだ、新たな問題が振ってくるだけだから根本的に無意味なのだ。それでもいくらか現状がマシになるだけ、今は良しとしよう。

 「さて妖夢。貴方の悩み事だけども」

 未だ驚愕冷めやらず肩で息をしている妖夢に、紫様はスキマを移動させて廻り込みながら接近した。もう少し休ませてあげてもよろしいのではないでしょうか。

 「はっはい」
 「同じ事を二度言う気はありません。さあ、今すぐ帰ってお夕飯を冷めないうちに食べなさい」

 そう言って踵を返してしまう。妖夢はさながら捨てられた子猫のような顔になってしまい、私もその心中察して眉間の皺を一気に寄せた。

 「紫様っ」
 「なに」
 「この仕打ちはあまりにも非道く理不尽ではありませんか。お聞きになられていたと思いますが、妖夢は幽々子様との関係に悩んでいる様子。紫様が何かしらお力添えをなさっても吝かではないと思うのですが」

 多少語気を荒げたって構いやしない、そんなつもりで紫様に言い放った。

 「あら、進言。確か主人を戒めるのも従者の役割、だったかしら」
 「い、今はその事ではなくてですね、妖夢が……」
 「藍さん、いいのです」

 萎みこむ妖夢はそれでも私に言葉を投げ掛ける。本当はしゃがみ込んでしまいたいだろうに、健気にも顔を上げて言い争いを治めようとする。それどころか微笑さえ浮かべているのだ。

 「私が悪いのです。自分の不安を人に喋ってしまえば楽になるかもなどと、あまつさえ解決を押し付けたのでは怒られても当然です。藍さん、申し訳ありませんでした」
 「いや、妖夢が謝る事ではないのだよ」
 「こうしてお見送りしたのも私の話を聞いて貰いたかったからなのです。歯痒い時間に付き合わせてしまってご免なさい」

 妖夢が笑みを浮かべる。私は痛々しくて切なくて、その顔を直視出来ずに視線を下げるしかなった。そしてその先で見えてしまった割烹着の裾を握り込む小さな手に、込み上げてくるものが確かにあった。
 この娘は未熟だ。そんなもの周知の事実ではないか。そんな娘に高望みをしては本人は息苦しくて仕方ないだろう。
 誰だって最初は無知で未熟で、そんなもの当たり前であって完璧を強要する事などしてはいけないはずだ。自分で悩み、葛藤を経験して成長すればいい。だがこれでは目に見えぬ者と戦えと言っているようなもの、それでは戦いではなくて無謀、成長ではなく増長に繋がる。己の無理を認めるのも一つの成長と弁えた妖夢を私は称えるし、その事が分からぬ紫様でもなかろうに、先程のお言葉にはどうにも納得いける道理が無い。
 いかんせん怒鳴り散らす雰囲気でも立場でもないので、紫様へ無言の視線で精一杯の否を示す事にした。
 しかし、この方の勝手ぶりは心得てはいたが、いざ被る側になってみればこれ程までに心折れるものとは、私も紫様の従者としてまだまだだったようだ。現状、私の熱視線は紫様の背中に吸い取られ、乾いた風に乗って仰ぐ扇から宙に蒸発してしまっている。
 つまりは無視されている。嗚呼、嗚呼。

 「それではこれにて。紫様の仰るとおり、お夕飯の支度もありますし幽々子様をお待たせしておりますので」

 そんな些細な虚言などいいのに、妖夢は来た道を戻ろうと私に背を向ける。紫様の仰る事を真に受けて、真っ正直に嘘を吐くなど、不器用にも程がある。

 「妖夢っ」

 呼び掛けた時にはもう遅く、妖夢は半霊と人魂を連れ立って歩き出していた。
 薄暗く見える背中は、追ってくるなと言わんばかりだ。それなのに紫様は。

 「さあ、私たちも帰りましょう。橙も待ち侘びているわ、ぬるい料理を作ってね」

 私にとって両人に取り付く島はすでになく、自分の無力さにそれこそ歯痒い思いになる。
その歯痒さを飲み込むのに、どれだけの時間を費やすことになるか私にも定かではないが、妖夢が抱える悩みが解消される時間に比べたら雲泥の差なのは明白である。
 自らの使命の重さで潰れるなんぞ薄ら面白くもない。見ているこちらが切なくなっても解決に進む訳がない。何かしら出来るはずなのだ、この胸のつかえが気のせいでなければ、私は彼女に出来得る事柄が。何か。

 「藍」
 「……はい」

 その場から急速に離脱して行く紫様を追い駆ければ、あっという間に森が眼下に拡がる。それは月の昇らない暗い夜に、幻想郷にはありはしない海原を連想させる。凪の海原に生える木々は、ざわめく音も立てずに眠っているかのようだった。あの中に妖夢が紛れているなんて、夢にも想いたくない。
 振り向くと、不可思議にも森の中に妖夢の小さな背中が見えた。海原に漂うその背中を、ただでさえ見つけ難いだろう上空から捉えられたのは本当に以外だった。
 彼女の足元、揺らめく人魂の灯りに浮かび上がる夜道は、お屋敷まで届いているはずだが、先は見えずおぼろげな存在だけを感じさせる。果たして本当にお屋敷まで辿り着けるのか、私は心配になった。
 そう思った瞬間、妖夢は急に駆け出し、すぐに遮る森の木々に隠れて私は姿を見失ってしまった。こうなってはもはや見つけるのは困難だろう。
 あの心地良いつっかけの音も、聞こえる事はないのだ。
 どうかせめて、この後の夕飯が美味しいよう、私は願うしかなかった。






◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆






 明くる日の朝餉、私と橙は食卓を挟み向かい合って箸を進ませていた。
 外は曇り空で、今にも雨が降ってきそうな暗い天気であった。しっとりと濡れた空気と降雨を我慢出来そうにない雲は、それだけで陰鬱な気分を感じさせる。まるで誰かの心内を現すかのようだったが、起きたばかりの頭は脆弱で、これ見よがしな事しか考えないからだということにして、一先ずそれなりに腹を膨らませる事にした。
 昨晩はなかなか寝付けず、目の下に隈が出来ていると先程橙から指摘されたばかりだった。尚も襲い来る眠気に抗いながら箸を浸けた味噌汁は、少々ぬるめである。不甲斐無くも私は早く起きられず、先に目を覚ました橙が用意しておいてくれたものだ。具は油揚げに葱と私の好物を選んでくれたようで、ぬるいなどと言えばばちが当たるほど美味しい。百年の眠気も覚めるというものだ。

 「藍様、お箸が上下逆さまですよ」
 「うむそうか、ありがとう」

 どうにも解決策が浮かばず、考え込む事数刻、結局大した案も出る事はなく無駄に睡眠時間を減らしただけだった。元々状況を把握しきってないから、見つからぬ物を手探るようでなんとも精神を不安にさせる事この上なかった。このまま見つからないようでは、紫様の仰られたお言葉が確実性を帯びてきてしまう。

 「藍様、お醤油を取って貰えますか」
 「ああ、ほれ」
 「藍様、これはこけしです」

 貴方の悩み事は貴方のものであって藍のものではない、か。あの身勝手さはどうかと思うが、このお言葉が真実味を持つようなら私の無能が露呈するかどうかの一大事だ。いや、妖夢の問題が私の問題ではないのと同じく、問題の解決さえ妖夢のもの、私が出した答えなど偽りだとも仰っていた。それでは、私には何も出来ぬと、じっと傍から眺めていろと、紫様はそう仰るのだろうか。
 だとするならば、私のこの胸がつかえるのは一体なんなのだ。ただの独り善がりが招く罪悪感とでも言えば収まりは良いのだろうが、それで私が納得するのは幾らなんでも浅はか過ぎるであろう、愚か過ぎるであろう。

 「藍様、そこは口じゃなくて目ですよ」
 「うむそうか、ありがとう」
 「……ぬるく作っておいて良かった」

 このまま流れてしまって、妖夢の心が安定する訳はないし時間が解決してくれるはずもない。むしろ悪化してしまう可能性だって無きにしも非ずだ。
 疑う心とは病であるから、一度根付けば精神の奥深くにまで潜り込み、何かしらに反応しては大きく大きく成長する厄介な存在なのだ。疑いは対象に向けられるはずなのに、傷付くのは己自身、心が荒めば荒む程に傷も拡がっていく。刈り取ろうにも刈り取れない、己の心に生まれた猜疑心の芽。
 私ではない、苦しむのは妖夢なのである。

 「藍様、お顔拭きますね」
 「ああそうだな、ありがとう」

 そう、そうだ、妖夢の苦しむ姿なんぞ見たくもない。薄紅が滲む眼差しなんぞ考えたくもない。
 あの娘の為に出来る事があるはずだ、なにも出来ない事など無いはずだ。
 一晩、考えて分かった事が一つだけある。何故私が妖夢をこれほど気に懸けるのか、何故彼女の一挙手一投足を愛でて好むのか。別にやましい気持ちじゃあない、至極私的な、些細ではあるが私にとって大切な事があるのだ。
 妖夢は、昔の私に似ている。

 「藍様、今日はどこかにお出掛けですか」
 「んんん」

 問い掛けられ、我に返れば橙がすぐ側に手拭きをもって佇んでいた。いつの間にこんな近くまで来ていたのか、まったく気づかなかった。橙も腕を上げたのだろうか。何故か味噌汁の匂いがきつい。

 「うむ、また白玉楼に……あっ」

 しまった。何という事だ。今になって思い出したが今日は橙に料理を教える約束ではないか。まさかこんな大事を忘れていたなんて、私は阿呆か。しかも妖夢の件だって急を要するし……。嗚呼、しかしここは非常に残念だが優先すべき事は分かりきっているからして、済まぬ、済まぬ。

 「……橙、今日の約束、申し訳ないのだが」
 「いってらっしゃいませ。橙は待っています」

 皆まで言うな、という事なのだろう。

 「昨日の夜から様子が変だったし、何か大切な事があるんですよね。橙の事は気にせず精一杯頑張ってきて下さいっ」

 ここまで、これほどまで……。
 私は果報者である。私は罪深い妖怪である。
 ならば故に、ここで橙を抱きしめる訳にはいかぬ、ただ為すべき事を成すだけだ。己の無能を否定したいのではなく、それより大事なものが私にはある。
 その時、部屋の襖が勢いよく開き、寝巻き姿に寝ぼけ眼の紫様が仁王立ちで現れた。

 「藍、お使いに行って来て。白玉楼まで」

 式に拒否権など在りますまい。
 返事はすでに、決まっていた。






 「これを幽々子に渡してきてちょうだい。道中、くれぐれも中を見ないように」

 そんな事仰られたら見てしまう、などとなる訳がないでしょう。
 紫様の命を受け、一路白玉楼に向けて飛び立つ私を、橙が両手を挙げて送り出してくれた。あまりにも身体全部を使って応援するので、私の精神が昂ぶったのは言うまでもない。紫様と言えば、この手紙を私に渡してすぐにまた寝床に籠もってしまわれた。らしいと言えばらしいのだが、時折り見せる折角の勇ましさが隠れてしまって勿体無いとは思う。思わせぶりな事を仰るし。
 もちろん中など見ないがこの手紙、一体紫様はなんと書かれたのだろう。見はしないが気にはなる。妖夢ではなくて幽々子様宛てというのがさらに気になる。この場合はそれが当たり前なのだろうが、わざわざ手紙にする根拠はいかんせん読めないところだ。……まさか出掛けるのが面倒くさいからとか、そんな理由では無いとは思うが。
 おっと、些か深読みし過ぎた。この手紙を幽々子様に届け、そして妖夢の悩みを解消する、それが私の仕事、私の望みだ。紫様の思惑はこの際置いておいて、それでもこの手紙のお陰で少々の希望を持てたし、今は私に出来る事をすべきなのだ。
 そろそろ白玉楼が見えてくる。
 幽々子様が何故怠惰になってしまったのか、何か理由があるのか。それとも今のお姿の方が真実なのか、ならば以前の凛々しさは何だったのか。そして、妖夢の悩み、疑う心を取り払うには一体どうすればいいのか……。
 こんなところで考えていたって始まらない、何もせずに後悔などしたくないからここまでやって来たのではないか。先ずは私の考えを妖夢に聞いて貰う事、そして一緒に考え、必要があれば幽々子様にも進言する。その全てが上手く行くとは限らないし、時間が掛かるかもしれない。でも例えそうだとしても私は妖夢を助けたい、手を貸さずにはどうしても居られないのだ。
 私の中で眠っていた素敵な思い出を甦らせてくれた。大切な人と並び歩く事の素晴らしさを改めて感じさせてくれた。あの笑顔がすぐ近くにある暖かさを、あの仕草で揺ぎない喜びを、あのまごころで日々の慎ましさを。
 昔の私に似ている妖夢に、最大限の力添えをしてやりたいのだ。それが出来ぬなら式神八雲藍は能無しの阿呆垂れだ。
 私にとっては自分自身を助けるのになんら変わらない今回の件、全身全霊を持ってして報いよう。



 いよいよ振り出しそうな雨雲を頭の上に迎えて、私はやっとこさ、そこで自分が傘を持っていない事に気づいた。出掛け際の橙の応援に見惚れていたのが原因だとは思うが、それでもこの空模様で傘を持たないのはおかしいだろうな。見据えた先のお屋敷で傘を借りるのはいいが、それでは格好が付かないかもしれない。
 白玉楼の広大な敷地の端、数多の桜もまばらな部分にはこれまた大きなお屋敷が建っている。そのさらに端にはお客人を出迎える為の門が構えられ、私はもちろん、普段は誰もがそこから出入りするのが慣わしとなっていた。以前来た人間三人は無作法よろしく、空から桜咲く庭へ突貫して行ったものだが、私は違うぞ。
 私が門を軽く叩くと、幽霊がその門をすり抜け頭、でいいのだろうか、頭を覗かす。見分けは付かないが、いつもこうやってすぐに何かしらの幽霊が出てきてくれるので、待ち惚けをくってしまう事もない。広いお屋敷だから人手が必要だろうし、数だけは多い幽霊は適材適所だと思う。妖夢以外に人間は居ないようだし、でも足りない人手の代わりが幽霊というのも、またなんともはやな話なのだが。

 「こんにちは、妖夢はいらっしゃるかい。八雲藍が来たと、そう伝えてくれ」

 幽霊の意思は私には分からないが、すぐに引っ込んでしまったところを察するに、妖夢を呼びに行ったのだろうか。そうか、こういう時は不便なのだな。
 さて、一先ずこれでいいが、気に掛かるのは妖夢の今の様子だ。昨晩分かれてからずっと彼女の心痛を気に病んでいたのだ。紫様に突き放されてさぞ辛かっただろうに、まったく、今思い出しても申し訳なくなってしまう。あれからどんな気持ちで幽々子様と顔を合わせていたか、考えるだけでも切なくなってくる。
 幽霊が消えて間もなく、存外待たされずに門が仰々しく開いた。中から現れたのは目的の妖夢だったが、その様子に私は少し呆気に取られた。

 「いらっしゃいませ藍さん、今日はどうなさったんですか」

 しっかりとした張りのある元気な声、澱みの無い挨拶。とても落ち込んでいる風には見えない妖夢は、門扉の影より現れた時からすでに微笑みを携えていた。私を見上げる瞳に曇りは見えず、それどころか輝きも少し甦ってきているようだった。

 「あ、ああ、いやその。そう、幽々子様にお手紙があってな」
 「そうですか、了解致しました。幽々子様に直接お渡しなさいますよね、雨も降り出しそうです、どうぞお入り下さい」

 門扉の内側に私を促して脇に構える妖夢は、本当に普段通りの様子だった。
 門をくぐり、昨日も通った石畳を抜けて、戸口先まで案内される。そう言えば妖夢は今日はつっかけを履いていない。石畳を鳴らすのはむしろ私の靴の方で、あの心地良い音が聞けなかったのは残念だった。昼餉前だというのに、割烹着を着ていないのも気になる。
 私はいよいよ彼女に質問するのを我慢出来なくなった。

 「今日は元気そうだが、妖夢、昨日は辛くあたって申し訳なかったね。紫様もあれからご自省なされて、妖夢にも宜しくと申されていたから、どうか許してくれるかい」
 「そ、そんなとんでもないです。あれは私が悪かったのですから、どうぞ頭をお上げください」

 紫様の事は社交辞令だが、概ね私の罪悪感が主成分の言葉だった。しかしやはり、昨晩と同じく妖夢は自分の方に非があると私よりも頭を下げる。なんとも自尊心が消極的な娘だと思う。

 「私、あれから考えたんです。理由を外に見つけるんじゃなくて、自分の中で探さなきゃならないんじゃないかって。昨日はまるで幽々子様のせいにして、やっぱり自分は逃げているだけで、何も解決しようとしていなかったんですよね」
 「う、うむ」
 「主人を疑うなんてもってのほか。従者は主に付き従う者、主を信じる事が仕事。そう考えるようにしたらなんだかすっきりしまして、朝から剣の修行もお庭のお手入れもはかどってしょうがないんですよ。なんであんなに悩んでいたのか分からなくなるほどです」

 やけに饒舌な妖夢は、客間へと続く長い廊下を音を立てずに歩いて行く。それは後に続く私が気をつけないと置いていかれるほど早足で、追い駆けるとついうるさく家鳴りのようになってしまう。それでも妖夢は知らんとするふうに気にも掛けず、どんどんと先に行ってしまう。
 時折り振り向く程度で、それもお客を慮るのではなく気紛れでやっているだけだ。辛うじて見えた横顔の目元に、紅はひいていないようだった。

 「私などが気にすることじゃなかった。ただ後を追えばいい、なぞるように写すように、無心になってしまえば何も怖い事なんかないですもの。うん、なんでそんな事に気づかなかったんだろう。本当お恥ずかしい限りです」

 家内だというのに、一応にも客の前だというのに、その腰に刀を帯びて歩く姿は、悪いが私には、はなはだ滑稽に見えた。そんな物騒なものをぶら下げて、お前の前に居るのは敵だとでも言うのだろうか。
 恐れていた事が起きてしまった。
 妖夢は間違った方向に進もうとしてしまっている。昨晩の不安が現実になって襲い来る様は如何様にも受け入れ難く、それは腹の底に響く鈍痛かはたまた水底に引きずり込まれる感覚か。何にしても、気持ち良いものではない。
 その饒舌の影にうねるものは何なのか、刀を帯びる事に何の意味があるのか、剣士のくせに斬る事の意を履き違えてしまうのを、彼女は望んでいるというのだろうか。いや、きっと妖夢にも分かってはいまい。未熟故に真っ直ぐで、未熟故に形振り構っていられない。それは良く言えば真摯だが、悪く言えば愚直でもある。
 そう、これではまるで。

 「まるで子供だな、妖夢」

 妖夢の足が止まり、振り返る。
 その顔に困惑の色は無く、ただ驚いているふうだった。
 私は続ける。

 「これではまるで子供だよ。親に手を引かれ、良い子になって連れられるだけで自分で考える事を放棄している。いや、そもそも考える事さえしないでいるのは、もはや従者ではない。盲目を装って何を得られると言うんだ。思い悩み、葛藤していた方がよほど大人だ」
 「で、でも、紫様の仰り様は、気にするなと言う事では……」
 「そう捉えてしまったか。言の葉が至らなかったのは謝るが、目上の方の考えを鵜呑みにするのは悪い癖だ。それに気にするなと言っても、妖夢のそれは投げ出しているだけではないのか。妖夢は守られる方ではなく、守る方だと私は思っていたのだが、違ったのかな」
 「そ、それは間違いなく、私は従者ですから……」
 「その従者というものを履き違えてはいないか。主の為すがまま、為されるがままに従うのでは奴隷と言っても過言ではな……」

 突然、大きな音が廊下に響き、その物音で私の話が遮られた。どこぞの誰だと音のした方向に目を向ければ、長い廊下のずっと向こう、右側の襖から聞こえたようで未だその襖ががたがたと揺れている。
 現状を把握しきれないので私は何事かと妖夢の顔を窺うと、妖夢はその襖を一点に見つめて青白い顔をしているではないか。

 「ら、藍さん、お話は向こうの客間で聞きますので、ちょっちょっとここはこちらに」

 そのままの顔で回れ右をし、歩いて来た方向に私を進めようとする。青白いというか真っ青というか、非道く怯えているような顔をして、どうしても私をあの物音のした襖に近づけまいとする。それでも私が気になって動かないで居ると、今度は私の身体をぐいぐいと押してくる。一体なんだと言うんだ。

 「藍さん、お早く、あちらへ……っ」
 「なんだなんだ、あの音は一体、なにか悪いものでもあるのか」
 「わ、悪い者など、居はしません。どうか、なにとぞ、あちらへ……あっ」

 もう一度大きな音が響く。
 妖夢の努力は空回りし、問題の襖から勢いよく細長くて白いものが飛び出してきた。
 ……おう。
 そうか、妖夢が近づけたがらないのも無理はない。あれは、あれは。

 「妖夢、すまん……私はなにも見ていないから、な」

 出てきた瞬間にそれがなんなのかは私は理解出来たが、何故そこから出てきたかを思いつくのに少々手間取ってしまった。それほど突然だったし、あまりにも難解過ぎた。答えに辿り着いてしまえばどうという事もないのだが。
 だから、今はなるべく見ないよう、私は壁を向いている。自分の手で目隠しさえもしている。あれは見てはいけない、そう私の良心が叫ぶのだ。妖夢の為にも、西行寺家の為にも、この家の者以外は何人も眼に映しては為らぬもの。

 「見てない、見えなかった。……よ、妖夢」

 指の隙間から見た妖夢の顔は、真っ青から真っ赤に変わっていた。怒っているのではなく、あれを客に見られたという恥辱に染まり、唇をわななかせて今にもあの人の名前を叫び出しそうな……。

 「ゆ、幽々子様っ」

 ついに言い放ったその叫びは、先程の私の説教など吹き飛ばす勢いで屋敷中に響き渡った。大多数居る幽霊のうち、心の臓が弱い者なら卒倒して成仏しそうなほどで、側に居た私も驚きで目玉が飛び出そうになった。幽霊にそんなもの無いか、だがあの物静かな妖夢がこれほどの大声を上げるのであるから、さぞや恥ずかしかったのであろう。
 そう、襖から飛び出してきたものは、幽々子様の御御足で、その艶かしさは女の私でさえ顔を赤らめて目を背けてしまう。故に、当の妖夢が受ける恥辱と言ったら量りようがない。

 「妖夢っ」
 「な、なんと……なんという格好で、お、お客様の前でなんと、みっともない……っ」

 そう言いながら尋常ならぬ素早さで走って行く妖夢。敵に詰め寄る時だってあんなに速くはないぞ。
 見てはいけないとは思うが、あの足の飛び出し方はもはや以上である。もしもの場合もあるので私も妖夢の後を追う。……亡霊にもしもの場合ってあるのだろうか。
 先に着いた妖夢は信じられぬものを見るような顔をし、私もその隣に立てばなるほど、これは非道いと思わざるを得なかった。つまりは寝相の悪い幽々子様が、襖を蹴破ってその御御足を晒してしまったのだが、それにしてもこれは程が過ぎるとつい口から漏れそうになる。我が家でも経験はあるが、その時以上かもしれない。
 幽々子様のお姿は壮絶極まりなく、寝巻きは形だけ残り、その寝相の悪さのお陰か乱れまくっていた。胸ははだけて袖は肩まで捲れ上がり、腰紐だって役目を果たしているんだかいないんだか、左腕に絡まって今にも寝巻きの前が全開になりそうだ。さらに問題の御御足は太ももまで見えてしまい改めて私は赤面し、見てるこちらが恥ずかしい。とにかく、その白い肌が見え過ぎてとんでもなく妖艶なのだ。
 依然妖夢はその衝撃に打ち震えていたが、やっとこさ呻くように呟いた。

 「ここは寝所ではないというのに……」

 なに、ここは寝所ではないだと。そう言えば布団も見当たらないし、反対側の襖も派手に倒れている。一体どこから転がって来たと言うのだろう。静かに寝息を立てて、寝相の悪さなど全く感じさせぬ安らかな寝顔が恨めしい。

 「幽々子さまっ幽々子さまっ」

 妖夢が本格的に起こしにかかる。片や側に膝を付いて身体を揺すり、片やうるさいとばかりに寝返りを打ってまた襖に蹴りを食らわす。これではどっちが主で従者なのか、適切に当てはめたら親と子に見えなくもない。

 「起きてください幽々子様、幽々子様。お客様の前ですよ、こんなみっともないお姿では威厳に関わって……ああっ……寝巻きを乱してはいけませんっ」
 「う〜ん、むにゃらむにゃら……もう食べられない」

 つい苦虫を噛み潰したような顔になってしまう寝言が聞こえる。

 「朝食はまだではありませんか。とにかく、起きてください。起きて、くださいっ」
 「妖夢……手伝おうか」
 「いえ、それには及びません。お客様のお手を煩わせては魂魄家の恥、ってうわぁ藍さん見ないでくださいーあっちいってくださいー」

 恥ずかしさで今にも泣き出しそうな妖夢をよそに、幽々子様はようやく上半身を起こし上げた。未だ目は開かず、様子も虚ろとしているが、ここからが肝心なのだ。そんな泣いている暇はないんだぞ、妖夢。

 「ふぅんんあぁ、よーむーご飯おはよ〜」
 「挨拶よりもご飯が先に出た……」
 「……幽々子様、もう勘弁してください。なんでこんな、こんな惨い仕打ちを為さるんですか」

 妖夢は昨晩よりもさらに肩を落とし、小さく縮こまるように俯いて切なげな声を出す。
 私はそれを聞いて鼓動が早まった。
 切なくて悲しくて悔しくて、そんな想いを含んだ声は昔の記憶を思い出させる。

 「わたし、私はただ、ご立派な幽々子様に憧れていたのですよ。それは私の勝手な想いです、幽々子様には疎遠な事とは思います。ですが、だからと言ってこれはあまりにも非道い仕打ち、あんまりです。そんなに私は不甲斐無いでしょうか、頼り無いでしょうか。確かに万事万能には程遠いし、お爺様には敵いはしませんが、それでも日々精進怠らず努力して参りました。それを、そんな……」
 「止すんだ、妖夢」

 私の制止する声にも耳を傾けず、それに反応する気配も無かった。
 幽々子様は相変わらず呆けて聞いているのか聞いていないのか、判断など出来やしない。

 「私だって、素敵なお人に憧れてこの家に仕える決意をしたのですよ、こんなぐうたらな人に憧れた訳ではないのですっ。私がお爺様の孫だからとか、魂魄家がどうとかじゃなく、西行寺 幽々子様に憧れたからこうして仕えているのです。……だから、だからどうか昔のように優雅な、厳かな方に戻って欲しいのです、幽々子様っ」
 「妖夢、それは……」
 「……よーむー、ご飯まだー」

 幽々子様のその言葉はどこまでも緩慢で、どこまでも勝手で、どこまでも残酷に妖夢を追い詰めた。妖夢の叫びは届く事はなく、それが泡のように掻き消える様を感じ、深く深く悲しくなったのだ。
 妖夢の身体が素早く翻る。

 「おいっ 妖夢っ」

 私が言うが早いか、止める間も無くすでに妖夢は駆け出していた。なにも告げずなにも
言わず、ただこの場から逃げる為に、なにもかもを放り投げて悲しみのままに駆けていった。
 今、私に出来る事はなんだ。出来る出来ないの問題ではなく、なにをすべきかなのだ。
 去った妖夢の影を追うように見つめているお人に、声を掛けた。

 「幽々子様、失礼ながら追い駆けぬのならこのお手紙をご覧くださいますか」
 「……きつねさん、居たのね」

 はい、ずっと。
 懐に入れていた紫様からお預かりした手紙。この状況を打開出来る鍵となるやも知れぬそれを、私は美術品を扱う如く、慎重に幽々子様にお渡しした。なにかしらのきっかけになればと、糸口だけでも見つけられればと、私の想いと紫様の想いが籠もった手紙。
 白い絹のような便箋は、なにが書かれていようが良い方向へ行くものだとばかり思っていた。
 だが、幽々子様が受け取り、封を切って開けた先には。

 「なにも書いてない」
 「はっ」
 「ほら、真っ白け。手汗の跡さえない」

 なんということか。この期に及んでこのような事有り得てしまうのか。
 まさか便箋を入れ忘れたとか、紫様が違う封筒を私に渡してしまったとか、そんな安易な失敗を想像したが、今は笑い話よりもそれが現実であってほしいと願ってやまない。
 幽々子様はじっとなにも書かれていない手紙を見つめ、なにか物思いに耽っているようだった。いつの間にやら虚ろさが消え、その瞳には眠気など一欠けらも無かった。

 「言う事などなにも無い。……そういう事かしらね」
 「そんな事は、そんな事はないのです。紫さま……っ」

 名など呼んだところで、肝心な時に出て来ないのは分かっているのだ。それでも呼ばずにはいられなかったのは、私が弱いからでしょうか、紫様。
 嘲るような言葉を呟き、幽々子様はそのまま静かになってしまわれた。相変わらず白い肌を隠す事なくあらわにしているが、その姿はどこか寂しげで薄っすらとした儚さを感じさせる。靄が掛かっているような、消え掛けているような……。
 いや、このまま消してなるものか。

 「……幽々子様、お急ぎください。今追えばまだ間に合います」
 「間に合う、ってなにかしら。……一体誰を追うと言うのかしら」

 もう駄目かも知れない。

 「失礼致しますっ」

 幽々子様をお一人残すのは忍びなかったが、それでも私には妖夢の方が心配だったのだ。
 俄には信じ難いこの現状、恐らく当人達もこんな事になろうとは思っていなかっただろう。微かな、ほんの小さな擦れ違いなのだ。今振り向けばまだ間に合う、手の届く距離であればまだ元に戻れるのだ。これ以上二人が遠ざかる事は断じて阻止しなければならない。
 こうなろう事は予想していなかった訳ではない。私にも責任はあるのだ、早すぎる進展を予想出来なかった、それだけが悔やまれる。
 私は西行寺家の廊下を駆けた。壁を突く手で勢いを殺し、急角度に右へ左へ曲がり、飛び石の如くつま先で廊下を駆ける。外に一番近い場所、縁側を見つけふいに目に入ったつっかけを拝借してそのままの勢いで空へと飛び上がった。
 暗い雨雲が目の前に一気に広がり、空はどこまでも灰色に覆われていた。
 案の定、周囲に妖夢は見当たらず、影さえ見えなければどこへ行ったかも分からない。
 とにかく探してみるしかあるまい。例えば、妖夢の行きそうな場所は……。

 「……行ってみるか……っ」

 思いついた唯一の心当たりに向かい、全速力で風を斬る。間に合え、間に合えと心に念じてどんどん速度を上げる。
 私の頬に、湿った空気と共に触れるものがあった。それは私の飛ぶ速さのせいですぐに頬から離れて飛び去っていった。先程より雨雲は厚みを増している。
 雨が降ろうとしていた。






 一人、部屋に残された彼女は、何をするでもなくぺたんとしりもちを付くようにして、降り出してきた雨の音を聴いていた。ここは屋敷の奥なので、届くのは微かな雨音と瓦に当たる雨粒の音だけだったが、開ききった襖から廊下伝いに入る外の湿気で、充分にその雨の様子を感じ取れた。湿った空気で雨の量を、聴こえる音で雨粒の大きさを、そのリズムで落ちる速さを。実際に見えなくとも、手に取るように分かる程度には、彼女の感覚は敏感であった。だが、単純なところが、もっと目に入るくらい簡単な部分が鈍感で、それを知った彼女の無気力感は一層の深度を増していくのであろう。

 「簡単な部分……そうね。でもそんなのとうの昔に知っていたのよ。私が臆病で自分勝手な我が侭主人だって。変なところで見栄を張っちゃって、気づく事もしなかった、ただの駄目亡霊……死んでる方が幾らかましかもね」

 白い手を畳に突き、乱れた寝巻きを直さずに立ち上がる。せいぜい裾を踏まないよう気にするぐらいで、見えそになる柔肌など気にも留めない。身なりや身振りには頓着が無く、思った事を感じ、感じた事を思う、それが彼女の気位だった。そんな天性の気質に靡く者もいれば、否を唱える者も少なくはなく、だが彼女の周りには不思議とその両方を兼ねる心持ちの者が居たのだ。それも二人、ましてや爺とその孫。血の繋がりとやらは稀有な精神さえ伝えてしまうのかと、大いに笑ったものだった。

 「ふふふっ 見事なまでに瓜二つでね、一番可笑しかったのは刀の抜き差しで付く手の傷が二人とも同じ場所にあるの。よくそこを切っては手当てしたものだわ。痛がり方も同じだった」

 彼女は襖を閉める。寒いのでもなく、湿気た空気が気に入らないわけでもなく、ただ、もう誰も外に出ないので閉めたのだ。自分も含め、外には出ないし、外から入って来る者もない。だから閉めた。彼女の気質は、誰かを追い駆けようとはしない。諦めにも似ていた。

 「身近なものほど見えなくなるなんて、よく言ったものね。好きも嫌いも関係なく、側に置いたら途端に遠くに感じるんですもの。だから、こうするしかなかったの、わざと遠ざければ近くに来てくれると思ってね。お爺の方はなかなか上手くいったわ、見透かされていた感じもあるけれど。でも、あの娘は違った。困っちゃった、そんなところは似てないんですもの。それなのに私は別の方法は出来なかった、あの娘は違うと分かっていながらね。だって我が侭ですもの、自分勝手ですもの、臆病ですもの」

 襖を閉めたのは諦めたからなのか、それとも自分に失望したからなのか。自分の身勝手さを責める口ぶりから、彼女は後悔していると思われた。これで良いと信じていたものが相手にとっては苦難でしかなく、傷付け、悩ませ、追い込んでいたと知るのはさぞや辛い事だったろう。
 だが、そこで諦めたのではなにもしなかったのと同じではないのか。あの娘を苦しませたのは確かに自分だと、それを認めていながら報いに応えないのはあまりにも身勝手過ぎやしないか。

 「あら、ひどい言い方だわ。友達がいのないひとね」

 彼女は襖に寄り掛かって天井を仰いだ。未だ雨音が伝って響き、籠もるような音が締め切った部屋に留まってしまう。だが、彼女はそれを望んでいるかのようだった。耳をすませば聴こえてくる、心根に届く雨音は、激しさを増そうとリズムのテンポを上げていく。
 遠いからこそ見えてくる、隔てればこそ感じ取れる。彼女はそういった回りくどい感情を好んだ。直接示すことはなく、ちょうど、外の雨音が屋根の瓦や梁や柱、構成する全てを伝わって屋敷中に響き渡り、やっと雨を感じとれるのと同じく、見えないからこそ心を閉ざし、心を閉ざしたからこそ見えるもの。それは間接的であるから真実となり、様々な要素によって濾過された感情はやがて純粋なものになると、彼女は知っているのである。
 例えば、ありがとうを伝えるには言葉で言えば簡単だが、彼女はそんなことは言わず、別の表現に徹するようにしている。作ってくれた料理をただひたすら美味しそうに食べるとか、全ての身の回りの世話を任せ、自分はそれにひたすら甘えるだけとか、だらしなく奔放な地の自分を見せるとか。一見、苦労させてる風でも、彼女のそのような事は、親友にさえしない、愛する者にしか示さない表現だった。棘のある言葉の裏に期待を、悩ませる立ち振る舞いの裏に信頼を、身勝手な素振りの裏に最大限の感謝と愛しさを。それが彼女の言霊で、彼女の全てと言っても過言ではなかったのだ。
 つまり、彼女はあの娘を愛していた。心の底から、一欠けらの澱みもなく、全てを捧げるほどに……。羨ましい話である。

 「……なんでもお見通し、胡散臭い。嫌われる要素は揃ってるのよね、貴方」

 しかし、それがいつでも万全に伝わる訳ではなかった。
 伝わる梁や柱にもしひび割れが入っていたら、正しい音に反響しない空間があったら、この部屋に聴こえる雨音も、また違った音色に変わるかもしれない。高音が低音に、低音が高音に。もしかしたら、伝わらなくてもいい事も伝わってしまうかもしれない。誤解を招くようなことさえも。

 「死人にくちなしって訳でもあるまいし、もっとちゃんと言うべきだったのかしら」

 ならば、ならばこそあの娘を傷つけた分の報いを、今伝えるべき事があるのではないだろうか。その天性の風変わりな性格で、あの娘を遠ざけてしまい、距離を置いてしまった。離れてこそ見えるものは確かにある。知らない事も知り得よう、感情だって真の意味で伝わる事もあろう。
 でも、それであの娘と手を繋げるだろうか。

 「……えっ」

 離れてしまっては出来ない事、近いからこそ出来る事。別に二択ではないし、むしろ伝える手段など、それこそ雨粒のように無限に振ってくるのではないだろうか。
 だが大切な事を伝える時、離れたままでその暖かさをどうして知り得ようか。
 あの娘の手のぬくもりを、指の柔らかさを、握り返してくる優しさを。
 それを知れるのは、自らの行動しだいなのだ。
 優しさは双方向でなくてはならない。愛情は、押し付けるものではないから。

 「…………ほんとう、勝手なものね。あの娘の苦労も分かるかも。こんな主人なら私は願い下げ。あんな事しておいて今更また会いたい、顔を見たいなんて思ってるんだもの」

 主なんて勝手気侭くらいが丁度良い。
 従者だって、勝手についてくるんだから、それはおあいこ。

 「ふふふふっ まったく、そのとおりね」

 彼女は薄く笑って振り返る。襖に手を掛け、そのまま勢いよく部屋を開放する。途端に雨音がはっきりと聴こえるようになり、湿気た空気も流れ込んできた。
 余計な反響があったのか、屋根伝いに聴こえていたほど、大降りではないらしい。

 「貴方の言ったとおりみたい」

 湿る空気も、憂鬱そうな雨音も彼女には関係ない。
 これからあの娘を追い駆けるのだろうか。

 「追い駆けるんじゃなくて、迎えに行くの。…………ありがとう、紫」

 雨音に消されたのか、足音さえ無くその部屋を後にする。

 「いってらっしゃい、幽々子」










 妖夢を探してこの場所に向かう最中、雨の降り出しから土砂降りになるまではあっという間であった。降って来たかと思えばすぐに視界も見え辛くなり、湿った空気よりもはっきりとした液体の感触に、身震いするのも忘れて私は呆然とした。それは雨に対しての衝動より、雨が降った事で浮かび上がる自分の精神の脆さの為であった。
 本降りになった雨を見限り、妖夢を追い駆けるのに集中すれば、もっと速く飛ぶ事が出来た。だが、自分で思っていた以上に雨を意識してしまい、散漫になる頭を振れば、思い出に駆られてしまい気分が重くなってしまう。妙な枷を付けられたように身体の動きが鈍くなる。それはやはり、雨が体温を奪うのと同義で、冷たい思い出には所詮重石程度の意味しかないという事なのかもしれない。決して悪い思い出という訳ではないのだが。

 「雨は、好きじゃない。……そう思わないかい、妖夢」

 咲かない桜の袂、やはりここに妖夢が居た。彼女も雨に濡れて翡翠色の洋服がびしょびしょである。まだ残暑の季節とは言え、朝から曇り空で気温の上がらない今はあれだけ濡れてしまうと流石に肌寒いだろう。かく言う私も全身びしょ濡れ、尻尾も水気を吸ってずっしりと重さを増している。身体は丈夫な方だが、このままではいずれくしゃみの一つも出てしまう。

 「寒くないか、一緒に戻ろう。風邪をひいては事だから」

 妖夢は無言で首を振る。滴る雨粒が飛び散るが、果たしてあれは雨粒だけだろうか。
 もう、雨粒なんて関係ないのかもしれない。だが、伝うものは少しばかりの熱を帯び、雨とは違う存在を彼女に感じさせているはずだ。拭う事もせずにいるのは、雨と混ざって誤魔化せると思っているのだろうが、それを見る者には分からなくても、流した本人の心は決して欺く事など出来ないというのに。

 「それにここは危険だ。西行妖には近づかないようにと言われているだろう、さあ」
 「…………なんで幽々子様は迎えに来てくださらないんでしょう」

 やはり、そう思うのだな。
 自分が逃げたと分かっていても、迎えに来てくれると信じるのは少々勝手ではある。それでも、私は安心しているのだ。こうして逃げるのは主に歯向かっている証拠、盲信している訳ではないし、迎えにくると信じているのは二人の関係を諦めていない証拠である。まだ溝を埋める余地があるのならば、私も諦める訳にはいかない。

 「妖夢は、なんでだと思う」
 「……きっと、私をお嫌いになられたんだと思います」

 雨に打たれ、悲しげな面持ちがさらに悲愴に染まっている。

 「私は、幽々子様の行為の意味を知ることが出来ませんでした。主の思惑を測り知るのも従者の仕事なのに、それが出来ぬ私は従者失格。幽々子様はとても残念に感じられたと思うのです」
 「主人の全てを知るのが従者の役目だと」
 「いえ、そこまでは。……でも幽々子様はただでさえ意味深な言動が多い方ですから、側に仕える者が居るならばやっぱり通じ合う方が頼りになるでしょう。お爺様は出来たかもしれませんが、私には、ついに為せませんでした」
 「私だって紫様のお考えになる事を全て理解している訳ではないよ。いくら式といっても全てが伝わる事はない。むしろ分からない方が多いな、うむ」
 「……それでも私は理解したい、知りたいのです。勇猛で頼りになる、あの方を守れる存在に私はなりたい。たとえそれが理想で夢想だとしても、抱かずにはいられない。だって、だって私は幽々子様を……」

 妖夢はそう最後を濁すと、自らの掌を見つめる。きっと剣の修行で付いたのだろう、幾つかの傷跡が私にも見えた。その容姿には似つかわしくない、少し強張った小さな掌は、私に改めて彼女の決意を感じさせる。この年頃であれば持つ必要の無い二振りの刀、その精神だって成長し過ぎたように大人びている。もっと自己主張したいであろう、行きたい場所もあればやりたい事だって沢山あるだろう。儚くも美しいこの年頃の青春を、自ら押さえ込んで仕えるのは苦行にも似た辛さだと思う。
 いや、違う、違うな。
 土中の蝉の幼生が己の儚さを嘆くであろうか、空を飛べぬ鳥が今以上に羽ばたこうとするだろうか。答えは否。それらは決して寿命の長い者や自由な羽を持つ者を羨ましく思ったりなどしない。何故なら、己の運命を憂いてなどいないからだ。長い生の楽しみや空を舞う気持ち良さを知らぬからではなく、一つの生き方として真っ当に謳歌している故に、嘆く事など有り得ないのだ。足るを知る故に足る。彼らに不幸など似合わない。
 そして妖夢、彼女にもこれは当てはまる。私が感じた薄幸さなど所詮は客観論であって、本人は至って幸せなのかもしれない。代々西行寺家に仕える家柄に生まれ、その身も血も従者の運命に染まっていようとも、鎖で繋がれている訳でもあるまいし、他の生き方だってあったはずだ。それでも今を選んだのは妖夢自身で、妖夢が選んで決めた道なのだ、それを他人の私がとやかく言う必要はない。

 「そうか、妖夢は幸せなのだな」
 「なっ なっ 馬鹿にしているのですかっ」
 「いやすまない。心底そう思ったのだ。妖夢は幽々子様に仕えられて幸せで、それは確かなのだろう」
 「えっ はい、それはもう、すごく嬉しかったです」

 妖夢は少し頬を紅潮させているようだった。

 「やり甲斐のある仕事、憧れている主人に仕える幸せ。私も式だから、その気持ちはよく分かっているつもりだ。だから、妖夢にも私と同じ解決法があると思ったのだが、違ったようだ。それに気づけてよかった」

 困った顔している妖夢に、私は少し笑みを溢す余裕を持った。不謹慎ではあるが、困った顔のこの娘はよくよく可笑しい。

 「ああ、すまん。実は妖夢が昔の私に似ていると思っていてな、全くではないがやっと似ているとかの問題ではないと、そう気づけたのだ」
 「は、はぁ」
 「いや、話そう。……妖夢、お前は今とても幸せで、仕事や環境に満足している。でもその素晴らしい主人や仕事の内容に追いつけない自分が居て、そのせいで主人に嫌われている、頼りにされていないのではないかと疑っている。周囲の期待に応えられない自分の不甲斐無さが悔しい、そう違いないか」
 「はいっ はいっ」
 「ならばそう思うのはまだ早い、早すぎる悩みだ。幾ら剣の腕が立とうが庭師の激務をこなそうが、自分でも分かっていると思うがお前が未熟なのは周知の事だ。疑う心も然り、未熟さを盾にして周囲に散らすのはありがちな事だ。そんな悩みは一人前に、己の限界を知ってからでいい。妖夢はまだまだこれからなのだ、大丈夫、すぐに追いつけるようになる。それまで必死に喰らい付くつもりならな」
 「……そうなのでしょうか」
 「自信が無い、か……」

 無言のまま頷く。足るを知るからこそ認められない事もある。若い時分はそれくらいの気概がなくてはな、だからこその魂魄 妖夢なのだろう。
 私は、空を見上げた。雲はまだまだ雨を止まそうとする気配も無く、大きな身体を横たわらせて溜めに溜めた雨を降らせている。大きな大きな西行妖は、恵みの雨だというのに、それを嫌ったかのように拒絶し、ただ静かに佇んでいる。孤独なのではない、雨よりも血を、土よりも魂を欲しているだけのこと。こやつもまた、己自身を謳歌しているに過ぎないのだ。
 そうか、そうなのだな。
 でも、そのような強い生き方は、私は好きではないよ。
 ましてや妖夢には似合いそうにない。悪いが、な。

 「……妖夢は、雨がどこから来てどこへ帰るか、知っているかい」
 「え、どこって、空から……」
 「うん、私も又聞きで申し訳ないのだが、妖夢が昔の私に似ているといっただろう」
 「はい」
 「その頃に紫様が私に教えてくれたのだ。雨がどこから来てどこへ帰るか、と」

 あの日も、こんな雨の日だった。

 「その日私はある失敗をしてしまってね。なに、今思えばなんて事ないのだが、その頃の私は我が強いというか自負心が強いというか、意固地だったのだな。些細な失敗に恐れを為してその場を逃げてしまったんだ。紫様の期待を裏切った、信頼を損なった、傷付けてしまった。そう考えたらとても怖くなったんだ。まだ背が低かった私は、紫様の顔を見上げることさえ出来なくて、必死に逃げたよ。あんなに走ったのは生まれて初めてだったかもしれないな」

 忘れたくても忘れられない、そんなものがある事もその時初めて知った。

 「走って走って、知らない場所まで走って、そこで私は後ろを振り向いた。恥ずかしながら紫様が迎えに来てくださるのではないかと思ったんだな。だが、いつまで走ってもそれはなかったよ。それはそうだ、私の失敗で勝手に逃げ出したんだから、あの紫様が来てくださる訳がないだろう」

 私は同意を求め、妖夢に首を傾げるふりを見せる。どうにも答えに迷ったらしく、苦笑いで示してくれた。どうやら、妖夢も少し落ち着いたようだ。

 「その事を知って落胆し、疲れて蹲っていたら、紫様は来てくださったよ。なんでか傘も差さずに珍しくご自身の脚で現れた。第一声がなんだったと思う」
 「さ、さあ」
 「従者が主の期待を裏切っても、主が従者の期待を裏切りはしません、とさ。いやまぁ、実際私は来ないと思ってたら来たんだから、その理屈はおかしいんじゃないかって思ったんだけどもね。……なんでもお見通しでな、愚かな私の心だって見透かされていた。それでも私は嬉しかったよ。帰ろうと仰ってくれて、私はなんとも仕方のない顔をしていただろう、それすらも全部抱いてくれて、妖夢と同じ、私はなんて幸せなのだろうとな」

 泥だらけの私の手を、あの方は強く握ってくれた。後にも先にも、紫様と手を繋いで並んで歩いた事はそれ一度きりだったが、私の思い出に深く深く刻まれて、今日までの礎になっている。いつの間にやら記憶の片隅に追いやっていたが、妖夢、お前が思い出させてくれたのだよ。まさに忘れる事など出来なかった訳だ。
 初めての失敗、初めての逃避、初めて知った事、そして初めて紫様と通い合った心。なにもかも初めてづくしのその日が、私はとても愛しくて、明日なんて来なければいいのにと思ったものだ。

 「そして、雨がどこから来てどこへ帰るのか、教えてくださったのさ。聞けばなるほど、なんて事ない謎掛けだった」
 「はいっ はいっ はいっ」

 妖夢はまるで紙芝居にのめり込む子供のように、いつの間にやら私に詰め寄って鼻息荒げて相槌を打った。なにやら変な期待をさせたかな。

 「なに、大した事ではないのだよ。雨はひとの『やさしさ』なんだそうだ」
 「やさしさ……ですか」
 「うん。雨の成り立ちは地表の水気が空高くまで昇り、冷えて凝結したものが成長してまた地上に戻ってくるという自然の循環なんだ。水というのは不思議なもので、様々な環境にも必ず存在し、至る所で大切な役割を果たしている。そしてその絶対量は決して変わらない。少なくなったと見えても、それは眼に映らないだけで形を変えて側にあるんだ。例えば、井戸の水はどこから来るか知っているかい」
 「井戸は……地下水、ですよね」
 「そう、地下水は地中の水脈から溢れるものだ。水脈を辿れば山の裾野に降り、山や河から大地に滲み込んだ雨だ。井戸の水を飲めばそれは妖夢、お前の身体に滲み込んで命として形を変え存在し続ける。そうして我々に吸収されなくともやがて水は蒸発し、また雲になって雨になって、また地上に降りてくる。どうだろう、なんだか生まれ変わりを、生命の輪廻を現しているふうにも思えてこないか」

 妖夢は少々このような話には疎いかなと思われたが、存外、頷きを返してくれる。
 雨は、止みそうにないな。ちょうどいい。
 話を続けよう。

 「その中で、雨は水の一時の形でしかないが、水をまた地上に戻す為の大切な状態だ。それを紫様はひとの『やさしさ』だと仰った。人と妖の関係なく、優しさとは様々なものに宿る雨のような循環なのだと。蒸気が雲になり雨を降らすように、人から人へ、人から妖へ、妖から人へ、妖から妖へ。途切れる事のない、巡り巡る環の中で、色を変え質を変え形を変え、伝わる者の心に染み渡る。誰かに伝わる毎に蒸留されて純度を増し、それでも優しさとして絶対に変わらず、様々な場所にあり続けると。もちろん妖夢、お前の中にも宿っているし、紫様や幽々子様、あまり信じたくないが巫女や魔女やメイドにもある。ひとによって差はあれど、必ず存在するんだ」
 「はい、分かります。私も幽々子様にお爺様に、沢山の優しさを頂きました。でも、今まで分かっていたふりをしていたような気がします。当たり前過ぎて、近くにあり過ぎて見えていなかったのかも知れません」
 「うん。だけどな、時としてその優しさが見え難かったりするんだ。雨が蒸気になってしまうと眼に映らなくなったり、雲になると触れなくなってしまうのと同じように」
 「そ、そうなのですか」
 「水は純粋で素直だが、偶に偏屈者が居る場合がある。やっかいなのはそういう分かり辛いものを好み、進んで表現しようとするお人も居るんだ。紫様なんて特にそんなお方さね。見つけるこっちが苦労してしまう」
 「ふふっ ふふふっ」

 雨に濡れてはいるが、私の目の前には可愛らしい笑顔が花開いた。

 「笑い事じゃあないよ、妖夢。本当に大変なんだから。時折りなにを仰りたいのか分からなくて、私もとんちんかんな答えを言った事があったし。今話した私の失敗談だって半分は紫様のせいさ。やれ西へ行けと言えばお茶を汲めとか、結界の綻びを直せと言えばついでに人里で飴玉を買って来いとか、もう支離滅裂もいいところさ」
 「くふふふふっ あははははっ」
 「そんなに、ふふっ……笑う事ないだろう。……ふふふっ」

 妖夢にも、思い当たる節があるのだろう。可愛らしく咲いた花は、大輪となって雨粒に打たれ、弾ける水滴には笑顔が映る。凛々とした煌きに、先程の暗さなど嘘のようだった。
 私と妖夢は声を出して大いに笑う。恥ずかしくてもはにかまず、歯が見えたって隠す事などない。大きな声で笑えばいい。楽しい事、嬉しい事、切ない事、悲しい事。どんな時だって優しさが側にあるなら笑う事が出来るのさ。
 言っただろう、優しさはいつだって形を変え姿を変え、望めば誰の側にだって誰の中にだって佇んでいるものなのだ。妖夢、お前だってきっと望んだはず、それを決して偽ったり貶したり知らぬふりをしたりしてはいけないよ。中には天邪鬼な優しさもあって、目に見えない優しさがあって、もしそんなことしたら捻くれて逃げてしまうかもしれないから。
 だから、妖夢。望むんだ。己の無力を知り足る事を知る娘よ、望めばいい。
 欲しがるのではなく、手に入れようとするのではなく、ただ望めばいいんだ。口に出さぬともその心に燈る微かな想いにでも、小さな掌に乗せて遠くに飛ばすでも、眼に映る事柄全てを感じられずとも。望めばそれは自由に生まれ変わろうともさ。
 両手を広げて望めば、そこに雨は降るのだからね。

 「妖夢、答えはきっと見つかるよ。お前が望めばね」

 私は後ろを振り向いて、今まで私の陰になっていた方向を妖夢に見せた。
 変わりに妖夢が見えなくなってしまうが、私にはその笑い声が途切れるのが分かった。

 「少し、仕事に囚われ過ぎてるかもしれない。従者としてのね」

 一歩、水溜りに踏み込む音がした。
 見えなくとも分かるのだ。きっと妖夢はあの時の私と同じ顔をしているだろうから。

 「もっと肩の力を抜けばいいのではないか。誰かさんみたく意固地になる事ないさ」

 二歩、三歩と歩み寄り、さらに近づく。
 その水跳ね音は雨音に紛れようとも、しっかりと私の耳に聞こえてくる。
 早く、いやまさか、でも……。そんな揺らぎも手に取るようだった。
 今は葛藤など要らぬよ。お前の心のままに歩めばいい。

 「魂魄 妖夢。そのままの君で居ればいいんだよ」

 歩幅は長くなり、勢いを増して駆け出した。
 少しばかりのぐずりと、しゃくり上げる声と。震える声はあのお人も同じさ。
 妖夢は私の横を風のように駆け抜けて、俯きながら飛び出した。
 やがて顔を上げると、目の前のお人の名を叫んだ。
 私が見守る小さな背中は、そのまま優しい両腕に抱かれていく。

 「ふふふっ 羨ましい話だよ、まったく」

 頭の上にはどんより濃い色した大きな雨雲が、まだまだ雨を降らせている。
 目の前の二人の雨も、止みそうになかった。






◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆






 雨は、相変わらず止みそうにない。
 もうすぐ秋になるのかもしれないが、これは些か振り過ぎではなかろうか。先程から計算してみても、軽く見積もって降水量は約三十みりめーとると、かなりの大雨だ。ちなみに計算は私の尻尾に滲み込んだ雨の量で測量している。しかも絞らずとも毛のどこまで滲みたかで測るので、一見ぽけっと突っ立ってる風にしか見えないだろうな。計算機は頭の中にあるし。
 でもこれぐらいが丁度良いのかもな。霧雨では鬱陶しいだけだし、豪雨に強風では後始末が大変だ。どれも同じ雨に変わりはないが、どうせなら分かり易い雨が私は好きだ。

 「誰が分かり難い偏屈者ですってぇ〜」
 「いたいっ」

 目の前の空間が突然裂け、現れた紫様は当たり前のように私の頭を傘で叩いてくる。とっさに避けても後ろから、それを避けてもまた違う方向から傘が飛んで来て、こんなのどうにも出来やしない。

 「いたい、いたいっ 止めてくださいって紫様っ」
 「主人を貶したバツです。バツです、バツですっ」
 「あれは仕方が無かったんですよ、妖夢を元気付ける為にで、いたいっ 言葉の綾と言うか、いたいっ すいません、ごめんなさい」

 紫様は一本の傘をご自分に差し、もう一本の傘で私を叩く。使い方を間違ってやしませんか、せめて私にその傘貸してくださいな。
 先程までの光景とは正反対の状況に、私ももう、げんなりだ。

 幽々子様がお迎えに来てくれてから、随分と妖夢は泣いていた。雨に紛れず、自分で隠す事もなく、流れ放題の涙は累々と頬を伝わり、新たな雨が降っているようだった。知らず知らずの内に溜めていたのか、それとも今新たに生まれてくるものなのか。いや、あれは幽々子様の想いに妖夢が応えていたのだろう。だからあんなに際限なく、ぽろぽろぽろぽろ流れていたのだ。量らずも聴こえてくるのが『ごめんなさい』とか『ありがとう』とか、聴き取れたのはそれくらいであとは殆ど分からなかったな。
 その涙を忘れるんでないよ妖夢。それがどうして流れ、どこから来て、どこへ帰るか教えたはずだろう。想いに想いて信じるならば、見えぬものなどないのだから。
 妖夢がやっと落ち着き、帰り際にしゃくり上げながらも礼を言おうとする妖夢の顔を見て、私はつい笑ってしまった。充血した眼が赤く腫れて、それこそ紅をひいたようだったからだ。涙で滲んでいたはずなのに、その涙のお陰でまた紅が帰ってこようとは。いやはや、因果なものである。
 そう言えば結局のところ、幽々子様は何故あのような態度をとられたのだろうか。いや、このまま二人とも幸福になったのだから、余計な部分を突付かなくてもいいとは思うのだが、如何せん好奇心というかなんというか、頭をもたげてしまったものを治めるのはなにか勿体無い気がしてならんというか……。
 紫様の気が晴れるぐらいを見越して、私はそろそろと聞いてみる事にした。

 「ん。あの幽々子の態度はね、つまりはああする事で従者の反応を見て面白がってたのよ。魂魄 妖忌もあの子に振り回されて苦労していたわ」
 「いたいっ お、面白がってたんですか」

 実は私も、少しばかりそんな気がしていたのだ。紫様もそうだが、ああいう方々は他の者のうろたえる姿を見て愉快がる悪い癖を持ち合わせていらっしゃる。特に幽々子様は、言い方が間違っている気がするが、生来の悪戯っ子だ。むしろそれがなければあの方ではない気さえしてくる。

 「それで、そうなった原因だけど」
 「いたっ 原因ですか。もともとそのような性格ではなくて。いたいっ」
 「当たり前です。何事も零があるから壱がある。那由他の果てにさらなる那由他があっても、始まりは必ずあるの。あの子の場合、それを忘れてしまっているのが難しくしている要因でもあるのだけれど」
 「と、いう事は……いたっ」

 という事は、幽々子様のご生前の事が引き金なのか。これは、少々聞き辛い……。

 「申し訳ございませんでした。ご無理ならお話は結構ですので。いたいっ」
 「あら、自分から聞いておいて座りが悪いと思えば遠慮するの。いいから貴方は聞きなさい。それは貴方の責任でもあるのですから」
 「は、はい……いたっ」

 少し、叱られてしまった。自分で望んでおいて、相手に悪いからと途中で投げ出すなぞ、それが一番相手に失礼ではないか。
 私はしっかりと紫様のお話を心に刻む事にした。

 「幽々子がまだ生きていた頃、その能力のせいで周囲から疎まれていたのは知っているわね。妬み、嫌い、蔑み、それでも周囲の者はあの子を祀り上げるの、自分が死にたくないからね。でも幽々子はそんな嘘は見抜いていた。優しい嘘のスキマに卑しさを見てしまった。そして亡霊になった今、その頃の事を忘れているはずなのに無意識に感じてるのかもしれないわ。言葉にすればするほど、嘘になってしまうと」

 私に、そのような経験はない。自分の出生を威張るつもりはないが、そのような思い出は持ち合わせておらず、あえて言えば経験したいとは思わない。
 しかし経験はないが、幽々子様の切なさは痛いほどに分かった。

 「だからなるべく言葉にするのを避け、行動で示すようになった。あの性格だから伝わり難かったみたいだけどね。妖忌は事情を知っていたから、鑑みて動いていたの。でも、妖夢は違った。素直過ぎて幽々子の言動どおりに捉えてしまう。発する言葉も素直だから、もしかしたら幽々子は恐かったのね、妖夢の事が。それではじめ妖夢の前では華麗に振る舞っていたみたい。自分を守る為に、それこそ、演じるように」

 幽々子様にとって素直な言葉は刃に似ていた、と言う事だろうか。そのトラウマから起因する恐怖心は妖夢にその気がなくとも虚言のように聴かせる。さらに何故こんな恐怖が生まれるのか本人にも分からないとなると、その恐怖感は数倍になろう。それだけの苦痛を幽々子様は耐えていたというのか。

 「それでも妖夢を従者に受け入れたのはあの子の強さなのかもしれないわ。嘘ではないと分かっていても妖夢に恐怖し、受け入れる事で立ち向かおうとした。自分の愛情を妖夢に示すという事でね。素敵だと思わないかしら」
 「はい、私も、そう思います」
 「恐怖心以上に、妖夢が愛しかったの。そういうことよ」

 頷いて紫様は溜め息をつかれた。まだなにか、思われるところがあるのだろうか。
 私が感じた妖夢の愛らしさを、幽々子様も同じように、いやそれ以上に感じていたのだろう。あの素直さは愛さずにしてはいられないだろうから。

 「幽々子様は演じておられたのですね、ご自分をさらに追い詰めるかもしれない演劇を、周囲を巻き込んで、はた迷惑だけれど妖夢の想いに応えようと、不器用なほどに優雅な舞踊を」
 「……ええ、そうね。だからこそ、その舞台の幕が降りた今惜しみない拍手を、大きく伸びの良い喝采を、どこまでも届く賛美を、私はあの二人に送りたいの」
 「大丈夫ですよ。この雨が、代わりに届けてくれているはずですから」

 舞台の幕は厳かに降り、幕の向こう側ではこれからの行き先が始まるのであろう。
 観客として、いや、もしかしたら演者の一人として、私もこの演劇に加わっていたのかもしれない。
 だとしたら、私はこの劇の続きをいつか観る事になるのだろうか。
 台本もないし、あやふやな立ち位置でも、その台詞は演者の真実を物語るはずだ。
 それならばなにも心配する事などない。
 この舞台には、ずっと雨が降り続けるのだから。

 「ひっきしっ ……紫様、いい加減寒いのでその傘貸していただけませんか」
 「あらやだ、藍ったらずぶ濡れじゃない。しかもタンコブだらけで」

 気が晴れたのか紫様はにこやかに微笑みながら私に傘を手渡してくれた。でもこの傘、散々私を叩いていたせいか骨が折れているようですけど。させるのか、これ。

 「さあ、私たちも帰りましょう。風邪ひかないうちに」
 「そう思うなら雨を止めてほしいんですけど」
 「変な事を言うのね貴方は。よいしょっと」

 裂けたスキマから脚を出して、そのまま着地すると紫様は珍しくご自分の脚で歩かれた。いつもスキマで漂っているか浮いているかなのに、なんの気紛れなのだろう。
 しかもご自分の傘を閉じて私の方の傘にずいずいと入ってくる。紫様、この傘二人用ではありませんから、そんなにご無理をすると……ほら濡れるではありませんか。私が。

 「ほら帰るわよ。置いていかれたいの、藍」
 「はぁ。では、参りましょうか」

 こんな状況は久しぶりなので、どうにも浮き足立ってしまう。緊張で濡れきっているにも関わらず、尻尾の毛が逆立つ。
 まずい、嫌な予感がする。

 「そう言えば、あの可哀想な小童妖怪の話には続きがあるのよねえ」

 そら来た。
 そう言えば、ではないでしょう。突然なんなのですか。

 「紫様、それはまた今度に」
 「しかも妖夢に話した内容は肝心の部分が抜けていた気がする。そう、どんな失敗をしたのか、よ」
 「……もういいです、好きになさってください……」
 「ふむ、勘弁してあげましょ。従者の期待に応えるのが主の……ちゃんと聴きなさい」
 「いたいっ」

 少し無視したくらいですぐこれだ。あれから背丈も伸びて私の方が背が高くなったというのに、相変わらず子供扱いして叩いてくる。そっちも勘弁してほしい。

 「藍、忘れていないでしょうね」
 「ええ、ええ、もちろんです。憶えておりますよ」

 そう、あの話には続きがある。妖夢には別段と隠していた訳ではなく、単に蛇足だと思ったから黙っていたまでだ。本当に他意があったのではない。
 あの日、雨の行方の説明が終わってから、紫様はこう付け足した。

 ――だから、そんな雨をずっと降らせられるように、藍、貴方にも授けないといけないものがあるの。雨を降らすのは雲、雨がひとの『やさしさ』なら、雲は優しさのまとめ役かしら。様々な形のそれを集め、適所にて適量降らせる。なかなか難しいのよ、少なすぎるとかえって悲しみを生み、多すぎると悪意にも為りかねない。……それで私は何度も後悔したけれど、手放す気にはなれなかったわね。だって、それ以上の出会いがあるのだもの、臥せってなんていられないわ。藍、貴方にもそんな気持ちを知ってもらいたいの。痩せる者に恵みの雨を、迷い乾く者に癒しの雨を。そして『雲』に『八』を付ける。その成り立ちは『左と右に反り返って分かれているさま』なれば、決して交わらず、されど遠からず、雲という役割の戒めと知りなさい。与える側になったとしても、貴方は偉くとも優位になる訳でもない、自らも与えられる側であるという自覚を持つのです。降らす雨が無ければ雲は消えてしまうのだから。それが分かれば貴方も名乗るのです。八雲藍、と――。

 その時の紫様のお顔は今でも忘れられない。
 情け無い事に、紫様の想いを未だ全て受け止めきれていない自分が居り、時折りどうにも歯痒い思いをする事もある。そこのところは妖夢に偉そうに言えた口ではないし、頭を抱える夜も少なくない。それでも、それでも私は八雲藍だ。どんなに消え入りそうな想いの時だとて、たとえ眠れぬ夜が来ようとも、八雲の名が私に道を示してくれる。逃げた先に在ったあの小道に何が待っていようと恐くはない。恐くはないのだ。

 「忘れる事など出来はしません。私は、貴方の式神ですから」

 紫様と二人並んで歩く。それが今の私の全てだから。

 「……ふむ、いいでしょう。今回はよく頑張りました、褒めてあげるわ」

 持っていた傘を落としそうになった。いやはや、紫様にそのようなお言葉を頂けるなんて、夢にも思ってなかった。
 眼を見開いて隣を見れば、そんな私の様子が気に入らないのか紫様が睨んでくる。

 「なに、不服なの、そうなの」
 「いえいえ、滅相もない。ただ褒めて頂けるとは思っていなかったものですから」
 「八雲の名に相応しい行いをすれば須らく褒めます。私は良い主人ですからね、多少の失敗くらい大目に……」
 「わーわーわー」
 「ちゃんと聞きなさい」
 「いたいっ」

 傘は叩く道具ではありません、というかその新しい傘を差したいんですけど。
 紫様の攻撃から逃げた時、避けた先にあった小石を鳴らしてあの小気味好い音が聞こえた。そうか、うっかりしていた。縁側から飛び出したので軒先にあったつっかけを借りたままだった。これは返しに行かねばならぬよな。

 「いいんじゃない、今日は借りて帰れば。それに貴方のその音は小気味好いわ」
 「……ふふふっ」
 「なに」
 「いいえ、なんでもありません」

 さあ、帰ろう。まだまだこれから、やらねばならぬ事、覚えねばならぬ事、知らねばならぬ事、沢山あるのだ。うかうかしていると、あっという間に妖夢に抜かれてしまうだろう。従者としての先輩であるのだから、それはまかり通らぬよ、悔しければ追い抜いてみろというのだ。紫様と私に追いつけるものなら、な。土砂降りの中、並び歩いて帰る。それがどれだけ幸せか、分からぬ妖夢ではあるまいて。
 止まない雨はないが、今はこの雨が永遠になるよう願ってしまう。だが、いつまでも浸っている訳にもいかない。妖夢だって頑張っているから、私も精進を怠れないのだ。
 だから今は帰ろう、二人並んで。
 きっと橙が暖かい料理を作って待っているだろう我が家へ。
 雨は、相変わらず止みそうにない。これから涼しくなってくるのだろうか。
 夏の季節はもう、終わりを告げようとしていた。


                                        了
 先ずはご一読どうもありがとうございました。お疲れ様でした。
 ……なんだか緊張してしまって何を書けばいいか分かりませんが、とにかく自分としては読んで頂けただけでも感謝のしようがなくて、とんでもない事だと思っております。皆様のご意見がどのようにして帰ってくるか、期待と不安とでなにやら非道い事になっておりますが、採点期間中は震えて眠ります。

 それでは、本当にありがとうございました。採点期間明けにまたお会いしたいと想います。その気力があればですが……。
 失礼いたします。

***************************************

 採点期間明けましておめでとうございます。百円玉です。
 わあ、こんなに沢山の方々に読んで頂きまして、嬉しい限りです!
 こんぺ初投稿でしたが、出して良かった! バンザイッ!

 興奮しています。興奮しております。
 コメントのお返事は以下フリーレスにてございます。
 本当にありがとうございました!

 ※誤字脱字に関しまして、戒めの為に修正は致しません。
  読みにくいとは想いますが、なにとぞご了承ください。



 ついったやっております。学校のちゃぼに餌を与える程度の気持ちで構いませんので、どうかひとつ……。
百円玉
http://twitter.com/hyakuendama
作品情報
作品集:
最新
投稿日時:
2009/11/21 23:46:34
更新日時:
2010/01/17 14:23:29
評価:
17/26
POINT:
116
Rate:
1.57
1. 6 歩人 ■2009/11/24 20:19:20
良作。楽しませていただきました。

あと、身長は藍より紫の方が高いようですよ。公式のどこかに
載っていた記憶があります。
2. 6 神鋼 ■2009/12/22 21:53:03
予想を超えてくるような展開はありませんでしたが、話の落しどころが安定していて安心出来る作品でした。
3. 8 いすけ ■2009/12/25 06:24:27
良かったです。
特に紫様がいい味だしていますね。
4. 8 バーボン ■2010/01/02 20:00:08
話の構成・文章ともにしっかりしていて安定感があり、内容もわかりやすく、読後感も心温まる物でした。
キャラに若干違和感……と思っていたら、しっかり理由付けもなされていて(主に幽々子の事です)、内容に関してはもう、個人の好み以上には言える物が見当たりません。
惜しむらくは、ところどころに見えた誤字。どうしてもそこで「あ、誤字……」と話から引き戻されてしまったのが、せっかくの良い話だっただけに少し残念です。ほんの些細な事ですけどね。
5. 5 藤木寸流 ■2010/01/04 03:12:17
 良い話でした。
 しかし、一本調子なわりに長く感じました。心理描写をいやというほどに語るのは、解りやすいところもあり、回りくどいところもあり。
 水、雨が優しさを運び、循環し、与える側であるのと同時に与えられる側である、という考え方にちょっと目から鱗。目には見え辛くともそこにはあり……てなところでしょうか。橙がわりと空気でしたが。
6. 5 パレット ■2010/01/10 05:28:17
 全体的にすごく丁寧に書かれてるなあと感じました。丁寧すぎてちょっと冗長かなぁと思うことも無きにしも非ずでしたが。
 幽々子と妖夢の関係性をすごく綺麗に描いてたなあと思います。個人的には幽々子の視点に持ってたりしないで描いたほうが形式的には綺麗かなとも、読み進めてた最初は思ったのですが、読み終えてみるとここの転換がいいアクセントになってるような気がします、つまり良かったです。紫のちょっとした幽々子の過去についての解説も含めて。
 あと、キャラクターがそれぞれすごくいい雰囲気で書かれてるなぁとも思いました。
7. 6 白錨 ■2010/01/10 11:53:46
藍と妖夢。咲夜とは違った従者同士、気が合うのかもしれませんね。
幽々子の妖夢の離し方がそれっぽくて雰囲気が出ていました。
8. 7 椒良徳 ■2010/01/11 19:53:05
> 「橙もお料理が出来るのですか。あ、いえ、悪い意味じゃなくて、あの、以外だったもので」
橙が料理上手なんて本当に意外だなあ。
しかし、この藍さま、結構ダメダメな感じが漂ってくるというかなんというか……

まあ、そんなことはさておき。
良い作品ですね。人の(この場合は人外ですが)の優しさが伝わってきてこちらまで温かい気持ちになります。文章がちょっと私の好みに合っていないのですが、良い文章だと思います。
傑作というには若干力不足ですがキラリと光る良作ということで、この点数を入れさせて頂きます。
そんなにビクビクせずに、今後も良い作品を生み出していってください。
9. 9 文鎮 ■2010/01/12 00:29:30
馬鹿真面目で愚かなほど真っ直ぐ、ついでに少々天然。そんな妖夢っていいですね。妖夢を見守る藍さまも優しいこと。
八雲の姓の話には、ハッとなりました。幻想郷のお母さん役にはぴったりだなぁ、そんな気分です。
10. 7 詩所 ■2010/01/13 22:27:43
 ある人には簡単なこともある人には難しい。気持ちを伝えることって難しいですよね。
 その点、この作品は愚直なまでにまっすぐに優しい作品だったと思います。
 さて、雨に打たれた後ということで、ハイパーお風呂タイムを書くべk(ry
11. 8 deso ■2010/01/13 23:49:11
これはかっこいいお姉さんな藍様!
ちょっとドジでもタンコブだらけだけど、それが良い。
そして、妖夢のなんと可愛いことか。
素敵なお話をありがとうございました。
12. 6 ホイセケヌ ■2010/01/14 18:43:20
・ュ・罕鬢ホナ葷テ、ャノマハヨ、、、ハ、「。「、ネヒシ、テ、ソ。」
ム廻、ホウノ餃ラT、ハ、ホ、ヒ。「、ス、、ム廻、ホメ雰网ォ、鬢マテ隍ウ、ヲ、ネ、マ、サ、コ。「クメ、ィ、ニヒ{、ネ、、、ヲヘ箚ソ、ホメ雰网タモテ、キ、ニテ隍ッ、ウ、ネ、ヒ、隍テ、ニ。「ム廻、ネモト。ゥラモ、ホ窮、。「ホ、ホヒ{、ネラマ、ホ欽、ヒユユ、鬢キコマ、、サ。「拳アネ、、オ、サ、。」ノマハヨ、、。」

、ソ、タ。「、、、、、、ヤ側矗z、゚、ケ、ョ、ハクミ、ク、ャ、キ、゙、キ、ソ。」、「、ッ、゙、ヌネヒオト、ヒ、マ。」
、ウ、ホラニキ、ホニウミワ椰Y、ホ。クニ。ケ」ィム廻、ホ据、゚、ヒ{、ャヨェ、」ゥイソキヨ、゙、ヌ、ャョ据筈ヒ餃、ッ、、、ソ、癸「、ウ、ホヤ彫ホキスマミヤ、ャ、ハ、ォ、ハ、ォメ侃ィ、ニ、ウ、ハ、ッ、ニユi、゚ニ」、、ニ、キ、゙、テ、ソ、キ。「ヒ、ヒ、筍「ムヤ、テ、ニ、、、、ウ、ネラヤフ螟マコャミ、ャ、「、テ、ニノ、゚、ャ、「、、ア、、ノ。「。ク、ス、e、ホ僂サ皀ィe、ホSS」ゥ、ヌ抱、、、ソ、、ク、胝jトソ」ソ。ケ、ネヒシ、ヲ、ウ、ネ、ャ、「、テ、ソ。」、゙、「。「ヒス、ホ^、ホサリワ椄ヒ拳、キ、ニヌ驤チソ、ャカ爨ケ、ョ、ソ、タ、ア、ヌ。「ヒ、ホネヒ、マ、筅テ、ネ゚`、ヲクミマ、アァ、ッ、ネヒシ、、、゙、ケ、ア、、ノ。」
13. 7 やぶH ■2010/01/15 01:14:39
藍様がアホの子になっとる(笑)これはこれでらしいですね。
幽々子と妖夢の関係等も、だよねぇ、とうなずけました。
ですが、これは単なる好みなのですが、文体がちょっと肌に合わなかったようです……ごめんなさいorz
それを抜きにしても、もう一つ『どかん』とくるものが欲しいところです。具体的に何かと言われると難しいですが『どかん』です。
語彙不足に嘆いてます。
14. 5 八重結界 ■2010/01/15 16:52:47
不器用な従者と、成長した従者。かつての自分を導くような気分というのは、どんなものなんでしょうね。
15. 9 2号 ■2010/01/15 19:05:17
とても良かったです。
主従のお話はよく見ますが、妖夢の純粋さがよく出て、とても清廉な印象を受けました。
よいお話を読ませていただきありがとうございます。
16. 9 零四季 ■2010/01/15 22:27:28
まとまりがあって、結末もしっかりしていたので良かったです。良い雨だ。
でも確かにそんな態度見せられたら不安になりますよね。だから求聞史紀にも“呆けているのか”なんて書かれてしまって。
込められた思いを読みとるのは難しい
17. 5 時計屋 ■2010/01/15 23:23:19
 心情描写を細かく丁寧に書こうとしているのがよく分かります。
 難しいテーマでしたが、最後までぶれることなく良くまとまっていました。
 文章量に相応しい力作だとは思います。
 ただ、序盤から中盤にかけて、ちょっと登場人物の心情についていけないところがありました。
 また終盤の幽々子への視点の切り替えは個人的には蛇足に思えました。
 相手の心が分からないからこそ妖夢の悩みが生じているわけですから、それを読み手に共有させるためにも、少なくとも解決するまでは明かさないほうが良かったのではないでしょうか?
 後は誤字が多いのが気にかかりました。またおかしな単語の使い方もところどころあります。時間が無かったとは思いますが、もう少し推敲してみてください。
18. フリーレス 百円玉 ■2010/01/17 01:45:15
>>1 歩人さま
 読んで頂きましてありがとうございます。
 楽しんで頂けたようで、ホッとしております。ミジンコのような心臓です。

 身長差につきましては情弱・思い込みの致すところで申し開きもございません……。
 紫の方が高いのかぁ、そうすると終りのシーンがすっぱり消えるなぁ。 orz


>>2 神鋼さま
 読んで頂けましてありがとうございます。
 ご安心出来る内容で幸いです。ハンドルの握りは十時十分です。安全運転です。

 ただ予測不能な展開には出来ず、これはまだまだ精進が足りぬ証拠。
 凡能な凡脳なので、いかんせん裏をかけない。
 いつか、あっと驚くような展開のお話を書きたいです。
19. フリーレス 百円玉 ■2010/01/17 02:12:50
>>3 いすけさま
 読んで頂きましてありがとうございます。
 紫さんは僕にはなかなか掴みづらい性格でしたから、それらしく見えて嬉しいです。
 今になって後悔しているのは紫さんの寝間着です。
 あー、もっと事細かに描写したかったー! カリスマ垂れ流しのパジャマって素敵じゃありませんか?


>>4 バーボンさま
 読んで頂きましてありがとうございます。
 文章は読みづらくはなかったでしょうか? キャラの雰囲気を出せていたら嬉しいです。

 誤字に関しては僕の至らぬ部分です。自分でも読んでいるはずなのに、あほです。
 特に寝間着が『寝巻き』になっているのがアホです。
 何を巻くのかと、だし巻きかと、砂糖派か出汁派かと。小一時間ほどでも氏ねばいい。
 生き返ったら簀巻きにして冬の日本海に沈めてやるけど。
20. フリーレス 百円玉 ■2010/01/17 02:41:51
>>5 藤木寸流さま
 あ、あなたはまさか……! めそ……ゲフンゲフンッ い、いえ、なにも。
 読んで頂きましてありがとうございます。

 そうですね、心理描写はこれでもかってほど入れたい派です。
 でもそれが自己満足に至ってしまっては意味がないですね。なんの為の描写なのかと。
 きっとキャラが抱える想いというのは僕の言葉で語り尽くせるほど少なくはないと想うのです。それこそ言葉で表せるほど単純でもないはずですよね。
 その想いのほんの寸分でもいいから描ければと想うのですが、難しいです。
 橙には悪いことをしました。(泣) ごめんよ、橙。


>>6 zarさま
 読んで頂きましてありがとうございます。
 おや……? 藍さまのようすが……?
 藍さまがスッパになった! (違う意味で)おとなのおんなだ!

 最初の部分というのは回想部分でしょうか?
 あれはもう布石というか、それっぽく見せる為というか……。
 伝わっていなかったら失敗です。orz  ごめんなさい。
21. フリーレス 百円玉 ■2010/01/17 03:33:13
>>7 パレットさま
 読んで頂きましてありがとうございます。
 丁寧と言って頂けて嬉しいです。それが裏目にもなっているようですが……。

 構成に関して、お褒めのお言葉を鵜呑みにするには気分的に微妙でして。
 下記の時計屋さまが仰られているように、蛇足だったとも捉えられるかと想います。
 個人の感性の違いと置ければ簡単ですが、難しいです。
 僕はあの部分を入れたくて入れました。
 主役は藍です。でも藍だけがこの話の柱じゃない、だから別視点でのシーンも入れたのです。さらに言えば幽々子と紫の絆みたいなものも表現出来たらなぁと。
 言い訳がましいです。失礼しました。


>>8 白錨さま
 読んで頂きましてありがとうございます。
 従者同士ということで、関連性はありますよね。
 従者と言えば咲夜さんですが、なにせタイトルが『カー(テンコ)ール』だから、仕方ないね。

 言葉遣いでキャラの雰囲気を出すのは難しいですね。
 少なからずお分かりになったようで、うれしいです。
22. フリーレス 百円玉 ■2010/01/17 11:44:09
>>9 椒良徳さま
 読んで頂きましてありがとうございます。
 藍さまは、こう、考え事をしていると周りが見えなくなるというか。
 免許はあるのに絶対に車の運転をさせたら駄目な人って居ますよね。あんな感じ。

 文章の好みについては残念ですが、お褒め頂きましてありがとうございます。
 実際問題として偏りなく読んでもらえたら幸いですが、僕もそうですし、これで回れ右する方も居らっしゃったのかなぁ。
 力不足を潔く受け取り、まだ伸び率があるという事に脳内変換しつつ点数を頂戴致しますです。
 あと心臓に毛生え薬塗ります。ぬりぬり。


>>10 文鎮さま
 読んで頂きましてありがとうございます。
 妖夢には真っ直でいてもらいたいですよね。
 それが彼女の良いところだし、妖夢スキーな方はそこに惹かれてるんだと勝手に想い込んでいます。
 名には必ず意味が有るというのが持論です。今回のは自己解釈ですが……。
 『紫お母さん』って、いいですね……。
23. フリーレス 百円玉 ■2010/01/17 12:11:29
>>11 詩所さま
 読んで頂きましてありがとうございます。
 想いを伝えるのって賭け事みたいですね、相手はどう想っているだろう、これは伝えていい想いなのか、とか。
 でも伝える事自体は素晴らしい事ですし、受け手だって真剣に聞かなければならないと想うのです。
 簡単な事じゃないから優しくなれるとかなんとか……。

 ハイパーお風呂タイムは僕らの胸の中にッ! (恥ずかしいので勘弁してください(笑))


>>12 desoさま
 読んで頂きましてありがとうございます。
 食卓の上に普通にこけしが置いてある家庭が理想です。うそです、ごめんなさい。
 妖夢がかわいく描く事が出来てたようで、一安心です。
 あ、あとタンコブはあとで橙が美味しく頂きました。やったね藍しゃま!


>>13 文字化けさま
 読んで頂きましてありがとうございます。
 でも文字化けしてて読み取れませんです……。(泣)
 もし機会があればぜひまた改めて感想をお聞かせ下さいませ。
24. フリーレス 百円玉 ■2010/01/17 12:35:10
>>14 やぶHさま
 読んで頂きましてありがとうございます。
 幽々子と妖夢の関係性をうまく表現出来ていたようで、良かったです。
 あう、どうか謝らないでくださいませ、文体の好き嫌いは重々承知しておりますので、それなのに読んで頂けたのだからこちらこそ申し訳なく想います。
 『どかん』と仰られると、やはり『どかん』なのでしょう。
 意外性、息も付かせぬストーリー展開、驚くような新解釈、「はるですよー!」
 どれにしてもインパクトですね、今後の課題です。


>>15 八重結界さま
 読んで頂きましてありがとうございました。
 あうあう、それが一番描きたかった部分でして、汲み取って頂いて嬉しい限りです。
 誰にでも昔が在って今が在る、もし昔の自分に声を掛けるとしたらなんと言うか、妖夢がその代わりとなりつつ藍も振り返る事が出来ればなと想いました。
25. フリーレス 百円玉 ■2010/01/17 13:00:35
>>16 2号さま
 読んで頂きましてありがとうございます。
 主従関係のお話は様々な方々が描かれていますので、埋もれないように出来ればなぁ、と想います。
 妖夢の純粋さは宝物ですよね、原石を上手にカッティング出来ていたでしょうか?


>>17 零四季さま
 読んで頂きましてありがとうございます。
 雨の意味の自己解釈はお口に合ったでしょうか? 
 幽々子の普段の言動の意味も伝わっておりましたら幸いです。
 言葉の裏に何が隠されているか、そんな事気にしないような関係が理想的ですよね。
 でもわざとひねくれている幽々子や紫は別カウントです。(笑)
26. フリーレス 百円玉 ■2010/01/17 13:58:49
>>18 時計屋さま
 読んで頂きましてありがとうございます。
 お褒め頂きまして嬉しく想いつつも、キャラの心情が読み取りづらいというのは致命的な事だと想います。
 まだまだ精進が至らなくて、これからも励みたいところです。
 構成に関しては粛々と受け取りたいと想います。ですが上記のパレットさまが仰られていたように、どうにも自分の中で答えが出せないでいます。
 う〜ん、蛇足なのか必要なのか、それとも順序違いだったのか。これも今後の課題です。

 あと誤字は猛省致します。ですが言葉の使い方については少々言い訳がありまして……。
 言ノ葉は決して使い方が決まっている訳ではないと想うのです。
 だから僕はそういったものに囚われず、そのシーンの雰囲気を言葉の使い方で表現出来たらなぁと。
 福沢諭吉先生が近代的な言葉を世に広めたように、大変おこがましいのは重々承知しておりますが、そのような試みをすること自体は悪い事ではないと想うのです。
 ですがそれも既述のとおり、誤字脱字が目立つ文章に混ざってしまうと意味をなさない、試みさえ伝えきれないようで、まことに鈍才の範囲を脱するには至らないようです。
 本当に言い訳がましいです、失礼致しました。
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