雨と小鬼

作品集: 最新 投稿日時: 2009/11/21 23:49:53 更新日時: 2010/01/17 16:32:32 評価: 20/21 POINT: 137 Rate: 1.54
―――隣のおばちゃんちょっと来ておくれ
     鬼がいるから行かれない―――

ぽっかりと浮いた雲の下。
山あいの神社に楽しげな子供たちの嬌声が響く。
いつの世も子供たちは驚くほど賑やかに遊ぶものだ。
それがたとえ平和なときでなくとも変わりはしない。

子供たちは、二列に手をつなぎ、互いに問いかけるようにわらべ唄をはやしたてる。

―――あの子が欲しい
     あの子じゃわからん―――
―――この子が欲しい
     この子じゃわからん―――

列は輪になり、やがて片方の輪から一人が違う輪に入る。
花いちもんめは、片方の列がなくなるまでこれを繰り返す遊びだ。

輪を移動した子は皆の人気者だったのだろう。
嬌声がどっと大きくなり、やがて先ほどよりもひときわ大きくわらべ唄が続く。


「今日も楽しそうね」

いつ果てると知れぬはやし声は、頭上からの声で一時中断された。
空にはぷかりと浮かぶ少女が一人。
この神社の主である。

「あ、巫女さま!」
「巫女さまも一緒に遊ぼうよ!」

子供たちが地に舞い降りた少女に駆け寄る。
巫女と呼ばれた少女は、はじめに駆け寄ってきた小さな娘の頭をなでてやりながら、にこやかに周囲を見回した。

この神社には、空を自由に飛びまわるという霊力に優れた巫女が住んでいる。
そのためか、人を襲うという妖怪も近づかず、里に住む子供たちの格好の遊び場となっている。

都の陰陽師たちが奮闘しているにもかかわらず妖怪出没の事件が絶えない昨今では、
子供たちが安心して遊べる環境は何にも代えがたい。

巫女は、十人あまりのなじみの中に、ふと見知らぬ顔があるのを見つけた。
神楽殿の影でじっとこちらを見ている、大きな髪飾りをつけた女の子の顔。
それは、子供たちの遊びに入りたそうにしているように見える。

「ねえ、あの子は誰? 一緒に遊ばないの?」

子供たちが巫女が促した場所を見やる。
ところが、既にそこには誰もいない。
つい先ほどまでは、確かに誰かいたはずなのに。

「えー、どこー?」
「誰もいないよー?」

巫女は、おかしいな、見間違えかな…と一度首をかしげると、
それ以上は気にするそぶりを見せず、遊びの輪に入った。




    どこの やまか わかりません。
    その やまの がけの ところに、おうちが 一けん たって いました。
    だれが、そこに いましたか。
    あかおにが すんで いました。
    まだ わかい げんきな おにが、ひとりで そこに すんで いました。

    あかおには、まいにち ひとりで、おもって いました。
    「わたしは、おにに うまれたが、にんげんたちとも、
     なかよく くらして いきたいな。
     ふもとの むらの ひとたちと、ともだち なかまに なりたいな」

        (はまだ ひろすけ著「ないた あかおに」より)




【一 雨と小鬼】

雨の日は仕事が少ない。
晴れていれば物の怪が悪さをしていないか付近を見回るところだが、
雨ともなればさすがに空を飛ぶ気も無くす。
わざわざ足を運ぶ参拝客も少なく、賽銭箱にも蜘蛛の巣が張ったままだ。
晴れた日であれば、決して少なくない金品が入っているのに。

「…まあ、気楽なのもたまにはいいものよね……ん?」

一通りの掃除を済ませ、お茶でも飲もうと思い立ったそのとき。

「…鬼さんこちら!」

雨音に混じり、境内から子供の声が聞こえてきた。

こんな雨の日に、里の子供が遊びにでも来たのだろうか。
巫女は首をかしげると、本殿からひょいと顔をのぞかせた。




降りしきる雨の中、ばしゃばしゃと泥まじりの水溜りを踏み越えて遊ぶ子供の影がふたつ。
やはり、子供たちが遊びに来ているのだろうか。

「こんな雨の日に遊んでいるの?」

子供がびっくりしたように振り向く。
栗色の髪を赤く大きな飾り布で束ねた女の子。
見覚えがある。
先日神楽殿の影に覗いてた子かもしれない。

しかし、最も目を引くのは、大きな飾り布でも先日の記憶でもない。
彼女の頭に、大きな二本の角が生えていることだ。

「角? もしかして、鬼…?」

巫女は知らず身構える。
鬼といえば、並ぶもののない臂力を持つあやかしの王。
小さいとはいえ、決して油断することはできない。

しかし、心配は杞憂に終わる。
小鬼は警戒するこちらを襲うでもなく、にこやかに、本当に嬉しそうな笑顔を浮かべた。

「あ、空を飛ぶ奴!」

小鬼はそう言うと嬉しそうに駆け寄ってくる。
そして、小鬼と遊んでいたもうひとつの影も。

「一緒に遊ぼうよ!」

巫女は驚く。
もう一人も小鬼。
…というより、まったく同じ顔。
これで驚かなければ、嘘だ。

「あなた、…鬼?」

巫女が混乱して尋ねる。

「「そーだよ!」」

小鬼が二人そろって答えた。

「えーっと… なんで、こんな雨の日に遊んでいるの?」
「雨の日は人間がいないから」
「人間とは遊ばないの?」
「人間と遊ぶわけないじゃない! 人間は襲うものだって決まってるよ!」

幾度か言葉を交わしてみる。
どうも、小鬼は人間がいないのを見計らって出てきたようだ。
巫女は首をかしげる。

「んー、でも、私も人間よ?」

小鬼は一瞬ひるんで、後に馬鹿にしたように。

「だまされないよ!」
「だって、おまえ、飛んでたじゃない。
 飛ぶ人間なんて、聞いたことないよ!」

「…神社の巫女は空を飛ぶって、聞いたことない?」

巫女は、人を襲う妖怪を何度も退治している。
そのためか、近頃では近辺に妖怪の影もなかなか見なくなっている。
妖怪の社会というものがあれば、神社の巫女が噂になっていてもおかしくないとは思うのだが。

「んー??」

小鬼は二人そろって、首をかしげて考える。
その姿があまりに可愛らしいので、巫女はくすりと笑ってしまう。

「…そういえば、山の天狗がそんなこと言ってたような…」
「お前、ひょっとして…人間!?」

小鬼たちがずさっと後ずさり、身構える。

「よくもだましたな!」
「これだから人間は信用ならないんだ! やるつもりなら、相手になるぞ!」

「だましてない、だましてないって!」

たぶん、この小鬼たちに害はないのだろう。
鬼が本気で敵意を持っているなら、小さいとはいえこちらの命はもう無くなっているはず。

「…一緒に遊びたいの?
 この間、ここで子供たちを見てたのも、一緒に遊びたかったから?」
「うー…」

小鬼は警戒するように唸ると、しばらくしてこくりと頷いた。
鬼は嘘をつけない。

「皆楽しそうだったから、私も一緒に遊びたかったんだ」
「でも、人間とは一緒に遊べないから…」

「それで、雨の日に友達と遊んでいたのね?」

再び頷く小鬼たち。
巫女はしばし思案にふけり、微笑んだ。

「…じゃあ、私と一緒に遊びましょうか。
 人間だけど、いい?」

小鬼はきょとんとする。

「さあ、何をして遊ぶ?
 かくれんぼ? それとも鬼ごっこ?」

まあ、単に遊びに来たというのであれば、一緒に遊んでやるのもいい。
小鬼は無邪気な様子だし、鬼を相手に鬼ごっこというのもなかなか面白いではないか。

巫女は図太いと言いかえたほうが良いほど肝が据わっていた。

「…うん、うん!!」

小鬼はまた本当に嬉しそうに破顔する。

「じゃあ、このあいだ人間がやってた、友達を取りっこする遊びをしよう!」
「花いちもんめね」
「そう、それ!」

しかし、花いちもんめをするにはとても人数が足りない。
3人じゃ少なすぎると言う巫女に、小鬼は胸を張った。

「だいじょうぶだよ、私、分身できるんだ!」

小鬼はそう言うのが早いか、霧をよび、…たくさんの更に小さな鬼になった。
さすがは鬼だ。
人間にはできないことを平然とやってのける。

「あなた、すごいのね…」
「へへー、どうだ、すごいだろう!」

褒められて嬉しそうにする小鬼に、巫女も少し嬉しくなる。

「ふふ、じゃあ、あなたの名前を教えてくれる?」

小鬼は頷く。

「萃香! 私、萃香って言うんだ!」




この時代の夜は暗い。
都でも灯火は置かれず、ましては山間に月以外の光があるわけもない。
月が翳る夜であれば、そこはもう人の領域ではない。
九条の姫の一行は、出雲詣の帰りに急な悪天に見舞われ、この山で立ち往生していた。

「火を絶やすな。
 大江の山には鬼が出るという。 ゆめゆめ警戒を怠るでないぞ」

丈夫の一人が辺りを警戒する数人に声をかける。
暗いとはいえまだ宵の口。
遠乗りに疲れがあるとはいえ鬼の住処。
丈夫たちは睡魔に襲われることもなく、緊張した趣で頷く。

武士が台頭した平安の後期。
都には藤原源平を初めとする貴族がわが世を謳歌し、果ては薩摩坂東までその威名を轟かせている。
しかし、貴族の力が及ぶのも日輪の下でのことに過ぎない。
夜は相も変わらず妖怪の、そしてその妖怪の頂に立つ鬼たちの領域だ。


…こんな時間に何用か。


丈夫は、木々の間から聞こえてきた低い声に振り向く。
いつの間にか。
そこには、身の丈六尺はあろうかという大男が――。
…いや、頭に生えた角は人間のものではあるまい。

赤黒く焼けた肌、炎のように天をつく鬣。
手に持つ棍は四尺三寸。
どす黒く汚れたその獲物からは、濃厚な血の臭いが撒き散らされる。
――そこには、鬼が立っていた。


「あ、あっ……!」

丈夫は知らず後ずさる。

「ここが大江の山と知らぬわけでもあるまい。
 知って罷り通ろうと考えているのであれば、なかなかに勇気のある人間だな」

鬼の後ろからもう一人。
いや、二人、三人と巨躯が現れる。
ここは鬼の山。
人の天敵が一人しかいない道理もない。


「これは旨そうな人間だ」
「丈夫もいるぞ。 我が相手をしよう」
「いやまて。 最初に見つけたのは我ぞ。 これは我の獲物だ」

鬼たちが口々に笑い声をたて、丈夫に迫る。
丈夫は気づかぬうちに尻を地面につけていた。

「――人間よ。 我らは多勢で蹂躙するのを好まぬ」

鬼たちの壁の中から、一際巨大な影が進み出る。
頭領であろうか。
他の鬼たちはその鬼に道を空ける。

「生き延びたければ、誰でもいい。 我らの一人と勝負せよ。
 勝てたらぬしらを見逃してやろう。
 だが、勝つことが適わなかった時には、ぬしらを食らう」

丈夫はしかし、ひっ…と小さな声を飲み込むのみ。
あまりの威圧感に立ち上がることもできない。

「わが名は酒呑。
 ぬしらは一人で来いとは言わん。 …さあ、かかって来るが良い」
「ひっ!
 に、逃げろっ! 皆、早く逃げろ!!」

丈夫があげた悲鳴に周りは堰を切ったような騒ぎとなる。
丈夫たちは、主が乗った車を見捨て、われ先にと山を降りようとする。
貴族たちも普段の優雅な振る舞いを忘れ、他の者においていかれないよう、無様に走り出す。

鬼たちは、一際大きな笑い声をあげ、それを追いかける。
いつの間にか、山は阿鼻叫喚の地獄と化していた。

「勝負さえもできぬとは…」

酒呑と名乗った鬼は、一人ごちる。
踏みしめた右足の下は、真っ先に悲鳴を上げた丈夫。
彼は逃げることも適わず、哀れにも頭を潰され地に伏している。

「もはやこの世に鬼を倒そうという武士はいないのかも知れぬな」

鬼はふと、怒りとも困惑とも言えぬ表情を浮かべる。

辺りは火が回り、人間たちが逃げ惑う。
鬼たちは、逃げる人間を一人ずつ捕まえ、喰らう。
いつ果てるともしらず、鬼たちの宴は続く。




【ニ 約束】

それから、小鬼は雨が降るたびに神社に遊びに来るようになった。
初めの頃こそ隙を見せぬよう相対していた巫女であったが、
鬼は襲い掛かってくるそぶりも見せず、次第に鬼と共にいる日常にも慣れを覚えてくる。

「今日は何をして遊ぼうか!
 かくれんぼか? それとも通りゃんせか?」

やれやれ、どれだけ人懐っこいのだ、この小鬼は。

巫女とて、やることも無い雨の日に暇を潰すのはやぶさかではない。
だが、土砂降りの中外で元気に飛び回るには、少々年を取りすぎていた。

「そうはいっても、この雨よ?
 たまには、部屋の中でお茶でも飲んでゆっくりしましょう」
「うー…」

小鬼はぷうと頬を膨らませ、目に見えて不満そうな顔をする。

「だけど、晴れた日は人間がいっぱいいるじゃないか。
 人間とは一緒に遊べないだろう!」
「…私も人間なんだけどね」

巫女が苦笑する。

―――しかし、確かに里の子供と鬼が一緒に遊ぶわけにもいくまい。
鬼は人を襲うもの。
萃香は鬼とは思えぬほど人に懐いているようだが、
仮に萃香が子供たちと問題なく遊ぼうと考えたにしろ、人間の側が萃香を排除しようとする。
鬼と人間は、虎と小鹿のようなもの。
一緒の檻に入れるわけにはいかないのだ。

「…どうしたんだ? 早く遊ぶのだ!」

思案に暮れる巫女の手を、小鬼が引っ張る。

こうして、巫女と小鬼の奇妙な日常は繰り返される。
いつか崩れることが定められた日常を。




巫女は瞑想する。

自らの心を宙に浮かし、深く深くその身を無に委ねる。

やがてその身は仮初の依り代と化し、神が降りる。

それは、「神降ろしの儀」と呼ばれる、縁ある神々の声を聞くための儀式。

自分の身体に自分以外の力強い気が満ちるのを感じ、巫女は聞いた。


(鬼と人とは、共に暮らすことができるのか)


神の声を聞くのはとても難しい。
神がその身に降ろすことも困難であれば、降ろした神が人に理解できる言葉を紡ぐとも限らない。

だが、その問いに対する答えは明快であった。


    鬼は人の畏れから生まれたもの
    人を襲わぬ鬼は、もはや鬼ではない

    鬼は人を襲い、人の手により滅せられる
    それが世の理である


(―ありがとうございます)

巫女は心を乱さぬように注意し、神を送還する。



物事は簡単だ。
人と鬼とは共存できない。
なぜなら、人との共存を選んだ時点で、鬼は畏れの対象とはならないからだ。
そして、畏れがなくなった鬼は、この世に存在する意味がなく、やがて消え行くのは間違いない。


単純明快な回答に嘆息しながらも、巫女は更に神降ろしの儀を続ける。
神も玉石さまざま。
世界を作るほどの力を持った天津神もいれば、長く人とかかわることで神と化した日常道具もある。
世は神で満ち溢れ、当然のことながら神によって見えるものは異なる。

とどのつまり、世には八百万の神々がいて、それぞれ言うことが違うのだ。
巫女は違う答えが返ってくるのを期待し、神を降ろす。




「巫女ー!
 遊びに来たぞー!!」

萃香はいつものように神社に足を運んでいた。

雨の日はうきうきする。
神社で巫女と遊べるから。
萃香は足取りも軽く、境内に近づく。

巫女を襲うつもりはもちろん無い。
山の鬼たちは、ただ人を襲うことに執心しているが、萃香はちょっと違っていた。
もちろん、強い人間と戦うのは楽しい。
人間を襲うのだって、鬼として当然のことだと思ってる。

だが、萃香は巫女と遊ぶことが好きになっていた。
だから、遊びに飽きるまでは巫女を襲わない。
人間を襲いたくなったら、別の誰かを襲えばいい。

―――境内に悲鳴が聞こえたのは、その時だった。




「どうしたの!」

雨音を切り裂く叫びに驚き、巫女は慌てて飛び出した。

「お、鬼っ! 鬼がいるっ!!」

里の子供がしりもちをつき、震えた声を出す。
見ると、萃香がびっくりしたようにその子を見ている。

いつかはこんな日が来るかと思っていた。
巫女は、子供を守るように、小鬼の前に歩みだす。

「止まれ!」

しかし、巫女の足は萃香の一言で止まった。


「人間、私の前に姿を見せたのが運の尽きだったな。
 さあ、私と戦うか、それとも食われるか」

人間の悲鳴というのは、どうしてこうも感情を呼び起こすのだろう。
人間が目の前で自分を畏れている。
それだけで、萃香はえも知れぬ高揚を味わう。
ただ、それだけで自分が鬼であることを思い出す。

鬼は、人間を畏れさせるために存在するのだ。

ずいと足を踏み出す。
空気が凍り、子供が悲鳴を飲み込む。
萃香は笑みを堪えきれない。

「やめなさい!」

巫女は、凛とした声で萃香の前に立ちふさがった。

「邪魔をするか!」

萃香が雄叫びを上げる。
誰にもこの愉悦を邪魔させはしない。
―が、もちろん巫女が退くわけもない。


「…萃香、あなた今日も遊びに来たんでしょう?
 それとも、人を襲いに来たの?」

萃香はじろりと巫女を睨んだままだ。

「やりたくはないのだけれど」

巫女が嘆息し、続ける。

「どうしてもこの子を襲おうというのなら、私が相手になるわ」

萃香の目が愉悦に歪む。

鬼は人間を襲うもの。
そして、人間に退治されるもの。
世の理を説いた幾柱もの神々の言葉を巫女は思い出す。

「なれば、勝負といこう。
 鬼の力、ゆめゆめ甘く見るな!」

風を切る音がし、遅れて小鬼の右腕が飛んでくる。

冗談ではない。
小鬼といえど、鬼を甘く見るほどの余裕があるわけもない。
顔なじみでなくとも、鬼と勝負などできる限り避けたいのが山々だ。

巫女は紙一重かわすと、懐から札をとりだす。
事ここに至っては仕方がない。
人間を護るのも巫女の務めだ。

「避けるか、巫女!」

鬼が楽しげに拳を繰り出す。
巫女は避ける。
拳の風圧が顔を打つ。

「…当たったらひとたまりもないわね。
 だけど…」

鬼の拳だ。
一発でも受ければ生死にもかかわる。
巫女は心を無にし、来る拳に集中する。
次第に心からは雑念が消え、動きからは無駄が消えていく。
それはまるで、神降ろしの儀。

「だけど…当たらなければどうということはないわ!」

途絶えることのない鬼の拳。
暴風雨のような圧力が巫女を襲う。
が、巫女には当たらない。
幾十も拳を重ねても、巫女には当たらない。

「やるじゃないか!
 だけど、逃げるだけじゃ私は倒せないよ!」

萃香はしかし、怯む素振りも見せない。
やがて、拳の暴風雨は拳の壁となる。
風であれば、避けることもできよう。
しかし、壁は避けられない。
避けるための空間がないのだから。

「…ぐっ!」

巫女が何十回目かの攻撃を避けようとしたとき、それは起こった。
確かに拳は身体には当たらなかった。
…だが、かわし切れなかった袖が鬼の拳に巻き込まれ―

―それだけで、巫女は吹っ飛んだ。

もちろん、鬼は倒れた巫女をただ見てるだけではない。
すぐさま追いかけ、巫女に馬乗りになる。


「つっ…」
「勝負あったか?」

目の前には萃香の自慢げな顔。
巫女は自分のダメージを調べる。
大丈夫。
直接攻撃は受けてない。
まだまだ戦える。

次に、周りを見る。
子供の姿は無い。
どうやら、逃げたようだ。
巫女はほっと息を吐く。

「…冗談じゃないわ。
 まだまだ降参はしな…ッ!」

振り下ろされる拳。
自由にならない身体をひねり、なんとか避ける。

「まだ話してる最中だっって言うの!」

次の拳。
避けられない。
慌てて腕で防御しようとする。
手に何か握っていてうまく防御できない。
がつっと鈍い音がする。
一撃防いだだけで、腕の感覚がない。

「ま、待って!」

巫女の言葉に、鬼は手を止めた。

「もう降参か?」

次の拳を振り上げ、萃香が問う。

「…鬼の力、甘く見ていたわ。
 まさか、かするだけで吹き飛ばされるとは思わなかった」

「へへー!」

先ほどまでの殺気はどこへやら。
萃香は得意気に笑う。
勝利を確信したのかもしれない。

巫女は苦笑する。
この殺し合いも、鬼にとってはただの遊びなのかもしれない。
やがて息も整い、痺れていた腕も動かせるようになってきた。

「…でも、降参はしないわ」
「えっ?」
「だって、私の勝ちだもの」

巫女は、きょとんとした顔をした小鬼の額に、右手に握っていた札を貼り付けた。



「………お前、強いんだな」

目覚めたのは部屋の中。
額に貼り付けられた札はすでに無い。
さっきまでの記憶も無い。

意識が無かったのだ。
自分を殺そうと思えば、簡単にできたはず。
小鬼は、勝負に負けたのを知った。

でも、不思議と気分は悪くない。
正々堂々と勝負したのだ。
拳と拳の勝負ではなかったけど、人間は鬼より弱い。
刀や妖術を使うのも卑怯なわけじゃない。

「そうよ、強いのよ。 驚いた?」

巫女は微笑む。
でも、その微笑はどこか悲しそう。

「……ねえ、萃香。
 なんで、子供を襲おうとしたの?」
「鬼が人間を襲うのは当たり前じゃないか」

巫女はまた悲しそうな顔をする。
萃香には意味がわからない。

「あなた、いつか子供たちが遊んでいるのを見てたわね」
「うん」

いつかのことを思い出す。
ちいさな人間たちが神社で遊んでいた。
萃香は、それが楽しそうで、うらやましくて。
それで、雨の日に神社で一人遊んでみたのだ。

「一緒に遊んでみたかったんでしょ?」
「…うん」

不思議と素直な気分になり、頷く。
力を認めた巫女が相手だからだろうか。

「だったら、なんで子供を襲ったの?」

萃香はなぜだろうと考える。
子供が叫び声をあげた。
そしたら、怖がらせたくなった。

「……怖がらせたかったから」

巫女は顔をそむける。

「…わかったわ。
 あなたはもうここに来ちゃだめ。
 人間を襲う鬼を、神社に入れるわけにはいかない」

「えっ?」

萃香の顔がみるみる青くなる。
まるで、先生に叱られた子供のよう。

考えてみれば当たり前の話だ。
鬼と人間が仲良くできるわけがない。
今までが異常だったのだ。

萃香は頭では巫女の言うことが解った。
でも、それは嫌だった。
雨の日の日常は、萃香にとって大切なものになっていたから。

だから、萃香は言った。

「…わかった。
 もう、ここで人間を襲わないから。
 だから……」

人間を襲うのをやめることはできない。
でも、この神社の中では、やめておこう。
せっかく一緒に遊んでくれた、巫女がいやがるなら。


「本当に?」
「うん、人間は襲うものだけど、この神社では…」

いきなり頭を撫でられた。

「萃香はいい子ね。
 『ここで』っていうのが気になるけど、まあそれは今言っても仕方ないか」
「…また、遊びに来てもいいの?」

おそるおそる尋ねる。

「いいわよ。
 ここで人を襲わないって約束するならね」
「…そうか! それじゃ、また遊びに来る!」


巫女は微笑むと、萃香の角に青い布を巻いた。

「なんだ、これ?」

萃香が角に巻かれた布を弄る。

「これはね。
 …これは、萃香と私が友達になった証」
「友達…?」

「そうよ。
 一緒に遊んでるんだから、友達でしょ」

なぜだかむずがゆい。
でも、自然と笑みがこぼれてしまう自分を止められない。

「人間と友達なんておかしいけど、でも、わかった!」

「でもね。 その布は、この神社で人間を襲うと燃えちゃうわ。
 約束を守る限り、私と萃香は友達。
 萃香は、約束を守れる?」
「大丈夫!
 鬼は嘘をつかない。 約束は必ず守るよ!」


萃香はすっくと立ち上がると、胸をはる。
そんなとき、表から声がした。




「ご免! 巫女殿はおられるか!」

里の者だろう。
タイミングから考えて、萃香から逃げた子供が呼んで来たと考えるのが適当だ。

巫女は、萃香に部屋にいるように言い聞かせると、襖を空けた。


「おお、ご無事のようじゃ。
 お怪我はありませぬか?」
「いや、神社に鬼が出たと聞き。
 いかに巫女殿とはいえ、鬼が相手では手に余ると考えたのだがの」

見ると、十数人の若い男衆が神社を囲んでいる。

「大丈夫です、鬼なら、もう去りましたよ」
「おお、さすがは巫女殿。
 鬼を追い返したっちゅうわけですか」

安心したのか、男衆が笑みを漏らす。
鬼が相手だ。
命を捨てる覚悟で、それでもやってきたのだろう。

もちろん、駆けつけたのは巫女が心配なだけではなく、里に被害が及ぶ前に、と考えたのには違いない。
だが、それでも助けに来てくれたのは嬉しい。

「お、腕を怪我しておられるな」

一人が目ざとく巫女の腫れた右腕を見つけた。
萃香の拳を受けたところだ。

「なかなか手ごわい相手でした。
 でも、もう心配はいりませんよ。 鬼はもう退散しました」

「そうすると、手傷は負わせたがとどめまではさせなかったということでしょうかの」
「ええ、まあ」

萃香は部屋に隠れたままだ。
見つかると色々と面倒だろう。
巫女は、適当にごまかす。

「んー、そうすると、怪我が直ったらまた襲ってくるかもしんねえ。
 手傷を負った今が好機じゃ。 皆で、鬼退治といかないか」
「しかし、鬼じゃろ?
 下手に手を出すのはますいのではないか」
「なあに、巫女殿がいれば大丈夫。
 今を逃すと、被害は広がる一方ぞ!」

男衆が口々に囃し立てる。

「なりません!」

慌てて巫女が止める。

「もうあの鬼は、人を襲いには来ないはずです。
 ですから、もう心配はいりません」

「じゃが…」
「とにかく、大丈夫です。
 さあ、里の者も心配しているでしょう。
 そろそろお開きといたしましょう」

男衆は狐につままれたような顔をする。
だが、巫女がそこまで言い張る鬼退治を無理に進めるわけにもいかない。
やがて、三々五々に来た道を引き返していった。




萃香は、襖の隙間から人間の様子を眺めていた。
そして、里の者の一人が自分のほうを見ているのに気づき、慌てて顔を引っ込めた。




    「それにしても、博麗の巫女の能力というのは、常識はずれではないですか?」
    「あら、どうして?」
    「全ての理から浮くという能力。
     これは文字通り、反則的な力です。
     呪の類を使おうとしても、その理から外れる。
     攻撃から浮いてるから、攻撃すら当たらない。
     それでいて神には愛されてるというのですから、相手をする方はたまったものではありません」
    「まあ、確かにそうなんだけど、あれは能力というより、それこそ呪いの類よ」
    「む、それはまた何故でしょう」
    「全てから浮くということは、足をつける地が無いということ。
     彼女は、何かの勢力に組することはできない。
     それをすると、誰も彼女の異変解決に納得できなくなる。
     それはただの勢力争いになってしまうから。
     彼女は常に公平でなくてはいけない。 だから、彼女は家族さえ持てない。
     それは、多分すごく辛いことだと思うわよ」

        (紫と藍の会話より、霊夢について)




【三 六里霧中】

都の北西、丹後半島のほど近く。
ここには、鬼が住むという大江の山がある。
萃香は、ここで他の鬼たちと酒を飲み交わしていた。

目に映るのは、十数の鬼たち。
おおよそ、世の鬼の半数程度がここに集っていることになる。
以前は百を超えようかという数がいたが、ここ最近は新しい鬼もあまり生まれず、数は減る一方だ。

「しかし、最近の人間は歯ごたえが無い」

鬼の一人が、酒臭い息を吐き出した。
先日の九条の一行の件を思い返しているのであろう。
命乞いをしていた丈夫たちの様子をげんなりした様子で話す。

「あれだけの数の人間がいて、一人として我と勝負をしようという気概のある者がいなかった。
 もはや、鬼と張り合うような勇者はいないかもしれぬ」
「そうは言っても、平氏や源氏は日々武芸を磨いているというぞ。
 我はまだ仕合ったことはないが、なかなかに手ごわい者もいるのではないのか?」
「なんの、武士など口だけよ。
 刀を振り回すのは良いが、てんでかすりもせぬ」

都通であろう青い鬼が、武士は強いと口を挟む。
しかし、他の鬼は一笑に付すだけだ。

「いや、今の世でも強い奴はいるよ!」

輪の中で楽しげに酒を呑んでいた萃香が、話したくてたまらないといった様子で声をあげる。

「博麗という神社があってな。
 そこの巫女が強い。
 空も飛ぶし、不思議な術を使うぞ!」

小さいとはいえ、萃香の力は強い。
年季こそ足りないが、いずれ成長すれば、鬼の中でも一ニを争う実力者になるだろうとも言われていた。
その萃香が、強い人間がいると言うのだ。
鬼たちは、一番の若年である小鬼の話に耳を傾ける。

萃香は、巫女に何度拳を打ち込んでもかすりもしなかったこと、倒れた巫女に馬乗りになっても、いつの間にか自分が倒されていたことなどをまるで自分のことのように語る。


「ほう、なかなかに興味深いな」

じっと聞き入っていた、ひときわ大きな鬼が盃を空ける。
この鬼、名を酒呑という。
山の鬼の中でも、一番の古株にして一番の実力者。
妖怪の王ともいえる鬼の中にあって、その中でも誰も及ばぬ力を持つ者である。

「萃香がそこまで言うのなら、ちと出向いてみるのも悪くない」

周りがざわつく。
酒呑は続ける。

「都には、他にも力のある者がいないとも限らん。
 未だ人間に勇者がいるかどうか、確かめてみるとしよう」

鬼たちは歓声を上げる。
昔の武勇談に花を咲かせても、今の世に不満を持っていても、鬼たちは老人ではないのだ。
振って沸いた血の臭いに高揚し、心躍らせる。

「だ、駄目だよ!」

だが、萃香は別。
神社では人間を襲わないと巫女と約束した。
もちろん、自分が襲うわけではないのだから、他の鬼が神社を攻めようと約束をたがえたことにはならない。
しかし、神社で鬼が暴れたら、巫女が苦しむのは目に見えている。
巫女が苦しむことはしたくない。
――巫女は、萃香の友達なのだから。


「なに、話は聞いた。
 お前の顔を立て、神社で暴れることはしない」

そんな萃香の心を慮ったのか、酒呑は哂う。

「別に、どこで仕合おうと我はかまわぬからな。
 今回は手強い人間と戦うための戦だ。
 神社で殺生はせず、しかるべき場所で正々堂々と力比べをする。
 それなら良いであろう」

それなら約束を違えることもない。
萃香はにっこりと頷いた。

後に残るは鬼の歓声。
大江の山をも揺らす、大きな大きな鬨の声。




蔵の文献を読み進める。
もう、幾柱の神を降ろしただろうか。
何度神々の声を聞いても答えはいつも同じ。

――鬼は人を襲い、人は鬼を調伏する。
それは世の理であり、人と鬼は共存はできぬ。

頭では解ってはいる。
子供の悲鳴を聞いた萃香の目の色は忘れられない。
人を畏れさせることが鬼のあり方なのだ。

だが、萃香は子供たちと遊びたいと思っている。
巫女は、答えの無い問いの答えを探すように、まだ見ぬ神についての文献をあさる。


目ぼしい文献もなく、休憩でも取ろうとした矢先、頭に本がぶつかった。

「いったあ…」

赤い紙で装丁されたその本を拾うと、巫女はきょろきょろと周りを見回す。
まあ、誰もいない。
棚から落ちたのだろうと一人納得し、なにげなく頁をめくる。

『境界の神』

聞いたことの無い神のことが書いてある。
読み進める。



『…昼と夜、常識と非常識、あらゆるものの境界を操る力を持つ神格。
 初めに、天と地の境目を作ったのも、これの仕業である。
 異国の文献には以下の記述がある。

    初めに、神が天と地を創造した。
    地は形がなく、何もなかった。

    そのとき、神が「光よ、あれ」と仰せられた。 すると光ができた。
    神は、この光を昼と名づけ、闇を夜と名づけられた』



「…………うさんくさ…………」

思わずそんな言葉が出た。

神は、乱暴に分けて人間より前からいるものと、人間の想いから生まれたものに二分される。
記述を見る限りでは、境界の神とやらは前者に分類できるのだろう。
しかし、巫女が知る高天原の神話に、境界の神などという名は無い。

『境界の神は、マヨヒガと呼ばれる地に住む。
 マヨヒガには、都より丑寅の方角に歩み……』

ご丁寧に、住処へ至る方法まで記されている。
これほど胡散臭いこともあるまい。

だが、進展の無い調べ物にうんざりしていたのも事実。
これも何かの縁、気分転換に足を運んでみるのもいいだろう。
巫女は、旅支度を終えしばらく留守にする旨の張り紙を残すと、さっそく神社を後にした。




都の左京一条に、一際大きな屋敷がある。
源氏の武士を束ねる、源頼光が住む屋敷である。
ここに、近頃の鬼の被害に困り果てた貴族武士連中が集い、調伏のための相談をしていた。

「ええい、もう我慢ならぬ!
 つい先だっても、九条の姫君が襲われたばかり。
 大江の鬼をこれ以上生かしておいては、武士の名折れだ!」

若い武士が声を張り上げる。
無理もない。
武士は戦うためにある者。
いかに相手が鬼とはいえ、いや、相手が鬼であるからこそ、民の目は武士にいく。

―こんなに鬼が暴れまわってるのに、武士は何をしているのか。
 腰に下げた大太刀はただの飾りか−

そのような陰口は、いまや都の諸所で耳にする。
武士の棟梁たる源氏にとっては、落ち着かぬことこの上ない。

「なれば、武士の力を見せるべきでしょうな。
 ここで動かねば、源の名は地に落ちるでしょう」
「だが、負けたらどうなる?
 相手は鬼ぞ。
 戦って負けることも十分にある。
 戦に負けては、名が落ちるどころではない」

「…調伏するしかあるまい。
 戦わずとも駄目、負けても駄目。
 となれば、勝つだけのこと」

口々に騒ぐ皆を止めたのは、頼光の一言。

「しかし、この戦、万が一にも負けるわけにはいかぬ。
 勝たねばならぬとはいえ、何も面と向かって鬼と戦うこともあるまい。
 できうる限り、策を講じるとしよう」

ごくりと唾を飲む音が聞こえる。
棟梁たる頼光の一言である。
棟梁が口にしてしまえば、もはや鬼との対決は避けられない。
慎重論を振りかざしていた者だけでなく、威勢の良い台詞を撒き散らした者も緊張を隠し切れない。

「鬼の本拠という大江山まで出向くのは避けたい。
 願わくば、相手が一人のとき、油断しているときに仕合いたいものだ。
 誰ぞ、案を持つ者はおらぬか」

頼光が周りを見回す。
すると、今まで押し黙っていた若い武士が恐る恐る声をあげた。

「都の外れに、博麗という神社があります。
 そこの巫女が小鬼を匿ってると聞き及んでおります」

武士は続ける。

「聞けば、つい先立ってのこと。
 里の子が神社で小鬼に襲われ、男衆がそれを助けに行ったらしい。
 しかし、神社に集った男衆は巫女に追い返されたと。
 また、襖の間から、こちらを伺っている小鬼の姿を見た者がいるとも聞きました」

「ふむ…」

頼光がうなずく。

「なれば、その神社で仕合うのがよかろう。
 人間と通じるという鬼であれば、油断も起きようというもの。
 存外にも上手く事が運びそうだ」




「この辺りのはずなんだけどねえ…」

辺りを見回す。
文献の通りであれば、マヨヒガとやらはもう目と鼻の先のはずだ。

それにしても奇妙な場所だ。
もう冬も近いというのに、まだ紫苑が咲き誇っている。
人の気配はあるのに、誰も見えない。
これまで道すらない山の中を渓流に沿って飛んできたが、ここには普通に道が続いている。

道があれば、自然とそこを歩こうという気になる。
空を飛ぶのもああ見えて疲れるものだ。
巫女は、先ほどから地に足をつけ、物思いに耽りながら道を歩んでいる。


「…それにしても、『答え』はあるのかしらね」

―鬼は人を襲うもの。 人は鬼を調伏するもの。

何度と無く反芻した理屈を思い返す。

巫女として、いや、人間の一人として、妖怪の類が人を襲うのであればそれは退治しないといけないだろう。
また、人間を襲う者などと共に暮らせようはずもない。

では、鬼が人を襲わないのであればどうだ。
世の理は、この考えも否定する。
いわく、人に畏れられなくなった鬼は、もはや存在することができないと。

これでは、答えが無い。
人と鬼は、互いに殺しあうしか術は無い。


「…考えても、やはり答えはでないか。
 境界の神とやらが、何か教えてくれるといいんだけど。
 …こんなところまで足を運ばせたんだから、それなりの報酬が無いと割に合わないわ」

巫女が足を止める。

目の前には、大きな屋敷と、その前に立つ若い女性がいた。




「博麗の巫女さん、ようこそマヨヒガへ」

裾が広がった奇妙な衣装を着た女性は、そう言って屋敷に招く。
とてつもなく胡散臭いが、相手は神とのこと。
巫女は礼を失わないよう、深く頭をたれる。

「あなたが、境界の神様ですか?
 なんとお呼びすればいいでしょう」

「そんなに畏まらなくてもいいわよ。
 神様かどうかは知らないけど、私のことは…そうね、紫とでも呼んで頂戴」

女性は身に着けた紫色の衣装を見ながら答える。
本名か偽名かわからない。
それどころか、神なのか妖怪の類なのかもわからない。
多分、後者だろう。

「…わかりました、紫様。
 さっそくですが、お聞きしたいことがあるのですが」

妖怪の類とはいえ、こんな大きな屋敷を構えているのだ。
自分が博麗の巫女だと知ってたことも踏まえると、まあ相当な力を持っていると見て間違いあるまい。
探していた答えを得られるという奇跡もあるかもしれない。

「そんなに急がなくてもいいじゃない。
 長旅だったんでしょう?
 お茶でも飲みながらお話しましょう」

客間に通された巫女は、頷いて腰を下ろす。
腰を下ろしたが早いか、女性の頭上にいきなり裂け目が開き、そこから盆に載った湯飲みと茶請けが現れた。
女性が盆を受け取ると、裂け目は端から閉じていき、終いには消えてなくなる。
巫女は口をあんぐりと開けたまま言葉も無い。

「…で、聞きたいことって何かしら?
 人と鬼との関係についてでいいのかしらね。
 ずいぶんとたくさん、神降ろしの儀をやっていたみたいじゃない」

なぜこいつはそこまで色々と知っているのだろうか。
最初に博麗神社の巫女と見抜いたことといい、まるで自分の生活を覗き見しているようではないか。
巫女は考えると、ひとつの仮説をひらめいた。

「…さっきの裂け目ですが、それって、どこにでも出せるのですか?」
「それが質問?
 んー、変なことを聞くのね、予想外だわ」

女性は指を顎にあてて首をかしげる。

「そうね、認識できる範囲であれば、かなり遠くでも開くことができるわよ。
 …こんなふうに」

再び中空に裂け目が開く。
今度は目の前だ。
裂け目の向こうには、都の様子が伺えた。
ああ、やっぱりそうだ。
あのとき、私の頭の上に本を落としたのは、彼女がこの裂け目を使ってやったことなんだ。
きっと、彼女はこの裂け目を使って私の生活を覗き見していたんだ。


「な、なんなのその目。
 そんなに睨まないでくれるかしら。
 なんだか怖いわ……」

巫女はふうとため息をつく。

「……答えを教えてくれたら、睨むのはやめます。
 聞きたい問いは、先ほど紫様の言ったとおり。
 人と鬼とが共存する方法についてです」

巫女は女性を睨んだまま、探し続けている問いを投げかけた。




「鬼は人を襲うもの。 そして、人に調伏されるものよ。
 人を襲うからこそ、人は鬼を畏れる。
 畏れがなければ、人は自分たちがこの世で一番強いものと増長し、神を敬うことすら止めてしまうでしょう。
 それはとても不幸なこと。
 同族以外に敬意を払えないようになれば、人はきっと人同士争うことを止められなくなる。

 そして、鬼が人を襲う一方になるのもまずい。
 人は自分たちの無力さを嘆き、天敵に怯え、隠れて生きるしかなくなる。
 だから、神は鬼を調伏しない。
 人の力で鬼を撃退する自信を持たせ、強く生きてもらいたいから。

 ――それが世の理よ。
 だから、鬼は人を畏れさせなければならない。
 だから、人は鬼を倒さねばならない。
 …これは、鬼だけじゃない。
 他の妖怪でも小異はあれ、似たようなものね」

紫が言うことは、今まで何度と無く聞いた理だった。
やはり、いくら胡散臭くでも答えは同じか。

「…やはり、人と鬼とは共存できないのですね」
「あら、そんなことないわよ」

彼女は答えを知っているのだろうか。
予想外の言葉に巫女は驚き、身を乗り出す。

「…鬼が存在しないといけない理由は言ったわよね。
 それは、人は鬼がいないと真っ直ぐに生きられないということ。
 これって、共存しているようなものじゃない」
「………いや、確かにそうですが。
 私が聞きたいのは、憎みあわず、殺しあわずに生きる方法です」

確かに見方によっては人と鬼とは共存していると言えるかもしれない。
でも、私が聞きたいのはそんなことじゃない。
…とどのつまり、萃香が里の子と一緒に遊べるかどうかだ。

「憎みあわない方法は無いわね。
 畏れがなくなる。
 でも、殺しあわなくてすむ方法ならないこともないわよ」

紫は再び予想外の返答をする。
巫女は再び身を乗り出す。

「それは簡単。
 あなたが鬼に襲われて、あなたが鬼を調伏すればいいだけの話」
「……は?」
「だから、鬼は人を襲い、人に調伏されるものと言ったでしょう?
 で、あなたは人間。
 だから、あなたが襲われればいい。
 あなたが襲われる限りには、他の人間に被害が及ぶことはないでしょう。
 で、襲われたらその場で退治すればいいの。
 別に鬼を殺す必要は無いわ。
 奴ら、殺しても死なないし、生きててもあなたしか襲わないなら、迷惑はあなたにしかかからない」

いったい何を言っているのだ、こいつは。

「鬼なんて、強い人間と戦うのが何より好きな連中よ。
 『人間を襲うのであれば、私が相手するぞ! いつでもかかってこい!』とか言えば、
 よろこんであなたの前に列を作るわよ」
「いや、そんなことして私が生き残れるわけないし、それに、鬼以外の妖怪は…」

「…んー、他の妖怪はちょっと面倒ね。
 弱い人間を狙って襲う奴なんて腐るほどいるし。
 …そんな奴らが出た場合、あなたが出向いて退治するしかないんじゃない?
 何度か退治してれば、あなたに退治されるのが嫌で悪さをしなくなるかもしれないわ。
 妖怪を倒せるのは特別な力を持つ人間だけとなれば、他の人間は畏れを忘れないでしょうし、何の問題もないわね。
 あなたは他の人間たちに感謝され、妖怪からも一目置かれる。
 人にも妖怪にも人気がでて、もうウハウハね」
「…妖怪がそんなに集ったら、神社に訪れる人なんていなくなるわよ」

いつの間にやら敬語も忘れ、巫女が突っ込みを入れる。
しかし紫は気にもかけず、ひどく楽しそうに続ける。

「…それに、それを続けていけば、きっと殺し合いも減るわ。
 悪さをしようとしても退治されるのが当たり前となったら、案外人も鬼も殺しあうのが馬鹿らしくなるかもしれないわね。
 遠い未来には、殺し合いの代わりに何か特別なルールで競い合うなんて日も来るかもしれないわ」
「…そんなの無理でしょう。
 第一、私が妖怪全てを退治するのを根底に置かれても困るわ」

なるほど、理論上は納得できるところもある。
だが、そもそもが全ての妖怪を相手にするなど無理だ。
非現実的だ。

「…だけど、あなたそれをやってるじゃない」
「えっ?」
「…里の近くに出る妖怪を調伏したのも、子供を襲っている鬼の目の前に出て、自分を襲わせたのはあなたでしょう?
 私は、全部知っているわ。
 そりゃ、何もかも一度にやろうとしても無理かもしれない。

 でも、あなたの歩んでいる道は正しいわ。
 だから神々はあなたに力を貸す。
 焦らず、歩んできた道を進みなさい。
 迷わず進む先にしか、理想なんてないのだから」

紫の目を見る。
今までのようにふざけている様子は無い。

「迷いは晴れたかしら?」

…迷いは晴れはしない。
だが、幾度神々に問いかけても、他の答えは得られなかった。
ならば。

ならば、できることから始めよう。
今までと同じことでもいいではないか。
今は全ての妖怪を相手にすることなんてできないけど、それでも、できることから少しずつ。
いつか、理想が現実となることを信じて。





    昔 丹波の大江山 鬼ども多く こもりいて
      都に出ては人を喰い 金銀や財宝を盗み行く

    源氏の大将 頼光は 時の帝の みことのり
      お受け申して鬼退治 勢いよくも 出かけたり

    大江の山に来てみれば 酒呑童子が 頭にて
      赤鬼 青鬼集りて 舞いや歌えの 大さわぎ

    かねて用意の 毒の酒 すすめて鬼をよいつぶし
      笈の中より 取り出だす 鎧兜に 身をかため

    おどろき迷う鬼どもを 一人残らず 切りころし
      酒呑童子の 首をとり 目出度く都にかえりけり

        (大江山 鬼退治の唄より)




【四 疎雨の百鬼夜行】

雨が木々を打つ音。
雨にくすんだ鳥居の色。
誰もいない境内。
何度となく足を運んだ博麗の神社。
いつもは一人。
だが今日は、仲間の鬼と共にここにやってきた。

「わざわざこのような雨の日に来なくてもよかろうに」

鬼の一人が不満を述べる。
萃香は意に返さず、「晴れた日は人間が多いからな!」とだけ返答する。
この場所に来るときはいつも気分がいい。


「巫女ー! 遊びに来たぞ!」

声を張り上げる。
いつもなら程なく襖が開く音がするはずだが、今日に限っては何の反応もない。
萃香は首をかしげ、入り口に周った。

「どうしたのだ、誰もいないようだが」

鬼の一人が後をついてきた。
小鬼は入り口に張り紙を見つけ、それを読む。

「…んん、しばらく留守にするって」

目当ての人物がいないと、こうも落胆するものであろうか。
萃香は目に見えて肩を落とすと、縁側まで戻り、がっくりと腰を落とした。

「仕方あるまい、ここで待つとしよう。
 なに、呑んでりゃそのうち現れるだろう」

酒呑が萃香の横に腰を下ろし、盃に酒を注ぐ。

首領が腰を落ち着けるのであれば是非もない。
他の鬼たちも次々と腰をすえると、それぞれ自前の酒を取り出す。

鬼の酒好きは今に始まったことでもない。
当然のごとく、宴が始まった。




麓の里に源頼光の一行が到着したのは、それから数刻の後。
慌しく走り回っていた男が気づき、駆け寄る。

「お偉い方々。
 このように辺鄙な里に何用ですか?」
「それより、どうも騒々しいようだが、何かあったのか?」

里の様子を見るに、慌しく駆け回ってる者は一人や二人ではない。
一行が到着する前に何やら事件があったのかもしれない。
そう推測した武士は、敬語とも何とも知れぬ村人の言葉を軽く流し逆に質問する。

「へえ。
 実は、里はずれの神社に、鬼どもが集っている様子で」
「鬼が集ってるだと?
 それは、どれくらいの数だ」
「十は超えてますな。
 あれだけの鬼が来たとあれば、もう逃げるしかねえ。
 畑は惜しいが、命には代えられないですから」

武士たちは顔を見合わせる。

小鬼を一匹退治しようと足を運んだら、敵が十倍に増えたのだ。
一匹の鬼が出ただけでも、その何十倍もの民の命が失われることもある。
十の鬼ともなれば、どれだけの兵をそろえても安心できるものではない。

そんな武士たちを前に、里の者も去るに去れず辺りを見回すばかり。
瞬間、辺りはつかの間の沈黙に包まれる。
その沈黙に落ちた空気を破ったのは、頼光の一声だった。

「…して、その鬼どもは何をしにきたのだ?」
「へえ。
 何をしに来たのかは解りませぬが、今は宴会しております」
「宴会と。 ふむ…」

頼光はしばし考え込んだ。
十を超える鬼を、一度に退治することはできないだろうか。
面と向かって戦うのは、みすみす命を落としに行くようなものだ。
となれば、罠にかけるか、毒でも盛って…

「…あい解った。
 安心するがいい、我らはその鬼どもを調伏しに来た。
 里を捨てる必要は無い」

里の者の顔がみるみる明るくなる。
逆に武士たちは、不安そうに棟梁の顔色を伺う。

「だが、鬼が十ともあれば、これを力でもって調伏するのは難しいだろう。
 だから、策を講じる。
 里の者よ、鬼退治の代わりといっては何だが、今から言うものを用意して貰えまいか」

もとより、里を捨てようとしたところだ。
できうるものなら、何だって揃えよう。

里の者はそう考え、何度も何度も頷いた。




鬼が宴を続ける神社に一行が着いたのは、昼刻を少し過ぎた頃か。
雨は勢いを緩めたが、まだまばらに降り続いている。

「ご免! 鬼はおられるか!」

騒がしい呼び声に、鬼たちは腰を上げた。
見れば、十人ほどの武士が列をなしている。
さっそく自前の武器を持ち暴れようとした鬼たちを制し、酒呑がずいと前に出る。

「ここにおるぞ。
 して、人間どもが揃って何用だ」
「うむ、ここで鬼たちが宴会を開いていると聞いてな。
 何ゆえにこんな場所で酒を飲み交わしておるのだ」
「なに、この神社の巫女に用があるだけだ。
 ここでぬしらと事を構える気はないが、そちらから仕合おうというのであれば相手になろうぞ」

酒呑が鉄杖を握り、武士たちを威嚇する。
気づかず一歩下がる武士たち。
しかし、棟梁たる頼光は微動だにしない。

「…ぬしらの暴行、よく聞き及んでいる。
 我らとしては、これ以上鬼を野放しにはできぬと考えておる」

すわ戦かと鬼たちが血気にはやる。
頼光はじろりとそれを睨みつける。

「だが、神がおわす場所で戦というのも吝かだ。
 ぬしらは酒に酔っているようでもあるし、我らは準備が足りぬ。
 鬼たちは、正々堂々とした勝負を好むと聞いた。
 ここは、互いに準備万端整えた上で、翌日決闘をしようではないか」

決闘と言われ、血がはやらない鬼はいない。
ましてや、正々堂々とまで言われれば断る理屈もない。
人間も十人程度では鬼たちの相手にはならないだろうし、それなら場を改めて思い切り暴れるほうがいい。
酒呑は鬼たちの様子を見回すと、代表して答える。

「…なるほど、あい解った。 翌日仕合うとしよう」
「申し出の了承、礼を言うぞ。
 では、これを」

頼光が合図をすると、武士が二人、巨大な樽を転がして進み出る。

「酒だ。
 鬼は酒が好きだと聞く。
 これで英気を養い、明日に備えるがよかろう。
 それでは、明日の決闘、楽しみにしておるぞ」

鬼の動きを封じるという毒酒を置き、頼光は踵を返す。
武士たちは、ようやく鬼を前にした圧力から逃げられると、早足で神社を後にする。

やつらは疑わず、呑むだろうか。
頼光は不安を覚え、一度だけ振り返る。

鬼たちは、もはや一行に目もくれず、樽に群がっている。
なかなか見所がある奴らだ、という声まで聞こえてくる。

ならば安心だ。
数刻後に戻ってくるとしよう。
そのときこそが、ぬしらの最期だ。




夕刻近く。
先ほどまで響いてた喧騒も今はなく、神社にはまばらな雨音しか響いていない。

武士の一行はとって返し、神社に訪れていた。
鬼たちは毒に昏睡し、もはや動く者はいない。
それでも、動けさえはしないものの、憎憎しげにこちらを睨みつける者はいる。

「一口飲んだだけで一刻後には昏睡する酒と聞いたが、鬼の生命力は侮れないな」

頼光はそうつぶやくと、冷徹にその鬼の首を斬り落とした。
鬼とはいえ、動きが取れない状態で首を落とされては是非も無い。
それでもしばらくは頼光を恨むように腕を伸ばしてきたが、やがて事切れたのか動きを止める。

昏睡した鬼を前にしてそれでも恐々としていた武士たちは、それを見て気勢を上げる。
人が鬼を殺した。
それは、もはや真偽のわからぬ古の伝承ではない。
目の前の事実。
鬼は、もはや天敵ではないのだ。

「ここが好機ぞ!
 鬼の首を取るのは今ぞ!!」

口々に鬨の声をあげ、動けない鬼たちに群がっていく。
それは、天敵が逆転した瞬間。
動けぬ者に勝利などあろうはずもない。
――が、武士たちは知ることになる。
当たり前の敗北をひっくり返してこそ、妖怪の頂点。

「ぐ……がっ!」

聞こえた悲鳴に、衆目が集る。
そこにいるのは、武士の喉を食いちぎり、咀嚼している一本角の女鬼。

「人間よ。
 正々堂々と仕合うこともできぬ卑怯な生き物よ。
 もはや我らの怒りは止まらぬ。
 その身、髪一本も残さず、ここで食い尽くしてやるわ!」

見れば、女鬼は未だ立ち上がることもできていない。
震える腕でかろうじて身体を支えているに過ぎない。
だが。
だが、彼女はその身で武士の喉を喰いちぎったのだ。
そんな彼女に恐れを抱かぬ者はこの場にはいなかった。
ただ、一人を除いては。

「ほう、勇ましいことだな」

頼光はしかし、女鬼を一瞥したのみで一際大きな鬼の前に歩み寄る。
頼光は見ている。
あの女鬼が雄叫びを上げるさなか、頭領たるこの鬼が目を覚まそうとしているところを。

戦はすべからず、頭を潰すことが勝利へと繋がる。
武士の棟梁たる頼光がそれを知らぬ理は無い。

「…人間よ、これで勝っ…」

頼光は自分を睨みつけた酒呑の言葉を最後まで聞かず、その首を叩き落した。
そして、その首を高く掲げる。
恐怖に襲われつつあった武士たちを奮い立たせるために。
勝利を確信したそのとき、頼光は信じられない声を聞いた。

「者ども!」

声は頭上から聞こえる。

「ぬしら、それでも鬼か?
 人に畏れられし妖怪の頂点、鬼の一族か!?」

そう、叫んでいるのは酒呑。
首を落とされた鬼の頭領が、今も事絶えることなく叫んでいるのだ。

「もはや、遠慮はいらぬ!
 約束を違えたのは人間の方だ!
 今こそ立ち上がり、人に永劫忘れられぬ畏れを与えよ!」

「うぉぉぉおおおおおおおおおおおお!!!」

酒呑の言葉を受け。
境内に地鳴りのような雄叫びが響き渡る。
鬼が立ち上がる。
全身を真っ赤に染め、毒を追い出すかのように身体から熱い蒸気を上げ、鬼たちが立ち上がる。
武士たちはその雄叫びに、憎憎しげに睨めつける鬼の視線に怯え、悲鳴を上げ鬼から立ち退く。

頼光は恐怖に襲われ、酒呑の頭から手を離す。
しかし、酒呑の首は重力に反し、頼光の首に噛み付こうとする。
「ひっ…」
小さな悲鳴をあげ、頼光は太刀を振り回す。
首はしばらく首を喰いちぎろうと暴れまわったが、やがて力をなくし、地に落ちた。

攻守は再び逆転した。
鬼たちは自由にならぬ身体を怒りで動かし、勢いまかせに自前の武器を振り回し、武士たちは我先にと逃げ惑う。

阿鼻叫喚とはこのことを言うのであろう。
地獄とは、このような風景を言うのであろう。

ここに、畏れは満たされた。




萃香はどうしていいのかわからなかった。

鬼を騙し、酒呑の首を取った人間が憎い。
怒りは盛られた毒に打ち勝ち、他の鬼と同じようになんとか動くことはできる。
逃げ惑う人間は本能を呼び覚まし、殺したいという衝動は身を焦し続ける。

ただ、それでも。
――それでも、左の角に巻かれた布は今もなお萃香を押しとどめていた。
これは、巫女との友達の証。
この武士の一団は約束を違えたが、巫女との約束は今もなお途切れてはいない。

だから、萃香は事ここに至ってもまだ動かずにいた。
小さな身体を、怒りに染め上げながらも。


境内では、鬼たちが武士を追い回している。
中には、それでも反撃している者もいる。
鬼とはいえ、怒りに震えているとはいえ、毒の力は馬鹿にはならない。
毒の効果が大きかった数体の鬼は、人に倒され地に伏している。

だが、やはり優勢なのは鬼。
鬼の残りは7・8体ほどであろうか。
しかし、その数倍にも登る人間たちは、鬼に適わない。
振り回す棍に当たった者から、まるで紙のようになぎ倒されていく。




巫女が神社に姿を現したのは、ちょうどその頃だった。

中空に開いた裂け目から飛び降りると、辺りを見回す。
最初は何が起きているのかわからなかった。
これほど多くの鬼が何故神社にいるのか。
追い回されている武士たちはどこから来たのか。
鬼たちの中には、見知った姿もあった。
雨の日に必ず現れる小鬼。
巫女が見間違えるはずもない。

――だが、巫女の目には、鬼が無力な人間たちを襲っているようにしか見えない。
状況を考えると、萃香が鬼を呼んだのだろうか。
…わからない。
何もかもが解らない。

「…でも、黙って見ているわけにはいかないわね」

鬼が振り回してきた棍を避ける。
何が起きたのかは解らないが、人を襲う鬼は調伏しなければならない。
ただでさえ攻撃が当たらない巫女に、毒で動きが鈍った鬼の大振りが当たるわけもなく。
巫女は棍をかいくぐると、鬼に札を貼り付けた。
とたんに鬼の動きが止まる。

「よくも…よくも、人間め…!」

しかし鬼は、それでも闘争をやめようとしない。
身体が動かないのであれば首でというのであろうか、巫女を喰いちぎらんと目を剥く。
巫女はしかし動じず。
一枚で倒せないのなら二枚でどうだと言わんばかりに、もう一枚の札を使う。
余計なことは考えない。
いらぬ考えは畏れを招く。
畏れは身を鈍らせる。

鬼はようやく、その場に崩れ落ちる。
死んだわけではない。
紫はあのとき、退治した鬼を生かすも殺すも自由だと言った。
だから、殺しはしない。
殺すと、理想が遠のくような気がするから。

巫女は続け、鬼が三体ほど固まっている場所に走る。
三体も一度に相手にできるかどうかは考えない。
やらねば、追われている人間が死ぬ。

巫女は走り、そして鬼の拳を、棍を、鉄杖を避ける。
もはや、巫女には目の前の攻撃と、その攻撃を繰り出す鬼しか映らない。
それ以外の雑念は邪魔なだけだ。
心は次第に無に近づき、巫女の動きからは無駄が消える。
その動きは、まるで舞のよう。
魔法のように拳をかいくぐり、一枚二枚と札を扱う。
鬼たちは、一体二体とその場に崩れ落ちる。

三体めの鬼を倒した。
しかしまだ、鬼が押しているようだ。
数では人間が勝っているとはいえ、そのほとんどがまともに戦えもせず、腰を抜かして怯えている。
一度覚えた恐怖は簡単に抜けるわけでもないということか。
しかし、それもいいだろう。
数が少なくても鬼は鬼。
下手に歯向かっても犠牲が増えるだけ。

巫女は周囲をぐるりと見回す。
境内の隅で、じっと戦況を睨みつけている萃香を見つけた。
萃香の角には、あの日巻いたままの布がそのまま残っている。

――よかった。

巫女は思った。
萃香はここで人間を襲ってはいないのだ。
なぜこんなことになっているのか理由はわからない。
でも、その角に布が巻かれているだけで信じられる。
人と鬼は殺しあうだけではないのだ。
現に、人を殺さない鬼がいるではないか。
なれば、自分も鬼は殺さない。
改めて誓うと、巫女は一際目立つ、一本角の女鬼がいる場所に戦いの場を移した。




「おのれ、人間め!」

一本角は、怒りに声を震わせながら腕を振り回す。

「鬼をだまし打ちするとは、今度という今度は愛想が尽きたわ!
 どんな手を使っても、生き物の頂点に立とうと望むなら、その望みごと私が喰らい尽くしてやる!!」

鬼の周りには死体が転がっている。
名のある鬼なのであろう。
身体の大きさこそ男鬼に負けるかもしれないが、その威圧力は決して見劣りするものではない。
しかし、いまさら怯える巫女でもない。
怯える武士の前に立つと、札を手にし、構える。

「ほう、お前が萃香の言っていた巫女だな」

鬼の目が巫女に向く。
その目は赤く燃え、視線だけで人を呪い殺せるのではないかという錯覚さえ覚える。

「もはや人間との勝負など期待はしないが、それでも身一つで私の前に立ったことは褒めてやろう」
「御託はいいから、かかって来なさい」

巫女が嘯くと、一本角はにやりと哂う。
いきなり、丸太のような腕が吹っ飛んできた。
大振りなら怖くは無い。
避けるのはさして難しくないから。
しかし、鬼の拳は強く、そして早かった。

怒りに任せるように、次々と拳が飛んでくる。
巫女は避けることに集中する。
大丈夫。 避ける間があるなら、いつまででも避け続けられる。
どんなに強い力があっても、当たらなければ――

「――どうということはないわ!」

右に左に舞うように拳を避け、鬼に札を貼る。
…しかし、鬼の動きは止まらない。
貼った瞬間に札を引きちぎり、新たな拳を繰り出してくる。

「お前の戦いは見させてもらった。
 その札さえ気をつければいいだけじゃないか」

一本角は高らかに哂う。
繰り出す拳は暴風雨のよう。
考えることは避けることだけ。
後は雑念。
巫女は幾度となく繰り返した戦いを今も繰り返すだけ。
絶対に攻撃が当たらない者を相手にしたら、いくら力が強くでも結果は変わらない。
たとえヘビー級のボクサーがストロー級のボクサーを相手にしたところで、結果は覆りようもない。
その先には敗北しか有り得ない。

暴風雨は次第に壁になる。
萃香を相手にしたときもこのようなことがあった。
あの時は、避けたつもりが袖に当たったっけ。
もしもあのとき当たらなかったら、どうなっていたんだろう。
もっと攻撃は速くなったのだろうか。

(…と、いけないいけない。 雑念は敵ね)

髪をかすめる拳に意識を改めながら、再び心を無にする。
攻撃は止まらない。
避けることに集中。
拳が飛んでくる。
集中。
拳が飛んでくる。
集中。
いつ終わるのかも知れぬ攻撃。
巫女はそれを避け続ける。

止まらない拳の先には何があるのだろうか。
心を無にした先には何があるのだろうか。

それは不思議な光景。
鬼の攻撃には隙間が無いように見える。
拳は直線に飛んでくるだけではない。
なぎ払うこともあれば、時には足が飛んでくることもある。
目に見えない速さで腕を振り回し、足を振り上げたとき、その正面に立つことはできるのだろうか。
巫女は、その無理を平気で行っている。
いくら腹を狙おうと、重点のかかった足を狙おうと、巫女には当たらない。
動きは鬼のほうが早い。
巫女は、ただその場でゆらゆら揺れているようにしか見えない。
だが、いくら攻撃を重ねようと、巫女には当たらない。

「ええい、うっとうしい!」

目の前にいるのに倒せない巫女に痺れを切らしたのだろうか、一本角が雄叫びを上げる。

巫女は目の前にいるではないか。
なれば、両の拳を槌と化して振り下ろせばいいだけの話。
後ろに逃げられるかもしれない。
だが、それなら後ろが無い場所まで追い詰めればいい。
鬼は拳を振り上げる。
その速度は神速。
大振りとはいえ、今までに劣るものではない。

一本角は両腕を振り下ろす。
だが、目の前から巫女は消えていた。
振り上げた腕に視線が途切れた瞬間、巫女は場を移したのだ。

「終わりね」

空から声がする。
巫女は宙に浮いていた。

そして、二度と引きちぎることができぬよう。
引きちぎるための腕を動かせないよう。
鬼の右腕には一枚、左腕には一枚。
鬼封じの札が貼られていた。




長い戦いを終え、巫女は振り返る。
もはや動く鬼はいないだろう。
これでやっと戦が終わっていると信じ、巫女は振り向く。

だが、戦はまだ終わってはいなかった。
またもや、攻守が逆転したのだ。

そこにあったのは、動けぬ鬼の息の根を止めようとする武士の姿。
恐怖の対象を消し去ろうと望む弱い人間たちの姿。
巫女が札を貼った鬼の数体は、もう首と身体を斬り離されている。

しかし、巫女が奪われたのは鬼の断末魔ではない。
それは、動けぬ鬼の前に立ちふさがる、見慣れた小さな姿。
萃香が武士の前に両手を広げて立っている。
決して人間を襲ってはいない。
ただ、憎しみを込めて、武士を睨みつけている。
そして、武士は彼女が襲ってこなことを見切ったのだろうか。
太刀を振り上げ、今にも萃香に振り下ろそうとしている。


「やめなさい!!」

あらん限りの声を張り上げる。
武士が驚いてこちらを見ているうちに距離をつめ、武士の前に立ちふさがる。

「…もう勝負はつきました。
 無駄な殺生をするなら、私が相手になりましょう」

きっと睨めつけた巫女に、しかし、武士は動じなかった。
鬼には畏れを抱いても、年端もいかぬ巫女には動じないということだろうか。

「ふん。 鬼は人間に害をなすもの。
 退治して何が悪い」

――ああ。
やはり、人と鬼とは相容れぬのだろうか。
いくら自分が命を奪わずに済ませても、こうして他の誰かが命を奪おうとする。

武士は憎憎しげに続ける。

「お前が鬼と通じていることは聞いておる。
 戦いを見ても、鬼の命をとろうとはしないではないか。
 鬼に殺された者の無念、よく味わってもらおうか!」

武士が太刀を振り下ろす。
雑念にとらわれていたとしても、単純な攻撃を受ける巫女ではない。
巫女は、余裕を持って太刀筋を見切る。

その巫女の身体を背後から太刀が貫いたのは、そのときであった。

「な…に…?」

巫女が振り向く。
背後には別の武士。
その顔が憎悪に歪んでいる。
畏れにとらわれ、憎悪に歪んでいる――。




萃香は見ていた。
巫女の背後から、武士が太刀を前に体当たりをするのを。

そのとき、何かが切れた気がする。
気がつくと、武士に向かって腕を振り回していた。
武士が吹き飛ぶのが解る。
角の布が燃え尽きるのが解る。

――約束、守れなかったな。

鬼はなんとなくそう考える。
仲間が人に襲われるのも我慢した。
そのときは鬼が優勢で、手を出さなくてもなんとかなると思ったから。
巫女が現れたのは知っていた。
巫女が仲間を殺したら、自分も黙ってはいないと思った。
しかし、巫女は鬼を傷つけず、ただ動きを止めるだけ。
これでは、手を出すわけにもいかない。
やがて、鬼たちは札で動きを止められた。
それはいい。
巫女は正々堂々と戦ったのだから。
しかし、その仲間たちに人間どもが太刀を振り上げるのは黙ってられなかった。
人間の前に立ち、その邪魔をした。
それでも。
それでも萃香は、人間に手を出しはしなかった。
手を出したら、巫女と友達になれなくなるから。
それは、仲間を殺さなかった巫女を裏切ることになると思ったから。

しかし、それももう終わり。
もう、約束は終わった。
彼女が約束を破ったのだ。
巫女を貫く者を許さねばならぬのなら、もう友達と言われなくてもいい。
巫女が人間のためにどれほど戦ったと思うのだ。
それを全て無にする者がいるなら、彼女に代わって、私が戦おう――


見渡せば、何百もの鬼。
全ての萃香が、武士を倒そうとしている。
分身は萃香の持つ能力のひとつ。
しかし、これほどの数は萃香本人ですら予想できないもの。
限界を超えた能力の発動。

武士はいきなり現れた無数の鬼に怯え、逃げ惑う。
それは、とても悲しい風景。
巫女は歪む視界に耐えながら、なんとか言葉を紡ぐ。

「駄目、萃香。
 殺しては――」

なんとか、それだけ振り絞った。
彼女には聞こえただろうか。
まばらに降りしきる中、何百もの萃香が踊る幻想的な風景を最後に、巫女は意識を失った。




    「公平でないといけないから、何の勢力にも入れないって?
     そんなルール、無視すればいいじゃない。
     あなたの言うことが正しいなら、理すべて無視していいんでしょ?
     誰と仲良くしようと、私の自由よ」
    「お、霊夢いいこと言うね まま、酒でも飲もうよ」
    「あんたは少し飲みすぎ。 少しは遠慮しなさい!」

        (霊夢と萃香の会話より 博麗神社の宴会にて)





【終章 萃まる夢、幻】

それから後。
私は、相変わらず妖怪退治に精を出している。
神社は何も変わらない。
ただ、周りが変わった。
今では、晴れた日に遊びに来る子供たちはいない。
そして、雨の日に遊びに来る小鬼もいない。

あの後私が気づいたのは、神社の部屋の中。
傷の手当てはしてあったが、誰の仕業かもわからない。

萃香は、結局武士を殺さなかったらしい。
時々覗きにくる、紫とかいう隙間の妖怪から聞かされた。
彼女は相変わらず胡散臭い。
今では、彼女は神様ではないと思ってる。
多分、はぐれ妖怪の一種だろう。

人間は神社に寄り付かなくなった。
鬼の味方と思われていたのかもしれない。
あの後、幾十かの妖怪退治を行ってからは誤解が解けたのか、里で買い物ができるようになった。
まあ、だからといって神社に足を運んでもらえるほど打ち解けたわけではないが。
おかげで、神社の前に供えた賽銭箱はいつ見ても空っぽだ。

寂しくはあったが、私がやることは変わらない。
紫と話したときのまま。
妖怪が悪さをしたら退治する。 しかし、命まではとらない。
よくも続くものねえ、と紫は言う。
なんと無責任な発言だろうと思うが、彼女は彼女なりに私を気にかけてくれてるのだろう。
今となっては、彼女だけが私の話相手。

妖怪退治が続くのは、私にとっては当たり前の話。
萃香が殺生をしなかったから。
妖怪も鬼も人を殺す。
それは当然ではある。
でも、彼女は違う理想を私に見せてくれた。
人を殺さない鬼があってもいいじゃないか。
別段、全ての鬼がそうなるだなんて思ってはいない。
でもまあ、一人くらいそんな奴がいれば、それでいい。

そんなことを考えながら、代わり映えもしない日々を過ごす。
萃香が私の前に姿を見せたのは、そんな代わり映えもしない、普通の雨の日だった。




「元気にしてた?」

びくびくと怯えた様子で、萃香は神社に顔を出した。
何をそんなに怯えてるのか聞いたら、布を燃やしてしまったかららしい。
そういえば彼女は、あのとき人を襲っていた。

「そんなこと、気にしなくてもいいのに。
 あれは不可抗力でしょう」

私は微笑むと、彼女のために新しい布を巻いてあげた。
萃香はとても嬉しそうに、私の横に座った。

「…神社、誰も来なくなったみたいだね」
「そうねえ。 まあ、仕方ないわ。
 あなたが時々遊びに来てくれれば、退屈もしないですむのにね」

萃香はしかし、ゆっくりと首を横に振る。

「ここに人が来なくなったのは、きっと私のせい。
 人と仲良くしようとしたから、何かおかしくなったんだ」

私は黙って萃香の顔を見る。

「今日は、お別れに来たんだ。
 私がここに姿を見せたら、また人が寄り付かなくなる。
 本当は、もう来くまいと思っていたんだけど、お別れの挨拶もしていなかったから、来たんだ。
 だって、巫女とは、友達だから」
「気にすることはないわ。
 いつでも遊びに来なさい」

萃香はもう一度首を横に振る。

「私、こう見えて力があるんだ。
 分身できるのは、巫女も知ってるよね。
 でも、実はそれだけじゃない。
 いろんなものを集めたり、散らしたり。
 そんな力があるんだ」

私は黙ったまま。
ただ、萃香の言葉に耳を傾ける。

「今はまだ、うまく力を使えない。
 だけど、訓練すれば、この神社に人や妖怪を集めたりできると思うんだ。
 だから、いつか力がついたら、そのときまた来るよ。
 いつか、人も鬼も皆で、この神社で遊べるように、がんばるから」

そう言うと、萃香は立ち上がる。
私は、慌ててその手を掴む。
掴まないと、そのまま行ってしまいそうだったから。
だけど、その手は掴めない。
霧のように消えていく。

「これも、私の力。
 じゃあ、もう行くね」

それが最後の言葉だった。
まるで幻のように、目の前から萃香の姿が消える。

「萃香!」

私は声を張り上げる。
まだ聞いてくれてると信じながら。

「いつでも、好きなときに来てね!
 私たちは、友達なんだから!!」


萃香はきっと、私と同じ楽園を思い描いていたんだと思う。
私は、それを実現させるために、鬼を、妖怪を退治するという道を歩んだ。
萃香は、単純に皆が集ればいいと思っただけ。

でも、やり方は違えど想いは同じ。

私は、いつの日か彼女ともう一度遊ぶことを想像し、少しだけ笑った。



諸先輩方の素晴らしいSSに触発され、初挑戦してみました。
色々と至らぬ箇所があったかと思いますが、最後まで読んでくださった方、ありがとうございました。

―――――――――――――――――――――――
誤字を少し直しました。(1/17)

お初におめにかかります、2号と申します。
初めてのこんぺ、手探りで挑戦させていただきましたが、みなさまの暖かいご感想に感激することしきりです。
とても楽しい経験をさせていただき、ありがとうございました。

反省点といえば、時間配分がうまくいかなかったことですね。
「まだ大丈夫だ」と考えていたらもう締め切り前日。
慌てて仕上げてしまいました。
書いてみて自分の描写力の無さに泣けてきましたが、それは今の自分の精一杯なので仕方がない。
ただ、時間はもっときちんととり、最終日に慌てることがないようにしないとと思いました。

さて、コメ返しです。

>名無しさん
萃香はちっこくてかわいいですよね。
幻想郷というなにか奇跡のような場所ができたのは、色んな想いがあったからだと思います。
自分なりに料理できればと思いましたが、なかなか難しいですねw
楽しんでいただけたなら、何より勝る喜びです。

>静かな部屋さん
作中の巫女は、霊夢よりもずっと先代の「平安時代の博麗の巫女」のつもりでした。
それからずっと後、萃夢想で萃香が神社に帰ってくる、と。
いかんせん説明不足・描写不足でした。
精進します。

>#15さん
どんなに科学が発展しても、自然や神への信仰のようなものは素晴らしいものだと思うのです。
それは、しゃちほこばったものではなく、単に自然の中に行ったり神社参りにいったりすると心が洗われるような気分になるといった感じで。
人間として何が正しいのかはわかりませんが、精神的なものも大事にしたいなと思います。

>フリーレスさん
んー、いただいた感想の流れとは違いますが、花いちもんめは確かに伏線にしようと思ってましたw
書いてるうちに展開が変わっちゃって。
いやあ、参った参った。

>神鋼さん
鬼が人を見捨てたという設定は、どうしてもハッピーエンドになりにくいですね。
でも、幻想郷を訪れた萃香を見てると、単なる悲劇というわけでもなさそうに思いました。
それが拙作を書いた理由のひとつでしたが、少しでも伝えることができたのならとても嬉しいです。

>藤木寸流さん
幻想郷は楽園ですね。
今の幻想郷があるから、昔鬼がいなくなったというお話も単なる悲劇にならないんだと思います。
いや、東方は素晴らしい。

>バーボンさん
雨に関しては、確かに無理くり絡めたところもありましたね。
萃香の二つ名の「疎雨の百鬼夜行」からひっぱってきましたが、弱かったです。
人と鬼とのすれ違い、っていうのは、雨に絡めてるつもりはありませんでしたーw

>いすけさん
少しでも楽しんでいただけたなら、無上の喜びです。
お読みいただき、ありがとうございました!

>zarさん
萃香の宴会が楽しそうで楽しそうで。
ただお酒が好き、というだけでなく、そこに何かの想いがあったとしたら素敵だなあと考えました。
感想ありがとうございました。

>パレットさん
鬼退治のお話をうまく表現しようと思いましたが、力量不足を痛感しましたねー。
いつか、もっと重厚に、それでいて楽しく読めるような文章力を得たいものです。

>白錨さん
何か、巫女と萃香との間をつなぐアイテムが欲しいなと想い、リボンを使わせていただきました。

人間としても、自分たちを脅かす鬼は退治しなければならなかったんだと思います。
人里に現れるクマのような感じでしょうか。
何が正しいのかはわかりませんが、だからこそ私は共存できる幻想郷というものに惹かれたのかなあと思いました。

>nnsさん
きっと会えますよ!
むしろ、後日何事もなかったかのように萃香は神社で居候してるかもしれません。
まあ、そんなこと言ったら萃夢想に繋がらないので、お話は当然のようにお別れで終わりにしましたw

>椒良徳さん
いやあ、書いてみてまざまざと描写力の無さを痛感しました。
言い回しや人物の掘り下げは、精進するだけでなく、もっと丁寧に書くことを心がけないといけないなと思います。
貴重なアドバイス、ありがとうございました。
またいつか、そそわにでも投稿した際にはよろしくお願いします。

>詩所さん
詩所さんの萃香像を壊してなければ幸いです。
設定にもかかわるお話でしたので、みなさんに愛される東方キャラのイメージを壊したらいけないなーと考えてました。

>文鎮さん
本当は熱い戦いを描きたかったのですが、いかんせん力量不足でw
巫女と鬼との心情や、幻想郷へつながる想いは何より描きたかったところです。
伝えたかった場所を評価していただき、本当に嬉しいです。

>desoさん
身に余る評価ありがとうございます。
短めの文は癖だと思いますが、読むのにストレスがなかったのなら幸いです。
精進して、もっと面白いお話が書けるようにがんばります。

>やぶHさん
文章には、練りどころかもともとの表現力が足りてないなーと思いました。
なんというか、表現したいものが表現できない。
やぶHさんの言うように、雰囲気の作り方もいまいちできてなかった気がします。
少しずつでも上手くなりたいものです。
貴重なアドバイスありがとうございました。

>八重結界さん
本当に、全てを受け入れる幻想郷は楽園だと思います。
人と鬼とのすれ違いは、幻想郷がなければ悲劇にしかならないんだろうなと感じました。
ベスト10にニ作品入り、おめでとうございます。

>零四季さん
雨はもっと突っ込んだほうがよかったですね。
どうにも、雨が中心にはならず、ただだらだらと雨を降らせることしかできなかった印象です。
拙作は楽しんでもらえたなら無上の喜びです。

>木村圭さん
萃夢想のお話を振り返っていただけたのなら、拙作を書いた甲斐もありました。
紫は謎ですねー
たぶん、幻想郷の理想を作るのにいろいろやってるんだとは思いますが。
でも、紫と博麗の巫女が作り上げた世界だとは思います。
すごく成し難い理想を形にするのは、大きな想いがあったんじゃないかって考えました。

>時計屋さん
嬌声はまずかったですねw
なんか、楽しげな声というつもりで書いてしまいました。
反省もこめて、本文は直さないでおきますー
文章力は、今後の課題です。
表現したいものが表現できるように精進します。


みなさん、感想ありがとうございました。
2号
作品情報
作品集:
最新
投稿日時:
2009/11/21 23:49:53
更新日時:
2010/01/17 16:32:32
評価:
20/21
POINT:
137
Rate:
1.54
1. 10 名無し ■2009/11/23 22:06:36
そして幻想郷に至る、と。
それにしても萃香は良い子だなぁ。めんこいめんこい。

素敵なお話有難うございました。
2. 5 静かな部屋 ■2009/11/24 16:03:03
時代が滅茶苦茶。
霊夢の年齢は大体15〜18位と思ってるんだが、こりゃ一体何年前の話だ。
大体萃香も幻想郷に来たのが萃夢想のときだろ?
幻想郷の成立が明治16年なのに源氏平氏が現存してるし……。
でもまあストーリーは好き
3. 9 #15 ■2009/11/30 16:50:55
人間は臆病で、脅威となるもの全てを憎まずには居られない。
だからこそ、ここまで繁栄できた。
しかし、そんな生き様を不義ではないかと、そう言ったのも人間自身である。
果たして、どっちが『人間』として正しいのでしょうか?
4. フリーレス no name ■2009/12/14 23:18:59
すいかが花いちもんめを分身して行った時点で、これは伏線だと思い込み、次のシーンで鬼たちが大勢いるのをみて、実は全て酒呑の分身であるというオチを期待していた。絶対にラストバトルで「うわはははは、この酒呑、人間如きに(略)」とかいって、斬ったのは全部ただの分身ですよー的な大立ち回りがあると思ったのに。しょぼん。
5. 8 神鋼 ■2009/12/25 20:18:55
この話のこれからのことを思うと少々辛くもあります。でもこの後味の良さはいいなあ。
6. 4 藤木寸流 ■2010/01/04 03:17:40
 ううむ。切なくも悲しい話。でもそれが今の幻想郷に繋がっているから、悲しまなければならないこともないのでしょう。
7. 6 バーボン ■2010/01/05 19:51:00
人と鬼とのすれ違う様がよく描写されていたと思います。話の展開のさせ方やわかりやすい文章など、ストレスを溜めさせない話の作りが好印象でした。
惜しむらくは、お題である「雨」をもう少し活用して欲しかったと言う事。雨の日にしか鬼が神社に姿を現さないと言う事を、人と鬼とのすれ違いになぞらえているのかもしれませんが……。
8. 6 いすけ ■2010/01/05 20:05:51
面白かったです。
9. 3 パレット ■2010/01/10 05:30:00
 大江山鬼退治の東方アレンジといった形でしょうか。
 紫の語る理想が、そのまま現在の東方へと結びついている感じで良かったです。
10. 7 白錨 ■2010/01/10 12:10:02
鬼の義理堅さと、萃香のリボンの背景が丁寧に書かれた良作だったと思います。
人間こそが化け物なのかもしれないな。と改めて思いました。
11. 10 nns ■2010/01/10 23:39:01
博麗の巫女と萃香がまた会えますように
12. 7 椒良徳 ■2010/01/11 20:03:12
>殺し合いの代わりに何か特別なルールで競い合うなんて日も来るかもしれないわ
ちょっとちょっと、紫様。平安時代です、平安時代。毛唐の言葉は自重してください。

それはさておき、初挑戦お疲れ様です。初挑戦とは思えぬ出来にパルパルしてしまいました。友情物は何度読んでも良いなあ。

さて、文章に関しては読みやすくて良いと思います。
ただ、文章規則(小説作法)が守られていない点が若干目につきました。
そんな瑣末なことは話の内容とは関係ないのですが、狭量な奴ら(例えば私)から罵倒される羽目になりますので、ものの本か小説の書き方解説サイトでも参考にしてみてください。

あと、酒呑童子や源頼光といった、オリキャラ達の書き込みが足らず二人のキャラがいまいちつかめませんでした。殺されることになる酒呑童子にしても、殺すことになる源頼光にしても、二人には家族や友人や部下も居たでしょうし、いろいろと思うところもあったでしょう。男として譲れないこともあったでしょう。命を賭けてでも守らなければならないこともあったでしょう。個人的にはそういったオリキャラの背景や思想、心の描写をもう少し丁寧に書いて頂けたほうが読んでいて感情が揺さぶられて良かったかなと思います。というか、あっさり殺された九条の姫様達カワイソス(実はこれが言いたかった)。

くどくどと書いてきましたが、貴方の言う”諸先輩方”から比べるとまだまだですが初挑戦でこの出来は素晴らしいと思います。
これからも実力をメキメキとつけて先輩方と肩を並べる作家さんになってください。一読者として期待しております。
13. 6 詩所 ■2010/01/13 22:29:44
 萃夢想へとつながるいい萃香でした。
14. 10 文鎮 ■2010/01/13 22:54:57
巫女は鬼と共存する道を探り、子鬼は巫女との約束を守ろうとする。その様子が淡々と書かれていて、まるで昔話を語られているようでした。
雨が降る中での戦いもどこか淡白でしたが、無心で戦う巫女にはぴったりの書き方だったと思います。つまり平安時代の博麗の巫女はクールかっこいい。
ちょっと頼りない源頼光や幻想郷の原点もまた良い感じです。
15. 7 deso ■2010/01/13 23:44:08
導入から山場、そして暖かくなる締め方。
良い構成だと思います。
面白かったです。
短めの文章も好み。
16. 8 ホイセケヌ ■2010/01/14 19:03:36
ンヘマ网ォ、、、、、、鞏ヘマ罍」
ハシ、皃マンヘマ网ホソレユ{、菻ミモ、ピ`コヘクミ、メ勁ィ、゙、キ、ソ、ャ。「ンヘマ网マ、ウ、ホ瓶オ网ヌミ。ケ、ハ、、ヌ、ケ、隍ヘ。」、サ、テ、ォ、ッ、ハ、ホ、ヌ。「、、、ト、筅マメ侃鬢、ハ、、シψ譟oケク、ハンヘマ网ミトミミ、ッ、゙、ヌソートワ、オ、サ、ニ、筅鬢、、゙、キ、ソ。」

ケ、ネネヒ、ホヤレ、キス、ネ、、、ヲ・ニゥ`・゙、ヒムリ、テ、ニノマハヨ、ッ、゙、ネ、゙、、隍ヲ、ヒ・ケ・ネゥ`・ゥ`、ャセ圖鬢、ニ、、、ニ。「痩、ネンヘマ网ス、、セ、、ホソ熕丶ャチシ、ッ⊇、、熙゙、キ、ソ。」、、、、ヤ庁」

、ウ、、ャウSS、ネ、ォニレエ、ホミツネヒ、ケ、ョ、、ヌ、キ、遉ヲ」ソ
17. 7 やぶH ■2010/01/15 01:42:31
萃夢想等で見せる、萃香の人間に対する愛憎ないまぜの感情は何なのか。
材料の目のつけどころ、そしてストーリーの骨格としては十分です。
ただ、文章に練りが足りない気がします。せっかく時代が明らかなので、『たとえヘビー級のボクサーがストロー級のボクサーを相手にしたところで、結果は覆りようもない』のような現代的表現をなるべく避ける等の細かい修正によって、当時の生きた風がより読み手に伝わり、キャラクターを生かす土台となる世界が生まれるのではないかと思います。
さらなる面白さのために、そういったところを工夫してみてはいかがでしょう。
18. 7 八重結界 ■2010/01/15 17:25:11
 人間から見れば人間が正しく、鬼から見れば鬼が正しい。当たり前の話ですが、ままならなぬものです。
 それを全て受け入れるのだから、幻想郷というのは人にとっても鬼にとってもまさしく理想郷なのでしょう。
19. 9 零四季 ■2010/01/15 22:39:42
良いなぁ、これは実に良いと思います。
かつての鬼、今の鬼。かつての人、今の人。
雨をもっと上手く使って欲しかったというのは少しあるのですが、気にさせないくらい素晴らしい話でした。
20. 4 木村圭 ■2010/01/15 23:19:55
その理念が脈々と受け継がれていったのは、代々伝えていったからなのか、どこかのはぐれ妖怪がそれとなく吹き込み続けたからなのか。
霊夢にとっては萃香は初めて見る存在に間違いないけど、萃香の方は色々思うことがあったんだろうなぁ。
21. 4 時計屋 ■2010/01/15 23:25:56
 子供達が嬌声を上げたら色々と問題があるだろ!? と初っ端から突っ込んでしまいました。

 さて。
 お話自体は私の好みでした。特に巫女が悩みを深める過程は良かった思います。
 ただ、文章や描写に粗が目立ちました。
 そのためか、時代背景や重いテーマを表現しきれていないように思えました。
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