地の底に降る涙雨

作品集: 最新 投稿日時: 2009/11/21 23:54:40 更新日時: 2009/11/21 23:54:40 評価: 17/17 POINT: 87 Rate: 1.24
    ※この作品は、フーダニット(Who done it.:誰がそれを行ったか?)を探し当てる作品ではありません。
     ご了承ください。



 水橋パルスィはその光景を目にし動かなかった、否、動けなかった。
 だが、それを責めるのは酷と言うものだろう。
 曇天の下、目の前に広がるのは、文字通り地獄絵図だったのだから。
 彼女は今、旧都の外れに立っている。そこから見える光景は、いつもならば旧都の街並みの筈である。
 しかし現在目の前に広がっているのは……更地であった。
 のみならず、その家があったとは思えない領域では多くの鬼・地下妖怪が理性の感じられぬ行動を思い思いに行っていたのだった。
 ある者達は狂ったように哄笑を上げながらお互いに殴りあい、またある者は凄絶な怒号を叫びながら男を追いかけまわしていた。
 はたまたある者は、己の拳を用いて家を砕き更地をさらに拡大させていた。
 ふと、響き渡る声の中に異質な声音の声を聞き取った。
 誰の声か記憶と照合する前に顔を僅かに動かしそちらを向くと、視線の先では茶色い服を着た少女が恐怖の表情と涙を浮べ座り込んでいた。
 パルスィと視線が合うと、少女は歯の根が合わぬかのようにがちがちと震える口を何とか動かし辛うじて信号を送った。
 途切れ途切れで『タ・ス・ケ・テ』と。
 なるほど、救助を求めるのももっともである。
 彼女の周りを、理性を持たぬように見える鬼が6人ほどで円を描き、地面を殴ったり隣の者を殴ったりを繰り返していた。
 並みの妖怪では、あれに触れた瞬間襤褸屑のように吹き飛ばされてしまうであろう。
 おまけに、それ以外にも所々で乱闘騒ぎが発生しているのである。
 知人の元へ行き助けることができるのは、現状では自分だけであろう。
 しかしそれは、己の命も天秤にかける行為である。
 パルスィは震え続ける少女と視線を交わし、今の自分にできる最高の笑顔を手向けに送り……
 踵を返しその場を後にした。
 正直、自分の命が惜しい。
「薄情者ぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
 最後に聞こえたのはきっと幻聴だろう。もうこれ以上は何も聞こえない聞こえない。関わり合いたくない。


     涙雨:涙が変化して降る雨、あるいはほんの少しだけ降る雨のことを指す。


「いやぁすまんかったすまんかった」
 後頭部をばつが悪そうに掻きながら、星熊勇儀は素直に謝った。
「や、ホント死ぬかと思ったんだからね?アレは」
 しかし黒谷ヤマメは機嫌を直すことなく猪口のお酒をチビチビと飲み続けていた。
「と言うかパルスィも酷いよね。見捨てて一人だけ逃げるんだからさぁ」
「無茶言わないでよ。鬼たちが暴れている中に自分から入っていくなんて、自殺志願者くらいしかいないわよ」
「ゴ、ゴメン……」
「いやいや、助けを呼びに行ったキスメは悪くないよ。悪いのは暴れてた奴等と見殺しにしたコイツなんだから」
 正午を少し過ぎた現在、4人はパルスィの定位置ともいえる縦穴でお酒を飲んでいる。
 名目としては『ヤマメを慰める会』兼『朝の反省会』といった所か。
「死んでないんだからいいじゃない」
「死ぬかと思ったんだってば!!」
「まぁそれはそれとして……」
「するな!」
「結局、あの阿鼻叫喚の原因はなんだったのよ」
 打てば響くように猛り突っかかってくるヤマメから視線を外し、パルスィは勇儀に質問をした。
 今朝、パルスィは最近のお気に入り暇つぶしである読書をして長閑な時間を過ごしていた。
 ちなみに、本の送り主は霧雨魔理沙である。
 人里で捨てる本を大量にもらったはいいが、重複が多いことに気づいて始末に困りパルスィにあげたというのが真相だが、パルスィとしてはいい暇つぶしができたと喜んでいる。
 それはさておき、多少雑音があるもののそれを気にせず朝の読書を嗜んでいたパルスィのところに文字通り飛んできたのがキスメである。
 とにかく来てくれと懇願した直後緊張の糸が切れたのか気絶してしまったキスメに従い旧都に向かった彼女が目にしたのが、冒頭のゲヘナな光景である。
「原因……?あぁ原因ね。何、あれの原因自体は大したことじゃないよ」
 そこまで言ったところで勇儀は言葉を止め、盃の酒を一気に飲み干してから続けた。
「ほら昨日の夕方かつてない位の大雨が降っただろ?あれのせいで酒蔵が一個全滅してさぁ。それのストレス発散だったって訳さね」
 ゴチン、と。
 そんな音がしたので、パルスィは先ほど逸らしたヤマメの方向に視線を戻した。
 予想通りと言うべきか、ヤマメは地面に頭をぶつけて撃沈しており、キスメが心配そうにその頭をなでている。
 言葉を発してはいないが、その背中は口よりも目よりの雄弁に彼女の心境を語っていた。
 曰く『んな事で私ゃ死ぬ恐怖味わったんかい』と。
「死にゃあしないって。昔はあの位日常茶飯事だったんだからみんな加減ってものが判ってるし」
『鬼の手加減ってのでも、十分普通の妖怪は三途の河へ行けそうなんですけど』
 3人は一様に同じことを思ったが、全員その言葉を飲み込んだ。言うだけ無駄な事は言わないのも一つの処世術である。
「でも、建物を壊したのは不味いんじゃ……」
「なぁに家を建てるぐらい鬼にとってはお茶の子さいさいさね。知らないかい?橋を人知を超える力で作った鬼六って奴の話」
 キスメの疑問に、勇儀は豪快に笑いながらまた盃を空にした。
 確かに、飲み始めた頃から耳を澄ませば旧都のほうからトンテンカントンテンカンとリズムよい大工仕事の音が聞こえてきている。
「ま、そこまでビビらなくてもいいじゃないか。実際、アイツも周りをまわってるだけだったろ?」
「死なない保証があるにしても怖いものは怖いんだってば!!っジェットコースターって知ってる!?」
「まぁまぁ、そろそろ済んだ事はお酒に、もとい水に流しましょうよ」
 堂々巡りになりそうだったので、パルスィはヤマメの乾いた猪口に酒を注ぎながら宥めに入った。
 ぶっちゃけ、朝中断された『まんが四字熟語辞典』の続きを読みたいので早々に切り上げたいのだ。
「いや、話はどうもそう単純じゃないようなんだ」
 勇儀は急に佇まいを直し、酔いが欠片も窺えない声音で続けた。
「……なんでさ?雨の所為で暴れた。たまったストレスは発散した。それで終わりじゃないの?」
 正直嫌な予感しかしない。それでもヤマメは聞かざるを得なかった。見れば、キスメもパルスィも酒を飲む手を止め顔を引き攣らせていた。
「問題は、あれだけの量の雨が降ったことだ」
「雨?」
「あぁ、いつぞやの魔法使いが来た時みたいに、この地底とて雪が降ることもあれば雨となることもある。だがあの量は『普通』じゃなかった」
「つまり――誰かが故意に雨を降らせた、と?」
「そういう可能性が高い。その所為で、通常プラスアルファくらいの降雨対策しかしていなかった酒蔵が一つやられてしまった訳だ」
「……」
 勇儀以外の3名は顔を見合わせた。
(どう思う?キスメ)
(えっと、大雨は偶々だと思います……)
(でも、もし誰かの仕業だったら……また大雨で似たようなことになったら)
(今朝のタルタロス具現化アゲイン?)
(((…………)))
 誰からともなくお互いに頷きあって。
「仕方ないわね、手を貸してあげるわよ」
「悪戯にしろ大きい悪意あるにしろ、調べておくに越した事は無いもんねぇ、キスメ」
「う、うん」
 一致団結して協力することを誓った。
「いやぁ助かるよ」
「は、はははははははは」
 素直に喜ぶ勇儀を見て、あぁ本の続きはまた今度になりそうだなぁと考えながらパルスィの発した乾いた笑いはゴツゴツした天井で反響するのだった。


     篠突く雨:束ねた篠が突きおろされているように酷く降る雨の事。


 結局、その日の夕方からまた雨が降り出したので調査は翌朝から開始するということでその日は解散となった。
 そして翌朝。今度は広がった雲の下に再建されつつある旧都へと4人は集まっていた。
「さて、どうしようかねぇ?」
 キスメを抱えたまま、ヤマメはパルスィと勇儀を交互に見て口を開いた。
 一番最初に答えたのは、勇儀だった。
「とりあえず私は今日地上に行ってくるわ」
「え?」
「何故に?」
「……なんでですか?」
「昨日お燐の奴にアポイント取るよう頼んでおいたんだよ。犯人がいるとして、それが『地上の奴』でない保証はないからな」
 あっけにとられる3人に対し、勇儀はあっけらかんと説明した。
「それは確かに」
「だから、新聞やってる天狗達に地上の近況聞いてこようかと思ってね」
「あ、あぁ、なるほど……」
 口には出さなかったが、ヤマメ、キスメ、パルスィは天狗の皆さんに黙祷を捧げた。
「そういえば河童にも『たまにはお酒呑みにでも遊びに来てやってください』って言われてたしな。日頃は忙しいらしいがまぁあらかじめ連絡入れておけば大丈夫だろう」
 続いて、河童の皆さんに黙祷のお時間です。
「…………どうした?3人とも黙りこくっちゃって」
「いえ、昨日のうちにその事を聞かせていただければそれを踏まえて予定を夜のうちに考えておけたのだけれども、と思っただけよ」
「おぉすまんすまん、夜になってから思いついてお燐の奴に連絡取ったんでな」
 3人の真意は意に介さず、勇儀は豪快に謝った。
 彼女が頭を下げた時、3人が同時にため息をついたのには果たして気づいたのかどうか。
「ま、まぁ勇儀の行動は決まったとして、私達はどうしようかねぇ?」
 気を取り直して、ヤマメが仕切って次の議題へ進むこととなった。
「まずは、何をしますか?」
「そうねぇ……じゃあ私達は下手人が地下にいる誰かという前提で動きましょうか」
 続いたキスメの発言を受けて、パルスィは顎に手を当て思案しながら呟いた。
「雨に働きかけるとしたら、細工があるなら上方か天井部分でしょうね。聞き込みに回る役と上を調べる役に分かれる。それでどう?」
「異論ないよ。じゃあ私とキスメが上に行く」
「なら私は聞き込みね」
「よし、それで決まりだな」
 手を打ち、勇儀が全てを纏めるように会議の終わりを告げた。
「次に集まるのは……今日の日付が変わるあたりでどうだ?」
「流石にそれだと天狗が大変だと思うわ。居場所の決まってない妖怪も多数いるみたいだし。集合は明日の朝にしない?」
「それもそうだな。じゃあそういうことで。各自、グッドラック!!」
 そして、それぞれは自分の分担をこなすべく別れていった。
 同じ行動をするキスメとヤマメを除いて。


     五風十雨:5日に1回風が吹き10日に1回雨が降る。そこから、天下が太平である事の意味。


「いやぁ、いい天気ですねぇ。今日は何かいい事ありそうです」
 目を覚ました射命丸文は、枝の上で大きく伸びをした。
 昨夜はあまりにも月が綺麗だったので夜空を散歩、そして枝に止まり月見酒を飲んでいてそのまま寝入ってしまっていたのだ。
 と、上機嫌の文の元に森の中から雄叫びのような叫び声が響いた。
「文様、いたら返事してください!!文様ーーーー!!」
「ん?あの声は……椛、いったいどうしたのですかー」
 この声が聞こえたのか。
 椛は文を視界にとらえ、普段の文に匹敵するほどのスピードで以て文のすぐ傍までやってきた。
「大変なんですよ文様こんな場所で寝てる場合なんてありませんよ!!と言うか家に居てくださらないから一晩中探してたんですよ!!!!」
「なんですか騒々しいですねぇ」
 文は昨日の飲み残しのお酒を徳利から飲もうとし……
「星熊勇儀様が、山にいらっしゃるそうです」
 そのまま徳利を落としてしまった。
 そしてそのままたっぷり40秒。
「いけませんね。昨日のお酒がまだ残っているようです。寝なおさないと」
「現実逃避なんてしないでください!!」
 文は夢の世界へ亡命しようとしたが、襟元をつかんでブンブン揺すってくる椛がそれを許さなかった。
「なんでですか!なんであの方がいらっしゃるんですか!?!!」
「知りませんよ!!!!本人にでも聞いてくださいよ!!」
「なんだ、話はまだ伝わってなかったのかい?」
「伝わってないも何もあったもんじゃ……ない…………です、よ…………」
 椛の叫びは、尻すぼみになって消えていった。
 それも仕方ないだろう。
 噂をすれば影とばかりに、当の本人である星熊勇儀が木の根元で酒樽に座り、上に向けて手を振っていたのだから。


     小糠雨:細かい雨。


「ふぅ、収穫はなし、か」
 パルスィは午前中いっぱい使って旧都の人に片っ端っから聞き込みをしてみたが、収穫は皆無だった。
「まぁ、まだ全員に訊いて回ってるわけでもないし……って、そもそも地上の奴がやったんならこれって完全に無駄足よね……」
「おや?どうしたんだいお姉さん浮かない顔をして」
「あらお燐じゃないの。ちょっとね……ってどうしたの?その頭」
「いやぁ、実はあたい一昨日事故っちゃってねぇ」
 思案顔のパルスィに話しかけてきたのは、頭に包帯を巻いた火炎猫燐だった。
「一昨日……あぁ、あの大雨が夜に降った日ね。それにしても事故?何やらかしたのよ」
「や、一昨日も死体を運んでいたんだけどねぇ。地下の入り口でぬかるみに足を取られてステーンと」
「物騒な話ねぇ……それで、大丈夫だったの?」
「うん、死体をバラまいちゃったんだ。ちゃんと拾いなおしたけどね」
 そこまで喋って、お燐は苦笑いをした。
「気をつけなさいよ?」
「だから今日は大事を取って養生してるのさ」
「……そんなに怪我が酷かったの?」
「自覚は無いんだけど、さとり様に言われてね。ちょっとミスもしちゃったし」
「ミス?」
「そうなんだよ……事故の後死体を拾い集めてお空の元に向かったんだけどね?地霊殿に着いた後先ずこいし様に見つかって」
 お燐は、壁に寄り掛かった。どうやら長くなりそうだ、とパルスィは判断した。
「ふんふん」
「で、死体を門の前に置きっぱなしにしてさとり様のところに連れて行かれて手当てして貰ったんだ」
「それがミスなの?」
「いや、そこじゃなくてね。その後死体をお空の所に持って行ったんだけど、一つ足りなくって」
「数を間違えたの?」
「そうなんだ。積み直したとき確かに数は合っていた筈なんだけど……後で入り口に行ったら、そこに一つ落ちていたし」
「じゃあ、積み直した時に数え間違えた線が濃厚ね」
「そう……そしてもう一つ」
 ここまで来て、いい加減立っているのも疲れてきたのでパルスィも壁に寄り掛かることにした。
「まだあるの?」
「最近冬も近づいて寒くなってきたじゃないかい?」
「まぁ、ね」
「それでつい、お空に頼んで灼熱地獄跡の火力を強くしすぎちゃって……」
「猫は炬燵で丸くなる、どころか職場の設定温度をあげちゃったのね」
「そうそう。そもそも、一昨日急いでいたのもいつも以上に燃料を入れようとしてやったことで……」
「ある意味自業自得じゃないの」
「おかげでさとり様にもしっかり怒られちゃったよ」
「でしょうねぇ……だいたい状況はわかったわ。大方暇を持て余してここに来たんでしょうけど、おとなしく帰って寝てなさいよ」
「あはははは、お姉さんにも怒られちゃったよ」
 悪戯を母親に見つかったような表情をするとお燐は手を振りながら地霊殿の方へ向け雑踏に姿を消した。
「…………ふぅん……」
 一方、パルスィはしばらくそのままで何事かについて思案をつづけていた。
「雨が降るのは黄昏時の時間帯で、朝には雲があって……いや、これは無関係……?」
 そのまま考え続けた結果、パルスィは夕方に小雨を身に受けるまでそこで思索を続けていた。


     櫛風沐雨:風に櫛(くしけず)り雨に沐(かみあら)う。さまざまな苦労を体験する事。


「そ、そのようなごようでしたか。ははははははおまかせください」
「いやぁ悪いねぇ。ところで、明日の朝には地下に帰りたいんだけど調べ終わるかい?」
「おおおおおおおおおおまかせくださいぃぃぃぃぃぃ!!!!ですよねみなさん!?」
 天狗を集めて状況を説明、依頼をしたとたん天狗は一人残らず幻想郷の各地へと散って行った。
 そして勇儀は。
「次は河童の棲み家に行くかな。話が通ってるといいんだがなぁ」
 地下から持ってきた手土産の酒樽を担いで河童の棲み家へ向かって進軍していった。


     雨過天晴:雨が過ぎて天が晴れるように、悪い状況が良くなる事。


「むぅ……特に変わったところは無いなぁ。キスメ、そっちはー?」
「こっちも特には……」
 昼頃になると雲が晴れたので、ヤマメとキスメは旧都の上空を飛び岩肌の調査を行っていた。
 しかし、これといった問題は見つからなかった。
 単純作業で暇を持て余したヤマメは、キスメに積極的に話しかけるようになっていた。
「地上の奴らに犯人がいるとしたら、誰だろうね?地上にも色々な奴がいるからねぇ。例えば、私等が河を汚すって嫌ってる河童とか」
「河童には確か水を操るのが得意なのも……」
「あぁ、いたねぇ。でも、奴らが地下に来てたらパルスィが見て……いや、あいつら光学迷彩なんてのも持ってたっけ。もしかしてこっそり地下に来て細工を……」
「でも河童が鬼を怒らせるかなぁ?後、雨を降らせるのなら、紅魔館の魔法使いとか天人とかも……」
「確かに。その二人は雨に関係が深いねぇ。もしかして遠隔操作で地下に雨降らせられるのかな?」
 再び別の場所に移動し、調査をする。しかしやはり小細工等は見つからなかった。
「そういえば、雲もいたね……」
「雲……?あぁ、地下にいたこともある雲居一輪と雲山か。確か入道雲って雨を降らせられるよね?」
「大きさが自在ということは、とても小さくなればパルスィさんにも見つからず地下まで来れるかも……」
「ふぅむ、しかし動機がなくないか?」
「動機か……悪戯好きの妖精がやったってのはどうだ?確か隠密行動が得意なトリオとか氷を操る氷精とか地上にいたよね」
「天井付近で氷を作り、それを溶かすと雨になる……」
「……おいおい、容疑者多いなぁ」
 また2人は別の場所へ。
 結局、夜まで粘ってみたが手掛かりは見つからず、調査はそこで止める事とした。
 夕方になると小雨が降り始めたが、小雨であったのでそのまま作業を続けたのだった。
「何も見つからなかったね……」
「いやいや、ここは前向きに考えよう?『小細工の形跡はない』って発見があったんだからさ」


     狂風暴雨:手のつけられない状況である事。


 河城にとりは、同輩の河童たちより発せられる凄まじい量と質の念を背中で受け止めていた。
 念の内容はただ一つ、『鬼相手に迂闊な社交辞令言うんじゃねぇよ』である。
「せっかく誘われたからねぇ。天狗の所に用があったついでに寄らせて貰ったよ」
「そ、そうですか……」
「なぁに、連絡したとはいえ急だったからね。酒は自前で持ってきたからそんなに心配しなくていいよ」
「そ、そうですか……」
「ん?どうした?なんだか顔色が悪いようだが?」
 まさか『ボスが来たせいですよ!』なんて言えるはずもなく。
「いやぁ、急に来られたものですから。地下で何かあったのかなぁと思いまして?」
 ピクリ、と。
 その言葉を聞いた途端、勇儀の眉が少し上がった。
「いいいいいいいいいいえええええええええええ、べっべべべべべ別に言えないような内容でしたならば当然黙っていてくださっていいのだぜですよ?」
「別に隠すほどの事でもないんだけどねぇ……あ、なんだか思い出したら飲み損ねた怒りがぶり返してきたかも」
 ズドン、と。
 次の瞬間、勇儀の拳は地面へと振り下ろされていた。
「まぁ、酒の席で話すさ。とりあえず飲もうじゃないか」
 拳の振り下ろされた周囲の地面には、特に変化はなかった。
 だが、その地面の『拳に接した部分』だけが底が見えない程深い深い穴となっていた。
(ちょ、ちょっと!一体どんな力で地面叩いたらあんな周囲に無駄な窪みを作らない穴ができるのよ!?!!)
(知らないわよ!だからこその怪力乱神なんじゃないの!!?!)
 穴を見た河童たちの間に、瞬く間に動揺が伝播する。
 しかし、悲劇はそれだけで終わらなかった。
「そうそう、河童は相撲が好きなんだっけか。一丁かかってくるかい?なぁに、手加減はちゃんとするし20人位でかかってきてもいいよ」
 刹那、河童全員から可聴域を超えた悲鳴が発せられ山が震えたとかそうでないとか。


     雨意:雨が降ってきそうな空模様。


 色々な場所で悲喜交々だった一日が終わり翌朝。
 約束通り勇儀も帰ってきたので、雲の下の旧都で再び集まり情報交換会が行われる事となった。
「……おや?パルスィはまだ来ていないのか?」
「なんだか思いついたことがあるって、昨日の夜から何冊かの本とにらめっこしているよ」
 ヤマメとキスメ、そして勇儀が昨日と同じ場所に揃ったが、5分ほど待ってもパルスィはまだ現れなかった。
「ふむ?まぁ、朝のどれくらいに集まるかはそういえば決めてなかったしな。気長に待つか」
「そうだね……そういえばさ、久しぶりの地上はどうだったの?」
「ん?あぁ楽しかったよ。情報集めに飛び回ってる天狗の一人から話を聞いた萃香も合流してさ。最終的には天狗も一緒に飲んだっけ」
 星熊勇儀と伊吹萃香が揃った……河童と天狗の心労は如何程だったろうか?ヤマメは想像するのも怖かった。
「余興で、簀巻きにされた河童を滝に放り込むなんてのもやってたな。『河童の川流れ』って……確か、にとりとか言う奴が流されてたかな」
「ふ、ふーん……」
「そうです、か……」
「あら、随分楽しそうな話ね」
「おやパルスィ来たのかい」
「えぇ。ごめんなさいね遅れて」
「なに、調査と言うんじゃ仕方あるまいよ……さて、私から報告と行こうかね。パルスィは何か解ったみたいだけど、私の情報によっては外れになる可能性もあるし」
「えぇ、それでいいわ」
「異論ないね」
「同じく……」
 口火を切ったのは、勇儀だった。
「じゃあ言わせてもらうね。3日前から昨日にかけて、それなり以上の力がある奴は全員『何時』『何処』かはさておき地上で存在が確認されていたそうだ」
「え?それじゃあ犯人は地下の奴って事?」
「可能性としてはそれが高そうだな」
「補足させてもらうと、ここ数日で地上とつながる縦穴を通ったのはお燐と勇儀だけよ」
「パルスィが縦穴から離れた時に通った可能性は?」
「離れていても、通行者がいれば解るようなシステムになっているわ」
「なるほど」
「ただし、完璧とは言い難いわ。透明だったりあまりにも小さかったりすると見落とす可能性もあるし」
「じゃあ、容疑者は何人かいるな……」
「だけど、河童や入道は動機がないし妖精がやったにしては規模が大きすぎない?」
「それもそうだな……よし、これはこの辺で。じゃあ次はパルスィ、よろしく」
 勇儀に名前を呼ばれ、パルスィはおもむろに立ち上がり3人を順々に見据えてから言葉を発した。
「私の考えは――」




     速雨(はやさめ):急に降ってくる雨の事。




「――――あの大雨の原因は、お燐だったと思うわ」
  「!」
          「!」
     「!」
 雨を降らせる能力を持たなそうな人物の名前が出たのは、流石に予想外だったらしい。
 3人とも一様に驚愕を表情に浮かべていた。
「……どういう事なんだい、パルスィ?あの火車が雨降らしの犯人だとは思えないのだが」
「まさか、彼女の正体が火車じゃなくて雨師だったとか?」
「いえ、彼女は火車だし、犯人でもないわ」
「??」
「『原因』とは言ったけれども、『犯人』とは言っていないわ」
「ますます解らないんだけど……」
 ヤマメは首を捻っているが、パルスィは話を進めた。
「魔理沙にもらった本に書いてあったんだけど、雨というのは上昇気流が原因の一つとして挙げられるらしいの」
「上昇気流って……上向きの空気の流れって事?」
「そう。多分『断熱膨張』とか専門用語を使っても解らないだろうからざっくり説明するけど、それであってるわ」
「魔術的なものじゃなくて、自然現象としての雨、か」
「そしてあの娘はここ最近灼熱地獄跡でいつも以上に死体を燃やしていた。物が燃えると空気は暖まり、上へ向かう」
「さっき話に出た上昇気流か」
 勇儀が膝を叩いた。
 理解して貰えたと判断し、パルスィは一つ大きく肯いてからさらに説明を継続した。
「物が盛大に燃えると上昇気流が発生し、それで雨が降りやすくなる……つまり」
「『雨を降らそうとして、雨が降った』じゃなくて『別の事をしたら、副次的に雨が降った』って事か」
「えぇ。証拠はないけれど……でも、確認はできるわ」
「どうするんですか?」
「もう、火力は通常通りなのよ。これでもし雨が降らなければ……」
「間接的な証拠になる、な」
「そういう事」
「……なんだか、解ってみれば他愛もない事でしたね」
「でもさぁ、世界ってのはそういう物なのかもねぇ」
 キスメとヤマメは顔を見合わせ、一つ大きな溜め息をついた。




     涙雨:涙が変化して降る雨、あるいはほんの少しだけ降る雨のことを指す。




「パルスィ〜〜〜?キスメと一緒に先にいってるよーーー?」
「解ったわ。私ももうすぐ行くから……」
 あの会合から4時間後、ヤマメとパルスィはそんな会話を縦穴でしていた。
 原因が一応突き止められた事に機嫌を良くしたのか、勇儀の主催で旧都にて昼から宴をする事になったのだ。
 そろそろ時間になるので、ヤマメとキスメはそろそろ行こうとしていたのだがパルスィは少し用があると言ってまだ出発しなかった。
 それが先の会話である。
「……さて」
 2人が先に行ったのを確認し、パルスィは手近な岩に腰掛け、懐からあの日に読みかけだった本を取り出しページを開いた。
 そしてそれを読み始めた。
 しばらく読み進めていたが、しかし何も起きない事を不満に思ったのかパルスィは溜め息を一つ吐き言葉を紡いだ。
「今ここには私しかいないし、ここから地上までには妖精と落石以外誰もいないはず……今なら通れるわよ」
 しばしの静寂。
 だがそれも長くは続かず、岩の陰から一組の男女がパルスィの前へと現れた。
 女の方に見覚えはないが、男の方はあのリアルインフェルノの際に鬼の一人に追われていた男だった。
 びくびくしながらも2人は未だ本を読み続けているパルスィの横を通る際軽く会釈しようとして――
「縦穴の番人が通っても良いって言っているのだから行くならさっさと通ったほうが良いわよ?楚の懐王に巫山の女神さま」
 一瞬で体を強張らせ顔を上げ、驚愕の表情でパルスィを見上げてきた。
「……先に言っておくけど、今のは知っていた訳じゃなくて鎌をかけただけだからね。大火力による雨と、それと同時に発生したもう一つの要因に気づいて」
「「…………」」
「察するに、懐王の方がスリップ事故に巻き込まれて気絶していたところを死体に間違われて地下に来ちゃったんでしょ?」
 しかしパルスィは本から顔を上げることなく言葉を続けた。
「朝雲暮雨(ちょううんぼう)。四字熟語の一つ。一人の男が巫山で女神と男女の関係になった際に女神は約束をした」
 パルスィの言葉の他にはページをめくる音しかしない。
 2人は黙ってパルスィの言葉を聴いていた。
「『朝は雲になって、夕暮れには雨になって会いに行きます』と。まったく仲睦まじいことね、あぁ妬ましい妬ましい」
 本を閉じ、パルスィは初めて二人と真正面から向かい合った。
「いつもなら、妬ましいから邪魔をしてやる所だけれども」
 瞬間、女は男を庇うように前に立ち敵意を漲らせた。
「お二人がいつまでも地底にいると夕方の度迷惑被りそうなのよね。だから見逃してあげる……ほら、さっさと行きなさい」
 パルスィはあっさりと2人に背を向け、旧都の方へと歩き出していった。
「もし見つかったら、酒蔵の恨みを体に文字通り刻みこまれるかもしれないわよ?」
 女はしばし硬直していたが――嘘がないと判断したのか、目元を拭い一礼をすると男を抱えて地上へと飛び立っていった。
 足元に残された濡れ跡は安堵の涙だろう、パルスィはそう判断した。



「よくよく、考えたら」
 旧都へ向かう途中、パルスィは独り言ちた。
「今回の件って私も含めて誰も得してないわよね」
 あの2人はアクシデントでこの地下世界に放り込まれてしまった。
 勇儀はお酒をダメにされた。
 キスメとヤマメは、酷い恐怖の味を知ることになった。
 お燐は事故に遭った上にちょっと小言を聴かされる羽目になった。
 妖怪の山の面々は……言うまでもないだろう。
「……なるほど、だから私は寛大になっていたのかしらね」
 嫉妬というのは、自分より上の相手を羨む事だ。
 みんな等しいところまで落ちて並んでいたのなら、嫉妬という感情は湧かないのかも知れない。
 だが、偶にはそれもいいだろう。読書の邪魔をされたりとちょくちょく騒動に巻き込まれてはいるが、今の日々はそう嫌いでもない。
世界とはそういう物なのかも知れない。
『おいパルスィ、遅いぞ〜〜〜〜!!』
 遠くから勇儀の声が響いてくる。どうやら待ち切れなかったらしい。
「解ってる、今行くわよ〜〜〜!」
 大声で返事をし、あぁやっぱり今の面々を嫌ってはいないんだということを再確認しつつ苦笑を浮かべながらパルスィは急ぐのだった。
 おそらく酒盛りがすでに始まっているであろう場所へと。
雨っていいですよね。心が落ち着きます。

地底に雪があるのは本編で確認しましたが、雨がどうだかは想像によっています。
何か間違えていない事を祈るばかりです。

え?読んでいて犯人が推理できないって?だから最初に書いておいたじゃないですか。
『この作品は、フーダニットを探し当てる作品ではありません』って。
K.M
作品情報
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最新
投稿日時:
2009/11/21 23:54:40
更新日時:
2009/11/21 23:54:40
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POINT:
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1. 8 静かな部屋 ■2009/11/23 11:08:57
読んでいて犯人が推理できないじゃないか!

それでも伏線はきちんと張ってあるし、文章にも癖がない。

魔理沙とパルスィはいつの間にそんな仲良くなったんだ?
2. 2 神鋼 ■2009/12/28 00:09:39
内容と否定が話に噛み合わなくてどうにもモヤモヤします。
3. 4 藤木寸流 ■2010/01/04 03:32:23
 確かに順当な推理ものではなかったですが、いいお話でした。
 勇儀が迷惑なOB状態。
 お燐の台詞がなんだか説明臭くて、そこに伏線張ってるんだろうなってのが丸解りだったのが何とも。
 勇儀がジャイアン。
4. 7 いすけ ■2010/01/05 20:11:02
こういう作品は好きです。
5. 6 バーボン ■2010/01/08 19:03:58
最初に書いてあったのが念頭にあったので、推理物としては読みませんでした。が、だとするとこれは……えーと、地底の雰囲気を楽しむ物として読んで良かったんでしょうか。
天狗と河童の苦労っぷりとか、地底のどこかズレた楽しげな雰囲気とか、そういった要素は楽しむ事が出来ました。
ただ、推理物じゃないにしても結末がしっくり来ないと言うか。「あーなんか知らんキャラ出てきたー、終わったー」と言う風に感じてしまったのは……自分に読解力がないってのもあるかもしれませんが。
6. 3 パレット ■2010/01/10 05:33:56
 言ってしまえばわりと平凡な話が、冒頭の注意と、注意どおりの飄々としたオチによって独自色をかもし出している感じ。
 こういうのなんとなく好きです。(元ネタがわからなかったのでもそもそ調べながら)
7. 3 白錨 ■2010/01/10 12:26:33
アガサ・クリスティ的なもの感じました。
と言いながら、誰がやったのかを探す話では無いですから……。
ちょっと複雑な心境です。
8. 3 椒良徳 ■2010/01/11 20:16:24
やれ文章規則がどうのこうのという細かい話は省きます。
省きますので、小説の書き方を説明したどこかのサイトでもご覧ください。

率直に言ってつまらない。ストーリーも文章も作り込みが甘いように感じます。
もうすこし丁寧に書いてみてはいかがでしょうか。
まあ別にこの作風で行きたいとおっしゃるのでしたら、一読者に過ぎぬ私は止めるつもりも止める権利もありませんが。
9. 4 詩所 ■2010/01/13 22:32:45
 SSを読んだ読者のみ役得ってことですね。
10. 6 deso ■2010/01/13 23:35:37
四字熟語の辞典、面白いですよね。
なるほど、こういうネタもありだな、と思いました。
11. 7 ホイセケヌ ■2010/01/14 20:19:20
、ヲゥ`、。「ス~拳、ウ、ヲ、、、ヲ・゚・ケ・ニ・ユ{、ハヤ彫マ。「・ユゥ`・タ・ヒ・テ・ネ、フス、キオア、ニ、ヤ彫ホキス、ャモウ、ィ、、ネヒシ、テ、ソ、ア、ノ、ハ、「。」ラウ、ホラ「メ笊、ュ、ホヒ樣、ヌ。「、、ッ、、ックミ、ャー徘、キ、ソ壥、ャ、ケ、、キ。」、゙、「。「ラ「メ笊、ュ、ャ殪、ア、、ミ、、、、、ネ、、、ヲヤ彫ヌ、マ、ハ、、、ヌ、ケ、ア、ノ、ヘ。」エ_、ォ、ヒモ靠ヘ筍」、、、茖「、ヌ、篆K、、テ、ニ、゚、、ミテ豌ラ、、ヤ彫タ、テ、ソ、ウ、ネ、マエ_、ォ、ハ、、ヌ。「・ハ・・サ・・ケ、ネムヤ、ィ、ミ・ハ・・サ・・ケ、ハヨクユェ、ヌ、ケ、ヘ。」

・鬣ケ・ネクカス、ホキセ、ホサリァ、ャメ缶ツ、タ、ネヒシ、、、゙、キ、ソ。」・ム・コ・、ホ・ヤゥ`・ケ、ャノマハヨ、ッ、マ、゙、テ、ソ、ネ、ュ、ホヒャソクミ。」スK、、テ、ニ、゚、、ミスY蕎圖ォ、、、ネ、ウ、、ヒキセハビz、、ヌ、ソ、熙キ、ニ。」ノマハヨ、、、ハ、「。」
12. 6 774 ■2010/01/15 00:46:11
パルスィってこういう役が意外と似合う。
んー、推理話では無いと書かれてるのでそういうもんだとは思うんですけど、やはりちょっと突然という感じが。
13. 7 やぶH ■2010/01/15 01:58:47
キャラクターが魅力的に描けていますねぇ。文章も読みにくいところなく、さっくり読めて楽しい話でした。
一読者としては、作者様のこのキャラクター力を生かして、さらに風呂敷の大きなストーリーを読んでみたくなります。ぐむぐむ。
14. 5 八重結界 ■2010/01/15 17:56:22
 知的なパルスィというのもなかなかに魅力的でした。
15. 6 2号 ■2010/01/15 19:11:40
飽きさせず、読みやすく、楽しいお話でした。
お隣が鬼に八つ当たり?されなくてよかったですー
16. 7 零四季 ■2010/01/15 23:03:53
なるほどすっきり。こういうのも良いかも知れないです。
推理小説ばっか読んできたのでこういう感覚が無かったけれど、楽しんで読めました。
パルスィは振りまわされている様が可愛いと思います。
17. 3 時計屋 ■2010/01/15 23:30:33
 テンポは良かったと思いますが、反面、色々と説明不足だった気がします。
 あとは登場している人物が多すぎて誰がしゃべっているのか分からないシーンがあったりとか。
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