付喪神ふたり

作品集: 最新 投稿日時: 2009/11/21 23:59:50 更新日時: 2009/11/21 23:59:50 評価: 29/30 POINT: 116 Rate: 0.94
 秋の終わりになると、雨が増える。
 秋雨と呼ばれる雨は、梅雨とは違って寒さと冬を運んでくる。
 そろそろ、蟲と獣と一部の妖怪は眠るために動き出す。
 眠らない妖怪と人間は、家に引きこもって凍え死なぬように暖をとる。
 幻想郷が、静かになる。

「うぅ、寒い寒い」

 神は、その限りでもなかったりする。





 そもそも、神に休みなどない。
 年の暮れから、明けてから。八百万もいる神々も、来年の繁栄と長寿と健康とその他もろもろを祈られる。年明けには、神の御祈りとして酒を飲む。神も飲む。正直な話、神の威厳とかあったものではない。
 信仰が神の源だから、それも仕方ない。無駄にふんぞりかえるよりも、人間と同レベルで宴を楽しんだほうが良いのが幻想郷である。静かに浮かれる幻想郷。
 しかし、厄神様はその限りではなかった。
 厄神様は、見回りを欠かさない。もはや、神の役割というよりは生態と言った方が的を射る。もちろん、動機は人間のため。人が出歩かない季節であっても、彼女は自らの行為をやめようとしない。
 もちろん、雨の日も変わらなかった。



 じくじくと、靴が泥を侵していく。
 雨の日は、特に厄が漏れている。横には、雨に融ける流し雛。厄神様は、厄だけを身に溜める。
 事務的に、感情を感じない踏破は修験者を思わせる。スカートの裾が汚れようと、外套がいくら濡れようと構い無し。まるで、人形のように厄神様の歩みは続く。
 何故、厄神様は見回りをやめないのか。
 彼女の役割は、あくまで「人間の守護」ではなく「厄を溜めて神々に引き渡す」ことだ。鍵山雛は、人と神の橋渡しに過ぎない。人が厄を流し雛に乗せ、それをまとめて神へ渡す。
信仰を受けているのは、厄払いの神であって『厄神様』である雛はあまり信仰にこだわっていない。
 それに、雛は樹海に流れ着く厄をまとめているのであり、外に出ることはほとんどない。迷い込んだ人間を、無事に帰らせる程度。
 ほとんど人前に姿を見せない彼女は、人間に一体どう思われているのだろうか?





「今日の見回りはおしまい、と」

 雛のねぐらの一つ、寂れた祠。上等なものでもないが、雨風だけは凌げる。雛は、外套を脱いで岩にかけた。うっすらと、厄の残滓が漂う。厄自体に志向性がないため、どんな物にでも、何にでも憑いてしまう。
 彼女が必要以上に人間に寄りつかないのも、そのためだ。外套からはみ出ていた髪からも、雫が落ちる。体も相当冷えているだろうに、雛はそれを気にも留めない。
 決して、身だしなみに無頓着なわけではない。警戒色の塊の服は、薄暗い樹海の中でも目立つように。厄のシンボルは、いわば自身が何かであることの主張。お洒落ではない。多分。
 雛は、服と髪の水気を適当に払ったところで眠るように眼を閉じた。休憩のつもりなのだろうが、ボロボロの祠の中で仮眠は本来自殺行為に近い。冬に足をかけた雨の日は、遜色ないほどに冷える。少なくとも、風邪を引く。子どもでもわかることだ。
 そっと静かに、眼を閉じる。





 周囲に響くのは、雨の音。
 直接、地を叩く音。木の葉を伝って、小さな水糸を作る音。割れた祠の屋根から漏れて、床の器の中に飛び込んだ音。
 天候の一つであるにも関らず、雨は姿や性質を幾重にも変える。時には恵み、時には災害。そして、季節の変わり目には、常に雨が付きまとう。それが、合図であるかのように。
 晩秋の雨は、冬を連れてくると共に静謐な時間を作る。ただひたすらに、静かに降り注いでいた。



 ふと、雑音が混ざる。



 雛は、目を開けた。
 夏の激しい雨であれば、気付かなかっただろう小さな音。水を散らす小さな音が断続的に続く。
 誰かが、樹海に入った。特に結界が張られているわけでもなく、雛はそれに気付く。外套を羽織り、まだ乾ききらない身をまた外へ投げ出した。
 目指すところまで一直線。樹海の奥地のほとんどは、雛の縄張りである。どこにどの樹があって、どこに流し雛軍団が固まっているか把握している。あとは、足音を辿れば良い。
 ほどなくして、雛は足音に追いついた。雛とは違う意味で、樹海と浮いた色の人影。紫色の傘を差し、薄暗い森の中であってもなお映える空色の髪。静まった樹海への闖入者は、暢気に散歩を楽しんでいた。

「ちょっと、何をしているの?」
「ほぅあ!」

 文字通り、跳ね上がる小傘。雛とはもちろん面識がなく、どこぞの子どもであると考えた。一方の小傘は、まさか人がいるとは考えず、しかも神様であることを知らなかった。相乗の驚き効果により、小傘は古典的に驚いたのであった。あまりのオーバーリアクションに、雛も固まる。
 話を聞けば、ただの妖怪であったこともわかり、雛はとんだ肩透かしを食らってしまったわけだ。

「とにかく、ココは厄場だから早く帰ることをお勧めするわ」
「よくわからないけど、わかった」
「よろしい」
「あ、ところでさ」

 踵を返しかけた雛を、小傘は制止する。特に小傘も、特別な考えがあったわけではなくなんとなくだった。

「お仲間さんでしょ? もうちょっと、お話しようよ」
「……?」
「ほら、同じ匂いがするし」

 雛は、小傘の言葉を読み取れずにいた。神と妖怪だ。だから、雛はお仲間という言葉の意図がわからなかった。

「あれ? だって人形でしょ? しかも、見る限り先輩みたいだし」
「……わかるの?」
「うん。わちきは、旧き良き怪奇を研究しているからして――」
「作ったような言葉はいいから、なんで私と貴女が同じなの?」
「んー。捨てられたってところ?」

 雛は、流し雛軍団の長。流し雛は、人を模した形のものに厄を憑けて川に流す行事のこと。それらを束ねる鍵山雛が、人形であったとしても不思議ではない。ただ、雛には納得できない。人間のためにうごく雛にとって、捨てられたという表現は憤りを覚えるに足るものだったのだ。

「貴女に何が」
「わちきもねー、長いこと捨てられて飛ばされて。穴ぼこぼこにされちゃった」
「……」
「運よく、自分で動けるようになったけどね」

 あっけらかんとして、雛の話を聞かない小傘。その後暫く、小傘の身の上話が進んだ。
 小傘の口調が明るいから気付きにくいが、吹き溜まりで猫の屋根になっていたり、子どものチャンバラに使われたりと波乱万丈であったらしい。
 彼女なりに、苦労はあったらしい。

「うん、わかったからもう帰ったほうがいいわ。ほら、傘がこんなに紫色になっちゃって」
「もともとだよ」
「どっちでもいいわ……ともかく、付喪神の貴女をあまりとどめておくわけにはいかないの」
「ふーん、裏事情って奴だね」
「そうそう」

 無理無理に、雛は樹海の外まで小傘を誘導する。久々に外界と接した雛は、常時小傘に調子を狂わされっぱなしだった。まるで、歳の離れた子を突然預けられたかのように。
 
「んじゃ、また遊びに来るねー」
「来ちゃだめって何度も言ってるでしょ」
「だって、ここ居心地いいんだもの。驚かすのにもよさそうだし」
「駄目」
「ちぇー」
「じゃ、指きりげんまん。厄取りもかねて、約束よ」
 
 一応、神との約束。小傘も、しぶしぶと従った。

「じゃ、むしろそっちが遊びにきてね。新しく里の近くにできたお寺の屋根裏!」
「や、屋根裏?」
「そう! じゃねー」

 言うだけ言って、小傘は飛び去った。跡には、呆然とした雛だけが残される。
 
「……なんだったのかしら」

 雛は、いつかの人間二人のことを思い出した。とても自分勝手というか、ペースを掴まれてずるずる引っ張られる。こんな日に弾幕ごっこにならなかったことだけが、救いかもしれない。
 
「ま、次は話くらい聞いてあげましょうか……樹海の外で」

 雛は、今度こそ踵を返して祠に向かう。今一度、冬の訪れを知らせる音を聞くために。
 ただ、雛はまんざらでもなかった。厄がらみ以外で、自身に純粋に慕ってくれそうな者に久しぶりに遭遇したから。この出会いは、雛に少しばかりの変化をもたらした。



 間もなく、雨が次の季節を連れてくる。
 幻想郷が眠る冬。そこに増えた、新たな住人。
 今年の冬も、ちょっとばかり変化が起きた様だ。


時間ぎりぎり、猛省。
あとがき用のネタが展開できなかったのが残念です。
作品情報
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最新
投稿日時:
2009/11/21 23:59:50
更新日時:
2009/11/21 23:59:50
評価:
29/30
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116
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0.94
1. 3 りゅー ■2009/11/22 01:00:12
長めでさっくりと読めるお話だったのですが、そのためか特に印章に残ることなく「ふーん」で終わってしまったのが残念です。
山場と思われる小傘との出会い、会話。そして指きり。そのあたりをもう少し膨らませることができれば、よりよい作品になったと思われます。
2. 6 静かな部屋 ■2009/11/22 08:57:00
これなら、この後の話まで書いて長編にも出来そうですね、もったいない。
3. 3 冬。 ■2009/11/23 00:26:22
出会いを書いただけなの話なので、なんとも。
後書きのネタが見たかったですねー。
4. 3 歩人 ■2009/11/23 00:29:59
導入部で終わってる印象。かなり物足りない。
5. 3 ケンロク ■2009/11/23 01:31:57
小傘と雛という組み合わせが目をひく作品でした。星蓮船からの新キャラは誰と絡ませるかの可能性が広がりますね。

ともあれ、若干の消化不良感は否めませんでした。あれよあれよという間にお話が終わってしまい、少し残念です。テーマの「雨」も、ただ降っていただけのようですし、もう少し話に絡ませた方が良かったかもしれません。小傘のキャラが不安定な印象も受けました。新キャラですし、もう少しキャラ付けをして扱わないと、ちょっと読み手的にはキャラに入りにくいかもしれません。

あとがきネタも含め、続きが気になる作品でした。
6. フリーレス Aohata55 ■2009/11/23 05:51:31
難しい表現を無理に使っている気がします。
ストレートな場所とそうでない場所で緩急をつけるといいかもしれません
7. 7 #15 ■2009/11/30 16:25:10
私的には夢のタッグですな

それにしても、屋根裏ってww
8. 7 すっとこどっこい ■2009/12/12 18:58:20
感想を書きに来ました。


読みながら感じたコトは、最初の始まり方と最後の終わり方がカッコいいところです。
あのどこかシリアスを匂わせるのが上手い、と感じました。

そして、これも読みながら感じたんですが、星蓮船キャラが自分にはしっくりこなかったです。
まったく知らないキャラクター、として見ると作品にマッチしているのですが、東方キャラクターとしてはまだよく解らないので何とも言えない感覚に。

あ、最初に書くべきでしたが風景描写が良いです。
自分だけかも知れませんが、絵本のように楽しめました。


物語の流れがきちんと立っている、楽しく読める作品でした。
9. 3 御洒落 ■2009/12/17 17:02:06
小傘の登場が急過ぎた印象。
雛が登場するまでの前フリの丁寧さに対し、
こちらがあまりに素っ気無いと、手抜きの様にも見えます。
10. 4 藤木寸流 ■2010/01/03 23:11:32
 正しく序章、といった感じでした。これからに期待。
 続きを狂おしく望みたいところです。
11. 2 パレット ■2010/01/10 05:45:08
 静かな雨、の雰囲気が出ててよかったです。
 小傘との会話がこれだけというのは少し物足りない気もしますが、出会いや始まりと思ってみると、このくらいが丁度良いのかもしれませんね。
12. 5 白錨 ■2010/01/10 13:04:45
捨てられた者同士のハーモニーなのかも。時間があれば、もっと化けただろうな。と思う作品でした。
13. 4 文鎮 ■2010/01/10 23:05:52
なかなか良い感じなのですが、いかんせん短くてプロローグだけといった気がします。
この二人の組み合わせも面白いので、この続きの話が読みたくなってしまうからでしょうか。
14. 4 椒良徳 ■2010/01/11 20:43:15
文章は良いのですが、ちょっと文章量が少なくて読み足りないですね。
個人的な意見ですが、もっと雛と小傘の交流が読みたかったですね。
15. 6 神鋼 ■2010/01/11 21:17:29
小傘に振り回されてると思ったら終わっていました。まるで嵐のよう。
16. 4 詩所 ■2010/01/13 22:45:06
 雛と小傘って、共通点が多い気がします。
 二ボス、髪色、能力のネガティブさとか。
17. 5 葉月ヴァンホーテン ■2010/01/13 23:06:59
うーん、なんだかすごくもったいないような気がします。
二人の雰囲気も良く、するすると読めたので、さぁこれからだって時に打ち切られた感じがします。
もっと読みたかったですねー。
18. 4 deso ■2010/01/13 23:10:33
出会いを描くにしても、ちょっとインパクト弱いように思います。
お題の絡みも薄いかと。
淡々と描くのが目的なら、これはこれで良いのかもしれません。
あと、細かいところですが「踏破」と「遜色ない」はちょっと使い方が違うんじゃないかと思います。
19. 4 バーボン ■2010/01/14 17:21:36
着眼点は良いと思うのですけれども、何と言うか物足りないです。
雛と小傘の会話の雰囲気を楽しむにしては、少々地味な印象。奇抜なネタがあるわけでもなく、何か目を惹き付ける物が一つ欲しかったと思います。
20. 3 ホイセケヌ ■2010/01/14 21:59:07
ョ壥、マチシ、ッ、ニ。「、キ、テ、ネ、熙ネ沺、モ熙ホヨミ、ヌスサ、、オ、、サ瞞彫ヒツ└ュネ、テ、ニ、キ、゙、ヲ。「、ス、、ハ、ェヤ彫ヌ、キ、ソ。」
、ソ、タ、ス、メヤノマ、ホユケ饑、ャ殪、、、ソ、癸「ョ壥、牢、キ、澳S、ヌ、キ、ォ殪、ッ、ハ、テ、ニ、キ、゙、テ、ニ、、、、ホ、ャイミト。」
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21. 4 やぶH ■2010/01/15 03:14:14
時間が足りない……ということなんでしょう。もったいないです。
物が神になったという共通点はあるものの、原作に接点の無いキャラクター同士が、『ほとんど会っただけ』という話になってしまっている気がします。
次は、互いの個性を生かした物語を期待しています。
22. 2 Aohata55 ■2010/01/15 05:52:48
なんだろう、
話の展開をもっと深くしたら面白かったかも?
23. 3 八重結界 ■2010/01/15 19:10:41
 この後にどうなるかが気になりました。
24. 6 2号 ■2010/01/15 19:25:13
小傘は明るくていいですね。
雛みたいな、影のあるキャラとの辛味はドラマがあって良いです。
25. 5 774 ■2010/01/15 22:06:46
雰囲気良かったです。
でも雛の心の動きが突然な感じがしました。
26. 2 ■2010/01/15 23:08:12
奇しくも他にもこの組み合わせを見ることに。
この二人、酒が入ったりすると長話しそうだなぁ、とか思いました
意外と馬が合うのか、とか
27. 4 如月日向 ■2010/01/15 23:18:53
 小傘と雛の組み合わせっていいですねっ。続きが読みたくなりましたっ。

〜この作品の好きなところ〜
"「ほぅあ!」"

 小傘は驚かされる妖怪ですよねっ。
28. 2 近藤@紫 ■2010/01/15 23:32:40
(´・ω・`)
29. 6 零四季 ■2010/01/15 23:33:07
ちょっと雨が薄い気がしてなりませんでした。もう少し濃く出来たのではないかと。
でも雛は可愛いです。
30. 2 時計屋 ■2010/01/15 23:40:12
 うーん、起承転結の起のところだけで終わっちゃったような印象。
 時間が足りなかったのでしょうか?
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