真っ暗館の小さな悪夢

作品集: 最新 投稿日時: 2010/11/06 12:44:20 更新日時: 2010/12/17 19:17:39 評価: 13/13 POINT: 79





空はぴかぴかに晴れ、星が煌いている。

まだ深夜にも至らぬ時刻のこと。
神社の灯篭には狐火や鬼火が点り、早くも賑々しい様相を照らし出していた。
何時もの如く宴会である。
そして何時もの如く沢山の種族が、ござの上で乱痴気騒ぎを繰り広げている。
人、妖怪、幽霊、宇宙人……中には最近神社に棲み付いている鬼も姿を見せていた。大きな角が輪の中に見える。
鬼、といえばコイツも一種の鬼なのだが。

「あんたってさ、そんな性格だった?」
「どういう意味かしら?」

縁側にて、博麗霊夢は自分の隣に座る影を一瞥すると、短く息をついた。呼気にほのかに酒の香りが混じる程度で、この巫女の顔色はほとんど変わっていない。無論、彼女の一見やる気のなさそうな目も、酒気で濁る気配は無かった。
霊夢の隣に腰掛けるちんまりとした姿。レミリアは杯を傾けて酒を舐めると顔を顰めた。
水を加えたような安い味がしたのだ。

「初対面の時はもっとこう、カリスマっぽいものが溢れて無かったっけ?」
「あら失礼ね、今だって溢れてるわよ」

500年はゆうに生きているらしい吸血鬼はそう言って、縁側から突き出した脚をぶらぶらさせる。

「それより霊夢、うちから持ってきたワインはまだなの?これ、不味いわ」
「あのお土産なら戸棚に閉まったし、生憎私のお猪口はその不味いお酒で一杯よ」
「うー!」

頬を膨らませて抗議するレミリアの様子からは、とても威厳など感じられない。普段からこうでは傍に居る者はさぞ大変だろう。
霊夢は完全で瀟洒なメイドの顔を思い出しながら、仕方なく立ち上がった。

「どこいくのよー」
「湯のみとワインとやらを持ってくるのよ。飲みたいんでしょ」
「流石は博麗の巫女ね、話が分かるわ」

すぐに機嫌を直し、笑顔を浮かべるレミリア。

「でもね、ワインを飲むなら湯のみよりも良い物があるの……さくやー!」
「はい、お嬢様」

レミリアが呼ぶと、彼女の従者が忽然と目の前に現れた。微かに頬が赤く染まっている。
妖怪達に飲まされたのだろうか、少々ふらついている。

「グラスを頂戴」
「はい」

どこから取り出したのか、縁側に2脚置かれる。
丸い胴は篝火の光を受け景色を逆さまに映していた。物珍しそうに薄い硝子で出来たそれを見た霊夢は、ある事を発見した。

「吸血鬼って、こういうものに姿が映らないんじゃなかったっけ」

レミリアの姿もしっかりと表面に映りこんでいたのだ。

「うん?……ああ、映ってるわね」

幼い姿の吸血鬼は微笑んだ。
今更な質問だ。
吸血鬼は硝子や水等、物の姿を映すもの。それらの総称としての鏡には姿を映さない。
彼女自身も使った事のある、所謂格言……いや言い伝え。

レミリアは可笑しく思いながらも、グラスの脚を持って優雅に頭上にかざした。良く磨かれていて、曇り一つない。器を通して見た世界の中で人妖の影が踊っている。
そこに次第に別の像が重なっていく。
紅い瞳が細められる。

「……?」

炎。
何か聞える。
誰かの泣き声……?



「お嬢様?」



従者に声を掛けられ我に返り、彼女はグラスを下ろした。

「埃一つついてないわ。流石は咲夜ね」

レミリアがすい、と縁に指を這わせると薄い硝子が震えて音を立てた。
霊夢がワインを取りに言っている間、
彼女は暫し浮かんだ景色に思いを馳せた。
















真っ暗館の小さな悪夢


















「お外は豪雨。きょうも出られない」



同じ頃、紅魔館は水の壁に包まれていた。
フランドール・スカーレットの呟きは、湿った石の壁に程なく吸収されてしまう。
雨水が部屋に落ちてくる事は無かったが、地面を打つ耳障りな音がどこまでも執拗に彼女を追いかけてくる。


彼女は部屋から一度出てみたのだが、姉もメイド長もましてや妖精のメイド達の姿も見つけられなかった。誰も居ない館など見慣れた自分の部屋より面白みが無い。それに試しに窓から手を出すと指先が溶解してしまった。
つまらなくなり、部屋に戻った彼女は大きなクッションの間に身を埋めると目を瞑る。

495年間外というものを知らずに過ごした彼女にとって、これは退屈しのぎの一つ目の方法。
世界を想像し、その中で過ごすのだ。
……とはいえ、この小さな吸血鬼にとっての外の世界とは紅魔館とその周辺に限られてしまうのだが。
都合の良い事にこの暇つぶしは、時間もかかるし多少の努力も必要だった。

フランドールは側にあった人形を抱き寄せた。

徐々に景色が浮かんでくる。
明るくなっていく視界に神経が昂ぶる。身体が僅かに震えた。思わず握った手の中で目が壊れた。
ずん、と館全体が震える。
分厚い天井に穴が開いていた。
ぱらぱらと散る細かい石の破片に構う事は無く、目蓋の内で彼女は彼女の地下室を描き、そしてドアに手をかける。
き、と音をさせてそれが開く。
一歩踏み出すと……もう雨の音はしない。




隠し扉を出て階段を上がれば、何千何万回と想像した場所が目の前に広がっていた。





フランドールはダイニングに行き、日没後すぐの藍色に染まった世界を眺めてみる。
目の良い彼女には、森を過ぎた所にある小さな町の様子が見えた。
きっとあそこに住む人々は館の存在を知らないか、また知っていても廃墟か何かのように思っている事だろう。

実際には彼女が住んでいるのに、だ。


「ふあ……」

大きなあくびをして伸びをすると、目を擦る。これから一日が始まる。
フランドールは誰に見咎められる事も無く、刻々と空が色を変えていく様子を眺めた。彼女の姿は硝子の上に無く、無人の室内のみがぼんやりと映っていた。
どれ位の時が経ったのか、点された蝋燭が硝子に反射し始める。外よりも、窓に映った室内の方がはっきりとした輪郭を持つようになる。
夜が来た。

ぱたたた……。

羽音と共に空を舞う無数の蝙蝠の姿。
夜空を切り取ったような羽を持つその生き物はしかし、背景に同化しすぎた所為かフランドールの目に映らなかった。
蝙蝠が消えるとほぼ同時に、硝子上の室内に一人の人物が現れる。
陶器のように白い肌を持つメイド。
フランドールは彼女に気がつくと声を掛けた。

「お帰りなさい」

硝子に映ったメイドは華奢な腕に、何か大きな物を抱えている。
緋色の布でそれを隠している為に、中を見ることは出来ない。
まだ生きているようだ。逃げようとしているのだろうか、大きく動いた際に何かが床に落ちる様子が見えた。

「二週間ぶりね」

振り返ると、もう彼女の姿は無い。
恐らくアレは今晩の食卓に並ぶのだろう。小さな吸血鬼は呆れたように片方の眉を上げると窓から離れ、床に落ちたものを拾った。
くしゃくしゃにしわが寄っていたけれど、最近の新聞だ。






「……?」

フランドールはそこまで想像すると、再び目を開いた。
相変わらず嫌な雨の音が続いている。石の壁に囲まれた地下室に何の変化も無く、館に誰かがいる気配はなかった。


これはなに?わたしが作った世界なのに、なんかヘン。あれはだれ?


彼女は少しだけ思案する。しかし次の瞬間には想像が一人歩きを始めた事に満足して笑いだした。楽しそうな笑い声は誰かに聞かれる事も無く次々と、やはり壁と、壁の外にある土に吸収されてしまう。
笑い疲れてやっと、小さな吸血鬼は続きを見る為に目を閉じた。
ひょっとしたら今日は何か変わった事が起こるかもしれない。そんな期待で小さな胸を一杯にさせながら。





閉じた目蓋の内側で、ぱらりと新聞のめくれる音がした。






再び明るくなった景色の中に、先刻の新聞が現れた。
想像の中のフランドールは、血入りの紅茶を飲みながら活字を拾う。読むのは嫌いではない。
紙面は遠くの街で鉄道が普及し始めた話題で大半が埋まっていた。
全く科学の進歩には呆れてしまう。幸いこの辺りは時代に取り残されたような場所だから、まだ伝染病の勢いで広がっていく彼奴の侵食は受けていないけれど。

部屋には、先刻終わった夕食の残り香が漂っていた。

メイドは料理が下手で、饗された皿は見た目のグロテスクさも然る事ながら味も最悪だった。
皿に乗せられた新聞の持ち主は、汚物に似た粘着質な何かをかぶって、うごうごと蠢いていた。原型はソースらしきものを被っている為に分からない……が、生きているのは確かだ。
幾ら吸血鬼だって、どろどろに汚れた生き物なぞ余り口にしたくは無い。付け合せだけ食べて料理はどかし、フランドールはすぐに食後のお茶を持ってこさせた。

やがて運ばれてきた紅茶。

血の香りに負けない個性のある茶葉を使用しているのだろう、不快にならない程度に芳しい香りが料理の臭気を消してくれるようだった。

メイドは紅茶を淹れるのだけは上手かった。ほわりと立ち上がった匂いに、思わず口元が綻ぶ。
一口含むと、想像した通りの良い味がする。
しかし、……紅茶のカップを手にフランドールはしかめっ面をしてみせる。
料理が下手なのはメイドとして失格なんじゃない?
彼女はもう何日もまともな物を口にしていなかった。温かいスープでも飲みたかったけれど、中々彼女の心はメイドに伝わらない。
やはり、新しい使用人を探すべきだろうか。


再び紙面に意識を向けると、地方欄の小さな記事が目に留まった。


『×××邸で料理人として働いていた×××××嬢は主人を毒殺した。……判決を……』


「ふーん……」


タイムリーな話題だった。
熱心にその記事を読んでから、ぽんとテーブルの上に投げる。振り返って背中を見ると歪な羽がステンドグラスのように光っている。

「お姉さまなら、羽を隠すくらいなんでもないんだろうな……。隠せたらお店に行く事が出来るのに。あーあ……」

フランドールが羽をゆっくりと動かすと。青や赤など美しい色がきらきらと輝いた。
町には姉と一緒に出掛けた事しかなかった。
それもごく短時間。
レストランという場所で、血の滴るような肉を食べた事が忘れられない。



催眠術を使って人を言いなりにしたり、動物に化けたり、霧になったり……時には人に化けたりもする。吸血鬼が悪魔と言われる所以は、何も吸血行為だけによるものではない。知らぬうちにコミュニティーに紛れ込む、その不思議な能力も大きく一役買っている。

しかしフランドールは単純な事しか出来ない。特に羽を隠すような細かな事は苦手だった。明りに照らされると、その部分だけ光ってしまうのだ。姉がいる時は上手く隠してくれるのだが……。
瞬間、彼女の羽は一際強くぎらりと光を反射した。

何……?

館にはそんなに強く光を発するものはない。
部屋に光源を探した後、幼い吸血鬼は思わず窓に手をついた。もう真夜中だというのに、町の明かりが暗闇を割いて館まで届いていた。
瓦斯灯?そんな訳は無い。ここは時代の恩恵を受けられるほど都会ではない。幾つも揺らめいているあれは炎の輝きだ。
そわそわした。

「妖精もいない時代なのに……」

フランドールは窓を開けると窓枠に足をかけた。外の空気がなだれ込み、彼女のスカートを揺らす。じっと神経を集中させ町の様子を伺う。重なり合う沢山の音から何が起こっているのかを聞き分けようとした。
木々の梢が揺れる音。
金属の音。
炙られた木の爆ぜる音。
人の声に行き着くまでに幾つもの音を潜り抜ける。
そして、ある興味深い単語を拾う。

「魔女?」

本当にこのご時世に珍しい。しかも彼女の名は……なんて素敵なんだろう……!
小さな吸血鬼は足元を蹴って飛び出した。
それは、彼女の最初で最後の無断外出。





フランドールの背後でテーブルに乗っていた新聞が落下する。


『パチュリー嬢は判決を前に体調を崩し、死亡』


無人の部屋。
開けっ放しの窓の硝子には、蝙蝠が一匹映っていた。
それは部屋を慌しく一周すると、突然ぱっと消えてしまった。






フランドールは無数の蝙蝠へと化身し、宙を滑って町に近寄る。

久々の外の世界。

真っ暗な館が背後に遠ざかり、ミニチュアのようだった建物の群れがどんどん大きくなる。町の側を流れる川は景気よく黒い渦を巻いていた。
空は曇っていて星影一つ無く、明りが無ければ辺りはきっとインクを零した様な黒だろう。
そういえば数日前から雨が降っていたのだった。湿った空気に体が包み込まれた。
耳に、次第にお祭りの日に似た喧騒が聞えてくる。多くの人の気配がする。ぴんと張った夜の空気に、羽が震えた。

ふらふらと松明のパレードに沿っていくと、教会前の広場に出た。其処は昼間のように明るく、真上から見るには眩し過ぎる。
そこで彼女は誰にも悟られぬように円を描いて飛び、程良い高みの桟敷を発見する。天に突き刺さった教会の十字架。その真下に彼女はこっそりぶら下がった。

むっとするような炎の熱が届くけれど見晴らしは良い。彼女は息を潜め、炎の間で猟銃や鍬が林立する様子をつぶさに観察した。
輪の中心には少女が一人。

「さて」

少女は石畳に座り込んでしまっている。
輪の中心にいる以上、この騒ぎはあの少女が原因なのだろう。人垣は思ったよりも静かに彼女を囲んでいた。
輪の外側にたむろしている主婦などは互いにお喋りをしている。

「野次馬が半分ってところかな?」

そんなに長くは化けていられないという切実な事情もあるし、騒ぎが大きな物でないなら捨て置くのが一番良い。
後程ゆっくり回収すれば良いのだから。

「彼女が魔女?」

フランドールが見ている前で、事態は急速に終わりに向かっていった。
一人が少女を連れて行こうと、力任せに引っ張ったのだ。ボタンが弾けて白く真珠のような肌があらわになった。改めて見ると美しい少女。潮が引く様にざわめきが静まり、ため息が方々で聞えてきた。
引っ張られた拍子に転がった少女は自分の身体を抱きしめて、破けた箇所を庇った。
しかし、再び引っ張られて転がされてしまう。艶やかな長い髪が地面に広がった。

「……の偽者か。なーんだ、残念」

人が人をぼろぼろにするのは、きっと習慣なのだ。
彼女一人が嬲られて、この騒動は終わり。これは偶に起こる然して珍しくも無い些細な出来事。


フランドールは密かに少女が魔法を使う事を期待していた。
しかし彼女は、ただ良い様に転がされているだけで、魔女の要素は今のところ見当たらない。
収穫は無し。
外出は終わり。
吸血鬼は興味をなくして羽を広げた。

ところが飛び立つ寸前広場を見遣った彼女はぎょっとした。

少女のアメジスト色の瞳が自分のいる十字架を見上げていたのだ。
否、十字架ではなく確かに蝙蝠に化けた自分の方を見ている。
視線がかち合った。
そして、彼女は周囲に怯えた様子ながらも笑顔を作った。転がされた時に切ったのか、頬から赤いものが流れて、彼女の肌を汚している。


そろそろ蝙蝠に化けるのも限界だった。こんなところで姿を晒したら巻き込まれてしまう。
フランドールは羽を広げたままで戸惑った。相変わらず此方を見ている少女の視線に焦れてきた。


ああ、もう。仕方ないなぁ!


幼い吸血鬼は咄嗟に霧となって群集に飛び込み
少女を浚って、町の外へと逃げ出した。








+++++







館が震えた振動で、本棚から一冊の本が落下する。

パチュリーは拾い上げて表紙を見つめた。その本は彼女がまだ完璧には七曜の力を得ていない時分のもので、古びてぼろぼろだった。
魔女は装丁を撫でながら、雨音に暫し耳を傾ける。
当時は水の魔法が苦手で、長時間連続で降らせる事などとても出来なかったのだけれど。

「パチュリー様、本棚のC〜Dの欄まで整理できました。それと、あの……」

パチュリーが感慨に浸っていると、突然ハタキを持った小悪魔がやってきた。彼女は頭に三角巾をかぶりエプロンも装着。大きなマスクで口元を覆っている。不安そうにドアを見つめる彼女に、魔女はくすりと笑って言った。

「大丈夫よ。ここは見つからないわ」

主人の言葉に、使い魔は肩の力を抜いてほっと大きく息をついた。
彼女は先刻の振動を気にしたのだろう。
魔女はレミリアの命令で、彼女が帰るまでの間、図書館の入り口が見えなくなる魔法をかけていた。
図書館だけではない。誰も破壊される悲劇が起きないように、妖精メイドのいる場所も全て封印が施されていた。

この大掛かりな仕掛けの原因となったのはフランドール。
彼女は近頃地下室から出てくる事が多くなった。
喜ぶべき事である筈なのに頑固な主は、妹が館の中を歩く事までは許しても外出は決して許さなかった。
でも、
魔女は思う。
本当に彼女を閉じ込める必要があるのかしら?
首を傾げるも、立って命令を待っている小悪魔に気がついて、パチュリーは書棚の奥を指差した。

「Eの棚が終わったら休憩にしましょう」

再び小悪魔に仕事を与えてやる。
整理は掃除も兼ねていた。図書館は広いので、喘息の元になる埃が溜まって仕方が無い。
はーい、という威勢の良い返事を聴きながら、魔女は再び雨音に耳を澄ませた。

誰かの声が雨音に混じって記憶の底から聞えてくるようだ。
しかし随分昔の事なので、彼女達のうちどちらの声だったのか判別がつかない。眉間にしわを寄せて思い出そうとするが、土砂降りの雨の音に阻まれて中々うまくいかなかった。
曖昧で、別の世界で起きた事の様。
でも確かにそれは過去にあった事だし、今でも自分は彼女達の側にいる。

パチュリーの手の中で頁が捲られる。同時に本から擦り切れた像が浮かんできた。





そこは、森の中だった。







若い魔女は驚いて辺りを見渡す。どうやら町からやや離れた場所のようだ。
目の前に肩で息をしている金髪の少女がいる。彼女の背には、硝子細工のような不思議な羽がついていた。

「助けてくれたのはあなた?……ひょっとして、天使?」

魔女の問いに少女は顔を上げた。紅い瞳。そして花弁のような唇からは牙の先端が見えていた。
どうみても天使では無い。

「助けたのは、必然というか成り行きというか、だってあなたが……。あなたは、ひょっとして聖女だったりする?」

逆に問われて魔女は首を横に振る。なんとなく予想はしていたけれど彼女は教会に居た娘らしい。十字架の下に腕を広げてぶら下がっていたものだから、まるでもう一つ逆さの十字があるように見えた。
自分は聖女ではないが、彼女に正体を答えるべきかどうかは慎重に検討しなくてはならない。助けてくれたとはいえ、彼女は自分を連れてあそこから一瞬で移動するだけの不思議な力を持っているのだから。

魔女の正体不明のものに対する警戒心は、しかし一瞬で崩れ去った。
場にそぐわない音が鳴り響いたのだ。


ぐううぅ


そう、おなかの音が不覚にも。
……二人分。
魔女は慌てて自分の腹を押さえたが、目の前の少女もそっくりな格好をしている。二人は互いの姿に思わずきょとんとなり、次にはふきだした。

静かな森に少女達の笑い声が軽やかに響く。
もっと別の場所だったら、そこからお喋りが始まっただろう。
しかし残念ながらその機会は阻まれた。パチュリーは目に涙を浮かべながらもフランドールに注意を促す。

「あなたに色々訊きたい事があるんだけど……時間がなさそうね」
「ね、来ちゃったね」

空腹という共通事項が出来た為に随分と二人の間を流れる空気は和らいだものの、その一方で事態は差し迫っていた。
遠く。だが確かに、何匹もの犬の鳴き声が聞える。明りも星のようにちらほら夜霧の間に見え隠れしている。
のんびりはしていられない。
魔女が目配せすると、少女も頷いて答える。
二人は同時に町に背を向けた。



森の道は小枝や大きな石が沢山落ちていて歩きにくい。おまけに下草の生えていない場所は所々ぬかるんでいて、脚が取られた。
段々と息が切れてくる。
魔女が冷たい空気を吸い込んで咳き込んでいると、やおら先を歩いていた少女が振り返り不思議そうに問うた。

「一体何をしたの?犬に追われるなんて、まるで犯罪者みたいじゃん」
「ん、特にすごい事はしてないわよ」
「じゃあ、小さいことはしたんだ?」
「そうね小さなことはね」


追っ手は何処まで来ているのだろうか。
飛んで逃げられれば良いのだが、魔女には生憎魔法を使えるだけの体力は残っていなかった。
そういえば、この娘はどうやって群集の間から自分を連れ出したのだろう。
状況打開のヒントが見えた気がして、魔女は前を行く少女に話しかけた。

「ねえ、天使じゃないひと」
「天使じゃないひと。じゃなくて、わたしの名前はフランドール!……なに、聖女じゃないひと?」
「こほん、失礼。フランドール、先刻みたくぱっと移動できないの?」

フランドールは魔女の言葉に表情を硬直させると、再びもくもくと無言で進みだした。心なしか、早足だ。目を輝かせた魔女は、今か今かと返事を待ったまま彼女の後ろ姿を追いかけたのだが。
藪を抜け、小川踏み越え、進む事暫し。

開けた場所で二人はとうとう進むのを止めた。
周囲を、何匹も低い唸り声を上げる犬がぐるぐると回っていた。
フランドールがやっと重たい口を開いた。パチュリーは期待半分諦め半分の表情でぜいぜいと荒い息をついている。

「実はわたし、歩くのがやっとなんだ」
「そうなのかなって、途中で思ったわ」

二人は顔を見合わせると、えへへ、と力なく笑って座り込んだ。





犬がじりじりと輪を縮める中で、周囲が薄っすらと明るくなっていく。


雲が晴れ、赤い月が顔を出した。
禍々しい光に、木々の影が長く伸びる。
フランドールと魔女は思わず空を見上げる。周りを取り囲んでいた犬も同様に、この異様な光を放つ空の珠を見上げている。

「……!」

吸血鬼の少女は、何かの気配を感じて咄嗟に魔女を庇った。
ビロードのような霧が立ち込めて、次々と犬の姿を隠してしまう。けたたましい鳴き声。パチュリーは霧が触手のように伸びて行くのを、目にした。
妖霧の存在に緊張するも、魔女は鼻先を掠めたフランドールの香りについ注意を奪われる。
緊迫した状況に反した良い香りに、彼女は意外な思いでフランドールの横顔を見つめた。
先入観もあり、血の臭いがする方が自然な気がした。
高い鳴き声が、獣のいた場所から上がる。

二人の方へ逃げてきた一匹もあえなく霧の餌食となった。


きゃうんッ!


断末魔がすぐ側でした。ぴ、と魔女の頬に血が跳ねる。二人は訪れた沈黙に身を固くした。長いような、それでいて短いような時間が過ぎていく。
やがて霧が晴れると、何も居なくなっていた。
否。
魔女には見えていた。
服を真っ赤に染めた少女の姿を。一瞬、羽が見えた気がしたが、服装はメイドのものだった。
魔女がちらっとフランドールを見ると、彼女は張り詰めた表情で周囲の様子を伺っている。顔色は、この紅い月の下でも解るほど蒼白だった。彼女には見えていないのだ。
パチュリーがもう一度霧の中から現れた少女に向き直ったその時、




霧に視界を覆われた。




浮遊感。
そして放り出された感覚がしたと思ったら思い切り身体を打ち、
魔女はそのまま気を失ってしまった。








+++++








「お前らって本ッ当に似てるよなー」


レミリアは呆れて魔理沙を見上げた。
目の前に現れたこの魔法使いは大分酔っているらしい。

「私と霊夢のどこが似てるのよー」
「そうよ魔理沙。私はこんなにちまっこくないわよ?」

ブーイングを魔法使いは否定する。

「いや、お前ら二人の事じゃなくて。ほら、お前と妹君……フランドールの事だ。見間違えたぜ。……あいつも偶には来れば良いのにな」

淡い色のレミリアの髪が、灯篭の炎に照らされて金髪に見えたのだという。どかっと霊夢の隣に腰をかけると、魔理沙は勝手に手に持っていたコップにワインを注いで飲み始めた。
霊夢が抗議しているが、聞く耳を持たない。

「手酌は無粋よ」
「注いでやるから勘弁してくれよ」

霊夢が差し出したグラスに魔理沙が器用に液体を注ぐ。とろりとした酒は、薄いガラスの内側を滑って溜まった。
火の明るさを受けて、液面が濃い蜂蜜のように光っている。
レミリアは二人のやり取りを他所にフランドールの姿を思い浮かべていた。狂って居なければ、一緒に神社に来ていただろうかと、ふと思った。

そういえば、何時からあの子は狂ってしまったのだっけ?
吸血鬼は腕組みした。すると、ほんの少し過去の破片が浮かんできた。
何故、狂ってしまったんだっけ。



ばたん、と扉の閉まる音。



ああ、これはフランドールを閉じ込めた時?
レミリアはワインを飲んだ。彼女の顎を飲みきれなかった液体が垂れて服を汚した。
妹を閉じ込める大分前の事なら覚えていた。小さな館は、時代から見放された小さな町の側にあり、そこの人々は役に立たない信仰にすがって生きていた……んだっけ?

違うな。鉄道がやってくるとか、そういう事って無かったかしら。

霊夢が空になったグラスに酒を注いでくれる。少し酔ったのかもしれない。レミリアはグラスを見つめた。
紅いワインの色は、妹の瞳の色に似ていた。
いや、これは鏡に映った自分の瞳か。
霊夢の言う通り、ここ最近自分は変ったのだろう。きっと、幻想郷に来た事で自分の中の何かが動き出したのだ。
昔の自分を思い出す。
もう少し、きつい性格だったかな、パチェとの会話も最初はやや緊張した物だった。


目の前に若かった頃の友人の顔が浮かんできた。

『さて、お客人。あなたは何故あの子と一緒にいたのかしら』
『……』
『……あなたは私達の敵でしょう?』

そうそう、こんなやり取りだった。
確か、すごくヘンな出会いだったはずだ。ぎこちないながらも、彼女とはこの時点で気が合うような気がしていた。
そして概ねその予感の通りであり、現在に至る。フランは。妹は、確か可愛い子だったはずだ。
レミリアは首をひねった。
何処から変ってしまったのだっけ?

紅魔館はぼろぼろで、まだ咲夜も美鈴もいなくって……。









レミリアの夜は突然開けた。


棺桶の中で目を覚まし、起き上がってみると沢山のドライフラワーが身体から零れ落ちた。
元は生花だったのだろう。輝きを無くし干し葡萄のような色になった花弁を手に、彼女は耳を澄ませてみる。カサカサと、小さな生き物の気配が空間全体から聞えてきた。蝋燭もついていない真っ暗な館。

起き上がろうとすると刺さった杭が僅かに痛んだ。
無理やり引き抜き横に投げ捨て飛び立つ。しゅうしゅうと嫌な音を立てて、彼女の胸の傷は塞がっていった。しかし流石に服は元通りにならず、杭の穴の周りに酸で熔けたような染みが残ってしまう。

……随分寝坊してしまったけれど、

ぱたぱた羽を動かし、ゆっくり小さな館を見て回る。

……フランドールは何処にいったんだろう。お腹が空いてるんじゃないかしら。



館にヒトがやってきたのは何年か前の事。
鉄道を走らせる為らしい。

昔からその土地に住んでいたレミリアは、赤い悪魔の昔話として、自分の存在を人々の間に浸透させていた。
町のヒトにしたら恐ろしいモンスターがすぐ側にいる訳だ。鉄道の為にも普段の生活の為にも嫌がられるのは解る気がした。
レミリアは土地を統べる者として、また永く共存する為に、彼らを満足させてやろうと考えた。

つまり彼女は実に穏便且つ単純な方法。即ちフランドールを地下室に隠し自分の胸にわざと杭を打たせるという方法を、採択した。

彼らを殺してしまえば報復に来るだろう。
それに今は遠くの町と通信する道具も作られている。一方的な殺戮などを起こしたら、館の側の小さな町だけで済む話ではなくなってしまう。他の方法として自分達の存在を忘れさせてしまう事も出来たが、それはそれでリスクが大きすぎる。

悪夢は人から忘れられると、存在する事が出来ない。

線路は結局館を大きく迂回する運命にあるから、何にせよ自分が少しだけ痛い思いをすれば良い。
小さな館と妹は守られる。それで全ては終わるはずだった。


「フラン……どこにいるの?フランドール」


これはフランドールの為でもあった。
フランドールは人間を知っているけれど、彼らに血が詰まっている事は知らない。
過保護かもしれない。
しかし、彼女は情緒不安定なところがあったので、姉としては残虐なところを見せて彼女を刺激したくなかった。
下手に彼女の前でヒトをやっつけて見せるのはまずい。狩っていいモノだと分かったら、精神の幼い彼女の事、きっと手加減を知らず食べる以上に殺してしまう。そしてやがては他の多くの同属が辿った道を同じように辿る。つまり……退治されるに違いない。
如何な吸血鬼とて、日の光に晒されたらひとたまりも無いだろう。


「フーラーン!!」


そうしてレミリアは、彼女が描いたシナリオの通りに杭を打たれた。
不死の身とはいえ、彼女は身体が壊れて消えてしまうかと思える位の損傷を受けた。

人々は去る間際に館に火を放っていった。悪魔の館がそう簡単に焼け落ちるわけは無かったが、きっと中身は燃えてしまう。

マホガニーの机や椅子。
表面のニスに小さな炎が移り、ちろちろと踊る。
よく磨かれた家具は、炎に焼かれながらも逆さにそれを映して全体を輝かせていた。
今にも火が移りそうな胡桃の棚は、北の国からからわざわざ取り寄せたものだった。

炎の中、気に入りの家具達を一瞥すると、レミリアはなんとか地下へと向かった。隠し通路に入ると入り口をしっかりと閉め、遥か下方に続く螺旋階段を下りた。まるで紅茶用の砂時計。降りる毎、さらさらと、冷たい血が傷から流れていく。
妹の待つ部屋に着いた頃にはほとんど体から抜けて無くなってしまった。
青ざめた顔で彼女は倒れこんだ。
覚えているのは妹の泣き声。

……フラン、お外は危ないから、出たらダメだからね?私の言う事をきいてね。良い子だから……。

辛うじてそう伝えると、レミリアは目を瞑った。
そのまま一体何年経ったのか解らない。回復するまで、死体のようにレミリアは地下室で眠り続けた。
そしてある日唐突に、彼女の夜は開けたのだ。

焼けてしまって扉の無い部屋を次々と見て回る。石の壁の表面はぼろぼろで、まるで長い歳月を経た墓石のよう。しかも、なにやら生臭い。カラスでも巣食ってしまったのだろうか。窓も酷く壊れていた。
居心地の良かった小さな館は廃墟になっていた。
早急に直さねば、フランドールが怖がってしまう。

「何処なの?」

壁には蔦が絡み、まるで森だ。臭いはますます酷くなった。
少女の顔が強張った。臭いに引かれるように飛んでいってみると蔦や根の間から無傷なドアが見えた。




ばたん。




ドアを開けると、
そこには鏡があった。










+++++









パチュリーは本を閉じた。徐々に思い出してきた。
初めて紅魔館に辿り着いてから今までの事。

「パチュリー様、Eの棚の整理終わりましたー!」
「ありがとう。それじゃ休憩しましょう。咲夜の作ってくれた夜食があるわ」

魔女は返事をしつつ振り返り、瞠目した。小悪魔の格好はグレードアップしていた。
目には分厚いゴーグル。マスクは防護マスクに替わっているし、ハタキの代わりに持っているものは、どう見ても刀だった。レミリアのコレクションか何かだろうか。
相変わらず悪趣味な……。

「え、これですか?パチュリー様の為に、前に咲夜さんが持ってきて下さったものですけど」

そうだった。
実験に使おうと思ったが、勿体無いので戸棚に閉まっておいたものだ。魔女はそ知らぬ顔で、頭に浮かんだ悪趣味という言葉を抹殺した。しかし、とパチュリーは小悪魔を呆れて見遣る。
何もそれをチョイスする必要はないだろうに。ほうきやモップという無難な物が掃除用具入れには沢山あるのだ。
小悪魔のエプロンに描かれたひよこのマークと刀の組み合わせはかなりミスマッチ。嬉しそうにポーズをつける彼女を見て魔女はため息をついた。
何処で育て方を間違ったのだろう。

「あ、こあ」
「はい、なんでしょう?」
「えーっと、本は無事かしら?」
「はいっ。もちろんです!お仕事ですからきちんとやりました。お夜食もすぐに用意しますね」

別に信用していない訳ではないけれど。
パチュリーは元気に飛んでいった小悪魔を見つめた。整理及び掃除がいかにして行われたかは、興味がある。

嗚呼、本。いや小悪魔は信用している。うん、信用している。

魔女はぶんぶんと頭を振って嫌な予感を追い出した。
兎も角、お茶までまだ暫く時間がありそうだし、折角思い出したのだからもうしばらく浸ってのんびりしていよう。
自分にも小悪魔のように未熟な時はあったのだ。もっとどんと構えていなくては。
思いながらも無意識に本の心配をしてドキドキしているパチュリー。そんな彼女を他所にティーセットが用意されたのは、それからきっかり15分後の事だった。


お茶の合間にはゲーム。
得てして主人不在の館では、公然と賭けが行われていたりするもの。
ましてや此処は紅魔館。
悪徳は美徳。ゲームは悪魔や魔女の嗜みと言ったところだろうか。

テーブルの端にはコインとカードの山が積まれていた。
5枚のカードを手に不敵な笑顔を見せる魔女。対して困ったような顔でカードを見つめる小悪魔。


因みに、テーブル上のコインの数は小悪魔の方が圧倒的に多かった。


パチュリーは手の中のカードを見つめる。徒に表情を変えないことがこのゲームの勝利方でもある。
小悪魔の雰囲気から察するに彼女の手は3枚までは揃っている、と言ったところか。勝負するのに迷う気持ちは分かる。
斯く言う魔女自身も、先刻引いた手で3枚までは揃っていたが、まだ弱い。とするとここはやはり。

「レイズ……」
「フォルドします」
「むきゅ!?」

小悪魔が突然カードを伏せた。思わず抗議の目を向けるパチュリー。しかし使い魔がつまみあげた紅茶用の砂時計を見て、諦めざるを得なかった。砂が全部落ちていたのだ。
お茶のお替りを所望したのは魔女自身だ。

「……何も降りる事ないじゃない。二人しか居ないんだから中断でもいいのに」
「パチュリー様は、ことカードゲームになると攻撃的すぎるんですよ」

魔女は面白くなさそうに、山から自分の引くはずだった一枚を取ってみた。捲ってみるとそれはハートの10。

無駄になった自分の手札にも10のカードがある。
小悪魔に見せると、彼女は降りて良かったと無邪気に喜ぶ。
パチュリーは、揃った4枚+1枚のカードをテーブルの上に落とした。はらはらとカードは落下し、図柄を表に卓上に広がる。
魔女が作りそこなった手。

「……残念だわ。負けを取り戻せるかと思ったのだけれど」

それは奇しくも。
魔女の脳裏に彼女の顔が浮かんだ。


勝負を諦めてお茶を一口。
咲夜の淹れるものよりも蒸らし時間は長かったが、やや渋みを感じる方が今のパチュリーの気持ちに合っていた。
小悪魔はハムとキュウリのサンドイッチを頬張っている。なんと美味しそうに食べるのだろう。魔女は感心して眺め、もう一口とカップを傾けた時。

こん、こん。

図書館の扉をノックする音がした。魔女と小悪魔は顔を見合わせた。









+++++








ノックの音に目を覚ますと、柔らかい布団に寝かされていた。
開けられた窓からは薔薇の花の香りがしてくる。
上半身だけ起き上がってみると小さな居心地の良い部屋で、丁度ドアからフランドールが入ってくるところだった。

「えーっと、パチュリー?目は覚めた?」

小さな吸血鬼を見て、魔女は彼女の良い香りを思い出した。
正体はどうやらこの薔薇の花らしい。

「どの位寝て……え?私の名前」

寝起きでぼんやりとしていた魔女は、はっとした。
まだフランドールに自分の名を教えていなかったはず。驚きではっきりと目が覚めた彼女は途端に赤面する。
破れてしまった自分の服が無く、薄い下着だけしか身につけていなかった。
思わず布団を引っ張り上げて隠す。
頬の傷に宛がってあるガーゼが毛布に触れた。
フランドールは良い匂いのする皿と小脇には服らしきものを持ってベッドサイドの椅子に座った。

「ほんの1、2時間。あなたの名前は服の刺繍で知ったのよ」

パンを添えたシチューを膝の上に乗せてくれる。
心なしかフランドールが料理を見る目が冷たいような気がしたけれど、今の魔女はそれを気にしてなどいられない。ほわりと漂う香りにまたお腹が鳴りそうだった。
先刻の恥じらいを忘れて思わず皿を両手で抱えた。

「うちのメイド、こういう簡単なものなら作れるんだけどな。食べたら何があったのか教えてくれる?」

パチュリーはこくりと頷いた。
あたたかい食事はとても嬉しかった。





パチュリー・ノーレッジ嬢は半人前の魔女だ。
人の中に紛れて平穏に暮らしていたのだが、つい最近起こった大雨で全てが崩れてしまう。

魔女だとばれた事は今まで一度も無い。
彼女は専ら自宅の一室で研究に没頭する事が常なので、人目に触れないという事も助けとなったのかもしれない。ごく普通の町娘として魔法の副産物、鏡やロッキングチェアを売ってのんびりと日々を過ごしていた。

この日も雨を操る為の研究をしていたのだが。

事件は運悪く起きた。天井から滴り落ちてきた雨が薬の入った乳鉢に落ちたのだ。
ぼん、と音をさせて鉢は飛び、輝きながら外に飛んでいってしまった。
魔女が鉢を追いかけると、それは町外れの堤防に体当たりをし轟音と共に破裂した。川の水が漏れ始め、もろもろと堤防の土を落としていく。
決壊寸前だ。

ざあざあと雨音。

足元は幾千万もの水のさざめき。
沢山の小鳥が囀るようだったが、彼女にとってそれは悪魔か何かが地中で囁き嘲る声にも聞えた。
魔女は呆然と土手を見つめる。
彼女は生まれて育った町が好きだった。町の人々が次々と家から出て来てしまう中、自分が魔法を唱えている事に気がつかず、そしてついに。

「多分あの時は、ただ堤防の決壊を食い止めなきゃって思って」
「……」
「でも私、風邪気味で」
「え?」
「周りからすれば魔法を使って故意に堤防を壊したように見えたみたい。だからある意味私は犯罪者……ん、美味しい」

余り表情を変えないで言うパチュリーにフランドールは呆れた。
このポーカーフェイスが彼女を不利な状況に陥れたのではないかと密かに思った。故意ではないとは言え堤防を決壊させたのは彼女の持ち物なのだから、ある意味、どころではない。
魔女は吸血鬼の心を知らず、シチューを食べている。

土の魔法を使って堤防を埋めようとした彼女は、詠唱の途中で咳き込み敢え無く失敗。薄く脆い壁しか作れなかった。
それは水圧に耐えかねあっという間に壊れ、町中が水浸しになるに至った。幸い被害は差ほどでも無かったが、町の中心まで流されたパチュリーはあっさりと捕まった。

「先刻も咳してたもんね」
「本当に困ったものよね。まだ熱っぽい」
「ね、どうやって逃げてきたの?」

フランドールは段々心配になってきた。この魔女は見かけは大人しそうだが、やる事は派手だ。

「魔法を使ってしまったから。拷問を受けるのが嫌で、放り込まれた建物の壁を壊して逃げたの。お陰で魔力を使い果たしてしまったわ」
「あー」

大惨事が目に浮かぶようだった。見た目と口調とは裏腹になんて攻撃的なんだろう。

「ところで」

パチュリーは手を止めてフランドールの方を向いた。

「あなたは吸血鬼?」

魔女とは押し並べて知りたがりの種族だという。目の前に恐ろしいモンスターがいたら恐怖するのが普通だろう。しかし彼女は目をきらきらさせている。興奮の所為か、頬が高潮していた。

「そうだけど……」
「身体を調べさせてほしいのだけれど」
「嫌だよ。エッチ」

フランドールは素気無く答えた。そもそもどうやって調べるつもりなのだろう?
魔女は残念そうにシチューを口に運んでいる。まさか解剖とか?フランドールはぞっとした。壁を壊す大胆さを考えればあり得ない話ではない。なまじ綺麗過ぎる顔故に、なんでもないような台詞が妙に恐ろしく感じる。
それにしても……。
小さな吸血鬼は腕組みをして、んー、と考える様子を見せた。

「ねえ」

呼ぶと魔女は木のさじを銜えながら皿からフランドールの方に向き直る。

「あなた、なんで私が吸血鬼だって分かったの?ひょっとして他にも吸血鬼見た事あるとか?」
「ふぃふぃへ?」
「食べてからで良いよ」

椅子に逆に座って、吸血鬼は脚をぶらぶらさせた。誰かと話したのは久しぶりでなんだか楽しかった。パチュリーは匙を忙しく動かして、すぐに皿を空にしてしまう。
そして、こほんと軽く咳払いすると、改めて返事をする。

「いいえ?強いて言うならあなたに牙があったから訊いてみたのだけれど」
「そう。やっぱりまだなんだ……」

フランドールは残念そうな顔をした。それから、大事な事を思い出したというように、紅い目をきらきらさせて再び魔女に訊いた。

「ねえ、パチュリーは料理できる?」
「え?ええ。余り凝ったものでなければ。貴女が食べる分には血を入れれば良いのよね?」
「そう!そうよ。ねぇ、どんな物が得意?」

魔女は何だか可笑しくなって笑った。
こういう他愛の無い話は好きだ。料理の話をするなんて、まるで親しい友人か姉妹の様ではないか。
それに喜んでいるフランドールの顔を見るのも、悪いものではなかった。









+++++








地下室なのが幸いした。
天変地異でも起きた後のように、フランドールの小さな部屋はぼろぼろになっていた。
石の壁は破壊されて土が見えているし、天井も無かった。床にはクッションの中身が散っている。当人は大変満足そうに目を閉じて、未だに想像の世界の中にいる。
彼女は、
自分の名前を沢山呼んでくれる人がいる事が、うれしかった。








「フランドール」







フランドールと料理の話しているうちに、魔女の頭に疑問が湧いた。
忘れていた。
考えれば考えるほど不思議に思えてくる。自分はどうやって此処まで来たのだろう。

「あなたが私をここまで運んでくれたの?」

フランドールは目をぱちくりさせている。何の事だか分からないといった様子だ。
彼女が椅子を揺らした拍子に、色硝子で出来たような羽が擦れあって鈴のような音を立てた。

「ほら、先刻犬に囲まれた時……あれからあんまり覚えてないんだけど」
「……さあ?」

ぽそりと呟いた吸血鬼。
魔女は驚いてフランドールを見つめた。彼女はすいっと口の端を上げて笑みを作っている。
木の洞のような笑み。
パチュリーは急に体が冷えたように感じた。なんだろう、これは。今の彼女からは不安定なものを感じる。
何か大事なものが欠落している。まるで人形と対峙しているように、目の前のフランドールは虚に見えた。

「……さあって……覚えて、無いの?」

彼女を怯えた瞳で見つめると、凍ったような表情から一転、元の無邪気な顔になり笑いだす。

「そうね、でも二人とも無事なんだから良いんじゃないかな?」

パチュリーは知らず入っていた力を抜いた。
吸血鬼と言う種族に会った事は今まで無かったけれど、小さい頃から寝物語で聴いていた。
昔話の恐ろしい印象を思わず忘れてしまうような外見の為、フランドールを今まで怖いと思った事は無かったけれど。
魔女はにこにこしている吸血鬼の少女を見た。唇から見える牙はやはり鋭い。

恐れられるには理由があるのだろう。フランドールは悪い子では無かったが、突然の豹変振りは決して心臓に良いものではない。
魔女は、今度からジギタリスでも常備しようかしら、と若い娘らしからぬ事を考えつつ手に持った皿を握り締めた。

そういえば、このシチューはメイドが作ったと言っていた……。

フランドールは最初に会った時と変らない、あどけない笑みを浮かべて此方を見ている。来客が単純に嬉しいと言った様子だ。
まるで幼い。
一体、彼女はどうやって此処で暮らしているのだろう。空の皿を渡しつつ考える。フランドールは部屋の隅の台にそれを置くと、代わりにさっぱりとした服を取り出した。
手渡されたそれを魔女が羽織ると、ボタンを留めるのを手伝ってくれる。
器用そうな細い指が胸のところで動かされる様子を、魔女は見守った。

「あなたは一人で此処に住んでいるの?」
「ううん、お姉さまと」
「お姉様?」

パチュリーは身を乗り出した。
もう一人、いる。やはり……自分の見たアレは吸血鬼なのだろうか?そうするとこの館には二人の吸血鬼がいる事になる。

「あなたのお姉様は、他の部屋にいるの?」
「え……うーん」

フランドールは曖昧に笑った。
至近距離で上目遣いで見上げられ、不覚にも心臓が跳ねる。幼いけれど、彼女はとても綺麗な顔をしていた。

「実は、暫く姿を見てないの」




魔女はフランドールから彼女の姉の話を聴いて、身震いした。
とても不思議な能力を持っているらしい。
彼女と係わる事で、運命の歯車の噛み合わせが変るというのだ。
フランドールは信じているような口調ではないけれど、現にこの館の周囲は誰かの意思が働いているかのように時代に置いていかれている。ありえない話ではない。一体どんな悪魔だろうか。パチュリーは話を聴きながら彼女の姉の姿を思い描いてみた。

尊大で馬鹿力。
服は血まみれで、
そしてなんでも串刺しに出来る槍を持つですって……?

表情はそのままに内心冷や汗をかく。興味はあったが正直会いたくはなかった。
パチュリーの脳裏に描かれたフランドールの姉、

レミリア・スカーレットは可愛いとはお世辞にも言えない姿をしていた。








+++++







「今何時?」

愛らしい微笑を浮かべレミリアが問うと、懐中時計を手に従者が現れた。大分飲まされたのか、今度は真っ赤だった。

「いま、ちょうど6時20分になるところですわ。おじょうさま」

懐中時計は逆さである。
レミリアはすくっと立ち上がると霊夢に言った。

「野暮用を思い出した。咲夜を頼むわね」

ばさりと大きな翼を広げると、あっという間に空に飛び立つ。
ついて行こうとする咲夜を、霊夢が首根っこを引っ張って止めた。何時もは完璧なメイドの彼女だったがかなり酒が回っていたのだろう、勢いで縁側に座るとそのままずるずると霊夢に寄り掛かってしまう。
レミリアが見えなくなるまで空を見上げていた巫女は、早くも微かな寝息を立てている少女を見た。首にあたる息が熱い。
このままでは酒が飲みにくいが、歳相応の顔をして寝こけている彼女はなんだか珍しかったし、起こすのも可哀想な気がした。

「ねえ魔理沙」
「なんだよ」
「布団敷いてきて。あんた私のワイン沢山飲んだでしょ」

魔法使いは文句を言いつつも、じゃんけんに負けると大人しく奥の座敷に布団を敷きに行った。
その後、何故か狭い布団に川の字で寝転がった三人。
咲夜が寝ぼけて、自分を運んだ二人の腕をしっかりと掴んで離さなかったのだ。

「仕方ないなー」
「仕方ないわね」

霊夢と魔理沙は嬉しそうな咲夜を真ん中に、一緒に寝る事にした。






一方神社を飛び出したレミリアは風切って飛んだ。
なんだか久しぶりに、フランドールに会いたい気分だった。
あと10分で深夜0時丁度。紅魔館の鐘が鳴る。









夜明けが近い。

運命を操ると言うフランドールの姉の話を聴いたパチュリーは、興奮のあまり寝付けなかった。
隣に寝ているフランドールを起こさないようにそっとベッドから抜け出すと、ドアをくぐり館の中を歩いてみた。
喉が渇いて、水が飲みたかった。

静かな館の中。
短くなった蝋燭が、消えずに残っている。
広い空間に出て見回してみると、どうやらダイニングらしい。大きな広いテーブルに自分のいるところを含めてドアが二箇所。何の臭いだろうか空気に僅かに悪臭が混じっていた。テーブルの上に何かが乗っている。拾い上げるとそれは新聞だった。

地方欄の小さな記事が載っている面が表になっていた。

彼女は、そこに書かれた予想外の名に気がつき、瞬きもせずにそれを見つめた。小さな記事を一通り読むと魔女は元の通りにそれを戻す。
ひょっとしたらフランドールは何か勘違いしているのかもしれない。
とはいえパチュリー自身も、彼女を最初に見た時は今とは全く別の考えを持っていたわけで……。

「分からなくなっちゃった」

町の方に開いた窓から、濃紺の空が見えていた。
随分長い事館の中にいたような気がする。けれど自分の居場所は……。魔女は遠くを見るような目で窓の外を眺めた。



「……」

掠れるような声。
周りが静かでなければ決して聞き取れないようなそれが、確かに聞えた。魔女は恐ろしい吸血鬼の姿を思い浮かべてすぐに打ち消す。
声のするあたりに目を凝らした。
部屋の隅、家具が置かれて影になっている辺りに小さな黒い塊が見える。
ぎくりとするも、見覚えのある姿に彼女は思わず駆け寄った。背中から叩きつけられたのだろう小さな羽はぼろぼろに崩れて見る影もない。

「フランドール!?酷い。今手当てを!」

魔女は言いながら、気がついて唇を噛んだ。自分は一体何をしようというのだ?
ぎゅっとこぶしを作って、膝に置く。

「……ね、あなた」

少女が横になったままで言う。

「……血を、血を飲ませて。少しでいい。大分流れてしまったの……痛くはしないから」
「え?」

血。
彼女は吸血鬼だ。牙は鋭かったし、ひょっとしたら命を取られるかもしれない。
しかし今にも光の消えそうな紅い瞳からは、危害を加えるような感情は読み取れない。
どうしよう、どうする?
魔女は迷った。


彼女をどうしたい?
吸血鬼は、
悪いものだ。
怖いものだ。


パチュリーはそういう風に聞いて育った。
……でも、フランドールは、昔話の吸血鬼とは大分違った。



パチュリーの頭を幼い吸血鬼の笑顔が過ぎった。



そう、ちょっと吸われるだけ。
ちょっとだけ。
魔女は意を決して頷くと、壊れた人形のような体の上にかがみこんだ。
柔らかい髪が魔女の鎖骨に触れ、鼻腔を鉄の臭いに混じって良い香りがくすぐる。伸ばされた四肢は冷たい……しかしマシュマロのように滑らかで柔らかかった。

痛みは一瞬。
甘美な刺激が鼓動の度に身体に広がった。
そして一口吸われる毎に血液と一緒に力が抜けていく。
手足が冷たくなっていくのが分かり怖くなったが、背中を優しく撫でられてそれも淡雪のように消えた。
世界がぐるぐるまわる。

徐々に吸血鬼の少女の傷は癒えていく。ぼろぼろだった姿が治る。
魔女は少女の羽がぴんと伸ばされるのを目にした。








+++++







がしゃがしゃと玄関の鍵を弄る音。

彼らは物騒な獲物を沢山持っている。
周囲は夜が消える寸前の薄い青に染まっていた。日の出が近い。
パチュリーは、フランドールを揺さぶった。

「起きて。フランドール」
「んー、もう朝だよぅ?」

フランドールは目を擦りながら起き上がり、魔女が指す外の様子を見るとぎくりとした。館にまで町の人々がやってくる事は予想していなかった。
此処は彼らにとって忘れられた小さな廃墟のはず。
どうやって此処まで来る事が出来たのか。

「……この家に、隠れるところはある?例えば……地下室とか」
「地下室、なら」
「急いでそこに向かいましょう」

パチュリーは部屋の隅に点っていたランプを手に取った。
二人は階段を飛ぶように降りた。辺りの様子を伺いつつダイニングを抜け、図書館を抜ける。
窓から突破口は無いかと見てみるが、どこからも人の姿が見える。入り口の扉を壊しにかかる音が断続的に小さな館に響く。

鶴嘴か何かで叩いているのだろうか、壁が震えて細かい塵が落ちた。ややあって、建材の割れる鈍い音と同時に複数の足音が館の中になだれ込んだ。
小さな吸血鬼は怯えたように入り口の方を見た。
何故?
幾ら魔女とはいえ、女が一人消えただけだ。徹底的に追いかけてくる、その理由はなんだろう。

「大丈夫、きっと大丈夫よ」

魔女は実の妹を安心させるように、フランドールに繰り返し声をかける。
やっとの事で辿り着いた地下室への隠し通路。
しかし、その前には重たい棚が立ちふさがっていた。
パチュリーは驚いたが、霧になれる吸血鬼ならば行き来は問題ないのだろう。違和感を覚えたけれど、切迫している事態に詮索する暇はない。

「フランドール!私ごと霧になれな……」

パチュリーが言い終わらないうちに、
棚は、
粉々に壊れた。

「……え?」

フランドールの姉の仕業かと思ったが、魔女は何処にも彼女の姿を認めることが出来なかった。
音に気がついて、図書館を抜けてくる足音が聞える。
フランドールを隠し通路の中に押し込んで、自身も入り込むとすぐに魔女は魔法の詠唱を始めた。治りきらない風邪の所為で喉が苦しい。幸い、材料は沢山落ちている。棚の破片を使えば失敗はまずないだろう。短い時間で彼女が唱え終えると、金属的な音が響くと同時に通路の入り口は薄い壁で塞がれた。

「すごい」
「けほ、ごほッ……私としては、早く火や水の高等魔法を使えるようになりたいんだけど……」

パチュリーの胸を罪悪感がちくりと刺した。
その所為で表情に僅かに影が指したのだが、フランドールからは見えない角度だった。

「表にはまだ破片が落ちてるはずだから……ばれる前に早く」




通路の中には淀んだかび臭い空気が蟠っていた。
喉がやすりで擦られるような心地がして、魔女は激しく咳き込んだ。

通路を過ぎて階段を見つける。
降り口はしっかりと木が打ちつけられて簡単に降りる事は難しそうだった。魔女が魔法を使おうとすると、詠唱をする前に古びて黒ずんだ木もまた粉々になってしまう。

「フランドール……?」
「……」

小さな吸血鬼はにこりと笑っただけで、何も言わない。
またあの洞のような笑顔だ。
ランプの明りを頼りに長い螺旋階段を下りる。段は壊れている箇所もあり、油断すると踏み外してしまいそうだった。
明りをかざしても一切底が見えない。人間が落ちたら助からないだろう。まるで永遠に続くような左右の壁。
ふわふわと飛ぶフランドールを従えて、魔女は歩く。
地獄を通り越して煉獄を抜け天国にでも行くのではないかと錯覚をするくらい、長い道のり。

遥か上の方で入り口が破られる音がするまで道程は続いた。
その音がパチュリーを現実に引き戻した時、彼女の足は丁度最後の一段に触れた。
ランプに照らされたのは、古い蜘蛛の巣が層になり天井から垂れ下がる小さな空間。
奥に扉がある。

「ごほ、……」

歩を進めると床に積もった塵芥が舞った。パチュリーは袖で口元を隠しながら扉に近づき取っ手を握る。


き、と音をさせて扉が開く。


中には棺が一つ。
蓋はしっかりと閉じている。
パチュリーは近づいて、ランプをかざし蓋の表面の埃を払った。

レミリア・スカーレット

名前がはっきりと見えた。
他に隠れるところなど何も無い部屋。中に入れそうなのはこの棺しかない。
パチュリーは明りを床に置くと、ぐっと力を入れて蓋をずらし、音が響く事も構わずに最後は落下するに任せた。
煙の如く舞い上がった埃にランプの明りが拡散し、空間が幻想的な黄色に染まった。


「……!」


再び光の効力が戻った時、棺の中がはっきりと照らし出された。
魔女は後ずさりした。


中に横たわっていたのはフランドールだった。


では後ろにいる少女はやはり?
振り返るのが怖い。
くすくすと笑い声が聞える。



「紹介するわ。そこで寝ているのがレミリア・スカーレット……私のお姉さまよ」








+++++







ノックの音に顔を見合わせた二人。予想よりも早い時間にパチュリーは驚いた。
しかし同時に、魔女は心の何処かで彼女が来るような気がしていた。

「ねえ、こあ」
「なんへひょう、ふぁちゅりーさま」
「食べ終わってからでいいわ」

焦って飲み込む小悪魔は、なんだか可愛らしかった。

「なんでしょう、パチュリー様」
「これから地下室に行こうと思うのだけれど……」

小悪魔はサンドイッチを片手にふるふると首を横に振っている。

「留守番をお願いできるかしら」

魔女が続きを言うと、今度はこくこくと首を縦に振った。

「それじゃ、お願いね」

パチュリーは、カップの中身を飲み干すと入り口付近に掛けてある非常用のランタンを取り上げた。
扉を開けると同時に鳴る深夜の鐘。
そこには大きな羽で宙に浮いている館の主人の姿があった。雨音は止んでいる。主人の帰還と共に館にかけてある全ての魔法は消え失せた筈だ。使用人部屋の妖精達も安心している事だろう。

「お帰りなさい、レミィ。随分早いのね」
「ただいまパチェ」

にこりと笑って魔女はレミリアの手を取った。レミリアもにっと笑って床に着地する。

「ふふ、立派な魔女になって」
「あら、あれからもう100年も経つのよ?」
「100年か……もう100年、パチェは紅魔館に居るのね」

レミリアは暗い廊下の先へと視線を投げた。
それはまるで何時かの過去へと向けられた視線のようだった。
思い出したある騒動。
その騒動が無くてもいずれ紅魔館は幻想郷に到っただろう。しかし、パチュリーと会えていたかどうかは分からない。
運命なんて大層に見えて、たった一枚の皿で変る事があるから面白い。

「あの子、もう一人姉を持てたようなものじゃない?」
「あら、私はフランドールより年下よ」

くすりと笑って、魔女は図書館の扉を閉める。レミリアの隣に並び、廊下を共に歩き出した。







「……あなたの姉?」


薄い目蓋を閉じて棺に横たわる少女。
震えの混じる魔女の言葉に、背後にいる少女が動揺しているのが分かった。気がついたのだ。そこにいるのが自分自身だということに。

「うそ、お姉さまは……!?」
「あなたは……此処に寝ているのが本当にお姉さんだと思ってたの?」
「知らない、知らない、しらない、しらな


バタン!


フランドールの声は勢いよく開いたドアの音に消された。
魔女が振り向くと、そこには鉄砲や鍬を構えた人の姿ではなく……小さなメイドが一人。
綺麗なエプロン。だが、後ろで結んだリボンが縦になってしまっている。

「お前っ……」

フランドールは使用人が現れた事に露骨に不快感を表していた。
しかし当のメイドは何処吹く風で悠々と周囲を見渡す。二人が呆気に取られてみている前で、彼女はにこりと笑った。動じない彼女にフランドールは、戸惑いを含んだ言葉を小さな姿に向かって放った。

「まだ、生きてたなんて」

メイドはじっと彼女の様子を見詰めると、今度はパチュリーの方を向いた。魔女はそれが霧の中にいた人物である事に気付き、唾を飲み込む。

「無視するの!?」

フランドールの声。ややヒステリックに部屋に響く。その中でメイドの様子に変化が現れた。
ぶるりと身を震わせて天井近くまで浮きあがる。




はッ……あはははははははッ!!




高らかな笑い声が二人の頭上から振ってきた。
メイドはくるりと宙返りをすると蝙蝠の羽を持った吸血鬼へと姿を変えた。フランドールのたじろぐ様子が魔女の視界の端に映った。
宙に浮いた吸血鬼は胸を張り、魔女がこの夜間行動を共にしたもう一人の吸血鬼……フランドールの姿を、凶星のように光る紅い瞳で見下ろした。

フランドールは怯えた目を魔女に向けた。

魔女は視線を外しこそしなかったが、その場を動く事もまたなかった。
いや、……部屋全体が脈を打つように歪んでしまう強烈な妖気に中てられ、動けなかった。

音も無く着地すると、蝙蝠の羽を背負った姿は腰に手を当ててゆっくりと進んだ。そしてほとんどフランドールと触れ合う位置で止まる。
フランドールともう一人の吸血鬼が向かい合う様子は、背格好もほぼ同じでまるで鏡の内と外のよう。
片や引きつり、片や余裕のある笑顔を浮かべている。

「……ようやく捕まえた」

鏡像が、壊れた。
蝙蝠の羽を持つ少女がフランドールを両腕の中に捕らえる。金髪の少女は小さい声でいや、と言ったように見えた。
しかし彼女は拒めず、両手を握り締めて震えるだけだった。ランプの明りに揺らめく影が、壁に映し出された。
じじ、とランプの芯が音を立てる。

ぎし、みし……みし、

最初はランプの音と聞き間違える位の小さな音、しかし徐々に大きくなる。
大きな蝙蝠の羽が隠す中で、硝子細工の羽を負った背中がそり始め、両脚が地面を離れていく。影絵遊びのように、壁の中でも同じ事が起きていた。
軋む音。
無抵抗なフランドールの身体が、悲鳴を上げている。パチュリーは、指先が冷たくなるのを意識した。
苦しい。
上手く呼吸が出来なかった。



ぉ……ねぇ……さ



喉の奥に何かを詰まらせたような声が、蝙蝠の羽の中から漏れた。
小さな手が、強張って震えながら羽の間から助けを求めるように伸ばされた。
戒めが解ける。
パチュリーの体が動いた。彼女はフランドールの名を呼び腕を伸ばしたのだが……。


鈍い、音。


伸ばした指先は、届く事がなかった。
床に何かが大量に……さながら黒い花のように次々と咲いては床を埋め流れ出し、パチュリーの足元まで広がった。
明りに照らされた場所だけは、光の加減なのか赤い色にも見える。
魂を抜かれたようにその場にへたり込んだパチュリーの指先に、枯れた薔薇の花にも似ている色が僅かに触れた。


満足げに“それ”をぶら下げて、吸血鬼は魔女の横を通り過ぎる。
ぶらんと垂れ下がった白い腕。そして壊れたペン先からインクが漏れるようにぼたぼたと床に描かれる歪な線。
吸血鬼が棺の中に遺骸を入れる際、一際沢山インクが漏れた。
ずるりと棺の体と重なった躯は、淡い光を放って静かに消えていった。



「先刻は血をありがとう。お陰で傷も大分癒えたわ」

蝙蝠の羽の少女は、先刻までとは打って変わってチャーミングな微笑を浮かべ、片目をつむってみせる。
へたり込んだままでパチュリーは大きく息を吐く。緊張のあまり今まで上手くはけなかった熱い空気の塊が出て行った。
何故だか、涙も溢れた。

「ふふ、これで3体……やっと終わった」
「……ぅ……っく」

悪戯っぽい笑顔を浮かべて吸血鬼は魔女を見遣る。

「泣いてるの?怖かったのね。それともあの子の為?」
「えぅ……うっ……」
「まあ良いわ。ねえ、さっき言った通りあの子は居なくなる訳じゃないの。それだけは信じて」


パチュリーが泣き止むまで蝙蝠の羽の吸血鬼はしゃがみこんで側にいた。
時折頭を撫でる様子は、フランドールと背格好は変らないのに、酷く大人っぽかった。









+++++








「さてっと、これでよし」

その様子はまるでハーメルンの笛吹き男。
館に押し寄せた人々は、幻影を見せられて立ちながら夢を見ているようだった。レミリアが上を飛ぶと、大人しく列を成して帰っていく。パチュリーはその様子を泣いて赤くなった目を丸くして観察した。

「これは運命操作の能力なの?」

フランドールはレミリアが運命を操作できると言っていた。
館の主人は一人残らず町へと去ったのを見届けると、肩を竦めて言った。

「いいえ、ただの吸血鬼の能力よ。珍しいものではないわ」





横たわるフランドールの指先に、パチュリーはキスをした。
それから棺の蓋を閉め、魔女は地下室の扉に内側からは開かないよう念入りに封をした。

パチュリーの血を吸ったのはレミリアだった。
血を吸われた後、魔女は彼女に今いるフランドールが不完全で危ない存在である事を聴いていた。
また、助けてやろうとも言われた。
地下室にフランドールを連れて来たら、あと半時も経たずにやってくる町の人から匿ってやろうと。
実際、棺に横たわるフランドールの姿を見るまで魔女は何もかも半信半疑だった。

二人はぼろぼろになったダイニングに行き、各々椅子に掛ける。
割れた窓からは大分明るい空が見えていた。
とはいえ晴天ではない。曇天。それでも息苦しい地下を考えると、清々しいほどの明度で窓の外に広がっていた。

「さて、お客人。あなたは何故あの子と一緒にいたのかしら」
「……」
「……あなたは私達の敵でしょう?」

ぼろぼろになったテーブルクロスに、レミリアは両肘をついて訊いた。向かいに座ったパチュリーはきちんと膝を揃えて聴いている。
二人の真ん中には新聞が置かれていた。

「あなたはダンピール。違う?」
「そうね、でも今は敵になる気は無いわ」

群衆に紛れた悪夢を見つける事の出来る魔女がいる。
ダンピールと呼ばれる彼女らは吸血鬼を狩る事ができると言われていた。一説には吸血鬼の血が混じっているからとも言われているが、本当の理由は分からない。

ただ、見える。

何処に紛れていても、吸血鬼が見える。
パチュリーが蝙蝠に化けたフランドールを見たのも、霧の中にいたレミリアを見つけたのも、ひとえに彼女がそういう能力を持っていたからだ。
魔女は膝に手を置いて、館の主人が話を続けるまで待った。
レミリアはテーブルの上に投げ出された新聞を取り上げる。

「地方欄……フランドールが気にしていたけれど。あなたは誰?」
「パチュリー・ノーレッジ。あの町を水浸しにした、しがない町娘よ。確かにあなた達をやっつける事で色々ふいにしてもらうつもりだった……此処に来るまでは」
「ああ成る程。記事の娘と名が一緒なのか。記事では死亡しているのに此処にいると言う事は、生き返ったの?」
「よく記事を見て。事件が起きたのは違う町だし、一緒なのはファーストネームだけ。ただの別人よ。先刻新聞を見つけた時は驚いたわ」

フランドール。
彼女は何処までも無邪気。
美味しい料理を口にしたかっただけだった。
記事の中で死亡していた筈の罪人“パチュリー”が近くにいる事を知り、本物だと信じて確保に飛んでいったと言うわけだ。
新しいメイドとしてうってつけだと思ったのだろう。

一方パチュリーはフランドールを一目見て、町に伝わる赤い悪魔が現れたと思った。
ラッキーだとも、思った。
人間の行うリンチの対象と言うのは、意外と何でも良いもの。より凶悪そうなものを差し出せば、矛先が其方に向かう事は容易に想像できた。だから彼女を捕まえる事が出来れば、自分はまた町に住めるのではないかと考えた。

「でも……」

パチュリーは、フランドールの顔を思い出した。
あの場から助けてくれた事には変わりはない。シチューを持ってきてくれたし、ぼろぼろの服を取り替えてくれた。話していた時の楽しそうな表情にも偽りは無い。彼女に連れてこられて悪い事など今まで特に起きなかった。
完全ではなかったとしても、彼女は彼女だ。
それに、
シチューを作ってくれたのは目の前に居るレミリアだろう。
犬を退治してくれたのも、町の人から自分を守ってくれたのも、また町の人を無傷で帰したのも彼女だ。
結果としてパチュリーは姉妹から十分すぎるほどのもてなしを受けていた。

「あなたは、……そう、あなたも私を助けてくれたでしょう?後一つ、あなたに訊かなきゃいけない事があって……」

館の主は面白そうにパチュリーの話を聴いている。
適切な言葉を選ぶように人差し指を顎にあて魔女は目を閉じた。その様子は何かを確認するようにも見えた。
再び菫色の瞳をレミリアに向けると、パチュリーは言いかけた台詞を言った。



「……犬歯が伸びてきた気がするんだけど、気のせいかしら?」



館の主は破顔した。









+++++








「ランタンを持ってると隠者みたいね」
「レミィ、ここで問題なのはね、ひとを隠者にしたのは誰かという話よ」
「助けたんだしお礼くらい貰っても良いじゃない。魔力も増えたでしょう?魔女である事には変わりないし、文句言わないでほしいわ」

こつこつと二人分の足音が響く。
地下へと続く螺旋階段は有能なメイドのお陰で随分綺麗に掃除されていた。蜘蛛の巣一つ無く、壁には綺麗な絵まで飾ってある。

「もう外に出せるかしら?」

レミリアの言葉に魔女は頷いた。

「これだけあなた達の事を知っている人がいるのだから、きっと大丈夫」

紅霧異変の後からフランドールの様子は確かに変った。
魔法使いに引っ張り出されてから随分安定している。少なくとも狂っている感じはしなくなってきた。

勿論レミリア自身も変わった。
他との交流のお陰で、神経を張り詰める事も無くなった。
今まで彼女は人々に忘られる事がないよう、常に気を配り緊張していた。

しかしここならば。
この幻想郷ならば、心配は要らない。

霊夢がグラスに映ったレミリアの姿を見つけたのがその証拠。
外の世界の人々のように、心のどこかで「吸血鬼はいない」と考えていれば、吸血鬼の姿は映らない。
彼女は当然のように「吸血鬼はいる」と思っていたから、レミリアの姿をグラスの表面に見る事が出来たのだろう。



レミリアはフランドールを探し歩いて最後の扉を開けた時の事を思い出した。






鏡が置かれているように見えた。

鏡に吸血鬼は映らない……という言い伝えがある。
赤い悪魔として存在を知られているレミリアには余り関係の無い話だが、フランドールの姿はその伝承の通り映らない。
妹が不審がるといけないので、館には鏡を置いていなかった。

なのに、その妹の像が四つも見える。
レミリアは目を擦った。
鏡像ではない。


フランドールの存在が、ぶれていた。


個としての彼女を維持しなければ、その内拡散してしまう。
この状況では、彼女の自我が流れ出さずに残っているのかさえも疑わしい。
大きなクッションに埋もれて四つの像は眠っていた。生死の無い吸血鬼は忘れ去られる事でその存在は無くなってしまう。

それに死ぬ事は無いだけで、存在する以上当然飢える。
言いつけを守って館の外に出る事は無かったのだろう。
食べるものは館に集まる動物のみの過酷な状況。周りに鼠やカラスの死骸が沢山落ちていた。

レミリアは呆然と彼女に近づいた。
信じる人が多ければ多いほど、この世での自分達の存在感は増す。フランドールは、辛うじてレミリアが知っている事で輪郭を保っていた。
だから、この何年かの自分の不在が彼女に与えた影響は、計り知れない。
一歩、
二歩。
たった一人の妹だから、なんとかしたい。
レミリアはフランドールの存在を信じた。

信じた。

三歩目を踏み出した瞬間、フランドールの目が開いた。
レミリアは体の中できゅっと音がしたのに気がついた。
何の音か認識する間も無く、四人の悪魔が宙を舞ったのが逆さに見えた。




おねえさまはちかしつでねているのあなただあれあなたなんてしらない




狂ったように笑う声がどんどん遠くなる。
レミリアの身体は粉々になった。








「あれは不覚だったわ」
「?」

レミリアはこめかみを押さえた。パチュリーは面白そうに友人の様子を見つめている。

「実の姉をばらばらにするなんて、やっぱり危ないかしら」
「何を今更……本当は早く一緒に暮らしたかったくせに。魔法使いと会って、彼女の精神はまた成長したと思うけど?フランドールもあなたの事、嫌いではないと思うわ」

魔女の視線に、レミリアの顔は赤く染まった。
分かっていた。
棺にあった溢れんばかりの花は、まだ正気の時にフランドールが入れたものだろう。恐らく、自分が起きた時に喜ぶようにと、何度も何度も地下室と部屋を往復したに違いない。

「あなたに血を吸われた時ね、薔薇の香りがしたのよ」

妹とおそろいね。
そう言って笑った魔女の頬を、レミリアは軽く握ったこぶしでパンチした。

最後の一段を降りると、フランドールの部屋の前。レミリアは引きつった。見事に壁が壊されて、天井も崩れている。部屋のドアは無かった。この様子を見たらメイド長は卒倒するだろう。
綺麗に部屋を直すのに、二日は掛かりそうだ。

「本当に、もう閉じ込めなくて大丈夫かしら?」

レミリアの問いに魔女は笑っただけで、答える事は無かった。






再生するのに丸二日掛かった。


治ってから、館の主は慎重に行動した。
ごっこ遊びと割り切って使用人に身を窶し、上手くフランドールの目を欺く事も出来た。

フランドールは分散している為に一体一体に通常の吸血鬼の力は無く、長くは蝙蝠や霧に化けられない。
彼女達は目を覚ましてから、ある程度理性を取り戻していた。
しかしやはり以前のフランドールではない。姉の起きるのを待って館を彷徨う亡霊のようだった。

何時までも迷い込んだ動物が食事では可哀想なので、レミリアは妹が餓えないように、腕を振るって動物の血を入れた凝った料理を作った。
因みに料理は大抵そのまま皿に残っていて、彼女は少々悲しい思いをした。

隙を見て、はしっこい彼女を一人一人捕まえては動けないようにして地下の棺に閉じ込める日々。
幸いフランドールはレミリアがまだ其処に横たわっていると思っている。
棺の中は一番安全な隠し場所だった。
赤い悪魔の異名を持つこの姉は、自分の宝物が誰の目にも触れないように、地下室への入り口をしっかりと閉ざしておいた。


全員集め終わったら、きっと元の妹に戻るだろうと願いながら。









レミリアは邪魔な位置に落ちている石を蹴飛ばした。








最後の一体は中々捕まらなかった。そして相変わらず食事を食べてもらえない。
ある日レミリアはご馳走を作ろうと決心した。
これが大きな失敗だったのだ。……そして全ての始まりでもある。

捕まえたは良いが人間などを捌けるはずも無く、彼女はとりあえず特製のソースをたっぷりかけて皿に盛ってみた。
するとフランドールは食べるどころか、きちんとした料理を作れる料理人を捕獲する為に、躊躇無く町へと繰り出してしまった。

慌てて追いかけ、妹の連れていたパチュリーも一緒に回収したまでは良かったのだが、
気が付くと料理に使った男がゴミ箱からいなくなっていた。
ソースの後のみ館の外へと続いている。

嫌な予感がして、レミリアは再び霧になり男の行方を捜した。彼は果たして町にいた。
思ったとおり、魔女の行方を捜していた人々に館の事を話している。
館には吸血鬼が居る事がやや誇張されて伝えられた。


吸血鬼は、
馬鹿力で
恐ろしく大きくって。
服は血で汚れていて、
そして厨房には串刺しにされた象がいたですって……?


厨房にいたのはステーキ用の牛だ。
大いに反論したいところもあったけれど、レミリアは諦めた。
潮時だ。
何度も杭を打たれるわけにも行かないし、今はフランドールを元に戻す事が最優先。もう歪んだ赤い悪魔の存在など忘れさせてしまおう。
準備が出来たら土地を捨てて遠くへと去るのだ。まだ悪魔の信じられている場所へと。






パチュリーがランタンをかざす。





レミリアは決心して館に戻った。
失意の内、メイドの姿になると客人のため、妹の言いつけ通りに服を用意した。
料理に手を掛ける気力が無かった彼女は、煮込めばよいだけの簡単なシチューを作る。
フランドールは、きちんとした料理が出来上がったのを見て怒った。
姉が扮したメイドは何故彼女が怒るのか理解できなかった。

二度目の大怪我。
まだばらばらに破壊されなかっただけ、良かったのかもしれない。思い切り壁に投げつけられた。
ずるずると床に突っ伏しながら、姉は徐々に遠ざかる妹の姿を赤く染まる視界の向こうに見た。
情けないな、とは思ったものの実の妹には勝てない。
可愛いと思っているからこそ、勝てない。

まさかシチューの所為で床に転がっていたとは言えず、レミリアは未だパチュリーに怪我の理由を教えていない。






フランドールは、階段を下りてくる足音で目を覚ました。

夢の中で、魔女はまるで友人か姉のようだった。
実の姉は怖かったが……ずっと寝ていた筈の彼女が、棺から起きあがって動いていた事は嬉しかった。

頭の中が今までとは比べ物にならない程明瞭で、不思議な気分だった。
なんだろう、この気持ち?
誰かに会いたいなんて、今まで思った事がなかったのに。
黒白の魔法使いと弾幕合戦をやってから、小さな吸血鬼の中で止まっていた何かが動きだした。
ランタンの光が、彼女の部屋を照らした。





棺に集められたフランドールは、暫くして目を覚ました。

分身していた頃の記憶は、夢の中で起きた出来事のようにすっかりと消えていた。それ以前の記憶も曖昧で、彼女にとって閉ざされた地下室が世界の全てだった。

それなのに扉が開かない事が無性に腹立たしく、そして少しだけ悲しかった。

彼女が外の世界を完全に忘れた頃、誰かが部屋の中に本を持ってきてくれるようになった。退屈しのぎとしては十分で、フランドールは日がな一日それを読んで過ごした。
活字は嫌いではない。
推理小説が特に面白かった。
何度も繰り返し読み、飽きると外の世界を想像してその中で遊んだ。

退屈しのぎの二つ目も、地下室に居るうちに身につけた。
最初はほんの思い付きだったが、彼女は時間を掛けて方法をさぐり、安全に分身する事が出来るようになった。
それはフォーオブアカインドという名のスペルカードとなり魔法使いと対戦した際に使われた。






レミリアとパチュリーは、その名を呼ぶ為に大きく息を吸い込む。






日光が苦手となった魔女は町へ戻る事を諦め、館の図書館で時を過ごす事にした。

フランドールにまた会いたかった。
館の主とはなんだか気が合いそうだったし、フランドールの存在を信じている自分がいれば、彼女が霧散してしまわない事も彼女から聞いた。
それに図書館には、手に入れることが困難な魔導書が沢山眠っていた。
主の引止めに応じ、中に混じる面白そうな小説を地下室に運びつつ、彼女は研究に没頭した。
七曜の力を身につけ、転移魔法を完成させたのはそれからすぐの事。レミリアに報告すると、彼女は手を叩いて喜びすぐに実行する許可を出してくれた。

小さな館を魔方陣で囲み、時空を旅する事幾数年。
館は色々な国に漂着した。
パチュリーは珍しい本を片っ端から集め、小悪魔を召還する事に成功。国々で消えかけていた妖精達も館に使用人として次々とやってくる。
後に有能なメイドとなる少女も、体術を操る妖怪も何時の間にか仲間になっていた。
それこそ魔女の時と同じ。一皿の料理のような些細な出来事が彼女達の運命を館に向けた。

ノアの箱舟みたいね……。

思いながらも、そこは悪魔の住む館。動物ではなく、悪夢を載せて館は旅をした。
延々と漂流しながら、とうとうたどり着いた東の国の理想郷。神や魔の存在が生きている……幻想郷と呼ばれる場所でついに館は根を下ろした。
もう移動しなくても良いだろう。
彼女は魔方陣を片付けて、図書館に引きこもった。

問題が一つだけ。

風邪の時にレミリアに血を吸われた為か喘息が不死になってしまったらしい。
咳が治る事はとうとう無かった。
魔女の永遠の悩みの種だ。









100年の歳月を経て三人の中で、新たな時が動き出した。
吸血鬼は鏡に映らない?答えは否。
幻想郷においては冗談にしかならない。





「「フランドール!!」」





パチュリーとレミリアが同時に呼ぶと、ランタンの明かりを反射して美しい羽が煌いた。
ばっと飛び出してきた小さな吸血鬼。



彼女は二人の腕の中に飛び込んだ。











+++++













おわりに。









文々。新聞の取材の後。
フランドールと文のやり取りを聞いたレミリアは、図書館を訪れていた。
別名、魔女のお悩み相談所である。



「フランってあんなに性格悪かったかしら……確かにもともと不安定な子ではあったけど」
「……閉じ込めたからかしらね」
「だって、またばらばらの粉々にされたら嫌じゃない……あ、ひょっとして反抗期?」
「そうかもしれないわ」



紅魔館は半永久的に平和である。










鏡に姉妹の姿が無くなるその日まで。

















パチュリーの喘息とレミリアのカリスマブレイクと、フランドールが狂った子から情緒不安定な子になるまで。

拙い文章ですが、ここまで読んでくださってありがとうございました!




12・15

評価ありがとうございます!
コメント返しをサイトの方で今日明日中にさせて頂きたいと思っております。
取り敢えずこの場をお借りして。
感想、大変嬉しいです。読んでくださってありがとうございました!



12/16


コメント返しさせて頂きました。
遅くなりました。サイトでなく、こちらで。






遅くなりましたが、

コンペのお返事をさせていただきたいと思います。









■ パレット様



確かに。

結果の出た今、漸く読み直す事が出来たのですが設定に溺れたような感が否めません。もう少し読む人の事を考えてあっちゃこっちゃに視点・場面移動しない方が良かったなぁと思いました。 次に何か書く時はなるべく分かりやすくを心がけたいと思います。

読んでくださってありがとうございました!





■ さく酸様



過去話は既に色々な方が色々な方法で表現されているので、何かしら新しいものを取り入れたいと考えました。さく酸様がそこを評価して下さった事は素直に嬉しいです。分かりにくい理由ですが、平行描写、場面が変るたびに視点も変ってしまうからなんですね。落ち着いて読み返してみると自作ながら目が回る……!面白さと読みやすさ両立目指して精進いたします。

最後まで読んでくださってありがとうございました。




■ もみあげ様



楽しんでもらえたなら、書き手としてそれ以上に嬉しい事はないです。一人でも楽しませられたのなら、書いてよかったと思えるのです。ラストについてですが、結局のところ舞台は幻想郷。到るまでの過程であっても幻想郷の住人が主人公であるならば、楽園の住人という事で幸せな終わり方を用意したかったんです。

なるべく多くの人に楽しいと思ってもらえる作を書けるよう、もう少し技術を身につけたいと思います。

感想、ありがとうございました。




■ asp 様



設定に……おぼれました。

視点、時系列をちゃかちゃか変えるのは、シーン毎、ある程度の長さを持たせないと落ち着きませんね。書き方の拙さは読み返してみて自分でも改めて感じました。山が、山が無い!ところどころに小さな盛り上がりがある所為で埋まってしまってますね。

この長さの文章を書いたのは初めて。他では中々このような感想を頂けないので、asp様のような細かなご指摘は本当に勉強になります。

ありがとうございました!




■ yunta様


そうですね。

ワンシーンワンシーンがばらばらに散ってしまっている。繋げても良いところを切って貼ってとパッチワークにしているので、これは読みにくい。ストーリーは幻想郷に来る前の話しなので読者を選ぶかな?と。それでも読みやすさがあれば、まだ取っ掛かりがあるのでしょうが……。

うーん、まだまだ課題が多い。何時かyunta様を楽しませる事の出来る文章が書けるよう、勉強したいと思います。

感想、ありがとうございました。





■ とんじる 様



なるべく突飛過ぎないように、且つ目新しいようにを心がけました。そうですね……ホラーや怪談物は読むのも書くのも好き……なんですが、個人的に後味の悪い終わり方を書くのは好きでないんですよ。最後だけはなるべく欠片でも幸せを附加したいなぁと。他の方の書いた物はアンハッピーでも楽しめるんですが……。キャラクターをなるべく生かしてあげたいですね。その為にはキャラの動く舞台(地の文や構成)をもう少し安定したものにしなければ。

キャラクターに関する感想を頂けたのは、本当に嬉しいです。

ありがとうございました。

まだ頑張れる!




■ Admiral様

ハッピーエンド好きです。

若かりし頃はガンガン痛いのを書いていましたが、今は書けない……歳を取りました(よぼよぼ)暫くSSを書く事から離れていたんですが、書いてみるとやっぱり楽しいですね。殊、東方というジャンルは何でもいるから誰で書いても楽しい。次回書く機会があるとしたら、テンポ良く進むのを目指したいと思います。

楽しんでもらえたら幸いです。

感想ありがとうございました!





■ ざる。様

吸血鬼という事で、情景描写をする上で暗さを意識しました。

なるべく晴れやかさが無いように、影や空。蝋燭等の小道具も所々用意……したんですが、もっとそれを楽しめるような構成にすれば良かったなぁ!書いている最中は楽しくってフィルターが掛かっていて分からない。けど、読み返してみたらなんか硝子越しにそういう世界を見てるようですね。もっと読んでいてどっぷり浸かれる文章を書く事を意識したいと思います。

感想ありがとうございました!




■ deso 様


ちぐはぐですねぇ。

シーンの切り替えに似た言葉を使ってみたんですが、やっぱり読み返してみるとちぐはぐですねぇ……(涙)現在パートと過去パート、最初に分けて書いたのもNGだったかも。作った構成の通りにキャストを動かしてみたんですが、読み返してみるとワンシーンワンシーンが短くて高速の紙芝居を見ているようでした。うーん、時間が出来たら練習がてら視点を統一して書き直してみようかな?過去パートに比べて現代が軽すぎるのも裏目に出たかな。

それでも少しでも面白いと思っていただけたら僥倖。

読んでくださってありがとうございました!





■ 八重結界 様

ううむ、も少し読み易いように心掛けます。最後まで勢いで読めるような作品を作る事が目標。ずばっと言って下さる方がいらっしゃるのはありがたい事です。コメントを残していただけた事、大変励みになります。

精進します。





■ 木村圭 様


言葉は……読み返すとまだ甘い所があってお恥ずかしいですが、拘りました。ありがとうございます。全体を構成するパーツをちょっと散らばせ過ぎました。読む方が意識的に探すようにしないと読めないのではまだまだだなぁ。とはいえ、とても嬉しい感想でした。

パチュリー、実際ゲーム(紅魔郷)で対戦すると日陰の少女の割りに攻撃的ですよね。普段テンション低い割りにやる事は案外派手だったりして。しかも本人に派手な自覚が無かったら、と考えてあんな形になりました。紅魔館の面子はまた書きたいなぁ。





■ gene 様



そうですねぇ。

原作でゲームと、文化帖以降のフランの性格が違うように思えるので、彼女を書くのは結構大変です。gene様の仰るとおり、設定も何故閉じ込められているのか、閉じ込めているのかがイマイチ納得できない。原作からぶっ飛ぶ事無く違和感をどう消化して書くか、考えるのは楽しかったです。もっともっと湿っぽく。例えばアン=ライスのような吸血鬼物の世界観を、とも思ったのですが、コンペなので自分なりに“らしく”描くように心掛けました。

読む方が自然に入り込めるよう書く方法を模索したいと思います。コメントありがとうございました!



■ ニャーン様

あんまり暗いシーンばかり書いたから、今度は紅魔館で明るい話を書いてみたくなりますね!……そして今度こそ読む人を納得させるような作を!!喘息が治らない理由はなんだろうな、と考えていたらこうなりました。書くまでの一ヶ月間、東方は確かに今までも好きだったけれど、こんなにキャラクターの事を考えた事はなかったです。それが結構楽しい期間だったので、その片鱗でも文章に載せる事が出来ていたらな、と思います。

感想ありがとうございました!






■ TO 兵庫県民 様  FROM 元神奈川県民(常) 

かがみのお題を難しく考えすぎました。

普段あまり自分の作品の内容を解説する事は無いのですがこっそりと設定を。




そもそも妖怪やら何やらは、人の心に巣食うもの。
人の心の中にいるから世に存在できる、という感じ。


鏡は真実を映すと言いますが、鏡に映った人本人の恐怖(妖怪)も其処に映し出しました。
ところが科学が繁栄し、世の大方の怪異が明らかになってくると自然に、妖怪は減ってきます。
自己の中にある、不明なものを恐れる心自体に懐疑的になる事で、妖怪の存在は薄れてしまう。よって鏡に映らない。
怪異が、科学の種明かしの無い混じりけなしの怪異であった頃は、その恐怖も混じりけなし。鏡に映る妖怪だったんじゃないかなーと。

舞台は明記は無いですが科学が台頭し始める頃のヨーロッパ。
人の心に存在を依存している吸血鬼。レミリアは村で伝承として強い存在感を持ちますが、妹のフランドールは半端。
レミリアが認識しているという事で辛うじて存在を保っている状況。

混じりけなしの怪異であるレミリアは鏡に映ります。

幻想郷では魑魅魍魎が当たり前に闊歩する世界なので、怪異は怪異のままで存在できる場所。
イマイチ不安定なフランドールの存在も、レミリアが保護していたところを、魔理沙が紅魔館に押し入った事で周囲に知られる事となる。
彼女もまた未熟ながらも混じりけなしの怪異になれた、と(つまり鏡に映る程度には存在感を得る事が出来た、と)。





そんな事が書きたかった……です!(泣いてないよ!)



コンペ初参加でした。

すごく勉強になったなぁ……。

お目汚しすいませんでした。でも、楽しかったです!
作品情報
作品集:
最新
投稿日時:
2010/11/06 12:44:20
更新日時:
2010/12/17 19:17:39
評価:
13/13
POINT:
79
1. 3 パレット ■2010/11/20 00:05:53
 スカーレット姉妹とパチュリーの馴れ初めとして面白くはあったのですが、ちょっと全体的にわかりにくかったかも……。
2. 7 さく酸 ■2010/11/25 20:59:35
レミリアフランとパチュリーの過去話ではありましたが、作者様のオリジナリティあふれる話でした。こういう解釈もまた目新しくていいですね。
今の幻想郷にいる彼女らと過去の彼女らの話を平行に描写しつつ話を進めることについては印象的ではありましたが、少々わかりづらかったかなと。
とはいえ、話自体は見事なものでしたので、一読者の軽い感想くらいに留めていただければと思います。
3. 9 もみあげ ■2010/11/26 12:06:01
物語として楽しいし、ラストも心和む。
4. 3 asp ■2010/11/29 10:56:00
 パチュリーとレミリアとフランの独自設定・解釈が非常に面白いですね。しかし、どうも作品全体にまとまりが欠けているように感じます。頻繁に行われる視点・時系列・人称の変更に振り回されてしまいますし、温存しすぎた設定の出し方もかえって読みにくさに繋がっているように思いました。設定や文章は悪くないだけに、構成と書き方の悪さがもったいないなあ。
5. 7 yunta ■2010/11/30 22:12:54
執筆お疲れ様でした!

情景描写が上手くて、雰囲気がとても良い作品でした。
話の内容は人を選ぶのではないかと思います。というわけで、あくまでも個人的には入り込みにくかったです。
入り込む前に次の場面にいってしまうというか。
6. 8 とんじる ■2010/12/02 14:31:19
 レミリアとフランの確執というと今まででも色々書かれてきましたが、作者さんごとに物語の切り口が新しくて飽きないません。

 パチュリーが先にフランと出会うというのが新鮮で、二人の掛け合いが面白かった。まだまだ未熟なパチュリーと、どこかに闇を持ちながら、それでも無邪気なフランと。そして、レミリアの、歪ながらも強い愛情と。
 どのキャラクターも魅力的で素敵。
 タイトルからは想像できないくらい優しい世界でした。
7. 8 Admiral ■2010/12/09 14:50:02
おお…良かったです。
ハッピーエンドが何よりですね〜^^
8. 6 deso ■2010/12/11 20:17:38
とても凝った構成で、最初は呑み込むのに時間がかかりました。
何が起きているのかがわかってくると、じわじわと面白くなってきます。
途中でネタはわかってしまうのですが、十分楽しめました。
ただ、全体を通してみると、過去のパートは良い感じなのに、現代のパートが浮いて見えます。ちぐはぐというか。
その点だけが気になりました。
9. 3 八重結界 ■2010/12/11 20:24:31
話と話の間がちぐはぐで、いまいち入り込めませんでした。
10. 7 木村圭 ■2010/12/11 20:27:40
物語の組み立て方が見事。物事一つ一つがきちんと意味を為しているって素晴らしいですね。
それとパチュリーが自分の中の彼女ととても近くて読んでいて気持ちが良かったです。
割かし適当なところとか、勝負事で過剰なまでに押しにいくところとか。
11. 7 gene ■2010/12/11 20:51:16
吸血鬼ものというか、本場っぽい雰囲気が良かったです。
ただ視点がレミィやフランやパチェにちょこちょこ移動するのは解りづらかったものがありました。
フランドールの出演するシリアスもので、地下に幽閉される理由をうまく作ってる作品はそうそう無いと思っています。
それはオフィシャルでそうなっているから、という最もな理由があるのですが、
実際に二次で描かれるフランドールは普通に部屋を宛がわれても何ら問題ないような性格にしか見えず、ないしは描かれておらず、
ルールだから仕方ない、というようにフランドールは地下に降りてゆき、レミリアは仕方ないというように苦しむばかり。
無意識ながらこの描写に違和感が付きまとうことが多かったのですが、この作品については「人間の手から守るため」という描写があり、うまくやったな、と思いました。
まぁ幻想郷に来てからはまた別になってしまうんですが、上記の点については評価したく。
12. 5 ニャーン ■2010/12/11 20:59:37
暗い雰囲気がいかにも吸血鬼の過去話といった感じで良かったです。
パチュリーの喘息をこのような解釈されているのが、
読み終わった後でも、妙に心に残りました。
13. 6 兵庫県民 ■2010/12/11 21:44:27
難解な話だなぁ。
色文字による区別で分かりやすくしているのだろうけども、それでも難しい。
「人の思いが吸血鬼を映す」ってこと? 自信ないなぁ…間違ってたら申し訳;
得点は、こんなところで。
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