護り手鏡

作品集: 最新 投稿日時: 2010/11/06 15:57:11 更新日時: 2010/11/06 15:57:11 評価: 18/18 POINT: 85
「鏡よ鏡よ鏡さん。この世で一番美しいのは、だぁーれ?」
「おめーには教えてやんねー! クソして寝ろ!!」








直後。八雲紫の年季の入った正拳突きが見事にその中心に叩きこまれ、鏡にあるまじき暴言を吐いた
そのガラスの表面を問答無用でバラバラにした。

「頼むから店の商品に勝手に壊さないでくれないか。そもそもそれは売り物じゃなかったんだが」
「ねえ、香霖堂の店主さん。私にコレを作った製作者を紹介していただけないかしら。いやね、
何でこんな幻想郷の貴重なスペースを無駄にするような物を作ったのか、ええ。じっくりと話を聞いてみたいのよ」
「知らないよ。知ってたとしても、そんな何をするか火を見るより明らかなヤツを連れて行けるものか」

とある香霖堂のいつもの日常。蔵の整理としまっていたものの補修点検をしていた際──珍しく、八雲紫が
店にやってきた。何の用だったかは聞かなかったが、自分が磨いていた大きな鏡。それに宿る僅かな魔力に
目をつけたのだろう。嬉々として玩具を見つけたような表情になると、童話に出てくる人物よろしく
僕を押しのけその前に笑顔で陣取り、鏡よ鏡よ鏡さん──というわけである。

「そんな年甲斐もない真似をするから……。というか、ちゃんと弁償してくれるんだろうね」
「何よ。どう見たって被害者は私の方じゃない。あの悪魔みたいな鏡の心ない言葉のせいで、私の繊細な
乙女心はいたく傷ついたわ。もうボロッボロよ。責任を取って欲しいぐらいだわ」
「……オーケイ。とりあえず君が謝る気も反省する気もないのはわかった。もういいよ。
弁償云々は君の続きそうな小言とチャラということにしておこう。それで、一体ココに何の用だったんだい」
「頭にきすぎて忘れちゃったわよ。ああそう……そういえば鏡のコトだったような気もするけど……」
「はいはい、それじゃもういいね。今日は鏡は鬼門だ。朝に使った出涸らしの茶でも淹れるから、一服でもしてから
とっとと帰るがいい」
「出涸らしなんかイヤよ。新品にして頂戴」
「本当に君は何をしにきたんだい……」


この年齢不詳、正体不明の大妖怪と知り合ってからしばらくになるが、大抵これが来るとその後ロクな事にならない。
いや、事件を起こして回るというよりは、事件のキーを作って歩くというか。直接的ではなく間接的に
色んな問題が噴出して回るというか。わざとなのか天然なのかはわからないが(おそらくはわざとだ)遊ぶタネだけ
撒いてその後を眺めて楽しんでいる節がある。
とりあえず、おかんむりの様相を見せている八雲紫を宥めすかし、秘蔵の高い茶菓子まで出してもてなした上で
とっとと御帰り願うことにした。厄介ごとは穏便に早めに片付けるに限る。

当初の目的はついぞ聞けずじまいだったが、不満そうにむくれてみせていた彼女もやがて機嫌を直し
家で使ういくつかの商品を買って帰っていった。台所用品が多かったが、何かそういうことに使うのだろうか。


八雲紫が帰っていった後、せっかくだから自分も淹れなおした茶を飲んで一息つく。
先程、見事な正拳でバラバラになった筈の鏡──そこに目をやると、いつの間にかその表面は自然に修復されて
いた。


「やっぱりな」


──喋る鏡。自動修復。僅かに持つ魔力。
今まで確証は持ててなかったら言い出しはしなかったが。確かにこの作者を八雲紫に教えるわけにはいくまい。
遠い、色褪せた記憶の片隅にある光景と、目の前の鏡が合致する。

これを作ったのは魔理沙だ。





もっとも。これの作り方を教えたのは僕なので(間違った作られ方はしたが)
何が何でも製作者を教えることなんか出来なかったわけではあるのだが。
まあ、嘘をついていたわけではなし。問題はないだろう。






千客万来。閑古鳥が巣を作ったどころか雛が孵った趣がある香霖堂には、その言葉は何よりも嬉しいのだが。

「おーっす! こーりんはいるかー?」
「…………」

渦中の人物。というか関係者がすぐその後に来るとなると何らかの悪意を感じさせずにはいられない。
おまけに、こいつは店の物をほとんど買っていかないし。


「魔理沙か。今日は何の用だい。八卦炉のメンテナンスならこの前してあげたと思うけど」
「んー、取り立ててというわけじゃないんだけどな。何となく気が向いたから……と。
なんだ、面白そうな鏡があるじゃないか。ふむふむ。ちょっぴりだけど魔力を感じるな」
「いや、それは」
「なんだろう……ちょっと懐かしい気分だ。うーん……そうそう、あれだ! 童話に出てくる魔女の鏡みたい
じゃないか? いやあ、小さい頃はそういう話をよく聞いて育った気がする。実家が実家だったからな」
「だから魔理沙それは」
「童話の魔女よろしく今は私も一端の魔法使いだぜ。へへん。今度はこっちが問いかける番ってか。
鏡よ鏡よ鏡さん。この世で一番美しいのはだーれだ?」
『おめーには教えてやんねー!! クソして寝ろ!!』

ぶちいっ









ブイーンブイーンブイーン シュオンシュオンシュオン (マスタースパークが香霖堂の天井を吹っ飛ばした音)











────────────────────────────────────────────

「あのね、魔理沙」
「ごめんなさい」
「僕は確か前に言った筈だと思うんだ。家の中でマスパは撃っちゃいけないと」
「ごめんなさい」
「というかね。 (霖)│鏡│ マスタースパーク!>(魔)
みたいな感じで撃ったら僕がどうなるかとか、年頃の女の子ならちょっとは考えてくれてもいいと思うんだ」
「本当にごめんなさい……」

随分と風通しのよくなった香霖堂。不恰好なぐるぐる巻きの包帯お化けとなった僕の前で正座し、殊勝に反省する
元凶の少女。珍しくしおらしいとは思うが、流石にここで反省の一つでもしてくれないと、今回非の一つもない
僕にとってはストレスがレッドゾーンになってしまう。

顔をめぐらせて見れば、見事に骨組みまで見えて吹き飛ばされた仕切り壁。居住スペースのところまでも
跡形もなくなって、さぞや夜がきたら星空が綺麗だろうと思わせるほど、ぽっかりと空いた天井(があった所)。
僕自身は奇しくも鏡の裏側にいたのが助かったのか最悪の事態にはならなかったものの、その当の鏡はというと
流石に自己修復機能も限界で、僅かな魔力も今は残さず綺麗にマスパの塵になってしまった。
少し勿体無い、とも思うもののコレ以上の被害をもたらされるよりは遙かにマシなので、これはこれで仕方なかったと
思うことにする。

問題は──とりあえずこの何もかもが散乱した惨状だ。もうすぐ夜がやってくるが、これから吹っ飛んだ物を片付けて
回る気にはならない。本格的な修復は明日やるとして、夜露なんかは無事な商品にシートでもかけておけばいいが
これから冬を迎えるっていう季節にぽっかりと空いた天井からの、隙間風というのもおこがましい冷たい夜風と共に、
野宿と変わらない状況で夜を明かすことはできれば考えたくない。

「な、なあ……私の家に来るか? こうなっちまったのは私のせいでもあるし。その、一晩泊めるだけなら……」
「僕が、魔理沙の家に?」
「お、おう」
「一晩泊まって帰るっていうのかい?」
「お、おうっ」
「──それは出来ないよ」
「えっ」


その申し出はありがたいのだけれど。
さすがに、それは受けられない。

「一応、僕も男だからね。例え昔からの知り合いだとしても、女の子の家に一人で泊まりに行くのは憚られる。
森には君の知り合いも多いだろうし、誰かに知られて、魔理沙に変な噂が立っても困るだろう」
「ああ、うん……。いや、それは、そのなんというか、気の回しすぎというか……。回しすぎだこの朴念仁というか…。
だったらさ、私も片づけを手伝うから、ここで一緒に──」
「──仕方がないな。人里のホテルにでも行くとするよ」
「そうそう。仕方ないから一緒にホテルに──ええっ!?」


ぺりぺりと包帯を剥がしながら立ち上がった僕に驚く魔理沙。なに、人妖のハーフである僕は、傷の治りは早いのだ。
うん。もうこのぐらいなら動いても問題ない。






「話には聞いていたが凄いな、これは」

初めて訪れる人里のホテルは、思っていたよりもずっと豪華な物だった。頭にグランド、とかがつきそうな。
八雲紫が先の雑談の中で話していたが「近頃は思いがけない物まで流れついてくるのよねえ」とのこと。
こんな物まで忘れ去られるようになるとは、一体外の世界では何が起こっているのかとも思うが
幻想郷の中にいる自分達にとっては差し当たり大した問題ではない。

「…………………………」

問題はというと。
何故か先程から僕の後ろをうつむいたまま無言で歩いてくる魔理沙のことなのだが。
身に纏っている雰囲気が固いというか、覚悟を決めて、いや無理矢理覚悟を決めようとしている気配だとか(何のだ)
そもそも、僕がホテルに泊まるのに何故家のある魔理沙がついてくるのかとか、聞いても何一つ返事もせず
無言のままなので、無理矢理追い返すわけにもいかず、妙な二人連れの道中になってしまった。
何がどうなっているんだ……。


豪華なエントランスを抜けて、年月を感じさせるカウンターにたどり着くと、初老の従業員が出迎えてくれた。
……あれ。この人、確か人里の喫茶店でマスターやってた人じゃなかったか……? 従業員は外の人間ではなく
幻想郷の人間が入っているということなのだろうか。

「ようこそお越し下さいました。御宿泊ですね。何名様でしょうか?」
「一人──ああいや、二人で」
「ひうっ」
「かしこまりました。こちらが御部屋のキーになります」

後ろでなにやら魔理沙が上擦った声を上げたが、今更ここまできて何で来たんだ帰れ、というのもかわいそうだ。
そろそろ辺りも暗くなってきたことだし、いい刻限だろう。

「今からですと食堂の方でご夕食の準備の方が出来ますが、いかがなされますか?」
「ああ、ではお願いします」

ここら辺は幻想郷流のフランクさ、ということなのだろうか。飛び込みなのに対応してくれる所はありがたい。
滑り込みでディナーの予約をすると、まだどこか心ここにあらずの魔理沙を連れて
先に食堂の方へと向かった。







「魔理沙、魔理沙。いいかげん目を覚ましてくれ」
「はっ!! ここはどこだ! 城か! 童話の世界か! なんで私はこんな豪勢なディナーのテーブルなんかに
ついているんだ! あれか、12時になったら解ける魔法でもかけられているのか!?」
「それは白雪姫じゃなくてシンデレラだよ」

案内された卓についてからたっぷり30分後──ようやくお姫様が正気に戻った。

「むう、どうしてこうなった……」
「……それを聞きたいのは僕の方なんだけどね」

もとより本当に一緒に泊める気は余りないが、これも何かの機会だ。社会見学の一つだとでも思って
色々見て回っていってもらいたい。特に、ここで働いている人の淑やかさだとか、礼儀正しさとか。
少しでも学んでいってくれれば、長い目で見れば安い投資である。

「どうせ今から帰っても夕食の用意なんてしてないだろう」
「いや、まあそりゃそうだけどさ。何だ、先に私を酔わせてから不埒な行為に赴こうっていう魂胆か……!?
さっきから何かおかしいと思っていたが貴様、香霖の皮を被った何かだな……!」
「酒に酔いつぶれるのは君より僕の方が早いだろうし、ここはそういう無尽蔵に酒が呑める宴会場といった
ところじゃない。それに、最後の心配だけはそれこそ万に一つもありえないから安心していい」
「……そう言い切る朴念仁さ。やはり香霖だな」

いつものやりとりをしつつ、料理が運ばれてくるまでの時を過ごす。

「それで、その……。改めてだけど、さっきは悪かった。身体の方は大丈夫なのか?」
「ああ。もう何とも支障はないよ。流石に激しい運動とかはまだ無理だろうけど」
「ほ、ほう。激しい運動と申したか」
「君は何を言っているんだ」






「何か見たことがあるんだよな……」

料理も運ばれて口を付け始めた頃、魔理沙がぽつりと呟いた。

「香霖は知らないのか? あの鏡について」
「さあね。何分昔からあったものだから。売り物にしていたわけではないし」

僕もあの鏡の正体と、作ったのは魔理沙ということは覚えているのだが、実の所、話が昔の事すぎて
そこに至る前後の詳しい所までは正確には覚えていないのだ。
それにどういう物であったにしろ、その結果があの酷い惨状なのだから、何を言っても今更サマになることもない。
ただ。あの鏡はああいう消え方が一番だったのではないかと、なんとなく思う。

「う〜ん……。ついカッとなって消し飛ばしちまったのが今思えば残念だなあ。
でも突然あんな事言われたらさあ…………………………あ」
「何だい」
「…コレ、美味しい」
「ホテルの料理が不味かったら笑い話にもならないだろうさ」


時が流れ、料理が変わり、束の間の一時は過ぎていく。
魔理沙はさっき今日の自分はらしくない、といっていたが、確かにそうなのかもしれない。
普段ではこんな浪費に近い散財はおろか、魔理沙を誘って(勝手についてきたんだが)の外食など考えもしなかったろう。

だけど。何故か今日はそういう気分だったのだ。
昔に埋めてあった、自分でも朧気にしか覚えてなかったタイムカプセルを偶然見つけたときのような──
自分にも珍しい、そんなノスタルジックな高揚がどこかあったのも事実だったから。


────────────────────────────────────────────

「よーし、私はこっち。香霖はそっちのベッドな!」
「…………本当に泊まっていくつもりなのか」

ディナーも終わり。部屋に入ると魔理沙はおもむろにそう宣言して陣地を取った。

「なんだ、今さら割り勘とか甲斐性のないコト言うんじゃないだろうな」
「そんな事は言わないけどさ。主に人の目とか世間体とか──」
「じゃあいいじゃないか。タダ飯、タダ宿、タダ酒。断る理由なんかないぜ。昔からな」

言いたいことだけ言ってくるりと先に毛布に包まる。本当に、人の話を聞かないヤツだ…。
これじゃ最初から魔理沙の家に泊まるのと変わらないじゃないか。いや、こっちの方がもっと問題では?
カーテンの陰に天狗とかいないだろうな。

……とはいうものの。魔理沙が意地を張り出したら折れるのは結局僕というのも昔から決まっている。
ほどなくして自分も毛布を被る。いつもに比べればまだ寝るには早い刻限だが、自分の家でもなし、
他にすることがあるわけでもない。それに明日の後片付けのこともある。

「……明日は早いぞ。朝のうちに店を直して店を開けられるようにしたい。とりあえず天井のことは
専門の人間に任せるとして、商品だけでも並べられるようにしないと」
「──ああ、そうだな」
「それじゃ、おやすみ──」

照明を暗くし、目を閉じる。今日は色んなことがあったが、それももう終わり。
何だかんだで疲れていたのだろう。意識がゆっくりと闇へと落ちて行くその寸前────
その声が、隣のベッドからぽつりと聞こえてきた。






                『護り手鏡』







「──え?」
「思い出したんだ。あれは──『護り手鏡』。私が作った物だ。マスパのほぼ直撃を受けても香霖が軽症で済んだ
理由。
本来は護られる筈だったのに、傷を負ってしまった理由。全部思い出した」
「…………僕は。余りよくは覚えていない」
「酷いヤツだな。私は覚えてるぞ。あの小さい時のコトを────」






────────────────────────────────────────────

『──コレは、護り手鏡と言ってね。一種の護符のようなものだ。もっとも作るのが簡単な分、効果は薄い。
知識をきちんと積んで修練を修めた者から見れば玩具の域を出ないだろうけどね。
でも、その人がきちんと想いを込めて護りたいと念じた言葉が宿れば、それは一時でも万難を排し
その身代わりとなってくれる御守となるのさ。完全に壊れない限りは何度でも使える』
『それは凄いな! ちょっとそれ貸してみてくれ! 私も同じ物を作ってみよう!』





『というわけで、作ってみたぜ! 手鏡なんて言わず家の居間にあった大鏡を使ってみた!!』
『いや、持ち運べる大きさだから身に付けられて重宝するんだが…。これじゃ家に置いとくしかないぞ』
『てかさ。さっき貰った手鏡。念を込めたっていうけど、何も聞こえないぜ』
『それはまだ魔理沙が魔力の扱いを上手く制御できていないからだろうね。君の力自体は、凄く大きいのだけれど。
この大鏡にも念が通りきっていない。本当に上手くいっているのならば、ちょっと正しく魔力を通してみただけで
その声が聞こえてくるはずさ。
もっとも──先程僕から持っていった護り手鏡は誰のためのものだったかは、やっぱり声を聞けるようになって
みないと分からないけどね。君のご両親かもしれないし、君の知らない人のための物かもしれない。まあ、
しばらくは君にそれを預けておくよ。何事も練習だ。声が聞こえるぐらいになるまで持っているといい。

とはいえ、大した力もない僕が魔力を込めた代物だ。君が声を聞くその頃には効果が切れてしまって、
聞こえなくなっているとは思うけれど。
──そういや、その大鏡は誰の為に作ったんだい』
『う……。お…、おめーには教えてやんねー!! クソして寝ろ!! バーカ!!』
『なんてことを言うんだい、君は』


────────────────────────────────────────────

「結局、私が声を聞く前にその護り手鏡はどっかにいっちまったけどな。最後の言葉で中途半端に完成した大鏡は
そっちに強引に送りつけてそのままになってた──ってことか。ああ、疑問が解けた。実に清清しい気分だぜ」
「……そうか、そう言われてみれば、そんなことがあった気がするよ。確かに」
「余りにいい気分になったんで、香霖がこんな状況でも鶏の親玉みたいな態度で寝に入ったら、その後に変なコトを
してやろうと思ってたけど、特別にナシにしといてやる」
「変なコトをされる筈だったのか……?」
「おう。大口開けて寝ているやつの額に『中』か『肉』、ドラ猫のヒゲを描くのは御約束だぜ。油性マジックは
もってこなかったけどな」

屈託なく笑う魔理沙の声。ああ。いつもの魔理沙だ。


今日は本当に色々なことがあった。変なこともおきたし、トンでもないことにもなったが
結局は収まるトコに収まり──決して悪いことだけではなかったと思う。

また、陽が昇れば新しい朝がやってくる。今日の事は過去になり、新しい一日が始まる。
そうすればいつもの生活が訪れる。普遍的な日常。それはずっと変わらない。
それでも。人は過去に起きた出来事を忘れて生きていくわけじゃない。
きっと、その積み重ねがあってこそ、今の僕達がいるのだから。


「ああ──本当にいい気分だ。これでもう何のわだかまりもなく今夜はぐっすりと眠れそうだぜ」
「そうかい、それは何よりだ。明日は是非その元気で店の復旧を手伝ってくれ」
「へーい。それじゃ──おやすみ、香霖」
「おやすみ」



────────────────────────────────────────────






霧雨家。魔理沙の実家であるその家の地下には、魔力が切れて使い物にならなくなったものや
表には到底出せぬ、ほとんど価値のなくなったマジックアイテムなどが詰め込まれている。
その中に。誰が作ったかも分からぬ、古びた1枚の手鏡がある。
御世辞にも良い出来映えなどではなく、そこに以前どんな効果があったかもわからないが、それすらも
最早とっくの昔に力を失い、消えうせている。紛う事なきガラクタだ。仕舞い込んだ家の者も、きっと
そう判断したに違いない。
だが。僅かに。ほんの僅かに、その手鏡には小さな魔力が残っていた。
他の者では感じ取れないぐらいの小さな魔力。おそらく作った本人と──与えられた本人ぐらいでしか
気付くこともできないような魔力の線。
その両者とも最早在り処を知らず、もう誰にも探されることはなく、誰にも聞かれることはないが──
そこには確かに、古い、古い、小さな声が残っていた。



  『この手鏡に願う。魔理沙に与えられる万難を排し、彼女を守護し給え。
   あの子はまだ子供だ。色々なコトに首を突っ込むが、今はまだ、本当に幼い子供だ。
   この僕が作った物だ。大して長い月日は保ちはしないだろうし、彼女がいずれ立ち向かうであろう
   本当の脅威には抵抗できないのもわかっている。
   だから。あの子が一人の足で歩き、この手鏡の事を忘れてしまえるような強さを持つ日が来るまで、
   どうか、それまではあの子のことを護ってやってくれ────』



 
「ねえねえ藍。面白いものを見つけたの。ちょっとこっちにきてくれないかしら」
「はいはい何ですか。これから夕食の用意をしなければならないので、手短にお願いしますよ」
「じゃーーん!! コレ何だと思う?」
「そ、それは『護り手鏡』……!! も、もしかして昔、私が紫様に作った物ですか!?」
「そうそう! 思い出すわー。ようやく私に心を開いてくれたばかりの頃の藍が、儀式を兼ねて
作ってくれたのよねー。それじゃその頃の声を、再生スタート!」
「おい馬鹿やめて──」

   『私、八雲藍は紫様に終生変わらぬ親愛と守護を誓います。
    万難を排し、あらゆる敵を打ち倒す剣となり、あらゆる敵から御身を護る盾となりましょう。
    我等の往く道に幸多からんことを──』

「ギャ──!! 何て、何て物を発掘してくるんですか!? 今すぐ捨ててきて下さい、こんなの!!」
「あの頃はまだ藍も今以上に生真面目の堅物だったものねえ。可愛いわー。ほほほほほ。余りに気分がいいから、
今夜は久しぶりに私が手料理を振舞っちゃおうかしら。3人で一緒に食べましょうよ。ね」
「もしかして橙にまで聞かせるつもりですか!? こんな物をあいつにまで聞かれたら私はもう
死ぬしかない……!!」
「何よう。大袈裟ね。別に今は違う気持ちってわけじゃないんでしょう? 隠すことなんかないわよ」
「そ、そりゃそうですけれど! やっぱり恥ずかしいものは恥ずかしいんですよ!!
こういうものはですね、滅多に口にしないからいいというか、口に出すと有り難味が薄れるというか、
羞恥の余りに憤死したくなるというかですね」
「私はね。藍。本当に喜んでいるし、楽しいし──嬉しいのよ。
だって、ここに籠められた言葉は遠く、古い物だけれど──。今なお色褪せることなく、残っていたのだから」
ぱるー
作品情報
作品集:
最新
投稿日時:
2010/11/06 15:57:11
更新日時:
2010/11/06 15:57:11
評価:
18/18
POINT:
85
1. 9 奇声を発する(ry ■2010/11/07 01:48:35
初っ端からwww
それでも読み進めて行く内にとても暖かい気分になりました。
2. 6 ななしの文字読み ■2010/11/17 01:20:54
魔理沙と香霖のつながりが良いです。このまま恋愛に発展しては味気ないような、そうなってほしいような。
あと、後書きの紫と藍が可愛くて反則だ。
3. 2 パレット ■2010/11/20 00:08:15
 出オチかと思いきやなぜかいい話。
 ところで激しい運動ルートはどこに行けば見れますか
4. 6 さく酸 ■2010/11/25 20:41:56
最初の台詞がすごくぶっ飛んでいて、コメディなのかなと思ったら意外とほのぼの。最初の台詞に込めた複線も面白かったです。
まあ、魔理沙とホテルの下りは、妄想入っちゃってるような気がしましたが。
5. 2 asp ■2010/11/29 10:56:58
 護り手鏡という設定がいいですね。……なのですが、ホテルとかを登場させる必然性が私には感じられませんでした。このせいで『いちゃいちゃする魔理沙と霖之助を書きたかっただけなんじゃ?』とも見えちゃうので、そこがもったいないなあと。この設定でもう少し膨らませて欲しかったです。
6. 8 yunta ■2010/11/30 22:15:13
執筆お疲れ様でした!

マスタースパークの図解で笑ってしまった。
軽いノリのおかげで読みやすいし、オチも綺麗で自分好みでした。
しかしグランドホテルが人里にそびえ立つのはシュールだなぁ
7. 4 とんじる ■2010/12/02 14:34:14
 王道的な感じ。
 展開がきちっとしていて安心して読めました。魔理沙と霖之助の、ほんの少しの慕情と大きな信頼関係を思わせるラストに思わずしんみり。それと、ラストの紫と藍も。

 だけれど、何となくひねりというか、パンチ力が足りない。個人的に。いい話ですが。
8. 6 Admiral ■2010/12/09 18:24:47
良いお話でした〜
冒頭のパンチ力ある表現にもかかわらず、ほのぼのとした雰囲気。素晴らしいですね。
惜しむらくはもう少しボリュームがあれば…

後書きの八雲一家のエピソードで更にグッと来ました。
藍かわいいよ藍。

>「おめーには教えてやんねー! クソして寝ろ!!」
漫☆画太郎w

>(霖)│鏡│ マスタースパーク!>(魔)
まwりwさw
9. 3 NT○ ■2010/12/09 19:08:18
もうすこし地の文があると読みやすかったかも。
でも護り手鏡のアイディアは素敵ですね。
10. 4 藤村・リー ■2010/12/09 22:42:45
 コメディかと思って読み進めていたら最後にはいい話になっていた。
11. 5 deso ■2010/12/11 20:20:58
掴みはオーケーだったんですが、途中から肩透かしという印象です。
せっかく良い話で締めるのだし、手鏡も出して話に活かして欲しかったかなあ、と。
あと、紫が冒頭のギャグだけで使われたのももったいないです。
12. 3 八重結界 ■2010/12/11 20:26:43
前半のテンションと後半のしんみり具合の差に戸惑うなど。
13. 3 木村圭 ■2010/12/11 20:28:32
りあじゅうばくはつしろ
この鏡、露骨に動揺する辺りが製作者に似て可愛いなぁ。
14. 5 Admiral ■2010/12/11 20:31:43
>「おめーには教えてやんねー! クソして寝ろ!!」

これは…!どういうことなの^^
パンチ力は相当なものですね。
世代的にストライクな表現には笑わされました。
お話自体はストレートで良い感じでした。
後書きの内容も好感がもてます。
15. 4 gene ■2010/12/11 20:54:54
ゲームの効果的には霖之助ごと灰にしてくれそうです。
しかしマホカンタ的な効果があって、マスタースパークも反射したりするんだろうか。
16. 2 ニャーン ■2010/12/11 20:58:43
魔理沙のツンデレと、霧之助の親心を感じましたが、特に心は動かされませんでした。
17. 7 如月日向 ■2010/12/11 21:45:48
笑わせて頂きました。ギャグテイストなのに最後はいい話で締めるという、ストーリー展開が大好きですっ。
コンペじゃなければ120点つけたくなるお話でしたっ。
18. 6 兵庫県民 ■2010/12/11 21:50:10
まさかのギャグw
楽しませて頂きましたw
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