水橋パルスィさんは語る、鏡割りが自分の人生だと

作品集: 最新 投稿日時: 2010/11/06 17:50:05 更新日時: 2010/11/06 17:50:05 評価: 20/21 POINT: 132
 鏡割り職人の朝は早い。
 今回、私(稗田阿求)の取材に協力して頂いたのは、鏡割り職人の中でも『鏡開きの達人』と呼ばれる水橋パルスィ(嫉妬)さんである。水橋さんの名前は鏡割り職人のみならず、鏡業界にも深く浸透しており、その名前を聞くだけで鏡を割りたくなる人間も多いんだとか。
「あれは普通の妖怪じゃありませんよ。鏡を割る才能に恵まれていたのか、あるいはよっぽどの努力をしているのか。いずれにせよ鏡を作る側の人間からしてみれば、台風や地震よりも恐怖に思います」
 そう語るの上白沢慧音さんの額からは大粒の汗がこぼれ落ち、いかに水橋さんが恐れられているのかを物語っている。
 中には八咫鏡も割られたという噂もあった。
「ええ、真実です。でもレプリカとはいえ三種の神器ですよ? 普通は躊躇うところを、あの妖怪はハンマーで一撃。さすがの私もあの時ばかりは鳥肌が立ったのを覚えています」
 そんな水橋さんの一日は、鏡割り目覚まし時計から始まる。これは水橋さんが考案されたもので、現在は特許を申請中だそうだ。ベルの部分を鏡張りにして、指定の時刻がくれば鏡を割る音で目が覚めるという代物だ。
 私も話の種にと試してみたが、音はとても微々たるもの。昼過ぎまでぐっすり眠れたのも、ひとえにこの目覚まし時計のおかげだろう。
 しかし水橋さんはこの微々たる音で目を覚ますのだ。やはり生まれついての才能なのか。
「そんな事はないわよ。私だって最初は起きることが出来なかった。だけど毎朝のように繰り返していたら、ある日急に目が覚めるようになったの。大事なのは日々の繰り返しと努力の積み重ねだって、つくづく思い知らされたわ」
 謙虚な水橋さんの言葉に感動を覚えたのは言うまでもない。
 そして鏡割り職人にとって、もっとも辛い瞬間が早々に訪れる。朝の身だしなみだ。女性の諸君ならば、鏡と身だしなみは切っても切り離せない関係にあると分かって貰えるはず。
 当然ながら鏡割り職人の家に身だしなみ用の鏡はない。どうするのかと疑問に思っていたら、水橋さんは水瓶の水を見ながら髪へ櫛を入れ始めたのだ。まさに目から鱗が落ちるような瞬間だった。
「新米だった頃は苦労したわよ。寝癖そのままで職場に出て行って、仲間達に笑われたことも一度や二度では無かったわ。まぁ、そいつらの髪にもしっかりと寝癖が付いていたんだけどね」
 身だしなみを終えれば次は朝食だ。私はてっきり鏡料理が出てくるものと期待したのだが、並んでいたのは普通の料理。微かな落胆を覚えたが、基本的に貧しい鏡割り職人が鏡料理を食べるのは正月だけだという。
 また機会があるならば、元旦に水橋さんの家を訪問したい。その時は眩しいほどの鏡料理を皆様方に披露することが出来るだろう。





 鏡割りの歴史は古い。
 その歴史は平安時代よりも遙か昔まで遡ることが出来るという。鏡と人間には密接な関係があり、邪馬台国があったとされる時代にも鏡は存在していたと言われる。一説によれば当時の鏡職人である霧雨氏の一族が、うっかり鏡を割ったら思ったより楽しくて病みつきになったのが起源ではないかと言われている。
 平安時代には歌人でもある八意永才が『霜に降り 軒を見下ろす 鏡割り』と詠んでいるほど貴族の間でも流行っていた事が伺える。だが庶民の間では依然として鏡が供給不足だったこともあり、鏡割りはあくまでも上流階級の嗜みであった。
 しかし戦国の世も終わり、泰平の時代と共に鏡を取り巻く情勢は一変した。鏡割りの老舗でもある霧雨と水橋の宣伝、そして鏡の生産が過剰になり始めた事も合わさって庶民の間で鏡割りが大流行したのだ。
 一部地域ではミシャグジ様が鏡割りの神様と祀られ、『カナコハサイキンフトッタ』の掛け声と共に鏡を割る事が流行したのだとか。この謎の掛け声は守矢神社の関係者が夢で聞いたという噂もあるのだが、どこまでが真実なのか真相は明らかになっていない。
 あまりにも鏡割りが流行り、一時は鏡割り禁止令まで出された江戸の時代も終わり、動乱の明治が訪れる。結果として、この明治維新の前に鏡割りは完全な敗北を喫するのであった。
 日本でも広く名の知れた外交官であるスカーレット氏の、「何で鏡を割ってんの? 不便じゃん?」という一言で人々は悪い夢から覚めたように鏡を割らなくなった。そうして長きに渡った鏡割りの歴史には幕が下ろされ、やがて廃れていくようになったのである。
 それが外の世界の歴史。幻想を受け入れるこの幻想郷においては、まだまだ鏡割りは人々から忘れられていなかった。一時期は鏡割り職人で溢れかえっていた界隈だったが、現在は次第に落ち着いているという。
「霧雨の連中は衰退の始まりだと恐れているようだけど、私はそう思わないわ。これぐらいの規模が一番良いのよ。大きくなりすぎると制御もできないし、江戸前期のような熱狂を生みかねない」
 多くの職人がスカーレット氏の言葉に惑わされ、鏡割りの道から足を洗ってしまった水橋。その立場は鏡割り業界の中でも低くなり、一時期のように霧雨と肩を並べるまでには至らなかったという。
 だが水橋さんはそんな事を気にせず、むしろ気楽に割れるから良いと語っていた。
「職人なんて呼ばれて天狗になっているのよ、霧雨は。本来はただ鏡を割るだけでいい。それなのに連中はそこに芸術性を求めてしまった。もっと娯楽として気軽に楽しめばいいのよ、鏡割りってのは」
 鏡割り劇場の建設にも携わっている霧雨氏には、あまりにも耳の痛い一言ではなかろうか。だが水橋さんに怯む様子はなく、食後の鏡割りにも力が入っていた。





 立場が変わったと言えば、スカーレット一族の事を忘れてはならない。
 世に言う『スカーレット余計な一言事件』の張本人であり、後の鏡割り業界にも大きな影響を与えた一族だ。明治の世では反鏡割りの急先鋒として知られていたスカーレット氏も、大正や明治ともなれば徐々に追いつめられていったという。
 幻想郷で暮らすレミリア・スカーレット(幼女)さんの話によれば、そもそもスカーレット一族とは吸血鬼の一族らしい。だからこそ自分達を判別する鏡を憎み、本来ならば鏡割りを支援してもおかしくはなかった。
 しかし一族の一人であるレミリアさんの父親が、ついうっかり余計な一言を言った為にスカーレット=反鏡割りという図式が成り立ってしまった。こうなっては迂闊に意見を翻すこともできず、やがて自らが保護した鏡によって吸血鬼は追いつめられていくのである。
 父とは離縁したレミリアさんは幻想郷に流れ着き、今では鏡割りが一日の日課だとか。
「こんなにも楽しい事に文句を付けるだなんて、相変わらずあの男は空気が読めないわね」
 妹のフランドール・スカーレット(幼女)さんも当時の状況をこう語った。
「地下にいたから分かんない」





 最近では鏡割りの出張も多く、水橋さんの所にはひっきりなしに依頼が来るそうだ。前述したように鏡割りの大家である霧雨氏は芸術方面に力を注ぎ、こういった実働的な部分ではむしろ衰えているのだと水橋さんは言う。
 今日訪れたのは守矢神社。洩矢諏訪子(ロリ)さんの依頼で、八坂神奈子(ロリ?)氏が首からぶら下げている真澄の鏡を割って欲しいとの話だった。水橋さんは二つ返事で頷き、愛用のバックから古びたハンマーを取り出した。
 ここで鏡割りの種類について説明しよう。
 大きく分ければ、鏡割りは二つの種類に分類できる。
 @道具を使った鏡割り
 A道具を使わない鏡割り
 前者は主にハンマーや木の棒、石などが有名なところ。中には人形や宝塔を使う者達もいると聞く。水橋さんの一族は主にこちらの割り方だ。
 一方の霧雨氏は後者で、民衆の間で流行したのもこちらである。これは鏡を床に叩きつける霧雨芸術は爆発型、置いてある鏡を割る霧雨うっかり型が最も知名度が高い。しかしながら何故か魔法による破壊方法に関しては霧雨でもタブー視されており、一部では勘当された霧雨魔理沙氏と何か関係があるのではないかと言われている。
「出張の鏡割りはいつもドキドキしてるわよ。失敗するんじゃないかって不安になるから」
 大物の水橋さんでも緊張するというのは予想外の答えだった。しかし実際に相手は神様という大物。いくらベテランの鏡割り職人でも、この依頼は普通なら断るだろう。
「でも絶対に諦めるわけにはいかないわ。私が鏡を割る瞬間を楽しみにしてくれている人達の為に」
 この日、水橋さんは見事に八坂氏の鏡を割り、御柱でフルボッコにされた。しかしその顔は満足そうで笑顔だったことを此処に記す。





 いまが鏡割りで業界で問題となっている鏡割り規制法について、水橋さんはこう語る。
「私は自分の行為を芸術だと思わないし、人から喝采をあびるようなものでも無いと思っているわ。だけどそれは決して規制されるようなものじゃないし、誰かに言われて止めるようなものでもない」
 鏡割り規制法は是非曲直庁が八雲紫に提出したものであり、内容は鏡割り職人とって怒りを禁じ得ないものだった。
 鏡を割った者への厳罰。鏡を作る職人の保護、及び義捐金の増加。鏡割り・鏡割り職人という単語の規制。集団鏡割り行為の取締。これにはさすがの八雲氏も難色を示したようで、この提案は却下された。しかし是非曲直庁は毎年のようにこれを彼岸饅頭と一緒に紫氏へ提出しているという。
「浄玻璃の鏡を大量に割られ、彼らも怒っているのです。しかしそれ以上に鏡を作る職人との癒着が問題になっています。本来使ってはいけない材料で粗悪な鏡を作り、浮かせた経費で至福で肥やしている。鏡が割れれば当然のように調べられ、自分たちの悪行も明るみに出てしまう。彼らはそれを何よりも恐れているのです」
 こう語るのは四季映姫・ヤマザナ(中略)ゥ氏。是非曲直庁の中で唯一、鏡割り規制法に真っ向から反対する閻魔である。
「私は鏡割りを認めるつもりはありません。しかし私達が規制することはお門違いだと思っています。推奨はしないが規制もしない。本来はそういうスタンスであるべきだと思っていますので。決して自分がうっかり浄玻璃の鏡を割ってしまい、それを鏡割り職人のせいにしたら規制法が提出されちゃって罪の意識があるわけではないのです」
 冷や汗を垂らしながら語る四季映姫氏が、部下の小野塚小町(おっぱい)氏に連れられて何処かへ消えてしまったのは語るまでもない。
 しかしこういった情報は既に世間も知るところとなり、中には正義を掲げて鏡を割り始めた『反鏡勢力』というのも存在する。暴力も辞さない彼らのやり方には、水橋さんも苦言を呈していた。
「鏡割りはあくまで娯楽の一種。政治活動の道具にするべきでもないし、ましてや勢力に対する怒りの捌け口にするべきでもない。この点に関しては霧雨とも意見が一致しているから、近々代表者へ要望書を提出するところよ」
 鏡割りがもっと優しい広まり方をすること。水橋さんはそれを望んでいた。





 鏡割り業界に詳しい水橋さんに、今後もっとも有望そうな新人を尋ねてみたところ命蓮寺の聖白蓮(ホワイトロリータ)氏の名があがった。
「彼女は凄いわよ。あそこの説法は聞きに行く価値ありね」
 水橋さんが太鼓判を押したこともあり、私はその命蓮寺に足を運んでみた。ちょうど鏡割りの訓練中だったらしく、門下生の寅丸星さんに話を伺うことができた。
「ええ、聖は確かに凄い。動機は毎朝疲れた自分の顔を見るのが嫌だからというものですが、その鏡割りには感動すら覚えますよ。え、どうしたのナズーリン? 聖が呼んでるって? 分かったわ、いま行く」
 寅丸さんの途中退出というトラブルもあり、私は代わりにナズーリンさんにインタビューを試みた。
「悪いが毘沙門事務所を通してくれ。私から言えるのはノーコメントだ」
 噂の説法も拝聴したのだが、個人的には話の内容よりも、どうして聖氏の右腕に血がこびりついていたのかが気になる。当人にも話を聞いてみたのだが、
「鏡割りの練習中に、ちょっとやってしまったんです」
 しかし水橋さんから太鼓判を押されるような名人が、練習で失敗をするのだろうか。弘法も筆に謝る。無機物に頭を下げるくらいなのだから、きっと聖氏にも何か心を乱すようなことがあったのだろう。





 鏡割りの出張が終われば、後は普通の生活を大差ない。夕食をとったり、入浴したり、読書をしたりと特筆すべきところはなかった。
 忘れてはならないのは、鏡割り職人もただの妖怪だということである。中には「鏡を割って何がしたいのか」とか「そーなのかー」と厳しい意見を浴びせる人もいる。確かに一理あるのだろう。
 娯楽とは即ち、無駄な事なのだ。生きる上で無くてもいいし、有ったところで他の人から見れば何だというのが素直な感想。ともすれば文化自体が人間や妖怪の歴史において不必要なものなのかもしれない。 
 だが私は言いたい。楽しみのない人生など、それは死んでいるも同然なのだと。
 仕事に喜びを見いだす人ばかりではない。そういう人達にとって、娯楽は生きる糧なのだ。
 水橋さんもこう語る。
「もしも鏡割り職人という職業がなかったら、私はただの橋姫で一生を終えていたでしょうね。それはそれで良いんだけど、やっぱり女の子として生まれたからには一度ぐらい鏡を割ってみようと思わない? まぁ私はその一度が一生になっただけの話よ」
 この取材を通して思ったことは、鏡割り職人は決して苦しい顔をしながら割っているわけではないという事だ。彼女たちはみな笑顔を浮かべ、一枚一枚丁寧に鏡を割っている。
 今となってはあまり日が当たらない職業、鏡割り。
 この記事で少しでも多くの人が興味を持ってくれればいいいと、私は思った。
 最後に一言。

 うちの鏡を割った馬鹿、いますぐ出てこい。
 
 
 
この記事が発表された後、阿求の家にあった全ての鏡が割られたという。
阿求は激怒した。
八重結界
http://makiqx.blog53.fc2.com/
作品情報
作品集:
最新
投稿日時:
2010/11/06 17:50:05
更新日時:
2010/11/06 17:50:05
評価:
20/21
POINT:
132
1. 10 WRYY ■2010/11/07 00:44:52
意味符「腹筋崩壊」
2. 10 奇声を発する(ry ■2010/11/07 02:03:18
ヤマザナゥwww
鏡割りという職業があったのか…
3. 8 名無し ■2010/11/07 14:33:31
これはwwww
4. 10 名前が無い程度の能力 ■2010/11/07 20:41:03
なにこれww吹いたwww
しかし確かに一回くらいは思いっきり割ってみたいねw
5. 4 パレット ■2010/11/20 00:13:38
 水橋さんぱねぇ
6. 5 さく酸 ■2010/11/25 20:32:05
楽しい記事でした、どこからつっこんでいいのかわからないくらい。
若干硬い文章ですが、全体を通してコミカルな感じで進むため、飽きずに読み進めることができました。
ただ、おそらく最後のオチに使いたいがためなんでしょうけれど、阿求に記者をやらせる必要があったのかなぁと。
文体だけを見ると、文とかはたてでいいじゃんなんて思ってしまいます。阿求だからこその何かがほしかったところです。
7. 8 asp ■2010/11/29 10:59:13
 タイトルの時点でそんな気がしていたのですが、読み始めて数秒で予感が確信に変わりました。あなたの作品は今回もネジが外れているというか、もう異次元ですね。大好きです。
 とことん不条理でどこまでも淡々としていて、ツッコミすら許されない怒濤のラッシュにお腹が捩れるまで笑いました。いっそ爽快なまでの一本調子が心地いいです。
8. 10 みなも ■2010/11/30 15:31:14
なんでしょう、この謎のノリ、爆笑がとまりませんでした。

天才?
9. 6 yunta ■2010/11/30 22:18:21
執筆お疲れ様でした!

ちょっと最後まで勢いが続かなかったです。
でもレミリアパパのマジレスに笑いました。
10. 4 とんじる ■2010/12/02 14:36:34
 シュールだなあ。
 面白かったけれど、爆笑まで至らなかった。
 小ネタには何度もくすりとさせられたのですけれど。
11. 9 74 ■2010/12/09 09:43:26
鏡割り職人になりたい
12. 5 TUNA ■2010/12/09 19:02:27
良く分からない、が、圧倒された。
鏡割りってなんぞw
13. 5 藤村・リー ■2010/12/09 22:45:16
 スカーレット氏の仰ることも尤もです。
 とりあえず阿求さんに鏡贈りたい。
14. 4 deso ■2010/12/11 20:26:02
笑いの方向が自分とは合いませんでした。
うーん、こればかりは仕方がない。
15. 5 木村圭 ■2010/12/11 20:29:41
うわあ、何だかよく分からないぞ
スカーレットさんが幼女で諏訪子がロリなところに拘りを感じたり感じなかったり。だが神奈子テメーは違う
16. 2 ニャーン ■2010/12/11 20:57:30
ツッコミ不在って怖い。作中キャラ全員の後頭部をハリセンで叩いてやれたら気持ち良いと思います。
17. 6 gene ■2010/12/11 21:02:57
面白かった。
安定した錯乱を感じました。
18. 6 如月日向 ■2010/12/11 21:46:32
ふりがなのセンスにやられました!
19. 6 兵庫県民 ■2010/12/11 21:57:41
なんという歴史捏造ww
これは閻魔様に叱られるべきw(褒め言葉
20. 9 文鎮 ■2010/12/11 23:01:48
非常にエネルギッシュで濃厚な鏡割り作品だったと思います。
素晴らしき鏡割り職人の世界をありがとうございました。
21. フリーレス 774 ■2017/01/07 14:10:46
意味分かんねえwwwwwwwwwww
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