私の鏡はどこにある?

作品集: 最新 投稿日時: 2010/11/06 20:35:15 更新日時: 2010/12/19 04:32:38 評価: 15/16 POINT: 93









 あたいはしょっちゅう、砕けたガラスに不用意に触って怪我をする。


 例えば、グラスを割ってしまったとき。
 慌てたあたいは、「早く片付けないと」と思って、ふとそれに手を伸ばす。ガラスの破片はとても危ないと知っている筈なのに。簡単に、何もかもを切り裂いてしまうほど鋭いと、解っている筈なのに。
 それから指先に痛みを感じて、驚いて手を引っ込めるのだ。
 そして後から、しまった、と思う。またやってしまった、と。
 そうやって気がついたときには、大抵手遅れなのだ。


「壊れてしまったのよ。私の大切な――」
 その台詞を彼女に言わせたことも、思えばそれと同じ失態だった。
 その言葉は――その彼女の記憶は、彼女の触れてはならぬ部分だったのだと、何年も後になってからやっと気付く。あたいが彼女にその記憶を思い出させることは、すなわち欠けた鋭いガラスを、臆面もなく触る行為に他ならなかったのだ。
「――大切な鏡」
 彼女は、悲しそうで寂しそうな声色で、そう続けた。
 砕けた鏡の欠片は、柔肌を、心を、いとも簡単に切り裂いてゆく。あたいの。そしてもちろん、彼女の。
 鋭い痛みが指先に走った後で、じわじわ鈍い後悔が、胸の奥から血のように滲みだす。


 悲しかった。彼女を悲しませてしまったことが。
 そして、あたいは猫だから、悲しく思うこの気持ちさえもきっといつか忘れてしまう、そのことが悲しかった。







 ――かがみは、かがみ。
 透き通るその声が、空洞になった記憶の中に反響して、今も耳の奥で鳴りやまない。








『私の鏡はどこにある?』









 一、

 地霊殿唯一の鏡は、一階のリビングに置かれている。
 地霊殿の住人の憩いの場。みんなが集まる賑やかなで雑多な空間。そこの壁際に、高さ二メートルはあろうかという大きな姿見が、どっしりと佇んでいるのだ。四角い鏡面の周りには、精巧な花の意匠が施され、厳かな雰囲気を持つ地霊殿にも溶け込んでいる、立派な鏡だ。
 その鏡とにらめっこしながら、あたいは今、懸命に髪を梳かしている。わざわざ椅子を持ってきて、そこに座り込みながら、櫛を手に自らの癖っ毛と目下格闘中。

「でもさあ、お燐」
 おくうが、話しかけてくる。
 彼女もどこからか椅子を持ってきて、あたいの隣に座っていた。すでに身支度を済ませて暇なのか、手持無沙汰に足をぶらぶらさせている。
「んー?」
 あたいは鏡の中の自分を見据えながら、気のない返事をする。
 鏡の中で、撫でつけた髪の毛がぴょこんと跳ねた。まあ、生きのいい子だこと。恨めしく思いながら睨みつける。
「不便だよねえ、鏡が一つしかないってさ」
「そりゃ――」
 あたいは反抗的な髪を丁寧に撫でつけながら、
「そうだね、確かに不便だ」
 頷いた。

 鏡は、地霊殿に一つしかない。それは、嘘みたいだけど本当だ。散々、地霊殿中の部屋を好奇心に駆られて探検し尽くしたあたいが保証する。それらしきものとは、ついぞ遭遇したことがなかった。
 その為、外に出る際の身支度に鏡が必要ならば、必然的にこのリビングまで降りていくことになる。あたいは特に癖っ毛だから、今日みたいに鏡の前をしばらく陣取ることも多い。そんなときはさすがに、自分の部屋に鏡が欲しくなったりもする。とはいってもまあ、あたいは猫だから、プライベートとか個人的な空間だとか、そういうものにあまり頓着はしないので、飽くまでそれは一時的な欲求に過ぎず、普段はさほど必要に感じたりはしていない。ただ、ペットたちの溜まり場であるリビングで髪を梳かすと、悪戯好きの猫たちが、あたいの三つ編みにじゃれついてくるのがちょっと面倒くさい。

「でもまあ、いいじゃん。おくうだって、そんなにオシャレに気を使う方でもないじゃない」
「それはそうだけどー」
 不満げに口を尖らせて、おくうは足をぶらぶらさせる。
 実際、彼女の身支度の手間のかからなさは、目を見張るものがある。髪を簡単に溶かして、お気に入りの濃緑の大きなリボンを結んで、はいお終い。烏の行水という言葉があるが、彼女を見ていると、烏というのは湯浴みに留まらず、何でもかんでも適当に済ませてしまうものなのではないか、と思う。
 そして何より、恨めしいのは、そんな大雑把な癖して髪が綺麗なことである。
 おくうの長い髪は、つややかで、まさに烏の濡羽色そのものの美麗さを保っている。もちろん、癖などない、直毛。あたいの我が侭な髪と交換してもらいたい。
 あたいは、鏡の中の自分にため息をついた。

「でも、さとり様やこいし様だって、不便じゃないのかなあ」
「そうだねえ。でもあの人たちはずいぶん長い間、鏡のない生活を送ってきたんだから、平気なんじゃないかな」
「え、そうなの?」
 おくうは不思議そうな声を上げた。
 あたいは手早く髪を編み上げながら(癖っ毛はもう半ば諦めている)、おくうの方へ視線をやる。きょとんとして、目を丸くする彼女がいた。
「あれ、おくうは知らなかったっけ?」
「何を?」
「この鏡が来る前、鏡がなかったころの地霊殿」

 あたいは訊いてから、そんな筈はない、と心の中で否定した。
 この大きな鏡がうちに来たのは、あたいが人型に化けられるようになってすぐのこと。おくうはまだ人型に成れこそしなかったが、それでもすでにペットの一員として地霊殿にいたはずだ。
 しかし、おくうは頭に「?」マークを浮かべて首を傾げていた。まあ、彼女のことだから、覚えていないのも仕方ないのかもしれない。あたいだって、猫時代の頃の記憶なんてあやふやで、あんまり覚えていない。多分、動物の記憶力なんてその程度なんだろう。

「この鏡が来たのは、地霊殿の歴史からすればほんのつい最近。で、それまではさとり様たちは、鏡無しで暮らしていたのさ」
 地霊殿の歴史からすれば最近、とはいっても、もう二、三十年くらいは前の話だ。猫や烏にとっては大昔、妖怪にとってはついこの前。そんな感じの年月。
「ふぅん。鏡のない生活、かぁ」
 おくうは呟いて、足をぱたぱたさせた。
 それから、中空を睨んで腕を組む。その鏡のない生活とやらを想像しているのだろう。
 あたいは、そんなおくうを横目に見ながら髪をまとめる作業を続ける。しかし、頭の中に何か引っかかるものを感じ、はたと手を止めた。はて、何か忘れているような。
(昔は、地霊殿にも鏡があった――ってさとり様が言っていたような)
 それはいつのことだったか。そしてその言葉には、言葉以上の、何かもっと重要な意味があったような。
 あたいは、髪を編んでいる途中の奇妙なポーズで固まりながら、黙考した。しかし、おくうが再び口を開いたので、思考は寸断される。
「でもさ。髪の毛にゴミがくっついてたら、どうするんだろう。鏡見なきゃ、気付けないよ」
「うーん、そうだねえ」
「それに、さとり様もこいし様も、お燐とおんなじくらい癖っ毛なのに、鏡がなきゃ、」
「髪も整えられないね」

 今度はあたいも一緒に、鏡のない生活を想像してみる。
 さとり様とこいし様。鏡のない館に二人きり。閉ざされた二人の世界。その中で二人は、どうやって生きていく? 鏡が必要なとき、さとり様はどうやって――

「――こいし様がいるじゃん」

 あたいは、頭に浮かんだ言葉を、よく考えもせずに口にしていた。でもきっとそれが正解だ、と声にしてから気付いた。
「さとり様はこいし様の、こいし様はさとり様の姿が見られる。だから、大丈夫だったんじゃないのかな」
「鏡がなくても?」
「うん。さとり様がこいし様の髪を整えてあげればいいし、こいし様がさとり様の髪についていたゴミを取ってあげればいい」
 何だか、無理のある解釈だと、自分でも思った。でも不思議とそれが間違っている気がしない。
 ただでさえ、地霊殿は外との繋がりに乏しい。忌み嫌われた妖怪が逃げ込み、それゆえ誰も近づかない場所だ。隔絶されたその中ならば、そうやってお互いを鏡にして生きることは、難しくないような気がした。

 あたいは、想像する。
 こいし様が、椅子に座っている。その後ろから、さとり様が優しくこいし様の髪に櫛を通す。
 こいし様が、嬉しそうに今日会った面白い出来事をさとり様に喋って、さとり様はそれに一つ一つ相槌を打ちながら、最愛の妹の髪を梳いてやるのだ。
 それは、絵に描いたような幸せな二人の風景。静かで優しい世界。

 しかし、おくうは何か納得のいかない表情で、口を尖らせた。
「でも、やっぱり変だよ。鏡のない生活なんて」
 彼女にはやっぱり、鏡がない世界を想像することは出来なかったらしい。
「そうだね。そうかもしれない」
 あたいは苦笑しながら、最後の一編みを終わらせる。あとは小さいリボンを括りつけたら完成だ。
 出来あがったばかりの三つ編みのネコジャラシにじゃれついてくる悪戯猫たちをあしらいながら、やっとのことで支度をすませたあたいは、椅子から立ち上がっておくうの方へと向き直った。

「おまたせ。さあ、行こうか」








 二、

 旧地獄通りは、いつでも活気に溢れている。
 旧都を南北に貫くこの通りは、たくさんの商店が軒を連ね、客を呼び込む商売人の声が重なって喧噪を作っている。店舗を構えず、さながら露天商のように地面に敷物を広げて商売をする妖怪も多い。さらには、道端に座り込んで、真昼間から酒を煽っている鬼たちの姿まである。
 とにかく、毎日がお祭り騒ぎなのである。
 そんな賑やかな街道を、あたいとおくうは歩いていた。
 二人とも、今日の仕事は休みである。週一くらいのペースで休暇をもらってはいるが、二人の休日が重なったのは久しぶりだ。だから、前々からこの日は二人で旧都に遊びに出よう、と画策していた。
 しかし――。

「生憎の悪天候」
「だねえ」

 生憎と、天候には恵まれなかった。
 悪天候といっても、雨が降っているわけではない。そもそも、地底は空がないから、そうそう雨も雪も降らない。本当に極稀に、寒い日に雪が降ったり、あるいは地上からしみ込んできた水が雨さながらに降ったりするけれど、それは例外の中の例外で、大抵あたい達地底の住人が悪天候というときは、目も開けられぬくらい風が強い日のことを言う。
 つまり、今日は生憎の強風だったのである。

「もー、今日くらい止んでいてくれればいいのに」
 眉根を寄せて、相方は不満顔だ。この季節にしては寒さも落ち着いていて、むしろ暖かいくらいなのはありがたかったが、それすらどうでも良くなるくらいの悪天候。

 あたいは、さっきから口を尖らせっぱなしのおくうの目の前に、指を一本立て、
「地底は基本、入口から旧地獄まで一本道。つまり天然の通気口になってるのさ。だから、風が通り抜けやすくなるし、風の強い日も多くなる。仕方ないことさね」
 などと、軽く講釈を垂れてみた。
 が、聞いているのかいないのか、彼女は風の走り去っていった方角を恨めしげに睨みつけながら、その綺麗な黒髪を必死に押さえつけていた。

 それにしても。あたいはあたりを見回した。
 こんな悪天候にもかかわらず活気を失わぬ旧地獄通りには、本当に驚かされる。相変わらず人通りも多いし、商いをする妖怪は風音にかき消されまいといつも以上に声を張り、また鬼たちは、風の音すらも肴とばかりに悠然と酒を飲んでいる。あたい達の横を、陽気な声を上げながら談笑する妖怪が通り過ぎていった。

「地上みたいに――うわっ」
「うにゅ!」
 あたいが口を開いた瞬間、ひときわ強い風が通りを吹き抜けた。二人、同時に声を上げる。
 あたいは目をつむり、反射的にスカートとお下げが風に攫われないよう、抑えた。
「ああ、もう! なんなのよう」
 おくうの方も大変らしく、大きく乱れた髪を必死に直していた。やはりそれだけ長い髪だと、強風は天敵らしい。普段はうらやましい限りの濡れ羽色の髪も、このときばかりは同情せざるを得ない。あたいはお下げだけを抑えればすむが、おくうは風が吹く度に大惨事である。毎回突風の煽りを直に受けていては、いくら直しても切りがないだろう。
 このまま、街の散策を続けるには、少々具合が悪いかもしれない。
 しばらく当てもなく旧都を見て回ろうと思っていたのだが、仕方あるまい。
 予定を少し変更し、早々に屋内に逃げ込むことにしよう。どこか良さそうな場所は無いかと、辺りをきょろきょろ見回す。三軒ほど先の方の右手に、見慣れない茶屋らしき建物が目に入った。少し普通の茶屋とは雰囲気が違うのが気になったが、この状況では四の五の言ってられまい。
 すでに、涙目になりつつあるおくうの腕を強引に引っ張って、そこに雪崩れ込んだ。








三、

 あたいとおくうは、そろって目を丸くした。
 茶屋だと思って飛び込んだそこは、あまりにも普段あたい達が茶屋として慣れ親しんだ内装とかけ離れていたからだ。あたいとおくうは、借りてきた猫のように黙って、店内に目を走らせた。
 丸い木製のテーブルと、それを囲む木製の椅子。上から吊り下げられたガラスの照明。カウンター席。どれも、茶屋で見るような和式の物でなく、洋式で誂えられた調度品ばかり。壁は赤茶色のレンガで出来ており、窓が少なくうす暗い。
 しばらくきょろきょろとやっていた二人だったが、来客に気付いた給仕さんらしき妖怪が出てきたので、しどろもどろになって言葉を交わした。給仕さんの着ているのも、和服ではなく、ひらひらとしたフリルがついたエプロンドレスだ。
「こちらの席へどうぞ」という言葉とともに、店の奥の方へ案内される。あたいもおくうも、まだ軽い放心状態のままついていく。二人掛けのテーブルについて、去っていく給仕さんを見送った。

 そこで、ようやく気付いた。
 この洋風の茶屋こそが、風のうわさに聞く「喫茶店」と呼ばれる店なのだ。


 * * *


 喫茶店というのは、言ってしまえば洋風の茶屋である。カッコ良く言えば、カフェー。
 客に、飲みものと茶菓子を提供する、というところは茶屋と全く同じだ。しかしもちろん違うところもある。それは、提供される飲食物のラインナップだ。茶屋がその名の通り、お茶を提供するところであるのに対し、喫茶店は何でもアリだ。緑茶、紅茶、コーヒー――お酒を除く飲料なら大抵置かれているし、茶菓子だけでなく、軽い食事も出してくれる。
 ちなみに、これはある情報通から仕入れた情報であり、実際に入ったのは初めてである。
 地上で流行しつつある、とは聞いたことがあったが、まさか地底にも進出していたとは。最近になって地上との行き来が少しずつ活発になってきたのも、影響しているかもしれない。

「地上みたいに、天気が予測出来たら便利なのにねえ」
「天気を予測? そんなこと出来るの?」
 始めこそ戸惑ったものの、慣れてしまえばなんてことは無い。あたい達はすぐに、自分たちのペースを思い出して雑談に興じていた。二人用のテーブルには、アイスコーヒーとアイスレモンティーが入ったグラスが、暑くもないのに汗を流して鎮座している。
 いくら旧都では珍しい洋風の店とはいっても、あたい達が暮らす地霊殿がそもそも洋風の館なのだ。慣れさえすれば、むしろこちらの方があたいに達とっては落ち着くというもの。
 しかし、地底に住むものたちにとってはやはり特異な空間であるらしく、店内に客は疎らだった。
 
「出来るらしいね。龍神様っていうありがたい像があって、それが天気を教えてくれるんだと」
「へえー」
 ストローを咥えたまま、おくうは器用に相槌を打つ。
 あたいは、アイスコーヒーをストローでかき混ぜながら、
「こいし様情報だけどね」
 と付け加えた。
 グラスの中でぶつかり合った氷が、カランカランと涼しげに鳴いた。

 おくうは、ちゅうっと音を立てて一吸いすると、顔を上げる。
「こいし様かあ。こいし様はすごいね、何でも知ってる」
「そうさねえ、あの人はしょっちゅう地上に行ってるからねえ」
 カランカラン。氷が鳴く。

「あの人ほどそこら中ふらふら飛びまわってる妖怪も居ないんじゃないかな。地霊殿に戻ってくることも少ないし」
「そうだね、さとり様と大違い」
「あの二人、似てないからなあ」

 あたいは苦笑しながら、ストローに口をつけた。冷たくて苦い液体が、管を這いあがって口の中に流れ込む。
 おくうは、少し不満そうな顔をして、言った。
「そうかな、私はあの二人、似てると思うけど」
「うん?」
「目とか、鼻とか、口とか」
「顔立ちが?」
「そう、顔立ち。それと雰囲気とか」

 二人が似てる。それは、あまり考えたことなかったかも知れない。
 髪の色も違うし、普段着ている服のセンスも違う。顔立ちは似てるかもしれないけど、二人はまるで違う表情をしてるから、あまり気付かない。声とかはまあ、似てるかもしれないけど。
「あたいはあの二人ほど似てない姉妹も居ないと思うけどなあ」
「えー! 絶対そんなことない、そっくりだよ。鏡写り」
「鏡写し?」
「そう、それ」

 あたいは、頭の中で二人を並べてみる。
 片一方は、落ち着いていて、どこか影を帯びている少女。もう片一方は天衣無縫、神出鬼没の少女。うん、どこが鏡写しだこれ。左右に並んで立つ二人の少女が、全く違う存在にしかあたいには思えない。

「あたいは似てないと思うけど……」

 あたいは苦笑してコーヒーに口をつけた。
 おくうはまだ納得のいかない表情で、ストローを口ばしのように使いながら氷をつっついている。ちょっとお行儀が悪い。

 それにしても、今日はおくうと意見が合わないなあ、とあたいはぼんやり考えた。今朝も、地霊殿の鏡の話で食い違ったし。
 まあ、あたい達にとっては珍しい話じゃないけれど。
 あれだ。みんな違ってみんないい、というやつ。
 単純だけど、重要な考えだと思う。

 おくうが、飲み終わったグラスの底をじゅうじゅうと音を立てて吸い始める。あたいは「行儀悪い」とその頭を軽くはたいた。


 * * *


 外へ出ると、だいぶ風も収まっていた。街の散策を再開する。
 まず、道端に商品を並べている妖怪を冷やかして回る。知り合いの土蜘蛛も、何故か風呂敷を広げていた。どうやら自分たちの糸で作った小物を並べているらしい。ちょうどいいので、おくうの髪を止めるために空色のリボンを買う。風に攫われないように、後ろで一つに纏めてあげた。
 それから、昼間っから酒を煽る鬼たちに絡まれた。何とか命からがら逃げ出したが、軽く二、三杯ほど一緒に酒を飲むことになった。大したことは無いが、昼間から酒を飲んだと聞いたら、さとり様はどんな顔をするだろう。想像して身震いした。
 身震いしてから、そのさとり様に買い物を頼まれていたことを思い出し、慌てて雑貨店などを回って、必要なものを買いそろえた。

 そうしているうちに、夕刻を知らせる鐘が、旧都に響いた。

「よし、帰ろうか」
 ちょっと慌ただしかったが、十分に休日を楽しめた。あたいは両手に購入した日用雑貨の入った紙袋を抱えながら、心地よい疲労感を全身に感じていた。
「そうだねー」
 おくうも同じらしい。ご機嫌そうに翼を軽くばさばさ羽ばたかせた。
 そうやって二人、帰路に着こうとしたときだった。
 ふと、鼻先を何かの匂いがかすめた。どこかで嗅いだことのある懐かしい匂い。

 ――懐かしい? 何故ここにそんな匂いが?

 心が、ざわめいた。
 あたいは、匂いのした方向を見やる。その方向に、何やら人だかりが出来ていた。何かを取り囲んで、妖怪たちが二重三重の垣根を作っている。何が起こっているのかは、ここからでは解らない。
「お燐?」
 おくうは不思議そうな顔をしている。おそらく、烏である彼女はあたいほど鼻が利くまい。
「うん、ちょっと、ね」
 あたいは曖昧にごまかすと、また家路を辿ることにした。匂いはすでに消えている。恐らく、今日の強い風がどこかへ吹き飛ばしてしまったのだろう。そうなってしまえば、さっきまでの匂いは、気の所為だったと思える気もした。
「あれ、何やってるんだろう」
 そのとき、おくうもやっと人だかりに気付いたらしい。首を傾げ始めた。
「また鬼の喧嘩か、飲み比べさね。さあ、行こう」
 あたいは何でもない風を装うと、踵を返した。少しばかり早足で、地霊殿へと向かって歩く。「あ、まってよー」おくうが、慌てて追ってくる気配がした。
 くしゃり。いつの間にか力の入っていた指先が、紙袋を強く握りしめていた。








四、

 地獄鴉、火焔猫。
 旧地獄あたりに暮らす動物たちは、このように大仰な名前をつけられるのが常である。確かに、地獄に住むにふさわしい、禍々しくおどろおどろしい名称だ。しかし実際は、その動物たちは、地上に生きる普通の烏だとか猫だとかと大差はなかったりする。ただ、地底の妖怪たちの発する妖気に当てられて、少しばかり尻尾の先が割れていたり、ずる賢くなっていたりするだけだ。
 だからあたいは、常々地獄なんとかとか、煉獄なんとかいう名前は、ちょっと大げさに過ぎると感じている。どう考えても、無邪気で暢気な彼らに、そんな重苦しい名称は似合わない。特に、火焔猫とか。全く、可愛らしさの欠片もないったら。いやま、ああたいの名字ですけどね。

 しかし、そんな中で一等似合わない名前を持つ種族は何か、と聞かれれば、あたいは真っ先に「地獄九官鳥」の名を上げる。
 何せ、地獄に九官鳥である。地獄に住んでいるからといって、この名前はさすがに頂けない。あの烏よりも小柄で快活なあの鳥に、よりによって地獄とは。誰だ、こんなへんてこなネーミングセンスで持って名前をつけたのは。
 とはいっても、地獄九官鳥という種族を、あたいは一匹知らないし、その名称がそいつの自己申告であるから、もしかしたら勝手にそいつが名乗っているだけかもしれない。つまり、地獄九官鳥なんて名前は本当は存在しなくて、ただ地上の九官鳥が迷い込んで来て、勝手に地獄生まれだと名乗りたかっただけなのかもしれない。あたいはそこらへんの事情は知らないので何とも言えない。
 ただ一つ解っていることは、その自称・地獄九官鳥のカンタは、あたいの知る誰よりもおしゃべりであるということだ。


 * * *


「よう。今日も情報を仕入れてきたぜ、お燐ちゃん」
 いつの間に来たのか、あたいの部屋の窓際に止まってカンタはそう言った。
 いつだって彼の登場は唐突だったし、その台詞も口癖のように繰り返されてきたものであったから、あたいは別段驚きもしなかった。
「ちょっとくらいノックしてから入ろうだとか、そういう気遣いはないのかい?」
 大して気にしてもいない癖に、あたいは悪態をついてみせる。カンタは悪びれもせず、
「ああ、誰がレディだって?」
 黒い羽を繕いながら、軽く流した。
「全く、こないだまでほんの子猫だった癖によ」
「もう、何年前の話さ」
「ついこないだだよ」
 そう言って、カンタはカラカラ笑った。

 カンタは、今こそ地霊殿のペットではないが一時期はさとり様に飼われていたらしい。あたいがペットの一員になるよりも前の話だ。つまり、地霊殿のペットとしても、妖怪としても大先輩であるのだが、不思議とそういう威厳を感じさせない、親しみやすい鳥だった。今は地霊殿を離れて根なし草だそうだが、こうやってときどき顔を見せては、あたい達と軽口をたたき合っている。そのため、地霊殿のペットたちとも仲が良くて、顔が広い。
「カンタに言わせれば、何だってついこないだなんだから」
 あたいは、呆れ顔で呟いた。
 あまり感じさせないが、恐らく彼も結構な長生きだろう。九官鳥だけれど、妖怪染みた妖気を感じる。これで人型化が出来ないというのだから、不思議だ。

「ところで、おくうちゃんは?」
「あいつは仕事。あたいは休みだけど」
 つい先週二人揃っての休みだったのだ。次に一緒に休暇がもらえるのは、多分かなり先のことだろう。

「で、情報って?」
「ああ、そうそう。たくさん仕入れてきたぜ」
 そう言って、嬉しそうにカンタは翼を広げてばさばささせる。
 カンタは、そこら中を転々と飛び回っているだけあって情報通だった。あたいの知識の約半分は、彼の情報によって養われているといっても過言ではない。もう半分は、こいし様情報。地底の情報はカンタ、地上の情報はこいし様にそれぞれ頼るだけで、日々の暮らしに困らぬくらいの知識が得られる。さながら新聞である。
 ちなみに、喫茶店の情報を仕入れてきたのも、もちろん彼だった。
 
 そんな彼の情報は、どれも下らなく、どれも面白かった。
 こないだ開かれた、鬼たちによる腕相撲大会のこと。(行事が大好きな鬼たちの考えそうなことだ)
 釣瓶落としが強風に煽られて岩に衝突、桶が大破した話。(風が吹けば桶屋が儲かるということ?)
 土蜘蛛の売っていた小物類に、縦糸ではなく横糸が使われていて、べたべたして仕方ないという苦情が殺到した話。(おくうの買ったリボンは大丈夫だろうか)
 大したことでもないのに、大げさな節回しで彼は面白可笑しく語るのだった。あたいは相槌を打ち、ときには呆れながら突っ込んだ。

 そして、殆どの話題を出し尽くしたと思った頃だった。
「あ、それから」
 思い出したように、カンタが言った。
 それが今までとは打って変わった神妙な態度だったから、あたいは佇まいを直し、彼に向き合った。
 多分、今さら思い出した話題ではなく、元々最後に話そうと思っていたのだろう。ガラッと変わる態度でそれが丸解りだったが、それについては突っ込まないつもりでいた。
 何しろ、こうやって神妙な顔つきと声色で話し始めるときは、大抵本当に深刻な話題だからだ。彼は明るく喋り好きであるが、そういう話題を茶化したりすることは無い。
「例の事件のことなんだが……」
 視線だけちらり、とこちらへ向けて言った。
 例の事件? はて、何のことだろう。
 思い当たる節がないあたいは、素直に尋ねることにした。
「何のこと?」
「そうか、やっぱり知らないか」
 渋い顔で「うーむ」と唸った。恐らく、口にしにくい話題なのだろう。出来ればあたいに知っていて欲しかったのだろう、そうすればその口にしにくい話題も暗黙の了解として次の話を始められる。
 しぶしぶと言った感じで、カンタは口を開いた。ぽつりぽつりと、呟くように言う。
「ついこないだ――大体一週間くらい前か、そのとき旧都で、その――殺されたんだよ」
 あたいは呆然とした。彼の口にした言葉はそれくらい、馴染みのない単語だった。

「殺された?」
 一拍置いて、やっと声が出た。
 可笑しな話かもしれないが、あたいは地底の妖怪たちは、殺すだの殺さないだのという話に疎いものだと思っている。だって、妖怪が殺すのはいつだって人間だ。その殺すべき存在が、ここにはいない。残るのは、殺そうにも殺せない、妖怪たちだけ。血の気の多い鬼たちによる、血なまぐさい乱闘騒ぎなら一度や二度ではないが、それでも死人が出た、という話はかつて聞いたことがなかった。
 だからあたいは、呆然としたのだ。心を痛めるだとか、詳細を尋ねるだとか、そういうことすら頭に思い浮かばなかった。
 そんなあたいの目を見ながら、カンタは続けた。
「殺されたのは、猫だ」

「猫?」
 そこでやっと頭の回転が追いついて来た。猫、そうか猫なら、死ぬ。簡単に。妖怪染みた動物が多いとはいえ、地底の中では圧倒的な弱者だ。殺そうと思えば、いくらでも殺せる。

「そして、その猫は元・地霊殿のペットだ。多分、お前は知らないだろうが」
 え。
 あたいは頭をとんかちで殴られたみたいなショックを覚えた。そうして、また思考はストップし、呆然とする。カンタはその元・ペットの名前を上げたが、その名前も頭に入って来なかった。
 そんなあたいをよそに、カンタは、記憶を探るかのように遠い目をして、事件について知っていることを話し始めた。

 その事件が起こったのが、ちょうど一週間前の風の強い日であること。犯行を目撃した者はおらず、気付けば旧地獄通りの脇に死体が捨てられていたこと。誰の犯行によるものか、状況だけでは判断できないこと。鬼の自警団は、今回のケースは妖怪でなく動物が被害者であるため、犯人を探すなどの行動を起こすつもりはないが、万が一同じような事件が続くようなら悪質な事件として本格的な犯人探しに乗り出す考えであること。

 カンタは、滔々と淀みなく話し終える。そのときになって、ようやくあたいは冷静な思考を取り戻していた。聞きたいことは、たくさんあった。
「殺されたのは、本当に地霊殿のペットなのかい? カンタだって、その場にいたわけではないんだろ?」
「ああ、それは確かに人から聞いた話だ。だけど、多分本当だと思う。残念ながらな。とにかく特徴的な体格と模様をしてたから、話を聞いただけでピンと来たんだ」
「そうかい」
 それだけ聞くと、あたいはまた押し黙った。聞きたいことはまだあったが、あたいの知り合い(どれだけ間接的なものであれ)がこの世から居なくなったという事実の前には、もうどうでも良くなってくる。このまま、布団に入って丸くなってしまいたい。
 しかし、そんな動物的欲求を何とか耐えた。最後に、聞いておかなくてはならないことがあった。

「その事件があったのってさ、」
 あたいはある日付を、読み上げる。違ってたらいいのに、と思った。だけど、カンタは「そうだ」、と頷いた。
 それは、あたいがおくうと、旧都へ出かけた日だった。

 ああ、なんということだ。
 あたいがあの日、あそこで見た人垣は、あたいの同胞の死体の周りを囲む野次馬だったのだ。








五、

 何をやってるんだろう、あたいは。
 自分でも解らないままに、旧都をぶらぶら歩いていた。
 一人だけ休日で暇だったというのもある。でも、おとなしく自分の部屋で寝転がっているという選択肢だってあった筈だ。
 特に、最近は寒さも厳しくなってきた。考えれば考えるほど、魅力的な選択肢だ。
 だけど、そんな誘惑を振り切ってあたいは、気が付けば雑踏の真っただ中にいた。一輪の花を持って。カンタに事件のことを聞いてから、さらに一週間が経過していた。
 
 足を止めた。
 あの日、ちょうど立ち止まった位置で。
 そうして、あのとき、人だかりが出来ていた方へと目を向ける。もちろん、そこには人だかりなんてもう無い。

 目を閉じて、あたいは、そのときのことを思い出そうとする。
 騒がしい旧都の一角で、さらに騒がしい人だかり。時折吹く、強い風。風に流されてきた匂い。
 あの匂いは、きっとその猫のものだったのだろう。元々、地霊殿で暮らしていたというその猫。だからあたいはその匂いに、郷愁や既視感を覚えたのだ。その匂いはつまり、地霊殿の匂いだったのだ。

 ――あたいはどうしてあそこで、あの人だかりへと近づいていかなかったのだろう。
 そんなことを考える。
 どうせ、近づいていったところで、そこにあるのは死体だ。中身のない、抜け殻。見たところで、何も無い。
 それでも、あたいはその姿を見ておくべきだったんじゃないか。

「――っしゅん!」
 頭の中で、ぐるぐる渦巻いていたものを吐き出すかのように、あたいはくしゃみをした。
 首に巻いていたマフラーを、少し強めに巻きなおす。風こそ穏やかだが、寒さはあのときとは段違いだ。雪でも降るかもしれない、なんて、まだ一度しか見たことのない白い結晶を思い浮かべてみる。

 あたいは看板みたいにぼうっと突っ立っていたが、やがて事件のあった場所へと近づいていった。

 そうして、事件の跡地に着いて始めに思ったのは、本当にここで猫が死んだのだろうか、ということだった。血の後もなく、匂いももう全くしなくなっている。言われなければ、ここでそんな痛ましい出来事があったことなんて気付きもしないだろう。
 事実、ここを見向きもせず通り過ぎる多くの妖怪は、きっとそんな事件があったことなど知らないのだ。
 花を持ってきて良かった、と思った。見も知らぬ猫の為にそこまでする必要があるのか、と思っていたが、少なくとも意味は出来た。
 そっとしゃがみ込んで、持ってきていた一輪の花を、そっと供えた。
 これが目印になればいい。せめて、行きかう人たちが「おや」と思ってくれればいい。あたいは、立ち上がって、踵を返すとそこから立ち去った。


 * * *


 あたいが喫茶店に入ると、意外な先客がいた。
「おお、火焔猫の!」
「げ」
 大きな声で呼ばれ、思わず喉から飛びだしそうな悲鳴を、すんでのところでこらえた。それから、何とか頑張って笑顔を作る。ぎこちなくなっているのは自分でも解っているが、仕方ない。私は彼女が苦手なのだ。
「一名様ですか?」
 給仕さんがあたいの元へと駆け寄ってきて聞く。相も変わらず西洋風の格好だった。はい、一人です、と言ってしまおうかとも思った。思ったが――。
 視線を、その先客の方へとやる。豪快に手を振っていた。眼が合うと、こっちこっち、と手招きを始めている。あれを無視して一人席に落ち着く訳にも行くまい。
「いえ、知り合いがいるので」
 かくして、あたいは地底の鬼の代表格、星熊勇儀と同席することとなった。


「遠慮すんない、ほらほら」
 大輪の笑顔を咲かせながら、勇儀さんは向かいの椅子を引いてくれた。是非とも遠慮したいのだが、ぐっと堪えてそこに座る。
「どうも」
「いやあ、奇遇だねえ。さとりやこいしは元気かい?」
「まあ、ぼちぼち」
「そうか、ぼちぼちか」
 グラスを掴むと、勇儀さんはぐいっと中身を呷った。色からしてアイスティーだと思うのだが、彼女の飲みっぷりを見ているとどうしても中身は酒じゃないかと疑いたくなる。喫茶店に酒は置いてないと思うんだけど。
 あたいは、身を固くしながら、目の前のホットコーヒーをちびりと口に含んだ。

 どうにも、あたいはこの鬼が苦手である。
 嫌いではないのだが、面と向かっていると居心地が悪いのだ。
 悪戯をした後に、さとり様の第三の目に睨まれるのと似ている。
 つまり、嘘が吐きにくいのだ。さとり様は嘘なんてお見通しだし、勇儀さんは嘘を吐かず、嘘を吐かれても疑わずに信じてしまう真っ直ぐな性格で、嘘なんて吐けばすぐ罪悪感にさいなまれてしまう。
 おとなしいさとり様と豪放な勇儀さん、タイプは違えど、あたいにとってはどうにもやりにくい相手であるのには違いなかった。

「まあ、元気ならいいんだ。あいつ、全然旧都に出てこないし、心配してたんだ」
「お気遣いありがとうございます」
 あたいはぺこりと頭を下げる。
 少し堅い言い方になってしまっているが、心配してくれる人がいるのは素直に喜ばしいと感じていた。地底の住人ですら忌み嫌う覚り妖怪、それを心配してくれる人がいることに、純粋に嬉しくなる。
 しかし、やはり堅い口調が気にかかるのか、勇儀さんは眉をひそめた。
「堅いねえ、あんたらしくない。もっと楽にしてごらんよ、折角一緒に飲んでるんだからさ。酒じゃないけど」
 そう言って、もう一度豪快にアイスティーを飲む。本当に、酒じゃないのだろうか、それ。

 その姿を見ていたらふと疑問が湧いたので、尋ねることにした。
「ところで、どうしてこんなところに居るんですか? お酒なんてないのに」
「そりゃ、あれだ。ほら若いもんが騒いでたからさ、新しくキッサテンなるものが出来たってさ。そんでどういうものか見に来たんだけど――」
 ああ、どういうところか知らずに来たのか。どうりで、似合わない場所に居るわけだ。
「酒を頼んでも、笑顔で断られるし、つまみもないし、挙句の果てに酒を持ち込んでもダメときたもんだ。それに、知った顔にも会わないし」
 そりゃ、酒が出ない店なんて鬼たちが好んでくる訳はない。
「そこにあたいが来たわけですね」
「そ。いやあ、一人でこんな小洒落た店で大人しく紅茶を飲むなんて、退屈で死にそうだったよ。いや、お燐が来てくれて助かった」
「そりゃどうも」
 あたいは思わず笑った。この店に来てから、初めての自然な笑顔だった。
 それを見て、嬉しそうに勇儀さんも笑った。


 * * *


 勇儀さんは、酒も入ってない筈なのに、よく喋った。
 苦手な人物ではあるものの、そうやって一方的に話題を出してくれるのはありがたかった。あたいは彼女の話に、相槌を打ったり、ときどき口を挟んだりすればいいのだから。緊張はしたが、楽しい時間だったことは確かだった。

 勇儀さんが話している途中、あたいはふと彼女に訊いてみたいことを思いついた。
 自分から話題を振るのは避けようと思っていたのだが、ここを逃したらもう聞く機会が訪れないだろうことを思うと、何とかして訊かなくては、という気がしてきた。
 そして、この機会を逃したら後悔するであろう、という予感もあった。

「勇儀さんは、自警団ですよね」
「おう、そうだ。それも団長。すごいだろう」
 その声色には自慢するような響きがあった。本当に、自分の仕事に誇りを持っているのだろう。
「――二週間前にあった事件について、何か知りませんか」
 言ってから、それで通じるのだろうかという疑問が湧いた。事件といったって、所詮被害者は妖怪ではなく動物だ。あたいにとっては身近な存在だけれど、それ以外の妖怪にとっても同じであるとは限らない。
 あたいの心配をよそに、勇儀さんは顔を少しばかりしかめた。どうやら、通じたようだった。あたいはほっとした。
「例の、猫が殺された事件か」
 包み隠さずに、勇儀さんは言明した。
 その言葉を聞いて、あたいは少しばかり打ちひしがれた。
 ああ、本当のことだったんだ、と。つまりそれは、心のどこかでそれがカンタのデマであってくれればいいと思っていたということだ。
 あたいは、きゅっと唇を引き締める。もう少し詳しい話を聞きたいのだ。ここでまた呆然とする訳にはいかない。

 まず、あたいが知っている情報を彼女に提示することにした。そうやってから、知らないことを教えてもらう方が、もう一度事件について聞くよりも早いと思ったのだ。
 あたいの話を聞き終えると、勇儀さんはぽつりと呟いた。
「そうか、地霊殿の奴だったのか」
「元、ですけど」
「残念だったな」
 勇儀さんは、あたいの目を真正面から見ながら言った。
「いえ」思わず目をそらす。「あたいも、知らないくらい昔の猫ですし」
 勇儀さんは、新しく運ばれてきたアイスコーヒーに少しだけ口をつけた。
「いや、すまんね。私もそれ以上のことは知らない。私が駆け付けたときも、あるのは死体だけだった」
「そうですか」
「誰の仕業かは解らない。それに、自警団も動かすことは出来ないよ。私は団長だが、自警団は私の意志だけじゃ動かないんだ」
「わかってます」
 結局、カンタの話が本当だったということが解っただけか。別に、探偵ごっこがしたいわけでもないのに、あたいはちょっぴり拍子抜けした。

 ふと、窓から外を見た。
 通りは、いつもと同様たくさんの妖怪たちが行きかっている。冷たい風が吹いたのか、一人の妖怪が寒そうに首を縮めた。
「外……寒そうですね」
「そうだなあ」
「雪でも降りますかね」
「雪?」
 珍しいものを聞いた、とでも言うように、勇儀さんは目を丸くした。
 それから、辛気臭い空気を蹴散らすような豪快な笑い声を上げた。
「いいねえ、雪! また雪見酒でもしたいもんだねえ!」
 本当に可笑しそうに、カラカラと笑う。

 そんなに可笑しなことでも言っただろうか。まるであたいが「槍でも降りますかね」とでも言ったみたいだった。
「雪って、そんなに珍しいんですか?」
「そりゃそうさ。地上ならともかく、地底なんてめったにふりゃしない。雨すら珍しいんだから、況んや雪をや、だ」
 豪快にグラスを傾ける。
「私が地底に来てから、雪が降ったのは両手の指で足りるくらいだよ。そうそう降りはしないさ、雪なんて」
 そんなに珍しいのか。
 あたいは生まれてから一度しか見たことがないが、そんなに降らないのならそれも仕方のないものかもしれない。
「こないだの雪も驚いたけれどね。いつもお祭り騒ぎの旧都が、さらに湧きかえったさ」
「それなら覚えてますよ。確か、人間がやってきたとき、でしたよね」
 正確にはあたいが呼んだのだけれど。
「そうそう、ただでさえ驚きなのに、人間が踏み入ってくるたあね。驚きの二乗だ」

 あたいはそのときのことを思い出す。
 しかし、ちらりと降った雪は鮮明に思い出せなかった。
 まあ、あのときは雪よりも、あの馬鹿をどうやって止めるかが先決だったから、仕方ない。
 だからこそ、雪が降ったらもう少ししっかり見ておこうと思っていたのだけれど。

「まあ、こないだの雪も驚いたけれど、私が一番驚いた雪の日と言えばあれだね。その前に雪が降った日。百年以上も前の話だ」
 百年以上となると、あたいは産まれてもいない可能性が高い。
「あれは驚いたよ。大雪も大雪。もう雪見酒どころじゃなかった――まあ結局酒は飲んだがね。一メートルも積もったんだ。地上ならともかく、地底でそんなに降るとは、思いもよらなんだ。あんまりにも強烈だったんで、日付まで覚えてるよ」
 すらすらとその雪の日を諳んじて見せた。まるで記念日か何かのように。
 こないだ見た雪は、少しだけ降ってすぐに止んでしまった。だから、あれが大量に降って、さらに積もるという情景はなかなか想像しがたかった。かろうじて、真っ白に染まった世界を幻視する。
「凄いんだ、雪は。騒ぎまわるのが大得意の鬼たちが騒いだって、全然五月蝿くないんだ。雪が、音を吸収しちまうんだとさ。だから、あのときは珍しく静かに飲んでたっけね」

 真っ白で、音もない世界。
 それは何だか、寒気がするほど何もない世界だ。

「雪景色って綺麗ですか」
「うん、綺麗さ。地上の雪とはまた違うんだよ、これまた。地上は、雪が積もった景色を銀世界っていうんだけれど、地底の雪は、」
 勇儀さんは、そこで言葉を区切って、
「いや、それは見てのお楽しみにしとこうか。何、あと二、三百年も生きりゃ見られるさ」
 人差し指を口に当て、内緒話をするかのように言った。その姿は、普段の豪快な彼女に似合わない、まるで少女のような仕草だったので、可笑しくてあたいは笑った。

 二、三百年生きる、か。何だか難しい宿題を出されてしまったようだった。


 * * *


 お勘定を済ませて、あたい達は外に出た。
 夜が近くなり、一層寒さが厳しくなったようだ。本当に今日中に雪が降るんじゃないだろうか。

「そんじゃ。さとり達によろしくな」
 手を振ると、勇儀さんは大股で歩き出す。
「待ってください」
 あたいは無意識に、その背中に声をかけていた。
「うん?」
 足を止めて、勇儀さんが振り返る。
 まだ、何か聞きそびれている気がしてならなかった。しかし、それは頭の中でもやもやしているだけで、形になってはくれなかった。
 不思議そうに、勇儀さんがこちらを見ている。早く何か言わないと。気持ちだけが焦った。
 しかし、一向に言うべき言葉は浮かんできてくれなかった。

「あの――鏡のない場所で生きていくことって、可能だと思いますか」
 何だそれは。言ってしまった後で、あたいは頭の中で自分に突っ込みを入れた。
 よりにもよってなんでそんなこと。しかも、勇儀さんに。
「なんだいそれは。謎かけかい?」
 苦笑して、勇儀さんは肩をすくめた。
 焦ったあたいは、きっと混乱していたのだ。気付けば言わなくても良いことをどんどん口にしていた。

「あ、いえ――例えば。例えばですよ? 一つの家に、姉妹が居て、そこには鏡がなくて。そんな環境で、その姉妹は生きていけますかね」
 何やってんだ、あたいは。
 しかし、そんなあたいでも馬鹿らしくなるその質問に、勇儀さんは真剣に答えようとしてくれていた。別に、軽くあしらってくれても良いのに。それが彼女の性格なのだろう。
「大昔は鏡がなくても生きていけたんだから、その姉妹だって、生きていくことに支障はない――というのとは話が違うんだろうね。そうだね、」
 腕を組んで、考え事をするように空中を見つめた。しばらくそのまま考える。やっぱりいいです、と止めてしまおうかとも考えたけれど、結局やめた。彼女がどう答えるのか、興味があった。

 たっぷり時間をかけて考えてから、勇儀さんは口を開いた。
「難しいね。鏡がなけりゃ、解らないことはたくさんある。自分の容姿、服装、それから場合によっちゃ自分の体調なんかも、鏡を見てから気付くことすらある。つまりそれは、鏡なしでは自分が正しいかどうか解らないってことさ」
 正しいかどうか?
 まさかそこで善悪の概念が持って来られるとは思いもしなかった。思わず、目を丸くする。
 勇儀さんは、そんなあたいを見て、笑って続けた。
「何も、倫理観を持ちだしているんじゃない。例えば、鏡で身づくろいをするとき、服に糸くずがついていれば取るし、髪型が乱れていれば整える。つまりそれは、間違った姿に気付いて、正しいあるべき姿になろうとするってことさ。鏡は、正しさの基準なんだ」
 ――鏡を見ることで、初めて正しさというのがどういうものか思い出せる。
 なるほど、そういう考えもあるのか。
 改めて価値観というものは人によって違うものだ、と思い知らされる。みんな違って、みんないい、だ。
「じゃあ一人だと、鏡がないと生きられない?」
「そうだね。――確かに、一人でも生きることは可能だろう。だけど、それはあくまでもその「生きる」は生物としての「生存」だ。意思のある者が意思のある者らしく生きていくことは難しい。自分を顧みる存在がないとね」
 自分を顧みる存在。正しさの基準。それが、勇儀さんにとっての鏡なのだろう。
「だけど、二人なら話は違う。自分一人じゃないんだったら、自分の正しさの基準を他人に求めることが出来る。服装も髪形も、お互いを見て言葉を交わせば、お互いが正しい姿かどうか解る。だから私は、可能だと思うよ。その二人が、鏡のない館で生きていくこともね。――と、こんなもんでいいかい?」
 そう言って、話を締めくくった。
 話に聞き入っていたあたいは思わず、反応が遅れた。
「あ、ありがとうございます、ごめんなさい」と一気にまくし立てる。

 勇儀さんは、笑って踵を返すと、手を振りながら去っていった。
 あたいはしばらく、その背中を見送る。あたいと着地点こそ同じではあるけれど、その中身はだいぶ違ったなあ。そんなことをぼうっと考えていた。やがて、
「あれ、姉妹が二人だってこと、あたい言ったっけ」
 そんなことに、首を傾げるのだった。
 
 
 





六、
 
 カンタも神出鬼没であるが、こいし様ほどではないのは言うまでもない。
 とにかく、彼女が出てくるのは本当に唐突なのだ。毎回毎回、意識しないところから現われて、あたいを驚かせる。本当に、心臓がいくつあっても足りやしない。
「お燐、催眠術に興味は無い?」
 今回もまた唐突だった。唐突も唐突、あたいが部屋で本なんか読んでいるときにそう話しかけてきたのだ。あまりに唐突だったもんだから、座っている椅子から飛びはね、「うにゃぅっ!」と情けない悲鳴を上げ、読んでいた文庫本を取り落とした。

「面白いね、お燐は。毎回驚いてくれるから、驚かしがいがあるよ」
「わざとだったんですか」
 あたいは未だバクバク言っている心臓を押さえつけながら、文庫本を拾って机に伏せた。本当にやめて欲しい。いつか本当に死ぬから。
「それに、仮にもレディの部屋ですよ。ノックくらいして下さいよ」
 無駄だと解っているのに、あたいは悪態を吐いた。言って聞くくらいなら、苦労はしないのだ。
「あら、ついこないだまで子猫だったくせに、よくもレディだなんて言えるね」
 誰かさんと同じことを言う。あたいは苦笑した。

「それで、何ですか。催眠術?」
「そう、催眠術」
 あたいの疑問符に、こいし様は満面の笑みで答えた。また、訳のわからないことを言い始めるものだ。
 突然こうやって訳も解らないものにはまり込んで周りを巻き込むのは、彼女の十八番だ。
「何でまた、催眠術なんですか」
「だって、お姉ちゃんだって使うじゃない。だから私も使えるかなって思って。絶賛練習中なの」
 さとり様の催眠術、って言うとあれか。スペルカードの、「テリブルスーヴニール」や「恐怖催眠術」。確か、覚りの能力を十二分に発揮するための下準備として、トラウマを呼び起こしやすくする術だった筈だけれど。
 こいし様は、自信満々に胸を張る。
「私ならもっと凄いことが出来ると思うの。だって、お姉ちゃんと違って私は無意識を操れるんだよ? それなら、心の底にあるものを表面に押し出す催眠術なんて、お姉ちゃんよりも上手く出来てしかるべき、と思わない?」
「まあ、それは確かに」
 あたいは苦笑しながら、適当に相槌を打った。
 確かに、催眠術はどちらかと言えば無意識の分野であるようにも思える。だが、そんな簡単に上手く行くとも思えない。
 
 こいし様は、何故か満足そうにうなずくと「では早速」と、ポケットから何やら怪しげなものを取り出した。
 穴の開いた硬貨のようなものと、それに糸を通した、謎の道具。
「何ですか、それは」
「催眠用の道具」
 何とも、安っぽい道具だ。元々なかった催眠術の信憑性が、一段と薄れてしまった。
「ってちょっと待ってください。あたいはまだ、被験体になるとは一言も」
「怖くないから」
「怖くなくてもです! あたいじゃなくて、ほら! おくう! あいつのほうが催眠にかかりそうじゃないですか!?」
「かかりやすそうだから、よ。かかりにくそうな奴の方が、練習しがいがあるじゃん」
「じゃあ、さとり様……」
「お姉ちゃんは、最後にとっておくの」
「とっておくって何!」
 駄目だ、こうなったら梃子でも動かない。彼女を何とかする腕力も権力もないあたいは、観念するしかなかった。

 あたいは諦めのため息を吐きながら、ベッドの上に座りなおした。まあ、どうせ効かないだろうし、いいか。そんな軽い気持ちで。
「わかりましたよ、もう。で、あたいは何をすればいいんですか」
「よし、いい子ね。じゃまずは、そうね。思い出したいことってない?」
「思い出したいこと?」
「そ。私の能力と催眠術で、立ちどころに無意識から引っ張り出してあげるから。何でも思い浮かべてみて」
 忘れていることを思い浮かべるという時点で、何か矛盾している気がしてならない。思い浮かべられないから忘れていると言うんじゃないか。
 反論するのもだんだんと面倒くさくなってきたので、あたいは素直に、思いだしたいのに思い出せないことを頭に思い浮かべた。正確には、そのもどかしい気持ちを、だ。確かに、思い出せるのなら、思い出したい。
「よーし、思い浮かべたわね? それじゃ、これをよーく見て」
 こいしは催眠道具とやらの糸の先を摘まんで、硬貨を吊り下げた。
 そして、その硬貨を、振子のようにゆっくりと振って見せた。
 意識をこれに集中させればいいのだろうか。それなら簡単だ。揺れるネコジャラシを追いかける本能を、あたいだって忘れちゃいない。

 あたいは、じっと見つめる。
 硬貨は、柱時計の振子のように、左右に揺れる。
「これから、あなたは夢に落ちていきます。それは、あなたの忘れられた記憶。あなたは、夢の中で、もう一度記憶を辿ります」
 揺れる。右に、左に。
 左に、右に。
 あ、やばい何だか頭がぼんやりしてきた。かかるまいと思っていたのに。
 それは、こいし様が上手だからなのか。それとも、無意識を操る能力の所為?
 あたいの見つめる先で、何度も硬貨は行ったり来たりした。

「いち、」
 こいし様が、カウントを始める。
 きっと、三まで数えたら催眠術にかかるんだろうな。
 確か夢に落ちるとか言ってたから、このまま寝入ってしまうんだろうか。霞む頭で、ぼんやりとそんなことを考えた。

「に、」
 こいし様は目の前に居る筈なのに、その声は何故か遠くから聞こえる。
 ああ、結局あたいは単純なんだ。こんなにも容易く、催眠術にかかってしまうなんて。あるいは、それほどまでに疲れていたのかもしれない。

「さん」
 こいし様が、三まで数え終える。
 瞬間、あたいは糸の切れた人形のように、ふつりと意識を手放した。
 



 落ちていく。落ちていく。
 夢の中へ。
 意識の底へ。




 * * *




 静かな日だった。
 地底にしては珍しく、雨が降っていた。霧のような細かい雨が、地霊殿を包むように降り注いでいた。
 雨足は激しくはないが、外から帰ってきてみたら、存外に濡れている。ぶるぶる、と身を震わせて、真っ黒の毛から水滴を振り落とした。

「あら、雨が降っているの? 珍しい」
 そこへ、ちょうどさとり様が、階段を降りてやってきた。
 しまった、家の中でぶるぶるやっているのを見られた。叱られる。
「別にそのくらいいいわよ。それより、濡れたままでいる方が大変だわ」
 薄く笑いながら、さとり様は言った。

 それから、あたいの体をひょいと持ち上げると、暖炉のある部屋へと連れて行ってくれた。そこで良く乾いたタオルで、丁寧に拭いてくれる。気持ちいい、あたいが思ったら、さとり様は満足そうだった。
 そうして、毛が乾いたあたいをさとり様はそっと膝に乗せながら、ゆったりとした椅子に腰かけて、本を読み始める。あたいの好きな時間だ。

 ――さとり様は、知らなかったんですか? 雨が降ってるって。
 あたいは先ほどの彼女の言葉を思い出しながら、尋ねた。猫であるあたいがそうやって質問出来るのも、覚りである彼女と一緒に居る時だけだから、ついつい何でも訊きたくなってしまう。
「そうね。私は出不精だから。たくさん外で遊ぶお燐やおくうやこいしと違って、外のことにはつい疎くなってしまうの」
 片手で本を開きながら、器用にもう片方の手で背中を撫でてくれる。

 でも、もったいない。外には楽しいことがたくさんあるのに。
 お洒落して、おめかしして、さとり様も外でたくさん遊んだらいい。
 あれ、でもそう言えば。
 うちには「あれ」がない。
 おめかしに必須の道具。あれを、あたいは地霊殿で見たことがない。なんて言ったっけ、カンタが言ってた自分を映す魔法の道具。

「どうしたの?」
 さとり様は、ついと本から視線を外すと、あたいを見やる。あたいはやっとのことでその道具の名前を思い出し、さとり様に訊いた。

 ――どうして、地霊殿には鏡がないんですか?

 瞬間、さとり様の背中を撫でる指先が震えた、気がした。
 ――さとり様?
 あたいは、顔を見上げる。悲しそうで、寂しそうな顔をしたさとり様が居た。
「いえ、何でもありませんよ。――鏡、そうねえ」
 でもそれは一瞬のことで、さとり様は次の瞬間には、普段の顔に戻っていた。

「そうね、あったわ。昔はね」
 昔。それはどれくらい昔だろう。少なくとも、あたいが地霊殿に来るよりも前なのは確かだ。
「でもね――」
 そこで、言葉を区切る。
 さとり様が、空気を吸う音がいやに耳に響いた。
 そして、指先が、今度こそ確かに、震えた。

「壊れてしまったのよ。私の大切な――」
 吸って吐いて。
 さとり様は大きく深呼吸した。
「――大切な鏡」
 ゆっくりと、呟いた。

 その言葉は、まるで大切なものを指でなぞるような慈しみに溢れていた。大事にしてるものに、優しく指を這わせるような。
 本当に、大切だったのだろう。さとり様にとって、その鏡は。
「もうずいぶん昔の話。そうね、百年くらい前かしら。今日みたいに、いえ、今日よりももっともっと静かで、寒い日のこと」
 いつしか、慈しみに溢れていたさとり様の言葉が、悲しみと寂しさにとって代わった。普段感情というものを表に出さないさとり様にしては、珍しいことだった。

 ――ごめんなさい。
「どうして謝るの?」
 薄い笑みを浮かべて、あたいの背を撫でる。
 でもその笑いの下に、悲しさがまだ漂っている気がして。

 ――ごめんなさい。
 もう一度、あたいは謝った。






 ――かがみは、かがみ。
 さとり様は、節をつけて静かに言った。歌うように。




  * * *




 気が付いたら、ベッドの上に居た。
 ちゃんと布団をかけて枕を使って寝ていた。きっとこいし様が、ちゃんと寝かせて行ってくれたのだろう。
 あたいは、上半身を起こした。まだ頭がくらくらする。夢の延長線上に立っている気分。それは、まだ頭の中に夢の切れ端が残っているのだ。あたいはまだ残っている夢の残滓を必死に追いかけた。
 


 ――鏡は、鏡。
 おぼろげながら覚えている、彼女の最後の言葉を、呟いた。








七、

 こいし様ともう一度話す機会があったのは、それから三日後のことだった。
 あたいはたまたま廊下を歩いていたこいし様に出くわしたのだった。てっきりこいし様はあたいを見つけたら話しかけてくるものだと思っていたのに、そのまますれ違いそうになり、慌ててその腕を掴んだのだった。

「あ、お燐。元気? どうしたの?」
「どうしたの、じゃないです」
 あたいが用があるんじゃなくて、こいし様があたいに用があってしかるべきなのではないか。全く、何のための実験だったんだ、こないだのあれは。
「催眠術の結果、聞かなくても良いんですか」
「催眠術? 何それ」
 あたいはがっくり肩を落とした。
 あれから三日経っても結果を聞きに来ないから、まさかとは思ったが。全く、呆れた実験者もあったものだ。
 こいし様は、そんなあたいを見て、ケラケラ笑った。
「冗談よ、じょーだん。覚えてるって。こないだのやつね?」
 嘘だ。今思い出したに決まってる。絶対そうだ。
 あたいはため息を吐きたいのを何とか堪えた。

「結果は成功でしょ? ぐっすりだったもんね、お燐。うん、それさえ解ればいいの」
 あまりにあっけらかんと言うものだから、あたいは拍子抜けしてしまった。確かに成功ではあったけれど、そんな簡単でいいのだろうか。例えば、あたいが具体的に何を思い出したのかを聞かなきゃ、成功なんて解らないだろうし。
「え、それだけでいいんですか? その、思い出した内容とかは」
「聞かないよ、そんなの。私はね、お姉ちゃんと違って、言いたくない情報を聞きだしたりはしません」
 閉じた第三の目を指でつついて、自慢げに言った。
 どうやら完全に、こいし様の興味は他に移ってしまっているみたいだ。全く、本当に忙しい人。
「じゃあね。また今度面白い遊びを思いついたら、お燐のところにいくから」
 やっぱり遊びだったのか。
 あたいが突っ込みを心の中で入れているうちに、こいし様は脇を通り抜けて去って行こうとする。

「こいし様」
 それを、あたいは呼びとめた。そう、まだ用はあったのだ。というよりも、これからが本題。
 こいし様はきょとんとした眼で、あたいを見ている。
 あたいは軽く深呼吸してから、切り出した。
「地霊殿の昔の鏡のことは、ご存知ですか」
「鏡?」
 目を丸くして、目を瞬かせた。まるっきり予想外の質問だったのだろう。
「鏡って、リビングにある、あの鏡じゃなくて?」
「いえ、それより以前にあった鏡です。あたいが地霊殿に来るよりもっと前に」
「そんなの――いや待って」
 何か言いかけて、やめる。
 腕を組んで、何事か考えているようだった。視線がはるか上空を泳ぐ。しばらくそうやって黙った後、得心したようにぽんと手を叩いた。
「――それを言っていたのはお姉ちゃんね?」
「ええ。何か心当たりが?」
「あるある。大ありよお。なんたって、私がプレゼントしたんだもの」
「え、プレゼント?」

 今度はあたいが目を丸くする番だ。
「プレゼントって、こいし様から、さとり様に? 鏡を?」
「そう。私からお姉ちゃんに。あれは、確かにお燐が来るよりも前だね。よく覚えてる。何月何日かも、ちゃんと覚えてるよ。お姉ちゃんもきっと喜んでくれてる。今だって大事にしている筈よ。うん、きっとそう」
 うんうん。
 嬉しそうに頷いて、こいし様は去っていった。今度こそ、あたいは止めなかった。
 というよりも、あたいの頭はまた混乱の渦に巻き込まれて、声が出なかった、というのが本当のところ。
 とにかくあたいは、呆然とその場に立ち尽くしたのだった。


 全く、訳が解らなかった。
 あたいの知っている鏡。さとり様の大切にしていた鏡。それから、こいし様のいう鏡。
 どれも同じ鏡なのに、まるで違うものを指している。決して交わらない、三つの平行線。似ているのにどこかが違う、鏡像たち。
 誰が正しくて、何が間違っているのだろう。あたい達は、いったい何を指して鏡だと言っているんだ?


 * * *


 それから、二日が経った。
 最近はぼうっとしてしまう日が多い。おくうにまで「大丈夫?」と言われるのだから、相当だ。それもこれも、立て続けに考えなくてはならないことが起こったのが原因だ。
 いや、本当は誰もあたいにそんなことを考えろとは言っていない。あたいが勝手に考えて、悩んでいるだけだ。だけれども、気になることは仕方ないじゃないか。もう少しで解ける気がするのに、なかなか解けない謎。気になっても仕方ないじゃないか。誰にともなく、あたいは弁解した。
 そんなあたいの頭の中で、冷静な自分が思わず苦笑する。
 今あたいが立ち入ろうとしている物語は、あくまでも『彼女たち』の物語に過ぎない。言わば、脇役だ。いや、脇役ですらないのかもしれない。読者が、物語の中に介入しているつもりになっているだけ。あたいはいくらその物語について知ろうと、あるいは自分勝手な解釈を並べようと、結局何にも得られるものはない。
 それは解っているのだ。解っているけれども。

 あたいは、気付けば紙の上にペンを走らせていた。知っている情報を、紙面に描いていく。
 あたいの知っている鏡は、飽くまでもリビングにある、あの鏡だ。
 そして、さとり様は、鏡は昔あったけれど、壊れてしまったという。しかし、こいし様は、逆に鏡を昔さとり様にプレゼントし、それをさとり様が今も大事にしている筈だ、という。
 三つの鏡の情報を、それぞれ丸で囲む。
 しかし、いくらそれらの情報を書き出してみたところで、何も見えてこない。
 三つの円はそれぞれ離れたところに漂っていて、それが重なることなんてない。
 駄目だ! あたいはペンを放り出した。
 多分、まだピースが足りないのだ。核心に近づいている気はしたが、それでも決定的に何かが足りない。


 * * *


 意外と言おうか何と言おうか、最後のピースを運んできたのは、カンタだった。

「よう。今日も情報を仕入れてきたぜ、お燐ちゃん――って何だ、お疲れかい?」
「ん、いやまあ、ちょっとね」
 ぼんやりと天井を見て寝ころんでいたあたいは、カンタの声にやっとこさ体を起こした。
 寝不足で重い頭を軽く振る。おくうに続いてカンタにも心配されてしまったのだから、相当重症だ。どんな顔をしているのだろう、あたいは。こんなとき、手鏡でもあれば便利なのに。

「ごめん、ちょっと聞きたいことがあるんだ。いろいろと」
 あたいは、カンタが仕入れてきた情報を話し始める前に、自分の要件を伝えた。きっと、足りないピースをカンタは持っている、そんな気がした。
「ああ、別にいいぜ。あんまり談笑する気分でもないみたいだしな。何なりと聞いてくれ。俺の知っていることなら、何でも教えるさ」
 あたいは、その言葉に甘えて、質問をすることにした。
 最後のピースを、彼から貰い受ける為に。


 * * *


 あたいは、リビングに居た。
 もう夜も遅い所為で、いつも賑やかなそこも静まり返っている。あたいは、引っ張ってきた椅子に座って、ただぼんやりと鏡を見つめていた。意味もなく。どうしてそうしようと思ったかは解らない。あたいはただ鏡を、あたいの知っている鏡を、見に来たかっただけかもしれない。

 ふと、鏡の中にもう一人の人物が現れる。それは、あたいのよく知る人物。
「あれ、お燐。こんなところで何やってるの?」
 おくうだ。あたいの親友。
 おくうはぱたぱたと足音を鳴らして近づいてくると、あたいの後ろに立った。鏡に、並んで映る。
「鏡がどうかした?」
「いや」
 それだけ言うと、あたいは視線を下に落とす。何かを言ってしまえば、それと一緒に自分の脆い部分までさらけ出してしまいそうで怖かった。あたいは押し黙って、俯いていた。

 あっちいってよ。思わず、そう願う。

 でも多分、おくうは馬鹿だから、あたいのそんな気持ちなんて気付かないだろう。一人になりたい、あたいの気持ちなんて。あたい達二人は、それほどに違いすぎる個体なのだ。あたい達だけじゃない、他のみんなもだ。さとり様とこいし様だってそうだ。
 あたいは、それを知ってしまったのだ。
 みんな違ってみんないい、そんなことを嘯いたのは誰だ。そんなことあるものか。解り合えないことは、だってこんなにも悲しいじゃないか。

「お燐」
 依然として、おくうはあたいの背後に居続けた。一人にしてほしいのに、一人になりたいのに。どうしてこんな簡単なことも解ってくれないんだ、この馬鹿おくう。

 ――ふわり。

 突然、あたいを温もりが包み込んだ。まるで、いつかの乾いたタオルのように優しく。ふわんと香る、石鹸の匂い。
 顔を上げる。鏡に映った自分の姿を見る。そこには、後ろから優しく抱きとめる、おくうの姿があった。
 腕で体を抱きしめ、さらに羽根でそれを包み込む。まるで幼い子を庇護するように。優しく、暖かく。
「だいじょうぶ。だぁいじょうぶ」
 そんな、甘ったるい声で、あたいの耳をくすぐった。
「ねえ、覚えてる? 私が昔ね、ぐずったとき、お燐がこうしてくれたんだよ」

 ああ、覚えてる。
 あたいよりもペットになるのが遅かったおくう。妖怪として成長するのが遅かった、妹分のおくう。
 やっと人型になれたときも、物覚えが悪くて、どうしたらいいかわからなくて、しょっちゅう泣いていたっけ。
 そんなとき、あたいがおくうを、そう慰めてあげたのだ。優しく、全身を使って包み込んで。「だぁいじょうぶ」なんて、猫なで声で。
 ああもう、馬鹿おくう。どうしてそんなどうでもいいことばかり覚えているんだ。なんで、その記憶力をもっと他の事に有効活用出来ないんだ馬鹿。馬鹿おくう。なんで、

 ――何で解り合えないのに、こんなに暖かいんだ。

 あたいは、しばらくそうやって、おくうにただ抱かれていた。








八、

「待ってください、こいし様」
 あたいは、暗闇の中で話しかけた。突然だったはずだが、彼女は大して驚きもしなかった。
「なあに、お燐? これから出かけるんだけど」
「こんな夜中に、ですか」
「そう、こんな夜中に」
 あっけらかんと言って見せる。地霊殿の廊下は、照明が落とされて暗かった。暗闇に慣れた目でも、やっとのことでこいし様を視認できる程度だ。だけれども、この瞬間を、あたいは見逃すわけにはいかない。
「何か用事なの? 出来ればさっさと済ませて欲しいんだけど」
「いえ、ちょっとばかり時間を頂きたいのですが」
 む、と怒ったような声を上げた。本当に怒っているかどうか、あたいには暗くて表情が解らない。
「なによう、いつになく突っかかって来るじゃない。でも、残念、私も忙しいの。出来ればまた――」

「忙しいのは、最後の猫を殺しに行くからですか」

 びくり。驚く気配が、夜闇に確かに伝わった。
「それは、どういう意味」
 抑揚のない言葉が、吐き出される。あたいも努めて抑揚をつけないようにして、言い返した。
「言葉通りの意味ですよ。解ってるんでしょう?」
 こいし様にこんな暴言を吐くのは多分、後にも先にも、今夜限りだろう。だから、許して下さい。心の中で、さとり様とこいし様、両方に謝る。謝りますから、だから今夜だけは。
 すうっと、息を吸い込んで、気合を入れる。ピースは揃った。後は答え合わせをするだけ。大丈夫。難しくない。
「最近起こった、二回の猫殺し。それをやったのは、こいし様なんでしょう?」
 きっ、とこいし様を睨みつける。

 二回目の猫殺しを知ったのはつい最近、カンタが情報を持ってきたときだった。カンタにあったあの日、あたいが質問をする前に「その前にひとつだけ知らせておきたいことがある」と前置きをした上で、彼は二匹目の猫が殺された事件を教えてくれたのだった。
 こいし様は、しばらく黙っていた。ペットに猫殺しの汚名を着せられたことに対してショックを受けているようにも見えたし、怒りに憤っているようにも見えた。そして、どうやってボロを出さずに切り抜けようか考えているようにも、見えた。

 やがて、こいし様は口の端を釣り上げるようにして笑った。
「なあに、お燐ったら探偵ごっこ? で、私は犯人役? 面白いこと考えるじゃない。いいわ乗ってあげる」
 ノリのいいこいし様は、案の定乗ってくれた。
 これで逃げられることはなくなった。一応、ここまで計画通り。
 

 * * *


 あたい達は、リビングに場所を移した。あんまり暗いと雰囲気が出ないから、そう言ってこいしは笑った。どこまで本気かわからないのは、いつも通りだった。
 ランプに火をつけて、テーブルに置いた。ぼんやりとお互いの顔が闇に浮かびあがる。
 なるほど、確かにこれは雰囲気があるかもしれない。しかし、テーブルを挟んで向かい合わせにソファに座るあたい達は、どう見ても探偵と追いつめられる犯人には見えない。怪しげな秘密結社がいいところだ。

「で、あなたの言い分を聞こうかしら、探偵さん?」
 ソファに深く腰をかけ、足を組むこいし様。この構図だと、本当に何かを企む秘密結社のボスにしか見えてきてしまう。
 あたいは、努めて冷静に切り出すことにする。事件について詳しく教えてくれたのは、すべてカンタである。カンタに心の中で、お礼を言った。
「まず、猫殺しの事件は知ってますか? 旧地獄通りで立て続けに、二匹の猫が殺されたんです」
「知ってるわ」
 こいし様は頷いた。それを見てから、あたいは次の言葉を紡ぐ。
「一応、確認しておきましょう。一匹目が殺されたのが、ちょうどひと月前の昼頃。そして、二匹目が殺されたのが、その三週間後、つまり今から一週間前の、同じく昼頃です」
「それも知ってるわ」
「殺害方法は二つとも同じで、妖怪の単純な腕力によるもの。しかし、地底に住む者ならば誰でも可能なので、そこは大して重要じゃありません」
「そうね」
「そして二匹とも、地霊殿の元ペットだった」

 そこで言葉を切って、あたいはこいし様の顔を窺った。どういう反応を見せるのか、あたいには予測できなかった。どんな些細な動揺も見逃すまい、とあたいはこいし様を見据える。
 こいし様は、そんなあたいの視線に気付いているのかいないのか、目を丸くし、大げさなくらい驚いて見せた。
「へえ、それは知らなかったな。なんて言う子?」
 あたいは、カンタから聞いた二匹の名前を伝える。あたいも知らない、二匹の先輩猫。でも、きっとこいし様なら知っている筈だった。
 こいし様はしかし、あたいからその名前を聞いてもいまいちピンと来るものはない、と言った表情で首を傾げた。
「うーん。聞いたことあるようなないような」
 曖昧にぼかしたような言い方をする。それはどうはぐらかそうか、迷っているということか? それとも、単純に昔のことだから覚えていない?
 あたいはこいし様をじっと見つめていたが、やがて視線を逸らした。次の情報を提示する。
「二つとも、殺害場所は死体発見現場と同じ。つまり旧地獄通りの道端で殺害がされ、そこに死体は放置された」
「ふうん」
「おかしいと思いませんか」
「ん、何が」

 頑張れお燐、ここが正念場だ。気合を入れ直す。ここまでは地盤固め、ここからが本番だ。
「だって、往来の激しい旧地獄通りで、しかも真昼間。どうしてそんな大勢の人の目につくところで犯行に及んだのでしょう? たまたま誰にも気づかれなかったから良かったものの、もし誰かの目に映ったらそれだけで即アウトです。それを敢えて行うメリットってなんでしょう?」
「さあ、衝動的なものだったんじゃないかな」
「一回だけならそれで説明もつきます。でも二回連続で、同じ状況での殺害。これはどう考えても計画的でしょう?」
「そうだね、そうかもしれない」
「でも、あたいは知っています。一人だけ、メリットを引きだすことができる人物を。さらに、それをほぼノーリスクでやってしまえる人物を」

 あたいは、もう一度こいし様を真正面から見据えた。
 こいし様も、そろそろ来ると思っていた、とばかりに余裕の笑みで返した。
「それが、私?」
「そうです。無意識の能力を使えば、ほぼ間違いなく道行く人に全く悟られずに猫ぐらい殺せます。そして殺した後は、無意識状態のまま、その場を去るだけ。放置された死体は、突如通行人の目の前に現れる、ように見える」
「確かに、ノーリスクだね」
「そしてこいし様が犯人だとした場合、大きなメリットもあります。それは、犯行が可能な人物がごまんといること。そりゃ、賑やかな往来で行われた殺害ですもんね。その場にいた全員が犯人になりうる」
 あたいは、こいし様をじっと見つめる。依然として、余裕のある表情をしていた。
「そうだね、確かにそれを聞くと、私が一番適任な気もする。でもさ、」
「証拠もあります」

 あたいは、反論を言われる前に、最後の切り札を提示することにした。
 あたいのこの推理は、ガタガタだ。それは言っているあたいが一番よくわかっている。言い逃れなんてたくさんある、穴ぼこだらけの理論。だからこそ、反論される前に言いたいことを先に言ってしまうことに決めていた。それは、こいし様を追い詰めるためというよりも、あたいが早く自己完結したいからに過ぎなかった。
「証拠?」
 こいし様は、面白い話を聞いたように、顔を綻ばせた。

「ええ、匂いです」
「匂い?」

 今度こそ、彼女は驚いた。推理を開始して、初めて彼女が怯んだ。あたいは間髪いれずに続ける。
「あたいは、始めの猫殺しが行われた日、偶然旧地獄通りにいたんです。おくうと一緒に。そこで、死体を取り囲んでいる、人だかりを見た。残念ながら、あたいはそれに近づいていったりはしなかったんですが、そのとき嗅いだんです。その方角から流れてくる匂いを」

 あたいは、そのときのことを思い浮かべる。
 その匂いを、あたいは「嗅いだ事のある匂いだ」と感じた。それはつまり、地霊殿の匂いだった。
 そして、後になってそこで猫が死んでおり、しかもその猫が地霊殿の元・ペットだったと知らされる。 あたいはそれらの情報が揃ったとき、勝手に納得してしまったのだ。あのとき地霊殿の匂いを嗅いだのは、その猫が元・地霊殿の一員だったからだ、と。

 しかし、それは間違いだったのだ。
 考えてみれば、至極当たり前だ。あたいが知らないくらい昔に地霊殿から居なくなった猫が、未だに地霊殿の匂いを纏っている筈がない。匂いなんて、すぐに消えてさってしまう。猫殺しの二週間後、現場に行ったあたいが、全く匂いを感知できなかったように。あたいが嗅いだのは、猫自体の匂いじゃない。そのとき、もっと近くで、実際に猫に匂いが移るくらい触れ合っていた人物――犯人の、匂いだったのだ。

 すなわち犯人は、未だに地霊殿の匂いを纏っている者――つまり地霊殿に住む妖怪ということ。
「その中で、さとり様は根っからの出不精。もちろん、その日も外出はなさっていません。あたいに買い物を頼むぐらいでしたから。あたいとおくうは、犯行当時喫茶店に居ました。つまり、消去法でいけば残るのは――」
 あたいは、こいし様にまっすぐ視線を送った。あなたしかいないんです、あたいはそう目で語った。こいし様にも、あたいの言いたいことは伝わった筈だ。あたいなりに、筋道も通っていると思う。
 それなのに、依然として、悠然と微笑んでいた。

 こいし様は、おもむろに手を叩いて見せた。
「あはは、面白い推理だったわ。うん、穴だらけだけれど、着眼点は悪くない。だけど、及第点は上げられないかな」
 やっぱり駄目か。自分でも解っていたが、さすがに他人に指摘されると情けなくなる。
「匂い、っていうお燐にしか伝わらない概念が不味かったわね。そんなのお燐の匙加減ひとつで何とでも言える。それこそ、他の妖怪が同じような匂いを嗅いでいたりしたなら別だけどね」
 まあ、私は犯人じゃないから、そんなことありえないけど。そう付け足して、こいし様はソファから体を起こした。

「じゃあね、名探偵君。残念ながら、犯人の自白タイムは無しみたいだ。顔を洗って出直してくるんだね」
 軽い口調でそういうと、こいし様は去って行こうとする。それを、
「もう少し、待ってください」
 あたいは呼びとめた。

「最後に、聞かせてください。動機は何ですか」
 こいし様は体を翻して、あたいの方へ向き直った。当然、これ以上ないってくらい、顔を顰めていた。
「何言ってんの。だから私は違うって言ってるじゃない。それなのに動機? 言ってることむちゃくちゃよ?」
 あたいでもそれは解ってる。推理パートで探偵が負けたのに、せめて動機だけ聞かせてくれ、だなんてそんなのに応じる犯人がどこに居る?
 でも、別に良かった。いくら論理がめちゃくちゃで笑われようとも。あたいは始めから探偵ごっこをやりたかった訳ではなかった。こいし様を追い詰めたい訳でもなかった。あたいが知りたかったのは、もっと別のこと。

「復讐、ですよね」
 あえて断定する言い方をした。こいし様はさすがに呆れたような顔で、あたいを睨みつける。
「復讐って言ったって、私はそいつらのこと何も知らな――」

「――さとり様の」

 その名前を口にした瞬間、彼女は動きを止めた。驚いた顔のまま、あたいを呆然と見る。
 あたいはゆっくりと口を開いた。
「これはあたいの推測です。間違っていたら、鼻で笑い飛ばして下さって構いません。それくらい根拠のない、あやふやな想像です」
 そう、前置きしたうえで、あたいは続けた。
「こいし様が殺した二匹の猫、それから、恐らくこれから殺しに行こうとしているもう一匹の猫。この三匹は、地霊殿に居た頃よくつるんでいました」
 これも、カンタ情報だ。長生きをしている彼は、そんな昔のこともよく覚えていてくれた。
「しかし、あまり素行は良くない猫たちだった。しょっちゅう、さとり様を困らせていたそうです」
 そこまでなら、猫たちの困った悪戯で笑って過ごせたはずだった。だが結局、そうはならなかった。
 カンタの目から見て、明らかにさとりはその猫たちを嫌っていたらしい。しかし、その理由は判然としなかった。さとり様はペットたちには基本的に優しかったし、少しばかりのやんちゃなら大目に見てくれた。だからどうしてさとり様が、その猫たちを嫌っていたのか、カンタには解らなかったらしい。
 ここからは、完全にあたいの憶測だ。
 つまり、傍目には気付かないけれど、許されないことが彼女たちの間であったのではないだろうか。例えば、心の中で、さとり様を穢した、とか。もしかしたら、敢えてそうやってさとり様の目の前で、そういったことを想像し、閉じることのできない目で読みとらせて、憔悴していくのを見て楽しんでいたのではないか。
 全くの憶測だが、カンタから聞いたその猫たちの人物像から考えると、全くの出鱈目とも言い難かった。

「だから、私が殺したってこと? お姉ちゃんの代わりに? それが、私の動機?」
 こいし様は呆れたように肩をすくめた。
 当然だ、ガタガタだった理論が、さらにガタガタになったのだ。笑うしかない。
 だけれども、あたいが知りたいことは、もっとその奥にあった。例え憶測であったとしても、その奥にある答えに、少しでも触れたい。そう願った。
「そろそろ馬鹿らしくなってきたよ。さすがに、それじゃ探偵失格だ。元々失格だったけど」
「――第三の瞳を閉じたのは、その為ですよね」

 こいし様の目つきが鋭くなる。
 それは、ほんの少しの可能性だ。もうここまで来たら、全ての情報を総動員して、その可能性に縋るしかない。

「カンタに聞いたんです。カンタは、こいし様が目を閉じたときのことを、知っていました。そのときの、正確な日付も」
「……」
 こいし様は、こちらを睨んだままだ。あたいはその沈黙に押しつぶされないよう、懸命に踏ん張った。
「例の三匹はある日、地霊殿から逃げ出しました。おそらく、さとり様に対する嫌がらせがこいし様にばれたからでしょうね。さとり様はあれでいて穏やかな性格だから、やりたい放題だったけれど、おそらくこいし様に対してはそうはいかない、と思ったんでしょう。そしてこいし様が目を閉じたのは、その直後でした」
「つまり、その三匹に復讐するために私は目を閉じたと? ふうん――ねえ、お燐、本当にそう思っている?」
 こいし様は、可笑しそうに笑う。
「そりゃ、確かにその三匹は憎らしいわ。私のお姉ちゃんを、苦しめたんだから――お燐の言う通りならね。だから、確かにそれを知っていれば、私は何とかしてお姉ちゃんを助けたいと思うでしょう。でも」
 一呼吸置いて、こいし様は続けた。

「本当に、それだけの為に、覚りの能力全てを投げ打てると思う?」
 こいし様は挑戦的な笑みでこちらを見据えている。
 ああ、自分でも無茶苦茶不利な状況だ、というのがありありと解る。でもせめて、あたいの手持ちのカードが尽きるまでは、とことんやってやろうじゃないか。
「そうですね、確かにそれだけ――たったそれだけの為に、第三の目を閉じたりはしないでしょう」
「でしょう? なら、」
「だから、それはきっかけの一つに過ぎなかったんです」
「きっかけ?」首をひねって見せるこいし様。
 そうだ、思えばこの事件は、あたいにとってもきっかけなのだった。重要なのは、探偵としてこいし様を追い詰めることじゃない。あたいは、それを踏み台にして、もう一つ奥にある物語に触れたかったのだ。
 あたいは、大きく息を吸い込む。
 そして、一気に言い放った。

「こいし様は、鏡になりたかったんですよね」

 そして、これがあたいの触れた、物語の形なのだった。






 奇妙だった。考えれば考えるほどに。
 鏡は、リビングに一つしかない筈なのに、さとり様は昔にも鏡はあったと言い張った。
 そして、こいし様はさとり様に鏡をプレゼントした、と語った。
 さとり様の鏡と、こいし様の鏡。
 まるで入れ替わるように出現して、消える二つの鏡。その鏡とは正体とは一体何だ。


 さとり様は、言った。
 鏡は壊れてしまったと。百年くらい前の、とてもとても静かで、寒い日に。
 それはきっと、雪が降った日のことだ。
 勇儀さんは言っていた。雪は、音を吸収する。だから、どれだけ騒いでも静かなのだと。鬼が騒いでも静かならば、地霊殿が静かでない筈はない。その静かで寒い日とは、きっとその雪の日のことだ。
 そして、雪の日には同時に起こった、別の出来事があった。
 雪の日。勇儀さんが言っていた日付。カンタが言っていた日付。それが一致して、始めて確信した。

 ――こいし様が、第三の目を閉じたんだ。

 鏡が壊れた日と、こいし様が壊れた日が、綺麗に重なった。
 思えば、最初から答えに近いところに居たのだ。あたいは答えを言っていたんじゃないか。お互いを鏡にして生きることは、可能だと。
 そう、さとり様にとって、こいし様こそが世界でたった一つの鏡だったのだ。
 隔絶された二人の世界。そこで、お互いはお互いに、正しさの基準を求める。そうしないと生きていけないから。そうすれば、生きていけるから。少なくとも、さとり様はそう思っていたに違いない。
 だから、さとり様は言ったのだ。こいし様のことを鏡になぞらえて。
「鏡は、壊れてしまった」と、悲しそうな声で。

 そして、あたいの予想が正しければ、その雪の日には、もう一つ重要なイベントがあった筈だった。
 
「どういう、こと」
 こいし様は訊いた。震える声で。
「その前に答えてください――こいし様がさとり様に鏡をプレゼントした日、それは百年以上前の、大雪の日、だったんですよね」
 あたいは答えを殆ど確信していた。あてずっぽうだけれど、間違っていないと思った。
 でも、間違っていて欲しいとも思った。もし、あたいの予想が当たっていたとしたら、それは――悲しすぎる結末だ。
 あたいの視線の先。こいし様は俯いていた。
 言い逃れすることは出来るだろう。でも、多分しない、と思う。これも、根拠のない自信だ。
 こいし様は、しばらくじっとしていたが、やがて顔を上げると、
「そうよ」
 はっきりと答えた。

 繋がってしまった。
 あたいの思い描いていた、悲しい物語が形を成してしまった。

 雪の日。
 何も無い、真っ白な世界で、二つの鏡は、音もなく入れ替わったのだ。

「私はね、鏡になりたかった。ただ一つ、お姉ちゃんの鏡に」
 気がつけばこいし様は立ち上がって、ぶらぶらと部屋の中を歩いていた。あたいはソファに全体重を預け、ぼうっとしていた。ここまで歩いてくるのに、あまりにも疲れてしまった。
「お姉ちゃんは、私たちは鏡だと言った。覚り妖怪だからね、何もしなくても、お互いの全ての情報が、何もかも筒抜け。だから、他人の目から見た自分の姿を、まるで自分の目で見るかのように感じることが出来る。これ以上ないってくらい、私たちは互いを映す鏡だったの」
 そうか。少し勘違いしていたかもしれない。
 あたいは、鏡のない世界は不便だけれど、互いを鏡にすれば、二人きりでも生きていける、と思っていた。しかし、違うのだ。そこには不便さの欠片もない。むしろ鏡を覗くよりも容易く、お互いにお互いのことを教え合っていたのだ。鏡なんて、まるで必要じゃなかったんだ。

「でもね、私は違うと思った。それは確かに鏡に近いけれども、鏡じゃない。鏡はつまりパラレルワールドなの。ありそうでなかった世界。鏡に映るのは、似ているけれども、どこか違う世界よ。そうして、私たちはいつだってそんな平行世界に夢を馳せるの。――鏡って言うのは、そういう存在じゃなくちゃ、駄目なのよ」
 こいし様は、独白するように続ける。
 あたいは少しだけ、こいし様の言いたいことが解る気がする。
 つまり、こいし様は恐れていたのだ。二人を鏡にすることは、二人の世界に閉じこもること。二人だけで物語を完結させることだ。

 だから、それを嫌ったこいし様は望んだ。
 今ある鏡を壊して、もっと違う世界を見せること。自らがパラレルワールドになって、世界を提示すること。さとり様が敢えて選らばなかった、可能性のある世界を見せること。
 そうして、新しい鏡となって、新しい正しさの基準を、さとり様に示したのだ。
「でも、私はすぐには第三の目を閉じようと思わなかった。ううん、閉じようと思っても踏ん切りがつかなかったの。でも、そんな私に第三の目を閉じさせようと決意させる出来事が、起こった。何だと思う?」
 こいし様は、あたいに問いかける。
 体が、すごく重くて、答えるのが億劫だった。それでも、何とか口を開く。
「三匹の猫に、復讐、したかったから」
「ぶぶー。違うって言ってるでしょ始めから。そんな奴らの為に、お姉ちゃんとおそろいの大切な目を閉じたりはしません。まあ、あなたの言った通り、数多くのきっかけの一つではあったけれども」
 やっぱり違ったのか。
 笑おうとしたけれど、そんな気力すら残っていなかった。何故だろう、まぶたがすごく重い。

「ある日ね、雪が降ったのよ。すごくたくさん。たくさんよ? こないだの雪なんて目じゃないくらい。――ね、知ってる? 地底の雪ってすごくレアなのよ。地上に行けば、たくさん見られるんだけど、それとはまた全然違うの。何が違うか解る?」
 地底の雪。それは、確かあたいが二、三百年かけて見なければならない、宿題だった筈だ。
 こいし様は、中空を見据え、うっとりと恍惚とした笑みを浮かべた。

「地上の雪景色は銀世界。太陽光を反射させて、雪は白銀に輝くの。じゃ、太陽がない地底じゃどうなると思う? ――エメラルド・グリーンに光るの。薄く、薄ぅく。地底に生えてる光る苔たち、その幽かで幻想的な光を辛うじて吸収して、淡く青緑に浮かび上がるの。音のない世界に、ぼんやりと」

 あたいは、薄れゆく意識の中で、それを想像する。
 多分、それはあたいが今まで見たこともないくらい、幻想的で綺麗な光景なんだろう。あたいも、あと三百年生きたら見られるだろうか?

 そうやって夢想していた彼女はしかし、天国から地獄に突き落とされたみたいな嘆きの声を上げた。
「そんな幻想が世界を覆っている中で、お姉ちゃんは何をしていたと思う? 何とマフラーを編んでいたんですって! ずっと部屋に閉じこもって、二つのおそろいのマフラーを、編んでいたの! それで、私が帰ってきたら、澄ました顔して「お帰り」だなんて。外がこんなにも美しい世界であることも知らないで!」
 演劇みたいに、大げさな身振り手振りで言う。
 おどけた仕草に隠されているけれども、そのとき感じた気持ちは本当だろう。

「だから、私は第三の目を閉じたの。このままじゃ駄目だって、私がもっといろんな世界を、可能性を見せなくちゃ駄目だって。その為には、邪魔だったのよ、第三の目が。きっと目を開いたままだったら、お姉ちゃんは変われない。お姉ちゃんの望む鏡のままじゃあ、何も変われない。私が、本当の鏡になって、お姉ちゃんに新たな世界を見せるしかなかったの」
 最後の方の台詞は、もう殆ど聞こえなかった。
 あたいは、底なし沼にずぶずぶ沈んでいくように、眠りの世界に取り込まれていく。

「さて、そろそろおねむかしら、探偵さん?」
 その台詞で、やっと気付いた。
 ああ、そうか。これはこいし様の仕業か。
 催眠術にこんな簡単にかかるなんて、やっぱりあたいは単純だ。

「悪いけれど、今日のことは忘れてもらうわ。だって、お燐の為にも私の為にも、お姉ちゃんの為にもならないもの。そうでしょう?」
 それは、そうだ。
 あたいは物語に少しでも触れたくて、ここまで進んできた。でも、得たものは何もない。
 危ないと解っている鏡の破片に手を伸ばしたようなものだ。ただ、危険を冒してそれに触れただけに過ぎない。
 そして、この事実を知ったままさとり様やこいし様と今まで通りやっていける自信があたいにはなかった。こんな記憶を背負い込んで、あたいはどんな顔をすればいいのか解らなかった。
 だから、あたいにとっては記憶を無くしてしまったほうがありがたい。
 だけど。だけどひとつだけ、気がかりに思うことがある。

「私は、無意識を操るの。それは、無意識から記憶を掘り起こす能力でもあり――もちろん、逆に、記憶を無意識の底に埋めてしまう能力でもある」

 わかってます。わかってますけど。
 あたいは少しだけ悲しいです。だって全て忘れてしまったら、あたいは折角知った、お二人の悲しみを共有できなくなってしまう。悲しみを二人だけに背負わせてしまう。
 それだけが、少しだけ悲しい。
「じゃあ、ね。お燐。お休みなさい」
 お休みなさい。また明日。


 そうして脇役は消えて、物語はまたひっそりと閉じるのだ。




 落ちていく。落ちていく。
 夢の中へ。
 無意識の底へ。








 その途中。
 あたいは、頭の中で、さとり様の声を聞いた。

 ――彼が身(かがみ)は、鏡。
 ――されど、我が身は、鏡ならず。


 ――彼女の体は、私にとっての鏡。
 ――だけれど、私の身は、彼女の鏡になれなかった。




 透き通ったその声が、夢の中で、いつまでも反響していた。

 






 * * *
 
かがみよかがみ、
せかいでいちばんただしいのはだぁれ?




* * *





(追記)
 読んで下さった方々、ありがとうございました。
 コメントも為になるものばかりで、じっくり読ませていただいてます。やっぱりまだまだ未熟だなあと痛感。
 コメ返しはもう少しお待ちください。



(さらに追記)
 あわわわわ、気がついたらこんなに時間が経ってる……。
 お待たせしてごめんなさい。とりあえず誤字修正と、気になった部分の表現修正を。
 コメ返しは、明日には必ず……!



(さらにさらに追記)
 結局日付変わってしまった……。
 すみません、だいぶ遅れましたがレス返しさせていただきます。


>SATさん
 いえ、こちらこそご読了お疲れ様です!
 猫……やはり猫ですよね。練り込んでいくのが甘かったというかなんというか、完全に浮いてしまってると思います。そこでばっさりカットするか、あるいはもっと上手く主題と絡ませるかすべきだった。反省します。
 そして爆発……ですか。難しいですね、大切だとは思うけれど、今の私ではどうすればいいのか思いつかない。精進せねば。ありがとうございました。


>パレットさん
 やはり、さとりとこいしを語るのにお燐が主人公、というのに無理があったのでしょうか。としたら、一旦一から書きなおしてみるべきだったかもしれません。しかし、その勇気も時間もなかった。反省します。
 ともあれ、ありがとうございました。


>さく酸さん
 強引ですよね。最後の章だけだけやたら長い事といい、完全に見通しが甘かったです。猫についても、上手くストーリーに絡められず仕舞いで。
 こいしの第三の目を閉じた理由については、私自身はあれで結構満足しています。ただ、説得力があるかと言われればおっしゃる通り。納得させるだけのストーリーが全くもって足りていませんよね。精進します。
 ありがとうございました。


>aspさん
 構造の甘さは、この話の問題点の一つだと私も思っています。全体的にごちゃごちゃしてしまって申し訳ないです。
 ただシーンや設定が魅力的だとのことなので、それを殺さない作品を書きたいと思います。ありがとうございました。


>yuntaさん
 いえ、こちらこそお疲れ様です!
 オチが解りやすい、ですか。難しいです。オチに至る伏線や情報が足りなすぎるとオチが唐突になりますし、逆に仔細に描きすぎても分かり安すぎる。ここら辺の匙加減は場数を踏んで覚えるしかないんでしょうね。
 結末は……もう少し、何かあった方が良かったですね。何か登場人物に変化がないと、物語として変かもしれません。
 こいしの台詞は個人的に気に入っているのですが……やはり唐突ですよね。もう少し説得力のある構成にしなければ生きてこないと思います。
 ありがとうございました。


>ケンロクさん
 首をかしげるところがあったというのは、やはり説明不足・描写不足な部分が多かったということだと思います。済みません。
 しかし、それ以外の部分はお褒め頂いているので一安心。ありがとうございます。
 私は、こいしちゃんに変な役回りを与えてしまうことが多いので可愛いと言ってもらえてよかったです。
 ありがとうございました。


>NT○さん
 推理物としてはガタガタな作品だと私でも思います。何を思ったのか、変に推理ものの要素を出してしまって、何とも中途半端な作品に。申し訳ありません。
 文章を褒めて頂けてありがとうございます。精進します。
 コメントありがとうございました。


>ざる。さん
 ラストは印象的になるように、と思って書いているので、そう言って頂けて嬉しいです。
 猫に関しては……完全に私の落ち度ですね。最近まで姿を隠していて、それをこいしが見つけた、という設定をどこかに入れようと思っていたのですが、完全に失念です。駄目ですね……。
 ありがとうございました。


>八重結界さん
 うう、やはり一番説明不足な点ですよね。最近まで姿を隠していた猫を、こいしが見つけたという描写をどこかに入れるべきだったと思います。それを抜きにしても説明不足な点が多い、不親切な作品でした。済みません。
 最後のシーンを褒めて頂けて嬉しいです。よかった。
 コメント、ありがとうございました。


>desoさん
 可愛く書けていたなら本望です。毎回、どうすれば可愛くなるのか悩みながら書いてます。書けているかどうかは別として。
 中途半端なミステリ要素でしたが、褒めて頂けて幸いです。ありがとうございました。


>木村圭さん
 二人の鏡のとらえ方、そこから派生する価値観の違いは対照的にするよう意識しました。それが上手く伝わったなら良かったです。
 猫ヘの復讐に関しては、設定の不備です……。最近になるまで隠れていたのをこいしが見つけた、という説明をどこかしらに入れるつもりだったのですが……。済みません。
 ともあれ、コメントありがとうございました。


>ニャーンさん
 感想が書きにくい……難しいですね。インパクトが足りないのでしょうか。あるいは、読者さんに訴えかけたり問いかけたりするものがないのか。微妙に評価数が少ない気がするのは、感想が書きにくい作品だからかもしれませんね。頑張ります。
 ありがとうございました。


>geneさん
 きゃん! ごめんなさい四季様!
 というのはさておき、今回は「あたい」は「あたい」でもお燐のほうでした。やっぱり「あたい」と言えば小町やチルノの印象が強いんですかねえ。
 解釈に関しては、それで概ねあっていると思います。
 コメント、ありがとうございました。


>兵庫県民さん
 果たして誰が正しいんでしょうね?
 時と場合によって、正しさはどのようにも変化しうると思いますし、明確な答えはなかなか出せないと思います。
 勇儀姐さんは私なりにカッコ良く書けて良かった。
 それでは、ありがとうございました。


>文鎮さん
 ありがとうございます。うひゃあ。
 素晴らしいとまで言っていただけるとは、感謝感激です。書いてよかった。
 こいしの復讐のタイミングに関しては、完全に説明不足というか設定ミスというか……どこかに「最近になるまで隠れていたのをこいしが見つけた」という描写を入れるべきでした。済みません。
 コメントありがとうございました。 


>774さん
 面白かったならば良かったです。ありがとうございます。
 アクティブというか、ちょっと唐突な感じでしたね、こいしの言動は。もう少し落ち着かせてあげるべきだったのかもしれません。
 ありがとうございました。



 
 コメント返し終了、以下少しだけ言い訳。

 完全に時間不足でした。
 〆切まで全然書く気力が起きず、結局〆切間近になって今まで書いたことのない長さの話を、ラスト二日でほぼ書きあげるという暴挙に。ペース配分狂いまくりです。
 その所為で、作品として完成しはしたものの、色々と突っ込みどころの多い作品になってしまいました。特に、復讐のタイミングは、多くの人に突っ込まれて当然だと思います。ただでさえ作品から浮いているのに。
 もっと時間をかけて色々と考えるべき話だったと思います。そうしたらまた少し違う話になったかもしれないと思うと残念です。
 あと、このくらいの長さのSSはちゃんとプロット作った方がいいですね……。今まで頭の中だけでごちゃごちゃやっていたのが完全に裏目に出ました。
 しかし、やはりコンペに作品を出したのは色々といい経験になりました。重ねて、コメントをくれた皆様に感謝。
 


 それでは最後に、こんぺに携わったすべての方々に感謝を。ありがとうございました&お疲れさまでした!
芽八
作品情報
作品集:
最新
投稿日時:
2010/11/06 20:35:15
更新日時:
2010/12/19 04:32:38
評価:
15/16
POINT:
93
1. 7 SAT ■2010/11/07 01:07:29
執筆、お疲れ様でした。
さて、個人的に思ったことを書き連ねます。
この作品には幾つかのキーワードが登場します。鏡、雪、猫……
その中で、本当にこの作品にとって重要な、最も大きなウェイトを占めるモノは、何だったでしょうか。
ええ、私としては「鏡」だと思いましたし、実際、帰結したのも「鏡」でした。
ところが、ちょっと「猫」に関して。猫を巡る推理とかそういったトピックが、これだけの比重でもって書かれる必要があったのか? 煙に巻き先を霧で包む効果はあったでしょう。しかし、それらが寄り集まって、全体として散漫な印象を受けました。「鏡」が、少し弱かった。
さとりとこいし。特にこいしの心象については、もっと掘り下げることが可能だったのではないか? ストーリィの流れが美しかっただけに、収束していった先の先、最奥部での爆発が欲しかった。
後、ここに描かれているのは、もう、「終わった後のこと」ですよね。そう考えるとやはり、もう変わらない「今」に文句なく首肯できる結末であって欲しかった。

はい。散々書き散らしましたが、総じての、特に文章の流れ、言葉の選び方については素晴らしいと思えるものがありました。
読ませて下さり、ありがとうございました。
2. 4 パレット ■2010/11/20 00:23:01
 んぐ……上手い印象も受ける一方、なんか物足りない……。
 さとりとこいしの間にあった物語そのものには、まあそういうものだってことで納得するのですが。どうもその語られ方……この作品の構造と言うか、そのあたりからすごく無理やりな感があったように思います。
3. 6 さく酸 ■2010/11/25 21:00:52
こいしをさとりの鏡に見立ててこいしの過去の話をつづった作品で、それをまたお燐視点で描いていくという変わった趣のある話でした。
ただ、少々話のまとめ方が強引ですね。2匹目の猫が話のついでみたいな感じでいきなり殺されてますし。猫カワイソス。
こいしが第3の目を閉じた理由にしても、さとりがマフラー編んでたのを見たからだけでは感情移入しにくいです。
その後さとりを外へ連れ出そうとして拒否(拒絶みたいに強くてもいいかも)されたとか、もうひとつ越えた話がほしかったなぁと思いました。
4. 5 asp ■2010/11/29 11:00:26
 独自設定を含みつつ、各登場人物が生き生きと動いていますね。燐を主軸として様々なものを追う構成・展開も、引きつけられていいと思います。だからこそ、終わりの唐突さといくつかの説明不足が気になってしまいました。一本主軸を定めて他を削った方がよかったかも。ちょっと色々と欲張りすぎちゃったかなと思います。とはいうものの、シーンや設定を個々に抜き出すとたまらなく魅力的なので点数は甘めに。
5. 7 yunta ■2010/11/30 22:20:49
執筆お疲れ様でした!

鏡に関する考察というか、考え方は面白いと思いました。
しかし、オチが分かりやすかったのと、それに至るまでが結構細かく描写されていたので、
逆に結局このオチなのか、という印象になってしまいました。

後は完全に個人の趣味なんですが、結末が救われなくて納得いかないなぁ、と思いました。
いきなり、こいしの考えを突きつけられたので、物語に置いて行かれたという方が正しいかもしません。
6. 6 ケンロク ■2010/12/07 14:04:23
要所要所、読んでいて首をかしげるところもありましたが、全体としては良いサスペンスSSだったように思います。物語の中に散らしてあるフラグをちゃんと回収して、オチに繋がる流れがキレイでした。
あと珍しいタイプのこいしちゃんが可愛いから満足です。
7. 6 NT○ ■2010/12/09 19:00:29
推理物として読んでいたのでオチが若干弱いのが残念。
でも綺麗な文章で最後までさらさら面白く読めました。
8. 7 八重結界 ■2010/12/11 20:28:57
何故、今になって猫たちを殺すのかと。もっと早くから始末していれば良かったのにという気もします。
ただ最後のシーンは圧巻の一言。恐怖や儚さよりも寂寥感を覚えました。
9. 7 deso ■2010/12/11 20:29:09
おりんもおくうも可愛いなあ。
こいしが目を閉じる話はいろいろあるけど、ミステリっぽい雰囲気が良い感じでした。
10. 7 木村圭 ■2010/12/11 20:30:30
難しいところだよなぁ。
世界は素敵なことに満ちているしそれに目を向けないのは勿体無いと思うけど、それを知識として知っていても目を向けようとも思わないほど好きなものがあるのならそれはとても素敵だと思う。
ところで三匹の猫への復讐、もう少し早くても良かったんじゃないかと思うのですが。
11. 5 ニャーン ■2010/12/11 20:56:19
推理ものとして楽しめました。
しかしながら、感想が書きにくい、というのが正直な感想です。
残念ながら、こいしが悪役になっている作品が多い中では、あまり印象に残りませんでした。
12. 5 gene ■2010/12/11 21:10:40
……シリアスに浸っても四季様の落雷はまぬがれんぞ小町。
浄玻璃の鏡を意識していたときに読み始めたのでそんなことを冒頭で考えて申し訳ない。
新しい価値観を受け入れていこう、という話と受け取りました。
13. 6 兵庫県民 ■2010/12/11 22:01:53
お燐、かな。彼女は優秀な探偵役でした。
まぁ、最後までブレの無かった勇儀姐さんかもだけどw
14. 9 文鎮 ■2010/12/11 23:08:50
鏡の謎が分かった瞬間、思わず冒頭へ戻ってしまいました。
降り積もった雪のように静かに進んでいくストーリーは素晴らしかったです。
ただ、私にはなぜ今になってこいしは復讐を始めたか、という謎が解けませんでしたが。
雪が降るような寒い日、炉辺で聞くのにぴったりなお話でした。
15. 6 774 ■2010/12/11 23:59:19
すれ違い気味(というと、何か違う気もしますが)の姉妹のお話。
こいしがアクティブな話はちょっと珍しく、面白かったです。
16. フリーレス 774 ■2017/01/07 13:55:18
稚拙な推理物でした
二次創作物にしては完成度は高かったとは感じました
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