ウォーターインハート

作品集: 最新 投稿日時: 2010/11/06 23:34:40 更新日時: 2010/11/06 23:34:40 評価: 15/15 POINT: 70
――さとり様?
――うーん、いい主様だと思うよ?
――ちゃんと世話してくれるし、私たちのこと考えてくれるし。
――ただ、もうちょっと外出た方がいいと思うけどなー。



――さとり様かー。
――雛の時から世話してもらってるから、怖いなんて思ったことないなぁ。
――あ、怒った時はめちゃくちゃ怖いよ。
――神様の力をもらってからは、怒られたことないけれど。
――最近帰ってないけど、どうしてるんだろ?
――あなたは知ってる?



――気味が悪い。
――右に同じだぜ。
――心が読まれるなんて、紫の読心術で十分だっていうの。
――あそこまではっきりと読まれると、流石に嫌になるな。
――まぁ、気味が悪い妖怪なんていくらでもいるけどね。
――人間にもな、こいつとか。
――あら、喧嘩売ってる? 買うわよ?
――おーおー、絶賛販売中だぜ。返品は受け付けないがな。
――ようし、いい度胸ね。



――気味が悪いなんてもんじゃない。
――俺のことを、全て見通すんだ。
――そして、思い出したくないことまであの口から事細かに言いやがる。
――こっちはもう、思い出したくなんかないってのに。
――まるで、嫌な部分だけ取り出した俺がいるみたいだったんだ。
――もう二度と、会いたいとは思わない。
――あんな、悪いものを見せる化け物なんかに。





――お姉ちゃん?







 安楽椅子に揺られて、さとりは船を漕いでいた。
 時刻は昼過ぎ。
 主人のさとりのみならず、ペットの動物のほとんどが睡眠を貪っている。
 地上は残暑が厳しくとも、地底には関係ない。
 もともと気温が低い洞穴と、息を吹き返した灼熱地獄のおかげで通年すごしやすい状態になっていた。
 欠点と言えば、常に茶色の景観で変化がないことだろうか。
 そこは封印された身と、文句を言う妖怪もいなかった。
 酒を呑んで騒いでいられれば、地上と変わりないらしい。
 仕事があるのは、閻魔から地獄跡を押しつけられたさとりの種族だけだった。
 仕事といっても、もはや使われない地獄が暴走しないように見張るだけ。
 閻魔の気遣いであったのか、ただの厄介払いか。
 それとも、その両方か。
 少なくとも、さとりは今の生活を嫌ってはいない。

(さっとりっさまー)

 声なき声に、目を覚ます。
 目をこすりながら発信源をさがせば、それはさとりの足下にいた。
 小さな猫である。
 こいしが拾ってきた猫で、目を閉じた後でも彼女に懐いていた数少ないペットの一匹。
 拾われてきた時は真っ黒で、風呂に入れたら白になったというモノクロっぷりを呈した猫であった。
 人化できないペットの中では、真面目な働き者という評価をさとりは下している。

「何かしら?」
(お客様ですー)

 客? とさとりは首を傾げた。
 地霊殿を訪れる客など、地底が解放された後でも滅多にいない。
 巫女か、魔法使いか。
 それとも、妖怪を封じた賢者か。

「……もしかして、閻魔の使いかしら」

 先の、怨霊異変。
 間欠泉とともに、怨霊が吹き出して妖怪が騒然となった異変。
 直接の原因は、お燐が地底の急を知らせる合図として怨霊を間欠泉に乗せたこと。
 しかし、あれが無ければ地上は焦土と化したかもしれない。
 原因であり、解決の一因でもあるという複雑な事情。
 情状酌量の余地こそあれ、突き詰めればさとりの管理不行き届きとなる。
 棄てられたとはいえ、地獄の異変を是非曲直庁が気づかないはずはないだろう。
 管理者として、何らかの責を問われるはずとさとりは考えていた。
 
「いいわ、通してちょうだい」
(はーい)

 猫は踵を返し、廊下へと消えていった。
 安楽椅子から降りて、さとりは客間へと向かう。
 地霊殿の長い廊下に、スリッパの音が響く。
 ぺたぺたぺた。
 廊下のそこかしこから、ひそひそ声がする。

(誰かな)
(誰が来たのかな)
(嗅いだことがないにおいだよ)
(クラクラするね)

 昼寝をしていたペットも、どうやら客人の来訪に気づいたようだ。
 興味と警戒が入り交じった感情が、さとりの目を刺激する。
 さとりの能力では、同時に複数の心を読み切ることは難しい。
 それでも、似た感情の波とペットの思考くらいであれば感じることはできる。
 ペットも知らない客。
 これで、巫女と魔法使いの線は消えた。
 彼女らであれば、以前襲撃してきた際に匂いを覚えている。
 
(クラクラ……彼岸花の匂いかしらね)

 毒を含む彼岸花は、もちろんペットには有害。
 匂いを嗅いでしまったペットは、体調を崩すかもしれない。
 閻魔の使いがいけ好かない者であった場合には、やり返す材料にでもしようとさとりは考えた。
 戦闘よりも、交渉事に向くさとりの能力。
 下卑た思いの一つでもあれば、即座に看過されてしまうだろう。
 そういった意味では、閻魔はさとりの天敵である。
 白黒二極の思考で、自らの裁きに後悔しない。
 必要なことを簡潔に伝え、何より善意と義務が根底にあるために付け入る隙もない。
 むしろ、その後の説教が何より苦痛であった。
 生きたまま地獄を管理させ、さらに責め苦を課す。
 よく考えれば、そんな生活をしていたさとりにとってこの程度の反撃は妥当だろう。
 本人がそう思っているかは、定かではないが。
 







 かくして、私は客間へとたどり着く。
 別に大した出来事など起きていません。
 中からは、かすかに心の声。
 それも、二つ。
 声が予想より多くとも、私は気にせず戸を開けた。
 荒事もあり得るとして、供を付けたのだろうと事態を軽く見ていました。
 例のサボタージュの死神さん。
 でも、現実はもう少しややこしく出来ていて。
 そして、融通してくれる優しさもありませんでした。

「……」
「遅いですよ、古明地」
「やぁ、元気してたかい?」

 一方は、四季映姫・ヤマザナドゥ。
 幻想郷の死後の裁きを一括する、幻想郷担当の閻魔。
 白黒をはっきりさせる能力とやらで、日々死した幽霊を裁き続けています。
 死神が、幽霊をしっかり渡していればの話で。
 問題は、もう一方。
 かつては山の四天王で、今は地底の鬼のまとめ役。
 星熊勇儀。
 さとりのことを良く思っていなかったはずですが、居るはずのない鬼はなぜかここに。
 もしも荒事対策だとすれば、これ以上の適任はいません。
 何せ、荒事と酒のために生きているような種族。
 私は予想外の事態への対策として、自らのものとは思えないほど迅速に行動を開始。
 戸を、閉める。
 ぱたむ。
 いやいやいやいやいや。
 閻魔と鬼?
 何の取り合わせよ。
 閻魔のパートナーは死神でしょう?
 もしや、新しい獄卒のヘッドハンティング?
 ああ、逆らえる輩はきっといないでしょう。
 角が生えた鬼だし、きっとお似合いでしょうね。
 いやいや、そうじゃなくて!
 苦手なのが二人も戸の向こうにいる。
 あの子たちのクラクラって、酒のにおいのことか!
 普通、毒ならクラクラなんて言ってる余裕ないものね!
 思わず戸を閉めてしまったけれど、窮地に変わりはない。
 なんで我が家で窮地に追い込まれているのか、意味がわからない。
 わかりたくもない。
 
「古明地! 早く開けなさい!」

 まぁ、こうなるわよね。
 けたたましく戸は叩かれ、名前を連呼する閻魔。
 さて、もう居留守は使えないしいつまでも扉にもたれかかっているわけにもいかない。
 何せ、融通が利かない上に天敵が二種類もいる。
 心を読む意味が無い鬼に、イエスノー解答の閻魔。
 だいぶ語弊がある気がするけど、私は苦手。
 こんなことを考えている間も、閻魔は喚き続ける。
 凄い肺活量とスタミナ。
 それほどまでに、私を糾弾したいのか。
 確かに今回の責は私で、それを認めはしよう。
 閻魔一人であったなら、まだ応じることはできた。
 鬼だけであったなら、酒にでも付き合おう。
 基本的に、私が読める心は一対一。
 二人同時となると、どうにも混戦してしまってわけがわからなくなる。
 かつて七つの声を聞く人間がいたらしいけれど、私なんかよりもそっちのほうが化け物。
 
「そんなに叩いても、あいつは出てきやしないよ」

 諭す鬼の声。
 あ、まずい。
 こんな声の時は、ろくなことがない。
 考えた末に、面倒になって力技で解決しようと考えているに違いない。
 経験的に。
 ガチャガチャとドアノブをいじる音がする。
 最初に来たときは、「引き戸だと思った」で壁に戸をめり込ませた実績から考えるとだいぶ学んでいただけたようで。
 できれば、そのままお帰りいただきたい。
 迅速に。
 
「むぅ。面倒だな」

 めき。
 およそドアから発せられたとは思えない音が響き、ドアは蝶番ごと平行に押し出された。
 当然、もたれかかっていた私も一緒に吹き飛ぶ。
 
「ほら、居るのがわかったならこうしたほうが早い」
「早いって貴女……一応、礼節ってものが」
「まぁそりゃわかるけどもね。今の状態で開けるには、これに限るよ。大体、これ以外に開ける手段なんかあったのかい?」

 正解。
 私が強かに鼻を打ちつけたことを除けば、満点を上げましょう。
 振り返れば、困惑の閻魔と素面に見えて一升は呑んだ顔の鬼。
 予想通りすぎて、頭が痛い。
 
「いたた……とりあえず、いらっしゃい。適当なところに腰掛けてもらって構わないわ」
「ええ、そうさせていただきます。星熊さん、ありがとうございました」
「いやいや、どういたしまして。さとりさんやい、酒蔵はあっちだっけ?」

 堂々と無銭飲酒ですか?
 私の家は貴女のために酒を保管している施設ではないというのに。
 
「いつものことじゃん」
「そうですけどね」
 
 結構前に諦めた。
 
「……さて、仲良しこよしはそこまでにして本題に入りましょうか? 古明地さとり?」
「そうね。面倒なことは早く終わらせましょう」
「質問事項はいくつかありますが、順を追っていきましょう。長くなりますよ?」
「……ご自由に」

 そう、面倒ごとは早く片付けるに限る。
 起きてしまったことは致し方なく、今更急いても意味はない。
 そして、家族の責は家長が担わなければならない。
 当たり前で、私ができる唯一のこと。
 
「まずは、間欠泉ですね。結果から見てですが、これは問題ないでしょう。ただの温泉ですからね」

 現在は、地底に来た巫女の神社の管轄下らしいです。
 何やら閻魔の手元には資料がありますけど、温泉に対してもきっちり調査したようです。
 調べる必要があったのかは不明です。
 
「さて、その間欠泉に混ざった怨霊が此度の異変だったわけです」
「うちの猫が乗せたっていうアレですね」
「簡単に言ってくれますが、地上は結構な騒ぎになりましたよ? 主に妖怪が騒いでましたね」
「でしょうね。地底が封じられてからも、一定数は流れ込んでくる忌々しいものですし」
「……で、結局は博麗の巫女と人間の魔法使いが廃棄された地獄に侵入。結果、暴走しかけた烏を見つけて鎮圧」
「……」
「何か、相違するところはありますか?」
「……特には」

 気持ち悪いほど、感情が動きませんね。
 確認の中、邪魔になるタイミングとできる限りの悪態をついてみたのですが感情は平坦なまま。
 少しの動揺すら見受けられませんでした。
 流石というべきか、呆れるべきでしょうか。
 心の中でも、読んだ文面と同じことしか流れない。
 徹底したマインドコントロール……あくまで、私に対する対策といった感じですか。
 
「……実際のところ、貴女を処分しようにもできないのですよ。適任が他にいませんし」
「へえ」
「覚も、現在確認できるのは貴女だけです。忌まれ疎まれながらも、貴女の能力は貴重ですから」
「こいしがいるでしょう?」
「それも報告がありまして、現在は覚としての能力はないのでしょう? 」
 
 その報告は、半分あたりで半分間違い。
 こいしは、心を読めなくなった代わりに他人の心の隙間に潜む。
 一度帰ってきた時、あの子は地霊殿の誰にも気づかれずに過ごしていました。
 地霊殿の住人はほとんどが動物。
 妖獣もちらほら居る中、全く気づかれずに侵入することすら難しい。
 彼らの知覚は、私の読心より遥かに鋭い。
 何より、私みたいに常に館にいる者とその他を間違えることはない。
 ゆえに、こいしのことを忘れるわけがないのです。
 第三の目を閉じるまでは、ずっとここにいたのですから。
 
「……では、今日の来訪は何の意味が?」
「今現在、あの地獄烏は妖怪の山に居ますね?」
「そのはずです。私としても本意ではありませんが」
「できれば……いえ、すぐにでも連れ戻してください」
「何度もお燐を通じて打診はしました。力を与えたのが山の神らしく、恩を感じているのかもしれません」
「それは結構。しかし、パワーバランスは大きく狂っているのです」

 そう言うと、閻魔は一枚の紙を取り出して示した。
 どうやら、現在の地上の地図のよう。
 
「いいですか? 今の幻想郷は、新しく入ってきた住民であふれ始めています」

 この一言に始まり、彼女お得意の長ったらしい説明が始まりました。
 要点をかいつまむと、お空が神様と融合したことで新しいエネルギーを創造しているとのこと。
 それは便利であっても、いずれ幻想郷の意味をなくしてしまうのではないかと危惧していること。
 お空が帰ってくれば、それでひとまずは解決ということ。
 延々長い話だったけれど、つまりは空を呼び戻せばいいらしい。
 いつの間にか、鬼の星熊さんは部屋の隅で樽を飲んでました。
 どれだけ飲むのですか。
 それはこっちも望むところだし、何より珍しいことがわかりました。
 
「……以上です。わかってもらえましたか?」
「『私も愛着をもってしまったから』ですか」
「なっ!」
「ほとんど初めてですね。貴女がそんな感情を見せたのは」
「……! し、失礼します!」
「サボタージュさんにも、よろしくお伝えくださいなー」

 よほど不覚だったのか、顔を真っ赤にして出て行ってしまいました。
 感情を露にすることって、そこまで恥ずかしいことだったのでしょうか。
 いい人っぽい感情が見えたから、それを読んだだけなのに。
 
「いやぁ、珍しいものが見れたな」
「随分とご機嫌ですね」
「酒が美味いから。肴は今の閻魔の顔だ」
「そんなこと言ってると、嫌われちゃいますよ? 私みたいに」
「嫌われてる、か。そんなこたぁないと思うけどね」

 樽を担いで部屋を出て行く星熊さん。
 
「あの……」
「だいたい、あんたに会って嫌なやつなんて自分に非があると思っている奴らだ」
「……」
「声に出しちゃうから嫌がられるだけでね、黙って覗かれるほうがもっと嫌だろう?」
「……えっと」
「あんたが声に出すのは、自分がそういう妖怪だって知らせるためだろ?」
「……」
「私は鏡です。あなたの心を映します。お代はトラウマでどうでしょう?」
「そうじゃなくて」
「まぁ巫女が落としてった玉で、上に連絡とってやるよ。猫くらいは帰ってくるだろうさ」

 じゃあね、と言い残して星熊さんは壊れたままのドアから去っていった。
 おそらくは中身が半分以上減った酒樽を抱えて。
 ……私が言いたかったのは、ドア直してって事だったのですが……。
 あと、その玉ください。
 それに、実はただの癖なんですよね。
 声に出しちゃうの。
 そしてあっという間に、また一人。
 確かに、お空は近いうちに呼び戻したいですよ。
 でも、あの子たちはほとんど初めて地上に出た。
 できることならば、もうちょっとだけ自由にさせてあげたい。
 ……山の神とか賢者が連れ去ったのは、未だに納得していませんがね。
 いつか、思い知らせてあげましょう。
 最大級のトラウマを。
 
 
 
 
「ただいま帰りましたー」
「たー」
「お帰りなさい」

 星熊さんがちゃんと連絡してくださったようで、お燐とこいしが帰ってきました。
 お空には、連絡つかなかったのかしら?
 
「あー、声はかけたんですけど明日にならないと無理っぽいです」
「そう」

 なになに、炉の熱量調整?
 うちの地獄でやりなさい。
 貴女の仕事です。
 
「こいしは何ヶ月ぶりかしら?」
「半年ね。エントランス用の面白いのは見つからなかったわ」
「持ってくるのはいいけど、処理はちゃんとするのよ?」
「はーい」

 何を持ってきてもかまわないけど、目を閉じてから趣味が結構変わったかもしれません。
 ハードコアな方面へ。
 さて。
 
「ところで、お燐」
「何ですか?」
「妖怪の山まで、行って確認を?」
「まぁ一応。神様は元気でしたよ?」
「今度行った時でいいから、伝えてください。やりに行きます、と」
「やり?!」

 これでよし。
 こういった事柄は、間接的に伝えたほうが驚くものです。
 どういった手段でお空に神を埋めたのか、詳しく聞かせてもらいましょう。
 
「蛇と蛙の神様だよ。お姉ちゃんならトラウマでいいかもだけど」
「行けるようになったら、氷を持っていくことにします。なるべく冬にしましょうね」
「巫女さんもいるよ」
「ふむ」

 後で詳しく聞きましょう。
 
「しばらくは家に居るんでしょう? たまにはペットと遊んであげなさいな」
「うん。適当には居座るつもり」
「そう……出かける時も、ちゃんと言ってから行きなさいね?」
「お姉ちゃん、過保護」
「かほ?!」

 なななな何を言いますか!
 姉として当然の範疇でしょう?!

「さとり様、こいし様だってもう子供じゃないんですから」

 お燐まで!
 うー……。
 頭が痛いです。
 心配しただけで、ここまで言われるとは思っていませんでした。
 予想外です。
 
「……こいし、心が読めないってどんな気分?」
「えっ?」
「鬼さんに言われたのよ、お前は鏡だって」

 鏡はありのままを映し出す。
 ただの鏡と違うところは、本人が隠して忘れていたものさえも映し出す。
 きっと、私たちが嫌われたのはそのせい。
 ならば、今のこいしがどうなったのかちょっと気になっただけ。
 
「たぶん、貴女は覚の中で唯一の存在よ。貴女なら、何か気づいたかなと思ったので」
「うーん、鏡。鏡かなぁ」
「違うかしら?」
「鏡だとしても、水面って感じかな。覚が水面できれいに映すとしたら、私は波打つ水中にいるの」

 ふむ?
 なかなか難しい喩え。
 詩的な気もします。
 
「読めないけれど、相手の心に潜ってる気がするの。脅かす時なんかとても最高」
「なるほど、ね」

 心は読めないけれど、言わんとしていることはわかりました。
 水面、か。
 言いえて妙。
 いつも私の後ろをついてくるような可愛い妹が、こんなことを考えるようになっているなんてね。
 嬉しくも寂しいものです。
 
「お姉ちゃんが黄昏た」
「久々ですね。あたいが外に行った時、あんなだったらしいです」
「お燐、誰から聞いた?」
「賢者様」
「やりに行きます」

 私は、地底で地獄を管理するよう任を受けてからは動物の心だけを読んできました。
 地底に人間が攻め込んできた時、あの驚いた顔が忘れられません。
 地獄を管理する以上、外に出る機会は訪れることはないでしょう。
 でも、二人の話を聞いていて少し羨ましくなってしまいました。
 
「お姉ちゃん、今外に出たいって考えてるでしょう」
「あら、どうしてわかったの?」
「そんな顔してるもん」

 こいしは、どこからか手鏡を取り出して私に向ける。
 そこには、似合わない微笑を浮かべた私がいた。
 ああ、なるほど。
 確かに、鏡に映さないと自分のことはわからない。
 一つ、勉強になりました。
 
「ありがとう、こいし」
「いーよ全然」
「? 何の話ですか?」

 如何に説明したものか、どう考えてもわかりません。
 
(さとりさまー。ごはーん)

 あら、もうそんな時間?
 準備をしましょうね。
 
「手伝うー」
「ありがとう」

 私がただの鏡なら、それでもいい。
 忌み疎まれたとしても、居場所が地底の隅っこでもいい。
 私には、ちゃんと私を見てくれる家族がいるから。
 私はみんなの心を映す。
 だから、私は家族に映してもらおう。
 
 
 
 私自身の心に会えるように。
此度もギリギリでした。
テーマの「かがみ」は、さとりの妖怪としての立ち位置のようなものを表現したつもりです。
如何でしたでしょうか?


紫と神奈子と諏訪子がどのようにやられてしまったかは、永遠の秘密です。
タタタタタル
作品情報
作品集:
最新
投稿日時:
2010/11/06 23:34:40
更新日時:
2010/11/06 23:34:40
評価:
15/15
POINT:
70
1. 6 ■2010/11/17 00:01:09
面白かったです。できればもっと膨らませて長編で読みたい感じでした。
2. 2 パレット ■2010/11/20 00:34:37
 ほのぼのしい。ちょっとほのぼのしすぎたので、もうすこしお話に波があってもよかったかなあとは思わなくもなかったかも。
3. 5 NT○ ■2010/11/25 15:49:27
さとりの「やりに行きます」がかなりツボでした。
4. 3 asp ■2010/11/29 11:33:43
 おくうちゃんが地霊殿にいないっていうのが新鮮でした。ただなんというか、設定や解釈の説明だけで終わっちゃってるのが残念です。各キャラクターもなんというか記号的で魅力に欠けるかなあと思ったり。
5. 7 yunta ■2010/11/30 22:36:32
執筆お疲れ様でした!

読み終わった後にホッと出来るSSですね。
ドアを破壊する勇儀さん流石だ……。
6. 4 とんじる ■2010/12/02 14:58:15
 一人称の部分がひたすら読みにくく感じました。

 心理描写と会話が主で、キャラクターの動きがほぼ全て省かれているというのは、ある意味ですっきりとしていていいのだけれど、その分、会話が誰と誰のものだか一瞬見失ってしまう。
 さらに会話だけでは、どのようなシーンが繰り広げられているのか絵としてイメージしにくかった。
 なので、私としては最初から最後までさとり三人称で行って欲しかった。どうして最初三人称で始めたものを一人称に唐突に変えてしまったのでしょう。

 覚り妖怪=鏡の構図は面白かった。
 そして、それにもうひと味加えた、さとり=水面、こいし=水底という構図も。
 ただ、それがSS中で上手く表現されておらず、あくまで最後にちらっと出てくる程度の、登場キャラクターによる一解釈止まりであったことが残念。
7. 4 リコーダー ■2010/12/07 08:15:23
とりとめのないお話。
キャラが、皆いい感じに自分のやりたい事をやれていた感。
8. 4 ケンロク ■2010/12/07 13:49:09
「覚り=鏡」モノ。さとり様が原作準拠にダルそうなのが好きです。
9. 4 八重結界 ■2010/12/11 20:44:35
どことなく、ほんわかとしたさとり。どこか心が温まりました。
10. 5 deso ■2010/12/11 20:49:57
さとりさんが可愛かったです。
ペットも可愛い。
しかし、なぜ最初の方だけ三人称なんでしょう?
11. 2 ニャーン ■2010/12/11 20:49:58
難しい。あとがきに書かれているような内容は、作品からは伝わりませんでした。
何が起こっているのか、会話と語り手の心の声だけではイメージがしづらいです。
12. 6 如月日向 ■2010/12/11 21:51:30
ここからどうなるんだろう、というところで終わってしまいましたっ。
さとりさまが各地の妖怪をやりにいくお話しはまだですかっ。
13. 5 gene ■2010/12/11 21:57:23
さとりを鏡とすると、映したくないものまで映されてしまうから嫌われるんだろうなぁ。
ジョハリの左下の窓を開かれるようなものでしょうか。

しかし正直なところ、さとりん一人だとその三人相手じゃかなり厳しい気が……。
14. 6 兵庫県民 ■2010/12/11 22:48:36
良ギャグ、良オチww
あと、こいしの言った喩えも良かったです。
15. 7 文鎮 ■2010/12/11 23:00:42
さとりを鏡、こいしを水面と表現するとは面白いですね。良かったと思いますよ。
ペットの心や会話から地霊殿の日常が見えてきた気がします。
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