サニー・アンプリファイア

作品集: 最新 投稿日時: 2010/11/06 23:50:32 更新日時: 2010/12/16 00:52:53 評価: 19/20 POINT: 99
 力が欲しいか。
 そう問われて、サニーミルクは即答した。
「欲しい!」

 ほう、と霧雨魔理沙は眼を細めた。
「強くなりたいのか」
「当たり前よ」
 サニーは腰に手を当ててふんぞり返る。すると、後ろのスターサファイアとルナチャイルドが、うんうんと頷いた。
「そうね、強ければこそこそする必要もないし」
「もっといろんなことができるようになるわね」
「へえ、いろんなことって例えば何だ?」
 ニヤニヤする魔理沙へ、サニーは得意げに言った。
「そりゃあ、もちろん巫女や魔法使いをギャフンと――」
 慌ててスターとルナがサニーの口を塞ぐ。むぐむぐと暴れるサニーを抑え込んで、スターは、にへらっと愛想笑いした。
「い、今のは冗談ですよお、冗談。私達が魔理沙さんに勝てるわけないじゃないですかあ」
 魔理沙はニヤニヤとしたままである。その笑顔が三人は恐ろしい。普段、彼女ら三妖精と仲良く付き合っている魔理沙だが、ひとたび戦闘となればどうなることか。それを三妖精はよく知っている。

「まあ、いいさ。私は誰の挑戦でも受けるぜ。こないだはチルノとやったしな」
 そういえば、と魔理沙は顎に指を置いて言った。
「お前ら、あいつに負けたんだってな」

 春のことである。三妖精に対し、チルノが戦いを挑んできたのだ。
 サニー達三妖精にとっては、初めての弾幕ごっこであった。何もかもが初めてづくしだったのだが、その分、戦意は高かった。なんといっても、三人はこういう表舞台を心から望んでいたのだ。それはもう、俄然、張り切ってしまうわけである。
 しかし、結局、負けてしまった。
 一人ではもちろん敵わず、ならばと三人がかりで戦ったものの、それでも負けた。

「でも惜しかったんですよ。あとちょっとだったのに」
 ルナは唇を尖らせた。
 実際、僅差だったのだ。
 いずれはこの時が来ると信じ、練習に励んでいた三人である。そのチームワークは完璧で、攻防ともに隙のない仕上がりだった。
 だが、最後にものを言ったのは、やはりチルノの地力である。
 光すら凍らせる彼女の能力に加え、いくらやられても諦めないそのしぶとさ、粘り強さが勝負を決めた。

「そうよ!」
 ついに二人の手を振り解き、サニーは力強く言った。
「次に戦った時は、絶対私達が勝つわ! だから、もっともっと強くならなくちゃ!」
 拳を握りしめて宣言するサニー。わあ、とスターは横でぱちぱち拍手し、ルナは呆れたようにサニーを見た。

 そんな三者三様を見て、魔理沙は腕を組んで頷いた。

「よし、お前達の熱意はわかった。そこでだ。この魔理沙さんが一肌脱ごうじゃないか」
 はあ、と怪訝な顔でルナは魔理沙を見る。
「あの、それはどういうことでしょう?」
 すると、魔理沙は胸に手を置いて言った。
「任せろ。強くなりたいんだろ。実は心当たりがある」



 妖怪の山の麓近く。
 そこは山の入り口であり、山の連中と麓の連中とが接する境界線である。
 その微妙なラインをかすめるようにして、ちょっとした家が建つほどの開けた場所がある。
 草ぼうぼうで岩もごろごろとした、ただの荒れ地。しかし、ここではたまにバザーや宴会が開かれている。ここに集う者には、山も麓もない。両者が触れあうことができる、貴重な場所である。

 月が煌々と輝く夜更けのことである。
 三妖精は、魔理沙に連れられて、ここへやってきていた。
「あのー、これから何をするんですか?」
「心配するな。すぐわかる」
 何度尋ねても、魔理沙はこう応えるのみである。口元が綻んでおり、明らかに上機嫌だった。
 対して、サニーはといえば、魔理沙の服の裾を握って、おっかなびっくりという感じである。ルナとスターも不安そうに周囲を見回している。
 三人とも、こんなところへ来るのは初めてである。山といえば強大で物騒な妖怪達が住まうと噂に聞く怖ろしいところ。それが三人の共通認識だ。これまで近付こうとすら考えたこともない。
 もちろん、山に住む妖精達だってたくさんいるのだが、たいていの場合、妖精の交友範囲は狭い。こんなところに見知った顔などあるわけがなかった。

 今更帰るわけにもいかず、三人は揃ってため息を吐いた。仕方なく魔理沙の後ろについて、とぼとぼと歩く。
 やがて、魔理沙が立ち止まって、「ほら、あそこだ」と指差した。

 そこには、一本の柱が立っていた。
 近付いていくにつれ、それが金属製の円柱であることがわかる。高さはちょうど魔理沙の背くらいあるだろうか。太さはそれほどでもないが、全体としてややずんぐりとした印象を受ける。
 その柱の傍には人影が一つ。柱の陰にしゃがみ込んで、なにやらせっせとやっている様子である。
「よう、連れてきたぜ」
 魔理沙がその人物に声をかけた。
「あー、お疲れさーん。ちょっと待って」
 応える声は少女のものである。魔理沙達には背を向けたままで、しばらくごそごそと手を動かしている。やがて、うん、と一人大きく頷いて立ち上がると、そこでようやく後ろを振り返った。
「やあやあ、どうもすまないね。最終調整にちょっと時間食っちゃって」
 そう言って笑う少女の顔に、三妖精は覚えがない。
 まさか、魔理沙以外の誰かと会うことになるとは思ってもみなかった三人である。幻想郷ヒエラルキーの底辺である妖精としては、見知らぬ相手に出会うなど本来勘弁願いたいところなのだ。
「お、そちらが発振器?」
 少女の目が三人を捉える。三人は慌てて魔理沙の後ろに隠れて、団子のように固まった。
「ま、魔理沙さん。そちらの方は?」
 こわごわとサニーが訊くと、おう、と魔理沙は頷いた。
「紹介しよう。河童の先生だ」
「河童?」
 サニー達の好奇の視線を受けて、少女が人懐っこい笑顔を向けた。
「河城にとりだよ。よろしく」
「わ、私はサニーミルク。えーっとこっちが」「スターサファイアよ」「ルナチャイルドです。よろしく」
 ひとまず互いの自己紹介が終わる。どうやら危険な相手ではないと判断して、三人はおそるおそる前に出た。
「それで、調整の具合はどうなんだ」
 頃合いを見計らって、魔理沙はにとりへ問うた。
「うん、いいよ。バッチリ」
 ぐっと親指を立ててにとりは応える。
「供給部も安定したしね。いつでもいけるよ」
「そいつは良かった。じゃあ、早速始めるとするか」
 そこで、魔理沙は三妖精の方を向いた。
「さて、諸君。強くなりたいということだったが、じゃあどうすればいいと思う?」
「どうするって……」
 三人は互いに顔を見合わせる。視線を幾つかリレーして、ルナが小さく手を上げた。
「えっと、特訓とか」
 そうだな、と魔理沙は腕を組んで頷く。
「何事も努力無しには為しえない。訓練鍛錬は当然だな。だが、ただガムシャラにやってりゃいいってもんじゃない。伸ばすべきところを伸ばすことが重要なんだ。強くなりたいからっていっても、お前らが腹筋鍛えたりヒンズースクワットやったりしてもあんまり意味ないだろ」
 そこでだ、と魔理沙は柱を軽く叩いた。
「光の妖精であるお前達のために、特別なトレーニングマシンを用意してやったぜ。こいつを使えば、格段にパワーアップすること請け合いだ」
 おおー、と驚嘆の声を漏らす三妖精。そこで、改めて三対の視線がその柱、トレーニングマシンとやらへ集中した。
 鈍色に光るそれは、飾り気も何もなく、のっぺりとしていた。
 ただ、下部には太いケーブルやごつごつとした真四角い機械がくっついていて、なんとも厳めしい。
「えへん。作ったのは私だよ」
 ドライバーを片手に胸を張るにとり。三妖精がぱちぱちと賞賛の拍手を送ると、にとりは頬を赤らめて頭を掻いた。

「で、これ、どうやって使うんですか?」
 早くも興味津々のサニーである。中身はわからないが、見た目は凄そうなのだ。なんとなく『効きそう』ではないか。
「まあ、焦るな。このトレーニングマシンだがな。誰にでも使えるってわけじゃない。一番適性がありそうなのは光を操るお前だな」
「私?」
 再び、おおーと声が上がる。
「やったわね、サニー。頑張って」
「さすが三月精のリーダーね。私達、ここで応援してるわ」
「え、ちょっと、ちょっと!?」
 ルナとスターが笑顔でぐいぐいとサニーの背を押す。戸惑うサニーが足を踏ん張ろうとするが、二対一、押されるままである。
 確かに凄そうな機械ではあるが、得体が知れないのも確かである。
 ここは一つ、人柱を立てようということで、ルナとスターの意見が一致したのだった。
「よし、決まりだな。なに、心配ないさ。まだ試したことはないが、計算上は安全基準も軽くクリアしてるぜ」
「ちょ、え、なに、なんか怖いこと言ってませんか、魔理沙さん!?」
 がっし、と魔理沙に腕を掴まれるサニー。見上げた魔理沙の笑顔が心なしか悪魔めいていて、知らずサニーの頬が引きつる。
 ずるずると引きずられていくサニーを、ルナとスターはハンカチを振って見送った。
「は、薄情者ーっ!」
「大丈夫よ、サニー。魔理沙さんが酷いことをするはずないわよ」
「そうよ、サニー。魔理沙さんを信じましょう」
「そうだぜ。私とお前の仲じゃないか。信じろ任せろ安心しろ。骨は拾ってやる」
「ぎゃー、離してー!」
 いつの間にか、にとりが柱の下部をぱかっと開いていた。どうやら、中身はがらんどうらしく、柱というよりは筒であることがわかる。
 その中へ、サニーは押し込められた。身体の小さいサニーならば十分なスペースであったが、なにしろこの先の不安が半端じゃない。いまやサニーは顔面蒼白である。
 無情にも扉が閉められる。内側からどんどんと扉を叩く音がするが、扉には念入りにもごつい鍵が付いていて、非力な妖精に開けることなど無理な話である。
 その様子を見ながら、ルナとスターはひそひそと話した。
「もしかして、これって計画的犯行かしら」
「そうじゃない? なんか準備がやたら大がかりだし」
 力が欲しいか、と問われたのは昼のことである。それから夜までの間に、これだけの機械を用意できるはずがない。
 つまり、魔理沙は最初からサニーが目当てだったのだ。わざわざチルノの話を持ち出したのも、うまく会話を誘導するためだろう。
 スターとルナは、互いに目配せした。
 自分じゃなくて良かった。互いの顔にそう書いてあった。
「サニー、あなたは良いお友達だったわ」
「サニー、あなたのことは一生忘れない」
 二人は、目の前の筒へ向けて合掌した。

 ぎゃーぎゃーと騒ぐ筒を、魔理沙は苦笑して軽くノックした。
「まあまあ、落ち着け。これからこのマシンについて説明しよう。サニー、お前が入ってるその筒は、床と天井が鏡になっている。ここに光を入れれば、光は床と天井を行ったり来たりで閉じ込められたままというわけだ」
「既に私が閉じ込められてますけどっ」
「いいから最後まで聞け。ただ行ったり来たりだけじゃ、光もすぐに弱まって消えちまう。だがな、詳しい説明は省くが、ある波長の光なら往復して共振するようになるんだ。そこに光の元になる媒質があってエネルギーをかけ続ければ、光はどんどん強力になる。つまり、お前はそこにいるだけでパワーアップするってわけだ。悪い話じゃないだろう?」
「ぜんっぜん意味わかんないんですけどっ」
「まあ、いいさ。論より証拠。百聞は一見にしかず、ってな。始めるぞー」
「ちょ、ちょっと、話はまだ終わってないんですけどっ。ねえ、ちょっと!?」

 突如、ごうん、と空気が唸る。

 きゃあ、と筒の中で悲鳴が上がり、ルナとスターもびくりとして互いの手を握った。
「な、なに、なんですか、今のっ」
「いちいち驚くなって。今からそん中にガスを詰めるんだ」
「ガス!?」
「光の元になるんだ。大丈夫、妖精なら死にゃしないよ」
 妖精じゃなかったら大丈夫じゃないんだね。ルナは、ぽつりと呟いた。

 ごうごうとポンプの音が唸り続け、筒がびりびりと震える。
 魔理沙とにとりは、設えたメーターを見ながら、てきぱきと作業を進めた。そこかしこのバルブを捻り、スイッチを操作し、レバーを倒す。

「魔理沙、ガスの充填終わったよ」
「よし、じゃあ次だな。おい、聞こえるか。今からポンピングするから、お前は光を調節して定常波を作ってくれ」
「な、なにそれ? それに、光ったってここ真っ暗だし」
「ポンピングすれば光ができるさ。それがより強くなるようにすればいいんだ。じゃあな、任せたぜ。この実験、もといこの特訓はお前の頑張りにかかっている」
「実験!? 実験って言った、今!? ねえ、おい、こら!」

 続いて、ぶうん、と羽虫が鳴るような音が響いた。

「わ、なんか明るくなってきた」
「誘導放出確認。どんどん上げていってくれ」
「りょうかーい。どんどんいけるよ。ちゃんと安定してる」
「いいぞ。おい、サニー。中の様子はどうだ」
「え、えーと、とりあえず平気。ここ、ほんとに床も天井も鏡なんだね。凄く眩しい」
「これからもっと眩しくなるぜ。光は調節できるか」
「う、うーん、やってみます」

 サニーの声に、半ば諦めが入っていた。
 もっとも、ここまで来ればなるようにしかならないのだ。腹を括るしかない。
 だが、それから続けることしばし。

「あ、凄い! ほんとに凄く明るくなってきた!」

 サニーの声が、一転して驚きに満ちた。

「すごい凄い! こんな強い光、私使ったことないよ!」
 はしゃぐ声は、すっかりいつものサニーである。
「その調子だ。もっとエネルギーを上げるからな。頑張れよ」
「任せて! もっともっと強くしていいよ!」
 その声には、自信と張りがあった。先ほどまでべそをかいていたとは思えない変わりようである。

「あら、意外とちゃんとしたトレーニングになってるみたいね」
 スターが拍子抜けしたように呟いた。
「そうねえ、てっきりとんでもないことになると思ってたんだけど」
 ルナも同調する。
「それに」「なんだか」「楽しそうよね」「うん」
 ちょっぴり羨ましく思う二人である。

 やがて、実験、もとい特訓は佳境に入ってきた。
 魔理沙はメーターとにらめっこをしながら、にとりとサニーへ細かく指示を出す。ルナとスターが見るところ、その経過はおおむね順調のようである。

 と、思えたのだが。

「すごいすごーい! あはははは! 私ってば強い? 強いんじゃない、もしかして? ふふふふふ、だってほら、こんなに綺麗に揃ってるの。もう、ぴったりくっつきそうに揃ってて、でもまだまだもっと大きくなっていくの。これだけの光なら、私、誰が相手だって負けやしないわ! ねえ、見てよ、ほら、まるで触れるくらい集まってて――」

 サニーミルク、フルテンションであった。
 先ほどから、ずっとこの調子である。

「ね、ねえ、なんかやばくない?」
 ルナが青い顔で震え始めた。
「そ、そうね。これはマズイかも」
 スターも冷や汗をかいて拳を握りしめる。
 お互い、うまく言葉にはできないものの、この状況が危険であることだけはわかった。

 しかし、
「よし、その調子その調子。良いぜ、ナイスだ。お前ならやれる。そうだ、もっといけ」
 魔理沙はというと、サニーを焚きつけるばかりである。その言葉だけを信じるならば、確かに順調なのだろうが、

「あははははは! そうよね! 私ってこんなに強かったんだわ! そうよ、これからは私の時代が始まるのよ! 私が一番! 私が最強! 私が女王! 今こそ世界に変革をもたらし、光に満ちた新世紀が幕を開けん! 私を崇めるがよい! 称えるがよい! 我こそは世界最強、いや宇宙最強の光! そう、これからは私のことをこう呼ぶがよい! 真の光帝、超日究愛幼精王(サニーミルク)!」

 もう、サニーがいろいろおかしかった。
 おかしすぎて、笑っちゃいそうなくらいだった。
 実際、ルナとスターは吹き出す一歩手前だったが、辛うじて堪えた。笑うことで、この場が乱れることを怖れたのだ。
 それほどに危ういバランスなのである。
 終局がもはや目と鼻の先であることは自明だったが、最初に皿を落とすのはイヤなのだった。

 そんな二人に、にとりが近付いてきた。
「はい、これ」
 そう言って、手に持った物を差し出す。
「保護ゴーグル。君たちには必要ないかもしれないけど」
 それは確かにゴーグルだった。ガラスには色が付いている。にとりを見れば、彼女は既に装着済みだった。魔理沙もいつの間にか身に付けている。
「もうそろそろだからね。既に反転分布は形成されたし、成功すると思うよ」
 にとりの言葉の意味が、二人にはさっぱりわからなかった。ゴーグルを付けながら、ルナはおそるおそる尋ねた。
「あのう、これっていったい何をやってるんですか?」
 既に、サニーの特訓などではないことは明らかである。ただ、その目的が未だによくわからない。
 これから、何かが起ころうとしている。それだけは確かだった。
「あれ、君たちは知らないでここに来たの?」
 にとりは目を丸くした。
「そうかー。魔理沙からてっきり聞いてたもんだと思ってたよ」
「い、いえ、魔理沙さん、あんまり教えてくれなくて」
 うーん、とにとりは腕を組んで唸った。
「どう話せばいいのかなあ。最近、山の神様のおかげでエネルギー事情が良くなったんだよね。だけど、あんまり莫大なエネルギーなんで私らも使い途がわかんなくてさ。そしたら魔理沙が面白い文献を持ってきて」
「文献、ですか」
「そう。月までの距離を測る方法」
「月って、あの月ですか!?」
 ルナは口をぱくぱくして、天空を指さした。
「そう、その月。その本によるとね。月には鏡が置いてあるんだって。その鏡はちょっと特殊なやつなんだよ。ここから月まで光を飛ばしてその鏡に当てるとね。光はまっすぐこっちに戻ってくるんだ。そうやって、こっちから光を出した時から返ってくるまでの時間を求めれば、距離が求まるって寸法さ」
「は、はあ」
 二人は、あまりにスケールが大きすぎて話についていけなかった。
「え、えーっとなんだかよくわかりませんけど、それとアレに何の関係が?」
 スターが筒を指さす。にとりは、うん、と頷いた。
「だからさ。月まで届くくらい強力な光が必要なんだよ。それで、そういうのを作ろうと思っていろいろ調べたわけさ。で、作ったのがアレ」
 にとりは、得意げに胸を張った。
「コヒーレント光発生装置。Light Amplification by Stimulated Emission of Radiation、略して――」


 その瞬間、閃光が走った。


 筒の天辺から、透き通るように赤い光条が、まっすぐにまっすぐに伸びていた。
 夜空を貫き、天蓋のその向こう、月へ向かって、歪むことなく続く。

 それは、なんと美しい光なのか。

 ルナも、スターも、にとりも、魔理沙も、
 その場にいた誰もが、その光に見惚れた。
 世界には、これほどに完璧な直線があったのだ。そのことを、彼女らは知った。

 時間にしてどれくらいだろうか。
 おそらくは、数秒にも満たない時間のはずである。しかし、その光に心を奪われた瞬間は、一刻にすら思えた。それほどに、濃密な一瞬だった。

 気付いたときには、光は無くなっていた。

「あ!」
 ふと、魔理沙が我に返った。慌てて何かのメーターを見る。それに呼応して、にとりも魔理沙の元へ駆け寄った。
「そ、そうだ、サニーは?」「そ、そうね」
 ルナとスターも、例の筒の傍へと走った。
 どうやら実験は終わったようだし、先ほどからサニーの声が聞こえない。はたして彼女はどうなったのか。なんだかんだと言っても、やはりサニーは大事な仲間だ。その安否が気にならないわけがない。
 筒のドアに手をかけようとしたところで、
「待て」
 魔理沙が止めた。
「な、なんですか、魔理沙さん! サニーが、サニーが!」
 涙を浮かべたルナが唇を尖らせる。だが、魔理沙は首をすくめた。
「失敗だ。反射波が検出できなかった。向こうの鏡に命中しなかったらしい」
「そ、それがどうしたっていうんですか!」
「落ち着けって。多分、開けてもそこにはいないぜ」

 魔理沙は、苦笑して天を指さした。




 月の都である。
 綿月依姫は、姉を前にしてこめかみを押さえた。
「お姉様、またそんなものを拾ってきて……」
「あら、可愛いじゃないの」
 綿月豊姫は、微笑みながら腕の中の少女を抱きしめた。
 サニーミルクである。服はぼろぼろ、身体も傷だらけ。すっかり目を回してふにゃふにゃだったが、あうーと呻いているところを見ると一応意識もあって、大した怪我でもないらしい。
「静かの海で倒れてたのよ。ほら、珍しいでしょう。可愛いでしょう。でもあげないわ」
「いりません。というか、それ、地上の妖精でしょう。なんでこんなとこにいるんですか」
「さあ、なぜかしらねえ。まあ、良いじゃないの。私、この子気に入ったわ」
「お姉様は、そうやってペットをぽんぽん増やすんだから」
 依姫は、ふう、とため息をつく。
「どうせお姉様は言っても聞かないんですから。その子が治るまでですよ。あとでちゃんと地上に返してくださいね。バレると面倒なんですから」
「はいはい」
 姉妹の会話をおぼろげに聞きながら、サニーは思った。


 とりあえず、超日究愛幼精王のことを皆が忘れるまで、帰りたくないなあ、と。
サニーが宇宙を支配したら、あまりの乳臭さに宇宙がヤバイ。
だけど、そんな宇宙、俺は嫌いじゃないぜ……!

2010/12/16 追記
desoです。
このお話を読んでくださった皆様、どうもありがとうございます。
鏡といったらレーザーだな、と軽く考えて書いたお話であります。
ご質問にあった月に置いてある鏡は、おっしゃるとおりアポロ計画によるものです。
レーザーの使い途ということで、ネタに使わせてもらいました。
あと、とにかく三月精が書きたかった。
なので、原作三月精っぽいとの感想を頂いて本当に嬉しいです。
ありがたやありがたや。
それにしても、自分には厨二の才能は無いなと痛感しました。
もっとカッコイイ名前をサニーに付けたかったんだがなあ。

まあ、そんなこんなで、今回のこんぺも楽しみました。
主催者様、作者さん、読者さん、どうもお疲れ様でした。
また機会がありましたらよろしくお願いします。
deso
作品情報
作品集:
最新
投稿日時:
2010/11/06 23:50:32
更新日時:
2010/12/16 00:52:53
評価:
19/20
POINT:
99
1. 8 おあ ■2010/11/14 13:50:04
>超日究愛幼精王

これは恥ずかしいwww
2. 4 たて ■2010/11/14 16:47:23
あれ?裏の月って・・・。
それはともかく、結局サニーは強くなったんでしょうか。
3. 2 パレット ■2010/11/20 00:41:00
 超日究愛幼精王さん乙
4. 5 tuna ■2010/11/25 15:31:16
サニーのテンションの上がり方が面白かったです。
どうなるんだろうと最後までドキドキしました。まさか月まで行くとは!
5. 6 さく酸 ■2010/11/25 20:40:49
自分から黒歴史作っちゃうサニーめっちゃかわいい。
三月精の一幕を読んでいるような楽しい作品に仕上がっていいと思います。
惜しむらくはオチが途中でわかってしまったことか。
6. 4 asp ■2010/11/29 11:42:58
 軽快なテンポと、原作三月精っぽいちゃらんぽらんとした雰囲気がツボです。超日究極愛幼精王が支配する乳臭い宇宙にはどうやったら行けますか?
7. 8 yunta ■2010/11/30 22:43:24
執筆お疲れ様でした!

サニーはレーザーかわいい。
この経験をいかして新しいスペカを生み出せそうですね。ルナとスターも頑張れ!
8. 4 とんじる ■2010/12/02 15:07:41
 サクサク読める、いい感じの短編コメディでした。
 薀蓄をそれっぽく語りながら、みんながワイワイするのは三月精っぽい。三月精の三匹はどれも可愛らしく描かれていて見ていて飽きなかった。
 しかし、逆を言えば薀蓄をそれっぽく語るだけの話で、あんまりオリジナリティがなかったようにも思えてしまう。
 東方っぽいトンデモ幻想理論で、幻想郷的に解釈する……わけでもなく、ただ科学知識のみで月への距離を測る話。


 ただオチは笑った。月にまで行ったよ、この子。
9. 4 ケンロク ■2010/12/07 13:38:02
なんかよくわからんけど、スゴげなのは伝わった!
なんでも作れるにとりが、幻想郷のキテレツみたいになってる現状、僕も嫌いじゃないぜ!
10. 6 PNS ■2010/12/09 20:51:28
我が輩も嫌いじゃないぜ!
11. 7 みづき ■2010/12/09 21:09:03
サニー、月のおみやげは眼鏡玉兎ちゃんのぱんつでお願いね。
ああもうホントサニーは可愛いな。豊姫が飼いたくなるのもよくわかる。でもサニーを家に帰す時の姿を月面からブン投げる図というので幻視したのは私だけじゃないはず。大気摩擦で燃え尽きるけど一回休みで済むから天日干ししたらすぐ復活するよねサニーちゃん!!
12. 6 774 ■2010/12/10 08:33:06
色々まざってて何だかよく分かりませんが面白かったです。
テンション上がってなんだかよく分からなくなることってよくありますよね、的な。
13. フリーレス deso ■2010/12/11 19:57:07
書き込みテスト
14. 3 木村圭 ■2010/12/11 20:38:06
うむサニー可愛い。
15. 2 ニャーン ■2010/12/11 20:46:35
超日究愛幼精王ww (いい意味で)ひどい話です。ダチョウ倶楽部のコントを思い出してニヤニヤしました。
16. 3 八重結界 ■2010/12/11 20:48:13
サニーのミルクで宇宙がやばい。
17. 7 gene ■2010/12/11 22:34:00
なんかうまいなぁ。モノホンの三月精っぽくて楽しめました。
とりあえずリアルでは「しんのこうてい、サニーミルク!」と聞こえてるだろうから大丈夫だと思います。全部がルビであればですが……。
18. 7 文鎮 ■2010/12/11 23:00:25
超日究愛幼精王に合掌。君の事は忘れないよ。
月面の鏡とはアポロ計画などの遺産でしょうか?
19. 7 兵庫県民 ■2010/12/11 23:05:05
サニーを飛ばす必要があったのだろうか?www
いやぁ、面白かった。
20. 6 如月日向 ■2010/12/11 23:11:40
サニーの能力ってなかなか強力ですよね。
しかし月まで行くとは、もう十分すぎるほど力を持ってそうですね。
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