レミリアとゴリラ

作品集: 最新 投稿日時: 2010/11/06 23:52:47 更新日時: 2012/03/24 20:33:15 評価: 30/34 POINT: 264
  















〜レミリアとゴリラ〜
















第一章

 とある尊大な吸血鬼の証言

「ああ、あいつね。最初は死ぬほど生意気だったよ。メイド服も似合わないメイドのくせに」








 その薄暗い大部屋は、赤の配色で統一されていた。
 天井は夕焼けよりも濃い赤、壁紙は緋色。床に敷かれた絨毯には、えんじ色が使われている。
 百人がそれぞれのテーブルを囲み、談笑するのに困らない広さであり、部屋には紅茶の香りが漂っていた。
 だが、唯一の光源である、小さなシャンデリアが作る影は、広い血の池にたった一つ浮かんだ白い卓。そして、その周りにつく二人分のものしかない。

 椅子に座り、テーブルに片肘をつく吸血鬼は、風に揺れる深紅のカーテンを眺めている。
 薄く色のついた白い洋服と帽子、例え背中から生やした蝙蝠の翼を含めても、見る者を引きつけて止まない、絵画や彫刻では表せぬ美貌がそこにある。
 だが、今宵は乾いた紅玉の瞳も、艶やかな色をした銀髪も、どこか枯れた雰囲気をまとっていた。
 その傍らに立つ、メイド服の妖精は、両手を前で重ね、一言も喋らずにいる。
 主人とは対照的に、背中には地味な蝶の羽根を生やしており、後ろで結ばれた明るい黄色の髪の毛も、どこか牧歌的だった。
 だが、表情は何かを辛抱強く待つように、強張った状態で卓上を見つめている。

 カップから立ちのぼる湯気が薄くなって、レミリア・スカーレットは思い出したように、紅茶を口元まで持っていった。
 彼女は舐めた程度で、すぐにそれを戻し、

「不味いわ。入れ直しなさい」
「あ、はい……申し訳ありません。ただいま……」

 妖精メイドは、不安と期待のこもった眼差しを止め、すぐに新しいカップを用意し始めた。
 台の下でお湯の準備をしてから、ポットに入れる茶葉の量を、入念に確かめる。
 彼女のたどたどしい手つきを、つまらなく眺めていたレミリアは、また窓の外に顔を戻し、組んだ膝を揺らし始めた。
 わずかに湿り気を帯びた風が、カーテンを持ち上げて、部屋に入ってくる。波を描く薄絹の向こうは、星どころか、月すらも見えない曇天だ。
 空中散歩を楽しむには、少々味気ない夜だった。館の中で過ごすことしかできない、退屈な晩ともいえる。

 ティースプーンを手から滑らせたらしく、台が金属質の音を立てた。
 硬直するメイドを横目で睨むと、彼女は声もなく平謝りしてくる。些末な従者であっても当然の行為ではあるが、失敗自体が興ざめであることは否めない。
 有能なメイドは、時間を意識させず、駄目な従者は、仕える者の時を削っていく。
 かんに障るリズムで入れ直された紅茶は、主人の求めたタイミングを完全に逸していた。
 湯気の匂いを一嗅ぎし、即座にレミリアは告げる。

「もういい。それを置いて下がりな」
「えっ、あの、もう一度……」
「私が下がれと言ったら下がる。習わなかったの?」

 顔も見ずに、片手で追い払うと、妖精メイドが台を残して、部屋を出て行った。
 わずかに鼻をすする音が聞こえたが、同情する気にもならない。
 一人、大部屋を占領することになったレミリアは、大きく嘆息してから、口を開く。

「咲夜」

 すぐに、部屋の空気が変化した。
 瞬きする間もなく、銀の三つ編みを垂らしたメイド服の少女が、レミリアの傍らに出現していた。
 染み一つないメイド服も、伸びた背筋も、端然とした印象を与えている。紅魔館の誇る、完全で瀟洒なメイドが彼女、十六夜咲夜だった。
 だが、今の彼女は右腕を包帯で吊っている。それを除けば、いつもの透明な微笑を浮かべ、咲夜は呼びつけに答えた。

「はい、お嬢様」
「その後、腕の調子はどうかしら」
「多少不便ですけど、お嬢様にお茶を煎れるくらいのことはできますよ」
「……座りなさい。私が入れるから」

 気が変わったレミリアは、一時間ぶりに椅子から立ち上がる。
 「まぁ」と驚いた表情になる咲夜に対し、多少心外な気持ちで、

「馬鹿にしなさんな。お茶ぐらい煎れられるわ。隠し味はどれくらいがお好み?」
「ノンブラッドでお願いします」

 瀟洒に答えたメイド長は、しかし、主人を立たせて、席に着くつもりはないようだった。
 レミリアはそのことに言及せず、お茶の葉を勘定する。
 手つきにまごついた所や、悩む様子は一切無い。昔は自分で煎れていたのだ。自分にしか煎れたことが無かったが。
 ポットに蓋をし、蒸らす段階に入ってから、彼女に聞いてみた。

「今は休憩時間だったのかしら」
「ええ。図書館におりました」
「その腕じゃ、本を読むのも窮屈そうね」
「お話をしていただけですよ。一般メイドのシフトに戻るのは久しぶりなので、休憩の使い方が意外と少なくて、困ってます」

 咲夜はそう答えて、時間が来てから、ようやく席に着いた。
 同じく座るレミリアから、カップを受け取り、香りを楽しんだ後、口をつける。

「いいお味ですわ」
「世辞は結構よ」
「お世辞かどうか、見抜く術があります。パチュリー様にも煎れて差し上げてはどうでしょう」
「パチェに?」
「はい、きっとお喜びになりますよ」

 もう一度カップを傾けて、咲夜は微笑んだ。
 レミリアは肘をついたまま、鼻を鳴らして、一笑に付す。

「百歩譲って、あの引きこもりに煎れてやるとして、誰にそこまでお茶の台を持ってかせるのかしら」
「無論私にお任せを」

 止めようとする機先を制するように、咲夜は続けた。

「カップ一つくらいなら問題ありません。腕が片方しか使えなくとも、時を操るのに不都合はございませんもの」




◆◇◆




「あら、いい味ね。咲夜を96点とするなら、これには32点をあげられるわ」
「ふん。あんたにお茶の味なんてわかるの? それとも、紅茶の本でも浸けこんでやればよかったかしら」
「センスはあるって認めてるのよ」

 予想通りというべきか、図書館の主は、感動の欠片も匂わせない声で、レミリアのお茶を批評してきた。
 紅魔館の地下にある、この書架が連立する巨大な空間は、外に住む者からすれば、陰気くさい場所としか言いようがない。
 だが、ここを根城にしている紫色の魔女は、陰気というよりも単に偏屈で、なおかつ変人なのだ。
 退屈はしないものの、その頭に詰まった知識が役に立つことは、ほとんど無かった。

「つまり、あんたは偏屈で、なおかつ変人なのよパチェ。退屈はしないけど、知識が役に立った試しも殆ど無いわ」
「……ずいぶんと真っ正直に失礼ね。言い返しておくけど、知識というのは正しい者の頭におさまらないと意味がないのよ」
「その三日月付きのドアノブカバーの中なら意味があるわけ?」

 知識と日陰の魔女、パチュリー・ノーレッジはそれに答えず、紅茶をもう一口飲んでから、訝しげに聞いた。
 
「今日はどうしたの。お茶を入れてくれるかと思えば、突っかかってくるし。何だかレミィの様子がおかしいわ」
「別に、いつもと同じだ」

 そっぽを向いて空とぼけてみたが、彼女は興味ありげに体を伸ばし、聞いてくる。

「悩み事があるんじゃないの。私でよければ、相談してみなよ」
「結構よ。仮に悩みがあったとしても、パチェに相談するくらいなら、モアイ像にでも聞いてもらったほうがマシだわ」
「そうおっしゃると思って、用意しておきました。ミニチュアですが、お使いくださいお嬢様」
「捨ててこい」

 手乗りサイズの石像を、どこか得意げに見せてくる従者に、レミリアはげんなりして命令を下す。
 こういうやり取りを思えば、完全で瀟洒というのも、いささか考え物であった。
 寸劇を無表情で眺める魔女に、レミリアは反駁する。

「あんたこそ、様子がおかしいじゃない。いつもなら本の次に私を選ぶくらいだっていうのに、今日は水晶玉がお相手なの?」

 常に手元に――会う度に題名は変わっているのだが――本を置いているパチュリーは、どうしたわけか今日は様子が異なっていた。
 机の上にあるのは書物の類ではなく、布の敷かれた台に乗った、人の頭ほどもある透明な球体だった。
 彼女はそれに、血の気のない手を当てて、

「最近占いに凝っていてね。なんならレミィも占ってあげましょうか?」

 どうやらこの魔女は、目の前に座ってるのが、運命を見通す吸血鬼だということを忘れているらしい。
 レミリアの考えを読んだのか、パチュリーはやんわりと否定してきた。

「私の占いは、未来を探る魔術ではないわ。その者に与えられた星を計る。性格診断みたいなものよ」
「どっちにしろ、ナンセンスね。退屈しのぎにもなりそうにない」
「実は私も先程、パチュリー様に占っていただいたんです」
「咲夜も?」

 内心で馬鹿にしていた吸血鬼は、思わず、従者の方に首を動かす。
 このあか抜けた人間の少女が、休憩中にそんなことをしていたとは、そしてそんなものに興味を抱くとは意外であった。
 となると、自分もやらないわけにはいかなくなってくる。
 顎を突き出して促すと、パチュリーは水晶玉を体の前に持ってきた。
 面妖に指を細かく動かしながら、彼女は念じ始め、透明の球体が、鈍い光を放ち出し、

「見えたわ……」

 光る水晶玉を無言で撫でていた魔女が、重々しく囁いた。 
 出し抜けに、青白い顔を跳ね上げ、目をくわっと見開き、宣言する。


「レミィ、貴方はゴリラよ!」


 図書館に雷鳴が轟いた。天窓越しに小さく見える夜空が、なおも続く稲光で、二、三度明滅する。
 演出としてはこれ以上無い程のタイミングではあったが、誇り高く、同時に気性が荒いことで恐れられる吸血鬼の反応は、見た目相応の童女のものだった。
 つまり、首をわずかに傾げ、怪訝な面持ちで聞く。

「ゴリラって何?」

 反応を待ちかまえていたパチュリーは、かくん、と肩をコケさせた。

「ひょっとして、ゴリラを知らなかった?」
「知らないわよ。それは何なの? 星の名前? 惑星ゴリラ?」
「星じゃなくて生き物よ。黒い毛で覆われた大きな猿……というだけじゃ、ちょっとイメージが掴めないと思うけど……」

 と、何かを探すように動いていたパチュリーの視線が、メイド長に止まる。

「咲夜。ゴリラを実演してくれる?」
「え、私がですか? むしろ美鈴辺りにやらせた方が」
「あんたがここでやりなさい、咲夜」
「では……」

 主人の命令を受け、彼女はこほんと咳を一つして、中腰に構えた。
 吊った利き腕も動かして、胸を叩く仕草をしながら、テーブルの周囲を徘徊する。

「ウホ、ウホホホホッホ、ウホホホホ」

 そんな感じで、咲夜は瀟洒にゴリラを演じてみせた。
 「パーフェクト」とパチュリーは親指を立てるものの、レミリアの方は、極限まで細められた眼になり、

「なるほど。そんな格好で踊る黒毛で覆われた大猿が、この私だと言いたいのね。表に出なパチェ」
「話は終わってないわよレミィ。これを聞けば、貴方もゴリラの魅力に取りつかれることは間違いないわ」

 間近で高圧の殺気を受けても、顔色一つ変えずに、パチュリーは知識を披露し始める。

「例えば、ゴリラの血液型は大半がB型なのよ」
「へぇ?」

 レミリアは怒りの矛を、一旦背中に収めた。食すのに好みの血液は、昔からB型なのである。

「さらに彼らは直射日光を嫌うので、曇りの日以外には出かけられない」
「ふぅん」
「そして野生種はアフリカにしか住んでいないの。ちなみにモケーレ・ムベンベもアフリカの怪獣よ」
「なんと」

 神秘の国ではないか、アフリカ。
 なんなら紅魔館も幻想郷じゃなくて、アフリカに移せばよかったか。

「レミィ、アフリカは国ではなくて、地域の総称だからね」
「知ってるわよ、それくらい」

 涼しい顔で嘯いてから、レミリアは続きを促す。

「で? そのゴリラの性格とかの方はどうなってんのよ。あんたの占いでは」
「気性は激しいように思われているが、本質的には穏やか。しかし、プライドと仲間を守るためには、凶暴性を発揮する」
「…………?」
「生命力に満ちあふれ、力強く、勇壮。誇り高き、森の王者」
「森の王者ね……」

 魔女が並べる形容の一つ一つを、向かいに座るレミリアは吟味した。
 凶暴だとか、いくつか気に入らない単語は混じっているが、的は大旨外していない。
 何より、誇り高き王というフレーズが気に入った。ゴリラか。なかなか良いではないか。
 多少機嫌を取り戻したレミリアは、隣の従者に笑みを向ける。

「咲夜、私がゴリラなら、貴方はさしずめ、ドーベルマンといったところかしら?」
「いえ、私もゴリラです」
「え、あんたもゴリラ?」
「はい。美鈴もですけど」
「じゃ、じゃあ霊夢とか魔理沙は?」
「オールゴリラですわ」

 何だそりゃ。この幻想郷は妖怪じゃなくて、ゴリラの楽園かい。
 知識人の方にジト目で問うと、彼女は悪びれた様子もなく、口を動かす。

「この占いの結果の90%がゴリラになるのだから仕方ないわ」
「ああそうかい。やっぱりあんたの占いなんかに付き合うんじゃなかったよ」

 一気に興味が失せたレミリアは、椅子を蹴るようにして立ち上がった。

「さようなら、引きこもりのゴリラ。行くわよ咲夜」
「……そう言えば、私を占ってなかったわ。何がでるかしら」

 そんな魔女をもう相手にせずに、館の主人は従者を連れて、さっさと図書館を後にした。


「あら、ヴィーナスか。つまり私はゴリラの群れの中に咲く一輪の花……」

 ドアが再び開き、吸血鬼がグングニルを構えて戻ってきた。




◆◇◆




「全く……パチェと話してると、時間を無駄に過ごした気しかしないわ」

 煤のついた服の袖を払いながら、レミリアは廊下を歩く。
 ふざけた魔女へのお仕置きもかねて、図書館を散らかしてやった後だった。その後、軽い弾幕ごっこに繋がったが、問題はない。
 同じ歩調でついてくる咲夜は、軽やかな口調で意見してくる。

「悠久の時を生きる我々は、無為な時の流れを味わうのが嗜み……と、先日お嬢様は仰ってましたわ」
「そんなこと言ったかしら」

 しらばくれるレミリアは、廊下を歩く足を止めずに、彼女に聞いた。

「で、いつ頃本調子に戻れそうなの」
「お医者様によれば、後三週間ほどだそうです。二週間で復帰できるよう努力致しますわ」
「どうせならしっかり治しなさい。あんたがいなくても、紅魔館はつぶれたりしないわ」

 という台詞は、言った当人であっても相当な強がりに聞こえてならなかった。

 そもそも、この並の古参妖怪よりも冷静でタフな人間メイドが、利き腕の骨を折るという事件が起こって、紅魔館は多少どころではない不便に陥った。
 何しろここの有象無象の妖精メイドは、殆どが役に立たないために、今までこの人間の少女が一人で、多くの業務をこなしていたのだから。
 もちろん、彼女がここに従者として住み着くまでは、それでも何とかやっていけたはずなのだが、やはり慣れというのは恐ろしいものである。
 十六夜咲夜の片腕の機能が失われることは、それすなわち、紅魔館全体にとっての大きな損失になっていたのだった。
 人間を止めぬと決めている彼女の身や、珍しくドジを踏んだことを、レミリアがからかったのは、渋る彼女を問答無用で迷いの竹林に連れて行き、病状を聞いてからのことだった。
 畏怖と恐怖で語られる吸血鬼ともあろう存在が、あそこまで取り乱してしまったのは不愉快ではあったが、彼女を心配しているのは偽らざる気持ちなのである。
 しかし、紅い悪魔の異名を持つ者の矜持は、それを直に本人に伝えることを許さない。

「まぁでも、あんたの給仕じゃないと、毎日の張り合いが無いよ。その腕が治ったあかつきには、たっぷり働いてもらうからね」
「マーガレットはいかがでしたか?」

 聞き慣れぬ単語が出てきて、レミリアは足を止めた。

「マーガレット?」
「はい。先程お嬢様の給仕に向かわせたメイドです」
「…………」

 脳裏に浮かんだのは、オムレツ色の髪の毛を結んだ、蝶の羽根の妖精だった。
 お茶の入れ方にケチをつけただけで、泣きべそをかいて去っていった、根性無し。
 咲夜は続ける。

「久しぶりに、真面目で鍛え甲斐のあるメイドですよ。弾幕ごっこの実力も確かですし。何より、あの能力はなかなかのものです。季節にかかわらず花を咲かせることができるんですよ」
「ふぅん……」
「お部屋に彩りを添えるのにも最適ですわ。元は門番隊の一員だったのですが、私が引き抜いたんです。美鈴は残念がってましたけど」
「もういいわ。メイドの事なんて、一々覚えてられるか。……ああ、あんたは別だけどね」
「恐れ入ります」
「第一、お茶一つ満足に煎れられないメイドには、名前すら勿体ないわ。あのマーガレットとかいうメイドだけじゃなくて、ここにいる連中の殆どよ。今じゃあんたの指示無しじゃ、ろくに働きもしない。ゴリラの方がマシだ」
「ゴリラ、ですか」
「見たことないけどね。そんな従者なら、まだ退屈しないでしょうし」
「考えておきますわ」

 主の愚痴に、非難の表情など微塵も浮かべず、こちらの行動に対し、逐一拍子を合わせるように動く。
 例え片腕を骨折している今でも、十六夜咲夜は、有能で得難い従者であった。
 しかし、レミリアは残念ながら、骨折どころか、元来この『片腕』しか持っていないのである。彼女と比べれば、後は猫の手にもなりやしない。

「引き続き、ご報告です。西館の再建には働き手が必要ですので、妖精メイドを増員することに決めました。明日にでも、お嬢様に顔通しさせます。お時間をいただけますか?」
「そう。好きになさい」

 片手を上げるだけで、咲夜の気配は遠ざかった。
 ここまで気配りが出来ると、かえって不安にならないこともないわけではないが。
 三階の私室へと通じる階段を、レミリアは飛んで登りながら、この後の暇潰しについて考えを巡らせた。


 途中の窓の外、西の空の朧月に浮かび上がるシルエットは、倒壊した紅魔館の一部であった。








第二章

 ある日陰の魔女の証言

「苺大福、かしら。外見はごついけど、中身は案外ひ弱だから」








 紅魔館は霧の湖の島の岬に建つ、大きな西洋屋敷である。
 広大な敷地は、人間の集落一つを手軽に飲み込むほどの規模を誇り、その敷地を守るだけの人員も養うことの出来る、幻想郷の一大勢力が住んでいる。

 湖に面した岸から、門番が昼夜守る正門を通り抜け、芝生と花壇で構成された長い道を歩くと、紅魔館の本館が近づいてくる。
 屋上に備え付けられた、巨大な時計台を見上げながら、正面玄関をくぐると、そこはセントラルホール。
 左右対称のカーブを描く、馬蹄型の階段は、二階へと通じており、上がった先の巨大な扉は、謁見の間として使われている。
 要は来客や新たな住人を、館の当主が迎え入れるための部屋だった。
 室内は大理石の床と柱でできており、絨毯もカーテンも赤一色。一段と高い所に備え付けられた玉座は、古き良き職人の意匠細工が施されている。
 その背後の壁には悪魔や獅子をかたどった像が飾られていおり、天井からいくつか下がったシャンデリアには蝙蝠のデザインが為されていた。

 紅魔館で最も豪奢な内装、時に最も趣味の悪い部屋と言われる一室で、レミリアは玉座に腰掛けて、従者を待っていた。
 肘掛けに頬杖をつき、両目も閉じられている。物思いに耽っているのではなく、単に眠たいのだ。
 ここの所、ろくな夢を見ないので、生活リズムはいよいよでたらめとなり、とっくに日が昇り切ったこの時間に、ようやく眠気がやってくるようになってきた。
 地を這う動植物と変わらず、吸血鬼は睡眠を貪る。棺桶のような前時代的で下等な寝具はごめんだが、それでも適度な眠りは、レミリアにとって有益かつ健康的な習慣だった。だが、ここの所の気分の悪さは、少々の眠りでは回復してくれぬらしい。悪夢に怯える稚児の歴史など、悠久の彼方に放り出しているが、毎度の如く向き合うのも、不愉快そのものだ。 
 夢と現実の境界の間で、振り子のように揺れていると、壁越しの声が耳に入ってきた。

「お嬢様、謁見をお許し願えますか」
「…………入れ」

 短く返事すると、扉が重々しく呻く音が、大部屋全体に響く。
 瞼を閉じていても、室内に入り込む従者の気配、そして、足を踏み入れる妖精達の息づかいを、レミリアは捉えることができた。

「本日、新たに配属されることになった、メイド達です」
「ん」
「アニスです。特技はお菓子作りです。頑張ります」
「シルキーです……お洗濯とか、お布団を直すのが好きです……」
「ポルカでーす。歌ったり踊ったりするのが得意でーす。よろしくお願いしまーす」

 頬杖をついたまま、顎を一センチほど上下するだけで、レミリアは面倒くさく対応する。
 どうせメイドの名前なんて、三歩あるけば忘れてしまう。住人の出入りの激しい紅魔館では、それがもっとも効率が良いのだ。
 僕は僕で一括りにしてしまい、主人は常に唯一の個として、崇め奉られればよい。
 それこそが、帝王にふさわしいあり方だと思うのだが、異論はあるかね。

「以上、四名です」

 ――四名?

 無人のメリーゴーラウンドのように、目的もなく回っていたレミリアの思考が、最後の一言で向きを変えた。
 確か、自己紹介を終えたのは、アニスとポルカと、あとセル……シルキーだったはずっだが。
 危うくもう忘れそうになったが、とにかく三人だけだった気がするということだ。
 間をおかず、メイド長のフォローが入る。

「最後の一人は、喋ることができないので、ジェスチャーで伝えることにしました」

 斬新かつ無礼な自己紹介もあったものである。
 大胆にもそんなメイドを雇うとは、一体何を考えているんだか……。

 と、レミリアは右の瞼を持ち上げて、

 次に左目も開けて――口も開けて――小鼻も膨らませて――腰を浮かせて――身を乗り出した。

 左から、吊った利き腕を除けば、いつもと変わらぬ容姿のメイド長。咲夜。
 真新しいメイド服を着た、薄緑色の髪を二つ結んでいる、白い蝶の羽根の利発そうな妖精。たぶんアニス。
 同じくメイド服で、青白い真っ直ぐな髪の毛を伸ばした、儚げな薄い羽根の妖精。おそらくシルキー。
 その隣の新人メイドが、くるくるした赤茶の癖髪を持つ、活発で陽気そうな、いかにも妖精らしい妖精、きっとポルカ。

 そして一番右に立っていたのは、妖精とは似ても似つかない、メイド服だって着ていない。

 黒くて大きな…………大猿の化け物だった。

「『彼女』だけは妖精ではなく、ゴリラです。新入りのメイドゴリラですわ」
「ゴリラだと!?」

 紹介された、明らかに規格外な存在に対し、レミリアは驚愕の声を発した。
 あれが、噂に聞くゴリラ。隣の妖精メイドや、ロココ調の室内、数々のインテリア等、全てにそぐわないアフリカの密林の気配。
 確かに、これを大きな猿とだけで表現しても、伝えきれたとはいえない外観だ。
 実に威風堂々たる、森の王者と呼ぶにふさわしい容貌であり、高い位置の玉座に座る自分に匹敵する貫禄である。

「以上四名が本日より、紅魔館のメイドとして、新たに従事させていただきます。我らがメイド隊は誠心誠意、清廉恪勤、レミリアお嬢様に尽くすことを、今後ともお約束いたします」
「いや待ちなさいよ! ……い、いや待て、咲夜」

 口調が不安定になりながらも、レミリアはたまらず突っ込む。

「どう考えてもおかしいだろう、その構図。約束されても困る」
「わかりました。では言い直させていただきます。我らがメイド隊は誠心誠意、清廉恪勤、レミリアお嬢様に尽くすことを、今後ともお約束いたしません」
「そこじゃない!」

 語尾を変えればいいという問題ではないのだ。
 指をさして怒鳴りつけると、ふざけた態度を取るメイド長は、はぁ、ととぼけたような返答をしてきた。
 先程までは、いささか恐縮していた妖精達まで、今は何だか面白いものでも見るかのように、玉座でうろたえる主人を観察している。
 ゴリラだけは、彼女達の横で、ふんぞり返っていたが。

「えー……あー……」

 いつもなら紹介が終わったところで、「ようこそ、紅魔館へ。お前達の運命は、このレミリア・スカーレットが預かった。なに、悪いようにはしないよ。妖怪を超越した、我らが闇の眷属に仕える悦びを約束しよう」等といった決め台詞で締めくくるのが習わしだ。
 だが今のレミリアは、かつて無いシチュエーションに言葉の行方を見失い、玉座から上手く立ち上がることのできないほど、腰を抜かしていた。
 何というか、このままでは、自らの沽券に関わる。
 そう判断して命令するよりも先に、メイド長はこちらの気持ちを汲んでくれたようで、

「どうやら、お嬢様のご気分が優れないようですので、略式ではありますが、報告を以上で締めさせていただきます。失礼いたします」

 メイド達は――ゴリラも含めて――、一礼して扉から去っていく。

「……待った咲夜。あとゴリラも、ここに残りなさい」

 レミリアの命令に従い、新人の妖精達は咲夜の指示を受けて、改めて扉から出て行った。
 謁見の間には、吸血鬼と人間、そして、ゴリラだけが残った。
 玉座にぐったりともたれかかり、紅魔館の主は大きく息をつく。

「咲夜……これは、昨日の愚痴の仕返しかしら」
「とんでもございません。ゴリラをメイドにするというのは、お嬢様のご希望だったはずですが」
「いくらあんたが有能でも、まさか本当に連れてくるとは思わなかったよ。……ゴリラか」

 レミリアは気を取り直して立ち上がり、夜の王の鎧を放り捨てて、興味津々の少女の足取りで、その獣に近づいた。
 ゴリラの外見については、先日パチュリーから聞いていたのだが、実際に間近で見てみると、印象は大分異なる。
 確かに黒い毛で全身が覆われているが、しかしそれは、ごわごわした固いものではなく、銀狐やミンクのそれのような、上等な毛並みだった。
 頭部のストライプ状の毛も可愛らしい。双眸も野獣にふさわしくない、つぶらで愛嬌のある瞳をしている。
 鼻も丸いお団子のようで、口元にはアルカイックスマイル。両腕はずいぶん長くて逞しい割に、胴体はそこまで長くなく、足も短い。
 ざっと見て、四頭身。自分と同じくらいの背丈だが、横は三倍以上の太さ。なんとなく、生き物というよりは、ぬいぐるみのようだった。
 それに、

「ずいぶん魔力が濃いわね。ゴリラというのは、そういうものなのかしら」
「はい。パチュリー様からも、そう伺っております」
「ふぅん」

 座ったまま動かないゴリラを、レミリアは一層興味深く見つめながら、『彼女』の後ろに回った。

「………………………………!!」

 夜の王は、頭から床にずっこけた。
 咲夜が慌てて、その側に跪く。

「お嬢様! いかがなさいましたか!?」
「こ、こ、こ、こっちの、台詞だわ……」

 脱力で腰から下の感覚が麻痺していたが、レミリアは何とか、震える指をゴリラの背に向け、糾弾した。

「何なのこの『チャック』は!?」
「ああ。ゴリラの背中にはファスナーが付いているものですわ」
「嘘つけ!」

 単なる着ぐるみじゃねぇか。
 すぐに引っ剥がして、正体を暴いてやろうとすると、ゴリラは鈍重な見た目に似合わず、サッと身を翻した。
 逆をついて回ろうとするが、再びサッとかわされる。
 頭に血が上り、レミリアは本気で宙を蹴って回り込むが、ゴリラはやはり俊敏な動作で、レミリアの死角へと移動した。
  
「おい、ゴリラ。動くんじゃない」

 高速で移動しながら、レミリアは強い口調で命令する。
 しかしゴリラはお構いなしに、上下左右に避け続ける。恐るべきフットワークだ。これが野生の猛速か。
 動きはある程度先読みできるのに、身のこなしも単純なスピードもでたらめに速い。達人級だ。
 面白い、とレミリアは本気で、広い室内を目まぐるしく飛び回っていたが、やがて三分が経過し、少々息を切らしたので、

「……咲夜〜。ゴリラが止まってくれないよー」
「ゴリラというのは、シャイな性格なのだそうです。人に背中を見せたり、ファスナーを触れられたりするのを嫌がるそうですわ」

 そんなどこぞの特殊なアサシンのような動物がいるか、と、まともに指摘するのも馬鹿馬鹿しい。
 レミリアは咲夜の意図に気がつき、泣き付くのを止めて、はは〜ん、と、こめかみをひくつかせる。

「どうやらあんたは、どうあってもこのゲームを続けたいわけね、咲夜」
「いかなる解釈をしてくださっても結構でございます。メイドの私はあくまで、お嬢様のものなのですから」
「よく言うわよ」

 この面の皮の厚さは、並の妖怪よりもよっぽどである。

「じゃあ、私が飽きるまでなら、余興として付き合ってあげるわ。このゴリラを雇うのもOK。ただしボロを見せるようなら、中に入ってんのが誰だろうと、クビにして放り出すからね。例えそれが専属百年を越すお人好しの中華料理人だとしても」
「はい、了解しました。お嬢様の寛大なお心に、感謝いたします」
「薄っぺらくて嫌味な感謝だこと。この私にこうも言わせるんだから、大した従者だよお前は」
「いえ、今のはゴリラの言葉を翻訳しただけですわ」
「ゴリラと意思疎通できるんかい」
「完全で瀟洒なもので」

 主従の漫才じみた会話に、ゴリラは楽しそうに、こんもりした肩を震わせていた。




◆◇◆




 悪魔の城と称される紅魔館といえども、奴隷社会や地獄の環境で養われているわけではなく、メイドが初日から重労働を課せられるということもない。
 まずはメイド長、あるいはその補佐役の妖精メイドが、直々に館を案内し、どんな頭でも理解できるくらいわかりやすく、丁寧に部屋を説明することになっている。
 何しろ幻想郷でも有数の大きさの建物であるし、空間操作まで行われているため、内部は異様に広くて入り組んでいるのだ。
 これ以上迷子になるメイドの数を増やさぬためにも、初日の徹底的な地理教育は、強化される一方であった。
 ……という事情を、この館の頂点に立つレミリアが知ったのは、つい先程のことであったが。
 メイドのことは全部メイド長に任せ、個性の違いなど露程も気にしていなかった程なので、今日はなかなか新鮮な知識が手に入る。
 もちろん、物好きにも咲夜の新人講習を見学しようなどと思い立ったのは、その中の珍獣が気になって仕方がないからである。
 
「ここが地下の大図書館に通じる扉よ。用事がなければ入ることは許されないわ」

 咲夜は、三人の妖精と、一頭のゴリラ、それに吸血鬼の主人を加えた五人に説明する。
 その背後には、五芒星の紋様がいくつか刻まれた古めかしい――所々焦げてもいたが――木製の扉がそびえ立っていた。
 右上の角には、黄色く塗られた小さな紙が貼ってある。

「全ての扉には目印がついている。右隅に青い印がついている扉は、非常事態でも無い限り、貴方達がいつでも利用できる部屋。黄色の印は、私の命令が無い限り、入ってはいけない部屋。赤い印は、何があっても入ってはいけない部屋。簡単でしょう? ここの扉は黄色よ」
「言うまでもないが、私はいつでもどれでも入る権利を有している」

 尊大な発言者に、視線が集まった。紅魔館の主人はそれを受け、堂々と胸を反らす。
 どうにも場違いな存在と態度であったが、その情報に興味を抱いたらしい妖精の一人が、咲夜に聞いた。

「私達もいつか、どれでも入っていいようになるんですか?」
「それは難しいわね。よほど信頼が置けなくてはならないし、赤の扉は貴方達の存在の有無にも関わる危険な部屋。その一つは、お嬢様の寝室も含まれているわ。何があろうと、あそこに入る者は、反逆の意志有りと見なされ、処刑されても文句は言えない」
「挑戦したければ、いつでも結構よ。けど私は手加減を知らなくてねぇ」

 レミリアが舌なめずりするように笑って、威圧してみると、妖精達は皆青い顔をして、お互いを見やる。
 恐怖が大好物な吸血鬼にとって、実に満足できる反応だったが…………あろうことかゴリラが、元気よく手を上げていた。
 幼き王の不敵な笑みが半壊する。

「あんた、私に喧嘩売る勇気があるの? 言っとくけど、私の部屋の扉に指一つ触れてごらん。さらに真っ黒な炭カスに変えてやるからね」

 警告に対して、ゴリラはもう一度、ひょい、と片手を上げた。
 「了解しましたお嬢様」なのか「望むところですお嬢様」なのか、実に分かりにくかった。
 メイド長はそんなゴリラの出過ぎた態度を、気に留めることなく、講習を続ける。

「今日はひとまず、メイドとして入る可能性のある部屋は全て回る予定よ。まずはこの図書館から。ここには七種の系統の魔法を操る魔女、紅魔館が誇る知識人の、パチュリー・ノーレッジ様が住んでいるわ」

 ――役に立った試しは殆どないけどね。

 胸中でつけ加えつつ、レミリアも彼女達とともに、図書館に入った。




◆◇◆




 焦げたキャラメル色の扉を開け、中に入った妖精達は、一様に息を呑んだ。
 始めてこの部屋に入る物は、大なり小なり、こんな風に驚きの反応を示すものだ。
 紅魔館に数多くある部屋の中でも、三つの指に数えられるほどの広さを持つのが、この地下大図書館である。
 室内は高層の本棚によって占領されており、さながら中央の読書机を囲む城壁を形成していて、古今東西の貴重な書物が、来訪者達を睥睨している。
 この呆れるほどの蔵書の山に、終わり無き登山を試み続ける魔女は、今日もその中心にいた。

「あら、新人教育の時期だったかしら」

 パチュリーは座ったまま、本からちらりと顔を上げて、入ってきた面々を順繰りに見やる。
 自らの趣味以外に関心の薄い魔女にしては、これでも破格の待遇といってもよい反応だった。
 瞼に半分隠れた紫色の瞳が、一点で止まる。

「そこの青っぽい銀の髪をした、蝙蝠の翼の妖精。気に入ったわ。私専属のメイドになりなさい」
「例え千回生まれ変わってもお断りよ、インドア大陸魔女」

 レミリアは鼻を鳴らして言い返した。
 机に座る魔女の背後から、新たな存在が小走りにやってくる。
 深紅の髪から生やした龍の羽根のような耳、それと背中の翼を覗けば、新人メイド達と同じ、妖精のような外見だ。

「はーい皆さん。ようこそ紅魔館の地下図書館へ。私がここの司書の小悪魔です。悪魔って名前に付いてますけど、怖くないですよー。図書館に用事がある時は、私を通してくれれば問題ありませんから、気軽に話しかけてくださいね」

 小悪魔の軽いノリは、緊張していた妖精達に、すんなりと受け入れられたようである。
 早速、彼女は咲夜から役割を受け渡され、ゴリラを含めた新しいメイド達に、館内の説明を始め出す。
 あまり、そこら辺の内容に興味の無かったレミリアは、パチュリーの横の椅子を、自分で引いて座った。
 すり寄りながら、小声で話しかける。

「パチェ。あんたも一枚噛んでいるんでしょ。吐きなさい」
「本を読みながらガムを噛む習慣はないわ」
「誰がいつガムの話をしたのよ。私はゴリラの話をしているの」
「ゴリラを噛む習慣だってないけど」
「………………」

 レミリアは友人の頭を掴み、ぐい、と力任せに横に向けた。
 その先では、本棚の本を興味深そうに見上げている、黒い類人猿のぬいぐるみがいた。
 
「あのゴリラよ。あれはあんたが用意した着ぐるみ。違う?」
「……とぼけても面倒だし、正解だと言っておくわ。中身まで用意したわけではないけど、外側には様々な能力を付与して……」
「そんなことはどうでもいい。私が知っておきたいのは、あんた達がなんでまた、ゴリラのメイドを誕生させようと思ったのか、だ」

 読書机並に平らな声音で、パチュリーは答えた。

「……実用的な実験の一環、という答えで満足してくれないかしら」

 どこが実用的なのか、さっぱり分からなかったが、そういう魔女の視線は確かに、ゴリラの動きを注意深く追っているように見えなくもない。
 ちなみに、着ぐるみの存在は、妖精メイド達とともに、小悪魔の指導で本のハタキがけをしていた。
 ただでさえ所帯じみた光景が、黒い大猿のぬいぐるみが妖精の中に混ざることで、さらに呑気な空気を漂わせている。
 パチュリーの頭から手を離し、ゴリラを観察しつつ、レミリアは質問を続ける。

「じゃあ、次に聞くけど、あんなふざけた服を着ることを承諾した、奇特な輩は誰?」
「知りたいなら、力尽くで確かめてみればいいじゃない。そう言うの得意でしょ」
「…………」

 さすがに、もう試したけど速くて追いつけなかった、と答えるのは、プライドが許さなかった。
 もっとも、本気の力尽くであれば、例え本物のゴリラであっても屈服させることは造作もないだろうが。

「あのゴリラを見くびっていると、痛い目に遭うわよ、レミィ」

 思考を中断し、レミリアは隣の魔女を向いた。

「それは友人としての忠告? それともゲームマスターとしての忠告かしら」
「どちらとも言えるし、どちらとも言えない」
「はっきり言いなさいよ」
「大した意味はないわ。あのゴリラを作ったこと自体、半分は暇潰しよ」
「いいや、あんたは何か隠している」

 パチュリーだけなら酔狂だと思うし、咲夜だけだったらお茶目な悪戯だと思う。
 しかし、二人が手を組むとなると話は別だ。それはつまり、紅魔館全体に関わることに違いない。

「レミィの機嫌を損ねるのが嫌だから、言わないわ」

 そう言って、パチュリーは傍らの本を開き、読み始めた。
 これは彼女が、話すことが無くなった時の合図である。こうなるとこの偏屈な魔女は、モアイ像並に無愛想になる。
 しかし、敢えてレミリアは、紫色のモアイ像に話しかけた。

「パチェ。チェスに必ず勝つ方法、知ってる?」
「……聞きたくないけど、どうぞ」
「相手の嫌がる戦術を採り、弱点を攻めること、よ」
「……もし相手に好き嫌いが無くて、つけいる隙を見せてくれなかったとしたら?」
「盤をひっくり返してやればいい」

 レミリアは席を立ち、メイド達の監督役の元に向かった。

「咲夜。次はどこに、こいつらを連れてくつもり?」
「館内の一階部屋から二階部屋まで、一通り案内した後、宿舎へと連れて行く予定です」
「じゃあ予定は変更ね。外に行きましょう。正門前よ」
「え、なぜです?」

 と、声に出したわけではないが、咲夜が申し出に対して、不思議そうな顔になったのも無理はない。
 彼女達は外の雑務をこなす門番隊ではなく、メイド隊。すなわち、館内業務を担当する予定になっているのだから。
 それに今は、日が昇っている時間である。吸血鬼が外出する条件としても、適当とはいえない。

「私が行くと言ったら行く。それを教育するのも、あんたの務めよ」
「かしこまりました。ではその様に」

 レミリアの予想に反し、存外素直に、咲夜は命令を受け入れた。




◆◇◆




 正面玄関の扉を開けて、紅魔館を出ると、赤い闇の空気から、青と白の世界に切り替わった。
 数日続いた雨模様が嘘のように、今日は日の光も澄み渡る空も、白雲も揃っていて、洗濯干しと蝙蝠退治に持ってこいの天気である。
 しかし、この館の吸血鬼は、従者のさす日傘一本で、その世界を旅することができるのだった。噴水のきらめきで灰になるほど、柔な存在ではないのだ。

 レンガで整えられた道を、レミリア達一同は歩く。左右には刈り揃えられた芝生、そして整然と手入れされた花壇が続いている。
 正門へ向かう道の途中で、ジョウロで水を撒いていた、赤い髪の妖怪が挨拶してきた。

「あ、お嬢様! お早うございます! ゴリラちゃんも一緒なんですね!」

 レミリアはその声を聞いて、危うく地面に突っ伏しそうになった。
 従者のさす日傘の安全圏に、何とか踏みとどまりつつ、

「な、な、な、なんであんたがここにいるのよ!」

 レミリアは喚く。ガーデニングをしていた妖怪、緑の華人服を着た女性に向かって。
 彼女、紅美鈴は、晴れやかな笑顔から、くしゃりと顔を歪ませ、泣きべそをかきだした。

「わ、私は、紅魔館の門番として、誇りを持って仕事をさせていただいているつもりですよお嬢様〜!」
「あー、えーっと、そういうんじゃなくてね」

 レミリアは当惑して、泣き付いてくる美鈴と、横のゴリラを見比べる。
 てっきり、この中身は力仕事が得意な彼女だと思ったのだが、予想が見事に外れてしまった。
 咲夜はこちらを視界に入れず、素知らぬ顔で、妖精達に庭の説明をしており、ぬいぐるみの容疑者も、ぽけーっと話を聞いている。
 じゃあ、その中には一体誰が入っているのか。まさか、本物のゴリラは、やはり背中にチャックがあるのか。

「……美鈴、ちょっと来なさい」

 レミリアは咲夜から日傘を奪って自分で持ち、門番妖怪の腕を引っ張って、花壇の一角に入った。

「あんたはあのゴリラについて、咲夜かパチェに聞いてないの?」
「えっ、私は咲夜さんから、妖精メイドが四人配属されることになったって聞いてるだけですけど」
「あれのどこが妖精なのよ! 見てわかるでしょ!?」
「……中に入ってるのは、妖精じゃないんでしょうか」
「そんなはずは……」

 ない。と言いかけて、レミリアは言葉を切った。
 なるほど。妖精という項目を、あのごつい外見を度外視して当てはめてみると、確かにうなずける側面がある。
 新人メイド達は、日の光が好きなのか、いい気分転換になっているようだし、花壇の間を飛ぶ蝶に指を伸ばすゴリラも、似た空気を漂わせていた。
 しかし、ならば自分を翻弄した、あの身体能力は。

 ――そう言えば、パチェが何か、様々な能力を付与して、とかなんとか。

 さっきは無視してしまったが、後でもう一度話を聞く必要があるかもしれない。
 中身が妖精と分かれば、いよいよ舐められるわけにはいかなかった。

「お嬢様?」
「ん……いや……もういいわ」
「気が変ですけど」
「はい?」
「こ、言葉のあやでした! ちょっと気分が悪いのかな、って」
「寝不足な上にこの日差しだからね。それよりあんたは門番でしょ。なんで今日は庭師になってんのよ」
「……紅魔館の周りの世話をするのも、門番隊の務めです!」

 美鈴は胸を張り、晴れた空に似合う笑みを浮かべる。
 レミリアはそれから目をそらし、改めて庭園を見渡した。

 下の土が見えぬほど、色とりどりの花が咲き乱れている。
 そんな花壇が並んで、本館から正門まで続き、それぞれの場所で、門番隊の妖精が水やりをしていた。
 百年前は荒れ放題だった覚えがあるが、この幻想郷に来て、ずいぶんと様変わりしたものだ。
 自分で言うのも何だが、あの謁見の間の禍々しさとは似ても似つかない、平和でのどかな光景だった。
 美鈴が世話をしていた花にレミリアは視線を戻す。赤と黄色、紫や白も混じっている。いずれもバラであった。
 嫌いな花ではない。しかし、その中の一色、黄色のそれを見た途端、急に血が冷たくなるのを覚えた。

「この色は好きじゃないわ」

 レミリアは、バラのつぼみの一つを、無造作にむしった。
 にこにこしていた美鈴が、ひっ、と息を呑み、ジョウロを取り落とす。
 しかし、レミリアの手は止まらない。すでに咲いている花弁も、棘の奥から引きちぎる。
 二、三度それを繰り返してから、手にした黄色の残骸を、全てレンガの道の上に投げ捨てた。

「お、お嬢様」
「バラの色は一つで十分。赤だけだ。他は全部始末しておきなさい」
「そんな……」

 様子がおかしいことに気付いたのか、いつの間にか、咲夜達がこちらを見ているのに気付く。
 レミリアはその視線の束を睨み返した。

「何か文句があるか、お前達? 私の機嫌を損ねるものは、こういうことになる。覚えておけ」

 低い調子の声に、新入りの妖精達は縮こまった。メイド長は何も言わず、主人の台詞を肯定するかのように、頭を下げる。
 美鈴は、あわあわ、とうろたえながら、ジョウロを拾い直し、泣き出してしまったもう一人の門番隊の妖精を、なぐさめに向かった。
 穏やかだった庭園に影が落ち、ぎこちない空気が漂いだす。
 
 しかしレミリアは、その光景に満足していた。
 皆が、自分を恐れている。暴挙を非難することもできず、ただただ震えることしかできない。
 だがそれでいいのだ。それが吸血鬼なのだから。恐れられ、嫌われ、孤高の存在として、頂点に立つ。
 この覇道は揺らぐことがない。自分は、選ばれしものなのだから。

 さらに調子に乗るレミリアの手に、火球が生まれた。
 神経を苛立たせる、黄色いバラの一角に、従者が止める間もなく、叩きつけようとする。
 その時、

「だめっ……」

 というのは、咲夜の声だ。しかし、彼女がそれを向けたのは、主人に対してではなかった。

「……っ?」

 レミリアは混乱していた。尻餅をついている自分に対して。
 そして、自分を突き飛ばした、その黒く大きいぬいぐるみ風情に対して。
 
 不意を突かれたどころの話ではない。どんなメイドだってあり得ない行為だった。
 ゴリラ自身、そのような行動をした自分に、驚いたように硬直していた。
 だが、次に取った行動は、主君に手を差し伸べるのでも、謝罪の言葉を並べるのでも、這い蹲って地面を舐めるのでもなかった。
 花々の前に立ち、大きく両腕を広げ、花壇を守るガーディアンとなって、立ちはだかっていた。

 レミリアは日傘を片手に、おもむろに立ち上がる。ゆっくりと、少しずつ、力を怒りで、練り上げていく。

「ゴリラよ。どんな理由があろうと、この館で私に手を上げる輩は、万死に値する。……覚悟はできているだろうな?」

 ほとばしる気勢が、紅魔館の庭に吹き荒れた。花々の間を突風が流れ、砂埃が地面から舞い上がる。
 門番隊とその隊長、新入りの妖精メイドも、場にいた存在の多くが怯えて平伏し、咲夜でさえも色を失っていた。
 だがしかし、ゴリラはあくまで、立ったままだった。間近で吸血鬼が放つプレッシャーに、真正面から対抗している。
 
 レミリアの怒りが臨界に達した。

 右手に灼熱の槍を召喚し、高速で突き出す。
 貫いたのは、ゴリラの残像だった。謁見の間で見せたのと同じ、吸血鬼に迫るスピードだ。
 移動先は上空。レミリアはすぐに追走し、広範囲に光弾をばらまいた。
 一瞬、ゴリラは停止し、しかし慣れた動きで、それらを回避していく。
 その無駄の多い踊るような体捌きは、弾幕ごっこのそれだった。
 同高度に達したレミリアは、懐からスペルカードを取り出し、空中に並べる。空はまだ晴れたままだ。日傘は手放せないが、ハンデとしてはふさわしい。

「いいだろう! お前が勝ったら、花壇の件は不問にしてやる! ただし私が勝てば、想像を絶する苦しみの果てに、地獄に送ってやるからな!」

 怯えるどころか、ゴリラは太い親指を立て、短い首の前で横に切った。
 いい根性してやがる。
 肉食獣の笑みを宿したレミリアは、森の王の皮をかぶった愚かな妖精に、怒濤の弾幕を仕掛けた。




 ◆◇◆




 それから、時計台の短針が一回りした頃、吸血鬼の王は、紅魔館の廊下を憤然と進んでいた。
 飛んでいるのではない。歩いているのである。わざわざ、泥に汚れた靴で、絨毯を踏みにじるように、音を立てて。
 発せられる怒気に、窓ガラスが順に鳴り震え、折悪く姿を見かけたメイドは皆、一目散に逃げ去った。
 破けた帽子、所々すり切れた衣服をまとったレミリアは、彼女達に目もくれず、真っ直ぐ三階の自分専用のお茶室へと向かう。
 扉を叩き壊す勢いで開け、中央のテーブルに向かい、乱暴に引いた椅子に腰掛け、

「咲夜っ!」

 鋭く名前を呼ぶと、すぐにメイド長が姿を現した。
 レミリアは手短に要件を伝える。

「この煮えたぎったはらわたが少しは落ち着く飲み物を用意しろ。それと、すぐにここにパチェを呼んで来い!」
「かしこまりました。パチュリー様〜」

 咲夜が間延びしたソプラノヴォイスで呼ぶと、近くのテーブルの下から、パチュリーがのそのそと這い出てきた。

「さすがレミィ。私がここに潜んでいることに、気づいていたのね」
「……いや……ごめん……全然気がつかなかった」

 レミリアは困惑し、冷や汗を顔に浮かべて、正直に答えた。

「っていうか何で、そんな所に入ってんのよ」
「レミィが驚いて喜ぶかと思って」
「確かに驚いたけど、あんたをテーブルの下に置いて喜ぶ性癖は持ち合わせてないわ」

 おかげで、と言っていいかどうか分からないが、全身に膨れあがっていた怒りは、いくらか抜けてしまった気がしたが。
 そんなことをしている間に、ケーキスタンドまで含めたお茶のセットを、咲夜が用意し終えている。
 彼女が準備を始めている間、レミリアは速やかに、魔女に対する尋問を始めた。

「さぁ、さっさと説明しなさい。あのふざけた着ぐるみの秘密を」
「さっきはどうでもいいとか言ってたじゃない」
「今は気が変わったのよ。いいからさっさと聞かせなさい」
「ただの妖精に、弾幕ごっこで負けたのがそんなに不満?」
「負けてない、あれは引き分けだっ」

 犬歯を見せながら反論する。それすらも、本来のレミリアであれば、絶対に認めたくない結果ではあったが。
 しかし、弾幕を全て回避し終えたものの、疲れて屋上で大の字になって動けないゴリラと、これでもかとスペルカードを浴びせて疲労困憊で膝をつく自分。
 第三者が見ればどちらに旗を揚げるか。難しいところではあった。それに腹が立つのだ。

「問題はあのぬいぐるみ。ゴリラスーツよ。あんた一体どんな改造を施したのよ。炎に自分から飛び込むわ、私の魔力は受け止めるわ、グングニルを空手チョップで叩き折るわ……常識外れで無茶苦茶だわ。中身は偽造金貨で雇った、神社の巫女だったりしないでしょうね」
「強化の魔法を四重にかけてみたわ。耐熱効果、耐水効果、放射能や化学兵器に細菌類、その他五行のあらゆる属性に対抗できるように作られている。加えて身体能力も向上。例え非力な妖精でも、吸血鬼の速度に反応し、腕力で競えるレベルに引き上げることができる。防御面は優秀だけど、代償として弾幕のような複雑な出力や、言葉を失ってしまうのが問題点ね。それらを除けば、あの着ぐるみは、私が二日間徹夜して心血を注いだ、芸術品とすらいえる、ぬいぐるみよ」
「………………」

 つまりあれは、この頓珍漢な魔女が生み出した、妖精ですら戦闘用サイボーグと化す、パワードスーツということらしい。
 これにて、紅魔館の戦力が大幅に増大したことは間違いなかろう。だが、主人の地位を揺るがす程の強さを持つ兵隊など、望むところではない。

「目的は一体何さ。私にゴリラで幻想郷の天下を獲らせるつもり?」
「知的好奇心もあったけど、レミィと貴方の妹様が、喧嘩して破壊した、西館の再建のための装備でもあるわ」

 不意をつかれて、レミリアはカップを持ったまま、絶句した。

「瓦礫の片づけだけでも大変らしくて、門番隊の多くが今も駆り出されてるって聞いてね。作業の足しになるんじゃないかと思ったの」
「………………」

 脳裏に、正門近くで花壇の世話をしていた、門番隊の隊長の姿が思い浮かんだ。
 火傷しそうな叱責や、冷たい皮肉の一つも混ぜず、淡々とパチュリーは告げてくる。訓戒に対してすら小食な吸血鬼にも、飲み込める程度の温さで。
 この友人は、自分の性格を、よく理解していた。

「力仕事には向いてるけど、量産体制に入るのはまだ無理ね。今の時点ではコストがかかりすぎるから」
「……しなくてもいいよ。紅魔館をゴリラの要塞に変えるつもりはないわ」

 落ち着きを取り戻したレミリアは、腕を軽く組んで、人差し指を噛み、テーブルの上を睨んだ。
 運命の糸に手を絡め、その手触りで仕分けしつつ、自らにとって最も有益な、その手応えを選び抜く。

「咲夜、あの妖精ゴリラのことだけど」
「承知しています。メイドの不徳は責任者である私の落ち度です。お詫びいたします」
「明日から私の側近にしなさい」

 驚いた表情を見せたのは、咲夜だけではなく、パチュリーもだった。
 側近、つまり、紅魔館の当主であるレミリアを補佐する、最重要職。すなわち、歴代のメイド長にしか許されていない役職である。
 一介の新人に任せるべきポジションではない。しかしこの館では、主人の命令こそが絶対である。その気になれば、一声でメイド長はクビになり、時にはキングコングがそのポジションに昇進することすら可能なのであった。

「あのゴリラ、八つ裂きにしたくなるほど生意気だけど、根性が気に入った。私の元でみっちりしごきまくってやる。たがが着ぐるみの分際で、この夜の王に楯突いたこと、思い知らせてやるわ」

 くくく、と忍び笑いを漏らす吸血鬼の目には、炎が宿っていた。蝙蝠の翼も禍々しく震えており、その背後には黒いオーラが燃え盛っている。
 咲夜とパチュリーは、互いに顔を見合わせた。そして、こっそり同時に肩をすくめて、やれやれといった感じのポーズを取った。




◆◇◆




 とりあえず咲夜に、引き継ぎ、指導を今夜までに完了させ、明日からゴリラを、レミリア専属メイドに配置させることを約束させた。
 「一日でお気に入りとは妬ましい話ですわ」などと彼女は嘆いていたが、それが本心でないことは、表情を見る限り明らかであった。
 予想通りというか、傍観者の魔女は冷やかしてきたものの、レミリアはきっぱりとそれを無視した。

 今は、すぐに寝室へと向かわず、館の中を歩いている所である。秘かに、ゴリラとまた遭遇しないかと、期待しているのであった。
 根性が気に入ったというのは嘘ではない。あそこまで歯ごたえがある存在、それを屈服させた時の快感は、どれほどのものだろうか。
 何よりも、『片腕』だけだった自分に、『両腕』が揃うかもしれないのだから。

 ――いないわね。まあ、焦らなくとも、会う機会はいつでもあるか。

 レミリアはゴリラとの再会を諦めて、睡魔に従い、予定通り三階の寝室へと向かうことにした。
 だが、階段を一つ上がったところで、足が止まった。

 息が一瞬詰まり、眠気が吹き飛ぶ。
 その視線の先に、見てはいけない存在の、後ろ姿があった。髪の色と服装、そして、歪な形をした七色の羽根を除けば、自分とうり二つの存在。
 共通の気配を持つ同族、吸血鬼。

「フラン……」

 廊下に立っていた金髪の少女は、こちらに気付いて振り向き、会釈した。

「あら、お姉様。こんにちは」
「……何してるの?」
「何って、自分の家を歩いちゃいけない規則でも作ったわけ?」
「あんたは今、地下室に監禁中よ。忘れたかしら」
「ええ、忘れてしまったの」

 悪びれもせず、人間の子供のように、手を後ろで組んで、舌を出す。
 だが、細められた、自分と同じ血色の瞳は、どこまでも禍々しく、剣呑で、小賢しい。

「本当に忘れてるとしたらどうする? それなら、お姉様のやることも決まってるんじゃないかしら」

 こき、とレミリアの指の関節が鳴った。
 その妹、フランドール・スカーレットは、嘲笑を貼り付けたまま、広げた掌をゆっくりと、腰の横に持ってくる。
 閉じた窓が並ぶ廊下に、風が吹き始めた。天井の燭台が明滅し、二つの怪物の間が揺らめき始める。
 目に見えぬ大蛇の群れが、互いの先鋒を喰らいあうかのように、殺気立った空気が艶めかしく動いた。

 だがしかし、妹の方が先に、肩を小さくすくめ、

「冗談よ。ちょっと散歩したくなっただけ。今から戻るわ。おやすみ、お姉様」

 そう言って、殺気を消したまま、フランドールは姉の間合いに、堂々と侵入してきた。
 レミリアは彼女を睨み続ける。自らの側を通り過ぎていく間も。ついに、彼女が七色の羽根の生えた背中を、見せている間も。

「そう言えば、ゴリラを雇ったんだって?」

 階段の下に消える前に、彼女は踊り場からこちらを見上げつつ、聞いてきた。
 黙って見送る予定だったレミリアは、意外に思いつつ、問い返す。

「あんたはゴリラに会ったの?」
「いいえ、図鑑でしか見たことありませんわ」
「……あいつは明日から、私の専属メイドにすることにした」

 そう答えてやると、フランドールは、こちらが予想した以上の反応を見せた。
 体を後ろに傾けさせ、目を丸くして、何度か瞬きする。

「えっ、嘘。専属? 何で?」
「気に入ったからよ。咲夜はあんたのおかげで、今は使い物にならないしね」
「……もろいねぇ。人間って。でも、当てたのは私じゃなくて、お姉様だったけど」

 飛ばした棘が、さらに大きな棘を連れて戻ってきた。
 再び距離を挟んで、睨み合うものの、今日はお互い闘う意志まで到らないことは、互いになんとなく悟っていた。

「……じゃあ、ゴリラによろしくね〜」

 ひらひらと動く少女の手が、踊り場の下に消えていく。
 彼女の気配が完全に去ってから、レミリアは肺にため込んでいた空気を、残らず吐き出した。
 ほんのわずかな時間で、体力も気力も一瞬で奪い去っていく。夜の王の宿敵にして……天敵。
 だがそれが、血を分けた唯一の、年下の肉親というのは、何という運命の皮肉だろうか。
 鏡の向こうにいるのは、自分が御することのできない、本物の怪物なのだ。








第三章

 ある瀟洒なメイド長の証言

「私に出来ないことが出来る優秀なメイド。それがあのゴリラですわ」









 紅蓮の炎が、身を焦がしていく。
 苦痛を漏らすための肺ですら、焼き滅ぼそうとするかのように。
 視界が自分の出す煙で、真っ黒に染め上げられた。だが、悲鳴を上げる力も招集し、右腕を何とか持ち上げる。
 
 煙が晴れ、暗雲で覆われた空から、光る悪魔が飛来してきた。
 迫りくる四つの影に向かって、右手の指を広げて伸ばし、力を放つ。
 牽制にしかならなかったが、効果はあった。襲撃の体勢にあった三つの影は、魔弾に触れて霧散する。
 しかし、唯一残った影、虹色の羽根を持つ、金髪の悪魔だけは別だった。
 灼熱の大剣を構えて、狂気に満ちた笑みを浮かべ、力任せに振り下ろしてくる。

 それは見事に、自分の体を、縦に半分にした。
 だが、ダメージには至らない。
 分散した肉体、数百匹の蝙蝠が、今度は逆に牙を剥いて、敵に迫る。
 金髪の悪魔は舌打ちして、剣を振り回しながら、細かい攻撃をやり過ごしている。

 手番を握り、実体化に成功し、今度はこちらから、怒濤の攻撃を仕掛けた。
 紅い悪魔。その異名が示す通りの、鮮烈な赤い光が、相手の体に向かって注がれる。 
 暴走する吸血鬼の血が、争いを求めて、止まろうとしない。
 今も、戦闘の快楽に、笑いが止まらなかった。

 そして、体勢の崩れた相手を追いつめるうちに、ついにその運命を手に入れた。
 一匹、大技にまぎれて相手の側に仕込んだ蝙蝠が、爆発を起こしたのだ。
 致命傷には程遠い。だがしかし、向こうの意識がわずかに逸れるのを感じ取った。
 わずかに開いた隙に向けて、手に溜め込んだ魔力を尖らせ、全力で投げつける。

 殺った。それは確信に近かった。
 しかし流石に、五百年近い宿敵と言うべきか、金髪の悪魔はレミリアの一撃を、必死の力押しで跳ね返した。

 その魔力の槍は、ほんのわずかな運命の糸に導かれ、予想もしない角度へと飛んだ。

 二人を止めに入ろうとした人影と、槍が交錯した。
 銀髪のメイド長の体が、角度を変えて地面に向かい、大きく弾んだ。

 戦闘の興奮が消失し、冷気が頭上から、全身に入り込んできた。
 思わず敵に背を向け、従者の元へと急ぐ。何度も、その名を呼びながら。
 地面を横転し、うずくまったまま動かない、華奢な体躯。
 彼女を助け起こすと、手がべとべとしたもので汚れた。赤く、それでいて食欲をそそる、高貴な液体……。


「……夢ね」


 冷たく吐き捨てるように、レミリアは世界に向かって呟いた。

 その呪文を呼び水にして、意識は急速に醒めていった。




◆◇◆




 両目が開き、慣れた天井の光景に移り変わった。
 棺桶の蓋の裏などではない。薄紅のレースが掛かった天蓋である。
 レミリアの寝室にある、王侯貴族にもふさわしいベッドだ。寝心地の良さには自信があるが、夢のリフォームまではしてくれないらしかった。
 それでも、連日上映されれば、悪夢も次第に慣れてくる。吸血鬼の見る夢は、頭に浮かぶ脳が作りだした幻想なのか、体を巡る血が語る陰惨な物語なのか。
 前者なら悪い冗談だと思うし、後者なら甘んじて受け入れたくもなった。嘘だけど。

「ん…………」

 鼻にかかった声を出しながら、寝返りをうつ。
 するとそこに、昨日のゴリラが鎮座していることに気付いた。

「…………っ!?」

 反射的に、力任せに突き飛ばす。
 寝間着姿でベッドの上に仁王立ちし、レミリアは仰向けになったケダモノを睨み下ろした。

「なんだ貴様は!? 誰の許可を得て入ってきた!」

 指をさして一喝すると、ゴリラは抗議するように、片手でこちらを指し返しながら、反対の手をばたつかせてくる。
 不思議な踊りを見るうちに、事情を思い出してきた。

「……ああ、そうね。あんたは今日から、咲夜の代わりだったわね」

 怒りを収めて、広げていた翼をたたみ、レミリアはベッドに腰掛ける。
 ずいぶん寝てしまったらしい。窓は無いが、柱時計の文字盤は、あれからかなりの時間が過ぎていることを示していた。
 いつもならメイド長に髪を梳かせ、着替えを手伝わせるのだが……。

 レミリアはゴリラの方を見た。こちらの様子を見守っていたその着ぐるみは、短い首を傾げて、額に手を当ててくる。
 ひょっとして、具合を心配をしている、というジェスチャーなのだろうか。

「何でもないよ。悪い夢を見ただけ。一人で着替えられるから、外に出てなさい」

 レミリアが頭からその手をどけると、ゴリラは待ってましたとばかりに、綺麗にたたまれた洋服を、取り出して見せた。
 しかも寝覚めの紅茶、寝汗を拭くタオルから専用の櫛まで、次々と室内に用意されていく。
 完璧だ。

「へぇ、咲夜の指導は間に合ったのかしら」

 だが、誉めたその後がいけなかった。
 新米の従者は、レミリアの三倍はあろうかという、太い指を生やしたチョコレートパンのような手で、お茶を用意し始めたのだ。
 当然ながら、見ていて危なっかしい。さじを持つ手は震えているし、動く度に、陶器のポットとカップがぶつかり、音を立てる。

「あー、いい、いい。やらないでいいから。あんたにお茶を煎れさせたら、絨毯が台無しになる運命だわ」

 馬鹿にしたわけではなく、これが地の口調なのだが、ゴリラは怒って拳を回し始めた。
 危ない。この位置だとティーセットが非常に危ない。

「わかったわかった! あんたの働きは優秀よ。だから外に行って、朝食の準備を用意してきて。そっちの方がありがたいから」

 そう宥めつつ追い払うと、ゴリラは不承不承といった態度を隠そうともせず、のっしりのっしり歩いて、部屋を出て行った。
 一人残ったレミリアは、お茶を飲み干し、着替えの服に腕を通しながら、舌打ちして思い直す。
 ゴリラの機嫌を取ってどうするのだ。いつから自分はそんな程度に成り下がったのだ。
 今日一日で、どっちが偉いか、両者の関係と立場の差を、みっちり教育してやらなくては。




◆◇◆




 便宜上、朝食という言葉を使ってはいるものの、吸血鬼のそれは正確には夕食、日没後の夕焼けを眺めて食べるブレックファーストが常である。
 そしてレミリア・スカーレットの行動時間も、日没と共に始まり、夜明けと共に終わる。光を避けなくてはならない夜の住人としては規則正しい生活だといえよう。
 とはいえ、ここ数年は日中に活動する知り合いが増えたせいか、起きる時間が日によってバラバラになっていた。
 今日の場合も、まだ日の入りには時間がある。自分に仕える側近は、常にそのランダムなサイクルに合わせて、スケジュールを調整しなくてはならないのである。

「そもそも、私が食べている間も、きちんと側に控えて待ってなきゃいけないのよ、わかる?」

 専用の食堂に用意されたテーブルで、堂々と先に着席していたゴリラに、レミリアはきつく述べた。
 だが、この新たな従者は全く気にしてないらしく、何やら上機嫌でレミリアを迎える。外見がゴリラだと、中身もそれに応じて太々しくなるのかもしれない。
 朝食前から汗をかいたり、埃をかぶりたくなかったので、仕方なく、椅子に座ったレミリアは、自分でパンにジャムとバターを塗ることにした。

「そう言えば、ゴリラって何を食べるのかしら」

 パン切れをちまちま口に運びながら、独り言を漏らす。
 別にこの同席者に対する疑問ではなく、野生の本物のゴリラに対する疑問だったのだが。
 少し気になったので、レミリアはテーブルに置かれた小振りのベルを鳴らした。
 時を操るメイド長は、一秒と待たせずに現れる。

「お早うございます、お嬢様。ゴリラの調子はいかがですか?」
「お早う咲夜。ゴリラはぼちぼちよ。そして唐突だけど、ゴリラって何食べるか知ってる?」
「では、聞いてみますね」
「いやそいつじゃなくて」

 主人の否定をさらりと流し、咲夜は何やら、ゴリラの耳打ちを受けている。
 これでも地獄耳で通っているのだが、レミリアにはさっぱり声が届かなかった。
 やがて咲夜は、もう一人の従者の意思を伝えてくる。

「お嬢様が今召し上がっている、プリンが食べたいそうですわ」
「プリン!?」

 レミリアは自分のデザートを凝視し、さらに大きく見開いた眼で、ゴリラを食い入るように見つめた。
 その外見で、この甘美な洋菓子を食すだと。
 まさに美食と野獣、プリンとゴリラだ。

「えーと、他にはクッキー、チョコレート、アイスクリーム、ケーキ……」
「甘党なのね」

 そう言えば、妖精は花の蜜とか、甘い物を好むんだっけ、とレミリアは思い出す。
 まぁ自分だって咲夜だって、似たような嗜好は持っているのだが。

「プリンでしたら、お嬢様のために、たくさんストックしてありますわ。一つ分けて差し上げてはいかがでしょう」
「却下。こんな穀潰しのゴリラには、プリン一個だって勿体ないわ」

 間髪入れず、ぶぉん、と太い腕が唸りをあげて、こちらの側頭部を襲ってきた。
 予想していたレミリアは、屈みながらそれを回避し、敵の座る椅子を横に蹴飛ばす。
 一足先に、ゴリラは空中へと飛び上がり、上から怪鳥の如く躍りかかってきた。
 勢いに乗った巨体を受け止めながら、レミリアは床の上を横転し、格闘する。

「咲夜! 手を出すなよ!」

 動きかけたメイド長は、命令に従った。
 レミリアは吸血鬼に許された怪力を最大限に用い、再び覆い被さってきたゴリラをひっくり返す。
 すぐに顔面を殴りつけた。怯んだ隙に、相手の両腕を、足と片手でしっかりホールド。
 押さえ込みに成功したレミリアは、じたばたと体を揺り動かすゴリラを、床に縫いつけることに成功していた。

「今度は私の勝ちだな! 貴様も紅魔館の一員なら、潔く敗北を認めろ! それが嫌なら、今すぐここから出て行け!」

 ゴリラは大きく抵抗した。レミリアの瞬発力を揺るがすほどの力で。
 しかも、着ぐるみ越しに伝わってくる闘気は、まぎれもなく戦士のものだ。
 それに怒るよりも、どうしても太い笑みが浮かんでしまう。

「やはり私の見込んだとおりだ。この私の重圧を受けても、怯むどころか刃向かってくる。実にいい素材だよお前は」

 体の下の着ぐるみの動きが、わずかに鈍くなった。

「かつては、そこにいる私の従者も、お前と同じ目をしていた。たかが人間の小娘の分際で、何度私にナイフを向けたことか。だがそれこそが、私が求める才能だ。お前の内に眠る獅子の誇り、いや、ゴリラの気概が、私はとても好みだ」

 言葉は話せなくとも、聞く耳は持っているらしい。
 レミリアは徐々に手綱を締めていく。ゴリラの抵抗に、評価を与えつつも、それを宥め聞かせるように。

「けどね。それでも今のお前は、私の従者なんだ。だからせめて、従者らしい所を、私に見せてみなさい。満足に値する働きをするなら、プリンを分けてやらないでもない」

 ついに、着ぐるみの存在は観念したのか、動かなくなった。
 立ち上がったレミリアは、服についた塵を払い、何でもない様子で、席に着き直す。
 ゴリラはしばらく、仰向けになっていたが、やがて起きあがり、近くまでやってきた。
 何をするかと思えば、『彼女』はレミリアの匙を取り、プリンをすくって、こちらに持ってくる。

「……それがあんたの仕事?」

 呆れて問うものの、ゴリラは無言で頷き、黄色いゼラチンを乗せた金のスプーンを伸ばした。
 仕方なく、レミリアは「あーん」と口を開けてやった。もぐもぐと頬を動かし、甘い塊を飲み込む。
 またゴリラが甲斐甲斐しくプリンをすくう度に、口を開ける。
 様子を眺めていた咲夜が、笑い声を漏らした。

「幸せそうですわ、お嬢様」
「ま、元はあんたが作ったプリンだからね」

 仏頂面のまま、レミリアはまた「あーん」と口を開けた。
 しかし、ゴリラの手で味わうプリンというのも、なかなか乙な味ではあった。




◆◇◆




 朝食を終えたレミリアとゴリラは、紅魔館の二階の廊下を歩いていた。
 高いアーチ型の天井が続くのは、屋敷に住む者の多くが、空を飛んで移動しているからだ。
 照明は等間隔に備え付けられた燭台だが、実際は蝋燭や油ではなく、魔法薬が使われていた。妖精の悪戯で火事になるのを防ぐためだとか。
 吸血鬼に日光は不要なため、特に南側の廊下には、窓が少ない。その数少ない窓の外の光景は、雨模様であった。

「この天気じゃ、外出できないわね。主人を退屈させないのも、従者の務めよ。覚えておきなさい」

 そんな新しいコンビが歩く廊下の左右には、ずらりと扉が並んでいる。
 小部屋から大部屋まで、蟻塚の如く形成されているこの館の内部は、住人が迷わないための仕掛けが、いくつか施されていた。
 昨日咲夜が説明した、扉に印された色のマークもそうだし、案内板も一定の間隔で設置されている。
 他にも目安の一つとして、階層ごとのルールが存在していた。
 重要な部屋は、本館の二階より上にあり、メイド達も掃除以外では立ち入ることのできる部屋は少ない。
 三階のレミリアの寝室に至っては、扉の前に立つことすら許されないのだ。

「けど、私の世話役である側近は、話が別。つまりあんたも、その権利を有しているわけよ。光栄に思いなさい」

 しかし、さっきから、ゴリラの反応はいまいちだった。今にも鼻をほじり出すんじゃないかと思うくらい、上の空という感じでレミリアに付いてくる。
 ニホンザルにスペイン語で宇宙論を説くような気分である。野生動物も妖精も、この有り難みがわからないらしい。
 レミリアは諦めて、話題を変えることにした。

「……そういえば、あんたは今、メイドの宿舎で寝泊まりしているの?」

 重要ではない部屋の類、すなわち館内に住み込んでいる妖精メイドが使う部屋は、主に本館の一階に集中している。
 他にも、門番隊とメイド隊が共通で使う宿舎が、東館にあり、大抵のメイドはそこを利用していた。
 本館に寝床を持つのは、重要職に就いている、一部の存在だけだ。

「その中でも、私の側近は、二階にある個室を使うことを許される。今は咲夜だけだけどね。使ってない部屋はいっぱいあるから、あんたにも一つ……」

 そこでレミリアは、途中で札の下がった扉を見つけ、足を止めた。
 札には「ごりらの部屋」と書かれている。

「なんだ、もうあるんじゃない。用意がいいわね。どんなものか見せてもらおうか」

 ゴリラはクエスチョンマークを浮かべた頭を、人差し指でぽりぽりと掻いていた。
 レミリアはその仕草に気付かず、遠慮無くドアノブに手をかける。

 突然、扉が開くと同時に、何かが飛び出してきた。
 いや、飛び出してきたというよりも、部屋の中から発射されたといってよい勢いだった。
 正面に立っていたレミリアは、それに反応する前に、横からゴリラのタックルを受けて、無理矢理移動させられる。
 二人が回避した空間を、ギザギザの牙を生やした大きな『果物』が喰らいついた。
 鼻につく青臭さをまき散らしながら、緑の茎で出来た体をくねらせ、またこちらに、大きく開いたあぎとを向ける。

「なんだこの化け物は!?」

 罵声を上げるレミリアに向かって、怪物は再び迫ってきた。
 だが、牙に飲み込まれるよりも早く、レミリアのグングニルが、その頭部を焼き滅ぼした。
 残った茎が、ヤニを喰らった蛇のようにのたうち回り、部屋へと引っ込んでいく。
 レミリアとゴリラは、警戒しつつも、二人でその部屋をもう一度覗いた。

 紅でコーディネートされた壁紙が、四角い扉に切り取られ、その向こうに広がるのは、緑を基調とした極彩色の世界だった。
 端的に言うなら、そこはジャングルであった。
 苔を生やした大木が、部屋を斜めに走っており、他の木々にも蔓が巻き付いて、天井を葉で覆っている。
 奥からは新種のカラスのようなけたたましい鳴き声が聞こえており、ドアの前を巨大なトンボがいくつか飛び去っていく。
 先程の怪植物らしきものは、シャンデリアに絡みついて蠢いていた。
 床に生い茂った草の間には、水が染み出していて、凶悪な挟みを持ったザリガニが歩行していた。

「………………」

 認めたくはない。しかし、これが外界の密林へのワープホールじゃないとすれば、こんなことをしでかした、ど阿呆の見当はつく。
 ジャングルの奥で、オレンジの火の手が上がった。
 緑色の巨人のような物体が、腹に響く呻き声を上げて倒れ、ここまで地響きが伝わる。
 さらに森の奥に、頭にガスマスクのようなものを装備し、全身を葉のついたカーキ色の防護服で覆った、二足歩行の存在が見えた。
 鬱蒼としたジャングルを、窮屈そうにして、その怪人はこちらにやってくる。
 ゴリラが警戒して攻撃を仕掛けようとするのを、レミリアは手で制した。
 ようやくこちらに辿り着いた、重装備の存在に、半眼で問いかける。

「念のため、確かめておこうか。貴様は誰だ」
『(ゴーホー)私よレミィ』

 声質がくぐもっていて、謎の呼吸音が混じることを除けば、それは紅魔館のトラブルメイカー、パチュリーの声に他ならなかった。

「じゃあ次に聞こう。この有様はどういうこと」
『(ゴーホー)ゴリラにはジャングルがふさわしいと思って、試しに実験してみたの。(ゴーホー)魔界から仕入れた種が変な作用を起こしたらしくて、予定とはちょっと違うものが出来たけど』

 彼女の背後の様子を見る限り、ちょっと違う、で済む状況にはとても思えない。
 この部屋を数日開け放っておけば、そのうち紅魔館ならぬ紅魔界が誕生すること請け合いである。
 ゴリラは部屋の惨状を見て、逃げ出してしまった。
 レミリアだって似たような行動を取りたいものだったが、館の主としては、すぐに行わなくてはならない義務がある。

「厳命よパチェ。今すぐこの部屋の中を、跡形もなく焼き払いなさい」
『(ゴーホー)ええ? せっかく召喚したのに……』
「さもないと、図書館の方を焼き払って、あんたをここに住ませるけど。どうする?」

 図書館を焼き払うと聞いて、魔女は感電したかのように背筋を伸ばした。
 そして、腕を組んで額に青筋をたてる友人と、背後の惨状を見比べてから、わずかに震える声を発する。

『(ゴーホー)…………レミィ、お願い。手伝って……』

 レミリアは、にっこり笑って、指を絡めて祈る防護服を、ジャングルの中に蹴り戻した。




 ◆◇◆




 果たして、空き部屋が元通りになるか、紅魔館の動かないジャングルが誕生することになるか。
 枝分かれした運命に、適当に手を加え、レミリアは愚かな友人の健闘を祈った。
 今は、姿を消してしまった、あのゴリラの行方を捜している。
 至極当然というべきか、あの輩には、パチュリーのジャングルはお気に召さなかったようだ。

 ――それにしても、私を置いて逃げ出して、勝手にどこかに行くとは……。

 頭に血を上らせて探していると、廊下の途中で、掃除をしている妖精メイドに出会ったので、レミリアは呼びつけた。

「お前達、ゴリラがここを通らなかった?」
「え、ゴリラちゃんなら、さっきそっちに行きましたけど……」

 そこまで聞いて、礼も与えず、レミリアは再び廊下を進む。
 だが飛んでいる内に、苛立ちが徐々におさまり、先程起こった出来事について、考える余裕が生まれてきた。

 ――あの時あいつは……私を……。

 ジャングル部屋のドアを開けた時のことである。
 ゴリラはあの時、レミリアに体当たりをして、中から飛び出てくる怪物から遠ざけようとした。
 あれは、どう解釈したとしても、反射的に主人の身を守ったような行動にしか思えなかった。
 どんな者でも、本当の危機の際に、その本心が現れるものだ。
 もちろんレミリアは、あんな怪物ごときに手傷を負うとは思わなかったが、身を挺して仕える者を守るあの行為は、従者の見本ともいうべき姿勢に思えた。

 ――見つけたら、少しねぎらってやろうか。

 レミリアは歩調を変えて、ゴリラの行方探しを続けた。
 だが、紅魔館の最奥ともいえる場所で、目的の存在を見つけ出した途端、再び血液が沸騰する感覚を覚えた。
 黒と灰色の毛のぬいぐるみは、頑丈な鉄製の扉の前に座り、鍵をいじっている。

「貴様っ!!」

 ゴリラがこちらに気付き、大慌てで手足を動かす。レミリアはその腕を掴み、乱暴に引っ張っていって、壁に叩きつけた。

「お前が咲夜の許可を得て私の寝室に入るのは、百万歩譲って許そう! だが、あの扉の奥へ行ったりしたら……その時は本気で殺すわ!」

 館の主人の豹変ぶりに、従者の方は肝を潰しているようだった。
 事実、レミリアの腕には、朝食の際の喧嘩どころか、昨日の決闘を上回りかねない程、濃密な殺気がこもっていた。
 それが、ある種の畏怖の念から生まれているということに、本人も気づいていなかったが。
 かぎ爪のように、着ぐるみの喉元に食い込んでいた指先を、レミリアは緩め、解放してやった。

「……まぁ、私が命を奪うよりも先に、あんたがあいつに破壊される運命の方が近いかもね」

 口調には皮肉を混ぜてみたが、笑みは上手く作れなかった。ため息が一つ出ただけだった。
 二人から遠くなった扉、妹の眠る地下室へと通じる門を、吸血鬼は見つめる。
 昨日会った様子では、彼女がゴリラにそこまで興味を持った様子はなかった。だが、相手は姉の自分ですら、行動や思考の読めない爆弾である。
 せっかく手に入れた期待の従者を、玩具にされるわけにはいかない。

「ここから離れましょう。どこだっていいわ。外出できないんだから、何かして遊ぶんでもいいし……」

 ふと、壁についたゴリラの後頭部に隠れているのが、紅魔館の案内板であることに気付いた。
 レミリアは従者をどかし、ふむ、と腕を組んで考える。

「こうしてみると、うちも本当に広いわね」

 ぬっ、とゴリラの顔が、横から案内板を覗いてきた。

「……よし決めた。お前に運命を選ばせてやる。どこに行きたいか示しなさい」

 ゴリラは太い指で、図書館をさす。

「却下。パチェは今ジャングルの魔女だし、こんなじめじめした日に、さらにカビ臭い所に行くなんて」
 
 そう言うと、黒真珠のような瞳が、こちらをじっと眺めてくる。その奥の存在が、ジト目になっている気がした。

「何よその目は。私だって、本を読みに入る時くらいある。今日は気分が乗らないだけ」

 読書といっても、挿絵が少なくて活字が多いのは苦手ではあるが。
 仕方なさそうに、次にゴリラが指さしたのは、音楽部屋であった。

「あら、いいわね。私のヴァイオリンが聴きたくなった?」
 
 そう言うと、ゴリラが別の場所を指そうとしたので、レミリアはその手首を掴む。

「なんだその真似は。私の腕が信用できないっていうのか」

 ゴリラは慌てて首を振って、外の雨模様を指さした。
 つまり、この天気じゃ音も悪くなるので、せっかくの演奏も台無しだろう、ということらしい。
 なんだか言い訳じみていて釈然としなかったが、譲ってやることにする。

 それからしばらく、場所決めで意見がぶつかり合った。
 ブリッジでもしようかと誘ったが、ゴリラの太い指には、トランプは合わないようだった。
 つまみ食いをしに厨房へ行くというアイディアが出たが、あんたは目立ちすぎるのでダメだ、とレミリアは却下した。
 アフリカにふさわしく、モケーレムベンベごっこを提案すると、ゴリラは馬鹿にしたジェスチャーで、やれやれと頭を振った。 
 ついにはレミリアの方が癇癪を起こし、

「あのねぇ、少しは妥協してみたらどうなのよ。あんたは私の従者なのよ。せっかく主人が付き合ってあげてるんだから……」

 するとゴリラは、いきなり、いいことを思いついた、とでも言いたげに、両手を叩き始めた。
 そして、今度『彼女』が指さしたのは、なんと玄関だった。これにはレミリアも呆れ果て、

「外出はできないんだっつーの。吸血鬼について、咲夜から習わなかったの? 我々は流れる水を嫌う。雨だってその一つ。こんな天気の中、外に出るなんてまっぴらごめんよ」
 
 ゴリラはどん、と胸を叩き、「待っててくださいお嬢様」とジェスチャーして、廊下をぴょこぴょこと走っていった。
 数分後、戻ってきたゴリラの手にあったのは、特大のコウモリ傘だった。




 ◆◇◆




 結局、ゴリラの誘いに乗り、レミリアは雨の中、紅魔館の外に出ていた。
 吸血鬼は雨が弱点だ。いくら傘がゴリラと自分を隠せるだけの大きさを持っていても、空を飛べば風雨に濡れることになる。
 つまり地上を低く飛ぶしかないわけだが、ゴリラの用事はそれで足りるようだった。
 歩く度に、しばらく履いていなかった長靴が、踵に引っかかる。ゴリラの方は、足が濡れることを気にしていないらしい。

 着ぐるみの従者がレミリアを連れてきたのは、昨日の二人の諍いの原因となった、あの花壇だった。
 今まで眺める機会など殆ど無かったのだが、満月の晩や日中とは違い、雨の中で見る花というのは、また違った独特な雰囲気がある。
 色違いの涙を流すバラ達……というのはいささかそぐわない表現だった。
 むしろ、水に濡れる花は生命感が希薄となり、雨天が染め上げる世界の中に、溶けこんでしまっているように映った。
 ゴリラは傘を手にしたまま、その光景をじっと見つめている。
 さっきまでの子供じみた面影は存在しない。その横顔は、大自然に哲学する、森の賢人を思わせた。
 レミリアはそっと話しかける。

「……雨で花が散らないかどうかが、心配だったのね」
 
 ゴリラは花々に顔を向けたまま、重々しく頷いた。
 レミリアが、残っていた黄色いバラに手を伸ばすと、ハッと大きな手が、それを遮ろうとする。

「今日は触るだけよ。もいだりしないわ」

 そう弁解すると、ゴリラは許してくれた。
 しばらく、指先でバラを撫でるうちに、余計なことが頭に浮かんでくる。

 ――赤と黄色のバラか……。
 
 花言葉が分からなくとも、美鈴が何を思ってこれを育てていたのかが分かった。
 赤と黄色、紫も白も。言葉を持たぬバラ達は、仲良く雨にうたれている。全く、この屋敷に似合わぬ光景に思えた。
 じゃあ何が似合うのかと言えば……。

 レミリアはコウモリ傘の下から、紅魔館を仰ぎ見る。ここから、倒壊した西館が、わずかに見えることに気付いた。 
 半ば廃屋と貸したあの建物こそ、むしろ自分……自分達には、ふさわしいんじゃないかと思う。
 果たして、あの騒ぎを起こした、もう一人の方はどう思っていることやら。

 風が少し吹いてきて、傘の中に雨粒が入りこんできた。
 そうじゃなくても、こうして雨の中に立っているというのは、息が詰まるような感情を呼び起こす。
 そろそろ、建物の中に入ることを促そうとして……レミリアはあることを思いついた。

「来なさいゴリラ。今度は、私が場所を選ぶ番よ。いいところに連れていってあげるわ」




 ◆◇◆




 ゴリラに傘を持たせて、レミリアは玄関に戻らず、紅魔館の前を横切るように歩いていた。
 雨雲の下、半分に欠けた尖塔を掲げる、崩れた西館が近づいてくる。
 周囲の瓦礫は片付けられているものの、まだ中の骨組みは見えている状態で、雨ざらしの骸を思わせる眺めだった。
 しかし、こんな雨の中でも、復興作業は行われていたらしく、殊勝な門番隊が何人か、周囲に集まっているのが遠くから見える。
 レミリアは彼女達の方へは向かわず、反対側の庭にある噴水を目指した。
 水の溜まった池の手前、白いサークルの側に屈むと、わずかに色の違う切れ目の入った芝生が目に入る。
 そこに手を乗せて開けると、取っ手が現れた。薄く笑って、ゴリラに指図すると、従者は怪訝そうに、それを引っ張り上げた。

 雨音に混じって、足元から地響きが聞こえてきた。

 今度はレミリアは、ゴリラを近くの植え込みの横に案内する。そこに、樽一つ通り抜けられるほどの空洞が出現していた。

「ずっと昔、この穴を使ってよく館から出入りしたのよ。もう使えなくなってしまってたかと思ったけど」

 さすがに、この仕掛けにはゴリラも驚いたらしい。
 表情は相変わらずなものの、低い背丈で伸び上がるようにして、中を覗き込む。入りたくてうずうずしているのを隠しきれていない。

「慌てなさんな。先を案内するのは私。雨を入り込ませないでね。傘を少し広げてついてきなさい」

 レミリアは数十年ぶりに、その地下の暗がりへと、足を踏み入れた。




 ◆◇◆




 庭園に出現した地下への階段を降り、下にあるレバーを引くと、今度は入り口が閉じていき、辺りは暗闇に変わった。
 とはいえ、地下通路は入り組んでるわけではなく、ほぼ一本道であったし、明かりがほとんど無くとも、吸血鬼の視力を持っていれば、壁に頭をぶつけるようなことはない。
 しかし、ゴリラの方は、おっかなびっくり、レミリアの服を握って放さずにいた。怖さと興奮が半分半分。そんな感情が伝わってくる。
 多少愉快な気持ちで、レミリアはその従者をエスコートした。
 
 やがて、今度は長い登りの階段にさしかかり、ついに、秘密の通路が終わった。
 扉を開けると、そこはやはり暗室。レミリアは迷うことなく奥に進み、続く扉を開く。

 急に、大部屋に出た。
 広い天井にできた穴から、外の光が差し込み、雫が垂れ落ちている。
 そのわずかな光源が、滑らかな床の一部を照らしていた。
 人の気配はまるでない。
 二人がやってきたのは、倒壊した西館、その中にある娯楽部屋の一つ、ダンスホールであった。
 貴賓席に立つレミリアは、小雨に変わった空が、わずかに窺える天井を見ながら、

「あの穴を開けたのは、私の方だったかな。でも、ここはあまり損傷が無くてよかったわね。さ、まだお楽しみは終わってないわよ」

 二人は元の扉から、暗室に戻った。




 ◆◇◆



 部屋の明かりを点けると、壁の半分を占めるクローゼット、そして鏡の無い化粧台が浮かび上がる。
 調度品の豪華さは、家主専用の部屋の証明でもあるが、本館の私室と違って、壁の色は白く、華美とはいえぬ内装だった。

「見ての通り、ここは私のドレッシングルームよ。入り口の戸の鍵は咲夜が管理しているけど、裏口から入っちゃえば関係ないわ」

 完全かつ瀟洒なメイドが、片づけを終えていないことを願って、レミリアはクローゼットの戸を引く。
 やはり運命は、自分の味方のようであった。

「ふふふ、どう? なかなかの品揃えでしょ」

 ずらりと並んだパーティードレスを、レミリアは片腕で示して自慢した。
 期待通り、野に暮らす田舎妖精とっては縁遠い場所だったらしく、ゴリラは大きく腕を上げて、驚きを表現している。
 その反応に、レミリアは気を良くして言った。

「鏡が無いのを不思議に思うかしら? しかし、そんなものは必要ない。私は私が美しいことを知っている。身繕いに時間をかけずとも十分ということさ」

 髪を撫でつけながらそう言うと、今度はゴリラは、呆れ果てたように、頭に手をやる。

「……吸血鬼は普通の鏡に映らないのよ。特注のが私の部屋にあるけど、ここには普段置いてないわ。年に数回しか使わないし。ま、今じゃ化粧とかは大抵、咲夜がやってくれるからね」

 レミリアは少々頬を紅潮させて、クローゼットの中から、着替えるのに楽な物を一つ選んだ。
 肩と背中を見せるイブニングドレス。薄い黒地に薔薇の装飾がなされたそれは、久しく着ていない気がする。
 せっかく来たのだし、一つ気分転換にでも使おうと、それと室内靴を試着場に持っていき、白いナイトキャップを脱ぐ。
 振り向きながら、覗くんじゃないわよ、と警告しようとすると、ゴリラも何やら、鼻息を荒くして、ドレスの一つを選ぼうとしているのが目に入った。
 今度はレミリアの方が呆れて、

「あんたまさか、その格好でドレスを着るつもり? 鏡に映さなくたって分かるわ。メイド服よりも犯罪的よ」

 至極真っ当なツッコミだったのだが、ゴリラは頭を抱えて、しゃがみこんでしまった。
 生きるべきか死ぬべきか……というよりも、罠の中の餌に手を伸ばせず、唸っている獣そのものだ。

「言うまでもないけど、あんたが私の前でその着ぐるみを脱いだ瞬間、ゲームオーバーだからね」

 着替えを終えたレミリアは、同じポーズで葛藤する従者を置いて、ホールへ続く戸を開けた。




◆◇◆




 いざ床に立ってみると、暗いダンスホールは、悪魔の館というよりも、幽霊城のような雰囲気があった。
 妖精メイド達の羨望の視線を浴びることも、飲み込みかけた黄色い声を耳にすることもない。
 主君を照らしだす明かりは、穴の開いた天井から差す鈍い光のみ。称える演奏は、一定のリズムを刻む雨漏りの音だけ。
 暗くてみすぼらしい大部屋の中心に、ドレスを着た吸血鬼が浮いている。いや、後からやってきた、着ぐるみ一丁のゴリラも。

 水たまりを避け、レミリアは闇に誘われるように動いた。
 ドレスの端から伸びた足が、格子と菱形の床模様の上で、ワルツのステップを刻む。
 幼い外見に見合わぬ、五百年操り続けた肉体に許される、洗練された舞踏の一幕であった。
 ハーフターンで振り向きながら、レミリアは手を差し伸べる。

「ダンスの経験はあるかしら?」

 着替え部屋の入り口に立つ、四頭身の影は、頷きもせず、首を振りもしない。
 ホールの端から踏み出せず、躊躇しているようだ。

「その中身に期待はしてはいないよ。どれだけ下手くそでもいい。ただ、ぬいぐるみと踊る経験も、ありかな、と思っただけだし」

 半分挑発を混ぜた誘いかけに、着ぐるみの従者は乗ってきた。
 拳を前後に荒々しく振りながら、行進するようにやってくる。
 これは柔道になる可能性の方が高いかな、とレミリアは観念しかけたのだが、約三歩の距離に来て、突然ゴリラは様子を変えた。
 四頭身の背筋を伸ばし、片手を胸の前に持ってきて、うやうやしく頭を下げ、勿体なくレミリアの手を取る。

「ようこそ、悪魔の舞踏場へ。貴様の勇気が、最後まで持つことを祈ろう」

 レミリアは返答を待たずに、動き始めた。
 出し抜けの開演に対し、ゴリラも慌ててついてくる……と思いきや、意外なほど自然に、ゴリラはレミリアの体を支えに回った。
 
 ならばまずは小手調べ。
 早めのテンポで足を動かし、回りながら、部屋を大きく横断する。
 間に合わずに転倒するか、あるいはパートナーに引きずられるか。
 しかし運命はどちらにも向かわず、ゴリラはまるで予想していたかのように、同じステップで体を流してみせた。
 すぐにダメだしをしてやろうと思ったレミリアにも、口を出す暇が無かった。 
 その後も、自分の動きに、ぴたりとついてきている。身体能力だけではあり得ない。
 ただの妖精にしては、教養があるらしい。退屈しのぎと侮っていたが、なかなか……。

 レミリアは悪戯心を働かせ、空中へと歩んだ。
 靴を床から浮かせたり、沈ませたり。大抵の存在は、この動きについてこられず、もたもたと足で宙を掻く。
 しかしゴリラに、慌てた様子はなかった。追いつき、追い越し、対比し、吸血鬼の動きをフォローしてくる。
 人に許されぬ動きは、ともすれば安定感に欠ける。優雅な動きというのは、飛べることとは無関係なのだ。
 けれども、短足のステップが織り成すメロディーは、じゃじゃ馬の指揮に食らいつくどころか、翻弄するように合わせてきた。
 懐かしい曲調とリズムが、体の内に流れ始め、外に表出してくる。
 格の違いを見せつけることも兼ねた、暇潰しのはずだったのだが、次第にレミリアの方が夢中になってきた。

 抱き寄せ、離し、回り、跳ねる。
 いつしか、笑い声を上げている自分に気付いた。そんな自分の声を聞いたのも、久しぶりだった。
 シャンデリアのきらびやかな光も、音楽も、ギャラリーも。何一つ足りていないのに、不思議と気分は高揚している。
 そして楽しんでいるのは、自分だけじゃなかった。それは間違いない。着ぐるみの奥から、同じような笑い声が聞こえてくる気がするから。
 しかし、何故だろう。同時に、不思議な寂寥感が、頭の奥から蘇ってくる。
 ずっと忘れかけていた、過去の切ない記憶が……。

 不意に、ゴリラが動きを止めた。
 レミリアも同時に気がつき、天井に顔を向ける。
 ダンスホールの屋根上に、気配があった。それも一人や二人ではない。ざっと数えて、五人はいる。

 ――…………誰だ?

 不審に思って、ゴリラの手を引き、物陰に移動することにした。
 間を置かず、天井の穴から、ホールに沈殿する闇の中に、次々と人影が降りてきた。




◆◇◆
 



 部下の報告を受けた紅美鈴は、現場へと急いだ。
 侵入者の可能性がある、それを聞いた時は、はぐれ妖精の悪戯か何かかと思ったが、西館というのが問題であった。
 あそこは現在も復旧作業が行われている上に、一時的に紅魔館の弱点と化しているため、最も外敵の警戒が必要とされる建物である。
 西館の外庭に到着した美鈴は、すぐに待機していた部下の一人に聞く。
 
「中の状況は?」
「損傷はありませんし、目立った破壊活動も確認できていません。けど、様子がおかしいと思ったので、隊長に報告した方がいいと思って……」
「何か異常が?」
「笑い声が聞こえるんです。ダンスホールから」

 ダンスホールと聞いて、美鈴は顔を強張らせた。
 あそこは確か、天井に一つ穴が開いていたが、紅魔館の中でも比較的頑丈であり、同時に咲夜の言いつけで、周辺の警備を強化しておいたはずだ。
 誇張無しに、鼠一匹入る隙間はない。にも関わらず、気付かれずに突破されてしまっていたとは。

「空を警備していた隊員達は、協力して結界を張っていました。穴からの侵入は考えられません。相当強力な妖怪の仕業である可能性があります。メイド長は負傷中の身ですし、万が一のことを思って……」
「いい判断だったわ。貴方達は引き続き、周囲で待機していて。そこの貴方、本館の方に連絡に行ってちょうだい。ダンスホールの包囲が終了次第、私を先頭に突入するわ」
「了解しました」

 妖精達は迅速に行動を始めた。
 常日頃からの訓練の成果であり、隊長である美鈴の人徳がなせる技でもある。
 準備を完了させた紅魔館の精鋭達は、扉をさらに厳重に閉ざした後、侵入者掃討のための、突入作戦を開始した。




 先鋒を務めた隊長の美鈴は、ダンスホールの床に、音もなく飛び降りた。
 罠や待ち伏せの可能性を考え、一人ずつ、後から降りてくる間に、周囲の気配を嗅ぐ。
 かなり広いために、目が慣れてくるまで様子は確認できそうにないが、話にあった笑い声の類は聞こえてこなかった。
 しかし、美鈴の警戒レベルは、むしろ跳ね上がる。

「いるわ……何かが」

 そう呟くと、背後に降りた妖精達の間に、緊張が流れた。

「うろたえないで。訓練を思い出すのよ。まずは身を守り、私の援護に集中すること」
「はい!」
「ただの悪戯じゃなく、お嬢様の命を狙う不届き者かもしれないわ。けどどんな相手だろうと、我らが主君には指一本触れさせない。私達門番隊のプライドにかけて、侵入者を見つけ出し、捕縛するわよ」
「了解!」

 勇ましい隊長の号令に、隊員達も張り切った声で返事した。




 一方、彼女達から離れた位置、ダンスホールの壁際にて。

「あらら、あんなこと言っていいのかねぇ……」

 大きなソファの物陰に隠れて、彼女達の様子を見ていたレミリアは、小声でぼやいた。
 幸か不幸か、地獄耳のおかげで、美鈴の熱のこもった演説も、ここまで聞こえている。
 主人の見ていない所で、ああいう台詞がすらすら出てくる忠誠心は見上げたものだし、悪い気分にはならない。
 が、部下の前で張り切って捕まえようとしている相手が、まさかその主人であるとは、考えてすらいないようである。

 ――さて、どうしたものかしら。

 このままここに隠れていても、いずれは見つかってしまうだろう。
 それで自分が何か困ったりするわけではないのだが、あの空気に水を差してしまうというのも……。

 と、立ち上がりかけたゴリラを、レミリアは引き留めた。

「ダメだって。今出たら可哀想じゃないか」

 この新米の従者には、状況がよく分かっていないらしく、首を傾げて尋ねてくる。
 レミリアは悪戯っぽく笑って、耳打ちした。

「部下の面目を潰さぬのも、主人の務めだ。あいつの忠誠心に付き合ってあげようじゃないか」




◆◇◆




 ホールの一角の空気が動いた。

 それに気がついたのは、美鈴だけだった。
 他の数名は、続く物音に反応し、動揺の声を上げた。

「た、隊長!」
「陣を崩さないで」

 美鈴は短く言って、部下を落ち着かせる。
 五人はそれぞれの方向を守り、一人は上方からの攻撃に、注意を払う。
 始めに動きがあった場所に、美鈴は拳を向け、気合いを叩きつけた。

「誰!? 出てきなさい! この館で勝手な真似をする者には、容赦しませんよ!」

 返事は無かった。
 かわりに、何かが闇の向こうから、飛び出してきた。

 それは、フリルのついた緑色のドレスだった。
 正確に言うなら、ドレスを身にまとった、シーツかテーブルクロスのような、布に見えた。
 さらに、赤やピンク、黄色や青といった、館の主のドレスが次々と飛び出してくる。
 天井をシーツとドレス達が舞う様は、色彩豊かな、音の無いポルターガイストのようだった。

「た、隊長! 幽霊でしょうか!?」
「違うわ……これは一体……」

 幽霊ならば、結界に反応してもおかしくはない。ポルターガイストを起こす力を持つなら、尚更である。
 しかし自分達は、この相手に侵入を許しているのだ。
 気配からしても、これは霊の仕業ではない。敵の妖術だ。となると、次の狙いは。

「きゃぁ!!」

 一人が飛んできたシーツのお化けに、さらわれていった。

「ランファ!?」

 陣形が崩れた隙に、また一人、妖精がさらわれていく。
 彼女を救出しようと、残った内の一名が弾幕を放とうとしたが、美鈴はそれを叱った。

「止めなさい! 彼女に当たる!」

 レミリアのドレスを盾に使っているだけならば、後で隊長の自分が土下座すれば済むことではあるが、部下の命に関わるなら話が別だ。
 実は弾幕のコントロールは、そこまで得意でないのである。実力の劣る門番妖精達も、隊長に勝る存在はいない。
 美鈴はじっと様子を窺う。シーツの怪物達は、隊員をさらっただけで、取って食うつもりではないようだ。
 
 奥の扉が開く音がして、美鈴は人質から視線を外さず、横目でそちらを確認した。
 妖精をさらったシーツ達よりも、さらに大きなシーツのお化けが出てきた。ドレスは着ていないが、飛ぶことができないのか、床をのたのたと歩いている。
 もう一人、別の場所から、シーツのお化けが出てきた。そちらは子供がかぶっているような見た目ではあったが、美鈴はその『小シーツ』に、最も危険な感じを覚えた。
 何しろ、『気』が全く感じられないのだ。『気』を持たないということではない。完全に制御して、漏らしていないのである。
 おそらく、妖術はこの『小シーツ』の仕業だと、見当をつけた。

「貴方達の目的は何ですか」

 返事は無い。白い布をかぶった幽霊二人は、並んで立ったまま、動かない。

「必要なら私の首を差し出します。私の部下を解放してください」
「隊長!?」
 
 背後の部下が悲鳴を上げるが、美鈴は本気であった。
 『小シーツ』の方が、布の奥で、頷くような仕草を見せた。突起が生まれ、自分達が入ってきた、天井の穴の方を指す。
 捕らわれた二人の部下は、その穴へと運ばれていった。残った二人の内、一人も、慌てて逃げていく。
 だが、最後に残ったお団子髪の妖精は、美鈴の背中から離れようとしなかった。

「た、隊長……私は……」
「心配しないで。この場は私が一人でけりをつける。行きなさい」
「で、でも……」
「誰かを守りながら戦える相手じゃないの。……ここで貴方に死なれちゃ、将来背中を任せられないでしょ」

 一瞬情けなく顔を歪ませた妖精は、続く言葉に、はっ、と息を呑み、強くうなずいた。
 美鈴は微笑んで、部下の気配が無事に去るまで、全神経をシーツの怪人二人に集中させていた。
 やがて、天井の穴が、一枚のシーツによって塞がれてしまう。
 さらに暗くなった、ダンスホールの中央で、美鈴は自分の呼吸を整え、まずは礼を述べた。

「部下を見逃してくださって、ありがとうございます」
「……………………」
「……じゃあ、お約束通り、私の首を差し出ますよ。こう見えても、嘘をつくのは苦手なんです」

 『小シーツ』が何やら楽しげに、悠然とこちらに近づいてくる。
 それが間合いに入った瞬間、美鈴は首を差し出した。

 『高速で動く頭』つきで。

 この奇襲は予想されていたのか、白い布がバックステップでそれを避ける。

「……ふん!!」

 美鈴はいきなり『大シーツ』の方に攻撃をしかけた。
 人間が見れば、影すら置いてけぼりにしそうな、神速の蹴りだったのだが、その動きに対する『大シーツ』の反応も、相当のものであった。
 身をねじった先を、伸びた脚が貫いていく。
 かわされたショックを受ける前に、左から『小シーツ』の攻撃が迫ってきた。
 布越しの拳。そう判断して、美鈴は体軸を左手一本で防ぐ。同時に逆に飛んで威力を軽減したが、鉄槌で殴られたかのような衝撃が体を襲った。
 ダメージの残ったまま、『小シーツ』のラッシュが続く。上下左右。背丈は自分よりも低いのに、まるで三面六臂の怪物を相手にしているかのようだ。
 攻撃は『小シーツ』だけではなく、『大シーツ』の突撃も混じっていた。こちらは大味であるものの、威力は『小シーツ』の攻撃に勝る。
 スピードもパワーも、向こうの方が上。さらに数的不利を強いられている。
 絶体絶命のピンチだったが、弾幕ごっこならいざ知らず、こと格闘戦に関しては、美鈴の自信は揺らぐことがない。

 シーツの猛襲に対し、防御を続けながら、劣勢状態にあると見せかけて、美鈴は冷静に歩幅を計算していた。
 わずかに床から上昇をしながら、攻撃を立体的に誘導していく。
 やがて、完全に空中戦に移行しようかというところで、背中に迫ってきた『大シーツ』の気配を読み、

「ひゅっ……!!」

 美鈴は、思いっきり開脚して、背丈を半分にした。
 相手の攻撃が、同時に空を切る。
 二対一が一体一になる瞬間、ほんの刹那の間に、両腕のバネだけで有利な位置へと跳び、美鈴は『大シーツ』の側についた。

「はぁっ!!」

 震脚とともに、肩で寸剄を放つ。
 大シーツの巨体が、白煙を吹く砲弾のごとき勢いで、ダンスホールの貴賓席まで吹っ飛んでいった。
 当然、大技の直後には隙ができる。
 がら空きになった美鈴の背中に、『小シーツ』が恐るべきスピードで襲いかかってくる。 
 だが、そちらのリズムは、すでに掴めていた。
 急所をさらけ出すかのように、美鈴は背後に倒れ、ブリッジ状態に移行する。
 続けて、目の前を通り過ぎていく小シーツに合わせるように、後方への回転脚を放った。
 相手がしっかりとガードする手応え。だが、体重を乗せきると同時に、美鈴はそこを支点にして、さらに一回転。
 上を取った状態から、弓のように拳を引き、気をこめた一撃を、『小シーツ』に放つ。

「はぃいいい!!」

 まともに食らった相手は、きりもみして、床の上を転がって行き、闇の中で床に倒れ伏した。
 例え相手が妖怪や幽霊であっても、気をこめた一撃は有効である。
 ふーっ、と呼吸を整え、美鈴は残心を取った。

「タイミングに勝るスピードなんて、滅多にあるもんじゃありません。しかし、いい勝負でした」

 拳をおさめて礼。
 仰向けになったシーツの幽霊は「まいった〜」と声を出す。
 それを聞き、美鈴の達成感あふれる笑顔に、ぴしっ、とヒビが入った。

「ま……まさか……その声は……」
「さすがに、いい腕じゃないか。こぶができたよ。シーツをかぶってちゃ勝てないわね」
 
 白い布を取ったその『小シーツ』、紅魔館を統べるご主人様の姿を見て、美鈴はへなへなと床に腰を下ろした。




◆◇◆




「あはははははっ!」

 雨上がりの紅魔館の屋上、時計台前にて、レミリア・スカーレットは大笑いを続けていた。
 狂気に取りつかれたわけではない。しかし床は水で濡れており、運んできた即席のテーブルもいかにも安っぽく、場にいるのは他にゴリラだけ。
 このシチュエーションで、どこに笑う要素があるのかといえば、それは先の一件での、美鈴のうろたえっぷりがツボだったからに他ならない。
 あの後、彼女は主人に手どころか蹴りを放ったことに全力で土下座していたが、結局彼女の部下への説明は、『隊長一人で幽霊退治に成功した』とすることになった。
 これにて、紅美鈴の株は、紅魔館の門番隊の間でさらに上昇したものの、同時に前にも増して、主人に頭が上がらなくなってしまったのであった。
 ただし、それはもう一時間も前に終わった話。つまり、吸血鬼の王ともあろうものが、思い出し笑いに夢中なのである。
 手にしたグラスの中の液体には、アルコールがたっぷり入っていたが。

「ああ、笑った笑った! 雨だというのに、こんな愉快な日になるとは思わなかったよ」

 相手しているのはゴリラだけだが、その存在が本当に必要かどうか疑わしいほど、レミリアは完全に出来上がっていた。
 屋上を千鳥足で歩き、左右にふらつきながら、テーブルに倒れかけたかと思うと、唐突にボトルをその上からぶん取り、

「どうした! ワインは飲めないか!?」

 空のグラスになみなみと注いで、中身を零す勢いで、従者に突きつける。
 受け取ったゴリラは、消化できない餌を与えられたような態度で、グラスに注がれた赤ワインを飲み干した。
 あくまで、魔法の鎧を脱ぐつもりはないらしい。「強情な奴だ、本当に」とレミリアは据わった目でぼやいてから、

「ゴリラよ。よい働きだった。私の従者になったからには、世界の半分をくれてやろう。咲夜達と仲良く分けなさい」

 テーブルに腰掛け、グラスを掲げて、しかつめらしく述べてから、吸血鬼はまた爆笑。
 そのまま、おぼつかない足取りで、屋上の端へと向かった。
 ゴリラが焦って止める手をかわし、手すりに腰掛け、空を見上げる。

 静かな暮れ方だった。無風に近い夕闇の中、雲の群れは既に遠ざかり、月が曲刀のように細い。
 眼下の庭園の向こうには、濃いブルーの湖面が沈んでいる。その先には、ぽつぽつと明かりのついた人間の里。そして、そびえ立つ妖怪の山があった。

「ここからだと、世界が見渡せるでしょう。ここが私達の住み処、紅魔館。幻想郷の中心に存在する」

 閉じた妖怪の楽園を、冷たい目で眺めつつ、レミリアはゴリラに語り始めた。

「我々は完璧なる存在。メイドの咲夜は言うに及ばず、門番の美鈴も。もちろん私も。パチェはまぁ、及第点というところだけど。ありとあらゆる存在の鑑となるべき者達が、ここに集結する。いずれは、世界が私の手に入るわ。我が臣下には、極上の美酒を味あわせてやるさ。ナイトメア・オブ・ヴァンパイヤの時代は、すぐそこに迫っている!」

 星空に向かって両腕を広げ、手すりから飛び立つ勢いで、夜の王は宣言する。
 しかし、レミリアはワイングラスを干してから、急に力が抜けたように、両肩を落とした。

「……ゴリラ相手に強がっても無駄ね。今のはみんな嘘。本当は、そんなもんじゃないわ。ここのルールに従わされてる時点で、私は負け犬よ」

 一転して、迷子の稚児のように、指を降りつつ、レミリアは呂律の回らない状態で、紅魔館の人員を数えていく。

「咲夜は……ごっこ遊びに付き合ってくれるメイド。美鈴は……どこまでも真っ直ぐな、お人好しの妖怪。パチェは……彼女の利益のために、ここに住み着いてる。小悪魔だってメイド達だって、半分は遊びで暮らしてる……」

 突然、「嘘だらけだー!」と大きく万歳した拍子に、グラスが手から放り投げられた。
 遠くで杯が砕ける音に、酔っぱらいは低く笑いながら、

「しかし私にとっては、皆が大切な存在なんだ。それは私が夜の王の芝居に酔っていられるからじゃない。彼女達は、私に従う運命を、自分の意思で選んだ。偽物の家族ごっこを、本物に変えようと、馬鹿みたいに頑張ってくれている。皆、私に勿体ないくらいの、従者の鑑だよ。果報者は、私の方だ」

 酩酊状態で、斜めになった視界は、幸せに満ちあふれた世界だった。紅魔館の地上は、自分も含めて、全く問題なく思える。
 これにゴリラまで加わるとは、なんとも愉快ではないか。しかし真の弱味は、もっと根深いところにあるのだ。
 手すりに寄りかかり、レミリアは鼻声で言った。

「でも、私に付き従ってくれない存在もいる。それが今となっては、我が唯一の肉親。妹のフランドール・スカーレット」

 酔いすぎたのかもしれない。
 いつもは鍵をかけて、ベッドの下の奥に押し込んでいる心情が、ふと口をついて出てきた。
 そして一度吐いてしまえば、それはとどまる所を知らなかった。

「私にそっくりでいて、私よりも強く、私よりもひねくれていて、私よりも深い吸血鬼の業を背負った、哀れな妹。彼女の前では、私は全て暴かれてしまう。都落ちした吸血鬼の、惨めな姿を、これでもかと。歪んだ鏡のような、私の妹。大事な家族だったはずなのに、いつしか毒でしか語れぬ相手になり、些細な口論で……」

 おもむろに、自分達が先程まで踊っていた、西館の方を指でさす。

「……館を半壊させ、従者まで傷つけてしまう、馬鹿な姉妹」

 その指で、色違いだが同じ手触りのはずの髪の毛を、レミリアは梳いた。
 最後に、フランドールに触れたのは、いつのことだったろうか。今では、手を血に濡らさなければ、あの肌に届くことはない。お互いに。
 酒臭い息を吐いて、いよいよ自嘲じみた口調になりながらも、しゃべり続ける。

「本当は、この幻想郷に引っ越して来たのも、妹のためだったのよ? ここなら、二人とも変われるかもしれない、って。結果はまぁ、言うまでもないわね。私達は永遠にすれ違う、運命なのかもしれないわ。この地にいる、たった一人の血を分けた存在だけが、そんな運命にあるなんて、何とも皮肉なことじゃないかしら………………死ぬまで私は、あの子に謝れないのかもしれない」

 段々と頭を垂らし、声が絞られていくレミリアの肩を、黒く太い腕が抱き寄せた。
 驚いて、身を震わせるが、従者はそのままでいた。孤独の中へと落ちていきそうな自分を、支えて留めるかのように。

「ゴリラ、なぐさめてくれるの?」

 不細工で不器用な従者は、返事のかわりに、抱きしめる手を強める。
 涙が出るほど、優しくて、温かい仕草だった。

「ふふ、ありがとう。貴方も私にとって、大事な存在よ」

 それは酒精も虚勢も混じっていない、レミリアの本音だった。  




◆◇◆




 次の日、起床したレミリアは、しばらくキングサイズのベッドの真ん中に座ったまま、かつて無い不思議な気持ちにひたっていた。
 百年の眠りから覚め、ワインの泉の中から助け出されたような、ほろ酔いと恍惚感が入り交じった、心地よい体調だった。
 悪夢を見た覚えはない。夢を見た記憶すらない。ベッドに潜り込む前までの世界が、そもそも長い幻だった気がしてくる。
 だが、気怠さや頭痛は残っていなかった。朝日を浴びる人間みたいな、爽快な気分に戸惑っていたのだ。
 そんなぼんやりした状態のレミリアの元にやってきたのは、向日葵色の髪を一房まとめた、妖精メイドだった。
 そもそも、部屋の扉の前に現れた気配が、期待外れかつ不自然なものだったのだが、気分が良かったためか、特別に入ることを許した。
 彼女は完全に挙動不審な状態で、ティーセットの台を運んでくる。

「お、お早うございます、お嬢様。こ、こ、光栄の至りです。その、この前は本当に本当に失礼しました」
「なぜお前が? 咲夜とゴリラはどうしたの」
「め、メイド長は、通院です。ゴリラさん、は……ちょっと今日は、いないみたいです」
「いないって…………」

 そんな馬鹿なと思ったものの、よくよく考えてみれば、あの着ぐるみで毎日を過ごすというのも骨であろう。
 どうやら、現在あのゴリラの中身は、元の妖精姿のままで、羽根を伸ばしているということらしい。
 一昨日は興味を失っていたものの、今となっては、あの存在が少なからず気になった。
 果たして、どんな剛胆な奴なのだろうか。狼の皮ならぬゴリラの皮を脱げば、臆病な羊に変わっているかもしれないが……。

「雨、止みました」
「ん?」
「そ、外のお花畑、綺麗です。お嬢様に、お似合いだと思います」

 つっかえながら続ける妖精に、レミリアは片眉を持ち上げた。
 夜の王にお花畑だなんて、それこそ悪趣味に思える。
 だがそれも、昨日までのことだった。今朝の目覚めを作りだしたのは間違いなく、お花畑を愛する、あの有能な新米従者だったのだから。
 そう、花を愛する、妖精の……。

「貴方……まさか……」
「え?」
「……いや、なんでもないわ」

 レミリアはかぶりを振った。
 それよりも、差し出されたカップに口をつけて、ふむ、と中のお茶を味わい、評価する。

「お前、名前なんだっけ」
「え……でも……」
「いいから」
「……マーガレット、です」

 レミリアは彼女にカップを持ち上げ、優しい笑みを向けた。

「マーガレット。お茶の入れ方が上手くなったわね。まだ咲夜には遠く及ばないけど。次も期待しているわよ」

 そう告げると、いささか大げさな程、彼女は強く息を呑んだ。
 目尻に大粒の涙が浮かび、絨毯にそれがこぼれ落ちる前に、顔をエプロンで覆って、嗚咽を漏らし始める。
 レミリアは呆れてたしなめた。

「あのね。誉めてるだけじゃないのよ。まだ修行不足だって言ってんの。わかってるんでしょうね」
「はい……でも……嬉しくて……ありがとうございます、お嬢様」

 ついには、マーガレットはしゃがみ込んでしまった。
 叱られても泣き、誉めても泣くとは、なんとも扱いにくいメイドだ。
 仕方なく、レミリアはその頭を撫でてやる。今朝から、全く自分に似合わないシチュエーションが続いているので、調子が狂いっぱなしだった。
 不思議と気分は悪くならなかったけど。








 第四章

 ある健康な門番の証言

「お花が好きな、とっても優しい子ですよ。外見がゴツくても、私にはわかります」









 その日の幻想郷の天気は、耳に優しい小雨であった。
 屋内で談笑したり、読書を楽しむのにふさわしい天気である。
 無論、紅魔館には談話室がたくさんあるし、本を読む個室にだって困らない。
 けれども、その日の館は、地震でも起こったかのような大騒ぎになっていた。

 いくつもの障壁を突破していく、箒に乗った存在がいる。
 彼女が放つ強力無比な弾幕に、警備の妖精達は次々と倒されていく。

 「雨だからって、利用者が来ないとは、限らないんだぜ!」

 侵入者の正体は、普通の魔法使いを自称する、たちの悪いシーフであった。
 白いエプロンのついた魔女装束を着こなし、箒にまたがった少女。
 とんがり帽子をつまんで持ち上げると、金髪の下からあどけない表情が現れる。
 紅魔館にとってはおなじみの迷惑者、霧雨魔理沙であった。

「マスタースパーク!!」

 構えた道具、八卦炉から放たれた極太の光線が、廊下を守護していた兵隊を一掃する。
 戦闘不能に陥った妖精達の間を、魔法使いは口笛を吹いて、悠々と飛び去った。
 彼女の目的は、これまたいつもの如く、この屋敷の地下に眠っている魔導書である。
 雨続きで、いい加減キノコの相手ばかりしているのが、億劫になったのが理由だった。
 目指すべき図書館への道は通い慣れている。
 適当に寄り道を挟みながら、珍しく怪我をしたと聞くパーフェクトメイドの登場を待ったが、咲夜は今日は留守のようだった。

「となると、こっちの方がいいかな」

 魔理沙は予定を変更し、外から見て改築している様子だった、西館へと箒の先を向ける。
 今なら整理中のお宝が見つかるかもしれない。がらくたでもいいので、何か一つお土産に失敬してくることにした。

 弾幕の止んだ廊下を飛び進んでいると、角を曲がった先で、人影にぶつかった。
 魔理沙は「おっと」と八卦炉を向け、撃つ寸前で止まる。
 そこにいたのは、青白い髪を伸ばした、線の細い妖精メイドだった。
 とても戦闘を好むタイプには思えない。おおかた、避難する際に、偶然襲撃者と鉢合わせしてしまったのであろう。
 絨毯に座り込んだ、運のない小間使いに対し、魔理沙は邪気の無い笑みを見せて近づいた。

「逃げるなら待ってやるぜ。それとも、お前も私の相手をするか?」

 放心していた彼女は、それを聞き、泡を食った様子で、赤い絨毯の上を逆走していく。
 その先に、仁王立ちしている存在に気付き、魔理沙は眉根を寄せた。

「あん? 何だありゃ」

 廊下の向こうから現れたのは、ここで見たことがない存在だった。
 黒くてずんぐりした、大きなボス猿。魔理沙の知識では、それは外界に棲むと聞く、ゴリラの姿によく似ていた。
 妖精はこそこそと、その迫力ある動物の後ろに隠れる。
 そしてゴリラの方も、彼女を庇うようにして、胸を叩いて威嚇してきた。
 魔理沙は不敵な笑みを浮かべ、

「ほう。お前が私の相手になるのか。ちょうどいい。新しい魔法を、お前で試して……だぉおおおおお!?」

 問答無用の胴タックルを受け、魔法使いは箒ごと吹っ飛ばされた。




◆◇◆




 一方その頃、紅魔館の主人は、午後のティータイムを楽しんでいた。
 パーティー会場に使えるほどの広い私室に、贅沢にもテーブルが一つだけ。
 しかしテーブルにはレミリアだけではなく、妖精メイドが一人側に待機しており、彼女はカチコチに固まっていた。
 遠くでは爆発音がしていて、何度か紅魔館を鳴動させているのだが、レミリアの関心はそちらよりも、皿の上に乗った、チョコレート色のシフォンケーキにある。

「いい味ね。この間のもいいけど、これも凄くいいよ」
「は、はい。ありがとうございます」
「お前を雇ったのは、つくづく正解だったわ。紅魔館のケーキ部門担当なんてどうかしら」
「こ、光栄です。もっといっぱい作りますね」
「ん、頼むわよ、アニス」

 ケーキ一つを食べ終わったレミリアが、ナプキンで口を拭いていると、扉が慌ただしくノックされた。
 入室を許可するや否や、赤茶の渦巻き髪の妖精が入ってくる。

「大変ですお嬢様!」
「騒がしいぞポルカ。もうお前のダンスの相手ならこりごりだ。私は足を踏まれるのに慣れてない」
「違いますよ! ゴリラちゃんが出たんです!」
「ほう」

 レミリアは興味を示し、椅子から腰を浮かせた。

「じゃあまさか、ゴリラは今、魔理沙と戦闘していたりするのか」
「そうですよ。しかもシルキーちゃんを助けたって噂です。まるでヒーローみたいに!」
「報告ご苦労様。ああ、そこに残ってるの一つ食べてもいいわよ。私とゴリラの分も残しておくように」
「ありがとうございます!」

 二人を置いて、紅魔館の主人は、部屋を颯爽と飛び出していく。
 数日ぶりに、自分が認めた従者に会いに行くために。




 騒音を頼りに廊下を飛んでいると、向こうからも気配が近づいてきた。
 階段を恐るべき勢いで上昇してきた魔法使いは、何かに追われているようであった。
 一声かけると、向こうもこちらに気づき、目を剥く。

「あ、レミリア! お前に聞きたいことがあるぜ!」
「ごきげんよう魔理沙。その様子だと、ずいぶん酷い目に遭ったみたいね」
「一体なんなんだあのバケモンは! 新しいペットか!?」
「そう言うと怒るんで、一応メイドということにしている。なんなら、決闘の立会人をしてやるけど、いるかい?」
「ノーサンキューだぜ! 今日のところは見逃してやる! 覚えてろよ!」

 急上昇し、天窓を突き破って、魔法使いは逃げていった。
 この館を恐れず、わざわざ襲撃を仕掛けて来訪する。そんな彼女も、退屈しない人間の一人だが、今のレミリアには、魔理沙以上のお楽しみがあった。
 西館へと続く通路の途中で、目当ての存在を発見する。
 黒くて大きなぬいぐるみの方も、こちらを見つけると、嬉しそうにステップしてやってきた。
 飛び付いてくるその巨体を、レミリアは受け止め、抱きしめながら、

「久しぶりねゴリラ。でもまずは、主人である私の元に出向いて、挨拶するものでしょう」
「わ……私を……助けてくれたんです……」

 ゴリラにかわって弁解したのは、床に腰を抜かしていた、水色の髪の妖精だった。
 レミリアは彼女の方に歩み寄り、手を差し伸べて微笑む。

「そう。よかったシルキー。あんたがいないと、私は心地よいソファで眠れなくなるよ。さぁ立って」

 妖精メイドは、色白の顔を赤くし、その手にすがりつくようにして、ようやく起きあがった。




 ◆◇◆




「まぁ、今さらだけど、外見の割には小食だね、お前は」

 お茶室に戻ったレミリアは、ゴリラがご褒美のケーキを切り取り、一つ一つ丁寧に口に運ぶ様を見て、苦笑した。

「ほら、口を開けなさい」

 自分のものから、フォークで一切れあげると、ゴリラもお返しに一切れ、「あ〜ん」と開けた口に運んでくれる。
 初めの険悪なプリン争奪戦から、ずいぶんと進歩したような気がした。
 アニスとシルキー、そしてポルカ。ゴリラと同期の妖精である三人も、別のテーブルでケーキを楽しみつつ、こちらを羨ましそうに眺めている。
 こんこん、とノックが聞こえて、メイド長が入ってきた。

「お嬢様」
「あら咲夜。ティータイムに遅刻する従者には、ケーキを分けてあげないわよ……あ、こらゴリラ」

 主人の嫌味をあからさまに無視して、ゴリラは咲夜にもケーキを勧めた。
 この二人は、同じレミリアの側近同士で、ライバル関係にあるはずなのだが、端から見る限り、意外と仲良しのようである。
 もっとも、定期的に紅魔館に出没するゴリラは、すでに妖精達の間でも人気者であり、誰からも好かれていた。
 真の主人であり、主役であるレミリアが、それに対して嫉妬することはない。それについても、新しい理由が存在した。

「二人とも。食べ終えたら、館を散歩しに行くわ。ついてきなさい」
「はい、お嬢様。…………」 
「何よ咲夜。ケーキが口に付いていたかしら?」
「いいえ。お嬢様は、何だかお綺麗になられました。以前よりも、ずっと」
「そう? 鏡に映らないから分からないわね」

 レミリアは微笑して、肩をすくめる。
 かつての余裕の無い時代、さらに不機嫌な時でもあれば、「私はいつでも完璧だ、くだらんことを聞くな」とでも怒鳴りつけたかもしれない。
 しかし今はそんな好意を素直に受け止め、楽しむことが増えていた。
 相手が咲夜じゃなくて、きっと妖精であっても、変わりはしないだろう。

 全てはゴリラのおかげだ。『彼女』の正体が誰であろうと、レミリアは既にどうでもよくなっていた。
 いや、どうであっても受け入れる準備が出来ていた、ということでもある。
 ここ二週間、留守のゴリラの事を思うと、どんな些末な妖精が相手であっても、何か奴の痕跡は残っていないか、と探す癖があったのだが。
 しかし、妖精というのは、今まで知ろうともしなかったのだが、何とも面白い奴らだった。
 あることが物凄く得意であったりするのに、普通はできることが信じられないほど下手だったりする。
 全然大したことのないことを自慢してくるくせに、こちらが感嘆するようなことをあっさりやってくれるのだ。
 けれども、誰一人として、あらゆる可能性から見放された存在はいなかった。そのことに、レミリアは主人として、ようやく気づけたのである。
 咲夜とゴリラを連れて、廊下を歩いていると、メイド達の明るい挨拶が絶えない。

「お嬢様、お昼のオムライスには、ケチャップとデミグラス、どちらがいいですか?」
「両方で。ケチャップの方はケチャップライス。デミグラスはバターライスよ。期待してるわマリー」
「お嬢様ー、来月のダンスパーティーの企画書なんですけどー」
「はいよパプリカ。……んー? 館外ゲストは一人一名? ケチくさいこと言わずに、もっと呼んでもいいわよ」
「レミリアお嬢様、新作のドレスが仕上がりました。ぜひ試着してもらいたいのですが……」
「仕事が早いじゃないかガーネット。後で行くから待ってなさい」

 妖精を名前で呼ぶ習慣が出来てから、彼女達は前よりも、レミリアに積極的に話しかけてくるようになった。
 そしてその声色には、上辺だけの忠誠を超えた、確かな親愛の念が感じられた。
 隣には、唯一無二の片腕である、十六夜咲夜が、そして、新たに手に入れた比類無き従者の、ゴリラがいる。
 前よりも気安く、しかし温かくて強い。今ではこの紅魔館が、嫌いではないどころか、大層気に入っていた。
 これもまた、自らに委ねられた道だというならば、歩んでみたい。
 幻想郷のレミリア・スカーレットは、そう思うのである。




 ◆◇◆



 
 晴れ。それすなわち、吸血鬼にとって、天気が悪いことを意味する。
 かといって雨に降られてしまえば、家から出ることすら難しくなる。
 じゃあ曇りがちょうどいいのかといえば、それもまた違う。ふとした拍子に心変わりを起こして、雨雲になることがあるからだ。
 夜を除けば、一番いい天気は、傘一つで日光を避けられる、曇りがちな晴れということになる。

「それじゃあ、行ってくるわ。お土産は何がほしい?」

 玄関先にて、お出かけスタイルで、ご機嫌麗しく尋ねるのは、レミリアである。
 聞かれた従者の方は、腕を軽く組み、無表情で答える。

「もう一度、考え直す気にはならないでしょうか」
「ふふ、ようやく妬き始めたようね」

 冗談めかして言うと、見送り役に選ばれた咲夜は、わずかに口をへの字にした、複雑な顔になった。
 その場にはもう一人、黒毛にストライプ頭の、ぬいぐるみが存在した。
 はしゃいでタップダンスを踊るその従者を、主人は撫でながら、

「ちょっとそこまで遊びに行くだけよ。ゴリラだって喜んでるし、今日は雨が降る運命は無いよ」

 日中から、ゴリラと二人で出かけることを提案したのは、レミリア自身だった。
 今まで何故か、この従者が姿を見せる時は、雨ばかりだったのだが、今日は珍しく良い天気なのだ。
 外出ができるとなると、この新しい側近を、知り合いに自慢せずにはいられない。
 そして、自分のお気に入りの場所を、ゴリラに案内してやりたいという気持ちも、当然ある。

「それにこれは、言ってみれば、試験みたいなもの。ゴリラにとっても、私にとっても、貴方にとってもね」
「お嬢様のお考えはわかりますけど……」
「じゃあ、『はい、かしこまりました』でお終いにしなさい。聞き分けの良さも、従者の美徳の一つよ」
「はい、かしこまりました」

 咲夜は腰を折って、主人に頭を下げた。
 素直なのかふざけているのか。しかしそれに気を悪くするほど、吸血鬼は暇ではない。

「結構結構。じゃ、留守番よろしくね」

 レミリアは、日傘を持つゴリラの手を取って、レンガの石段を蹴った。
 



「大丈夫かしらね……」

 玄関の戸を開けたまま、咲夜は遠ざかる二人の姿を見送りつつ、独り言を漏らす。
 だが、背後から、予期せぬ返答があった。

「無茶をしなければ平気よ。日の光だろうと、雨だろうと」

 振り向くと、目の下にくまを作った、図書館の魔女がいた。
 光が眩しいのか、近づきたくないのか、玄関から数歩遠ざかった位置から、全く進もうとしない。
 どちらかというと、この魔女の方が、吸血鬼の生活スタイルに近いかもしれなかった。

「それより、ずいぶん、バラが育ったようだけど。今ってそんな季節だったっけ?」

 大して興味の無さげな口調で、パチュリーは咲夜に話題を振る。

「ええ……マーガレットのおかげですわ。今は宿舎で休んでいます。お嬢様のお気に入りのメイドの一人ですよ。あのゴリラには敵いませんが」
「ゴリラか……。レミィがあそこまで夢中になるのは、少し計算違いだったけど」
「私は、きっとこうなると、信じていました」

 穏やかに微笑んでいた咲夜が、その台詞を言う時だけは、確かに声を弾ませていた。
 そして、パチュリーすらも、この魔女にしては希なことに、温かい笑みが口元に浮かんでいた。

「お茶を入れましょうか?」
「いいわね。けどそれよりも、今日は寝ることにするわ。昨日もずっと徹夜だったから」




◆◇◆




 特殊な鏡を使わずに、吸血鬼が自らの美しさを確かめる方法が、一つある。
 それは、よく晴れた日に、清らかな湖の上を飛んで、顔を水面に近づけてみることである。
 曇りと夜にしか出かけないレミリアには、あまり機会の無い方法であった。
 
「でもね、咲夜も前に、こうして連れてきたことがあったのよ。主人と従者が湖に映る姿って、なかなかいいものでしょう」

 霧の湖の周辺を、吸血鬼に似合わぬ遅さで飛びながら、レミリアは上機嫌で語る。
 隣には、日傘を持つゴリラ。二人の姿は、磨いた鏡のような湖面に、くっきりと映し出されていた。
 
「幻想郷といっても広いからね。一日じゃとても回りきれないわ。今日は湖で遊んだ後、神社に行きましょう。いいわね」

 主人の提案に、従者は嬉しそうに頷く。
 言葉を用いなくても、いや、用いないからこそ、この着ぐるみはこれほどまでに、感情表現が豊かなのだろう。レミリアはそう思った。

 言葉は誤解を生み、我々はその誤解を楽しむ存在だ。世界を複雑妙味にしてくれる、便利な道具であることには違いない。
 しかし、そんな関係ばかりで生きていると、ゴリラのような存在は時に新鮮で、ある種の痛快さがあるのだった。
 それでも、時にはちゃんと言葉で、確かめてみたいことだってある。

「ゴリラ、貴方に前から、聞いてみたかった事があるの」

 岸の上を散歩するように、二人で並んで飛びながら、レミリアは話を切り出した。
 ゴリラは自分の頬を指さし、首を可愛く傾げてみせる。

「いや、話さなくていい。頷くか、首を振るかだけでいいから」

 そう断ってから、レミリアは「こほん」と咳を挟んで、恐る恐る聞いた。

「私と一緒にいて、楽しい?」

 ゴリラはすぐに頷く。迷うことのない、肯定のサインである。

「私のことを、尊敬している?」

 今度はゴリラは、少し考えた。やがて、迷ったあげく、頷く。

「そこで悩まれると、辛いものがあるな。ええと、じゃあね……」

 レミリアは次に、一番大事な質問を選んだ。

「それじゃあ、私が好き?」

 ゴリラは飛行を止めた。
 なぜか、いつもは無邪気な態度を崩さないゴリラが、その時だけは様子が違って見えた。 
 どうしたことか、とても深刻な議題のように、レミリアの言葉を考えているようだ。
 
「………………」

 以前なら、急かすはずのレミリアは、答えを辛抱強く待ってやった。
 ただし、心臓の音を聞きながら。眉をわずかに震わせ、唇を軽く噛みながら。
 ゴリラはやがて、答えを見つけたかのように、何度も頷き、大きく腕を広げ、レミリアの体を抱き寄せる。
 二人にとっては既におなじみの、親愛のサインであった。

「ふふ、やっぱり、あんたとは気が合うわね」

 毛皮越しに、確かな存在の温もりを感じて、レミリアは満足した。
 なぜかいつも、この瞬間にホッとするのだ。こんな時間が、もっと続けばいいな、と思って……。

 二人の側を、物騒な横やりが切り裂いた。
 星屑の形をした、カラフルな弾幕である。これを操る存在といえば、一人しか思い当たらない。

「お楽しみの所、失礼する」

 頭上に現れたのは、箒に乗った白黒魔法使いであった。
 憩いの時間を邪魔した輩を、レミリアは軽く睨みながら、

「ずいぶんと野暮ね魔理沙。紅魔館に用事があるなら、あっちよ」
「いいや、ちょうど用事の方からやってきてくれた所だぜ。私の相手はお前じゃなくて、そっちの従者の方だからな」

 そういう彼女のプレッシャーと魔力は、不敵な自信とも相まって、以前よりも遙かに濃くなっていた。
 何か新しいキノコでも見つけたのか、強力な魔法薬を服用しているようである。
 どうやら、あの時受けた手荒い歓迎の、リベンジマッチの機会を探っていたらしい。
 レミリアは、日傘をゴリラから受け取り、余裕の笑みを浮かべて、

「別に構わないよ。お前の相手なら、ゴリラで十分……と言いたい所だけどね。気をつけなさい魔理沙。こいつの弾幕ごっこの実力は、私以上よ。残念ながら撃てはしないけど、回避役なら霊夢にすら勝る」

 主人の賞賛に、ゴリラが驚いたように、こちらを見る。
 だが、レミリアの台詞は、決して冗談でも、はったりでもなかった。

「ゴリラ。そこの人間に見せつけてやりなさい。私の従者にふさわしい戦いを。そして、私を本気にさせた戦いっぷりを」

 そう命令すると、ゴリラの体から、濃い魔力がみなぎるのを感じた。
 レミリアの期待に応えようと、やる気に満ちあふれているのを感じる。
 魔理沙の方も、望むところだと言わんばかりに、八卦炉を取り出し、箒を勢いよく反転させる。
 二人の決闘を、レミリアは離れた位置に移動し、静かに見守った。
 



◆◇◆




 およそ三十分かけて、二度目の決闘は終了した。
 さすがに、本気の霧雨魔理沙は、一般の妖怪の強さを遙かに超える相手であり、百戦錬磨のゴリラといえども、かなりの苦戦を強いられた。
 だが最後には、レミリアが信じた通り、従者は魔法使いの火力を凌ぎきり、勝利をもぎ取ってくれた。
 といっても、今回の相手は捨て台詞のかわりに、晴れ晴れとした表情を浮かべていたのだが。

「いやはや……参ったぜ。ここまで見事にやられると、むしろ燃えてくるな。ぜひもう一度戦いたいって、お前から伝えてくれ」

 清々しい口調で敗北を認め、魔理沙は帽子を持ち上げて、敬意を表してくる。
 この強がりで負けず嫌いの人間が、こんな仕草をするのも、ゴリラの確かな実力と真っ直ぐな根性、そして不思議な愛嬌のおかげだろう。
 レミリアは改めて、従者を自慢に思いながら、

「ちゃんと伝わってるわよ。私のゴリラは、いつでも挑戦を受けるわ。お前がうちの正門から、ちゃんと入ってくればだけどね」
「ふん。じゃあまたな。今度は本を借りに行く時にでも、相手してやるぜ」

 そう言い残し、魔理沙は箒を勢いよく飛ばして、魔法の森へと帰っていった。
 彼女を見送ったレミリアは、戦いを終えた従者の方を向き、

「いい戦いだったわ、ゴリラ。今度は霊夢の相手をさせてみようかしら」

 勢いよく片手を上げる。そんな反応を待っていたのだが、しかしレミリアは、様子がおかしいことに気がついた。
 ゴリラが太い体をよろめかせ、主人の方に倒れこんできたのだ。
 その背中が、大きく裂けていることに気づき、レミリアは血相を変えた。

「負傷したの!? 早く言いなさいよ!」

 すぐに持っていた日傘を、首と肩で挟み、力を失った従者を背負う。

「全く……竹林まで連れて行くわ。さぁ、しっかり捕まって」

 従者の身を案じるのは、主人として当然のこと。
 レミリアにとっては、自然な行動の流れであった。
 
 だが、その瞬間だった。

 レミリアは、その『臭い』に気付いてしまった。
 何かが焦げるような、まだ幼くて未熟だった頃、晴れの日に窓際で嗅いだ、懐かしい臭いに。

 首を動かして、背後を見る。
 ゴリラの背中、縦に裂けた傷の下方、日傘からはみ出た部分から、細い煙が立ちのぼっていた。 
 
「…………ゴリラ?」

 レミリアは、気を失っているらしきその体を、湖の小島へと連れて行き、土の上に横たえた。
 
 心臓が早鐘を打っている。しかしそれは先程の、甘い質問の答えを聞く際、あるいは弾幕ごっこを見守る際に覚えたものとは、異質な感覚だった。

 真実を覗き込む、恐怖だ。

 レミリアは、傷を負ったゴリラの背中にある、『チャック』に目をやった。
 その奥にいる存在。新入りの妖精、そう聞いている。今までずっと、館のメイドの一人が化けているのだと、信じ込んでいた。
 だが……。

 レミリアは、秘密の扉を、ついに開けた。
 背中の毛に隠れた留め具を、一気に下に引く。

 吸血鬼の神よ。運命の女神よ。これは一体、何の罰なのだ。

 ゴリラの中から出てきたのは、妖精の羽根ではなかった。
 もっと歪な、七色の宝石を散りばめたような、毒々しい、羽根であった。
 見間違うはずがない。それはレミリア・スカーレットにとって、最大の禁忌。
 この世で唯一の血縁であり、運命を分けた少女。

「フラン……!」

 その声に、目を覚ましたのか、ゴリラは大きく痙攣した。
 短い悲鳴とともに、レミリアを突き飛ばし、紅魔館へと飛んでいく。

 レミリアはしばらく、小島に立ちつくし、去っていく従者を――妹の姿を見送ることしかできなかった。




 ◆◇◆



 空白の時間が過ぎ、レミリアはいつの間にか、紅魔館のロビーに戻っている自分に気付いた。
 次に取った行動は、自らが絶対の信頼を寄せる、メイド長を呼ぶことだった。
 そしてその影が現れた瞬間、手の内に込めた魔力を、思いっきり叩きつけていた。
 レミリアの本気の怒りは、人間のメイドを、たやすくねじ伏せた。

「……説明しろ。全て。私がその舌を切り取る前に」

 崩れ落ちる従僕の顎を、思念で持ち上げ、極低温の声で問う。

「もうしわけござ……」
「説明しろ、と言っている」
 
 一瞬で、レミリアの細い指が、膝をついた咲夜の喉を掴んだ。
 しかし、血流から伝わる心拍には、緊張も恐れも殆ど感じられない。つくづく癪に触る細首だった。

「考えたのは貴方……じゃないのね?」
「……私の一存で……」

 ぐっと力を込めると、咲夜は頷く仕草をした。

「パチェか……そろそろ追い出すことも考えようかしら」
「いえ……」
「じゃあ何? つまりこれは、気の触れた妹の考えた、稚拙な悪戯?」

 吐き捨てるように言って、レミリアは咲夜の体を投げ捨てた。
 恥辱と憎悪に、全身がわななき、怒りに拳が震えてくる。

「ずっと騙していたのね。本当に滑稽だわ。私もあいつも、何もかも……!」
「…………」
「この紅魔館全てが道化共の住む、見せ物小屋だっ!」
「違います……どうか、聞いてください……!」

 か細い声で嘆願する従者を、冷酷な瞳で睨みつける。
 だが、体を起こした彼女の眼光も、決して死んではいなかった。

「妹様は……お嬢様と、同じ悩みを抱えてらっしゃいました」
「私と、同じ悩み?」
「はい……そのことを私が知ったのは、一月前の、雨の晩でした」

 一ヶ月前の雨の晩。ゴリラを側近にした、初めの日のことだ。
 二人で屋敷を探検し、西館で踊り、悪戯をし、屋上で月夜を眺めながら語った、あの日のことだ。
 あんなに楽しい夜は、滅多になかった。だがあれも全て、中身があの性悪だったと考えると、配下の手の内で踊らされていたと考えると、虫酸が走る思いだった。
 だが、同じ悩み、というのはどういうことだ。

「……妹様が、誰よりも愛してらっしゃるのは、この世でただ一人の肉親である、お嬢様なのです」
「逆ね。あいつが誰よりも憎み、見下げている相手が、私なはずだ」

 咲夜は俯いて、悲しそうに首を振った。

「見下げているどころか、その逆です。フランドールお嬢様にとって、あくまで誇りを守ろうとするレミリアお嬢様の姿は、滑稽どころか、眩しく辛い存在なのだそうです。まるで、鏡の向こうに住む自分が、今の自分の生き方を責めているようだと。だから、向き合うことができない。会えばどうしても、傷つけてしまう。その姿に怯えてしまう」
「馬鹿な……」
「始めに相談を受けたのは、私だった」

 新たな声を聞き、レミリアは振り向く。 
 普段は図書館にいるはずの友人が、こちらに歩いてきた。

「この外見が、この声が、全て原因だと。よく似た自分の姿も、飾って避ける言葉も無しに、愚かなまでに真っ直ぐな存在となれば、姉に対しても、素直に甘えられるはずだと。失った時間を、取り戻せるかもしれない、と。西館での大喧嘩に、相当傷ついていたんでしょうね。私は、貴方に悪いと思いつつ、手を貸したくなった」

 彼女は横を通り過ぎ、咲夜を助け起こす。
 その間、レミリアは伝えられた事実に、打ちのめされていた。
 動揺も露わに、友人に問う。

「あいつが、フランが今まであの姿でしてきたことが、私としたかったことだというの? あれが、あいつの本音だったっていうわけ?」
「信じられないのかしら?」

 パチュリーが初めて、こちらを見た。この友人が、ここまではっきりと非難の色を見せてくるのは、ごく希なことであった。
 動揺するレミリアは、今一度、その言葉を反芻する。

 確かに、思い当たる節はあった。
 あの晩、あのゴリラに抱いてたのは、忠義のメイドに対する感情ではなく、気の置けない友人としてでもなく、もっと生々しくて温かい、血の通った何かだった。
 だからこそ自分は、安心できたのだ。あの日を境に、悪夢から救われることができたのだ。
 図らずも、あの月夜の時計台で、自分は妹に懺悔し、彼女の許しを得ていたのだから。

「妹様は……あの姿を終えた後、毎朝私にご報告してくれました。そして、感謝して、この腕のことを、謝っていただきました。お二人は、よく似ています。姿だけのことじゃなく、従者である我々に対して、お優しいところも」
「……………………」

 全てを悟り、受け入れたレミリアは、長い、長いため息をついた。
 急に、ちっぽけな存在に成り下がった気分で、彼女達に告げる。

「咲夜、パチェ。二人とも、今まで気を遣わせて悪かったわ。でも試みは失敗に終わった。明日からはいつも通りよ」
「貴方の運命が、そう言ってるの?」

 心配そうに聞いてくれる友人に、レミリアは乾いた笑みで答えた。

「……私達の運命なんて、見たこと無いわ。暗くて、なんにも見えないんだもの」
「なら、試す価値はあるのね。今度は貴方が、勇気を出す番よ」

 パチュリーはそう言って、指を鳴らした。
 背後の扉が開き、彼女の使い魔である小悪魔が、ずんぐりした影を運んでくる。

「私が一体のゴリラの製造だけで、満足するとでも思っていたのかしら、レミィ」

 パチュリーが召喚した、その代物に、レミリアは涙を溜めた瞳を、大きく見開いた。




 ◆◇◆




 紅魔館の最深部。閉ざされた地下室にて、フランドールは涙を流していた。 
 ベッドに噛みつき、大声を出した。獣じみた唸り声も、蝙蝠のような金切り声も。
 ついには笑い始めた。乾ききった声で、どうしようもなく馬鹿馬鹿しくて、辛くて、笑うしかなかった。
 そして最後には、すすり泣きに変わっていた。破けた冷たい毛布を抱きしめ、赤子のように丸くなる。
 これほどまでに、孤独を感じた時間は無かった。

 終わった。全て終わってしまった。
 結局、最後に失うことは、分かり切っていたのだ。いつかは、こんなお芝居、あっけなく幕が下りてしまうことも。
 なのに、どうしてこんなに、胸が痛むのか。心臓が、壊してしまいたくなるくらい、苦しくなるのか。
 
 答えは賢しい頭でなく、流れる血が導いてくれた。
 いくら嘘で塗り固めても、皮肉で誤魔化し続けても、表面はねじれ切っているようでも、芯までは変えられなかったのだ。
 495年の歳月に、風化してしまうことなく、今も心の内で眠り、生き続けていたのだ。
 あんなに近くにいた姉が、この体に戻るだけで、あんなに遠くに行ってしまう。 
 そのことが本当に寂しくて、それまでの時間が本当に愛しくなって……。 

 けれども、やがて涙が枯れ、いつもの虚無が、体の隅々まで満たしていく。

 夢にしてしまえばいいんだ。
 ついにフランドールはそう思う。
 幻相手なら、またやり直すことができる。いくらでも、同じ時間を始めることができる。
 雨の下で花を愛でることも、二人っきりで踊ることも、お茶を飲んで談笑することも。またできる。
 全部夢にして、これからずっとここにいれば、幸せなままでいられる。
 ここに閉じこもる限り、自分は救われ続け、姉から愛され続けるのだ。例え、それが夢の中であったとしても。 

 まどろみの中、耳慣れぬ音が聞こえてきた。
 夢の足音かと思いきや、それは現の向こうから近づいていた。
 一つ、一つ、ぺたぺたと、階段を一段ずつ下りるように。

 幻影を打ち消し、フランドールは、ベッドから飛び起きた。
 身を守るように、毛布を抱え込み、錠の掛かった鉄の扉を見つめる。

 何者かが、この部屋に向かっている。
 今の自分が、ここにいる吸血鬼が、手負いの怪物であることも知らずに。
 扉を開ければ、その時は終わりだ。誰であろうと、あっさりとこの手で、壊して、潰してやる。
 怒りに震えるフランドールが、そう決めた後、無骨な錠が、静かに開く音がした。
 封印が解けた鉄の門が、耳障りな音を立てて開いていく。
 フランドールは身動きせず、じっと罠に入り込む、獲物の姿を待った。

 しかし、部屋に入ってきたのは、メイドではなかった。
 それは、黒い毛で覆われた、大きな猿の、ぬいぐるみだった。

「……誰?」

 困惑した声で、フランドールは聞いた。
 地下室にやってきた、自分ではないゴリラは、何も言わず、部屋の入り口に立ったままだ。

「誰が入ってるの? 美鈴? 咲夜?」

 もう一度聞くが、返事はやはり無い。そしてそれは当然だった。
 ゴリラはその鎧を身につける代償に、言葉を失うのだ。決して相手に、正体を悟られぬように。

 中身は妖精か。そんなはずはなかった。妖精がこの部屋の鍵を持てるはずがない。
 では、お人好しの門番か。あるいは腕を怪我させてしまったメイド長か。それとも、自分に力を貸してくれた、図書館の魔女か。

 フランドールは息を止めていた。
 直感、あるいは本能的に、その答えを導き出してしまったのだ。
 自分と同じ背丈で、例え着ぐるみをまとっていても、ぬぐい切れぬ尊大な態度。
 絶対にあり得ないはずの存在が、その中に、いる。

「……何しに来たのよ」

 いつもよりも数段、険しい声音になっていた。
 しかしゴリラは、何の反応も示さない。

「私を笑いに来たの?」

 やはりゴリラは、動かない。
 本物の人形みたいに、扉の前で棒立ちになっている。

「はっ……おあいにく様。今のあんただって、同じくらい馬鹿げた格好よね。弱っちぃ癖に、プライドだけは高い姉を、そんな風にさせたんだから、ちょっとは面白い悪戯になったわ」

 これなら、という確信があった。絶対に、相手に火をつけることができるはずだと。
 なのに、ゴリラは敵意も殺気も、抱こうとしなかった。
 こちらに近づいてくる。一歩一歩、確かめるように。

「やめて、来ないで」

 毛布を盾にして、フランドールはベッドの端に移動した。
 
「今さら何を始めるつもり? もうゲームは終わっているはずよ」
 
 しかしゴリラの歩みは止まらない。
 腕を左右に軽く広げて、こちらを迎え入れるようにして。 

「止めてよ。いつもと同じで、いいじゃない。傷つけあって、殺し合って、私をここに閉じこめておけばいいじゃない。それが私達の関係だったんじゃないの?」

 震える声で、フランドールは続ける。
 続けてしまう自分が、嫌いでたまらない。けれども、その存在は真っ直ぐ、こちらに進んでくる。

「今さらどうやって、やり直せっていうのよ! そんなことが出来るなら、とっくにできたはずじゃない! 私が、こんな性格で、こんな見た目である限り、お姉様に許してもらえるはずなんて……!」 

 ぐっ、と抱き寄せられた。
 フランドールは指一つ動かせなかった。
 あの時と同じ、立場を入れ替えて、掛け替えのない温もりを感じてしまったから。

 ゴリラは言葉を用いない。感情に寄り道を作らない。ただまっすぐ、伝えることしかできない。
 その着ぐるみは、それが不得手なもののために存在する、不器用な姉妹のための、道具なのだった。

 こんなわずかな、こんな滑稽な境界線が、棘だらけの自分たちを守ってくれる。
 ほつれてちぎれた糸を繋ぎ直し、嘘だらけの壁を透過させてくれる。
 フランドールは、今、理解していた。姉が歩んだ道を、今、自分は歩んでいるのだと。
 そして、自分達は、ずっとこの瞬間を、待ち望んでいたんだということを。

「痛いよ……お姉様」

 抱きしめるゴリラには、それしか言えなかったけど。

 フランドールの流した涙は、いつもとちょっぴり違う味だった。









 終章

 ある箱入り娘な吸血鬼の証言

「ゴリラのこと? それは喋っちゃだめなの。私達の大事な秘密だから」








 紅魔館には、ありとあらゆる存在の鑑が住んでいる。
 完全で瀟洒なメイドの鑑。常に主人に気を配り、時に期待を裏切り、最後には信頼を勝ち取る、人間の少女。
 勇猛で温厚な門番の鑑。日夜屋敷を守り続け、時に外敵を撃ち破り、時々迷子を受け入れてしまう、赤髪の妖怪。
 聡明で親切な友人の鑑。図書館で知識を蓄えつつ、時に助言を与え、秘かに親友に力を貸す、紫の魔女。

 そして、姉妹の鑑。
 互いを映す鏡となり、認め合いつつ、相手を引き上げ、共に運命を切り開く、仲良しの吸血鬼。
 だが二人は喧嘩する。それも宜なるかな。すれ違いは、姉妹の絆を深めるための儀式、美徳なのだから。

 でもご安心を。
 弾幕と血が飛び交う、地獄の夜が明けてから、もう一度来てごらん。
 そこにはお日様の下、お花畑で仲良く戯れる、二頭の姉妹ゴリラを見つけることが出来るはずだから。




(おしまい)
 
「やれやれ。あの世話の焼ける姉妹は、スカーレットならぬ、ゴリラシスターズってことよね」
「そんなバナナ、ですわ」


◆◇◆


 お読みいただき、ありがとうございました。


12月19日

 東方SSコンペの主催者様、ならびに作者様と読者様を含めた全ての参加者の方々へ。まずは、お疲れ様でした。木葉梟です。
 紅魔館の姉妹をゴリラに変えるという冒涜が、果たして許されるのであろうか。正直、半信半疑でした。
 なので、これほど好意的なコメントの数々をいただいたことに素直に戸惑っています。一体何が起こったのか。異変か。異変なのか。
 冷静になってまず浮かんだのは感謝の気持ちでした。読んでくださった皆様、さらにコメントしてくださった皆様、ありがとうございました。とにかく身に余る光栄と述べるしかございません。
 簡単かつ変な文章ですが、コメントを返信させていただきます。

>Atos様
 >>まずはそのセンスに脱帽…。ギャグかと思いきや最終的には心温まる話にする技量にも敬服いたします。
 >>でもあとがきの咲夜さん、てめーはダメだw

 ありがとうございます。
 ギャグも心温まる話も好きなので、心温まるギャグが書けたらいいな、と思ってました。
 しかし根本的には、あとがきであの咲夜さんの台詞を言わせたいから、このSSを書いたのです。
 (というのは冗談で、投稿直前まで言わせるかどうか凄く悩みましたw)

>mana様
 >>ゴリラと紅魔館の組み合わせを想像するだけで吹き出した。
 >>レミリアとの交流も徐々に心を通わせる様が自然でニヤニヤしてしまったし、
 >>中の人が誰かわかった時にほろりとしてしまった。
 >>お題分が弱いように思ったけど王道的な良い物語を読ませてもらえました。

 何しろゴリラですし、暴走させたら味が薄くなってしまう気もしたので、できるだけ自然な話を目指しました。
 中の子も頑張ってくれたと思います。
 お題分については、少々遠回りさせていただきました。
 なかなか、しっかりお話に組み入れるのは難しいですね。今後の課題とさせていただきます。

>幻想様
 >>これはものすごいタイトル詐欺ww
 >>テーマも完全に掌握してるし・・・満点に躊躇などない!!!

 この詐欺なタイトルだけは本文執筆前から決まっていましたw
 意外と好評だったようですが、『ゴリラ』だけの方がインパクトが強かったかもしれません。
 とはいえ、私が読者だったらそんなタイトルに近づかないでしょうね。怖いし。

>七島様
 >>Gorillaである必要はない

 まさしく仰る通りです。早い話が、クジラでもゴジラでもムベンベでも成立したかもしれません。
 しかし、Gorillaでなくてはいけなかったのです。Gorillaでなければ、私はきっと書くことはできなかったでしょう。

>ななし読者様
 >>物語自体は王道でしたがゴリラという要素一つでここまでのものになったということに感動しました。

 まとめると、ゴリラの王道ということですね。ちょっと変えて、ゴリラ王の道。
 まさにレミリア嬢にふさわしいと思うのは私だけでしょうか。私だけですね。失礼しました。

>たて様
 >>最初と最後とで、ゴリラの表すものが大きく変化したように思えます。
 >>紅魔館はこのゴリラがいる限りずっと優しいでしょう。

 当時の自分はゴリラも含めて、紅魔館のあらゆるものが変化していく様を書きたかったように思えます。
 元々持っていた吸血鬼姉妹の優しさが、ゴリラを通じて開花していく。そんなお話が見たかったので。
 とはいえ、満足いく仕上がりとは言えませんでしたので要反省。

>みすみ様
 >>こらwwwあとがきwww
 >>題名からオチまで色褪せないゴリラの存在感がいいアクセントになってました。
 >>比較的よくある題材でしたがその分丁寧な調理法と素敵な調味料が味わえました。
 >>しかしゴリラか・・胸が熱くなるな。

 あとがきについてはごめんなさいw あれも含めてゴリラムードということで勘弁してくださいw
 よくある題材とはいえ、ゴリラほどの調味料を使うんだから失敗したくない。そんなわけで、料理人としても腕が鳴りました。
 さすがにもうゴリラを使う機会は無いと思いますが、ゴリラをかぶるフランドールの葛藤という視点からも、このSSを書いてみたい気がしないでもありません。

>パレット様
 >>oh...ゴリラ......
 >>もうちょっとゴリラの中身とか予想裏切ってくれたらうれしかったなーとも思いますが、まっすぐなスカーレット姉妹にほっこりしたのも事実。いい感じのほのぼの話でした。

 仰るとおり、ゴリラの中身次第で、このSSも様々な可能性へと繋がるような気がします。
 フランにしたことでほのぼの話になりましたが、ここで敢えて変えてみるとするとどうなるか。
 例えば森近霖之助、魂魄妖忌、雲山……中身がオランウータンでもシュールですね。どれもオチが変わってきそうですし、まさにゴリラは可能性の獣という感じです。

>名もなき名無しさん様
 >>面白かった。

 ありがとうございます。
 次も頑張るウホ。

>T/N様
 >>タイトル通りのゴリラの出現。
 >>所々くすっと笑えるところもあり大変楽しく拝読しました。
 >>ダンスを踊るシーンがすごく良かったです。

 このタイトルでゴリラが出現しなかったら、さぞかしガッカリさせてしまうだろう、さらにゴリラがおまけ程度でしかなかったら、やはりガッカリさせてしまうだろう。
 そう思ったので、コミカルに動き回るゴリラとレミリアの掛け合いには気合いが入りました。レミゴリパワーを注ぎました。
 特にダンスのシーンは私もお気に入りなので、評価していただいて本当に嬉しいです。もっと時間があれば、さらに凝りたかったですけど、お楽しみいただけたのであれば何よりです。

>さく酸様
 >>何でゴリラ?と最初は思いましたが、まさかこんな使い方をするとは思いませんでした。まさに美女と野獣。
 >>ゴリラ=フランの図式は途中で読めてしまいましたが、それでもやはりすばらしかったです。
 >>しいて言うとすれば、起承転結の承の部分が長くて転結が相対的にあっさりしてしまったのが気になりました。

 というか、美女まで野獣にしているひどいSSです。私は好きなキャラクターをひどい目に遭わせてしまう性格なのかもしれません(フラン好きです)
 起承転結の転結については、準備不足=実力不足の結果だと思います。締切当日に急いで書いたシーンが結構あります。
 全て計画通りにSSが書ければ、と思わずにはいられません。精進します。

>らい様
 >>タイトルで笑いましたが、本文で泣いてしまいました。

 いただいたコメントに、ネイティブアメリカンに伝わる名言を思い出しました。いえ、あまり関係ないんですがw
 とにかく嬉しいの一言です。逆に、タイトルで泣かれて本文で笑われてしまっては、書いた人間が悶えます。

>asp様
 >>咲夜さんが実は人間じゃなくてゴリラだったとかそういう話かと読む直前までびくびくしていました。ストーリー、構成、文章どれを取っても非常にレベルが高い。謎の提起による読み手への興味の喚起、適度に笑わせる生き生きしたキャラクタ、詳細でわかりやすい舞台となる館の説明。そういった基本をしっかりと守った上での王道っぷりが本当に上手いですね。設定の散りばめ方や構成も実に上手い。長さもまるで気にならないし、隙がないですね。

 咲夜さんの正体がゴリラですか……それは素晴らしい物語になりそうな気がします。
 現在褒め言葉の嵐に不思議な踊りを踊っている状態です。これを機に、さらなる境地を目指そうと思います。

 >>そして二回目読むとフランちゃんがかわいすぎてもうだめだ。いやースカーレット姉妹って本当にいいものですね。はあかわいい。絵面はゴリラだけど。

 おお、二度読んで楽しいSSになっていたとは。そういう話好きです。
 スカーレット姉妹はゴリラになっても可愛いということを証明できたでしょうか。
 いえ、もちろんゴリラも可愛いと思うんですけど、吸血鬼少女の可愛さとはまた違うような気がしますしw

>yunta様
 >>執筆お疲れ様でした!
 >>上手いなぁ。というのが第一の感想。
 >>作品群の中で明らかに目を引くタイトル、そして軽妙なテンポから深いところへと進む話。
 >>ゴリラの正体は分かりやすくも、それが逆に綺麗な王道展開であり、一つの物語としての収まりの良さにつながっていると感じました。
 >>安心して楽しめて、あっという間に読み終えたという印象です。
 >>「かがみ」というテーマも違和感なく差し込まれて、話の主題にも無理なく絡んでいた感じですね。
 >>いやはや、傑作をありがとうございます。

 読了ありがとうございました!
 タイトルに関しては上手いというかずるいというか卑怯というか、目立ちすぎますよね。
 もしコンペ投稿作のタイトルには全てゴリラという名前がつく、というルールだったのであれば、ここまで評価は伸びなかったと思われます(何言ってんだか)
 「かがみ」のテーマ解釈が、これで受け入れられるかどうかが心配だったので、安心しております。何しろゴリラですので、結果発表まで心配だらけでした。
 次も傑作と称していただけるような作品を書ければいいな、と思います。

>ちゃいな様
 >>感動しました。素直にただただ面白かったです。
 >>ゴリラでこんなに心動かされるなんて……

 ゴリラの力を見くびってはなりませぬ。小さい子供は殆どがゴリラに憧れます。
 さらに吸血鬼姉妹の物語には、様々な興味を抱かされます。二つが合わされば、そこはニルヴァーナ……。
 いやまぁ、私もゴリラでこんな話が書けるなんて昨年は思ってなかったんですけどw

>とんじる様
 >>フラ……ゴリラ可愛いよゴリラ。
 >>タイトルと冒頭があまりにもシュールなギャグテイストだったので、そういう話かと思いきや、どうしてこんな暖かい話になったんでしょう。
 >>突っ込みどころばかりだった筈なのに、気付けばゴリラを愛しく思っている。
 >>コメディとシリアスの混ぜ方が上手くて、最後まで飽きることなく読めました。
 >>正直ゴリラの中身は即行で予想がつきましたけれど、むしろフランちゃんやレミリアの心情を想像しながら読めて楽しかった。
 >>いい紅魔館でした。

 本当にどうしてこんな話になったのか。謎が謎を呼ぶゴリラ。
 フランちゃんの正体については、上手い展開が期限までに思いつかなかったため、バレてもバレなくてもいいやい、って開き直って書いてましたw
 ゴリラのキャラクターと紅魔館の面々に助けられてばかりの執筆だったような気がします。情けなや。
 
>なまえ様
 >>タイトルを見た瞬間に「こいつはいい話に違いない」と思って読みました。
 >>想像以上の素晴らしいお話でした。
 >>出番は少ないのに強烈な印象のパチェさんの見事な道化ぶりに感服です。
 
 それは凄い……私はこのタイトルを読んだら絶対ノンストップギャグを想像してしまうと思います。
 とはいえ、まことにありがとうございました。
 パチェさんはあんな感じでおふざけと真面目が入り交じっているのが好きなのです。超真面目なパチェさんを書ける日は果たして来るのか……。
 
>ケンロク様
 >>「お嬢様がカリスマで、ゴリラとイチャイチャする話」そう思って読んでいた時期が僕にもありました。 
 >>イイハナシダナー

 うーん、そういう話でも成立しそうなんだから、ゴリラというのは私の想像を超えた奥深さがありますな。

 >>鏡写しな二人は姉妹の鑑、ってのがテーマの補完と感じましたが、そこはちょっと薄味だった気もします。

 お気づきになりましたか。もともと、テーマとは別に用意していた作品でしたので、その点が甘くなってしまったのだと思います。
 主題「かがみ」から真面目に考えれば、もっと濃いめの味つけができたんじゃないかと。
 いやいや、つまり私はゴリラをずっと用意していたということなんですね。なんて奴だ。

>19なまえがない程度の能力様
 >>レミフラチュチュ!

 賛同します! しかし最近は、パチュレミとかもいいなぁ、と思ってますw
 ゴリゴリも書いてみたいですが、東方じゃないですね。

>リペヤー様
 >>読み始める前
 >>「何でゴリラなんだよwwwwwwwwwww」
 >>現在
 >>「(´;ω;`)イイハナシダナー……」
 >>落ちの切れ味も半端なかった。最高のSSをありがとうございます!

 本当になんでゴリラなんでしょうねw でもライオンやキリンじゃあ、なにかがしっくりこなかったんですよ。
 やっぱり彼女達はゴリラシスターズだったのでしょうか。気は優しくて力持ち……外見に惑わされてはいけない。
 とはいえ、いい意味で期待を裏切る話というのは何かこう引かれるものがありますね。そんなSSをこれからも目指していきたいと思います。
 やったるウホ。

>ざる。様
 >>このSSに栄冠が輝くことを、今、私は願ってやみません。

おかげさまで、栄冠に輝いてしまっちゃいました。
なんということでしょう。まさかのゴリラが一位。これぞ本当の黒歴史。

>774様
 >>微妙きわまりない読後感をありがとうございます。
 >>脇役がちゃんと脇役の仕事をしてるのが素晴らしいです。
 >>個人的にモアイがクリーンヒット。

 本当に微妙なエンドになってしまったと思います。私が読む側だったら便秘に悩むゴリラみたいな顔になっていたかもしれません(あ、元からかも)
 脇役がいい仕事をするからこそ、主役を含めた物語が輝く。映画でもサッカーでもSSでも、それは変わらないと思います。
 モアイはどうしても使いたい小道具でした。ゴリラ姉妹を見守るモアイ魔女、というのが人生のテーマですから(言い過ぎました)。

>木村圭様
 >>どれだけミスリードを仕掛けても中身のド本命は動かないんだから、冒頭は二人の西館での喧嘩の方が良かったような。
 >>喧嘩に関する情報があまり出て来なかったため、動機付けの部分でやや置いていかれた気分でした。

 おお、お気づきになりましたか。
 実はこのSS、冒頭が無いんです。
 何をたわけたことを、と言われるかもしれませんが、当初予定した冒頭が気に食わなかったので、これなら無い方がマシだと思い、冒頭を全部削って投稿したのです。
 このSSにおいて、もっとも悔いの残る点ですね。動機付けについてもご指摘の通りかと。申し訳ありませんでした。

 >>とまあ偉そうに言ってみましたが……面白かったです。
 >>一発ギャグでも十分通じそうなネタでしたが、きっちり物語に組み込んで長編として仕上げてもらえると脱帽するしかない。

 おお、デレモードありがたや。
 一発ギャグにするには惜しい題材だと思ったので、長めに書いてみました。間に合うかどうかちょっと不安でしたが、ギリギリ形にできたようで安堵しております。

>ニャーン様
 >>冒頭から大変笑わせて頂きました。
 >>とにかくゴリラのキャラクターが面白い。
 >>紅魔館とすごく馴染んでいて、もうレギュラーキャラでもいいんじゃないかと思える程です。

 ありがとうございます。けどフランドール嬢はともかく、ゴリラがレギュラーになったら大変なことになりそうです。
 ほどよくキャラクターがばらけていて、個性も同等な紅魔館は、とても書きやすく、ゴリラも受け入れられやすいテリトリーだったと思います。
 といいつつ、『鈴仙とゴリラ』とか書いてみたい気がしないでもないです。

 >>ゴリラと踊るレミリアという絵が幻想的で好み。ゴリラの正体、バレた後の展開は概ね予想通りでしたが。

 私もお気に入りのシーンです。何もかも変なのに楽しい、そんな雰囲気が出せればなぁ、と思いつつ。
 展開が予想通り、というのはあまり良くないことだと思うので、やっぱりゴリラごと仕掛けられた爆弾を抱えて、お嬢様が太陽へと飛んでいくオチにした方がよかったかもしれません。

>八重結界様
 >>感動と笑いの葛藤。ゴリラの戯れも仲睦まじい姉妹だと思えば、微笑ましく見えるような見えないような。

 要するに微妙ということだと思いますw この作品については、八重結界様ともう一方の紅魔館の影響を受けているのではないかと思ってます。
 この場を借りて、御礼を述べさせていただきます。

 >>ちなみに最初、ゴリラの中にゴリラが入っているのかと思っていました。
 >>フランドールだったのである意味では安心。

 ゴリラの中身はゴリラ。そういう物凄い発想が私には欠けていました。
 まだまだ修行不足ですね。精進いたします。
 
>deso様
 >>笑えて可愛くてかっこよくて泣ける。
 >>こんなゴリラ見たことない。
 >>面白かったです。
 >>どうもありがとうございました。

 笑えて可愛くてかっこよくて泣ける。ありがたいお褒めの言葉でございます。
 ですが、キングコングもマイティ・ジョーもクロマティ高校も、そんなゴリラの魅力が溢れた作品でした。
 私もそれに追いつくことができるだろうか、と思った次第です。お気に召したのであればハッピーです。

>27名前が無い程度の能力様 
 >>まさに王道を行くハートフルストーリーという感じでした。各所で笑わせてもらい、終盤で感動させられ、爽やかで心温まる読後感でした。
 >>不器用な二人のやり取りがほほえましかったです。
 >>ただ、ゴリラの正体がフランだとかなり早い段階で予測できてしまう構成だったのが少しばかり残念でした。
 
 ありがとうございます。笑って泣いて温まって。そんな作品が好きなんです。
 例えば、冬山でワライタケを食べて、正気に戻ったら遭難していて、かまくらを作って温まって……東方じゃ難しいですね。
 構成については工夫も時間も根性も足りませんでした。残念な作者です。

>gene様
 >>荒削り感はあるものの、笑いがあり、感動もあって楽しめました。
 >>シナリオは普通なんですが、描写力が良い。たとえ文体が整っていても風景がイメージできない文章だと読み疲れるのですが、この作品にはそれがありませんでした。

 描写力について褒めてくださるとは……苦手な分野だけにとても嬉しいです。
 粗削りなのはすみません。自分でもそう思います。要反省。

 >>パチュリーは東方キャラのなかで一番シュノーケルが似合う女だと思います。

 全く同感ですね。表情に乏しいからこそ、そういった顔につける小道具が似合うのかな。
 爆笑するパチュリーとか大泣きするパチュリーとか、あまり見ない気がします。見てみたいけど。

>文鎮様
 >>うっすらと予測していてもチャックを下げる場面は胸が高鳴りました。
 >>最後はあっさりしていたと思いましたが、大切な部分はもう出ていましたね。ゴリラの皮をかぶって。

 ゴリラの皮をかぶった東方SS……と書くと、何だかモンスターみたいですね。当たってるんですがw

 >>ギャグありシリアスあり、この緩急の具合は素晴らしかったです。嫉妬するくらいです。
 >>ああ、スカーレット姉妹とゴリラ万歳……なんて思ってたら、あとがきにびっくりドンキーでしたが。

 あな嬉しや。書いている最中も、読み返す時も、緩急というのは私の中で一つのテーマになってます。けど、その分他が雑になることが多いので、まだまだです。
 あとがきであの台詞を使うかどうかは、本気で悩みました。ですが「今言わせずにいつ言わせるんだ!」と自分を励ましました。 

>兵庫県民様
 >>何故ゴリラ? と思ってしまったが、読み終えた後に「紅魔郷版ドンキーコングとか面白そうじゃね?」と思った自分が(ぇ

 読後は「なるほどゴリラ」、と納得してくれれば成功。そんなSSだと思います。
 紅魔館版ドンキーコングは面白そうですね。誰がマリオで誰がピーチ姫なのかが悩ましいですが。
 あれ、もしかしてスーパーファミコンの方かしら。

>もろへいや様
 >>面白かったです。
 >>取り急ぎ点数だけ。

 ありがとうございます。風のように去っていく貴方に、ひとときの甘いゴリラの夢を。

>奇声を発する(ry様
 >>うわぁぁぁ!!点数入れれば良かったと後悔…orz
 >>なのでこれで赦してくださいorz
 >>本当に素晴らしかったです!!

 ここで「赦さなえ!」と返信したらどうなるんでしょうかw
 いえ、とても嬉しいコメントです。
 私も今回、点数をつけられなくて申し訳なかった作品が多かったので、責めることはできません。
 それに、点数よりも魂のこもったコメントの方が嬉しいのが本音です。ありがたき幸せorz

>エーリング様
>>どうやら私は幻想郷ではなくゴリラの理想郷シャンゴリラに迷い込んでしまったようだ。
>>これがゴリラ教育の弊害か。

 うわ、今気付きましたけど、これってシャンゴリラとのクロスオーバーで規約に引っかかったりするんでしょうか。ヤバい。
 それはそれとして、ゴリラ教育の犠牲とか世では言われてますけど、ゴリラ世代としてはあまり使ってほしくない言葉ですね。
 ゴリラが悪いんじゃなくて、文部科学省がゴリラという言葉を誤解していたんです。きっと。

1/8
 作者近影
木葉梟
http://yabu9.blog67.fc2.com/
作品情報
作品集:
最新
投稿日時:
2010/11/06 23:52:47
更新日時:
2012/03/24 20:33:15
評価:
30/34
POINT:
264
1. 10 Atos ■2010/11/07 04:56:43
まずはそのセンスに脱帽…。ギャグかと思いきや最終的には心温まる話にする技量にも敬服いたします。
でもあとがきの咲夜さん、てめーはダメだw
2. 10 mana ■2010/11/07 23:08:01
ゴリラと紅魔館の組み合わせを想像するだけで吹き出した。
レミリアとの交流も徐々に心を通わせる様が自然でニヤニヤしてしまったし、
中の人が誰かわかった時にほろりとしてしまった。

お題分が弱いように思ったけど王道的な良い物語を読ませてもらえました。
3. 10 幻想 ■2010/11/08 11:52:20
これはものすごいタイトル詐欺ww
テーマも完全に掌握してるし・・・満点に躊躇などない!!!
4. 10 七島 ■2010/11/09 22:43:12
Gorillaである必要はない
5. 10 ななし読者 ■2010/11/10 22:53:20
物語自体は王道でしたがゴリラという要素一つでここまでのものになったということに感動しました。
6. 6 たて ■2010/11/12 00:42:54
最初と最後とで、ゴリラの表すものが大きく変化したように思えます。
紅魔館はこのゴリラがいる限りずっと優しいでしょう。
7. 9 みすみ ■2010/11/16 23:12:09
こらwwwあとがきwww
題名からオチまで色褪せないゴリラの存在感がいいアクセントになってました。
比較的よくある題材でしたがその分丁寧な調理法と素敵な調味料が味わえました。
しかしゴリラか・・胸が熱くなるな。
8. 5 パレット ■2010/11/20 00:43:28
 oh...ゴリラ......
 もうちょっとゴリラの中身とか予想裏切ってくれたらうれしかったなーとも思いますが、まっすぐなスカーレット姉妹にほっこりしたのも事実。いい感じのほのぼの話でした。
9. 8 名もなき名無しさん ■2010/11/23 07:18:01
面白かった。
10. 10 T/N ■2010/11/25 15:19:39
タイトル通りのゴリラの出現。
所々くすっと笑えるところもあり大変楽しく拝読しました。
ダンスを踊るシーンがすごく良かったです。
11. 8 さく酸 ■2010/11/25 21:04:53
何でゴリラ?と最初は思いましたが、まさかこんな使い方をするとは思いませんでした。まさに美女と野獣。
ゴリラ=フランの図式は途中で読めてしまいましたが、それでもやはりすばらしかったです。
しいて言うとすれば、起承転結の承の部分が長くて転結が相対的にあっさりしてしまったのが気になりました。
12. 10 らい ■2010/11/29 02:49:49
タイトルで笑いましたが、本文で泣いてしまいました。
13. 8 asp ■2010/11/29 11:47:04
 咲夜さんが実は人間じゃなくてゴリラだったとかそういう話かと読む直前までびくびくしていました。ストーリー、構成、文章どれを取っても非常にレベルが高い。謎の提起による読み手への興味の喚起、適度に笑わせる生き生きしたキャラクタ、詳細でわかりやすい舞台となる館の説明。そういった基本をしっかりと守った上での王道っぷりが本当に上手いですね。設定の散りばめ方や構成も実に上手い。長さもまるで気にならないし、隙がないですね。
 そして二回目読むとフランちゃんがかわいすぎてもうだめだ。いやースカーレット姉妹って本当にいいものですね。はあかわいい。絵面はゴリラだけど。
14. 10 yunta ■2010/11/30 22:46:55
執筆お疲れ様でした!

上手いなぁ。というのが第一の感想。
作品群の中で明らかに目を引くタイトル、そして軽妙なテンポから深いところへと進む話。
ゴリラの正体は分かりやすくも、それが逆に綺麗な王道展開であり、一つの物語としての収まりの良さにつながっていると感じました。
安心して楽しめて、あっという間に読み終えたという印象です。
「かがみ」というテーマも違和感なく差し込まれて、話の主題にも無理なく絡んでいた感じですね。
いやはや、傑作をありがとうございます。
15. 10 ちゃいな ■2010/12/01 18:44:28
感動しました。素直にただただ面白かったです。
ゴリラでこんなに心動かされるなんて……
16. 8 とんじる ■2010/12/02 15:16:37
 フラ……ゴリラ可愛いよゴリラ。
 
 タイトルと冒頭があまりにもシュールなギャグテイストだったので、そういう話かと思いきや、どうしてこんな暖かい話になったんでしょう。
 突っ込みどころばかりだった筈なのに、気付けばゴリラを愛しく思っている。

 コメディとシリアスの混ぜ方が上手くて、最後まで飽きることなく読めました。
 正直ゴリラの中身は即行で予想がつきましたけれど、むしろフランちゃんやレミリアの心情を想像しながら読めて楽しかった。

 いい紅魔館でした。
17. 10 なまえ ■2010/12/06 01:08:27
タイトルを見た瞬間に「こいつはいい話に違いない」と思って読みました。
想像以上の素晴らしいお話でした。
出番は少ないのに強烈な印象のパチェさんの見事な道化ぶりに感服です。
18. 7 ケンロク ■2010/12/07 13:30:42
「お嬢様がカリスマで、ゴリラとイチャイチャする話」そう思って読んでいた時期が僕にもありました。
イイハナシダナー

鏡写しな二人は姉妹の鑑、ってのがテーマの補完と感じましたが、そこはちょっと薄味だった気もします。
19. 10 なまえがない程度の能力 ■2010/12/09 13:07:05
レミフラチュチュ!
20. 10 リペヤー ■2010/12/09 23:53:16
読み始める前
「何でゴリラなんだよwwwwwwwwwww」

現在
「(´;ω;`)イイハナシダナー……」

落ちの切れ味も半端なかった。最高のSSをありがとうございます!
21. 10 774 ■2010/12/10 08:32:03
微妙きわまりない読後感をありがとうございます。
脇役がちゃんと脇役の仕事をしてるのが素晴らしいです。
個人的にモアイがクリーンヒット。
22. 7 木村圭 ■2010/12/11 20:39:33
どれだけミスリードを仕掛けても中身のド本命は動かないんだから、冒頭は二人の西館での喧嘩の方が良かったような。
喧嘩に関する情報があまり出て来なかったため、動機付けの部分でやや置いていかれた気分でした。
とまあ偉そうに言ってみましたが……面白かったです。
一発ギャグでも十分通じそうなネタでしたが、きっちり物語に組み込んで長編として仕上げてもらえると脱帽するしかない。
23. 8 ニャーン ■2010/12/11 20:44:35
冒頭から大変笑わせて頂きました。
とにかくゴリラのキャラクターが面白い。
紅魔館とすごく馴染んでいて、もうレギュラーキャラでもいいんじゃないかと思える程です。
ゴリラと踊るレミリアという絵が幻想的で好み。ゴリラの正体、バレた後の展開は概ね予想通りでしたが。
24. 7 八重結界 ■2010/12/11 20:50:13
感動と笑いの葛藤。ゴリラの戯れも仲睦まじい姉妹だと思えば、微笑ましく見えるような見えないような。
ちなみに最初、ゴリラの中にゴリラが入っているのかと思っていました。
フランドールだったのである意味では安心。
25. 10 deso ■2010/12/11 21:09:05
笑えて可愛くてかっこよくて泣ける。
こんなゴリラ見たことない。
面白かったです。
どうもありがとうございました。
26. 9 名前が無い程度の能力 ■2010/12/11 21:29:13
まさに王道を行くハートフルストーリーという感じでした。各所で笑わせてもらい、終盤で感動させられ、爽やかで心温まる読後感でした。不器用な二人のやり取りがほほえましかったです。
ただ、ゴリラの正体がフランだとかなり早い段階で予測できてしまう構成だったのが少しばかり残念でした。
27. 8 gene ■2010/12/11 22:42:34
荒削り感はあるものの、笑いがあり、感動もあって楽しめました。
シナリオは普通なんですが、描写力が良い。たとえ文体が整っていても風景がイメージできない文章だと読み疲れるのですが、この作品にはそれがありませんでした。
パチュリーは東方キャラのなかで一番シュノーケルが似合う女だと思います。
28. 10 文鎮 ■2010/12/11 23:09:49
うっすらと予測していてもチャックを下げる場面は胸が高鳴りました。
最後はあっさりしていたと思いましたが、大切な部分はもう出ていましたね。ゴリラの皮をかぶって。
ギャグありシリアスあり、この緩急の具合は素晴らしかったです。嫉妬するくらいです。
ああ、スカーレット姉妹とゴリラ万歳……なんて思ってたら、あとがきにびっくりドンキーでしたが。
29. 6 兵庫県民 ■2010/12/11 23:18:11
何故ゴリラ? と思ってしまったが、読み終えた後に「紅魔郷版ドンキーコングとか面白そうじゃね?」と思った自分が(ぇ
30. 10 もろへいや ■2010/12/11 23:55:25
面白かったです。
取り急ぎ点数だけ。
31. フリーレス 10点 奇声を発する(ry ■2010/12/13 17:38:45
うわぁぁぁ!!点数入れれば良かったと後悔…orz
なのでこれで赦してくださいorz
本当に素晴らしかったです!!
32. フリーレス エーリング ■2011/03/13 01:48:12
どうやら私は幻想郷ではなくゴリラの理想郷シャンゴリラに迷い込んでしまったようだ。
これがゴリラ教育の弊害か。
33. フリーレス 愚迂多良童子(10点) ■2012/03/26 02:52:41
新コンペから遡って来て見たら・・・なんだこれはw
本筋自体は結構シリアスなはずなのに、ゴリラのせいで笑えばいいのか感動すべきなのか悩むw
そしてとどめの著者近影。笑えばいいんですよね!?
いつかきぐるみなしでも仲良く出来るように、なるといいな。
34. フリーレス 10点 ■2015/08/22 19:12:35
ゴリラの中はゴリラだと思っていた私は馬鹿なのか!そーなのかー!
本当にありがとうございました(意味浅)
名前 メール
評価 パスワード
<< 作品集に戻る
作品の編集 コメントの削除
番号 パスワード